説明

硫黄回収装置の運転方法

【課題】硫黄回収装置の運転停止操作時において、硫黄回収装置内の硫化鉄の残留量を十分に低減しつつ大気汚染物質の大気への排出量が十分低減可能な硫黄回収装置の運転方法を提供する。
【解決手段】HSを燃焼させてSOを生成する反応炉12、及びSOとHSとを反応させて硫黄を生成する第1反応器14を備える硫黄回収部10と、硫黄回収部10で生成したSOを水素化反応させる第2反応器34、及び水素化反応によって生成するHSを吸収液に吸収させる吸収塔38を備えるガス吸収部20とを具備する硫黄回収装置1の運転停止時に、反応炉12にHと空気を理論空燃比を超える空燃比で供給して、第1反応器14のOを0〜1体積%で維持しながら、硫黄回収部10内部に付着する硫化鉄を燃焼する工程と、該工程で発生したSOを第2反応器34で還元し、HSを吸収液で吸収する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄回収装置の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種石油製品や石油化学製品の精製においては、製品安定性や臭気、腐食性等を改善するために、間接脱硫装置や直接脱硫装置などによって、硫黄成分を除去する工程を有する。通常、脱硫装置では、水素ガスの存在下で、触媒を用いて、重油、重質軽油、軽質軽油、灯油、ナフサ等に含まれる硫黄成分を硫化水素に変換して除去する。生成した硫化水素ガスは、通常、硫黄回収装置において、一部が二酸化硫黄に変換された後、クラウス反応により硫黄として回収される。
【0003】
硫黄回収装置における硫化水素ガスの具体的な処理方法としては、硫化水素ガスの一部を燃焼させて二酸化硫黄を生成させ、この二酸化硫黄と未燃焼の硫化水素とを触媒存在下、クラウス反応させて、硫黄と水を生成する方法が採用されている。このように硫化水素ガスの処理を行う硫黄回収装置は、通常、硫化水素を燃焼させて、クラウス反応を行い、硫黄を回収する硫黄回収部(クラウス系)と、硫黄回収部で発生した余剰の二酸化硫黄を加熱し、触媒存在下で水素により還元して硫化水素とし、当該硫化水素を吸収液で吸収させるガス吸収部と、硫化水素が除去されたオフガスを燃焼させる燃焼部とを有する。
【0004】
図2は、硫黄回収装置の従来の運転方法を説明するための概略構成図である。硫黄回収装置3は、硫黄回収部100とガス吸収部200と燃焼部300とを備える。通常の運転状態では、反応炉112に、硫化水素ガス(アシッドガス)と空気とが所定の比率で供給され、硫化水素ガスの一部が燃焼して酸化硫黄(二酸化硫黄)を生成する。生成した二酸化硫黄と未燃焼の硫化水素ガスは、配管L102を通ってクラウス触媒を有する第1反応器114に導入される。第1反応器114では、クラウス反応が進行して硫化水素と二酸化硫黄とから硫黄が生成される。生成した硫黄は、二酸化硫黄及び硫化水素を含む未反応ガスとともに配管L104を通って、凝縮器116に導入され、凝縮器116より液状で回収される。
【0005】
一方、第1反応器114で反応しなかった未反応ガス(硫化水素及び酸化硫黄を含む)は、配管L106及びバルブV104を通ってガス吸収部200の加熱器132に導入される。硫黄回収装置3の定常運転では、バルブV102は閉止されており、未反応ガスが燃焼器139で燃焼されて大気汚染物質が放出されることを防止している。未反応ガスは、加熱器132で導入される水素ガスとともに所定の温度に加熱され、配管L110を通って水素化触媒を有する第2反応器134に導入される。第2反応器134では、水素化触媒の作用により、未反応ガスに含まれる酸化硫黄が水素化されて硫化水素及び水を生成する。これらの硫化水素及び水は、他の副生ガスとともに配管L112を通ってクエンチャ136に導入され、硫化水素を含むガス留分と水とに分離される。クエンチャ136で分離されたガス留分は、配管L114及び配管L116を通ってガス吸収塔138に導入され、ガス留分に含まれる硫化水素が配管L124によって供給される吸収液で吸収される。硫化水素を吸収した吸収液は配管L126を通って排出され、他の装置でこの吸収液から分離される。分離された硫化水素は場合によって再び硫黄回収装置3の反応炉112に供給される。一方、ガス留分に含まれるオフガス(燃料ガス)は、配管L122を通って燃焼器139に導入され燃焼される。
【0006】
ところで、二酸化硫黄などの酸化硫黄ガス(SO)は、大気汚染物質として知られており、毒性も高いことから、大気中への放出量を極力低減することが求められている。このため、硫黄回収装置で発生する酸化硫黄ガスの大気中への放出量を極力低減することが求められる。
【0007】
しかしながら、原料である硫化水素ガスの量が変動して過剰または過少となった場合、硫黄回収装置の運転を停止する場合、あるいはその後運転を開始する場合には、硫黄回収装置にかかる負荷が変動して、運転を調整することが難しくなり、ガス吸収部で処理できない硫化水素ガスを、配管L108を介して燃焼器139で燃焼せざるを得なくなってしまう。この場合、一時的に大気中に二酸化硫黄などの酸化硫黄ガスが燃焼器から排出されてしまうこととなる。このような負荷変動時において大気汚染物質の排出を抑制する運転方法として、燃焼性ガスを装置内に注入することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10−265204号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
硫黄回収装置は、定期的に熱交換器や加熱炉などの各機器を開放してメンテナンスや修理を行う必要があり、その度に運転の停止操作及び開始操作が必要となる。硫黄回収装置を構成する各機器は鉄を含有しているため、運転によって装置内部に硫化鉄が析出する。このため、運転の停止操作時には、各機器の解放前に硫化鉄による発火を未然に防止するべく、硫黄回収装置の硫黄回収部の内部に付着する硫化鉄を燃焼除去する所謂サルファーバーニングを行う必要がある。
【0009】
ところが、このサルファーバーニング時において、酸化硫黄などの大気汚染物質の排出量が多くなるという問題があった。この原因は、硫黄回収部100の硫化鉄を燃焼させた際に発生する燃焼ガスが酸素を含んでいるために、水素化反応用の第2触媒を保護する観点からガス吸収部200では処理できず、当該燃焼ガスをそのまま燃焼部300の燃焼器139で燃焼させていることによる。
【0010】
このため、硫黄回収装置の運転停止操作時において、大気汚染物質の大気への排出量を増やさずにサルファーバーニングをすることができる硫黄回収装置の運転方法が求められている。
【0011】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、硫黄回収装置の運転停止操作時において、硫黄回収装置内の硫化鉄の残留量を十分に低減しつつ大気汚染物質の大気への排出量が十分低減可能な硫黄回収装置の運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明では、硫化水素を燃焼させて二酸化硫黄を生成する反応炉と、二酸化硫黄及び硫化水素をクラウス反応させて硫黄を生成する第1触媒を有する第1反応器と、を備える硫黄回収部、並びに、硫黄回収部で生成した二酸化硫黄を水素化反応させて硫化水素を生成する第2触媒を有する第2反応器と、第2反応器で生成した硫化水素を吸収液に吸収させる吸収塔とを備えるガス吸収部、を具備する硫黄回収装置の運転方法であって、該硫黄回収装置の運転停止の際に、反応炉に水素を主成分とする燃料ガスとともに該燃料ガスを燃焼させる空気を理論空燃比を超える空燃比で供給することにより、第1反応器における酸素濃度を0〜1体積%に維持しながら、硫黄回収部の内部に付着する硫化鉄を燃焼する燃焼工程と、硫化鉄の燃焼によって生成した二酸化硫黄をガス吸収部の第2反応器で水素化反応させて硫化水素を生成し、硫化水素を吸収液で吸収する吸収工程とを有する硫黄回収装置の運転方法を提供する。
【0013】
本発明の硫黄回収装置の運転方法では、硫黄回収装置の運転停止の際に、反応炉に供給する空気を、反応炉に供給する燃料ガスに対して理論空燃比を超える比率で供給することによって、第1反応器における酸素濃度を0〜1体積%の範囲に調整している。これによって、ガス吸収部における酸素濃度が十分に低く維持されるため、酸素による第2触媒の損傷を十分に抑制しつつ硫黄回収部の内部の壁面等に付着する硫化鉄を徐々に酸素と反応させて十分に排除することができる。硫化鉄と酸素との反応によって生じた硫化水素は、ガス吸収部の吸収塔で吸収液に吸収させているため、酸化硫黄などの大気汚染物質の排出量を十分に低減することができる。
【0014】
本発明ではまた、燃焼工程の前に、反応炉に水素を主成分とする燃料ガスとともに該燃料ガスを燃焼させる空気を理論空燃比以下の空燃比で供給し、第1反応器を230℃以下に降温するガスパージ工程を有することが好ましい。このガスパージ工程では、上記燃料ガスを燃焼させて得られる燃焼ガス(ホットイナートガス)で、硫黄回収部系内の硫化水素、酸化硫黄、硫黄を完全にパージすることができる。
【0015】
上述の硫黄回収装置の運転方法では、従来のサルファーバーニング方法と比較し、燃焼工程の前に第一反応器の温度を低下させること及び空燃比を低下させることによって、硫黄回収装置内に残留する硫黄が燃焼することを防止している。これによって、燃焼工程において、硫黄回収部の硫化鉄のみを選択的に燃焼させることが可能となり、硫黄回収装置の停止操作を容易に行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の硫黄回収装置の運転方法によれば、硫黄回収装置の運転停止の際に、硫黄回収装置内の硫化鉄の残留量を十分に低減しつつ大気汚染物質の大気への排出量を十分に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、場合により図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0018】
図1は、本発明の運転方法の好適な実施形態を説明するための硫黄回収装置の概略構成図である。硫黄回収装置1は、硫黄回収部10とガス吸収部20と燃焼部30とを備える。
【0019】
硫黄回収装置1の定常運転では、硫黄回収部10の反応炉12に、硫化水素ガスと空気とが所定の比率で供給され、硫化水素ガスの一部が燃焼して二酸化硫黄を生成する(下記式(1))。反応炉12に供給される硫化水素ガスと空気との比率は、硫化水素ガスの供給量全体の1/3が下記式(1)で燃焼する比率とする。この比率に調整することによって、下記式(2)で表わされるクラウス反応を効率的に進行させ、未反応の硫化水素及び二酸化硫黄の発生を十分に抑制することができる。また、硫黄回収装置1における硫黄の回収量を増加することができる。このような処理を行う硫黄回収装置1の硫黄回収部10内部には硫化鉄が生成する。
【0020】
S+3/2O → SO+HO ・・・(1)
2HS+SO → 2HO+3S ・・・(2)
【0021】
本実施形態の運転方法では、定常運転状態にある硫黄回収装置1を運転停止する際に、反応炉12に水素を主成分とする燃料ガスとともに該燃料ガスを燃焼させる空気を供給して得られた燃焼ガス(ホットイナートガス)で、硫黄回収部系内の硫化水素、酸化硫黄、硫黄をパージするガスパージ工程と、反応炉12に水素を主成分とする燃料ガスとともに、該燃料ガスを燃焼させる空気を理論空燃比を超える空燃比で供給することにより、第1反応器14における酸素濃度を0〜1体積%の範囲で維持しながら、硫黄回収部10及びガス吸収部20に存在する硫化鉄を燃焼する燃焼工程と、燃焼工程で発生した酸化硫黄を第2反応器34で還元して硫化水素とし、硫化水素を吸収液で吸収する吸収工程とを有する。以下、各工程について詳細に説明する。
【0022】
(ガスパージ工程)
ガスパージ工程では、反応炉12への硫化水素ガス(アシッドガス)の供給を停止するとともに、反応炉12への水素を主成分とする燃料ガスの供給を開始する。なお、硫化水素ガスの供給の停止操作と燃料ガスの供給の開始操作は、硫黄回収装置1の運転変動を抑制する観点から、徐々に行うことが好ましい。例えば、硫化水素ガスの供給量の減少に見合うように、燃料ガスの供給量を増やすことによって、反応炉12の急激な温度変動を防止することが好ましい。
【0023】
反応炉12に供給する水素を主成分とする燃料ガスは、例えば通常の水素製造装置から生成する水素ガスを用いてもよいし、通常の水素製造装置から生成する改質ガス(水素ガス含有量:約80質量%)を用いてもよい。なお、改質ガスは、主成分である水素ガスの他に、副成分としてメタンガスやエタンガスなどの低級炭化水素ガスを含有する。燃料ガスにおける水素ガスの含有量は、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。
【0024】
反応炉12には、燃料ガスとともに、該燃料ガスを燃焼させる空気を、理論空燃比以下の空燃比で供給することが好ましく、理論空燃比で供給することがより好ましい。これによって、硫黄回収装置1内の酸素濃度が上昇することによる第2触媒の損傷を防止しつつ燃料ガスを十分に燃焼させて装置内の燃焼ガス置換を円滑に行うことが可能となる。なお、本明細書における「理論空燃比」とは、燃料ガスに対する、該燃料ガスを完全燃焼させるために必要な空気の質量比率をいい、「空燃比」とは、燃料ガスに対する空気の質量比率をいう。ガスパージ工程における燃料ガスに対する空気の比率は、理論空燃比を基準(100質量%)として、80〜110質量%であることが好ましく、95〜105質量%であることが好ましい。
【0025】
反応炉12に供給された燃料ガスは、該燃料ガスに対して理論空燃比の比率で供給される空気により燃焼して燃焼ガスを生成する。反応炉12で生成した燃焼ガスは、配管L2を通って、クラウス反応用触媒が充填された第1反応器14に導入される。
【0026】
第1反応器14を通過した燃焼ガスは、配管L4を通って、凝縮器16に導入される。凝縮器16としては通常の熱交換器を用いることができる。凝縮器16には、冷媒(例えば水)が供給されており、燃焼ガスを所定の温度に冷却することができる。
【0027】
凝縮器16を通過した燃焼ガスは、配管L6を通って、ガス吸収部20の上流側に設けられる加熱器32に導入される。ガスパージ工程においては、バルブV4が開放されており、バルブV2が閉止されている。加熱器32としては、通常のラインヒーターを用いることができる。
【0028】
第2反応器34を通過した燃焼ガスは、配管L12を通ってクエンチャ36に導入される。クエンチャ36としては、通常の塔(タワー)や槽(ベッセル)を用いることができる。クエンチャ36では、燃焼ガスが冷却されることにより生成した水を分離して排出することができる。
【0029】
クエンチャ36を通過した燃焼ガスの一部は、配管L14及びL16を経由してガス吸収塔38に導入される。また、クエンチャ36を通過した燃焼ガスの一部は、配管L18、ブロア37、及び配管L20を通過して加熱器32にリサイクルされる。ガス吸収塔38に導入された燃焼ガスは、配管L22を通って燃焼器39に導入されて処理される。
【0030】
以上のガスパージ工程によって、燃焼ガスによる硫黄回収装置1全体のガスパージが行われ、装置内の硫化水素、二酸化硫黄及び硫黄が排除される。これによって、硫黄回収装置1の運転停止操作を円滑に行うことができる。燃焼工程開始前に、第一反応器14を230℃以下に冷却することが好ましく、180〜230℃に冷却することがより好ましい。反応器14を230℃以下に冷却することによって、後述する燃焼工程において、硫黄の燃焼が抑制されて一層選択的に硫化鉄を燃焼させることが可能となる。なお、硫黄回収部10を過剰に冷却すると、露点以下の温度となって、硫黄回収装置1を構成する各機器が破損してしまう恐れがある。
【0031】
ガスパージ工程により、硫黄回収装置1内の温度が230℃以下に冷却されたら、燃焼工程を行う。
【0032】
(燃焼工程)
燃焼工程では、反応炉12に燃料ガスとともに該燃料ガスを燃焼させる空気を、理論空燃比を超える空燃比で供給して該燃料ガスを燃焼させる。これによって、反応炉12の下流側に配置される第1反応器14における酸素濃度を0〜1体積%の範囲に維持して下記式(3)の反応を進行させ、主に第1反応器14や凝縮器16の内壁に付着している硫化鉄を燃焼させる。燃焼工程では、第1反応器14の酸素濃度を0〜1体積%以下に維持することによって、水素化反応用の第2触媒の損傷を十分に抑制しつつ硫化鉄を円滑に燃焼させることができる。
【0033】
2FeS+7/2O→Fe+2SO (3)
【0034】
燃焼工程における燃料ガスに対する空気の比率は、理論空燃比を基準(100質量%)として、101〜110質量%であることが好ましく、104〜110質量%であることが好ましい。該空気の比率が101質量%未満の場合、硫化鉄の燃焼が完了するまでに長時間を所要する傾向があり、110質量%を超える場合、水素化反応用の第2触媒の損傷を十分に抑制し難くなる傾向がある。
【0035】
燃焼ガス及び酸素の流路は、ガスパージ工程における燃焼ガスの流路と同様とする。これによって、硫黄回収装置1の内壁全体を酸素と接触させることが可能となり、硫黄回収装置1全体において、内壁に付着した硫化鉄を燃焼させて除去することができる。
【0036】
第1反応器14における酸素濃度は、0.01〜1.0体積%であることが好ましく、0.5〜1.0体積%であることがより好ましい。該酸素濃度が0.01体積%未満の場合、硫化鉄の燃焼除去に長時間を所要する傾向及び硫化鉄の燃焼が不十分となる傾向があり、該酸素濃度が1.0体積%を超える場合、第2反応器34に備えられる水素化用触媒が損傷する傾向がある。
【0037】
燃焼工程では、第一反応器14を、露点を超え且つ230℃以下の温度範囲とすることが好ましく、180〜220℃であることがより好ましい。硫黄回数部10の温度が露点以下となった場合、硫黄回収装置1を構成する各機器が破損しやすくなる傾向がある。一方、第一反応器14の温度が230℃を超えると、硫黄が燃焼して多量の二酸化硫黄を生成してしまう傾向がある。
【0038】
燃焼工程は、硫黄回収装置1の硫黄回収部10を構成する各機器の内壁に付着している硫化鉄の燃焼除去が完了したら終了する。
【0039】
(吸収工程)
吸収工程は、燃焼工程において、第1反応器14や凝縮器16などの各機器で、上記式(3)の反応で生成した二酸化硫黄を、水素と反応させて硫化水素としたのち、当該硫化水素をガス吸収塔38で吸収液に吸収させる工程である。
【0040】
上記式(3)で生成した二酸化硫黄は、硫黄回収部10から配管L6及びバルブV4を通って加熱器32に導入されて270〜300℃に加熱される。その後、加熱器32に注入される水素ガスとともに第2触媒を有する第2反応器34に導入され、下記式(4)によって硫化水素及び水となる。生成した硫化水素及び水は、配管L12を通って、クエンチャ36に導入され、水とガス留分(硫化水素)とに分離される。水はクエンチャ36の底部より硫黄回収装置1外に排出される。一方、硫化水素は配管L14及びL16を通ってガス吸収塔38に導入され、配管L24を通ってガス吸収塔38に導入される吸収液に吸収される。硫化水素を吸収した吸収液は、ガス吸収塔38から配管L26を通って硫黄回収装置1外に排出される。
【0041】
SO+3H → HS+2HO ・・・(4)
【0042】
吸収工程は、燃焼工程と並行して行うことができる。すなわち、硫黄回収部10及びガス吸収部20で燃焼工程を行いながら、当該燃焼工程で発生した二酸化硫黄を用いてガス吸収部20で吸収工程を行うことができる。
【0043】
したがって、燃焼工程において硫化鉄の燃焼除去が完了し、二酸化硫黄の発生がなくなったら、吸収工程も終了する。
【0044】
燃焼工程及び吸収工程の終了後、例えば、硫黄回収装置1を常温付近まで降温し、硫黄回収装置1の各機器を開放することができる。硫黄回収部も大気中で開放することができる。
【0045】
本実施形態の硫黄回収装置の運転方法によれば、硫黄回収装置1の運転停止後、凝縮器16、第1反応器14、及び熱交換器(図示しない)などの各機器を開放した際、硫化鉄が十分に除去されているため、機器開放時の硫化鉄の燃焼を十分に防止することができる。この運転方法では、バルブV4を開放し、バルブV2を閉止したまま硫化鉄を燃焼させる燃焼工程を実施することができる。したがって、SOなどの大気汚染物質の大気への放出量を十分に低減することができる。
【0046】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
図1に示す硫黄回収装置1の運転停止操作を以下の通り行った。
【0049】
[ガスパージ工程]
所定の期間、定常運転を行っていた硫黄回収装置1の反応炉12に、水素ガスの供給を開始した。水素ガスの供給開始に伴い、硫化水素ガス(アシッドガス)の供給量を徐々に減らすとともに、反応炉12への水素ガスの供給量を徐々に増やした。水素ガスの供給量を十分に増やした後、硫化水素ガスの供給を停止した。反応炉12に供給される水素ガスと、該水素ガスに対して理論空燃比となる量の空気とを供給した。水素ガスと空気との供給を暫く継続して行うことによって、硫黄回収装置1内の雰囲気を燃焼ガス(ホットイナートガス)で置換した。
【0050】
第一反応器14を徐々に冷却し、硫黄回収部10の温度を180〜230℃にした。
【0051】
[燃焼工程及び吸収工程]
反応炉12に供給する水素ガスに対する空気の比率を、理論空燃比を基準(100質量%)として、101〜110質量%とした。これによって、第1反応器14における酸素濃度を0〜1体積%の範囲に維持し、硫黄回収装置1の硫黄回収部10を構成する各機器の内部に付着した硫化鉄を燃焼除去した。なお、酸素濃度測定は、反応炉12の出口及び凝縮器16の出口で、市販のガスセンサーを用いて行った。
【0052】
硫化鉄の燃焼に伴って生成する二酸化硫黄は、加熱器32で注入される水素ガスとともに水素化反応用の第2触媒を有する第2反応器34に導入され、硫化水素及び水に変換された。この硫化水素は、ガス吸収塔38に導入されて、吸収液(ジイソプロパノールアミン)に吸収された。硫化水素を吸収した吸収液は、ガス吸収塔38から配管L26を通って硫黄回収装置1外に排出された。一方、硫化水素が除去された燃焼ガス(オフガス)は、配管L22を通って燃焼器39に導入された。燃焼器39から排出される排出ガス中の二酸化硫黄濃度を市販のガス濃度計測器を用いて測定した。運転停止操作時における排出ガス中の二酸化硫黄の濃度は、数10〜数100ppmで推移した。
【0053】
硫化鉄の燃焼に伴う発熱が検出されなくなり、二酸化硫黄の発生がなくなった時点で燃焼工程及び吸収工程を終了した。硫黄回収装置1のガスパージ工程開始から燃焼工程及び吸収工程終了までに所要した時間は62時間であった。なお、燃焼工程及び吸収工程実施中は、V2を閉止、V4を開放としたままであった。
【0054】
(比較例1)
図2に示す硫黄回収装置3の運転停止操作を以下の通り行った。
【0055】
所定の期間、定常運転を行っていた硫黄回収装置3の反応炉112に、水素ガスの供給を開始した。水素ガスの供給開始に伴い、硫化水素ガス(アシッドガス)の供給量を徐々に減らすとともに、反応炉112への水素ガスの供給量を徐々に増やした。水素ガスの供給量を十分に増やした後、硫化水素ガスの供給を停止した。反応炉112に供給される水素ガスの量に対し、理論空燃比で反応炉112に空気を供給した。水素ガスと空気との供給を暫く継続して行うことによって、硫黄回収装置3内の雰囲気を燃焼ガス(ホットイナートガス)で置換した。
【0056】
V104を閉止し、V102を開放することによって、硫黄回収部100からガス吸収部200への燃焼ガスの流通を遮断した。
【0057】
反応炉112に供給する水素ガスに対する空気の比率を、理論空燃比を基準(100質量%)として、120〜170体積%とした。これによって、硫黄回収装置3の硫黄回収部100を構成する各機器の内部に付着した硫化鉄を燃焼除去した。
【0058】
硫黄回収部100の内部に付着した硫化鉄の燃焼に伴って生成する二酸化硫黄は、バルブV102及び配管L108を通って、燃焼器139に導入された。燃焼器139から排出される排出ガス中の二酸化硫黄濃度を市販のガス濃度計測器を用いて測定した。運転停止操作時における排出ガス中の二酸化硫黄の濃度は、実施例1の数十倍であった。
【0059】
硫化鉄の燃焼に伴う発熱が検出されなくなり、二酸化硫黄の発生がなくなった時点で運転終了とした。水素ガスの供給開始から硫化鉄の燃焼が終了するまでに所要した時間は42時間であった。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の運転方法の好適な実施形態を説明するための硫黄回収装置の概略構成図である。
【図2】従来の運転方法を説明するための硫黄回収装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0061】
1,3…硫黄回収装置、10,100…硫黄回収部、12,112…反応炉、14,114…第1反応器、16,116…凝縮器、20,200…ガス吸収部、30,300…燃焼部、32,132…加熱器、34,134…第2反応器、36,136…クエンチャ、37,137…ブロア、38,138…ガス吸収塔、39,139…燃焼器。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化水素を燃焼させて二酸化硫黄を生成する反応炉と、前記二酸化硫黄及び硫化水素をクラウス反応させて硫黄を生成する第1触媒を有する第1反応器と、を備える硫黄回収部、並びに、前記硫黄回収部で生成した前記二酸化硫黄を水素化反応させて硫化水素を生成する第2触媒を有する第2反応器と、前記第2反応器で生成した前記硫化水素を吸収液に吸収させる吸収塔と、を備えるガス吸収部、を具備する硫黄回収装置の運転方法であって、
該硫黄回収装置の運転停止の際に、
前記反応炉に水素を主成分とする燃料ガスとともに該燃料ガスを燃焼させる空気を理論空燃比を超える空燃比で供給することにより、前記第1反応器における酸素濃度を0〜1体積%に維持しながら、前記硫黄回収部の内部に付着する硫化鉄を燃焼する燃焼工程と、
前記硫化鉄の燃焼によって生成した二酸化硫黄を前記ガス吸収部の前記第2反応器で水素化反応させて硫化水素を生成し、前記硫化水素を前記吸収液で吸収する吸収工程と、を有する硫黄回収装置の運転方法。
【請求項2】
前記燃焼工程の前に、前記反応炉に水素を主成分とする前記燃料ガスとともに該燃料ガスを燃焼させる空気を理論空燃比以下の空燃比で供給し、前記第1反応器を230℃以下に降温するガスパージ工程を有する請求項1記載の硫黄回収装置の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−52955(P2010−52955A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−216751(P2008−216751)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)