説明

硫黄酸化細菌活性の測定方法及び硫黄酸化細菌活性測定用キット

【課題】専門的技術を必要とせず、現場で迅速かつ簡便に硫黄酸化細菌活性を測定し得る方法、及び該方法に好適に用いられるキットの提供
【解決手段】被検試料中の硫黄酸化細菌の活性を測定する方法であって、滅菌処理を施した硫黄酸化細菌培養用溶液を入れたゴム栓付密閉容器に、被検試料と硫化ナトリウム液とpH調整剤とを添加して混合した後、所定時間培養後、当該ゴム栓付密閉容器内の気相中の硫化水素量及び/又は当該ゴム栓付密閉容器内の液相中の溶存硫化物量を測定することを特徴とする、硫黄酸化細菌活性の測定方法、及び、該測定方法に用いられる硫黄酸化細菌活性測定用キット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄酸化細菌活性を迅速かつ簡便に測定するための方法、及び、該測定方法に用いられるキットに関する。
【背景技術】
【0002】
腐食は、下水道の配管や、水処理施設等の配管や水処理用タンク等における大きな問題の一つである。このため、これらの配管等では、一般的に、腐食が起きる前又は起きた後に、防菌剤による腐食対策や塗布型ライニングコートによる防食対策等が行われている。
腐食の原因は様々であり、腐食の原因が特定できる場合には、この原因に適した防食対策を選択することができる。しかしながら、一般的には、腐食の原因を迅速に特定することは困難である場合が多く、腐食の原因が分からない状態で過度の防食対策を行わざるを得なかった。
腐食の主な原因の一つとして硫黄酸化細菌による硫黄の産生が挙げられる。腐食の原因が硫黄酸化細菌活性によるものであるか否かを迅速に調べることができれば、防食対策として防菌剤処理が適当か否かを速やかに決定することができる。
【0003】
一方、近年、微生物の活性を利用した装置が数多く開発されている。生物脱硫装置や生物脱臭装置は、硫黄酸化細菌の活性を利用して硫化水素を除去する装置であるが、これらの装置の硫化水素処理能力が低下した場合に、原因を解明することは困難であり、考えられる全ての原因について改善策を検討しなくてはならないという問題がある。これらの装置の硫化水素処理能力悪化の原因が、硫黄酸化細菌の活性低下によるものであるか否かを迅速に調べることができれば、最適な改善策を迅速に決定することができる。
【0004】
このように、様々な分野において、硫黄酸化細菌活性を迅速に測定する方法の開発が強く望まれている。一般的に、被検試料中の硫黄酸化細菌の活性測定には、当該被検試料中の硫黄酸化細菌を検出したり、当該被検試料中に含有されている硫黄酸化細菌量を測定することが行われている。硫黄酸化細菌の検出方法としては、培養法がある。その他、遺伝子解析技術を応用した検出方法として、例えば、(1)硫黄酸化細菌に特異的な16S リボゾームRNA遺伝子配列に相補的なプローブを用いて、In situ Hybridization法等により、当該イオウ酸化細菌を同定・検出する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−085073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、培養法では、一定の培養時間を要するため、試験に1〜数週間かかる場合もあり、迅速に硫黄酸化細菌を検出することは困難である。また、配管等の腐食部位から採取された試料である場合等、含まれている硫黄酸化細菌の種類が不明である場合には、培養に用いた培地が試料中に存在する硫黄酸化細菌に適合しない場合には、細菌が増殖せず、検出することができないという問題もある。
一方、上記(1)の方法では、遺伝子解析技術を応用しているため、高度な専門技術が必要であるという問題がある。特にIn situ Hybridization法による場合には、顕微鏡観察により検出を行うため、顕微鏡等のような高価な装置を要し、腐食等が生じている現場において検出を行うことは非常に困難である。
【0007】
本発明は、専門的技術を必要とせず、現場で迅速かつ簡便に硫黄酸化細菌活性を測定し得る方法、及び該方法に好適に用いられるキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、硫黄酸化細菌培養用溶液を入れて密閉した滅菌容器内に、被検試料と、基質となる硫化ナトリウムとを添加し、硫化水素の発生の有無や発生量を測定することにより、迅速かつ簡便に硫黄酸化細菌活性を測定し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、被検試料中の硫黄酸化細菌の活性を測定する方法であって、滅菌処理を施した硫黄酸化細菌培養用溶液を入れたゴム栓付密閉容器に、被検試料と硫化ナトリウム液とpH調整剤とを添加して混合し、所定時間培養後、当該ゴム栓付密閉容器内の気相中の硫化水素量及び/又は当該ゴム栓付密閉容器内の液相中の溶存硫化物量を測定することを特徴とする、硫黄酸化細菌活性の測定方法を提供するものである。
前記硫黄酸化細菌活性の測定方法において、前記pH調整剤は二酸化炭素ガスであることが好ましい。
また、前記ゴム栓付密閉容器への気体又は液体の注入、並びに前記ゴム栓付密閉容器からの気体又は液体の回収を、滅菌処理を施した針付きシリンジを用いて行うことが好ましい。
さらに、前記被検試料は、ステンレス製部材若しくはコンクリート部材の腐食部位から採取された試料又は生物脱硫装置から採取された菌液であることが好ましい。
前記被検試料は、芳香族化合物を含むことも好ましい。
また、本発明は、滅菌処理を施したゴム栓付密閉容器と、硫化ナトリウム液と、pH調整剤とを有することを特徴とする硫黄酸化細菌活性測定用キットを提供するものである。
前記硫黄酸化細菌活性測定用キットにおいては、前記ゴム栓付密閉容器には硫黄酸化細菌培養用溶液が入っており、前記pH調整剤が二酸化炭素ガスであることが好ましい。
また、前記硫黄酸化細菌活性測定用キットにおいては、さらに、攪拌子、滅菌処理を施した針付きシリンジ、硫化水素濃度測定器、及び溶存硫化物濃度測定器からなる群より選択される1以上を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の硫黄酸化細菌活性の測定方法は、培養法とは異なり、硫黄酸化細菌の活性自体を測定する方法であるため、長時間の培養を必要とせず、迅速に測定することができる。また、複雑な操作や高度な専門技術を要さず、簡便に硫黄酸化細菌活性を測定することができる。さらに、密閉した試験系で簡便に測定し得ることから、腐食等が生じている現場において硫黄酸化細菌活性を測定することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の硫黄酸化細菌活性の測定方法において、ゴム栓付密閉容器から分析サンプルを回収する方法を模式的に示した図である。図2(a)は該キットの平面図を示しており、図2(b)は図2(a)中の「IIb」の断面図であり、図2(c)は図2(a)中の「IIc」の断面図である。
【図2】本発明の硫黄酸化細菌活性測定用キットの一態様の概要を示した図である。
【図3】実施例1において、バイアル瓶の気相中の硫化水素濃度を測定した結果を示した図である。「●」が滅菌培地+菌液(被検試料)の結果を示しており、「▲」が滅菌培地+滅菌した菌液(ブランク)の結果をそれぞれ示している。
【図4】本発明の硫黄酸化細菌活性の測定方法において、実施例3の試験を模式的に示した図である。
【図5】実施例3において、各ベンゼン濃度における全硫化物消費の経時変化を示した図である。
【図6】実施例3において、各ベンゼン濃度における全硫化物消費初速度(C/C/t値)を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の硫黄酸化細菌活性の測定方法は、被検試料中の硫黄酸化細菌の活性を測定する方法であって、滅菌処理を施した硫黄酸化細菌培養用溶液を入れたゴム栓付密閉容器に、被検試料と硫化ナトリウム液とpH調整剤とを添加して混合し、所定時間培養後、当該ゴム栓付密閉容器内の気相中の硫化水素量、及び/又は当該ゴム栓付密閉容器内の液相中の溶存硫化物量を測定することを特徴とする。被検試料中に硫黄酸化細菌が存在する場合には、該細菌の硫黄酸化活性により、硫化ナトリウムが酸化され、硫化水素が発生する。このため、反応前後の当該ゴム栓付密閉容器内の気相中の硫化水素量や当該ゴム栓付密閉容器内の液相中の溶存硫化物量を測定することにより、硫黄酸化活性を測定することができる。
【0013】
本発明においては、硫黄酸化細菌の活性測定を、被検試料が採取された環境により近い状態で行うために、基質として、チオ硫酸ナトリウムや硫黄単体ではなく、硫化ナトリウムを用いている。この硫化ナトリウムにより、溶液中のpHが上昇するが、このpHの変動により、硫黄酸化細菌の活性や増殖能等に影響が及ぼされる可能性がある。そこで、本発明においては、予め硫化ナトリウム液とともにpH調整剤を添加しておく。pH調整剤としては、硫化ナトリウム液によるpHの過度の上昇を抑制し得るものであれば特に限定されるものではないが、本発明においては、二酸化炭素ガスであることが好ましい。被検試料が採取された環境を大幅に変更することなく、充分な緩衝作用を発揮することができるためである。なお、硫化ナトリウムを基質とし、pH調整剤として二酸化炭素ガスを用いた場合の、硫黄酸化細菌による硫化水素の発生反応を以下に示す。
NaS+2HO+2CO→2Na+HS↑+2HCO
【0014】
本発明の硫黄酸化細菌活性の測定方法に供される被検試料は、硫黄酸化細菌が含まれていることが期待される試料であれば特に限定されるものではない。例えば、腐食が生じている部位であって、該腐食の原因が硫黄酸化細菌活性である可能性がある部位から採取された試料等がある。特に、下水道や水処理施設等の配管や水処理用タンク等の、ステンレス製部材やコンクリート部材からなる腐食部位から採取された試料であることが好ましい。その他、生物脱硫装置や生物脱臭装置から採取される、硫黄酸化細菌が含まれている菌液や活性汚泥等も好ましい。
【0015】
芳香族化合物は硫黄酸化細菌の活性に影響を及ぼす可能性が高い。本発明の硫黄酸化細菌活性の測定方法を用いて芳香族化合物を含む被検試料の硫黄酸化活性を測定することにより、芳香族化合物が硫黄酸化細菌に及ぼす影響を調べることができる。芳香族化合物としては、例えばベンゼン、アントラセン、フェノール等が挙げられる。芳香族化合物を含む被検試料としては、例えば、石炭をガス化して得られるエネルギーガス(以下、石炭ガス化ガス)を脱硫処理する生物脱硫装置から採取された菌液等が挙げられる。
【0016】
その他、本発明の硫黄酸化細菌活性の測定方法を用いることにより、硫黄酸化細菌を含む試料中に複数の芳香族化合物や様々な濃度の芳香族化合物が含まれている場合に、硫黄酸化細菌の活性低下の要因となった芳香族化合物の特定や阻害にならない許容濃度を推定することが可能である。例えば、芳香族化合物を不純物として含む石炭ガス化ガスを生物脱硫装置により脱硫処理する場合、ガス中の芳香族化合物の種類や含有量が変化することにより、硫黄酸化細菌の活性が低下してしまう場合がある。そこで、本発明の硫黄酸化細菌活性の測定方法を用いれば、硫黄酸化細菌の活性低下の要因となった芳香族化合物の特定や阻害にならない許容濃度を推定することができる。具体的には、芳香族化合物を含まない硫黄酸化細菌の菌液と、被検試料中に含まれている芳香族化合物を1種類ずつ含む硫黄酸化細菌の菌液とをそれぞれ、ゴム栓付密閉容器に投入し、本発明の硫黄酸化細菌活性の測定方法により、各菌液の硫黄酸化細菌の活性を測定する。測定結果から各菌液の溶存硫化物消費初速度を算出することができる。芳香族化合物を含有させた菌液の溶存硫化物消費初速度を、芳香族化合物を含まない菌液の溶存硫化物消費初速度と比較することにより、被検試料において硫黄酸化細菌活性低下の要因となった芳香族化合物の特定や阻害にならない許容濃度を推定することができる。
【0017】
本発明において、ゴム栓付密閉容器とは、ゴム栓とゴム栓により密閉し得る容器本体とからなるものであって、バッチ式の試験ができ、滅菌処理が可能な容器であれば特に限定されるものではない。滅菌処理としては、乾熱滅菌処理でもよいが、オートクレーブ等を用いた蒸気加圧滅菌処理であることが好ましい。該ゴム栓付密閉容器として、例えば、ゴム栓付きのガスクロマトグラフィー等において用いられるバイアル等が挙げられる。ゴム栓付密閉容器の容量は特に限定されるものではなく、測定される被検試料の量等を考慮して適宜決定することができる。例えば、50〜100mL容程度であれば、充分な感度で硫黄酸化細菌活性を測定することができ、かつ、取扱性にも優れている。
【0018】
ゴム栓付密閉容器のゴム栓のゴムの組成は、オートクレーブ等の滅菌処理が可能なゴムであれば特に限定されるものではないが、ブチルゴム栓であることが好ましい。また、ゴム栓としては、栓全体がゴムからなるものであることが好ましいが、上面の素材がゴムであればよく、必ずしも栓全体がゴム製でなくてもよい。栓の上面がゴム素材であることにより、ゴム栓付密閉容器への気体又は液体の注入や、ゴム栓付密閉容器からの気体又は液体の回収を、滅菌処理を施した針付きシリンジを用いて行うことができる。すなわち、ゴム栓を貫通させた滅菌済針を介して液体や気体の出し入れを行うことにより、密閉性を損なうことなく、ゴム栓付密閉容器における液体や気体の注入・回収を行うことが可能となる。また、容器本体に蓋をした状態のゴム栓の上から、ゴム栓の上面の少なくとも一部が露呈する状態で金属やプラスチック等のキャップをしたものであってもよい。
【0019】
ゴム栓付密閉容器に入れる硫黄酸化細菌培養用溶液は、硫黄酸化細菌を培養し得る溶液であれば特に限定されるものではない。例えば、リン酸塩、アンモニウム塩、マグネシウム塩等の硫黄酸化細菌のための栄養塩を溶解させた培地等、硫黄酸化細菌の培養に通常用いられる公知の培地を用いることができる。その他、被検試料を採取した環境から採取した溶液であってもよい。被検試料を採取した環境から採取した溶液を培養用溶液として用いることにより、培地の不適合により硫黄酸化細菌が検出できない、という問題を生じさせることなく、硫黄酸化細菌活性を測定することができる。
【0020】
ゴム栓付密閉容器に入れる硫黄酸化細菌培養用溶液の量は、ゴム栓付密閉容器の容量や測定される被検試料の量等を考慮して適宜決定することができる。例えば、ゴム栓付密閉容器の容量の1/3〜2/3程度であれば、充分な感度で硫黄酸化細菌活性を測定することができ、かつ、取扱性にも優れている。例えば、ゴム栓付密閉容器が70mL容である場合、硫黄酸化細菌培養用溶液の量としては、10〜50mLであることが好ましく、20〜30mLより好ましく、30mLであることがさらに好ましい。
【0021】
硫黄酸化細菌培養用溶液を入れたゴム栓付密閉容器は、予め滅菌処理されたものを用いる。硫黄酸化細菌培養用溶液を入れた状態のゴム栓付密閉容器を、オートクレーブ等を用いて滅菌処理してもよく、滅菌処理した硫黄酸化細菌培養用溶液を、同じく滅菌処理したゴム栓付密閉容器に入れてもよい。
【0022】
本発明の硫黄酸化細菌活性の測定方法においては、まず、滅菌処理を施した硫黄酸化細菌培養用溶液を入れたゴム栓付密閉容器に、被検試料と硫化ナトリウム液とpH調整剤とを添加して混合する。被検試料が液体や小さな固形物の懸濁液である場合には、当該ゴム栓付密閉容器に、針付き滅菌シリンジ(注射器)等を用いて、ゴム栓を貫通させた針を解して注入することができる。一方、被検試料が固体である場合には、硫黄酸化細菌培養用溶液やゴム栓付密閉容器の滅菌状態を維持したまま、すなわち、落下菌等が容器内に混入することを防止しつつ、ゴム栓を外して添加した後、ゴム栓で密栓する。例えば、滅菌綿棒等で、腐食部位の表面をかき取り、容器内の硫黄酸化細菌培養用溶液にかき取ったものを懸濁させてもよく、固体そのものを添加してもよい。
【0023】
ゴム栓付密閉容器内に添加される被検試料の量は、適宜決定することができ、硫黄酸化細菌が少ないと考えられる場合には多めに、多いと考えられる場合には少なめに添加する。なお、ゴム栓付密閉容器内に添加される被検試料の量は、予め測定しておくことが好ましい。例えば、被検試料が液状である場合には、針付き滅菌シリンジで、0.1〜20mL、好ましくは1mL〜10mL添加する。また、被検試料が固体であり、ゴム栓付密閉容器の容器本体がメモリ付き容器である場合には、固体添加後の硫黄酸化細菌培養用溶液の液面の上昇分をメモリで読み取る層ことにより、添加した固体の容積を測定することができる。
【0024】
硫化ナトリウム液は、硫化ナトリウムの水溶液であり、液状の被検試料と同様に、針付きシリンジ(注射器)等を用いて、ゴム栓から注入することができる。当該ゴム栓付密閉容器に添加する硫化ナトリウム液の濃度や量は、ゴム栓付密閉容器の容量、硫黄酸化細菌培養用溶液量等を考慮して適宜決定することができる。例えば、濃度が1〜5%、好ましくは2〜3%、さらに好ましくは3%となるようにNaS・9HOを水に溶解した液を、オートクレーブ等で滅菌したものであることが好ましい。また、本発明においては、ゴム栓付密閉容器内に、例えば、1〜5%のNaS・9HO水溶液を0.1〜0.5mL添加することが好ましく、0.2〜0.3mL添加することがより好ましく、0.3mL添加することがさらに好ましい。
【0025】
ゴム栓付密閉容器内に添加されるpH調整剤として二酸化炭素ガスを添加する場合には、液状の被検試料と同様に、針付きシリンジ(注射器)等を用いて、ゴム栓から注入することができる。当該ゴム栓付密閉容器に添加する二酸化炭素ガスの純度や量は、ゴム栓付密閉容器の容量、硫黄酸化細菌培養用溶液量、硫化ナトリウム液の濃度や量等を考慮して適宜決定することができる。本発明においてゴム栓付密閉容器内に添加される二酸化炭素ガス量としては、例えば、0.6〜3mLであることが好ましく、1〜2mLであることがより好ましく、1.7mLであることがさらに好ましい。
【0026】
ゴム栓付密閉容器内に被検試料、硫化ナトリウム液、及びpH調整剤を添加した後、充分に混合することが好ましい。混合操作は、特に限定されるものではなく、通常攪拌や混合のために行われている手法の中から適宜選択して行うことができる。例えば、単にゴム栓付密閉容器を手で振り混ぜてもよく、ボルテックスミキサー等の振動攪拌機を用いて混合してもよい。また、ゴム栓付密閉容器内に予めマグネティックスターラーバー等の攪拌子を添加しておき、マグネティックスターラー等の磁気攪拌機を用いて強烈に行ってもよい。混合時間は特に限定されるものではなく、混合・攪拌操作の種類、ゴム栓付密閉容器の容量等を考慮して適宜決定することができる。例えば、30秒間〜10分間、好ましくは1〜5分間、さらに好ましくは1分間攪拌する。
【0027】
混合後、ゴム栓付密閉容器内の気相中の硫化水素量やゴム栓付密閉容器内の液相中の溶存硫化物量を測定しておくことが好ましい。培養後の測定値から、混合後培養前の測定値を差し引くことにより、硫黄酸化細菌活性により発生した硫化水素量を算出することができるためである。なお、混合後の測定を省略し、以前の測定値等の経験的に得られた値や、理論的に算出された値を基準値とし、培養後の測定値から硫黄酸化細菌活性を推定してもよい。
【0028】
その後、所定時間培養する。この培養時間に、被検試料中に硫黄酸化細菌が含まれていた場合には、該細菌の硫黄酸化活性により硫化水素が発生する。培養方法は特に限定されるものではなく、静置培養であってもよく、振とう培養であってもよく、攪拌培養であってもよく、回転培養であってもよい。振とう培養は、市販の振とう機を用いて行うことができる。また、攪拌培養は、例えば、ゴム栓付密閉容器内に予めマグネティックスターラーバー等の攪拌子を添加しておき、マグネティックスターラー等の磁気攪拌機を用いて行うことができる。硫黄酸化活性を高めることができるため、振とう培養や攪拌培養であることが好ましい。
【0029】
培養温度は、被検試料中に含まれていることが期待される硫黄酸化細菌の種類等を考慮して適宜決定することができるが、10〜37℃であることが好ましく、20〜35℃であることがより好ましく、28〜30℃であることがさらに好ましい。また、温度制御装置付きインキュベータ等内で培養してもよく、室温等の温度非制御環境下で行ってもよい。
【0030】
培養時間は、培養温度等の培養条件、被検試料の濃度等を考慮して適宜決定することができる。培養温度が低い場合には、培養温度が比較的高い場合よりも長時間培養することにより、高感度に硫黄酸化細菌活性を測定することができる。
【0031】
培養後、ゴム栓付密閉容器内の気相中の硫化水素量やゴム栓付密閉容器内の液相中の溶存硫化物量を測定し、培養前の測定値等の基準値に基づき、硫黄酸化細菌活性を測定する。気相中の硫化水素量のみを測定してもよく、液相中の溶存硫化物量のみを測定してもよく、気相中の硫化水素量と液相中の溶存硫化物量の両方を測定してもよい。
【0032】
なお、一の被検試料に対して、複数回経時的に測定することが好ましい。例えば、培養1〜2時間後に、ゴム栓付密閉容器内の気相中の硫化水素濃度を測定する。最初の測定である程度菌の活性を予測し、これ以降は、反応が早い場合は例えば2時間おきに、反応が遅い場合は例えば6時間〜12時間おきに、各々測定する。これにより、1点で測定した場合よりも正確に硫黄酸化細菌活性を測定することができる。
【0033】
分析サンプルとなる硫化水素量を測定するための気体や溶存硫化物量を測定するための液体は、図1に示すように、当該ゴム栓付密閉容器のゴム栓上部から、滅菌処理を施した針付きシリンジを用いて、気相又は液相からそれぞれ回収することができる。このとき、メモリ付きシリンジを用いることにより、簡便に回収した気体や液体の量を測定することができる。
【0034】
気相中の硫化水素量(濃度)や液相中の溶存硫化物量(濃度)の測定方法は特に限定されるものではなく、常法により測定することができる。例えば、気体中の硫化水素濃度は、検知管等の市販の測定器を用いて測定することができる。なお、検知管とは、硫化水素と反応し変色する化学物質を充填したガラス管であり、一定量のサンプルガスを通過させたときの変色域の大きさから硫化水素濃度を概略測定することができる測定器である。
【0035】
液相中の溶存硫化物は、市販の測定器を用いて測定することができる。具体的には、例えば、液相のサンプルを、例えば1〜50mL、好ましくは2〜25mL、さらに好ましくは2〜10mL採取し、散気筒に入れ、全量が50mLになるように水を加える。さらに1N硫酸を1mL入れて液中のpHを下げて、溶存硫化物測定用の検知管を垂直に差し込んである蓋を閉めて、散気管に空気を送ることにより10〜20分間曝気する。液中の溶存硫化物がpH低下により硫化水素になり、曝気によりそのガスを検知管に通過させ、その時の変色域の大きさから溶存硫化物濃度を測定することができる測定器である。
上記測定器以外にも、サンプル液をビーカー等の適当な容器に入れて、溶存硫化物検知管を浸し、その変色域の大きさから溶存硫化物濃度を測定することができる測定器もある。
【0036】
なお、被検試料に換えて、等量の滅菌水等の硫黄酸化細菌を含有していないことが明らかなものを添加した以外は、被検試料を用いた場合と全て同じ測定条件で測定を行ったものを、測定のブランクとすることができる。被検試料を用いた場合と、ブランクの場合との硫化水素濃度等の減少速度の差から、硫黄酸化細菌の活性を求めることができる。
【0037】
また、被検試料が、鉄、銅等の化学的に硫化水素と反応する金属を含み、その影響が無視できないと考えられる場合には、オートクレーブ等で滅菌処理した等量の被検試料を、被検試料に換えて用いたものを、ブランクとすることが好ましい。このように、未滅菌処理被検試料と滅菌処理済被検試料との両方の測定結果を比較することにより、硫黄酸化細菌等の微生物による生物的反応による硫化水素の発生と、化学反応による硫化水素の発生とを区別することが可能となる。
【0038】
本発明の硫黄酸化細菌活性の測定方法は、操作が簡単であり、大がかりな装置等を必要としないため、被検試料が採取される現場においても、迅速かつ簡便に硫黄酸化細菌活性を測定することができる。また、日常的に硫黄酸化細菌活性を測定することができるため、硫黄酸化細菌による汚染や該細菌の増殖の早期発見が可能となる。さらに、腐食が発覚した場合においても、腐食の原因が硫黄酸化細菌によるものか、それとも他の原因によるものなのかを、迅速に判定することができ、適切な腐食防止策の決定を速やかに行うことができる。その他、本発明の硫黄酸化細菌活性の測定方法により、生物脱臭装置や生物脱硫装置等において、硫黄酸化細菌の量や活性を簡便に求めることができるため、硫化水素除去能が低下した場合に、原因が硫黄酸化細菌活性の低下か否かを迅速に判定することができ、適切な改善策の決定に資することが期待できる。
【0039】
本発明の硫黄酸化細菌活性の測定方法に必要な試薬等をキット化することにより、より簡便に硫黄酸化細菌活性を測定することができる。このような硫黄酸化細菌活性測定用キットとしては、例えば、滅菌処理を施したゴム栓付密閉容器と、硫化ナトリウム液と、pH調整剤とを有することが好ましい。当該ゴム栓付密閉容器には硫黄酸化細菌培養用溶液が入っていることがより好ましい。また、キットに含まれるpH調整剤としては、二酸化炭素ガスであることがより好ましい。
さらに、該ゴム栓付密閉容器内に攪拌子を含み、ゴム栓付密閉容器に対する試料等の注入又は回収を行うための滅菌処理を施した針付きシリンジや、硫化水素濃度測定器、溶存硫化物濃度測定器等を含むキットであることが好ましい。
【0040】
図2は本発明の硫黄酸化細菌活性測定用キットの一態様の概要を示した図である。以下に記述する器具類はキット容器(1)に収納される。なお、図2(a)は該キットの平面図を示しており、図2(b)は図2(a)中の「IIb」の断面図であり、図2(c)は図2(a)中の「IIc」の断面図である。
硫黄酸化細菌培養用溶液(2a)入りバイアル瓶(2)は、容量を示すメモリが付いているものであることが好ましい。また、予め攪拌子(2b)を収納しておくこともできる。気相は空気であるが、pH緩衝剤として、適当量の二酸化炭素ガスを予め添加しておいてもよい。このバイアル瓶(2)は、ブチルゴム栓(2c)で密閉して、キャップ(2d)で締め付けたものであってもよい。このセットはオートクレーブ等で滅菌し、滅菌後に外部から雑菌が付着するのを防止するためのシール(図示せず)に覆われている。なお、図中の「Bl」はブランクの表示である。
【0041】
針付き滅菌シリンジ(3)は、液状のサンプルを培地入りバイアル瓶(2)に注入等するためのものであり、例えば、容量1〜20mLの範囲で何段階か揃えておくことが好ましい。
滅菌綿棒(4)は、固体表面の付着物を取って培地入りバイアル瓶(2)に入れるためのものである。
硫化ナトリウム液入り瓶(5)は、1〜5%のNaS・9HO水溶液を0.1〜0.5mLバイアル瓶(2)に入れて、ブチルゴム栓(2c)で密栓しオートクレーブ等で滅菌したものである。
ガスタイトシリンジ(6)は、培養中のバイアル瓶(2)のブチルゴム栓(2c)を貫通させて気相ガスを採取するためのものである。培地入りバイアル瓶(2)の蓋を開けて被検試料を入れる場合には、CO補充のため、COプッシュ缶(図示していない)からCOガスを採取するのにも用いる。
プッシュ缶用採取口(10)にはパッキンが組み込まれており、COプッシュ缶(図示していない)に取り付けて使う。ガスタイトシリンンジ(6)の針をパッキンに貫通させて、COガスを採取するのに用いる。
滅菌水入り瓶(11)は、液状のサンプルを注入する際、ブランクにサンプル量と等量を入れて、サンプル入りの培地入りバイアル瓶(2)とブランクの瓶との気相容積が等しくなるようにするためのものである。
【0042】
ガス分析用吸引器(7)は、検知管(9)を接続し、それを通して一定量のガスを吸引する器具であり、市販品としてはガステック等がある。
ガスホルダ(8)は、ガス分析用吸引器(7)に接続した検知管(9)の、ガス分析用吸引器(7)と反対側に接続し、吸引時に検知管(9)を通過する空気を収納するためのものである。容量50mLの注射器(8a)とそれに接続し反対側に検知管(9)をはめ込むためのホース(8b)とから成る。
検知管(9)は、硫化水素と反応し変色する化学物質を充填したガラス管で、一定量のサンプルガスを通過させたときの変色域の大きさから硫化水素濃度を概略測定するためのものである。
例えば、ゴム栓付密閉容器内の気相中の硫化水素量の測定は、これらの器具を用いて、以下のように行うことができる。まず、バイアル瓶(2)から一定量の気体をガスタイトシリンジ(6)で採取し、ガスホルダ(8)のホース(8b)に針を刺して、採取したガスを注入する。ただちにガス分析用吸引器(7)で吸引を開始し、採取したガスの全量が検知管(9)を通過するようにする。完全に吸引が終了したら、検知管(9)の変色域の大きさの位置の硫化水素濃度の表示値を読む。この表示値に(100/ガスタイトシリンジ(6)での採取量mL)を乗じた値が気相の硫化水素濃度である。(検知管のガス量標準が100mLの場合。)
【0043】
以上のうち、バイアル瓶(2)、針付き滅菌シリンジ(3)、滅菌綿棒(4)、硫化ナトリウム液入り瓶(5)、検知管(9)、及び滅菌水入り瓶(11)は消耗品であるため、ストックを用意することが好ましい。特にバイアル瓶(2)は、キット容器(1)に収納できる本数が限られているので、ストックは特に必要性が高い。
【0044】
その他、マグネティックスターラー等の攪拌機や、インキュベータ等の培養装置を具備していてもよい。インキュベータとしては、マグネティックスターラーと培地入りバイアル瓶(2)のセットを2組以上収納できる大きさのもの好ましい。なお、培養を攪拌培養ではなく振とう培養で行う場合には、バイアル瓶(2)の中に攪拌子(2b)を入れず、インキュベータに換えて振とう培養器を具備していてもよい。
【実施例】
【0045】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
[実施例1]
本発明の硫黄酸化細菌活性の測定方法により、硫黄酸化細菌を集積培養したサンプルによる硫化水素除去能を測定した。
栄養塩を含む600mLの培地に、活性汚泥を水に溶かしたものの上澄み10mL、土壌上澄み10mL、タンクを腐食させた部分の付着固体を液体に懸濁させたサンプル0.5mL、硫黄酸化細菌の1種であるT.thioparusを2.2mL、0.03g/mLの硫化ナトリウム液を入れて硫黄酸化細菌を集積培養した。集積培養後の全菌数は5×10cells/mLであった。
バイアル瓶に栄養塩を含む培地を30mL入れて、pH緩衝剤としてCO1.7mLを加え、集積培養した菌サンプルを1mL加えたもの、加えないものの2種類用意し、オートクレーブ121℃、15分間で滅菌した。菌サンプルを加えないものに、滅菌処理後に十分培地が冷めてから、集積培養した菌サンプルを同量1mL加えた。これにより、滅菌培地+滅菌した菌液(ブランク)、滅菌培地+菌液(被検試料)の2種類を調整した。
それぞれに0.03g/mL硫化ナトリウムを0.3mL滅菌注射器で加えて、25℃で振とう培養を開始した。培養開始から1時間後と5時間後の2回、気相からを0.5mLの気体を抜き出して硫化水素濃度をガス検知管によって測定した。
測定結果を図3に示す。図3中、「●」が滅菌培地+菌液(被検試料)の結果を示しており、「▲」が滅菌培地+滅菌した菌液(ブランク)の結果をそれぞれ示している。これらの結果より、被検試料とブランクの硫化水素消費速度の差は0.27mgS/L/hとなり、硫黄酸化細菌の活性を確認することができた。なお、ブランクにおいて、培養開始1時間までに若干気相硫化水素濃度の上昇が観察されたが、これは、密封バイアル瓶中の気液平衡に達するまでに時間がかかったためと推察される。
【0047】
[実施例2]
本発明の硫黄酸化細菌活性の測定方法により、1cell当たりの溶存硫化物消費速度を調べた。
バイアル瓶に栄養塩を含む培地を30mL入れて、pH緩衝剤としてCO1.7mLを加え、オートクレーブ121℃、15分間で滅菌した。滅菌処理後に十分培地が冷めてから、集積培養したT.thioparusの菌体サンプルを1mL加えた。よく攪拌した後、0.03g/mL硫化ナトリウムを0.3mL滅菌注射器で加えて、30℃で振とう培養を開始した。培養開始から20分後と38時間後の2回、気相からを0.5mLの気体を抜き出して硫化水素濃度をガス検知管によって測定した。
その結果、気相中の硫化水素は、20分後には2400ppmであったが、38時間後には0ppmとなった。液相中の溶存硫化物も、20分後には36mgs/Lであったが、38時間後には0mg/Lとなった。また、顕微鏡観察により、培地中の菌数は、2.9×10cell/mLであった。これより、T.thioparusの1cell当たりの溶存硫化物消費速度は、2.15×10−14gS/h/cellと試算できた。
本発明の方法により、T.thioparusに限らず、様々な硫黄酸化細菌の1cell当たりの溶存硫化物消費速度を測定することができる。事前に使用する菌の溶存硫化物消費速度が分かれば、本発明により活性の低下が判明した場合、追加する必要菌数を推定することができる。
【0048】
[実施例3]
本発明の硫黄酸化細菌活性の測定方法を、生物脱臭装置や生物脱硫装置等において、硫黄酸化細菌の量や活性を求めるために用いることができる。この際、生物脱硫装置により脱硫を行う人工ガスが石炭ガス化ガスであった場合には、本発明の硫黄酸化細菌活性の測定方法に供される被検試料として生物脱硫装置から採取される菌液や活性汚泥には、石炭ガス化ガスに元々含まれていた芳香族化合物も含まれている。そこで、本発明の硫黄酸化細菌活性の測定方法により、被検試料中にベンゼンが含まれていた場合に、ベンゼンが硫黄酸化細菌の活性に影響を及ぼすかを調べられるか確認するため、ベンゼン濃度の異なるサンプルにおける硫黄酸化細菌の溶存硫化物消費初速度を調べた。
まず、ゴム栓付バイアル瓶のゴム栓に、針付き滅菌シリンジの針を刺した試験装置を9本準備した。この9本の試験装置に、それぞれ栄養塩を含む培地を30mL入れて、pH緩衝剤としてCO1.7mLを加え、オートクレーブ121℃、15分間で滅菌した。滅菌処理後に十分培地が冷めてから、7本に対して、それぞれ、最終濃度が5、10、15、30、60、400、800mg/Lとなるようにベンゼン溶液を滅菌シリンジから加えた。これらの7本の試験装置と、ベンゼン溶液を添加しなかった2本の試験装置のうちの1本に対して、集積培養した硫黄酸化細菌(T.thioparus)の菌体サンプルを1mL加えてよく攪拌した。その後、9本全ての試験装置に対して、0.03g/mL硫化ナトリウム(NaS)溶液を0.3mL滅菌シリンジから加えて、30℃で振とう培養を開始した。培養開始直後(培養開始0分)、並びに培養開始から24時間後及び48時間後の計3回、気相からを0.5mLの気体を抜き出して硫化水素濃度をガス検知管によって測定した。図4に、試験装置の模式図を示す。
【0049】
硫黄酸化細菌の全硫化物消費速度に及ぼすベンゼンの影響を評価した。具体的には、各時間における試験装置内の全硫化物濃度(C)を、培養開始0分における全硫化物濃度(C)で除した値(C/C値)により、各ベンゼン濃度での全硫化物消費量を調べた。また、C/C値をさらに培養時間(時間)で除した値(C/C/t値)により、各ベンゼン濃度における全硫化物消費初速度を調べた。ここで、全硫化物は、図4に示すHS(G)、HS(L)、HS、及びS2−の総和である。
図5は、各ベンゼン濃度における全硫化物消費の経時変化を示した図である。図中、「30mg/L」、「200mg/L」、「400mg/L」、及び「800mg/L」は、各濃度となるようにベンゼンを添加した試験装置の結果を、「0mg/L(菌あり、ベンゼンなし)」は、硫黄酸化細菌は添加したがベンゼンは添加しなかった試験装置の結果を、「コントロール(菌なし、ベンゼンなし)」は、硫黄酸化細菌とベンゼンのいずれも添加しなかった試験装置の結果を、それぞれ示す。
図6は、各ベンゼン濃度における全硫化物消費初速度(C/C/t値)を示した図である。ベンゼンを添加した8本の試験装置の結果を示した。この結果、培養時間が48時間までの場合には、菌液中に30〜800mg/Lのベンゼンが存在する場合において、硫黄酸化細菌の硫化水素除去性能は低下しないことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の硫黄酸化細菌活性の測定方法及び該測定方法に用いられるキットを用いることにより、専門的技術を必要とせず、現場で迅速かつ簡便に硫黄酸化細菌活性を測定し得るため、配管等の腐食防止技術における分野や、生物脱硫技術等の硫黄酸化細菌の活性を利用する分野で利用が可能である。
【符号の説明】
【0051】
1…キット容器、2…バイアル瓶、2a…硫黄酸化細菌培養用溶液、2b…攪拌子、2c…ブチルゴム栓、2d…キャップ、3…針付き滅菌シリンジ、4…滅菌綿棒、5…硫化ナトリウム液入り瓶、6…ガスタイトシリンジ、7…ガス分析用吸引器、8…ガスホルダ、8a…注射器、9…検知管、10…プッシュ缶用採取口、11…滅菌水入り瓶。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検試料中の硫黄酸化細菌の活性を測定する方法であって、
滅菌処理を施した硫黄酸化細菌培養用溶液を入れたゴム栓付密閉容器に、被検試料と硫化ナトリウム液とpH調整剤とを添加して混合し、所定時間培養後、当該ゴム栓付密閉容器内の気相中の硫化水素量及び/又は当該ゴム栓付密閉容器内の液相中の溶存硫化物量を測定することを特徴とする、硫黄酸化細菌活性の測定方法。
【請求項2】
前記pH調整剤が二酸化炭素ガスであることを特徴とする請求項1記載の硫黄酸化細菌活性の測定方法。
【請求項3】
前記ゴム栓付密閉容器への気体又は液体の注入、並びに前記ゴム栓付密閉容器からの気体又は液体の回収を、滅菌処理を施した針付きシリンジを用いて行うことを特徴とする請求項1又は2記載の硫黄酸化細菌活性の測定方法。
【請求項4】
前記被検試料が、ステンレス製部材若しくはコンクリート部材の腐食部位から採取された試料又は生物脱硫装置から採取された菌液であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の硫黄酸化細菌活性の測定方法。
【請求項5】
前記被検試料が、芳香族化合物を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の硫黄酸化細菌活性の測定方法。
【請求項6】
滅菌処理を施したゴム栓付密閉容器と、硫化ナトリウム液と、pH調整剤とを有することを特徴とする硫黄酸化細菌活性測定用キット。
【請求項7】
前記ゴム栓付密閉容器には硫黄酸化細菌培養用溶液が入っており、前記pH調整剤が二酸化炭素ガスであることを特徴とする請求項6記載の硫黄酸化細菌活性測定用キット。
【請求項8】
さらに、攪拌子、滅菌処理を施した針付きシリンジ、硫化水素濃度測定器、及び溶存硫化物濃度測定器からなる群より選択される1以上を有することを特徴とする請求項6又は7記載の硫黄酸化細菌活性測定用キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−263886(P2010−263886A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94011(P2010−94011)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】