説明

硬化性ポリマー組成物

【課題】速やかに硬化し、硬化して、基材に対する密着性や下地追随性が優れる硬化物を形成する硬化性ポリマー組成物を提供する。
【解決手段】(A)ケイ素原子結合水素原子を含有するアクリル系共重合体、(B)一分子中に少なくとも2個の脂肪族不飽和結合を有する化合物、(C)フッ化ビニリデンを主成分とするフルオロオレフィン共重合体、および(D)ヒドロシリル化反応用触媒を少なくとも含む硬化性ポリマー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐候性塗料等として有用な硬化性ポリマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、大気中の湿気によって硬化する塗料用組成物として、加水分解性基がケイ素原子に結合した加水分解性シリル基を有するアクリル系共重合体からなる硬化性ポリマー組成物が提案されており、該組成物は一液型で硬化作業性に優れ、得られる塗膜は無機質基材との密着性が良く、高硬度で傷が付き難く、耐候性、耐食性、および耐汚染性が良い等の特徴を有しているが、有機基材に対する密着性が悪く、下地追随性が不充分で、塗装物品の後加工性が悪い等の欠点があり、また耐候性、耐食性および耐汚染性に関しても充分満足しうるものではなかった。
【0003】
一方、フッ素樹脂を塗料に用いる場合、塗装後の定着に高温処理を必要とし、作業性が悪く、そのままでは無機基材および有機基材のいずれに対しても付着しないという問題がある。そのため、アクリル樹脂と相溶性のある含フッ素共重合体では、硬化部位に−OH基を有したアクリル樹脂をブレンドして作業性と密着性を改良することが検討されているが、得られたブレンド物と−OH基と反応しうる硬化剤(イソシアネート化合物など)とは相溶性が悪いため、例えば、塗膜外観、耐候性、耐食性、密着性、その他基本性能が損われるという問題がある。
【0004】
このため、特許文献1では、フッ化ビニリデンを主成分とするフルオロオレフィン共重合体と加水分解性シリル基含有アクリル系共重合体からなる湿気硬化性ポリマー組成物が提案されているが、硬化が遅く、また、得られる硬化物の基材に対する密着性や下地追随性が十分でないという問題がある。
【0005】
【特許文献1】特開平4−211445号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、速やかに硬化し、硬化して、基材に対する密着性や下地追随性が優れる硬化物を形成する硬化性ポリマー組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
(A)ケイ素原子結合水素原子を含有するアクリル系重合体、
(B)一分子中に少なくとも2個の脂肪族不飽和結合を有する化合物、
(C)フッ化ビニリデンを主成分とするフルオロオレフィン共重合体、および
(D)ヒドロシリル化反応用触媒
を少なくとも含み、
(B)成分の配合量が、(A)成分中のケイ素原子結合水素原子1モルに対して、(B)成分中の脂肪族不飽和結合が0.01〜20モルとなる量であり、
(C)成分の量が、(A)成分100質量部に対して1〜10000質量部であり、かつ
(D)成分の量が触媒量である
硬化性ポリマー組成物に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の硬化性ポリマー組成物は、速やかに硬化し、硬化して基材に対する密着性や下地追随性が優れる硬化物を形成する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(A)成分のアクリル系重合体はケイ素原子結合水素原子を含有し、(B)成分により架橋して硬化する成分であり、具体的には、(A1)分子内にケイ素原子結合水素原子およびケイ素原子に結合した(メタ)アクリロイルオキシアルキル基を有するシロキサンマクロモノマーの単独重合体、あるいは(A1)分子内にケイ素原子結合水素原子およびケイ素原子に結合した(メタ)アクリロイルオキシアルキル基を有するシロキサンマクロモノマーと(A2)エチレン性不飽和モノマーとの共重合体であることが好ましい。
【0010】
この(A1)成分としては、一般式(I):
【化1】

(式中、R1は水素原子またはメチル基であり、R2はアルキレン基であり、R3はアルキル基またはアリール基であり、aは0、1、または2であり、mは0〜100の整数であり、nは0〜100の整数である)
で表されるシロキサンマクロモノマー、一般式(II):
【化2】

(式中、R1は水素原子またはメチル基であり、R2はアルキレン基であり、R3はアルキル基またはアリール基であり、R4は水素原子または前記R3で表される基である。但し、少なくとも1個のR4は水素原子であり、bは1〜100の整数であり、cは0〜100の整数である)
で表されるシロキサンマクロモノマー、または一般式(III):
【化3】

(式中、R1は水素原子またはメチル基であり、R2はアルキレン基であり、R3はアルキル基またはアリール基であり、R4は水素原子または前記R3で表される基である。但し、少なくとも1個のR4は水素原子であり、dは3〜20の整数である)
で表されるシロキサンマクロモノマーであることが好ましい。
【0011】
一般式(I)で表されるシロキサンマクロモノマーにおいて、式中、R1は水素原子またはメチル基であり、好ましくは、メチル基である。また、式中、R2はアルキレン基であり、具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基が例示され、好ましくは、プロピレン基である。また、式中、R3はアルキル基またはアリール基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基が例示され、好ましくは、メチル基、フェニル基である。また、式中、aは0、1、または2であり、好ましくは、0である。また、式中、mは0〜100の範囲内の整数であり、好ましくは、0〜50の範囲内の整数であり、特に好ましくは、0〜10の範囲内の整数である。また、式中、nは0〜100の範囲内の整数であり、好ましくは、0〜50の範囲内の整数であり、特に好ましくは、0〜10の範囲内の整数である。
【0012】
このような一般式(I)で表されるシロキサンマクロモノマーとしては、次のものが例示される。
【0013】
【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【0014】
次に、一般式(II)で表されるシロキサンマクロモノマーにおいて、式中、R1は水素原子またはメチル基であり、好ましくは、メチル基である。また、式中、R2はアルキレン基であり、前記と同様の基が例示され、好ましくは、プロピレン基である。また、式中、R3はアルキル基またはアリール基であり、前記と同様の基が例示され、好ましくは、メチル基、フェニル基である。また、式中、R4は水素原子または前記R3で表される基であり、但し、少なくとも1個のR4は水素原子である。また、式中、bは1〜100の範囲内の整数であり、好ましくは、1〜50の範囲内の整数であり、特に好ましくは、1〜10の範囲内の整数である。また、式中、cは0〜100の範囲内の整数であり、好ましくは、0〜50の範囲内の整数であり、特に好ましくは、0〜10の範囲内の整数である。
【0015】
このような一般式(II)で表されるシロキサンマクロモノマーとしては、次のものが例示される。
【0016】
【化10】

【化11】

【化12】

【0017】
また、一般式(III)で表されるシロキサンマクロモノマーにおいて、式中、R1は水素原子またはメチル基であり、好ましくは、メチル基である。また、式中、R2はアルキレン基であり、前記と同様の基が例示され、好ましくは、プロピレン基である。また、式中、R3はアルキル基またはアリール基であり、前記と同様の基が例示され、好ましくは、メチル基、フェニル基である。また、式中、R4は水素原子または前記R3で表される基であり、但し、少なくとも1個のR4は水素原子である。また、式中、dは3〜20の範囲内の整数であり、好ましくは、3〜10の範囲内の整数であり、特に好ましくは、3〜5の範囲内の整数である。
【0018】
このような一般式(III)で表されるシロキサンマクロモノマーとしては、次のものが例示される。
【0019】
【化13】

【化14】

【0020】
また、(A2)成分のエチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、アクリル類(但し、シロキサンマクロモノマー(A1)は除く)、ビニルエーテル類、ビニルエステル類、芳香族ビニル類が挙げられる。
【0021】
このアクリル類としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸iso−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルとポリ−ε−カプロラクトンとの付加物(例えば、ダイセル化学工業株式会社製のプラクセルFM1)、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸3−トリメトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸3−トリエトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸3−ジメトキシメチルシリルプロピル、(メタ)アクリル酸2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アシッドホスホキシプロピルメタクリレート、(メタ)アクリル酸トリブチル錫、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルイソシアネート、(メタ)アクリル酸2−イソシアネートエチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、が挙げられ、これらのうちでは、(C)成分のフルオロオフィン共重合体との相溶性と硬化塗膜の硬度の点から、アルキル基の炭素数が1〜6のアルキル(メタ)アクリレートであることが好ましい。
【0022】
また、ビニルエーテル類としては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、iso−ブチルビニルエーテル、tert−ブチルビニルエーテル、n−ペンチルビニルエーテル、n−ヘキシルビニルエーテル、n−オクチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、2−アセトキシエチルビニルエーテル、2−クロロエチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類;シクロペンチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、メチルシクロヘキシルビニルエーテル、シクロオクチルビニルエーテル等のシクロアルキルビニルエーテル類;ベンジルビニルエーテル、フェネチルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル等の芳香族基を含有するビニルエーテル類;2,2,2−トリフルオロエチルビニルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルビニルエーテル、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルビニルエーテル、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチルビニルエーテル、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9−ヘキサデカフルオロノニルビニルエーテル、パーフルオロメチルビニルエーテル、パーフルオロエチルビニルエーテル、パーフルオロプロピルビニルエーテル等のフルオロアルキルビニルエーテル類が挙げられる。
【0023】
また、ビニルエステル類としては、例えば、酢酸ビニル、酢酸アリル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、p−tertブチル安息香酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニルが挙げられる。
【0024】
また、芳香族ビニル単量体類としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン等の芳香族スチレン誘導体が挙げられる。
【0025】
さらに(A2)成分のエチレン性不飽和モノマーとして、種々の共重合可能な単量体を用いても良い。このような単量体としては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、無水マレイン酸、フマル酸ジエステル類、マレイン酸ジエステル類、アクリロニトリルが例示される。
【0026】
(A)成分を調製する方法は特に限定されず、共重合体を調製する場合には、(A1)成分と(A2)成分とを公知の溶液重合法によって調製することができる。その際、(A1)成分と(A2)成分と割合は特に限定されないが、(A1)成分の割合は0.01〜99モル%の範囲内であることが好ましく、さらには、0.01〜25モル%の範囲内であることが好ましく、特に、0.1〜10モル%の範囲内であることが好ましい。これは、(A1)成分の割合が上記範囲の下限未満であると、得られる硬化物の架橋密度が不足して、塗膜強度が低下するとともに、耐溶剤性、耐候性も低下する傾向があるからであり、一方、上記範囲の上限を超えると、得られる硬化物の架橋密度が高くなりすぎて塗膜の後加工性や耐衝撃性などが低下する傾向があるからである。また、(A)成分の分子量は特に限定されないが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)の測定における数平均分子量が10,000〜100,000の範囲内であることが好ましく、特に、20,000〜40,000の範囲内であることが好ましい。これは、(A)成分の数平均分子量が上記範囲の下限未満であると、得られる塗膜の強度が低下して、後加工時にクラックが発生しやすく、また耐候性も低下する傾向があるからであり、一方、上記範囲の上限を超えると高粘度になり、取扱い性が低下する傾向があるからである。さらに、硬化塗膜の硬化性を考慮すると、(A)成分中のケイ素原子結合水素原子の含有量は0.001〜0.8質量%の範囲内であることが好ましく、特に、0.005〜0.4質量%の範囲内であることが好ましい。
【0027】
(B)成分は、(A)成分を架橋するための成分であり、一分子中に少なくとも2個の脂肪族不飽和結合を有する化合物である。このような(B)成分としては、一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するシロキサン化合物、一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するシアヌレート化合物、分子鎖両末端がアルケニル基で封鎖されたポリオキシアルキレン化合物、一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するエーテル化合物、およびこれらの2種以上の混合物が例示される。
【0028】
(B)成分中の一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するシロキサン化合物としては、一般式(IV):
【化15】

(式中、R3はアルキル基またはアリール基であり、R5はアルケニル基であり、eは0〜10の整数である)
で表されるシロキサン化合物、一般式(V):
【化16】

(式中、R3はアルキル基またはアリール基であり、R5はアルケニル基であり、fは4〜10の整数である)
で表されるシロキサン化合物、および一般式(VI):
【化17】

(式中、R3はアルキル基またはアリール基であり、R5はアルケニル基であり、gは0、1、または2である)
で表されるシロキサン化合物が例示される。
【0029】
一般式(IV)で表されるシロキサン化合物において、式中、R3はアルキル基またはアリール基であり、前記と同様の基が例示され、好ましくは、メチル基、フェニル基である。また、式中、R5はアルケニル基であり、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基が例示され、好ましくは、ビニル基である。また、式中、eは0〜10の整数であり、好ましくは、0〜5の整数であり、特に好ましくは、0である。
【0030】
このような一般式(IV)で表されるシロキサン化合物としては、次のものが例示される。
【0031】
【化18】

【化19】

【化20】

【0032】
一般式(V)で表されるシロキサン化合物において、式中、R3はアルキル基またはアリール基であり、前記と同様の基が例示され、好ましくは、メチル基、フェニル基である。また、式中、R5はアルケニル基であり、前記と同様の基が例示され、好ましくは、ビニル基である。また、式中、fは4〜10の整数であり、好ましくは、4〜6の整数であり、特に好ましくは、4である。
【0033】
このような一般式(V)で表されるシロキサン化合物としては、次のものが例示される。
【化21】

【化22】

【0034】
一般式(VI)で表されるシロキサン化合物において、式中、R3はアルキル基またはアリール基であり、前記と同様の基が例示され、好ましくは、メチル基、フェニル基である。また、式中、R5はアルケニル基であり、前記と同様の基が例示され、好ましくは、ビニル基である。また、式中、gは0、1、または2であり、好ましくは、0である。
【0035】
このような一般式(VI)で表されるシロキサン化合物としては、次のものが例示される。
【化23】

【化24】

【化25】

【0036】
また、(B)成分中の一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するシアヌレート化合物としては、トリアリルイソシアヌレートが例示される。
【0037】
また、(B)成分中の分子鎖両末端がアルケニル基で封鎖されたポリオキシアルキレン化合物としては、分子鎖両末端アリル基封鎖ポリオキシエチレン、分子鎖両末端アリル基封鎖オキシエチレン・オキシプロピレン共重合体が例示される。
【0038】
また、(B)成分中の一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するエーテル化合物としては、ペンタエリスリトールテトラアリルエーテル、トリアリルグリシジルエーテルが例示される。
【0039】
(B)成分の含有量は、(A)成分中のケイ素原子結合水素原子1モルに対して、本成分中の脂肪族不飽和結合が0.01〜20モルとなる量であり、好ましくは、これが0.01〜10モルとなる量であり、特に好ましくは、0.05〜5モルとなる量である。これは、(B)成分の含有量が上記範囲の下限未満であると、得られる硬化物の機械的強度が低下するからであり、一方、上記範囲の上限を超えると、得られる組成物が十分に硬化しなくなるからである。
【0040】
(C)成分のフロオロオレフィン共重合体は、フッ化ビニリデンを主成分とする、フッ化ビニリデンと他のフルオロオレフィン単量体の1種以上との共重合体であり、溶剤可溶のものがあげられる。このフルオロオレフィン共重合体の組成および分子量は、溶剤可溶の範囲内で適宜設定すればよい。このフルオロオレフィン単量体としては特に限定はないが、具体的には、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルトリフルオロビニルエーテル(パーフルオロアルキル基の炭素数は1〜18が好ましい)が例示される。なお、パーフルオロアルキル基とは、アルキル基の炭素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されているものをいう。
【0041】
このフルオロオレフィン共重合体において、フッ化ビニリデンに由来する単位の割合は50モル%以上が好ましく、60〜90モル%がさらに好ましい。これは、フッ化ビニリデンに由来する単位の割合が上記範囲の下限未満であると、溶剤に溶けにくくなる傾向があり、一方、上記範囲の上限を超える、該共重合体を溶解させうる溶媒がN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等の極めて極性が高く、かつ沸点が高いものに限られてくるため、塗料に用いた場合、乾燥に時間がかかる傾向があるからである。
【0042】
このフルオロオレフィン共重合体の分子量は特に限定されないが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による測定において、その数平均分子量が10,000〜120,000の範囲内であることが好ましく、さらに、10,000〜70,000の範囲内であることが好ましい。これは、数平均分子量が上記範囲の下限未満であると、得られる硬化物の塗膜強度が低下してクラックが発生しやすくなる傾向があり、一方、上記範囲の上限を超えると汎用の溶剤に溶けにくくなる傾向があるからである。
【0043】
このような(C)成分としては、溶剤によく溶け、塗膜化しやすいことから、例えば、VdF(フッ化ビニリデン)−TFE(テトラフルオロエチレン)−CTFE(クロロトリフルオロエチレン)共重合体、VdF−TFE−HFP(ヘキサフルオロプロピレン)共重合体、VdF−TFE共重合体が挙げられ、これらのフルオロオレフィン共重合体を単独で用いてもよく、また2種以上併用してもよい。
【0044】
本発明の組成物における(C)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、1〜10000質量部の範囲内であり、好ましくは、10〜900質量部の範囲内であり、さらに好ましくは、30〜400質量部の範囲内である。これは、(C)成分の含有量が上記範囲の下限未満であると、得られる硬化物の耐候性、耐食性、耐汚染性が低下するからであり、一方、上記範囲の上限を超えると、得られる硬化物の基材に対する密着性が低下するからである。
【0045】
(D)成分のヒドロシリル化反応用触媒としては、例えば、白金微粉末、白金黒、塩化白金酸、四塩化白金、アルコール変性塩化白金酸、白金のオレフィン錯体、白金のアルケニルシロキサン錯体、白金のカルボニル錯体、これらの白金系触媒を含むメチルメタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、シリコーン樹脂等の熱可塑性有機樹脂粉末等の白金系触媒;式:[Rh(O2CCH3)2]2、Rh(O2CCH3)3、Rh2(C8152)4、Rh(C572)3、Rh(C572)(CO)2、Rh(CO)[Ph3P](C572)、RhX3[(R)2S]3、(R23P)2Rh(CO)X、(R23P)2Rh(CO)H、Rh224、HaRhb(En)cCld、またはRh[O(CO)R]3-n(OH)nで表されるロジウム系触媒(式中、Xは水素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子であり、Yはメチル基、エチル基等のアルキル基、CO、C814、または0.5C812であり、Rはアルキル基、シクロアルキル基、またはアリール基であり、R2はアルキル基、アリール基、アルキルオキシ基、またはアリールオキシ基であり、Enはオレフィンであり、aは0または1であり、bは1または2であり、cは1〜4の整数であり、dは2、3、または4であり、nは0または1である。);式:Ir(OOCCH3)3、Ir(C572)3、[Ir(Z)(En)2]2、または[Ir(Z)(Dien)]2で表されるイリジウム系触媒(式中、Zは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、またはアルコキシ基であり、Enはオレフィンであり、Dienはシクロオクタジエンである)が例示される。
【0046】
(D)成分の含有量は触媒量であり、具体的には、本発明の組成物において(D)成分中の触媒金属が質量単位で0.1〜500ppmの範囲内となる量であることが好ましく、さらに1〜100ppmの範囲内となる量であることが好ましい。これは、(D)成分中の触媒金属の含有量が上記範囲の下限未満であると、得られる組成物の硬化が著しく遅くなる傾向があり、一方、上記範囲の上限を超えると、得られる硬化物が着色する傾向があり、また、さほど硬化性が向上せず、むしろ経済面で不利になることもあるからである。
【0047】
本発明の組成物には、本発明の組成物の貯蔵安定性および取扱作業性を向上させるための硬化抑制剤を含有してもよい。この硬化抑制剤としては、2−メチル−3−ブチン−2−オール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、2−フェニル−3−ブチン−2−オール等のアルキンアルコール;3−メチル−3−ペンテン−1−イン、3,5−ジメチル−3−ヘキセン−1−イン等のエンイン化合物;ベンゾトリアゾールが例示される。この硬化抑制剤の配合量は、本発明の組成物に対して、質量単位で10〜50,000ppmの範囲内の量であることが好ましい。
【0048】
本発明の組成物には、本発明の組成物の取扱作業性および塗布性を向上させるために(E)溶剤を含有してもよい。この溶剤としては、沸点以下の温度で(A)〜(D)成分を溶解できるものがあげられ、なかでも沸点が280℃以下、とくに180℃以下のものが好ましい。たとえばアセトン、シクロヘキサノン、イソホロン、メシチルオキサイド、ジアセトンアルコール、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸t-ブチルなどの酢酸エステル類;アジピン酸ジメチル、コハク酸ジエチル、フタル酸ジメチル、2−メトキシエチルアセテートなどの脂肪族または芳香族カルボン酸のアルキルエステルまたはアルコキシアルキルエステル類;ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのグリコールエーテル、エステル類;ジオキサン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル類;プロピレンカーボネートなどの炭酸エステル類;ブチロラクトンなどのラクトン類;N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド類などがあげられる。この溶剤は1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、必要ならばキシレン、トルエンなどの他の有機溶剤を全溶剤中の50重量%以下の範囲で含有させることもできる。
【0049】
本発明の組成物には、さらに必要に応じて、酸化チタン、ベンガラ、カーボンブラック等の顔料;ベンゾフェノン系、その他の紫外線吸収剤;ヒンダードアミン系、その他の光安定剤;ゲル化防止剤、レベリング剤等の種々の汎用の添加剤を含有してもよい。
【0050】
本発明の組成物の調製方法は特に限定されず、上記各成分を常法にて混合することにより調製できる。
【実施例】
【0051】
本発明の硬化性ポリマー組成物を実施例、比較例により詳細に説明する。なお、実施例、比較例において、塗膜の密着性、二次密着性、鉛筆硬度、後加工性を次のようにして評価した。
【0052】
(密着性)
JIS K 5400に規定の碁盤目試験をアルミニウム基材、ボンデ鋼板およびSUS板について行なう。
アルミニウム基材:JIS H 4000A−1050P AM− 712 アルミニウム板
ボンデ鋼板:JIS G 3141(SPCC〜SD)冷間圧延鋼板 サーフダインセレクト1000
SUS板:JIS G 4305 SUS304
【0053】
(二次密着性)
密着性試験と同様に作製した試験板を50℃の熱水に3日間浸漬した後、JIS K 5400に規定の碁盤目試験を行なう。
【0054】
(鉛筆硬度)
アルミニウム基材(JIS H 4000 A−1050P AM− 712)およびSUS板(JIS G 4305 SUS304)に塗布後、JIS K 5400に規定の試験を行なう。
【0055】
(後加工性)
アルミニウム基材(JIS H 4000 A−1050P AM− 712)に塗布後、JIS K 5400に規定の手法(屈曲試験)で屈曲し、屈曲試験の基準で評価する。
【0056】
また、実施例・比較例で使用した成分は次のとおりである。
(A−1): メチルメタクリレートとブチルアクリレートと式:
【化26】

で表されるシロキサンマクロモノマーとの共重合体(モノマー比=70/5/25、数平均分子量=35,320、ケイ素原子結合水素原子の含有量=0.091質量%)
(A−2): メチルメタクリレートとブチルアクリレートと式:
【化27】

で表されるシロキサンマクロモノマーとの共重合体(モノマー比=70/15/15、数平均分子量=32,350、ケイ素原子結合水素原子の含有量=0.053質量%)
(A−3): メチルメタクリレートとブチルアクリレートと式:
【化28】

で表されるシロキサンマクロモノマーとの共重合体(モノマー比=70/25/5、数平均分子量=24,770、ケイ素原子結合水素原子の含有量=0.017質量%)
(A−4): ポリメチメタクリレート
(A−5): メチルメタクリレートとブチルアクリレート(モノマー比=70/30)
(B−1): 式:
【化29】

で表されるシロキサン化合物
(B−2): 式:
【化30】

で表されるシロキサン化合物
(B−3): 式:
【化31】

で表されるシロキサン化合物
(B−4): トリアリルイソシアヌレート
(C−1): VdF(フッ化ビニリデン)−TFE(テトラフルオロエチレン)−CTFE(クロロトリフルオロエチレン)共重合体(モノマー比=71/21/8)
(D−1): 白金の1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体の13−ジビニルテトラメチルジシロキサン溶液
【0057】
実施例1〜6、比較例1〜4
表1に示した組成で硬化性ポリマー組成物を調製した。次に、この組成物は固形分濃度が25重量%になるように酢酸n−ブチルに溶解させて、それぞれを所定の試験板にスプレーコートし、230℃で4分間加熱して塗膜を形成した。得られた塗膜について、密着性、二次密着性、鉛筆硬度、後加工性を評価した。それらの結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の組成物は、速やかに硬化し、硬化して、基材に対する密着性や下地追随性が優れる硬化物を形成するので、一般建材(屋根、壁)、化学プラント、自動車の外装など用の耐候性塗料、耐食性塗料、インテリア、エクステリア用の大理石、木材などの防汚、耐候性塗料等として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ケイ素原子結合水素原子を含有するアクリル系重合体、
(B)一分子中に少なくとも2個の脂肪族不飽和結合を有する化合物、
(C)フッ化ビニリデンを主成分とするフルオロオレフィン共重合体、および
(D)ヒドロシリル化反応用触媒
を少なくとも含み、
(B)成分の配合量が、(A)成分中のケイ素原子結合水素原子1モルに対して、(B)成分中の脂肪族不飽和結合が0.01〜20モルとなる量であり、
(C)成分の量が、(A)成分100質量部に対して1〜10000質量部であり、かつ
(D)成分の量が触媒量である
硬化性ポリマー組成物。
【請求項2】
(A)成分が、(A1)分子内にケイ素原子結合水素原子およびケイ素原子に結合した(メタ)アクリロイルオキシアルキル基を有するシロキサンマクロモノマーと(A2)エチレン性不飽和モノマーとの共重合体である請求項1記載の硬化性ポリマー組成物。
【請求項3】
(A1)成分が、一般式(I):
【化1】

(式中、R1は水素原子またはメチル基であり、R2はアルキレン基であり、R3はアルキル基またはアリール基であり、aは0、1、または2であり、mは0〜100の整数であり、nは0〜100の整数である)
で表されるシロキサンマクロモノマー、一般式(II):
【化2】

(式中、R1は水素原子またはメチル基であり、R2はアルキレン基であり、R3はアルキル基またはアリール基であり、R4は水素原子または前記R3で表される基である。但し、少なくとも1個のR4は水素原子であり、bは1〜100の整数であり、cは0〜100の整数である)
で表されるシロキサンマクロモノマー、または一般式(III):
【化3】

(式中、R1は水素原子またはメチル基であり、R2はアルキレン基であり、R3はアルキル基またはアリール基であり、R4は水素原子または前記R3で表される基である。但し、少なくとも1個のR4は水素原子であり、dは3〜20の整数である)
で表されるシロキサンマクロモノマーである請求項2記載の硬化性ポリマー組成物。
【請求項4】
(B)成分が、1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するシロキサン化合物、1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するシアヌレート化合物、分子鎖両末端がアルケニル基で封鎖されたポリオキシアルキレン化合物、または1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するエーテル化合物である請求項1記載の硬化性ポリマー組成物。
【請求項5】
(C)成分が、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、またはフッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体である請求項1記載の硬化性ポリマー組成物。
【請求項6】
さらに、任意量の(E)溶媒を含有する請求項1記載の硬化性ポリマー組成物。

【公開番号】特開2008−144024(P2008−144024A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−332198(P2006−332198)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【出願人】(000110077)東レ・ダウコーニング株式会社 (338)
【出願人】(500295461)ダウ コーニング コーポレーション (15)
【Fターム(参考)】