説明

硬化性シリコーン組成物およびその硬化物

【課題】 低粘度で取扱作業性が優れ、硬化して、可撓性、接着性、および熱伝導性が優れる硬化物を形成する硬化性シリコーン組成物を提供する。
【解決手段】 (A)一分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する液状オルガノポリシロキサン、(B)エポキシ基に反応性の基を有する化合物、(C)熱伝導性充填剤、および(D)シリコーンパウダー、好ましくはエポキシ基含有シリコーンゴムパウダーから少なくともなる硬化性シリコーン組成物、および該組成物を硬化して得られる硬化物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性シリコーン組成物、およびそれを硬化してなる硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品から発生する熱を効率よく伝えるための封止剤あるいは接着剤として、熱伝導性充填剤を含有する硬化性エポキシ樹脂組成物が公知である。一般に、硬化性エポキシ樹脂組成物の硬化物は、弾性率が大きく、剛直であることから、特許文献1、2では、エポキシ基含有オルガノポリシロキサンを含有する硬化性エポキシ樹脂組成物が提案されている。しかし、その硬化物といえども、依然として剛直で、可撓性が不十分で、電子部品の反りや、硬化物の亀裂を生じたり、電子部品と硬化物との間に隙間を生じるため、電子部品への適用には制限がある。
【0003】
一方、特許文献3、4では、エポキシ基含有オルガノポリシロキサンおよび硬化剤からなる硬化性シリコーン組成物が提案されている。その硬化物は柔軟であるが、熱膨張率が大きかったり、強度や弾性率が低いという課題がある。また、特許文献5では、熱伝導性充填剤を含有する硬化性シリコーン組成物が提案されている。しかし、高熱伝導性の硬化物を形成するためには熱伝導性金属粉末、特には銀粉末を多量に添加する必要があり、得られる硬化物の接着性が低下するという課題がある。
【特許文献1】特開平5−295084号公報
【特許文献2】特開平7−53870号公報
【特許文献3】特開平5−320514号公報
【特許文献4】特開2005−154766号公報
【特許文献5】特開2006−306953号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、低粘度で取扱作業性が優れ、硬化して、可撓性、接着性、および熱伝導性が優れる硬化物を形成する硬化性シリコーン組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の硬化性シリコーン組成物は、(A)一分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する液状オルガノポリシロキサン、(B)エポキシ基に反応性の基を有する化合物、(C)熱伝導性充填剤、および(D)シリコーンパウダーから少なくともなることを特徴とする。
また、本発明の硬化物は、前記組成物を硬化してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の硬化性シリコーン組成物は、低粘度で取扱作業性が優れ、硬化して、可撓性、接着性、および熱伝導性が優れる硬化物を形成できる。また、本発明の硬化物は、可撓性、接着性、および熱伝導性が優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
はじめに、本発明の硬化性シリコーン組成物について詳細に説明する。
(A)成分のオルガノポリシロキサンは本組成物の主剤であり、一分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有し、液状であれば特に限定されないが、好ましくは、平均単位式(1):
(R13SiO1/2)a(R22SiO2/2)b(R3SiO3/2)c(SiO4/2)d
で表されるオルガノポリシロキサンである。上式中、R1、R2、およびR3は同じか、または異なり、ハロゲン置換もしくは非置換の一価炭化水素基、またはエポキシ基含有一価有機基である。この一価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;クロロメチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基が例示され、好ましくは、アルキル基、アリール基であり、特に好ましくは、メチル基、フェニル基である。また、エポキシ基含有一価有機基としては、2−グリシドキシエチル基、3−グリシドキシプロピル基、4−グリシドキシブチル基等のグリシドキシアルキル基;2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基、3−(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロピル基、2−(3,4−エポキシ−3−メチルシクロヘキシル)−2−メチルエチル基等のエポキシシクロアルキルアルキル基;4−オキシラニルブチル基、8−オキシラニルオクチル基等のオキシラニルアルキル基が例示され、好ましくは、グリシドキシアルキル基、エポキシシクロアルキルアルキル基であり、特に好ましくは、3−グリシドキシプロピル基、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基である。なお、一分子中、R1、R2、およびR3の内の少なくとも2個は前記エポキシ基含有一価有機基である。
【0008】
また、上式中、R3の20モル%以上はアリール基であり、好ましくは、50モル%以上がアリール基であり、特に好ましくは、80モル%以上がアリール基である。これは、R3の内、アリール基の占める割合が上記範囲の下限未満であると、(B)成分との相溶性が低下したり、得られる硬化物の接着性や機械的強度が低下する傾向があるからである。R3のアリール基としては、特に、フェニル基が好ましい。
【0009】
また、上式中、a、b、c、およびdはそれぞれ、0≦a≦0.8、0≦b≦0.8、0.2≦c≦0.9、0≦d<0.8、かつa+b+c+d=1を満たす数である。aは本成分中の式:R13SiO1/2で表されるシロキサン単位の割合を示す数であるが、本成分が式:R3SiO3/2で表されるシロキサン単位のみからなると、粘度が高くなり、得られる組成物の取扱作業性が低下する傾向があることから、好ましくは、0<a≦0.8を満たす数であり、より好ましくは、0.3≦a≦0.8を満たす数である。bは本成分中の式:R22SiO2/2で表されるシロキサン単位の割合を示す数であるが、適度な分子量で、得られる硬化物から本成分が滲み出しにくく、また、得られる硬化物の機械的強度が優れることから、好ましくは、0≦b≦0.6を満たす数である。cは本成分中の式:R3SiO3/2で表されるシロキサン単位の割合を示す数であるが、本組成物の取扱作業性が良好であり、得られる硬化物の接着性、機械的強度、および可撓性が良好であることから、好ましくは、0.4≦c≦0.9を満たす数である。dは本成分中の式:SiO4/2で表されるシロキサン単位の割合を示す数であるが、本組成物の取扱作業性が良好であり、得られる硬化物の接着性、機械的強度、および可撓性が良好であることから、好ましくは、0≦d<0.2を満たす数である。
【0010】
(A)成分は室温で液状のものであれば特に限定されないが、好ましくは、25℃における粘度が10〜1,000,000mPa・sの範囲内であり、特に好ましくは、100〜100,000mPa・sの範囲内である。これは、(A)成分の粘度が上記範囲の下限未満であると、得られる硬化物の機械的強度および可撓性が低下する傾向があり、一方、上記範囲の上限を超えると、得られる組成物の取扱作業性が低下する傾向があるからである。このような(A)成分の質量平均分子量は特に限定されないが、好ましくは、500〜10,000の範囲内であり、特に好ましくは、750〜3,000の範囲内である。また、(A)成分中のエポキシ基の含有量は特に限定されないが、本成分のエポキシ当量(本成分の質量平均分子量を一分子中のエポキシ基の数で割った値)が100〜2,000の範囲内であることが好ましく、さらには、100〜1,000の範囲内であることが好ましく、特に、100〜700の範囲内であることが好ましい。これは、エポキシ当量が上記範囲の下限未満では、得られる硬化物の機械的強度や可撓性が低下する傾向があり、一方、上記範囲の上限を超えると、得られる組成物の硬化性が低下したり、得られる硬化物の接着性や機械的強度が低下する傾向があるからである。
【0011】
このような(A)成分としては、次のようなオルガノポリシロキサンが例示される。なお、式中、a、b、c、およびdは前記のとおりであるが、下式においては、aおよびbは0ではない。また、式中、eおよびfはそれぞれ、0.1<e<0.8、0<f<0.2、0.2≦(e+f)≦0.9、かつ、0.2≦e/(e+f)を満たす数であり、Xは3−グリシドキシプロピル基を表し、Yは2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基を表す。
【0012】
[X(CH3)2SiO1/2]a[C65SiO3/2]c
[Y(CH3)2SiO1/2]a[C65SiO3/2]c
[X(CH3)2SiO1/2]a[(CH3)2SiO2/2]b[C65SiO3/2]c
[Y(CH3)2SiO1/2]a[(CH3)2SiO2/2]b[C65SiO3/2]c
[XCH3SiO2/2]b[C65SiO3/2]c
[YCH3SiO2/2]b[C65SiO3/2]c
[X(CH3)2SiO1/2]a[C65SiO3/2]e[CH3SiO3/2]f
[Y(CH3)2SiO1/2]a[C65SiO3/2]e[CH3SiO3/2]f
[C65SiO3/2]e[XSiO3/2]f
[C65SiO3/2]e[YSiO3/2]f
【0013】
(A)成分を調製する方法は特に限定されず、例えば、フェニルトリアルコキシシランとエポキシ基含有一価有機基を有するアルコキシシラン、例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランや2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランとの共加水分解・縮合反応により調製する方法;フェニルトリクロロシランやフェニルトリアルコキシシランの加水分解・縮合反応により調製されたシラノール基含有オルガノポリシロキサンと前記のようなエポキシ基含有一価有機基を有するアルコキシシランとの脱アルコール縮合反応により調製する方法;フェニルトリクロロシランやフェニルトリアルコキシシランをジメチルクロロシラン等のケイ素原子結合水素原子含有シラン類存在下で共加水分解・縮合反応して調製したケイ素原子結合水素原子含有オルガノポリシロキサンとエポキシ基含有一価有機基を有するオレフィンとのヒドロシリル化反応により調製する方法;フェニルトリクロロシランやフェニルトリアルコキシシランの加水分解・縮合反応して調製したオルガノポリシロキサンと分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチル(3−グリシドキシプロピル)シロキサン・ジメチルシロキサン共重合体もしくは分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチル{2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル}シロキサン・ジメチルシロキサン共重合体とを塩基性触媒の存在下で平衡反応する方法;式:C65SiO3/2で表されるシロキサン単位からなるオルガノポリシロキサンと環状メチル(3−グリシドキシプロピル)シロキサンもしくは環状メチル{2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル}シロキサンとを塩基性触媒の存在下で平衡反応する方法;C65SiO3/2で表されるシロキサン単位からなるオルガノポリシロキサンと環状メチル(3−グリシドキシプロピル)シロキサンもしくは環状メチル{2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル}シロキサンと環状ジメチルシロキサンとを酸性触媒または塩基性触媒の存在下で平衡反応する方法が挙げられる。
【0014】
(B)成分は、エポキシ基に反応性の基を有する化合物であり、本組成物を硬化させるための成分である。このような(B)成分中のエポキシ基に反応性の基としては、1級アミノ基、2級アミノ基、水酸基、フェノール性水酸基、カルボン酸基、酸無水物基、メルカプト基、シラノール基が例示され、反応性とポットライフの観点から、フェノール性水酸基であることが好ましい。すなわち、(B)成分はフェノール性水酸基含有化合物であることが好ましく、具体的には、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールA系化合物等のフェノール樹脂;フェノール性水酸基を有するオルガノシロキサンが例示され、得られる硬化物の可撓性を十分に向上できることから、フェノール性水酸基を一分子中に少なくとも2個有するオルガノシロキサンであることが好ましい。このオルガノシロキサン中のフェノール性水酸基の含有量は限定されないが、このフェノール性水酸基当量(本成分の質量平均分子量を一分子中のフェノール性水酸基の数で割った値)が1,000以下であることが好ましく、特に反応性が高いことから、500以下であることが好ましい。
【0015】
(B)成分のフェノール性水酸基を有するオルガノシロキサンとしては、一般式:
43SiO(R42SiO)mSiR43
で表されるオルガノシロキサンであることが好ましい。式中、R4は、同じかまたは異なり、ハロゲン置換もしくは非置換の一価炭化水素基、またはフェノール性水酸基含有一価有機基である。なお、一分子中のR4の少なくとも2個はフェノール性水酸基含有有機基である。この一価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基;3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基が例示され、好ましくは、アルキル基、アリール基であり、特に好ましくは、メチル基、フェニル基である。また、フェノール性水酸基含有一価有機基としては、次のような基が例示される。なお、式中のR5は二価有機基であり、具体的には、エチレン基、メチルエチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基等のアルキレン基;エチレンオキシエチレン基、エチレンオキシプロピレン基、エチレンオキシブチレン基、プロピレンオキシプロピレン基等のアルキレンオキシアルキレン基が例示され、好ましくは、アルキレン基であり、特に好ましくは、プロピレン基である。
【0016】
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【0017】
また、上式中、mは0〜1,000の範囲内の整数であり、好ましくは、0〜100の範囲内の整数であり、特に好ましくは、0〜20の範囲内の整数である。これは、mが上記範囲の上限を超えると、(A)成分への配合性や取扱作業性が低下する傾向があり、さらには、得られる組成物を多量の溶剤で希釈する必要があるからである。
【0018】
このような(B)成分としては、次のようなオルガノシロキサンが例示される。なお、式中のxは1〜20の整数であり、yは2〜10の整数である。
【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

【化16】

【0019】
このような(B)成分を調製する方法は限定されないが、例えば、アルケニル基含有フェノール化合物とケイ素原子結合水素原子を有するオルガノシロキサンとをヒドロシリル化反応する方法が挙げられる。
【0020】
(B)成分の25℃における性状は特に限定されず、液状、固体状のいずれでもよいが、取扱いの容易さから、液状であることが好ましい。(B)成分の25℃における粘度は1〜1,000,000mPa・sの範囲内であることが好ましく、特に、10〜5,000mPa・sの範囲内であることが好ましい。これは、25℃における粘度が上記範囲の下限未満であると、得られる硬化物の機械的強度が低下する傾向があり、一方、上記範囲の上限を超えると、得られる組成物の取扱作業性が低下する傾向があるからである。
【0021】
(B)成分の含有量は特に限定されないが、好ましくは、(A)成分100質量部に対して0.1〜500質量部の範囲内であり、特に好ましくは、0.1〜200質量部の範囲内である。また、(B)成分がフェノール性水酸基を有する場合には、本組成物中の全エポキシ基に対する(B)成分中のフェノール性水酸基がモル比で0.2〜5の範囲内となる量であることが好ましく、さらには、0.3〜2.5の範囲内となる量であることが好ましく、特には、0.8〜1.5の範囲内となる量であることが好ましい。これは、本組成物中の全エポキシ基に対する(B)成分中のフェノール性水酸基のモル比が上記範囲の下限未満であると、得られる組成物が十分に硬化しにくくなる傾向があり、一方、上記範囲の上限を超えると、得られる硬化物の機械的特性が著しく低下する傾向があるからである。
【0022】
(C)成分は、本組成物の硬化物に熱伝導性や難燃性を付与する熱伝導性充填剤である。(C)成分としては、金、銀、銅、ニッケル、真鍮、形状記憶合金、半田等の金属粉末;セラミック、ガラス、石英、有機樹脂等の微粉末表面に、金、銀、ニッケル、銅等の金属を蒸着またはメッキした微粉末;アルミナ、酸化亜鉛、マグネシア、チタニア、結晶性シリカ等の金属酸化物粉末;窒化アルミニウム、窒化ホウ素等の金属窒化物粉末;炭化ケイ素等の金属炭化物粉末;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物粉末;カーボンナノチューブ、カーボンマイクロファイバー、ダイヤモンド、グラファイト等の炭素系粉末、およびこれらの2種以上の混合物が例示され、好ましくは、金属粉末であり、特に好ましくは、金、銀、銅、およびニッケルからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属粉末である。(C)成分の形状は限定されず、例えば、破砕状、不定形状、球状、繊維状、柱状、フレーク状、鱗状、板状、コイル状が挙げられる。高熱伝導性の硬化物を形成できることから、(C)成分は銀粉末であることが好ましく、特に、フレーク状銀粉末であることが好ましい。また、(C)成分の粒径は限定されないが、通常、最大粒径が200μm以下であり、平均粒子径が0.001〜50μmの範囲内であることが好ましい。
【0023】
(C)成分の含有量は特に限定されないが、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して100〜5,000質量部の範囲内であることが好ましく、さらには、500〜5,000質量部の範囲内であることが好ましく、特には、500〜4,000質量部の範囲内であることが好ましい。これは、(C)成分の含有量が上記範囲の下限未満であると、得られる硬化物に十分な熱伝導性を付与できないからであり、一方、上記範囲の上限を超えると、得られる組成物の流動性を損なわれるからである。
【0024】
(D)成分のシリコーンパウダーは、本組成物を硬化して得られる硬化物の接着性を向上させるための成分である。(D)成分の性状は特に限定されないが、ゴム状、レジン状が例示され、得られる硬化物の可撓性を十分に向上できることから、ゴム状であることが好ましい。また、(D)成分の平均粒子径は特に限定されないが、好ましくは、0.01〜500μmの範囲内であり、さらに好ましくは、0.01〜100μmの範囲内であり、特に好ましくは、0.01〜50μmの範囲内である。これは、平均粒子径が上記範囲の下限未満であるシリコーンパウダーを調製することが困難であり、一方、上記範囲の上限を超えるシリコーンパウダーは、本組成物中に均一に分散しなくなるからである。このような(D)成分は、(A)成分あるいは(B)成分への反応性の基を含有することが好ましい。このような反応性の基としては、エポキシ基、アミノ基、アルコキシ基が例示され、好ましくは、エポキシ基である。(D)成分がエポキシ基を含有する場合には、滴定法によるエポキシ当量が10,000以下であることが好ましい。これは、エポキシ当量が10,000を超えるシリコーンパウダーは、(A)成分あるいは(B)成分への反応性が乏しくなるからである。なお、(D)成分のエポキシ当量は、これを塩酸のジオキサン溶液に均一分散してエポキシ基と塩酸を反応させ、過剰の塩酸を水酸化ナトリウムで逆滴定することによって求めることができる。
【0025】
このような(D)成分は、縮合反応硬化型またはヒドロシリル化反応硬化型シリコーン組成物を水中に分散状態で硬化させたり、エポキシ基含有のアルコキシシランを含有する縮合反応硬化型またはヒドロシリル化反応硬化型シリコーン組成物を水中に分散状態で硬化させたり、アミノ基含有のアルコキシシランを含有する縮合反応硬化型シリコーン組成物を水中に分散状態で硬化させたり、アリルグリシジルエーテル等のアルケニル基含有エポキシ化合物を含有するヒドロシリル化反応硬化型シリコーン組成物を水中に分散状態で硬化させたり、シリコーンパウダーをエポキシ基含有アルコキシシランやアミノ基含有アルコキシシランで表面処理することにより調製することができる。このような(D)成分は、東レ・ダウコーニング株式会社製のトレフィルE−500、E−600、E−601、E−606等により入手可能であり、特に、エポキシ含有シリコーンゴムパウダーである東レ・ダウコーニング株式会社製のトレフィルE−601が好適である。
【0026】
(D)成分の含有量は特に限定されないが、本組成物の流動性を損なわないことから、(A)成分〜(C)成分の合計100質量部に対して0.1〜10質量部の範囲内であることが好ましく、さらには、0.5〜5質量部の範囲内であることが好ましく、特には、1〜3質量部の範囲内であることが好ましい。これは、(D)成分の含有量が上記範囲の下限未満であると、得られる硬化物の接着性が十分でなくなるからであり、一方、上記範囲の上限を超えると、得られる組成物の流動性が低下し、取扱作業性が低下するからである。
【0027】
本組成物には、その他任意の成分として(E)硬化促進剤を含有してもよい。このような(E)成分としては、三級アミン化合物、アルミニウムやジルコニウム等の有機金属化合物;ホスフィン等の有機リン化合物;その他、異環型アミン化合物、ホウ素錯化合物、有機アンモニウム塩、有機スルホニウム塩、有機過酸化物、これらの反応物が例示され、さらに具体的には、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリ(p−メチルフェニル)ホスフィン、トリ(ノニルフェニル)ホスフィン、トリフェニルホスフイン・トリフェニルボレート、テトラフェニルホスフィン・テトラフェニルボレート等のリン系化合物;トリエチルアミン、ベンジルジメチルアミン、α−メチルベンジルジメチルアミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7等の第3級アミン化合物;2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物が例示される。なお、本組成物の可使時間を延ばすことができることから、(E)成分は、カプセル化された硬化促進剤であることが好ましい。このカプセル化された硬化促進剤としては、アミン系硬化促進剤を含有するビスフェノールA型エポキシ樹脂からなるカプセル型アミン系硬化促進剤(例えば、旭化成株式会社製のHX-3088)が入手可能である。
【0028】
本組成物において、(E)成分の含有量は限定されないが、(A)成分100質量部に対して50質量部以下であることが好ましく、さらには、0.01〜50質量部の範囲内であることが好ましく、特には、0.1〜5質量部の範囲内であることが好ましい。これは、(E)成分の含有量が上記範囲の下限未満であると、得られる組成物の硬化を十分に促進できなくなるからであり、一方、上記範囲の上限を超えると、得られる硬化物の機械的特性が低下するからである。
【0029】
本組成物には、その硬化物の機械的強度を向上させるために、さらに前記(C)成分以外の充填剤を含有してもよい。このような充填剤としては、ガラス繊維、アルミナとシリカを成分とするセラミック繊維、ボロン繊維、ジルコニア繊維等の繊維状充填剤;溶融シリカ、結晶性シリカ、沈澱シリカ、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、焼成クレイ、カーボンブラック、ガラスビーズ、タルク、炭酸カルシウム、クレイ、硫酸バリウム、酸化ベリリウム、カオリン、雲母、ジルコニア等の粉粒体状充填剤;およびこれらの2種以上の混合物が例示される。また、このような充填剤の平均粒子径や形状は限定されないが、成形性が優れることから、平均粒子径が0.1〜40μmである球状シリカが好ましい。このような充填剤の含有量は特に限定されないが、(A)成分100質量部に対して10質量部以下であることが好ましく、特に、0.01〜10質量部の範囲内であることが好ましい。
【0030】
本組成物には、作業性を向上させるために、溶剤を配合できる。このような溶剤としては、キシレン、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコール、N−ブチルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、が挙げられる。より好ましくは、2−エトキシエチルアセテート、2−ブトキシエチルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(=酢酸カルビトール、カルビトールアセテート)、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールブチルエーテルアセテートが例示される。このような溶剤の含有量は限定されないが、本組成物の作業性が改善されることから、(A)成分と(B)成分の合計量100質量部に対して100質量部以下であることが好ましい。
【0031】
さらに、(A)成分または(B)成分、あるいはそれらの混合物に(C)成分を良好に分散させ、本組成物の硬化時の基材への接着性を向上させるために、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤等のカップリング剤を配合してもよい。このシランカップリング剤としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有アルコキシシラン;N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシラン;3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト基含有アルコキシシランが例示される。また、チタネートカップリング剤としては、i−プロポキシチタントリ(i−イソステアレート)が例示される。このカップリング剤の含有量は特に限定されないが、(A)成分100質量部に対して10質量部以下であることが好ましく、特に、0.01〜10質量部の範囲内であることが好ましい。
【0032】
本組成物は、(A)成分〜(D)成分、および必要によりその他の任意成分を均一に混合することにより調製することができる。この混合方法は特に限定されないが、(A)成分〜(D)成分、および必要によりその他の任意成分を同時に配合する方法;(A)成分と(C)成分をプレミックスした後、(B)成分と(D)成分、および必要によりその他の任意成分を配合する方法;(A)成分、(C)成分、(D)成分、および必要によりその他の任意成分をプレミックスした後、(B)成分を配合する方法が例示される。(A)成分〜(D)成分、および必要によりその他の任意成分を混合する混合装置としては特に限定がなく、一軸または二軸の連続混合機、二本ロール、ロスミキサー、ホバートミキサー、デンタルミキサー、プラネタリミキサー、ニーダーミキサーが例示される。
【0033】
本組成物は、取扱作業性が優れ、迅速に硬化するので、トランスファーモールド、インジェクションモールド、ポッティング、キャスティング、浸漬塗布、滴下等の方法により使用することができる。なお、ポッティングやスクリーン印刷、塗布など種々の使用方法が選択でき、少量使用の用途にも適合しやすい。
【0034】
次に、本発明の硬化物について詳細に説明する。
本発明の硬化物は、上記硬化性シリコーン組成物を硬化してなることを特徴とする。この硬化物は、半導体素子と放熱板の間の放熱材や電気・電子部品の封止樹脂として有用であり、特に、熱伝導性、可撓性、および難燃性が優れることから、半導体素子と放熱板の接着剤として極めて有用である。
【実施例】
【0035】
本発明の硬化性シリコーン組成物およびその硬化物を実施例、比較例により説明する。なお、実施例中の粘度は25℃における値であり、また、硬化性シリコーン組成物および硬化物の諸特性は次の方法により測定した。
【0036】
[粘度]
TA INSTRUMENTS社製のRheometer AR550を用いて、ジオメトリーに直径20mmのパラレルプレートを使用し、試料厚み200μm、剪断速度1/秒および10/秒の条件で測定した。
【0037】
[熱抵抗]
硬化性シリコーン組成物を厚さ50μmとなるように2枚のシリコンチップ(7mm×7mm×0.75mm)で挟み込み、130℃の熱風循環式オーブン中で1時間加熱して硬化させた。その後、180℃の熱風循環式オーブン中で2時間ポストキュアさせて熱抵抗測定試験体を作製した。この試験体の熱抵抗を株式会社日立製作所製の熱抵抗測定機により測定し、硬化物の熱抵抗を求めた。
【0038】
[接着性]
10mm×10mm角のシリコンチップをニッケル板またはアルミニウム板に厚さ50μmの硬化性シリコーン組成物で貼りあわせ、次いで、150℃で1時間加熱することにより硬化性シリコーン組成物を硬化させてテストピースを作製した。これらのテストピースをボンドテスター(西進商事株式会社製のMODEL−SS−100KP)により、25℃、剥離速度50mm/分における剥離強度(kgf/cm2)を測定した。
【0039】
[複素弾性率]
硬化性シリコーン組成物を70mmHgで脱泡した後、幅10mm、長さ50mm、深さ2mmのキャビティを有する金型に充填し、130℃、2.5MPaの条件で60分間プレス硬化させた後、150℃のオーブン中で2時間二次加熱しての硬化物試験片を作製した。この試験片をARES粘弾性測定装置(Reometric Scientific社製のRDA700)を使用し、ねじれ0.05%、振動数1Hzの条件で、0℃および50℃における複素粘弾性率を測定し、可撓性を評価した。
【0040】
[実施例1]
平均単位式:
[X(CH3)2SiO1/2]0.4[C65SiO3/2]0.6
(式中、Xは3−グリシドキシプロピル基である。)
で表される、質量平均分子量1,000、粘度9,630mPa・s、エポキシ当量345のオルガノポリシロキサン5.0質量部、式:
【化17】

で表される、粘度3,050mPa・sのオルガノポリシロキサン4.0質量部、カプセル型アミン触媒(旭化成株式会社製のHX−3941;アミン触媒含有量:40質量%)1.0質量部、フレーク状銀粉末(福田金属箔粉工業株式会社製、平均粒子径=6.4μm、タップ密度=4.6g/cm3)90質量部、エポキシ基含有シリコーンゴムパウダー(東レ・ダウコーニング株式会社製のトレフィルE−601;エポキシ当量=約5,000、平均粒子径=約1〜5μm)2質量部、およびカルビトールアセテート5質量部を混合して、硬化性シリコーン組成物を調製した。真空脱泡後、前述の条件で粘度、複素粘弾性率、接着性を調べた。その結果を表1に示す。
【0041】
[実施例2]
平均単位式:
[X(CH3)2SiO1/2]0.4[C65SiO3/2]0.6
(式中、Xは3−グリシドキシプロピル基である。)
で表される、質量平均分子量1,000、粘度9,630mPa・s、エポキシ当量345のオルガノポリシロキサン3.9質量部、式:
【化18】

で表される粘度3,050mPa・sのオルガノポリシロキサン3.1質量部、カプセル型アミン触媒(旭化成株式会社製HX−3941、アミン触媒含有量:40質量%)1.0質量部、およびフレーク状銀粉末(福田金属箔粉工業株式会社製、平均粒子径6.4μm、タップ密度4.6g/cm3)90質量部、エポキシ基含有シリコーンゴムパウダー(東レ・ダウコーニング株式会社製のトレフィルE−601、エポキシ当量は約5000、平均粒子径約1〜5μm)2質量部、およびカルビトールアセテート6質量部を混合して、硬化性シリコーン組成物を調製した。真空脱泡後、前述の条件で粘度、複素粘弾性率、接着性を調べた。その結果を表1に示す。
【0042】
[比較例1]
実施例1において、エポキシ基含有シリコーンゴムパウダーを配合せず、カルビトールアセテートの配合量を4質量部にした以外は実施例1と同様にして、熱伝導性硬化性シリコーン組成物を調製した。この組成物を実施例1と同様に評価し、その結果を表1に示した。
【0043】
[比較例2]
実施例2において、エポキシ基含有シリコーンゴムパウダーを配合しない以外は実施例2と同様にして、熱伝導性硬化性シリコーン組成物を調製した。この組成物を実施例1と同様に評価し、その結果を表1に示した。
【0044】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の硬化性シリコーン組成物は、低粘度で取扱作業性が優れるので、トランスファーモールド、インジェクションモールド、ポッティング、キャスティング、浸漬塗布、滴下等の方法により使用することができる。また、本発明の硬化性シリコーン組成物は、硬化して、可撓性、接着性、および熱伝導性が優れる硬化物を形成するので、電気部品や電子素子の封止剤、注型剤、コーティング剤、接着剤等として有用である。特に、本発明の硬化性シリコーン組成物は、ニッケル、アルミニウムといった難接着性の基材に対しても良好な接着性を示すので、電気部品や電子素子の放熱部分の構成部材として有用であり、特に、放熱インターフェース材料(TIM)として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)一分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する液状オルガノポリシロキサン、(B)エポキシ基に反応性の基を有する化合物、(C)熱伝導性充填剤、および(D)シリコーンパウダーから少なくともなる硬化性シリコーン組成物。
【請求項2】
(A)成分が、平均単位式(1):
(R13SiO1/2)a(R22SiO2/2)b(R3SiO3/2)c(SiO4/2)d
(式中、R1、R2、およびR3は同じか、または異なり、ハロゲン置換もしくは非置換の一価炭化水素基、またはエポキシ基含有一価有機基であり、但し、一分子中の少なくとも2個はエポキシ基含有一価有機基であり、R3の20モル%以上はアリール基であり、a、b、c、およびdはそれぞれ、0≦a≦0.8、0≦b≦0.8、0.2≦c≦0.9、0≦d<0.8、かつa+b+c+d=1を満たす数である。)
で表されるオルガノポリシロキサンである、請求項1記載の硬化性シリコーン組成物。
【請求項3】
平均単位式(1)中のエポキシ基含有一価有機基がグリシドキシアルキル基またはエポキシシクロアルキルアルキル基である、請求項2記載の硬化性シリコーン組成物。
【請求項4】
平均単位式(1)中のaが0<a≦0.8を満たす数であり、bが0である、請求項2記載の硬化性シリコーン組成物。
【請求項5】
(B)成分がフェノール性水酸基含有化合物である、請求項1記載の硬化性シリコーン組成物。
【請求項6】
(B)成分が、フェノール性水酸基を一分子中に少なくとも2個有するオルガノシロキサンである、請求項5記載の硬化性シリコーン組成物。
【請求項7】
(B)成分が、一般式(2):
43SiO(R42SiO)mSiR43
(式中、R4は同じかまたは異なり、ハロゲン置換もしくは非置換の一価炭化水素基、またはフェノール性水酸基含有一価有機基であり、但し、一分子中の少なくとも2個はフェノール性水酸基含有一価有機基であり、mは0〜1,000の整数である。)
で表されるオルガノシロキサンである、請求項6記載の硬化性シリコーン組成物。
【請求項8】
(B)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して0.1〜500質量部である、請求項1記載の硬化性シリコーン組成物。
【請求項9】
(C)成分が、金、銀、銅、およびニッケルからなる群より選択される少なくとも一種の金属系熱伝導性充填剤である、請求項1記載の硬化性シリコーン組成物。
【請求項10】
(C)成分の含有量が、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して100〜5,000質量部である、請求項1記載の硬化性シリコーン組成物。
【請求項11】
(D)成分がシリコーンゴムパウダーである、請求項1記載の硬化性シリコーン組成物。
【請求項12】
(D)成分がエポキシ基を有するシリコーンパウダーである、請求項1記載の硬化性シリコーン組成物。
【請求項13】
(D)成分の平均粒子径が0.01〜500μmである、請求項1記載の硬化性シリコーン組成物。
【請求項14】
(D)成分の含有量が、(A)成分〜(C)成分の合計100質量部に対して0.1〜10質量部である、請求項1記載の硬化性シリコーン組成物。
【請求項15】
さらに、(E)硬化促進剤を含有する、請求項1記載の硬化性シリコーン組成物。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の硬化性シリコーン組成物を硬化してなる硬化物。

【公開番号】特開2009−96865(P2009−96865A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−269034(P2007−269034)
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【出願人】(000110077)東レ・ダウコーニング株式会社 (338)
【Fターム(参考)】