説明

硫黄成分検出装置

【課題】SOX保持部に保持されているSOX保持量を推定する硫黄成分検出装置において、比較的正確にSOX保持量を推定可能とする。
【解決手段】排気ガスの空燃比が理論空燃比よりリーンである時に排気通路を通過する排気ガス中のSOXをSOX保持可能量まで保持可能な保持部と、保持部の温度を測定する温度センサとを有し、保持部の現在のSOX保持量ASを推定する(ステップ109)際には、排気ガス流量が設定量より少ない時(ステップ105)に排気ガスの空燃比を理論空燃比又は理論空燃比よりリッチにし(ステップ106)、保持部からSOX保持可能量と現在のSOX保持量との差に対応して保持されたNOXを放出させると共に還元物質により還元させて温度センサにより保持部の温度上昇値ΔTを検出する(ステップ107)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄成分検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
排気ガス中のSOX濃度を検出するためのSOX濃度センサが公知である。一般的なSOX濃度センサは、固体電解質においてSOXが硫酸イオンに変化することにより生じる起電力を測定し、排気ガス中のSOX濃度を検出するようにしている。しかしながら、このような瞬時のSOX濃度を検出するSOX濃度センサでは、排気ガス中のSOX濃度が低いと、正確なSOX濃度を検出することが難しくなる。
【0003】
このような瞬時の排気ガス中のSOX濃度を検出することはできないが、排気ガス中のSOX濃度が低くても、一定期間の間に排気通路を通過したSOXの積算量を比較的正確に検出することができる硫黄成分検出装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
この硫黄成分検出装置は、排気ガス中の酸素濃度が高い時に排気ガス中に含まれるSOXを保持するSOX保持部を有し、SOX保持部に保持されたSOX保持量に基づき一定期間の間に排気通路を通過したSOXの積算量を検出するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−175623
【特許文献2】特開2007−183243
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の硫黄成分検出装置において、SOX保持部は、SOX保持可能量までSOXを硫酸塩として保持することができ、SOX保持可能量と現在のSOX保持量との差に対応して排気ガス中のNOXを硝酸塩として保持する。硝酸塩は硫酸塩に比較して不安定な物質であり、排気ガスの空燃比をリッチにして排気ガス中の酸素濃度を低下させれば、SOX保持部に保持されているNOXだけをSOX保持部から放出させて排気ガス中の還元物質により還元させることができる。
【0007】
それにより、NOXの還元の際の発熱量に基づきSOX保持部に保持されていたNOX保持量を推定し、SOX保持部のSOX保持可能量とNOX保持量とに基づきSOX保持部の現在のSOX保持量を推定することが考えられる。このようなSOX保持量の推定において、NOXの還元の際の発熱量を正確に測定することができずに、SOX保持量の推定が不正確となることがある。
【0008】
従って、本発明の目的は、SOX保持部に保持されているSOX保持量を推定する硫黄成分検出装置において、比較的正確にSOX保持量を推定可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による請求項1に記載の硫黄成分検出装置は、排気ガスの空燃比が理論空燃比よりリーンである時に排気通路を通過する排気ガス中のSOXをSOX保持可能量まで保持可能な保持部と、前記保持部の温度を測定する温度センサとを有し、前記保持部の現在のSOX保持量を推定する際には、排気ガス流量が設定量より少ない時に排気ガスの空燃比を理論空燃比又は理論空燃比よりリッチにし、前記保持部から前記SOX保持可能量と現在のSOX保持量との差に対応して保持されたNOXを放出させると共に還元物質により還元させて前記温度センサにより前記保持部の温度上昇値を検出することを特徴とする。
【0010】
本発明による請求項2に記載の硫黄成分検出装置は、請求項1に記載の硫黄成分検出装置において、さらに前記保持部を加熱するためのヒータを有し、前記保持部の温度が設定温度以下の時には前記ヒータを作動することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明による請求項1に記載の硫黄成分検出装置によれば、保持部の現在のSOX保持量を推定する際には、排気ガス流量が設定量より少ない時に排気ガスの空燃比を理論空燃比又は理論空燃比よりリッチにし、保持部からSOX保持可能量と現在のSOX保持量との差に対応して保持されたNOXを放出させると共に還元物質により還元させて温度センサにより保持部の温度上昇値を検出するようになっており、保持部から放出されたNOXを還元させた際に発生する熱は、排気ガス流量が設定量より少ないために排気ガスによって殆ど奪いさられることなく保持部の温度を上昇させ、保持部の温度上昇値に基づき保持部の現在のNOX保持量を比較的正確に推定することができ、その結果、保持部の現在のSOX保持量を比較的正確に推定することが可能となる。
【0012】
本発明による請求項2に記載の硫黄成分検出装置によれば、請求項1に記載の硫黄成分検出装置において、さらに保持部を加熱するためのヒータを有し、保持部の温度が設定温度以下の時にはヒータを作動させるようになっており、それにより、保持部の温度が低いために保持部への排気ガス中のSOXの保持割合が低下することが抑制され、一定の保持割合で排気ガス中のSOXが保持部に保持されたとして保持部の現在のSOX保持量に基づき一定期間の間に排気通路を通過したSOXの積算量を検出する場合に、SOXの積算量を比較的正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明による硫黄成分検出装置が配置された機関排気系を示す概略図である。
【図2】本発明による硫黄成分検出装置の実施形態を示す概略断面図である。
【図3】本発明による硫黄成分検出装置によりSOXの積算量を検出するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は本発明によるNOX検出装置が配置された機関排気系を示す概略図であり、同図において、1は内燃機関の排気通路である。内燃機関は、ディーゼルエンジン又は筒内噴射式火花点火内燃機関のような希薄燃焼を実施する内燃機関である。このような内燃機関の排気ガス中には、比較的多くのNOXが含まれるために、排気通路1には、NOXを浄化するためのNOX触媒装置2が配置されている。
【0015】
NOX触媒装置2には、NOX保持材と白金Ptのような貴金属触媒とが担持されている。NOX保持材は、カリウムK、ナトリウムNa、リチウムLi、セシウムCsのようなアルカリ金属、バリウムBa、カルシウムCaのようなアルカリ土類金属、ランタンLa、イットリウムYのような希土類から選ばれた少なくとも一つである。
【0016】
NOX触媒装置2は、排気ガスがリーン空燃比である時、すなわち、排気ガス中の酸素濃度が高い時に、排気ガス中のNOXを良好に保持し、すなわち、硝酸塩として良好に吸収したり、NO2として良好に吸着したりする。しかしながら、無制限にNOXを保持することはできず、NOX保持量がNOX保持可能量に達してさらにNOXを保持することができなくなる前に、再生処理として、排気ガスの空燃比を理論空燃比又はリッチ空燃比とし、すなわち、排気ガス中の酸素濃度を低下させる。それにより、保持NOXは離脱され、すなわち、吸収NOXは放出され、また、吸着NO2は脱離され、これら離脱NOXは排気ガス中の還元物質によりN2へ還元浄化される。
【0017】
このようなNOX触媒装置2が排気ガス中のSOXを硫酸塩として吸蔵してしまうと、硫酸塩は硝酸塩に比較して安定な物質であるために再生処理では放出させることができず、NOX吸蔵可能量が低下してしまう(S被毒)。それにより、排気通路1のNOX触媒装置2の上流側に、排気ガス中のSOXを吸蔵するSトラップ装置(図示せず)を配置すれば、NOX触媒装置2のS被毒を抑制することができる。このようなSトラップ装置が配置されても配置されなくても、NOX触媒装置2へ流入したSOX量の積算値がNOX触媒装置のS被毒程度に対応するために、NOX触媒装置2へ流入したSOX量の積算値を検出可能な硫黄成分検出装置3がNOX触媒装置2の上流側に配置されている。
【0018】
図2は、本発明による硫黄成分検出装置3の実施形態を示す概略断面図である。同図において、31は硫黄成分検出装置3を構成する熱電対等の温度センサである。32は温度センサ31の感温部を覆うように配置された保持部である。33は保持部32を加熱するための電気ヒータである。
【0019】
保持部32は、排気通路1を通過する排気ガス中のSOXを保持するものであり、例えば、前述したNOX保持材と白金Ptのような貴金属触媒とを温度センサ31の感温部に塗布することにより形成することができる。
【0020】
このように構成された硫黄成分検出装置3は、電子制御装置を使用して図3に示すフローチャートによりNOX触媒装置2へ流入したSOX量の積算値を検出する。図3に示すフローチャートは、イグニッションスイッチのオンと同時に開始されるものである。先ずは、ステップ101において、温度センサ31によって保持部32の現在の温度Tを測定し、この温度Tが設定温度T’以下であるか否かが判断される。この判断が否定される時にはステップ102において電気ヒータ33を停止させてステップ104へ進むが、ステップ101の判断が肯定され、すなわち、保持部32の温度Tが設定温度T’以下の時には、ステップ103において電気ヒータ33を作動させてステップ104へ進む。こうして、保持部32は、その温度が設定温度T’以下の時に電気ヒータ33によって加熱されるようになっている。
【0021】
本硫黄成分検出装置3は、単位時間当たりの排気ガス中に含まれるSOX量の一定割合のSOXが単位時間当たり保持部31に保持されるとして、保持部32に保持されているSOX保持量に基づきNOX触媒装置2へ流入したSOX量の積算値を検出するものである。従って、保持部32の温度が低いと、NOX保持材により形成された保持部32が十分に活性化せずに、保持部32への排気ガス中のSOXの保持割合が一定割合より小さくなってしまうために、もし、長期間、保持部32の温度が低いままとされると、保持部のSOX保持量が保持されているべきSOX保持量(実際にNOX触媒装置2へ流入したSOX量の積算値に対応するSOX保持量)より明らかに少なくなってSOX保持量に基づき検出されるNOX触媒装置2へ流入したSOX量の積算値が実際より無視できないほど少なくなってしまう。
【0022】
機関始動直後において保持部32の温度Tは設定温度T’以下となっていることが多い。機関始動直後は、排気ガス量も少なく、排気ガス中には僅かしかSOXが含まれていないために、機関始動直後において本実施形態のように電気ヒータ33により保持部32の温度Tを設定温度T’まで高めて、早期に保持部32へ一定割合のSOXが保持されるようにすれば、保持部32のSOX保持量と保持されているべきSOX保持量との差を十分に小さくすることができ、SOX保持量に基づきNOX触媒装置2へ流入したSOX量の積算値を比較的正確に検出することが可能となる。もちろん、機関始動直後以外においても、保持部32の温度Tが設定温度T’以下となれば、電気ヒータ33は作動されて保持部32は昇温され、早期に保持部32へ一定割合のSOXが保持されるようになっている。
【0023】
ステップ104以降は、NOX触媒装置2へ流入したSOX量の積算値SIを検出するためのステップである。ステップ104において、積算値SIを検出する時期であるか否かが判断される。例えば、積算値SIの検出時期を定期的に設定することができる。この判断が否定される時にはそのまま終了する。ステップ104の判断が肯定される時には、ステップ105において、アクセルペダルの踏み込み量Lがほぼ0であるか否かが判断される。この判断が否定される時には、積算値SIの検出時期であっても積算値SIの検出を断念してそのまま終了する。
【0024】
ステップ105の判断が肯定される時には、アクセルペダルは踏み込まれておらず、アイドル運転時又は機関減速時であり、排気ガス量が非常に少なくなる。この時には、積算値SIを検出するために、ステップ106において、排気ガスの空燃比を理論空燃比よりリッチ(又は理論空燃比)にするためのリッチ化制御を実施する。
【0025】
NOX保持材により形成された保持部32は、排気ガスの空燃比が理論空燃比よりリーンである時に、すなわち、排気ガスの酸素濃度が高い時に、排気ガス中のSOXを貴金属触媒により酸化させて硫酸塩としてSOX保持可能量まで保持する。また、SOX保持可能量と現在のSOX保持量との差に対応して排気ガス中のNOXを貴金属触媒により酸化させて硝酸塩として保持する。保持部32において、硫酸塩は硝酸塩に比較して安定な物質であり、硝酸塩に置き換わって硫酸塩は増加し、SOXの保持は進行する。
【0026】
こうして、ステップ106において、排気ガスの空燃比が理論空燃比よりリッチにされると、排気ガス中の酸素濃度が低下し、保持部32からはNOXだけが放出されて排気ガス中の還元物質により還元させられる。
1/2Ba(NO3)2→1/2BaO+NO+3/4O2−309.6kJ/mol
CO+NO→1/2N2+2CO2+373.2kJ/mol
3/2CO+3/4O2→3/2CO2+424.5kJ/mol
【0027】
次いで、ステップ107において、排気ガスの空燃比をリッチ空燃比とした前後の保持部32の温度上昇値ΔT、すなわち、排気ガスの空燃比をリッチ空燃比とした後の保持部32の最高温度と、排気ガスの空燃比をリッチ空燃比する前の保持部32の温度との差ΔTを温度センサ31により検出する。前述したように、1molのNOの還元により約490kJの発熱が発生する。それにより、ステップ108において、ステップ107において検出された温度上昇値ΔTに基づき保持部32から放出されて還元されたNOX量を算出することができ、これを保持部32の現在のNOX保持量ANとして推定する。
【0028】
次いで、ステップ109において、推定されたNOX保持量ANと保持部32のSOX保持可能量とに基づき、保持部32の現在のSOX保持量ASを推定する。こうして推定された保持部32の現在のSOX保持量ASは、硫黄成分検出装置3の保持部32にSOXが保持されていなかった時、すなわち、SOX保持量がゼロであった時(硫黄成分検出装置3の新品時又は硫黄成分検出装置3からSOXが完全に放出された時)から現在までの間に硫黄成分検出装置3の位置において排気通路1を通過した排気ガス中のSOX量の一定割合が硫黄成分検出装置3の保持部32に保持されたものと考えることができ、ステップ110において、現在のSOX保持量ASに基づきSOX保持量がゼロであった時から現在までの間に硫黄成分検出装置3の位置において排気通路1を通過した排気ガス中のSOX量の積算値SI、すなわち、NOX保触媒装置2へ流入したSOX量の積算値を検出する。
【0029】
このように、NOX保触媒装置2へ流入したSOX量の積算値SIを検出するために、保持部32の現在のSOX保持量ASを推定する際には、アイドル運転時又は機関減速時のような排気ガス流量が設定量より少ない時に排気ガスの空燃比を理論空燃比よりリッチにし、保持部32からSOX保持可能量と現在のSOX保持量ASとの差に対応して保持されたNOXを放出させると共に還元物質により還元させて温度センサにより保持部の温度上昇値ΔTを検出するようになっている。
【0030】
それにより、保持部32から放出されたNOXを還元させた際に発生する熱は、排気ガス流量が設定量より少ないために排気ガスによって殆ど奪いさられることなく保持部32の温度を上昇させるために、保持部の温度上昇値ΔTに基づき保持部32の現在のNOX保持量ANを比較的正確に推定することができ、その結果、保持部32の現在のSOX保持量ASを比較的正確に推定することが可能となる。
【0031】
ここで、保持部32の現在のSOX保持量ASの推定を実施するか否かを判断する排気ガスの設定量は、アイドル運転時又は機関減速時の排気ガス流量に限定されることなく、保持部32から放出されたNOXを還元させた際に発生する熱が、排気ガスによって殆ど奪いさられることなく保持部32の温度を上昇させるように設定されれば良い。それにより、例えばエアフローメータにより吸気流量を現在の排気ガス流量として測定し、現在の排気ガス流量が設定量以下である時に、保持部32の現在のSOX保持量ASの推定を実施するようにしても良い。また、現在の機関運転状態(機関負荷及び機関回転数)に基づき現在の排気ガス流量を推定し又はマップ化しておき、現在の排気ガス流量が設定量以下である時に、保持部32の現在のSOX保持量ASの推定を実施するようにしても良い。
【0032】
排気ガスの空燃比をリッチ空燃比とするには、膨張行程又は排気行程において気筒内へ追加燃料を噴射したり、又は、硫黄成分検出装置3の上流側において排気通路1へ追加燃料を供給したりすれば良い。こうして、未燃燃料を多く含む排気ガスが硫黄成分検出装置3の保持部32近傍に到達すると、排気ガス中の未燃燃料は保持部32に担持された酸化触媒によって排気ガス中の酸素を使用して酸化させられ、排気ガス中の酸素濃度が低下する。
【符号の説明】
【0033】
1 排気通路
2 NOX触媒装置
3 硫黄成分検出装置
31 温度センサ
32 保持部
33 電気ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気ガスの空燃比が理論空燃比よりリーンである時に排気通路を通過する排気ガス中のSOXをSOX保持可能量まで保持可能な保持部と、前記保持部の温度を測定する温度センサとを有し、前記保持部の現在のSOX保持量を推定する際には、排気ガス流量が設定量より少ない時に排気ガスの空燃比を理論空燃比又は理論空燃比よりリッチにし、前記保持部から前記SOX保持可能量と現在のSOX保持量との差に対応して保持されたNOXを放出させると共に還元物質により還元させて前記温度センサにより前記保持部の温度上昇値を検出することを特徴とする硫黄成分検出装置。
【請求項2】
さらに前記保持部を加熱するためのヒータを有し、前記保持部の温度が設定温度以下の時には前記ヒータを作動することを特徴とする請求項1に記載の硫黄成分検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−158297(P2011−158297A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−18614(P2010−18614)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】