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硫黄欠乏を利用して作物の有機セレン化合物含量を高める方法
説明

硫黄欠乏を利用して作物の有機セレン化合物含量を高める方法

【課題】有機セレン化合物が高含量化され、無機セレン含量の少ない植物性セレン原料の新規な製造方法の提供。
【解決手段】硫酸塩を含まない肥料養液で一定期間栽培して硫黄欠乏の状態を誘導後、引き続き、セレンを含む養液で栽培する。有機セレン化合物の割合が増加し、無機セレン含量の少ない植物性セレン高含量化作物を得ることができる。得られた植物体は、乾燥、粉砕、抽出などにより医薬品や健康食品に利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は硫黄欠乏を利用して植物の有機セレン化合物含量を高める栽培方法、及び栽培方法によって得られた植物体に関する。
【背景技術】
【0002】
アメリカにおいて、セレン含量の低い農作物を摂取している地域の癌発生率は高く、一方、セレン含量が高い農作物を摂取している地域の癌発生率は低いと言われており、その効果を確かめるべく研究が行なわれてきた。
【0003】
セレン摂取によるがん予防のメカニズム研究の結果、摂取するセレン化合物により癌予防効果や安全性が異なることが確認され、植物性のメチルセレノシステインは癌予防効果や安全性の面において、他のセレン化合物よりも優れているとされている。そのため、栽培時にセレン酸塩などの無機セレン化合物を肥料成分の一つとして植物に施し、植物体中にメチルセレノシステインなどの有機セレン化合物を高含量化する方法が検討されているが、無機セレン化合物としてセレン酸塩を用いた場合、植物に吸収された後、その50%以上が有機セレン化合物に変換されず、セレン酸のまま植物体中に残るといった問題がある(非特許文献1、2)。
【0004】
硫黄とセレンは同族の元素であり、化学的な特性が似ていることから、植物に吸収された硫酸イオンがメチオニンやシステインなどの硫黄を含むアミノ酸類に生合成される代謝経路と、セレン酸イオンが有機セレン化合物に生合成される代謝経路は同じであることが報告されている(非特許文献3)。また、硫黄代謝経路は植物の硫黄環境により、動的に制御されていることが分かっており、硫黄欠乏時には硫酸イオンの吸収や硫酸イオンが有機化合物に生合成される効率が上がるような変化が起こることが報告されている(非特許文献4)。
【0005】
アリウム属植物は、有機硫黄化合物を多く含んでおり、硫黄とセレンは植物体中で同じ挙動を示すことから、アリウム属植物へセレンを取り込ませるための栽培方法が検討されてきた。例えば、セレンを添加する際、セレンと硫黄の比を1:2以下とし、その硫黄の濃度は0.1〜5 mMにて水耕栽培する方法(例えば、特許文献5参照)、水に難溶性のセレンを土壌に散布することにより、無機セレンの汚染を抑えながら高含量のセレン植物を栽培する方法(例えば、特許文献2参照)、種子をセレン水溶液で発芽させ、セレン含有スプラウトを得る方法(例えば、非特許文献1参照)が既に知られている。
【0006】
しかし、セレン濃度が硫黄濃度よりも低いと、セレンの吸収速度が遅く、栽培期間が長くなることが問題となる。一方、水に難溶性の無機セレン化合物を散布する方法は、均等に散布することが困難であり、範囲は限られるものの、土壌自体の汚染が問題となる。また、スプラウトを栽培する方法では、植物体が小さく、食品原料などの工業的利用に不適である。
【0007】
このため、がん予防など機能性が期待できる有機セレン化合物が高含量であり、毒性の懸念される無機セレン化合物が少ない植物原料を、短期間でかつ環境への安全性が高く、食品原料などの工業的利用に適した方法にて、高濃度のセレン含有植物を得る栽培方法が望まれてきた。
また、硫黄欠乏が植物体において有機セレン含量を高める一方において、無機セレン含量が低下することは、何れの文献にも報告されていない。
【0008】
【特許文献1】国際公開第00/33860号パンフレット
【特許文献2】特開2002-262656号公報
【非特許文献1】Kapolna and Fodor, Microchem J., 84 1-2, 56-62, 2006.
【非特許文献2】Kahakachchi et al., J.Chromatogr A, 1054, 303-312, 2004.
【非特許文献3】Sors et al., Photosynthesis Research, 86, 373-389, 2005.
【非特許文献4】Saito, Plant Physiology,136,2443-2450, 2004.
【非特許文献5】Sugihara et al., Biosci.Biotechnol.Biochem., 68, 193-199, 2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、がん予防などの優れた効果が期待できる植物性有機セレン化合物が高含量であり、毒性が高くサプリメント原料等として好ましくない無機セレン化合物が減少した植物の栽培方法および該栽培法で得られた植物を食品や医薬品の原料として提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、植物に有機セレンを高含量に蓄積する栽培方法の研究過程において、従来の発想とは逆に硫黄を欠乏させる処置が、有機セレン含量を飛躍的に高めることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の(1)〜(5)を提供するものである。
【0011】
(1)有機セレン高含有植物を栽培する方法であって、アリウム属植物に硫黄欠乏を誘導する第一の栽培工程と、セレンを含む培地にて培養する第二の栽培工程を含んでなる、栽培方法。
(2)前記アリウム属植物が、ニンニク、タマネギ、ネギ、ニラから選択される上記(1)に記載の栽培方法。
(3)前記栽培が養液栽培である、上記(1)または(2)に記載の栽培方法。
【0012】
(4)有機セレンを高含有する植物であって、アリウム植物に硫黄欠乏を誘導する第一の栽培工程と、セレンを含む培地にて培養する第二の栽培工程によって得られる、植物体。
(5)前記アリウム属植物が、ニンニク、タマネギ、ネギ、ニラからから選択される上記(4)に記載の植物体。
(6)前記栽培が養液栽培である、上記(4)または(5)に記載の植物体。
(7)上記(4)〜(6)のいずれかに記載の植物体に含まれる有効成分を含んでなる経口摂取材料。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明におけるアリウム属植物は、ニンニク(Allium sativum)、タマネギ(Allium cepa)、ラッキョウ(Allium chinense)、ニラ(Allium tuberosum)、ネギ(Allium fistulosum)などがあり、好ましくは、ニンニク、ニラ、ネギを用いることができる。
硫黄欠乏を誘導する第一の栽培工程は、アリウム属植物のりん片、種子、むかご(珠芽)、または組織培養により得られた小りん茎から、あるいはそれらを一定期間通常栽培した植物体から始めることができ、好ましくは、りん片、種子、またはむかご(珠芽)から、あるいは通常栽培した植物体から始める。
【0014】
第一の栽培工程において、制御された量の硫酸イオンを存在させる場合、硫酸イオン源は、水溶液中で硫酸イオンを生じる化合物由来のものであればよく、例えば、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カリウム、硫酸カルシウム、硫酸アンモニウム、硫酸であり、これらを1種又は2種以上を用いることができるが、好ましくは、硫酸マグネシウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウムである。
【0015】
第二の栽培工程において使用するセレンは、水溶性のセレン酸塩または亜セレン酸塩由来のものであり、例えば、セレン酸カリウム、セレン酸ナトリウム、亜セレン酸カリウム、亜セレン酸ナトリウムの1種又は2種以上を用いることができるが、好ましくは、セレン酸カリウムまたはセレン酸ナトリウムである。
【0016】
栽培方法の形態としては、土壌栽培または養液栽培(例えば、水耕栽培、噴霧栽培、固形培地耕栽培など)に利用することができるが、硫酸イオン濃度及びセレン濃度の管理が容易である水耕栽培が好ましい。施設としては、一般的に用いる施設にて栽培可能であるが、人工照明の植物工場、ガラス温室、日光がよく入るビニールハウスが好ましい。
【0017】
本発明の方法を養液培養として行う場合、硫黄を含まないようにまたは制御された量で硫黄を含むように調製した養液を用いて1〜90日間第一の栽培工程を行い、植物に硫黄欠乏を誘導した後、無機セレンを含む培養液で1〜60日間第二の栽培工程を行う。栽培開始時にかなりの量の硫黄が含まれる場合には、植物が硫黄分を吸収することにより、培地中の硫黄分が十分に減少した後に1〜90日間第一の栽培工程を行い、植物に硫黄欠乏を誘導した後、無機セレンを含む培養液で1〜60日間の第二の栽培工程を行うことにより、有機セレン高含量作物を提供することが可能である。
【0018】
第一の栽培工程から第二の栽培工程に移行するに当り、植物が硫黄欠乏状態であることを確認することも可能であり、例えば、硫黄の生合成に関与するO−アセチルセリン(OAS)は硫黄欠乏により含量が高くなることが知られている(Hopkins et al., Plant Physiology, 138, 433-440, 2005)。
【0019】
本発明に使用する養液は、農業用水、地下水、脱イオン水などを原水として、硫黄分の少ないまたは硫黄分を含まない肥料塩類を溶解することによって調製できる、0.5 mM以下の硫黄分である培養液であり、好ましくは0.2 mM以下である。1.0 mMを超えるような場合には、植物が硫黄分を吸収しても十分に濃度が低下しない場合が多い。栽培に用いる培養液は、セレンと硫酸イオンを除き、一般的に培養液に用いることができる成分(例えば、窒素、リン酸、カリウム、マグネシウム、カルシウムなど)を配合して、調製することができる。
【0020】
本発明にて得られたアリウム属植物は、植物体全体又はその一部を用いることができ、そのまま食用、または破砕、抽出、乾燥等加工し、医薬品または健康食品に利用することができる。
医薬品として用いる場合の形態としては、製剤として一般に用いることができる賦形剤、有効成分を配合し、錠剤、顆粒剤、粉末、カプセル剤、液剤として使用することができる。
【0021】
健康食品として用いる場合の形態としては、固形食品、クリーム状またはジャム状の半流動食品、ゲル状食品、飲料、茶葉等あらゆる食品形態とすることが可能であり、例えば、粉末、カプセル、顆粒、タブレット、ドリンク剤等の形態が挙げられる。このような健康食品へと慣用方法に従って加工することができる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
実施例1:養液中の硫酸イオン濃度とOAS含量の変化
植物では硫黄欠乏に伴い、硫黄の生合成に関与するO−アセチルセリン(OAS)の含量が高くなることから、ネギの水耕栽培において、養液中の硫酸イオン濃度変化とネギ緑葉中のOAS含量変化を調べた。通常の栽培を行った場合には、ネギの吸収量を超えて、肥料に含まれる硫酸塩が追加されるため、養液中の硫酸イオン濃度は常に1 mM以上となり、OAS含量が上昇することはなかった(図1)。
【0023】
硫酸塩の少ない肥料で栽培を開始し、栽培期間中に硫酸塩を追加しなかった場合には、ネギの吸収に伴い、養液中の硫酸イオン濃度は減少した。引き続き硫酸イオン濃度が十分に低下すると、OAS濃度が2〜10倍程度まで増加し(図2)、硫黄欠乏の反応を示した。このように、硫酸塩の少ない肥料で栽培を開始し、硫酸塩を追加しなかった場合には、植物の吸収に伴い、養液中の硫酸イオン濃度は減少することで硫黄欠乏が誘導できることがわかった。
【0024】
なお、実施例1〜4において使用した養液に基本組成は下記の表1のとおりであった。
【表1】

【0025】
実施例2:ニンニク鱗片を用いた検討(1)
ニンニク鱗片を、硫酸イオンを60 μM含む養液(処理1)と硫酸イオンを240 μM含む養液(処理2)に植え付け12日間栽培し、その後、処理1と処理2ともにセレン酸カリウムを19 μMの濃度で添加し、さらに6日間栽培した。栽培後のニンニク全草を減圧乾燥・粉砕し、緑色の粉体を得た。
【0026】
栽培中の養液を適宜採取し、養液に含まれる硫酸イオンおよびセレン酸イオンをイオンクロマトグラフィー法により調べた結果、処理1の場合はセレン酸を添加する6日間前までに、養液中の硫酸イオンは検出されなくなっており、硫黄欠乏の状態であった。処理2の場合はセレン酸を添加した12日目でもまだ養液中に硫酸イオンが53 μMの濃度で残っていた(図3)。12日目に添加したセレン酸は処理1、処理2の場合とも同じように吸収され、栽培終了時にはほぼすべてが吸収された。
【0027】
得られた粉体に含まれるメチルセレノシステイン(MeSeCys)含量をOPAポストカラム蛍光HPLC法によって求めた結果、処理1では246 μg/g(Se換算)、処理2では96μg/gであった。また、セレン酸含量をジアミノナフタレン蛍光HPLC法により測定した結果、処理1が52 μg/g(Se換算)、処理2は184 μg/gであった。セレン添加前に硫黄欠乏であった処理1の方が、硫酸イオンが残存する処理2と比較してMeSeCysが約2.5倍、生合成されずに残った無機セレンであるセレン酸含量は1/3以下となった(図4)。
【0028】
実施例3:ネギを用いた検討
ロックウールに播種、育苗したネギの苗を、硫酸塩を用いないで調製した養液(A)と1.5 mMの硫酸イオンを含む養液(B)に植え付け、6週間水耕栽培した。その後、(A)と(B)ともにセレン酸カリウムを20 μMの濃度で含む養液に交換し、さらに3日間栽培した。栽培後に得られたネギの根を含まない部分を収穫し、減圧乾燥・粉砕し、緑色の粉体を得た。
【0029】
得られた粉体に含まれるメチルセレノシステイン(MeSeCys)含量をOPAポストカラム蛍光HPLC法によって求めた結果、(A)は96 μg/g(Se換算)、(B)が63 μg/gであった。また、セレン酸含量をジアミノナフタレン蛍光HPLC法により測定した結果、(A)は49 μg/g(Se換算)、(B)が148 μg/gであった。一方、粉体に含まれる総セレン含量を、湿式灰化とジアミノナフタレン蛍光HPLC法によって測定した結果、(A)が273 μg/g、(B)は319 μg/gであり、(A)は(B)に較べて有機セレン化合物であるMeSeCysの占める割合が約2倍、生合成されずに残った無機セレンであるセレン酸含量は約1/3となった(図5)。
【0030】
実施例4:ニンニク鱗片を用いた検討(2)
硫酸塩を含まない肥料を用いて調製した60 Lの培養液を使って、福地系ホワイト種ニンニク鱗片56個を植え付け16日間栽培した、引き続き、セレン酸カリウムを18 μMの濃度で添加し、さらに13日間栽培した。栽培後のニンニク8株を収穫(無作為に4本ずつを(A)、(B)に割り当て)、全草を減圧乾燥・粉砕し、緑色の粉体を得た。また、残り48株は収穫後、蒸気によるブランチングを5分間行い、遠赤外線乾燥・粉砕により、淡緑色の粉体167 gを得た(C)。(A)、(B)、(C)の粉体について実施例2と同様の方法で、MeSeCys含量、セレン酸含量、および総セレン含量を測定した結果を表2に示した。
【0031】
【表2】

【0032】
ニンニクに吸収された総セレンのうち約50%がMeSeCys、無機セレンは10%以下であるニンニク乾燥粉末が得られた。
産業上の利用の可能性
本発明の栽培方法は、現在行われているネギやニラ等植物の水耕栽培設備を利用して、有機セレン高含量化アリウム属植物の工業的な生産を可能とするものであり、健康食品原料、医薬品原料として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、通常栽培時、養液中硫酸イオン濃度の変化とネギのOAS含量の変化を示す図である。
【図2】図2は、硫黄を減らして水耕栽培した場合の養液中硫酸イオン濃度の変化とネギのOAS含量変化を示す図である。
【図3】図3は、実施例1の硫酸イオンとセレン酸イオンの濃度変化を示す図である。
【図4】図4は、実施例2のセレン化合物含量の比較を示す図である。
【図5】図5は、実施例3のセレン化合物含量の比較を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機セレン高含有植物を栽培する方法であって、アリウム属植物に硫黄欠乏を誘導する第一の栽培工程と、セレンを含む培地にて培養する第二の栽培工程を含んでなる、栽培方法。
【請求項2】
前記アリウム属植物が、ニンニク、タマネギ、ネギ、ニラから選択される請求項1に記載の栽培方法。
【請求項3】
前記栽培が養液栽培である、請求項1または2に記載の栽培方法。
【請求項4】
有機セレンを高含有する植物であって、アリウム植物に硫黄欠乏を誘導する第一の栽培工程と、セレンを含む培地にて培養する第二の栽培工程によって得られる、植物体。
【請求項5】
前記アリウム属植物が、ニンニク、タマネギ、ネギ、ニラからから選択される請求項4に記載の植物体。
【請求項6】
前記栽培が養液栽培である、請求項4または5に記載の植物体。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか1項に記載の植物体に含まれる有効成分を含んでなる経口摂取材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−17860(P2009−17860A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−184985(P2007−184985)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【出願人】(000250100)湧永製薬株式会社 (51)
【Fターム(参考)】