説明

硬化性樹脂組成物、硬化物、積層体、多層回路基板、及び電子機器

【課題】低線膨張であり、耐熱性及び配線埋め込み平坦性に優れ、樹脂強度にも優れた硬化物を与える硬化性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】カルボキシル基および/またはカルボン酸無水物基を有する脂環式オレフィン重合体(A)、少なくとも2つの官能基と、脂環式オレフィン構造又はフルオレン構造とを有する硬化剤(B)、及び無機充填材(C)を含有してなり、前記無機充填材(C)の配合量が30〜90重量%である硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性樹脂組成物、硬化物、積層体、多層回路基板、及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化、多機能化、通信高速化などの追求に伴い、電子機器に用いられる回路基板のさらなる高密度化が要求されており、このような高密度化の要求に応えるために、回路基板の多層化が図られている。このような多層回路基板は、例えば、電気絶縁層とその表面に形成された導体層とからなる内層基板の上に、電気絶縁層を積層し、この電気絶縁層の上に導体層を形成させ、さらに、これら電気絶縁層の積層と、導体層の形成と、を繰り返し行なうことにより形成される。このような多層回路基板の導体層が高密度のパターンである場合、電気絶縁層を形成するために用いられる絶縁膜には、誘電率が低いなどの良好な電気特性と優れた埋め込み平坦性が求められる。
【0003】
このような電気絶縁層を形成するために用いられる絶縁膜を形成するための材料として、脂環式オレフィン重合体が検討されている。
【0004】
たとえば、特許文献1には、高温下においても充分な機械的強度を備え、かつ低線膨張で、耐熱性、低吸湿性、誘電特性にも優れた材料を与えるノルボルネン系樹脂組成物として、ノルボルネン系単量体繰り返し単位を、重合体全繰り返し単位中60モル%以上含有し、DSC測定によるガラス転移温度が180℃以上のノルボルネン系重合体90〜1重量%と、充填剤10〜99重量%と、からなるノルボルネン系樹脂組成物が開示されている。
【0005】
ところで、ノルボルネン系樹脂組成物などの樹脂組成物に充填剤を配合した場合には、保存中に充填剤が凝集・沈降したり、樹脂組成物の粘度が上昇して取り扱い性が悪化したり、さらには、このような樹脂組成物を用いて、成形体を得た場合には、成形体中において充填剤が凝集し均質にならない等の問題が生ずる場合がある。
【0006】
これに対して、充填剤の分散安定性に優れ、かつ、保存中の粘度変化の少ないワニスを製造する方法として、たとえば、特許文献2には、所定の極性基を有する重合体、充填剤、エポキシ化合物及び有機溶剤を含むワニスを製造する際に、予め重合体溶液及び充填剤スラリーを調製し、重合体溶液に充填剤スラリーを添加し、次いで、得られる混合液の粘度の10分間の変化率が2%以下になるまで撹拌した後、エポキシ化合物を添加し、次いで、ここで得られる混合液の粘度の10分間の変化率が2%以下になるまで撹拌する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−43566号公報
【特許文献2】特開2008−1871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者らが検討したところ、上記特許文献1に記載の技術では、低線膨張であり、耐熱性、及び機械的強度に優れた成形体を得ることは可能であるが、得られる成形体を回路基板の絶縁層として用いた場合、回路を構成する配線の埋め込み平坦性が未だ不充分であった。なお、この理由としては、上記特許文献1に記載のノルボルネン系樹脂組成物の溶融粘度が高いことによると考えられる。また、上記特許文献2に記載の技術により得られるワニスを用いてなる硬化物では、配線埋め込み平坦性と低線膨張率や耐熱性のバランスを充分に満足しないという問題があった。
本発明の目的は、低線膨張であり、耐熱性や配線埋め込み平坦性に優れ、樹脂強度にも優れた硬化物を与える硬化性樹脂組成物、並びに、これを用いて得られる硬化物、積層体、多層回路基板、及び電子機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、カルボキシル基および/またはカルボン酸無水物基を有する脂環式オレフィン重合体、少なくとも2つの官能基と、脂環式オレフィン構造又はフルオレン構造とを有する硬化剤、及び無機充填材を含有してなる硬化性樹脂組成物が、無機充填材の配合量を30〜90重量%と多くした場合でも溶融粘度が低く、そのため、このような硬化性樹脂組成物を用いて得られる硬化物が、低線膨張であり、耐熱性及び配線埋め込み平坦性に優れ、樹脂強度にも優れているものであることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明によれば、
〔1〕カルボキシル基および/またはカルボン酸無水物基を有する脂環式オレフィン重合体(A)、少なくとも2つの官能基と、脂環式オレフィン構造又はフルオレン構造とを有する硬化剤(B)、及び無機充填材(C)を含有してなり、前記無機充填材(C)の配合量が30〜90重量%である硬化性樹脂組成物、
〔2〕前記カルボキシル基および/またはカルボン酸無水物基を有する脂環式オレフィン重合体(A)が、重量平均分子量が20,000以上100,000以下であるカルボキシル基および/またはカルボン酸無水物基を有する脂環式オレフィン重合体(A1)と、重量平均分子量が5,000以上20,000未満であるカルボキシル基および/またはカルボン酸無水物基を有する脂環式オレフィン重合体(A2)とからなり、前記脂環式オレフィン重合体(A1)と前記脂環式オレフィン重合体(A2)の配合割合が、「重合体(A1)/重合体(A2)」の重量比で、5/95〜70/30である前記〔1〕に記載の硬化性樹脂組成物、
〔3〕前記硬化剤(B)が、少なくとも2つの官能基と、脂環式オレフィン構造又はフルオレン構造とを有するエポキシ樹脂(B1)と、少なくとも2つの官能基と、脂環式オレフィン構造又はフルオレン構造とを有するフェノール樹脂(B2)とからなる前記〔1〕又は〔2〕に記載の硬化性樹脂組成物、
〔4〕前記無機充填材(C)が、表面をシランカップリング剤で処理してなるシリカである前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物、
〔5〕前記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物を硬化してなる硬化物、
〔6〕表面に導体層を有する基板と、前記〔5〕に記載の硬化物からなる電気絶縁層とを、積層してなる積層体、
〔7〕前記〔6〕に記載の積層体の、電気絶縁層上にさらに導体層を形成してなる多層回路基板、並びに、
〔8〕前記〔7〕に記載の多層回路基板を備えた電子機器、
が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低線膨張であり、耐熱性及び配線埋め込み平坦性に優れ、樹脂強度にも優れた硬化物を与える硬化性樹脂組成物、並びに、硬化物、積層体、多層回路基板、及び電子機器を提供することができる。特に、本発明の硬化性樹脂組成物は、溶融粘度が低いため、硬化物とした場合に、線膨張が小さく、耐熱性、及び樹脂強度を良好に保ちながら、配線埋め込み平坦性を向上させることができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の硬化性樹脂組成物は、カルボキシル基および/またはカルボン酸無水物基を有する脂環式オレフィン重合体(A)、少なくとも2つの官能基と、脂環式オレフィン構造又はフルオレン構造とを有する硬化剤(B)、及び無機充填材(C)を含有してなり、前記無機充填材(C)の配合量が30〜90重量%である。
【0013】
(カルボキシル基および/またはカルボン酸無水物基を有する脂環式オレフィン重合体(A))
本発明で用いるカルボキシル基および/またはカルボン酸無水物基を有する脂環式オレフィン重合体(A)(以下、適宜、「脂環式オレフィン重合体(A)」と略記する。)を構成する脂環構造としては、シクロアルカン構造やシクロアルケン構造などが挙げられるが、機械的強度、耐熱性などの観点から、シクロアルカン構造が好ましい。また、脂環式構造としては、単環、多環、縮合多環、橋架け環や、これらを組み合わせてなる多環などが挙げられる。脂環式構造を構成する炭素原子数は、特に限定されないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個の範囲であり、環式構造を構成する炭素原子数がこの範囲にある場合に、機械的強度、耐熱性、及び成形性の諸特性が高度にバランスされ好適である。また、脂環式オレフィン重合体(A)は、通常、熱可塑性のものである。本明細書において「カルボン酸無水物基」とは、−CO−O−CO−で示される原子団をいう。
【0014】
脂環式オレフィン重合体(A)中の脂環式オレフィン由来の繰り返し単位の割合は、特に限定されないが、通常30〜100重量%、好ましくは50〜100重量%、より好ましくは70〜100重量%である。脂環式オレフィン由来の繰り返し単位の割合が過度に少ないと、耐熱性に劣り好ましくない。脂環式オレフィン由来の繰り返し単位以外の繰り返し単位としては、格別な限定はなく、目的に応じて適宜選択される。
【0015】
脂環式オレフィン重合体(A)に含有されるカルボキシル基および/またはカルボン酸無水物基は、重合体の主鎖を構成する原子に直接結合していても、メチレン基、オキシ基、オキシカルボニルオキシアルキレン基、フェニレン基などの他の二価の基を介して結合していてもよい。脂環式オレフィン重合体(A)中のカルボキシル基および/またはカルボン酸無水物基の含有率は、特に制限されないが、脂環式オレフィン重合体(A)を構成する全繰り返し単位のモル数に対して、通常5〜60モル%、好ましくは10〜50モル%である。
【0016】
本発明で用いる脂環式オレフィン重合体(A)は、たとえば、以下の方法により得ることができる。すなわち、(1)カルボキシル基および/またはカルボン酸無水物基(以下、適宜、「カルボキシル基等」とする。)を有する脂環式オレフィンを、必要に応じて他の単量体を加えて、重合する方法、(2)カルボキシル基等を有しない脂環式オレフィンを、カルボキシル基等を有する単量体と共重合する方法、(3)カルボキシル基等を有する芳香族オレフィンを、必要に応じて他の単量体を加えて、重合し、これにより得られる重合体の芳香環部分を水素化する方法、(4)カルボキシル基等を有しない芳香族オレフィンを、カルボキシル基等を有する単量体と共重合し、これにより得られる重合体の芳香環部分を水素化する方法、又は、(5)カルボキシル基等を有しない脂環式オレフィン重合体にカルボキシル基等を有する化合物を変性反応により導入する方法、もしくは(6)前述の(1)〜(5)のようにして得られるカルボン酸エステル基を有する脂環式オレフィン重合体のカルボン酸エステル基を、例えば加水分解することなどによりカルボキシル基に変換する方法などにより得ることができる。これらのなかでも、前述の(1)の方法によって得られる重合体が好適である。
本発明で用いる脂環式オレフィン重合体(A)を得る重合法は開環重合や付加重合が用いられるが、開環重合の場合には得られた開環重合体を水素添加することが好ましい。
【0017】
カルボキシル基および/またはカルボン酸無水物基を有する脂環式オレフィンの具体例としては、5−ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−カルボキシメチル−5−ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、9−ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−メチル−9−ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−カルボキシメチル−9−ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、5−エキソ−6−エンド−ジヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、9−エキソ−10−エンド−ジヒドロキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エンなどのカルボキシル基を有する脂環式オレフィン;ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン−9,10−ジカルボン酸無水物、ヘキサシクロ[10.2.1.13,10.15,8.02,11.04,9]ヘプタデカ−6−エン−13,14−ジカルボン酸無水物などのカルボン酸無水物基を有する脂環式オレフィン;などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0018】
また、カルボン酸エステル基を有する脂環式オレフィンとしては、9−メチル−9−メトキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンなどが挙げられる。
【0019】
カルボキシル基および/またはカルボン酸無水物基を有しない脂環式オレフィンの具体例としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、5−エチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ブチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−エチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ビニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−3,8−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、9−メチル−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−エチル−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−メチリデン−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−エチリデン−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−メトキシカルボニル−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−ビニル−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−プロペニル−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−フェニル−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ−3,5,7,12−テトラエン、シクロペンテン、シクロペンタジエンなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0020】
カルボキシル基および/またはカルボン酸無水物基を有しない芳香族オレフィンの例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0021】
脂環式オレフィンや芳香族オレフィンと共重合することができる、カルボキシル基および/またはカルボン酸無水物基を有する脂環式オレフィン以外の、カルボキシル基および/またはカルボン酸無水物基を有する単量体としては、カルボキシル基および/またはカルボン酸無水物基を有するエチレン性不飽和化合物が挙げられ、その具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、α−エチルアクリル酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸などの不飽和カルボン酸化合物;無水マレイン酸、ブテニル無水コハク酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水シトラコン酸などの不飽和カルボン酸無水物;などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0022】
脂環式オレフィンや芳香族オレフィンと共重合することができる、脂環式オレフィン以外の、カルボキシル基および/またはカルボン酸無水物基を有しない単量体としては、カルボキシル基および/またはカルボン酸無水物基を有しないエチレン性不飽和化合物が挙げられ、その具体例としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどの炭素数2〜20のエチレンまたはα−オレフィン;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、1,7−オクタジエンなどの非共役ジエン;などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0023】
また、本発明においては、カルボキシル基および/またはカルボン酸無水物基を有する脂環式オレフィン重合体(A)として、重量平均分子量が20,000以上100,000以下である重合体(以下、適宜、「高分子量脂環式オレフィン重合体(A1)」とする。)と、重量平均分子量が5,000以上20,000未満である重合体(以下、適宜、「低分子量脂環式オレフィン重合体(A2)」とする。)とを含有するものを用いることが好ましい。互いに分子量の異なる、高分子量脂環式オレフィン重合体(A1)と、低分子量脂環式オレフィン重合体(A2)と、を組み合わせて用いることで、硬化性樹脂組成物の溶融粘度と、得られる硬化物の樹脂強度とを高度にバランスさせることができる。
【0024】
高分子量脂環式オレフィン重合体(A1)と低分子量脂環式オレフィン重合体(A2)との配合割合は、「高分子量脂環式オレフィン重合体(A1)/低分子量脂環式オレフィン重合体(A2)」の重量比で、好ましくは5/95〜70/30であり、より好ましくは8/92〜50/50、さらに好ましくは12/88〜30/70である。高分子量脂環式オレフィン重合体(A1)が少なすぎると、硬化物とした際における樹脂強度が低下するおそれがあり、一方、低分子量脂環式オレフィン重合体(A2)が少なすぎると、溶融粘度が上昇し、硬化物とした場合における配線埋め込み平坦性が低下するおそれがある。
【0025】
なお、高分子量脂環式オレフィン重合体(A1)の重量平均分子量は、20,000以上100,000以下であり、好ましくは30,000以上80,000以下、より好ましくは40,000以上60,000以下である。高分子量脂環式オレフィン重合体(A1)の分子量が低すぎると、得られる硬化物の樹脂強度が低下するおそれがある。
【0026】
また、低分子量脂環式オレフィン重合体(A2)の重量平均分子量は、5,000以上20,000未満であり、好ましくは7,000以上17,000以下、より好ましくは9,000以上15,000以下である。低分子量脂環式オレフィン重合体(A2)の分子量が高すぎると、硬化性樹脂組成物の溶融粘度の低減効果が得難くなる場合がある。
【0027】
なお、高分子量脂環式オレフィン重合体(A1)および低分子量脂環式オレフィン重合体(A2)の重量平均分子量は、たとえば、テトロヒドロフランを溶媒として用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィにより、ポリスチレン換算として測定することができる。
【0028】
本発明で用いる脂環式オレフィン重合体(A)を、開環重合法により得る場合の重合触媒としては、従来公知のメタセシス重合触媒を用いることができる。メタセシス重合触媒としては、Mo,W,Nb,Ta,Ruなどの原子を含有してなる遷移金属化合物が例示され、なかでも、Mo,WまたはRuを含有する化合物は重合活性が高くて好ましい。特に好ましいメタセシス重合触媒の具体的な例としては、(1)ハロゲン基、イミド基、アルコキシ基、アリロキシ基またはカルボニル基を配位子として有する、モリブデンあるいはタングステン化合物を主触媒とし、有機金属化合物を第二成分とする触媒や、(2)Ruを中心金属とする金属カルベン錯体触媒を挙げることができる。
【0029】
上記(1)の触媒で主触媒として用いられる化合物の例としては、MoCl、MoBrなどのハロゲン化モリブデン化合物やWCl、WOCl、タングステン(フェニルイミド)テトラクロリド・ジエチルエーテルなどのハロゲン化タングステン化合物が挙げられる。また、上記(1)の触媒で、第二成分として用いられる有機金属化合物としては、周期表第1族、2族、12族、13族または14族の有機金属化合物を挙げることができる。なかでも、有機リチウム化合物、有機マグネシウム化合物、有機亜鉛化合物、有機アルミニウム化合物、有機スズ化合物が好ましく、有機リチウム化合物、有機アルミニウム化合物、有機スズ化合物が特に好ましい。有機リチウム化合物としては、n−ブチルリチウム、メチルリチウム、フェニルリチウム、ネオペンチルリチウム、ネオフィルリチウムなどを挙げることができる。有機マグネシウムとしては、ブチルエチルマグネシウム、ブチルオクチルマグネシウム、ジヘキシルマグネシウム、エチルマグネシウムクロリド、n−ブチルマグネシウムクロリド、アリルマグネシウムブロミド、ネオペンチルマグネシウムクロリド、ネオフィルマグネシウムクロリドなどを挙げることができる。有機亜鉛化合物としては、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、ジフェニル亜鉛などを挙げることができる。有機アルミニウム化合物としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、ジエチルアルミニウムエトキシド、エチルアルミニウムジエトキシドなどを挙げることができ、さらに、これらの有機アルミニウム化合物と水との反応によって得られるアルミノキサン化合物も用いることができる。有機スズ化合物としては、テトラメチルスズ、テトラ(n−ブチル)スズ、テトラフェニルスズなどを挙げることができる。これらの有機金属化合物の量は、用いる有機金属化合物によって異なるが、主触媒の中心金属に対して、モル比で、0.1〜10,000倍が好ましく、0.2〜5,000倍がより好ましく、0.5〜2,000倍が特に好ましい。
【0030】
また、上記(2)のRuを中心金属とする金属カルベン錯体触媒としては、(1,3−ジメシチル−イミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、トリシクロヘキシルホスフィン−〔1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−4,5−ジブロモイミダゾール−2−イリデン〕−〔ベンジリデン〕ルテニウムジクロリド、4−アセトキシベンジリデン(ジクロロ)(4,5−ジブロモ−1,3−ジメシチル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムなどが挙げられる。
【0031】
メタセシス重合触媒の使用割合は、重合に用いる単量体に対して、(メタセシス重合触媒中の遷移金属:単量体)のモル比で、通常1:100〜1:2,000,000の範囲であり、好ましくは1:200〜1:1,000,000の範囲である。触媒量が多すぎると触媒除去が困難となり、少なすぎると十分な重合活性が得られないおそれがある。
【0032】
重合反応は、通常、有機溶媒中で行なう。用いられる有機溶媒は、重合体が所定の条件で溶解または分散し、重合に影響しないものであれば、特に限定されないが、工業的に汎用されているものが好ましい。有機溶媒の具体例としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ビシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデンシクロヘキサン、シクロオクタンなどの脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン系脂肪族炭化水素;クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン系芳香族炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリルなどの含窒素炭化水素系溶媒;ジエチルエ−テル、テトラヒドロフランなどのエ−テル系溶媒;アニソール、フェネトールなどの芳香族エーテル系溶媒;などを挙げることができる。これらの中でも、工業的に汎用されている芳香族炭化水素系溶媒や脂肪族炭化水素系溶媒、脂環族炭化水素系溶媒、エーテル系溶剤、芳香族エーテル系溶媒が好ましい。
【0033】
有機溶媒の使用量は、重合溶液中の単量体の濃度が、1〜50重量%となる量であることが好ましく、2〜45重量%となる量であることがより好ましく、3〜40重量%となる量であることが特に好ましい。単量体の濃度が1重量%未満の場合は生産性が悪くなり、50重量%を超えると、重合後の溶融粘度が高すぎて、その後の水素添加反応が困難となる場合がある。
【0034】
重合反応は、重合に用いる単量体とメタセシス重合触媒とを混合することにより開始される。これらを混合する方法としては、単量体溶液にメタセシス重合触媒溶液を加えてもよいし、その逆でもよい。用いるメタセシス重合触媒が、主触媒である遷移金属化合物と第二成分である有機金属化合物とからなる混合触媒である場合には、単量体溶液に混合触媒の反応液を加えてもよいし、その逆でもよい。また、単量体と有機金属化合物との混合溶液に遷移金属化合物溶液を加えてもよいし、その逆でもよい。さらに、単量体と遷移金属化合物の混合溶液に有機金属化合物を加えてもよいし、その逆でもよい。
【0035】
重合温度は特に制限はないが、通常、−30℃〜200℃、好ましくは0℃〜180℃である。重合時間は、特に制限はないが、通常、1分間〜100時間である。
【0036】
得られる脂環式オレフィン重合体(A)の分子量を調整する方法としては、ビニル化合物またはジエン化合物を適当量添加する方法を挙げることができる。分子量調整に用いるビニル化合物は、ビニル基を有する有機化合物であれば特に限定されないが、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどのα−オレフィン類;スチレン、ビニルトルエンなどのスチレン類;エチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、アリルグリシジルエーテルなどのエーテル類;アリルクロライドなどのハロゲン含有ビニル化合物;酢酸アリル、アリルアルコール、グリシジルメタクリレートなど酸素含有ビニル化合物、アクリルアミドなどの窒素含有ビニル化合物などを挙げることができる。分子量調整に用いるジエン化合物としては、1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、2−メチル−1,4−ペンタジエン、2,5−ジメチル−1,5−ヘキサジエンなどの非共役ジエン、または、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエンなどの共役ジエンを挙げることができる。ビニル化合物またはジエン化合物の添加量は、目的とする分子量に応じて、重合に用いる単量体に対して、0.1〜10モル%の間で任意に選択することができる。
【0037】
本発明で用いる脂環式オレフィン重合体(A)を、付加重合法により得る場合の重合触媒としては、たとえば、チタン、ジルコニウムまたはバナジウム化合物と有機アルミニウム化合物とからなる触媒が好適に用いられる。これらの重合触媒は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合触媒の量は、重合触媒中の金属化合物:重合に用いる単量体のモル比で、通常、1:100〜1:2,000,000の範囲である。
【0038】
本発明で用いる脂環式オレフィン重合体(A)として、開環重合体の水素添加物を用いる場合の、開環重合体に対する水素添加は、通常、水素添加触媒を用いて行われる。水素添加触媒は特に限定されず、オレフィン化合物の水素添加に際して一般的に使用されているものを適宜採用すればよい。水素添加触媒の具体例としては、たとえば、酢酸コバルトとトリエチルアルミニウム、ニッケルアセチルアセトナートとトリイソブチルアルミニウム、チタノセンジクロリドとn−ブチルリチウム、ジルコノセンジクロリドとsec−ブチルリチウム、テトラブトキシチタネートとジメチルマグネシウムのような遷移金属化合物とアルカリ金属化合物との組み合わせからなるチーグラー系触媒;ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム、特開平7−2929号公報、特開平7−149823号公報、特開平11−209460号公報、特開平11−158256号公報、特開平11−193323号公報、特開平11−209460号公報などに記載されている、たとえば、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリジンルテニウム(IV)ジクロリドなどのルテニウム化合物からなる貴金属錯体触媒;などの均一系触媒が挙げられる。また、ニッケル、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウムなどの金属を、カーボン、シリカ、ケイソウ土、アルミナ、酸化チタンなどの担体に担持させた不均一触媒、たとえば、ニッケル/シリカ、ニッケル/ケイソウ土、ニッケル/アルミナ、パラジウム/カーボン、パラジウム/シリカ、パラジウム/ケイソウ土、パラジウム/アルミナなどを用いることもできる。また、上述したメタセシス重合触媒をそのまま、水素添加触媒として用いることも可能である。
【0039】
水素添加反応は、通常、有機溶媒中で行う。有機溶媒は生成する水素添加物の溶解性により適宜選択することができ、上述した重合反応に用いる有機溶媒と同様の有機溶媒を使用することができる。したがって、重合反応後、有機溶媒を入れ替えることなく、そのまま水素添加触媒を添加して反応させることもできる。さらに、上述した重合反応に用いる有機溶媒の中でも、水素添加反応に際して反応しないという観点から、芳香族炭化水素系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、脂環式炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒、及び芳香族エーテル系溶媒が好ましく、芳香族炭化水素系溶媒及び芳香族エーテル系溶媒がより好ましく、芳香族エーテル系溶媒が特に好ましい。
【0040】
水素添加反応条件は、使用する水素添加触媒の種類に応じて適宜選択すればよい。反応温度は、通常、−20〜250℃、好ましくは−10〜220℃、より好ましくは0〜200℃である。−20℃未満では反応速度が遅くなり、逆に250℃を超えると副反応が起こりやすくなる。水素の圧力は、通常、0.01〜10.0MPa、好ましくは0.05〜8.0MPaである。水素圧力が0.01MPa未満では水素添加速度が遅くなり、10.0MPaを超えると高耐圧反応装置が必要となる。
【0041】
水素添加反応の時間は、水素添加率をコントロールするために適宜選択される。反応時間は、通常、0.1〜50時間の範囲であり、重合体中の主鎖の炭素−炭素二重結合のうち50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上を水素添加することができる。
【0042】
水素添加反応を行った後、水素添加反応に用いた触媒を除去する処理を行ってもよい。触媒の除去方法は特に制限されず、遠心分離、濾過などの方法が挙げられる。さらに、水やアルコールなどの触媒不活性化剤を添加したり、また活性白土、アルミナ、珪素土などの吸着剤を添加したりして、触媒の除去を促進させることができる。
本発明で用いられる脂環式オレフィン重合体(A)は、重合や水素添加反応後の重合体溶液として使用しても、溶媒を除去した後に使用してもどちらでもよいが、硬化性樹脂組成物を調製する際に添加剤の溶解や分散が良好になるとともに、工程が簡素化できるため、重合体溶液として使用するのが好ましい。
【0043】
(硬化剤(B))
本発明の硬化性樹脂組成物は、少なくとも2つの官能基と、脂環式オレフィン構造又はフルオレン構造とを有する硬化剤(B)(以下、適宜、「硬化剤(B)」と略記する。)を含有する。
ここで、硬化剤(B)の有する少なくとも2つの官能基としては、脂環式オレフィン重合体(A)のカルボキシル基および/またはカルボン酸無水物基と反応して結合を形成することができる基であればよく、特に限定されない。当該官能基としては、例えば、エポキシ基、アミノ基、水酸基、及びイソシアネート基などが挙げられる。
【0044】
本発明で用いる硬化剤(B)としては、少なくとも2つの官能基と、脂環式オレフィン構造又はフルオレン構造とを有するエポキシ樹脂(B1)(以下、適宜、「エポキシ樹脂(B1)」と略記する。)、または、少なくとも2つの官能基と、脂環式オレフィン構造又はフルオレン構造とを有するフェノール樹脂(B2)(以下、適宜、「フェノール樹脂(B2)」と略記する。)が好ましく、硬化剤(B)としては、架橋密度を増加させて樹脂強度を向上させる観点から、これらエポキシ樹脂(B1)とフェノール樹脂(B2)とを組み合わせてなるものであることがより好ましい。
【0045】
なお、本発明に用いる硬化剤(B)において、「脂環式オレフィン構造」として、脂環中に少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を有してなる脂環式構造が好ましい。当該脂環式構造は単環構造であっても、多環構造であってもよい。また、「フルオレン構造」とは、以下の構造をいう。
【0046】
【化1】

【0047】
少なくとも2つの官能基と、脂環式オレフィン構造又はフルオレン構造とを有するエポキシ樹脂(B1)としては、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂〔たとえば、商品名「エピクロン(登録商標)HP7200L、エピクロン(登録商標)HP7200、エピクロン(登録商標)HP7200H、エピクロン(登録商標)HP7200HH」(以上、大日本インキ化学工業社製);商品名「Tactix(登録商標)558」(ハンツマン・アドバンスト・マテリアル社製);商品名「XD−1000−1L、XD−1000−2L」(以上、日本化薬社製)〕や、フルオレン骨格を有するエポキシ樹脂〔たとえば、商品名「オンコートEX−1010、オンコートEX−1011、オンコートEX−1012、オンコートEX−1020、オンコートEX−1030、オンコートEX−1040、オンコートEX−1050、オンコートEX−1051」(以上、長瀬産業社製);商品名「オグゾールPG−100、オグゾールEG−200、オグゾールEG−250)」(以上、大阪ガスケミカル社製)〕などが挙げられる。
【0048】
また、少なくとも2つの官能基と、脂環式オレフィン構造又はフルオレン構造とを有するフェノール樹脂(B2)としては、ジシクロペンタジエン骨格を有するフェノール樹脂〔たとえば、商品名「レヂトップGDP−6085、レヂトップGDP−6095LR、レヂトップGDP−6095HR、レヂトップGDP−6115L、レヂトップGDP−6115H、レヂトップGDP−6140」(群栄化学工業社製);商品名「J−DPP−95、J−DPP−115」(JFEケミカル社製)〕や、フルオレン骨格を有するフェノール樹脂〔たとえば、商品名「CP−001、CP−002、NV−203−R4」(大阪ガスケミカル社製);商品名「S−TPM−113、S−TPM−130」(JFEケミカル社製)〕などが挙げられる。
【0049】
エポキシ樹脂(B1)とフェノール樹脂(B2)との配合割合は、「エポキシ樹脂(B1)/フェノール樹脂(B2)」の重量比で、好ましくは80/20〜40/60、より好ましくは70/30〜50/50である。
【0050】
また、本発明の硬化性樹脂組成物中における、硬化剤(B)の配合量は、カルボキシル基および/またはカルボン酸無水物基を有する脂環式オレフィン重合体(A)100重量部に対して、好ましくは300〜1800重量部、より好ましくは350〜1500重量部、さらに好ましくは400〜1200重量部である。硬化剤(B)の配合量が少なすぎると、溶融粘度が高くなり配線埋め込み平坦性が確保できなくなる場合があり、一方、多すぎると、デスミア耐性が悪化する場合がある。
【0051】
(無機充填材(C))
無機充填材(C)としては、工業的に一般に使用されるものであれば特に限定されず、たとえば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸ジルコニウム、水和アルミナ、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、シリカ、タルク、クレーなどを挙げることができる。無機充填材(C)を配合することで、得られる硬化物の線膨張を低くすることができる。
【0052】
上述した無機充填材(C)の中でも、耐熱性、低吸水率、誘電特性、低不純物性、放熱性等に優れるという点より、シリカが好ましく、特に、その表面をシランカップリング剤で処理してなるシリカがより好ましい。特に、表面をシランカップリング剤で処理してなるシリカを用いることにより、得られる硬化物のデスミア耐性(過マンガン酸水溶液によるデスミア処理に対する耐性)を向上させることができる。なお、シランカップリング剤としては、特に限定されず、公知のものを使用することができる。
【0053】
本発明で用いられる無機充填材(C)は、平均粒子径が、好ましくは0.05〜1.5μmであり、より好ましくは0.1〜1μmである。無機充填材(C)の平均粒子径が小さすぎると、溶融粘度が高くなり埋め込み平坦性が確保できなくなる場合があり、一方、大きすぎると、微細な配線パターンを埋め込んだときに配線間のショートを引き起こす場合がある。なお、平均粒子径は、粒度分布測定装置により測定することができる。
【0054】
本発明の硬化性樹脂組成物中における、無機充填材(C)の配合割合は、30〜90重量%であり、好ましくは40〜80重量%、より好ましくは50〜70重量%である。本発明の硬化性樹脂組成物は、上述したカルボキシル基および/またはカルボン酸無水物基を有する脂環式オレフィン重合体(A)に、少なくとも2つの官能基と、脂環式オレフィン構造又はフルオレン構造とを有する硬化剤(B)、及び無機充填材(C)を配合してなるものであるため、無機充填材(C)の配合量を、30重量%以上と多くした場合でも、硬化性樹脂組成物の溶融粘度の上昇を抑えることができる。そして、得られる硬化物の樹脂強度を良好に保つことができ、これにより、得られる硬化物を低線膨張であり、かつ、配線埋め込み平坦性に優れたものとすることができる。また、無機充填材(C)を、多く配合することにより、得られる硬化物の線膨張の低減効果を向上させることができる。無機充填材(C)の配合量が、少なすぎると、得られる硬化物の線膨張係数が高くなる場合がある。一方、多すぎると、溶融粘度が高くなり埋め込み平坦性が確保できなく場合がある。
【0055】
また、本発明の硬化性樹脂組成物には、上記成分以外に、硬化促進剤や硬化助剤を配合してもよい。硬化促進剤としては、一般の電気絶縁膜形成用の硬化性樹脂組成物に配合される硬化促進剤を用いればよいが、たとえば、第3級アミン系化合物や三弗化ホウ素錯化合物などが硬化促進剤として好適に用いられる。なかでも、第3級アミン系化合物を使用すると、得られる硬化物の絶縁抵抗性、耐熱性、耐薬品性の向上効果が高いため、好ましい。
【0056】
第3級アミン系化合物の具体例としては、例えば、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリベンジルアミン、ジメチルホルムアミドなどの鎖状3級アミン化合物;ピラゾール類、ピリジン類、ピラジン類、ピリミジン類、インダゾール類、キノリン類、イソキノリン類、イミダゾール類、トリアゾール類などの化合物が挙げられる。これらの中でも、イミダゾール類、特に置換基を有する置換イミダゾール化合物が好ましい。
【0057】
置換イミダゾール化合物の具体例としては、たとえば、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、ビス−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−メチル−2−エチルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾールなどのアルキル置換イミダゾール化合物;2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−エチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、ベンズイミダゾール、2−エチル−4−メチル−1−(2’−シアノエチル)イミダゾール、2−エチル−4−メチル−1−[2’−(3’’,5’’−ジアミノトリアジニル)エチル]イミダゾールなどのアリール基やアラルキル基などの環構造を含有する炭化水素基で置換されたイミダゾール化合物などが挙げられる。これらの中でも、環構造含有の置換基を有するイミダゾールが官能基を有する脂環式オレフィン重合体(A)との相溶性の観点から好ましく、特に、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾールが好ましい。
【0058】
これらの硬化促進剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。硬化促進剤の配合量は、使用目的に応じて適宜選択すればよいが、カルボキシル基および/またはカルボン酸無水物基を有する脂環式オレフィン重合体(A)100重量部に対して、通常、0.001〜30重量部、好ましくは0.01〜10重量部、より好ましくは0.03〜5重量部である。
【0059】
硬化助剤としては、一般の電気絶縁膜形成用の硬化性樹脂組成物に配合される硬化助剤を用いればよいが、その具体例としては、キノンジオキシム、ベンゾキノンジオキシム、p−ニトロソフェノールなどのオキシム・ニトロソ系硬化助剤;N,N−m−フェニレンビスマレイミドなどのマレイミド系硬化助剤;ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートなどのアリル系硬化助剤;エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートなどのメタクリレート系硬化助剤;ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、ジビニルベンゼンなどのビニル系硬化助剤;などが挙げられる。これらの硬化助剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。硬化助剤の配合割合は、硬化剤(B)100重量部に対して、通常、1〜1000重量部、好ましくは10〜500重量部の範囲である。
【0060】
また、本発明の硬化性樹脂組成物には、必要に応じて、ゴム質重合体や、上記した脂環式オレフィン重合体(A)以外のその他の熱可塑性樹脂を配合することができる。ゴム質重合体としては、常温(25℃)以下のガラス転移温度を持つ重合体であり、一般的なゴム状重合体および熱可塑性エラストマーが含まれる。本発明の硬化性樹脂組成物に、ゴム質重合体やその他の熱可塑性樹脂を配合することにより、得られる硬化物の柔軟性改良することができる。用いるゴム質重合体のムーニー粘度(ML1+4,100℃)は、適宜選択すればよいが、通常、5〜200である。
【0061】
ゴム状重合体の具体例としては、エチレン−α−オレフィン系ゴム状重合体;エチレン−α−オレフィン−ポリエン共重合体ゴム;エチレン−メチルメタクリレート、エテレン−ブチルアクリレートなどのエチレンと不飽和カルボン酸エステルとの共重合体;エチレン−酢酸ビニルなどのエチレンと脂肪酸ビニルとの共重合体;アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリルなどのアクリル酸アルキルエステルの重合体;ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエンまたはスチレン−イソプレンのランダム共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ブタジエン−イソプレン共重合体、ブタジエン−(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、ブタジエン−(メタ)アクリル酸アルキルエステル−アクリロニトリル共重合体、ブタジエン−(メタ)アクリル酸アルキルエステル−アクリロニトリル−スチレン共重合体などのジエン系ゴム;エポキシ化ポリブタジエンなどの変性ジエン系ゴム;ブチレン−イソプレン共重合体;などが挙げられる。
【0062】
熱可塑性エラストマーの具体例としては、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、水素化スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、水素化スチレン−イソプレンブロック共重合体などの芳香族ビニル−共役ジエン系ブロック共重合体、低結晶性ポリブタジエン樹脂、エチレン−プロピレンエラストマー、スチレングラフトエチレン−プロピレンエラストマー、熱可塑性ポリエステルエラストマー、エチレン系アイオノマー樹脂などが挙げられる。これらの熱可塑性エラストマーのうち、水素化スチレン−ブタジエンブロック共重合体、水素化スチレン−イソプレンブロック共重合体が好ましく、具体的には、特開平2−133406号公報、特開平2−305814号公報、特開平3−72512号公報、特開平3−74409号公報などに記載されているものが好ましく用いられる。
【0063】
その他の熱可塑性樹脂としては、たとえば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、セルローストリアセテートなどが挙げられる。
【0064】
上述したゴム状重合体やその他の熱可塑性樹脂は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択されるが、脂環式オレフィン重合体(A)100重量部に対して、30重量部以下の配合量とすることが好ましい。
【0065】
本発明の硬化性樹脂組成物には、硬化物とした際における難燃性を向上させる目的で、例えば、ハロゲン系難燃剤やリン酸エステル系難燃剤などの一般の電気絶縁膜形成用の硬化性樹脂組成物に配合される難燃剤を配合してもよい。本発明の硬化性樹脂組成物に難燃剤を配合する場合の配合量は、脂環式オレフィン重合体(A)100重量部に対して、好ましくは100重量部以下であり、より好ましくは60重量部以下である。
【0066】
また、本発明の硬化性樹脂組成物には、さらに必要に応じて、難燃助剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、老化防止剤、紫外線吸収剤(レーザー加工性向上剤)、レベリング剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、染料、天然油、合成油、ワックス、乳剤、磁性体、誘電特性調整剤、靭性剤などの任意成分を配合してもよい。これらの任意成分の配合割合は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択すればよい。
本発明の硬化性樹脂組成物の製造方法としては、特に限定されるものではなく、上記各成分を、そのまま混合してもよいし、有機溶剤に溶解もしくは分散させた状態で混合してもよいし、上記各成分の一部を有機溶剤に溶解もしくは分散させた状態の組成物を調製し、当該組成物に残りの成分を混合してもよい。
【0067】
(硬化物)
本発明の硬化物は、上述した本発明の硬化性樹脂組成物を硬化してなるものである。本発明の硬化物を得る際には、本発明の硬化性樹脂組成物を、シート状またはフィルム状に成形して成形体とし、あるいは、本発明の硬化性樹脂組成物を、繊維基材に含浸させて、シート状またはフィルム状の複合成形体とし、得られた成形体または複合成形体を加熱することにより、得ることが好ましい。
【0068】
本発明の硬化性樹脂組成物を、シート状またはフィルム状に成形して成形体とする際には、本発明の硬化性樹脂組成物を、必要に応じて有機溶剤を添加して、支持体に塗布、散布または流延し、次いで乾燥することより得ることが好ましい。
【0069】
この際に用いる支持体としては、樹脂フィルムや金属箔などが挙げられる。樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリアリレートフィルム、ナイロンフィルムなどが挙げられる。これらのフィルムのうち、耐熱性、耐薬品性、剥離性などの観点からポリエチレンテレフタレートフィルムまたはポリエチレンナフタレートフィルムが好ましい。金属箔としては、銅箔、アルミ箔、ニッケル箔、クロム箔、金箔、銀箔などが挙げられる。
【0070】
シート状またはフィルム状の成形体の厚さは、特に限定されないが、作業性などの観点から、通常、1〜150μm、好ましくは2〜100μm、より好ましくは5〜80μmである。また、支持体の表面平均粗さRaは、通常、300nm以下、好ましくは150nm以下、より好ましくは100nm以下である。
【0071】
本発明の硬化性樹脂組成物を塗布する方法としては、ディップコート、ロールコート、カーテンコート、ダイコート、スリットコート、グラビアコートなどが挙げられる。
【0072】
なお、本発明で用いる成形体においては、本発明の硬化性樹脂組成物が未硬化または半硬化の状態であることが好ましい。ここで未硬化とは、成形体を、脂環式オレフィン重合体(A)を溶解可能な溶剤に漬けたときに、実質的に脂環式オレフィン重合体(A)の全部が溶解する状態をいう。また、半硬化とは、加熱すれば更に硬化しうる程度に途中まで硬化された状態であり、好ましくは、脂環式オレフィン重合体(A)を溶解可能な溶剤に脂環式オレフィン重合体(A)の一部(具体的には7重量%以上)が溶解する状態であるか、あるいは、溶剤中に成形体を24時間浸漬した後の体積が、浸漬前の体積の200%以上(膨潤率)である状態をいう。
【0073】
また、本発明の硬化性樹脂組成物を、支持体上に塗布した後、必要に応じて、乾燥を行ってもよい。乾燥温度は、本発明の硬化性樹脂組成物が硬化しない程度の温度とすることが好ましく、通常、20〜300℃、好ましくは30〜200℃である。乾燥温度が高すぎると、硬化反応が進行しすぎて、得られる成形体が未硬化または半硬化の状態とならなくなるおそれがある。また、乾燥時間は、通常、30秒間〜1時間、好ましくは1分間〜30分間である。
【0074】
そして、このようにして得られた成形体は、支持体上に付着させた状態で、または支持体からはがして、使用される。
【0075】
あるいは、シート状またはフィルム状の成形体に代えて、本発明の硬化性樹脂組成物を、繊維基材に含浸させて、シート状またはフィルム状の複合成形体とし、得られた複合成形体を、加熱することにより硬化物を得てもよい。
【0076】
この場合に用いる繊維基材としては、たとえば、ロービングクロス、チョップドマット、サーフェシングマットなどの織布、不織布;繊維の束や塊などが挙げられる。これら繊維基材の中で、寸法安定性の観点からは織布が好ましく、加工性の観点からは不織布が好ましい。
【0077】
シート状またはフィルム状の複合成形体の厚さは、特に限定されないが、作業性などの観点から、通常、1〜150μm、好ましくは2〜100μm、より好ましくは5〜80μmである。また、複合成形体中の繊維基材の量は、通常、20〜90重量%、好ましくは30〜85重量%である。
【0078】
本発明の硬化性樹脂組成物を、繊維基材に含浸させる方法としては、特に限定されないが、粘度などを調整するために本発明の硬化性樹脂組成物に有機溶剤を添加し、有機溶剤を添加した硬化性樹脂組成物に繊維基材を浸漬する方法、有機溶剤を添加した硬化性樹脂組成物を繊維基材に塗布や散布する方法などが挙げられる。塗布または散布する方法においては、支持体の上に繊維基材を置いて、これに、有機溶剤を添加した硬化性樹脂組成物を塗布または散布することができる。なお、本発明で用いる複合成形体においては、上述した成形体と同様に、本発明の硬化性樹脂組成物が未硬化または半硬化の状態で含有されていることが好ましい。
【0079】
また、本発明の硬化性樹脂組成物を、繊維基材に含浸させた後、必要に応じて、乾燥を行ってもよい。乾燥温度は、本発明の硬化性樹脂組成物が硬化しない程度の温度とすることが好ましく、通常、20〜300℃、好ましくは30〜200℃である。乾燥温度が高すぎると、硬化反応が進行しすぎて、得られる複合成形体が未硬化または半硬化の状態とならなくなるおそれがある。また、乾燥時間は、通常、30秒間〜1時間、好ましくは1分間〜30分間である。
【0080】
そして、本発明の硬化物は、上述した成形体または複合成形体を、加熱し、硬化させることにより、得ることができる。
【0081】
硬化条件は硬化剤(B)の種類に応じて適宜選択されるが、硬化温度は、通常、30〜400℃、好ましくは70〜300℃、より好ましくは100〜200℃である。また、硬化時間は、0.1〜5時間、好ましくは0.5〜3時間である。加熱の方法は特に制限されず、例えば電気オーブンなどを用いて行えばよい。
【0082】
(積層体)
本発明の積層体は、表面に導体層を有する基板と、上述した本発明の硬化物からなる電気絶縁層とを積層してなる。
【0083】
表面に導体層を有する基板は、電気絶縁性基板の表面に導体層を有するものである。電気絶縁性基板は、公知の電気絶縁材料(たとえば、脂環式オレフィン重合体、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、トリアジン樹脂、ポリフェニルエーテル、ガラス等)を含有する硬化性樹脂組成物を硬化して形成されたものである。導体層は、特に限定されないが、通常、導電性金属等の導電体により形成された配線を含む層であって、更に各種の回路を含んでいてもよい。配線や回路の構成、厚み等は、特に限定されない。表面に導体層を有する基板の具体例としては、プリント配線基板、シリコンウェーハ基板等を挙げることができる。表面に導体層を有する基板の厚みは、通常、10μm〜10mm、好ましくは20μm〜5mm、より好ましくは30μm〜2mmである。
【0084】
本発明で用いる表面に導体層を有する基板は、電気絶縁層との密着性を向上させるために、導体層表面に前処理が施されていることが好ましい。前処理の方法としては、公知の技術を、特に限定されず使用することができる。例えば、導体層が銅からなるものであれば、強アルカリ酸化性溶液を導体層表面に接触させて、導体表面に酸化銅の層を形成して粗化する酸化処理方法、導体層表面を先の方法で酸化した後に水素化ホウ素ナトリウム、ホルマリンなどで還元する方法、導体層にめっきを析出させて粗化する方法、導体層に有機酸を接触させて銅の粒界を溶出して粗化する方法、および導体層にチオール化合物やシラン化合物などによりプライマー層を形成する方法等が挙げられる。これらの内、微細な配線パターンの形状維持の容易性の観点から、導体層に有機酸を接触させて銅の粒界を溶出して粗化する方法、及び、チオール化合物やシラン化合物などによりプライマー層を形成する方法が好ましい。
【0085】
本発明の積層体は、通常、表面に導体層を有する基板上に、上述した成形体(本発明の硬化性樹脂組成物を、シート状またはフィルム状に成形してなる成形体)、または複合成形体(本発明の硬化性樹脂組成物を、繊維基材に含浸させてなる複合成形体)を加熱圧着し、成形体または複合成形体を硬化して、本発明の硬化物からなる電気絶縁層を形成することにより製造できる。
【0086】
加熱圧着の方法としては、支持体付きの成形体または複合成形体を、上述した基板の導体層に接するように重ね合わせ、加圧ラミネータ、プレス、真空ラミネータ、真空プレス、ロールラミネータなどの加圧機を使用して加熱圧着(ラミネーション)する方法が挙げられる。加熱加圧することにより、基板表面の導体層と成形体または複合成形体との界面に空隙が実質的に存在しないように結合させることができる。
【0087】
加熱圧着操作の温度は、通常、30〜250℃、好ましくは70〜200℃であり、加える圧力は、通常、10kPa〜20MPa、好ましくは100kPa〜10MPaであり、時間は、通常、30秒〜5時間、好ましくは1分〜3時間である。また、加熱圧着は、配線パターンの埋め込み性を向上させ、気泡の発生を抑えるために減圧下で行うのが好ましい。加熱圧着を行う減圧下の圧力は、通常100kPa〜1Pa、好ましくは40kPa〜10Paである。
【0088】
そして、加熱圧着される成形体または複合成形体の硬化を行い、電気絶縁層を形成することで、本発明の積層体が製造される。硬化は、通常、導体層上に成形体または複合成形体が形成された基板全体を加熱することにより行う。硬化は、上述した加熱圧着操作と同時に行うことができる。また、先ず加熱圧着操作を硬化の起こらない条件、すなわち比較的低温、短時間で行った後、硬化を行ってもよい。
【0089】
また、電気絶縁層の平坦性を向上させる目的や、電気絶縁層の厚みを増す目的で、基板の導体層上に成形体または複合成形体を2以上接して貼り合わせて積層してもよい。
【0090】
(多層回路基板)
本発明の多層回路基板は、上述した本発明の積層体の電気絶縁層上に、さらに別の導体層を形成してなるものである。以下、本発明の多層回路基板の製造方法について、説明する。
【0091】
まず、積層体に、電気絶縁層を貫通するビアホールやスルーホールを形成する。ビアホールは、多層回路基板とした場合に、多層回路基板を構成する各導体層を連結するために形成される。ビアホールやスルーホールは、フォトリソグラフィ法のような化学的処理により、または、ドリル、レーザー、プラズマエッチングなどの物理的処理などにより形成することができる。これらの方法の中でもレーザーによる方法(炭酸ガスレーザー、エキシマレーザー、UV−YAGレーザーなど)は、より微細なビアホールを電気絶縁層の特性を低下させずに形成できるので好ましい。
【0092】
次に、積層体の電気絶縁層(すなわち、本発明の硬化物)の表面を、過マンガン酸塩の水溶液で粗化する表面粗化処理を行う。表面粗化処理は、電気絶縁層上に形成する導電層との接着性を高めるために行う。
電気絶縁層の表面平均粗さRaは、好ましくは0.05μm以上0.3μm未満、より好ましくは0.06μm以上0.2μm以下であり、かつ表面十点平均粗さRzjisは、好ましくは0.3μm以上4μm未満、より好ましくは0.5μm以上2μm以下である。なお、本明細書において、RaはJIS B0601−2001に示される中心線平均粗さであり、表面十点平均粗さRzjisは、JIS B0601−2001付属書1に示される十点平均粗さである。
【0093】
表面粗化処理方法としては、特に限定されないが、電気絶縁層表面と酸化性化合物とを接触させる方法などが挙げられる。酸化性化合物としては、無機酸化性化合物や有機酸化性化合物などの酸化能を有する公知の化合物が挙げられる。電気絶縁層の表面平均粗さの制御の容易さから、無機酸化性化合物や有機酸化性化合物を用いるのが特に好ましい。無機酸化性化合物としては、過マンガン酸塩、無水クロム酸、重クロム酸塩、クロム酸塩、過硫酸塩、活性二酸化マンガン、四酸化オスミウム、過酸化水素、過よう素酸塩などが挙げられる。有機酸化性化合物としてはジクミルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、m−クロロ過安息香酸、過酢酸、オゾンなどが挙げられる。
【0094】
無機酸化性化合物や有機酸化性化合物を用いて電気絶縁層表面を表面粗化処理する方法に格別な制限はない。例えば、上記酸化性化合物を溶解可能な溶媒に溶解して調製した酸化性化合物溶液を電気絶縁層表面に接触させる方法が挙げられる。
たとえば、上述した酸化性化合物を溶解可能な溶媒に溶解して調製した酸化性化合物溶液を電気絶縁層表面に接触させる方法が挙げられる。酸化性化合物溶液を、電気絶縁層の表面に接触させる方法としては、特に限定されないが、たとえば、電気絶縁層を酸化性化合物溶液に浸漬するディップ法、酸化性化合物溶液の表面張力を利用して、酸化性化合物溶液を、電気絶縁層に載せる液盛り法、酸化性化合物溶液を、電気絶縁層に噴霧するスプレー法、などいかなる方法であってもよい。表面粗化処理を行うことにより、電気絶縁層の、導体層など他の層との間の密着性を向上させることができる。
【0095】
これらの酸化性化合物溶液を電気絶縁層表面に接触させる温度や時間は、酸化性化合物の濃度や種類、接触方法などを考慮して、任意に設定すればよいが、温度は、通常、10〜250℃、好ましくは20〜180℃であり、時間は、通常、0.5〜60分間、好ましくは1〜40分間である。
【0096】
なお、表面粗化処理後、酸化性化合物を除去するため、表面粗化処理後の電気絶縁層表面を水で洗浄する。また、水だけでは洗浄しきれない物質が付着している場合には、その物質を溶解可能な洗浄液でさらに洗浄したり、他の化合物と接触させたりすることにより水に可溶な物質にしてから水で洗浄する。例えば、過マンガン酸カリウム水溶液や過マンガン酸ナトリウム水溶液などのアルカリ性水溶液を電気絶縁層と接触させた場合は、発生した二酸化マンガンの皮膜を除去する目的で、硫酸ヒドロキシアミンと硫酸との混合液などの酸性水溶液により中和還元処理した後に水で洗浄することができる。
【0097】
次いで、積層体の電気絶縁層について表面粗化処理を行った後、電気絶縁層の表面およびビアホールやスルーホールの内壁面に、導体層を形成する。
導体層の形成方法は、特に限定されないが、密着性に優れる導体層を形成する観点からめっき法が好ましい。
【0098】
導体層をめっき法により形成する方法としては特に限定されず、例えば、電気絶縁層上にめっきなどにより金属薄膜を形成し、次いで厚付けめっきにより金属層を成長させる方法を採用することができる。
【0099】
たとえば、金属薄膜の形成を無電解めっきにより行う場合、金属薄膜を電気絶縁層の表面に形成させる前に、電気絶縁層上に、銀、パラジウム、亜鉛、コバルトなどの触媒核を付着させるのが一般的である。触媒核を電気絶縁層に付着させる方法は特に制限されず、例えば、銀、パラジウム、亜鉛、コバルトなどの金属化合物やこれらの塩や錯体を、水またはアルコールもしくはクロロホルムなどの有機溶剤に0.001〜10重量%の濃度で溶解した液(必要に応じて酸、アルカリ、錯化剤、還元剤などを含有していてもよい。)に浸漬した後、金属を還元する方法などが挙げられる。
【0100】
無電解めっき法に用いる無電解めっき液としては、公知の自己触媒型の無電解めっき液を用いればよく、めっき液中に含まれる金属種、還元剤種、錯化剤種、水素イオン濃度、溶存酸素濃度などは特に限定されない。例えば、次亜リン酸アンモニウム、次亜リン酸、水素化硼素アンモニウム、ヒドラジン、ホルマリンなどを還元剤とする無電解銅めっき液;次亜リン酸ナトリウムを還元剤とする無電解ニッケル−リンめっき液;ジメチルアミンボランを還元剤とする無電解ニッケル−ホウ素めっき液;無電解パラジウムめっき液;次亜リン酸ナトリウムを還元剤とする無電解パラジウム−リンめっき液;無電解金めっき液;無電解銀めっき液;次亜リン酸ナトリウムを還元剤とする無電解ニッケル−コバルト−リンめっき液などの無電解めっき液を用いることができる。
【0101】
金属薄膜を形成した後、基板表面を防錆剤と接触させて防錆処理を施すことができる。また、金属薄膜を形成した後、密着性向上などのため、金属薄膜を加熱することもできる。加熱温度は、通常、50〜350℃、好ましくは80〜250℃である。なお、この際において、加熱は加圧条件下で実施してもよい。このときの加圧方法としては、例えば、熱プレス機、加圧加熱ロール機などの物理的加圧手段を用いる方法が挙げられる。加える圧力は、通常、0.1〜20MPa、好ましくは0.5〜10MPaである。この範囲であれば、金属薄膜と電気絶縁層との高い密着性が確保できる。
【0102】
このようにして形成された金属薄膜上にめっき用レジストパターンを形成し、更にその上に電解めっきなどの湿式めっきによりめっきを成長させ(厚付けめっき)、次いで、レジストを除去し、更にエッチングにより金属薄膜をパターン状にエッチングして導体層を形成する。従って、この方法により形成される導体層は、通常、パターン状の金属薄膜と、その上に成長させためっきとからなる。
【0103】
以上のようにして得られた多層回路基板を、上述した積層体を製造するための基板とし、これを上述した成形体または複合成形体とを加熱圧着し、硬化して電気絶縁層を形成し、さらにこの上に、上述した方法に従い、導電層の形成を行い、これらを繰り返すことにより、更なる多層化を行うことができ、これにより所望の多層回路基板とすることができる。
【0104】
このようにして得られる本発明の多層回路基板は、本発明の硬化性樹脂組成物からなる電気絶縁層(本発明の硬化物)を有してなり、該電気絶縁層は、低線膨張であり、耐熱性、配線埋め込み平坦性、及び樹脂強度に優れるものであるため、本発明の多層回路基板は、各種用途に好適に用いることができる。
【0105】
(電子機器)
本発明の電子機器は、上述した本発明の多層回路基板を備えてなるものである。
本発明の電子機器としては、特に制限されないが、例えば、携帯電話機、PHS、ノート型パソコン、PDA(携帯情報端末)、携帯テレビ電話機、パーソナルコンピューター、スーパーコンピューター、サーバー、ルーター、液晶プロジェクタ、エンジニアリング・ワークステーション(EWS)、ページャ、ワードプロセッサ、テレビ、ビューファインダ型またはモニタ直視型のビデオテープレコーダ、電子手帳、電子卓上計算機、カーナビゲーション装置、POS端末、タッチパネルを備えた装置などが挙げられる。本発明によれば、本発明の電子機器を、本発明の多層回路基板を備えてなるものとすることにより、高性能で高品質なものとすることができる。
【実施例】
【0106】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。各例中の部及び%は、特に断りのない限り、重量基準である。
なお、各特性の定義及び評価方法は、以下のとおりである。
【0107】
(1)脂環式オレフィン重合体の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)
テトラヒドロフランを展開溶媒として、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定し、ポリスチレン換算値として求めた。
【0108】
(2)脂環式オレフィン重合体の水素添加率
水素添加率は、水素添加前における脂環式オレフィン重合体中の不飽和結合のモル数に対する水素添加された不飽和結合のモル数の比率をいい、400MHzの1H−NMRスペクトル測定により求めた。
【0109】
(3)脂環式オレフィン重合体のカルボン酸無水物基を有する繰り返し単位の含有率
脂環式オレフィン重合体中の総単量体単位モル数に対するカルボン酸無水物基を有する繰り返し単位のモル数の割合をいい、400MHzの1H−NMRスペクトル測定により求めた。
【0110】
(4)溶融粘度
硬化性樹脂組成物のフィルム成形体を15枚重ね合わせ、厚さ600μmの板状のサンプルを作製した。この動的粘弾性率測定をジャスコインターナショナル社製VAR100 VISCOANALYSER ETC−3を用いて昇温速度は5℃/分、開始温度50℃、測定温度間隔2.5℃、振動1Hz/degで測定し、100℃〜130℃における最低溶融粘度を以下の基準で評価した。
◎:50Pa・s未満
○:50Pa・s以上、100Pa・s未満
△:100Pa・s以上、500Pa・s未満
×:500Pa・s以上
【0111】
(5)線膨張係数
銅張り積層基板の上に厚さ10μmの銅箔をのせ、その上から硬化性樹脂組成物のフィルム成形体を、支持体が付いた状態で、硬化性樹脂組成物が内側になるようにして、耐熱性ゴム製プレス板を上下に備えた真空ラミネータを用い、200Paに減圧して、温度110℃、圧力0.1MPaで60秒間加熱圧着積層し、その後180℃で120分間空気中で加熱硬化した。硬化後、銅箔付き硬化樹脂を切り出し、銅箔を1mol/Lの過硫酸アンモニウム水溶液にて溶解し、フィルム状の硬化物を得た。得られたフィルム状の硬化物から幅5.95mm、長さ15.4mm、厚さ30μmの小片を切り出し、支点間距離10mm、昇温速度10℃/分の条件で、熱重量/示差熱同時測定装置(TMA/SDTA840:メトラー・トレド社製)により、線膨張係数の測定を行い、以下の基準で評価した。
◎:線膨張係数の値が、25ppm/℃未満
○:線膨張係数の値が、25ppm/℃以上、40ppm/℃未満
△:線膨張係数の値が、40ppm/℃以上、55ppm/℃未満
×:線膨張係数の値が、55ppm/℃以上
【0112】
(6)ガラス転移温度(Tg)
上記(5)と同様にしてフィルム状の硬化物を得た。得られた硬化物フィルムのガラス転移温度(Tg)は、動的粘弾性分析(DMA法)の損失正接のピーク温度から求め、ガラス転移温度(Tg)を以下の基準で評価した。
◎:ガラス転移温度が、170℃以上
○:ガラス転移温度が、160℃以上、170℃未満
△:ガラス転移温度が、150℃以上、160℃未満
×:ガラス転移温度が、150℃未満
【0113】
(7)デスミア耐性
ビアホールを有する積層体を80℃の過マンガン酸水溶液中に30分間浸漬しデスミア処理を行った。そして、デスミア処理後のビアホールを光学顕微鏡(倍率:2000倍)で観察し、以下の基準で、デスミア耐性を評価した。
◎:ビアホールのトップ径の変化率が10%未満
○:ビアホールのトップ径の変化率が10%以上、15%未満
△:ビアホールのトップ径の変化率が15%以上、20%未満
×:ビアホールのトップ径の変化率が20%以上
【0114】
(8)樹脂強度
ビアホールを有する積層体を80℃の過マンガン酸水溶液中に30分間浸漬し、デスミア処理を行った。そして、デスミア処理後のビアホールを光学顕微鏡で観察し、以下の基準で、樹脂強度を評価した。
◎:ビアホール周りにクラック無し
○:ビアホール1000穴中でクラックが1個発生
△:ビアホール1000穴中でクラックが2個以上、10個以下発生
×:ビアホール1000穴中でクラックが11個以上発生
【0115】
(9)配線埋め込み平坦性
銅厚さ35μm、L /S=50/50、100/100、又は200/200μmの配線パターンを形成した銅張り積層基板を作製した。これに樹脂厚さ40μmの硬化性樹脂組成物フィルムを真空ラミネーターを用いて積層し、180℃で60分間硬化した。硬化後、パターンのある部分とパターンのない部分との段差を触針式段差膜厚計(Tencor Instruments製 P−10)にて測定し、以下の基準で、配線埋め込み平坦性を評価した。
◎:段差が1μm未満
○:段差が1μm以上、2μm未満
△:段差が2μm以上、3μm未満
×:段差が3μm以上
【0116】
製造例1
テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ−3,5,7,12−テトラエン(メタノテトラヒドロフルオレン、以下、「MTF」と略記する。)70モル部、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物(以下、「NDCA」と略記する)30モル部、1−ヘキセン0.9モル部、アニソール590モル部およびルテニウム系重合触媒として4−アセトキシベンジリデン(ジクロロ)(4,5−ジブロモ−1,3−ジメシチル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム(和光純薬社製)0.015モル部を、窒素置換した耐圧ガラス反応器に仕込み、攪拌下に80℃で1時間の重合反応を行って開環重合体の溶液を得た。次いで、窒素置換した攪拌機付きオートクレーブに、得られた開環重合体の溶液を仕込み、150℃、水素圧7MPaで、5時間攪拌させて水素添加反応を行って、高分子量脂環式オレフィン重合体(A1)の溶液を得た。得られた脂環式オレフィン重合体(A1)の重量平均分子量は50,000、数平均分子量は26,000、分子量分布は1.9であった。また、水素添加率は97%であり、カルボン酸無水物基を有する繰り返し単位の含有率は30モル%であった。脂環式オレフィン重合体(A1)の溶液の固形分濃度は25%であった。
【0117】
製造例2
MTF 70モル部、NDCA 30モル部、1−ヘキセン6モル部、アニソール590モル部およびルテニウム系重合触媒として4−アセトキシベンジリデン(ジクロロ)(4,5−ジブロモ−1,3−ジメシチル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム(和光純薬社製)0.015モル部を、窒素置換した耐圧ガラス反応器に仕込み、攪拌下に80℃で1時間の重合反応を行って開環重合体の溶液を得た。次いで、窒素置換した攪拌機付きオートクレーブに、得られた開環重合体の溶液を仕込み、150℃、水素圧7MPaで、5時間攪拌させて水素添加反応を行って、低分子量脂環式オレフィン重合体(A2)の溶液を得た。得られた低分子量脂環式オレフィン重合体(A2)の重量平均分子量は10,000、数平均分子量は5,000、分子量分布は2であった。また、水素添加率は97%であり、カルボン酸無水物基を有する繰り返し単位の含有率は30モル%であった。その溶液からアニソールを減圧留去し、固形分濃度を50%にした。
【0118】
実施例1
(硬化性樹脂組成物)
製造例1で得られた高分子量脂環式オレフィン重合体(A1)10部、製造例2で得られた低分子量脂環式オレフィン重合体(A2)50部、エポキシ樹脂(B1)としてのジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂(商品名「エピクロンHP7200L」、大日本インキ化学工業社製)28部、エポキシ樹脂(B1)としてのフルオレン骨格を有するエポキシ樹脂(商品名「オグゾールPG100」、大阪ガスケミカル社製)106部、フェノール樹脂(B2)としてのジシクロペンタジエン骨格を有するフェノール樹脂(商品名「レヂトップGDP−6095LR」、群栄化学工業社製)79部、フェノール樹脂(B2)としてのフルオレン骨格を有するフェノール樹脂(商品名「CP−001」、大阪ガスケミカル社製)35部、その他硬化剤として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(jER828EL、三菱化学社製)28部、多官能エポキシ樹脂(jER1032H60、三菱化学社製)23部、無機充填材(C)としてのシランカップリング剤処理シリカ(商品名「アドマファインシリカSC2500−SXJ」、アドマテックス社製)660部、レーザ加工性向上剤としての2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルべンジル)フェニル]べンゾトリアゾール1部、老化防止剤としてトリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレート1部、及び、硬化促進剤としての1−べンジル−2−フェニルイミダゾール1部をアニソール343部に混合して、硬化性樹脂組成物を得た。なお、得られた硬化性樹脂組成物中における、シランカップリング剤処理シリカの含有割合は、65重量%であった。そして、得られた硬化性樹脂組成物について、上記方法に従い、溶融粘度の評価を行なった。結果を表1に示す。
【0119】
(フィルム成形体)
次いで、上記にて得られた硬化性樹脂組成物を、ダイコーターを用いて、縦300mm×横300mmの大きさで厚さが38μm、表面平均粗さRaが0.08μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(支持体:ルミラー(登録商標)T60 東レ社製)上に塗工し、次いで、窒素雰囲気下、80℃で10分間乾燥し、支持体上に厚さ40μmの硬化性樹脂組成物のフィルム成形体を得た。得られた硬化性樹脂組成物のフィルム成形体を用いて、上記方法に従い、線膨張係数、ガラス転移温度(Tg)、及び配線埋め込み平坦性の各評価を行った。結果を表1に示す。
【0120】
(ビアホールを有する積層体)
ガラスフィラーおよびハロゲン不含エポキシ樹脂を含有するワニスをガラス繊維に含浸させて得られたコア材表面に、厚さ35μmの銅が貼られた、厚さ0.8mm×縦150mm×横150mmの両面銅張り積層基板の表面に、L /S=50/50、100/100、又は200/200μmの配線パターンを形成した。次いで、銅表面を有機酸との接触によってマイクロエッチング処理して、表面に配線パターンを有する両面銅張り積層基板(内層基板)を得た。
【0121】
そして、上記にて得られた硬化性樹脂組成物のフィルム成形体を、支持体が付いた状態で、縦150mm×横150mmの大きさに裁断し、フィルム成形体が内側、支持体が外側となる様にして、上記にて得られた内層基板の両面に重ね合わせた。これを、耐熱ゴム製プレス板を上下に備えた真空ラミネータを用いて、雰囲気を200Paに減圧して、温度110℃、圧着圧力0.1MPaで60秒間加熱圧着した(一次プレス)。さらに、金属製プレス板を上下に備えた真空ラミネータを用いて、温度110℃、圧着圧力1.0MPaで90秒間、加熱圧着した(二次プレス)。次いで支持体を剥がして、180℃で60分間空気中で加熱硬化して硬化物層を積層させた積層基板を得た。
【0122】
そして、この硬化物層に、CO2レーザーを用いてトップ径/ボトム径=55/44μmとなるビアホールを形成し、ビアホールを有する積層体を得た。そして、得られたビアホールを有する積層体を用いて、デスミア耐性、樹脂強度の評価を行った。結果を表1に示す。
【0123】
実施例2
エポキシ樹脂(B1)としてのジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂(商品名「エピクロン(登録商標)HP7200L」、大日本インキ化学工業社製)90部、エポキシ樹脂(B1)としてのフルオレン骨格を有するエポキシ樹脂(商品名「オグゾールPG100」、大阪ガスケミカル社製)28部とし、フェノール樹脂(B2)としてのフルオレン骨格を有するフェノール樹脂(商品名「CP−001」、大阪ガスケミカル社製)、ジシクロペンタジエン骨格を有するフェノール樹脂(商品名「レヂトップGDP−6095LR」)の替わりに、ジシクロペンタジエン骨格を有するフェノール樹脂(商品名「レヂトップGDP−6140」)を124部とした以外は、実施例1と同様にして、硬化性樹脂組成物、フィルム成形体、及びビアホールを有する積層体を得て、各評価を行った。結果を表1に示す。
【0124】
実施例3
高分子量脂環式オレフィン重合体(A1)の配合量を5部、及び、低分子量脂環式オレフィン重合体(A2)の配合量を55部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして、硬化性樹脂組成物、フィルム成形体、及びビアホールを有する積層体を得て、各評価を行った。結果を表1に示す。
【0125】
実施例4
高分子量脂環式オレフィン重合体(A1)の配合量を20部、及び、低分子量脂環式オレフィン重合体(A2)の配合量を40部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして、硬化性樹脂組成物、フィルム成形体、及びビアホールを有する積層体を得て、各評価を行った。結果を表1に示す。
【0126】
実施例5,6
シランカップリング剤処理シリカの配合量を、それぞれ、192部(実施例5)、2016部(実施例6)に変更した以外は、実施例1と同様にして、硬化性樹脂組成物、フィルム成形体、及びビアホールを有する積層体を得て、各評価を行った。結果を表1に示す。なお、得られた硬化性樹脂組成物中における、シランカップリング剤処理シリカの含有割合は、それぞれ、35重量%(実施例5)、85重量%(実施例6)であった。
【0127】
実施例7
シランカップリング剤処理シリカに代えて、シランカップリング剤で処理していないシリカ(商品名「アドマファインシリカSC2500」、アドマテックス社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして、硬化性樹脂組成物、フィルム成形体、及びビアホールを有する積層体を得て、各評価を行った。結果を表1に示す。
【0128】
実施例8
高分子量脂環式オレフィン重合体(A1)を配合しないとともに、低分子量脂環式オレフィン重合体(A2)の配合量を60部に変更した以外は、実施例1と同様にして、硬化性樹脂組成物、フィルム成形体、及びビアホールを有する積層体を得て、各評価を行った。結果を表1に示す。
【0129】
実施例9
高分子量脂環式オレフィン重合体(A1)の配合量を60部に変更し、低分子量脂環式オレフィン重合体(A2)を配合しなかった以外は、実施例1と同様にして、硬化性樹脂組成物、フィルム成形体、及びビアホールを有する積層体を得て、各評価を行った。結果を表1に示す。
【0130】
比較例1
硬化剤(B)としてのエポキシ樹脂(B1)の代わりに、ビスフェノールA型エポキシ化合物(商品名「jER828EL」、三菱化学社製)45部、多官能エポキシ樹脂(jER1032H60、三菱化学社製)100部、及び、フェノールノボラック型エポキシ化合物(商品名「jER152」、三菱化学社製)45部、硬化剤(B)としてのフェノール樹脂(B2)の代わりに、ノボラック型フェノール樹脂(商品名「TD−2131」、DIC社製)100部に変更した以外は、実施例1と同様にして、硬化性樹脂組成物、フィルム成形体、及びビアホールを有する積層体を得て、各評価を行った。結果を表1に示す。
【0131】
【表1】

【0132】
表1より、カルボキシル基を有する脂環式オレフィン重合体(A)に、少なくとも2つの官能基と、脂環式オレフィン構造又はフルオレン構造とを有する硬化剤(B)を配合した場合には、無機充填材(C)としてのシリカを比較的多く添加した場合でも、溶融粘度を低くすることができ、低線膨張であり、耐熱性、配線埋め込み平坦性、及び樹脂強度に優れた硬化物を与えることが可能であることが分かる(実施例1〜9)。また、無機充填材(C)として、表面がシランカップリング剤で処理されたシリカを用いることにより、積層体とした場合に、デスミア耐性に優れたものとすることが可能であることが分かる(実施例7以外の実施例)。
【0133】
一方、硬化剤として、脂環式オレフィン構造又はフルオレン構造を有しない硬化剤を用いた場合には、溶融粘度が高くなってしまい、得られる硬化物は、樹脂強度及び配線埋め込み平坦性に劣ることが分かる(比較例1)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基および/またはカルボン酸無水物基を有する脂環式オレフィン重合体(A)、少なくとも2つの官能基と、脂環式オレフィン構造又はフルオレン構造とを有する硬化剤(B)、及び無機充填材(C)を含有してなり、前記無機充填材(C)の配合量が30〜90重量%である硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記カルボキシル基および/またはカルボン酸無水物基を有する脂環式オレフィン重合体(A)が、重量平均分子量が20,000以上100,000以下であるカルボキシル基および/またはカルボン酸無水物基を有する脂環式オレフィン重合体(A1)と、重量平均分子量が5,000以上20,000未満であるカルボキシル基および/またはカルボン酸無水物基を有する脂環式オレフィン重合体(A2)とからなり、前記脂環式オレフィン重合体(A1)と前記脂環式オレフィン重合体(A2)の配合割合が、「重合体(A1)/重合体(A2)」の重量比で、5/95〜70/30である請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記硬化剤(B)が、少なくとも2つの官能基と、脂環式オレフィン構造又はフルオレン構造とを有するエポキシ樹脂(B1)と、少なくとも2つの官能基と、脂環式オレフィン構造又はフルオレン構造とを有するフェノール樹脂(B2)とからなる請求項1又は2に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記無機充填材(C)が、表面をシランカップリング剤で処理してなるシリカである請求項1〜3のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物を硬化してなる硬化物。
【請求項6】
表面に導体層を有する基板と、請求項5に記載の硬化物からなる電気絶縁層とを、積層してなる積層体。
【請求項7】
請求項6に記載の積層体の、電気絶縁層上にさらに導体層を形成してなる多層回路基板。
【請求項8】
請求項7に記載の多層回路基板を備えた電子機器。

【公開番号】特開2012−136646(P2012−136646A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290449(P2010−290449)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】