説明

硬化性組成物およびこれを用いた光学デバイス

【課題】高温度環境下または高温高湿度環境下でも、アルカリ金属と塩を形成すること、金属を腐食させること、および剥離等の不具合を起こすことがなく、長期にわたり、光学デバイスの接着を実現出来る硬化性組成物、およびそれを用いた光学デバイスを提供する。
【解決手段】本発明は、カチオン重合性化合物および一般式(1)で表されるカチオン重合開始剤を含有する硬化性組成物であって、当該硬化性組成物の硬化物を121℃または121℃100RH%で48時間保持する前後のヤング率変化が1.0以上1.5以下であることを特徴とする硬化性組成物に関する。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性組成物およびこれを用いた光学デバイスに関し、具体的には、カチオン重合性に優れた重合開始剤を含有し、高温度環境下または高温高湿度環境下において、収縮応力の増加が少なく、アルカリ金属との塩の形成が少ない硬化性組成物およびこれを用いた光学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光学デバイスの接着には透明性、速硬化性、および固定性の観点から、紫外線硬化型接着剤が広く用いられている。紫外線硬化型接着剤はラジカル系とカチオン系とがある。ラジカル系紫外線硬化型接着剤は、反応性が高く速硬化性および固定性に優れるという利点があるが、紫外線が届きにくい凹凸部分の接着に用いるには不向きである。一方、カチオン系紫外線硬化型接着剤は、反応性の面ではラジカル紫外線硬化型接着剤に劣るものの、熱硬化を併用させることにより紫外線が届かない部分でも硬化させることが出来るので、近年注目を浴びている。
【0003】
ここで、従来までのカチオン系紫外線硬化型接着剤には、反応開始剤として、カチオン重合開始剤が含まれており一般的にはヨードニウム塩やスルホニウム塩のようなオニウム塩系重合開始剤が用いられている。特にトリフェニルスルホニウムテトラフルオロボレート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスファート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネートに代表される、スルホニウム塩系重合開始剤は保存安定性やアウトガスによる金属の腐食等の懸念が比較的少ないことから、好んで用いられている(特許文献1および特許文献2参照)。
【特許文献1】WO2005/028537(2005年3月31日公開)
【特許文献2】特開平11−161136(1999年6月18日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したトリフェニルスルホニウムテトラフルオロボレート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスファート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネートに代表される、スルホニウム塩系重合開始剤のアニオン部分がBF、AsF、SbF等の低分子であるため、カチオン重合活性が十分でなく、紫外線硬化後も徐々に硬化反応が進行する。そのため、未反応のカチオン重合性化合物の硬化が広範囲に亘って促進されるため、硬化反応による硬化物の収縮応力の増大を引き起こす。それらよって、硬化物が剥離する等の不具合を起こすという問題が生じる。
【0005】
さらに、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属を含有したガラス部材において、上記スルホニウム塩系重合開始剤と上記アルカリ金属とが塩を形成する。これにより、硬化物に不透明な異物が生じることになり、硬化物が剥離することや、硬化物の光透過性が劣化する等の不具合が引き起こされるという問題が生じる。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、高温度環境下または高温高湿度環境下でも、アルカリ金属と塩を形成すること、金属を腐食させること、および剥離等の不具合を起こすことがなく、長期にわたり、光学デバイスの接着を実現出来る硬化性組成物、およびそれを用いた光学デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意研究したところ、カチオン重合開始剤のアニオン部分を高撥水性にすること、および/またはアニオン部分の分子量を大きくすることで、紫外線硬化におけるカチオン重合性を高めることができ、高温度環境下または高温高湿度環境下においてカチオン重合が低減されるということを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の硬化性組成物は、上記課題を解決するために、カチオン重合性化合物および一般式(1)で表されるカチオン重合開始剤を含有する硬化性組成物であって、当該硬化性組成物の硬化物を121℃または121℃100RH%で48時間保持する前後のヤング率変化が1.0以上1.5以下であることを特徴としている。
【0009】
【化1】

【0010】
(式(1)中、R〜Rはそれぞれ独立に、アリール基、複素環基、又はアルキル基を示す。Rfは水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されたアルキル基を示す。X、m、及びnは、XがPのときm=6、n=1〜5の整数、XがSbのときm=6、n=1〜5の整数、XがBのときm=4、n=1〜3の整数である。)
上記の発明によれば、上記カチオン重合開始剤はRfで示されるアルキル基を有しているので、アニオン部分の分子量が大きくなる。これにより、紫外線硬化によるカチオン重合活性が高くなるので、高温度環境下または高温高湿度環境下におけるカチオン重合を低減することが出来る。
【0011】
さらにR〜RおよびRfは、何れも炭素骨格を有する疎水基であるので、カチオン重合開始剤の撥水性が高くなる。そのため、カチオン重合開始剤から生じた酸が水分子を媒介して拡散することを抑制することが出来る。このように、アニオン部分の分子量向上とアルキル基による撥水性付与とにより、紫外線硬化による反応性の向上、高温度環境下または高温高湿度環境下におけるカチオン重合が低減される。
【0012】
したがって、硬化性組成物の硬化物を、上記環境下においた場合に、当該硬化物内に上記カチオン重合開始剤から生じた酸が拡散して、未硬化のカチオン重合性化合物が硬化することを防ぐことが出来る。これにより、上記環境下において硬化物の収縮応力が増加することや異物が生じることを防ぐことが出来るので、硬化物と被接着体とを接着した場合に、硬化物の被接着体に対する接着力の低下や被接着体からの剥離を防ぐことが出来る。換言すれば、上記硬化性組成物の硬化物は、上記カチオン重合開始剤が用いられているので、被接着体に対して、耐熱性および耐水性に優れた接着性を有している。
【0013】
また、カチオン重合開始剤の撥水性が高くなったことによって、水分子を媒介したカチオン重合開始剤とアルカリ金属との塩形成を防ぐことが出来る。このため、上記カチオン重合開始剤を含有する硬化性組成物の硬化物では、アルカリ金属を含有するような被接着体と上記硬化物との間に不透明な異物が生じることを防止することが出来る。これにより、硬化物の上記被接着体からの剥離や、硬化物と上記被接着体とにおける光透過性が劣化することを防止することが出来る。
【0014】
また、ヤング率は弾性率を意味するので、硬化物を高温度環境下または高温高湿度環境下で保持する前のヤング率とその後のヤング率とを比較したヤング率変化が1に近いほど、高温度環境下または高温高湿度環境下で保持した後の硬化物が、硬化していないことを示している。換言すれば、上記ヤング率変化が1に近い硬化物は、硬化しにくいので、収縮応力の増加が少ないといえる。本発明の硬化性組成物の硬化物は、121℃または121℃100RH%で48時間保持する前後のヤング率変化が1.0以上1.5以下であるので、優れた柔軟性を有するといえる。
【0015】
また、本発明の硬化性組成物では、上記カチオン重合性化合物が、エポキシ化合物、オキセタン化合物及びビニルエーテル化合物からなる群から選ばれる1つ以上の化合物であることが好ましい。
【0016】
また、本発明の硬化性組成物では、上記カチオン重合性化合物が、エポキシ化合物及びオキセタン化合物を含有することが好ましい。これにより、エポキシ化合物とオキセタン化合物との間で協調的に硬化が起こるので、硬化性組成物の硬化を促進することが出来る。その結果、硬化性組成物の硬化物に存在する未硬化物の量を減らすことが出来るため、高温度環境下または高温高湿度環境下で収縮応力が増加することを防止することが出来る。
【0017】
また、本発明の硬化性組成物は、上記エポキシ化合物が、脂環式エポキシ化合物、ポリブタジエン構造を有するエポキシ化合物、カルボキシ末端ブタジエンニトリルゴム変性ビスフェノールA型エポキシ化合物、及びエポキシ化ポリブタジエン化合物からなる群から選ばれる1つ以上の化合物であることが好ましい。
【0018】
上記脂環式エポキシ化合物は、硬化性に優れているので、硬化性組成物の硬化を促進することが出来る。その結果、硬化物に存在する未硬化物の量を減らすことが出来るため、高温度環境下または高温高湿度環境下で収縮応力が増加することを防止することが出来る。また、上記ポリブタジエン構造を有するエポキシ化合物は屈曲性を有しているので、この化合物を用いることにより、硬化物の柔軟性を向上させることが出来る。
【0019】
また、上記エポキシ化ポリブタジエン化合物は、硬化性に優れている。さらにカルボキシ末端ブタジエンニトリルゴム変性ビスフェノールA型エポキシ化合物は接着性と屈曲性に優れ、エポキシ化ポリブタジエン化合物は屈曲性に優れている。そのためこれらの化合物によって、硬化物の柔軟性と接着性を向上させることができる。それ故、これらの化合物を含有する硬化性組成物を硬化することにより、未硬化物が少なく接着性に優れた硬化物を提供することが出来る。
【0020】
また、本発明の硬化性組成物では、上記オキセタン化合物が水酸基を有することが好ましい。これによれば、上記水酸基によりエポキシ化合物の硬化を促進することが出来る。その結果、硬化物に存在する未硬化物の量を減らすことが出来るため、高温度環境下または高温高湿度環境下で収縮応力が増加することを防止することが出来る。
【0021】
また、本発明の硬化性組成物では、シランカップリング剤をさらに含有することが好ましい。シランカップリング剤とは無機材料または金属材料と、硬化性組成物またはその硬化物とを化学的に結合する性質を有するものである。それ故、本発明の硬化性組成物にシランカップリング剤を含有させることにより、本発明の硬化性組成物またはその硬化物の無機材料や金属材料に対する密着性を改良することが出来る。
【0022】
また、本発明の光学デバイスは、上記硬化性組成物を用いて製造されていることを特徴としている。上述したように上記硬化性組成物の硬化物は、被接着体に対して、耐熱性および耐水性に優れた接着性を有している。さらに、硬化性組成物の硬化物では、アルカリ金属を含有するような被接着体と上記硬化物との間に不透明な異物が生じることを防止することが出来る。それ故、光学デバイスにアルカリ金属が含有されている場合であっても、上記光学デバイスの光透過性が劣化することを防止することができる。
【0023】
そして、上記光学デバイスに上記硬化性組成物が用いられているので、上記光学デバイスは、優れた耐熱性、耐湿性、および光透過性を実現することが出来る。
【0024】
また、本発明の光学デバイスでは、上記光学デバイスは、2つ以上の部材を有することが好ましい。これによれば、上記硬化性組成物によって部材同士を接着させることができる。ここで、上記硬化性組成物の硬化物は、被接着体に対して、耐熱性および耐水性に優れた接着性を有している。さらに、硬化性組成物の硬化物では、アルカリ金属を含有するような被接着体と上記硬化物との間に不透明な異物が生じることを防止することが出来る。それ故、高温度環境下または高温高湿度環境下で、部材同士が剥離することや部材の光透過性が劣化することを防止することが出来る。よって、上記光学デバイスは、優れた耐熱性、耐湿性、および光透過性を実現することが出来る。
【0025】
また、本発明の光学デバイスでは、上記部材に用いられている材料が、有機材料または合成石英であることが好ましい。上記有機材料および合成石英は、光を透過することが出来るため、光を照射することにより上記部材を接着することが出来る。
【発明の効果】
【0026】
本発明の硬化性組成物は、以上のように、一般式(1)で表されるカチオン重合開始剤およびカチオン重合性化合物を含有する硬化性組成物であって、当該硬化性組成物の硬化物を121℃または121℃100RH%で48時間保持する前後のヤング率変化が1.0以上1.5以下である。上記の発明によれば、上記カチオン重合開始剤はRfで示されるアルキル基を有しているので、アニオン部分の分子量が大きくなる。これにより、紫外線によるカチオン重合活性が増加するので、高温度環境下または高温高湿度環境下におけるカチオン重合を低減することが出来る。
【0027】
さらにR〜RおよびRfは、何れも炭素骨格を有する疎水基であるので、カチオン重合開始剤の撥水性が高くなる。そのため、カチオン重合開始剤から生じた酸が水分子を媒介して拡散することを抑制することが出来る。このように、アニオン部分の分子量向上とアルキル基による撥水性付与とにより、高温度環境下または高温高湿度環境下におけるカチオン重合が低減される。
【0028】
したがって、硬化性組成物の硬化物を、上記環境下においた場合に、当該硬化物内に上記カチオン重合開始剤から生じた酸が拡散して、未硬化のカチオン重合性化合物が硬化することを防ぐことが出来る。これにより、上記環境下において硬化物の収縮応力が増加することを防ぐことが出来るので、硬化物と被接着体とを接着した場合に、硬化物の被接着体に対する接着力の低下や被接着体からの剥離を防ぐことが出来るという効果を奏する。換言すれば、上記硬化性組成物の硬化物は、上記カチオン重合開始剤が用いられているので、被接着体に対して、耐熱性および耐水性に優れた接着性を有している。
【0029】
また、カチオン重合開始剤の疎水性が高くなり、カチオン重合開始剤から生じた酸が水分子を媒介して拡散することが抑制されたことによって、カチオン重合開始剤がアルカリ金属と塩を形成することを防ぐことが出来る。このため、上記カチオン重合開始剤を含有する硬化性組成物の硬化物では、アルカリ金属を含有するような被接着体と上記硬化物との間に不透明な異物が生じることを防止することが出来る。これにより、硬化物の上記被接着体からの剥離や、硬化物と上記被接着体とにおける光透過性が劣化することを防止することが出来るという効果を奏する。
【0030】
また、ヤング率は弾性率を意味するので、硬化物を高温度環境下または高温高湿度環境下で保持する前のヤング率とその後のヤング率とを比較したヤング率変化が1に近いほど、高温度環境下または高温高湿度環境下で保持した後の硬化物が、硬化していないことを示している。換言すれば、上記ヤング率変化が1に近い硬化物は、硬化しにくいので、収縮応力の増加が少ないといえる。本発明の硬化性組成物の硬化物は、121℃または121℃100RH%で48時間保持する前後のヤング率変化が1.0以上1.5以下であるので、収縮応力の増加が少ないという効果を奏する。
【0031】
また、本発明の光学デバイスは、上記硬化性組成物を用いて製造されているものである。上述したように上記硬化性組成物の硬化物は、被接着体に対して、耐熱性および耐水性に優れた接着性を有している。さらに、硬化性組成物の硬化物では、アルカリ金属を含有するような被接着体と上記硬化物との間に不透明な異物が生じることを防止することが出来る。それ故、光学デバイスにアルカリ金属が含有されている場合であっても、上記硬化性組成物を用いることにより光学デバイスの光透過性が劣化することを防止することができる。
【0032】
そして、上記光学デバイスに上記硬化性組成物が用いられているので、上記光学デバイスは、優れた耐熱性、耐湿性、および光透過性を実現することが出来るという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
〔1:硬化性組成物〕
<硬化性組成物>
本発明の硬化性組成物は、一般式(1)で表されるカチオン重合開始剤およびカチオン重合性化合物を含有し、該硬化性組成物の硬化物を121℃または121℃100RH%で48時間保持する前後のヤング率変化が好ましくは1.0以上1.5以下、より好ましくは1.05以上1.45以下、さらに好ましくは1.10以上1.40以下である。
【0034】
【化2】

【0035】
(式(1)中、R〜Rはそれぞれ独立に、アリール基、複素環基、又はアルキル基を示す。Rfは水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されたアルキル基を示す。X、m、及びnは、XがPのときm=6、n=1〜5の整数、XがSbのときm=6、n=1〜5の整数、XがBのときm=4、n=1〜3の整数である。)
本明細書において、「高温度環境下」とは、温度が121℃以上の環境のことであり、「高温高湿度環境下」とは、温度が121℃以上であり、且つ湿度が好ましくは100RH%である環境のことである。また、「硬化物を高温度環境下または高温高湿度環境下で保持する」とは、硬化物を上述した高温度環境下または高温高湿度環境下に好ましくは48時間以上晒すことである。
【0036】
本明細書において「硬化性組成物の硬化物」とは、カチオン重合性化合物が硬化したもののことである。硬化性組成物に一般式(1)で表されるカチオン重合開始剤が含まれているので、当該カチオン重合開始剤を活性化することによって上記カチオン重合性化合物を効率よく硬化させることができる。これにより、硬化性組成物の硬化物を得ることができる。しかし、硬化性組成物の硬化物を得る方法は、これに限定されない。
【0037】
また、上記カチオン重合開始剤を活性化する方法は特に限定されず、例えば、上記カチオン重合開始剤に光を照射することや加熱することにより活性化することができる上記光としては、例えば、紫外線、可視光、X線、電子線等を用いることが出来るが、紫外線を用いることが好ましい。紫外線はエネルギーが高いため、紫外線を硬化性組成物に照射することにより硬化反応を促進することが出来、硬化性組成物の硬化速度を速めることが出来ると共に、硬化物における未反応の硬化性組成物の量を低減することが出来る。
【0038】
可視光を硬化性組成物に照射する方法としては特に限定されず、例えば、白熱球、蛍光灯等を用いる方法が挙げられる。また、紫外線を硬化性組成物に照射する方法としては特に限定されず、例えば、低圧または高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノン灯等を用いる方法が挙げられる。紫外線を使用する場合、その波長範囲は特に限定されないが、好ましくは150nm〜400nm、さらに好ましくは200nm〜380nmである。
【0039】
また、硬化性組成物を加熱する方法としては、特に限定されず、ヒーター等の従来公知の加熱方法を用いることができる。
【0040】
硬化性組成物の硬化状態は、フーリエ変換赤外分光分析装置や光化学反応熱量計等を用いて測定することが出来るので、硬化物が完全に硬化するための硬化条件(光の照射時間、光強度等、加熱温度、加熱時間等)を適宜選定することが出来る。
【0041】
硬化性組成物の硬化物を高温環境下または高温高湿度環境下で保持する前後のヤング率変化は、当該硬化性組成物の硬化物を高温環境下または高温高湿度環境下で保持した後の硬化物のヤング率をその前の硬化物のヤング率で割ることにより求めることができる。
【0042】
ここで、ヤング率は弾性率を意味するので、上記ヤング率変化が1に近いほど、高温度環境下または高温高湿度環境下で保持した後の硬化物が、硬化していないことを示している。換言すれば、上記ヤング率変化が1に近い硬化物は、硬化しにくいので、収縮応力の増加が少ないといえる。本発明の硬化性組成物の硬化物は、121℃または121℃100RH%で48時間保持する前後のヤング率変化が、好ましくは1.0以上1.5以下、より好ましくは1.05以上1.45以下、さらに好ましくは1.10以上1.40以下であるので、収縮応力増加が少ないといえる。
【0043】
ヤング率を求める方法は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、下記の実施例では、硬化物に対して、株式会社フィッシャーインストルメンツ製WIN−HCUを用いて、ビッカース圧子にて、荷重増加モードで、速度1mN/sで針入および引き抜きを行うことにより硬化物の応力を調べている。そしてこの応力から硬化物のヤング率を求めている。
【0044】
まず、一般式(1)で表されるカチオン重合開始剤について説明する。上記一般式(1)で表されるカチオン重合開始剤は、カチオン重合性化合物の硬化を促進するので、硬化性組成物の硬化物を効率よく得ることが出来る。
【0045】
上記式(1)のR〜Rに示される官能基は、それぞれ独立に、アリール基、複素環基、又はアルキル基である。
【0046】
上記R〜Rにおけるアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、ビフェニル基、またはナフチル基等が挙げられるが、これらに限定されない。また、上記R〜Rにおける複素環基としては、例えば、フリル基、チエニル基、チアゾリル基、ベンゾフリル基、ベンゾチオフェニル基、ベンゾチアゾリル基、ベンゾオキサゾリル基等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
上記R〜Rにおけるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等が挙げられるが、これらに限定されない。また、アルキル基は直鎖状でも良いし分岐状でも良く、その炭素数は好ましくは1〜20、より好ましくは1〜15、さらに好ましくは1〜8の範囲内である。
【0048】
例えば、上記式(1)のR〜Rに示される官能基としては、直鎖または分岐構造のアリール基やアルキル基等が好ましい。これらの官能基を用いることにより、上記式(1)で表される化合物のカチオン重合活性を高めることが出来ると共に、撥水性を最も高めることが出来る。それ故、高温度環境下または高温高湿度環境下において収縮応力が増加しにくいカチオン重合開始剤を提供することが出来る。
【0049】
上記式(1)におけるRfは、水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されたアルキル基である。上記Rfにおけるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等が挙げられるが、これらに限定されない。これらのアルキル基は直鎖状でも良いし分岐状でも良い。また、上記アルキル基の炭素数は、好ましくは1〜8の範囲内であり、1〜4の範囲内であることがより好ましい。
【0050】
上記「水素原子の一部がフッ素原子で置換されたアルキル基」とは、具体的には、水素原子の好ましくは80%以上、より好ましくは90%、さらに好ましくは95%以上がフッ素原子で置換されているアルキル基のことである。これらの特徴を有するカチオン重合開始剤は活性が高く、硬化性組成物の硬化を促進することができる。この理由から、上記式(1)におけるRfは、水素原子が全部フッ素で置換されているアルキル基、即ち、パーフルオロアルキル基であることが好ましい。
【0051】
本発明に用いられる式(1)のRfは、特に炭素数1〜8の直鎖または分岐を含むパーフルオロアルキル基であることが好ましい。Rfを炭素数が上記範囲のパーフルオロアルキル基とすることにより、硬化性に優れたカチオン重合開始剤を提供することが出来る。
【0052】
また、上記式(1)では、XがPのときm=6、n=2〜4の整数であり、XがSbのときm=6、n=2〜4の整数であり、XがBのときm=4、n=2または3であることが好ましい。X、m、およびnが上記数値であれば、硬化性および疎水性のバランスが良好である。
【0053】
上記一般式(1)で表されるカチオン重合開始剤の製造方法は特に限定されないが、例えば、フッ素化アルキリルフルオロ酸のアルカリ金属塩とオニウムのハロゲンイオン塩との反応により製造することが出来る。
【0054】
上記一般式(1)で表されるカチオン重合開始剤としては、例えば、トリフェニルスルホニウムリン酸塩(サンアプロ社製:K−1S)等が挙げられる。
【0055】
上記一般式(1)で表されるカチオン重合開始剤の硬化性組成物における添加比率は、硬化性組成物100重量部に対して好ましくは0.5重量部〜10重量部、より好ましくは1重量部〜5重量部、さらに好ましくは1.5重量部〜3重量部である。カチオン重合開始剤の添加比率を上記範囲にすることにより、未硬化のカチオン重合性化合物の量が少ない硬化物を得ることが出来るように硬化を行うことが出来る。さらに、高温度環境下または高温高湿度環境下における上記未硬化のカチオン重合性化合物の硬化を低減させることが出来る。
【0056】
また、本発明の硬化性組成物は、一般式(2)で表されるカチオン重合開始剤を含有していても良い。
【0057】
【化3】

【0058】
(式(2)中、RおよびRはそれぞれ独立に、アリール基、複素環基、又はアルキル基を示す。Rfは水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されたアルキル基を示す。また、nは1〜5の整数を示す。)
なお、式(2)における、R、R、Rf、および添加比率は、上記式(1)で説明したものと同様である。それ故、Rfで示されるアルキル基を有することにより、一般式(2)で表される化合物のアニオン部分が高分子となる。そのため、カチオン重合開始剤の活性を高めることが出来るので、高温度環境下または高温高湿度環境下においてカチオン重合を低減することが出来る。
【0059】
さらにR〜RおよびRfは、何れも炭素骨格を有する疎水基であるので、撥水性が高くなる。そのため、カチオン重合開始剤から生じた酸が水分子を媒介して拡散することを低減することが出来る。また、分子量向上とアルキル基による撥水性付与によりアルカリ金属と塩を形成することを防ぐことが出来る。
【0060】
また、上記式(2)では、n=2〜4の整数であることが好ましい。nが上記数値であれば、硬化性と疎水性とのバランスが良好である。上記一般式(2)で表される化合物の製造方法は特に限定されないが、例えば、フッ素化アルキリルフルオロ酸のアルカリ金属塩とオニウムのハロゲンイオン塩との反応により製造することが出来る。
【0061】
次に、カチオン重合性化合物について説明する。カチオン重合性化合物とは、カチオン重合開始剤によって硬化が誘導される化合物のことである。本発明の硬化性組成物に用いることの出来るカチオン重合性化合物としては、特に限定されないが、例えば、エポキシ化合物、オキセタン化合物、ビニルエーテル化合物等が挙げられる。これらのカチオン重合性化合物は単独でまたは2種以上組み合わせて使用することが出来る。
【0062】
エポキシ化合物の添加比率は、硬化性組成物100重量部に対して、好ましくは10重量部〜80重量部、より好ましくは20重量部〜70重量部、さらに好ましくは30重量部〜60重量部である。エポキシ化合物の添加比率が上記範囲であれば、硬化するエポキシ化合物の量が適切であるので、未硬化のエポキシ化合物の量が少ない硬化物を得ることが出来る。
【0063】
また、オキセタン化合物の添加比率は、硬化性組成物100重量部に対して好ましくは10重量部〜80重量部、より好ましくは20重量部〜70重量部、さらに好ましくは30重量部〜60重量部である。オキセタン化合物の添加比率が上記範囲であれば、硬化するオキセタン化合物の量が適切であるので、未硬化のオキセタン化合物の量が少ない硬化物を得ることが出来る。
【0064】
さらに、ビニルエーテル化合物の添加比率は、硬化性組成物100重量部に対して、好ましくは10重量部〜80重量部、より好ましくは20重量部〜70重量部、さらに好ましくは30重量部〜60重量部である。ビニルエーテル化合物の添加比率が上記範囲であれば、硬化するビニルエーテル化合物の量が適切であるので、未硬化のビニルエーテル化合物の量が少ない硬化物を得ることが出来る。
【0065】
エポキシ化合物とは、分子内に少なくとも1つ以上のエポキシ基を有する化合物の総称であり、例えば、脂環式エポキシ化合物、ポリブタジエン構造を有するエポキシ化合物、カルボキシ末端ブタジエンニトリルゴム変性ビスフェノールA型エポキシ化合物、エポキシ化ポリブタジエン化合物、および芳香族エポキシ化合物等が挙げられるが、これらに限定されない。これらのエポキシ化合物は単独でまたは2種以上組み合わせて使用することが出来る。
【0066】
脂環式エポキシ化合物とは、分子内に脂環式エポキシ基を有する化合物のことである。ここで脂環式エポキシ基とは、脂環式構造の中にエポキシ結合を形成している基の総称であり、例えば、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル−5,5−スピロ−3,4−エポキシ)シクロヘキサン−メタ−ジオキサン、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、トリメチルカプロラクトン変性3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの脂環式エポキシ化合物は単独でまたは2種以上組み合わせて使用することが出来る。
【0067】
上記脂環式エポキシ化合物は、硬化性に優れているので、硬化性組成物の硬化を促進することが出来る。その結果、硬化物に存在する未硬化物の量を減らすことが出来るため、高温度環境下または高温高湿度環境下で異物が生じることを防止することが出来る。
【0068】
芳香族エポキシ化合物とは、少なくとも1つのエポキシ基と、少なくとも1つの芳香環を有する化合物であり、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの芳香族エポキシ化合物は単独でまたは2種以上組み合わせて使用することが出来る。
【0069】
ポリブタジエン構造を有するエポキシ化合物とは、少なくとも1つのエポキシ基を有するブタジエンの重合体であり、例えば、α、ω−ポリブタジエンジカルボン酸とビスフェノールA型エポキシ樹脂の付加反応物等が挙げられるが、これらに限定されない。これらのポリブタジエン構造を有するエポキシ化合物は単独でまたは2種以上組み合わせて使用することが出来る。上記ポリブタジエン構造を有するエポキシ化合物は柔軟性を有しているので、この化合物を含有する硬化性組成物を硬化することにより、柔軟性に優れた硬化物を提供することが出来る。
【0070】
また、カルボキシ末端ブタジエンニトリルゴム変性ビスフェノールA型エポキシ化合物の製造方法は特に限定されないが、例えば、カルボキシ末端ブタジエンニトリルゴムとビスフェノールA型エポキシ樹脂の付加反応を行うことにより製造することが出来る。
【0071】
上記カルボキシ末端ブタジエンニトリルゴム変性ビスフェノールA型エポキシ化合物は、柔軟性と接着性とを有している。それ故、この化合物を含有する硬化性組成物を硬化することにより、柔軟性および接着性に優れた硬化物を提供することが出来る。上記エポキシ化ポリブタジエン化合物の製造方法は特に限定されないが、例えば、ポリブタジエンの酸化反応を行うことにより製造することが出来る。
【0072】
上記エポキシ化ポリブタジエン化合物は、硬化性に優れている。さらに柔軟性があるため硬化物の柔軟性を向上させることができる。それ故、この化合物を含有する硬化性組成物の硬化物が高温環境下または高温高湿度環境下におかれた場合に、硬化物のさらなる硬化に伴う収縮応力の増加を緩和することが出来、当該硬化物の被接着体に対する接着力が低下することを防ぐことが出来る。換言すれば、接着性の面で耐熱性および耐湿性に優れた硬化物を提供することが出来る。
【0073】
オキセタン化合物とは、分子中に少なくとも1個のオキセタン環を有する化合物の総称であり、例えば、3,3−ジメチルオキセタン、3,3−ビス(クロロメチル)オキセタン、2−ヒドロキシメチルオキセタン、3−メチル−3−オキセタンメタノール、3−メチル−3−メトキシメチルオキセタン、3−エチル−3−フェノキシメチルオキセタン、レゾルシノールビス(3−メチル−3−オキセタニルエチル)エーテル、m−キシリレンビス(3−エチル−3−オキセタニルエチルエーテル)、ジ[1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0074】
さらに、本発明の硬化性組成物に含有されるオキセタン化合物としては、硬化性が良好であるため、水酸基を有するオキセタン化合物であることがより好ましい。そのようなオキセタン化合物としては、例えば、2−ヒドロキシメチルオキセタン、3−メチル−3−オキセタンメタノール等が挙げられるがこれらに限定されない。また、これらのオキセタン化合物は単独でまたは2種以上組み合わせて使用することが出来る。
【0075】
ビニルエーテル化合物としては、例えば、エチレングリコールジビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、シクロヘキサンジオールジビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、シクロヘキサンジオールモノビニルエーテル、9−ヒドロキシノニルビニルエーテル、プロピレングリコールモノビニルエーテル等が挙げられるが、これらに限定されない。これらのビニルエーテル化合物は単独でまたは2種以上組み合わせて使用することが出来る。
【0076】
上述したエポキシ化合物、オキセタン化合物、およびビニルエーテル化合物は、それぞれ単独でまたは2種以上組み合わせて使用することが出来る。特に、エポキシ化合物とオキセタン化合物とを併用することが好ましい。これにより、エポキシ化合物とオキセタン化合物との間で協調的に硬化が起こるので、硬化性組成物の硬化を促進することが出来る。
【0077】
また脂環式エポキシ化合物と水酸基を有するオキセタン化合物とを併用することがさらに好ましい。これにより、脂環式エポキシ化合物と水酸基を有するオキセタン化合物との間でより協調的に硬化が起こるので、高温度環境下または高温高湿度環境下において異物が生じることを一層防止することが出来る。
【0078】
また、本発明の硬化性組成物は、その他の成分として、(a)カチオン重合開始剤の活性化剤、(b)シランカップリング剤、(c)無機充填剤等をさらに含有していても良い。上記(a)〜(c)について以下で説明する。
【0079】
(a)カチオン重合開始剤の活性化剤
カチオン重合開始剤の活性化剤を用いることにより、カチオン重合開始剤の活性を高めることが出来る。それ故、本発明の硬化性組成物にカチオン重合開始剤とカチオン重合開始剤の活性化剤と含有させることにより、本発明の硬化性組成物の硬化をより促進することが出来る。上記カチオン重合開始剤の活性化剤としては、例えば、増感剤、等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0080】
増感剤としては、例えば、ピレン、ペリレン、アクリジンオレンジ、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、ペンゾフラビン等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの増感剤は単独でまたは2種以上組み合わせて使用することが出来る。増感剤の添加比率は、硬化性組成物100重量部に対して、好ましくは0.5重量部〜10重量部にすることが出来る。
【0081】
(b)シランカップリング剤
シランカップリング剤とは無機材料または金属材料と、硬化性組成物またはその硬化物とを化学的に結合する性質を有するものである。それ故、本発明の硬化性組成物にシランカップリング剤を含有させることにより、本発明の硬化性組成物またはその硬化物の無機材料または金属材料に対する密着性を改良することが出来る。
【0082】
シランカップリング剤としては、特に限定されないが、例えば、下記のシランカップリング剤を用いることができる:γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、P−スチリルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン。シランカップリング剤としては、エポキシ基を有しているシランカップリング剤が好ましい。当該エポキシ基によって、無機材料または金属材料と、硬化性組成物またはその硬化物とを簡便に結合することができるからである。なお、シランカップリング剤は単独でまたは2種以上組み合わせて使用することが出来る。
【0083】
また、上記例示したシランカップリング剤の中でも、無機材料または金属材料と、硬化性組成物またはその硬化物との化学結合がより強力であるという理由から、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、および/または2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランが最も好ましい。
【0084】
シランカップリング剤の添加比率は、硬化性組成物100重量部に対して、好ましくは0.5重量部〜15重量部、より好ましくは1重量部〜10重量部、さらに好ましくは3重量部〜8重量部である。
【0085】
(c)無機充填剤
本発明の硬化性組成物に無機充填剤を含有させることにより、硬化性組成物の粘度または硬化時の体積収縮率を低減することが出来るだけでなく、さらに硬化性組成物の硬化物の耐熱性も向上することが出来る。上記無機充填剤としては、特に限定されないが、例えば、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、タルク、酸化チタン等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの無機充填剤は単独でまたは2種以上組み合わせて使用することが出来る。
【0086】
無機充填剤の添加比率は、硬化性組成物100重量部に対して、好ましくは20重量部〜70重量部にすることが出来る。
【0087】
<硬化性組成物の製造方法>
本発明の硬化性組成物は、例えば、カチオン重合性化合物およびカチオン重合開始剤を攪拌する等の従来公知の方法を用いて混合することにより製造することが出来る。さらに必要に応じて、上記(a)〜(c)の各成分を混合しても良い。また、本発明の硬化性組成物は上記の各成分の混合物として、通常そのまま使用しても良いが、有機溶剤に溶解して使用しても良い。これにより、硬化性組成物の粘度を調整することや塗布後の平滑性を確保することが出来る。
【0088】
使用出来る有機溶剤としては、例えばトルエン、キシレン、メチルエチルケトン、イソプロパノール、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノジエチルエーテル等が挙げられる。有機溶剤を使用する場合、その使用量は目的に応じ適宜定められる。
【0089】
本発明の硬化性組成物の硬化物は、以上のように一般式(1)または(2)で表される化合物を含むカチオン重合開始剤を含有している。上記一般式(1)または(2)で表されるカチオン重合開始剤はRfで示されるアルキル基を有しているので、アニオン部分の分子量が大きくなる。これによりカチオン重合の活性が高くなるので、高温度環境下または高温高湿度環境下におけるカチオン重合を低減することが出来る。
【0090】
さらにR〜RおよびRfは、何れも炭素骨格を有する疎水基であるので、カチオン重合開始剤の撥水性が高くなる。そのため、カチオン重合開始剤から生じた酸が水分子を媒介して拡散することを低減することが出来る。このように、アニオン部分の分子量向上とアルキル基による撥水性付与とにより、高温度環境下または高温高湿度環境下におけるカチオン重合を低減することができる。
【0091】
したがって、硬化性組成物の硬化物を、上記環境下においた場合に、未硬化のカチオン重合性化合物が硬化することを防ぐことが出来る。これにより、上記環境下において硬化物の収縮応力が増加することを防ぐことが出来るので、硬化物と被接着体とを接着した場合に、硬化物の被接着体に対する接着力の低下や被接着体からの剥離を防ぐことが出来る。換言すれば、上記硬化性組成物の硬化物は、上記カチオン重合開始剤が用いられているので、被接着体に対して、耐熱性および耐水性に優れた接着性を有している。
【0092】
また、従来の硬化性組成物では、それに含有されるカチオン重合開始剤とアルカリ金属とが塩を形成していた。そのため、従来の硬化性組成物を用いることでアルカリ金属を含有する被接着体の光透過性が劣化してしまうという問題がある。
【0093】
一方、本発明の硬化性組成物では、カチオン重合開始剤の撥水性が高くなったことによって、カチオン重合開始剤とアルカリ金属との塩形成を防ぐことが出来るので、そのような問題を解決することが出来る。それ故、本発明の硬化性組成物は、被接着体の光透過性を維持できるという面でも非常に有用である。
【0094】
従って、例えば、後述するように、本発明の硬化性組成物を光学デバイスの部材の接着剤として非常に有用に用いることが出来る。また、本発明の硬化性組成物のその他の用途として、液晶ディスプレイ等のディスプレイ用接着剤、塗料、金属またはプラスチック等の各種材料に対するコーティング剤、シール剤、封止剤等が挙げられる。
【0095】
なお本明細書において、「収縮応力」とは、硬化物に発生する収縮しようとする力のことである。また、「被接着体」とは、本発明の硬化性組成物を用いて接着されることの出来るもののことであり、例えば、後述する光学デバイスの部材等が挙げられるが、これに限定されない。
【0096】
以下では、本発明の硬化性組成物を用いた光学デバイスについて説明する。
【0097】
〔2:光学デバイス〕
<光学デバイス>
本発明の光学デバイスは、上述した本発明の硬化性組成物を用いて製造されているものである。「本発明の硬化性組成物を用いる」とは、特に限定されず、例えば、本発明の硬化性組成物を、本発明の光学デバイスの部材のコーティングに用いることが挙げられる。また、本発明の光学デバイスが、2つ以上の部材を有していれば、上記硬化性組成物を用いて部材同士を接着させることができる。
【0098】
上記「本発明の硬化性組成物を、本発明の光学デバイスの部材のコーティングに用いる」とは、例えば、上記本発明の硬化性組成物をスピンコート法等の従来公知の方法を用いることにより部材に塗布することをいう。光学デバイスの部材としては、特に限定されないが、例えば、本発明の硬化性組成物が適用可能な材料が用いられている部材を挙げることができる。
【0099】
また、本発明の硬化性組成物を用いて部材同士を接着させる場合、硬化性組成物は、同じ材料のみが用いられている部材の接着に用いられても良いし、異なる材料が用いられている部材の接着に用いられても良い。
【0100】
本発明の硬化性組成物が適用可能な材料としては、例えば、石英、有機材料、金属等が挙げられるがこれらに限定はされない。上記石英としては、例えば、合成石英、溶解石英、ガラス等が挙げられるが、これらに限定されない。また、上記有機材料としては、例えば、アクリル、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリウレタン、シリコーン、ポリプロピレン、ポリフェニレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル等が挙げられるが、これらに限定されない。上記金属としては、例えば、アルミ、ステンレス鋼、電着塗装鋼、軟鉄鋼、黄銅鋼、炭素鋼、チタン、鉛、塩化ビニル鋼、アルミマグネシウム鋼等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0101】
従来の硬化性組成物では、それに含有されるカチオン重合開始剤とアルカリ金属とが塩を形成していた。そのため、従来の硬化性組成物の硬化物と部材との間に不透明な異物が生じて、硬化物と部材とが剥離することや、硬化物と部材との光透過性が劣化するという問題があった。一方、本発明の硬化性組成物では、上述したように、アルカリ金属との塩形成を大きく低減出来るカチオン重合開始剤を含有しているので、そのような問題を解決することが出来る。それ故、本発明の硬化性組成物は、硬化物と部材との剥離を低減することや、硬化物と部材との光透過性を維持することができるという面でも非常に有用である。
【0102】
なお、本発明の硬化性組成物に光を照射することまたは熱を加えることにより硬化性組成物が硬化し、この硬化によって部材同士を接着させることが出来る。そこで、光を照射して部材同士を接着させる場合には、接着することが出来る部材の内の少なくとも一つは、上記石英や有機材料等の光を透過することの出来る材質を有する材料(以下、「光透過性材料」と記載する。)が備えられていることが好ましい。これにより、光透過性材料を通して硬化性組成物に光を照射することが出来る。上記光透過性材料として、例えば、合成石英、溶解石英、ガラス、アクリル、ポリカーボネート、ポリエステル等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0103】
一方、熱を加えて部材同士を接着させる場合には、接着される部材は加熱に耐えることのできる材質を有する材料(以下、「耐熱性材料」と記載する。)で構成されていることが好ましい。そのような耐熱性材料として、例えば、耐熱ガラスや、フェノールノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂等の耐熱性樹脂等があげられるが、これらに限定はされない。
【0104】
また、本発明の硬化性組成物は、接着界面が凹凸形状である部材同士の接着に用いることが出来る。上記「接着界面が凹凸形状である」とは、接着界面が平坦ではなく起伏を有することを表す。接着する2以上の部材の内少なくとも1つの部材の接着面に窪みおよび/または突き出しがある場合に、部材同士の接着界面を凹凸形状にすることが出来る。上記窪みおよび突き出しの形状は、特に限定されず、平面のみで構成されていても良いし、曲面のみで構成されていても良いし、平面と曲面とで構成されていても良い。
【0105】
上記接着面に窪みおよび/または突き出しを有する部材としては、例えば、レンズ、光導波路、ファイバーアレイ、コリメータレンズアレイ等を挙げることが出来る。また、そのような部材を備えた光学デバイスとして、例えば、ファイバーアレイ、WDMモジュール、コリメータアレイ、光変調器、光増幅器、カメラ、顕微鏡、望遠鏡等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0106】
以下、本発明の光学デバイスを図1〜図3に基づいて説明する。
【0107】
図1は、ファイバーアレイの1実施の形態を示す模式図である。図1(a)は本発明の硬化性組成物を用いて接着する前のファイバーアレイ10の模式図であり、図1(b)は本発明の硬化性組成物を用いて接着した後の、ファイバーアレイ10の模式図である。
【0108】
図1(a)に示すように、ファイバーアレイ10は、表面が平坦な押さえ基板11およびリボンファイバー13を有するV溝基板12を備えている。上記リボンファイバー13は、1以上の光ファイバーにより形成されている。上記V溝基板12の表面には、1以上のV字の溝が形成されており、それらの溝にリボンファイバー13が配置されている。そのため、V溝基板12のリボンファイバー13が配置されている面には、窪みおよび突き出しが形成されている
図1(b)に示すように、ファイバーアレイ10では、上記押さえ基板11の面と上記V溝基板12のリボンファイバー13が配置されている面とが本発明の硬化性組成物14を用いて接着されている。本実施の形態では、V溝基板の溝はV字としたが、溝の形状は、特に限定されず、例えば、U字等を用いることが出来る。
【0109】
図2は、WDMモジュールの1実施の形態を示す模式図である。図2(a)は、本発明の硬化性組成物を用いて接着する前のWDWモジュール20の模式図であり、図2(b)は本発明の硬化性組成物を用いて接着した後の、WDWモジュール20の模式図である。
【0110】
図2(a)に示すように、WDMモジュール20には、第1ファイバーアレイ21、光導波路25、および第2ファイバーアレイ22が備えられている。上記第1ファイバーアレイ21には、当該ファイバーアレイ21の基板を貫通するように1本の光ファイバー23が設けられている。さらに、光ファイバー23が貫通している一方の面は垂直方向に対して傾斜している。また、上記第2ファイバーアレイ22では、当該ファイバーアレイ22の基板を貫通するように2本の光ファイバー23が設けられていること以外は第1ファイバーアレイと同様である。
【0111】
上記光導波路25には、当該光導波路25の基板を貫通するように2本の光ファイバー23が設けられており、さらに上記2本の光ファイバー23は上記基板の一方の面において1本に収束している。即ち、上記光導波路25の基板には、光ファイバーが1本形成されている面(以下、「面1」と記載する。)、および光ファイバーが2本形成されている面(以下、「面2」と記載する。)が存在する。また、上記面1の表面には、光ファイバー23を含むようにフィルタ26が形成されている。また、上記面1および面2は、第1ファイバーアレイ21および第2ファイバーアレイ22と接着したときに、WDMモジュール20が方形となるように垂直方法に対して傾斜している。
【0112】
WDMモジュール20では、第1ファイバーアレイ21、第2ファイバーアレイ22、および光導波路25の光ファイバー23が貫通しているそれぞれの面において、窪みおよび突き出しが形成されている。
【0113】
図2(b)に示すように、WDMモジュール20では、上記第1ファイバーアレイ21の傾斜面と上記光導波路25の面1とが、上記第2ファイバーアレイ22の傾斜面と上記光導波路25の面2とが本発明の硬化性組成物14を用いて接着されている。
【0114】
図3は、コリメータアレイの1実施の形態を示す模式図である。図3(a)は本発明の硬化性組成物14を用いて接着する前のコリメータアレイ30の模式図であり、図3(b)は本発明の硬化性組成物14を用いて接着した後の、コリメータアレイ30の模式図であり、図3(c)および図3(d)は、コリメータアレイ30の断面図である。
【0115】
図3(a)および(c)に示すように、コリメータアレイ30は、コリメータレンズアレイ35および上記ファイバーアレイ10を備えている。上記コリメータレンズアレイ35には、ファイバーアレイ10と接着したときに、ファイバーアレイ10に備えられているリボンファイバー13と1対1で対応するように複数のレンズ36が形成されている。上記レンズ36としては、例えば、ガラス、プラスチック、平板レンズ等が挙げられる。コリメータレンズアレイ35のレンズ36が形成されている面、およびファイバーアレイ10のリボンファイバー13が備えられている面において、窪みおよび突き出しが形成されている。
【0116】
図3(b)および(d)に示すように、コリメータアレイ30では、上記コリメータレンズアレイ35に形成されたレンズ36とファイバーアレイ10に形成されたリボンファイバー13とが1対1で対応するように、コリメータレンズアレイ35のレンズ36が形成されている面およびファイバーアレイ10のリボンファイバー13が備えられている面が、本発明の硬化性組成物14を用いて接着されている。
【0117】
<光学デバイスの製造方法>
本発明の光学デバイスの製造方法は、本発明の硬化性組成物を部材に塗布する塗布工程と、上記部材の硬化性組成物が塗布されている箇所に少なくとも1以上の部材を密着させる密着工程と、上記硬化性組成物を硬化させることにより部材同士を接着する接着工程とを含んでいれば良く、その他の工程は、光学デバイスを製造するための従来公知の方法を用いることが出来る。
【0118】
上記の構成によれば、上述したように上記硬化性組成物の硬化物は、被接着体に対して、耐熱性および耐水性に優れた接着性を有しているので、高温度環境下または高温湿度環境下でも部材同士の接着力の低下を防ぐことが出来る。それ故、耐熱性および耐湿性に優れた光デバイスを製造することが出来る。
【0119】
上記塗布工程において、本発明の硬化性組成物が塗布される部材として、上記<光学デバイス>に記載の部材を用いることが出来る。また、本発明の硬化性組成物を上記部材に塗布する方法は特に限定されず、例えば、スプレー、浸漬、スピンコート、ロールコーターを用いる方法等を用いることが出来る。本発明の硬化性組成物は、1つ以上の部材に塗布されていれば良い。
【0120】
また、硬化性組成物の塗布量も特に限定されず、部材と部材とを接着することが出来る量であれば良く、例えば、塗布によって生じる硬化性組成物層が、好ましくは0.1μm〜1000μm、より好ましくは1μm〜500μm、さらに好ましくは5μm〜100μmになるように塗布量を調節すれば良い。このような硬化性組成物層とするには硬化性組成物の25℃での粘度が好ましくは10〜2000mPa・s、より好ましくは30〜1500mPa・s、さらに好ましくは50〜1000mPa・sに調整すればよい。
【0121】
上記密着工程において、密着される部材は、上記硬化性組成物の内少なくとも1つ以上の部材に上記硬化性組成物が塗布されていれば良い。即ち、上記硬化性組成物が塗布されている1つ以上の部材に、硬化性組成物が塗布されていない1つ以上の部材を密着させても良いし、上記硬化性組成物が塗布されている1つ以上の部材に、硬化性組成物が塗布されている1つ以上の部材を密着させても良い。また、部材同士を密着させる方法としては、特に限定されず、例えば、一方の部材を固定し、それ以外の部材を接触させることにより密着させる方法が挙げられる。
【0122】
上記接着工程においては、部材を通して本発明の硬化性組成物に光を照射することにより硬化性組成物を硬化させることが出来、部材同士を接着することが出来る。それ故、部材の内の少なくとも1つは、上述した光透過性部材であることが好ましい。
【0123】
上記光としては、例えば、紫外線、可視光、X線、電子線等を用いることが出来るが、紫外線を用いることが好ましい。紫外線はエネルギーが高いため、紫外線を硬化性組成物に照射することにより硬化反応を促進することが出来、硬化性組成物の硬化速度を速めることが出来ると共に、硬化物における未反応の硬化性組成物の量を低減することが出来る。
【0124】
可視光を硬化性組成物に照射する方法としては特に限定されず、例えば、白熱球、蛍光灯等を用いる方法が挙げられる。また、紫外線を硬化性組成物に照射する方法としては特に限定されず、例えば、低圧または高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノン灯等を用いる方法が挙げられる。紫外線を使用する場合、その波長範囲は特に限定されないが、好ましくは150nm〜400nm、さらに好ましくは200nm〜380nmである。
【0125】
一方、本発明の硬化性組成物が、熱カチオン重合開始剤を含有している場合、当該硬化性組成物を加熱することにより硬化することが出来、この硬化によって部材同士を接着することが出来る。それ故、上記部材は上述した耐熱性素材を備えた部材であることが好ましい。これにより、加熱によって部材が変形することを防ぐことが出来る。硬化性組成物を加熱する方法としては、特に限定されず、ヒーター等の従来公知の加熱方法を用いることができる。
【0126】
硬化性組成物の硬化状態は、フーリエ変換赤外分光分析装置や光化学反応熱量計等を用いて測定出来るので、硬化物が完全に硬化するための硬化条件(光の照射時間、光強度、加熱温度、加熱時間等)は適宜選定することが出来る。
【0127】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0128】
以下の実施例により、本発明をさらに、詳細に説明するが、本発明は、これらに何ら限定されるものではない。
【0129】
〔実施例1〕
<硬化性組成物の製造>
下記表1に示す割合で各成分を混合し、硬化性組成物を製造した。
【0130】
即ち、カチオン重合性化合物として水添ビスフェノールA型エポキシ(ジャパンエポキシレジン社製:jER YX−8000)50重量部に対して、反応促進剤としてOXT−221(東亞合成社製)を50重量部、およびカチオン重合開始剤として前記式(1)で示されるトリフェニルスルホニウムリン酸塩(サンアプロ社製:K−1S)を1.5重量部添加して均一になるように攪拌混合した後、脱泡し、硬化性組成物を製造した。
【0131】
<剥離強度測定及びヤング率の測定>
(サンプルの作成方法)
ホウケイ酸ガラス上に上記硬化性組成物を0.05g塗布し、60μmのシックネスゲージを介して、離形剤があらかじめ塗布されてあるスライドガラスを離形剤が樹脂に接するように置いた。その後、高圧水銀ランプを用いて、20mWで400s間UV照射した後、スライドガラスを外すことで、ホウケイ酸ガラス上に接着された膜厚60μmの樹脂組成物を得た。常温で3時間放置した後、100℃2時間ベークを行った。その後さらに常温で24時間放置した。これにより、高温高湿試験前の測定サンプルが得られた。高温高湿試験前の剥離強度およびヤング率はこのサンプルを用いて測定した。
【0132】
(高温高湿度環境試験)
上記作成方法によって得られたサンプルを121℃湿度100RH%環境下に30時間保持した後、常温で24時間放置した。これにより高温高湿度環境試験後のサンプルが得られた。
【0133】
(剥離強度試験)
高温高湿度環境試験前後のサンプルに対してダイプラウィンテス社製SAICASにて、BN切刃を用い、水平速度1μm/sの定速度モードで切刃を移動させた。この時の刃幅当たりの切刃が受ける水平力を剥離強度(kN/m)とした。そして高温高湿度環境試験前後における剥離強度を表2に示した。
【0134】
(ヤング率試験)
高温高湿度環境試験前後のサンプルに対して株式会社フィッシャーインストルメンツ製WIN−HCUにて、ビッカース圧子を用い、荷重増加モードで、速度1mN/sで針入および引き抜きを行った。このようにして、高温高湿度環境試験前後のサンプルのヤング率を測定した。そして、そのヤング率変化を表3に示した。
【0135】
〔実施例2〕
<硬化性組成物の製造>
下記表1に示す割合で各成分を混合し、硬化性組成物を製造した。
【0136】
カチオン重合性化合物として水添ビスフェノールA型エポキシ化合物(ジャパンエポキシレジン社製:jER YX−8000)50重量部に対して、反応促進剤としてOXT−221(東亞合成社製)を50重量部、カチオン重合性化合物として前記式(1)で示されるトリフェニルスルホニウムリン酸塩(サンアプロ社製:K−1S)を1.5重量部、および添加剤としてシランカップリング剤(信越化学社製KBM403)を5重量部添加し、均一に攪拌混合した後、脱泡し、硬化性組成物を製造した。
【0137】
<剥離強度測定及びヤング率の測定>
上記硬化性組成物について、実施例1と同様にして硬化物の剥離強度およびヤング率を測定した。その結果を表2および3にそれぞれ示す。
【0138】
〔実施例3〕
<硬化性組成物の製造>
下記表1に示す割合で各成分を混合し、硬化性組成物を製造した。
【0139】
カチオン重合性化合物として水添ビスフェノールA型エポキシ化合物(ジャパンエポキシレジン社製:jER YX−8000)25重量部に対して、柔軟性付与材料としてポリブタジエン構造を有するエポキシ化合物(日本曹達社製、EPB−13)を25重量部、反応促進剤としてOXT−221(東亞合成株式会社製)を50重量部、カチオン重合性化合物として前記式(1)で示されるトリフェニルスルホニウムリン酸塩(サンアプロ社製:K−1S)を1.5重量部、および添加剤としてシランカップリング剤(信越化学社製KBM403)を5重量部添加し、均一に攪拌混合した後、脱泡し、硬化性組成物を製造した。
【0140】
<剥離強度測定及びヤング率の測定>
上記硬化性組成物について、実施例1と同様にして硬化物の剥離強度およびヤング率を測定した。その結果を表2および3にそれぞれ示す。
【0141】
〔実施例4〕
<硬化性組成物の製造>
下記表1に示す割合で各成分を混合し、硬化性組成物を製造した。
【0142】
カチオン重合性化合物として水添ビスフェノールA型エポキシ化合物(ジャパンエポキシレジン社製:jER YX−8000)25重量部に対して、柔軟性付与材料としてポリブタジエン構造を有するエポキシ化合物(日本曹達社製:EPB−13)を25重量部、反応促進剤としてOXT−221(東亞合成株式会社製)を50重量部、反応促進ならびに接着力向上剤としてカルボキシ末端ブタジエンニトリルゴム変性ビスフェノールA型エポキシ化合物(大日本インキ社製:エピクロンTSR−960)を15重量部、カチオン重合性化合物として前記式(1)で示されるトリフェニルスルホニウムリン酸塩(サンアプロ社製:K−1S)を1.5重量部、および添加剤としてシランカップリング剤(信越化学社製:KBM403)を5重量部添加し、均一に攪拌混合した後、脱泡し、硬化性組成物を製造した。
【0143】
<剥離強度測定及びヤング率の測定>
上記硬化性組成物について、実施例1と同様にして硬化物の剥離強度およびヤング率を測定した。その結果を表2および3にそれぞれ示す。
【0144】
〔比較例1〕
<硬化性組成物の製造>
下記表1に示す割合で各成分を混合し、硬化性組成物を製造した。
【0145】
前記式(1)で示されるトリフェニルスルホニウムリン酸塩(サンアプロ社製:K−1S)1.5重量部の代わりにトリフェニルスルホニウムヘキサフルオロリン酸の50重量%プロピレンカーボネート溶液(アデカオプトマーSP150)を3重量部添加した以外は、実施例1と同様にして硬化性組成物を製造した。
【0146】
<剥離強度測定及びヤング率の測定>
上記硬化性組成物について、実施例1と同様にして硬化物の剥離強度およびヤング率を測定した。その結果を表2および3にそれぞれ示す。
【0147】
〔比較例2〕
<硬化性組成物の調製>
前記式(1)で示されるトリフェニルスルホニウムリン酸塩(サンアプロ社製:K−1S)1.5重量部の代わりにトリフェニルスルホニウムヘキサフルオロリン酸の50重量%プロピレンカーボネート溶液(アデカオプトマーSP150)を3重量部添加した以外は、実施例2と同様にして硬化性組成物を製造した。
【0148】
<剥離強度測定及びヤング率の測定>
上記硬化性組成物について、実施例1と同様にして硬化物の剥離強度およびヤング率を測定した。その結果を表2および3にそれぞれ示す。
【0149】
〔比較例3〕
<硬化性組成物の製造>
前記式(1)で示されるトリフェニルスルホニウムリン酸塩(サンアプロ社製:K−1S)1.5重量部の代わりにトリフェニルスルホニウムヘキサフルオロリン酸の50重量%プロピレンカーボネート溶液(アデカオプトマーSP150)を3重量部添加した以外は、実施例3と同様にして硬化性組成物を製造した。
【0150】
<剥離強度測定及びヤング率の測定>
上記硬化性組成物について、実施例1と同様にして硬化物の剥離強度およびヤング率を測定した。その結果を表2および3にそれぞれ示す。
【0151】
〔比較例4〕
<硬化性組成物の製造>
前記式(1)で示されるトリフェニルスルホニウムリン酸塩(サンアプロ社製:K−1S)1.5重量部の代わりにトリフェニルスルホニウムヘキサフルオロリン酸の50重量%プロピレンカーボネート溶液(アデカオプトマーSP150)を3重量部添加した以外は、実施例4と同様にして硬化性組成物を製造した。
【0152】
<剥離強度測定及びヤング率の測定>
上記硬化性組成物について、実施例1と同様にして硬化物の剥離強度およびヤング率を測定した。その結果を表2および3にそれぞれ示す。
【0153】
【表1】

【0154】
表1は、実施例1〜4及び比較例1〜4の硬化性組成物の構成化合物の各成分の割合を重量部で示している。
【0155】
【表2】

【0156】
表2は、高温高湿度環境試験前後における実施例1〜4及び比較例1〜4の剥離強度を示している。
【0157】
表2から、実施例1〜4の硬化物は比較例1〜4の硬化物と比較すると、高温高湿試験後の接着力の低下が小さく、強い接着力を保持し、優れた接着特性を有していることがわかる。
【0158】
【表3】

【0159】
表3は、高温高湿度環境試験前後における実施例1〜4及び比較例1〜4のヤング率を示している。
【0160】
表3から、実施例1〜4の硬化物は比較例1〜4の硬化物と比較すると、高温高湿試験後のヤング率の上昇が小さく、高温高湿中に起こる硬化反応が小さいことが分かる。さきの表2の結果と合わせると、実施例1〜4の硬化物は比較例1〜4の硬化物よりも高温高湿中で起こる硬化が少ないため、接着力の低下も小さいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0161】
本発明の硬化性組成物の硬化物は、高温度環境下または高温高湿度環境下においても劣化することや剥がれることが無い。それ故、本発明の硬化性組成物を光学デバイスや液晶などの表示ディスプレイの接着剤、塗料、コーティング剤として好適に用いることが出来る。従って、本発明は、WDM(光波長多重通信)に用いられる光合分波器、コリメータ、光変調器、光増幅器、カメラ、顕微鏡、望遠鏡等の光学デバイス製造産業や液晶などの表示ディスプレイ製造産業に利用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0162】
【図1】(a)は本発明の硬化性組成物を用いて接着する前のファイバーアレイの模式図であり、(b)は本発明の硬化性組成物を用いて接着した後の、ファイバーアレイの模式図である。
【図2】(a)は本発明の硬化性組成物を用いて接着する前のWDWモジュールの模式図であり、(b)は本発明の硬化性組成物を用いて接着した後の、WDWモジュールの模式図である。
【図3】(a)は本発明の硬化性組成物を用いて接着する前のコリメータアレイの模式図であり、(b)は本発明の硬化性組成物を用いて接着した後の、コリメータアレイの模式図であり、(c)および(d)は、コリメータアレイの断面図である。
【符号の説明】
【0163】
10 ファイバーアレイ
11 押さえ基板
12 V溝基板
13 リボンファイバー
14 硬化性組成物
20 WDWモジュール
21 第1ファイバーアレイ
22 第2ファイバーアレイ
23 光ファイバー
25 光導波路
26 フィルタ
30 コリメータアレイ
35 コリメータレンズアレイ
36 レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン重合性化合物および一般式(1)で表されるカチオン重合開始剤を含有する硬化性組成物であって、当該硬化性組成物の硬化物を121℃または121℃100RH%で48時間保持する前後のヤング率変化が1.0以上1.5以下であることを特徴とする硬化性組成物。
【化1】

(式(1)中、R〜Rはそれぞれ独立に、アリール基、複素環基、又はアルキル基を示す。Rfは水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されたアルキル基を示す。X、m、及びnは、XがPのときm=6、n=1〜5の整数、XがSbのときm=6、n=1〜5の整数、XがBのときm=4、n=1〜3の整数である。)
【請求項2】
上記カチオン重合性化合物が、エポキシ化合物、オキセタン化合物及びビニルエーテル化合物からなる群から選ばれる1つ以上の化合物であることを特徴とする請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
上記カチオン重合性化合物が、エポキシ化合物及びオキセタン化合物を含有することを特徴とする請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
上記エポキシ化合物が、脂環式エポキシ化合物、ポリブタジエン構造を有するエポキシ化合物、カルボキシ末端ブタジエンニトリルゴム変性ビスフェノールA型エポキシ化合物、及びエポキシ化ポリブタジエン化合物からなる群から選ばれる1つ以上の化合物であることを特徴とする請求項2又は3に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
上記オキセタン化合物が、水酸基を有することを特徴とする請求項2〜4の何れか1項に記載の硬化性組成物。
【請求項6】
シランカップリング剤をさらに含有することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の硬化性組成物。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載の硬化性組成物を用いて製造されていることを特徴とする光学デバイス。
【請求項8】
上記光学デバイスは、2つ以上の部材を有することを特徴とする請求項7に記載の光学デバイス。
【請求項9】
上記部材に用いられている材料が、有機材料または合成石英であることを特徴とする請求項7または8に記載の光学デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−308589(P2008−308589A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−157988(P2007−157988)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】