説明

硬化性フルオロエラストマー組成物

【課題】接着剤で前処理した金属表面に対する接着能を保ったまま、より低い摩擦係数を有し、かつ、酸性条件下での安定性を改良した硬化性フルオロエラストマー組成物を提供する。
【解決手段】硬化性フルオロエラストマー組成物は、特定の含酸素(場合によっては及び含硫黄)繰り返し単位を有する含フッ素化合物、および、フルオロエラストマーを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密着性、耐薬品性および摩擦特性が良好で、かつこれらの特性を長期間維持することが可能な硬化性フルオロエラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
硬化性フルオロエラストマーは、熱、気候、油、溶剤および化学薬品等に対して優れた耐性を示すため、自動車、航空機、半導体製品をはじめ様々な分野において用いられている。このような硬化性フルオロエラストマーは商業的に入手可能であり、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/ペルフルオロアルキルビニルエーテル、テトラフルオロエチレン/プロピレン、エチレン/テトラフルオロエチレン/ペルフルオロアルキルビニルエーテル等のコポリマーがよく知られている。
【0003】
これらの硬化性フルオロエラストマーが摺動部に用いられる場合、摩擦により負荷が大きくなったり、摩耗により寿命が低下したりする問題がある。このような問題に対し、硬化性フルオロエラストマーに−C(X)FCH2OH(X=F,CF3)で示される基を末端に1つまたは2つ有する含フッ素ポリエーテル系化合物を添加することにより、接着性を維持したまま摩擦係数を低減した例が知られている(特許文献1参照)。しかし、十分な摩擦係数低減効果を発現するためには、上記含フッ素ポリエーテル系化合物の分子量が一定以上の大きさであることが必要であり、そのような高分子量の含フッ素ポリエーテル系化合物は商業的に入手し難いという問題があった。
【0004】
この問題を解決するために、HOCH2−Rf−CH2OH(Rf=酸素原子含有ペルフルオロアルキレン)なる含フッ素ジオールとホルムアルデヒドとを反応させて、分子量を所望の大きさに調整した含フッ素アルコールを添加剤に用いた例が知られている(特許文献2参照)。しかしながら、この添加剤はアセタール構造を有するために、酸性条件下での安定性に問題があった。
【0005】
【特許文献1】欧州特許805,180号明細書
【特許文献2】特開2000−212361号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、摩擦特性が良好で、安定性に優れた硬化性フルオロエラストマー組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記目的を達成すべく鋭意検討した結果、以下の方法により本発明を完成するに至った。すなわち、本出願によれば、以下の発明が提供される。
(1)下記一般式(I)で表される繰り返し単位を有する含フッ素化合物、およびフルオロエラストマーを含有する硬化性フルオロエラストマー組成物。
【0008】
【化3】

【0009】
式中、Rfはペルフルオロアルキレン基を示し、RfおよびRfはそれぞれ独立にフッ素原子、ペルフルオロアルキル基、またはペルフルオロアルコキシ基を示し、Rf、Rf、Rfはそれぞれ結合して環を形成してもよく、Xは酸素原子または硫黄原子を示し、Lは2価の有機基を示す。
(2)一般式(I)において、Lが下記一般式(II)で表される2価の有機基であり、かつXが酸素原子であることを特徴とする前記(1)に記載の硬化性フルオロエラストマー組成物。
【0010】
【化4】

【0011】
式中、Rf4はペルフルオロアルキレン基を示す。
(3)一般式(I)で表される繰り返し単位を有する含フッ素化合物の数平均分子量が、4,000〜100,000であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の硬化性フルオロエラストマー組成物。
(4)フルオロエラストマーが、i)フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン、
ii)フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン、
iii)フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン、
iv)フッ化ビニリデン/ペルフルオロアルキルビニルエーテル、
v)フッ化ビニリデン/ペルフルオロアルキルビニルエーテル/テトラフルオロエチレン、vi)フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/プロピレン、
vii)テトラフルオロエチレン/プロピレン、
viii)エチレン/テトラフルオロエチレン/ペルフルオロアルキルビニルエーテル、
ix)テトラフルオロエチレン/ペルフルオロアルキルビニルエーテル
よりなる群から選択される共重合単位を含むことを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の硬化性フルオロエラストマー組成物。
【0012】
(5)硬化剤をさらに含有し、前記硬化剤が、有機過酸化物、ポリヒドロキシ化合物、ポリアミノ化合物および有機錫化合物よりなる群から選択されることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の硬化性フルオロエラストマー組成物。
(6)4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩、3級スルホニウム塩、およびホスホランアミン誘導体から選択される硬化促進剤、並びに、金属酸化物および金属水酸化物の群から選択される酸受容体をさらに含むことを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載の硬化性フルオロエラストマー組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、密着性、耐薬品性および摩擦特性が良好で、かつこれらの特性を長期間維持することが可能で、安定性に優れた硬化性エラストマー組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の硬化性フルオロエラストマー組成物について詳細に説明する。
<一般式(I)で表される繰り返し単位を有する含フッ素化合物>
一般式(I)において、Rfはペルフルオロアルキレン基を示し、RfおよびRfはそれぞれ独立にフッ素原子、ペルフルオロアルキル基、またはペルフルオロアルコキシ基を示し、Rf,Rf,Rfはそれぞれ結合して環を形成してもよい。
Rfで表されるペルフルオロアルキレン基は、好ましくは炭素数1〜30のペルフルオロアルキレン基であり、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、また、ペルフルオロアルキレン基中にエーテル性酸素原子を有していてもよい。さらに好ましい炭素数としては1〜20であり、より好ましくは2〜10である。
RfおよびRfで示されるペルフルオロアルキル基は、好ましくは炭素数1〜30のペルフルオロアルキル基であり、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、また、ペルフルオロアルキル基中にエーテル性酸素原子を有していてもよい。さらに好ましい炭素数としては1〜20であり、より好ましくは1〜10である。
RfおよびRfで示されるペルフルオロアルコキシ基は、好ましくは炭素数1〜30のペルフルオロアルコキシ基であり、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、また、ペルフルオロアルコキシ基中にエーテル性酸素原子を有していてもよい。さらに好ましい炭素数としては1〜20であり、より好ましくは1〜10である。
【0015】
一般式(I)において、好ましくはRfおよびRfがともにフッ素原子またはペルフルオロアルコキシ基であり、RfおよびRfがともにペルフルオロアルコキシ基の場合、下記一般式(I’)で表されるものであってもよい。
【0016】
【化5】

【0017】
式中、Rf123は4価のペルフルオロ連結基を示す。Rf123で示される4価のペルフルオロ連結基は、好ましくは炭素数1〜30のペルフルオロアルキレン基であり、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、また、ペルフルオロ連結基中にエーテル性酸素原子を有していてもよい。さらに好ましい炭素数としては4〜20であり、より好ましくは5〜10である。
【0018】
Xは酸素原子または硫黄原子を示し、好ましくは酸素原子を示す。Lは2価の有機基を示し、好ましくはアルキレン基、アリーレン基またはアラルキレン基を示す。
Lで示されるアルキレン基は、好ましくは炭素数1〜30の置換または無置換のアルキレン基であり、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。好ましい炭素数としては1〜20であり、より好ましくは1〜10である。
【0019】
Lで示されるアルキレン基の置換基としては、例えば以下の置換基が挙げられる。ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、炭素数20以下のアルキル基(例えば、メチル、エチル)、炭素数30以下のアリール基(例えば、フェニル、ナフチル)、シアノ基、カルボキシル基、炭素数20以下のアルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル)、炭素数30以下のアリールオキシカルボニル基(例えば、フェノキシカルボニル)、カルバモイル基(例えば、カルバモイル、N−フェニルカルバモイル、N,N−ジメチルカルバモイル)、炭素数20以下のアルキルカルボニル基(例えば、アセチル)、炭素数30以下のアリールカルボニル基(例えば、ベンゾイル)、ニトロ基、アミノ基(例えば、アミノ、ジメチルアミノ、アニリノ)、炭素数20以下のアシルアミノ基(例えば、アセトアミド、エトキシカルボニルアミノ)、スルホンアミド基(例えば、メタンスルホンアミド)、イミド基(例えば、スクシンイミド、フタルイミド)、イミノ基(例えば、ベンジリデンアミノ)、
【0020】
ヒドロキシ基、炭素数20以下のアルコキシ基(例えば、メトキシ)、炭素数30以下のアリールオキシ基(例えば、フェノキシ)、炭素数20以下のアシルオキシ基(例えば、アセトキシ)、炭素数20以下のアルキルスルホニルオキシ基(例えばメタンスルホニルオキシ)、炭素数30以下のアリールスルホニルオキシ基(例えばベンゼンスルホニルオキシ)、スルホ基、スルファモイル基(例えばスルファモイル、N−フェニルスルファモイル)、炭素数20以下のアルキルチオ基(例えばメチルチオ)、炭素数30以下のアリールチオ基(例えばフェニルチオ)、炭素数20以下のアルキルスルホニル基(例えばメタンスルホニル)、炭素数30以下のアリールスルホニル基(例えばベンゼンスルホニル)、ヘテロ環基等。これらの置換基は更に置換されていても良く、置換基が複数ある場合は、同じでも異なっても良い。また置換基同士で結合して環を形成しても良い。
【0021】
Lで示されるアリーレン基は、好ましくは炭素数6〜30の置換または無置換のアリーレン基である。さらに好ましい炭素数としては6〜20であり、より好ましくは6〜10である。
【0022】
Lで示されるアラルキレン基は、好ましくは炭素数7〜30の置換または無置換のアラルキレン基であり、好ましい炭素数としては7〜20であり、より好ましくは7〜10である。
【0023】
Lで示されるアルキレン基、アリーレン基またはアラルキレン基は、エーテル結合、チオエーテル結合またはスルホニル基等の2価の連結基を含んでいてもよい。Lで示されるアリーレン基およびアラルキレン基の置換基としては、Lで示されるアルキレン基の置換基の例と同様のものが挙げられる。
Lで示される2価の有機基は、好ましくは一般式(II)で示されるものである。式中、Rf4はペルフルオロアルキレン基を示し、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、また、ペルフルオロアルキレン基中にエーテル性酸素原子を有していてもよい。好ましい炭素数は1〜30であり、さらに好ましい炭素数としては1〜20であり、より好ましくは2〜10である。
以下にLで示される2価の有機基の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
【化6】

【0025】
【化7】

【0026】
【化8】

【0027】
【化9】

【0028】
【化10】

【0029】
【化11】

【0030】
上記(L-51)及び(L-52)において、yおよびzは、それぞれ1〜200の整数を示し、好ましくは3〜100の整数を示す。
以下に一般式(I)で表される繰り返し単位を有する含フッ素化合物の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。式中、Lは前述のLの具体例のいずれと組み合わせてもよく、また、それ以外でも構わない。
【0031】
【化12】

【0032】
【化13】

【0033】
【化14】

【0034】
【化15】

【0035】
【化16】

【0036】
一般式(I)で表される繰り返し単位を有する含フッ素化合物は、下記一般式(III)示されるペルフルオロジエンとHX−L−XHで示されるジオールまたはジチオールとの付加反応により容易に得ることができる。
【0037】
【化17】

【0038】
式中、Rf、Rf、Rf、LおよびXはそれぞれ一般式(I)で説明したものと同義である。
付加重合反応は無触媒で行ってもよいが、反応促進に有効な触媒を用いるのが好ましい。反応促進に有効な触媒としては塩基触媒および金属触媒が挙げられる。
【0039】
好ましい塩基触媒としては、水酸化アルカリ金属(例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム)、水酸化アルカリ土類金属(例えば、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム)、炭酸アルカリ金属(例えば炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム)、炭酸アルカリ土類金属(例えば、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム)、炭酸水素アルカリ金属(例えば炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウム)、炭酸水素アルカリ土類金属(例えば、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸水素バリウム)等の無機塩基およびピリジン、ピコリン、ルチジン、コリジン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン等の有機塩基が挙げられる。より好ましい塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン等を挙げることができる。
用いる塩基の当量数としては、反応させる−XHに対して0.1当量〜10当量が好ましく、より好ましくは0.5当量〜5当量である。
【0040】
好ましい金属触媒としては、例えばAngew.Chem.Int.Ed.2005,44,1128や特開2006−199625号公報に記載されているような第10族遷移金属触媒/配位子を挙げることができる。用いる遷移金属の当量数としては、反応させる−XHに対して0.005当量〜1当量が好ましく、より好ましくは0.01当量〜0.1当量である。
【0041】
付加反応は溶媒中で行ってよいし、無溶媒で行ってもよい。好ましい溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジグライム、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド等の一般的な有機溶媒、
【0042】
AK−225(登録商標、旭ガラス社製)、2,2,2−トリフルオロエチルメチルエーテル、2,2,2−トリフルオロエチルジフルオロメチルエーテル、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル−1,1,2,2−テトラフルオロエチルエーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチルメチルエーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチルエチルエーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,3,3−テトラフルオロプロピルエーテル、ヘキサフルオロイソプロピルメチルエーテル、1,1,3,3,3−ペンタフルオロ−2−トリフルオロメチルプロピルメチルエーテル、1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロピルメチルエーテル、1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロピルエチルエーテル、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチルジフルオロメチルエーテル、フルオロベンゼン、1,2−ジフルオロベンゼン、1,3−ジフルオロベンゼン、1,4−ジフルオロベンゼン、2,4−ジフルオロトルエン、2,6−ジフルオロトルエン、3,4−ジフルオロトルエン、1,2,3−トリフルオロベンゼン、1,2,4−トリフルオロベンゼン、1,3,5−トリフルオロベンゼン、2,3,4−トリフルオロトルエン、1,2,3,4−テトラフルオロベンゼン、1,2,3,5−テトラフルオロベンゼン、1,2,4,5−テトラフルオロベンゼン、ペンタフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、α,α,α−トリフルオロメチルベンゼン、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,4−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン等の含フッ素溶媒、
【0043】
ペルフルオロアルカン化合物[FC−72(商品名、住友スリーエム社製)等]、ペルフルオロエーテル化合物[FC−75、FC−77(共に商品名、住友スリーエム社製)等]、ペルフルオロポリエーテル化合物[商品名:クライトックス(Krytox(登録商標)、DuPont社製)、フォブリン(Fomblin(登録商標)、AUSIMONT社製)、ガルデン(Galden(登録商標)、AUSIMONT社製)、デムナム{ダイキン工業社製}等]、クロロフルオロカーボン化合物(CFC−11,CFC−113等)、クロロフルオロポリエーテル化合物、ペルフルオロトリアルキルアミン化合物、不活性流体(商品名:フロリナート、Fluorinert(登録商標)、住友スリーエム社製)等のペルフルオロ溶媒、水およびこれらの混合溶媒を挙げることができる。
溶媒量はモノマーに対して質量比で0.1倍〜100倍用いるのが好ましく、より好ましくは1倍〜50倍、さらに好ましくは2倍〜20倍である。
【0044】
付加反応は2相系で行ってもよく、その場合、2相間を繰り返し行き来することのできる相間移動触媒を用いることが好ましい。水および有機系溶媒との2相系に用いることのできる相間移動触媒としては、例えばベンジルトリブチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミド等の4級アンモニウム塩やテトラブチルホスホニウムブロミド、ヘキサデシルトリブチルホスホニウムブロミド等の4級ホスホニウム塩を挙げることができる。
【0045】
一般式(III)で示されるパーフルオロジエンとHX−L−XHで示される化合物とのモノマー比は、目的により種々調整することができるが、できるだけ高分子量のポリマーを得るためには、当量比をできる限り1に近づけるのが好ましい。本発明においては、[一般式(III)で示されるパーフルオロジエンのモル数/HX−L−XHのモル数]の値は0.5〜2.0であることが好ましく、0.8〜1.2であることがより好ましい。できるだけポリマーの分子量を大きくする場合には、0.99〜1.01であることが好ましい。また、両末端に−XH基を残したポリマーを得るためには一般式(III)で示されるパーフルオロジエンに対し、HX−L−XHで示される化合物を小過剰量用いるのが好ましい。この場合、具体的には、[一般式(III)で示されるパーフルオロジエンのモル数/HX−L−XHのモル数]の値が、1.001〜1.200が好ましく、1.01〜1.100がさらに好ましい。
【0046】
反応温度は−20℃〜150℃が好ましく、より好ましくは0℃〜100℃であり、さらに好ましくは20℃〜80℃である。
反応時間は用いる触媒、基質、溶媒の種類や量、反応温度、攪拌効率等に依存するが、これらを制御して、10分〜96時間で行うのが好ましく、より好ましくは30分〜48時間、さらに好ましくは1時間〜24時間である。
【0047】
上記のようにして得られる一般式(I)で表される繰り返し単位を有する含フッ素化合物の数平均分子量は、4,000〜100,000であることが好ましく、5,000〜80,000であることがより好ましく、6,000〜50,000であることがより好ましい。数平均分子量が4,000未満では十分な摩擦特性が得られず、また、分子量が100,000を超えるとフルオロエラストマーとの相溶性が悪化する傾向にある。
また、一般式(I)で表される繰り返し単位を有する含フッ素化合物は、後述のフルオロエラストマー100重量部当たり好ましくは0.5〜30重量部使用し、より好ましくは1〜20重量部使用する。
【0048】
<フルオロエラストマー>
本発明に係る硬化性フルオロエラストマー組成物に含まれるフルオロエラストマーとしては、公知の化合物を用いることができる。
フルオロエラストマーの好ましい例の1つは、フッ化ビニリデンをベースとした共重合体である。フッ化ビニリデンと組み合わせることのできるモノマーの例としては、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニルエーテル及び、ペルフルオロ(メチルビニルエーテル)やペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)等のペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)、1−ヒドロペンタフルオロプロピレン、2−ヒドロペンタフルオロプロピレン、メチルビニルエーテル、エチレン、プロピレン等を挙げることができる。より好ましいフッ化ビニリデン共重合体の例としては、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン/ペルフルオロアルキルビニルエーテル、フッ化ビニリデン/ペルフルオロアルキルビニルエーテル/テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/プロピレン等を挙げることができる。これらの化合物は本発明のフッ素化合物との相溶性に優れるため好ましい。
【0049】
本発明で用いられるフルオロエラストマーの好ましいもう1つの例はテトラフルオロエチレンをベースとした共重合体である。テトラフルオロエチレンと組み合わせることのできるモノマーの例としては、ペルフルオロ(メチルビニルエーテル)やペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)等のペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)、フッ化ビニルエーテル、メチルビニルエーテル、エチレン、プロピレン等を挙げることができる。より好ましいテトラフルオロエチレン共重合体の例としては、テトラフルオロエチレン/プロピレン、テトラフルオロエチレン/エチレン/ペルフルオロアルキルビニルエーテル、テトラフルオロエチレン/ペルフルオロアルキルビニルエーテル等を挙げることができる。これらの化合物は本発明のフッ素化合物との相溶性に優れるため好ましい。
【0050】
なお、これらのフルオロエラストマーは硬化剤と反応して架橋を促進するための硬化部位を有することが好ましいが、これらの導入方法については後述する。
【0051】
<硬化剤>
本発明に係る硬化性フルオロエラストマー組成物は、硬化剤を含有することが好ましい。
硬化剤は公知のものを用いることができる。好ましい例としては、有機過酸化物(および多官能性架橋助剤)、ポリヒドロキシ化合物、ポリアミノ化合物、有機錫化合物等を挙げることができる。
硬化剤として用いられる有機過酸化物は、硬化温度でフリーラジカルを発生させるものであり、具体例としては、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサ−1−イン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、ジクミルペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、過安息香酸−t−ブチル、ジ[1,3−ジメチル−3−(t−ブチルペルオキシ)ブチル]カーボネート等を挙げることができる。これらの有機過酸化物を硬化剤として用いる場合、フルオロエラストマー100重量部当たり好ましくは0.1〜10重量部使用し、より好ましくは1〜3重量部使用する。
【0052】
有機過酸化物と組み合わせて用いる多官能性架橋助剤は、有機過酸化物から発生したラジカルと反応して架橋を引き起こすことが可能なポリ不飽和化合物であり、具体例としては、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリ(メタクリル)イソシアネート、トリアリルホスファイト、N,N-ジアリルアクリルアミド、ヘキサアリルホスホルアミド、N,N,N’,N’−テトラアリルフタルアミド、N,N,N’,N’−テトラアリルマロンアミド、トリビニルイソシアヌレートおよび(5−ノルボルネン−2−メチレン)シアヌレート等を挙げることができる。これらの多官能性架橋助剤を用いる場合、好ましくは0.1〜10重量部使用し、より好ましくは2〜5重量部使用する。
【0053】
硬化剤として用いられるポリヒドロキシ化合物の具体例としては、ハイドロキノン、レゾルシン、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、1,8−ジヒドロキシナフタレン、2,2’−ビス(p-ヒドロキシフェニル)−ヘキサフルオロプロパン、2,2’−ビス(p-ヒドロキシフェニル)−プロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ヒドロキシ末端を有する(ペル)フルオロポリエーテルおよび米国特許3,876,654号に記載の化合物およびこれらの化合物の塩等を挙げることができる。これらのポリヒドロキシ化合物を硬化剤として用いる場合、フルオロエラストマー100重量部当たり好ましくは0.1〜20重量部使用し、より好ましくは1〜3重量部使用する。
【0054】
硬化剤として用いられるポリアミノ化合物および有機錫化合物の具体例としては、1,6−ヘキサメチレンジアミン、3,3’−ジアミノベンジリデン、ジアミノビスフェノールAF、尿素、米国特許6,211,319B1号に記載の化合物、米国特許6,281,296号に記載の化合物、国際公開01/27194号パンフレットに記載の化合物等、米国特許5,789,489号に記載の化合物等を挙げることができる。これらの化合物を硬化剤として用いる場合、フルオロエラストマー100重量部当たり好ましくは0.1〜10重量部使用し、より好ましくは2〜5重量部使用する。
【0055】
有機過酸化物と多官能性架橋助剤との組み合わせによる架橋に好ましい硬化部位としては、臭素末端基、ヨウ素末端基およびこれらの組み合わせ等を挙げることができる。これらの硬化部位は臭素またはヨウ素含有連鎖移動剤の存在下で共重合を行うことによりフルオロエラストマー鎖に導入されてもよいし、臭素またはヨウ素原子を有するコモノマー(例えば、ブロモトリフルオロエチレン、4−ブロモ−3,3,4,4−テトラフルオロ−1−ブテン、4−ヨード−3,3,4,4−テトラフルオロ−1−ブテン等)を用いて共重合を行うことによりフルオロエラストマー鎖に導入されてもよい。
【0056】
ポリヒドロキシ化合物による架橋に好ましい硬化部位は、例えばトリフルオロエチレン、3,3,3−トリフルオロプロピレン、2,3,3,3−テトラフルオロプロピレン、1,1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピレンのようなコモノマーを用いて共重合を行うことによりフルオロエラストマー鎖に導入することができる。
ポリアミノ化合物および有機錫化合物による架橋に好ましい硬化部位は、例えば8−シアノ−5−メチル−3,6−ジオキサ−1−オクテンや米国特許6,211,319B1号に記載の化合物のように側鎖にニトリル基を有するフッ化コモノマーを用いて共重合を行うことによりフルオロエラストマー鎖に導入することができる。
【0057】
本発明においては、4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩、3級スルホニウム塩、ホスホランアミン誘導体等の硬化促進剤を上記硬化剤と併用するのが好ましい。
4級アンモニウム塩の好ましい例としては、メチルトリブチルアンモニウムクロリド、メチルトリオクチルアンモニウムクロリド、ラウリルピリジニウムブロミド、ベンジルオクチルアンモニウムクロリド、硫酸水素ブチルテトラブチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミド等を挙げることができる。
4級ホスホニウム塩の好ましい例としては、ベンジルトリオクチルホスホニウムブロミド、ベンジルトリオクチルホスホニウムクロリド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロリド、ベンジルトリフェニルホスホニウムブロミド、アリルトリブチルホスホニウムクロリド、2−メトキシプロピルトリブチルホスホニウムクロリド、ベンジルトリフェニルホスホニウムテトラフルオロボレート、メチルトリオクチルホスホニウムアセテート、カルボエトキシメチルトリフェニルホスホニウムブロミド、テトラオクチルホスホニウムブロミド、m−トリフルオロメチルベンジルトリオクチルホスホニウムクロリド等を挙げることができる。
3級スルホニウム塩の好ましい例としては、ヘキシルジフェニルスルホニウムクロリド、ジヘキシルフェニルスルホニウムアセテート等を挙げることができる。
ホスホランアミン誘導体の好ましい例としては、1-クロロ-1,1-ジフェニル-1-ベンジル-N-(ジエチル)ホスホランアミン、1-ジフェニル-N-(ジエチル)ホスホランアミン、1-ベンジル‐N,N’,N”-(ヘキサメチル)ホスホラントリアミン、1-ブロモ-1-ベンジル-1-フェニル-N,N’-(テトラエチル)ホスホランジアミン等を挙げることができる。
これらのオニウム塩及びホスホランアミン誘導体物を硬化剤と併用する場合、フルオロエラストマー100重量部当たり好ましくは0.1〜10重量部使用し、より好ましくは2〜5重量部使用する。
【0058】
<酸受容体>
硬化性フルオロエラストマー組成物には、金属酸化物および金属水酸化物の群から選択される酸受容体をさらに含むことが好ましい。これらの酸受容体の好ましい例としては酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化鉛、酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウムなどを挙げることができる。また、炭酸バリウム、炭酸カルシウムなどの炭酸塩を酸受容体として用いることもできる。これらの酸受容体はフルオロエラストマー100重量部当たり好ましくは0.1〜25重量部使用し、より好ましくは1〜10重量部使用する。
【0059】
<その他>
硬化性フルオロエラストマー組成物には、物性調整の目的で、上記化合物の他にも様々な添加剤を配合することができる。配合可能な添加剤の例としては、カーボンブラック、安定剤、可塑剤、滑剤、顔料、フィラー、(例えば、シリカ、アルミナ、硫酸バリウム、二酸化チタン等)及びフルオロエラストマーで典型的に配合される加工助剤などが挙げられる。
【0060】
また、一般式(I)で表される繰り返し単位を有する含フッ素化合物、硬化剤及びその他の添加剤は一般に、密閉式ミキサーまたはゴム練機でポリマー中に組み入れられる。本発明に係る組成物の好ましい硬化条件としては、例えば、先ず最初に加圧下、120〜230℃(好ましくは160〜200℃)で0.5〜60分(好ましくは1〜20分)加熱した後、大気圧下、130〜320℃(好ましくは200〜280℃)で5〜48時間(好ましくは10〜24時間)後硬化する方法が挙げられる。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
〔含フッ素化合物の合成〕
(含フッ素化合物(P-1)の合成)
ペルフルオロジエン(III-1)と含フッ素ジオール(IV-1)との重合
【0062】
【化18】

【0063】
ペルフルオロジエン(III-1)(8.00g、20.0mmol)、含フッ素ジオール(IV-1)(3.40g、21.0mmol)、炭酸カリウム(6.90g、50mmol)をメチルエチルケトン(100ml)中、室温にて64時間攪拌した。反応液を酢酸エチル(500ml)/水(500ml)に注加し、分液した。有機層を水および飽和食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧にて濃縮した。濃縮残留物を乾燥することにより11.0gの非晶質ポリマーである含フッ素化合物(P-1)を得た。NMRより含フッ素化合物(P-1)の平均分子量は10,200であった。
【0064】
H NMR(CDCOCD) δ 4.14(m)、4.73(t,J=13.5Hz)、5.13(bs)、6.41(bs)
19F NMR(CDCOCD) δ −67.90〜−68.88(m)、−71.63〜−73.30(m)、−88.72(s)、−88.82(s)、−122.70(t,J=13.5Hz)
【0065】
(含フッ素化合物(P-2)の合成)
ペルフルオロジエン(III-2)と含フッ素ジオール(IV-2)との重合
【0066】
【化19】

【0067】
ペルフルオロジエン(III-2)(7.88g、20.0mmol)、含フッ素ジオール(IV-2)(11.80g、21.0mmol)、炭酸カリウム(6.90g、50mmol)をメチルエチルケトン(200ml)中、室温にて72時間攪拌した。反応液を酢酸エチル(500ml)/水(500ml)に注加し、分液した。有機層を水および飽和食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧にて濃縮した。濃縮残留物を乾燥することにより18.8gの非晶質ポリマーである含フッ素化合物(P-2)を得た。NMRより含フッ素化合物(P-2)の数平均分子量は17,500であった。
【0068】
H NMR(CDCOCD) δ 4.15(m)、4.87(t,J=12.8Hz)、5.15(bs)、6.85(d,J=52.2Hz)
19F NMR(CDCOCD) δ −84.89〜−86.15(m)、−89.93〜−92.21(m)、−120.51(s)、−122.44(s)、−122.61(s)、−123.61、−124.03、−126.64、−146.60(d,J=52.2Hz)
【0069】
(含フッ素化合物(P-3)の合成)
ペルフルオロジエン(III-1)と含フッ素ジオール(IV-2)との重合
【0070】
【化20】

【0071】
ペルフルオロジエン(III-1)(10.0g、25.0mmol)、含フッ素ジオール(IV-2)(14.8g、26.3mmol)、炭酸カリウム(9.0g、65mmol)をメチルエチルケトン(200ml)中、室温にて60時間攪拌した。反応液を酢酸エチル(500ml)/水(500ml)に注加し、分液した。有機層を水および飽和食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧にて濃縮した。濃縮残留物を乾燥することにより23.7gの非晶質ポリマーである含フッ素化合物(P-3)を得た。NMRより含フッ素化合物(P-3)の数平均分子量は17,800であった。
【0072】
H NMR(CDCOCD) δ 4.10(m)、4.84(t,J=13.1Hz)、5.10(t)、6.41(bs)
19F NMR(CDCOCD) δ −67.90〜−69.02(m)、−71.84〜−73.35(m)、−88.57(s)、−120.42(s)、−122.39(bs)、−123.61(s)
【0073】
(含フッ素化合物(P-4)の合成)
ペルフルオロジエン(III-1)と含フッ素ジオール(IV-3)との重合
【0074】
【化21】

【0075】
ペルフルオロジエン(III-1)(8.80g、22.0mmol)、含フッ素ジオール(IV-2)(9.48g、23.0mmol)、炭酸カリウム(8.3g、60mmol)をメチルエチルケトン(200ml)中、室温にて65時間攪拌した。反応液を酢酸エチル(500ml)/水(500ml)に注加し、分液した。有機層を水および飽和食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧にて濃縮した。濃縮残留物を乾燥することにより17.6gの非晶質ポリマーである含フッ素化合物(P-4)を得た。NMRより含フッ素化合物(P-4)の数平均分子量は14,800であった。
【0076】
H NMR(CDCOCD) δ 4.17(m)、4.90(t,J=13.1Hz)、5.17(t)、6.42(bs)
19F NMR(CDCOCD) δ −67.83〜−68.90(m)、−71.75〜−73.28(m)、−88.60(s)、−120.45(s)、−122.57(bs)、−123.58(s)
【0077】
(含フッ素化合物(P-5)の合成)
ペルフルオロジエン(III-1)と含フッ素ジオール(IV-3)との重合
【0078】
【化22】

【0079】
ペルフルオロジエン(III-1)(8.80g、22.0mmol)、含フッ素ジオール(IV-2)(9.16g、22.2mmol)、炭酸カリウム(8.3g、60mmol)をメチルエチルケトン(200ml)中、室温にて65時間攪拌した。反応液を酢酸エチル(500ml)/水(500ml)に注加し、分液した。有機層を水および飽和食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧にて濃縮した。濃縮残留物を乾燥することにより17.6gの非晶質ポリマーである含フッ素化合物(P-5)を得た。NMRより含フッ素化合物(P-5)の数平均分子量は79,500であった。
【0080】
H NMR(CDCOCD) δ 4.17(m)、4.90(t,J=13.1Hz)、5.17(t)、6.42(bs)
19F NMR(CDCOCD) δ −67.83〜−68.90(m)、−71.75〜−73.28(m)、−88.60(s)、−120.45(s)、−122.57(bs)、−123.58(s)
【0081】
〔実施例1〕
フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体であるフルオロエラストマー1[TECNOFLON(登録商標)FOR 335]、含フッ素化合物(P-1)、酸化マグネシウム、酸化カルシウムおよびブラックMTを表1に記載の割合で常法により混錬した後、170 ℃で10分間プレス硬化を行い、さらにエアオーブン中250℃で24時間後硬化することにより試験サンプル(Ex-1)を作製した。また、含フッ素化合物(P-1)の代りにそれぞれ(P-2)、(P-3)、(P-4)、(P-5)および下記(R-1)を用いた以外は試験サンプル(Ex-1)と同様に試験サンプル(Ex-2)、(Ex-3)、(Ex-4)、(Ex-5)、(Ex-6)を作製した。さらに、含フッ素化合物を添加しないサンプル(Ex-7)を作製した。
【0082】
【表1】

【0083】
【化23】

【0084】
特開2000−212361号公報に記載の方法に従い、上記サンプルの摩擦係数(負荷:4.1N)を測定した。また、これらのサンプルを1wt%硫酸水溶液に室温で24時間浸漬し、水洗・乾燥した後の摩擦係数を測定した。これらの結果を表2に示す。
【0085】
【表2】

【0086】
〔実施例2〕
エチレン、テトラフルオロエチレンおよびペルフルオロ(メチルビニルエーテル)の共重合体であるフルオロエラストマー2[Viton(登録商標)ETP-S]、含フッ素化合物(P-2)、酸化亜鉛、トリアリルイソシアヌレート、ルペロックス101XL[2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンを45%含有する固体]、およびブラックMTを表3の割合で常法により混錬した後、180 ℃で10分間プレス硬化を行い、さらにエアオーブン中230℃で2時間後硬化することにより試験サンプル(Ex-8)を作製した。また、含フッ素化合物(P-2)の代りに含フッ素化合物(P-3)を用いた以外は試験サンプル(Ex-8)と同様に試験サンプル(Ex-9)を作製した。さらに、含フッ素化合物を添加しないサンプル(Ex-10)を作製した。
【0087】
【表3】

【0088】
特開2000−212361号公報に記載の方法に従い、上記サンプルの摩擦係数(負荷:4.1N)を測定した。また、これらのサンプルを1wt%硫酸水溶液に室温で24時間浸漬し、水洗・乾燥した後の摩擦係数を測定した。これらの結果を表4に示す。
【0089】
【表4】

【0090】
以上のように、本発明の硬化性フルオロエラストマー組成物は、従来のフルオロエラストマー組成物と比較して、酸性条件下においても優れた安定性を示すことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される繰り返し単位を有する含フッ素化合物、およびフルオロエラストマーを含有する硬化性フルオロエラストマー組成物。
【化1】

式中、Rfはペルフルオロアルキレン基を示し、RfおよびRfはそれぞれ独立にフッ素原子、ペルフルオロアルキル基、またはペルフルオロアルコキシ基を示し、Rf、Rf、Rfはそれぞれ結合して環を形成してもよく、Xは酸素原子または硫黄原子を示し、Lは2価の有機基を示す。
【請求項2】
一般式(I)において、Lが下記一般式(II)で表される2価の有機基であり、かつXが酸素原子であることを特徴とする請求項1に記載の硬化性フルオロエラストマー組成物。
【化2】

式中、Rf4はペルフルオロアルキレン基を示す。
【請求項3】
前記一般式(I)で表される繰り返し単位を有する含フッ素化合物の数平均分子量が、4,000〜100,000であることを特徴とする請求項1または2に記載の硬化性フルオロエラストマー組成物。
【請求項4】
前記フルオロエラストマーが、
i)フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン、
ii)フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン、
iii)フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン、
iv)フッ化ビニリデン/ペルフルオロアルキルビニルエーテル、
v)フッ化ビニリデン/ペルフルオロアルキルビニルエーテル/テトラフルオロエチレン、vi)フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/プロピレン、
vii)テトラフルオロエチレン/プロピレン、
viii)エチレン/テトラフルオロエチレン/ペルフルオロアルキルビニルエーテル、
ix)テトラフルオロエチレン/ペルフルオロアルキルビニルエーテル
よりなる群から選択される共重合単位を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の硬化性フルオロエラストマー組成物。
【請求項5】
硬化剤をさらに含有し、前記硬化剤が、有機過酸化物、ポリヒドロキシ化合物、ポリアミノ化合物および有機錫化合物よりなる群から選択されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の硬化性フルオロエラストマー組成物。
【請求項6】
4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩、3級スルホニウム塩、およびホスホランアミン誘導体から選択される硬化促進剤、並びに、金属酸化物および金属水酸化物から選択される酸受容体をさらに含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の硬化性フルオロエラストマー組成物。

【公開番号】特開2009−242754(P2009−242754A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−94241(P2008−94241)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】