説明

硬化性樹脂組成物及び反射防止材

【課題】比較的低温での硬化が可能であり、酸素存在下の光硬化によっても良好な硬化性を示し、硬化物の硬度が高く、低屈折率で優れた反射防止性能を示す硬化性樹脂組成物並びにこれを用いた積層体、および反射防止材を提供する。
【解決手段】硬化性樹脂組成物が、成分(A):無機粒子存在下において合成することにより無機粒子が重合体内に分散しているフッ素含有重合体を少なくとも1成分とする。硬化性樹脂組成物には、成分(B):重合開始剤、及び成分(C)重合性シリカも含有させることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性エネルギー線、例えば、紫外線などの光照射、熱放射等のエネルギー線により硬化する硬化性樹脂組成物、特に,反射防止材の低屈折率層の形成に有用な硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
画面表示装置(ディスプレイ)において、室内灯等の外光が表示画面に反射し、表示画像を見にくくしていることから、表示画面における外光反射を抑制し、表示画面の視認性を向上させる一手法として、反射防止膜が使用されている。反射防止膜としては、フィルム状あるいは板状の透明プラスティック基板上に、高屈折率層と低屈折率層を積層した多層反射防止膜や、あるいは基板上に低屈折率層のみを形成した単層反射防止膜が使用されている。
【0003】
反射防止膜の作製法としては、真空蒸着法、スパッタリング法等のドライコーティング法が知られているが、基材の大きさに制限があり、また連続生産が困難なことから製造コストが高い。そのため、最近では、比較的低コストで大面積の薄膜を形成できるウェットコーティング法が利用されている。
【0004】
ウェットコーティング法により反射防止膜の低屈折率層を形成する場合、従来、熱硬化型ポリシロキサン組成物や熱硬化型フッ素含有重合体組成物が使用されている(特許文献1、特許文献2)。しかしながら、熱硬化型ポリシロキサン組成物や熱硬化型フッ素含有重合体組成物から低屈折率層を形成するには、高温、長時間の加熱処理が必要であり、生産性が低く、また、適用基材の種類も限定されるという問題があり、さらには、蒸着法と比較して反射防止能が劣るという問題点もある。
【0005】
また、低屈折率層を形成する組成物としては、紫外線等の光により硬化する光硬化性樹脂組成物も知られている(特許文献3)。しかしながら、ここで用いられる光硬化性樹脂組成物の主成分はフッ素含有アクリル樹脂であり、光ラジカル重合を利用した硬化であるため、大気中の酸素により活性ラジカルが失活しやすく、薄膜では特に硬化性が劣る。そのため、硬化物は硬度が低く、耐擦傷性に乏しいという問題を有する。
【0006】
これに対し、光ラジカル重合を利用せず、光酸発生剤を用いた光カチオン重合を利用し、酸素存在下においても硬化性を維持する反射防止膜の製造方法が提案されている(特許文献4)。しかしながら、光カチオン重合を用いた方法においても、低屈折率化を目的としてフッ素成分を増大させていくと、膜の架橋密度が低下する。そのため、薄膜の表面硬化性は維持できても、膜内部の硬度が低下し、耐擦傷性に乏しいという問題があった。
【0007】
【特許文献1】特開平6−25599号公報
【特許文献2】特開平7−331115号公報
【特許文献3】特開平6−136062号公報
【特許文献4】特開2002−22905号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した問題点を解決するものであり、比較的低温での硬化が可能であり、酸素存在下の光硬化によっても良好な硬化性を示し、硬化物の硬度が高く、さらには低屈折率で優れた反射防止性能を示す硬化性樹脂組成物を提供すること、並びにこれを用いた積層体、および反射防止材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、フッ素含有単量体等を無機粒子の存在下において重合することにより、まずはじめに成長反応中の重合体鎖、次いで成長反応の停止した重合体鎖が無機粒子による表面拘束を受け、重合体を硬化させた硬化樹脂層は、重合体と無機粒子との強い相互作用により、単にフッ素含有単量体等を重合したものと無機粒子とを混合した組成物の硬化樹脂層よりも表面硬度が高く、優れた耐擦傷性を発現すること、従って、低屈折率化を目的としてフッ素含有量を増大させ、結果的に重合体の架橋反応点を減少させて架橋密度が低下したとしても、重合体と無機粒子との強い相互作用により硬化樹脂層内部の硬度を高く維持できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明は、成分(A):無機粒子存在下において合成することにより無機粒子が重合体内に分散しているフッ素含有重合体を少なくとも1成分とする硬化性樹脂組成物を提供する。
【0011】
また、本発明は、この硬化性樹脂組成物から硬化樹脂層を形成する方法、並びにこの硬化性樹脂組成物を用いた積層体及び反射防止材を提供する。
【0012】
なお、本発明において、アクリル酸又はメタクリル酸を(メタ)アクリル酸、アクリレート又はメタクリレートを(メタ)アクリレート、メタクリロイルオキシ又はアクリロイルオキシを(メタ)アクリロイルオキシという。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、無機粒子存在下において合成することにより無機粒子が重合体内に分散しているフッ素含有重合体を一成分として含有する硬化性樹脂組成物であり、無機粒子の表面拘束効果により、重合体鎖と無機粒子との間には強い相互作用が働き、このフッ素含有重合体を硬化させた硬化樹脂層は、高い硬度を示す。したがって、フッ素含有重合体中のフッ素含有量を増大させることにより硬化樹脂層の屈折率を低下させても、硬化樹脂層の硬度を高め、優れた耐擦傷性を維持することができる。よって、本発明の硬化性樹脂組成物を硬化させてなる硬化樹脂層は、低屈折率で優れた反射防止性能を有しているので、例えば、表示画面保護性能にも優れた反射防止材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の硬化性樹脂組成物は、成分(A)として、無機粒子存在下において合成することにより重合体内に無機粒子が分散したフッ素含有重合体を含有し、好ましくは、このフッ素含有重合体を主成分として含有する。
【0015】
成分(A)の重合体の合成に際して使用する無機粒子としては、シリカ粒子からなるコロイダルシリカが好ましい。コロイダルシリカは、多孔質シリカおよび/または非多孔質シリカの微粒子を分散媒に分散させ、コロイド溶液としたものである。
【0016】
ここで、多孔質シリカは、粒子内が多孔性あるいは中空であり、内部に空気を含有した低密度のシリカである。多孔質シリカの屈折率は1.20〜1.40であり、通常のシリカの屈折率1.45〜1.47に比較して低い。したがって、本発明の硬化樹脂組成物を硬化させた硬化樹脂層の屈折率を低下させるためには、多孔質シリカを使用することが好ましい。
【0017】
コロイダルシリカの分散媒としては,水;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のアルコール類;エチレングリコール等の多価アルコール誘導体;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、2−ヒドロキシエチルアクリレート等の重合性官能基を有する単量体類、その他一般の有機溶剤をあげることができるが、好ましくは、炭素数が1〜4のアルコール類、ケトン類である。
【0018】
コロイダルシリカは市販品を用いることができる。中でも、シリカ粒子の1次粒子径が1nm〜60nmの範囲のものが好ましく、粒径5nm〜50nmのものがより好ましい。これは、1次粒子径が1nm未満であるとシリカ微粒子が凝集しやすくなり、反対に60nmを超えると成膜後の硬化樹脂層においてヘイズ値が高くなり、透明性が失われ、しかも硬化樹脂層の表面からシリカ粒子の凝集物が脱落しやすくなるためである。
【0019】
また、成分(A)の重合体の合成に際して使用する無機粒子としては、コロイダルシリカの他、分散媒を含有しない粉末状の多孔質シリカおよび/または非多孔質シリカも用いることができる。
【0020】
一方、成分(A)のフッ素含有重合体としては、フッ素原子を有する(メタ)アクリル酸エステル単位を主鎖に有し、側鎖に、(i)加水分解性基と結合したケイ素原子を有するシリル基、及び/又は(ii)(メタ)アクリロイルオキシ基を有するものが好ましい。
【0021】
また、その分子量は、ポリスチレン換算数平均分子量(以下「Mn」という)で1,000〜50,000が好ましく、4,000〜40,000がより好ましい。
【0022】
成分(A)のフッ素含有重合体の主鎖の形成に用いるフッ素含有単量体(成分a1 )としては、少なくとも1個の重合性不飽和二重結合基及び少なくとも1個のフッ素原子を有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。この具体例には、1H,1H,3H−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、1H,1H,7H−ドデカフルオロヘプチル(メタ)アクリレート、1H,1H,9H−ヘキサデカフルオロノニル(メタ)アクリレート、2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロブチル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロオクチル)エチル)(メタ)アクリレート、2−パーフルオロデシルエチル(メタ)アクリレート、3−パーフルオロブチル−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−パーフルオロヘキシル−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−パーフルオロオクチル−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロ−3−メチルブチル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロ−5−メチルヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロ−7−メチルオクチル)エチル(メタ)アクリレート、3−(パーフルオロ−3−メチルブチル−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−(パーフルオロ−5−メチルヘキシル)−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−(パーフルオロ−7−メチルオクチル)−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1H−1−(トリフルオロメチル)トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、1H,1H,3H−ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0023】
このようなフッ素含有単量体は、1種類のみ、あるいは2種類以上併用して用いることができる。特に、本発明の硬化性樹脂組成物を用いて基材に硬化樹脂層を形成し、その上層に塗膜を形成する場合は、上層の塗工性および上層界面での接着性の点から、フッ素含有単量体としては、1H,1H,3H−テトラフルオロプロピルメタクリレート、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチルメタクリレート、1H,1H,7H−ドデカフルオロヘプチルメタクリレート、1H,1H,9H−ヘキサデカフルオロノニルメタクリレートを使用するのが好ましい。
【0024】
成分(A)のフッ素含有重合体の主鎖は、上述のフッ素含有単量体とこれ以外の単量体の1種又は複数種とを共重合させることにより形成してもよい。フッ素含有単量体と共重合させる単量体としては、例えば、後述する(メタ)アクリロイルオキシ基を有する単量体と反応しうる基を有する(メタ)アクリル酸エステル(成分a2 )等をあげることができ、特に、2−メタクリロイルオキシイソシアネートと2−ヒドロキシアクリレートを組み合わせて使用することが、側鎖として(メタ)アクリロイルオキシ基を導入する一連の反応の操作効率の点から好ましい。
【0025】
成分(A)のフッ素含有重合体の側鎖に導入する(i)の加水分解性基と結合したケイ素原子を有するシリル基としては、その単量体が、次式(1)で表されるオルガノシランのうち、式中のXがメタクリロイルオキシ基又はアクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリロイルオキシ官能性シランが挙げられ、式中、OR3 が加水分解性基となる。
【0026】
【化1】


【0027】
(式中、Xは、それが複数個存在するときは同一または異なり、メタクリロイルオキシ基またはアクリロイルオキシ基を示し、R1は、複数個存在する時は同一または異なり、エーテル結合またはエステル結合を有してもよい炭素数1〜8の直鎖型または分岐型アルキレン基を示し、R2 、R3 は、それぞれ複数個存在するときは同一又は異なり、炭素数1〜8の直鎖型アルキル基又は分岐型アルキル基を示し、aは1〜3の正の整数、bは0〜2の整数である。)
【0028】
式(1)の(メタ)アクリロイルオキシ官能性シランは、1種類あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。特に、β−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメトキシシランあるいはγ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを使用することが好ましい。
【0029】
また、成分(A)のフッ素含有重合体の側鎖に(ii)の(メタ)アクリロイルオキシ基をもたせるにあたり、その導入方法としては、まず、上述のフッ素含有単量体(成分a1 )と(メタ)アクリロイルオキシ基を有する単量体と反応しうる基を有する(メタ)アクリル酸エステル(成分a2 )とを共重合させ、次いで、その共重合物と(メタ)アクリロイルオキシ基を有する単量体(成分a3 )を反応させることにより、側鎖に(メタ)アクリロイルオキシ基を導入することができる。
【0030】
ここで、(メタ)アクリロイルオキシ基を有する単量体と反応しうる基を有する(メタ)アクリル酸エステル(成分a2 )としては、フッ素含有単量体(成分a1 )との共重合後、側鎖中に水酸基、イソシアネート基、アミノ基、カルボキシル基を有することとなる(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。具体例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、3−パーフルオロブチル−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−パーフルオロヘキシル−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−パーフルオロオクチル−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有単量体;2−(メタ)アクリロイルオキシイソシアネート等のイソシアネート基含有単量体;(メタ)アクリル酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸等のカルボキシル基含有単量体が挙げられる。
【0031】
また、(メタ)アクリロイルオキシ基を有する単量体(成分a3 )の具体例としては、上述の共重合体が側鎖に水酸基を有する場合、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸クロライド等があり、イソシアネート基と反応するものとして、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、3−パーフルオロブチル−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−パーフルオロヘキシル−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−パーフルオロオクチル−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有単量体等が挙げられ、アミノ基を有する場合、(メタ)アクリル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸等のカルボキシル基含有単量体が挙げられる。また、上述の共重合体が側鎖にカルボキシル基を有する場合、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、3−パーフルオロブチル−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−パーフルオロヘキシル−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−パーフルオロオクチル−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有単量体を、カルボジイミドにより活性エステル化させて使用する。
【0032】
成分(A)のフッ素含有重合体中、フッ素含有単量体(成分a1 )の成分割合は、好ましくは20〜80mol%、より好ましくは45〜65mol%である。フッ素含有単量体の成分割合が20mol%未満であると、フッ素含有重合体(成分A)の屈折率が高くなり、これを含有する本発明の硬化性樹脂組成物を硬化させてなる硬化樹脂層の反射防止効果が低減するので好ましくなく、また80mol%を超えると、フッ素含有重合体の硬化性が不十分となり、硬化樹脂層の耐溶剤性、耐擦傷性が低下するので好ましくない。
【0033】
また、無機粒子の存在下でフッ素含有重合体を合成するにあたり、無機粒子とフッ素含有重合体の合計100質量%に対して、無機粒子5質量%以上60質量%以下、フッ素含有重合体95質量%以下40質量%以上となるように合成することが好ましく、無機粒子15質量%以上30質量%以下、フッ素含有重合体85質量%以下70質量%以上がより好ましい。無機粒子が5質量%未満であると、無機粒子の表面拘束効果による無機粒子と重合体鎖の強い相互作用が、これらを硬化させた硬化樹脂層の硬度に与える影響が少なくなり、硬化樹脂層の硬度を十分に高めることが難しくなる。また、無機粒子が60質量%を超えると、硬化樹脂層中のシリカ成分が過度に多くなり、重合体の架橋構造が著しく脆くなる。
【0034】
成分(A)のフッ素含有重合体を無機粒子の存在下で合成する方法としては、例えば、無機粒子と単量体を一括して添加して重合する方法、無機粒子の存在下で単量体の一部を重合した後、残りの単量体を連続的にあるいは断続的に添加する方法、もしくは、無機粒子の存在下で単量体を終始連続的に添加する方法等が挙げられる。また、これらの重合方法を組み合わせた重合方法を用いることもできる。
【0035】
使用できる重合形式には、溶液重合、塊状重合、懸濁重合等があり、なかでも溶液重合が好ましい。溶液重合に使用する溶媒には、一般的な重合溶媒を使用できるが、中でもケトン類が好ましい。
【0036】
またこの重合には、公知の重合開始剤、分子量調整剤、キレート化剤、無機電解質等を使用することができる。
【0037】
以上のようにして、無機粒子が重合体内に分散したフッ素含有重合体(成分(A))を得ることができる。
【0038】
硬化性樹脂組成物における、成分(A)のフッ素含有重合体の含有割合は、硬化性樹脂組成物中の固形分(塗膜形成後の固化層)に対して、好ましくは20質量%以上80質量%以下であり、より好ましくは45質量%以上65質量%以下である。20質量%未満であると、この硬化樹脂組成物を硬化させた硬化樹脂層の屈折率が高くなり、硬化樹脂層を用いた反射防止材において反射防止効果が低減する。反対に、80質量%を超えると、硬化樹脂層の硬化が不十分となり、耐溶剤性、耐擦傷性等が低下する。
【0039】
本発明の硬化性樹脂組成物には、該組成物を紫外線、可視光、電子線等の活性エネルギー線および/または熱放射線で硬化できるよう、成分(A)のフッ素重合体に加えて、成分(B)として重合開始剤を含有させることが好ましい。重合開始剤としては、必要に応じて、光ラジカル重合開始剤および/または光カチオン性重合開始剤を使用することができる。また、硬化性樹脂組成物には、光増感剤、光促進剤等の光触媒化合物も含有させることができる。
【0040】
成分(B)の重合開始剤のうち、光ラジカル重合開始剤の具体例としては、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトン、アセトフェノン、ベンゾフェノン、キサントフルオレノン、ベンズアルデヒド、アントラキノン、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4−ジアミノベンゾフェノン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、4−チオキサントン、カンファーキノン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オン等が挙げられる。また,N−アクリロイルオキシエチルマレイミドのように分子内に少なくとも1個の(メタ)アクリロイル基を有する光ラジカル重合開始剤も用いることができる。
【0041】
光カチオン性重合開始剤の具体例としては、オニウム塩、ジアゾメタン誘導体、グリオキシム誘導体、オキシムスルホネート誘導体、β−ケトスルホン誘導体、ジスルホン誘導体、ニトロベンジルスルホネート誘導体、スルホン酸エステル誘導体、イミドイル−スルホネート誘導体等が挙げられる。これらの中で、イミドスルホネート類が好ましく、イミドスルホネートの中でもトリフルオロメチルスルホネート誘導体が好ましい。
【0042】
重合開始剤の硬化性樹脂組成物における含有割合は、硬化性樹脂組成物中の固形分(塗膜形成後の固化層)に対して、好ましくは0.1質量%以上10質量%以下であり、よりさらに好ましくは3質量%以上6質量%以下である。
【0043】
光重合開始剤と併用する光増感剤の具体例としては、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン等を挙げることができる。
【0044】
また、光重合開始剤と併用する光促進剤の具体例としては、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、p−ジメチルアミノ安息香酸2−n−ブトキシエチル、安息香酸2−ジメチルアミノエチルなどを挙げることができる。
【0045】
本発明の硬化性樹脂組成物には、成分(C)として、重合性シリカを含有させることが好ましく、特に重合性シリカの微粒子が分散媒に分散している重合性コロイダルシリカを含有させることが好ましい。
【0046】
重合性シリカとしては、式1で表されるオルガノシランのうち、式中のXがメタクリロイルオキシ基、アクリロイルオキシ基又はビニルオキシ基を有するもの(以下、オルガノシラン(I)と称する)の縮合物、オルガノシラン(I)の加水分解物の縮合物、オルガノシラン(I)とオルガノシラン(I)の加水分解物との縮合物、オルガノシラン(I)又はその加水分解物とシリカ粒子との縮合物、あるいはこれらの複数種の混合物を使用することができる。重合性シリカの合成においても、シリカ粒子を使用すると、シリカ粒子の表面拘束効果によりシリカ粒子間の共有結合による効果が加わり、重合性シリカを配合した硬化性樹脂組成物の硬化物の表面硬度を高め、その硬化物に優れた耐擦傷性を発現させることができるので好ましく、特に、シリカの微粒子が分散媒に分散したコロイダルシリカとして使用することが好ましい。
また、シリカ粒子としては、屈折率を低くする点から多孔質シリカ粒子が好ましい。
【0047】
【化2】


【0048】
(式中、Xは、それが複数個存在するときは同一または異なり、メタクリロイルオキシ基またはアクリロイルオキシ基を示し、R1は、複数個存在する時は同一または異なり、エーテル結合またはエステル結合を有してもよい炭素数1〜8の直鎖型または分岐型アルキレン基を示し、例えば、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、i−プロピレン基等が挙げられる。R2 、R3 は、それぞれ複数個存在するときは同一又は異なり、炭素数1〜8の直鎖型アルキル基又は分岐型アルキル基を示し、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられ、さらにR2はこれらの置換誘導体であってもよい。これらの置換誘導体における置換基としては、例えば、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、等を挙げることができる。aは1〜3の正の整数、bは0〜2の整数である。)
【0049】
ここで、オルガノシラン(I)の加水分解物としては、OR3 基が全て加水分解されている必要はなく、1分子中、1個だけ加水分解されているもの、2個以上加水分解されているもの、あるいはそれらの混合物を含む。オルガノシラン(I)の加水分解物は常法により得ることができ、例えば、オルガノシラン(I)の1類種以上を水とともに有効量の加水分解触媒(例えば、塩酸等)の存在下、常温で1〜6時間攪拌することによって得られる。
【0050】
また、オルガノシラン(I)の縮合物、あるいはオルガノシラン(I)とシリカ粒子との縮合物は、オルガノシラン(I)の加水分解物のシラノール基同士、あるいはオルガノシラン(I)の加水分解物のシラノール基とコロイダルシリカ表面のシラノール基とが縮合反応によりシロキサン結合を形成したものである。これらの縮合物において、シラノール基の全てが縮合反応している必要はなく、縮合度の異なる混合物を使用することができる。
【0051】
オルガノシラン(I)の具体例はとしては、β-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメトキシシラン、β-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、β-(メタ)アクリロイルオキシエチルメチルジメトキシシラン、β-(メタ)アクリロイルオキシエチルメチルジエトキシシラン,γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(メタ)アクリロイルオキシエチルエチルジメトキシシラン、β-(メタ)アクリロイルオキシエチルエチルジエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルエチルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルエチルジエトキシシラン、β-メタクリロイルオキシエチルトリメトキシシランなどの(メタ)アクリロイルオキシ官能性シラン;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0052】
これらのオルガノシラン(I)の中でもトリアルコキシシラン類が好ましく、トリアルコキシシラン類としては、β-アクリロイルオキシエチルトリメトキシシラン、γ-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0053】
成分(C)の重合性シリカの形成モノマーとしては、前述のオルガノシラン(I)に加えて、式1のオルガノシランにおいて、Xが重合性基以外の1価の有機基、例えば、アシル基、シクロヘキシル基、フェニル基、グリシジル基、ウレイド基、イソシアネート基、パーフルオロアルキル基等であるもの(以下、オルガノシラン(II)と称する)を併用してもよい。
【0054】
オルガノシラン(II)の具体例としては、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシラン類が挙げられる。
【0055】
また、成分(C)の重合性シリカの形成モノマーとしては、前述のオルガノシラン(I)に加えて、式1のオルガノシランにおいて、a=0であるもの(即ち、XR1基を含まないもの)(以下、オルガノシラン(III)と称する)を併用してもよい。
【0056】
オルガノシラン(III)の具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−i−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシランなどのテトラアルコキシシラン類;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、i−プロピルトリメトキシシラン、i−プロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、n−ペンチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘプチルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシランなどのトリアルコキシシラン;ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジ−n−プロピルジメトキシシラン、ジ−n−プロピルジエトキシシラン、ジ−i−プロピルジメトキシシラン、ジ−i−プロピルジエトキシシラン、ジ−n−ブチルジメトキシシラン、ジ−n−ブチルジエトキシシラン、ジ−n−ペンチルジメトキシシラン、ジ−n−ペンチルジエトキシシラン、ジ−n−ヘキシルジメトキシシラン、ジ−n−ヘキシルジエトキシシラン、ジ−n−ヘプチルジメトキシシラン、ジ−n−ヘプチルジエトキシシラン、ジ−n−オクチルジメトキシシラン、ジ−n−オクチルジエトキシシラン、ジ−n−シクロヘキシルジメトキシシラン、ジ−n−シクロヘキシルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシランなどのジアルコキシシラン類のほか、メチルトリアセチルオキシシラン,ジメチルジアセチルオキシシランなどが挙げられる。
【0057】
以上のオルガノシラン(I)又はその加水分解物と、好ましくはシリカ粒子、及び必要に応じてオルガノシラン(II)、オルガノシラン(III)を用いて成分(C)の重合性シリカを得る方法は常法によることができる。例えば、重合性シリカとして、オルガノシラン(I)の加水分解物と多孔質シリカ粒子との縮合物を得る場合、オルガノシラン(I)の加水分解物と、多孔質シリカ粒子を分散媒に分散させたコロイダルシリカとを常温から還流温度までの温度で1〜8時間攪拌する。
【0058】
成分(C)の重合性シリカの合成におけるオルガノシラン(I)とコロイダルシリカ中のシリカ粒子の成分使用割合は、オルガノシラン(I)を25質量%以上75質量%以下とすることが好ましく、50質量%以上70質量%以下がより好ましい。使用割合が25質量%未満であると、本発明の硬化性樹脂組成物の紫外線等の光による硬化性が不十分になりやすく、反対に、75質量%を超えるとシリカ粒子の成分割合が少なくなり、硬化樹脂層の耐擦傷性が著しく低下する。
【0059】
また、成分(C)の重合性シリカの硬化性樹脂組成物における含有割合(固形分)は、硬化性樹脂組成物中の固形分(塗膜形成後の固化層)に対して、好ましくは15質量%以上70質量%以下であり、より好ましくは20質量%以上40質量%以下である。15質量%未満であると、硬化性樹脂組成物を硬化させた硬化樹脂層の硬化が不十分になりやすく、反対に70質量%を超えると硬化樹脂層の屈折率が高くなり、硬化樹脂層を用いた反射防止材において反射防止効果が低減してしまう。
【0060】
本発明の硬化性樹脂組成物には、成分(A)のフッ素含有重合体の加水分解性基を加水分解するため、酸性化合物を含有させてもよい。酸性化合物としては、例えば、酢酸、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、p−トルエンスルホン酸などを挙げることができる。なかでも、塩酸が好ましく、0.1〜5質量%塩酸水溶液がより好ましい。
【0061】
本発明の硬化性樹脂組成物における酸性化合物の成分使用量は、成分(A)のフッ素含有重合体の加水分解性基の等倍〜20倍mol等量であり、より好ましくは5〜10倍mol等量である。
【0062】
本発明の硬化性樹脂組成物には、該硬化性樹脂組成物を好ましくは0.01μm以上10μm以下の薄い膜厚に塗工できるように希釈剤を含有させることが好ましい。希釈剤としては、組成物の分散安定性を向上させ、組成物を均一に混合できるものであれば特に制限はなく、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、酢酸メトキシエチルなどのエステル類;ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、フェニルセロソルブ、ジオキサン等のエーテル類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;ペンタン、ヘキサンなどの脂肪族類;塩化メチレン、クロロベンゼン、クロロホルムなどのハロゲン系炭化水素類;メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノールなどのアルコール類;水などを挙げることができる。これらの希釈剤は,1種類のみあるいは2種類以上を混合して使用することができる。またその使用量は、目的とする硬化樹脂層の膜厚に合わせて適宜決定される。
【0063】
本発明の硬化性樹脂組成物には、必要に応じて、さらに、活性エネルギー線により重合可能な不飽和エチレン性化合物、重合禁止剤、消泡剤、レベリング剤、分散剤、可塑剤、帯電防止剤、界面活性剤、増粘剤、顔料、染料、非反応性ポリマー等を、本発明の効果を損なわない範囲で添加することができる。
【0064】
本発明の硬化性樹脂組成物は、上述した成分(A)、好ましくはさらに成分(B)、成分(C)と、必要に応じて配合される他の成分とを、常法に従って均一に混合することにより製造することができる。
【0065】
また、本発明の硬化性樹脂組成物は、反射防止材、防汚材等として、基材上に少なくとも硬化樹脂層、好ましくは屈折率1.42以下の硬化樹脂層、を有する積層体を製造する場合の該硬化樹脂層の原料として好ましく使用することができる。このような積層体は、以下の工程(a)及び(b)を含む製造方法に従って製造することができる。
【0066】
工程(a)
まず、本発明の硬化性樹脂組成物からなる硬化性樹脂層を基材上に形成する。具体的には、本発明の硬化性樹脂組成物を、凸版印刷、平板印刷、凹版印刷等で用いられるロールを用いた塗工法、グラビアコート法、ディップコート法、スプレー法、スピンコート、カーテンフローコート法等により基材上に塗工し、必要に応じて、希釈剤等の低沸点物質を加熱炉、遠赤外炉又は超遠赤外炉等を用いて加熱蒸発除去することにより硬化性樹脂層を形成する。
【0067】
ここで基材としては、板状またはフィルム状の金属(鉄,アルミニウム等)基板、ガラス基板を含むセラミック基板、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート等のプラスチック基板等を使用することができる。これらの基板に予め薬品処理、プラズマ処理、オゾン処理等の表面処理を施したものも使用することができる。また、基材の種類によってはプライマー等を塗布したものを使用でき、例えば、金属基板に、防錆の必要に応じて防錆用プライマーを塗布したものを使用することができる。
【0068】
工程(b)
次に、工程(a)で形成された硬化性樹脂層に活性エネルギー線又は熱を照射して硬化樹脂層を形成する。これにより、屈折率1.39〜1.42という低屈折率で、耐擦傷性に優れた硬化樹脂層を有する積層体を低コストで得ることができる。
【0069】
活性エネルギー線としては、紫外線、可視光線、レーザー、電子線、X線等の広範囲の活性エネルギー線を使用することができ、これらの中でも、照射装置が比較的安価な紫外線を使用することが実用面から好ましい。具体的な紫外線発生源としては、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプ等が挙げられる。
【0070】
熱照射処理としては、通常の加熱炉、遠赤外炉又は超遠赤外炉等を用いて、50℃〜80℃といった比較的低温での加熱処理が挙げられる。
【0071】
なお、このようにして得られる積層体は2層構造に限られず、熱可塑性、熱硬化性又は光硬化性の材料の層を予め基材上に設けていてもよく、あるいは硬化樹脂層形成後に改めてこれらの層を設けてもよい。例えば、本発明の硬化性樹脂組成物を用いて離型基材に硬化樹脂層を形成し、その上層に高屈折率層、転写層を設け、基材上に転写した積層体は、反射防止膜として利用可能となる。ここで、高屈折率層は、光硬化性樹脂等により形成することが好ましく、転写層は光硬化性樹脂等により形成することが好ましい。なお、反射防止材としての構成の例として、例えば、低屈折率層、低屈折率層/高屈折率層、低屈折率層/高屈折率層/低屈折率層、低屈折率層/高屈折率層/低屈折率層/高屈折率層があげられる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。なお、実施例中、各成分の配合量等は特に断わりのない限り、部は質量部を表し、%は質量%を表す。
【0073】
参考例1
(1)無機粒子存在下でのフッ素含有重合体の調製
攪拌機と還流冷却機を備えた反応器に、1H,1H,9H−ヘキサデカフルオロノニルメタクリレート18部、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン6部、アゾビスイソブチロニトリル0.6部、固形分濃度20%コロイダルシリカ(非多孔質)/メチルイソブチルケトン溶液(商品名MIBK−ST、日産化学工業社製)30部、メチルイソブチルケトン46部を混合し、溶解させた後、窒素雰囲気で攪拌下、80℃に加温し、6時間共重合反応させて固形分濃度30%のシリカ分散フッ素含有重合体(成分(A)に相当。以下(a−1)とする。)溶液を得た。
【0074】
また、コロイダルシリカとして固形分濃度20%の多孔質シリカ/メチルイソブチルケトン溶液(触媒化成工業社製)を使用する以外は、同様にして多孔質シリカ分散フッ素含有重合体(成分(A)に相当。以下(a−2)とする。)溶液を得た。
【0075】
(2)フッ素含有重合体の数平均分子量の測定
(1)で得られたシリカ分散フッ素含有重合体溶液(a−1)及び多孔質シリカ分散フッ素含有重合体溶液(a−2)を、それぞれ多量のヘキサンに投入してフッ素含有重合体を析出させ、ヘキサンで洗浄後、析出物をメチルイソブチルケトンに溶解し、再度多量のヘキサンに投入してフッ素含有重合体を析出させた。この析出物をヘキサンで洗浄後、室温で24時間真空乾燥を行い、フッ素含有重合体の精製物を得た。
【0076】
この精製物を濃度1%となるようにメチルエチルケトンに溶解し、ゲルろ過クロマトグラフ(島津製作所社製)を用いてカラム(東ソー社製)からの溶出時間を屈折率計(島津製作所社製)により検出し、得られた溶出時間から標準ポリスチレン換算分子量としてフッ素含有重合体の分子量を算出した。その結果、得られたフッ素含有重合体の数平均分子量は、シリカ分散フッ素含有重合体(a−1)溶液および多孔質シリカ分散フッ素含有重合体(a−2)から析出させたいずれの重合体も30,000であった。
【0077】
参考例2(重合性コロイダルシリカの調製)
攪拌機と還流冷却機を備えた反応器に、γ-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン14.7部、0.1mol/lの塩酸水溶液6部、イソプロピルアルコール42.6部を混合し、室温で攪拌することにより4時間加水分解し、さらに固形分濃度20%のコロイダルシリカ/メチルエチルケトン溶液(商品名MEK−ST−UP、日産化学工業社製)36.7部を添加し、60℃に加温し、6時間反応させて固形分濃度22%の重合性コロイダル非多孔質シリカ(成分(C)に相当。以下、(c−1)とする。)を得た。
【0078】
また、コロイダルシリカとして固形分濃度20%の多孔質シリカ/メチルイソブチルケトン溶液(触媒化成工業社製)を使用する以外は、同様にして重合性多孔質シリカ(成分(C)に相当。以下(c−2)とする。)を得た。
【0079】
参考例3(フッ素含有重合体の調製)
攪拌機と還流冷却機を備えた反応器に、1H,1H,9H−ヘキサデカフルオロノニルメタクリレート30部、γ−メタクリロイルオキシエチルトリメトキシシラン10部、アゾビスイソブチロニトリル1部、メチルイソブチルケトン60部を混合し、溶解させた後、窒素雰囲気で攪拌下80℃に加温し、6時間共重合反応させて固形分濃度40%のフッ素含有重合体溶液を得た。
【0080】
実施例1
参考例1で調製したシリカ分散フッ素含有重合体(a−1)溶液12.5部、参考例2で調製した重合性コロイダル非多孔質シリカ(c−1)溶液5.7部、光ラジカル開始剤(2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、商品名 イルガキュア907、チバスペシャリティーケミカルズ社製)0.3部、メチルイソブチルケトン50部、イソプロピルアルコール27.5部、および0.1mol/l塩酸水溶液4部を混合し、硬化性樹脂組成物を得た。この組成物を室温下に密閉状態で保管したところ、60日経過後も、沈殿、白濁等の変質は観察されなかった。
【0081】
また、この硬化性樹脂組成物を、乾燥膜厚で0.1μmになるようにポリメタクリル酸メチル板に塗工し、乾燥炉で110℃、60秒間乾燥させ、硬化性樹脂層を形成させた。その後、空気中で高圧水銀灯より紫外線を1J/cm2 照射し、図1に示すように基板1上に硬化樹脂層2を有する積層板を得た。
【0082】
実施例2
参考例1で調製した多孔質シリカ分散フッ素含有重合体(a−2)溶液12.5部、参考例2で調製した重合性コロイダル非多孔質シリカ(c−1)溶液5.7部、光ラジカル開始剤(2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、商品名 イルガキュア907、チバスペシャリティーケミカルズ社製)0.3部、メチルイソブチルケトン50部、イソプロピルアルコール27.5部、および0.1mol/l塩酸水溶液4部を混合し、硬化性樹脂組成物を得た。この組成物を室温下で密閉状態で保管したところ、60日経過後も、沈殿、白濁等の変質は観察されなかった。また、この硬化性樹脂組成物を用いて実施例1と同様に積層板を製造した。
【0083】
実施例3
参考例1で調製した多孔質シリカ分散フッ素含有重合体(a−2)溶液12.5部、参考例2で調製した重合性コロイダル多孔質シリカ(c−2)溶液5.7部、光ラジカル開始剤(2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、商品名 イルガキュア907,チバスペシャリティーケミカルズ社製)0.3部、メチルイソブチルケトン50部、イソプロピルアルコール27.5部、および0.1mol/l塩酸水溶液4部を混合し、硬化性樹脂組成物を得た。この組成物を室温下で密閉状態で保管したところ、60日経過後も,沈殿,白濁等の変質は観察されなかった。 また、この硬化性樹脂組成物を用いて実施例1と同様に積層板を製造した。
【0084】
比較例1
参考例3で調製したフッ素含有重合体溶液7.5部、固形分濃度20%コロイダルシリカ/メチルイソブチルケトン溶液(商品名MIBK−ST、日産化学工業社製)3.75部、参考例2で調製した重合性コロイダル非多孔質シリカ(c−1)溶液5.7部、光ラジカル開始剤(2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、商品名 イルガキュア907、チバスペシャリティーケミカルズ社製)0.3部、メチルイソブチルケトン50部、イソプロピルアルコール28.7部、及び0.1mol/l塩酸水溶液4部を混合し、硬化性樹脂組成物を得た。また、この硬化性樹脂組成物を用いて実施例1と同様に積層板を製造した。
【0085】
比較例2
参考例3で調製したフッ素含有重合体溶液7.5部、参考例2で調製した重合性コロイダル非多孔質シリカ(c−1)溶液9部、光ラジカル開始剤(2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、商品名 イルガキュア907、チバスペシャリティーケミカルズ社製)0.3部、メチルイソブチルケトン50部、イソプロピルアルコール29.7部、および0.1mol/l塩酸水溶液4部を混合し、硬化性樹脂組成物を得た。また、この硬化性樹脂組成物を用いて実施例1と同様に積層板を製造した。
【0086】
比較例3
硬化性樹脂組成物として、市販の低屈折率コーティング材料(商品名JM5010、JSR社製)を使用し、実施例1と同様にして積層板を製造した。
【0087】
評価
各実施例及び比較例で得た積層板について、(a)屈折率、(b)耐溶剤性、(c)鉛筆硬度を次のように測定し、評価した。これらの結果を表1に示す。
【0088】
(a)屈折率
5°正反射率を測定し、その値から計算により屈折率を算出した。
【0089】
(b)耐溶剤性
積層板表面を、アセトンで湿らせた脱脂綿で擦り、表面観察により次の3段階に評価した。
○:変化のない場合
△:擦り跡が残った場合
×:表面の硬化樹脂層が剥がれた場合
【0090】
(c)鉛筆硬度
JIS−K5400に準じて測定した。
【0091】
【表1】




【0092】
表1注:
*1: 商品名 MIBK-ST(日産化学工業社製)
*2: 商品名 ELCOM KR−S20-02(触媒化成工業社製)
*3: 2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、商品名 イルガキュア907(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ社製)
【0093】
この実施例及び比較例で製造した積層板の硬化樹脂層の屈折率としては、優れた反射防止性能の点から1.42以下であることが望まれるところ、表1から、シリカあるいは多孔質シリカ粒子存在下で合成したフッ素含有重合体を含む硬化性樹脂層を用いて形成した実施例1〜3の積層板は十分に低屈折率であり、かつ耐溶剤性も良好で、鉛筆硬度も2Hで、厚さ0.1μmの薄膜としては高い表面硬度を有していることがわかる。
【0094】
これに対し、フッ素含有重合体とシリカと重合性コロイダルシリカを単に混合した比較例1の硬化性樹脂層から形成した積層板は、低屈折率であるものの、耐溶剤性が悪く、鉛筆硬度も2B未満と非常に低く、表面硬度が不十分である。フッ素含有重合体と重合性コロイダルシリカとを混合した比較例2の硬化性樹脂層から形成した積層板は、耐溶剤性は良好であるが、実施例に比して屈折率が高く、鉛筆硬度がFであり低硬度な薄膜である。市販の低屈折率コーティング材料から形成した比較例3の積層板は、実施例よりも耐溶剤性が劣り、鉛筆硬度も4Bと非常に低硬度な薄膜であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の硬化性樹脂組成物は、該組成物を硬化してなる硬化樹脂層が低屈折率でかつ高い表面硬度を有するので、反射防止膜等の材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の硬化樹脂層を有する積層体の断面である。
【符号の説明】
【0097】
1 基板
2 硬化樹脂層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A):無機粒子存在下において合成することにより無機粒子が重合体内に分散しているフッ素含有重合体
を少なくとも1成分とする硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
反射防止膜形成用の請求項1記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
成分(A)の無機粒子が、1次粒子径1nm〜60nmのシリカ粒子からなり、無機粒子とフッ素含有重合体との合計に対して、無機粒子5質量%以上60質量%以下、フッ素含有重合体95質量%以下40質量%以上である請求項1記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
シリカ粒子が、多孔質シリカ粒子である請求項3記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
成分(A)のフッ素含有重合体が、フッ素原子を有する(メタ)アクリル酸エステル単位を主鎖に有し、加水分解性基と結合したケイ素原子を有するシリル基及び/又は(メタ)アクリロイルオキシ基を側鎖に有する請求項1記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
成分(B):重合開始剤0.1質量%以上10質量%以下を含む請求項1記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
成分(C):次式(1)
【化1】



(式中、Xは、複数個存在する時は同一または異なり、メタクリロイルオキシ基またはアクリロイルオキシ基を示し、R1は、複数個存在する時は同一または異なり、エーテル結合又はエステル結合を有してもよい炭素数1〜8の直鎖型または分岐型アルキレン基を示し、R2 、R3 は、それぞれ複数個存在するときは同一又は異なり、炭素数1〜8の直鎖型アルキル基又は分岐型アルキレン基を示し、aは1〜3の正の整数、bは0〜2の整数である。)
で表されるオルガノシランの加水分解物とシリカ粒子とを縮合反応して得られる重合性シリカ15質量%以上70質量%以下を含む請求項1記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
シリカ粒子が、多孔質シリカ粒子である請求項7記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
基材上に、請求項1〜8のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物を塗工し、活性エネルギー線および/または熱放射により硬化する硬化樹脂層の形成方法。
【請求項10】
基材上に、請求項1〜8のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物を硬化させてなる硬化樹脂層が少なくとも1層形成されてなる積層体。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか記載の硬化性樹脂組成物からなる硬化樹脂層を少なくとも1層含む反射防止材。

【図1】
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【公開番号】特開2006−182937(P2006−182937A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−378892(P2004−378892)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】