説明

硫酸鉛の製造方法

【課題】鉛精錬工程で発生したドロスなどの鉛と銅と錫を含む粉末から安価且つ簡便な方法によって高回収率で鉛を回収して硫酸鉛を製造することができる、硫酸鉛の製造方法を提供する。
【解決手段】硝酸水溶液中に酸素または空気を吹き込みながら、金属形態の鉛と銅と錫を含む粉末を添加して、pHを0.7〜4.0、好ましくは1.5〜3.5の範囲に保持し、温度を10〜100℃、好ましくは50℃以下に保持して酸化浸出した後に、固液分離して、銅と錫を含む浸出残渣と、鉛を含む浸出后液に分離し、この浸出后液に硫酸を添加して硫酸鉛を生成するとともに硝酸水溶液を再生した後に固液分離して、生成した硫酸鉛と再生された硝酸水溶液とを分離して回収し、再生された硝酸水溶液を浸出に使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸鉛の製造方法に関し、特に、鉛精錬工程で発生したドロスなどの鉛と銅と錫を含む粉末から硫酸鉛を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛製錬工程では、鉛(Pb)原料を溶解還元して粗鉛を製造する工程(還元炉内の工程)において、原料中に含まれる銅(Cu)や錫(Sn)なども還元されて粗鉛に混入する。このような不純物が混入した粗鉛は、還元炉から抽出された後、粗鉛の温度を下げて銅の溶解度を下げることによって、銅が析出(溶離)して粗鉛から取り除かれる。このとき、鉛中の錫の濃度によっては、銅と錫が金属間化合物を形成して析出する。この析出物は、粉末状で、一般にドロスと言われている。
【0003】
このようなドロスは、一般にCu10〜30%、Sn10〜30%、Pb30〜40%の品位であり、Pbは粗鉛(Sn、Sbなどを固溶したメタル)、CuはSnとの金属間化合物(主にCuSn)、SnはCuとの化合物やSnOの形態で存在している。
【0004】
このような鉛製錬工程で発生した銅や錫を含むドロスから銅を分離する方法として、ドロスとパイライト(硫化鉄)を混合して溶融還元し、マットと粗鉛に分離することによって、マット中に濃縮された銅を鉛から分離する方法が知られている。この方法では、鉛製錬工程で不純物となる錫が粗鉛中に多く分配されるため、鉛から錫を分離することができず、別途ハリス法や酸化などの方法で錫を分離する必要がある。
【0005】
また、このようなドロスを硫酸溶液で浸出する方法も考えられるが、CuとSnが化合物を形成している場合には、特に浸出が困難であり、また、硫酸濃度150g/L、温度80℃程度で酸化浸出しても、Cu浸出率は70%程度であり、Snは酸化錫になって浸出されないため、鉛と錫を分離することができない。また、Cuを浸出した場合には、電解または置換によってCuを回収することができるが、電解の場合には設備負担が大きく、Feなどで置換する場合には硫酸鉄溶液の処理が必要になる。
【0006】
また、銅製錬工程において転炉で生成するダストの浸出で得られる鉛滓(鉛、錫およびビスマスを含む鉛滓)を炭酸化し、得られた炭酸化滓(鉛、錫およびビスマスを含む炭酸化滓)を硝酸に溶解し、その際、炭酸化滓を終点pH1〜3になるように追加添加し、鉛を含む硝酸溶解液と、錫とビスマスを含む硝酸溶解残渣を生成し、鉛を含む硝酸溶解液を硫酸化して鉛を含む精鉛滓を回収し、錫とビスマスを含む硝酸溶解残渣を塩酸溶解して錫を含む塩酸溶解残渣を錫原料とし、ビスマスを含む塩酸溶解液からビスマスを回収する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
【特許文献1】特開2000−109939号公報(段落番号0007−0008)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したドロスを銅原料として既存の銅製錬設備(例えば転炉)に使用する場合には、Pbの含有量が多いので望ましくなく、Pbの回収率も極めて低い。また、特許文献1の方法では、鉛精錬工程で発生したドロスから高い回収率でPbを回収することができない。さらに、上述したドロスから安価且つ簡便な方法でPbのみを選択的に抽出し、鉛製錬工程の原料として望ましい形態で回収するとともに、CuとSnを分離回収して、CuとSnの回収に都合の良い中間製品にすることが望まれている。
【0009】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、鉛精錬工程で発生したドロスなどの鉛と銅と錫を含む粉末から安価且つ簡便な方法によって高回収率で鉛を回収して硫酸鉛を製造することができる、硫酸鉛の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、鉛精錬工程で発生したドロスなどの鉛と銅と錫を含む粉末を硝酸水溶液中で酸化しながら浸出した後に固液分離して、銅と錫を含む浸出残渣と、鉛を含む浸出后液に分離し、この浸出后液に硫酸を添加して硫酸鉛を生成するとともに硝酸水溶液を再生した後に固液分離して、生成した硫酸鉛と再生された硝酸水溶液とを分離して回収することにより、鉛と銅と錫を含む粉末から安価且つ簡便な方法によって高回収率で鉛を回収して硫酸鉛を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明による硫酸鉛の製造方法は、鉛と銅と錫を含む粉末を硝酸水溶液中で酸化しながら浸出した後に固液分離して、銅と錫を含む浸出残渣と、鉛を含む浸出后液に分離し、この浸出后液に硫酸を添加して硫酸鉛を生成するとともに硝酸水溶液を再生した後に固液分離して、生成した硫酸鉛と再生された硝酸水溶液とを分離して回収することを特徴とする。
【0012】
この硫酸鉛の製造方法において、再生された硝酸水溶液を浸出に使用するのが好ましく、硝酸水溶液中に酸素または空気を吹き込むことによって酸化を行うのが好ましい。また、鉛と銅と錫を含む粉末が、それぞれ金属形態の鉛、銅および錫を含む粉末であるのが好ましい。また、浸出の際に硝酸水溶液のpHを0.7〜4.0の範囲に保持するのが好ましく、1.5〜3.5の範囲に保持するのがさらに好ましい。さらに、浸出の際に硝酸水溶液の温度を10〜100℃の範囲に保持するのが好ましく、浸出の際に硝酸水溶液の温度を50℃以下に保持するのがさらに好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、鉛精錬工程で発生したドロスなどの鉛と銅と錫を含む粉末から安価且つ簡便な方法によって高回収率で鉛を回収して硫酸鉛を製造することができる。また、硫酸鉛の製造の際に硝酸水溶液を再生して、硫酸鉛の製造に再利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図1を参照して、本発明による硫酸鉛の製造方法の実施の形態について説明する。
【0015】
まず、鉛製錬の乾式精製工程などにおいて発生したSn、CuおよびPbを含むドロスを用意する。このドロスは、篩などによって分級して150μm以下にするのが好ましい。
【0016】
次に、硝酸水溶液(浸出元液)中に酸素または空気を吹き込み、撹拌しながらドロスを添加することにより、ドロスを酸化しながらPbを浸出する。この浸出では、硝酸の分解とCuの浸出を抑えるために、溶液のpHを好ましくは0.7〜4.0、さらに好ましくは1.5〜3.5に保持し、溶液の温度を好ましくは10〜100℃、さらに好ましくは15〜70℃、最も好ましくは50℃以下に保持する。なお、浸出の終点のpHを上記の範囲にしても、浸出初期においてフリー酸度が高い条件になっていれば、硝酸の分解とCuの溶出が起こるため、反応槽内のpHを常に上記の範囲に保持するのが好ましい。また、Snの一部は浸出されるが、酸化が進んで最終的にSnOとして沈殿し(Sn→Sn2+→Sn4+→SnO↓)、このとき、液中に溶出しているCuが置換反応によって固定される反応も起こる。
【0017】
次に、固液分離して浸出残渣(CuとSnを含む脱Pbドロス)と浸出后液(Pb浸出液)に分離する。
【0018】
次に、浸出后液に硫酸を添加してPbを硫酸化した後に固液分離して、生成した硫酸鉛と再生された硝酸水溶液とを分離して回収することができる。この再生された硝酸水溶液は、上述した硝酸浸出に使用することができる。
【0019】
このように、鉛だけを選択的に浸出して固定することができるので、不純物の少ない鉛製錬原料を供給することもできる。また、回収した硝酸水溶液を上述したドロスを連続供給することによって反応槽内のpHを所定の範囲に保持してPbを浸出することができる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明による硫酸鉛の製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0021】
[実施例1]
まず、鉛製錬の乾式精製工程で発生したドロスを篩で分級して150μm以下のドロス(分級前のドロスの約70%の重量)を用意した。なお、分級後に得られたドロス70g中のSn、Cu、Pb、Sb、Inの重量(品位)は、表1に示すように、それぞれ16.43g(23.47%)、19.47g(27.82%)、25.36g(36.23%)、1.05g(1.50%)、0.39g(0.56%)であった。
【0022】
【表1】

【0023】
次に、水に硝酸を添加してNO濃度22.88g/L(NO16.02g)にした硝酸水溶液(浸出元液)700mL(pH0.7)中に、流量0.5L/分で酸素を吹き込み、ディスクタービンで攪拌して、上記のドロス70gを添加し、室温(15℃)で120分間浸出を行った後、固液分離した。なお、この浸出中に水分が蒸発して液量が減少するため、減少分の水を随時補充した。
【0024】
固液分離後に得られた浸出后液700mL(pH1.16)中に含まれるSn、Cu、Pb、Sb、In、NOの濃度(重量)は、表1に示すように、それぞれ0.00g/L(0.00g)、1.62g/L(1.13g)、34.04g/L(23.83g)、0.00g/L(0.00g)、0.03g/L(0.02g)、22.09g/L(15.46g)であり、浸出により0.56g(=16.02−15.46g)のNOのロスがあった。
【0025】
また、固液分離後に得られた浸出残渣46.83g中に含まれるSn、Cu、Pb、Sb、Inの重量(品位)は、表1に示すように、それぞれ16.43g(35.08%)、18.34g(39.17%)、1.53g(3.27%)、1.05g(2.24%)、0.37g(0.78%)であった。
【0026】
したがって、表1に示すように、固液分離後のSn、Cu、Pb、Sb、Inの浸出后液と浸出残渣中の分配率は、それぞれ0.0%と100.0%、5.8%と94.2%、94.0%と6.0%、0.0%と100.0%、6.0%と94.0%であった。
【0027】
次に、浸出后液に硫酸(SO2−10.70g)11.9gを添加し、20℃で30分間攪拌した後、固液分離した。
【0028】
この固液分離後に得られた浸出后液710mL中に含まれるSn、Cu、Pb、Sb、In、NO、SO2−の濃度(重量)は、表2に示すように、それぞれ0.00g/L(0.00g)、1.52g/L(1.08g)、0.87g/L(0.62g)、0.00g/L(0.00g)、0.03g/L(0.02g)、22.09g/L(15.46g)、0.05g/L(0.04g)であり、浸出后液として硝酸水溶液が得られた。
【0029】
また、固液分離後に得られた残渣(沈殿物)35.54g中に含まれるSn、Cu、Pb、Sb、Inの重量(品位)は、表2に示すように、それぞれ0.00g(0.00%)、0.05g(0.15%)、23.21g(65.30%)、0.00g(0.00%)、0.00g(0.00%)であり、残渣として硫酸鉛が得られた。
【0030】
【表2】

【0031】
このように、実施例1では、硝酸水溶液によるPb浸出率が94%と高く、Cu溶出量が1.13g(1.62g/L)と低く、硝酸分解量も0.56gと少なかった。また、この浸出后液に硫酸を添加することによって、不純物の少ない硫酸鉛からなる沈殿物と、硝酸水溶液を得ることができる。この硝酸水溶液は、再度ドロスの浸出に使用することができる。
【0032】
[比較例1]
実施例1と同様に、鉛製錬の乾式精製工程で発生したドロスを篩で分級して150μm以下のドロスを用意した。なお、分級後に得られたドロス70g中のSn、Cu、Pb、Sb、Inの重量(品位)は、表3に示すように、それぞれ16.81g(24.01%)、17.91g(25.58%)、19.22g(27.46%)、2.36g(3.37%)、0.30g(0.44%)であった。
【0033】
【表3】

【0034】
次に、水に硝酸を添加してNO濃度105.02g/L(NO73.51g)にした硝酸水溶液(浸出元液)700mL(pH−0.88)を70℃に加温し、その水溶液中に流量0.5L/分で酸素を吹き込み、ディスクタービンで攪拌して、上記のドロス70gを添加し、120分間浸出を行った後、固液分離した。なお、この浸出中に水分が蒸発して液量が減少するため、減少分の水を随時補充した。
【0035】
固液分離後に得られた浸出后液700mL(pH0.67)中に含まれるSn、Cu、Pb、Sb、In、NOの濃度(重量)は、表3に示すように、それぞれ0.00g/L(0.00g)、25.27g/L(17.69g)、26.23g/L(18.36g)、0.00g/L(0.00g)、0.05g/L(0.03g)、75.85g/L(53.10g)であり、浸出により20.41g(=73.51−53.10g)のNOのロスがあった。
【0036】
また、固液分離後に得られた浸出残渣29.4g中に含まれるSn、Cu、Pb、Sb、Inの重量(品位)は、表3に示すように、それぞれ16.81g(57.18%)、0.22g(0.75%)、0.86g(2.93%)、2.36g(8.03%)、0.27g(0.93%)であった。
【0037】
したがって、固液分離後のSn、Cu、Pb、Sb、Inの浸出后液と浸出残渣中の分配率は、表3に示すように、それぞれ0.0%と100.0%、98.8%と1.2%、95.5%と4.5%、0.0%と100.0%、10.6%と89.4であった。
【0038】
このように、硝酸濃度と浸出温度を実施例1より高くした比較例1では、硝酸水溶液によるPb浸出率は95.5%であり、実施例1と同様に高かった。しかし、Cu溶出量は17.69g(25.27g/L)であり、実施例1と比べて非常に高く、また、硝酸分解量は20.41gであり、実施例1と比べて非常に多かった。
【0039】
[比較例2]
実施例1と同様に、鉛製錬の乾式精製工程で発生したドロスを篩で分級して150μm以下のドロスを用意した。なお、分級後に得られたドロス70g中のSn、Cu、Pb、Sb、Inの重量(品位)は、表4に示すように、それぞれ16.95g(24.21%)、20.24g(28.92%)、20.31g(29.01%)、2.54g(3.63%)、0.38g(0.55%)であった。
【0040】
【表4】

【0041】
次に、水に硝酸を添加してNO濃度14.26g/L(NO9.98g)にした硝酸水溶液(浸出元液)700mL(pH0.54)を70℃に加温し、その水溶液中に流量0.5L/分で酸素を吹き込み、ディスクタービンで攪拌して、上記のドロス70gを添加し、120分間浸出を行った後、固液分離した。なお、この浸出中に水分が蒸発して液量が減少するため、減少分の水を随時補充した。
【0042】
固液分離後に得られた浸出后液700mL(pH2.98)中に含まれるSn、Cu、Pb、Sb、In、NOの濃度(重量)は、表4に示すように、それぞれ0.00g/L(0.00g)、6.34g/L(4.44g)、27.02g/L(18.91g)、0.00g/L(0.00g)、0.00g/L(0.00g)、13.08g/L(9.16g)であり、浸出により0.82g(=9.98−9.16g)のNOのロスがあった。
【0043】
また、固液分離後に得られた浸出残渣43.37g中に含まれるSn、Cu、Pb、Sb、Inの重量(品位)は、表4に示すように、それぞれ16.95g(39.08%)、15.81g(36.44%)、1.39g(3.21%)、2.54g(5.86%)、0.38g(0.88%)であった。
【0044】
したがって、固液分離後のSn、Cu、Pb、Sb、Inの浸出后液と浸出残渣中の分配率は、表4に示すように、それぞれ0.0%と100.0%、21.9%と78.1%、93.1%と6.9%、0.0%と100.0%、0.3%と99.7%であった。
【0045】
このように、硝酸濃度を比較例1より低くした比較例2では、硝酸水溶液によるPb浸出率は93.1%であり、実施例1や比較例2と同様に高かった。しかし、Cu溶出量は4.44g(6.34g/L)であり、比較例1より低かったが、実施例1よりも高かった。また、硝酸分解量は0.82gであり、実施例1より多かったが、比較例1よりも大幅に減少していた。
【0046】
[実施例2]
実施例1と同様の方法により表5に示すドロス(Sn25.3%、Cu23.2%、Pb36.8%、Sb3.5%、In0.4%)を用意するとともに、実施例1と同様の方法により再生された表5に示す硝酸水溶液(Sn0.00g/L、Cu0.23g/L、Pb0.45g/L、Sb0.00g/L、In0.02g/L、NO23.31g/L)を浸出元液として使用し、図2に示す浸出試験装置によって以下のようなドロスの浸出試験を行った。
【0047】
【表5】

【0048】
なお、図2に示す浸出試験装置は、反応槽10と、この反応槽10を加熱するコンロ12と、浸出元液を収容する浸出元液タンク14と、この浸出元液タンク14から反応槽10内に浸出元液を定量供給するためのベリスタポンプ16と、反応槽10内にドロスを添加するためのスクリューフィーダ18と、このスクリューフィーダ18内のドロスの重量を測定する天秤20と、反応槽10内の溶液を撹拌するためのディスクタービン22と、反応槽10内の溶液の温度を測定する温度計24と、反応槽10内の溶液の電位を測定する電位計26と、反応槽10内の溶液のpHを測定するpHメータ28とを備えている。
【0049】
まず、ベリスタポンプ16よって反応槽10内に浸出元液(硝酸水溶液)を供給速度1100mL/hで定量供給し、反応槽10内の溶液のpHが2以下になったときにスクリューフィーダ18によって反応槽10内に供給速度147g/hでドロスを供給して、反応槽10内のpHをほぼ1.9〜2.5の範囲、温度を35℃に保持し、反応槽10内に酸化剤として空気を吹き込んで、連続反応で浸出試験を行った。なお、反応槽10内の液量が約2.5Lに保持されるようにし、滞留時間が約2.3時間になるように浸出元液を連続供給した。
【0050】
この浸出試験開始から3時間後から4時間後までの間に反応槽10から排出された浸出后液1100mL中のSn、Cu、Pb、Sb、In、NOの濃度は、表5に示すように、それぞれ0.00g/L、0.01g/L、41.14g/L、0.01g/L、0.02g/L、23.14g/Lであり、浸出残渣87.12g中のSn、Cu、Pb、Sb、Inの品位は、表5に示すように、それぞれ42.1%、36.9%、3.2%、5.0%、0.4%であった。
【0051】
なお、連続試験のため厳密なバランスを取ることはできないが、浸出残渣のPb品位は3%程度まで低下し、Pb浸出率は約95%になった。また、浸出元液中のCu濃度に対して、浸出后液中のCu濃度の方が低下しており、Cuより卑なPbやSnによってセメンテーションされたことがわかる。
【0052】
[実施例3]
実施例1と同様の方法により表6に示すドロス(Sn25.3%、Cu23.2%、Pb36.8%、Sb3.5%、In0.4%)を用意するとともに、実施例1と同様の方法により再生された表6に示す硝酸水溶液(Sn0.00g/L、Cu0.05g/L、Pb0.46g/L、Sb0.01g/L、In0.00g/L、NO58.59g/L)を浸出元液として使用し、反応槽10内への浸出元液(硝酸水溶液)の供給速度を1230mL/hとし、ドロスの供給速度を351g/hとし、酸化剤として酸素を使用し、反応槽10内に連続供給される浸出元液の滞留時間を約2.0時間とした以外は、実施例2と同様の方法によりドロスの浸出試験を行った。
【0053】
【表6】

【0054】
この浸出試験開始から3時間後から4時間後までの間に反応槽10から排出された浸出后液2300mL中のSn、Cu、Pb、Sb、In、NOの濃度は、表6に示すように、それぞれ0.00g/L、0.39g/L、92.10g/L、0.01g/L、0.01g/L、58.16g/Lであり、浸出残渣207.7g中のSn、Cu、Pb、Sb、Inの品位は、表6に示すように、それぞれ42.0%、34.0%、2.9%、5.2%、0.4%であった。
【0055】
Pbを硝酸で浸出して浸出液から硝酸水溶液を再生する場合、パルプ濃度PDを高くしてもPbを浸出することは可能であるが、パルプ濃度PDを高くすると、再生される硝酸水溶液の濃度も高くなる。例えば、浸出后液のPb濃度が100g/L程度になるような条件で浸出して得られた浸出后液に、硫酸を添加して再生した硝酸水溶液中のNOの濃度は、60g/L程度になる。このような硝酸水溶液を使用してバッチ式でドロスの浸出を行うと、初期の酸濃度が高く、硝酸の分解やCuの溶出を招くことになって都合が悪い。このような不都合を解消するためにも、実施例2のように反応槽10内のpHを所定の範囲に保持するように、浸出元液とドロスの供給量を制御しながら反応させる必要がある。
【0056】
実施例3では、このように初期の酸濃度を高くしているが、実施例2と同様にPb浸出率が高く、硝酸分解量とCu溶出量のいずれもわずかであった。また、供給する浸出元液の酸濃度を高くしているので、単位容積、単位時間での処理量を増加させることができた。
【0057】
[実施例4]
鉛製錬の乾式精製工程で発生したドロスを篩で分級して得られた150μm以下のドロス(Sn18.55%、Cu30.75%、Pb38.45%、Sb3.34%、In0.25%)50gを水500mLに添加し、酸素を吹き込みながら攪拌し、それぞれpHが0.5、1.0、2.0および3になるように硝酸水溶液を添加して、35℃で30分間浸出を行った。同様に、それぞれpHが0.5、1.0、1.5、2.0および3.5になるように硝酸水溶液を添加して、70℃で30分間浸出を行った。35℃で浸出した場合の浸出率を表7に示し、70℃で浸出した場合の浸出率を表8に示す。また、35℃および70℃で浸出した場合のPb浸出率とCu浸出率を図3に示し、Sn浸出率とIn浸出率を図4に示す。
【0058】
【表7】

【0059】
【表8】

【0060】
表7、表8および図3に示すように、35℃で浸出した場合と70℃で浸出した場合のいずれもpH0.5〜3.5でPb浸出率が十分に高かった。また、35℃で浸出した場合には、H1.0〜3.5でCu浸出率が十分に低く、70℃で浸出した場合にはpH1.5〜3.5でCu浸出率が十分に低かった。これらの結果から、Pb浸出率を高く且つCu浸出率を低くするためには、35℃で浸出する場合にはpHを1.0〜3.5にするのが好ましく、70℃で浸出する場合にはpHを1.5〜3.5にするのが好ましいことがわかる。なお、表7、表8および図4に示すように、35℃で浸出した場合と70℃で浸出した場合のいずれも、pH2.0〜3.5でSn浸出率が低かった。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明による硫酸鉛の製造方法の実施の形態を示す工程図である。
【図2】実施例2において使用した浸出試験装置を概略的に示す図である。
【図3】実施例4において35℃および70℃で浸出した場合のPb浸出率とCu浸出率を示すグラフである。
【図4】実施例4において35℃および70℃で浸出した場合のSn浸出率とIn浸出率を示すグラフである。
【符号の説明】
【0062】
10 反応槽
12 コンロ
14 浸出元液タンク
16 ベリスタポンプ
18 スクリューフィーダ
20 天秤
22 ディスクタービン
24 温度計
26 電位計
28 pHメータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛と銅と錫を含む粉末を硝酸水溶液中で酸化しながら浸出した後に固液分離して、銅と錫を含む浸出残渣と、鉛を含む浸出后液に分離し、この浸出后液に硫酸を添加して硫酸鉛を生成するとともに硝酸水溶液を再生した後に固液分離して、生成した硫酸鉛と再生された硝酸水溶液とを分離して回収することを特徴とする、硫酸鉛の製造方法。
【請求項2】
前記再生された硝酸水溶液を前記浸出に使用することを特徴とする、請求項1に記載の硫酸鉛の製造方法。
【請求項3】
前記酸化が、前記硝酸水溶液中に酸素または空気を吹き込むことによって行われることを特徴とする、請求項1または2に記載の硫酸鉛の製造方法。
【請求項4】
前記鉛と銅と錫を含む粉末が、それぞれ金属形態の鉛、銅および錫を含む粉末であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の硫酸鉛の製造方法。
【請求項5】
前記浸出の際に前記硝酸水溶液のpHを0.7〜4.0の範囲に保持することを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の硫酸鉛の製造方法。
【請求項6】
前記浸出の際に前記硝酸水溶液のpHを1.5〜3.5の範囲に保持することを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の硫酸鉛の製造方法。
【請求項7】
前記浸出の際に前記硝酸水溶液の温度を10〜100℃の範囲に保持することを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載の硫酸鉛の製造方法。
【請求項8】
前記浸出の際に前記硝酸水溶液の温度を50℃以下に保持することを特徴とする、請求項7に記載の硫酸鉛の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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