説明

硫黄の使用方法

【課題】 コストを抑制しつつ溶融状態の硫黄を処理することができる硫黄の使用方法を提供する。
【解決手段】 硫黄の使用方法は、溶融状態の硫黄を、銅製錬所の熱源として用いる工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業プロセスにおいて副産物として生じる溶融硫黄は、合成繊維、硫酸、建設資材などの材料として用いることができる。一例として、石油精製工場の脱硫工程で発生した溶融硫黄は、硫酸などとして外販されている。溶融硫黄を用いた硫酸の製造は、硫黄専用の燃焼炉を使用して行われる。まず、溶融硫黄と空気とを燃焼炉に吹き込む。それにより、溶融硫黄を燃焼させ、熱とSOガスとが生じる。熱は、廃熱ボイラに回収され、SOガスは、触媒を介してSOに転化する。このSOガスを水に吸収させることによって、硫酸を製造することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、溶融硫黄を用いて硫酸を製造する際には、硫黄の酸化熱を十分に有効利用することができない。
【0004】
本発明は、上記課題に鑑み、硫黄の酸化熱を十分に有効利用することができる硫黄の使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る硫黄の使用方法は、溶融状態の硫黄を、銅製錬所の熱源として用いることを特徴とするものである。本発明に係る硫黄の使用方法によれば、硫黄の酸化熱を十分に有効利用することができる。
【0006】
前記溶融状態の硫黄を、銅の製錬工程において熱源として用いてもよい。この場合、銅の製錬工程における燃料使用量を低減することができる。また、銅の製錬工程で用いていた硫酸製造装置を使用することができるため、新たな装置を設けなくてもよい。
【0007】
前記銅製錬の熔錬炉に熱を供給するための熱源として、前記溶融状態の硫黄の酸化熱を利用してもよい。前記熔錬炉は、自溶炉であり、前記自溶炉に、銅精鉱、溶剤、酸素含有ガス、および前記溶融状態の硫黄を投入してもよい。溶融状態の硫黄を、前記自溶炉のシャフト部に投入してもよい。前記熔錬炉は、転炉であり、前記転炉に、銅マット、溶剤、酸素含有ガス、および前記溶融状態の硫黄を投入してもよい。前記溶融状態の硫黄を前記熔錬炉内に投入する際に、ノズルを用いて前記溶融状態の硫黄を噴霧してもよい。前記溶融状態の硫黄として、石油の脱硫工程で生成された硫黄を用いてもよい。前記溶融状態の硫黄の酸化熱を、排熱ボイラを用いて回収してもよい。前記溶融状態の硫黄を熱源として用いた後に、硫酸として回収してもよい。銅製錬所の装置の修理時に、装置の保温用熱源として溶融状態の硫黄の酸化熱を用いてもよい。前記銅製錬所の装置の待機時に、前記装置の保温用熱源として前記溶融状態の硫黄の酸化熱を用いてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る硫黄の使用方法によれば、コストを抑制しつつ溶融状態の硫黄を処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】溶融状態の硫黄の使用方法を説明するための図である。
【図2】銅製錬所における溶融硫黄の使用について説明するための図である。
【図3】熔錬炉の一例として自溶炉について説明するための図である。
【図4】熔錬炉の一例として転炉について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための実施形態について説明する。
【0011】
(実施形態)
一例として、石油精製工場で生じる溶融硫黄について説明する。石油精製工場においては、石油を精製して燃料油、石油化学製品などを製造する工業プロセスが行われる。石油には大気汚染の要因となる不純物なども含まれているため、不純物を除去する工程が行われる。例えば、硫黄を除去する工程として、水素化脱硫工程が挙げられる。水素化脱硫工程とは、硫黄などの不純物を含む石油留分を触媒の存在下で水素と反応させることによって硫黄を除去する工程である。
【0012】
硫黄を含む石油留分は、ニッケル、コバルト、モリブデンなどの触媒の存在下で、水素と反応する。それにより、石油留分中の硫黄は、硫化水素となって炭化水素から分離する。その後、下記式(1)および下記式(2)で表されるクラウス反応を用いることによって、硫化水素を硫黄に変換することができる。生成した硫黄は、凝縮によって溶融状態の硫黄として回収される。
2HS + 3O → 2SO + 2HO (1)
2HS + SO → 3/2S + 2HO (2)
【0013】
この溶融硫黄は、硫酸製造工程に供することによって硫酸として外販することができる。しかしながら、硫酸を製造する際に、複数の工程を経ることになり、コストがかかる。また、硫酸を製造する工程において硫黄の酸化熱を十分に有効利用することができない。そこで、本実施形態においては、図1を参照して、溶融状態の硫黄を銅製錬所に輸送する。銅製錬所では、製錬工程などにおいて熱源を必要とする。そこで、溶融状態の硫黄の酸化熱を利用することによって、銅製錬所における燃料使用量を低減することができる。
【0014】
図2は、銅製錬所における溶融硫黄の使用について説明するための図である。図2を参照して、タンクローリー車などの輸送手段で輸送されてきた溶融硫黄は、受入ピット10に受け入れられる。受入ピット10に受け入れられた溶融硫黄は、ポンプ20を用いて硫黄タンク30に移動させることができる。硫黄タンク30に貯留されている溶融硫黄は、ポンプ40によって熔錬炉50などに供給される。なお、受入ピット10、硫黄タンク30、配管などは、溶融硫黄が固化しない程度に保温されていることが好ましい。例えば、後述する廃熱ボイラにて生成される蒸気を用いた保温が可能である。
【0015】
熔錬炉50は、溶融硫黄の酸化熱を熱源として用いる。それにより、銅製錬所において用いていた燃料使用量を低減することができる。なお、熔錬炉50で生じた廃熱を、さらに廃熱ボイラ70で回収することによって、溶融硫黄の酸化熱をさらに利用することができる。
【0016】
本実施形態によれば、石油精製工場などの工業プロセスで副産物として生じた溶融硫黄を銅製錬所において熱源として利用することができる。それにより、溶融硫黄から硫酸を製造する際に生じていた熱を有効利用することができる。その結果、銅製錬所における燃料使用量を低減することができる。特に、硫化鉱を出発原料とする銅製錬工程においては、各製錬工程で生じる硫黄酸化物が硫酸として回収されている。したがって、代替燃料として溶融硫黄を銅製錬工程で用いたとしても、新たな装置などを設けずに硫黄を硫酸として回収することができる。
【0017】
以上のことから、溶融硫黄を銅製錬所で使用することによって、溶融硫黄の酸化熱を十分に有効利用することができるとともに、硫黄を硫酸として回収するための新たな装置を設けなくてもよい。
【0018】
図3は、銅製錬工程で用いられる熔錬炉50の一例として自溶炉100について説明するための図である。図3を参照して、自溶炉100は、反応塔(シャフト部)11、セットラ12、およびアップテイク13が順に配置された構造を有する。反応塔11の上部には、精鉱バーナ14、燃料バーナ15などが設けられている。なお、燃料バーナ15は、溶融硫黄を吹き込むために用いられる。燃料バーナ15の代わりに、溶融硫黄を噴霧するためのノズルを用いてもよい。さらに、溶融硫黄以外の熱源として重油用のバーナを別途併設してもよい。
【0019】
精鉱バーナ14からは、銅精鉱、溶剤、および酸素富化空気が吹き込まれる。燃料バーナ15からは、溶融硫黄と酸素富化空気とが吹き込まれる。それにより、溶融硫黄の酸化熱を利用して、下記反応式(3)により銅精鉱が酸化反応を起こし、反応塔11の底部で銅マットとスラグとに分離する。銅マットは、転炉に供給される。なお、溶融硫黄は、銅精鉱、溶剤、および酸素富化空気とともに、精鉱バーナ14から投入されてもよい。溶融硫黄は、専用のバーナー等により、噴霧し、燃焼を容易することが好ましい。
【0020】
下記反応式(3)で、CuS・FeSがマットの主成分に相当し、FeO・SiOがスラグの主成分に相当する。なお、溶剤として、珪酸鉱(SiO)を用いている。下記式(3)の反応などによって生じた排ガスは、アップテイク13の上部から廃熱ボイラ16を用いて回収することができる。
CuFeS+SiO+O→CuS・FeS+2FeO・SiO+SO (3)
【0021】
図4は、熔錬炉50の一例として転炉17について説明するための図である。図4を参照して、転炉17を加熱および保温するために溶融硫黄を用いてもよい。例えば、転炉17の注入口から溶融硫黄と酸素富化空気とを吹き込むことによって、溶融硫黄が酸化する。この場合の酸化熱が転炉17内に供給されることから、転炉17内の銅マットを加熱および保温することができる。なお、溶融硫黄は、転炉17の羽口から供給してもよい。転炉17内で生じた排気ガスは、廃熱ボイラ18を用いて回収することができる。より好ましくは、溶融硫黄専用のバーナー等により、微細に噴霧し、燃焼効率を上げることがより好ましい。また、燃焼温度管理のため投入量は、自動遠隔操作されることが好ましい。
【0022】
なお、銅製錬所内の各装置の定期修理の際に、保温用熱源として溶融硫黄の酸化熱を利用してもよい。例えば、熔錬炉50の定期修理の際に、溶融物の固化を抑制するために、溶融硫黄の酸化熱を用いてもよい。この際に発生したSOガスも、排ガス処理系等にある硫酸化工程に導かれ、五酸化バナジウム等の触媒を利用してSOに酸化され、水(HO)と反応し、硫酸の製造にも寄与する。また、熔錬炉の操業を行っていない待機時の保温用の熱源として溶融硫黄の酸化熱を利用してもよい。
【0023】
一例として、溶融硫黄を1280t/年使用することによって、銅製錬所におけるC重油が154kL/年削減され、さらにA重油が97kL/年削減され、硫酸生産量が4000t/年増大する。
【符号の説明】
【0024】
10 受入ピット
11 反応塔
12 セットラ
13 アップテイク
14 精鉱バーナ
15 燃料バーナ
16 廃熱ボイラ
17 転炉
18 廃熱ボイラ
20,40 ポンプ
30 硫黄タンク
50 熔錬炉
70 廃熱ボイラ
100 自溶炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融状態の硫黄を、銅製錬所の熱源として用いることを特徴とする硫黄の使用方法。
【請求項2】
前記溶融状態の硫黄を、銅の製錬工程において熱源として用いることを特徴とする硫黄の使用方法。
【請求項3】
前記銅製錬の熔錬炉に熱を供給するための熱源として、前記溶融状態の硫黄の酸化熱を利用することを特徴とする請求項2記載の硫黄の使用方法。
【請求項4】
前記熔錬炉は、自溶炉であり、
前記自溶炉に、銅精鉱、溶剤、酸素含有ガス、および前記溶融状態の硫黄を投入することを特徴とする請求項3記載の硫黄の使用方法。
【請求項5】
前記溶融状態の硫黄は、前記自溶炉のシャフト部に投入されることを特徴とする請求項4記載の硫黄の使用方法。
【請求項6】
前記熔錬炉は、転炉であり、
前記転炉に、銅マット、溶剤、酸素含有ガス、および前記溶融状態の硫黄を投入することを特徴とする請求項3記載の硫黄の使用方法。
【請求項7】
前記溶融状態の硫黄を前記熔錬炉内に投入する際に、ノズルを用いて前記溶融状態の硫黄を噴霧することを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載の硫黄の使用方法。
【請求項8】
前記溶融状態の硫黄は、石油の脱硫工程で生成された硫黄であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の硫黄の使用方法。
【請求項9】
前記溶融状態の硫黄の酸化熱を、排熱ボイラを用いて回収することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の硫黄の使用方法。
【請求項10】
前記溶融状態の硫黄を熱源として用いた後に、硫酸として回収することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の硫黄の使用方法。
【請求項11】
前記銅製錬所の装置の修理時に、前記装置の保温用熱源として前記溶融状態の硫黄の酸化熱を用いることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の硫黄の使用方法。
【請求項12】
前記銅製錬所の装置の待機時に、前記装置の保温用熱源として前記溶融状態の硫黄の酸化熱を用いることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の硫黄の使用方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−246551(P2012−246551A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120612(P2011−120612)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(500483219)パンパシフィック・カッパー株式会社 (109)
【Fターム(参考)】