説明

硬さ試験機、及び硬さ試験方法

【課題】試験結果の信頼性をより確保することができるとともに、複数試料試験に適用可能な硬さ試験機、及び硬さ試験方法を提供する。
【解決手段】撮像手段を制御して試料の表面を撮像させ、当該試料の表面の画像データを取得する撮像制御手段と、取得された試料の表面の画像データを2値化し、当該2値化された画像データに縮小処理及び膨張処理を行い、当該縮小処理及び膨張処理が行われた画像データの距離変換を行い、当該距離変換が行われた画像データを利用して圧子の形状に応じた閉領域を抽出するくぼみ領域抽出手段と、抽出された閉領域の輪郭からくぼみ計測用の頂点を推定し、当該推定された頂点に基づいて2値化された画像データ中の所定の条件に合致する点をくぼみ計測用の頂点として抽出するくぼみ頂点抽出手段と、抽出されたくぼみ計測用の頂点に基づいて、試料の硬さを算出する硬さ算出手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬さ試験機、及び硬さ試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ビッカース硬さ試験法、ヌープ硬さ試験法など、平面形状が多角形の圧子を試料の表面に押し付け、試料表面に生じる多角形のくぼみの対角線長さより硬度を測定する押し込み式の硬さ試験法はよく知られており、これは金属材料の機械的性質の評価に多く用いられている。
【0003】
周知のように、ビッカース硬さ試験法は、ダイヤモンド正四角錘による圧子を使用し、試料表面に生じる正四角錘形状のくぼみの二つの対角線長さの平均値と圧子の試料に対する押し付け荷重との関係において硬度を示すものであり、ヌープ硬さ試験法は、ダイヤモンド長四角錘による圧子を使用し、試料表面に生じる長四角錘形状のくぼみの長い方の対角線長さと圧子の試料に対する押し付け荷重との関係において硬度を示すものである。
【0004】
このような試験法による硬度測定をコンピュータによる画像処理によって行う硬さ試験機として、例えば、圧子の押し付けにより試料表面に生じたくぼみを顕微鏡に接続されたCCDカメラなどの撮像手段により撮像し、この撮像画像データに対して二値化などの前処理を行ってくぼみの各辺を示す境界(点列データ)或いはくぼみの角部を抽出し、抽出された境界或いは角部の座標値から試料の硬度を算出する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、試料にくぼみを形成する前にCCDカメラで試料表面を撮像して初期画像データを得るとともに、くぼみを形成した後にCCDカメラで試料表面を撮像してくぼみ画像データを得、くぼみ画像データと初期画像データとの差分画像データを算出し、差分画像データに基づいて、くぼみの角部の座標値を算出して対角線長さを求め、押し付け荷重と対角線長さとにより試料の硬度を測定する技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
また、TVカメラで試料表面に付けられたくぼみを写し出し、そのくぼみの画像を多値階調にデジタル化し、この多値デジタル画像に対し最適な閾値を検出して2値画像を求め、その2値画像に対して2次元のノイズ除去処理を行った後、くぼみ4辺の画面内の概略位置を検出し、この概略位置よりくぼみ境界点を検出し、この境界点を4本の多次曲線に回帰し、これら4本の多次曲線の交点をくぼみ頂点と推定し、それら4つの頂点の座標上の位置から互いに交差する2本の対角線長さを演算してくぼみ面積を算出し、このくぼみ面積と圧子に作用する押し付け荷重とからビッカース硬さを演算する技術が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−218410号公報
【特許文献2】特開平9−210893号公報
【特許文献3】特許第3071956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来技術では、くぼみ領域の4辺を曲線近似し、4本の多次曲線の交点をその頂点位置と推定して硬さを算出しているため、頂点位置を推定する精度がノイズ除去処理の良し悪しに大きく左右されてしまい、信頼性を損なう結果が得られる虞がある。また、上記従来技術では、くぼみ領域そのものを評価するわけではなく、くぼみ領域のエッジ(境界)部分や頂点付近等を局所的に抜き出して処理が行われるため、試験結果に誤差が含まれる虞があり、信頼性を損なう結果が得られる虞がある。
【0009】
また、上記従来技術では、画像中のくぼみ領域の形成箇所及び形状が予測されているため、試料の表面にくぼみ領域の輪郭と平行な傷等がある場合、誤認識する虞があり、正確な試験を行うことができないという問題がある。さらに、上記従来技術では、画像中にくぼみは1つのみであると仮定して処理が行われるため、複数試料の試験画像等に適用できないという問題がある。
【0010】
本発明は、試験結果の信頼性をより確保することができるとともに、複数試料試験に適用可能な硬さ試験機、及び硬さ試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、
試料台に載置された試料の表面に圧子により所定の試験力を負荷してくぼみを形成させ、当該くぼみの寸法を計測することにより試料の硬さを測定する硬さ試験機において、
撮像手段を制御して前記試料の表面を撮像させ、当該試料の表面の画像データを取得する撮像制御手段と、
前記撮像制御手段により取得された試料の表面の画像データに基づいて、前記試料の表面に形成されたくぼみの領域を抽出するくぼみ領域抽出手段と、
前記くぼみ領域抽出手段により抽出されたくぼみの領域に基づいて、前記くぼみの寸法を計測するためのくぼみ計測用の頂点を抽出するくぼみ頂点抽出手段と、
前記くぼみ頂点抽出手段により抽出されたくぼみ計測用の頂点に基づいて、前記試料の硬さを算出する硬さ算出手段と、
を備え、
前記くぼみ領域抽出手段は、前記試料の表面の画像データを2値化し、当該2値化された画像データに縮小処理及び膨張処理を行い、当該縮小処理及び膨張処理が行われた画像データの距離変換を行い、当該距離変換が行われた画像データを利用して前記圧子の形状に応じた閉領域を抽出し、
前記くぼみ頂点抽出手段は、前記くぼみ領域抽出手段により抽出された閉領域の輪郭から前記くぼみ計測用の頂点を推定し、当該推定された頂点に基づいて前記2値化された画像データ中の所定の条件に合致する点を前記くぼみ計測用の頂点として抽出することを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の硬さ試験機において、
前記圧子は、平面形状が矩形状に形成され、
前記くぼみ頂点抽出手段は、前記くぼみ領域抽出手段により抽出された閉領域の輪郭が直線になるように修正するとともに、当該修正された輪郭上で方向が変化する点を抽出し、当該抽出された点に基づいて4つの頂点の初期位置を決定し、当該決定された初期位置間を結ぶ4つの輪郭に直線を当てはめてその交点を前記くぼみ計測用の頂点として推定することを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の硬さ試験機において、
表示手段を制御して前記硬さ算出手段により算出された試料の硬さを表示させる表示制御手段を備えることを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載の発明は、
試料台に載置された試料の表面に圧子により所定の試験力を負荷してくぼみを形成させ、当該くぼみの寸法を計測することにより試料の硬さを測定する硬さ試験機の硬さ試験方法において、
撮像手段を制御して前記試料の表面を撮像させ、当該試料の表面の画像データを取得する撮像制御工程と、
前記撮像制御工程で取得された試料の表面の画像データに基づいて、前記試料の表面に形成されたくぼみの領域を抽出するくぼみ領域抽出工程と、
前記くぼみ領域抽出工程で抽出されたくぼみの領域に基づいて、前記くぼみの寸法を計測するためのくぼみ計測用の頂点を抽出するくぼみ頂点抽出工程と、
前記くぼみ頂点抽出工程で抽出されたくぼみ計測用の頂点に基づいて、前記試料の硬さを算出する硬さ算出工程と、
を含み、
前記くぼみ領域抽出工程は、前記試料の表面の画像データを2値化し、当該2値化された画像データに縮小処理及び膨張処理を行い、当該縮小処理及び膨張処理が行われた画像データの距離変換を行い、当該距離変換が行われた画像データを利用して前記圧子の形状に応じた閉領域を抽出し、
前記くぼみ頂点抽出工程は、前記くぼみ領域抽出工程で抽出された閉領域の輪郭から前記くぼみ計測用の頂点を推定し、当該推定された頂点に基づいて前記2値化された画像データ中の所定の条件に合致する点を前記くぼみ計測用の頂点として抽出することを特徴とする硬さ試験方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、くぼみ計測用の頂点を抽出する際に、2値化された画像データ、即ち、ノイズ除去のための縮小処理及び膨張処理が行われる前の画像データが用いられるので、ノイズ除去の精度に左右されることなく頂点を抽出することができることとなって、より信頼性のある結果を得ることができる。また、くぼみ領域のエッジ部分や頂点付近等を局所的に抜き出すわけではなく、くぼみ領域そのものを評価することができるので、試験結果に含まれる誤差を軽減することができることとなって、信頼性をより確保することができる。また、圧子の形状に応じた閉領域を抽出することにより画像中のくぼみ領域の姿勢に左右されることなく領域を抽出することができるので、試料の表面にくぼみ領域の輪郭と平行な傷等がある場合でも誤認識を防止することができ、正確な試験を行うことができる。さらに、一つの画像データから複数の閉領域を抽出することができるので、複数試料試験に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る硬さ試験機の全体構成を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る硬さ試験機の試験機本体を示す模式図である。
【図3】本発明に係る硬さ試験機の硬さ測定部を示す模式図である。
【図4】本発明に係る硬さ試験機の制御構造を示すブロック図である。
【図5】本発明に係る硬さ試験機のくぼみ形成後の動作を示すフローチャートである。
【図6】本発明に係る硬さ試験機のくぼみ領域抽出処理を示すフローチャートである。
【図7】本発明に係る硬さ試験機のくぼみ頂点抽出処理を示すフローチャートである。
【図8】頂点の初期位置を修正する様子の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明において、図1におけるX方向を左右方向とし、Y方向を前後方向とし、Z方向を上下方向とする。また、X−Y面を水平面とする。
【0018】
硬さ試験機100は、例えば、圧子14aの平面形状が矩形状に形成されたビッカース硬さ試験機であり、図1及び図2に示すように、試験機本体10と、制御部6と、操作部7と、モニタ8等を備えている。
【0019】
試験機本体10は、試料Sの硬さ測定を行う硬さ測定部1と、試料Sを載置する試料台2と、試料台2を移動させるXYステージ3と、試料Sの表面に焦点を合わせるためのAFステージ4と、試料台2(XYステージ3、AFステージ4)を昇降する昇降機構部5等を備えている。
【0020】
硬さ測定部1は、図3に示すように、試料Sの表面を照明する照明装置11と、試料Sの表面を撮像するCCDカメラ12と、圧子14aを備える圧子軸14と対物レンズ15を備え、回転することにより圧子軸14と対物レンズ15との切り替えが可能なターレット16等により構成されている。
【0021】
照明装置11は、光を照射することにより試料Sの表面を照明するものであり、照明装置11から照射される光は、レンズ1a、ハーフミラー1d、ミラー1e、対物レンズ15を介して試料Sの表面に到達する。
【0022】
CCDカメラ12は、試料Sの表面から対物レンズ15、ミラー1e、ハーフミラー1d、ミラー1g、及びレンズ1hを介して入力された反射光に基づき、当該試料Sの表面や圧子14aにより試料Sの表面に形成されるくぼみを撮像して画像データを取得し、複数フレームの画像データを同時に蓄積、格納可能なフレームグラバ17を介して、制御部6に出力する。
これにより、CCDカメラ12は、撮像手段として機能する。
【0023】
圧子軸14は、制御部6が出力する制御信号に応じて駆動される負荷機構部(図示省略)により、試料台2に載置された試料Sに向け移動され、先端部に備えた圧子14aを試料Sの表面に所定の試験力で押し付ける。
【0024】
対物レンズ15は、それぞれ異なる倍率からなる集光レンズであり、ターレット16の下面に複数保持されており、ターレット16の回転により試料Sの上方に配置されることで、照明装置11から照射される光を一様に試料Sの表面に照射させる。
【0025】
ターレット16は、下面に圧子軸14と複数の対物レンズ15を取り付け、Z軸方向を中心に回転することにより、当該圧子軸14と複数の対物レンズ15の中の何れか一つを切り替えて試料Sの上方に配置可能なように構成されている。つまり、圧子軸14を試料Sの上方に配置することで試料Sの表面にくぼみを形成し、対物レンズ15を試料Sの上方に配置することで、当該形成されたくぼみを観察することが可能となる。
【0026】
試料台2は、上面に載置される試料Sを試料固定部2aで固定する。
XYステージ3は、制御部6が出力する制御信号に応じて駆動する駆動機構部(図示省略)により駆動され、試料台2を圧子14aの移動方向(Z軸方向)に垂直な方向(X軸,Y軸方向)に移動させる。
AFステージ4は、制御部6が出力する制御信号に応じて駆動され、CCDカメラ12が撮像した画像データに基づき試料台2を微細に昇降させ、試料Sの表面に焦点を合わせる。
昇降機構部5は、制御部6が出力する制御信号に応じて駆動され、試料台2(XYステージ3、AFステージ4)を上下方向に移動させることで、試料台2と対物レンズ15との間の相対距離を変化させる。
【0027】
操作部7は、キーボード71、マウス72等により構成されており、硬さ試験を行う際のユーザによる入力操作を実行させる。そして、操作部7により所定の入力操作がなされると、その入力操作に応じた所定の操作信号が制御部6に出力される。
【0028】
具体的には、操作部7は、上記キーボード71やマウス72等を介して、くぼみの合焦位置を決定する条件をユーザに選択させることができる。
また、操作部7は、ユーザに、試料台2(昇降機構部5及びAFステージ4)の移動する範囲(試料台2と対物レンズ15との間の相対距離の範囲)を指定させることができる。
また、操作部7は、ユーザに、当該硬さ試験機100による硬さ試験を実施する際の試験条件値を入力させることができる。そして、入力された試験条件値は制御部6に送信される。ここで、試験条件値とは、例えば、試料Sの材質、圧子14aにより試料Sに負荷される試験力(N)、対物レンズ15の倍率、等の値である。
また、操作部7は、ユーザに、くぼみの合焦位置の決定を手動で行う手動モード、あるいは自動で行う自動モードの何れかを選択させることができる。
【0029】
モニタ8は、例えば、LCDなどの表示装置により構成されており、操作部7において入力された硬さ試験の設定条件、硬さ試験の結果、CCDカメラ12が撮像した試料Sの表面や試料Sの表面に形成されるくぼみの画像等を表示する。
これにより、モニタ8は、表示手段として機能する。
【0030】
制御部6は、図4に示すように、CPU(Central Processing Unit)61、RAM(Random Access Memory)62、記憶部63等を備えて構成され、記憶部63に記憶された所定のプログラムが実行されることにより、所定の硬さ試験を行うための動作制御等を行う機能を有する。
【0031】
CPU61は、記憶部63に格納された処理プログラム等を読み出して、RAM62に展開して実行することにより、硬さ試験機100全体の制御を行う。
【0032】
RAM62は、CPU61により実行された処理プログラム等を、RAM62内のプログラム格納領域に展開するとともに、入力データや上記処理プログラムが実行される際に生じる処理結果等をデータ格納領域に格納する。
【0033】
記憶部63は、例えば、プログラムやデータ等を記憶する記録媒体(図示省略)を有しており、この記録媒体は、半導体メモリ等で構成されている。また、記憶部63は、CPU61が硬さ試験機100全体を制御する機能を実現させるための各種データ、各種処理プログラム、これらプログラムの実行により処理されたデータ等を記憶する。より具体的には、記憶部63は、例えば、XYステージ制御プログラム、自動合焦プログラム、くぼみ形成プログラム、撮像制御プログラム、くぼみ領域抽出プログラム、くぼみ頂点抽出プログラム、硬さ算出プログラム、表示制御プログラム等を格納している。
【0034】
次に、本実施形態に係る硬さ試験機100の動作について説明する。
まず、CPU61は、記憶部63内に格納されたXYステージ制御プログラムを実行することにより、試料Sの表面の所定領域がCCDカメラ12の真下に位置するようにXYステージ3を移動させる。
次に、CPU61は、記憶部63内に格納された自動合焦プログラムを実行することにより、硬さ測定部1のCCDカメラ12によって得られる画像データに基づいて、AFステージ4を昇降させ、試料Sの表面に対する自動合焦を行う。
そして、CPU61は、記憶部63内に格納されたくぼみ形成プログラムを実行することにより、圧子14aを所定の試験力で試料Sの表面に押し付けてくぼみを形成する。
【0035】
次に、本実施形態に係る硬さ試験機100のくぼみ形成後の動作について、図5〜7のフローチャートを参照して説明する。この処理は、CPU61が記憶部63に格納されている各種プログラムを実行することにより実現される。
【0036】
まず、CPU61は、記憶部63内に格納された撮像制御プログラムを実行することにより、CCDカメラ12を制御して試料Sの表面を撮像させ、試料Sの表面の画像データを取得する(ステップS1:撮像制御工程)。
【0037】
次に、CPU61は、記憶部63内に格納されたくぼみ領域抽出プログラムを実行することにより、ステップS1で取得された試料Sの表面の画像データに基づいて、試料Sの表面に形成されたくぼみの領域を抽出する処理を行う(ステップS2:くぼみ領域抽出工程)。
【0038】
具体的には、図6に示すように、まず、CPU61は、ステップS1で取得された試料Sの表面の画像データを2値化する(ステップS21)。具体的には、白黒濃淡画像である原画像(試料Sの表面の画像)の画像データを白と黒の2階調に変換する。即ち、CPU61は、例えば、各画素の輝度値(明るさ)が所定の閾値を上回っていれば白、下回っていれば黒に置き換える。これにより、試料Sの表面の画像データは、2値化の黒部分が原画像に対してより黒く、2値化の白部分が原画像に対してより白く表示されることとなる。例えば、試料Sの表面に形成されたくぼみの領域は、背景画素に比べて輝度値が低く、黒画素で表示されることとなる。なお、ステップS21で2値化された画像データは、記憶部63に記憶される。
【0039】
次に、CPU61は、ステップS21で2値化された画像データのコピーデータを生成し、当該2値化画像のコピーデータを用いて2値化画像データの縮小処理及び膨張処理を行う(ステップS22)。ここで、縮小処理とは、2値化画像データの黒画素と白画素との境界において、黒画素を1画素分細くする処理のことであり、黒画素による孤立点や突起を取り除くことができるので、試料Sの表面の傷等によるノイズを除去することができる。また、膨張処理とは、2値化画像データの黒画素と白画素との境界において、黒画素を1画素分厚くする処理のことであり、白画素による小さな溝や穴を取り除くことができるので、抽出領域の輪郭を滑らかにすることができる。
【0040】
次に、CPU61は、ステップS22で縮小処理及び膨張処理が行われた画像データの距離変換を行う(ステップS23)。ここで、距離変換とは、2値化画像データ中の各画素に対して、それぞれの画素の位置から白画素(背景画素)の位置までの最短の距離を、各画素の距離値とする処理のことである。
【0041】
次に、CPU61は、ステップS23で距離変換が行われた画像データを利用して、圧子14aの形状に応じた閉領域の抽出処理を行う(ステップS24)。具体的には、距離変換後の画像データを走査して閉領域をチェイン符号化するとともに、閉領域の面積や所定の判断基準量等を計算してくぼみの領域であるとみなすことのできるチェイン符号列のみを記憶部63に記憶させる。ここで、チェイン符号化とは、線分の延長方向を8方向のコード(チェインコード)で表現することで符号化する技術のことである。また、所定の判断基準量とは、閉領域が抽出対象の形状を成しているか否かを判定するために、領域のコンパクトさ(=(周囲長×周囲長)÷面積)やチェインコード変化率(=チェインコードが変わった回数÷チェインコード数)等を組み合わせることにより得られる判断基準のことである。従って、極端に小さいと判定された閉領域や、抽出対象の形状(圧子14aの形状)を成していないと判定された閉領域については、記憶部63に記憶されることなく無視されることとなる。なお、上記ステップS24の処理では、圧子14aの形状に応じて閉領域を抽出することができるので、本実施形態のビッカース硬さ試験機のみならず、ヌープ硬さ試験機及びブリネル硬さ試験機の何れに対しても、対応することが可能となる。
【0042】
次に、CPU61は、ステップS24で行われた抽出処理により閉領域が抽出されたか否かを判定する(ステップS25)。具体的には、記憶部63に一又は複数の閉領域が記憶されたか否かを判定する。記憶部63に一又は複数の閉領域が記憶された、即ち、閉領域が抽出されたと判定した場合(ステップS25:YES)は、当該くぼみ領域抽出処理を終了し、図5のステップS3へと移行する。一方、記憶部63に一又は複数の閉領域が記憶されていない、即ち、閉領域が抽出されていないと判定した場合(ステップS25:NO)は、ステップS26へと移行する。
ステップS26では、CPU61は、閾値の値を変更するなどして2値化のレベルを変更する。CPU61は、2値化のレベルを変更した後、ステップS21へと移行して、当該くぼみ領域抽出処理を再試行する。
【0043】
次に、図5に示すように、CPU61は、記憶部63内に格納されたくぼみ頂点抽出プログラムを実行することにより、ステップS2のくぼみ領域抽出処理で抽出された閉領域の輪郭に基づいて、くぼみの寸法を計測するためのくぼみ計測用の頂点を抽出する処理を行う(ステップS3:くぼみ頂点抽出工程)。
【0044】
具体的には、図7に示すように、まず、CPU61は、図6のステップS24で記憶部63に記憶されたチェイン符号列に基づいて、閉領域の包絡矩形を求める(ステップS31)。具体的には、画像軸若しくは慣性主軸とこれに直交する方向で構成した座標軸を用いて、各座標値が最大・最小となる閉領域境界上の4点を抽出することにより、閉領域の包絡矩形を求める。
【0045】
次に、CPU61は、ステップS31で利用したチェイン符号列を修正するとともに、方向が変化する点を抽出する(ステップS32)。具体的には、ステップS31で利用したチェイン符号列が直線になるように修正するとともに、修正後のチェイン符号列上で方向が変化する点、即ち、くぼみ計測用の頂点候補となる点を抽出する。
【0046】
次に、CPU61は、くぼみ計測用の頂点の初期位置を決定する(ステップS33)。具体的には、ステップS31で求められた包絡矩形の四隅の点の各々において、ステップS32で抽出された点のうち最も近接する点を抽出し、この抽出された点を頂点の初期位置として決定する。
【0047】
ここで、例えば、図8に示すように、頂点の初期位置が点#0〜点#3で決定された場合、点#0−点#1間のチェイン符号数が極端に少ない(距離が短い)こと、及び点#1−点#3を結ぶ対角線が閉領域Xの中心Oから離れていることから、点#1が初期位置として不適切である疑いが生じる。このような場合、初期位置を「点#1」から、点#0−点#2間に存在する点のうち対角である点#3から最も遠い「点#1A」に修正する。このように、各初期位置間のチェイン符号数が極端に異なる場合、不適切な初期位置を含んでいる虞があるため、疑わしい初期位置を対角点から最も遠い点に修正することにより、適切な初期位置を得ることができる。
【0048】
次に、CPU61は、ステップS33で決定された初期位置間を結ぶ4つの輪郭(4辺)に直線を当てはめ、その交点を算出する(ステップS34)。具体的には、ロバスト推定の手法を用いて各頂点の初期位置間を結ぶ4辺に直線を当てはめ、各初期位置近傍に形成される4つの交点を算出し、当該算出された4つの交点をくぼみ計測用の頂点として推定する。
【0049】
次に、CPU61は、図6のステップS21で2値化された画像データに基づいて、くぼみ計測用の頂点を抽出する(ステップS35)。具体的には、ステップS33で推定された頂点に基づいて図6のステップS21で2値化された画像データ、即ち、図6のステップS22で縮小処理及び膨張処理が行われる前の画像データ中の所定の条件に合致する点をくぼみ計測用の頂点として抽出する。ここで、2値化された画像データ中の所定の条件に合致する点とは、2値化された画像データ中の、ステップS34で算出された交点近傍で且つ閉領域の輪郭上の点列のうちの一点のことである。なお、閉領域の輪郭上の点列のうちの一点を決定する方法としては、交点から最短距離に位置する点を当該一点としてもよいし、点列のうちの方向が変化する点を当該一点としてもよい。
【0050】
ここで、縮小処理及び膨張処理が行われた後の画像データではなく、縮小処理及び膨張処理が行われる前の画像データを利用するようにしたのは、縮小処理及び膨張処理が行われると、閉領域の輪郭の頂点らしき部分(角の部分)が丸まってしまい、頂点を正確に抽出することができなくなる虞があるためである。この点、本実施形態では、縮小処理及び膨張処理が行われる前の画像データを利用するようにしたので、くぼみの頂点を正確に抽出することができる。
【0051】
次に、CPU61は、図6のステップS24で抽出された全ての閉領域においてくぼみ計測用の頂点が抽出されたか否かを判定する(ステップS36)。全ての閉領域で頂点が抽出されたと判定した場合(ステップS36:YES)は、当該くぼみ頂点抽出処理を終了し、図5のステップS4へと移行する。一方、全ての閉領域で頂点が抽出されていないと判定した場合(ステップS36:NO)は、ステップS31へと移行し、頂点が抽出されていない閉領域の包絡矩形を求め、当該くぼみ頂点抽出処理を再試行する。
【0052】
次に、図5に示すように、CPU61は、記憶部63内に格納された硬さ算出プログラムを実行することにより、ステップS3で抽出されたくぼみ計測用の頂点に基づいて、試料Sの硬さを算出する(ステップS4:硬さ算出工程)。具体的には、ステップS3で抽出されたくぼみ計測用の頂点の座標位置を参照してくぼみの対角線長さを計測し、当該計測された対角線長さに基づいて試料Sの硬さ値を算出する。
【0053】
次に、CPU61は、記憶部63内に格納された表示制御プログラムを実行することにより、モニタ8を制御してステップS4で算出された試料Sの硬さ値を表示させる(ステップS5:表示制御工程)。
【0054】
以上のように、本実施形態に係る硬さ試験機100によれば、CCDカメラ12を制御して試料Sの表面を撮像させ、当該試料Sの表面の画像データを取得する撮像制御手段(CPU61)と、撮像制御手段により取得された試料Sの表面の画像データに基づいて、試料Sの表面に形成されたくぼみの領域を抽出するくぼみ領域抽出手段(CPU61)と、くぼみ領域抽出手段により抽出されたくぼみの領域に基づいて、くぼみの寸法を計測するためのくぼみ計測用の頂点を抽出するくぼみ頂点抽出手段(CPU61)と、くぼみ頂点抽出手段により抽出されたくぼみ計測用の頂点に基づいて、試料Sの硬さを算出する硬さ算出手段(CPU61)と、を備え、くぼみ領域抽出手段は、試料Sの表面の画像データを2値化し、当該2値化された画像データに縮小処理及び膨張処理を行い、当該縮小処理及び膨張処理が行われた画像データの距離変換を行い、当該距離変換が行われた画像データを利用して圧子14aの形状に応じた閉領域を抽出し、くぼみ頂点抽出手段は、くぼみ領域抽出手段により抽出された閉領域の輪郭からくぼみ計測用の頂点を推定し、当該推定された頂点に基づいて2値化された画像データ中の所定の条件に合致する点をくぼみ計測用の頂点として抽出する。
このため、くぼみ計測用の頂点を抽出する際に、2値化された画像データ、即ち、ノイズ除去のための縮小処理及び膨張処理が行われる前の画像データが用いられるので、ノイズ除去の精度に左右されることなく頂点を抽出することができることとなって、より信頼性のある結果を得ることができる。また、くぼみ領域のエッジ部分や頂点付近等を局所的に抜き出すわけではなく、くぼみ領域そのものを評価することができるので、試験結果に含まれる誤差を軽減することができることとなって、信頼性をより確保することができる。また、圧子14aの形状に応じた閉領域を抽出することにより画像中のくぼみ領域の姿勢に左右されることなく領域を抽出することができるので、試料Sの表面にくぼみ領域の輪郭と平行な傷等がある場合でも誤認識を防止することができ、正確な試験を行うことができる。さらに、一つの画像データから複数の閉領域を抽出することができるので、複数試料試験に適用することができる。
【0055】
特に、本実施形態に係る硬さ試験機100によれば、くぼみ頂点抽出手段は、くぼみ領域抽出手段により抽出された閉領域の輪郭が直線になるように修正するとともに、当該修正された輪郭上で方向が変化する点を抽出し、当該抽出された点に基づいて4つの頂点の初期位置を決定し、当該決定された初期位置間を結ぶ4つの輪郭に直線を当てはめてその交点をくぼみ計測用の頂点として推定するので、精度が高く信頼性のある試験結果を得ることができる。
【0056】
以上、本発明に係る実施形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
【0057】
例えば、上記実施形態では、図6(くぼみ領域抽出処理)のステップS25でNOの場合、即ち、ステップS24で行われた抽出処理により閉領域が抽出されていないと判定した場合に、ステップS26へと移行して2値化のレベルを変更するようにしているが、これに限定されるものではない。例えば、ステップS26で縮小処理及び膨張処理の回数を変更するようにし、変更後ステップS22へと移行して処理を再試行するようにしてもよい。また、縮小処理及び膨張処理の回数に制限を設け、当該制限回数に達しても閉領域が抽出されなかった場合は、2値化のレベルを変更してステップS21へと移行するようにしてもよい。
【0058】
また、上記実施形態では、モニタ8を制御して図5のステップS4(硬さ算出工程)で算出された試料Sの硬さ値を表示させるようにしているが、これに限定されるものではない。例えば、音声を出力可能なスピーカ等を設けるようにし、算出された試料Sの硬さ値を音声出力させるようにしてもよい。
【0059】
また、上記実施形態では、図6のステップS21で2値化された画像データを記憶部63に記憶させるようにしているが、これに限定されるものではなく、例えば、RAM62に記憶させるようにしてもよい。
【0060】
また、上記実施形態では、硬さ試験機100として圧子14aの平面形状が矩形状に形成されたビッカース硬さ試験機を例示して説明しているが、これに限定されるものではない。例えば、ビッカース硬さ試験機同様に圧子の平面形状が矩形状に形成されたヌープ硬さ試験機や、圧子の形状が球形状に形成されたブリネル硬さ試験機に適用することも可能である。ここで、ブリネル硬さ試験機に適用する場合、試料Sの表面に形成されたくぼみの形状が略円形であるため、くぼみ領域抽出工程において円形の閉領域を抽出し、くぼみ頂点抽出工程において閉領域の輪郭上の任意の4点をくぼみ計測用の頂点として推定し、当該推定された頂点に基づいて2値化された画像データ中の所定の条件に合致する点をくぼみの頂点として抽出することで、ビッカース硬さ試験機等と同様の効果を得ることができる。
【0061】
その他、硬さ試験機100を構成する各装置の細部構成及び細部動作に関しても、本発明の趣旨を逸脱することのない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0062】
100 硬さ試験機
10 試験機本体
1 硬さ測定部
11 照明装置
12 CCDカメラ(撮像手段)
14 圧子軸
14a 圧子
15 対物レンズ
16 ターレット
17 フレームグラバ
2 試料台
3 XYステージ
4 AFステージ
5 昇降機構部
6 制御部
61 CPU(撮像制御手段、くぼみ領域抽出手段、くぼみ頂点抽出手段、硬さ算出手段、表示制御手段)
62 RAM
63 記憶部
7 操作部
8 モニタ(表示手段)
S 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料台に載置された試料の表面に圧子により所定の試験力を負荷してくぼみを形成させ、当該くぼみの寸法を計測することにより試料の硬さを測定する硬さ試験機において、
撮像手段を制御して前記試料の表面を撮像させ、当該試料の表面の画像データを取得する撮像制御手段と、
前記撮像制御手段により取得された試料の表面の画像データに基づいて、前記試料の表面に形成されたくぼみの領域を抽出するくぼみ領域抽出手段と、
前記くぼみ領域抽出手段により抽出されたくぼみの領域に基づいて、前記くぼみの寸法を計測するためのくぼみ計測用の頂点を抽出するくぼみ頂点抽出手段と、
前記くぼみ頂点抽出手段により抽出されたくぼみ計測用の頂点に基づいて、前記試料の硬さを算出する硬さ算出手段と、
を備え、
前記くぼみ領域抽出手段は、前記試料の表面の画像データを2値化し、当該2値化された画像データに縮小処理及び膨張処理を行い、当該縮小処理及び膨張処理が行われた画像データの距離変換を行い、当該距離変換が行われた画像データを利用して前記圧子の形状に応じた閉領域を抽出し、
前記くぼみ頂点抽出手段は、前記くぼみ領域抽出手段により抽出された閉領域の輪郭から前記くぼみ計測用の頂点を推定し、当該推定された頂点に基づいて前記2値化された画像データ中の所定の条件に合致する点を前記くぼみ計測用の頂点として抽出することを特徴とする硬さ試験機。
【請求項2】
前記圧子は、平面形状が矩形状に形成され、
前記くぼみ頂点抽出手段は、前記くぼみ領域抽出手段により抽出された閉領域の輪郭が直線になるように修正するとともに、当該修正された輪郭上で方向が変化する点を抽出し、当該抽出された点に基づいて4つの頂点の初期位置を決定し、当該決定された初期位置間を結ぶ4つの輪郭に直線を当てはめてその交点を前記くぼみ計測用の頂点として推定することを特徴とする請求項1に記載の硬さ試験機。
【請求項3】
表示手段を制御して前記硬さ算出手段により算出された試料の硬さを表示させる表示制御手段を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の硬さ試験機。
【請求項4】
試料台に載置された試料の表面に圧子により所定の試験力を負荷してくぼみを形成させ、当該くぼみの寸法を計測することにより試料の硬さを測定する硬さ試験機の硬さ試験方法において、
撮像手段を制御して前記試料の表面を撮像させ、当該試料の表面の画像データを取得する撮像制御工程と、
前記撮像制御工程で取得された試料の表面の画像データに基づいて、前記試料の表面に形成されたくぼみの領域を抽出するくぼみ領域抽出工程と、
前記くぼみ領域抽出工程で抽出されたくぼみの領域に基づいて、前記くぼみの寸法を計測するためのくぼみ計測用の頂点を抽出するくぼみ頂点抽出工程と、
前記くぼみ頂点抽出工程で抽出されたくぼみ計測用の頂点に基づいて、前記試料の硬さを算出する硬さ算出工程と、
を含み、
前記くぼみ領域抽出工程は、前記試料の表面の画像データを2値化し、当該2値化された画像データに縮小処理及び膨張処理を行い、当該縮小処理及び膨張処理が行われた画像データの距離変換を行い、当該距離変換が行われた画像データを利用して前記圧子の形状に応じた閉領域を抽出し、
前記くぼみ頂点抽出工程は、前記くぼみ領域抽出工程で抽出された閉領域の輪郭から前記くぼみ計測用の頂点を推定し、当該推定された頂点に基づいて前記2値化された画像データ中の所定の条件に合致する点を前記くぼみ計測用の頂点として抽出することを特徴とする硬さ試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−61302(P2013−61302A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201305(P2011−201305)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000137694)株式会社ミツトヨ (979)