硫黄がドープされたレーザーによってミクロ構造化された表面層を有するシリコンベースの検出器製造方法
【課題】放射線吸収半導体ウェハーの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の放射線吸収半導体ウェハーの製造方法は、複数の一時的な短いレーザーパルス、例えば、フェムト秒パルス、で、シリコン基板、例えば、nドープされた結晶シリコン、の少なくとも一つの表面の位置を照射し、同時に、電子供与性の成分を有する、例えば、SF6のような物質にその位置を露出させて、所定の濃度の電子供与性の成分、例えば、硫黄、を組み込んだ実質的に不規則な表面層(すなわち、ミクロ構造化された層)を生み出す。基板は、表面層内の電荷担体密度を増強するように選択された高温で、所定の期間に亘って、焼き鈍しされる。例えば、基板は、ほぼ500Kからほぼ1000Kまでの範囲内の温度で焼き鈍しされてよい。
【解決手段】本発明の放射線吸収半導体ウェハーの製造方法は、複数の一時的な短いレーザーパルス、例えば、フェムト秒パルス、で、シリコン基板、例えば、nドープされた結晶シリコン、の少なくとも一つの表面の位置を照射し、同時に、電子供与性の成分を有する、例えば、SF6のような物質にその位置を露出させて、所定の濃度の電子供与性の成分、例えば、硫黄、を組み込んだ実質的に不規則な表面層(すなわち、ミクロ構造化された層)を生み出す。基板は、表面層内の電荷担体密度を増強するように選択された高温で、所定の期間に亘って、焼き鈍しされる。例えば、基板は、ほぼ500Kからほぼ1000Kまでの範囲内の温度で焼き鈍しされてよい。
【発明の詳細な説明】
【開示の内容】
【0001】
〔連邦政府の支援による研究〕
本発明は、エネルギー省(DOE)によって認められた契約DE−FC36−016011051の下で連邦政府の支援によって行われた。連邦政府は、本発明にある一定の権利を有する。
【0002】
〔関連出願〕
本出願は、2002年5月24日に出願され名称が「ミクロ構造シリコンを用いた光吸収および電界放射のためのシステムおよび方法(Systems and Methods for Light Absorption and Field Emission Using Microstructured Silicon)」である同時係属出願(米国特許出願第10/155,429号)の一部継続出願(CIP)であり、上記米国特許出願は引用することによってその全体が本明細書に組み込まれる。
【0003】
〔技術分野〕
本発明は、大まかに言って、放射線吸収半導体ウェハー製造方法に関し、より詳しく言うと、放射線を吸収しダイオード的な電流電圧特性を示すことができるシリコンウェハーの製造方法に関する。
【0004】
〔背景技術〕
現代の半導体回路は、主にシリコンに基づいていて、シリコンは、その他のいずれの半導体に比べてもより低いコストで容易に製造でき、容易に酸化できる。さらに、1.05eVのバンドギャップが、シリコンを可視光の検出および太陽光の電気への変換に適切なものにしている。しかし、シリコンはいくつかの短所を有している。例えば、シリコンは間接バンドギャップ材料であり、したがって、シリコンは比較的弱い光放出素子である。加えて、シリコンは電気通信のために用いられる赤外線などの長波長を有する放射線の検出に用いるには特に適していない。シリコンより良好に長波長の放射線を検出することができる他の半導体材料が利用可能であるが、それらの半導体材料は、一般的によりコストが高く、主にシリコンベースの光電子回路に容易に集積化できない。
【0005】
したがって、とりわけ結晶シリコンのバンドギャップを超えた波長での、増強された放射線吸収特性を備えた、シリコンベースの半導体構造およびウェハーが必要とされている。さらに、広い波長範囲に亘って放射線を検出するときの増強された応答度を示す光検出器を製造するのに用いることができる上記のようなウェハーも必要とされている。さらに、上記のようなシリコンベースのウェハーの製造方法も必要とされている。
【0006】
〔発明の概要〕
ある態様では、本発明は、シリコン基板、例えば、結晶シリコン、の少なくとも一つの表面位置を、複数の一時的な短レーザーパルスで照射し、同時に、その表面位置を電子供与性成分を含む物質に露出することによって、実質的に不規則な表面層を生み出し、その表面層は、望ましい濃度の電子供与性成分、例えば、約0.5原子パーセントから約5原子パーセントまでの範囲内の、または、約0.5原子パーセントから約1原子パーセントまでの範囲内の、濃度、を組み込んでいる、放射線吸収半導体ウェハー製造方法を提供する。その基板は、好ましくは、不規則な表面層内の電荷密度、例えば、電子担体密度を増強するために選択された、高温で、および、期間に亘って、焼き鈍しされる。
【0007】
関連する態様では、焼き鈍し温度および期間は、表面層内の自由電子の濃度を増加するように表面層内の原子結合の再配置を引き起こすように選択されていてよい。さらに、焼き鈍し温度および期間は、表面層がその下側のシリコン基板との間でダイオード接合、例えば、PN接合、を形成するように選択されていてよい。用語「ダイオード接合」は、当該分野で知られていて、一般的に電流整流を示すことができる接合(例えば、あるバイアス方向と逆のバイアス方向とで極端に異なる導電率を示す接合)として知られている。さらに、焼き鈍し温度および期間は、焼き鈍しされた構造が、表面層を約250nmから約1050nmまでの範囲内の波長を有する可視光に露出し、約0.1Vから約15Vまでの範囲内または約0.5Vから約15Vまでの範囲内の逆バイアスを基板に加えたときに、約1アンペア/ワット(A/W)から約200A/Wまでの範囲内の、または、好ましくは、約10A/Wから約200A/Wまでの範囲内の、応答度を示すように、選択されてよい。さらに、焼き鈍し温度および期間は、焼き鈍しされた構造が、表面層を少なくとも約1050nmから約3500nmまでの範囲内の波長を有する可視光に露出し、約0.1Vから約15Vまでの範囲内の逆バイアスを基板に加えたときに、約0.1A/Wから約100A/Wまでの範囲内の、応答度を示すように、選択されてよい。
【0008】
関連する態様では、基板の表面を照射するレーザーパルスは、約数ナノ秒から約10フェムト秒までの範囲内のパルス幅を有し、より好ましくは、約50フェムト秒から約500フェムト秒までの範囲内のパルス幅を有する。レーザーパルスのフルエンス(fluences)は、約1kJ/m2から約30kJ/m2までの範囲内にあり、または、約3kJ/m2から約15kJ/m2までの範囲内にあり、または、約3kJ/m2から約8kJ/m2までの範囲内にある。焼き鈍し温度は、約500Kから約1100Kまでの範囲内にあってよく、より好ましくは、約500Kから約900Kまでの範囲内にあってよく、さらに好ましくは、約700Kから約900Kまでの範囲内にあってよい。焼き鈍し期間は、約数秒から約数時間までの範囲内にあってよい。
【0009】
別の態様では、電子供与性分を含む物質は、気体、流体、または、固体、であってよい。そのような物質のいくつかの例として、以下に限定されないが、SF6、H2S、Cl2、および、N2などがある。例えば、SF6が用いられる場合、シリコン表面をレーザーパルスに露出することによって、基板の表面層に硫黄が含有されるようになる。シリコン基板は、好ましくは、n型ドープされているが、p型ドープされていてもよい。基板のバルクドーピングレベルは、約1011cm-3から約1018cm-3までであってよい。
【0010】
別の態様では、本発明は、基板の表面層内に複数の硫黄含有物を生み出すために、シリコン基板の表面の複数の位置の各々を一つ以上のフェムト秒レーザーパルスで照射し同時にその表面を硫黄を含む物質に露出することを必要とする、放射線吸収半導体構造の製造方法を提供する。その基板は、約数秒から約数時間までの範囲内の期間に亘って、約500Kから約1100Kまでの範囲内の温度で、焼き鈍しされる。焼き鈍しステップは、基板の表面をレーザーパルスで照射するのに続いて、または、照射するのと同時に、実行されてよい。さらに、焼き鈍しステップは、不活性雰囲気内または真空内(すなわち、低圧雰囲気内)で実行されてよい。
【0011】
関連する態様では、各レーザーパルス内で放射された光は、狭いスペクトラムと、約200nmから約1200nmまでの範囲内(例えば、800nm、または、1064nm)の中心波長と、約1kJ/m2から約30kJ/m2までの範囲内の、そして、より好ましくは、約1kJ/m2から約10kJ/m2までの範囲内のフルエンスと、約1kHzから約50kHzまでの範囲内の、または、約1kHzから約1MHzまでの範囲内の繰り返し数と、を有する。
【0012】
別の態様では、本発明は、電子供与性成分を組み込んだ含有物を含むミクロ構造化された表面を生み出すために、シリコン基板の表面の複数の位置を約50フェムト秒から約500フェムト秒までの範囲内のパルス幅を有する一つ以上のレーザーパルスで照射し同時に表面を電子供与性成分を含む物質に露出することで、半導体ウェハーの製造方法を提供する。レーザーパルスは、基板の表面に対して選択された角度、例えば、表面に対する直角、を形成する向きで基板に向けられてよい。基板は、約500Kから約1100Kまでの範囲内の高温で、例えば、約数秒から約数時間までの範囲内の選択された期間に亘って、焼き鈍しされる。ある種の用途では、焼き鈍し温度は、約500Kから約1000Kまでの範囲内であってよく、より好ましくは、約575Kから約875Kまでの範囲内にあってよい。
【0013】
別の態様では、本発明は、電子供与性成分を含む含有物を有するミクロ構造化された表面層を生み出すために、シリコン基板の表面の少なくとも一つの位置を一時的な短いレーザーパルス、例えば、フェムト秒パルス、で照射し同時に表面を電子供与性成分を有する物質に露出することによって、半導体ウェハーの製造方法を提供する。基板は、レーザーの照射の後に、または、レーザーの照射と同時に、約250nmから約1100nmまでの範囲内の少なくとも一つの波長を有する電磁放射線に対するミクロ構造化された基板の応答度を、焼き鈍しなしで同じように製造されたミクロ構造化された基板に比べて、約10倍だけ、または、好ましくは、約20倍だけ、または、さらにより好ましくは、約100倍だけ、増強するように、選択された温度で、および、期間に亘って、焼き鈍しされてよい。応答度は、約0.5Vから約15Vまでの範囲内の逆バイアス電圧を基板に印加したときに、測定されてよい。ウェハーの応答度のそのような増強を行うための適切な焼き鈍し温度は、約600Kから約900Kまでの範囲内にあり、より好ましくは、約700Kから約900Kまでの範囲内にあり、適切な焼き鈍し期間は、約数秒から約数時間までの範囲内にある。
【0014】
別の態様では、本発明は、光検出器を提供し、その光検出器は、外部の放射線に露出されるように構成された表面層を有するシリコン基板を含み、その表面層は、ダイオード的な電流電圧特性を示すように約0.5原子パーセントから約5原子パーセントまでの範囲内の平均濃度の硫黄含有物をドープされている。光検出器は、さらに、例えば、金属コーティングの形態の、複数の電気的接触部を含み、電気的接触部は、表面層の電磁放射線への露出に応答した例えば光電流などの電気信号を生み出すのを容易にするために表面層に例えば約0.1Vから約15Vまでの範囲内の選択された逆バイアス電圧を印加するために、基板の選択された部分に配置されている。表面層は、約250nmから約1050nmまでの範囲内の少なくとも一つの波長を有する入射放射線に応答した電気信号が約1A/Wより大きい応答度で生み出されるように、構成されている。好ましくは、約250nmから約1050nmまでの範囲全体に亘る応答度は、約1A/Wより大きい。例えば、この波長範囲内の少なくとも一つの波長に対する応答度は、そして、好ましくは、この波長範囲内のすべての波長に対する応答度は、約1A/Wから約100A/Wまでの範囲内にあり、または、約10A/Wから約100A/Wまでの範囲内にあり、または、約10A/Wから約200A/Wまでの範囲内にある。
【0015】
別の態様では、光検出器は、約250nmから約1050nmまでの範囲内の波長に対して、例えば、約1A/Wから約100A/Wまでの範囲内の平均応答度、または、約10A/Wから約200A/Wまでの範囲内の平均応答度、などの、約1A/Wよりも大きい平均応答度(すなわち、ある波長範囲に亘って平均された応答度)を示す。
【0016】
別の態様では、光検出器は、約250nmから約600nmまでの範囲内の波長に対して、ならびに、約600nmから約1050nmまでの範囲内の波長に対して、約1A/Wよりも大きい(例えば、約1A/Wから約100A/Wまでの範囲内の)応答度を示してよい。関連する態様では、光検出器は、約1050nmから約2000nmまでの範囲内の、好ましくは、約1050nmから約3500nmまでの範囲内の、少なくとも一つの波長を有する入射放射線に対する、約0.1A/Wより大きい応答度を示してよい。好ましくは、この範囲内の全ての波長(約1050nmから約3500nmまで)に対する光検出器の応答度は、約0.1A/Wよりも大きい。例えば、この波長範囲内での光検出器の応答度は、約0.1A/Wから約100A/Wまでの範囲内にある。
【0017】
別の態様では、光検出器は、約1050nmから約2000nmまでの範囲内の、そして、好ましくは、約1050nmから約3500nmまでの範囲内の、波長を有する放射線に対して、約0.1A/Wより大きい平均応答度(例えば、約0.1A/Wから約100A/Wまでの範囲内の応答度)を示してよい。
【0018】
上述されたような、本発明の教示に基づく光検出器は、約250nmから約1050
nmまでの範囲内の波長に対する1A/Wより大きい応答度が知られている通常のシリコンフォトダイオードを上回る顕著な改善点を提供する。さらに、通常のシリコンフォトダイオードの応答度は、1050nmを超える波長に対して劇的に低下し、本発明の光検出器によって獲得される応答度よりも非常に小さい。別の態様では、表面層は、約10ナノメートルから約1マイクロメートルの範囲内にある厚みを有していてよく、ミクロ構造化された形態学的構造を有している。例えば、ミクロ構造化された層は、複数の円錐形のミクロ構造によって形成されていてよく、円錐形のミクロ構造の各々は、硫黄でドープされた表面部分との接合を形成するコアシリコン部分で構成されている。本明細書で用いられている用語「円錐形構造またはミクロ構造」は、シリコン表面上のほぼ円錐体に類似のもの、または、円柱形の突出部を意味し、その突出部は、垂直壁、または、垂直な向きに先細りになった傾斜壁、を有していてよい。ミクロ構造は、シリコン基板の表面上の基部から、約数百ナノメートルの曲率半径を有する先端部分まで、突出した、約0.5マイクロメートルから約30マイクロメートルまでの範囲内の、高さを有していてよい。接合部に亘る硫黄濃度の勾配は、実質的に急峻であるが、いくつかの場合では、硫黄濃度の勾配は、ある程度の硫黄ドーパントを有するコア部分によってゆるやかであってよい。硫黄がドープされた表面層は、約10ナノメートルから約50ナノメートルまでの範囲内の直径を有するシリコンナノ結晶を含んでいてよい。
【0019】
別の態様では、本発明は、電子供与性の成分を含んだ含有物を組み込んだミクロ構造化された層を有するシリコン基板を含む光検出器を提供する。ミクロ構造化された層は、下側のバルクシリコン部分と隣接し、バルクシリコン部分とのダイオード接合を形成している。用語「ダイオード接合(diode junction)」は、当該分野で知られていて、電流整流を示す接合(例えば、別のバイアス方向に対して極端に異なるあるバイアス方向での導電率を示す接合)を一般的に意味する。ダイオード接合のよく知られた例が、PN接合である(p-n junction)。電気的接触部は、ミクロ構造化された層の少なくとももう一つの表面部分が入射電磁放射線を受容するために用いることができるままであるように、ミクロ構造化された層の一つの表面部分に配置される。光検出器は、ミクロ構造化された層の反対側のバルクシリコン部分の表面に配置されたもう一つの電気的接触部を、さらに含んでいる。電気的接触部の層は、約1A/Wから約200A/Wまでの範囲内の応答度で、約250nmから約1050nmまでの範囲内の波長を有する入射放射線にミクロ構造化された層を露出することに応答して、例えば光電流などの電気信号を生み出すのを容易にするために、基板に逆バイアス電圧を印加することができるようにしている。
【0020】
ある関連した態様では、基板は、ミクロ構造化された層を、約1050nmから約3500nmまでの範囲内の波長を有する放射線で照射したことに、約0.1A/Wから約100A/Wまでの範囲内の応答度で、応答して、光電流を生み出してよい。
【0021】
別の態様では、電子供与性成分は、例えば、硫黄、塩素、または、窒素、であってよく、約0.5原子パーセントから約5原子パーセントまでの範囲内の、または、約0.5原子パーセントから約1.5原子パーセントまでの範囲内の、または、約0.5原子パーセントから約1原子パーセントまでの範囲内の、濃度で、ミクロ構造化された層内に存在していてよい。
【0022】
別の態様では、本発明は、電磁スペクトルの可視および赤外線領域で用いるための光検出器を提供し、その光検出器は、複数の実質的に円錐形のミクロ構造によって特徴付けられるミクロ構造化された表面層を有する結晶シリコン基板を含む。ミクロ構造化された層は、硫黄、塩素、または、窒素、のような電子供与性ドーパントを約0.5原子パーセントから約1.5原子パーセントまでの範囲内の平均濃度で含む複数のシリコンナノ結晶を有するドープされた層を含む。ミクロ構造化された層は、ダイオード的な電流電圧曲線を示し、外部の放射線を受容するように構成されている。複数の電気的接触部が、ミクロ構造化された層の少なくとも一部の照射に応答して電気信号を生み出すのを容易にするために、ミクロ構造化された層へ逆バイアス電圧を印加するために基板の選択された部分に配置されている。光検出器は、約250nmから約1050nmまでの範囲内の波長を有する放射線に対して約1アンペア/ワット(A/W)より大きい応答度を示し、約1050nmから約3500nmまでの範囲内の波長を有する放射線に対して約0.1アンペア/ワット(A/W)より大きい応答度を示す。
【0023】
本発明は、関連する図面と共に以下の詳細な説明を参照することによって、さらに理解されるであろう。
【0024】
〔詳細な説明〕
図1のフロー図10を参照すると、ある態様では、本発明は、放射線吸収半導体構造の製造方法を提供し、その方法では、最初の過程10aで、シリコン基板の表面上の複数の位置の各々が、一つ以上のレーザーパルスで照射されると同時に、シリコン基板の表面は電子供与性成分を有する物質に露出されて、所定の濃度の電子供与性成分を含む表面の含有物が生み出される。レーザーパルスは、約200nmから約1200nmまでの範囲内の中心波長と、約数十フェムト秒から約数百ナノ秒までの範囲内のパルス幅と、を有していてよい。好ましくは、レーザーのパルス幅は、約50フェムト秒から約50ピコ秒までの範囲内にある。より好ましくは、レーザーのパルス幅は、約50フェムト秒から約500フェムト秒までの範囲内にある。シリコン表面を照射するレーザーパルスの個数は、約2から約2000までの範囲内にあってよく、より好ましくは、約20から約500までの範囲内にあってよい。さらに、パルスの繰り返し数は、約1kHzから約50MHzまでの範囲内にあるように選択されてよく、または、約1kHzから約1MHzまでの範囲内にあるように選択されてよい。さらに、各レーザーパルスのフルエンスは、約1kJ/m2から約12kJ/m2までの範囲内にあってよく、より好ましくは、約3kJ/m2から約8kJ/m2までの範囲内にあってよい。
【0025】
いくつかの実施の形態では、電子供与性成分は流体(気体または液体)であるが、別の実施の形態では、電子供与性成分はレーザーパルスに露出されるシリコン表面上に配置された固体であってよい。例として、いくつかの実施の形態では、シリコン表面は、硫黄含有ガス(例えば、SF6、またはH2S)に露出されてよく、同時に、レーザーパルスで照射されてよい。別のいくつかの実施の形態では、Cl2、または、N2が、電子供与性物質として用いられてよく、レーザーの照射の間にその電子供与性物質とシリコン表面が接触する。さらに別の実施の形態では、セレンまたはテルルが用いられてよい。一般性を失うことなく、以下の記載では、SF6が電子供与性成分を含む物質として用いられること、および、照射パルスはそうでないと記載されていない限りフェムト秒パルス幅を有すること、が想定されている。しかし、当業者には、以下に記載される本発明のさまざまな実施の形態が、上述されたような、その他の流体または固体、および、別のパルス幅を有するレーザーパルス、を用いて実施されてもよいことが、明らかなはずである。
【0026】
いくつかの実施の形態では、シリコン基板は、約1011から約1018までの範囲内のドーピングレベルでpドープ(例えば、ホウ素をドープ)されている。別の実施の形態では、シリコン基板は、約1011から1018までの範囲内のドーピングレベルで、そして、好ましくは、約1012から1015までの範囲内のドーピングレベルで、わずかにnドープ(例えば、燐をドープ)されている。基板の厚みは、典型的には、特に重要なパラメーターではなく、約2マイクロメートルから約1000マイクロメートルまでの範囲内にあってよい。基板は、約0.001Ωmから約10Ωmまでの範囲内の電気固有抵抗を有していてよい。
【0027】
図2は、シリコンサンプルを複数のフェムト秒パルスで照射するために用いられる例示的な装置12を模式的に示している。装置12は、ステンレス鋼製立方体16の6個の側面の各々にコンフラット(Conflat)フランジ管継手を備えたステンレス鋼製立方体16を含むサンプル処理チャンバ14を含んでいる。3軸の精密動きコントローラ18は、その立方体16の背面側に取り付けられている。このコントローラ18は、コンピュータによって制御されたモータによって駆動される2つの直交するマイクロメータ精密軸を含んでいる。第3の軸は、約2.54×10-3cm(約1ミル)の精度で手動で制御される。コントローラ18は、5.08cm(2インチ)の直径の取り付け磁石22を立方体の中心に支持する直径2.54cm(1インチ)のステンレス鋼製のロッド20を並進移動させることができ、取り付け磁石22には磁化可能なサンプルホルダーが取り付けられてよい。2段粗引きポンプ24が、立方体に結合されていて、チャンバを約0.13パスカル(10-3トル)の基本圧力まで排気する。2つの圧力ゲージ26,28が、チャンバの圧力を測定するために用いられる。リーク弁30および気体処理マニホルド(図示されていない)が、意図する気体がチャンバ内に導入されるようにする。光学グレードの11.43cm(4.5インチ)水晶窓32が、レーザーのアクセスを提供するためにチャンバの正面に取り付けられている。さらに、迅速アクセスビューポートドア34が、サンプルの迅速な装填および除去、ならびに、ミクロ構造化中のサンプルの安全な目視、を可能にしている。
【0028】
この例示的な装置では、再生可能に増幅されたフェムト秒のTi:サファイアレーザーシステム(図示されていない)が、1kHzの繰り返し数での800nmの中心波長を有する約100フェムト秒レーザーパルスを提供する。そのレーザーパルスは、反射防止コーティングが施された平突レンズ36(例えば、約250nmの焦点距離を有する)によって水晶窓を通してサンプル表面上で焦点合わせされる。この例示的な実施の形態では、レンズは、単一軸直線並進ステージ上に取り付けられていて、その焦点がサンプルの後ろになるように位置決めされている。レンズを動かすことによって、したがってレンズの焦点を動かすことによって、レーザーのスポットサイズは、サンプル表面で変えられてよい(例えば、約30マイクロメートルの直径から約250マイクロメートルまで)。レーザーのスポットサイズを測定するために、CCD(電荷結合デバイス)カメラ38は、レンズからのサンプル表面と同じ距離で配置されてよい。ミラー40に取り付けられたフリッパーが、レーザービームをカメラの上に向け直して、サンプル表面のレーザービームのスポットサイズを決定する。第2のCCDカメラ42は、ミクロ構造化の間の進捗状況を監視するために、サンプル表面から白色光ファイバーランプ44によって生み出された光の反射を測定してよい。
【0029】
動作のある例示的なモードでは、磁化可能なサンプルホルダーに取り付けられたサンプルは、アクセスドアを通して装填されてよく、取り付け磁石に取り付けられてよい。サンプルは、次に、最大の並進移動を可能にするために、磁石の中心に配置されてよい。チャンバは、0.13パスカル(10-3トル)の基本圧力まで排気され、次に、周囲の気体(例えば、0.67×105 パスカル(0.67バール)の六フッ化硫黄(sulfur hexafluoride))を所望の圧力まで充填されてよい。サンプルは、次に、100フェムト秒の800nmのレーザーパルスの1kHzの列(train)を照射されてよい。各パルスのフルエンスは、スポットサイズ(例えば、150マイクロメートル)を選択し、波長板(waveplate)/偏光立方体の組み合わせを用いて、パルスのエネルギーを変えることによって、設定されてよい。一つのスポットが照射されてよく、または、より典型的には、サンプルが、動きコントローラを用いて、レーザービームに対して並進移動させられてよい。例えば、サンプルは、ラスター走査パターン(raster scan pattern)で並進移動させられてよい。所定のスポットをサンプルに照射するパルスの平均個数は、シャッターを用い、水平並進移動速度を変えることによって、制御されてよい。
【0030】
SF6が存在する状態での選択された分圧、例えば、約500パスカル(0.005バール)から約1×105 パスカル(1バール)までの範囲内の分圧でのレーザーパルスを用いたシリコン表面の照射は、約0.1原子パーセントから約5原子パーセントまでの範囲内の、より好ましくは、約0.5原子パーセントから約1原子パーセントまでの範囲内の、硫黄濃度を有する硫黄リッチ層(sulfur-rich layer)の形成を引き起こすことができる。この硫黄リッチ層は、ミクロンサイズの表面高さの変動を伴う波動表面形態学的形状(地形)を示す。シリコン表面をSF6(または、電子供与性成分を有するその他の物質)が存在する状態で複数の一時的な短いパルスで照射することによって得られるそのようなテクスチャー表面は、本明細書では、ミクロ構造化された表面と呼ばれる。例として、図3は、シリコン表面を67000パスカル(0.67バール)のSF6中で波長800nm、フルエンス8kJ/m2を有するフェムト秒レーザーパルスの平均5ショット(100フェムト秒)で照射した後の、そのようなミクロ構造化されたシリコン表面の走査電子顕微鏡画像(SEM)(表面に対して45度の角度をなす向きで得られた)を示している。
【0031】
硫黄リッチ層は、実質的に不規則な層であり、数百ナノメートルの厚みを有し、ナノ微結晶(例えば、約10nmから50nmの直径)およびナノ孔から構成されている。選択された領域の回折(SAD)の測定値は、表面層がアモルファスに類似の材料がナノ微結晶の粒子の間に存在する高い可能性を伴う実質的に結晶の秩序を維持していることを、示している。さらに、位置当り10パルスまたは500パルスに露出されたシリコン基板に実施されたSADの測定値は、不規則な層の下側の基板が、実質的に乱されていない結晶シリコン(結晶シリコン基板が用いられた場合)であることを、示している。さらに、そのような例示的な基板に実施されたラザフォード後方散乱分光分析法(Rutherford backscattering spectroscopy)(RBS)およびエネルギー分散性X線(EDX)発光分光分析法(energy dispersive X-ray (EDX) emission spectroscopy)は、高濃度の硫黄が不規則な層内に存在する(約1原子パーセント)ことを、示している。さらに、照射位置当りの異なるフェムト秒(100フェムト秒)レーザーショットに露出されたシリコンサンプルから得られたRBSスペクトルは、硫黄の濃度が約50パルスまでレーザーパルスの個数の増加と共に増加すること、を示している。より詳しく言うと、測定された硫黄の濃度は、位置当り2パルスに露出されたサンプルに対する約0.2原子パーセントから、位置当り50レーザーパルスに露出されたサンプルに対する約0.7原子パーセントまで、増加し、硫黄の濃度は約50よりも大きいレーザーパルスに対しては増加せず平坦になっている。しかし、上記の例示的な結果は、本発明の顕著な特徴をさらに説明するために単に提供されたものであり、本発明の範囲を限定するものでないことが、理解されるはずである。例えば、上述された硫黄の濃度よりもより高い、不規則な層での硫黄の濃度が得られることも可能であり、位置当りのより高いレーザーショットが用いられることも可能である。
【0032】
複数の要因が、ミクロ構造化された表面の形態学的形状に影響を及ぼすことが可能である。例えば、レーザービームに対してサンプルを動かさずにサンプルの一部がレーザーパルスによって照射されて(すなわち、単一スポット照射)ミクロ構造化されたサンプルは、サンプルをレーザービームに対して並進移動させてサンプルの表面の複数の位置を照射してミクロ構造化されたサンプルに比べて、サンプルの形態学的形状が微妙に異なる。残りの実験的なパラメーターを同じにしたままで、並進移動されたサンプルと静止したサンプルとの間には、2つの可視的な違いがある。静止したサンプルのミクロ構造は、先端にマイクロメートルの寸法の球体を有し、一方、並進移動されたサンプルは、鋭利で、球体を有しない。さらに、並進移動されたサンプルは、ミクロ構造化された表面に渡って広がる多量のナノスケールの粒子を有する。
【0033】
さらに、照射レーザーパルスの波長、照射レーザーパルスのフルエンス、および、パルス幅、は、ミクロ構造化された表面の形態学的形状に影響を及ぼす。例えば、フェムト秒パルスでミクロ構造化された複数のプロトタイプのサンプルでは、フルエンスの増加(一定のショット数での)に伴い、形態学的形状は、レーザーによって誘起された周期的な表面構造から、上記の図3に示されているような鋭利なミクロ構造への、移行を示した。レーザーパルスのフルエンスが増加するにつれて、ミクロ構造化の高さとミクロ構造間の距離との両方で、典型的には、増加がある。一般的に、フルエンスは、好ましくは、溶解を引き起こすことになる閾値フルエンス(例えば、1.5kJ/m2)より高い値で選択される。非常に高いフルエンス(例えば、12kJ/m2より高い)では、材料の除去が最大になる可能性があり、円錐構造ではなく、ガウス形状の孔(gaussian-shaped holes)が、表面に形成される可能性がある。
【0034】
本明細書に記載された多くの実施の形態では、フェムト秒レーザーパルスが用いられているが、別の実施の形態では、表面のミクロ構造化は、ピコ秒またはナノ秒パルスを用いて達成されてよい。例えば、複数のシリコンサンプルが、1×105 パスカル(1バール)のSF6が存在する状態でKrF+エキシマーレーザー(KrF+ excimer laser)によって生み出された、平坦な上部の空間的輪郭および30kJ/m2のフルエンスを有する248nm、30ナノ秒レーザーパルスの列(スポット当り平均1500パルスが用いられた)を用いてミクロ構造化された。ナノ秒レーザーで形成されたミクロ構造は、フェムト秒レーザーで形成されたミクロ構造に対していくつかの類似点およびいくつかの相違点を示した。両方の場合で、ミクロ構造は、粗い円錐体であり、フェムト秒レーザーパルスで形成された構造は、より小さく、より高い密度で詰められていた。例えば、フェムト秒の構造は、ほぼ8マイクロメートルの高さであり、約4マイクロメートルだけ離れているが、ナノ秒で形成された構造は、ほぼ40マイクロメートルの高さを有し、約20マイクロメートルだけ離れていた。さらに、フェムト秒で形成された構造は、直径が10nmから50nmのナノ粒子で覆われていて、ナノ秒で形成された構造は、ずっと滑らかであった。
【0035】
SF6が存在する状態で、ピコ秒パルス(例えば、10ピコ秒)に露出されたサンプルシリコンウェハーも、ミクロ構造化された表面を示した。ミクロ構造間の平均距離は、約100フェムト秒パルス幅から約5ピコ秒パルス幅までで、減少を示したが、次に、約5ピコ秒より長いパルス幅に対して増加を示した。
【0036】
レーザーの波長も、ミクロ構造化された最終的な形態学的形状に影響を及ぼす。例として、400nmのパルスの列でミクロ構造化されたプロトタイプのシリコンサンプルは、同じフルエンスで800nmのパルスによって生み出されたサンプルよりも、高密度の(しかし、より小さい)ミクロ構造を示した。
【0037】
ミクロ構造の形態学的形状に影響を及ぼすその他の要因には、照射されるシリコン表面に対する、レーザーの偏光、および、レーザーの伝播方向、などがある。例えば、ミクロ構造の成長の向きは、入射光の向きと平行であり、基板の結晶学的平面とは無関係であるように現れる。ミクロ構造の基部は、長軸が照射レーザー光の偏光に直交する楕円形の形状を有してよい。いずれの理論にも限定されることなく、この楕円形の形状は、s偏光光に比べてp偏光光の吸収がより大きいことに起因していると理解することができる。円形の偏光光に対しては、優先的な吸収は存在せず、ミクロ構造の基部は、実質的に円形である。
【0038】
シリコン表面をミクロ構造化する間、シリコン表面に接触する流体または固体も、ミクロ構造化の結果としての表面の形態学的形状に影響を及ぼす。例えば、周囲ガスとしてSF6またはCl2を用いると、曲率半径が約500nmの鋭利な先端の円錐形構造が導かれる。対照的に、空気、N2、または、真空、の中で作られた構造は、これらのハロゲンを含有したガスの中で作られた構造に比べて、非常により丸い(その構造の先端の曲率半径は約2マイクロメートルから約3マイクロメートルである)。異なる気体が存在する状態でミクロ構造化された複数の例示的なサンプルの中で、SF6が存在する状態で作られたサンプルが、最も高い密度のミクロ構造を示し、その次が、Cl2が存在する状態で作られたサンプルであった。N2が存在する状態で作られたミクロ構造の密度は、空気が存在する状態で作られたミクロ構造の密度とほぼ等しかったが、SF6が存在する状態で作られたミクロ構造のほぼ1/2(a factor of two less than)であった。
【0039】
いくつかの実施の形態では、シリコンウェハーのレーザーによるミクロ構造化は、2つ以上の物質の混合物が存在する状態で実行される。例えば、SF6およびCl2の混合物が存在する状態でミクロ構造化されたサンプルは、SF6の分圧が高いほどミクロ構造の密度の増加を示す。
【0040】
ミクロ構造化された硫黄リッチ層は、独自の光学的および電気的特性を有する。例えば、その硫黄リッチ層は、約1012cm-2から約1014cm-2までの面電荷担体密度(sheet charge carrier density)を示す場合がある。例として、そして、例示の目的のみのために、上述されたような、本発明の教示に基づくnドープされたシリコン基板に各々が形成された、複数の例示的なミクロ構造化されたサンプルに実行された、いくつかの固有抵抗およびホール効果の測定の結果が、以下に記載される。固有抵抗およびホール効果の測定のために、当業者にはよく知られたバン・デル・ポウ法(van der Pauw technique)が、用いられた。簡単に述べると、4つのオーム電気接触部が、不規則なミクロ構造化された層の表面に形成された。それらの電気接触部は、最初に、ミクロ構造化されたサンプルを5分間に亘って5%HF溶液中に浸漬して、任意の本来の酸化膜をも除去することによって、形成された。次に、選択されたミクロ構造化された表面領域(例えば、10×10mm2の表面領域)の極限の四隅を除くすべてを覆うマスクを用いて、クロム/金(Cr/gold)が表面に蒸着されて、露出された四隅に金属接触部が形成された。次に、ダイシングのこぎりが用いられて、各側面から銀(例えば、0.25mmの銀)が切り取られた。サンプルのエッジの切除は、接触部が表面層のみに接続され基板層に接続されないことを確実にする。最後に、ワイヤボンダー(wire bonder)が用いられて、サンプルの四隅の接続部をスライドガラスの表面に蒸着された4つのCr/Au接触パッドに接続した。図4に模式的に示された、この実験的な構成は、ミクロ構造化された層の電気的特性を主に感知するもので、基板の電気的特性を感知するものではないことが理解されるはずである。
【0041】
図4の参照を続けながら、固有抵抗の測定は、小さなDC電流(例えば、10マイクロアンペア)を隅2から隅1に加え同時に電圧を隅3から隅4で測定して、実行されてよい。ホール効果の測定は、サンプルを強い磁界(例えば、数千ガウスの磁界)中に、磁界をシリコン表面に垂直になるようにして配置して、実行されてよい。ある実験では、小さいAC電流(約1マイクロアンペアから約2マイクロアンペア)が、次に、接触部1から接触部3に加えられ、同時に、誘起電圧が接触部2と接触部4との間で測定される。対象測定も、nドープされた(固有抵抗=8〜12オームメートル)ミクロ構造化されていないシリコンウェハーに対して行われた。以下の表1は、複数の異なるレーザーパルスのフルエンスでの約8〜約12オームメートルの範囲内の固有抵抗を有するnドープされたシリコンウェハーに形成されたミクロ構造層に対するこれらの測定結果を示している。
【表1】
【0042】
このデータは、ミクロ構造化された層が、おそらくミクロ構造化された層の不規則さの結果として、元の基板に比べてより高い面電荷担体密度を示し、より低い電荷担体移動度を示している。
【0043】
図1のフローチャート10を再び参照すると、シリコン表面の複数のレーザーパルスでの照射(ステップ10a)に続いて、基板が、ミクロ構造化された層内の電荷担体密度の増加が、例えば、約10パーセントから約200パーセントまでの範囲内で増加するようにも選択された期間に亘って十分な高温で焼き鈍しされる(ステップ10b)。例えば、基板は、約500Kから約1100Kまでの範囲内の温度で、より好ましくは、約500Kから約900Kまでの範囲内の温度で、選択された期間に亘って、例えば、約数分から約数時間までの範囲内の期間(例えば、1.5時間)に亘って、焼き鈍しされてよい。
【0044】
焼き鈍し過程は、さまざまな異なる方法を用いて実行されてよい。例えば、基板は、選択された期間に亘って高温に露出されるように熱オーブン内に配置されてよい。それに代わって、基板は、基板を所望の温度に加熱するために、例えば、約200nmから約1200nmまでの範囲内の波長を有する放射線などのレーザー放射線に露出されてよい。さらに、焼き鈍し過程は、例えば、不活性雰囲気(例えば、アルゴン雰囲気)中で、または、真空(低圧環境)中で、実行されてよい。それに代わって、焼き鈍し過程は、照射過程と同時に行われてよい。したがって、シリコン基板のレーザーパルスでの照射は、基板が高温で維持されている間に実行されてよい。
【0045】
いずれの理論によっても限定されずに、焼き鈍し過程は、ミクロ構造化された層内の電荷担体、すなわち、電子、の密度を増強するために、準安定のミクロ構造化された層内の原子結合の再配置を引き起こすように設計されている。用語「電荷担体密度(charge carrier density)」は、当業者に知られている。さらに説明が必要であるかもしれない程度で述べれば、電荷担体密度は、例えば、伝導帯状態の電子または伝導帯の下の浅い不純物状態の電子、などの、電流の伝導のために主に寄与する、例えば、電子などの荷電粒子の密度を意味する。そのような荷電粒子は、本明細書では、自由電子または正孔をも意味する。
【0046】
言い換えれば、焼き鈍し温度および期間は、以下により詳しく記載されるように、ミクロ構造化された層内に構造的な変化を引き起こし、その構造的な変化が、ミクロ構造化された層内での電荷担体密度を増加すると同時に印加された所定の逆バイアス電圧での選択された波長範囲内の放射に露出されたときに電流を生み出すための応答度を実質的に維持するように、選択される。本発明の教示に基づく焼き鈍し過程によってミクロ構造化された硫黄リッチ層内で引き起こされた構造的な変化は、pドープされたシリコン基板が複数のレーザーパルスに露出されてシリコン基板内にミクロ構造化された表面層が生み出される多くの実施の形態で、電子ではなく正孔が、1原子当り2つの可能なドナー電子を有する約1原子パーセントの硫黄を組み込んだ後でさえも、主要な電荷担体を構成するということを、考慮することによって適正に評価することができる。しかし、焼き鈍し後は、電子がミクロ構造化された層内の主要な電荷担体を構成することができる。いずれの理論にも限定されずに、そのような観測は、ミクロ構造化された層内の硫黄が、焼き鈍し前には、シリコンに組み込まれていて、シリコンのドナー電子が伝導に実質的には寄与しない(ドナー電子は、おそらくトラップ内に閉じ込められている、または、植え込まれた硫黄の価電子数がたぶん4より大きい)ことを示唆している。本発明の教示に基づく焼き鈍し過程は、ミクロ構造化された層内の原子結合の再配置がドナー電子を電気伝導に寄与するように解放するようにする。実際、pドープされたシリコン基板の場合、焼き鈍しの間に解放されたドナー電子の数は、主要な電荷担体としての正孔を打ち消し、ミクロ構造化された層を、約1014cm-2台の面担体濃度(sheet carrier concentration)を有するnドープされた層に変える。
【0047】
本発明の教示に基づいて形成されたミクロ構造化されたシリコンウェハーは、入射電磁放射線の、とりわけ約250nmから約2500nmまでの範囲内の波長を有する放射線の、吸収を示す。例として、図5は、ミクロ構造化されたシリコンウェハー(約260マイクロメートルの厚みと、約8オームメートルから約12オームメートルまでの範囲内の固有抵抗と、を有するn-Si(111)ウェハー)に対する吸収データを示していて、シリコンウェハーの各々は、ウェハーの表面を、800nmの中心波長および約8kJ/m2のフルエンスを有する100フェムト秒レーザーパルス(位置当り2ショットから500ショットまで)に露出することで、生み出された。この例示的な吸収データは、ウェハーを焼き鈍しする前に、積分球を備え付けられた分光光度計を用いて、当業者に知られた方法で記録された。構造化されていないシリコンウェハーに対する吸収データも、比較対照の目的で提供されている。
【0048】
この例示的なデータは、ミクロ構造化されたウェハーが、記録された波長範囲全体に亘って、そして、とりわけ、結晶シリコンのバンドギャップエネルギー(1.05eV)に相当する約1050nmを超える波長で、構造化されていないシリコンと比較して、入射電磁放射線の増強された吸収を示すことを、指摘している。構造化されていないシリコンでは、バンドギャップエネルギーに相当する波長よりも長い波長を有する光の光子は、価電子帯から伝導帯への電子を促進するための十分なエネルギーを持っておらず、そのため、吸収が劇的に低下する。
【0049】
対照的に、本発明の教示に基づいてミクロ構造化されたシリコンウェハーは、バンドギャップより低い波長だけでなくバンドキャップより高い波長に対しても十分な吸収を示す。実際、図5の例示的なデータは、位置当り20パルス以上(例えば、この例示的なデータセットでは500パルス)に露出されて構造化されたシリコンウェハーが、約0.4マイクロメートルから約1マイクロメートルの波長に対してほぼ1の変動のない吸収を示し、約1.05マイクロメートル(この波長は構造化されていないシリコンのバンドエッジに相当する)の付近の波長に対して吸収のわずかな減少を示し、約1.05マイクロメートルから約2.5マイクロメートルまでの非常に変動の少ない吸収を示している。このデータは、例示の目的のみで提供され、本発明の教示に基づいて構造化されたシリコンウェハーの最適な吸収を提供することを必ずしも意図されていないことが、理解されるはずである。
【0050】
上述したように、本発明の多くの実施の形態では、ミクロ構造化されたウェハーは、そのミクロ構造化された層の電荷担体濃度を増強するように設計された温度および期間で焼き鈍しされる。そのような焼き鈍しは、さまざまな異なる温度で実行されてよい。例えば、図6は、構造化されていないシリコンと比較した、67000パスカル(0.67バール)のSF6が存在する状態で表面の位置当り500レーザーパルス(800nmの中心波長および8kJ/m2のフルエンスの100フェムト秒パルス)を用いて生み出された複数のミクロ構造化されたシリコンウェハーに対する電磁放射線吸収データを模式的に示している。構造化された各ウェハーは、約30分間に亘って、約575Kから約875Kまでの範囲内の選択された温度で焼き鈍しされた。この例示的なデータは、約575Kより低い温度での焼き鈍しが、観測された吸収にまったく影響を及ぼさないことを、示している。一方、約575Kと875Kとの間の温度で実行された焼き鈍しは、バンドギャップより高い吸収には実質的に影響を及ぼさず、バンドギャップより低い吸収では、焼き鈍し温度が高いほど吸収の減少が増している。しかし、このデータは、例示的であるのみで、異なる結果が、異なるパラメーター(例えば、異なるフルエンスまたはレーザーショット数)を用いて生み出されたミクロ構造化されたウェハーに対して得られることもあることが、理解されるはずである。
【0051】
本発明の教示に基づくミクロ構造化されたシリコンウェハーは、フェムト秒パルスを用いて生み出されるだけでなく、その他のパルス幅(例えば、ナノ秒およびピコ秒パルス幅)のパルスを用いても生み出されることができる。例として、そして、例示の目的のみで、図7は、約30分間に亘る約875Kでの焼き鈍しの前後で、フェムト秒レーザーで形成されたミクロ構造化されたシリコン表面およびナノ秒レーザーで形成されたミクロ構造化されたシリコン表面、ならびに、構造化されていないシリコンウェハー、に対する入射放射線の波長の関数として吸収の例示的なグラフを示している。フェムト秒レーザーで形成されたミクロ構造は、約800nmの中心波長および約8kJ/m2のフルエンスを有する100フェムト秒パルス(位置当り500ショット)を用いて生み出された。ナノ秒パルスで形成されたミクロ構造は、248nmの中心波長および約30kJ/m2のフルエンスを有する30ナノ秒レーザーパルス(位置当り約1500ショット)を用いて生み出された。このデータは、例示の目的のみで提供され、全ての環境の下での本発明の教示に基づいて形成されたミクロ構造化されたシリコンによって示される吸収を必ずしも指摘することを目的とされてないことが、理解されるはずである。
【0052】
本発明のいくつかの実施の形態では、シリコンウェハーのミクロ構造化は、SF6ではない背景流体が存在する状態で、行われてよい。例えば、H2S、Cl2、N2、または、空気、が用いられてよい。例として、図8Aおよび図8Bは、構造化されていないシリコンと比べた、焼き鈍し過程を行わない、さまざまな流体が存在する状態での、フェムト秒レーザーパルス(100フェムト秒、800nm、8kJ/m2、位置当り500ショット)を用いて生み出されたいくつかの例示的なプロトタイプのミクロ構造化されたシリコンウェハーの吸収率を比較している。真空のデータは、約1.33×10-4パスカル(約10-6バール)より低い基本圧力に排気されたチャンバ内でのウェハーのミクロ構造化に相当する。すべてのミクロ構造化されたサンプルは、構造化されていないシリコンに比べて、増強された吸収を示していて、この例示的なデータは、SF6およびH2Sが存在する状態でのミクロ構造化が、構造化されていないシリコンに比べて、最も劇的な吸収率の変化を引き起こすことを、示している。より詳しく言うと、SF6を用いて構造化されたサンプルが、測定されたスペクトル全体に亘って、1に近い、実質的に変動しない吸収率を示した。
【0053】
さまざまな背景流体圧力が、ミクロ構造化されたシリコンウェハーを生み出すために本発明の多くの実施の形態において用いられてよい。例えば、図9は、さまざまな周囲圧力でSF6中(100フェムト秒、800nm、位置当り500ショット)で生み出された複数の例示的なプロトタイプのミクロ構造シリコンウェハー、ならびに、真空中(例えば、10-6より低い圧力)でミクロ構造化されたウェハー、に対する吸収率のデータを示している。最大の増加率が低圧で観測されている。この例示的なデータセットでは、約2700パスカル(約27ミリバール)より高い圧力で、バンドギャップの下の吸収率は波長と共に大きな変動を示さず、2700パスカルより低い圧力では、バンドギャップの下の吸収率は波長の増加と共に減少している。
【0054】
本発明の教示に基づいて生み出されたミクロ構造化されたシリコンウェハーは、とりわけ、約500Kから約900Kまでの範囲内の高温での焼き鈍し過程が施されたミクロ構造化されたシリコンウェハーは、広い範囲(例えば、紫外線の波長から赤外線近くまで)に亘る電磁放射線の増強された吸収を示すだけでなく、ダイオードの特徴である電圧対電流の曲線(profiles)を示しもする。以下により詳しく記載されるように、これらの特性は、通常のシリコン光検出器に比べて増強された応答度を示す光検出器を製造するためにそのようなミクロ構造化されたシリコンウェハーを使用できるようにしている。
【0055】
より詳しく言うと、本発明の教示に基づいて形成されたミクロ構造化されたシリコン層は、特に、レーザーパルスにウェハー表面を露出し、それに続いて、または、それと同時に、パルスによって構造化された層内の電子を解放するように設計された焼き鈍し過程、によって形成されたミクロ構造化されたシリコン層は、下側のシリコン基板と、ダイオード接合、例えば、PN接合、を形成する。本明細書で用いられるダイオード接合は、異なる自由電子密度を有する2つのnドープされた部分の間に形成された接合をも意味することが、理解されるはずである。図10に模式的に示されているように、PN接合は、アクセプタ不純物原子を有する(pドープされた)半導体材料を、ドナー不純物原子を有する(nドープされた)半導体材料に、接触した状態にすることによって、形成されてよい。pドープされた部分とnドープされた部分との間の電荷担体濃度の差が、その接合に亘る拡散電位を生み出し、電子および正孔がその接合を横切って、対応するより低い濃度を有する部分へ向けて拡散を開始する。電子および正孔が接合の反対側へ渡ると、電子および正孔は、接合の非常に近くの領域内のそれぞれの逆の極性に電荷を有する電気的な相手と再結合する。接合を横切るこのような電荷担体の移動は、接合の両側に逆の極性の空間電荷(不動イオン)の形成を引き起こす。空間電荷(n型側では正に帯電した空間電荷、p型側では負に帯電した空間電荷)の数が増加すると、電位差が接合に亘って形成され、その電位差が、拡散電位とは逆向きの電界を生み出す。
【0056】
熱平衡に達すると、薄い絶縁層が接合の近くに現れ、その絶縁層内では、電荷担体が再結合によって枯渇する(空乏層(depletion region))。強い電界が空乏層内に現れ、大きな電位がこの空乏層に亘って存在する。接合は、接合に亘る電界を加えることによって逆バイアスされてよく、逆バイアスされることが接合の内部電界を強める。そのような逆バイアス電圧は、絶縁性の空乏層を拡張し、接合に亘る内部電界と電位差との両方を増強する。接合は、接合に亘る内部電界と逆向きの電界を加えることによって、順バイアスされてもよい。そのような順バイアス電圧は、空乏層を縮め、それによって、接合に亘る内部電界および電位差を打ち消す。順バイアスされると、接合を横切って電流が流れ、電子がnドープされた部分に注入され、pドープされた部分から去る。言い換えると、PN接合は、一方向のみに電流を流せるようにすることで、整流器として振舞うことができる。このような振る舞いが、ダイオードの電流・電圧(I−V)曲線特性を生じさせる。
【0057】
上述されたように、その中に本発明の教示に基づいてミクロ構造化された層が形成されたシリコンウェハーは、ダイオード接合によって得られるI−V曲線特性を示してよい。いずれの理論にも限定されずに、そのような電流電圧特性は、ウェハーが、2つの隣接した、さらに、別個の層、すなわち、その中に所定の濃度の電子供与性成分が組み込まれた表面層と、下側の実質的に乱されていないシリコン基板層と、を有することを考慮して、理解することができる。これらの2つの層は、異なる、結晶構造、化学的組成、および、電荷担体ドーピング濃度、を示す。さらに、ミクロ構造化された層は、近紫外線波長から近赤外線波長までの入射電磁放射線の高い吸収率を含む独自の光学特性を有する。ある態様では、本発明は、そのようなミクロ構造化されたシリコンウェハーを、以下により詳しく記載されるように、フォトダイオードの製造に用いる。
【0058】
例として、図11Aは、本発明のある実施の形態に基づく光検出器46を模式的に示していて、その光検出器46は、ミクロ構造化された表面層50を有するミクロ構造化されたシリコンウェハー48を含んでいて、ミクロ構造化された表面層50は、基板の表面の複数の位置を短レーザーパルス(例えば、約数十フェムト秒から約数十ナノ秒までの範囲内のパルス幅)で照射し、同時に、表面を電子供与性成分(例えば、SF6)を含む物質に露出することによって、シリコン基板51内に形成される。レーザーが照射されたウェハーは、次に、ミクロ構造化された表面層内の電子の濃度を増強するように設計された条件(例えば、高温で、および、選択された期間に亘って)の下で、焼き鈍しされる(例えば、約500Kから約900Kまでの範囲内の焼き鈍し温度で、数分間から数時間までの範囲内の期間に亘って)。
【0059】
フォトダイオードとして機能する、例示的な光検出器46は、複数の金属製の電気的接触部52をも含み、電気的接触部52は、フィンガーグリッドの形状を有し、ミクロ構造化された表面層の上に配置されている。さらに、金属製のコーティング層の形態の、電気的接触部54が、シリコン基板の背面(すなわち、ミクロ構造化された表面と反対側の乱されていないシリコン表面)に配置されていて、表面の実質的に全体を覆っている。この例示的な実施の形態では、クロム/金(Cr/Au)合金が、電気的接触部を製造するのに用いられている。しかし、当業者は、電気的接触部がその他の金属によっても形成されてよいことを、適正に評価するであろう。
【0060】
金属製の接触部52,54は、例えば、電圧源56を用いて、ウェハーに亘って、バイアス電圧を、例えば、逆バイアス電圧を、加えられるようにしている。逆バイアス電圧は、ミクロ構造化された層50と下側のシリコン基板51との間に形成されたダイオード接合の空乏層内の内部電界を強めてよい。以下に詳しく記載されるように、光検出器46は、小さなバイアス電圧で、例えば、約0.1Vから約15Vまでの範囲内の電圧で、従来のシリコン光検出器によって典型的に示される応答度に比べてかなりより良好な応答度(すなわち、1電力の入射光(アンペア/ワット)当り生み出される光電流)を伴って動作することができる。これらの特性は、例示的な光検出器46のような、本発明の教示に基づいて形成されたシリコン光検出器を、高感度検出器として、集積シリコン光電子回路に組み込むことができるようにする。
【0061】
動作中に、フォトダイオードのシリコンウェハーのミクロ構造化された表面層に入射した放射線(すなわち、光子)は、(放射線の波長が光検出器の動作範囲内にある場合には、)例えば、ミクロ構造化された層の価電子によって、吸収される。入射放射線の吸収によって、電子・正孔対が生み出される。空乏層内の電界は、生み出された電子・正孔対を分離させ、とりわけ、ミクロ構造化されたシリコン層と下側のシリコン基板との間に形成されたダイオード接合で、または、ダイオード接合の近くで、生み出された電子・正孔対を分離させる。分離した電子・正孔対は、入射光子の個数に比例した光電流を提供する(当業者は、そのような光電流が、生成電流、および、ダイオード接合に本来存在しえる再結合電流に加えられることを、適正に評価する)。したがって、入射放射線は、誘起された光電流を測定することによって、検出され、そして、定量化される。
【0062】
本発明の教示に基づいて形成された光検出器は、広範囲の波長に亘る吸収度(吸収度は光検出器のミクロ構造化されたシリコンウェハーによって示される吸収度とほぼ同程度である。)を示すだけでなく、ダイオード的なIV特性をも示す。例として、そして、本発明の光検出器の顕著な特徴をさらに説明するために、図12は、各々が、光検出器の能動コンポーネントとして用いるためのnドープされたシリコン基板に異なる条件で形成された複数のミクロ構造化されたシリコンサンプルに対するバイアス電圧の関数として電流を示した、複数のグラフを、示している。すべてのサンプルは、SF6が存在する状態で、複数のフェムト秒レーザーパルス(800nm、100フェムト秒、4kJ/m2のフルエンス)で照射された。グラフAは、焼き鈍しされていないミクロ構造化されたサンプルに関連する電流・電圧曲線を示している。この曲線は、実質的に直線状であり、このサンプルのミクロ構造化された層と下側のシリコン基板との間に形成された接合がダイオード的ではなく、単に抵抗性であることを示している。言い換えれば、そのようなウェハーは、光検出器の製造には適していない。
【0063】
対照的に、グラフB、C、および、Dは、異なる温度(焼き鈍し期間は、すべての場合で約30分間であった。)で焼き鈍しが施されたこれらのミクロ構造化されたシリコンサンプルの電流・電圧特性を示している。この例示的なデータは、焼き鈍し温度が高くなるほど、測定されたI−V曲線がダイオードから予測される曲線に近づくことを示している。例えば、約825Kの焼き鈍し温度では、I−V曲線は、ダイオード的であり、順バイアスに対して指数関数的に増加する電流と、逆バイアスに対してより小さくほとんど急速には増加しない電流と、によって特徴付けられる。約1075Kの焼き鈍し温度に対応するI−V曲線もダイオード的である。しかし、非常に高い温度で長期間に亘ってミクロ構造化されたシリコンウェハーを焼き鈍しすることは、バンドギャップの下の吸収度の低下を導く可能性があり、したがって、そのようなミクロ構造化されたウェハーを用いた光検出器の近赤外線波長での性能の劣化を導く可能性がある。この例示的なデータセットでは、825Kで焼き鈍しされた基板が、最適なI−V特性を示している。しかし、そのような高温の焼き鈍し温度は、焼き鈍し期間が十分に短い限り、用いられてよいことが、理解されるはずである。一般に、本発明の光検出器で用いられるミクロ構造化されたシリコンウェハーの焼き鈍しは、ウェハーの入射放射線の吸収度および入射放射線に対する応答度を有意に劣化させずにミクロ構造化された表面層内の電子を解放するように(例えば、焼き鈍し温度および期間を)慎重に設定されるべきである。
【0064】
上記の例示的な光検出器46のような、本発明の光検出器は、従来のシリコンフォトダイオードの応答度よりも優れた、約250nmから約10μmまでの範囲内の波長に亘る応答度を示す。例として、そして、例示および確証の目的のみのために、図13は、従来のフォトダイオード、および、焼き鈍しされていないもしくは高すぎる温度で焼き鈍しされたミクロ構造化されたシリコンを用いて製造されたフォトダイオード、と比較して、選択された波長範囲に亘る、本発明の教示に基づいて形成された例示的な光検出器の応答度を表した実験的なグラフを示している。より詳しく言うと、グラフAおよびグラフBは、SF6が存在する状態でフェムト秒レーザーパルス(100フェムト秒、800nmの中心波長、および、4kJ/m2のフルエンス)によってミクロ構造化され、その後825Kまたは725Kで焼き鈍しされたシリコンウェハーを用いた本発明の光検出器を示し、この光検出器が、従来の市販されているシリコンフォトダイオードの応答度に比べて、有意に増強された応答度を示している。より詳しく言うと、これらの光検出器は、約250nmから約1050nmまでの範囲内の波長で、従来のフォトダイオードの応答度の10倍より大きな応答度を示している。応答度は、バンドキャップのエッジよりも長い波長(すなわち、約1050nmよりも長い波長)に対して減少しているが、それでもなお、応答度は、従来のシリコン検出器が示す応答度よりも有意に大きいまま留まっている。実際、従来のシリコン検出器は、典型的には、バンドギャップのエッジよりも長い波長では有用なレベルの応答度で、動作しない。例えば、この例示的な例では、市販されているフォトダイオードの応答度は、約1050nmよりも長い波長に対しては、約10-6A/Wに急激に低下している。
【0065】
さらに、本発明の教示に基づいて形成されたウェハーの応答度のデータ(例えば、グラフAおよびグラフB)は、小さなバイアス電圧(例えば、この例示的な実施の形態では、約−0.5ボルトのバイアス電圧)を加えて得られた。対照的に、従来のシリコン光検出器はかなりより低い応答度を示すか、または、より高いバイアス電圧(例えば、100ボルトから1000ボルト)を必要とし、および/または、より複雑な構造を有する。このことは、本発明の教示に基づいて形成された光検出器が集積シリコン回路に容易に組み込むことができるのに対して、大きなバイアス電圧を必要とする従来のシリコン検出器の集積シリコン回路への組み込みは現実的でない場合があること、を示す。
【0066】
図13に示されたデータは、上述されたような複数の短いレーザーパルスによって照射されたシリコンウェハーの適正な焼き鈍しが、そのウェハーを用いる光検出器の応答度をめざましく増強できること、を示している。より詳しく言うと、レーザーパルスに露出されてはいるが焼き鈍しされていないウェハーを用いることによって製造された光検出器は、例えば、725Kまたは約825Kの適切な温度での焼き鈍し過程が施されたウェハーに比べてかなり低下した応答度を示す。この例示的なデータは、レーザーパルスによって照射された後に30分間に亘って1075Kの温度で焼き鈍しされたミクロ構造化されたウェハーを組み込んだ光検出器が725Kまたは825Kで焼き鈍しされたミクロ構造化されたウェハーに比べて、かなり低下した応答度を示すこと、をも示している。
【0067】
したがって、本発明のある態様は、ミクロ構造化された層内の電子を解放すると同時に電磁放射線を検出するためのウェハーの応答度を保存するような条件の下で、電子供与性の成分を有する物質が存在する状態で複数の短いパルスによってウェハーを照射した後のまたは、照射するのと同時の、シリコンウェハーの焼き鈍しに関する。例えば、本発明のいくつかの実施の形態では、焼き鈍し温度は、約500Kから約1100Kまでの範囲内あるように選択され、より好ましくは、約700Kから約900Kまでの範囲内にあるように選択され、焼き鈍し期間は、約1分間から約数時間までの範囲内にあるように選択され、より好ましくは、約5分間から約30分間までの範囲内にあるように選択される。それに代わって、より高い焼き鈍し温度が、その焼き鈍し期間が結果として形成される焼き鈍しされたウェハーの応答度の低下を回避するように選択される限り、用いられてよい。例えば、上記のデータは、約30分間に亘る約1075Kの温度でのウェハーの焼き鈍しが、望ましくない可能性があることを示しているが、この焼き鈍し温度はより短い焼き鈍し期間では、ある種の用途で、本発明を実現するために適していることもある。ある程度までは、焼き鈍し温度および焼き鈍し期間は、相互に関連している。例えば、より高い温度でのより短い焼き鈍し期間は、ある種の用途で用いられる可能性がある。
【0068】
言い換えれば、高温度での単なる焼き鈍しが必要とされているのではない。そうではなく、焼き鈍し温度および焼き鈍し期間は、広範囲の波長に亘る増強された応答度を示す光検出器が焼き鈍しされたウェハーを用いて製造されるのを確実にするように、適正に選択される必要がある。電子供与性成分を有する物質が存在する状態での短いレーザーパルスにウェハーを露出した後にまたは露出するのと同時にシリコンウェハーを焼き鈍しすることは、焼き鈍しが低すぎる温度の場合には、ノイズの入ったフォトダイオードを生み出す可能性があり、焼き鈍しが高すぎる温度で長すぎる期間に亘る場合には、可視光波長および赤外線波長の両方に対するウェハーの応答度をより低くする可能性がある、ことが見出された。より詳しく言うと、焼き鈍し温度および焼き鈍し期間は、好ましくは、電子供与性成分を有する物質が存在する状態でのレーザー照射によって形成されたミクロ構造化された層内の担体電子(carrier electrons)の濃度を約10%から約200%までの範囲内だけ増強し、同時に結果として形成された焼き鈍しされたウェハーが約250nmから約1050nmまでの波長の範囲内のうちの少なくとも一つの波長で、そして、好ましくは、その範囲の全体の波長で、約20A/Wより大きい応答度を示すように、そして、約1050nmから約3500nmまでの波長の範囲内の少なくとも一つの波長で、そして、より好ましくは、その範囲の全体の波長で、約0.1A/Wより大きい応答度を示すように、選択される。例として、本発明のいくつかの実施の形態では、焼き鈍し温度は、好ましくは、約700Kから約900Kまでの範囲内にあるように選択される。
【0069】
シリコンウェハー内にミクロ構造化された層を生み出すためにシリコンウェハーを照射するレーザーパルスのフルエンスの選択も、ミクロ構造化されたウェハーを組み込んだ光検出器の放射線を検出する性能特性に影響することがある。例として、図14は、SF6が存在する状態で複数のフェムト秒レーザーパルス(100フェムト秒、800nmの中心波長、位置当り200パルス)によって照射されその後約30分間に亘って825Kで焼き鈍しされた複数のシリコンウェハーの電流・電圧特性に対応する例示的なデータを示している。しかし、レーザーパルスのフルエンスは、ウェハー毎に異なる。より詳しく言うと、以下のレーザーのフルエンス、すなわち、4kJ/m2、6kJ/m2、8kJ/m2、および、10kJ/m2、が用いられた。この例示的なデータは、フルエンスが増加すると、所定の逆バイアス電圧での暗電流が減少することを示している。
【0070】
図15Aは、さまざまなレーザーパルスフルエンスでミクロ構造化された上記のシリコンウェハー(ウェハーは、30分間に亘って825Kで焼き鈍しされた。)を組み込んだ複数の光検出器の応答度を示している。この例示的な応答度のデータは、このサンプルセットでは、フルエンスが増加すると、光検出器の応答度が減少し、応答度のピーク値の波長がより長い波長にシフトすることを示している。(4kJ/m2のフルエンスで作られたサンプルが、最も高い応答度を示している。)さらに例示するために、図15Bは、SF6が存在する状態でフェムト秒パルス(100フェムト秒、800nmの中心波長、位置当り200パルス)を用いて照射しその後30分間に亘って1075Kで焼き鈍しすることによって生み出されたミクロ構造化されたシリコンウェハーを用いて作られた光検出器の応答データを示している。しかし、レーザーパルスフルエンスは、サンプル毎に変えられている(4kJ/m2、6kJ/m2、8kJ/m2、および、10kJ/m2)。このデータを図15Aに示されたデータと比較すると、1075Kのより高い焼き鈍し温度を施されたサンプルによって示された応答度が、825Kで焼き鈍しされたサンプルの応答度よりもかなり低いことが、示される。しかし、より高い温度で焼き鈍しされたサンプルは、フルエンスの関数としてのかなりより小さい応答度の変動を示している。さらに、1075Kで焼き鈍しされたサンプルは、より低い応答度を示してはいるが、よりノイズが少なく、より高い量子効率を有している。
【0071】
上記のデータは例示の目的のみで提供され、すべての条件の下で最適なフルエンスを必ず示すことを意図するものではないこと、が理解されるはずである。例えば、上記の例示的なサンプルは約200パルスの平均のレーザーショット数を用いて作られ、より大きなショット数を用いて改善された特性を示すかもしれない。一般に、本発明のさまざまな実施の形態では、レーザーパルスのフルエンスは、約3kJ/m2より大きく選択されている。より好ましくは、フルエンスは、約3kJ/m2から約10kJ/m2までの範囲内にあるように選択され、または、約3kJ/m2から約8kJ/m2までの範囲内にあるように選択される。
【0072】
本発明の多くの実施の形態では、nドープされたシリコン基板が、上述したように、ミクロ構造化されたウェハーを形成するために用いられた。それに代わって、pドープされたシリコンウェハーが用いられてもよい。例として、図16Aは、pドープされたシリコン基板(p−Si(100)、350マイクロメートルの厚み、1オームセンチメートルより大きい固有抵抗(ρ))を用いて上述されたように本発明の教示に基づいて生み出されたミクロ構造のウェハーのダイオード的な特性を、nドープされたシリコン基板を用いて製造されたミクロ構造のウェハーと比較したグラフを示している。両方の場合で、約6kJ/m2のレーザーパルスのフルエンス、約825Kの焼き鈍し温度、および、約30分間の焼き鈍し期間、が用いられた。同様のデータが、約30分間に亘る1075Kでの焼き鈍しを施されたpドープされたサンプルおよびnドープされたサンプルについて、図16Bに示されている。
【0073】
この例示的なデータは、825Kで焼き鈍しされたpドープされたサンプルが同じようにして生み出されたnドープされたサンプルに比べて、より高い順バイアス電流を示すことを示している。逆バイアスに対する暗電流も、pドープされたサンプルでより迅速に増加している。1075Kで焼き鈍しした場合では、pドープされたサンプルが、逆バイアスが同様にして生み出されたnドープされたサンプルと実質的に同程度まで低減された非常に良好なダイオード的な特性を示している。さらに、順バイアス電流がより迅速に増加していて、良好な整流比率をもたらしている。上述されたように、より高温での焼き鈍しは、硫黄のドーピングからのドナー濃度を増加する可能性がある。ドナー濃度のそのような増加は、より高温で焼き鈍しされたpドープされたサンプルがより良好な整流作用を示すようにする可能性が有る。
【0074】
シリコン基板のドーピングも、本発明の教示に基づいて基板をミクロ構造化することによって形成されたシリコンウェハーの応答度に影響を及ぼす可能性がある。例として、図17Aは、両方が約30分間に亘って825Kで焼き鈍しされた、2つのpドープされたミクロ構造化されたウェハーと、2つのpドープされたミクロ構造化されたウェハーと、の測定された応答度のデータを示している。この例示的なデータは、nドープされた基板の応答度が、測定されたスペクトル範囲に亘って、より高いことを、示している。しかし、図17Bは、レーザーの照射および約1075Kのより高い温度での焼き鈍しによってpドープされた基板およびnドープされた基板に形成されたミクロ構造化されたウェハーの応答度がほぼ同じこと、を示している。
【0075】
一般に、上記の例示的なデータは、ミクロ構造化されたpドープされたサンプルが、より低い応答度を有し、しかし、より良好な量子効率を示すこと、を示している。上記のデータが例示の目的のためにのみ提供され、本発明の範囲を限定することを意図されていないこと、が理解されるはずである。一般に、pドープされた基板およびnドープされた基板の両方が、本発明を実施するために用いられてよく、そのような基板を用いて生み出されたミクロ構造化されたウェハーの結果としてのダイオード的な特性および応答度は、レーザーフルエンス、パルスの数、などのその他のパラメーターの選択に基づいて、上述された特性および応答度と異なる可能性がある。
【0076】
応答度に加えて、光検出器の性能に関連して注目される別のパラメーターは、光検出器の量子効率であってよい。用語「量子効率」は、当該分野で知られていて、零の電圧が加えられた状態で、入射光子当り生み出される電子・正孔対の数として一般的に定義される。いくつかの場合では、高いレベルの応答度を示すミクロ構造化されたサンプルは、それに対応する高いレベルの量子効率を示さないことがある。例えば、上記の例示的なプロトタイプのミクロ構造化されたシリコンウェハーでは、nドープされた基板、4kJ/m2のフルエンスを有するレーザーパルス、および、約825Kの焼き鈍し温度、を用いて製造されたサンプルは、最高の応答度を示すが、最高の量子効率を示さない。実際、同じ条件を用いるが1075Kの焼き鈍し温度を用いて製造されたサンプルは、より高い量子効率を表すが、より低い応答度を表す。同様に、pドープされた基板に825Kまたは1025Kで焼き鈍しされて作られたサンプルの測定された応答度は、より低いが、それらのサンプルの量子効率はより高い。そのような応答度および量子効率の変動は、シリコン光検出器を製造するために本発明の教示を実施するときのさまざまなパラメーターを選択する場合に好ましくは考慮される。
【0077】
本発明の教示に基づいて製造された光検出器の応答度は、光検出器に加えられた逆バイアスの関数としても変化する。典型的には、加えられる逆バイアスが増加すると、応答度は、増加する。例えば、図18は、加えられた逆バイアス電圧の関数として、4kJ/m2のフルエンスで複数のフェムト秒パルスで照射されその後約30分間に亘って825Kで焼き鈍しされることで、本発明の教示に基づいてミクロ構造化されたシリコンウェハーの応答度を示している。サンプルは、50マイクロワットのおおよその電力で白色光源を用いて照らされた。応答度が、したがって、利得が、−5ボルトのバイアス電圧までは迅速に増加し、それから、−15ボルトのバイアス電圧まではゆっくりと増加している。−15ボルトを越える電圧では、応答度は低下し始めている。いくつかの場合では、高い利得を示す光検出器の応答度は、ある種の用途に対しては十分に線形でないことがある。したがって、適切な逆電圧を選択する場合、応答度に加えて、応答度の線形性のようなその他の要因が考慮されるべきである。さらに、光検出器が集積シリコン回路に組み込まれている用途では、バイアス電圧は、その集積シリコン回路の要件と適合するものでなければならない。
【0078】
本発明の教示に基づいて形成された光検出器は、広範囲の温度内で動作できる。いくつかの場合では、光検出器の平均ノイズレベルを低減するために光検出器を冷却するのが有益である。例として、図19Aは、さまざまな動作温度での、約4kJ/m2のフルエンスのフェムト秒パルスで作られ約825Kで焼き鈍しされたnドープされたミクロ構造化されたシリコンサンプルに対応する電流・電圧曲線を示している。測定された電流は、逆バイアス状態および順バイアス状態の両方で、動作温度の低下と共に減少している。非常に低い動作温度(100Kより低い)では、導通は順バイアスおよび逆バイアスの両方で非常に小さい。図19Bは、動作温度の関数としての、−0.5Vの逆バイアスでの1064nmの波長(室温でシリコンのバンドギャップに近い波長)を有する入射放射線に対するそのようなミクロ構造化されたウェハーの応答度を示している。測定された応答度は温度の低下と共に減少する。しかし、この振る舞いは、照らされる光の波長がシリコンのバンドギャップから大きく離れている場合には、異なることがある。しかし、温度の関数としての、−0.5Vのバイアス電圧での暗電流のグラフは、ノイズが応答度に比べてかなりより迅速に減少すること、示している。
【0079】
要約して言えば、本発明の教示に基づいて形成されたフォトダイオードは、通常の市販されているフォトダイオードが示す応答度に比べて、ほぼ100倍大きい、広範囲の電磁スペクトル(例えば、約250nmから約1100nmまでの範囲内の波長)での、応答度を示すことができる。さらに、より長い波長、例えば、1600nm程度の長さの波長での応答度は、通常のシリコンフォトダイオードによって示されるこの波長範囲での応答度に比べて、ほぼ100000倍大きい。例示の目的で、本発明の教示に基づいて製造された上記のプロトタイプのサンプルのいくつかは、表面層内の担体移動度は、約101cm2V-1秒-1であると測定され、応答時間は、約10ナノ秒の上昇時間と、約30ナノ秒の下降時間と、を含み、さらに、逆バイアス−0.5Vで約63.9ナノファラドのダイオード静電容量が測定された。本発明のフォトダイオードは、加えられた非常に小さなバイアス電圧で大きな利得を示すことができ、例えば、−0.5Vの加えられたバイアス電圧に対して1000より大きい利得を示す。
【0080】
上記の例示的な光検出器46(図11A)のような、本発明の教示に基づくシリコン光検出器は、さまざまな方法を用いて製造されてよい。例として、そのような光検出器のある例示的な製造方法では、シリコンウェハーの選択された部分、例えば、5×5mm2の領域が、上述されたように、例えば、SF6などの適切な材料が存在する状態で、短いレーザーパルスに露出することによってミクロ構造化される。つぎに、そのウェハーは、ミクロ構造の層との電気的な接触部を形成する前に、いずれの元からある酸化膜をも除去するために、HF溶液(例えば、5%溶液)内に浸漬される。その後、マスクが、表面上に形成される導電性の電極の望ましいパターンに対応する露出部分を伴って、ミクロ構造化された層の表面を覆って配置される。選択された金属、例えば、Cr/Au合金が、次に、マスクが配置された表面を覆って蒸着され、図11Aに示されている導電層52のような、パターン化された導電層、および、放射線を受け取るのに適したコーティングされていない部分、を残して、マスクが除去される。さらに、導電層が、ウェハーの背面である、図11Aに示されている層54のような、ミクロ構造化された層の反対側の構造化されていない表面に、形成されてよい。多くの実施形態において、背面全体は、金属で覆われる。次に、ウェハーは、当該分野で知られている方法で、ウェハーに、そして、必要な場合には、例えばコンデンサーのようなその他の電子要素に、バイアス電圧を加えることができる、図11Aに示された電源56のような、電圧源に接続されてよい。さらに、ウェハーおよびウェハーに関連する回路は、当該分野で知られている方法を用いて、適切なハウジング内に配置されてよい。
【0081】
上述されたミクロ構造化されたシリコンウェハーのような、本発明の教示に基づいて形成されたミクロ構造化されたシリコンウェハーの用途は、光検出器に限定されない。例えば、そのようなシリコンウェハーは、太陽電池を製造するために用いることができる。いくつかの場合では、太陽電池を生み出すのに用いられるミクロ構造化されたウェハーに関連する、基板ドーピングのような、さまざまなパラメーターの最適な値は、シリコン光検出器の製造での最適な値とは異なることもある。太陽電池は、高い量子効率を備えたPN接合フォトダイオードと考えられてよい。光子のフォト担体への変換は、その物理的機構によって光が太陽電池内で電子に変換される物理的機構である。しかし、光検出器と太陽電池との間には根本的な違いがある。光検出器は、「光導電性」モードで一般に動作し、逆バイアスが光検出器に加えられ、電流が測定される。対照的に、太陽電池は、「光電圧」モードで動作し、太陽電池は、開回路モードで動作し、または、バイアス電圧を加えずに負荷に取り付けられる。
【0082】
ある実施の形態では、ミクロ構造化された層は、約4kJ/m2のフルエンスを有するフェムト秒(例えば、100フェムト秒、中心波長800nm)レーザーパルスでシリコン基板上の複数の位置を最初に照射し、その後約1時間に亘って1075Kで焼き鈍しすることによって、pドープされた結晶シリコン基板に形成される。次に、そのウェハーは、太陽電池を製造するのに用いられる。より詳しく言うと、金属製接触部、例えば、Cr/Au接触部が、ミクロ構造化された層の表面の選択された部分をコーティングし同時に表面の少なくとも一つの部分を、放射線を受け取るために覆われない状態で残すように、例えば、フィンガーグリッド金属製パターンが表面に配置されるように、ミクロ構造化された層の表面に蒸着されてよい。さらに、基板の背面である、構造化された表面とは反対側の構造化されていない表面は、例えば蒸着によって、金属製コーティングで覆われてよい。負荷が、ウェハーの両側に設けられた金属層に電気的に接続されることによってウェハーに取り付けられてよい。
【0083】
図20は、照明された状態および照明されていない状態での、太陽電池として用いることができる高い固有抵抗(約1オームメートルより大きい固有抵抗)のシリコン基板内に形成された、ウェハーの電流・電圧(I−V)特性を比較したデータを示している。そして、図21は、低い固有抵抗(約0.01オームメートルから0.1オームメートルの範囲内の固有抵抗)のシリコン基板内に形成されたウェハーの同様の比較対照データを示している。大きい固有抵抗の基板を用いて製造された太陽電池は、0.4ボルトの開回路電圧と、13.4mAの閉回路電流(short circuit current)を有し、一方、小さい固有抵抗の基板を用いて製造された太陽電池は、0.31Vの開回路電圧と、13.45mAの閉回路電流と、を有している。このデータは、例示の目的のみで、そして、本発明の教示に基づいてミクロ構造化されたウェハーを太陽電池の形成に用いる可能性を示すために、提供されたことが、理解されるはずである。しかし、このデータは、本発明の教示に基づいて生み出された太陽電池の最適な性能を示すことを意図されていない。例えば、電気的接触部の基板への堆積は、上記の性能より良好な性能を得るために最適化されてよい。
【0084】
別の応用では、本発明の教示に基づいてミクロ構造化されたシリコンウェハーは、電界放射器として用いられてもよい。言い換えれば、電界がミクロ構造化された表面に加えられて、表面から電子が放射されてよい。ミクロ構造化されたウェハーを、電界放射電流を生み出すために用いる可能性を示すために、複数のプロトタイプの例示的なミクロ構造化されたウェハーが製造され、これらのウェハーによって生み出された電界放射電流が測定された。これらの測定を行うための実験セットアップが、図22に模式的に示されている。金コーティング60が背面に蒸着されたミクロ構造化されたシリコンサンプル58が、金コーティング64を備えたシリコンウェハー62に取り付けられ、シリコンウェハー62は、アノードとして機能し、かつ、一対のマイカスペーサ(mica spacers)66,68によってサンプル58から切り離されている。取り付けられたサンプルは、真空チャンバ内に配置され、真空チャンバは約1.3×10-4パスカル(約10-6トル)の圧力に排気される。電位差が、ミクロ構造化されたサンプル58と金コーティングされたアノードとの間に加えられてよい。そして、放射電流が、各加えられた電圧に対して、例えば、ピコアンメーター70によって測定され、ピコアンメーター70と直列に接続されて配置された抵抗性要素72がピコアンメーター70を予期せぬ電流サージから保護する。
【0085】
図23は、SF6が存在する状態でミクロ構造化されたシリコンサンプルに対して測定された電界放射電流の例示的な結果を示している。電界放射面の利益の典型的な形態は、その電界に対して0.01マイクロアンペア/mm2の電流密度が観測される電界(先端-アノード間隔(tip-to-anode spacing)によって分離されているバイアス電圧)として定義されるターンオン電界と、その電界で0.1マイクロアンペア/mm2の電流密度が生み出される電界として定義される閾値電界と、である。SF6が存在する状態でミクロ構造化された複数の例示的なプロトタイプの基板のターンオン電界は、1.3ボルト/マイクロメートルとして測定され、閾値電界は、2.15ボルト/マイクロメートルとして測定され、これらの電界の値はナノチューブによって示される値と同様の優れた値である。
【0086】
当業者は、さまざまな変形が本発明の範囲を逸脱せずに上記の実施の形態に行われることを適正に評価するはずである。上記のさまざまな例示的なデータが、本発明のさまざまな態様の顕著な特徴を例示することのみを意図されていて、本発明の範囲を限定することを意図されていないことも理解されるはずである。
【0087】
〔実施の態様〕
この発明の具体的な実施態様は以下の通りである。
(1)放射線吸収半導体構造を製造する方法において、
シリコン基板の表面の複数の位置の各々を一つ以上のフェムト秒レーザーパルスで照射すると同時に、前記表面を、硫黄を含有する物質に露出して、前記基板の表面層に複数の硫黄含有物を生み出す過程と、
前記基板を、ほぼ数秒からほぼ数時間までの範囲内の期間に亘って、ほぼ500Kからほぼ1100Kまでの範囲内の温度で、焼き鈍しする過程と、
を具備する、方法。
(2)実施態様(1)に記載の方法において、
前記レーザーパルスの各々のパルス期間を、ほぼ50フェムト秒からほぼ500フェムト秒までの範囲内にあるように選択する過程、
をさらに具備する、方法。
(3)実施態様(1)に記載の方法において、
前記パルスのフルエンスが、ほぼ1kJ/m2からほぼ15kJ/m2までの範囲内にあるように選択する過程、
をさらに具備する、方法。
(4)実施態様(1)に記載の方法において、
前記レーザーパルスの中心波長が、ほぼ200nmからほぼ800nmまでの範囲内にあるように選択する過程、
をさらに具備する、方法。
(5)実施態様(1)に記載の方法において、
前記位置の各々を、2からほぼ500までの範囲内の個数のレーザーパルスに、露出する過程、
をさらに具備する、方法。
【0088】
(6)実施態様(1)に記載の方法において、
前記表面の前記位置の各々を、ほぼ1マイクロ秒からほぼ1ミリ秒までの範囲内の時間間隔で互いに隔てられた連続するレーザーパルスに当てる過程、
をさらに具備する、方法。
(7)実施態様(1)に記載の方法において、
前記焼き鈍しする過程を、不活性雰囲気中または低圧雰囲気中で実行する過程、
をさらに具備する、方法。
(8)実施態様(1)に記載の方法において、
前記硫黄を含有する物質を、SF6およびH2Sのいずれかであるように選択する過程、
をさらに具備する、方法。
(9)実施態様(1)に記載の方法において、
前記半導体構造が、ほぼ0.25マイクロメートルからほぼ10マイクロメートルまでの範囲内の波長成分を有する放射線を吸収する、方法。
(10)実施態様(1)に記載の方法において、
前記半導体構造が、ほぼ0.35マイクロメートルからほぼ2.5マイクロメートルまでの範囲内の波長成分を有する放射線を吸収する、方法。
【0089】
(11)実施態様(1)に記載の方法において、
前記半導体構造が、ほぼ1.2マイクロメートルからほぼ2.5マイクロメートルまでの波長成分に対して実質的に均一な吸収度を示す、方法。
(12)光検出器を製造する方法において、
ほぼ0.25マイクロメートルからほぼ3.5マイクロメートルまでの範囲内の波長の放射線を吸収し、前記範囲内の波長でダイオード的な電流・電圧特性(diodic current-voltage characteristic)を示す、半導体構造を形成する過程、
を具備し、
前記形成する過程が、
シリコン基板の表面の一つ以上の位置を短いパルス幅を有する一つ以上のレーザーパルスで照射すると同時に、前記表面を、硫黄を含む気体に露出して、硫黄含有物を有するミクロ構造化された層を生み出す過程と、
前記基板を、ほぼ数秒からほぼ数時間までの範囲内の期間に亘って、ほぼ500Kからほぼ1000Kまでの範囲内の温度で焼き鈍しする過程と、
前記半導体構造の選択された部分に複数の金属製の接触部を堆積し、前記半導体構造に逆バイアス電圧を加えることができるようにする過程と、
を含む、方法。
(13)実施態様(12)に記載の方法において、
前記パルス幅が、ほぼ数十フェムト秒からほぼ数十ナノ秒までの範囲内にあるように選択される、方法。
(14)実施態様(12)に記載の方法において、
前記硫黄を含む物質が、SF6およびH2Sのいずれかであるように選択する過程、
をさらに具備する、方法。
(15)実施態様(12)に記載の方法において、
前記焼き鈍しする過程を、不活性雰囲気中で実行する過程、
をさらに具備する、方法。
【0090】
(16)実施態様(12)に記載の方法において、
前記堆積する過程が、
一つ以上の選択された金属を前記半導体構造の前記選択された部分に熱蒸着する過程、
を含む、方法。
(17)実施態様(12)に記載の方法において、
前記金属製の接触部の厚みを、ほぼ5nmからほぼ100nmまでの範囲内にあるように選択する過程、
をさらに具備する、方法。
(18)実施態様(16)に記載の方法において、
前記堆積する過程が、
前記半導体構造の選択された部分に、クロム層を熱蒸着し、その後、金層を熱蒸着して、少なくとも一つの前記金属接触部を生み出す過程、
を含む、方法。
(19)実施態様(18)に記載の方法において、
前記クロム層の厚みを、ほぼ1nmからほぼ5nmまでの範囲内にあるように選択する過程、
をさらに具備する、方法。
(20)実施態様(19)に記載の方法において、
前記金層の厚みを、ほぼ4nmからほぼ100nmまでの範囲内にあるように選択する過程、
をさらに具備する、方法。
【0091】
(21)実施態様(12)に記載の方法において、
前記金属接触部を、前記ミクロ構造化された層の少なくとも一部が外部の放射線を受け取ることができるようにしておくよう、構成する過程、
をさらに具備する、方法。
(22)半導体構造を製造する方法において、
シリコン基板の表面の複数の位置を、ほぼ50フェムト秒からほぼ500フェムト秒までの範囲内のパルス幅を有する一つ以上のレーザーパルスで照射すると同時に、前記表面を、電子供与性の成分を有する物質に露出して、前記電子供与性の成分を組み込んだ含有物を含むミクロ構造化された表面層を生み出す過程と、
前記基板を、選択された期間に亘って、ほぼ500Kからほぼ1100Kまでの範囲内の高温で焼き鈍しする過程と、
を具備する、方法。
(23)実施態様(22)に記載の方法において、
前記電子供与性の成分を、塩素(Cl2)、窒素(N2)、および、空気、のうちのいずれかであるように選択する過程、
をさらに具備する、方法。
(24)実施態様(22)に記載の方法において、
前記照射する過程が、
前記表面に実質的に垂直な向きに沿って前記レーザーパルスを前記表面に指向する過程、
をさらに含む、方法。
(25)実施態様(22)に記載の方法において、
前記選択された焼き鈍し期間が、ほぼ数秒からほぼ数時間までの範囲内にある、方法。
【0092】
(26)実施態様(22)に記載の方法において、
前記焼き鈍しする過程が、不活性雰囲気中で実行される、方法。
(27)放射線吸収半導体ウェハーを製造する方法において、
シリコン基板の表面の少なくとも一つの位置を複数の一時的な短いレーザーパルスで照射すると同時に、前記位置を、電子供与性の成分を有する物質に露出して、所定の濃度の前記電子供与性の成分を組み込んだ、実質的に不規則な表面層を生み出す過程と、
前記基板を、前記実質的に不規則な表面層内の電荷担体密度を増強するように選択された、高温で、かつ、所定の期間に亘って、焼き鈍しする過程と、
を具備する、方法。
(28)実施態様(27)に記載の方法において、
前記高温および期間が、前記表面層内の担体電子の濃度を増強するように、前記表面層内の原子結合の再配置を引き起こすように選択されている、方法。
(29)実施態様(27)に記載の方法において、
前記高温および期間が、前記表面層内の電子担体密度を、焼き鈍しする前のレベルに比べて、ほぼ10%からほぼ200%までの範囲内だけ、増強するように選択されている、方法。
(30)実施態様(27)に記載の方法において、
前記高温および期間は、前記表面層が下側のシリコン基板とダイオード接合を形成するように、選択されている、方法。
【0093】
(31)実施態様(27)に記載の方法において、
前記高温および期間は、前記焼き鈍しされた基板が、前記表面層をほぼ250nmからほぼ1100nmまでの範囲内の波長を有する放射線に露出し、ほぼ0.1Vからほぼ15Vまでの範囲内の逆バイアスを前記ウェハーに加えたときに、ほぼ1A/Wからほぼ200A/Wまでの範囲内の応答度を示すように、選択されている、方法。
(32)実施態様(27)に記載の方法において、
前記高温は、ほぼ500Kからほぼ1100Kまでの範囲内にあるように選択されている、方法。
(33)実施態様(27)に記載の方法において、
前記期間は、ほぼ数秒からほぼ数時間までの範囲内にあるように選択されている、方法。
(34)実施態様(27)に記載の方法において、
前記短いレーザーパルスを、ほぼ数十フェムト秒からほぼ数十ナノ秒までの範囲内のパルス幅を有するように選択する過程、
をさらに具備する、方法。
(35)実施態様(27)に記載の方法において、
前記表面層内に組み込まれた前記電子供与性の成分の濃度が、ほぼ0.5原子パーセントから約5原子パーセントまでの範囲内にあるように、前記パルスのフルエンス、および、前記電子供与性の成分を有する物質の分圧を、選択する過程、
をさらに具備する、方法。
【0094】
(36)放射線吸収半導体ウェハーを製造する方法において、
シリコン基板の表面の少なくとも一つの位置を一時的な短いレーザーパルスで照射すると同時に、前記基板を、電子供与性の成分を有する物質に露出して、前記電子供与性の成分を含む含有物を有するミクロ構造化された表面層を生み出す過程と、
前記基板を、前記ミクロ構造化された表面層に入射するほぼ250nmからほぼ1100nmまでの範囲内の少なくとも一つの波長を有する放射線に対する前記ミクロ構造化された基板の応答度が、少なくともほぼ10倍だけ増強されるように選択された、高温で、および、所定の期間に亘って、焼き鈍しする過程と、
を具備する、方法。
(37)実施態様(27)に記載の方法において、
前記焼き鈍し温度が、ほぼ700Kからほぼ900Kまでの範囲内にある、方法。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】放射線吸収に適したミクロ構造化されたシリコンウェハーを生み出すための例示的な実施の形態のさまざまな過程を示すフロー図である。
【図2】本発明のある態様に基づくシリコンウェハーをミクロ構造化するための例示的な装置の模式図である。
【図3】800nmの中心波長およびほぼ5kJ/m2のフルエンスを有する100フェムト秒パルスでシリコン表面を照射した後の、シリコン表面に対して45度の角度で得られた、シリコン表面の走査電子顕微鏡画像の図である。
【図4】本発明の教示に基づいてミクロ構造化されたシリコンサンプルの応答度およびホール効果の測定を行うための例示的なセットアップを示す図である。
【図5】SF6が存在する状態でウェハーをミクロ構造化するために用いられた、一つの位置当り100レーザーショット(8kJ/m2)の平均値を関数とするプロトタイプのミクロ構造化されたシリコンウェハーの波長吸収率のグラフを示す図である。
【図6】プロトタイプのシリコンウェハーを複数のフェムト秒レーザーパルスでミクロ構造化した後にさまざまな温度で焼き鈍しされた(室温(300K)のデータは焼き鈍しされていないウェハーに相当する)複数のプロトタイプのシリコンウェハーの吸収率の波長依存性のグラフを示す図である。
【図7】ほぼ30分に亘って875Kで熱的に焼き鈍しされる前と焼き鈍しされた後の、例示的なフェムト秒レーザーで形成されたミクロ構造化されたシリコンウェハーとナノ秒レーザーで形成されたミクロ構造に対する吸収率の波長依存性のグラフを示す図である(波長の関数として構造化されてないシリコン基板の吸光度も比較目的で示されている)。
【図8A】焼き鈍しなしで、さまざまな気体が存在する状態で、500レーザーショットのフェムト秒パルス(8KJ/m2のフルエンス)に露出することによってミクロ構造化された複数のプロトタイプのシリコンウェハーに対する波長を関数とする吸収率のグラフ(グラフで示された真空は、ほぼ0.1パスカル(10-6バール)より低いベース圧力での真空チャンバ内でミクロ構造化されたウェハーに関連する。)を示す図である。
【図8B】バンドギャップの下での吸収の増強に対する硫黄の組み込みの正の効果を示す、500ショットの100フェムト秒レーザーパルス(硫黄ベアリングガスおよび非硫黄ベアリングガスが存在する状態で8kJ/m2のフルエンス)に露出することによってミクロ構造化された複数のプロトタイプのシリコンウェハーに対する波長の関数としての吸収率データを示す図である。
【図9】さまざまな分圧でのSF6が存在する状態でのフェムト秒レーザーパルスによってミクロ構造化された複数のプロトタイプのシリコンウェハーに対する吸収率の波長依存性のグラフを示す図である。
【図10】熱平衡状態でのPN接合の模式図である。
【図11A】本発明のある実施の形態に基づいて形成された光検出器の斜視図である。
【図11B】図11Aに示された光検出器の側面図である。
【図12】焼き鈍しを行わない、または、さまざまな焼き鈍し温度での焼き鈍しを行った、フェムト秒レーザーパルスに露出することによってミクロ構造化された複数の例示的シリコンウェハーの電流・電圧特性のグラフを示す図である。
【図13】非常に増強された応答度が、レーザーミクロ構造化が行われたウェハーの賢明な焼き鈍しによって得られることを示す、波長の関数としての(焼き鈍しを行わない、または、さまざまな温度での焼き鈍しを行った)SF6の存在する状態でフェムト秒レーザーパルスに露出することによってミクロ構造化された複数のシリコンウェハーの応答度を市販のフォトダイオードの応答度と比較して示したグラフを示す図である。
【図14】さまざまなレーザーフルエンスでフェムト秒レーザーパルス、および、825Kでの焼き鈍し、によってミクロ構造化された複数の例示的なプロトタイプのシリコンウェハーの電流・電圧特性のグラフを示す図である。
【図15A】さまざまなフルエンスのフェムト秒レーザーパルス、および、ほぼ30分間に亘る825Kの焼き鈍し、によってミクロ構造化されたプロトタイプのシリコンウェハーに対する応答度の測定値を比較して示したグラフを示す図である。
【図15B】さまざまなフルエンスのフェムト秒レーザーパルス、および、ほぼ30分間に亘る1075Kの焼き鈍し、によってミクロ構造化されたプロトタイプのシリコンウェハーに対する応答度の測定値を比較して示したグラフを示す図である。
【図16A】6kJ/m2のフルエンスでのフェムト秒レーザーパルスに露出し、続いて、ほぼ30分間に亘る825Kでの焼き鈍しによって、ミクロ構造化されたnドープされた、および、pドープされた、シリコン基板に対する電流・電圧特性を示す図である。
【図16B】4kJ/m2のフルエンスでのフェムト秒レーザーパルスに露出し、続いて、ほぼ30分間に亘る1075Kでの焼き鈍しによって、ミクロ構造化されたnドープされた、および、pドープされた、シリコン基板に対する電流・電圧特性を示す図である。
【図17A】2つの異なるレーザーフルエンス(4kJ/m2および6kJ/m2)および、ほぼ30分間に亘る825Kでの焼き鈍しによってミクロ構造化されたプロトタイプの例示的なnドープされた、および、pドープされた、シリコン基板に対する応答度の測定値を示す図である。
【図17B】4kJ/m2のフルエンスでのフェムト秒レーザーパルスおよびほぼ30分間に亘る1075Kでの焼き鈍しによってミクロ構造化されたプロトタイプの例示的なnドープされた、および、pドープされた、シリコン基板に対する応答度の測定値を示す図である。
【図18】4kJ/m2のフルエンスでのフェムト秒レーザーパルスによる照射および、ほぼ30分間に亘る825Kでの焼き鈍しによってミクロ構造化されたnドープされたシリコン基板に対する逆バイアスの関数として応答度(測定は、ほぼ50マイクロワットの電力で白色光源を用いて行われた。)を示すグラフを示す図である。
【図19A】4kJ/m2のフルエンスでのフェムト秒レーザーパルスおよび825Kでの焼き鈍しによってミクロ構造化されたnドープされたシリコンサンプルの電流・電圧特性を動作温度の関数として示したグラフを示す図である。
【図19B】1064nmの波長を有する入射放射線に対するミクロ構造化されたシリコンウェハーの応答度を動作温度の関数として示したグラフを示す図である。
【図20】一度太陽光で照らしたまたは太陽光で照らさない、太陽電池として用いることができる応答度の高い(1オームメートルより高い応答度)ミクロ構造化されたシリコンウェハーに対する電流・電圧特性を示す図である。
【図21】一度太陽光で照らしたまたは太陽光で照らさない、太陽電池として用いることができる応答度の低い(例えば、ほぼ0.01オームメートルからほぼ0.1オームメートルまでの範囲内の応答度)ミクロ構造化されたシリコンウェハーに対する電流・電圧特性を示す図である。
【図22】本発明の教示に基づいてミクロ構造化されたシリコン基板の電界放射を測定するための、ある例示的なセットアップを示す模式図である。
【図23】SF6の存在する状態でフェムト秒レーザーパルスに露出することによってミクロ構造化されたシリコンウェハーによって生み出された電界放射電流をシリコンウェハーに印加された電位差の関数として示したグラフを示す図である。
【開示の内容】
【0001】
〔連邦政府の支援による研究〕
本発明は、エネルギー省(DOE)によって認められた契約DE−FC36−016011051の下で連邦政府の支援によって行われた。連邦政府は、本発明にある一定の権利を有する。
【0002】
〔関連出願〕
本出願は、2002年5月24日に出願され名称が「ミクロ構造シリコンを用いた光吸収および電界放射のためのシステムおよび方法(Systems and Methods for Light Absorption and Field Emission Using Microstructured Silicon)」である同時係属出願(米国特許出願第10/155,429号)の一部継続出願(CIP)であり、上記米国特許出願は引用することによってその全体が本明細書に組み込まれる。
【0003】
〔技術分野〕
本発明は、大まかに言って、放射線吸収半導体ウェハー製造方法に関し、より詳しく言うと、放射線を吸収しダイオード的な電流電圧特性を示すことができるシリコンウェハーの製造方法に関する。
【0004】
〔背景技術〕
現代の半導体回路は、主にシリコンに基づいていて、シリコンは、その他のいずれの半導体に比べてもより低いコストで容易に製造でき、容易に酸化できる。さらに、1.05eVのバンドギャップが、シリコンを可視光の検出および太陽光の電気への変換に適切なものにしている。しかし、シリコンはいくつかの短所を有している。例えば、シリコンは間接バンドギャップ材料であり、したがって、シリコンは比較的弱い光放出素子である。加えて、シリコンは電気通信のために用いられる赤外線などの長波長を有する放射線の検出に用いるには特に適していない。シリコンより良好に長波長の放射線を検出することができる他の半導体材料が利用可能であるが、それらの半導体材料は、一般的によりコストが高く、主にシリコンベースの光電子回路に容易に集積化できない。
【0005】
したがって、とりわけ結晶シリコンのバンドギャップを超えた波長での、増強された放射線吸収特性を備えた、シリコンベースの半導体構造およびウェハーが必要とされている。さらに、広い波長範囲に亘って放射線を検出するときの増強された応答度を示す光検出器を製造するのに用いることができる上記のようなウェハーも必要とされている。さらに、上記のようなシリコンベースのウェハーの製造方法も必要とされている。
【0006】
〔発明の概要〕
ある態様では、本発明は、シリコン基板、例えば、結晶シリコン、の少なくとも一つの表面位置を、複数の一時的な短レーザーパルスで照射し、同時に、その表面位置を電子供与性成分を含む物質に露出することによって、実質的に不規則な表面層を生み出し、その表面層は、望ましい濃度の電子供与性成分、例えば、約0.5原子パーセントから約5原子パーセントまでの範囲内の、または、約0.5原子パーセントから約1原子パーセントまでの範囲内の、濃度、を組み込んでいる、放射線吸収半導体ウェハー製造方法を提供する。その基板は、好ましくは、不規則な表面層内の電荷密度、例えば、電子担体密度を増強するために選択された、高温で、および、期間に亘って、焼き鈍しされる。
【0007】
関連する態様では、焼き鈍し温度および期間は、表面層内の自由電子の濃度を増加するように表面層内の原子結合の再配置を引き起こすように選択されていてよい。さらに、焼き鈍し温度および期間は、表面層がその下側のシリコン基板との間でダイオード接合、例えば、PN接合、を形成するように選択されていてよい。用語「ダイオード接合」は、当該分野で知られていて、一般的に電流整流を示すことができる接合(例えば、あるバイアス方向と逆のバイアス方向とで極端に異なる導電率を示す接合)として知られている。さらに、焼き鈍し温度および期間は、焼き鈍しされた構造が、表面層を約250nmから約1050nmまでの範囲内の波長を有する可視光に露出し、約0.1Vから約15Vまでの範囲内または約0.5Vから約15Vまでの範囲内の逆バイアスを基板に加えたときに、約1アンペア/ワット(A/W)から約200A/Wまでの範囲内の、または、好ましくは、約10A/Wから約200A/Wまでの範囲内の、応答度を示すように、選択されてよい。さらに、焼き鈍し温度および期間は、焼き鈍しされた構造が、表面層を少なくとも約1050nmから約3500nmまでの範囲内の波長を有する可視光に露出し、約0.1Vから約15Vまでの範囲内の逆バイアスを基板に加えたときに、約0.1A/Wから約100A/Wまでの範囲内の、応答度を示すように、選択されてよい。
【0008】
関連する態様では、基板の表面を照射するレーザーパルスは、約数ナノ秒から約10フェムト秒までの範囲内のパルス幅を有し、より好ましくは、約50フェムト秒から約500フェムト秒までの範囲内のパルス幅を有する。レーザーパルスのフルエンス(fluences)は、約1kJ/m2から約30kJ/m2までの範囲内にあり、または、約3kJ/m2から約15kJ/m2までの範囲内にあり、または、約3kJ/m2から約8kJ/m2までの範囲内にある。焼き鈍し温度は、約500Kから約1100Kまでの範囲内にあってよく、より好ましくは、約500Kから約900Kまでの範囲内にあってよく、さらに好ましくは、約700Kから約900Kまでの範囲内にあってよい。焼き鈍し期間は、約数秒から約数時間までの範囲内にあってよい。
【0009】
別の態様では、電子供与性分を含む物質は、気体、流体、または、固体、であってよい。そのような物質のいくつかの例として、以下に限定されないが、SF6、H2S、Cl2、および、N2などがある。例えば、SF6が用いられる場合、シリコン表面をレーザーパルスに露出することによって、基板の表面層に硫黄が含有されるようになる。シリコン基板は、好ましくは、n型ドープされているが、p型ドープされていてもよい。基板のバルクドーピングレベルは、約1011cm-3から約1018cm-3までであってよい。
【0010】
別の態様では、本発明は、基板の表面層内に複数の硫黄含有物を生み出すために、シリコン基板の表面の複数の位置の各々を一つ以上のフェムト秒レーザーパルスで照射し同時にその表面を硫黄を含む物質に露出することを必要とする、放射線吸収半導体構造の製造方法を提供する。その基板は、約数秒から約数時間までの範囲内の期間に亘って、約500Kから約1100Kまでの範囲内の温度で、焼き鈍しされる。焼き鈍しステップは、基板の表面をレーザーパルスで照射するのに続いて、または、照射するのと同時に、実行されてよい。さらに、焼き鈍しステップは、不活性雰囲気内または真空内(すなわち、低圧雰囲気内)で実行されてよい。
【0011】
関連する態様では、各レーザーパルス内で放射された光は、狭いスペクトラムと、約200nmから約1200nmまでの範囲内(例えば、800nm、または、1064nm)の中心波長と、約1kJ/m2から約30kJ/m2までの範囲内の、そして、より好ましくは、約1kJ/m2から約10kJ/m2までの範囲内のフルエンスと、約1kHzから約50kHzまでの範囲内の、または、約1kHzから約1MHzまでの範囲内の繰り返し数と、を有する。
【0012】
別の態様では、本発明は、電子供与性成分を組み込んだ含有物を含むミクロ構造化された表面を生み出すために、シリコン基板の表面の複数の位置を約50フェムト秒から約500フェムト秒までの範囲内のパルス幅を有する一つ以上のレーザーパルスで照射し同時に表面を電子供与性成分を含む物質に露出することで、半導体ウェハーの製造方法を提供する。レーザーパルスは、基板の表面に対して選択された角度、例えば、表面に対する直角、を形成する向きで基板に向けられてよい。基板は、約500Kから約1100Kまでの範囲内の高温で、例えば、約数秒から約数時間までの範囲内の選択された期間に亘って、焼き鈍しされる。ある種の用途では、焼き鈍し温度は、約500Kから約1000Kまでの範囲内であってよく、より好ましくは、約575Kから約875Kまでの範囲内にあってよい。
【0013】
別の態様では、本発明は、電子供与性成分を含む含有物を有するミクロ構造化された表面層を生み出すために、シリコン基板の表面の少なくとも一つの位置を一時的な短いレーザーパルス、例えば、フェムト秒パルス、で照射し同時に表面を電子供与性成分を有する物質に露出することによって、半導体ウェハーの製造方法を提供する。基板は、レーザーの照射の後に、または、レーザーの照射と同時に、約250nmから約1100nmまでの範囲内の少なくとも一つの波長を有する電磁放射線に対するミクロ構造化された基板の応答度を、焼き鈍しなしで同じように製造されたミクロ構造化された基板に比べて、約10倍だけ、または、好ましくは、約20倍だけ、または、さらにより好ましくは、約100倍だけ、増強するように、選択された温度で、および、期間に亘って、焼き鈍しされてよい。応答度は、約0.5Vから約15Vまでの範囲内の逆バイアス電圧を基板に印加したときに、測定されてよい。ウェハーの応答度のそのような増強を行うための適切な焼き鈍し温度は、約600Kから約900Kまでの範囲内にあり、より好ましくは、約700Kから約900Kまでの範囲内にあり、適切な焼き鈍し期間は、約数秒から約数時間までの範囲内にある。
【0014】
別の態様では、本発明は、光検出器を提供し、その光検出器は、外部の放射線に露出されるように構成された表面層を有するシリコン基板を含み、その表面層は、ダイオード的な電流電圧特性を示すように約0.5原子パーセントから約5原子パーセントまでの範囲内の平均濃度の硫黄含有物をドープされている。光検出器は、さらに、例えば、金属コーティングの形態の、複数の電気的接触部を含み、電気的接触部は、表面層の電磁放射線への露出に応答した例えば光電流などの電気信号を生み出すのを容易にするために表面層に例えば約0.1Vから約15Vまでの範囲内の選択された逆バイアス電圧を印加するために、基板の選択された部分に配置されている。表面層は、約250nmから約1050nmまでの範囲内の少なくとも一つの波長を有する入射放射線に応答した電気信号が約1A/Wより大きい応答度で生み出されるように、構成されている。好ましくは、約250nmから約1050nmまでの範囲全体に亘る応答度は、約1A/Wより大きい。例えば、この波長範囲内の少なくとも一つの波長に対する応答度は、そして、好ましくは、この波長範囲内のすべての波長に対する応答度は、約1A/Wから約100A/Wまでの範囲内にあり、または、約10A/Wから約100A/Wまでの範囲内にあり、または、約10A/Wから約200A/Wまでの範囲内にある。
【0015】
別の態様では、光検出器は、約250nmから約1050nmまでの範囲内の波長に対して、例えば、約1A/Wから約100A/Wまでの範囲内の平均応答度、または、約10A/Wから約200A/Wまでの範囲内の平均応答度、などの、約1A/Wよりも大きい平均応答度(すなわち、ある波長範囲に亘って平均された応答度)を示す。
【0016】
別の態様では、光検出器は、約250nmから約600nmまでの範囲内の波長に対して、ならびに、約600nmから約1050nmまでの範囲内の波長に対して、約1A/Wよりも大きい(例えば、約1A/Wから約100A/Wまでの範囲内の)応答度を示してよい。関連する態様では、光検出器は、約1050nmから約2000nmまでの範囲内の、好ましくは、約1050nmから約3500nmまでの範囲内の、少なくとも一つの波長を有する入射放射線に対する、約0.1A/Wより大きい応答度を示してよい。好ましくは、この範囲内の全ての波長(約1050nmから約3500nmまで)に対する光検出器の応答度は、約0.1A/Wよりも大きい。例えば、この波長範囲内での光検出器の応答度は、約0.1A/Wから約100A/Wまでの範囲内にある。
【0017】
別の態様では、光検出器は、約1050nmから約2000nmまでの範囲内の、そして、好ましくは、約1050nmから約3500nmまでの範囲内の、波長を有する放射線に対して、約0.1A/Wより大きい平均応答度(例えば、約0.1A/Wから約100A/Wまでの範囲内の応答度)を示してよい。
【0018】
上述されたような、本発明の教示に基づく光検出器は、約250nmから約1050
nmまでの範囲内の波長に対する1A/Wより大きい応答度が知られている通常のシリコンフォトダイオードを上回る顕著な改善点を提供する。さらに、通常のシリコンフォトダイオードの応答度は、1050nmを超える波長に対して劇的に低下し、本発明の光検出器によって獲得される応答度よりも非常に小さい。別の態様では、表面層は、約10ナノメートルから約1マイクロメートルの範囲内にある厚みを有していてよく、ミクロ構造化された形態学的構造を有している。例えば、ミクロ構造化された層は、複数の円錐形のミクロ構造によって形成されていてよく、円錐形のミクロ構造の各々は、硫黄でドープされた表面部分との接合を形成するコアシリコン部分で構成されている。本明細書で用いられている用語「円錐形構造またはミクロ構造」は、シリコン表面上のほぼ円錐体に類似のもの、または、円柱形の突出部を意味し、その突出部は、垂直壁、または、垂直な向きに先細りになった傾斜壁、を有していてよい。ミクロ構造は、シリコン基板の表面上の基部から、約数百ナノメートルの曲率半径を有する先端部分まで、突出した、約0.5マイクロメートルから約30マイクロメートルまでの範囲内の、高さを有していてよい。接合部に亘る硫黄濃度の勾配は、実質的に急峻であるが、いくつかの場合では、硫黄濃度の勾配は、ある程度の硫黄ドーパントを有するコア部分によってゆるやかであってよい。硫黄がドープされた表面層は、約10ナノメートルから約50ナノメートルまでの範囲内の直径を有するシリコンナノ結晶を含んでいてよい。
【0019】
別の態様では、本発明は、電子供与性の成分を含んだ含有物を組み込んだミクロ構造化された層を有するシリコン基板を含む光検出器を提供する。ミクロ構造化された層は、下側のバルクシリコン部分と隣接し、バルクシリコン部分とのダイオード接合を形成している。用語「ダイオード接合(diode junction)」は、当該分野で知られていて、電流整流を示す接合(例えば、別のバイアス方向に対して極端に異なるあるバイアス方向での導電率を示す接合)を一般的に意味する。ダイオード接合のよく知られた例が、PN接合である(p-n junction)。電気的接触部は、ミクロ構造化された層の少なくとももう一つの表面部分が入射電磁放射線を受容するために用いることができるままであるように、ミクロ構造化された層の一つの表面部分に配置される。光検出器は、ミクロ構造化された層の反対側のバルクシリコン部分の表面に配置されたもう一つの電気的接触部を、さらに含んでいる。電気的接触部の層は、約1A/Wから約200A/Wまでの範囲内の応答度で、約250nmから約1050nmまでの範囲内の波長を有する入射放射線にミクロ構造化された層を露出することに応答して、例えば光電流などの電気信号を生み出すのを容易にするために、基板に逆バイアス電圧を印加することができるようにしている。
【0020】
ある関連した態様では、基板は、ミクロ構造化された層を、約1050nmから約3500nmまでの範囲内の波長を有する放射線で照射したことに、約0.1A/Wから約100A/Wまでの範囲内の応答度で、応答して、光電流を生み出してよい。
【0021】
別の態様では、電子供与性成分は、例えば、硫黄、塩素、または、窒素、であってよく、約0.5原子パーセントから約5原子パーセントまでの範囲内の、または、約0.5原子パーセントから約1.5原子パーセントまでの範囲内の、または、約0.5原子パーセントから約1原子パーセントまでの範囲内の、濃度で、ミクロ構造化された層内に存在していてよい。
【0022】
別の態様では、本発明は、電磁スペクトルの可視および赤外線領域で用いるための光検出器を提供し、その光検出器は、複数の実質的に円錐形のミクロ構造によって特徴付けられるミクロ構造化された表面層を有する結晶シリコン基板を含む。ミクロ構造化された層は、硫黄、塩素、または、窒素、のような電子供与性ドーパントを約0.5原子パーセントから約1.5原子パーセントまでの範囲内の平均濃度で含む複数のシリコンナノ結晶を有するドープされた層を含む。ミクロ構造化された層は、ダイオード的な電流電圧曲線を示し、外部の放射線を受容するように構成されている。複数の電気的接触部が、ミクロ構造化された層の少なくとも一部の照射に応答して電気信号を生み出すのを容易にするために、ミクロ構造化された層へ逆バイアス電圧を印加するために基板の選択された部分に配置されている。光検出器は、約250nmから約1050nmまでの範囲内の波長を有する放射線に対して約1アンペア/ワット(A/W)より大きい応答度を示し、約1050nmから約3500nmまでの範囲内の波長を有する放射線に対して約0.1アンペア/ワット(A/W)より大きい応答度を示す。
【0023】
本発明は、関連する図面と共に以下の詳細な説明を参照することによって、さらに理解されるであろう。
【0024】
〔詳細な説明〕
図1のフロー図10を参照すると、ある態様では、本発明は、放射線吸収半導体構造の製造方法を提供し、その方法では、最初の過程10aで、シリコン基板の表面上の複数の位置の各々が、一つ以上のレーザーパルスで照射されると同時に、シリコン基板の表面は電子供与性成分を有する物質に露出されて、所定の濃度の電子供与性成分を含む表面の含有物が生み出される。レーザーパルスは、約200nmから約1200nmまでの範囲内の中心波長と、約数十フェムト秒から約数百ナノ秒までの範囲内のパルス幅と、を有していてよい。好ましくは、レーザーのパルス幅は、約50フェムト秒から約50ピコ秒までの範囲内にある。より好ましくは、レーザーのパルス幅は、約50フェムト秒から約500フェムト秒までの範囲内にある。シリコン表面を照射するレーザーパルスの個数は、約2から約2000までの範囲内にあってよく、より好ましくは、約20から約500までの範囲内にあってよい。さらに、パルスの繰り返し数は、約1kHzから約50MHzまでの範囲内にあるように選択されてよく、または、約1kHzから約1MHzまでの範囲内にあるように選択されてよい。さらに、各レーザーパルスのフルエンスは、約1kJ/m2から約12kJ/m2までの範囲内にあってよく、より好ましくは、約3kJ/m2から約8kJ/m2までの範囲内にあってよい。
【0025】
いくつかの実施の形態では、電子供与性成分は流体(気体または液体)であるが、別の実施の形態では、電子供与性成分はレーザーパルスに露出されるシリコン表面上に配置された固体であってよい。例として、いくつかの実施の形態では、シリコン表面は、硫黄含有ガス(例えば、SF6、またはH2S)に露出されてよく、同時に、レーザーパルスで照射されてよい。別のいくつかの実施の形態では、Cl2、または、N2が、電子供与性物質として用いられてよく、レーザーの照射の間にその電子供与性物質とシリコン表面が接触する。さらに別の実施の形態では、セレンまたはテルルが用いられてよい。一般性を失うことなく、以下の記載では、SF6が電子供与性成分を含む物質として用いられること、および、照射パルスはそうでないと記載されていない限りフェムト秒パルス幅を有すること、が想定されている。しかし、当業者には、以下に記載される本発明のさまざまな実施の形態が、上述されたような、その他の流体または固体、および、別のパルス幅を有するレーザーパルス、を用いて実施されてもよいことが、明らかなはずである。
【0026】
いくつかの実施の形態では、シリコン基板は、約1011から約1018までの範囲内のドーピングレベルでpドープ(例えば、ホウ素をドープ)されている。別の実施の形態では、シリコン基板は、約1011から1018までの範囲内のドーピングレベルで、そして、好ましくは、約1012から1015までの範囲内のドーピングレベルで、わずかにnドープ(例えば、燐をドープ)されている。基板の厚みは、典型的には、特に重要なパラメーターではなく、約2マイクロメートルから約1000マイクロメートルまでの範囲内にあってよい。基板は、約0.001Ωmから約10Ωmまでの範囲内の電気固有抵抗を有していてよい。
【0027】
図2は、シリコンサンプルを複数のフェムト秒パルスで照射するために用いられる例示的な装置12を模式的に示している。装置12は、ステンレス鋼製立方体16の6個の側面の各々にコンフラット(Conflat)フランジ管継手を備えたステンレス鋼製立方体16を含むサンプル処理チャンバ14を含んでいる。3軸の精密動きコントローラ18は、その立方体16の背面側に取り付けられている。このコントローラ18は、コンピュータによって制御されたモータによって駆動される2つの直交するマイクロメータ精密軸を含んでいる。第3の軸は、約2.54×10-3cm(約1ミル)の精度で手動で制御される。コントローラ18は、5.08cm(2インチ)の直径の取り付け磁石22を立方体の中心に支持する直径2.54cm(1インチ)のステンレス鋼製のロッド20を並進移動させることができ、取り付け磁石22には磁化可能なサンプルホルダーが取り付けられてよい。2段粗引きポンプ24が、立方体に結合されていて、チャンバを約0.13パスカル(10-3トル)の基本圧力まで排気する。2つの圧力ゲージ26,28が、チャンバの圧力を測定するために用いられる。リーク弁30および気体処理マニホルド(図示されていない)が、意図する気体がチャンバ内に導入されるようにする。光学グレードの11.43cm(4.5インチ)水晶窓32が、レーザーのアクセスを提供するためにチャンバの正面に取り付けられている。さらに、迅速アクセスビューポートドア34が、サンプルの迅速な装填および除去、ならびに、ミクロ構造化中のサンプルの安全な目視、を可能にしている。
【0028】
この例示的な装置では、再生可能に増幅されたフェムト秒のTi:サファイアレーザーシステム(図示されていない)が、1kHzの繰り返し数での800nmの中心波長を有する約100フェムト秒レーザーパルスを提供する。そのレーザーパルスは、反射防止コーティングが施された平突レンズ36(例えば、約250nmの焦点距離を有する)によって水晶窓を通してサンプル表面上で焦点合わせされる。この例示的な実施の形態では、レンズは、単一軸直線並進ステージ上に取り付けられていて、その焦点がサンプルの後ろになるように位置決めされている。レンズを動かすことによって、したがってレンズの焦点を動かすことによって、レーザーのスポットサイズは、サンプル表面で変えられてよい(例えば、約30マイクロメートルの直径から約250マイクロメートルまで)。レーザーのスポットサイズを測定するために、CCD(電荷結合デバイス)カメラ38は、レンズからのサンプル表面と同じ距離で配置されてよい。ミラー40に取り付けられたフリッパーが、レーザービームをカメラの上に向け直して、サンプル表面のレーザービームのスポットサイズを決定する。第2のCCDカメラ42は、ミクロ構造化の間の進捗状況を監視するために、サンプル表面から白色光ファイバーランプ44によって生み出された光の反射を測定してよい。
【0029】
動作のある例示的なモードでは、磁化可能なサンプルホルダーに取り付けられたサンプルは、アクセスドアを通して装填されてよく、取り付け磁石に取り付けられてよい。サンプルは、次に、最大の並進移動を可能にするために、磁石の中心に配置されてよい。チャンバは、0.13パスカル(10-3トル)の基本圧力まで排気され、次に、周囲の気体(例えば、0.67×105 パスカル(0.67バール)の六フッ化硫黄(sulfur hexafluoride))を所望の圧力まで充填されてよい。サンプルは、次に、100フェムト秒の800nmのレーザーパルスの1kHzの列(train)を照射されてよい。各パルスのフルエンスは、スポットサイズ(例えば、150マイクロメートル)を選択し、波長板(waveplate)/偏光立方体の組み合わせを用いて、パルスのエネルギーを変えることによって、設定されてよい。一つのスポットが照射されてよく、または、より典型的には、サンプルが、動きコントローラを用いて、レーザービームに対して並進移動させられてよい。例えば、サンプルは、ラスター走査パターン(raster scan pattern)で並進移動させられてよい。所定のスポットをサンプルに照射するパルスの平均個数は、シャッターを用い、水平並進移動速度を変えることによって、制御されてよい。
【0030】
SF6が存在する状態での選択された分圧、例えば、約500パスカル(0.005バール)から約1×105 パスカル(1バール)までの範囲内の分圧でのレーザーパルスを用いたシリコン表面の照射は、約0.1原子パーセントから約5原子パーセントまでの範囲内の、より好ましくは、約0.5原子パーセントから約1原子パーセントまでの範囲内の、硫黄濃度を有する硫黄リッチ層(sulfur-rich layer)の形成を引き起こすことができる。この硫黄リッチ層は、ミクロンサイズの表面高さの変動を伴う波動表面形態学的形状(地形)を示す。シリコン表面をSF6(または、電子供与性成分を有するその他の物質)が存在する状態で複数の一時的な短いパルスで照射することによって得られるそのようなテクスチャー表面は、本明細書では、ミクロ構造化された表面と呼ばれる。例として、図3は、シリコン表面を67000パスカル(0.67バール)のSF6中で波長800nm、フルエンス8kJ/m2を有するフェムト秒レーザーパルスの平均5ショット(100フェムト秒)で照射した後の、そのようなミクロ構造化されたシリコン表面の走査電子顕微鏡画像(SEM)(表面に対して45度の角度をなす向きで得られた)を示している。
【0031】
硫黄リッチ層は、実質的に不規則な層であり、数百ナノメートルの厚みを有し、ナノ微結晶(例えば、約10nmから50nmの直径)およびナノ孔から構成されている。選択された領域の回折(SAD)の測定値は、表面層がアモルファスに類似の材料がナノ微結晶の粒子の間に存在する高い可能性を伴う実質的に結晶の秩序を維持していることを、示している。さらに、位置当り10パルスまたは500パルスに露出されたシリコン基板に実施されたSADの測定値は、不規則な層の下側の基板が、実質的に乱されていない結晶シリコン(結晶シリコン基板が用いられた場合)であることを、示している。さらに、そのような例示的な基板に実施されたラザフォード後方散乱分光分析法(Rutherford backscattering spectroscopy)(RBS)およびエネルギー分散性X線(EDX)発光分光分析法(energy dispersive X-ray (EDX) emission spectroscopy)は、高濃度の硫黄が不規則な層内に存在する(約1原子パーセント)ことを、示している。さらに、照射位置当りの異なるフェムト秒(100フェムト秒)レーザーショットに露出されたシリコンサンプルから得られたRBSスペクトルは、硫黄の濃度が約50パルスまでレーザーパルスの個数の増加と共に増加すること、を示している。より詳しく言うと、測定された硫黄の濃度は、位置当り2パルスに露出されたサンプルに対する約0.2原子パーセントから、位置当り50レーザーパルスに露出されたサンプルに対する約0.7原子パーセントまで、増加し、硫黄の濃度は約50よりも大きいレーザーパルスに対しては増加せず平坦になっている。しかし、上記の例示的な結果は、本発明の顕著な特徴をさらに説明するために単に提供されたものであり、本発明の範囲を限定するものでないことが、理解されるはずである。例えば、上述された硫黄の濃度よりもより高い、不規則な層での硫黄の濃度が得られることも可能であり、位置当りのより高いレーザーショットが用いられることも可能である。
【0032】
複数の要因が、ミクロ構造化された表面の形態学的形状に影響を及ぼすことが可能である。例えば、レーザービームに対してサンプルを動かさずにサンプルの一部がレーザーパルスによって照射されて(すなわち、単一スポット照射)ミクロ構造化されたサンプルは、サンプルをレーザービームに対して並進移動させてサンプルの表面の複数の位置を照射してミクロ構造化されたサンプルに比べて、サンプルの形態学的形状が微妙に異なる。残りの実験的なパラメーターを同じにしたままで、並進移動されたサンプルと静止したサンプルとの間には、2つの可視的な違いがある。静止したサンプルのミクロ構造は、先端にマイクロメートルの寸法の球体を有し、一方、並進移動されたサンプルは、鋭利で、球体を有しない。さらに、並進移動されたサンプルは、ミクロ構造化された表面に渡って広がる多量のナノスケールの粒子を有する。
【0033】
さらに、照射レーザーパルスの波長、照射レーザーパルスのフルエンス、および、パルス幅、は、ミクロ構造化された表面の形態学的形状に影響を及ぼす。例えば、フェムト秒パルスでミクロ構造化された複数のプロトタイプのサンプルでは、フルエンスの増加(一定のショット数での)に伴い、形態学的形状は、レーザーによって誘起された周期的な表面構造から、上記の図3に示されているような鋭利なミクロ構造への、移行を示した。レーザーパルスのフルエンスが増加するにつれて、ミクロ構造化の高さとミクロ構造間の距離との両方で、典型的には、増加がある。一般的に、フルエンスは、好ましくは、溶解を引き起こすことになる閾値フルエンス(例えば、1.5kJ/m2)より高い値で選択される。非常に高いフルエンス(例えば、12kJ/m2より高い)では、材料の除去が最大になる可能性があり、円錐構造ではなく、ガウス形状の孔(gaussian-shaped holes)が、表面に形成される可能性がある。
【0034】
本明細書に記載された多くの実施の形態では、フェムト秒レーザーパルスが用いられているが、別の実施の形態では、表面のミクロ構造化は、ピコ秒またはナノ秒パルスを用いて達成されてよい。例えば、複数のシリコンサンプルが、1×105 パスカル(1バール)のSF6が存在する状態でKrF+エキシマーレーザー(KrF+ excimer laser)によって生み出された、平坦な上部の空間的輪郭および30kJ/m2のフルエンスを有する248nm、30ナノ秒レーザーパルスの列(スポット当り平均1500パルスが用いられた)を用いてミクロ構造化された。ナノ秒レーザーで形成されたミクロ構造は、フェムト秒レーザーで形成されたミクロ構造に対していくつかの類似点およびいくつかの相違点を示した。両方の場合で、ミクロ構造は、粗い円錐体であり、フェムト秒レーザーパルスで形成された構造は、より小さく、より高い密度で詰められていた。例えば、フェムト秒の構造は、ほぼ8マイクロメートルの高さであり、約4マイクロメートルだけ離れているが、ナノ秒で形成された構造は、ほぼ40マイクロメートルの高さを有し、約20マイクロメートルだけ離れていた。さらに、フェムト秒で形成された構造は、直径が10nmから50nmのナノ粒子で覆われていて、ナノ秒で形成された構造は、ずっと滑らかであった。
【0035】
SF6が存在する状態で、ピコ秒パルス(例えば、10ピコ秒)に露出されたサンプルシリコンウェハーも、ミクロ構造化された表面を示した。ミクロ構造間の平均距離は、約100フェムト秒パルス幅から約5ピコ秒パルス幅までで、減少を示したが、次に、約5ピコ秒より長いパルス幅に対して増加を示した。
【0036】
レーザーの波長も、ミクロ構造化された最終的な形態学的形状に影響を及ぼす。例として、400nmのパルスの列でミクロ構造化されたプロトタイプのシリコンサンプルは、同じフルエンスで800nmのパルスによって生み出されたサンプルよりも、高密度の(しかし、より小さい)ミクロ構造を示した。
【0037】
ミクロ構造の形態学的形状に影響を及ぼすその他の要因には、照射されるシリコン表面に対する、レーザーの偏光、および、レーザーの伝播方向、などがある。例えば、ミクロ構造の成長の向きは、入射光の向きと平行であり、基板の結晶学的平面とは無関係であるように現れる。ミクロ構造の基部は、長軸が照射レーザー光の偏光に直交する楕円形の形状を有してよい。いずれの理論にも限定されることなく、この楕円形の形状は、s偏光光に比べてp偏光光の吸収がより大きいことに起因していると理解することができる。円形の偏光光に対しては、優先的な吸収は存在せず、ミクロ構造の基部は、実質的に円形である。
【0038】
シリコン表面をミクロ構造化する間、シリコン表面に接触する流体または固体も、ミクロ構造化の結果としての表面の形態学的形状に影響を及ぼす。例えば、周囲ガスとしてSF6またはCl2を用いると、曲率半径が約500nmの鋭利な先端の円錐形構造が導かれる。対照的に、空気、N2、または、真空、の中で作られた構造は、これらのハロゲンを含有したガスの中で作られた構造に比べて、非常により丸い(その構造の先端の曲率半径は約2マイクロメートルから約3マイクロメートルである)。異なる気体が存在する状態でミクロ構造化された複数の例示的なサンプルの中で、SF6が存在する状態で作られたサンプルが、最も高い密度のミクロ構造を示し、その次が、Cl2が存在する状態で作られたサンプルであった。N2が存在する状態で作られたミクロ構造の密度は、空気が存在する状態で作られたミクロ構造の密度とほぼ等しかったが、SF6が存在する状態で作られたミクロ構造のほぼ1/2(a factor of two less than)であった。
【0039】
いくつかの実施の形態では、シリコンウェハーのレーザーによるミクロ構造化は、2つ以上の物質の混合物が存在する状態で実行される。例えば、SF6およびCl2の混合物が存在する状態でミクロ構造化されたサンプルは、SF6の分圧が高いほどミクロ構造の密度の増加を示す。
【0040】
ミクロ構造化された硫黄リッチ層は、独自の光学的および電気的特性を有する。例えば、その硫黄リッチ層は、約1012cm-2から約1014cm-2までの面電荷担体密度(sheet charge carrier density)を示す場合がある。例として、そして、例示の目的のみのために、上述されたような、本発明の教示に基づくnドープされたシリコン基板に各々が形成された、複数の例示的なミクロ構造化されたサンプルに実行された、いくつかの固有抵抗およびホール効果の測定の結果が、以下に記載される。固有抵抗およびホール効果の測定のために、当業者にはよく知られたバン・デル・ポウ法(van der Pauw technique)が、用いられた。簡単に述べると、4つのオーム電気接触部が、不規則なミクロ構造化された層の表面に形成された。それらの電気接触部は、最初に、ミクロ構造化されたサンプルを5分間に亘って5%HF溶液中に浸漬して、任意の本来の酸化膜をも除去することによって、形成された。次に、選択されたミクロ構造化された表面領域(例えば、10×10mm2の表面領域)の極限の四隅を除くすべてを覆うマスクを用いて、クロム/金(Cr/gold)が表面に蒸着されて、露出された四隅に金属接触部が形成された。次に、ダイシングのこぎりが用いられて、各側面から銀(例えば、0.25mmの銀)が切り取られた。サンプルのエッジの切除は、接触部が表面層のみに接続され基板層に接続されないことを確実にする。最後に、ワイヤボンダー(wire bonder)が用いられて、サンプルの四隅の接続部をスライドガラスの表面に蒸着された4つのCr/Au接触パッドに接続した。図4に模式的に示された、この実験的な構成は、ミクロ構造化された層の電気的特性を主に感知するもので、基板の電気的特性を感知するものではないことが理解されるはずである。
【0041】
図4の参照を続けながら、固有抵抗の測定は、小さなDC電流(例えば、10マイクロアンペア)を隅2から隅1に加え同時に電圧を隅3から隅4で測定して、実行されてよい。ホール効果の測定は、サンプルを強い磁界(例えば、数千ガウスの磁界)中に、磁界をシリコン表面に垂直になるようにして配置して、実行されてよい。ある実験では、小さいAC電流(約1マイクロアンペアから約2マイクロアンペア)が、次に、接触部1から接触部3に加えられ、同時に、誘起電圧が接触部2と接触部4との間で測定される。対象測定も、nドープされた(固有抵抗=8〜12オームメートル)ミクロ構造化されていないシリコンウェハーに対して行われた。以下の表1は、複数の異なるレーザーパルスのフルエンスでの約8〜約12オームメートルの範囲内の固有抵抗を有するnドープされたシリコンウェハーに形成されたミクロ構造層に対するこれらの測定結果を示している。
【表1】
【0042】
このデータは、ミクロ構造化された層が、おそらくミクロ構造化された層の不規則さの結果として、元の基板に比べてより高い面電荷担体密度を示し、より低い電荷担体移動度を示している。
【0043】
図1のフローチャート10を再び参照すると、シリコン表面の複数のレーザーパルスでの照射(ステップ10a)に続いて、基板が、ミクロ構造化された層内の電荷担体密度の増加が、例えば、約10パーセントから約200パーセントまでの範囲内で増加するようにも選択された期間に亘って十分な高温で焼き鈍しされる(ステップ10b)。例えば、基板は、約500Kから約1100Kまでの範囲内の温度で、より好ましくは、約500Kから約900Kまでの範囲内の温度で、選択された期間に亘って、例えば、約数分から約数時間までの範囲内の期間(例えば、1.5時間)に亘って、焼き鈍しされてよい。
【0044】
焼き鈍し過程は、さまざまな異なる方法を用いて実行されてよい。例えば、基板は、選択された期間に亘って高温に露出されるように熱オーブン内に配置されてよい。それに代わって、基板は、基板を所望の温度に加熱するために、例えば、約200nmから約1200nmまでの範囲内の波長を有する放射線などのレーザー放射線に露出されてよい。さらに、焼き鈍し過程は、例えば、不活性雰囲気(例えば、アルゴン雰囲気)中で、または、真空(低圧環境)中で、実行されてよい。それに代わって、焼き鈍し過程は、照射過程と同時に行われてよい。したがって、シリコン基板のレーザーパルスでの照射は、基板が高温で維持されている間に実行されてよい。
【0045】
いずれの理論によっても限定されずに、焼き鈍し過程は、ミクロ構造化された層内の電荷担体、すなわち、電子、の密度を増強するために、準安定のミクロ構造化された層内の原子結合の再配置を引き起こすように設計されている。用語「電荷担体密度(charge carrier density)」は、当業者に知られている。さらに説明が必要であるかもしれない程度で述べれば、電荷担体密度は、例えば、伝導帯状態の電子または伝導帯の下の浅い不純物状態の電子、などの、電流の伝導のために主に寄与する、例えば、電子などの荷電粒子の密度を意味する。そのような荷電粒子は、本明細書では、自由電子または正孔をも意味する。
【0046】
言い換えれば、焼き鈍し温度および期間は、以下により詳しく記載されるように、ミクロ構造化された層内に構造的な変化を引き起こし、その構造的な変化が、ミクロ構造化された層内での電荷担体密度を増加すると同時に印加された所定の逆バイアス電圧での選択された波長範囲内の放射に露出されたときに電流を生み出すための応答度を実質的に維持するように、選択される。本発明の教示に基づく焼き鈍し過程によってミクロ構造化された硫黄リッチ層内で引き起こされた構造的な変化は、pドープされたシリコン基板が複数のレーザーパルスに露出されてシリコン基板内にミクロ構造化された表面層が生み出される多くの実施の形態で、電子ではなく正孔が、1原子当り2つの可能なドナー電子を有する約1原子パーセントの硫黄を組み込んだ後でさえも、主要な電荷担体を構成するということを、考慮することによって適正に評価することができる。しかし、焼き鈍し後は、電子がミクロ構造化された層内の主要な電荷担体を構成することができる。いずれの理論にも限定されずに、そのような観測は、ミクロ構造化された層内の硫黄が、焼き鈍し前には、シリコンに組み込まれていて、シリコンのドナー電子が伝導に実質的には寄与しない(ドナー電子は、おそらくトラップ内に閉じ込められている、または、植え込まれた硫黄の価電子数がたぶん4より大きい)ことを示唆している。本発明の教示に基づく焼き鈍し過程は、ミクロ構造化された層内の原子結合の再配置がドナー電子を電気伝導に寄与するように解放するようにする。実際、pドープされたシリコン基板の場合、焼き鈍しの間に解放されたドナー電子の数は、主要な電荷担体としての正孔を打ち消し、ミクロ構造化された層を、約1014cm-2台の面担体濃度(sheet carrier concentration)を有するnドープされた層に変える。
【0047】
本発明の教示に基づいて形成されたミクロ構造化されたシリコンウェハーは、入射電磁放射線の、とりわけ約250nmから約2500nmまでの範囲内の波長を有する放射線の、吸収を示す。例として、図5は、ミクロ構造化されたシリコンウェハー(約260マイクロメートルの厚みと、約8オームメートルから約12オームメートルまでの範囲内の固有抵抗と、を有するn-Si(111)ウェハー)に対する吸収データを示していて、シリコンウェハーの各々は、ウェハーの表面を、800nmの中心波長および約8kJ/m2のフルエンスを有する100フェムト秒レーザーパルス(位置当り2ショットから500ショットまで)に露出することで、生み出された。この例示的な吸収データは、ウェハーを焼き鈍しする前に、積分球を備え付けられた分光光度計を用いて、当業者に知られた方法で記録された。構造化されていないシリコンウェハーに対する吸収データも、比較対照の目的で提供されている。
【0048】
この例示的なデータは、ミクロ構造化されたウェハーが、記録された波長範囲全体に亘って、そして、とりわけ、結晶シリコンのバンドギャップエネルギー(1.05eV)に相当する約1050nmを超える波長で、構造化されていないシリコンと比較して、入射電磁放射線の増強された吸収を示すことを、指摘している。構造化されていないシリコンでは、バンドギャップエネルギーに相当する波長よりも長い波長を有する光の光子は、価電子帯から伝導帯への電子を促進するための十分なエネルギーを持っておらず、そのため、吸収が劇的に低下する。
【0049】
対照的に、本発明の教示に基づいてミクロ構造化されたシリコンウェハーは、バンドギャップより低い波長だけでなくバンドキャップより高い波長に対しても十分な吸収を示す。実際、図5の例示的なデータは、位置当り20パルス以上(例えば、この例示的なデータセットでは500パルス)に露出されて構造化されたシリコンウェハーが、約0.4マイクロメートルから約1マイクロメートルの波長に対してほぼ1の変動のない吸収を示し、約1.05マイクロメートル(この波長は構造化されていないシリコンのバンドエッジに相当する)の付近の波長に対して吸収のわずかな減少を示し、約1.05マイクロメートルから約2.5マイクロメートルまでの非常に変動の少ない吸収を示している。このデータは、例示の目的のみで提供され、本発明の教示に基づいて構造化されたシリコンウェハーの最適な吸収を提供することを必ずしも意図されていないことが、理解されるはずである。
【0050】
上述したように、本発明の多くの実施の形態では、ミクロ構造化されたウェハーは、そのミクロ構造化された層の電荷担体濃度を増強するように設計された温度および期間で焼き鈍しされる。そのような焼き鈍しは、さまざまな異なる温度で実行されてよい。例えば、図6は、構造化されていないシリコンと比較した、67000パスカル(0.67バール)のSF6が存在する状態で表面の位置当り500レーザーパルス(800nmの中心波長および8kJ/m2のフルエンスの100フェムト秒パルス)を用いて生み出された複数のミクロ構造化されたシリコンウェハーに対する電磁放射線吸収データを模式的に示している。構造化された各ウェハーは、約30分間に亘って、約575Kから約875Kまでの範囲内の選択された温度で焼き鈍しされた。この例示的なデータは、約575Kより低い温度での焼き鈍しが、観測された吸収にまったく影響を及ぼさないことを、示している。一方、約575Kと875Kとの間の温度で実行された焼き鈍しは、バンドギャップより高い吸収には実質的に影響を及ぼさず、バンドギャップより低い吸収では、焼き鈍し温度が高いほど吸収の減少が増している。しかし、このデータは、例示的であるのみで、異なる結果が、異なるパラメーター(例えば、異なるフルエンスまたはレーザーショット数)を用いて生み出されたミクロ構造化されたウェハーに対して得られることもあることが、理解されるはずである。
【0051】
本発明の教示に基づくミクロ構造化されたシリコンウェハーは、フェムト秒パルスを用いて生み出されるだけでなく、その他のパルス幅(例えば、ナノ秒およびピコ秒パルス幅)のパルスを用いても生み出されることができる。例として、そして、例示の目的のみで、図7は、約30分間に亘る約875Kでの焼き鈍しの前後で、フェムト秒レーザーで形成されたミクロ構造化されたシリコン表面およびナノ秒レーザーで形成されたミクロ構造化されたシリコン表面、ならびに、構造化されていないシリコンウェハー、に対する入射放射線の波長の関数として吸収の例示的なグラフを示している。フェムト秒レーザーで形成されたミクロ構造は、約800nmの中心波長および約8kJ/m2のフルエンスを有する100フェムト秒パルス(位置当り500ショット)を用いて生み出された。ナノ秒パルスで形成されたミクロ構造は、248nmの中心波長および約30kJ/m2のフルエンスを有する30ナノ秒レーザーパルス(位置当り約1500ショット)を用いて生み出された。このデータは、例示の目的のみで提供され、全ての環境の下での本発明の教示に基づいて形成されたミクロ構造化されたシリコンによって示される吸収を必ずしも指摘することを目的とされてないことが、理解されるはずである。
【0052】
本発明のいくつかの実施の形態では、シリコンウェハーのミクロ構造化は、SF6ではない背景流体が存在する状態で、行われてよい。例えば、H2S、Cl2、N2、または、空気、が用いられてよい。例として、図8Aおよび図8Bは、構造化されていないシリコンと比べた、焼き鈍し過程を行わない、さまざまな流体が存在する状態での、フェムト秒レーザーパルス(100フェムト秒、800nm、8kJ/m2、位置当り500ショット)を用いて生み出されたいくつかの例示的なプロトタイプのミクロ構造化されたシリコンウェハーの吸収率を比較している。真空のデータは、約1.33×10-4パスカル(約10-6バール)より低い基本圧力に排気されたチャンバ内でのウェハーのミクロ構造化に相当する。すべてのミクロ構造化されたサンプルは、構造化されていないシリコンに比べて、増強された吸収を示していて、この例示的なデータは、SF6およびH2Sが存在する状態でのミクロ構造化が、構造化されていないシリコンに比べて、最も劇的な吸収率の変化を引き起こすことを、示している。より詳しく言うと、SF6を用いて構造化されたサンプルが、測定されたスペクトル全体に亘って、1に近い、実質的に変動しない吸収率を示した。
【0053】
さまざまな背景流体圧力が、ミクロ構造化されたシリコンウェハーを生み出すために本発明の多くの実施の形態において用いられてよい。例えば、図9は、さまざまな周囲圧力でSF6中(100フェムト秒、800nm、位置当り500ショット)で生み出された複数の例示的なプロトタイプのミクロ構造シリコンウェハー、ならびに、真空中(例えば、10-6より低い圧力)でミクロ構造化されたウェハー、に対する吸収率のデータを示している。最大の増加率が低圧で観測されている。この例示的なデータセットでは、約2700パスカル(約27ミリバール)より高い圧力で、バンドギャップの下の吸収率は波長と共に大きな変動を示さず、2700パスカルより低い圧力では、バンドギャップの下の吸収率は波長の増加と共に減少している。
【0054】
本発明の教示に基づいて生み出されたミクロ構造化されたシリコンウェハーは、とりわけ、約500Kから約900Kまでの範囲内の高温での焼き鈍し過程が施されたミクロ構造化されたシリコンウェハーは、広い範囲(例えば、紫外線の波長から赤外線近くまで)に亘る電磁放射線の増強された吸収を示すだけでなく、ダイオードの特徴である電圧対電流の曲線(profiles)を示しもする。以下により詳しく記載されるように、これらの特性は、通常のシリコン光検出器に比べて増強された応答度を示す光検出器を製造するためにそのようなミクロ構造化されたシリコンウェハーを使用できるようにしている。
【0055】
より詳しく言うと、本発明の教示に基づいて形成されたミクロ構造化されたシリコン層は、特に、レーザーパルスにウェハー表面を露出し、それに続いて、または、それと同時に、パルスによって構造化された層内の電子を解放するように設計された焼き鈍し過程、によって形成されたミクロ構造化されたシリコン層は、下側のシリコン基板と、ダイオード接合、例えば、PN接合、を形成する。本明細書で用いられるダイオード接合は、異なる自由電子密度を有する2つのnドープされた部分の間に形成された接合をも意味することが、理解されるはずである。図10に模式的に示されているように、PN接合は、アクセプタ不純物原子を有する(pドープされた)半導体材料を、ドナー不純物原子を有する(nドープされた)半導体材料に、接触した状態にすることによって、形成されてよい。pドープされた部分とnドープされた部分との間の電荷担体濃度の差が、その接合に亘る拡散電位を生み出し、電子および正孔がその接合を横切って、対応するより低い濃度を有する部分へ向けて拡散を開始する。電子および正孔が接合の反対側へ渡ると、電子および正孔は、接合の非常に近くの領域内のそれぞれの逆の極性に電荷を有する電気的な相手と再結合する。接合を横切るこのような電荷担体の移動は、接合の両側に逆の極性の空間電荷(不動イオン)の形成を引き起こす。空間電荷(n型側では正に帯電した空間電荷、p型側では負に帯電した空間電荷)の数が増加すると、電位差が接合に亘って形成され、その電位差が、拡散電位とは逆向きの電界を生み出す。
【0056】
熱平衡に達すると、薄い絶縁層が接合の近くに現れ、その絶縁層内では、電荷担体が再結合によって枯渇する(空乏層(depletion region))。強い電界が空乏層内に現れ、大きな電位がこの空乏層に亘って存在する。接合は、接合に亘る電界を加えることによって逆バイアスされてよく、逆バイアスされることが接合の内部電界を強める。そのような逆バイアス電圧は、絶縁性の空乏層を拡張し、接合に亘る内部電界と電位差との両方を増強する。接合は、接合に亘る内部電界と逆向きの電界を加えることによって、順バイアスされてもよい。そのような順バイアス電圧は、空乏層を縮め、それによって、接合に亘る内部電界および電位差を打ち消す。順バイアスされると、接合を横切って電流が流れ、電子がnドープされた部分に注入され、pドープされた部分から去る。言い換えると、PN接合は、一方向のみに電流を流せるようにすることで、整流器として振舞うことができる。このような振る舞いが、ダイオードの電流・電圧(I−V)曲線特性を生じさせる。
【0057】
上述されたように、その中に本発明の教示に基づいてミクロ構造化された層が形成されたシリコンウェハーは、ダイオード接合によって得られるI−V曲線特性を示してよい。いずれの理論にも限定されずに、そのような電流電圧特性は、ウェハーが、2つの隣接した、さらに、別個の層、すなわち、その中に所定の濃度の電子供与性成分が組み込まれた表面層と、下側の実質的に乱されていないシリコン基板層と、を有することを考慮して、理解することができる。これらの2つの層は、異なる、結晶構造、化学的組成、および、電荷担体ドーピング濃度、を示す。さらに、ミクロ構造化された層は、近紫外線波長から近赤外線波長までの入射電磁放射線の高い吸収率を含む独自の光学特性を有する。ある態様では、本発明は、そのようなミクロ構造化されたシリコンウェハーを、以下により詳しく記載されるように、フォトダイオードの製造に用いる。
【0058】
例として、図11Aは、本発明のある実施の形態に基づく光検出器46を模式的に示していて、その光検出器46は、ミクロ構造化された表面層50を有するミクロ構造化されたシリコンウェハー48を含んでいて、ミクロ構造化された表面層50は、基板の表面の複数の位置を短レーザーパルス(例えば、約数十フェムト秒から約数十ナノ秒までの範囲内のパルス幅)で照射し、同時に、表面を電子供与性成分(例えば、SF6)を含む物質に露出することによって、シリコン基板51内に形成される。レーザーが照射されたウェハーは、次に、ミクロ構造化された表面層内の電子の濃度を増強するように設計された条件(例えば、高温で、および、選択された期間に亘って)の下で、焼き鈍しされる(例えば、約500Kから約900Kまでの範囲内の焼き鈍し温度で、数分間から数時間までの範囲内の期間に亘って)。
【0059】
フォトダイオードとして機能する、例示的な光検出器46は、複数の金属製の電気的接触部52をも含み、電気的接触部52は、フィンガーグリッドの形状を有し、ミクロ構造化された表面層の上に配置されている。さらに、金属製のコーティング層の形態の、電気的接触部54が、シリコン基板の背面(すなわち、ミクロ構造化された表面と反対側の乱されていないシリコン表面)に配置されていて、表面の実質的に全体を覆っている。この例示的な実施の形態では、クロム/金(Cr/Au)合金が、電気的接触部を製造するのに用いられている。しかし、当業者は、電気的接触部がその他の金属によっても形成されてよいことを、適正に評価するであろう。
【0060】
金属製の接触部52,54は、例えば、電圧源56を用いて、ウェハーに亘って、バイアス電圧を、例えば、逆バイアス電圧を、加えられるようにしている。逆バイアス電圧は、ミクロ構造化された層50と下側のシリコン基板51との間に形成されたダイオード接合の空乏層内の内部電界を強めてよい。以下に詳しく記載されるように、光検出器46は、小さなバイアス電圧で、例えば、約0.1Vから約15Vまでの範囲内の電圧で、従来のシリコン光検出器によって典型的に示される応答度に比べてかなりより良好な応答度(すなわち、1電力の入射光(アンペア/ワット)当り生み出される光電流)を伴って動作することができる。これらの特性は、例示的な光検出器46のような、本発明の教示に基づいて形成されたシリコン光検出器を、高感度検出器として、集積シリコン光電子回路に組み込むことができるようにする。
【0061】
動作中に、フォトダイオードのシリコンウェハーのミクロ構造化された表面層に入射した放射線(すなわち、光子)は、(放射線の波長が光検出器の動作範囲内にある場合には、)例えば、ミクロ構造化された層の価電子によって、吸収される。入射放射線の吸収によって、電子・正孔対が生み出される。空乏層内の電界は、生み出された電子・正孔対を分離させ、とりわけ、ミクロ構造化されたシリコン層と下側のシリコン基板との間に形成されたダイオード接合で、または、ダイオード接合の近くで、生み出された電子・正孔対を分離させる。分離した電子・正孔対は、入射光子の個数に比例した光電流を提供する(当業者は、そのような光電流が、生成電流、および、ダイオード接合に本来存在しえる再結合電流に加えられることを、適正に評価する)。したがって、入射放射線は、誘起された光電流を測定することによって、検出され、そして、定量化される。
【0062】
本発明の教示に基づいて形成された光検出器は、広範囲の波長に亘る吸収度(吸収度は光検出器のミクロ構造化されたシリコンウェハーによって示される吸収度とほぼ同程度である。)を示すだけでなく、ダイオード的なIV特性をも示す。例として、そして、本発明の光検出器の顕著な特徴をさらに説明するために、図12は、各々が、光検出器の能動コンポーネントとして用いるためのnドープされたシリコン基板に異なる条件で形成された複数のミクロ構造化されたシリコンサンプルに対するバイアス電圧の関数として電流を示した、複数のグラフを、示している。すべてのサンプルは、SF6が存在する状態で、複数のフェムト秒レーザーパルス(800nm、100フェムト秒、4kJ/m2のフルエンス)で照射された。グラフAは、焼き鈍しされていないミクロ構造化されたサンプルに関連する電流・電圧曲線を示している。この曲線は、実質的に直線状であり、このサンプルのミクロ構造化された層と下側のシリコン基板との間に形成された接合がダイオード的ではなく、単に抵抗性であることを示している。言い換えれば、そのようなウェハーは、光検出器の製造には適していない。
【0063】
対照的に、グラフB、C、および、Dは、異なる温度(焼き鈍し期間は、すべての場合で約30分間であった。)で焼き鈍しが施されたこれらのミクロ構造化されたシリコンサンプルの電流・電圧特性を示している。この例示的なデータは、焼き鈍し温度が高くなるほど、測定されたI−V曲線がダイオードから予測される曲線に近づくことを示している。例えば、約825Kの焼き鈍し温度では、I−V曲線は、ダイオード的であり、順バイアスに対して指数関数的に増加する電流と、逆バイアスに対してより小さくほとんど急速には増加しない電流と、によって特徴付けられる。約1075Kの焼き鈍し温度に対応するI−V曲線もダイオード的である。しかし、非常に高い温度で長期間に亘ってミクロ構造化されたシリコンウェハーを焼き鈍しすることは、バンドギャップの下の吸収度の低下を導く可能性があり、したがって、そのようなミクロ構造化されたウェハーを用いた光検出器の近赤外線波長での性能の劣化を導く可能性がある。この例示的なデータセットでは、825Kで焼き鈍しされた基板が、最適なI−V特性を示している。しかし、そのような高温の焼き鈍し温度は、焼き鈍し期間が十分に短い限り、用いられてよいことが、理解されるはずである。一般に、本発明の光検出器で用いられるミクロ構造化されたシリコンウェハーの焼き鈍しは、ウェハーの入射放射線の吸収度および入射放射線に対する応答度を有意に劣化させずにミクロ構造化された表面層内の電子を解放するように(例えば、焼き鈍し温度および期間を)慎重に設定されるべきである。
【0064】
上記の例示的な光検出器46のような、本発明の光検出器は、従来のシリコンフォトダイオードの応答度よりも優れた、約250nmから約10μmまでの範囲内の波長に亘る応答度を示す。例として、そして、例示および確証の目的のみのために、図13は、従来のフォトダイオード、および、焼き鈍しされていないもしくは高すぎる温度で焼き鈍しされたミクロ構造化されたシリコンを用いて製造されたフォトダイオード、と比較して、選択された波長範囲に亘る、本発明の教示に基づいて形成された例示的な光検出器の応答度を表した実験的なグラフを示している。より詳しく言うと、グラフAおよびグラフBは、SF6が存在する状態でフェムト秒レーザーパルス(100フェムト秒、800nmの中心波長、および、4kJ/m2のフルエンス)によってミクロ構造化され、その後825Kまたは725Kで焼き鈍しされたシリコンウェハーを用いた本発明の光検出器を示し、この光検出器が、従来の市販されているシリコンフォトダイオードの応答度に比べて、有意に増強された応答度を示している。より詳しく言うと、これらの光検出器は、約250nmから約1050nmまでの範囲内の波長で、従来のフォトダイオードの応答度の10倍より大きな応答度を示している。応答度は、バンドキャップのエッジよりも長い波長(すなわち、約1050nmよりも長い波長)に対して減少しているが、それでもなお、応答度は、従来のシリコン検出器が示す応答度よりも有意に大きいまま留まっている。実際、従来のシリコン検出器は、典型的には、バンドギャップのエッジよりも長い波長では有用なレベルの応答度で、動作しない。例えば、この例示的な例では、市販されているフォトダイオードの応答度は、約1050nmよりも長い波長に対しては、約10-6A/Wに急激に低下している。
【0065】
さらに、本発明の教示に基づいて形成されたウェハーの応答度のデータ(例えば、グラフAおよびグラフB)は、小さなバイアス電圧(例えば、この例示的な実施の形態では、約−0.5ボルトのバイアス電圧)を加えて得られた。対照的に、従来のシリコン光検出器はかなりより低い応答度を示すか、または、より高いバイアス電圧(例えば、100ボルトから1000ボルト)を必要とし、および/または、より複雑な構造を有する。このことは、本発明の教示に基づいて形成された光検出器が集積シリコン回路に容易に組み込むことができるのに対して、大きなバイアス電圧を必要とする従来のシリコン検出器の集積シリコン回路への組み込みは現実的でない場合があること、を示す。
【0066】
図13に示されたデータは、上述されたような複数の短いレーザーパルスによって照射されたシリコンウェハーの適正な焼き鈍しが、そのウェハーを用いる光検出器の応答度をめざましく増強できること、を示している。より詳しく言うと、レーザーパルスに露出されてはいるが焼き鈍しされていないウェハーを用いることによって製造された光検出器は、例えば、725Kまたは約825Kの適切な温度での焼き鈍し過程が施されたウェハーに比べてかなり低下した応答度を示す。この例示的なデータは、レーザーパルスによって照射された後に30分間に亘って1075Kの温度で焼き鈍しされたミクロ構造化されたウェハーを組み込んだ光検出器が725Kまたは825Kで焼き鈍しされたミクロ構造化されたウェハーに比べて、かなり低下した応答度を示すこと、をも示している。
【0067】
したがって、本発明のある態様は、ミクロ構造化された層内の電子を解放すると同時に電磁放射線を検出するためのウェハーの応答度を保存するような条件の下で、電子供与性の成分を有する物質が存在する状態で複数の短いパルスによってウェハーを照射した後のまたは、照射するのと同時の、シリコンウェハーの焼き鈍しに関する。例えば、本発明のいくつかの実施の形態では、焼き鈍し温度は、約500Kから約1100Kまでの範囲内あるように選択され、より好ましくは、約700Kから約900Kまでの範囲内にあるように選択され、焼き鈍し期間は、約1分間から約数時間までの範囲内にあるように選択され、より好ましくは、約5分間から約30分間までの範囲内にあるように選択される。それに代わって、より高い焼き鈍し温度が、その焼き鈍し期間が結果として形成される焼き鈍しされたウェハーの応答度の低下を回避するように選択される限り、用いられてよい。例えば、上記のデータは、約30分間に亘る約1075Kの温度でのウェハーの焼き鈍しが、望ましくない可能性があることを示しているが、この焼き鈍し温度はより短い焼き鈍し期間では、ある種の用途で、本発明を実現するために適していることもある。ある程度までは、焼き鈍し温度および焼き鈍し期間は、相互に関連している。例えば、より高い温度でのより短い焼き鈍し期間は、ある種の用途で用いられる可能性がある。
【0068】
言い換えれば、高温度での単なる焼き鈍しが必要とされているのではない。そうではなく、焼き鈍し温度および焼き鈍し期間は、広範囲の波長に亘る増強された応答度を示す光検出器が焼き鈍しされたウェハーを用いて製造されるのを確実にするように、適正に選択される必要がある。電子供与性成分を有する物質が存在する状態での短いレーザーパルスにウェハーを露出した後にまたは露出するのと同時にシリコンウェハーを焼き鈍しすることは、焼き鈍しが低すぎる温度の場合には、ノイズの入ったフォトダイオードを生み出す可能性があり、焼き鈍しが高すぎる温度で長すぎる期間に亘る場合には、可視光波長および赤外線波長の両方に対するウェハーの応答度をより低くする可能性がある、ことが見出された。より詳しく言うと、焼き鈍し温度および焼き鈍し期間は、好ましくは、電子供与性成分を有する物質が存在する状態でのレーザー照射によって形成されたミクロ構造化された層内の担体電子(carrier electrons)の濃度を約10%から約200%までの範囲内だけ増強し、同時に結果として形成された焼き鈍しされたウェハーが約250nmから約1050nmまでの波長の範囲内のうちの少なくとも一つの波長で、そして、好ましくは、その範囲の全体の波長で、約20A/Wより大きい応答度を示すように、そして、約1050nmから約3500nmまでの波長の範囲内の少なくとも一つの波長で、そして、より好ましくは、その範囲の全体の波長で、約0.1A/Wより大きい応答度を示すように、選択される。例として、本発明のいくつかの実施の形態では、焼き鈍し温度は、好ましくは、約700Kから約900Kまでの範囲内にあるように選択される。
【0069】
シリコンウェハー内にミクロ構造化された層を生み出すためにシリコンウェハーを照射するレーザーパルスのフルエンスの選択も、ミクロ構造化されたウェハーを組み込んだ光検出器の放射線を検出する性能特性に影響することがある。例として、図14は、SF6が存在する状態で複数のフェムト秒レーザーパルス(100フェムト秒、800nmの中心波長、位置当り200パルス)によって照射されその後約30分間に亘って825Kで焼き鈍しされた複数のシリコンウェハーの電流・電圧特性に対応する例示的なデータを示している。しかし、レーザーパルスのフルエンスは、ウェハー毎に異なる。より詳しく言うと、以下のレーザーのフルエンス、すなわち、4kJ/m2、6kJ/m2、8kJ/m2、および、10kJ/m2、が用いられた。この例示的なデータは、フルエンスが増加すると、所定の逆バイアス電圧での暗電流が減少することを示している。
【0070】
図15Aは、さまざまなレーザーパルスフルエンスでミクロ構造化された上記のシリコンウェハー(ウェハーは、30分間に亘って825Kで焼き鈍しされた。)を組み込んだ複数の光検出器の応答度を示している。この例示的な応答度のデータは、このサンプルセットでは、フルエンスが増加すると、光検出器の応答度が減少し、応答度のピーク値の波長がより長い波長にシフトすることを示している。(4kJ/m2のフルエンスで作られたサンプルが、最も高い応答度を示している。)さらに例示するために、図15Bは、SF6が存在する状態でフェムト秒パルス(100フェムト秒、800nmの中心波長、位置当り200パルス)を用いて照射しその後30分間に亘って1075Kで焼き鈍しすることによって生み出されたミクロ構造化されたシリコンウェハーを用いて作られた光検出器の応答データを示している。しかし、レーザーパルスフルエンスは、サンプル毎に変えられている(4kJ/m2、6kJ/m2、8kJ/m2、および、10kJ/m2)。このデータを図15Aに示されたデータと比較すると、1075Kのより高い焼き鈍し温度を施されたサンプルによって示された応答度が、825Kで焼き鈍しされたサンプルの応答度よりもかなり低いことが、示される。しかし、より高い温度で焼き鈍しされたサンプルは、フルエンスの関数としてのかなりより小さい応答度の変動を示している。さらに、1075Kで焼き鈍しされたサンプルは、より低い応答度を示してはいるが、よりノイズが少なく、より高い量子効率を有している。
【0071】
上記のデータは例示の目的のみで提供され、すべての条件の下で最適なフルエンスを必ず示すことを意図するものではないこと、が理解されるはずである。例えば、上記の例示的なサンプルは約200パルスの平均のレーザーショット数を用いて作られ、より大きなショット数を用いて改善された特性を示すかもしれない。一般に、本発明のさまざまな実施の形態では、レーザーパルスのフルエンスは、約3kJ/m2より大きく選択されている。より好ましくは、フルエンスは、約3kJ/m2から約10kJ/m2までの範囲内にあるように選択され、または、約3kJ/m2から約8kJ/m2までの範囲内にあるように選択される。
【0072】
本発明の多くの実施の形態では、nドープされたシリコン基板が、上述したように、ミクロ構造化されたウェハーを形成するために用いられた。それに代わって、pドープされたシリコンウェハーが用いられてもよい。例として、図16Aは、pドープされたシリコン基板(p−Si(100)、350マイクロメートルの厚み、1オームセンチメートルより大きい固有抵抗(ρ))を用いて上述されたように本発明の教示に基づいて生み出されたミクロ構造のウェハーのダイオード的な特性を、nドープされたシリコン基板を用いて製造されたミクロ構造のウェハーと比較したグラフを示している。両方の場合で、約6kJ/m2のレーザーパルスのフルエンス、約825Kの焼き鈍し温度、および、約30分間の焼き鈍し期間、が用いられた。同様のデータが、約30分間に亘る1075Kでの焼き鈍しを施されたpドープされたサンプルおよびnドープされたサンプルについて、図16Bに示されている。
【0073】
この例示的なデータは、825Kで焼き鈍しされたpドープされたサンプルが同じようにして生み出されたnドープされたサンプルに比べて、より高い順バイアス電流を示すことを示している。逆バイアスに対する暗電流も、pドープされたサンプルでより迅速に増加している。1075Kで焼き鈍しした場合では、pドープされたサンプルが、逆バイアスが同様にして生み出されたnドープされたサンプルと実質的に同程度まで低減された非常に良好なダイオード的な特性を示している。さらに、順バイアス電流がより迅速に増加していて、良好な整流比率をもたらしている。上述されたように、より高温での焼き鈍しは、硫黄のドーピングからのドナー濃度を増加する可能性がある。ドナー濃度のそのような増加は、より高温で焼き鈍しされたpドープされたサンプルがより良好な整流作用を示すようにする可能性が有る。
【0074】
シリコン基板のドーピングも、本発明の教示に基づいて基板をミクロ構造化することによって形成されたシリコンウェハーの応答度に影響を及ぼす可能性がある。例として、図17Aは、両方が約30分間に亘って825Kで焼き鈍しされた、2つのpドープされたミクロ構造化されたウェハーと、2つのpドープされたミクロ構造化されたウェハーと、の測定された応答度のデータを示している。この例示的なデータは、nドープされた基板の応答度が、測定されたスペクトル範囲に亘って、より高いことを、示している。しかし、図17Bは、レーザーの照射および約1075Kのより高い温度での焼き鈍しによってpドープされた基板およびnドープされた基板に形成されたミクロ構造化されたウェハーの応答度がほぼ同じこと、を示している。
【0075】
一般に、上記の例示的なデータは、ミクロ構造化されたpドープされたサンプルが、より低い応答度を有し、しかし、より良好な量子効率を示すこと、を示している。上記のデータが例示の目的のためにのみ提供され、本発明の範囲を限定することを意図されていないこと、が理解されるはずである。一般に、pドープされた基板およびnドープされた基板の両方が、本発明を実施するために用いられてよく、そのような基板を用いて生み出されたミクロ構造化されたウェハーの結果としてのダイオード的な特性および応答度は、レーザーフルエンス、パルスの数、などのその他のパラメーターの選択に基づいて、上述された特性および応答度と異なる可能性がある。
【0076】
応答度に加えて、光検出器の性能に関連して注目される別のパラメーターは、光検出器の量子効率であってよい。用語「量子効率」は、当該分野で知られていて、零の電圧が加えられた状態で、入射光子当り生み出される電子・正孔対の数として一般的に定義される。いくつかの場合では、高いレベルの応答度を示すミクロ構造化されたサンプルは、それに対応する高いレベルの量子効率を示さないことがある。例えば、上記の例示的なプロトタイプのミクロ構造化されたシリコンウェハーでは、nドープされた基板、4kJ/m2のフルエンスを有するレーザーパルス、および、約825Kの焼き鈍し温度、を用いて製造されたサンプルは、最高の応答度を示すが、最高の量子効率を示さない。実際、同じ条件を用いるが1075Kの焼き鈍し温度を用いて製造されたサンプルは、より高い量子効率を表すが、より低い応答度を表す。同様に、pドープされた基板に825Kまたは1025Kで焼き鈍しされて作られたサンプルの測定された応答度は、より低いが、それらのサンプルの量子効率はより高い。そのような応答度および量子効率の変動は、シリコン光検出器を製造するために本発明の教示を実施するときのさまざまなパラメーターを選択する場合に好ましくは考慮される。
【0077】
本発明の教示に基づいて製造された光検出器の応答度は、光検出器に加えられた逆バイアスの関数としても変化する。典型的には、加えられる逆バイアスが増加すると、応答度は、増加する。例えば、図18は、加えられた逆バイアス電圧の関数として、4kJ/m2のフルエンスで複数のフェムト秒パルスで照射されその後約30分間に亘って825Kで焼き鈍しされることで、本発明の教示に基づいてミクロ構造化されたシリコンウェハーの応答度を示している。サンプルは、50マイクロワットのおおよその電力で白色光源を用いて照らされた。応答度が、したがって、利得が、−5ボルトのバイアス電圧までは迅速に増加し、それから、−15ボルトのバイアス電圧まではゆっくりと増加している。−15ボルトを越える電圧では、応答度は低下し始めている。いくつかの場合では、高い利得を示す光検出器の応答度は、ある種の用途に対しては十分に線形でないことがある。したがって、適切な逆電圧を選択する場合、応答度に加えて、応答度の線形性のようなその他の要因が考慮されるべきである。さらに、光検出器が集積シリコン回路に組み込まれている用途では、バイアス電圧は、その集積シリコン回路の要件と適合するものでなければならない。
【0078】
本発明の教示に基づいて形成された光検出器は、広範囲の温度内で動作できる。いくつかの場合では、光検出器の平均ノイズレベルを低減するために光検出器を冷却するのが有益である。例として、図19Aは、さまざまな動作温度での、約4kJ/m2のフルエンスのフェムト秒パルスで作られ約825Kで焼き鈍しされたnドープされたミクロ構造化されたシリコンサンプルに対応する電流・電圧曲線を示している。測定された電流は、逆バイアス状態および順バイアス状態の両方で、動作温度の低下と共に減少している。非常に低い動作温度(100Kより低い)では、導通は順バイアスおよび逆バイアスの両方で非常に小さい。図19Bは、動作温度の関数としての、−0.5Vの逆バイアスでの1064nmの波長(室温でシリコンのバンドギャップに近い波長)を有する入射放射線に対するそのようなミクロ構造化されたウェハーの応答度を示している。測定された応答度は温度の低下と共に減少する。しかし、この振る舞いは、照らされる光の波長がシリコンのバンドギャップから大きく離れている場合には、異なることがある。しかし、温度の関数としての、−0.5Vのバイアス電圧での暗電流のグラフは、ノイズが応答度に比べてかなりより迅速に減少すること、示している。
【0079】
要約して言えば、本発明の教示に基づいて形成されたフォトダイオードは、通常の市販されているフォトダイオードが示す応答度に比べて、ほぼ100倍大きい、広範囲の電磁スペクトル(例えば、約250nmから約1100nmまでの範囲内の波長)での、応答度を示すことができる。さらに、より長い波長、例えば、1600nm程度の長さの波長での応答度は、通常のシリコンフォトダイオードによって示されるこの波長範囲での応答度に比べて、ほぼ100000倍大きい。例示の目的で、本発明の教示に基づいて製造された上記のプロトタイプのサンプルのいくつかは、表面層内の担体移動度は、約101cm2V-1秒-1であると測定され、応答時間は、約10ナノ秒の上昇時間と、約30ナノ秒の下降時間と、を含み、さらに、逆バイアス−0.5Vで約63.9ナノファラドのダイオード静電容量が測定された。本発明のフォトダイオードは、加えられた非常に小さなバイアス電圧で大きな利得を示すことができ、例えば、−0.5Vの加えられたバイアス電圧に対して1000より大きい利得を示す。
【0080】
上記の例示的な光検出器46(図11A)のような、本発明の教示に基づくシリコン光検出器は、さまざまな方法を用いて製造されてよい。例として、そのような光検出器のある例示的な製造方法では、シリコンウェハーの選択された部分、例えば、5×5mm2の領域が、上述されたように、例えば、SF6などの適切な材料が存在する状態で、短いレーザーパルスに露出することによってミクロ構造化される。つぎに、そのウェハーは、ミクロ構造の層との電気的な接触部を形成する前に、いずれの元からある酸化膜をも除去するために、HF溶液(例えば、5%溶液)内に浸漬される。その後、マスクが、表面上に形成される導電性の電極の望ましいパターンに対応する露出部分を伴って、ミクロ構造化された層の表面を覆って配置される。選択された金属、例えば、Cr/Au合金が、次に、マスクが配置された表面を覆って蒸着され、図11Aに示されている導電層52のような、パターン化された導電層、および、放射線を受け取るのに適したコーティングされていない部分、を残して、マスクが除去される。さらに、導電層が、ウェハーの背面である、図11Aに示されている層54のような、ミクロ構造化された層の反対側の構造化されていない表面に、形成されてよい。多くの実施形態において、背面全体は、金属で覆われる。次に、ウェハーは、当該分野で知られている方法で、ウェハーに、そして、必要な場合には、例えばコンデンサーのようなその他の電子要素に、バイアス電圧を加えることができる、図11Aに示された電源56のような、電圧源に接続されてよい。さらに、ウェハーおよびウェハーに関連する回路は、当該分野で知られている方法を用いて、適切なハウジング内に配置されてよい。
【0081】
上述されたミクロ構造化されたシリコンウェハーのような、本発明の教示に基づいて形成されたミクロ構造化されたシリコンウェハーの用途は、光検出器に限定されない。例えば、そのようなシリコンウェハーは、太陽電池を製造するために用いることができる。いくつかの場合では、太陽電池を生み出すのに用いられるミクロ構造化されたウェハーに関連する、基板ドーピングのような、さまざまなパラメーターの最適な値は、シリコン光検出器の製造での最適な値とは異なることもある。太陽電池は、高い量子効率を備えたPN接合フォトダイオードと考えられてよい。光子のフォト担体への変換は、その物理的機構によって光が太陽電池内で電子に変換される物理的機構である。しかし、光検出器と太陽電池との間には根本的な違いがある。光検出器は、「光導電性」モードで一般に動作し、逆バイアスが光検出器に加えられ、電流が測定される。対照的に、太陽電池は、「光電圧」モードで動作し、太陽電池は、開回路モードで動作し、または、バイアス電圧を加えずに負荷に取り付けられる。
【0082】
ある実施の形態では、ミクロ構造化された層は、約4kJ/m2のフルエンスを有するフェムト秒(例えば、100フェムト秒、中心波長800nm)レーザーパルスでシリコン基板上の複数の位置を最初に照射し、その後約1時間に亘って1075Kで焼き鈍しすることによって、pドープされた結晶シリコン基板に形成される。次に、そのウェハーは、太陽電池を製造するのに用いられる。より詳しく言うと、金属製接触部、例えば、Cr/Au接触部が、ミクロ構造化された層の表面の選択された部分をコーティングし同時に表面の少なくとも一つの部分を、放射線を受け取るために覆われない状態で残すように、例えば、フィンガーグリッド金属製パターンが表面に配置されるように、ミクロ構造化された層の表面に蒸着されてよい。さらに、基板の背面である、構造化された表面とは反対側の構造化されていない表面は、例えば蒸着によって、金属製コーティングで覆われてよい。負荷が、ウェハーの両側に設けられた金属層に電気的に接続されることによってウェハーに取り付けられてよい。
【0083】
図20は、照明された状態および照明されていない状態での、太陽電池として用いることができる高い固有抵抗(約1オームメートルより大きい固有抵抗)のシリコン基板内に形成された、ウェハーの電流・電圧(I−V)特性を比較したデータを示している。そして、図21は、低い固有抵抗(約0.01オームメートルから0.1オームメートルの範囲内の固有抵抗)のシリコン基板内に形成されたウェハーの同様の比較対照データを示している。大きい固有抵抗の基板を用いて製造された太陽電池は、0.4ボルトの開回路電圧と、13.4mAの閉回路電流(short circuit current)を有し、一方、小さい固有抵抗の基板を用いて製造された太陽電池は、0.31Vの開回路電圧と、13.45mAの閉回路電流と、を有している。このデータは、例示の目的のみで、そして、本発明の教示に基づいてミクロ構造化されたウェハーを太陽電池の形成に用いる可能性を示すために、提供されたことが、理解されるはずである。しかし、このデータは、本発明の教示に基づいて生み出された太陽電池の最適な性能を示すことを意図されていない。例えば、電気的接触部の基板への堆積は、上記の性能より良好な性能を得るために最適化されてよい。
【0084】
別の応用では、本発明の教示に基づいてミクロ構造化されたシリコンウェハーは、電界放射器として用いられてもよい。言い換えれば、電界がミクロ構造化された表面に加えられて、表面から電子が放射されてよい。ミクロ構造化されたウェハーを、電界放射電流を生み出すために用いる可能性を示すために、複数のプロトタイプの例示的なミクロ構造化されたウェハーが製造され、これらのウェハーによって生み出された電界放射電流が測定された。これらの測定を行うための実験セットアップが、図22に模式的に示されている。金コーティング60が背面に蒸着されたミクロ構造化されたシリコンサンプル58が、金コーティング64を備えたシリコンウェハー62に取り付けられ、シリコンウェハー62は、アノードとして機能し、かつ、一対のマイカスペーサ(mica spacers)66,68によってサンプル58から切り離されている。取り付けられたサンプルは、真空チャンバ内に配置され、真空チャンバは約1.3×10-4パスカル(約10-6トル)の圧力に排気される。電位差が、ミクロ構造化されたサンプル58と金コーティングされたアノードとの間に加えられてよい。そして、放射電流が、各加えられた電圧に対して、例えば、ピコアンメーター70によって測定され、ピコアンメーター70と直列に接続されて配置された抵抗性要素72がピコアンメーター70を予期せぬ電流サージから保護する。
【0085】
図23は、SF6が存在する状態でミクロ構造化されたシリコンサンプルに対して測定された電界放射電流の例示的な結果を示している。電界放射面の利益の典型的な形態は、その電界に対して0.01マイクロアンペア/mm2の電流密度が観測される電界(先端-アノード間隔(tip-to-anode spacing)によって分離されているバイアス電圧)として定義されるターンオン電界と、その電界で0.1マイクロアンペア/mm2の電流密度が生み出される電界として定義される閾値電界と、である。SF6が存在する状態でミクロ構造化された複数の例示的なプロトタイプの基板のターンオン電界は、1.3ボルト/マイクロメートルとして測定され、閾値電界は、2.15ボルト/マイクロメートルとして測定され、これらの電界の値はナノチューブによって示される値と同様の優れた値である。
【0086】
当業者は、さまざまな変形が本発明の範囲を逸脱せずに上記の実施の形態に行われることを適正に評価するはずである。上記のさまざまな例示的なデータが、本発明のさまざまな態様の顕著な特徴を例示することのみを意図されていて、本発明の範囲を限定することを意図されていないことも理解されるはずである。
【0087】
〔実施の態様〕
この発明の具体的な実施態様は以下の通りである。
(1)放射線吸収半導体構造を製造する方法において、
シリコン基板の表面の複数の位置の各々を一つ以上のフェムト秒レーザーパルスで照射すると同時に、前記表面を、硫黄を含有する物質に露出して、前記基板の表面層に複数の硫黄含有物を生み出す過程と、
前記基板を、ほぼ数秒からほぼ数時間までの範囲内の期間に亘って、ほぼ500Kからほぼ1100Kまでの範囲内の温度で、焼き鈍しする過程と、
を具備する、方法。
(2)実施態様(1)に記載の方法において、
前記レーザーパルスの各々のパルス期間を、ほぼ50フェムト秒からほぼ500フェムト秒までの範囲内にあるように選択する過程、
をさらに具備する、方法。
(3)実施態様(1)に記載の方法において、
前記パルスのフルエンスが、ほぼ1kJ/m2からほぼ15kJ/m2までの範囲内にあるように選択する過程、
をさらに具備する、方法。
(4)実施態様(1)に記載の方法において、
前記レーザーパルスの中心波長が、ほぼ200nmからほぼ800nmまでの範囲内にあるように選択する過程、
をさらに具備する、方法。
(5)実施態様(1)に記載の方法において、
前記位置の各々を、2からほぼ500までの範囲内の個数のレーザーパルスに、露出する過程、
をさらに具備する、方法。
【0088】
(6)実施態様(1)に記載の方法において、
前記表面の前記位置の各々を、ほぼ1マイクロ秒からほぼ1ミリ秒までの範囲内の時間間隔で互いに隔てられた連続するレーザーパルスに当てる過程、
をさらに具備する、方法。
(7)実施態様(1)に記載の方法において、
前記焼き鈍しする過程を、不活性雰囲気中または低圧雰囲気中で実行する過程、
をさらに具備する、方法。
(8)実施態様(1)に記載の方法において、
前記硫黄を含有する物質を、SF6およびH2Sのいずれかであるように選択する過程、
をさらに具備する、方法。
(9)実施態様(1)に記載の方法において、
前記半導体構造が、ほぼ0.25マイクロメートルからほぼ10マイクロメートルまでの範囲内の波長成分を有する放射線を吸収する、方法。
(10)実施態様(1)に記載の方法において、
前記半導体構造が、ほぼ0.35マイクロメートルからほぼ2.5マイクロメートルまでの範囲内の波長成分を有する放射線を吸収する、方法。
【0089】
(11)実施態様(1)に記載の方法において、
前記半導体構造が、ほぼ1.2マイクロメートルからほぼ2.5マイクロメートルまでの波長成分に対して実質的に均一な吸収度を示す、方法。
(12)光検出器を製造する方法において、
ほぼ0.25マイクロメートルからほぼ3.5マイクロメートルまでの範囲内の波長の放射線を吸収し、前記範囲内の波長でダイオード的な電流・電圧特性(diodic current-voltage characteristic)を示す、半導体構造を形成する過程、
を具備し、
前記形成する過程が、
シリコン基板の表面の一つ以上の位置を短いパルス幅を有する一つ以上のレーザーパルスで照射すると同時に、前記表面を、硫黄を含む気体に露出して、硫黄含有物を有するミクロ構造化された層を生み出す過程と、
前記基板を、ほぼ数秒からほぼ数時間までの範囲内の期間に亘って、ほぼ500Kからほぼ1000Kまでの範囲内の温度で焼き鈍しする過程と、
前記半導体構造の選択された部分に複数の金属製の接触部を堆積し、前記半導体構造に逆バイアス電圧を加えることができるようにする過程と、
を含む、方法。
(13)実施態様(12)に記載の方法において、
前記パルス幅が、ほぼ数十フェムト秒からほぼ数十ナノ秒までの範囲内にあるように選択される、方法。
(14)実施態様(12)に記載の方法において、
前記硫黄を含む物質が、SF6およびH2Sのいずれかであるように選択する過程、
をさらに具備する、方法。
(15)実施態様(12)に記載の方法において、
前記焼き鈍しする過程を、不活性雰囲気中で実行する過程、
をさらに具備する、方法。
【0090】
(16)実施態様(12)に記載の方法において、
前記堆積する過程が、
一つ以上の選択された金属を前記半導体構造の前記選択された部分に熱蒸着する過程、
を含む、方法。
(17)実施態様(12)に記載の方法において、
前記金属製の接触部の厚みを、ほぼ5nmからほぼ100nmまでの範囲内にあるように選択する過程、
をさらに具備する、方法。
(18)実施態様(16)に記載の方法において、
前記堆積する過程が、
前記半導体構造の選択された部分に、クロム層を熱蒸着し、その後、金層を熱蒸着して、少なくとも一つの前記金属接触部を生み出す過程、
を含む、方法。
(19)実施態様(18)に記載の方法において、
前記クロム層の厚みを、ほぼ1nmからほぼ5nmまでの範囲内にあるように選択する過程、
をさらに具備する、方法。
(20)実施態様(19)に記載の方法において、
前記金層の厚みを、ほぼ4nmからほぼ100nmまでの範囲内にあるように選択する過程、
をさらに具備する、方法。
【0091】
(21)実施態様(12)に記載の方法において、
前記金属接触部を、前記ミクロ構造化された層の少なくとも一部が外部の放射線を受け取ることができるようにしておくよう、構成する過程、
をさらに具備する、方法。
(22)半導体構造を製造する方法において、
シリコン基板の表面の複数の位置を、ほぼ50フェムト秒からほぼ500フェムト秒までの範囲内のパルス幅を有する一つ以上のレーザーパルスで照射すると同時に、前記表面を、電子供与性の成分を有する物質に露出して、前記電子供与性の成分を組み込んだ含有物を含むミクロ構造化された表面層を生み出す過程と、
前記基板を、選択された期間に亘って、ほぼ500Kからほぼ1100Kまでの範囲内の高温で焼き鈍しする過程と、
を具備する、方法。
(23)実施態様(22)に記載の方法において、
前記電子供与性の成分を、塩素(Cl2)、窒素(N2)、および、空気、のうちのいずれかであるように選択する過程、
をさらに具備する、方法。
(24)実施態様(22)に記載の方法において、
前記照射する過程が、
前記表面に実質的に垂直な向きに沿って前記レーザーパルスを前記表面に指向する過程、
をさらに含む、方法。
(25)実施態様(22)に記載の方法において、
前記選択された焼き鈍し期間が、ほぼ数秒からほぼ数時間までの範囲内にある、方法。
【0092】
(26)実施態様(22)に記載の方法において、
前記焼き鈍しする過程が、不活性雰囲気中で実行される、方法。
(27)放射線吸収半導体ウェハーを製造する方法において、
シリコン基板の表面の少なくとも一つの位置を複数の一時的な短いレーザーパルスで照射すると同時に、前記位置を、電子供与性の成分を有する物質に露出して、所定の濃度の前記電子供与性の成分を組み込んだ、実質的に不規則な表面層を生み出す過程と、
前記基板を、前記実質的に不規則な表面層内の電荷担体密度を増強するように選択された、高温で、かつ、所定の期間に亘って、焼き鈍しする過程と、
を具備する、方法。
(28)実施態様(27)に記載の方法において、
前記高温および期間が、前記表面層内の担体電子の濃度を増強するように、前記表面層内の原子結合の再配置を引き起こすように選択されている、方法。
(29)実施態様(27)に記載の方法において、
前記高温および期間が、前記表面層内の電子担体密度を、焼き鈍しする前のレベルに比べて、ほぼ10%からほぼ200%までの範囲内だけ、増強するように選択されている、方法。
(30)実施態様(27)に記載の方法において、
前記高温および期間は、前記表面層が下側のシリコン基板とダイオード接合を形成するように、選択されている、方法。
【0093】
(31)実施態様(27)に記載の方法において、
前記高温および期間は、前記焼き鈍しされた基板が、前記表面層をほぼ250nmからほぼ1100nmまでの範囲内の波長を有する放射線に露出し、ほぼ0.1Vからほぼ15Vまでの範囲内の逆バイアスを前記ウェハーに加えたときに、ほぼ1A/Wからほぼ200A/Wまでの範囲内の応答度を示すように、選択されている、方法。
(32)実施態様(27)に記載の方法において、
前記高温は、ほぼ500Kからほぼ1100Kまでの範囲内にあるように選択されている、方法。
(33)実施態様(27)に記載の方法において、
前記期間は、ほぼ数秒からほぼ数時間までの範囲内にあるように選択されている、方法。
(34)実施態様(27)に記載の方法において、
前記短いレーザーパルスを、ほぼ数十フェムト秒からほぼ数十ナノ秒までの範囲内のパルス幅を有するように選択する過程、
をさらに具備する、方法。
(35)実施態様(27)に記載の方法において、
前記表面層内に組み込まれた前記電子供与性の成分の濃度が、ほぼ0.5原子パーセントから約5原子パーセントまでの範囲内にあるように、前記パルスのフルエンス、および、前記電子供与性の成分を有する物質の分圧を、選択する過程、
をさらに具備する、方法。
【0094】
(36)放射線吸収半導体ウェハーを製造する方法において、
シリコン基板の表面の少なくとも一つの位置を一時的な短いレーザーパルスで照射すると同時に、前記基板を、電子供与性の成分を有する物質に露出して、前記電子供与性の成分を含む含有物を有するミクロ構造化された表面層を生み出す過程と、
前記基板を、前記ミクロ構造化された表面層に入射するほぼ250nmからほぼ1100nmまでの範囲内の少なくとも一つの波長を有する放射線に対する前記ミクロ構造化された基板の応答度が、少なくともほぼ10倍だけ増強されるように選択された、高温で、および、所定の期間に亘って、焼き鈍しする過程と、
を具備する、方法。
(37)実施態様(27)に記載の方法において、
前記焼き鈍し温度が、ほぼ700Kからほぼ900Kまでの範囲内にある、方法。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】放射線吸収に適したミクロ構造化されたシリコンウェハーを生み出すための例示的な実施の形態のさまざまな過程を示すフロー図である。
【図2】本発明のある態様に基づくシリコンウェハーをミクロ構造化するための例示的な装置の模式図である。
【図3】800nmの中心波長およびほぼ5kJ/m2のフルエンスを有する100フェムト秒パルスでシリコン表面を照射した後の、シリコン表面に対して45度の角度で得られた、シリコン表面の走査電子顕微鏡画像の図である。
【図4】本発明の教示に基づいてミクロ構造化されたシリコンサンプルの応答度およびホール効果の測定を行うための例示的なセットアップを示す図である。
【図5】SF6が存在する状態でウェハーをミクロ構造化するために用いられた、一つの位置当り100レーザーショット(8kJ/m2)の平均値を関数とするプロトタイプのミクロ構造化されたシリコンウェハーの波長吸収率のグラフを示す図である。
【図6】プロトタイプのシリコンウェハーを複数のフェムト秒レーザーパルスでミクロ構造化した後にさまざまな温度で焼き鈍しされた(室温(300K)のデータは焼き鈍しされていないウェハーに相当する)複数のプロトタイプのシリコンウェハーの吸収率の波長依存性のグラフを示す図である。
【図7】ほぼ30分に亘って875Kで熱的に焼き鈍しされる前と焼き鈍しされた後の、例示的なフェムト秒レーザーで形成されたミクロ構造化されたシリコンウェハーとナノ秒レーザーで形成されたミクロ構造に対する吸収率の波長依存性のグラフを示す図である(波長の関数として構造化されてないシリコン基板の吸光度も比較目的で示されている)。
【図8A】焼き鈍しなしで、さまざまな気体が存在する状態で、500レーザーショットのフェムト秒パルス(8KJ/m2のフルエンス)に露出することによってミクロ構造化された複数のプロトタイプのシリコンウェハーに対する波長を関数とする吸収率のグラフ(グラフで示された真空は、ほぼ0.1パスカル(10-6バール)より低いベース圧力での真空チャンバ内でミクロ構造化されたウェハーに関連する。)を示す図である。
【図8B】バンドギャップの下での吸収の増強に対する硫黄の組み込みの正の効果を示す、500ショットの100フェムト秒レーザーパルス(硫黄ベアリングガスおよび非硫黄ベアリングガスが存在する状態で8kJ/m2のフルエンス)に露出することによってミクロ構造化された複数のプロトタイプのシリコンウェハーに対する波長の関数としての吸収率データを示す図である。
【図9】さまざまな分圧でのSF6が存在する状態でのフェムト秒レーザーパルスによってミクロ構造化された複数のプロトタイプのシリコンウェハーに対する吸収率の波長依存性のグラフを示す図である。
【図10】熱平衡状態でのPN接合の模式図である。
【図11A】本発明のある実施の形態に基づいて形成された光検出器の斜視図である。
【図11B】図11Aに示された光検出器の側面図である。
【図12】焼き鈍しを行わない、または、さまざまな焼き鈍し温度での焼き鈍しを行った、フェムト秒レーザーパルスに露出することによってミクロ構造化された複数の例示的シリコンウェハーの電流・電圧特性のグラフを示す図である。
【図13】非常に増強された応答度が、レーザーミクロ構造化が行われたウェハーの賢明な焼き鈍しによって得られることを示す、波長の関数としての(焼き鈍しを行わない、または、さまざまな温度での焼き鈍しを行った)SF6の存在する状態でフェムト秒レーザーパルスに露出することによってミクロ構造化された複数のシリコンウェハーの応答度を市販のフォトダイオードの応答度と比較して示したグラフを示す図である。
【図14】さまざまなレーザーフルエンスでフェムト秒レーザーパルス、および、825Kでの焼き鈍し、によってミクロ構造化された複数の例示的なプロトタイプのシリコンウェハーの電流・電圧特性のグラフを示す図である。
【図15A】さまざまなフルエンスのフェムト秒レーザーパルス、および、ほぼ30分間に亘る825Kの焼き鈍し、によってミクロ構造化されたプロトタイプのシリコンウェハーに対する応答度の測定値を比較して示したグラフを示す図である。
【図15B】さまざまなフルエンスのフェムト秒レーザーパルス、および、ほぼ30分間に亘る1075Kの焼き鈍し、によってミクロ構造化されたプロトタイプのシリコンウェハーに対する応答度の測定値を比較して示したグラフを示す図である。
【図16A】6kJ/m2のフルエンスでのフェムト秒レーザーパルスに露出し、続いて、ほぼ30分間に亘る825Kでの焼き鈍しによって、ミクロ構造化されたnドープされた、および、pドープされた、シリコン基板に対する電流・電圧特性を示す図である。
【図16B】4kJ/m2のフルエンスでのフェムト秒レーザーパルスに露出し、続いて、ほぼ30分間に亘る1075Kでの焼き鈍しによって、ミクロ構造化されたnドープされた、および、pドープされた、シリコン基板に対する電流・電圧特性を示す図である。
【図17A】2つの異なるレーザーフルエンス(4kJ/m2および6kJ/m2)および、ほぼ30分間に亘る825Kでの焼き鈍しによってミクロ構造化されたプロトタイプの例示的なnドープされた、および、pドープされた、シリコン基板に対する応答度の測定値を示す図である。
【図17B】4kJ/m2のフルエンスでのフェムト秒レーザーパルスおよびほぼ30分間に亘る1075Kでの焼き鈍しによってミクロ構造化されたプロトタイプの例示的なnドープされた、および、pドープされた、シリコン基板に対する応答度の測定値を示す図である。
【図18】4kJ/m2のフルエンスでのフェムト秒レーザーパルスによる照射および、ほぼ30分間に亘る825Kでの焼き鈍しによってミクロ構造化されたnドープされたシリコン基板に対する逆バイアスの関数として応答度(測定は、ほぼ50マイクロワットの電力で白色光源を用いて行われた。)を示すグラフを示す図である。
【図19A】4kJ/m2のフルエンスでのフェムト秒レーザーパルスおよび825Kでの焼き鈍しによってミクロ構造化されたnドープされたシリコンサンプルの電流・電圧特性を動作温度の関数として示したグラフを示す図である。
【図19B】1064nmの波長を有する入射放射線に対するミクロ構造化されたシリコンウェハーの応答度を動作温度の関数として示したグラフを示す図である。
【図20】一度太陽光で照らしたまたは太陽光で照らさない、太陽電池として用いることができる応答度の高い(1オームメートルより高い応答度)ミクロ構造化されたシリコンウェハーに対する電流・電圧特性を示す図である。
【図21】一度太陽光で照らしたまたは太陽光で照らさない、太陽電池として用いることができる応答度の低い(例えば、ほぼ0.01オームメートルからほぼ0.1オームメートルまでの範囲内の応答度)ミクロ構造化されたシリコンウェハーに対する電流・電圧特性を示す図である。
【図22】本発明の教示に基づいてミクロ構造化されたシリコン基板の電界放射を測定するための、ある例示的なセットアップを示す模式図である。
【図23】SF6の存在する状態でフェムト秒レーザーパルスに露出することによってミクロ構造化されたシリコンウェハーによって生み出された電界放射電流をシリコンウェハーに印加された電位差の関数として示したグラフを示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線吸収半導体構造を製造する方法において、
シリコン基板の表面の複数の位置の各々を一つ以上のフェムト秒レーザーパルスで照射すると同時に、前記表面を、硫黄を含有する物質に露出して、前記基板の表面層に複数の硫黄含有物を生み出す過程と、
前記基板を、ほぼ数秒からほぼ数時間までの範囲内の期間に亘って、ほぼ500Kからほぼ1100Kまでの範囲内の温度で、焼き鈍しする過程と、
を具備する、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
前記レーザーパルスの各々のパルス期間を、ほぼ50フェムト秒からほぼ500フェムト秒までの範囲内にあるように選択する過程、
をさらに具備する、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、
前記パルスのフルエンスが、ほぼ1kJ/m2からほぼ15kJ/m2までの範囲内にあるように選択する過程、
をさらに具備する、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、
前記レーザーパルスの中心波長が、ほぼ200nmからほぼ800nmまでの範囲内にあるように選択する過程、
をさらに具備する、方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法において、
前記位置の各々を、2からほぼ500までの範囲内の個数のレーザーパルスに、露出する過程、
をさらに具備する、方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法において、
前記表面の前記位置の各々を、ほぼ1マイクロ秒からほぼ1ミリ秒までの範囲内の時間間隔で互いに隔てられた連続するレーザーパルスに当てる過程、
をさらに具備する、方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法において、
前記焼き鈍しする過程を、不活性雰囲気中または低圧雰囲気中で実行する過程、
をさらに具備する、方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法において、
前記硫黄を含有する物質を、SF6およびH2Sのいずれかであるように選択する過程、
をさらに具備する、方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法において、
前記半導体構造が、ほぼ0.25マイクロメートルからほぼ10マイクロメートルまでの範囲内の波長成分を有する放射線を吸収する、方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法において、
前記半導体構造が、ほぼ0.35マイクロメートルからほぼ2.5マイクロメートルまでの範囲内の波長成分を有する放射線を吸収する、方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法において、
前記半導体構造が、ほぼ1.2マイクロメートルからほぼ2.5マイクロメートルまでの波長成分に対して実質的に均一な吸収度を示す、方法。
【請求項12】
光検出器を製造する方法において、
ほぼ0.25マイクロメートルからほぼ3.5マイクロメートルまでの範囲内の波長の放射線を吸収し、前記範囲内の波長でダイオード的な電流・電圧特性を示す、半導体構造を形成する過程、
を具備し、
前記形成する過程が、
シリコン基板の表面の一つ以上の位置を短いパルス幅を有する一つ以上のレーザーパルスで照射すると同時に、前記表面を、硫黄を含む気体に露出して、硫黄含有物を有するミクロ構造化された層を生み出す過程と、
前記基板を、ほぼ数秒からほぼ数時間までの範囲内の期間に亘って、ほぼ500Kからほぼ1000Kまでの範囲内の温度で焼き鈍しする過程と、
前記半導体構造の選択された部分に複数の金属製の接触部を堆積し、前記半導体構造に逆バイアス電圧を加えることができるようにする過程と、
を含む、方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、
前記パルス幅が、ほぼ数十フェムト秒からほぼ数十ナノ秒までの範囲内にあるように選択される、方法。
【請求項14】
請求項12に記載の方法において、
前記硫黄を含む物質が、SF6およびH2Sのいずれかであるように選択する過程、
をさらに具備する、方法。
【請求項15】
請求項12に記載の方法において、
前記焼き鈍しする過程を、不活性雰囲気中で実行する過程、
をさらに具備する、方法。
【請求項16】
請求項12に記載の方法において、
前記堆積する過程が、
一つ以上の選択された金属を前記半導体構造の前記選択された部分に熱蒸着する過程、
を含む、方法。
【請求項17】
請求項12に記載の方法において、
前記金属製の接触部の厚みを、ほぼ5nmからほぼ100nmまでの範囲内にあるように選択する過程、
をさらに具備する、方法。
【請求項18】
請求項16に記載の方法において、
前記堆積する過程が、
前記半導体構造の選択された部分に、クロム層を熱蒸着し、その後、金層を熱蒸着して、少なくとも一つの前記金属接触部を生み出す過程、
を含む、方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法において、
前記クロム層の厚みを、ほぼ1nmからほぼ5nmまでの範囲内にあるように選択する過程、
をさらに具備する、方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法において、
前記金層の厚みを、ほぼ4nmからほぼ100nmまでの範囲内にあるように選択する過程、
をさらに具備する、方法。
【請求項21】
請求項12に記載の方法において、
前記金属接触部を、前記ミクロ構造化された層の少なくとも一部が外部の放射線を受け取ることができるようにしておくよう、構成する過程、
をさらに具備する、方法。
【請求項22】
半導体構造を製造する方法において、
シリコン基板の表面の複数の位置を、ほぼ50フェムト秒からほぼ500フェムト秒までの範囲内のパルス幅を有する一つ以上のレーザーパルスで照射すると同時に、前記表面を、電子供与性の成分を有する物質に露出して、前記電子供与性の成分を組み込んだ含有物を含むミクロ構造化された表面層を生み出す過程と、
前記基板を、選択された期間に亘って、ほぼ500Kからほぼ1100Kまでの範囲内の高温で焼き鈍しする過程と、
を具備する、方法。
【請求項23】
請求項22に記載の方法において、
前記電子供与性の成分を、塩素(Cl2)、窒素(N2)、および、空気、のうちのいずれかであるように選択する過程、
をさらに具備する、方法。
【請求項24】
請求項22に記載の方法において、
前記照射する過程が、
前記表面に実質的に垂直な向きに沿って前記レーザーパルスを前記表面に指向する過程、
をさらに含む、方法。
【請求項25】
請求項22に記載の方法において、
前記選択された焼き鈍し期間が、ほぼ数秒からほぼ数時間までの範囲内にある、方法。
【請求項26】
請求項22に記載の方法において、
前記焼き鈍しする過程が、不活性雰囲気中で実行される、方法。
【請求項27】
放射線吸収半導体ウェハーを製造する方法において、
シリコン基板の表面の少なくとも一つの位置を複数の一時的な短いレーザーパルスで照射すると同時に、前記位置を、電子供与性の成分を有する物質に露出して、所定の濃度の前記電子供与性の成分を組み込んだ、実質的に不規則な表面層を生み出す過程と、
前記基板を、前記実質的に不規則な表面層内の電荷担体密度を増強するように選択された、高温で、かつ、所定の期間に亘って、焼き鈍しする過程と、
を具備する、方法。
【請求項28】
請求項27に記載の方法において、
前記高温および期間が、前記表面層内の担体電子の濃度を増強するように、前記表面層内の原子結合の再配置を引き起こすように選択されている、方法。
【請求項29】
請求項27に記載の方法において、
前記高温および期間が、前記表面層内の電子担体密度を、焼き鈍しする前のレベルに比べて、ほぼ10%からほぼ200%までの範囲内だけ、増強するように選択されている、方法。
【請求項30】
請求項27に記載の方法において、
前記高温および期間は、前記表面層が下側のシリコン基板とダイオード接合を形成するように、選択されている、方法。
【請求項31】
請求項27に記載の方法において、
前記高温および期間は、前記焼き鈍しされた基板が、前記表面層をほぼ250nmからほぼ1100nmまでの範囲内の波長を有する放射線に露出し、ほぼ0.1Vからほぼ15Vまでの範囲内の逆バイアスを前記ウェハーに加えたときに、ほぼ1A/Wからほぼ200A/Wまでの範囲内の応答度を示すように、選択されている、方法。
【請求項32】
請求項27に記載の方法において、
前記高温は、ほぼ500Kからほぼ1100Kまでの範囲内にあるように選択されている、方法。
【請求項33】
請求項27に記載の方法において、
前記期間は、ほぼ数秒からほぼ数時間までの範囲内にあるように選択されている、方法。
【請求項34】
請求項27に記載の方法において、
前記短いレーザーパルスを、ほぼ数十フェムト秒からほぼ数十ナノ秒までの範囲内のパルス幅を有するように選択する過程、
をさらに具備する、方法。
【請求項35】
請求項27に記載の方法において、
前記表面層内に組み込まれた前記電子供与性の成分の濃度が、ほぼ0.5原子パーセントから約5原子パーセントまでの範囲内にあるように、前記パルスのフルエンス、および、前記電子供与性の成分を有する物質の分圧を、選択する過程、
をさらに具備する、方法。
【請求項36】
放射線吸収半導体ウェハーを製造する方法において、
シリコン基板の表面の少なくとも一つの位置を一時的な短いレーザーパルスで照射すると同時に、前記基板を、電子供与性の成分を有する物質に露出して、前記電子供与性の成分を含む含有物を有するミクロ構造化された表面層を生み出す過程と、
前記基板を、前記ミクロ構造化された表面層に入射するほぼ250nmからほぼ1100nmまでの範囲内の少なくとも一つの波長を有する放射線に対する前記ミクロ構造化された基板の応答度が、少なくともほぼ10倍だけ増強されるように選択された、高温で、および、所定の期間に亘って、焼き鈍しする過程と、
を具備する、方法。
【請求項37】
請求項27に記載の方法において、
前記焼き鈍し温度が、ほぼ700Kからほぼ900Kまでの範囲内にある、方法。
【請求項1】
放射線吸収半導体構造を製造する方法において、
シリコン基板の表面の複数の位置の各々を一つ以上のフェムト秒レーザーパルスで照射すると同時に、前記表面を、硫黄を含有する物質に露出して、前記基板の表面層に複数の硫黄含有物を生み出す過程と、
前記基板を、ほぼ数秒からほぼ数時間までの範囲内の期間に亘って、ほぼ500Kからほぼ1100Kまでの範囲内の温度で、焼き鈍しする過程と、
を具備する、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
前記レーザーパルスの各々のパルス期間を、ほぼ50フェムト秒からほぼ500フェムト秒までの範囲内にあるように選択する過程、
をさらに具備する、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、
前記パルスのフルエンスが、ほぼ1kJ/m2からほぼ15kJ/m2までの範囲内にあるように選択する過程、
をさらに具備する、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、
前記レーザーパルスの中心波長が、ほぼ200nmからほぼ800nmまでの範囲内にあるように選択する過程、
をさらに具備する、方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法において、
前記位置の各々を、2からほぼ500までの範囲内の個数のレーザーパルスに、露出する過程、
をさらに具備する、方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法において、
前記表面の前記位置の各々を、ほぼ1マイクロ秒からほぼ1ミリ秒までの範囲内の時間間隔で互いに隔てられた連続するレーザーパルスに当てる過程、
をさらに具備する、方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法において、
前記焼き鈍しする過程を、不活性雰囲気中または低圧雰囲気中で実行する過程、
をさらに具備する、方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法において、
前記硫黄を含有する物質を、SF6およびH2Sのいずれかであるように選択する過程、
をさらに具備する、方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法において、
前記半導体構造が、ほぼ0.25マイクロメートルからほぼ10マイクロメートルまでの範囲内の波長成分を有する放射線を吸収する、方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法において、
前記半導体構造が、ほぼ0.35マイクロメートルからほぼ2.5マイクロメートルまでの範囲内の波長成分を有する放射線を吸収する、方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法において、
前記半導体構造が、ほぼ1.2マイクロメートルからほぼ2.5マイクロメートルまでの波長成分に対して実質的に均一な吸収度を示す、方法。
【請求項12】
光検出器を製造する方法において、
ほぼ0.25マイクロメートルからほぼ3.5マイクロメートルまでの範囲内の波長の放射線を吸収し、前記範囲内の波長でダイオード的な電流・電圧特性を示す、半導体構造を形成する過程、
を具備し、
前記形成する過程が、
シリコン基板の表面の一つ以上の位置を短いパルス幅を有する一つ以上のレーザーパルスで照射すると同時に、前記表面を、硫黄を含む気体に露出して、硫黄含有物を有するミクロ構造化された層を生み出す過程と、
前記基板を、ほぼ数秒からほぼ数時間までの範囲内の期間に亘って、ほぼ500Kからほぼ1000Kまでの範囲内の温度で焼き鈍しする過程と、
前記半導体構造の選択された部分に複数の金属製の接触部を堆積し、前記半導体構造に逆バイアス電圧を加えることができるようにする過程と、
を含む、方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、
前記パルス幅が、ほぼ数十フェムト秒からほぼ数十ナノ秒までの範囲内にあるように選択される、方法。
【請求項14】
請求項12に記載の方法において、
前記硫黄を含む物質が、SF6およびH2Sのいずれかであるように選択する過程、
をさらに具備する、方法。
【請求項15】
請求項12に記載の方法において、
前記焼き鈍しする過程を、不活性雰囲気中で実行する過程、
をさらに具備する、方法。
【請求項16】
請求項12に記載の方法において、
前記堆積する過程が、
一つ以上の選択された金属を前記半導体構造の前記選択された部分に熱蒸着する過程、
を含む、方法。
【請求項17】
請求項12に記載の方法において、
前記金属製の接触部の厚みを、ほぼ5nmからほぼ100nmまでの範囲内にあるように選択する過程、
をさらに具備する、方法。
【請求項18】
請求項16に記載の方法において、
前記堆積する過程が、
前記半導体構造の選択された部分に、クロム層を熱蒸着し、その後、金層を熱蒸着して、少なくとも一つの前記金属接触部を生み出す過程、
を含む、方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法において、
前記クロム層の厚みを、ほぼ1nmからほぼ5nmまでの範囲内にあるように選択する過程、
をさらに具備する、方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法において、
前記金層の厚みを、ほぼ4nmからほぼ100nmまでの範囲内にあるように選択する過程、
をさらに具備する、方法。
【請求項21】
請求項12に記載の方法において、
前記金属接触部を、前記ミクロ構造化された層の少なくとも一部が外部の放射線を受け取ることができるようにしておくよう、構成する過程、
をさらに具備する、方法。
【請求項22】
半導体構造を製造する方法において、
シリコン基板の表面の複数の位置を、ほぼ50フェムト秒からほぼ500フェムト秒までの範囲内のパルス幅を有する一つ以上のレーザーパルスで照射すると同時に、前記表面を、電子供与性の成分を有する物質に露出して、前記電子供与性の成分を組み込んだ含有物を含むミクロ構造化された表面層を生み出す過程と、
前記基板を、選択された期間に亘って、ほぼ500Kからほぼ1100Kまでの範囲内の高温で焼き鈍しする過程と、
を具備する、方法。
【請求項23】
請求項22に記載の方法において、
前記電子供与性の成分を、塩素(Cl2)、窒素(N2)、および、空気、のうちのいずれかであるように選択する過程、
をさらに具備する、方法。
【請求項24】
請求項22に記載の方法において、
前記照射する過程が、
前記表面に実質的に垂直な向きに沿って前記レーザーパルスを前記表面に指向する過程、
をさらに含む、方法。
【請求項25】
請求項22に記載の方法において、
前記選択された焼き鈍し期間が、ほぼ数秒からほぼ数時間までの範囲内にある、方法。
【請求項26】
請求項22に記載の方法において、
前記焼き鈍しする過程が、不活性雰囲気中で実行される、方法。
【請求項27】
放射線吸収半導体ウェハーを製造する方法において、
シリコン基板の表面の少なくとも一つの位置を複数の一時的な短いレーザーパルスで照射すると同時に、前記位置を、電子供与性の成分を有する物質に露出して、所定の濃度の前記電子供与性の成分を組み込んだ、実質的に不規則な表面層を生み出す過程と、
前記基板を、前記実質的に不規則な表面層内の電荷担体密度を増強するように選択された、高温で、かつ、所定の期間に亘って、焼き鈍しする過程と、
を具備する、方法。
【請求項28】
請求項27に記載の方法において、
前記高温および期間が、前記表面層内の担体電子の濃度を増強するように、前記表面層内の原子結合の再配置を引き起こすように選択されている、方法。
【請求項29】
請求項27に記載の方法において、
前記高温および期間が、前記表面層内の電子担体密度を、焼き鈍しする前のレベルに比べて、ほぼ10%からほぼ200%までの範囲内だけ、増強するように選択されている、方法。
【請求項30】
請求項27に記載の方法において、
前記高温および期間は、前記表面層が下側のシリコン基板とダイオード接合を形成するように、選択されている、方法。
【請求項31】
請求項27に記載の方法において、
前記高温および期間は、前記焼き鈍しされた基板が、前記表面層をほぼ250nmからほぼ1100nmまでの範囲内の波長を有する放射線に露出し、ほぼ0.1Vからほぼ15Vまでの範囲内の逆バイアスを前記ウェハーに加えたときに、ほぼ1A/Wからほぼ200A/Wまでの範囲内の応答度を示すように、選択されている、方法。
【請求項32】
請求項27に記載の方法において、
前記高温は、ほぼ500Kからほぼ1100Kまでの範囲内にあるように選択されている、方法。
【請求項33】
請求項27に記載の方法において、
前記期間は、ほぼ数秒からほぼ数時間までの範囲内にあるように選択されている、方法。
【請求項34】
請求項27に記載の方法において、
前記短いレーザーパルスを、ほぼ数十フェムト秒からほぼ数十ナノ秒までの範囲内のパルス幅を有するように選択する過程、
をさらに具備する、方法。
【請求項35】
請求項27に記載の方法において、
前記表面層内に組み込まれた前記電子供与性の成分の濃度が、ほぼ0.5原子パーセントから約5原子パーセントまでの範囲内にあるように、前記パルスのフルエンス、および、前記電子供与性の成分を有する物質の分圧を、選択する過程、
をさらに具備する、方法。
【請求項36】
放射線吸収半導体ウェハーを製造する方法において、
シリコン基板の表面の少なくとも一つの位置を一時的な短いレーザーパルスで照射すると同時に、前記基板を、電子供与性の成分を有する物質に露出して、前記電子供与性の成分を含む含有物を有するミクロ構造化された表面層を生み出す過程と、
前記基板を、前記ミクロ構造化された表面層に入射するほぼ250nmからほぼ1100nmまでの範囲内の少なくとも一つの波長を有する放射線に対する前記ミクロ構造化された基板の応答度が、少なくともほぼ10倍だけ増強されるように選択された、高温で、および、所定の期間に亘って、焼き鈍しする過程と、
を具備する、方法。
【請求項37】
請求項27に記載の方法において、
前記焼き鈍し温度が、ほぼ700Kからほぼ900Kまでの範囲内にある、方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図16A】
【図16B】
【図17A】
【図17B】
【図18】
【図19A】
【図19B】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図16A】
【図16B】
【図17A】
【図17B】
【図18】
【図19A】
【図19B】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公表番号】特表2008−515196(P2008−515196A)
【公表日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−533655(P2007−533655)
【出願日】平成17年9月23日(2005.9.23)
【国際出願番号】PCT/US2005/034180
【国際公開番号】WO2006/086014
【国際公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【出願人】(592257310)プレジデント・アンド・フェロウズ・オブ・ハーバード・カレッジ (31)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月23日(2005.9.23)
【国際出願番号】PCT/US2005/034180
【国際公開番号】WO2006/086014
【国際公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【出願人】(592257310)プレジデント・アンド・フェロウズ・オブ・ハーバード・カレッジ (31)
【Fターム(参考)】
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