説明

硬化性樹脂組成物、フィルムおよび成型方法

【課題】硬化皮膜の耐摩耗性や硬度を維持しつつ伸び性にも優れ、成型時に割れにくい硬化性樹脂組成物、フィルムおよび成型方法を提供する。
【解決手段】多官能(メタ)アクリレートモノマーおよび/または多官能アクリレートオリゴマー(a)、実質的に不飽和基を含有せず、重量平均分子量が5,000〜200,000であり、ガラス転移温度が20〜200℃であるアクリルポリマー(b)を含有することを特徴とする硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は伸び性に優れ、硬化皮膜が成型時に割れにくい硬化性樹脂組成物、フィルムおよび成型方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話や家電製品あるいは光学フィルム等に、従来の熱硬化型塗料に代わり活性エネルギー線硬化型塗料が使用されている。活性エネルギー線硬化型塗料は熱硬化型塗料と比較し、速硬化で生産性が良いこと、省エネルギー化が可能であること、耐摩耗性や硬度に優れるため急速に普及している。
【0003】
しかしながら、活性エネルギー線硬化型ハードコート樹脂組成物は高度な耐摩耗性や硬度を有する反面、もろく割れやすい弱点もあった。そのため、ハードコート樹脂組成物を塗布、硬化させたフィルムを金型にセットし、耐摩耗性等を付与したい樹脂の射出成型時に一体成型しようとすると、ハードコート層が割れてしまうことがあった。
【0004】
そこで、従来から多官能(メタ)アクリレートに加え、高分子量のウレタンアクリレートオリゴマー、アクリルポリマーなどを添加し、柔軟性を付与させることによって脆弱性を改善する試みがなされているが、架橋密度が低下しまうため、耐摩耗性や硬度が大きく低下してしまう問題があった。そのため、硬化皮膜の耐摩耗性や硬度を維持しつつ伸び性にも優れ、成型時に割れにくい硬化性樹脂組成物が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
特許文献1には、多官能(メタ)アクリレ−トおよびアクリル系重合体を含有する樹脂組成物が開示されているが、耐摩耗性が十分ではなかった。特許文献2には、多官能ウレタン(メタ)アクリレートおよび(メタ)アクリル系共重合樹脂を含有する樹脂組成物が開示されているが、強靱性が十分ではなかった。
【特許文献1】特開平9-48934号公報
【特許文献2】特開2006-316249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、硬化皮膜の耐摩耗性や硬度を維持しつつ伸び性にも優れ、成型時に割れにくい硬化性樹脂組成物、フィルムおよび成型方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、多官能(メタ)アクリレートモノマーおよび/または多官能アクリレートオリゴマー(a)、実質的に不飽和基を含有せず、重量平均分子量が5,000〜200,000であり、ガラス転移温度が20〜200℃であるアクリルポリマー(b)を含有することを特徴とする硬化性樹脂組成物である。また、該硬化性樹脂組成物が塗布、硬化されていることを特徴とするフィルムであり、該フィルムを金型にセットし、射出成型時に該フィルムと樹脂を一体成型することを特徴とする樹脂成型方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の硬化性樹脂組成物の硬化皮膜は耐摩耗性や硬度を維持しつつ伸び性にも優れるため、割れにくい特性を有する。したがって、該樹脂組成物を塗布、硬化させたフィルムと樹脂を一体成型した際に硬化皮膜が割れにくく、立体的な形状を有する基材に対して簡便に耐摩耗性や硬度を付与できる。このようにして得られた成型物は、携帯電話、携帯音楽プレーヤー、携帯ビデオプレーヤー、携帯テレビ、カメラ、ビデオ、携帯ゲーム機、携帯情報端末、ノートパソコン、電子手帳、電子辞書などのような衝撃を受けやすい携帯型機器に適する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明では多官能(メタ)アクリレートモノマーおよび/または多官能アクリレートオリゴマー(a)を用いる。多官能アクリレートモノマーとしては、例えば1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジシクロペンタニルジアクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジアクリレート、エチレンオキシド変性リン酸ジアクリレート、アリル化シクロヘキシルジアクリレート、イソシアヌレートジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等が挙げられる。また、これらをオリゴマー化したものを前記多官能アクリレートオリゴマーとして使用することができる。
【0010】
多官能メタクリレートモノマーとしては、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクレート、1,9−ノナンジオールジメタクリレート、1,10−デカンジオールジメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、ジメチロールートリシクロデカンジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートやエトキシ化トリメチロールプロパントリメタクリレート等が挙げられ、これらを単独または2種以上を混合して使用しても良い。
【0011】
実質的に不飽和基を含有せず、重量平均分子量が5,000〜200,000であり、ガラス転移温度が20〜200℃であるアクリルポリマー(b)は、スチレン、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート等を不飽和単量体を重合することによって得られる。ガラス転移温度が20℃未満であると硬度が低下し、200℃を超えると伸び性が十分ではないため好ましくない。より好ましいガラス転移温度の範囲は、50〜150℃である。
【0012】
また、耐磨耗性の点から、アクリルポリマーが親水性官能基を有することが好ましい。具体的には、カルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等、あるいは水酸基を有する2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の親水性官能基を有する不飽和単量体を前記不飽和単量体と共重合することにより、アクリルポリマーに親水性官能基を導入できる。
【0013】
アクリルポリマーの重量平均分子量は5,000〜200,000であることが必要である。重量平均分子量5000未満であると耐磨耗性が不十分となり、重量平均分子量が200,000を超えると塗工性を含めた成形性や強靱性が不十分となる。重量平均分子量は重合触媒、連鎖移動剤の配合量および、使用する溶媒の種別により調整できる。
【0014】
該アクリルポリマー配合割合は、多官能(メタ)アクリレートモノマーおよび/あるいは多官能アクリレートオリゴマー(a)の合計100重量部に対しアクリルポリマー(b)10〜900重量部とすることが好ましく、25〜400重量部とすることがより好ましい。10重量部以上とすることで伸び性が顕著に改善し、900重量部以下とすることで硬度を維持できる。
【0015】
アクリルポリマーが不飽和基を含有する場合、伸び性を十分に改善できない。よって、アクリルポリマーは実質的に不飽和基を含有しない必要がある。なお、実質的に不飽和基を含有しないとは、アクリルポリマー重合後に不飽和基含有化合物を反応させる等の方法によってアクリルポリマーに不飽和基を導入したようなものを除外するという意味であり、アクリルポリマーを重合する際に一部未反応の不飽和基が残留した場合等は、実質的に不飽和基を含有しないものとする。
【0016】
前記2成分を含有する本発明の硬化性樹脂組成物は、電子線や紫外線等の活性エネルギー線の照射によって硬化可能であるが、光重合開始剤を添加することによって感度良く紫外線硬化させることが可能となる。光重合開始剤は、例えば、アセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、p−ジメチルアセトフェノン、p−ジメチルアミノプロピオフェノン、ベンゾフェノン、2−クロロベンゾフェノン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、などのカルボニル化合物、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、テトラメチルチウラムジスルフィドなどの硫黄化合物などを用いることができる。これらの光重合開始剤の市販品としてはIrgacure184、369、651、500(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、LucirinLR8728(BASF社製)、Darocure1116、1173(以上、メルク社製)、ユベクリルP36(UCB社製)等が挙げられる。
【0017】
本発明で用いる樹脂組成物には、必要に応じて、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、スチレン系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂等の各種樹脂や、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、塩基性炭酸亜鉛、塩基性炭酸鉛、珪砂、クレー、タルク、シリカ化合物、二酸化チタン等の無機充填剤の他、シラン系やチタネート系などのカップリング剤、殺菌剤、防腐剤、可塑剤、流動調整剤、帯電防止剤、増粘剤、pH調整剤、界面活性剤、レベリング剤、消泡剤、着色顔料、防錆顔料等の配合材料を添加してもよい。また、耐候性向上を目的に老化防止剤や紫外線吸収剤を添加しても良い。なお、不飽和基を含有する上記の化合物を使用することは塗膜にクラックが入る等の問題が発生することもあり好ましくない。
【0018】
本発明の硬化性樹脂組成物は基材上に直接塗布、硬化させることによって硬化皮膜を形成する他、フィルムに塗布、硬化させたものをハードコートフィルムとして用いることができる。フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、セロファン、ジアセチルセルロースフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、アセチルセルロースブチレートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレン−酢酸ビニル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリイミドフィルム、フッソ樹脂フィルム、ナイロンフィルム、アクリル樹脂フィルム等を挙げることができる。
【0019】
本発明の硬化性樹脂組成物を塗布する方法は特に制限はなく、公知のスプレーコート、ディッピング、ロールコート、ダイコート、エアナイフコート、ブレードコート、スピンコート、リバースコート、グラビアコート、ワイヤーバーなどの塗工法またはグラビア印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷などの印刷法により形成できる。硬度後の樹脂層の厚さは、1μm〜40μmが好ましい。樹脂層の厚みが1μm未満であると、十分な硬度を得ることが難しく、40μmを越えるとクラックが発生しやすくなる。
【0020】
本発明の硬化性樹脂組成物を塗布、硬化させたフィルムは、樹脂の一体成型に適する。具体的には、射出成型の際にフィルムを金型にセットし、射出された樹脂と一体で成型することにより、立体形状を有する基材に対して簡便に硬化皮膜によるハードコート層を形成でき、かつ硬化皮膜は割れにくい。
【0021】
以下、本発明について実施例、比較例を挙げてより詳細に説明するが、具体例を示すものであって特にこれらに限定するものではない。配合は全て固形分を基準として表記している。
【実施例】
【0022】
実施例1
多官能ウレタンアクリレートオリゴマーであるアートレジンUN−905(根上工業社製、商品名、固形分70%)80重量部に対して、ガラス転移温度80℃、重量平均分子量27000、親水性官能基を有するアクリルポリマー1を20重量部、光重合開始剤であるIrgacure184(チバ・ジャパン社製、商品名)5重量部、老化防止剤であるTinuvin152(チバ・ジャパン社製、商品名)0.5重量部、レベリング剤であるBYK−310(ビックケミー社製、商品名、固形分25%)0.125重量部、溶媒としてメチルエチルケトンを固形分が30%となるように添加、混合することによって実施例1の硬化性樹脂組成物を得た。
【0023】
実施例2〜12、比較例1〜5
実施例1で用いた配合材料の他、6官能アクリレートモノマーであるジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(A−DPH 新中村化学工業株式会社製、商品名、固形分100%)、多官能ウレタンアクリレートオリゴマーであるアートレジンUN−904M(根上工業社製、商品名、固形分80%)、アクリルポリマーとしてアクリルポリマー2〜9(それぞれ親水性官能基を有し、ガラス転移温度(Tg)ならびに重量平均分子量(Mw)は表2参照)を用いて表1、表2記載の配合(全て固形分を基準とした重量部表記)とし、同様に溶媒としてメチルエチルケトンを固形分が30%となるように添加、混合することによって各硬化性樹脂組成物を調製した。各硬化性樹脂組成物について、以下の方法で評価を行った。
【0024】
試験体の作成
各硬化性樹脂組成物を厚み100μmのPETフィルム(東レ社製、商品名ルミラー100U34)に硬化後の膜厚が5μmとなるように塗布し、80℃で2分間乾燥させた後、高圧水銀ランプにて200mJ/cmでUV硬化させることによりフィルムを作成した。
【0025】
密着
JIS K 5600−5−6の規定に基づいて密着性を評価した。全くはく離がないものを○、一部でもはく離があるものを×と評価した。
【0026】
鉛筆硬度
JIS K 5600−5−4の規定に基づいて鉛筆硬度を測定した。測定装置は、株式会社東洋精機製作所製の鉛筆引掻塗膜硬さ試験機(形式P)を用いた。硬度が2H以上のものを◎、Hのものを○、F以下のものを×と評価した。
【0027】
伸び性
フィルムを長さ110mm、幅25mmに切断することによって試験体を作成した。150℃雰囲気下において、試験体をチャック間距離50mm、クロスヘッドスピード100mm/分の条件で引張り、硬化樹脂層にクラックができるまでの伸び率を測定した。伸び率が50%以上のものを◎、10%以上50%未満のものを○、10%未満のものを×と評価した。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
実施例の各硬化性樹脂組成物は、密着性、硬度、伸び性ともに優れていた。一方、所定の性状を有するアクリルポリマーを含有しない場合は伸び性が悪く、多官能(メタ)アクリレートを含有しない場合は密着や硬度が悪かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多官能(メタ)アクリレートモノマーおよび/または多官能アクリレートオリゴマー(a)、実質的に不飽和基を含有せず、重量平均分子量が5,000〜200,000であり、ガラス転移温度が20〜200℃であるアクリルポリマー(b)を含有することを特徴とする硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記多官能(メタ)アクリレートモノマーおよび/または多官能アクリレートオリゴマー(a)100重量部に対して、前記アクリルポリマー(b)が10〜900重量部配合されていることを特徴とする請求項1記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記アクリルポリマー(b)が、親水性官能基を有することを特徴とする請求項1または2記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載の硬化性樹脂組成物が塗布、硬化されていることを特徴とするフィルム。
【請求項5】
請求項4記載のフィルムを金型にセットし、射出成型時に該フィルムと樹脂を一体成型することを特徴とする樹脂成型方法。

【公開番号】特開2011−84687(P2011−84687A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−240170(P2009−240170)
【出願日】平成21年10月19日(2009.10.19)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】