説明

硬化性シリコーン組成物とその製造方法及び当該組成物を用いたコーティング剤

【課題】強靱性、耐クラック性、透明性、硬度、耐熱性、電気絶縁性、耐薬品性等が優れた硬化被膜を形成することができる硬化性シリコーン組成物とその製造方法およびコーティング剤を提供すること。
【解決手段】ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算の重量平均分子量が500〜100,000であり、フェニル基、直鎖状、分岐状又は環状の炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基と炭素数1〜3個のアルキル基、水素原子を有するポリオルガノシルセスキオキサンとフェニル基、直鎖状、分岐状又は環状の炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基と炭素数1〜3個のアルキル基、水素原子を有し、nが3〜8である環状オルガノシロキサンを含有することを特徴とする硬化性シリコーン組成物とその製造方法およびコーティング剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性シリコーン組成物とその製造方法及び当該組成物を用いたコーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリシルセスキオキサンは、ケイ素原子数に対する酸素原子数が1.5であるようなシリコーンの総称である。透明性、耐熱性、電気絶縁性等に優れ、光学材料用途、半導体封止、レジスト材料、層間絶縁膜等として広く利用されている。特にラダーシリコーンの略称で知られるポリオルガノシルセスキオキサンは、シロキサン骨格結合の分子の動きが固定され、シリカ類似の骨格構造を有しており、硬度、耐熱性等の目的に対しては理想的な構造を有している。
【0003】
上述のラダー構造を有するポリオルガノシルセスキオキサンとしては、測鎖がメチル基であるポリメチルシルセスキオキサン、測鎖がフェニル基であるポリフェニルシルセスキオキサン、測鎖にメチル基とフェニル基を有するポリメチルフェニルシルセスキオキサンが一般的に知られている。この様なポリオルガノシルセスキオキサンは、有機溶媒に溶解してコーティング剤として使用され、スプレー法、ディップ法又はスピーンコート法等でガラス、シリコンウエハー、金属及びプラスティック等の基材にコーティングされ、溶剤の揮発後、更に加熱するとポリオルガノシルセスキオキサンのシラノール基又はアルコキシ基間で脱水又は脱アルコールを伴う縮合反応により三次元硬化をし、耐熱性、電気絶縁性、耐薬品性に優れた被膜を形成する。
【0004】
例えば、上述のポリメチルシルセスキオキサンにおいては、ケトン又はエーテル溶媒中、アミンの存在下にメチルトリクロロシランを加え、低温で水を滴下して加水分解してプレポリマーを得て、更に縮合してポリメチルシルセスキオキサンが合成できることが提案されている(特許文献1)。また、水と有機溶剤の二層を形成する混合液にアルカリ金属カルボン酸塩と低級アルコールを溶存させ、この系内にメチルトリクロロシランを滴下して、加水分解し、更に縮合してポリメチルシルセスキオキサンが合成できることが提案されている(特許文献2)。
【0005】
また、ポリフェニルシルセスキオキサンにおいては、フェニルトリクロロシランを加水分解してプレポリマー又はフェニルシラントリオールを得て、更にトルエン溶媒中、塩基性触媒の存在下で生成する水を共沸で系外に除去しながら縮合してポリフェニルシルセスキオキサンが合成できる事が提案されている(特許文献3、特許文献4)。
【0006】
また、水と有機溶剤の二層を形成する混合液にアルカリ金属カルボン酸塩と低級脂肪族アルコールを溶存させ、この系内にフェニルトリクロロシランを滴下して、加水分解し、更に縮合して有機溶媒との相溶性が優れる分子量分布が狭い低分子量のポリフェニルシルセスキオキサンが合成できることが提案されている(特許文献5)。
【0007】
更に、ポリメチルフェニルシルセスキオキサンにおいては、メチルトリエトキシシランとフェニルトリメトキシシランを酸性触媒の存在下で加水分解して得られるプレポリマーを、更にメチルイソブチルケトン溶媒中、塩基性触媒の存在下で反応し、超高分子量のポリメチルフェニルシルセスキオキサンが合成できることが提案されている(特許文献6)。
【0008】
しかしながら、これら公知のポリオルガノシルセスキオキサンは、例えば、有機溶媒との相溶性や均質な硬化被膜の形成、又は、得られた硬化被膜の強靱性、耐クラック性、透明性、硬度、耐熱性、電気絶縁性、耐薬品性等、何れかの点において何らかの問題点があり、これらのバランスの取れた物性を示すシリコーンの出現が強く望まれていた。
【0009】
【特許文献1】特公平1−43773号公報(特開昭58−13632号公報)
【特許文献2】特許2977218号公報(特開平3−227321号公報)
【特許文献3】特公平3−60336号公報(特開昭59−108033号公報)
【特許文献4】特開平8−143578号公報
【特許文献5】特開平5−39357号公報
【特許文献6】特許3272002号公報(特開平5−125187号公報)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、上記問題を解決するために鋭意研究・検討を進めた結果、特定のシリコーン組成物が、有機溶媒との相溶性が優れ、均質な硬化被膜の形成が可能であり、得られた硬化被膜は、特に強靱性、耐クラック性、更には透明性、硬度、耐熱性、電気絶縁性、耐薬品性等、上記の問題点を改善したバランスの取れたコーティング剤が得られることを見出し、ついに本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算の重量平均分子量が500〜100,000であり、下記一般式(1)
【0012】
【化1】

[式中、Rはそれぞれ独立して置換又は非置換のフェニル基、直鎖状、分岐状又は環状の炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基であり、Rがそれぞれ独立して炭素数1〜3個のアルキル基、水素原子を示し、mは整数である。]で表されるポリオルガノシルセスキオキサンと一般式(2)
【0013】
【化2】

[式中、Rはそれぞれ独立して置換又は非置換のフェニル基、直鎖状、分岐状又は環状の炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基であり、Rがそれぞれ独立して炭素数1〜3個のアルキル基、水素原子を示し、nが3〜8を示す。]で表される環状オルガノシロキサンを含有することを特徴とする硬化性シリコーン組成物である(項1)。
【0014】
また、本発明は、一般式(1)で表されるポリオルガノシルセスキオキサンのゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算の重量平均分子量が3,000以上であることを特徴とする項1に記載の硬化性シリコーン組成物である(項2)。
【0015】
次に、本発明は、一般式(1)で表されるポリオルガノシルセスキオキサンに対して、一般式(2)で表される環状オルガノシロキサンを1〜99重量%含有することを特徴とする項1乃至2に記載の硬化性シリコーン組成物である(項3)。
【0016】
更に、本発明は、一般式(1)で表されるポリオルガノシルセスキオキサンに対して、一般式(2)で表される環状オルガノシロキサンを5〜95重量%含有することを特徴とする項1乃至2に記載の硬化性シリコーン組成物である(項4)。
【0017】
また、本発明は、一般式(1)で表されるポリオルガノシルセスキオキサンにおいて、Rの10モル%以上が置換又は非置換のフェニル基であることを特徴とする項1乃至4の何れかに記載の硬化性シリコーン組成物である(項5)。
【0018】
次に、本発明は、一般式(2)で表される環状オルガノシロキサンにおいて、Rの12.5モル%以上が置換又は非置換のフェニル基である項1乃至5の何れかに記載の硬化性シリコーン組成物である(項6)。
【0019】
更に、本発明は、一般式(1)で表されるポリオルガノシルセスキオキサンと一般式(2)で表される環状オルガノシロキサンのRとRの25モル%以上が水素原子であることを特徴とする項1乃至6の何れかに記載の硬化性シリコーン組成物である(項7)。
【0020】
また、本発明は、一般式(1)で表されるポリオルガノシルセスキオキサンと一般式(2)で表される環状オルガノシロキサンとを任意に配合することを特徴とする項1乃至7の何れかに記載の硬化性シリコーン組成物の製造方法である(項8)。
【0021】
更にまた、本発明は、オルガノトリアルコキシランを原料として用い、酸性又は塩基性触媒と当該シラン原料に対して0.01〜1.49倍モルの水の存在下で反応を行う第一の工程、更に0.01倍モル以上の水を加えて反応を行う第二の工程により、縮合することを特徴とする項1乃至7の何れかに記載の硬化性シリコーン組成物の製造方法である(項9)。
【0022】
次にまた、本発明は、無触媒下に熱処理を行って更に縮合反応を行うことを特徴とする項9に記載の硬化性シリコーン組成物の製造方法である(項10)。
【0023】
そして、本発明は、項1乃至7の何れかに記載の硬化性シリコーン組成物を含有することを特徴とするコーティング剤組成物である(項11)。
【0024】
本発明の特徴は、一般式(2)で表される環状オルガノシロキサンが、一般式(1)で表されるポリオルガノシルセスキオキサンに対して高架橋剤として作用し、得られる硬化皮膜に特に優れた強靱性、耐クラックを与え、均質な硬化皮膜が得られることを見出した点にある。
【発明の効果】
【0025】
本発明の硬化性シリコーン組成物は、有機溶媒との相溶性に優れ、均質な硬化被膜の形成が可能であり、得られた硬化被膜は、特に強靱性、耐クラック性、更には透明性、硬度、耐熱性、電気絶縁性、耐薬品性等に優れるなど、コーティング剤としての優れた性能を発揮する。本発明の硬化性シリコーン組成物を用いたコーティング剤は、スプレー法、ディップ法、スピーンコート法等の通常用いられる塗布方法で容易にコーティングすることができ、例えば、下記の様な種々の用途に好ましく用いられ、又は用いられることが期待される。
1)耐熱塗料(又は耐熱コート剤)
2)半導体の保護膜
3)層間絶縁膜
4)レジスト材料
5)接着剤
6)その他、光導波路、光ファイバー等の光通信部材等々
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の硬化性シリコーン組成物とその製造方法及び当該組成物を用いたコーティング剤について、更に詳細に、具体的に説明する。
本発明の硬化性シリコーン組成物は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算の重量平均分子量が500〜100,000であり、下記一般式(1)
【0027】
【化3】

[式中、Rはそれぞれ独立して置換又は非置換のフェニル基、直鎖状、分岐状又は環状の炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基であり、Rがそれぞれ独立して炭素数1〜3個のアルキル基、水素原子を示し、mは整数である。]で表されるポリオルガノシルセスキオキサンと一般式(2)
【0028】
【化4】

[式中、Rはそれぞれ独立して置換又は非置換のフェニル基、直鎖状、分岐状又は環状の炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基であり、Rがそれぞれ独立して炭素数1〜3個のアルキル基、水素原子を示し、nが3〜8を示す。]で表される環状オルガノシロキサンを含有することを特徴とする。
【0029】
なお、本発明の特徴は、一般式(2)で表される環状オルガノシロキサンが、一般式(1)で表されるポリオルガノシルセスキオキサンに対して高架橋剤として作用し、得られる硬化被膜に特に優れた強靱性、耐クラックを与え、均質な硬化被膜が得られることを見出した点にある。
【0030】
また、本発明は、一般式(1)で表されるポリオルガノシルセスキオキサンのゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算の重量平均分子量が3,000以上であることを特徴とする。重量平均分子量が3,000以下であれば、硬化被膜を形成する際、樹脂の収縮応力が高く、本発明の目的とする耐クラック性が低下する傾向を示す。また、逆に分子量があまりに高過ぎれば、有機溶媒との相溶性および均質な硬化被膜の形成に問題が生じる。従って、一般式(1)で表されるポリオルガノシルセスキオキサンの重量平均分子量は3,000以上、特に3,000〜100,000の範囲であることが好ましく、5,000〜50,000の範囲であることがより好ましい。
【0031】
更に、一般式(1)で表されるポリオルガノシルセスキオキサンに対して、一般式(2)で表される環状オルガノシロキサンを通常1〜99重量%含有する。しかし、特に好ましくは、一般式(1)で表されるポリオルガノシルセスキオキサンに対して、一般式(2)で表される環状オルガノシロキサンを5〜95重量%含有し、更に好ましくは、10〜90重量%含有することを特徴とする。
【0032】
また更に、一般式(1)で表されるポリオルガノシルセスキオキサンにおいて、Rはそれぞれ独立して置換又は非置換のフェニル基、直鎖状、分岐状又は環状の炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基を示すが、このうち10モル%以上、好ましくは25モル%以上が置換又は非置換のフェニル基であることが好ましい。置換又は非置換のフェニル基が10モル%未満では、本発明の目的とする有機溶媒との相溶性が低下する傾向を示す。また、Rの置換又は非置換のフェニル基以外の残りの基としては、直鎖状、分岐状又は環状の炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基であるが、具体例として、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、t−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、へキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ビニル基、アリル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ベンジル基、フェネチル基、ノルボルニル基、ノルボルネニル基、アダマンチル基等が例示される。また、これらの脂肪炭化水素基の一部の水素が、水酸基、エステル基、ハロゲン化アルキル等で置換されていても良いし、ヘテロ原子の酸素、硫黄、窒素を含んでも良い。
【0033】
また、一般式(2)で表される環状オルガノシロキサンの測鎖Rは、それぞれ独立して置換又は非置換のフェニル基、直鎖状、分岐状又は環状の炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基を示すが、このうち12.5モル%以上、好ましくは25%以上が置換又は非置換のフェニル基であることが好ましい。置換又は非置換のフェニル基が12.5モル%未満では、本発明の目的とする有機溶媒との相溶性が低下する傾向を示す。また、Rの置換又は非置換のフェニル基以外の残りの基としては、直鎖状、分岐状又は環状の炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基であるが、具体例として、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、t−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、へキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ビニル基、アリル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ベンジル基、フェネチル基、ノルボルニル基、ノルボルネニル基、アダマンチル基等が例示される。また、これらの脂肪炭化水素基の一部の水素が、水酸基、エステル基、ハロゲン化アルキル等で置換されていても良いし、ヘテロ原子の酸素、硫黄、窒素を含んでも良い。
【0034】
更に、一般式(1)で表されるポリオルガノシルセスキオキサンと一般式(2)で表される環状オルガノシロキサンのRとRの25%以上、好ましくは50%以上が水素原子であることが好ましい。25%以下であれば、得られる硬化被膜中にアルコキシ基が残存し、本発明の目的とする強靱性、硬度、耐熱性が低下する傾向を示す。
【0035】
本発明の硬化性シリコーン組成物は、個々に合成された一般式(1)で表されるポリオルガノシルセスキオキサンと一般式(2)で表される環状オルガノシロキサンとを任意に配合することで、容易に製造することができ、通常は、それぞれ公知の方法で合成されたものを使用することができる。
【0036】
更に、本発明の硬化性シリコーン組成物は、水不溶性有機溶媒と水の2層を形成する系、又は水と混和する溶媒と水の均一層系にオルガノトリクロロシランを滴下して、縮合させることによっても調製することが出来、任意の組成を有する本発明の硬化性シリコーン組成物を取り出すことができる。
【0037】
また、本発明の硬化性シリコーン組成物は、オルガノアルコキシシランに反応で必要な水と酸性又は塩基性触媒を加えて、無溶媒又は溶媒中で縮合させることによっても調製することが出来、任意の組成を有する本発明の硬化性シリコーン組成物を取り出すことができる。
【0038】
更にまた、本発明の硬化性シリコーン組成物は、公知の方法で合成されたゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算の重量平均分子量が3,000以下である一般式(1)で表されるポリオルガノシルセスキオキサン及び一般式(2)で表される環状オルガノシロキサンを含有するシリコーン組成物と重量平均分子量が3,000以上の一般式(1)で表されるポリオルガノシルセスキオキサンとを任意に配合することで、調製することもできる。
【0039】
また、本発明の硬化性シリコーン組成物は、オルガノトリアルコキシランを原料として用い、特定の条件で反応することにより、反応マスからワンポットで本発明の硬化性シリコーン組成物を容易に取り出すことができる。このワンポット製造方法は、酸性又は塩基性触媒とオルガノトリアルコキシシランに対して0.01〜1.49倍モルの水の存在下で反応を行う第一の工程、更に0.01倍モル以上の水を加えて反応を行う第二の工程により、いわゆる二段階縮合して硬化性シリコーン組成物を取り出すことを特徴とする。
【0040】
ここで、第一の工程の目的は、特に水と混和しない有機溶媒中又は無溶媒下での反応においては、反応が進行すると系内のアルコール濃度が上昇して系内の状態が分散状態から均一層に一気に変化し、その際の急激な反応の進行および系内温度の上昇が起こるのを抑えることにある。理論量以上の水が存在する場合は、急激な反応が生じ、環状オルガノシロキサンの生成率が低下するほか、作業安全性の面でも問題が生じる。従って、オルガノトリアルコキシランに対して0.01〜1.49倍モル、好ましくは0.1〜1.0倍モル、より好ましくは0.1〜0.5倍モルの水の存在下で第一の反応を行い、反応が部分的に進行した後、更に必要な水を加えて第二の工程の縮合を行うことが好ましいことを見出した。
【0041】
ここで、使用されるオルガノトリアルコキシシランの具体例としては、例えばメチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、i−プロピルトリメトキシシラン、t−ブチルトリメトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ネオペンチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、ノニルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ウンデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、シクロペンチルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、ベンジルトリメトキシシラン、フェネチルトリメトキシシラン、ノルボルニルトリメトキシシラン、ノルボルネニルトリメトキシシラン、アダマンチルトリメトキシシランおよびこれらのエトキシシラン等が例示される。
【0042】
反応に使用される溶媒の具体例としては、芳香族炭化水素類[例えばベンゼン、トルエン、キシレン等]、ハロゲン化炭化水素類[例えば塩化メチレン、クロロホルム等]、エーテル類[例えばテトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、1,4−ジオキサン等]、ケトン類[例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等]、エステル類[例えば酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル等]、アルコール類[例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等]、脂肪族炭化水素類[例えばヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等]、含窒素類[例えばN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド等]、水等が例示され、これら溶媒は単独で又は二種以上混合して使用することができる。
【0043】
また、縮合反応を促進させるための触媒の具体例としては、酸性触媒では、例えば塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、アルキル硫酸、アルキルベンゼンスルホン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸等が例示され、塩基性触媒では、アルカリ金属水酸化物類[例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム等]、アミン類[例えばトリエチルアミン、ジエチルアミン、n−ブチルアミン、p−ジメチルアミノエタノール、トリエタノールアミン等]、4級アンモニウム塩類[例えばアンモニア、テトラメチルアンモニウムハイドロキサイド、テトラメチルアンモニウムフルオライド、テトラn−ブチルアンモニウムフルオライド、ベンジルトリメチルアンモニウムフルオライド等]、フッ化物類[例えばフッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム、フッ化カルシウム等]が例示さる。
【0044】
触媒の使用量については、特に限定されるものではないが、オルガノアルコキシシランに対して、0.0001〜20重量%の範囲で使用することが好ましく、反応温度は−5〜200℃の範囲で行うのが好ましい。なお、経済性の点で反応時間が1〜50時間の範囲となりうる、触媒量及び反応温度が好適に選択される。
【0045】
また、上述の方法により得られた硬化性シリコーン組成物の分子量を高める手段として、無触媒下に熱処理を行って更に縮合反応を行うことを特徴とする。酸又は塩基性触媒の存在下で反応を行った場合、環状オルガノシロキサンが反応し、ポリオルガノシルセスキオキサンに組み込まれて消失するほか、分子量の制御が困難であり、部分的に高分子量化が起こりやすく、本発明の目的とする有機溶媒との相溶性および均質な硬化被膜の形成に問題が生じる。熱処理の温度は、末端基が反応する温度であれば特に限定されるものではないが、50〜250℃の範囲で行うのが好ましい。なお、経済性の点で反応時間が1〜50時間の範囲となりうる、反応温度が好適に選択される。
【0046】
以上の本発明の硬化性シリコーン組成物は、有機溶媒との相溶性に優れ、均質な硬化被膜の形成が可能であり、得られた硬化被膜は、特に強靱性、耐クラック性、更には透明性、硬度、耐熱性、電気絶縁性、耐薬品性等に優れる等、コーティング剤としての優れた性能を発揮する。その結果、1)耐熱塗料(又は耐熱コート剤)、2)半導体の保護膜、3)層間絶縁膜、4)レジスト材料、5)接着剤、6)その他、光導波路、光ファイバー等の光通信部材等々に適用されることが期待される。
【0047】
また、本発明の硬化性シリコーン組成物を用いたコーティング剤は、スプレー法、ディップ法又はスピーンコート法等の通常用いられる塗布方法で容易にコーティングすることができ、そのバランスの取れたコーティング剤としての実際の使用に際しては、用途に応じて充填剤、硬化促進剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、体質顔料、補強材、シランカップリング剤等の種々の添加剤が用いられることは自明であり、また、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の熱可塑性樹脂やエポキシ樹脂、アクリル樹脂等の熱硬化又は光硬化性樹脂と併用することができる。
【実施例】
【0048】
以下、合成例、比較合成例、実施例および比較例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0049】
合成例1
温度計、撹拌装置、還流冷却管、排出用コックを取り付けた1Lのジャケット付きフラスコに水300.0gとトルエン150.0gを仕込み、系内温度を25℃に調整した。次いで、フェニルトリクロロシラン150.0g(0.71mol)とトルエン150.0gの混合液を2時間かけて滴下し、同温度で0.1時間保温した。その後、分液して水層を除去し、反応マスが中性になるまで水で分液洗浄し、得られたトルエン層からトルエンを減圧回収して、白色粉末のポリフェニルシルセスキオキサン93.0gを得た。
【0050】
得られたポリフェニルシルセスキオキサンの分子量をゲルパーエミーションクロマトグラフィーにより求めたところ、ポリスチレン換算で重量平均分子量が3,800であった。また、環状フェニルシロキサン類の含有率は1重量%未満であった。
【0051】
合成例2
温度計、撹拌装置、還流冷却管、排出用コックを取り付けた1Lのジャケット付きフラスコにフェニルトリエトキシシラン300.0g(1.25mol)を仕込み、系内温度を25℃に調整した。次いで、塩酸0.23g(0.006mol)と水67.5g(3.75mol)からなる塩酸水を滴下し、25℃で8時間保温した。途中、反応マスは分散状態から均一層に変化し、48℃まで急激な発熱が見られた。その後、トルエンを300g加えて溶解し、反応マスが中性になるまで水で分液洗浄し、得られたトルエン層を5℃以下で48時間静置した。その後、析出した白色結晶をろ別して、更にトルエンで懸濁精製を行い、乾燥して白色結晶13.2gを得た。
【0052】
得られた白色結晶の分子量をゲルパーエミーションクロマトグラフィーにより求めたところ、ポリスチレン換算で重量平均分子量が550であり、GPCスペクトル(図1)、IRスペクトル(図2)及び、H−NMRスペクトル(図3)等の解析によって、当該白色結晶は、環状4量体である1,3,5,7−テトラフェニルシクロテトラシロキサン−1,3,5,7−テトラオールであることが確認された。
【0053】
合成例3
温度計、撹拌装置、還流冷却管、排出用コックを取り付けた1Lのジャケット付きフラスコにフェニルトリエトキシシラン300.0g(1.25mol)を仕込み、系内温度を25℃に調整した。次いで、塩酸0.23g(0.006mol)と水67.5g(3.74mol)からなる塩酸水を滴下し、25℃で8時間保温した。途中、反応マスは分散状態から均一層に変化し、48℃まで急激な発熱が見られた。その後、トルエンを300g加えて溶解し、反応マスが中性になるまで水で分液洗浄し、得られたトルエン層からトルエンを減圧回収して、白色粉末のシリコーン組成物152.5gを得た。
【0054】
得られたシリコーン組成物の分子量をゲルパーエミーションクロマトグラフィーにより求めたところ、ポリスチレン換算で重量平均分子量が920であった。また、環状フェニルシロキサン類?の含有率は23.0重量%であった。
【0055】
比較合成例1
温度計、撹拌装置、還流冷却管、排出用コックを取り付けた1Lのジャケット付きフラスコにメチルトリメトキシシラン481.4g(2.7mol)、フェニルトリエトキシシラン59.5g(0.3mol)、塩酸0.015g(0.0004mol)と水108.1g(6.00mol)を仕込み、50℃で0.5時間反応した。更に、これを70℃まで昇温し、2時間反応した後、水およびアルコールを減圧回収した。その後、反応マスをメチルイソブチルケトン(MIBK)1,500g加えて溶解し、トリエチルアミン0.83g(0.0082mol)を加え、更に、これを80℃まで昇温し、3時間反応した後、冷却して反応マスが中性になるまで水で分液洗浄し、得られたMIBK層からMIBKを減圧回収して、白色粉末のポリメチルフェニルシルセスキオキサン247.2gを得た。
【0056】
得られたポリメチルフェニルシルセスキオキサンの分子量をゲルパーエミーションクロマトグラフィーにより求めたところ、ポリスチレン換算で重量平均分子量が500,000以上であった。また、環状オルガノシロキサン類の含有率は1重量%未満であった。
【0057】
実施例1〜4
合成例1で得られたポリフェニルシルセスキオキサン又は合成例3で得られたシリコーン組成物と合成例2で得られた環状フェニルシロキサンを表1に示す割合で混合し、硬化性シリコーン組成物を得た。なお、表1中の数値は重量%を表す。
【0058】
【表1】

【0059】
実施例5
温度計、撹拌装置、還流冷却管、排出用コックを取り付けた1Lのジャケット付きフラスコにフェニルトリエトキシシラン300.0g(1.25mol)を仕込み、系内温度を25℃に調整した。次いで、塩酸0.22g(0.006mol)と水67.46g(3.74mol)からなる塩酸水を調整し、2段階に分割滴下した。ここで、先ず全体の20%を滴下して25℃で保温し、反応マスが分散状態から均一層に変化した後(29℃まで発熱)、残りの80%を滴下し、更に同温度で8時間反応した。その後、トルエンを300g加えて溶解し、反応マスが中性になるまで水で分液洗浄し、得られたトルエン層からトルエンを減圧回収した。更に、これを200℃まで昇温し、1.5時間反応した後、冷却して粉砕し、白色粉末のシリコーン組成物153.5gを得た。
【0060】
得られたシリコーン組成物の分子量をゲルパーエミーションクロマトグラフィーにより求めたところ、ポリスチレン換算で重量平均分子量が4,400であった。また、環状フェニルシロキサン類の含有率は15.2重量%であった。また、H−NMRの積分強度から、シラノール基とエトキシ基のモル比率を求めたところ、58:42であった。
【0061】
実施例6
温度計、撹拌装置、還流冷却管、排出用コックを取り付けた1Lのジャケット付きフラスコにメチルトリエトキシシラン160.5g(0.900mol)とフェニルトリエトキシシラン72.1g(0.300mol)を仕込み、系内温度を5℃に調整した。次いで、塩酸0.22g(0.006mol)と水64.9g(3.60mol)からなる塩酸水を調整し、2段階に分割滴下した。ここで、先ず全体の20%を滴下して5℃で保温し、反応マスが分散状態から均一層に変化した後(8℃まで発熱)、残りの80%を滴下し、更に同温度で8時間反応した。その後、メチルイソブチルケトン(MIBK)300g加えて溶解し、反応マスが中性になるまで水で分液洗浄し、得られたMIBK層からMIBKを減圧回収し、更に、これを200℃まで昇温し、1.5時間反応した後、冷却して粉砕し、白色粉末のシリコーン組成物97.1gを得た。
【0062】
得られたシリコーン組成物の分子量をゲルパーエミーションクロマトグラフィーにより求めたところ、ポリスチレン換算で重量平均分子量が15、600であった。また、環状フェニルシロキサン類の含有率は11.8重量%であった。また、H−NMRの積分強度から、シラノール基とエトキシ基のモル比率を求めたところ、72:38であった。
【0063】
実施例7(有機溶媒との相溶性と製膜性の評価)及び比較例
実施例1〜6で得られた硬化性シリコーン組成物を用いて、下記の方法にて有機溶媒との相溶性、製膜性を評価した。また、比較例として、比較合成例1で得られたポリメチルフェニルシルセスキオキサン、合成例1で得られたポリフェニルシルセスキオキサンおよび合成例2で得られた環状4量体である1,3,5,7−テトラフェニルシクロテトラシロキサン−1,3,5,7−テトラオールを用いて評価した結果を併記する。
【0064】
有機溶媒との相溶性製膜性
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、酢酸ブチル、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン(Anon)、ブタノールにおいて、30重量%における相溶性を評価した。なお、評価において、完全溶解したものを「○」、ヘイズおよび微量の不溶物が認められたものを「△」、明らかに不溶物が認められたものを「×」と示した。
【0065】
製膜性
15重量%のプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)溶液を作製し、シリコンウエハー上にスピーンコートし、400℃で焼成して製膜し、塗布性とクラック限界を評価した。なお、塗布性の評価において、作業的に問題が無く、均質な硬化被膜が得られたものを「○」、硬化被膜が得られるが、ムラが確認できるものを「△」、硬化被膜が得られないものを「×」と示した。
【0066】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0067】
以上の本発明の硬化性シリコーン組成物は、有機溶媒との相溶性に優れ、均質な硬化被膜の形成が可能であり、得られた硬化被膜は、特に強靱性、耐クラック性、更には透明性、硬度、耐熱性、電気絶縁性、耐薬品性等に優れる等、コーティング剤としての優れた性能を発揮し、産業上の利用可能性が高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】合成例2の環状フェニルシロキサンのGPCスペクトルである。
【図2】合成例2の環状フェニルシロキサンのIRスペクトルである。
【図3】合成例2の環状フェニルシロキサンのH−NMRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算の重量平均分子量が500〜100,000であり、下記一般式(1)
【化1】

[式中、Rはそれぞれ独立して置換又は非置換のフェニル基、直鎖状、分岐状又は環状の炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基であり、Rがそれぞれ独立して炭素数1〜3個のアルキル基、水素原子を示し、mは整数である。]で表されるポリオルガノシルセスキオキサンと一般式(2)
【化2】

[式中、Rはそれぞれ独立して置換又は非置換のフェニル基、直鎖状、分岐状又は環状の炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基であり、Rがそれぞれ独立して炭素数1〜3個のアルキル基、水素原子を示し、nが3〜8を示す。]で表される環状オルガノシロキサンを含有することを特徴とする硬化性シリコーン組成物。
【請求項2】
一般式(1)で表されるポリオルガノシルセスキオキサンのゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算の重量平均分子量が3,000以上であることを特徴とする請求項1に記載の硬化性シリコーン組成物。
【請求項3】
一般式(1)で表されるポリオルガノシルセスキオキサンに対して、一般式(2)で表される環状オルガノシロキサンを1〜99重量%含有することを特徴とする請求項1乃至2に記載の硬化性シリコーン組成物。
【請求項4】
一般式(1)で表されるポリオルガノシルセスキオキサンに対して、一般式(2)で表される環状オルガノシロキサンを5〜95重量%含有することを特徴とする請求項1乃至2に記載の硬化性シリコーン組成物。
【請求項5】
一般式(1)で表されるポリオルガノシルセスキオキサンにおいて、Rの10モル%以上が置換又は非置換のフェニル基であることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の硬化性シリコーン組成物。
【請求項6】
一般式(2)で表される環状オルガノシロキサンにおいて、Rの12.5モル%以上が置換又は非置換のフェニル基である請求項1乃至5の何れかに記載の硬化性シリコーン組成物。
【請求項7】
一般式(1)で表されるポリオルガノシルセスキオキサンと一般式(2)で表される環状オルガノシロキサンのRとRの25モル%以上が水素原子であることを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の硬化性シリコーン組成物。
【請求項8】
一般式(1)で表されるポリオルガノシルセスキオキサンと一般式(2)で表される環状オルガノシロキサンとを任意に配合することを特徴とする請求項1乃至7の何れかに記載の硬化性シリコーン組成物の製造方法。
【請求項9】
オルガノトリアルコキシランを原料として用い、酸性又は塩基性触媒と当該シラン原料に対して0.01〜1.49倍モルの水の存在下で反応を行う第一の工程、更に0.01倍モル以上の水を加えて反応を行う第二の工程により、縮合することを特徴とする請求項1乃至7の何れかに記載の硬化性シリコーン組成物の製造方法。
【請求項10】
無触媒下に熱処理を行って更に縮合反応を行うことを特徴とする請求項9に記載の硬化性シリコーン組成物の製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至7の何れかに記載の硬化性シリコーン組成物を含有することを特徴とするコーティング剤。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−238848(P2007−238848A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−65581(P2006−65581)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【出願人】(391010895)小西化学工業株式会社 (19)
【Fターム(参考)】