説明

硬化性表面コーティング組成物、積層ポリエステル樹脂フィルム及び太陽電池バックシート

【課題】より優れた耐候性を有する積層ポリエステル樹脂フィルムが、従来に比べより簡便に得られる硬化性表面コーティング組成物を提供する
【解決手段】ポリエステル樹脂と、有機ポリイソシアネート化合物と、酸化防止剤及び/又は光安定剤を含有してなる硬化性表面コーティング組成物において、ポリステル樹脂として、示差走査熱量分析法(Differential Scanning Calorimetry 法;DSC法)でのガラス転移温度30〜90℃のポリエステル樹脂を用いることを特徴とする硬化性表面コーティング組成物、当該硬化性表面コーティング組成物の硬化物皮膜がポリエステル樹脂フィルム上に積層された積層ポリエステル樹脂フィルム及び多層構造の太陽電池バックシート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性表面コーティング組成物、積層ポリエステル樹脂フィルム及び太陽電池バックシートに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、例えば鉄道車両、自動車、自動販売機等の表面に貼付して用いられるマーキング用フィルムの表面保護、光沢向上、変退色・劣化防止等を目的としたオーバーレイフィルムや、車両や住宅のプラスチック製ウインドウや外装看板の表面保護用フィルム、液晶ディスプレイ反射用シート、太陽電池用バックシート等として、主として保護や変退色防止の目的で用いられる高耐候性フィルム・シートに関するものである。
【0003】
上記した高耐候性フィルム・シートは、共通して、物体を厳しい外部環境から遮断し保護することを目的としており、直射日光による紫外線暴露や大きな気温変化を受けたり、風雨に曝されるなどの環境変化があっても、長期間に亘り破れたりせずに、物体を確実に保護できることが必要となる。
【0004】
例えば、太陽電池バックシートは、太陽電池本体を厳しい外部環境から遮断し保護することを目的としたシートである。太陽電池パネルは、屋外に設置されることから、直射日光による紫外線暴露や大きな気温変化を受けたり、風雨に曝されるなどの環境変化があっても、長期間に亘り安定稼動することが必要である。当然、バックシート自体にも、太陽電池を視認できる透明性や耐候性が求められる。
【0005】
この様な太陽電池バックシートに適用するポリエステル樹脂フィルムは、上記した厳しい品質を満足させるために、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートの様なポリエステル樹脂中に、紫外線吸収剤、光安定剤等の添加剤を添加して混練し、必要な厚みとなる様に溶融押出成形するなどして従来製造されてきた。
【0006】
しかしながら、上記した様な製造方法では、透明性や耐候性にある程度優れたポリエステル樹脂フィルムは得られるものの、製造工程が多工程に亘り、簡便には得られないという欠点があった。
【0007】
この様な欠点を解消すべく、最近では、紫外線吸収剤、光安定剤等の添加剤を添加しない従来のポリエステル樹脂フィルムを用いて、この上に耐久性のある樹脂皮膜を設けるための樹脂コーティングを行うことで、透明性や耐候性に優れたポリエステル樹脂フィルムを得ることが試みられている。
【0008】
基材の最外層の表面コーティング剤及び複数の層同士を接着する層間接着剤としては、例えばポリエステルポリオールとポリイソシアネート化合物との組み合わせや、ポリウレタンポリオールとポリイソシアネート化合物との組み合わせ等の各種二液型組成物が用いられているが、表面コーティング剤及び層間接着剤とではぞれぞれ要求される性能が異なり、例えば公知の層間接着剤を表面コーティング剤に用いるといった単なる転用では所期の性能が得られないのが一般的である。
【0009】
特許文献1には、紫外線吸収剤及び/又はヒンダードアミン系光安定剤を添加した、水酸基含有アクリル樹脂と有機ポリイソシアネート化合物からなるポリウレタン系硬化性表面コーティング組成物が記載されており、それを用いて得られた、熱、光及び水の影響を受けても充分な耐候性を有し、皮膜の密着性にも優れた、太陽電池バックシートへの適用を示唆する高耐候性ポリエステルフィルムが記載されている。
【0010】
また、特許文献2には、アイオノマー型ポリウレタン樹脂に対し、有機ポリイソシアネート化合物とエポキシ樹脂を組み合わせたポリウレタン系硬化性表面コーティング組成物が記載されており、そこには、ポリエステル樹脂フィルム上で当該表面コーティング組成物を塗布硬化した太陽電池バックシートも記載されている。
【0011】
しかしながら、上記特許文献1〜2の様な硬化性表面コーティング組成物から得られる硬化物皮膜では、未だ耐候性が充分でないが実情であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005−15557公報
【特許文献2】特開2010−16286公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、より優れた耐候性を有する積層ポリエステル樹脂フィルムが、従来に比べより簡便に得られる硬化性表面コーティング組成物を提供することを目的とする。
もって、より耐候性に優れた積層ポリエステル樹脂フィルム、並びにより耐候性に優れた前記積層ポリエステル樹脂フィルムを少なくとも含む、多層構造の太陽電池バックシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、上記実情に鑑みて鋭意検討したところ、ポリエステル樹脂と、有機ポリイソシアネート化合物と、酸化防止剤及び/又は光安定剤を含有してなる硬化性表面コーティング組成物において、ポリステル樹脂としてガラス転移温度30〜90℃のポリエステル樹脂を用いることで、著しく硬化物皮膜の耐候性を改善できることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち本発明は、ポリエステル樹脂と、有機ポリイソシアネート化合物と、酸化防止剤及び/又は光安定剤を含有してなる硬化性表面コーティング組成物において、ポリステル樹脂としてガラス転移温度30〜90℃のポリエステル樹脂を用いることを特徴とする硬化性表面コーティング組成物を提供する。
【0016】
また本発明は、上記硬化性表面コーティング組成物の硬化物皮膜がポリエステル樹脂フィルム上に積層された、積層ポリエステル樹脂フィルムを提供する。以下、上記硬化物皮膜は、硬化塗膜と略記する。
【0017】
さらに本発明は、上記積層ポリエステル樹脂フィルムを少なくとも含む、多層構造の太陽電池バックシートを提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の二液型の硬化性表面コーティング組成物は、そこに含ませるポリエステル樹脂をガラス転移温度30〜90℃としたので、従来に比べて、より優れた耐候性を有するポリエステル樹脂フィルムが得られるという格別顕著な技術的効果を奏する。
また、本発明の積層ポリエステル樹脂フィルムは、上記硬化性表面コーティング組成物の硬化物皮膜が、ポリエステル樹脂フィルム上に積層されているので、従来に比べて、より優れた耐候性を有するポリエステル樹脂フィルムが得られるという格別顕著な技術的効果を奏する。
さらに本発明の太陽電池バックシートは、上記したより耐候性に優れた積層ポリエステル樹脂フィルムを少なくとも含むので、より優れた耐候性を有する多層構造の太陽電池バックシートが得られるという格別顕著な技術的効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の硬化性表面コーティング組成物を用いた太陽電池バックシートの層構成の一態様を示す図である。
【図2】本発明の硬化性表面コーティング組成物を用いた太陽電池バックシートの層構成の一態様を示す図である。
【図3】本発明の硬化性表面コーティング組成物を用いた太陽電池バックシートの層構成の一態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の二液型の硬化性表面コーティング組成物は、そこに含ませるポリエステル樹脂が、示差走査熱量分析法(Differential Scanning Calorimetry 法;DSC法)でのガラス転移温度30〜90℃のポリエステル樹脂であることを特徴とする。以下、ガラス転移温度は、Tgと称する場合がある。
【0021】
ポリエステル樹脂は、例えば、各種グリコールと二塩基酸とを必須原料成分として重縮合することで得ることが出来る。こうして得られたポリエステル樹脂は、線状(リニア)ポリエステル樹脂である。二塩基酸に代えて、二塩基酸無水物、二塩基酸低級アルキルエステル等のエステル形成性誘導体を用いて、それを得ることも出来る。
【0022】
ポリエステル系樹脂としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、デカンジオール、シクロヘキサンジメタノール等の脂肪族グリコールと、例えばコハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸スベリン酸、アゼライン酸、1,10−デカメチレンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族ニ塩基酸とを必須原料成分として反応させた脂肪族ポリエステル樹脂や、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール等の脂肪族グリコールと、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ニ塩基酸とを必須原料成分として反応させた芳香族ポリエステル樹脂が挙げられる。
【0023】
ポリエステル樹脂としては、例えば、東洋紡績(株)製「バイロン」シリーズ、ユニチカ(株)製「エリーテル」シリーズがある。
【0024】
上記したポリエステル樹脂は、その主鎖中にベンゼン環やナフタレン環がより多く含有されることでTgがより高くなる傾向があり、例えば、コーティングすべき対象基材がPET(ポリエチレンテレフタレート)やPBT(ポリブチレンテレフタレート)やPEN(ポリエチレンナフタレート)との親和性が高まるため、本発明では脂脂肪族ポリエステル樹脂よりも芳香族ポリエステル樹脂を用いることが好ましい。しかしながら、一方で、主鎖中にベンゼン環やナフタレン環がより多く含有されることで、結晶性や融点等も高くなる傾向があり、流動性や塗布性が低下しやすい。
【0025】
そこで本発明では、Tg30〜90℃の芳香族ポリエステル樹脂を用いることがより好ましい。本発明では、全アルコール中炭素原子数2〜4の脂肪族グリコール25モル%以上を用い、かつ全多塩基酸中芳香族ニ塩基酸30モル%以上を用いて得た、Tg30〜55℃の芳香族ポリエステル樹脂を用いることが好ましい。
【0026】
尚、本発明で用いるポリエステル樹脂は、後記する様に、表面コーティング剤の調製に当たっては、有機ポリイソシアネート化合物と組み合わせて用いるため、架橋点として作用し得る水酸基を含有するポリエステル樹脂であることが好ましい。水酸基を含有するポリエステル樹脂としては、水酸基価1〜10mgKOH/gのポリエステル樹脂であることが、後記する有機ポリイソシアネート化合物と架橋した際に、未反応の水酸基が硬化物表面に残存し難く、フリーの水酸基を起点としたラジカルによる硬化物中のポリエステル樹脂の経時分解等も起こり難く、用いたポリエステル樹脂の優れた特徴を存分に発揮しやすい点で好ましい。
【0027】
この様な水酸基を含有するポリエステル樹脂は、原料グリコール成分の水酸基の等量と、原料ニ塩基酸成分の酸基の等量とが、前者過剰となる様にして反応を行うことで、容易に得ることが出来る。
【0028】
ポリエステル樹脂は、必要であれば上記した必須原料成分に加えて、トリメリット酸、ピロメリット酸或いはこれらの無水物の様な三官能以上の多塩基酸や同エステル形成性誘導体や、トリメチロールプロパンペンタエリスリトール等の三官能以上のポリオール等を少量併用することで、線状(リニア)での性質を大きく損なわない範囲で、一部に分岐構造を有するポリエステル系樹脂とすることが出来る。本発明では、上記したTgを満足するのであれば、一部に分岐構造を有するポリエステル系樹脂を用いることが出来る。
【0029】
本発明で用いる、Tg30〜90℃のポリエステル樹脂は、中でも蒸気圧浸透法(VaporPressure Osmometry 法;VPO法)での数平均分子量16,000〜2,4000を満たすポリエステル樹脂であること、中でも特に数平均分子量18,000〜2,4000を満たすポリエステル樹脂であることが、硬化物皮膜の耐候性により優れる点でより好ましい。上記した分子量のポリエステル樹脂は、従来技術で用いられるポリエステルポリオールよりは高い分子量域にあるが、例えば有機溶剤に溶解する上、同溶液の流動性を大きくは損なうことなく、ポリエステルポリオールを用いた場合に無い際立った耐候性を発現する。また本発明は、基材の表面コーティング剤に関するものであり、層間接着剤での適用のみからは知見できない、表面コーティング用途で固有の技術的課題である難燃性も解決できる。従来は、最外層の皮膜を難燃化するには基材自体の難燃化が必要であった。具体的には、ポリエステルフイルム基材の難燃化は、その基材のポリエステル樹脂自体の製造時に難燃性単量体を共重合する方法、難燃剤をポリエステル樹脂に混合する方法があり、難燃剤としてリン化合物と無機化合物、例えば水酸化アルミニウムを溶融混合し製膜する方法が提案されてはいるが、この様な方法を採用しなくとも、ある程度は、上記したより高い分子量域のポリエステル樹脂を用いた硬化性表面コーティング剤の硬化皮膜で、前記した特段の難燃化を行わずとも、水酸基を含有するアクリル樹脂を用いた場合に無い際立った難燃性を発現させることが可能である。
【0030】
本発明で好適な、Tg30〜90℃かつ数平均分子量16,000〜2,4000を満たすポリエステル樹脂の市販品(商品名)としては、例えばユニチカ(株)製エリーテルUE−3210、同XA−0611を挙げることが出来る。
【0031】
本発明では、上記したポリエステル樹脂を架橋させるために、有機ポリイソシアネート化合物が併用される。有機ポリイソシアネート化合物としては、イソシアネート基を分子内に少なくとも2つ有する有機化合物が挙げられる。有機ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、リジンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,3−(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、1,5−ナフタレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネートなどのポリイソシアネート;これらのポリイソシアネートのアダクト体、ビュレット体、イソシアヌレート体などのポリイソシアネートの誘導体(変性物)などが挙げられる。
【0032】
有機ポリイソシアネート化合物は、使用される用途によって適宜選択すれば良いが、トリレンジイソシアネートの様な芳香族系は黄変する場合があり、より優れた耐候性を要する場合には、脂肪族系または脂環式を用いることが好ましい。ポリエステル樹脂フィルムの様な透明な基材上で硬化塗膜が着色して透明性が低下するのは視認性悪化の点でも好ましくない。よって本発明で好適なのは、脂肪族または脂環式の有機ポリイソシアネートである、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、これらのポリイソシアネートのアダクト体、ビュレット体、イソシアヌレート体などのポリイソシアネートの誘導体(変性物)を用いることが好ましい。
【0033】
この様な有機ポリイソシアネート化合物としては、例えば、住化バイエルウレタン(株)製、商品名:スミジュールN3200、同N3300、同BL3175、同N3400、同N3600、同VPLS2102;旭化成工業(株)製、商品名:デュラネートE−402−90Tなどが挙げられる。
【0034】
主剤であるポリエステル樹脂と、硬化剤である有機ポリイソシアネート化合物との質量割合は、用いる主剤と硬化剤の種類や、各々の官能基含有量などによって異なるので一概には決定することができないが、質量換算の両者の合計を100%とした場合、硬化剤に使用割合は、硬化塗膜の密着性、耐加水分解性の観点から、通常0.1〜30%、中でも1〜10%とすることが好ましい。
【0035】
硬化剤は、有機ポリイソシアネート化合物のみでも良いが、有機ポリイソシアネート化合物とエポキシ樹脂とを積極的に併用することより、硬化塗膜により高度な耐加水分解性を付与することが出来る。
【0036】
本発明で用いるエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、等のビスフェノール型エポキシ樹脂;オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、臭素化フェノールフェノールノボラック型エポキシ樹脂、アルキルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールSノボラック型エポキシ樹脂、アルコキシ基含有ノボラック型エポキシ樹脂、ブロム化フェノールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;その他、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂(通称ザイロック樹脂のエポキシ化物)、レゾルシンのジグリシジルエーテル、ハイドロキノンのジグリシジルエーテル、カテコールのジグリシジルエーテル、ビフェニル型エポキシ樹脂、テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂、硫黄含有エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂等の2官能型エポキシ樹脂、トリグリシジルシソシアヌレート、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン−フェノール付加反応型エポキシ樹脂、ビフェニル変性ノボラック型エポキシ樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価フェノール樹脂のエポキシ化物)、アルコキシ基含有ノボラック型エポキシ樹脂、アルコキシ基含有フェノールアラルキル樹脂、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂、ブロム化フェノールノボラック型エポキシ樹脂などが挙げられる。また、前記エポキシ樹脂は単独で用いてもよく、2種以上を混合してもよい。
【0037】
これらのエポキシ樹脂の中でも、特にエポキシ樹脂自体が低粘度であって、主剤との相溶性に優れる点、及び硬化塗膜の耐熱性、強度の物性バランスを良好と出来る点から、ビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましい。前記ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、特に主剤へ混合した際の常温での流動性に優れ、とりわけ硬化塗膜の剛性、耐加水分解性、耐湿熱性などのバランスに優れたものに出来る点からビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましい。また、該ビスフェノールA型エポキシ樹脂のエポキシ当量は、流動性の点から150〜700g/eq.の範囲、中でも150〜250g/eq.の範囲であることが特に好ましい。
【0038】
本発明においては、エポキシ樹脂を併用する場合には、ポリエステル樹脂と有機ポリイソシアネート化合物との質量換算合計100部当たり、エポキシ樹脂を2〜20部、中でも12〜20部用いることが、硬化塗膜の優れた可とう性、密着性及び耐加水分解性を兼備させる上では好ましい。
【0039】
本発明の硬化性表面コーティング組成物には、硬化物の光・熱・水などによる劣化を防止するため、例えば、酸化防止剤、光安定剤が含められる。
【0040】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系、リン酸系、イオウ系が挙げられる。具体的なリン酸系酸化防止剤としては、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルイソデシルホスファイト、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニルジトリデシル)ホスファイト、オクタデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノ及び/あるいはジノニルフェニル)ホスファイト、ジイソデシルペンタエリスリトールジホスファイト、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン=10−オキサイド、10−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−デシロキシ−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラホスファイト、2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェノール)フルオロホスファイト、4,4’−イソプロピリデン−ジフェノールアルキル(C12〜C15)ホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジブチルハイドロゲンホスファイト、ジステアリル・ペンタエリスリトール・ジホスファイト、亜りん酸エステル系化合物等が挙げられる。
【0041】
光安定剤としては、先述した酸化防止剤として使用されるものもあるが、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリチレート系、シアノアクリレート系、蓚酸誘導体、ヒンダードアミン系(HALS)、ヒンダードフェノール系等が挙げられる。具体的なヒンダードアミン系光安定剤としては、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、3’’,4’’,2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−4’−t−オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−ドデシル−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニルベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−(3’’,4’’,5’’,6’’−テトラフタルイミドメチル)−5’−メチルフェニル]ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール、メチル−3−[3−t−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニルプロピオネート−ポリエチレングリコール(分子量約300)との縮合物、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−ドデシルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ベンジロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2’−カルボキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシ−5−ソジウムスルホキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン、4−(2−アクリロイロキシエトキシ)−2−ヒドロキシベンゾフェノンのポリマー、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノンと他の4置換ベンゾフェノンとの混合品、フェニルサリチレート、2,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸−n−ヘキサデシルエステル、4−t−ブチルフェニルサリチレート、4−t−オクチルフェニルサリチレート、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンゾエート、エチル(β,β−ジフェニル)シアノアクリレート、2−エチルヘキシル(β,β−ジフェニル)シアノアクリレート、2−エトキシ−2’−エチル蓚酸ビスアニリド、2−エトキシ−5−t−ブチル−2’−エチル蓚酸ビスアニリド、蓚酸アニリド誘導体、インドール系、アゾメチン系、フェニル−4−ピペリジニルカーボネート、[4−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオニル]−N−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)メチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1,1’−(1,2−エタンジイル)ビス(3,3,5,5−テトラメチルピペラジンオン)、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバケート、ビス−[N−メチル−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジニルセバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロネート、1,2,3,4−ブタンカルボン酸と2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノールとトリデシルアルコールとの縮合物、1,2,3,4−ブタンカルボン酸と1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノールとトリデシルアルコールとの縮合物、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ポリ[[6−(1,1,3,3−テトラメチルブチルアミノ)−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル][(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6−テトラメチルピペリジル)イミノ]]、ポリ[6−モルフォリノ−s−トリアジン−2,4−ジイル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジルイミノ−ヘキサメチレン][2,2,6,6−テトラメチルピペリジルイミノ]]、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノールとβ,β,β’,β’−テトラメチル−3,9−(2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)ジエタノールとの縮合物、1,6−ヘキサメチレンビス(N,N−ジメチルセミカルバジド)、1,1,1’,1’−テトラメチル−4,4’−(メチレン−ジ−p−フェニレン)ジセミカルバジド等が挙げられる。
【0042】
この様な紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤としては、リン酸系酸化防止剤及び/又はヒンダードアミン系光安定剤が、より優れた耐候性の硬化塗膜が得られる点で好ましい。使用量同量での対比においては、リン酸系酸化防止剤よりは、ヒンダードアミン系光安定剤の方が、耐候性の改良効果は高い。
【0043】
これらの添加剤は、目的とする耐候性の水準に応じて、硬化塗膜自体の強靭性、コーティングを行う基材の可とう性に追従できる密着性を考慮して添加すればよいが、硬化塗膜の固形分の質量換算100部に対して、0.1〜15%、中でも1〜5%となる様に用いることが好ましい。
【0044】
本発明の硬化性表面コーティング組成物には、カルボジイミド化合物を含有させることが出来る。カルボジイミド化合物に存在するカルボジイミド基は、ポリエステル樹脂中のエステル結合や、コーティングする基材がPETフィルムの様なポリエステル樹脂である場合に、これらのいずれか又は両方において、エステル基の加水分解によって生じたカルボキシル基と瞬時に反応する。また、カルボジイミド基は水とも反応する。従って、カルボジイミド化合物は、このような反応機構を利用することにより、硬化塗膜のみらならず、基材自体の耐加水分解性向上にも寄与する。
【0045】
また、このカルボジイミド化合物は、ポリエステル樹脂と有機ポリイソシアネート化合物とエポキシ樹脂と併用することで、硬化塗膜の耐加水分解性を向上させることが出来るが、そのカルボジイミド基がイソシアネート基と反応して、又はカルボジイミド基同士が反応して架橋構造を形成することから、用いる有機ポリイソシアネート化合物のイソシアネート当量と使用量を考慮することで、硬化塗膜の耐加水分解性を更に向上させることが出来る。
【0046】
このようなカルボジイミド化合物としては、例えば、有機イソシアネート化合物をホスホレンオキサイド等のカルボジイミド化触媒の存在下、脱炭酸ガス反応よって得られる。更には有機モノイソシアネートから得られるモノカルボジイミドや、有機ジイソシアネートの一部をモノアルコールやモノアミンでキャップしたポリカルボジイミド、有機モノイソシアネートと有機ジイソシアネートの併用で得られるポリカルボジイミド等が挙げられる。有機イソシアネート化合物としては、フェニルイソシアネートやターシャルブチル−1−フェニルイソシアネート等の有機モノイソシアネート化合物や上記した様な公知慣用の有機ポリイソシアネート化合物が挙げられる。具体的な商品としては、DIPC(川口化学)、スタバックゾール(登録商標)I(バイエル)、カルボジライト(登録商標)HMV−8CA(日清紡績)、ELASTOSTAB(エラストスタブ;登録商標)H01(エラストグランAG)等が挙げられる。本発明においては、水酸基含有(メタ)アクリル樹脂等への相溶性等を考慮すると、カルボジイミド化合物としては、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)系のカルボジイミド化合物が好ましい。本発明においてカルボジイミド化合物は、コーティングを行う基材の可とう性に追従できる密着性と耐加水分解性を考慮して添加すればよいが、硬化塗膜の固形分の質量換算100部に対して、0.1〜10%、中でも1〜5%となる様に用いることが好ましい。
【0047】
本発明の硬化性表面コーティング組成物には、ポリカーボネート樹脂を含有させることが出来る。ポリカーボネート樹脂は、カルボジイミド化合物と同様に、ポリエステル樹脂と有機ポリイソシアネート化合物とエポキシ樹脂と併用することで、硬化塗膜の耐加水分解性を向上させることが出来る。ポリエステル樹脂は、エステル結合を含有するため耐加水分解性が劣るし、ポリエーテル樹脂は、エーテル結合を含有するため、耐候性や耐熱性の水準が低いという欠点があるのに対して、ポリカーボネート樹脂にはこの様な欠点が無い。ポリカーボネート基の有する高い凝集力により、硬化塗膜を、より耐熱性、耐候性、耐油性、および、耐薬品性に優れたものとすることが出来る。本発明においてポリカーボネート樹脂は、コーティングを行う基材の可とう性に追従できる密着性と耐加水分解性を考慮して添加すればよいが、硬化塗膜の固形分の質量換算100部に対して、0.1〜10%、中でも1〜5%となる様に用いることが好ましい。
【0048】
このポリカーボネート樹脂として、例えば、炭酸ジアルキルと1,6−ヘキサンジオールのみを用いて得たポリカーボネート樹脂を用いることも出来るが、より結晶性が低い点で、ジオールとして、1,6−ヘキサンジオールと、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール又は1,4−シクロヘキサンジメタノールとを共重合させて得られるポリカーボネートジオールを用いることが好ましい。
【0049】
この様なポリカーボネートジオールとしては、例えば、数平均分子量500〜2000かつ水酸基価30〜500mgKOH/gのものが挙げられ、中でも、常温液状で上記ポリエステル樹脂との相溶性に優れる点で、数平均分子量800〜1200かつ水酸基価50〜250mgKOH/gのものが好ましい。
【0050】
上記ポリカーボネートジオールとして、例えば、旭化成ケミカルズ(株)製の共重合ポリカーボネートジオールである商品名「T5650J」、「T5651」、「T5652」、「T4671」、「T4672」、あるいは、宇部興産(株)製の商品名「UM−CARB90(1/3)」、「UM−CARB90(1/1)」等が商業的に入手可能なものとして挙げられる。
【0051】
本発明の硬化性表面コーティング組成物は、通常、硬化剤である有機ポリイソシアネート化合物以外の各成分をあらかじめ配合した主剤プレミックスを調製しておき、これと有機ポリイソシアネート化合物とを混合して調製することが出来る。上記した、カルボジイミド化合物やポリカーボネートポリオールは、経時で或いは瞬時にイソシアネート基と反応する場合があるため、これらは主剤プレミックスに配合しておくのが好ましい。
【0052】
本発明の硬化性表面コーティング組成物、特に上記した主剤には、粘度調整の観点から、そこに含める原料との反応性を有さず、原料を溶解する有機溶剤を含有させることが出来る。具体的には、例えば、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、ジオキサン、エチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル系溶剤、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族系炭化水素等が挙げられる。
【0053】
本発明の硬化性表面コーティング組成物には、その他の添加剤などを含有させてもよい。添加剤としては、フィルムやコーティング膜などを形成する樹脂組成物に一般に使用されている添加剤などが挙げられる。添加剤としては、例えば、レベリング剤;コロイド状シリカ、アルミナゾルなどの無機微粒子;ポリメチルメタクリレート系の有機微粒子;消泡剤;タレ性防止剤;シランカップリング剤;粘性調整剤;紫外線吸収剤;金属不活性化剤;過酸化物分解剤;難燃剤;補強剤;可塑剤;潤滑剤;防錆剤;蛍光性増白剤;無機系熱線吸収剤;防炎剤;帯電防止剤;脱水剤などが挙げられる。
【0054】
本発明の硬化性表面コーティング組成物は、公知慣用の基材に塗布して乾燥することで、基材上に密着性のある硬化塗膜を積層することが出来る。基材への塗布量は、特に制限されるものではないが、例えば、1〜20g/m、中でも5〜10g/mの範囲から選択することが、少量で優れた耐候性が付与できる点で好ましい。この塗布には、例えば、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、リバースコーター、バーコーター、ロールコーター、ダイコーター等を用いることが出来る。
【0055】
この際の基材としては、例えば、紙、オレフィン樹脂やポリエステル樹脂から得られた合成樹脂フィルム、銅箔、アルミニウム箔の様な金属箔等を挙げることが出来る。基材の厚みは、特に制限されるものではなく、例えば、10〜400μmから選択出来るが、本発明の硬化性表面コーティング組成物は、少量の塗布かつ低温短時間の乾燥で、基材に反りやヘタリ等、何ら影響を与えることなく優れた密着性を奏し、優れた耐候性を付与出来ることから、30〜80μmで軟化温度180℃以下の基材への適用が最適である。
【0056】
低温かつ短時間の乾燥より、基材を反らせたり塗膜剥離などの不都合が発生することなく、基材への優れた密着性が得られ積層体の劣化をより効果的に防止することが出来る点で、基材としては、ポリエステル樹脂フィルムを用いることが好ましい。本発明の硬化性表面コーティング組成物の硬化塗膜がポリエステル樹脂フィルム上に積層された、積層ポリエステル樹脂フィルムは、上記した優れた性質を有したものとなる。
【0057】
この際のポリエステル樹脂フィルムとしては、例えば、PET、PBT、PENや、1,4−シクロヘキサンジメタノール共重合ポリエチレンテレフタレート(PET−G)等の共重合ポリエステル樹脂のフィルムなどが挙げられる。また、延伸フィルム、無延伸フィルムのいずれでも構わない。ポリエステル樹脂フィルムは、白色または着色していても良いが、本発明の硬化性表面コーティング組成物の硬化塗膜が透明となる様に原料を選択して調製した場合や用途として透明性が要求される場合には、このポリエステル樹脂フィルムとしても透明なものを選択して用いることで、積層ポリエステル樹脂フィルムも透明なものとすることが出来るので好ましい。むろん、必要であれば、ポリエステル樹脂フィルムとしては、硬化塗膜の積層前後において、その表面に絵柄を施すことも出来る。
【0058】
中でも、160℃以下という比較的低温で1分以下という短時間の乾燥より、薄膜の基材に上記した様な不都合を発生させず、基材への優れた密着性が得られ積層体の耐湿熱性と耐加水分解性に基づく劣化をより効果的に防止することが出来る点で、基材としては、PETフィルムを用いることが好ましい。本発明のコーティング組成物の硬化塗膜がPETフィルム上に積層された、積層ポリエステル樹脂フィルムは、上記した優れた性質を有したものとなる。
【0059】
ポリエステル樹脂フィルムと硬化塗膜との密着性を向上させるために、ポリエステル樹脂フィルムの硬化塗膜を形成する方の面に表面処理を行ってもよい。この表面処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、火炎処理、放射線処理等を行うことも出来る。
【0060】
本発明の硬化性表面コーティング組成物の硬化塗膜がポリエステル樹脂フィルム上に積層された積層ポリエステル樹脂フィルムを得るに当たっては、この硬化塗膜1を、ポリエステル樹脂フィルム2の片面のみに設けても良いし、両面に設けても良い。硬化塗膜1を、ポリエステル樹脂フィルム2の片面に設けた積層ポリエステル樹脂フィルムの層構成は、図1に示した通りである。図1の積層ポリエステル樹脂フィルムの本発明の表面コーティング組成物の硬化塗膜1と反対側のPET表面2に、ポリエステル樹脂系、ポリウレタン樹脂系の易接着性コート剤3を塗布し、その他の各種基材と接着させることが出来る、図2の様な、積層ポリエステル樹脂フィルムを得ることも出来る。流通に当たっては、易接着性コート剤3の外側には剥離紙(離型フィルム)を更に積層した上、使用時には、それを剥がすことで、積層ポリエステル樹脂フィルムを基材に貼着させることが出来る。これら図1及び図2の積層ポリエステル樹脂フィルムは、太陽電池バックシートに用いることが出来る。
【0061】
劣化の原因となる光・熱・水などの作用を片面のみから受ける用途であれば、一般的には、ポリエステル樹脂フィルムの二つの表面のうち当該面のみに硬化塗膜を設ければ十分な効果がある。しかし、光、熱又は水の作用を両面から受ける可能性がある場合には、両面に設けることが望ましい。
【0062】
本発明の硬化性表面コーティング組成物の硬化物皮膜がポリエステル樹脂フィルム上に積層された、積層ポリエステル樹脂フィルムを少なくとも含む、多層構造の積層ポリエステル樹脂フィルムも、太陽電池バックシートとして用いることが出来る。
【0063】
太陽電池バックシートに更に優れたガスバリア性を付与する場合には、中間層に、例えば、アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化錫、酸化マグネシウム等の薄膜を設けることが好ましい。例えば、図1の積層ポリエステル樹脂フィルムの本発明のコーティング組成物の硬化塗膜1と反対側のポリエステル樹脂フィルム2表面に、ポリエステル樹脂フィルムとガスバリア性のある中間層との密着性に優れる接着剤4を介して、軟質アルミニウム層の様な上記したガスバリア性のある金属または金属酸化物のフレキシブルな薄膜(中間層)5を積層し、更にその中間層5の外側に、ポリエステル樹脂フィルムとガスバリア性のある中間層との密着性に優れる接着剤4を介して、別のポリエステル樹脂フィルム2を積層することで、ガスバリア性のある中間層5がポリエステル樹脂フィルムでサンドイッチされた構造を含み、少なくとも一方のポリエステル樹脂フィルム表面が、本発明のコーティング組成物の硬化塗膜で被覆された、太陽電池バックシートを得ることが出来る(図3参照。)。
【0064】
尚、表面が未処理のポリエステル樹脂フィルムに代えて、片面にアルミニウム、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化錫、酸化マグネシウム等の蒸着薄膜が設けられたポリエステル樹脂フィルム二つを用いることで、PETフィルム層2と中間層5との間に接着剤層4を設けずに、その蒸着薄膜表面とは逆の表面に本発明のコーティング組成物の硬化塗膜を積層し、各蒸着薄膜側同士を接着剤で貼合することでも、上記図3に類する太陽電池バックシートを得ることが出来る。
【0065】
次に本発明を実施例により詳細に説明する。以下、部、%は質量基準であるものとする。
【実施例】
【0066】
下記の表1及び表2に示す通り、ポリエステル樹脂、有機ポリイソシアネート化合物、エポキシ樹脂、カルボジイミド化合物、ポリカーボネート樹脂、酸化防止剤、光安定剤を用いて、主剤成分と硬化剤成分との二液型の、本発明及び従来の硬化性表面コーティング組成物を調製した。
塗布量7g/mとなる様にバーコーターにて、得られた各硬化性表面コーティング組成物を直ちに、東洋紡績(株)製コロナ処理PETフィルム(厚さ50μm)のコロナ処理面に塗布し、100℃で30秒乾燥させ、図1の層構成を有した各積層ポリエステル樹脂フィルムを得た。
【0067】
耐候性は、耐加水分解性の影響を含んでいる耐湿熱性を指標とした。この耐候性は、硬化塗膜自体でなく積層ポリエステル樹脂を用いて評価した。耐候性の評価に当たり、各積層ポリエステル樹脂フィルムにつき、プレッシャークッカーテスト(PCT)を行い、同テスト前後における積層ポリエステル樹脂フィルムの破断強度と伸び強度がどの程度変化するかを測定した。PCTは、温度121℃×湿度100%×50時間の条件で行い、各強度は株式会社エー・アンド・ディー製テンシロン万能材料試験機にて測定した。
尚、PCT前後における各強度の保持率が、90%以上を◎、89〜70%を○、69〜40%を△、39%以下を×として、下記表1及び2に示した。
【0068】
下記表1及び表2の各コーティング組成物の調製に用いた原料は、下記の通りである。
エリーテルUE−3210:
ユニチカ株式会社全アルコール中炭素原子数2〜4の脂肪族グリコール25モル%以上を用い、かつ全多塩基酸中芳香族ニ塩基酸30モル%以上を用いて得た、水酸基を含有する芳香族ポリエステル樹脂。固形分:100%、DSC法によるTg:45℃、水酸基価:4mgKOH/g、VPO法による数平均分子量:20,000
エリーテルXA−0611:
ユニチカ株式会社全アルコール中炭素原子数2〜4の脂肪族グリコール25モル%以上を用い、かつ全多塩基酸中芳香族ニ塩基酸30モル%以上を用いて得た、水酸基を含有する芳香族ポリエステル樹脂。固形分:100%、DSC法によるTg:65℃、水酸基価:4mgKOH/g、VPO法による数平均分子量:17,000
エリーテルUE−9900:
ユニチカ株式会社製ポリエステル樹脂。固形分:100%、DSC法によるTg:101℃、水酸基価:8mgKOH/g、VPO法による数平均分子量:15,000
エリーテルUE−3220:
ユニチカ株式会社製ポリエステル樹脂。固形分:100%、DSC法によるTg:5℃、水酸基価:3mgKOH/g、VPO法による数平均分子量:25,000
エピクロン860:
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC株式会社製)。固形分:100%、エポキシ当量:240
DURANOL T−5651:
ポリカーボネートジオール(旭化成ケミカルズ株式会社製)。固形分:100%、数平均分子量:1000、水酸基価:100〜120
IRGAFOS 168:
リン酸系酸化防止剤(BASFジャパン株式会社製)。固形分:100%
チヌビン123:
ヒンダードアミン系光安定剤(BASFジャパン株式会社製)。固形分:100%
ELASTOSTAB H01:
TMXDI系のカルボジイミド樹脂(日清紡ケミカル株式会社製)。固形分:100%
スミジュールN3300:
HDI系ポリイソシアネート(住化バイエルウレタン株式会社製)。固形分:100%
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
実施例3と比較例1〜2との対比からわかる通り、Tg30〜90℃のポリエステル樹脂と有機ポリイソシアネート化合物と酸化防止剤及び/又は光安定剤を含有してなる本発明の硬化性表面コーティング組成物は、本発明で規定した範囲外のTgのポリエステル樹脂と有機ポリイソシアネート化合物と酸化防止剤及び/又は光安定剤を含有してなる本発明の硬化性表面コーティング組成物に比べて、耐候性に優れていることは明白である。
【0072】
また、実施例1と実施例3との対比からわかる通り、Tg30〜55℃のポリエステル樹脂と有機ポリイソシアネート化合物と酸化防止剤及び/又は光安定剤を含有してなる本発明の硬化性表面コーティング組成物は、Tg65℃のポリエステル樹脂と有機ポリイソシアネート化合物と酸化防止剤及び/又は光安定剤を含有してなる本発明の硬化性表面コーティング組成物に比べて、より耐候性に優れていることは明白である。
【0073】
難燃性:
実施例1〜3で得た積層ポリエステル樹脂フィルムの試験片(20×5cm)を円筒状に巻き、クランプに垂直に取り付け、20mm炎による3秒間接炎を2回行い、その燃焼挙動により、燃焼性分類の判定を行ったところ、いずれも、UE-3210やXA-0611の代わりに水酸基含有アクリル樹脂を用いて同様にして得た積層ポリエステル樹脂フィルムに無い、燃焼性分類「○」の難燃性に優れた積層ポリエステル樹脂フィルムが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の硬化性表面コーティング組成物は、より優れた耐候性を有するので、例えば鉄道車両、自動車、自動販売機等の表面に貼付して用いられるマーキング用フィルムの表面保護、光沢向上、変退色・劣化防止等を目的としたオーバーレイフィルムや、車両や住宅のプラスチック製ウインドウや外装看板の表面保護用フィルム、液晶ディスプレイ反射用シート、太陽電池用バックシート等として、主として精密部品の保護や変退色防止の目的で用いられる高耐候性フィルム・シートを提供出来る。
【符号の説明】
【0075】
1 本発明のコーティング組成物の硬化物(硬化塗膜)
2 PETフィルム
3 易接着コート剤
4 接着剤
5 軟質アルミニウム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂と、有機ポリイソシアネート化合物と、酸化防止剤及び/又は光安定剤を含有してなる硬化性表面コーティング組成物において、ポリステル樹脂として、示差走査熱量分析法(Differential Scanning Calorimetry 法;DSC法)でのガラス転移温度30〜90℃のポリエステル樹脂を用いることを特徴とする硬化性表面コーティング組成物。
【請求項2】
エポキシ樹脂を更に含有する請求項1記載の硬化性表面コーティング組成物。
【請求項3】
ポリステル樹脂が、更に蒸気圧浸透法(VaporPressure Osmometry 法;VPO法)での数平均分子量16,000〜2,4000を満たすポリエステル樹脂である請求項1または記載の硬化性表面コーティング組成物。
【請求項4】
酸化防止剤及び/又は光安定剤が、リン系酸化防止剤及び/又ヒンダードアミン系光安定剤である請求項1〜3のいずれ一項に記載の硬化性表面コーティング組成物。
【請求項5】
更に、カルボジイミド化合物を含有する請求項1〜4のいずれか一項に記載の硬化性表面コーティング組成物。
【請求項6】
更に、ポリカーボネート樹脂を含有する請求項1〜5のいずれか一項に記載の硬化性表面コーティング組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の硬化性表面コーティング組成物の硬化物皮膜がポリエステル樹脂フィルム上に積層された、積層ポリエステル樹脂フィルム。
【請求項8】
請求項7の積層ポリエステル樹脂フィルムを少なくとも含む、多層構造の太陽電池バックシート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−251102(P2012−251102A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126272(P2011−126272)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】