説明

硬化型コーティング剤組成物

【課題】屋外で使用されるプラスチック製基材などのコーティング剤として優れた耐摩耗性および耐候性を発揮する硬化型コーティング剤組成物を提供する。
【解決手段】本発明の硬化型コーティング剤組成物は、イソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物(A)、ウレタン結合を有しないイソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレート化合物(B)、および特定の有機珪素化合物からなる(C)成分の合計100質量部に対して、(A)成分を20〜80質量部、(B)成分を10〜70質量部、(C)成分を5〜35質量部、(D)成分としてラジカル重合開始剤を0.1〜10質量部、(E)成分として紫外線吸収剤を1〜12質量部および(F)成分として有機溶剤を10〜1000質量部含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化後の耐摩耗性および耐候性に優れ、屋外で使用される基材、特に樹脂製基材の保護膜として好ましく適用できる硬化型コーティング剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂材料、中でもポリカーボネート等に代表される透明樹脂材料は、比重が小さく軽量であり、加工が容易で、無機ガラスに比べて衝撃に強いという特徴を生かし、多方面の用途で幅広く利用されている。反面、樹脂材料は、表面が傷付きやすく光沢や透明性が失われやすい、有機溶剤に侵されやすい、また、耐候性(たとえば、紫外線などに対する光安定性)、耐熱性に劣る、等々の欠点を有する。そのため、樹脂材料は、その表面特性を改善することを目的として、各種保護膜により被覆されて用いられることが多い。
このような保護膜として、たとえば、光硬化型コーティング剤組成物を硬化させてなるハードコート層が挙げられる。
【0003】
屋外で使用される樹脂材料には、耐摩耗性とともに優れた耐候性も必要とされる。耐摩耗性と耐候性とを兼ね備えた光硬化型コーティング剤組成物として、メタクリロイルオキシ基、アクリロイルオキシ基またはビニル基を有するシラン化合物を所定重量割合で表面修飾したコロイダルシリカ微粒子、ポリ〔(メタ)アクリロイルオキシアルキル〕イソシアヌレートと脂環式骨格を有するウレタン(ポリ)メタアクリレートとからなる単量体混合物および光重合開始剤を特定割合で含む耐摩耗性被覆形成組成物が知られている(特許文献1)。
また、モノまたはポリペンタエリスリトールのポリ(メタ)アクリレート、少なくとも2個のラジカル重合性不飽和二重結合を有するウレタンポリ(メタ)アクリレート、ポリ〔(メタ)アクリロイルオキシアルキル〕(イソ)シアヌレート、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤および光重合開始剤を特定割合で含むコーティング剤組成物も知られている(特許文献2)。
【0004】
熱硬化型コーティング剤組成物を用いた例もある。特許文献3には、樹脂基材の表面に、耐候性に優れた熱硬化性の下塗り剤組成物を硬化してなる第一層、第一層の上に、耐摩耗性に優れた熱硬化性のコーティング剤組成物を硬化してなる第二層を設けたプラスチック物品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許3747065号公報
【特許文献2】特開2000−063701号公報
【特許文献3】特開2001−214122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3に記載のプラスチック物品は、高いレベルで耐摩耗性と耐候性とを両立する。しかし、熱硬化型の組成物は、光硬化型の組成物に比べて、硬化膜の形成のために多量のエネルギーが必要である、加熱に時間を要するため効率がよくない、等の問題がある。また、特許文献3のようにコーティング剤組成物だけでなく下塗り剤組成物を使用すると工程数が増加するため、生産性の観点から望ましくない。そこで、下塗り剤組成物を使用することなく十分な耐摩耗性および耐候性を発揮する保護膜を形成可能なコーティング剤組成物が熱望されている。
光硬化型の組成物を用いれば、効率のよい生産が可能となる。上記の脂環式骨格を有するウレタン(ポリ)メタアクリレートはハードコート層の耐候性を改善する成分であるが、耐摩耗性については不十分である。特許文献1の各実施例では、このウレタン(ポリ)メタアクリレートとともにメタクリロイルオキシ基を有するシラン化合物で表面修飾したコロイダルシリカ微粒子(紫外線硬化性シリコーン)を使用している。しかし、耐摩耗性は十分とはいえず、2000時間以降の耐候性については不明である。
一方、上記のモノまたはポリペンタエリスリトールのポリ(メタ)アクリレートを硬化させてなるハードコート層は高い硬度を示す。そこで特許文献2では、この成分と、耐候性を向上させる成分である少なくとも2個のラジカル重合性不飽和二重結合を有するウレタンポリ(メタ)アクリレートと、を併用している。しかし、本発明者らが検討した結果、耐摩耗性を向上させる成分と耐候性を向上させる成分とを単に併用するだけでは、さらなる長時間の促進試験には耐えられないことがわかった。
つまり、上記の光硬化型コーティング剤組成物を用いて樹脂基材の表面にハードコート層を形成しても、耐摩耗性および耐候性を高いレベルで両立することは困難であった。
【0007】
本発明は、これらの問題点に鑑み、屋外で使用される基材、特に樹脂製基材のコーティング剤として優れた耐摩耗性および耐候性を発揮する硬化型コーティング剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、イソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物、ウレタン結合を有しないイソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレート化合物、および特定の有機珪素化合物を特定の割合で併用するとともに適切な量の添加剤を添加した組成物は、硬化後の透明性、耐摩耗性、および耐候性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の硬化型コーティング剤組成物は、下記(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計100質量部に対して、該(A)成分を20〜80質量部、該(B)成分を10〜70質量部、該(C)成分を5〜35質量部、(D)成分としてラジカル重合開始剤を0.1〜10質量部、(E)成分として紫外線吸収剤を1〜12質量部および(F)成分として有機溶剤を10〜1000質量部含有することを特徴とする。
【0010】
(A)成分:
下記一般式(1)で表されるイソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物
【0011】
【化1】

【0012】
(一般式(1)において、R1、R2およびR3はそれぞれ独立して炭素数2〜10の2価の有機基を表し、R4、R5およびR6はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表す。)
【0013】
(B)成分:
下記一般式(2)で表されるウレタン結合を有しないイソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレート化合物
【0014】
【化2】

【0015】
(一般式(2)において、R7、R8およびR9はそれぞれ独立して炭素数2〜10の2価の有機基を表し、R10、R11およびR12はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表し、n1、n2およびn3は、それぞれ独立して1〜3の数を表し、n1+n2+n3=3〜9である。)
【0016】
(C)成分:
下記一般式(3)で表される珪素化合物(c1)と下記一般式(4)で表される珪素化合物(c2)とを、該化合物(c1)1モルに対して該化合物(c2)を0.3〜1.8モルの割合で加水分解共重縮合させて得られる有機珪素化合物。
【0017】
【化3】

【0018】
(一般式(3)において、R13は炭素数1〜6のアルキル基、炭素数7〜10のアラルキル基または炭素数6〜10のアリール基を有する有機基であり、R14は炭素数1〜6の2価の飽和炭化水素基であり、R15は水素原子またはメチル基であり、Xは加水分解性基であり、Xは同一であっても異なっていても良く、nは0または1である。)
【0019】
SiY4 ・・・(4)
(一般式(4)において、Yはシロキサン結合生成基であり、Yは同一であっても異なっていてもよい。)
【0020】
本発明の組成物は、(D)成分として光ラジカル重合開始剤を使用し、光を照射して硬化させる光硬化型コーティング剤組成物として使用することが好ましい。光を照射して硬化させることにより、低エネルギーで短時間での硬化が可能となる。また、紫外線吸収剤の配合割合、さらには紫外線吸収剤の種類を特定することで、光を照射して組成物を硬化させても良好に硬化が進行し、透明性に優れ、耐摩耗性および耐候性を両立する硬化膜が得られる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の硬化型コーティング剤組成物は、屋外で使用される基材、特に樹脂製基材のコーティング剤として優れた耐摩耗性および耐候性を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の硬化型コーティング剤組成物を実施するための最良の形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「p〜q」は、下限pおよび上限qをその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。
【0023】
本発明の硬化型コーティング剤組成物は、下記(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計100質量部に対して、該(A)成分を20〜80質量部、該(B)成分を10〜70質量部、該(C)成分を5〜35質量部、(D)成分としてラジカル重合開始剤を0.1〜10質量部、(E)成分として紫外線吸収剤を1〜12質量部および(F)成分として有機溶剤を10〜1000質量部含有する。以下、それぞれの成分および組成物の詳細について説明する。
なお、本明細書においては、アクリロイル基またはメタクリロイル基を(メタ)アクリロイル基と表し、また、アクリレートまたはメタクリレートを(メタ)アクリレートと表す。
【0024】
<(A)成分>
(A)成分は、下記一般式(1)で表されるイソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物である。
【0025】
【化4】


【0026】
一般式(1)において、R1、R2、およびR3はそれぞれ独立して炭素数2〜10の2価の有機基を表す。炭素数2〜10の2価の有機基としては、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基およびテトラメチレン基等の炭素数2〜4のアルキレン基が好ましい。また、これらの基を有する一般式(1)の化合物をε−カプロラクトン変性した化合物も含まれる。この場合、炭素数2〜10の2価の有機基は−OCOCH2CH2CH2CH2CH2−を含む。これらのうち、R1、R2およびR3がすべてテトラメチレン基であるものは、硬化後の組成物(硬化膜)が耐摩耗性と耐候性に特に優れたものとなるため、特に好ましい。
【0027】
一般式(1)において、R4、R5およびR6はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表し、R4、R5およびR6が全て水素原子である化合物は、組成物が硬化性に優れるものとなる点で特に好ましい。
【0028】
(A)成分は、ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート型三量体と、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートまたはそのカプロラクトン変性物との付加反応により合成される。この付加反応は無触媒でも可能であるが、反応を効率的に進めるために、ジブチルスズジラウレート等の錫系触媒や、トリエチルアミン等のアミン系触媒等を添加してもよい。
【0029】
本発明の組成物における(A)成分の含有割合は、(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計100質量部に対して、20〜80質量部であり、より好ましくは30〜70質量部である。(A)成分の含有割合を20〜80質量部とすることで、耐摩耗性と耐候性に優れた硬化膜が得られる。
【0030】
<(B)成分>
(B)成分は、下記一般式(2)で表されるウレタン結合を有しないイソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレート化合物である。
【0031】
【化5】

【0032】
一般式(2)において、R7、R8およびR9はそれぞれ独立して炭素数2〜10の2価の有機基を表す。炭素数2〜10の2価の有機基としては、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基およびテトラメチレン基等の炭素数2〜4のアルキレン基が好ましい。また、これらの基を有する一般式(2)の化合物をε−カプロラクトン変性した化合物も含まれる。この場合、炭素数2〜10の2価の有機基は−OCOCH2CH2CH2CH2CH2−を含む。これらのうち、R7、R8およびR9がすべてエチレン基であれば、耐摩耗性と耐候性に特に優れた硬化膜が得られるため、特に好ましい。
【0033】
一般式(2)において、R10、R11およびR12はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表し、これら全てが水素原子である化合物が、組成物が硬化性に優れるものとなる点で特に好ましい。
【0034】
一般式(2)において、n1、n2およびn3は、それぞれ独立して1〜3の数を表す。ただし、n1+n2+n3=3〜9である。n1、n2およびn3としては、1が好ましく、n1+n2+n3としては3が好ましい。
【0035】
(B)成分は、好ましくはイソシアヌル酸のアルキレンオキサイド付加物と(メタ)アクリル酸を反応させて製造される。n1+n2+n3は、(B)成分1分子当たりのアルキレンオキサイドの平均付加モル数を表す。
【0036】
本発明の組成物における(B)成分の含有割合は、(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計100質量部に対して、10〜70質量部であり、より好ましくは20〜60質量部である。(B)成分の含有割合を10部以上とすることで初期密着性を良好にすることができ、10〜70質量部とすることで、耐摩耗性と耐候性に優れた硬化膜が得られる。
【0037】
<(C)成分>
本発明の(C)成分は、互いに構造の異なる珪素化合物(c1)および珪素化合物(c2)を加水分解共重縮合させて得られる有機珪素化合物である。
【0038】
珪素化合物(c1)は、下記一般式(3)で表される。
【0039】
【化6】

【0040】
一般式(3)において、R13は炭素数1〜6のアルキル基、炭素数7〜10のアラルキル基または炭素数6〜10のアリール基を有する有機基である。
これらの中でも、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、得られる組成物の硬化膜が耐摩耗性に優れる点で、メチル基がより好ましい。
14は炭素数1〜6の2価の飽和炭化水素基であり、アルキレン基が好ましい。アルキレン基としては、トリメチレン基がより好ましく、耐摩耗性に優れる硬化膜が得られるだけでなく、原料コストの点からも好ましい。R15は水素原子またはメチル基である。
Xは加水分解性基であり、Xは同一であっても異なっていてもよい。加水分解性基としては、加水分解性を有する基であれば種々の基が可能である。具体的には、水素原子、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基およびアリールアルコキシ基が挙げられる。これらの中でもアルコキシ基が好ましく、炭素数1〜6のアルコキシ基がより好ましい。アルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基およびヘキシルオキシ基等が挙げられる。
また、nは0または1であり、得られる硬化膜が耐摩耗性に優れる点で、好ましくは0である。
【0041】
一般式(3)において、好ましい化合物であるnが0でXがアルコキシ基である化合物の具体例としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランおよび3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルエチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0042】
珪素化合物(c2)は、下記一般式(4)で表される。
【0043】
SiY4 ・・・(4)
【0044】
一般式(4)において、Yはシロキサン結合生成基であり、1分子中のシロキサン結合生成基は同一であっても異なっていてもよい。
シロキサン結合生成基としては、アルコキシ基が好ましい。アルコキシ基の好ましい例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、iso−プロポキシ基、n−ブトキシ基およびsec−ブトキシ基等の炭素数1〜4のアルコキシ基が挙げられる。
化合物(c2)の好ましい具体例は、テトラ−n−プロポキシシラン、トリメトキシ−n−プロポキシシラン、ジメトキシジ−n−プロポキシシラン、メトキシトリ−n−プロポキシシラン等のn−プロポキシ基を有するアルコキシシラン化合物である。
n−プロポキシ基含有アルコキシシラン化合物は、1種の化合物でも、n−プロポキシ基を有し、他のアルコキシ基を有する化合物の混合物でもよい。
n−プロポキシ基含有アルコキシシラン化合物の混合物は、複数種の成分を混合して使用することもできるが、アルコール交換によって製造したものをそのまま使用することもできる。たとえば、上記一般式(4)で表される珪素化合物であり、且つn−プロポキシ基を有さない化合物(たとえば、テトラメトキシシラン)を、1−プロパノール中でアルコール交換反応させることにより得ることができる。また、この反応により得られた反応生成物をそのまま用いることもできる。
【0045】
(C)成分の合成は、上記珪素化合物(c1)と上記珪素化合物(c2)とを所定の割合で、アルカリ性条件下にて加水分解共重縮合させるとよい。以下、この加水分解共重縮合を行う工程を第1工程とする。
珪素化合物(c1)と珪素化合物(c2)との割合は、珪素化合物(c1)1モルに対して珪素化合物(c2)を0.3〜1.8モル、好ましくは0.8〜1.8モル、さらに好ましくは1〜1.8モルである。この範囲で反応させることで、加水分解共重縮合が良好に進行し、反応中および反応後にゲル化を生じることがなく、(C)成分を効率よく製造することができる。ゲル化することなく製造された(C)成分は、組成物として混合した場合の分散性、ひいては硬化膜の外観が向上する。
【0046】
上記第1工程はアルカリ性条件下での反応であるのが好ましく、反応液のpHは7を超える値であるとよい。反応液のpHは好ましくは8以上であり、更に好ましくはpHが9以上である。なお、上限は、通常、pH13である。反応系を上記pHとすることにより、保存安定性に優れた(C)成分を高い収率で製造することができる。
酸性条件下(pH7未満)で加水分解共重縮合させて得られる有機珪素化合物は、保存安定性に劣るものとなり、反応条件等によっては保存中にゲル化することもあるため好ましくない。
また、中性条件下(pH7付近)では、加水分解共重縮合反応が進行し難く、有機珪素化合物を収率よく得ることができない。
【0047】
第1工程における化合物(c1)および化合物(c2)の縮合率は、92%以上とすることができ、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上である。シロキサン結合生成基(加水分解性基を含む)は実質的に全てが縮合されていることが最も好ましいが、縮合率の上限は、通常、99.9%である。
【0048】
第1工程において、反応系、(C)成分を含む反応液、中和液、有機系液および有機溶液の少なくとも1つに対して、(メタ)アクリロイル基の重合を禁止する重合禁止剤を添加することもできる。
酸性条件下での製造方法等有機珪素化合物を製造する方法も知られているが、原料化合物の化合物(c1)と化合物(c2)の両者を均一に反応させることは難しく、ゲルが生じ易いものであった。このため、トリメチルアルコキシシランやヘキサメチルジシロキサン等の、シロキサン結合生成基を1つのみ有する珪素化合物(以下、「Mモノマー」という)を末端封止剤として作用させることでゲル化を回避する方法が知られている。
しかしながら、所定量以上のMモノマーを併用することで、ゲル化は回避できても、得られる有機珪素化合物の無機的性質は低下する傾向にある。
一方、前述のようなアルカリ条件下での反応であれば、化合物(c1)と化合物(c2)をゲル化させずに共重縮合させることができ、その上、無機的性質が維持されることで、組成物により得られる硬化膜の耐摩耗性を低下させることがないという効果を奏する。
【0049】
(C)成分は、前記第1工程を必須として製造されるものであるが、必要に応じて更に以下の工程を含むことができる。
(第2工程)第1工程で得られた反応液を、酸により中和する工程。
(第3工程)第2工程で得られた中和液から揮発性成分を除去する工程。
(第4工程)第3工程で得られた濃縮物と、洗浄用有機溶剤とを、混合および接触させて、少なくとも有機珪素化合物(C)を洗浄用有機溶剤に溶解する工程。
(第5工程)第4工程で得られた有機系液を水により洗浄した後、有機珪素化合物(C)を含む有機溶液を得る工程。
(第6工程)第5工程で得られた有機溶液から揮発性成分を除去する工程。
(C)成分の製造方法としては、少なくとも第1工程、第2工程および第5工程を含むことが好ましい。
【0050】
本発明の組成物における(C)成分の含有割合は、(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計100質量部に対して5〜35質量部であり、より好ましくは10〜30質量部である。
(C)成分の含有割合を5〜35質量部とすることで、耐摩耗性と耐候性に優れた硬化膜が得られる組成物とすることができる。(C)成分の割合が5質量部以上であれば、硬化膜の耐摩耗性が向上する。しかし、(C)成分が過多では、硬化膜が収縮しやすくなったり、硬化膜の有機部分の分解が速くなったりして耐候性が低下する。
【0051】
<(D)成分:ラジカル重合開始剤>
本発明の(D)成分は、ラジカル重合開始剤であり、種々の化合物を使用することができる。
(D)成分として光ラジカル重合開始剤を使用すれば、組成物は、光硬化型コーティング剤組成物としてはたらき、光照射により硬化する。(D)成分として熱ラジカル重合開始剤を使用すれば、組成物は、熱硬化型コーティング剤組成物としてはたらき、加熱により硬化する。
本発明の組成物は、低エネルギーで短時間での硬化が可能となるなど、硬化性に優れるという点で、(D)成分として光ラジカル重合開始剤を使用した光硬化型コーティング剤組成物であるのが好ましい。
【0052】
光ラジカル重合開始剤の具体例としては、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−〔4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル〕−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン、ジエトキシアセトフェノン、オリゴ{2−ヒドロキシ−2−メチル−1−〔4−(1−メチルビニル)フェニル〕プロパノン}および2−ヒドロキシ−1−{4−〔4−(2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオニル)ベンジル〕フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン等のアセトフェノン系化合物;ベンゾフェノン、4−フェニルベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノンおよび4−ベンゾイル−4’−メチル−ジフェニルスルファイド等のベンゾフェノン系化合物;メチルベンゾイルフォルメート、オキシフェニル酢酸の2−(2−オキソ−2−フェニルアセトキシエトキシ)エチルエステルおよびオキシフェニル酢酸の2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルエステル等のα−ケトエステル系化合物;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等のフォスフィンオキサイド系化合物;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルおよびベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン系化合物;チタノセン系化合物;1−〔4−(4−ベンゾイルフェニルスルファニル)フェニル〕−2−メチル−2−(4−メチルフェニルスルフィニル)プロパン−1−オン等のアセトフェノン/ベンゾフェノンハイブリッド系光開始剤;2−(O−ベンゾイルオキシム)−1−〔4−(フェニルチオ)〕−1,2−オクタンジオン等のオキシムエステル系光重合開始剤;並びにカンファーキノン等が挙げられる。
【0053】
熱ラジカル重合開始剤の具体例としては、有機過酸化物およびアゾ系化合物等が挙げられる。
有機過酸化物の具体例としては、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)2−メチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(4,4−ジ−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(m−トルオイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジーメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、α、α‘−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t−ブチルトリメチルシリルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ヘキシルハイドロパーオキサイドおよびt−ブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられる。
アゾ系化合物の具体例としては、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾジ−t−オクタンおよびアゾジ−t−ブタン等が挙げられる。
【0054】
以上列挙したラジカル重合開始剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、有機過酸化物は、還元剤と組み合わせることによりレドックス触媒とすることも可能である。
【0055】
本発明の組成物における(D)成分の含有割合は、(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計100質量部に対して、0.1〜10質量部であり、より好ましくは0.5〜5質量部、特に好ましくは1〜3質量部である。
(D)成分の含有割合を0.1〜10質量部とすることで、組成物が硬化性に優れるものとなり、耐摩耗性および耐候性に優れた硬化膜が得られる。
【0056】
<(E)成分:紫外線吸収剤>
本発明の(E)成分は、紫外線吸収剤であり、種々の化合物または物質を使用することができる。
紫外線吸収剤の具体例としては、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−ドデシロキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−トリデシロキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−(2−エチルヘキシロキシ)プロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2−ヒドロキシ−4−ブチロキシフェニル)−6−(2,4−ビス−ブチロキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−[1−オクチロキシカルボニルエトキシ]フェニル)−4,6−ビス(4−フェニルフェニル)−1,3,5−トリアジン等のトリアジン系紫外線吸収剤;2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−5−(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、オクチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート等のシアノアクリレート系紫外線吸収剤、酸化チタン微粒子、酸化亜鉛微粒子、酸化錫微粒子等の紫外線を吸収する無機微粒子等が挙げられる。
以上列挙した紫外線吸収剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0057】
これらのうち、(メタ)アクリロイル基を有するベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は、硬化膜の耐候性と耐摩耗性を両立させる点で、特に好ましい。
【0058】
本発明の組成物における(E)成分の含有割合は、(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計100質量部に対して、1〜12質量部であり、より好ましくは3〜12質量部である。
(E)成分の含有割合を1〜12質量部とすることで、硬化膜の耐摩耗性および耐候性を両立させることができる。(E)成分が1質量部未満では、十分な耐候性を示す硬化膜が得られない。一方、(E)成分が多すぎると、硬化膜の耐摩耗性が低下するだけでなく、耐候性も低下する傾向にあることから、(E)成分を12質量部以下とする。特に、(E)成分の含有割合を3〜12質量部とすることで、優れた耐摩耗性と耐候性とを両立する硬化膜が得られる。
【0059】
<(F)成分:有機溶剤>
本発明の(F)成分は溶剤であり、種々の化合物を使用することができる。
(F)成分としては、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分および(E)成分、さらには後述する他の成分を均一に分散または溶解するものが好ましい。
好ましい溶剤の具体例としては、エタノールおよびイソプロパノール等のアルコール;エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のアルキレングリコールモノエーテル;トルエンおよびキシレン等の芳香族化合物;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル;アセトン、メチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトン等のケトン;ジブチルエーテル等のエーテル;ジアセトンアルコール;並びにN−メチルピロリドン等が挙げられる。これらのうち、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルキレングリコールモノエーテルは、各種成分の分散性または溶解性に優れるだけでなく、本発明の組成物が塗布される樹脂製基材がポリカーボネート樹脂製である場合に、ポリカーボネート樹脂を溶かさないため、特に好ましい。
【0060】
さらに、アルコールやアルキレングリコールモノエーテル等のポリカーボネート樹脂を溶かさない溶剤と、エステルやケトン等のポリカーボネート樹脂を溶かす溶剤を混合することで、塗工時にはポリカーボネート樹脂製基材は溶かさず、その後の加熱工程では樹脂基材表面をミクロンオーダーで溶解して塗膜の密着性を高める手法も好ましく適用できる。また、種々沸点の溶剤を混合することで、塗膜表面の平滑性を高める手法も好ましく適用できる。
【0061】
本発明の組成物における(F)成分の含有割合は、(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計100質量部に対して、10〜1000質量部である。(F)成分の配合量が少なすぎると均一な塗装が行いにくく、多すぎると十分な厚さの硬化膜が得られにくい。したがって、(F)成分は、塗装方法に応じて適宜選択すればよいが、敢えて規定するのであれば、生産性の観点から、好ましくは50〜500質量部、さらに好ましくは50〜300質量部である。
なお、組成物の調製時に(A)〜(E)成分ならびに後述の(G)成分、(H)成分およびその他の成分とともに存在する有機溶媒も、(F)成分の含有割合に含めることとする。
【0062】
<(G)成分:ヒンダードアミン系光安定剤>
本発明の組成物は、前記(A)〜(F)成分を必須とするものであるが、耐候性を向上させる目的で、ヒンダードアミン系光安定剤(G)(以下、「(G)成分」という)を配合してもよい。
ヒンダードアミン系光安定剤の具体例としては、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート、メチル(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート、2,4−ビス[N−ブチル−N−(1−シクロヘキシロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ]−6−(2−ヒドロキシエチルアミン)−1,3,5−トリアジン、デカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1−(オクチロキシ)−4−ピペリジニル)エステル等のヒンダードアミン系光安定剤等が挙げられる。
これらのうち、ヒンダードアミンの塩基性が低いものが組成物の安定性の点で好ましく、具体的には、アミノエーテル基を有する所謂NOR型のものがより好ましい。
(G)成分の含有割合としては、(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計100質量部に対して0.05〜1.5質量部、さらには0.1〜1.5質量部が好ましい。
【0063】
<(H)成分:表面改質剤>
本発明の組成物には、塗布時のレベリング性を高める目的や、硬化膜の滑り性を高めて耐擦傷性を高める目的等のため、各種表面改質剤を添加してもよい。表面改質剤としては、表面調整剤、レベリング剤、スベリ性付与剤、防汚性付与剤等の名称で市販されている、表面物性を改質する各種添加剤を使用することができる。それらのうち、シリコーン系表面改質剤およびフッ素系表面改質剤が好適である。
具体例としては、シリコーン鎖とポリアルキレンオキサイド鎖を有するシリコーン系ポリマーおよびオリゴマー、シリコーン鎖とポリエステル鎖を有するシリコーン系ポリマーおよびオリゴマー、パーフルオロアルキル基とポリアルキレンオキサイド鎖を有するフッ素系ポリマーおよびオリゴマー、パーフルオロアルキルエーテル鎖とポリアルキレンオキサイド鎖を有するフッ素系ポリマーおよびオリゴマー、等が挙げられる。これらのうちの一種以上を使用すればよい。滑り性の持続力を高めるなどの目的で、分子中に(メタ)アクリロイル基を含有するものを使用してもよい。
【0064】
表面改質剤の好ましい配合量は、(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計100質量部に対して0.01〜1.0質量部である。表面改質剤の配合量を0.01〜1.0質量部とすることで、塗膜の表面平滑性を高めることができる。
【0065】
<その他の成分>
本発明の組成物は、前記(A)〜(F)成分を必須とするものであるが、目的に応じて種々の成分を配合することができる。上記(G)成分、(H)成分および以下に列挙するその他の成分は、単独で配合してもよいし、2種以上を配合してもよい。
【0066】
本発明の組成物には、保存安定性を良好にする目的で、ラジカル重合禁止剤を添加することが好ましい。
重合禁止剤の具体例としては、ハイドロキノン、tert−ブチルハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,4,6−トリ−tert−ブチルフェノール、ベンゾキノン、フェノチアジン、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンのアンモニウム塩、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンのアルミニウム塩、ジブチルジチオカルバミン酸銅、塩化銅、硫酸銅等が挙げられる。
重合禁止剤の添加量は、(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計100質量部に対して10〜10,000ppmとする事が好ましく、より好ましくは100〜3000ppmである。
【0067】
本発明の組成物には、硬化膜の耐熱性や耐候性を良好にする目的で、各種酸化防止剤を配合してもよい。酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤等の一次酸化防止剤や、イオウ系およびリン系の二次酸化防止剤が挙げられる。
一次酸化防止剤の具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、1,3,5−トリス[(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−キシリル)メチル]−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン等が挙げられる。
二次酸化防止剤の具体例としては、ジドデシル3,3’−チオジプロピオネート、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)フォスファイト等が挙げられる。
酸化防止剤の好ましい配合量は、(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計100質量部に対して0〜5質量部であり、より好ましくは0〜3質量部である。
【0068】
本発明の組成物には、1分子中に1個以上のラジカル重合性不飽和基を有する、(A)成分および(B)成分以外の化合物を配合してもよい。
1分子中に1個のラジカル重合性不飽和基を有する化合物(以下、「不飽和化合物」という)は、硬化膜と樹脂製基材との密着性を高めるために配合することができる。
不飽和化合物におけるラジカル重合性不飽和基としては、(メタ)アクリロイル基が好ましい。
不飽和化合物の配合割合としては、耐摩耗性および耐候性が悪化するのを防ぐ観点から、(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計100質量部に対して、20質量部以下とすることが好ましい。
【0069】
不飽和化合物において、1分子中に1個のラジカル重合性不飽和基を有する化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸、アクリル酸のマイケル付加型のダイマー、ω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェノールのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート、アルキルフェノールのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、tert−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、パラクミルフェノールのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート、オルトフェニルフェノール(メタ)アクリレート、オルトフェニルフェノールのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカンメチロール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、N−(2−(メタ)アクリロキシエチル)ヘキサヒドロフタルイミド、N−(2−(メタ)アクリロキシエチル)テトラヒドロフタルイミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリロイルモルフォリン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム等が挙げられる。
【0070】
不飽和化合物において、1分子中に2個以上のラジカル重合性不飽和基を有する化合物(以下、「多官能不飽和化合物」という)を配合してもよい。多官能不飽和化合物を含むことで、硬化膜と樹脂製基材との密着性および硬化膜の耐摩耗性が改善する場合がある。
多官能不飽和化合物におけるラジカル重合性不飽和基の数は、耐摩耗性を低下させないためには1分子中に3個以上であることが好ましく、4〜20個であることがより好ましい。
多官能不飽和化合物の配合割合としては、耐候性が悪化するのを防ぐ観点から、(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計100質量部に対して、20質量部以下とすることが好ましい。
【0071】
多官能不飽和化合物としては、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物が好ましく、具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFのアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールZのアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールSのアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、チオビスフェノールのアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールZのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールSのジ(メタ)アクリレート、チオビスフェノールのジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、グリセリンのアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ダイマー酸ジオールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメチロールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンのアルキレンオキサイド付加物のトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールのトリおよびテトラアクリレート、ペンタエリスリトールのアルキレンオキサイド付加物のトリおよびテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサおよびペンタアクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、末端に(メタ)アクリロイル基を有するシリコーン樹脂等が挙げられる。
【0072】
ポリエステル(メタ)アクリレートとしては、ポリエステルポリオールと(メタ)アクリル酸との脱水縮合物が挙げられる。ポリエステルポリオールとしては、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、シクロヘキサンジメチロール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、およびトリメチロールプロパン等の低分子量ポリオール、並びにこれらのアルキレンオキシド付加物等のポリオールと、アジピン酸、コハク酸、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸およびテレフタル酸等の二塩基酸またはその無水物等の酸成分とからの反応物等が挙げられる。また、各種デンドリマー型ポリオールと(メタ)アクリル酸との脱水縮合物が挙げられる。
【0073】
エポキシ(メタ)アクリレートとしては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂の(メタ)アクリル酸付加物、水素添加ビスフェノールA型エポキシ樹脂の(メタ)アクリル酸付加物、フェノールまたはクレゾールノボラック型エポキシ樹脂の(メタ)アクリル酸付加物、ビフェニル型エポキシ樹脂の(メタ)アクリル酸付加物、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルのジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物、ポリブタジエンのジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物、ポリブタジエン内部エポキシ化物の(メタ)アクリル酸付加物、エポキシ基を有するシリコーン樹脂の(メタ)アクリル酸付加物、リモネンジオキサイドの(メタ)アクリル酸付加物、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートの(メタ)アクリル酸付加物等が挙げられる。
【0074】
ウレタン(メタ)アクリレートとしては、有機ポリイソシアネートとヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートを付加反応させた化合物や、有機ポリイソシアネートとポリオールとヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートを付加反応させた化合物が挙げられる。
ここで、ポリオールとしては、低分子量ポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール等が挙げられる。
低分子量ポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメチロール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、およびグリセリン等が挙げられる。
ポリエーテルポリオールとしては、ポリプロピレングリコールやポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。
ポリエステルポリオールとしては、これら低分子量ポリオールおよび/またはポリエーテルポリオールと、アジピン酸、コハク酸、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸およびテレフタル酸等の二塩基酸またはその無水物等の酸成分との反応物が挙げられる。
有機ポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、およびイソホロンジイソシアネート等が挙げられる。
ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートや、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基含有多官能(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0075】
以上列挙した不飽和化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0076】
本発明の組成物には、透明性を維持しながら硬化時の反りを低減させる目的等で、有機ポリマーを配合することもできる。好適なポリマーとしては、(メタ)アクリル系ポリマーが挙げられ、好適な構成モノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート、N−(2−(メタ)アクリロキシエチル)テトラヒドロフタルイミド等が挙げられる。(メタ)アクリル酸を共重合したポリマーの場合、グリシジル(メタ)アクリレートを付加させて(メタ)アクリロイル基をポリマー鎖に導入してもよい。
【0077】
<調製方法>
本発明の組成物は、既に説明した(A)〜(F)成分、必要に応じて(G)成分および(H)成分などのその他の成分を、所定の量で秤量し、攪拌・混合して製造することができる。
【0078】
<塗装方法および硬化方法>
本発明の硬化型コーティング剤組成物は、耐摩耗性および耐候性を付与したい基材の表面に塗布される。
本発明の組成物が適用できる基材としては、屋外で使用される種々の材料に適用でき、プラスチック、金属およびコンクリート等が挙げられる。また、基材の形状に特に限定はない。
本発明の組成物は、特に屋外で使用されるプラスチックに好ましく適用できる。プラスチックの具体例としては、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、エポキシ樹脂およびポリウレタン樹脂等が挙げられるが、より好ましくはポリカーボネート樹脂およびポリメチルメタクリレート、特に好ましくはポリカーボネート樹脂である。
【0079】
本発明の硬化型コーティング剤組成物の塗装方法は、常法に従えばよい。たとえば、スプレー法、スピンコート法、ディップコート法、バーコート法、フローコート法などが好ましく、基材の形状などに応じて選択するとよい。このとき、基材の表面が本発明の組成物に長時間さらされないようにすると、有機溶剤による基材の劣化が抑制される。
塗装により形成する塗膜の膜厚は、目的に応じて適宜設定すればよい。たとえば、硬化膜の膜厚が厚いほど耐候性は向上するが、硬化膜の外観および生産性の観点から、厚くするのは望ましくない。耐候性、外観および生産性を考慮すると、硬化後の塗膜の膜厚を5〜50μmさらには10〜40μmとするのが望ましい。
塗膜の乾燥温度は、基材の耐熱性に応じて適宜選択すればよく、樹脂製基材であれば樹脂の軟化点以下である。たとえば、ポリカーボネート樹脂の場合、50〜120℃の範囲とするのが好ましい。
【0080】
本発明の組成物が光硬化型組成物である場合は、組成物を基材に塗布した後乾燥し、紫外線等の光を照射するとよい。好ましい製造方法としては、乾燥後の基材を高温で維持した状態で光を照射する方法が挙げられる。
本発明の組成物が光硬化型組成物である場合において、組成物を乾燥させた後、紫外線等を照射する際の温度としては、基板材料の性能維持温度以下であれば特に限定されるものではないが、50℃〜200℃範囲が好ましい。たとえば、ポリカーボネート樹脂の場合、50〜120℃の範囲とする事が好ましく、より好ましくは60〜110℃、さらに好ましくは70〜100℃、特に好ましくは80〜100℃である。紫外線を照射する際の基材の温度を50〜120℃の範囲に維持することで、硬化膜の耐摩耗性を高めることができる。
【0081】
光としては、紫外線および可視光線が挙げられるが、紫外線が特に好ましい。
紫外線照射装置としては、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、UV無電極ランプ、LED等が挙げられる。UV無電極ランプの場合、直流電源電流による新しいタイプのものも好適に使用することができる。
照射エネルギーは、活性エネルギー線の種類や配合組成に応じて適宜設定すべきものであるが、一例として高圧水銀ランプを使用する場合を挙げると、UV−A領域の照射エネルギーで100〜10,000mJ/cm2が好ましく、1,000〜6,000mJ/cm2がより好ましい。
【0082】
本発明の組成物が熱硬化型組成物である場合は、組成物を基材に塗布した後乾燥し、さらに加熱するとよい。加熱温度としては、基板材料の性能維持温度以下であれば特に限定されるものではないが、80〜200℃が好ましい。
加熱時間としては、10分以上120分以下が好ましい。生産性の観点からであれば、60分以下さらには30分以下とするとよい。
【0083】
なお、組成物の硬化は、大気中で行ってもよいし、真空中、不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。硬化膜の性能上、真空中または不活性ガス雰囲気中が好ましいが、生産性の面から大気中で行ってもよい。
本明細書において乾燥および加熱の温度は、塗膜の表面温度であって、乾燥または加熱の雰囲気温度にほぼ等しい。
【0084】
以上、本発明の硬化型コーティング剤組成物の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例】
【0085】
以下に、実施例および比較例を示し、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
以下において「部」とは質量部を意味し、「%」とは質量%を意味する。また、上記(A)成分に該当しない(A)成分以外の多官能ウレタン(メタ)アクリレートを(A)’成分、上記(C)成分に該当しない珪素系材料である(メタ)アクリル修飾コロイダルシリカ(分散媒を除いた不揮発性成分)を(C)’成分という。
【0086】
○製造例1:(A)成分の製造(HDI3−HBA)
攪拌装置および空気の吹き込み管を備えた3Lセパラブルフラスコに、ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート型三量体を主成分とするイソシアネート化合物〔旭化成ケミカルズ(株)製デュラネートTPA−100。NCO含有量23%。〕1369.5g(NCO7.5モル)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール(以下、「BHT」という)1.22g、ジブチルスズジラウレート(以下、「DBTL」という)0.73gを仕込み、液温を50〜70℃で攪拌しながら、4−ヒドロキシブチルアクリレート(以下、「HBA」という)1080g(7.5モル)を滴下した。
滴下終了後、80℃で4時間攪拌し、反応生成物のIR(赤外吸収)分析でイソシアネート基が消失していることを確認して反応を終了し、イソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物を得た。以下、この反応生成物を「HDI3−HBA」と呼ぶ。
HDI3−HBAは、前記一般式(1)において、R1、R2およびR3が全てテトラメチレン基で、R4、R5およびR6が全て水素原子である化合物に該当する。
【0087】
○製造例2:(A)’成分の製造(IPDI−M305)
攪拌装置および空気の吹き込み管を備えた2Lセパラブルフラスコに、ペンタエリスリトールのトリおよびテトラアクリレート〔東亞合成(株)製アロニックスM−305。以下、M−305という。〕993g(トリアクリレート2モル含有)、BHTの0.61g、DBTLの0.36gを仕込み、液温を70〜75℃で攪拌しながら、イソホロンジイソシアネート(以下、「IPDI」という)の222g(1.0モル)を滴下した。
滴下終了後、85℃で2時間攪拌し、反応生成物のIR(赤外吸収)分析でイソシアネート基が消失していることを確認して反応を終了し、多官能ウレタンアクリレートを得た。
以下、この反応生成物を「IPDI−M305」と呼ぶ。
【0088】
○製造例3:(C)成分の製造(Mac−TQ)
攪拌機および温度計を備えた反応器に、アルコール交換反応用の1−プロパノール150gとテトラメトキシシラン(以下、「TMOS」という)36.53g(0.24モル)とを仕込んだ後、これらを撹拌しながら、25質量%水酸化テトラメチルアンモニウムメタノール溶液4.37g(メタノール0.1モル、水酸化テトラメチルアンモニウム12ミリモル)を徐々に加えて、温度25℃、pH9で6時間反応させた。その後、内温を60℃にして攪拌しながら更に1時間反応させた。ここで、反応液をガスクロマトグラフ分析(TCD検出器)したところ、TMOSのメトキシ基がn−プロポキシ基に置換された化合物(1置換体から4置換体)および未反応のTMOSが検出された。TMOSは痕跡量しか検出されなかった。これらのうちのn−プロポキシ基含有化合物の割合は、合計でほぼ100%であった。ガスクロマトグラムにおける生成物のピーク面積に基づいて、1−プロパノールの置換数(n−プロポキシ基含有化合物1分子あたりのn−プロポキシ基の数の平均)を求めたところ、2.7であった。
次に、上記反応液に、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン59.62g(0.24モル)を加え、さらに水30.2gを加えた。そして、25%水酸化テトラメチルアンモニウムメタノール溶液7.88g(メタノール0.18モル、水酸化テトラメチルアンモニウム21.6ミリモル)を加えて、撹拌しながら、温度25℃、pH9で24時間反応させた。その後、10質量%硝酸水溶液22.2g(35.3ミリモル)加えて中和した。次いで、この中和液を、ジイソプロピルエーテル120gおよび水180gの混合液の中に加えて抽出を行った。このジイソプロピルエーテル層を水洗することで塩類や過剰の酸を除去し、その後、重合禁止剤としてN−ニトロソフェニルヒドロキシルアミシアルミニウム塩〔商品名「Q−1301」、和光純薬工業(株)製。〕を11.5mg加えた。得られたジイソプロピルエーテル溶液から、減圧下で有機溶剤を留去し、無色透明な固体の有機珪素化合物を得た。その収量は57.72gであった。
【0089】
有機珪素化合物を1H−NMR分析し、得られた有機珪素化合物は、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランおよびテトラプロポキシシランが化学量論的に反応して得られた共重縮合物であることが確認された。
有機珪素化合物の1H−NMRチャートから算出したアルコキシ基(珪素原子に結合したn−プロポキシ基)の含有割合は、仕込み原料に含まれていたアルコキシ基の全体に対して2.5%に相当する量であった。また、Mnは9,600であった。以下、この反応生成物を「Mac−TQ」と呼ぶ。
【0090】
(実施例1〜実施例5、比較例1〜比較例8)
表1および表3に示す成分を常法に従い攪拌・混合し、光硬化型コーティング剤組成物を製造した。表1に各実施例の組成物(#E1〜E4)、表3に各比較例の組成物(#C1〜C8)を示した。
なお、表1および表3の各成分の数値は、質量部数を表す。また、表中の略称は、以下の化合物を表す。
【0091】
○略称
・(A)成分
「HDI3−HBA」:製造例1の反応生成物。
・(A)’成分
「IPDI−M305」:製造例2の反応生成物。
・(B)成分
「M−315」:東亞合成(株)製アロニックスM−315;トリス(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート。前記一般式(2)において、R7、R8およびR9がエチレン基であり、R10、R11およびR12が水素原子であり、n1、n2およびn3が1で、n1+n2+n3=3である化合物に該当。
・(C)成分
「Mac−TQ」:製造例3の反応生成物。
・(C)’成分
「アクリル−シリカ」:日産化学工業(株)製メチルエチルケトン(以下MEKという)分散アクリル修飾コロイダルシリカ、商品名MEK−AC−2101(平均粒子径10〜15nm(BET法による比表面積から算出した値)、固形分33%、MEK67%含有)中の不揮発性成分。
・(D)成分
「Irg−819」:BASF(株)製光ラジカル重合開始剤、商品名イルガキュア819;ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド。
・(E)成分
「RUVA−93」:大塚化学(株)製のメタクリロイル基を有するベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、商品名RUVA−93;2−[2−ヒドロキシ−5−(2−メタクリロイルオキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール。
・(F)成分
「PGM」:プロピレングリコールモノメチルエーテル。
「MEK」:メチルエチルケトン。(前記(C)’成分「MEK−AC−2101」中のMEK。)
・(G)成分
「T−123」:BASF(株)製ヒンダードアミン系光安定剤、商品名チヌビン123;デカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1−(オクチロキシ)−4−ピペリジニル)エステル。
・(H)成分
「8019add」:東レ・ダウコーニング(株)製シリコーン系表面改質剤(レベリング剤)、商品名8019additive。有効成分100%。
【0092】
なお、コロイダルシリカの平均粒子径は、平均一次粒子径であって、「10〜15nm」との記載は、商品のロットバラツキも考慮したカタログ値を示す。
(E)成分および(G)成分の有効成分の構造を以下に示す。
【0093】
【化7】

【0094】
【化8】

【0095】
表1および表3に示す組成物を、10cm四方のポリカーボネート樹脂板の表面に、乾燥後の塗膜厚さが約15μmとなるようにバーコータで塗布し、100℃の熱風乾燥機で10分間乾燥した後、すぐに(塗膜表面温度90℃で)紫外線照射を行って、樹脂板の表面に硬化膜を備える試料を作製した。
紫外線照射は、アイグラフィックス(株)製の高圧水銀ランプを使用し、EIT社製のUV POWER PUCKのUV−A領域で、ピーク照度400mW/cm2、1パス当りの照射エネルギー250mJ/cm2となるようランプ出力、ランプ高さ、およびコンベア速度を調整し、12パス(合計3000mJ/cm2)照射して実施した。
【0096】
得られた硬化膜について、透明性、(初期)密着性、耐摩耗性および耐候性(耐候密着性および割れの有無)を、以下に示す方法で評価した。それらの評価結果を表2および表4に示した。
【0097】
○初期密着性
硬化膜にカッターナイフで縦横各11本の2mm間隔の切り込みを入れて100マスの碁盤目を形成し、この碁盤目上にニチバン(株)製のセロハンテープを貼り付け、JIS K5400に準じてセロハンテープを剥離した。セロハンテープ剥離後の残存膜の割合(つまり残存したマス目の数、単位:%)で密着性を評価した。
【0098】
○透明性
JIS K7136に準じて、濁度計NDH−2000(日本電色工業製)にて硬化膜のヘイズH(%)を基材ごと測定した。Hの値が小さいほど、透明性良好と評価した。
【0099】
○耐摩耗性
ASTM D−1044に準拠し、テーバー式摩耗試験を行った。耐摩耗性は、テーバー式摩耗試験機を使用し、テーバー摩耗試験前後のヘイズの差ΔH(%)を測定して評価した。ここで、摩耗輪はCS−10F、荷重は各500g、回転数は500回とした。ΔH(%)が小さいものほど、耐摩耗性良好と評価した。
【0100】
○耐候性
JIS K5400に準じて、カーボンアーク式サンシャインウェザメーターにて5000時間の促進試験を行い、500時間ごとに密着性(耐候密着性)と割れの有無を評価した。なお、密着性は、硬化膜にセロハンテープを貼り付けて剥がしたとき、膜が剥れなかったものを良好と判定した。また、割れは、目視観察により硬化膜に割れが発見されなかったものを良好と判定した。結果を表2および表4に示した。各表には、密着性および割れについて良好と確認された硬化膜に対して行われた促進試験の試験時間のうち最も長い時間数を記載し、時間数が大きいものほど耐候性良好と評価した。5000時間の促進試験後の評価が良好なものについては、「5000<」と記載した。
【0101】
表2に示すように、本発明の硬化型コーティング剤組成物を用いて作製した試料は、透明性、密着性、耐摩耗性、および耐候性に優れていた。これらのうち、実施例1は耐候密着性が5000時間と良好であった。また、実施例1の(B)成分を15部から30部に増量し、その分(A)成分を低減した実施例2は、耐候密着性が5000時間を超えるまでに向上し、さらに耐摩耗性も向上した。(B)成分をさらに50部まで増量した実施例3は、耐摩耗性がさらに向上し、耐候性は実施例2と同様非常に優れていた。
塗膜厚さが薄くなった場合の耐候密着性を維持するため、実施例4のように(E)成分であるUV吸収剤を増量すると、耐摩耗性がやや低下したが、良好なレベルであった。ここで、実施例5のように(C)成分を25部まで増量すると、耐候密着性が少し低下したものの、耐摩耗性は大きく向上した。
一方、表3に示すように、(A)成分を含まず、(B)成分が過剰である比較例1は、耐候密着性が劣っていた。また、(B)成分を含まない比較例2は初期密着性が不良であり、(C)成分を含まない比較例3は耐摩耗性が不良であり、(E)成分を含まない比較例4は耐候性が悪かった。(C)成分については、過剰に配合した比較例5では耐摩耗性は良好であるものの、耐候性が大きく悪化した。以上のように、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(E)成分は、適切な量配合することが重要であった。
表3の比較例6は、無機微粒子を含まずとも耐摩耗性が良好な多官能ウレタンアクリレート((A)’成分)を使用した例であるが、耐候性が不良であった。この(A)’成分を、耐摩耗性向上剤として(C)成分の代わりに使用した例が比較例7であるが、耐摩耗性も耐候性も不良であった。
表3の比較例8は、実施例5の(C)成分(Mac−TQ)を(C)’成分(アクリル−シリカ)に置き換えた例であるが、耐摩耗性は良好であるものの、耐候密着性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の硬化型コーティング剤組成物は、屋外で使用される種々の基材、特に樹脂製基材のコーティング剤組成物として好適に使用することができる。
具体的には、建築物の外壁、屋根などの屋外用建材;屋外に常時設置される室外機、計器類のケース;信号機、屋外照明、標識、ガードレールなどに用いられるプラスチック製部品などの道路関連部材;ショーウィンドウ;望遠鏡、眼鏡などのレンズ;公園や遊園地にある遊具、玩具;殺菌等の目的のために光が照射される食品用、医療用の物品;などが挙げられる。
【0103】
【表1】

【0104】
【表2】

【0105】
【表3】

【0106】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計100質量部に対して、該(A)成分を20〜80質量部、該(B)成分を10〜70質量部、該(C)成分を5〜35質量部、(D)成分としてラジカル重合開始剤を0.1〜10質量部、(E)成分として紫外線吸収剤を1〜12質量部および(F)成分として有機溶剤を10〜1000質量部含有することを特徴とする硬化型コーティング剤組成物。
(A)成分:
下記一般式(1)で表されるイソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物
【化1】

(一般式(1)において、R1、R2およびR3はそれぞれ独立して炭素数2〜10の2価の有機基を表し、R4、R5およびR6はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表す。)
(B)成分:
下記一般式(2)で表されるウレタン結合を有しないイソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレート化合物
【化2】

(一般式(2)において、R7、R8およびR9はそれぞれ独立して炭素数2〜10の2価の有機基を表し、R10、R11およびR12はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表し、n1、n2およびn3は、それぞれ独立して1〜3の数を表し、n1+n2+n3=3〜9である。)
(C)成分:
下記一般式(3)で表される珪素化合物(c1)と下記一般式(4)で表される珪素化合物(c2)とを、該化合物(c1)1モルに対して該化合物(c2)を0.3〜1.8モルの割合で加水分解共重縮合させて得られる有機珪素化合物。
【化3】

(一般式(3)において、R13は炭素数1〜6のアルキル基、炭素数7〜10のアラルキル基または炭素数6〜10のアリール基を有する有機基であり、R14は炭素数1〜6の2価の飽和炭化水素基であり、R15は水素原子またはメチル基であり、Xは加水分解性基であり、Xは同一であっても異なっていても良く、nは0または1である。)
SiY4 ・・・(4)
(一般式(4)において、Yはシロキサン結合生成基であり、Yは同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項2】
前記(E)成分は、(メタ)アクリロイル基を有するベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を含む請求項1記載の硬化型コーティング剤組成物。
【請求項3】
前記(A)成分において、一般式(1)におけるR1、R2およびR3がテトラメチレン基であり、R4、R5およびR6が水素原子である請求項1または請求項2記載の硬化型コーティング剤組成物。
【請求項4】
前記(B)成分において、一般式(2)におけるR7、R8およびR9がエチレン基であり、R10、R11およびR12が水素原子であり、n1、n2およびn3が1で、n1+n2+n3=3である請求項1〜3のいずれかに記載の硬化型コーティング剤組成物。
【請求項5】
さらに(G)成分として、前記(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計100質量部に対してヒンダードアミン系光安定剤を0.05〜1.5質量部含有する請求項1〜4のいずれかに記載の硬化型コーティング剤組成物。
【請求項6】
さらに(H)成分として、前記(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計100質量部に対してシリコーン系および/またはフッ素系表面改質剤を0.01〜1.0質量部含有する請求項1〜5のいずれかに記載の硬化型コーティング剤組成物。
【請求項7】
前記(D)成分が光ラジカル重合開始剤である請求項1〜6のいずれかに記載の硬化型コーティング剤組成物。
【請求項8】
前記(C)成分において、前記珪素化合物(c1)は、一般式(3)におけるXがアルコキシ基でnが0である化合物であり、前記珪素化合物(c2)は、一般式(4)におけるYがアルコキシ基である請求項1〜7のいずれかに記載の硬化型コーティング剤組成物。
【請求項9】
前記(C)成分は、前記珪素化合物(c1)と前記珪素化合物(c2)とを、アルカリ性条件下で加水分解共重縮合させて得られる有機珪素化合物である請求項1〜8のいずれかに記載の硬化型コーティング剤組成物。

【公開番号】特開2013−53281(P2013−53281A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194302(P2011−194302)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】