説明

硬化性組成物および光学接着剤

【課題】 更なる高屈折率化を目指し、且つ、光硬化性、低硬化収縮、柔軟性、無色透明性といった光学用接着剤としての性能も兼ね備えた硬化性組成物を提供する。
【解決手段】 特定の式で表わされるポリチオール化合物(A成分)と、3官能以上のエン化合物(B成分)を含有する硬化性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合光学素子を作製する際に使用される光学用接着剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アクリレート化合物等を主成分とする光硬化性組成物は、光学素子を作製する際の接着剤として幅広く使用されている。接着剤にとって、接着性、硬化性、機械的強度、耐久性、および光学特性は基本性能であるが、近年では光学素子の高機能化に伴って、屈折率が重要な性能になっている。特に接着剤の高屈折率化は光学設計の自由度が広がるので要望が高い。高い屈折率を有する接着剤が使用される複合光学素子の例としては、2枚のレンズの張り合わせで構成される色消しレンズ(アクロマートレンズ)、ガラスと樹脂の複合で構成されるハイブリッド型非球面レンズ、ダイクロイックプリズムなどの複雑形状をしたプリズム等が挙げられる。
これらの用途に使用される接着剤には、高い屈折率だけでなく、密着性、光硬化性、無色透明性といった性能も当然要求される。
【0003】
高い屈折率を有する多官能(メタ)アクリレート化合物として、9,9−ビス(4−(2−アクリロキシエトキシ)フェニル)フルオレン(以下、A−BPEFと呼ぶ)(硬化物の屈折率1.62)や4,4’−ビス(メタクリロイルチオ)ジフェニルスルフィド(以下、MPSMAと呼ぶ)(硬化物の屈折率1.69)等が知られている。しかしながら、これらの化合物は常温で固体であるため、単独での使用は難しい。
【0004】
また、これらの化合物はフルオレン環やジフェニルスルフィド構造に起因して剛直な硬化物を与える。接着剤としての使用を想定した場合、剛直な接着層は、落下等の衝撃力が加わったり接着層内にクラック等が生じたりすると、接着界面で剥離が起きやすい課題がある。
【0005】
また、一般的に多官能(メタ)アクリレート化合物は硬化に伴う収縮が大きく、接着剤として使用した場合に密着性低下の原因となる。
一方、(メタ)アクリレート化合物等のエチレン性不飽和化合物とチオール化合物を組み合わせたエン・チオール組成物は、硬化に伴う収縮が小さく、柔軟な硬化物を与えることが知られている。
【0006】
特許文献1には、A−BPEF、エチレン性不飽和化合物、およびチオール化合物から構成されるエン・チオール組成物が記載されている。実施例によると、硬化物の屈折率は高々1.58〜1.61の範囲である。
特許文献2には、MPSMA、ビニル系モノマー、およびポリチオールから構成されるエン・チオール組成物が記載されている。実施例によると、硬化物の屈折率は最高で1.649である。しかしながら、MPSMAは黄着色しやすく、また固体であるため組成物への溶解量に限界があった。また、硬化物のガラス転移温度は127〜157℃と高く、柔軟性に乏しい。
また、特許文献3には、フルオレン環を有する樹脂成分と、MPSMA等のジフェニルスルフィド骨格を有する硫黄含有化合物とで構成される樹脂組成物が記載されており、屈折率1.724を有する樹脂が例示されている。しかしながら、該発明における樹脂組成物とは、実質的にはフルオレン環を有するポリエステルと硫黄含有化合物を混練した熱可塑性樹脂であって硬化性組成物ではなく、当然ながら光硬化性は付与できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−254732号公報
【特許文献2】特開平03−021638号公報
【特許文献3】特開2005−187661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、更なる高屈折率化を目指し、且つ、光硬化性、低硬化収縮、柔軟性、無色透明性といった光学用接着剤としての性能も兼ね備えた硬化性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定のポリチオール化合物と、3官能以上のエン化合物から構成されるエン・チオール組成物が、高い屈折率を有するだけでなく、光学用接着剤としての必要性能も兼ね備えることを見出した。さらに、ジ(チオフェニル)スルフィド構造やジ(チオフェニル)スルホン構造を有するエチレン性不飽和結合化合物を含有させることにより、物性バランスを維持しながら更なる高屈折率化を可能にすることを見出した。以上の知見に基づき、本発明に至った。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高い屈折率を有し、且つ、光硬化性、低硬化収縮、柔軟性、無色透明性といった光学用接着剤としての性能も兼ね備えた硬化性組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の硬化性組成物は、特定のポリチオール化合物(A成分)と、3官能以上のエン化合物(B成分)から構成される。さらに、ジ(チオフェニル)スルフィド構造またはジ(チオフェニル)スルホン構造を有するエチレン性不飽和結合化合物(C成分)を含有することが好ましい。
【0012】
特定のポリチオール化合物(A成分)とは、下記一般式(1)
下記一般式(1)
【化1】

(1)
(式中、mは0〜3の整数を表し、Rは炭素数1〜3のアルキレン基を表す。)
で表わされる化合物、または下記一般式(2)
【化2】

(2)
(式中、nは0〜3の整数を表し、Rは単なる結合または炭素数1〜3のアルキレン基を表す。)
で表わされる化合物である。一般式(1)で表わされる化合物の例としては、キシリレンジチオール等が挙げられ、一般式(2)で表わされる化合物の例としては、2,5−ビス(ジメルカプトメチル)−1,4−ジチアン等が挙げられる。
【0013】
3官能以上のエン化合物(B成分)とは、1分子中に3個以上のエチレン性不飽和結合基を有する化合物であり、エチレン性不飽和結合基としてはアクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、アリル基等が挙げられる。特に、硬化性組成物の高屈折率化を追求した場合、分子内に芳香環や複素環を有する化合物が好ましく、このような化合物の例としては、イソシアヌル酸トリアリル、シアヌル酸トリアリル、トリメリット酸トリアリル、ピロメリット酸テトラアリル等が挙げられる。
【0014】
ジ(チオフェニル)スルフィド構造またはジ(チオフェニル)スルホン構造を有するエチレン性不飽和結合化合物(C成分)とは、下記一般式(3)
【化3】

(3)
(式中、Xは硫黄原子またはスルホニル基を表し、Zは(メタ)アクリロイル基、ビニル基、またはアリル基を表わす。)
で表わされる化合物である。一般式(3)で表わされる化合物の例としては、4,4’−ビス(メタクリロイルチオ)ジフェニルスルフィド等が挙げられる。
【0015】
A成分、B成分、およびC成分の配合比は、B成分およびC成分に含まれるエチレン性不飽和結合基1モルに対して、A成分に含まれるチオール基が0.5〜1.5モルの範囲が好ましく、0.8〜1.2モルの範囲が好ましい。0.5モル未満ではA成分の効果が少なくて実用的でなく、1.5モルを超えると硬化時に未反応のチオール基が残存しやすくて好ましくない。
【0016】
本発明の硬化性組成物は、常法に準じて、常温または加温下で、各成分を均一に混合することにより得られる。混合後の組成物は必要に応じて、ろ過や脱泡などを行っても構わない。
【0017】
本発明の硬化性組成物には必要に応じて、重合禁止剤、酸化防止剤、光安定剤(HALS)、紫外線吸収剤、シランカップリング剤、離型剤、顔料、染料等を添加することが可能である。
【0018】
本発明の硬化性組成物は、ラジカル系光重合開始剤の存在下で、紫外光や可視光などの活性光線を照射することで硬化する。ラジカル系光重合開始剤とは、光分解によって活性な遊離ラジカルを生成させるものであれば特に限定されない。このような化合物の具体例としては、2,2−メトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド等が挙げられる。ラジカル系光重合開始剤は単独でも2種類以上を混合して使用しても構わない。その含有量は特に限定されないが、硬化性組成物100重量部に対して、0.1〜10重量部の範囲が好ましく、0.5〜5wt%の範囲がより好ましい。
【実施例】
【0019】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例中における硬化収縮率は、下記の計算式に従い、硬化前後における屈折率から計算した。
X=(1−d1/d2)×100[%]
R=(n−1)/(n+2)×M/d
硬化前後でR/Mは一定なので、上の2式より、
X=[1−{(n1−1)/(n1+2)}/{(n2−1)/(n2+2)}]×100[%]
(式中、Xは硬化収縮率、dは比重、d1は硬化前の比重、d2は硬化後の比重、Rは分子屈折、nは屈折率、n1は硬化前の屈折率、n2は硬化後の屈折率、Mは分子量を表す。)
【0020】
また、硬化性組成物および硬化物の屈折率は、アッベ屈折計NAR−3T(アタゴ社製)を用いて測定した。硬化物の透過率は、分光光度計U−3500(日立ハイテク社製)を用いて、硬化物の厚み0.25mm、測定波長400nmにて測定した。硬化物のガラス転移温度および弾性率は、粘弾性スペクトロメータDMS6100(セイコーインスツル社製)を用いて、昇温速度2℃/min、周波数1Hzで測定した。tanδのピーク温度をもってガラス転移温度とし、また、25℃における貯蔵弾性率をもって弾性率とした。
【0021】
実施例1
300mlフラスコに、m−キシリレンジチオール45g(A成分)、トリメリット酸トリアリル55g(B成分)、および1−ヒドロキシ−シクロヘキシルフェニルケトン3gをとり、均一になるまで撹拌した。以上の手順で硬化性組成物を作製した。
硬化性組成物を離型処理された2枚のガラス板で挟み、メタルハライドランプ(120W/cm)からの光を30cmの距離から3分間照射した後、硬化した膜をガラス板から剥がした。以上の手順で厚み0.25mmの硬化膜を作製した。
硬化性組成物および硬化膜の物性は表1に示す通りであった。
【0022】
実施例2〜3
A成分、B成分、およびC成分の種類および仕込み量を表1に示す内容に変える以外は実施例1と同様にして硬化性組成物および硬化物の作製を行った。硬化性組成物および硬化膜の物性は表1に示す通りであった。
【0023】
比較例1〜2
A成分、B成分、およびC成分の種類および仕込み量を表1に示す内容に変える以外は実施例1と同様にして硬化性組成物および硬化物の作製を行った。硬化性組成物および硬化膜の物性は表1に示す通りであった。なお、実施例と比較して性能が劣る値には下線を引いた。
【0024】
【表1】

表中略語の説明
a−1:m−キシリレンジチオール
a−2:2,5−ビス(ジメルカプトメチル)−1,4−ジチアン
a−3:4−メルカプトメチル−1,8−ジメルカプト−3,6−ジチアオクタン
b−1:トリメリット酸トリアリル
b−2:イソシアヌル酸トリアリル
b−3:2,2−ビス(4−(アクリロキシジエトキシ)フェニル)プロパン
c−1:4,4’−ビス(メタクリロイルチオ)ジフェニルスルフィド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(1)
(式中、mは0〜3の整数を表し、Rは炭素数1〜3のアルキレン基を表す。)
で表わされるポリチオール化合物(A成分)と、3官能以上のエン化合物(B成分)を含有する硬化性組成物。
【請求項2】
下記一般式(2)
【化2】

(2)
(式中、nは0〜3の整数を表し、Rは単なる結合または炭素数1〜3のアルキレン基を表す。)
で表わされるポリチオール化合物(A成分)と、3官能以上のエン化合物(B成分)を含有する硬化性組成物。
【請求項3】
3官能以上のエン化合物(B成分)が、イソシアヌル酸トリアリル、シアヌル酸トリアリル、トリメリット酸トリアリルおよびピロメリット酸テトラアリルから成る群から選ばれる一種以上の化合物である請求項1または2に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
さらに、下記一般式(3)
【化3】

(3)
(式中、Xは硫黄原子またはスルホニル基を表し、Zは(メタ)アクリロイル基、ビニル基、またはアリル基を表わす。)
で表わされる化合物を含有する請求項1から3のいずれかに記載の硬化性組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の硬化性組成物からなる光学用接着剤。

【公開番号】特開2012−233047(P2012−233047A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101445(P2011−101445)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】