説明

硬化性組成物

【課題】 酸素の存在する環境下で酸素遮断剤を用いなくても、未重合層をほとんど生じない特徴を有し、さらに保存安定性の向上、硬化体の透明性低下、硬化時間の遅延を抑制した硬化性組成物を提供すること。
【解決手段】 (1)ラジカル重合性単量体、(2)親水性有機溶媒、(3)非フッ素系界面活性剤、特に、アニオン系の非フッ素系界面活性剤、および(4)ラジカル重合開始剤を含んでなり、さらに好適には(5)水を含んでなることを特徴とする硬化性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は硬化性組成物に関する。更に詳しくは、酸素遮断材の塗布などによる酸素遮断層を設けることなく、硬化時における酸素の影響を低減できる新規な硬化性組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
硬化性組成物は、重合性単量体と重合開始剤とを含む材料である。硬化性組成物がラジカル重合性である場合、重合工程を空気中で行うと、硬化中の組成物における空気に露出した面に未重合層が生じる。未重合層は以下に示す過程を経て生じる。まず、空気に露出した面で酸素分子がラジカルと結合する。生じた過酸化物ラジカルはラジカル重合性単量体と反応しないので、表面における重合が停止する。重合が停止して重合性単量体が反応せずに残り、硬化性組成物表面に未重合層が生じる。
【0003】
従来、表面に未重合層を有しない硬化体を提供するために幾つかの手法が行われてきた。例えば、窒素雰囲気下や水中での硬化、または酸素遮断材を用いて酸素遮断層を設けるなどして空気との接触を断ち、硬化性組成物をラジカル重合させる方法等である(例えば、特許文献1,2参照)。
【0004】
このうち、(メタ)アクリレート系重合性単量体をラジカル重合で硬化させる手法は、一般工業用途で幅広く利用されており、歯科の分野に於いても利用されている。この手法を採用した歯科材料として、歯科用セメント、歯科用接着材(ボンディング材)、コンポジットレジン、レジン歯科材料表面の滑沢性付与材、歯牙のマニキュア、義歯の補修・裏装用の材料、暫間的なクラウン・ブリッジ等が挙げられる。これらの歯科用修復物の硬化体表面に未重合層が存在すると、表面硬度の低下等の問題が生じる。また、表面に未重合層があると硬化体の研磨・研削を行う際に未重合層が研磨バーに絡みついて、その研磨性が低下する欠点がある。さらに、歯科用途において窒素雰囲気や水中での硬化は現実的でなく、酸素遮断材の塗布は手間が掛かることが問題である。
【0005】
上記課題に対し、酸素の影響を低減した硬化体を得る技術をさらに検討し、ラジカル重合性単量体、水、界面活性剤、有効量のラジカル重合開始剤を含んでなる硬化性組成物によれば、硬化時に、表面に水と界面活性剤とからなる薄い層が形成され、これが酸素の侵入を防止して、上記未重合の発生を抑制できることが提案されている(特許文献3参照)。
【0006】
しかしながら、本発明者らがさらに検討を進めたところ、この硬化性組成物における、表面未重合の発生を抑制する効果は、組成物の製造直後ではとても優れているものの、その効果は組成物の保存期間が長くなると徐々に低減していくことが発覚した。そして、さらに、このように長期保存した硬化性組成物では、液の透明性が低下し、硬化させた際に硬化時間の遅延の問題も生じ、さらに改良の余地があることが明らかになった。
【0007】
しかしてこの理由は、上記硬化性組成物の保存中に、組成から水が分離してしまうことが主要因であると考えられる。すなわち、ラジカル重合性単量体、界面活性剤、水、および重合開始剤の組み合わせからなる硬化性組成物では、ミクロサイズで微分散している水の安定性が今一歩十分でなく、保存期間が長くなると、組成物から分離し始める。そして、これに伴って界面活性剤も該組成物から分離し、その結果、この硬化性組成物を長期保存後に硬化させると、得られる硬化体表面に生じる未重合量が増加するようになると考えられる。しかも、このように一旦、相分離してしまった硬化性組成物は、再び、水と界面活性剤がミクロサイズで微分散した状態に戻すのが難しい状態にあり、少々攪拌したとしても、表面未重合の発生抑制効果はほとんど回復できなかった。また、この水と界面活性剤の分離が、前記液の透明性の低下も引き起こしていると考えられる。
【0008】
なお、硬化時間の遅延の原因はよく分かっていないが、これは更なる欠点を生む。つまり、硬化のために多くの重合開始剤の添加を必要とし、硬化体の変色の原因になる。
【0009】
一方、ラジカル重合性単量体に界面活性剤を添加することにより、歯牙等の硬組織に対する接着剤として使用した場合、刺激や侵襲の少ない硬化性組成物を得られることが報告されている(特許文献4参照)。該硬化性組成物にはさらに希釈溶媒として水、アルコール等の希釈溶媒を配合し得る。しかし、実施例での具体的使用態様は、上記硬化性組成物を組成分割し、まず、界面活性剤と水やアルコール等の希釈溶媒を含むI液を歯牙等に塗布し、それをエアーブローして乾燥させた後に、ラジカル重合性単量体及び重合開始剤を含むII液を塗布、硬化させるという使い方がされている。従って、硬化させる際に前記硬化性組成物の大気に露出している部分は、上記有機溶媒が配合された組成物とはなり得ない。また、同文献には、上記硬化性組成物をプライマーとして使用することも開示されている。しかしながら、プライマーは、親水性のラジカル重合性単量体を歯質に親和させることが目的の材料であるため、その実施例において、上記希釈溶媒は、歯質への親和性を重視して全て水が使用されており、有機溶媒が使用された例は全く開示されていない。
【0010】
この他、ラジカル重合性単量体、アセトン、光重合開始剤、フッ素系界面活性剤を含有させた硬化性組成物も知られている(特許文献5参照)。しかし、この硬化性組成物において、フッ素系界面活性剤の配合目的はレベリング性を良くするためであり、この成分により硬化体表面の未重合層低減させることは意図されていない。また、その使用態様は、やはり上記と同じように硬化性組成物を塗布後、アセトンは乾燥除去させてから硬化反応が遂行されている。そしてさらに、後述する比較例で示されるように、斯様に硬化性組成物にフッ素系界面活性剤の配合したのでは、該未重合層低減には顕著な効果は得られないものであった。
【0011】
【特許文献1】特開2000−128723号公報
【特許文献2】特開2004−284969号公報
【特許文献3】特開2006−291168号公報
【特許文献4】特開平7−316391号公報
【特許文献5】国際公開第2004/017928号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上の背景にあって本発明は、酸素の存在する雰囲気下で硬化させた際に、酸素遮断剤を用いなくても、未重合層がほとんど生じない硬化性組成物であって、この未重合層が形成されない効果は、該硬化性組成物を長期に保存しても良好に発揮され、さらに、液の透明性低下、硬化時間の遅延抑制等の問題も解決された硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を続けてきた。その結果、前記界面活性剤を含有した硬化性組成物において、水に代えるか、さらに該水に加えるかして親水性有機溶媒を配合することにより、前記の課題が解決できることを見だし、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、(1)ラジカル重合性単量体、(2)親水性有機溶媒、(3)界面活性剤、(4)ラジカル重合開始剤を含んでなることを特徴とする硬化性組成物である。
【0015】
また別の発明は、さらに(5)水を含んでなる硬化性組成物である。
【0016】
また別の発明は、さらに(6)フィラーを含んでなる硬化性組成物である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の硬化性組成物は、酸素が存在する環境下で、酸素遮断材を用いるなどの特別の手段を用いなくても、未重合層の生成を高度に抑制することができる。また、保存安定性が高く、上記未重合層の生成抑制効果は、該硬化性組成物を長期に保存しても良好に発揮される。さらに、得られる硬化体の透明性も高く維持され、硬化時間の遅延も生じ難い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の硬化性組成物は、(1)ラジカル重合性単量体、(2)親水性有機溶媒、(3)界面活性剤、(4)重合開始剤を必須成分として含んでなる。このような硬化性組成物において、硬化体表面における未重合の発生が低減できる機構は必ずしも明確でないが、以下に示す機構が考えられる。すなわち、ラジカル重合性単量体が硬化する際に発生する重合熱によって親水性有機溶媒が硬化体から揮発し、親水性有機溶媒の揮発と同時に表面に界面活性剤が運搬され、表面に界面活性剤の薄い層が形成される。この界面活性剤の層が内部への酸素の侵入を防ぎ、結果として未重合が低減するものと考えられる。このようにして、形成される界面活性剤の表面層は従来の酸素遮断剤とは異なり、硬化性組成物に外部から塗布する必要がなく、硬化性組成物に含まれる成分によって、硬化中に自然と硬化体表面に形成される。
【0019】
前記ラジカル重合性単量体/水/界面活性剤の組み合わせからなる硬化性組成物では、長期に保存すると水が分離し、これに伴って界面活性剤も該組成物から分離し、その表面未重合層の形成の抑制効果が低下してしまうが、本発明の硬化性組成物の如くに親水性有機溶媒が配合されていると、その効果が長期に持続する。これは、ラジカル重合性単量体/水/界面活性剤の組み合わせでは、水と界面活性剤とでミセル(逆ミセル)が形成され、保存期間が長期になると、これらが融合し、最終的に水の分離が起こると推察されるところ、親水性有機溶媒が配合されていると、実質上、前記ミセル(逆ミセル)は形成されることがなく、該親水性有機溶媒や界面活性剤はラジカル重合性単量体に溶けるようになり、そのため親水性有機溶媒や界面活性剤が分離しないためと考えられる。そして、このように親水性有機溶媒を用いた系では、ミセルを形成しないため、硬化体の透明性も良好に保持される。さらに、理由は定かではないが、硬化性組成物の硬化時間の遅延も、長期に保存したものであっても、高度に抑制される。
【0020】
本発明の硬化性組成物に配合されるラジカル重合性単量体は、公知のものが特に制限無く使用することができる。特に、重合性に優れ、室温近辺でも硬化させやすい点で、(メタ)アクリル系の重合性単量体が一般的である。
【0021】
(メタ)アクリル系のものとしては、公知の物が制限なく使用可能であるが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、アセトアセトキシエチルメタクリレート、2,2−ビス(メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス〔4−(3−メタクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン)、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2(4−メタクリロイルオキシジトリエトキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)−2−(4−メタクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン、モノエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ノナメチレンジオールメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、トリメチロールメタントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、ビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェート、ポリエチレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。
【0022】
なかでも、その分子中にベンゼン環を有する重合性単量体、ポリオキシエチレン鎖を有する重合性単量体、アルキル鎖を有する重合性単量体が好ましく、特に好ましいものを例示するならば、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、トリエチレングリコールジメタクリレート、平均分子量400のポリエチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ノナメチレンジオールメタクリレート等が挙げられる。
【0023】
これらのラジカル重合性単量体はそれぞれ単独で用いるだけでなく、必要な物性に応じて2種類以上の種類を組み合わせて使用することもできる。
【0024】
さらに、本発明の硬化性組成物においては、前記(メタ)アクリル系重合性単量体に加えて、重合の容易さ、粘度の調節、あるいはその他の物性の調節のために、上記例示したような(メタ)アクリル系重合性単量体以外の他のラジカル重合性単量体を混合して用いることも可能である。例示すると、フマル酸モノメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジフェニル等のフマル酸エステル類;スチレン、ジビニルベンゼン、α−メチルスチレン、α−メチルスチレン等のスチレンあるいはα−メチルスチレン誘導体;ジアリルテレフタレート、ジアリルフタレート、ジアリルジグリコールカーボネート等のアリル化合物等を挙げることができる。これら他の重合性単量体もまた単独でまたは二種以上を一緒に使用することができる。
【0025】
本発明において親水性有機溶媒は、静電的相互作用や水素結合などによって水分子と弱い結合を作る官能基を有する有機溶媒で、具体的には水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、アミノ基、シアノ基等の親水基を含む有機溶媒で、公知のものが特に制限無く使用することができる。
【0026】
通常は、25℃における誘電率が10〜40のものが挙げられ、この25℃における誘電率が15〜35のものがより好ましい。入手のしやすさ、匂い、環境に対する安全性から、アルコール類、ケトン類が好ましい。アルコール類は、その分子の持つ水酸基数によって、水酸基数が1つの一価アルコール、2つ以上の多価アルコールがある。一価アルコールとして、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、iso-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール等が挙げられる。また、メトキシエタノール、エトキシエタノールといったアルコキシアルコールも使用することができる。
【0027】
ケトン類は、アセトン、エチルメチルケトン、メチルプロピルケトン、ジエチルケトン等が挙が例示できる。
【0028】
なかでも、親水性有機溶媒の粘度が低い方が表面に界面活性剤を運搬する速度が速いと考えられ、その観点から、20℃における粘性率が15cP以下のものが好ましく、さらには0〜3のものが特に好ましい。さらに、親水性有機溶媒の揮発により上記界面活性剤が運搬されることを勘案すれば、該親水性有機溶媒は適度な揮発性を有することが望ましく、20℃における蒸気圧が1mmHg〜500mmHgが好ましく、特に蒸気圧が10mmHg〜300mmHgであるのが好ましい。これらの好適条件を満足する親水性有機溶媒としては、具体的には、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、ジエチルケトン、メトキシエタノール等である。
【0029】
なお、以上に示す親水性有機溶媒は1種または2種以上を混合して使用することができる。
【0030】
硬化性組成物中において親水性有機溶媒は、その配合量が多いほうが表面への界面活性剤の運搬量が増加して未重合層形成の低減効果が向上すると考えられる。ただし、この配合量があまりに多くなると、重合性単量体およびラジカル重合開始剤の濃度低下を来たし、重合発熱の温度も低くなり、こうなると、親水性有機溶媒が揮発し難くなり、上記未重合層形成の低減効果は逆に十分に発揮されなくなる。したがって、親水性有機溶媒の配合量は、界面活性剤の運搬効果と重合熱の発熱効果の両方が相乗するように、ラジカル重合性単量体100質量部に対し0.01〜30質量部の範囲であるのが好ましい。中でも、2〜20質量部の範囲が最適である。
【0031】
本発明において界面活性剤は、非フッ素系のものが使用され、これらはイオン型界面活性剤、非イオン型界面活性剤のいずれであってもよく、HLB値(親水親油バランス)も特に限定されるものではないが、表面未重合低減効果の点から、HLB値が20以上、好適には30〜50のものを使用するのが好ましい。イオン型界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性イオン界面活性剤のいずれも制限なく使用できる。ここで、非フッ素系界面活性剤とは、分子内にフッ素原子を一つも含有しない界面活性剤であり、言い換えれば、分子内にフッ素分子を一つ以上含有する、パーフルオロアルキルスルホン酸のアンモニウム塩、パーフルオロアルキルスルホン酸のカリウム塩、パーフルオロアルキルカルボン酸のカリウム塩、パーフルオロアルキル第四級アンモニウムヨウ化物、パーフルオロアルキルポリオキシエチレンエタノール、フッ素化アルキルエステル等の界面活性剤は該当しない。ここで、フッ素系界面活性剤を用いたのでは、十分な未重合層低減の効果が発揮されない理由は、必ずしも明らかではないが、該フッ素系界面活性剤は分子の運動性が高く、このため硬化性組成物の表面に形成されるこのものの表面層を酸素が透過し易くなるためではないかと推察される。
【0032】
本発明に好適に使用される非フッ素系界面活性剤を具体的に例示すると、アニオン性界面活性剤としては、公知のものが特に制限なく使用できるが、こうしたアニオン性界面活性剤を具体的に例示すると、デシル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルベンゼンスルホン酸塩、ラウリン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウムなどの脂肪族カルボン酸金属塩、ラウリルアルコールとエチレンオキサイドの付加物を硫酸化したラウリルエーテル硫酸エステルナトリウムなどの高級アルキルエーテル硫酸エステルの金属塩、スルホコハク酸ナトリウムなどのスルホコハク酸ジエステル、高級アルコールエチレンオキサイド付加物のリン酸エステル塩などを挙げることができる。
【0033】
カチオン性界面活性剤としては、ドデシルアンモニウムクロリドなどのアルキルアミン塩類及びトリメチルドデシルアンモニウムブロミドなどの4級アンモニウム塩類などを挙げることができる。
【0034】
両性イオン界面活性剤としては、ドデシルジメチルアミンオキシドなどのアルキルジメチルアミンオキシド類、ドデシルカルボキシベタインなどのアルキルカルボキシベタイン類、ドデシルスルホベタインなどのアルキルスルホベタイン類、ラウラミドプロピルアミンオキシドなどのアミドアミノ酸塩などが挙げられる。
【0035】
非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンラウリルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、脂肪酸ポリオキシエチレンラウリルエステルなどの脂肪酸ポリオキシエチレンエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンラウリルエステルなどのポリオキシエチレンソルビタンエステル類などが挙げられる。
【0036】
これら非フッ素系界面活性剤の中でも、表面に生じる二重膜が電気的なエネルギーで安定化し、より強固な界面活性剤による表面層を形成しやすいイオン性界面活性剤が好ましく、イオン性界面活性剤の中でも、より分子のイオン性の高い構造を有するものの多いアニオン性界面活性剤を使用するの効果が顕著であることから好ましい。さらには、この中でもアルキル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩がより好ましく、特に、アルキル基の炭素鎖が6〜16の物がより好ましい。
【0037】
また、非フッ素系界面活性剤は、それぞれ単独で使用するだけでなく、必要に応じて複数の種類を組み合わせて使用しても良い。このように複数の種類を組み合わせて使用することにより、相乗的に作用して、未重合層形成の低減効果が高まることがあるため好適である。
【0038】
硬化性組成物中において非フッ素系界面活性剤は、その配合量が多いほど、未重合の発生が抑制されて好ましい。ただし、その配合量があまりに多くなると、硬化体の物性が低下する虞がある。これらを勘案して、界面活性剤の配合量は、ラジカル重合性単量体100質量部に対して0.1〜10質量部の範囲であるのが好ましい。なかでもラジカル重合性単量体成分100質量部に対して0.3〜3質量部の範囲が最適である。
【0039】
本発明の硬化性組成物には、前記ラジカル重合性単量体を重合させるためのラジカル重合開始剤が配合される。当該ラジカル重合開始剤としては、用いるラジカル重合性単量体を重合、硬化させることができるものであれば何ら制限なく使用可能であり、公知のものが使用可能である。一般に知られているラジカル重合開始剤としては、化学重合開始剤(常温重合開始剤)、光重合開始剤、熱重合開始剤等が存在し、いずれも適用できるし、これらを組合せて用いても良い。
【0040】
化学重合開始剤は、一般に、2成分以上からなり、使用直前に全成分が混合されることにより室温近辺で重合活性種を生じる形態である。このような化学重合開始剤としては、アミン化合物/有機過酸化物系、アリールボレート化合物/酸性化合物系、ピリミジントリオン誘導体/ハロゲンイオン形成化合物/第二銅形成化合物又は第二鉄イオン形成化合物系が代表的で、なかでもアミン化合物/有機過酸化物系が好ましい。
【0041】
該アミン化合物を具体的に例示すると、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエタノール−p−トルイジンなどの芳香族アミン化合物が例示される。
【0042】
代表的な有機過酸化物としては、公知のケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアリールパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネートに分類されるベンゾイルパーオキサイドなどの有機過酸化物が好ましい。
【0043】
使用する有機過酸化物は、適宜選択して使用すればよく、単独又は2種以上を組み合わせて用いても何等構わないが、中でもハイドロパーオキサイド類、ケトンパーオキサイド類、パーオキシエステル類及びジアシルパーオキサイド類が重合活性の点から特に好ましい。さらにこの中でも、硬化性組成物としたときの保存安定性の点から10時間半減期温度が60℃以上の有機過酸化物を用いるのが好ましい。
【0044】
該有機過酸化物と該アミン化合物からなる開始剤系にさらに、ベンゼンスルフィン酸やp−トルエンスルフィン酸及びその塩などのスルフィン酸を加えた系、5−ブチルバルビツール酸などのピリミジントリオン系開始剤を配合しても何ら問題なく使用できる。
【0045】
また、アリールボレート化合物が酸により分解してラジカルを生じることを利用した、アリールボレート化合物/酸性化合物系の重合開始剤を用いることもできる。
【0046】
アリールボレート化合物は、分子中に少なくとも1個のホウ素−アリール結合を有する化合物であれば特に限定されず公知の化合物が使用できるが、その中でも、保存安定性を考慮すると、1分子中に3個または4個のホウ素−アリール結合を有するアリールボレート化合物を用いることが好ましく、さらには取り扱いや合成・入手の容易さから4個のホウ素−アリール結合を有するアリールボレート化合物がより好ましい。
【0047】
これらアリールボレート化合物は2種以上を併用しても良い。
【0048】
酸性化合物は、一般的にブレンステッド酸として知られている無機酸、有機酸が何等制限なく用いられる。代表的な無機酸を例示すれば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等が挙げられる。また、代表的な有機酸としては、酢酸、プロピオン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、安息香酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸およびトリメリット酸等のカルボン酸類、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸およびトリフルオロメタンスルホン酸等のスルホン酸類、メチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ジメチルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸等のリン酸類等が挙げられる。また、フェノール類、チオール類の他、酸性イオン交換樹脂、酸性アルミナ等の固体酸も好適な酸として例示される。さらに、酸性化合物としては、それ自身が重合可能な基を含有する酸性基含有重合性単量体を使用してもよく、この場合には、酸性化合物自身が重合性単量体でもあり、重合硬化によって、酸性成分の溶出等の心配がないため好ましい。
【0049】
また、このようなアリールボレート化合物/酸性化合物系の重合開始剤に更に、有機過酸化物及び/又は遷移金属化合物を組み合わせて用いることも好適である。有機過酸化物としては前記した通りである。遷移金属化合物としては+IV価及び/又は+V価のバナジウム化合物が好適である。
【0050】
さらに、ピリミジントリオン誘導体/ハロゲンイオン形成化合物/第二銅形成化合物又は第二鉄イオン形成化合物系の開始剤として、ピリミジントリオン誘導体、ハロゲンイオン形成化合物及び第二銅形成化合物又は第二鉄イオン形成化合物との組み合わせを挙げることができる。この化学重合触媒系は、硬化後の変色が起こりにくく、本発明の硬化性組成物を歯科修復材料の目的に使用した場合の触媒系として特に好ましい。
【0051】
ピリミジントリオンの中でも、重合性単量体への溶解性及びラジカル重合の活性の点から、窒素原子に結合した水素をアルキル基又はシクロアルキル基で置換したピリミジントリオン誘導体が特に好ましい。
【0052】
ハロゲンイオン形成化合物としては、溶液中でハロゲン化物イオンを形成させる化合物であれば特に限定されず公知の化合物が使用でき、これらは1種又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0053】
また、第二銅形成化合物又は第二鉄イオン形成化合物としては、溶液中で2価の銅イオン又は3価の鉄イオンを形成する化合物であれば特に限定されない。好適な第二銅又は第二鉄イオン形成化合物としては、アセチルアセトン銅、酢酸第二銅、オレイン酸銅、アセチルアセトン鉄等があり、これらは1種又は2種以上混合して使用してもよい。
【0054】
また、ハロゲンイオン形成化合物と第2銅又は第2鉄イオン形成化合物とは必ずしも別の化合物である必要はなく、ハロゲン化物イオンと2価の銅イオン又は3価の鉄イオンの両方を同時に形成する化合物であってもよい。このような化合物として、例えば、ハロゲン化第2銅又はハロゲン化第2鉄を使用することも可能であり、具体的な例としては、塩化第二銅、臭化第二銅等のハロゲン化第二銅、塩化第二鉄、臭化第二鉄等のハロゲン化第2鉄等を挙げることができる。
【0055】
光重合開始剤を使用する場合においても、該光重合開始剤は公知のものが制限なく使用でき、1種あるいは2種以上を混合して用いても差し支えない。光重合開始剤の中でも、重合活性の良さ、生体への為害性の少なさ等の点からα−ジケトン類が好ましい。また、α−ジケトンを用いる場合には、第3級アミン化合物と組み合わせて用いることが好ましい。
【0056】
本発明において上記ラジカル重合開始剤の配合量は、ラジカル重合性単量体が十分に重合する有効量であれば良いが、十分な機械的物性を得るために、具体的には、ラジカル重合性単量体100質量部に対して0.001〜10質量部が好ましく、更に好ましくは0.01〜5質量部が好ましい。なお、重合開始剤として、前記アリールボレート化合物/酸性化合物系のものを用いる場合、該ラジカル重合開始剤の配合量には、酸性化合物の質量は含めないものとする。
【0057】
本発明の構成組成物は、上記組成により、硬化時に未重合層の形成が抑制され、さらに硬化体の透明性低下、硬化時間の遅延抑制等の問題も生じ難い優れたものになるが、さらに、水を配合することにより、上記未重合層の形成能力が一層に高まり好適である。すなわち、水は、界面活性剤のラジカル重合性単量体への溶解性をさらに高める等して、表面により多くの界面活性剤を運搬できるようになると考えられる。このように表面により多くの界面活性剤が運搬されるようになることにより、硬化の際に硬化性組成物の表面に析出する界面活性剤の量も増加し、その結果、未重合量が更に低下すると推察される。
【0058】
使用する水としては、不純物を実質的に含まないことが好ましく、例としては脱イオン水、蒸留水等が挙げられる。
【0059】
本発明において水の配合量は、上記未重合層の形成の抑制効果の向上を考えれば、より多いほうが効果的であるが、あまり多くても硬化体の強度が低下するため、好ましくはラジカル重合性単量体100質量部に対して0.1〜10質量部である。より好ましくはラジカル重合性単量体100質量部に対して0.5〜5質量部である。
【0060】
本発明の硬化性組成物は、フィラーと組み合わることにより、より広範な用途に用いることができる。フィラーには無機フィラー、有機フィラー、有機−無機複合フィラーがあり、公知のものが制限なく使用可能である。
【0061】
無機フィラーは公知のものが制限なく使用可能であるが、代表的な無機フィラーを具体的に例示すれば、石英、シリカ、アルミナ、シリカチタニア、シリカジルコニア、ランタンガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス等が挙げられる。さらに無機フィラーの内、カチオン溶出性フィラーとしては、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム等の水酸化物、酸化亜鉛、ケイ酸塩ガラス、フルオロアルミノシリケートガラス等の酸化物が挙げられる。いずれも、一種または二種以上を混合して用いても何等差し支えない。
【0062】
上記した無機フィラーは、シランカップリング剤に代表される表面処理剤で処理することが、重合性単量体とのなじみをよくし、機械的強度や耐水性を向上させる上で望ましい。表面処理の方法は公知の方法で行えばよい。
【0063】
無機フィラーと組み合わせた場合には、例えばコンポジットレジン、硬質レジン、インレー、アンレー、クラウン等、歯科用修復材料として好適に使用される。
【0064】
代表的な有機フィラーを具体的に例示すれば、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル−メタクリル酸エチル共重合体、架橋型ポリメタクリル酸メチル、架橋型ポリメタクリル酸エチル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体が挙げられ、これらは一種または二種以上の混合物として用いることができる。
【0065】
有機フィラーと組み合わせた場合には、例えば義歯の補修材料、裏装用の材料、治療経過途中に一旦患者を帰してから治療を再開するまでの数日間、窩洞に充填される仮封材及び暫間的なクラウン、並びにブリッジの作製材料等として好適に使用される。
【0066】
また、前述の無機フィラーに重合性単量体を予め添加し、ペースト状にした後、重合させ、粉砕して得られる粒状の有機−無機複合フィラーを用いる場合もある。
【0067】
これらフィラーの粒径は特に限定されず、例えば一般的な歯科用材料として使用する場合は0.001μm〜100μmの平均粒子径のフィラーが目的に応じて適宜使用できる。また、フィラーの屈折率も特に限定されないが、例えば一般的な歯科材料として使用する場合は1.4〜1.7の範囲のものが好ましく使用できる。
【0068】
さらに、上記したフィラーの中でもとりわけ球状の無機フィラーを用いると、得られる硬化体の表面滑沢性が増し、優れた修復材料となり得る硬化性組成物が得られる。この特長は特に歯科用途において優れた性質である。
【0069】
これらのフィラーの割合は、使用目的に応じて、ラジカル重合性単量体と混合した時の粘度(操作性)や硬化体の機械的物性を考慮して適宜決定すればよいが、一般的には、ラジカル重合性単量体100質量部に対して1〜1500質量部が好ましい。より好ましくは70〜1000質量部の範囲で用いられる。
【0070】
本発明の硬化性組成物には、例えば歯科材料として使用する場合はさらに歯牙や歯肉の色調に合わせるため、顔料、蛍光顔料等の着色材料を配合したり、紫外線に対する変色防止のため紫外線吸収剤を添加したりしてもよい。また、保存安定性を向上させるために、重合禁止剤を配合することも好ましい。
【0071】
このような硬化性組成物は、公知の方法に従って製造されたものが制限なく使用できる。また、重合が開始しないように成分をいくつかに分けて包装・保存し、使用時にそれらを混合して用いる態様としても良い。この場合でも、(1)ラジカル重合性単量体、(2)親水性有機溶媒、および(3)非フッ素系界面活性剤が共存する包装があれば、このものでは、保存中に、組成から水が分離してしまう問題が良好に抑制される。したがって、こうした分割された形態で長期に保存させた後に、各包装を混合し重合硬化させても、表面未重合は良好に抑制され、硬化時間遅延の問題も生じ難い。さらに、上記組成の包装液において、透明性も維持される。
【0072】
使用するラジカル重合開始剤が、2成分の混合によりラジカルが発生するタイプ(多くの化学重合型等)のものである場合には、硬化性組成物は、保存中に重合が進行しないように、該ラジカル重合開始剤の構成成分ごとに分割して、前記2包装以上にする必要性がある。例えば、ラジカル重合開始剤が、アミン化合物/有機過酸化物系のものであれば、アミンを含む包装と、有機過酸化物を含む包装とに、それぞれ別の容器に収容することになる。また、熱や光の照射によってラジカルが発生し、重合が開始されてしまうラジカル重合開始剤を用いるのであれば、該成分が含有される包装は外部からの熱や光を遮断するような容器を用いるのが好適である。
【0073】
本発明の硬化性組成物は、前記したとおり表面未重合層の形成抑制効果が極めて高いものであり、そのため、該表面未重合層の形成が許容できない場合に必要であった、硬化雰囲気を窒素環境にするための設備等を特に設ける必要がなく、酸素遮断材の塗布等の操作も特に行う必要が無い。したがって、このような利点から、一般工業用途において、幅広く使用できる。
【0074】
特に、空気との接触を回避するのが困難な状態で、硬化させなければならない歯科用の硬化性組成物に適用するのが好ましく、具体的には、コンポジットレジン、斬間歯、歯科用接着材、即時重合レジン、裏装材、コート材等として用いることができる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に示すが、本発明はこれら実施例によって何等制限されるものではない。
【0076】
尚、実施例および比較例で使用した化合物とその略称を以下に示す。
〔界面活性剤〕
・非フッ素系界面活性剤
(アニオン性界面活性剤)
SDS;ドデシル硫酸ナトリウム HLB:40
SC4S;ブチル硫酸ナトリウム HLB:44
SC6S;ヘキシル硫酸ナトリウム HLB:42
SC16S;ヘキサデシル硫酸ナトリウム HLB:38
SC20S;エイコシルシル硫酸ナトリウム HLB:36
(カチオン性界面活性剤)
LTMACl;ラウリルトリメチルアンモニウムクロリド
(ノニオン性界面活性剤)
POE4L;ポリオキシエチレン(4)ラウリルエーテル
・フッ素系界面活性剤
FC−98(3M Fluorad)
FC−431(3M Fluorad)
[ラジカル重合性単量体]
D2.6E;2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン
3G;トリエチレングリコールジメタクリレート
[重合開始剤]
(アミン化合物)
DEPT;p-トリルジエタノールアミン
(有機過酸化物)
BPO;ベンゾイルパーオキサイド
[フィラー]
不定形シリカ−ジルコニア、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン表面処理物(平均粒径:3μm)を用いた。
【0077】
実施例1
ラジカル重合性単量体としてD2.6Eを100質量部、エタノールを10質量部、SDSを1質量部、DEPTを1.5質量部混合して得たA液、それと同じくラジカル重合性単量体としてD2.6Eを100質量部、エタノールを10質量部、SDSを1質量部、BPOを1.5質量部混合して得たB液を調整した。このA液とB液を質量比で1:1となるように量り取って混合することにより、硬化性組成物を調製する使用態様で、以下の評価を行った。
【0078】
〔未重合量測定方法〕
直径5mm、厚さ1mmの孔を有するポリアセタール製の型に、硬化性組成物を填入し、23℃恒温室中で15分間放置することにより硬化を行った。硬化後重量を測定し、その後エタノールで未重合層を除去し、重量変化を表面積で割り、単位面積あたりの未重合量を求めた。
【0079】
〔硬化時間測定方法〕
A液とB液とを混合した。混合開始時間を0秒とし、15秒間混合した。このサンプルを直径6mm、深さ12mmの穴の開いたアセタール製モールドに流し込み、熱電対を差し込み、発熱ピークの時間を測定した。発熱ピークの時間は厳密には硬化時間とは異なるが、硬化過程における硬化時間の目安となる物性であり(硬化時間が短いと発熱ピーク時間も短く、硬化時間が長いと発熱ピーク時間も長くなり、発熱ピーク時間は硬化時間と相関がある)、一方、硬化時間そのものの測定は困難であるため、上記発熱ピーク時間を硬化時間として評価した。
【0080】
〔保存安定性〕
混合前のA液およびB液をガラス製サンプル管に入れ密栓し、4℃で30日保存し、保存前と30日経過時に、それぞれの液について、溶媒の分離状態、透明性、さらに白濁等が無いかどうかを目視で観察し、A液、B液の状態について以下の三段階で評価した。なお、すべての実施例および比較例において、A液およびB液ともに同じ挙動を示したため、以下に示す実施例ではA液とB液の結果に区別をつけず、同一の結果として表記した。
【0081】
液は透明で均一な状態 ○
液が白濁している △
有機溶媒(または水)の相分離がある ×
更に、30日経過したA液とB液を混合して硬化させ、未重合量の測定および硬化時間の測定を行った。
【0082】
以上の測定の結果を表1に示した。硬化性組成物は、調製時において未重合量は5μg/mm2、硬化時間は135秒であり、これは4℃で30日保存後においても保存安定性は○で、未重合量、硬化時間ともに変化は無かった。
【0083】
実施例2〜4
実施例1のA液、B液に水2質量部をそれぞれ加えた場合、実施例1のA液、B液にフィラー(不定形シリカ−ジルコニアのγ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン表面処理物)112.5質量部をそれぞれ加えた場合、および実施例1のA液、B液に水2質量部と上記フィラー114.5質量部をそれぞれ加えた場合で、得られる各硬化性組成物について、該実施例1と同様の評価を実施した。結果を表1に示した。
【0084】
実施例5〜42
実施例1において、組成を表1および表2に示したものに変えた場合で、得られる各硬化性組成物について、該実施例1と同様の評価を実施した。結果を表1〜3に示した。
【0085】
比較例1,2
実施例1のA液、B液においてエタノールを配合しなかった場合、および実施例1のA液、B液において界面活性剤(SDS)を配合しなかった場合で、得られる各硬化性組成物について、該実施例1と同様の評価を実施した。結果を表4に示した。
【0086】
エタノールが配合されていなくても、および界面活性剤が配合されていなくても、未重合量は調製時から600μg/mm2以上の多量に生じるものであった。
【0087】
比較例3
実施例2のA液、B液においてエタノールを配合しなかった場合で、得られる硬化性組成物について、該実施例2と同様の評価を実施した。結果を表4に示した。
【0088】
硬化性組成物は、調製直後では未重合量が少ないものの、4℃で30日保存後は保存安定性は×で、未重合量は481μg/mm2に増加し、硬化前の液は水の相分離が生じていた。
【0089】
比較例4
実施例2のA液、B液において界面活性剤を配合しなかった場合で、得られる硬化性組成物について、該実施例2と同様の評価を実施した。結果を表4に示した。
【0090】
未重合量は調製時から700μg/mm2以上と多量に生じるものであった。
【0091】
比較例5,6
実施例1のA液、B液において、界面活性剤としてSDSに代えて、フッ素系界面活性剤FC−98(3M Fluorad)またはFC−431(3M Fluorad)を用いた場合で、得られる各硬化性組成物について、該実施例1と同様の評価を実施した。結果を表4に示した。
【0092】
FC−98を用いた時の未重合量は調製時から529μg/mm2であり、FC−431を用いた時も未重合量は調製時から624μg/mm2で、いずれも多量であった。
【0093】
【表1】

【0094】
【表2】

【0095】
【表3】

【0096】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)ラジカル重合性単量体、(2)親水性有機溶媒、(3)非フッ素系界面活性剤、および(4)ラジカル重合開始剤を含んでなることを特徴とする硬化性組成物。
【請求項2】
さらに、(5)水を含んでなる請求項1記載の硬化性組成物。
【請求項3】
さらに、(6)フィラーを含んでなる請求項1または2記載の硬化性組成物。
【請求項4】
(3)非フッ素系界面活性剤が、アニオン系界面活性剤である請求項1〜3のいずれか1項に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
(1)ラジカル重合性単量体100質量部に対して、(2)親水性有機溶媒を0.1〜30質量部、(3)非フッ素系界面活性剤を0.1〜10質量部、(4)ラジカル重合開始剤を有効量で夫々含有してなる請求項1〜4のいずれか1項に記載の硬化性組成物。
【請求項6】
歯科用であること特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の硬化性組成物。

【公開番号】特開2009−19108(P2009−19108A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−182570(P2007−182570)
【出願日】平成19年7月11日(2007.7.11)
【出願人】(391003576)株式会社トクヤマデンタル (222)
【Fターム(参考)】