説明

硬化電着塗膜および多層塗膜の形成方法

【課題】いわゆる中塗り塗装レス系の多層塗膜の形成において好適に用いることができる、優れた耐食性を有し、かつ優れた耐候性を有する硬化電着塗膜を提供すること。
【解決手段】カチオン電着塗料組成物を電着塗装し、焼付硬化することにより得られた、動的ガラス転移温度が105〜120℃であり架橋密度が1.2×10−3〜2.0×10−3mol/ccである硬化電着塗膜であって、硬化電着塗膜は、フェノール構造部を100gに対してモル数として0.12〜0.24mol含有し、カチオン電着塗料組成物は、分子内にビスフェノールA構造を有するカチオン性エポキシ樹脂(A);カチオン性アクリル樹脂(B);脂環式イソシアネート化合物がオキシム化合物でブロックされたブロック化イソシアネート硬化剤(C);および顔料;を含み、カチオン電着塗料組成物中に含まれる樹脂固形分の割合は、カチオン性エポキシ樹脂(A)30〜50質量%、カチオン性アクリル樹脂(B)20〜40質量%、硬化剤(C)30〜35質量%である、硬化電着塗膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車車体などの被塗物上に設けることができる硬化電着塗膜に関する。より詳しくは、本発明は、優れた耐食性を有し、かつ優れた耐候性(耐光性など)を有する硬化電着塗膜に関する。本発明はさらに、自動車車体などの被塗物の塗装において、中塗り塗装工程を省略した、いわゆる中塗り塗装レス系の多層塗膜の形成方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
自動車車体などの塗装分野では一般に、鋼板などの被塗物に、耐食性向上を目的として、下塗り塗膜として電着塗膜を形成し硬化させた後、その上に中塗り塗膜を形成し、さらにその上に上塗り塗膜として着色ベース塗膜、クリヤー塗膜などを順次形成して塗装が完了する。しかし、近年では、自動車車体などの塗装分野においても、省資源、省エネルギー、省コストおよび環境負荷低減(例えば、低VOCおよび低CO)を目的として、塗装工程の短縮および簡略化が求められている。
【0003】
一般に、簡略化した塗装方法としては、3コート1ベーク(3C1B)法がよく知られている。3C1B法では、硬化電着塗膜の上に、中塗り塗料、ベース塗料およびクリヤー塗料をウェット・オン・ウェット(wet-on-wet)で順次塗り重ね、これら塗り重ねた塗膜を同時に焼き付け、硬化させることによって、硬化電着塗膜の上に、中塗り塗膜、ベース塗膜およびクリヤー塗膜の順でこれら3層を含む多層塗膜を一度に簡便に形成することができる。3C1B法では、硬化電着塗膜形成後、たった1回の焼き付け硬化で多層塗膜を形成することができるので、省エネルギーおよび省コストなどの観点から非常に有益である。また、3C1B法では、一般に、形成される多層塗膜が中塗り塗膜を含むため、優れた下地隠蔽性、耐候性、耐光性、耐衝撃性、耐チッピング性などの機能を塗膜に付与することができる。
【0004】
一方で、近年では、さらに簡略化した塗装方法として、中塗り塗装工程を省略した、いわゆる中塗り塗装レス系の多層塗膜の形成方法が検討されている。中塗り塗膜を設ける方法において用いられる、従来の電着塗料組成物においては、電着塗料組成物は優れた耐食性を有することが主として求められてきた。しかしながら、自動車車体などに適用する多層塗膜において中塗り塗膜を省略する場合、一般には、硬化電着塗膜が中塗り塗膜の役割を担う必要がある。そのため、中塗り塗装レス系の塗装法においては、硬化電着塗膜は、被塗物に対して、優れた耐食性だけでなく、優れた耐候性、耐光性、耐衝撃性、耐チッピング性などの機能を有する必要がある。
【0005】
しかしながら、中塗り塗装工程を省略して、硬化電着塗膜の上に直接上塗り塗料組成物を塗装する場合において、得られる多層塗膜が経時により劣化するという不具合が生じる場合がある。この経時劣化は、中塗り塗膜が存在しないことにより、硬化電着塗膜が紫外線などの影響を受けてしまうことによって生じていると考えられる。このような不具合は、優れた耐候性が必要とされ、かつ塗膜の外観が製品の意匠性を大きく作用する自動車などの塗装において致命的である。
【0006】
またこの中塗り塗装レス系においては、中塗り塗装が省略されることによって、硬化電着塗膜の表面状態が多層塗膜の塗膜外観により強い影響を及ぼすこととなる。そのため、より滑らかな表面を有する硬化電着塗膜の提供が求められることとなる。
【0007】
特開2003−313495号公報(特許文献1)には、成分(A):エポキシ当量が400〜3000のエポキシ樹脂(a−1)にアミノ基含有化合物(a−2)を付加して得られるアミノ基含有エポキシ樹脂(A)、成分(B):水酸基含有アクリル系モノマー(b)にラクトン類を付加してなるポリラクトン変性水酸基含有ラジカル共重合性モノマー(b−1)と、グリシジル(メタ)アクリレート(b−2)を必須成分とし、さらにその他のラジカル共重合性モノマー(b−3)をラジカル共重合して得られる共重合体樹脂に、アミノ基含有化合物(b−4)を付加して得られるアミノ基含有アクリル樹脂(B)、成分(C):硬化成分としてブロック化ポリイソシアネート硬化剤(C)を含有し、上記、成分(A)、成分(B)、成分(C)の固形分合計を基準にして、成分(A)を5〜80重量%、成分(B)が5〜80重量%、成分(C)を10〜40重量%含有することを特徴とするカチオン電着塗料組成物が記載されている(請求項1)。そしてこのカチオン電着塗料組成物は、耐候性、防食性、密着性、長期間での塗料安定性などが優れていると記載されている。一方で特許文献1は、耐食性に影響を与える動的ガラス転移温度および架橋密度などの範囲について記載しておらず、また耐食性および耐候性の双方において重要な関わりを持つフェノール構造についての記載がない点において、本発明とは構成が異なる。
【0008】
特開平10−292132号公報(特許文献2)には、(a)アミン変性ポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、(b)脂環式ブロックポリイソシアネート硬化剤、および必要に応じた(c)アミノ基含有アクリル共重合体を、伸び率3%以下、動的ガラス転移温度110℃以上、架橋密度1.2×10−3mol/cm以下を有する硬化塗膜を与える割合で含んでいることを特徴とするカチオン電着塗料組成物が記載されている。一方で特許文献2に記載される発明においては、得られる硬化塗膜の架橋密度は1.2×10−3mol/cm以下であること、また、成分(a)のSP値と成分(c)のSP値との差が0.5を超える(請求項4)などの点において、本発明とは構成が異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−313495号公報
【特許文献2】特開平10−292132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記課題を解決することを目的とする発明である。詳しくは、いわゆる中塗り塗装レス系の多層塗膜の形成において好適に用いることができる、優れた耐食性を有し、かつ優れた耐候性を有する硬化電着塗膜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、
カチオン電着塗料組成物を電着塗装し、焼付硬化することにより得られた、動的ガラス転移温度が105〜120℃であり、架橋密度が1.2×10−3〜2.0×10−3mol/ccである、硬化電着塗膜であって、
この硬化電着塗膜は、式:−C−O−で示されるフェノール構造部を、この硬化電着塗膜内の樹脂固形分100gに対してモル数として0.12〜0.24mol含有し、
このカチオン電着塗料組成物は、分子内にビスフェノールA構造を有するカチオン性エポキシ樹脂(A);水酸基含有モノマー、グリシジル基含有モノマーおよびその他のモノマーをラジカル共重合して得られる共重合樹脂に、アミノ基含有化合物を付加して得られるカチオン性アクリル樹脂(B);脂環式イソシアネート化合物がオキシム化合物でブロックされたブロック化イソシアネート硬化剤(C);および顔料;を含み、
このカチオン電着塗料組成物中に含まれる樹脂固形分の割合は、カチオン性エポキシ樹脂(A)30〜50質量%、カチオン性アクリル樹脂(B)20〜40質量%、硬化剤(C)30〜35質量%であり、
このカチオン性エポキシ樹脂(A)は、数平均分子量2000〜3000、およびガラス転移温度28〜50℃であり、およびこのカチオン性アクリル樹脂(B)は、数平均分子量5000〜6000、およびガラス転移温度28〜50℃であり、
このカチオン性エポキシ樹脂(A)の溶解性パラメータδAおよびこのカチオン性アクリル樹脂(B)の溶解性パラメータδBが、|δA−δB|<0.3の関係を満たし、および、ブロック化イソシアネート硬化剤(C)の溶解性パラメータδCとの関係が、|δC−δA|<1.0、および|δC−δB|<1.0である、
硬化電着塗膜、
を提供するものであり、これにより上記課題が解決できる。
【0012】
上記カチオン性エポキシ樹脂(A)は、式:−C−O−で示されるフェノール構造部を、カチオン性エポキシ樹脂(A)の樹脂固形分100gに対してモル数として0.35〜0.55mol含有するのが好ましい。
【0013】
また、上記カチオン電着塗料組成物はさらに、ケイ酸化合物(D)を樹脂固形分100質量部に対して1〜2質量部含有するのが好ましい。
【0014】
本発明はさらに、
上記硬化電着塗膜の上に、上塗りベース塗料組成物を塗装して、未硬化の上塗りベース塗膜を形成する工程、
未硬化の上塗りベース塗膜の上に、さらに、上塗りクリヤー塗料組成物を塗装して、未硬化の上塗りクリヤー塗膜を形成する工程、および
未硬化の上塗りベース塗膜および未硬化の上塗りクリヤー塗膜を同時に加熱して硬化させる工程、
を包含する、多層塗膜の形成方法、も提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の硬化電着塗膜は、優れた耐食性および優れた耐候性を有するという特徴がある。本発明においては、硬化電着塗膜中に存在するフェノール構造部の量が特定範囲に制御されており、かつ、硬化電着塗膜が特定範囲の物性値を有することを特徴とする。そしてこれにより、優れた耐食性および優れた耐候性の両方が達成されることとなる。本発明の硬化電着塗膜は、硬化電着塗膜の上に上塗り塗膜を形成する、いわゆる中塗り塗装レス系の多層塗膜の形成に好適に用いることができるという利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0016】
カチオン電着塗料組成物によって形成される硬化電着塗膜は、優れた耐食性を有するため、塗装の下塗りとして汎用されている。これは、電着塗膜は一般的に、芳香環を有するエポキシ樹脂をバインダー樹脂として用いているため、焼き付け硬化後に、腐食を促進する酸素、水またはイオンの透過を抑制する強靱な塗膜が形成され、かつそれ自体が鋼板素地との密着性が良好であるためである。一方でこの芳香環は光(紫外線)照射により劣化し易いという欠点がある。そのため、芳香環を多く含むエポキシ樹脂をバインダー樹脂として用いると、優れた耐食性を得ることができる一方で、耐候性(耐光性を含む)が劣ることとなる。
【0017】
カチオン電着塗料組成物によって形成される硬化電着塗膜の耐候性能を上げる手法として、アクリル樹脂またはポリエステル樹脂などの良好な耐候性を有する樹脂を併用する方法がある。しかしながらこのような樹脂を併用すると、エポキシ樹脂の割合が相対的に減少することとなり、これにより耐食性が低下してしまうという不具合が生じる。このように、中塗り塗装レス系において求められる、優れた耐食性および耐候性という2つの性能を高位に両立させることは非常に困難であった。
【0018】
本発明は、硬化電着塗膜の上に上塗り塗膜を形成する、いわゆる中塗り塗装レス系の多層塗膜の形成に用いるのに好適な硬化電着塗膜を提供するものである。本発明においては、硬化電着塗膜中に存在する、式:−CO−で示されるフェノール構造部の量に着目した。そしてカチオン性エポキシ樹脂(A)、カチオン性アクリル樹脂(B)および特定構造のイソシアネート硬化剤(C)をそれぞれ特定量で用いることにより、硬化電着塗膜中に存在するフェノール構造部の量を特定範囲に制御し、これにより優れた耐候性が達成されることとなった。また、上記成分(A)〜(C)を特定量用いることによって、得られる硬化電着塗膜が特定の物性値を有することとなり、これにより優れた耐食性も達成される。このように本発明においては、特定の成分(A)〜(C)を特定量用いることによって、耐食性および耐候性が高位に両立する樹脂構造および物性値を有する硬化電着塗膜が提供されることとなった。
【0019】
カチオン電着塗料組成物
本発明において用いられるカチオン電着塗料組成物は、分子内にビスフェノールA構造を有するカチオン性エポキシ樹脂(A);水酸基含有モノマー、グリシジル基含有モノマーおよびその他のモノマーをラジカル共重合して得られる共重合樹脂に、アミノ基含有化合物を付加して得られるカチオン性アクリル樹脂(B);脂環式イソシアネート化合物がオキシム化合物でブロックされたブロック化イソシアネート硬化剤(C);および顔料;が含まれる。以下、各成分について記載する。
【0020】
カチオン性エポキシ樹脂(A)
本発明において、カチオン電着塗料組成物中に塗膜形成樹脂として含まれるカチオン性エポキシ樹脂(A)は、少なくともビスフェノールA型エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂のエポキシ環を、1級アミン、2級アミンあるいは3級アミン酸塩などのアミノ基含有化合物との反応によって開環して製造される、分子内にビスフェノールA構造を有するカチオン性エポキシ樹脂(A)である。
【0021】
カチオン性エポキシ樹脂(A)の製造に用いられるエポキシ樹脂は、ビスフェノールA構造を有するポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂である。このポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂は、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの反応生成物が挙げられる。さらにビスフェノールAと併せて、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フェノールノボラックまたはクレゾールノボラックなどの多環式フェノール化合物を用いて、これらとエピクロルヒドリンとを反応させてもよい。さらにこれらの多環式フェノール化合物の水添変性物も、併せて用いることができる。
【0022】
カチオン性エポキシ樹脂(A)の製造に用いられるエポキシ樹脂として、特開平5−306327号公報に記載され公知であるオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂を用いてもよい。エポキシ樹脂にオキサゾリドン環を導入する方法としては、例えば、メタノールのような低級アルコールなどのブロック剤でブロックされたブロックイソシアネート硬化剤とポリエポキシドを塩基性触媒の存在下で加熱保温し、副生する低級アルコール(ブロック剤)を系内より留去する方法がある。
【0023】
上記エポキシ樹脂は、アミノ基含有化合物によるエポキシ環の開環反応の前に、2官能のポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ビスフェノール類、2塩基性カルボン酸などにより鎖延長して用いることができる。また同じくアミノ基含有化合物によるエポキシ環の開環反応の前に、分子量またはアミン当量の調節、熱フロー性、可撓性(軟らかさ)、ガラス転移温度などの調整を目的として、一部のエポキシ環に対して2−エチルヘキサノール、ノニルフェノール、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテルのようなモノヒドロキシ化合物、ステアリン酸、2−エチルヘキサン酸、ダイマー酸などの酸成分を付加して用いることもできる。さらに上記多環式フェノール化合物を付加して用いることもできる。
【0024】
エポキシ樹脂のエポキシ環を開環し、アミノ基を導入する際に使用できるアミノ基含有化合物の例としては、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、トリエチルアミン酸塩、N,N−ジメチルエタノールアミン酸塩などの1級、2級または3級アミン酸塩を挙げることができる。また、ジエチレントリアミンジケチミン、アミノエチルエタノールアミンケチミン、アミノエチルエタノールアミンメチルイソブチルケチミンの様なケチミンブロック1級アミノ基含有2級アミンも使用することができる。これらのアミノ基含有化合物は、全てのエポキシ環を開環させるために、エポキシ環に対して少なくとも当量で反応させる必要がある。
【0025】
上記カチオン性エポキシ樹脂(A)の数平均分子量は2000〜3000の範囲が好ましい。数平均分子量が2000未満の場合は、得られる硬化電着塗膜の耐溶剤性および耐食性などの物性が劣ることがある。また数平均分子量が3000を超える場合は、焼き付け硬化時のフロー性が劣り、得られる硬化電着塗膜の外観が劣るおそれがある。本発明において、樹脂成分の数平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)によって測定し、スチレン標準による換算値を用いて得ることができる。
【0026】
上記カチオン性エポキシ樹脂(A)は、式:−C−O−で示されるフェノール構造部を、カチオン性エポキシ樹脂(A)の樹脂固形分100gに対してモル数として0.35〜0.55mol含有するのが好ましく、0.35〜0.47mol含有するのがさらに好ましい。カチオン性エポキシ樹脂(A)は、分子内にビスフェノールA構造を有している。例えばビスフェノールA228.29g中には、式:−C−O−で示されるフェノール構造部は2mol含まれることとなる。カチオン性エポキシ樹脂(A)中における、式:−C−O−で示されるフェノール構造部を、カチオン性エポキシ樹脂(A)の樹脂固形分100gに対してモル数として0.35〜0.55molの範囲とする方法として、例えばカチオン性エポキシ樹脂(A)の製造において、多環式フェノール化合物および多環式フェノール化合物の水添変性物の量を調節する方法、得られたエポキシ樹脂と多環式フェノール化合物とを反応させて鎖延長する方法などが挙げられる。
【0027】
カチオン性エポキシ樹脂(A)中における、式:−C−O−で示されるフェノール構造部の、樹脂固形分100gに対するモル数が0.35mol未満である場合は、酸素、水またはイオンなどの遮断性が劣るほか、鋼板素地との密着性も低下し、硬化電着塗膜の耐食性が劣ることとなるおそれがある。またモル数が0.55molを超える場合は、硬化電着塗膜の耐候性が劣ることとなるおそれがある。尚、樹脂固形分100gに対するモル数は、配合量から計算によって求められる値である。
【0028】
上記カチオン性エポキシ樹脂(A)は、ガラス転移温度(Tg(A))が28〜50℃であるのが好ましく、30〜40℃であるのがより好ましい。ガラス転移温度が28℃未満である場合は、耐食性に必要な硬化塗膜の動的ガラス転移温度が得られず、耐食性が低下するおそれがある。一方ガラス転移温度が50℃を超える場合は、電着塗膜析出時の融着性が低下し、電着塗膜外観が低下するおそれがある。なおカチオン性エポキシ樹脂(A)のガラス転移温度(Tg(A))は、示差走査熱量計によって測定することができる。
【0029】
カチオン性アクリル樹脂(B)
本発明において、カチオン電着塗料組成物中に塗膜形成樹脂として含まれるカチオン性アクリル樹脂(B)は、得られる硬化電着塗膜に、耐候性、耐光性、耐衝撃性、耐チッピング性などを付与する成分である。このカチオン性アクリル樹脂(B)は、水酸基含有モノマー、グリシジル基含有モノマーおよびその他のモノマーをラジカル共重合して得られる共重合樹脂に、アミノ基含有化合物を付加して得られる。
【0030】
カチオン性アクリル樹脂(B)の調製に用いられる水酸基含有モノマーとして、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、およびこれらのモノマーとε−カプロラクトンとの付加生成物などが挙げられる。これらの水酸基含有モノマーは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
グリシジル基含有モノマーとして、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アリルグリシジルエーテルなどが挙げられる。これらのグリシジル基含有モノマーは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
その他のモノマーとして、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートなどのアクリルモノマー;および、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、(メタ)アクリルニトリル、(メタ)アクリルアミドおよび酢酸ビニルなどの非アクリルモノマー;を挙げることができる。これらのその他のモノマーは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
上記水酸基含有モノマー、グリシジル基含有モノマーおよびその他のモノマーを、当業者に公知の手法によりラジカル共重合することによって、アクリル共重合樹脂が得られる。水酸基含有モノマーの量は、カチオン性アクリル樹脂(B)の水酸基価が100〜250になる配合量であることが好ましく、170〜220になる配合量であることがより好ましい。グリシジル基含有モノマーの量は、カチオン性アクリル樹脂(B)100gあたり80〜150mgのアミノ基を有するように配合することが好ましく、90〜110mgのアミノ基を有するように配合することがさらに好ましい。尚、水酸基価は、水酸基含有モノマーの配合量から求められる値である。
【0034】
こうして得られたアクリル共重合樹脂が有するオキシラン環を、1級アミン、2級アミンまたは3級アミン酸塩などのアミノ基含有化合物と反応させて開環することにより、カチオン性アクリル樹脂(B)とすることができる。開環に用いられるアミノ基含有化合物として、上記カチオン性エポキシ樹脂(A)において挙げられたアミノ基含有化合物などを用いることができる。
【0035】
なお、カチオン性アクリル樹脂(B)の調製において、アミノ基を有するアクリルモノマーを他のモノマーと共重合することによって、共重合により直接カチオン性アクリル樹脂(B)を合成する方法もある。この方法では、上記グリシジル基含有モノマーの代りにN,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジ−t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどのアミノ基含有アクリルモノマーを使用し、これをヒドロキシル基含有アクリルモノマーおよび他のアクリル系モノマーおよび/または非アクリル系モノマーと共重合することによってカチオン性アクリル樹脂(B)を得ることができる。
【0036】
こうして得られるカチオン性アクリル樹脂(B)は、必要に応じてハーフブロックジイソシアネート化合物との付加反応によってブロックイソシアネート基を導入し、自己架橋型カチオン性アクリル樹脂(B)とすることもできる。この手法として、例えば特開平8−333528号公報に記載される公知の手法などが挙げられる。
【0037】
カチオン性アクリル樹脂(B)は、数平均分子量5000〜6000の範囲であるのが好ましい。数平均分子が5000未満では、得られる硬化電着塗膜の耐溶剤性などの物性が劣るおそれがある。一方で数平均分子量が6000を超えると、焼き付け硬化時のフロー性が劣り、得られる硬化電着塗膜の外観が劣ることとなるおそれがある。数平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)によって測定し、ポリスチレン標準による換算値を用いて得ることができる。なお、カチオン性アクリル樹脂(B)は1種のみ使用することもできるが、塗膜性能のバランス化を計るために、2種あるいはそれ以上の種類を使用することもできる。
【0038】
カチオン性アクリル樹脂(B)は、水酸基価が100〜250の範囲となるように設計することが好ましく、170〜220となるように設計することがさらに好ましい。水酸基価が100未満では塗膜の硬化不良が生じるおそれがある。また水酸基価が250を超えると硬化後に塗膜中に過剰の水酸基が残存することとなり、硬化電着塗膜の耐水性が低下することがある。
【0039】
カチオン性アクリル樹脂(B)は、ガラス転移温度(Tg(B))が28〜50℃であるのが好ましく、30〜40℃であるのがより好ましい。ガラス転移温度が28℃未満である場合は、耐食性に必要な硬化塗膜の動的ガラス転移温度が得られず、耐食性が低下するおそれがある。一方ガラス転移温度が50℃を超える場合は、電着析出時の融着性が低下し、得られる硬化電着塗膜の外観が劣ることとなるおそれがある。カチオン性アクリル樹脂(B)のガラス転移温度(Tg(B))は、示差走査熱量計によって測定することができる。
【0040】
ブロック化イソシアネート硬化剤(C)
本発明においては、硬化剤として、脂環式イソシアネート化合物がオキシム化合物でブロックされたブロック化イソシアネート硬化剤(C)を用いる。
【0041】
ブロック化イソシアネート硬化剤(C)の調製において、脂環式イソシアネート化合物を用いることによって、耐候性を向上させることができる。脂環式イソシアネート化合物として、例えば1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート、及び1,3−ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(水添XDI)、水添TDI、2,5−もしくは2,6−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(ノルボルナンジイソシアネートとも称される)などのような炭素数5〜18の脂環式ジイソシアネート;およびこれらの脂環式ジイソシアネートの変性物(ウレタン化物、カーボジイミド、ウレトジオン、ウレトンイミン、ビューレットおよび/またはイソシアヌレート変性物);などが挙げられる。これらの脂環式イソシアネート化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併せて用いてもよい。またこれらの脂環式イソシアネート化合物と、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどの多価アルコールとNCO/OH比2以上で反応させて得られる付加体またはプレポリマーもブロック化イソシアネート硬化剤(C)の調製に用いることができる。
【0042】
ブロック化イソシアネート硬化剤(C)の調製において、オキシム化合物は、脂環式イソシアネート化合物をブロックするブロック剤として用いられる。このブロック剤は、脂環式イソシアネート化合物のイソシアネート基に付加し、常温では安定(イソシアネート基をブロックした状態)であるが解離温度以上に加熱すると遊離のイソシアネート基を再生する働きをする。
【0043】
オキシム化合物として、例えばホルムアルドキシム、アセトアルドキシム、アセトキシム、メチルエチルケトオキシム、ジアセチルモノオキシム、シクロヘキサンオキシムなどが挙げられる。ブロック化イソシアネート硬化剤(C)の調製においてオキシム化合物をブロック剤として用いることによって、ガスバリア性が向上し、優れた耐食性が得られるという利点がある。そしてこうして得られる、脂環式イソシアネート化合物がオキシム化合物でブロックされた、ブロック化イソシアネート硬化剤(C)を用いることによって、耐食性および耐候性の両方が優れた硬化電着塗膜が得られることとなる。
【0044】
上記成分(A)〜(C)は、カチオン電着塗料組成物中における樹脂固形分である。そしてカチオン電着塗料組成物中に含まれる樹脂固形分の割合は、カチオン性エポキシ樹脂(A)30〜50質量%、カチオン性アクリル樹脂(B)20〜40質量%、ブロック化イソシアネート硬化剤(C)30〜35質量%となる量で含まれる。カチオン性エポキシ樹脂(A)の量が30質量%未満である場合は、酸素、水またはイオンなどの遮断性が劣るほか、鋼板素地との密着性も低下するおそれがある。一方、50質量%超えると、得られる硬化電着塗膜内におけるフェノール構造部の量が多くなり、耐候性が劣ることとなる。カチオン性アクリル樹脂(B)の量が20質量%未満である場合は、得られる硬化電着塗膜内におけるフェノール構造部の量が相対的に多くなり、耐候性が劣ることとなる。一方、40質量%を超えると、酸素、水またはイオンなどの遮断性が劣るほか、鋼板素地との密着性も低下するおそれがある。ブロック化イソシアネート硬化剤(C)の量が30質量%未満である場合は、塗膜硬化不良を招く結果、機械的強度などの塗膜物性が低くなることがあり、また上塗り塗装時に塗膜が侵されるなど外観不良を招く場合がある。一方、35質量%を超えると、硬化過剰となって、耐衝撃性等の塗膜物性不良などを招く場合がある。
【0045】
さらに、成分(A)〜(C)において、カチオン性エポキシ樹脂(A)の溶解性パラメータδAおよび前記カチオン性アクリル樹脂(B)の溶解性パラメータδBが、|δA−δB|<0.3の関係を満たし、さらにこれらのパラメータδA、δBと、硬化剤(C)の溶解性パラメータδCとの関係が、|δC−δA|<1.0、および|δC−δB|<1.0であるのが好ましい。
【0046】
溶解性パラメータ(δ)とは、一般にSP(ソルビリティ・パラメータ)とも呼ばれるものであって、樹脂の親水性または疎水性の度合いを示す尺度であり、また樹脂間の相溶性を判断する上でも重要な尺度である。溶解性パラメータは、例えば濁度測定法などをもとに数値定量化することができる(参考文献:K.W.Suh,D.H.Clarke J.Polymer.Sci.,A−1,5,1671(1967).)。濁度測定法による溶解性パラメータは、例えば、測定対象である樹脂固形分(所定質量)を一定量の良溶媒(アセトンなど)に溶解させた後、水またはヘキサンなどの貧溶媒を滴下することによって、上記樹脂が不溶化し、溶液中に濁度を生じるまでの各々の滴定量から、上記参考文献などに記載されている公知の計算方法により求めることができる。
【0047】
一般に、電着塗料組成物に含まれる複数の樹脂成分の溶解性パラメータ(δ)の差が0.4以上であれば、これらの樹脂成分は相溶性を失い、形成される塗膜が多層分離構造を呈すると考えられている。本発明においては、カチオン性エポキシ樹脂(A)の溶解性パラメータδAと、カチオン性アクリル樹脂(B)の溶解性パラメータδBとの差が0.3未満であることによって、カチオン性エポキシ樹脂(A)およびカチオン性アクリル樹脂(B)が良好に相溶し、塗膜中の成分が均一化することで内部応力が低下し、耐チッピング性および密着性が良好となる。カチオン性エポキシ樹脂(A)の溶解性パラメータδAと、カチオン性アクリル樹脂(B)の溶解性パラメータδBとの差が0.3以上である場合は、相溶性が低下し、硬化電着塗膜上にハジキといわれる外観不良が生じるおそれがある。また内部応力が上がり、耐チッピング性および密着性が低下するおそれがある。
【0048】
ブロック化イソシアネート硬化剤(C)の溶解性パラメータδCは、カチオン性エポキシ樹脂(A)およびカチオン性アクリル樹脂(B)の硬化性を確保する上で重要となる。本発明においては、ブロック化イソシアネート硬化剤(C)の溶解性パラメータδCと、上記δAおよびδBとの関係が、|δC−δA|<1.0、および|δC−δB|<1.0の関係を満たすのが好ましい。成分(A)〜(C)の溶解性パラメータδA、δBおよびδCが上記関係を満たすことによって、カチオン性エポキシ樹脂(A)およびカチオン性アクリル樹脂(B)の硬化性が確保され、良好な耐食性および耐候性を有する硬化電着塗膜が得られることとなる。
【0049】
顔料
本発明において使用することのできる顔料として、通常塗料に使用されるものを特に制限なく用いることができる。そのような顔料として、例えばカーボンブラック、二酸化チタン、グラファイトなどの着色顔料、カオリン、ケイ酸アルミ(クレー)、タルクなどの体質顔料、リンモリブデン酸アルミ、ケイ酸鉛、硫酸鉛、ジンククロメート、ストロンチウムクロメートなどの防錆顔料などが挙げられる。但しここでいう「顔料」には、下記するケイ酸化合物(D)は含まれないものとする。これらの中でも二酸化チタン、ケイ酸アルミ(クレー)およびリンモリブデン酸アルミが好ましく用いられる。特に二酸化チタンは着色顔料として隠蔽性が高く、しかも安価であることから、カチオン電着塗料組成物用に最適である。なお、上記顔料は単独で使用することもできるが、目的に合わせて複数使用するのが一般的である。
【0050】
顔料は、顔料分散樹脂と言われる樹脂と共に予め高濃度で水性媒体に分散させてペースト状にしたものを、電着塗料組成物中に加えるのが好ましい。顔料は粉体状であるため、電着塗料組成物で用いる低濃度均一状態に一工程で分散させるのは困難だからである。一般にこのようなペーストを顔料分散ペーストという。
【0051】
顔料分散ペーストは、顔料を顔料分散樹脂と共に水性媒体中に分散させて調製する。顔料分散樹脂としては、一般に、カチオン性またはノニオン性の低分子量界面活性剤や4級アンモニウム基および/または3級スルホニウム基を有する変性エポキシ樹脂等のようなカチオン性重合体を用いる。水性媒体としてはイオン交換水や少量のアルコール類を含む水等を用いる。顔料分散ペーストは一般に、顔料分散樹脂は5〜40質量部、顔料は10〜30質量部の固形分比で用いる。この顔料分散ペーストは、上記顔料分散樹脂および顔料を混合し、その混合物中の顔料の粒径が所定の均一な粒径となるまで、ボールミルやサンドグラインドミル等の通常の分散装置を用いて分散させて得ることができる。
【0052】
顔料は、カチオン電着塗料組成物中に含まれる樹脂固形分100質量部に対して5〜50質量部となる量で用いるのが好ましい。顔料の量が5質量部未満である場合は、顔料の量が少ないことにより、酸素、水またはイオンなどの腐食要因の遮断性が低下し、優れた耐食性が得られなくなるおそれがある。また顔料の量が50質量部を超える場合は、過剰量の顔料が含まれることにより加熱硬化時のフロー性が劣ることとなり、得られる硬化電着塗膜の塗膜外観が劣ることとなるおそれがある。
【0053】
ケイ酸化合物(D)
本発明で用いられるカチオン電着塗料組成物は、さらにケイ酸化合物(D)を含むのが好ましい。本発明において、ケイ酸化合物(D)とは、アルカリ性水溶液中でケイ酸イオンを溶出する化合物、具体的には、ケイ酸化合物1質量%含有アルカリ性水溶液中に溶出したケイ酸イオンの平衡濃度50ppm〜3000ppm、好ましくは100ppm以上を有する化合物をいう。カチオン電着塗料組成物にこのようなケイ酸化合物を含有させることにより、強アルカリ条件下で腐食されやすい性質を有する被塗物に適したカチオン電着塗料組成物を提供することができる。この溶出するケイ酸イオンの平衡濃度が50ppm未満であると、ケイ酸化合物(D)の添加による十分な耐食効果が得られない。尚、ケイ酸イオンの平衡濃度は、蛍光X線を用いて検量線による換算値として求めることができる。
【0054】
ケイ酸を含む化合物には、一般的に塗料に含有される顔料に分類されるものもあるが、本発明のケイ酸化合物(D)は上記範囲の溶出平衡濃度を有するものをいい、それ以外のものは顔料に分類される。即ち、上記範囲の溶出平衡濃度を有しない顔料は本発明でいうケイ酸化合物(D)には含まれない。本発明で用いるケイ酸化合物(D)の例としては、ケイ酸亜鉛、ケイ酸カルシウム、シリカなどが挙げられる。ここで一般にシリカは二酸化ケイ素を主成分とする固体状物質をいうが、ケイ酸を溶出する能力はシリカの形状等により異なり得ると考えられる。本発明においては、ケイ酸化合物(D)として多孔質であるシリカ粒子を使用することが好ましい。シリカ粒子が多孔質であることによってその内部表面が大きくなり、その結果、シリカ粒子からケイ酸イオンが多く溶出すると考えられるためである。多孔質であるシリカ粒子として、いわゆる湿式法を用いてケイ酸ソーダと酸とを混合することにより得られる、富士シリシア化学株式会社から市販されているサイリシアが挙げられる。
【0055】
ケイ酸化合物(D)は、上記顔料と同様に、上記顔料分散樹脂を用いて予め分散ペーストの状態として電着塗料組成物中に加えるのが好ましい。分散ペーストの調製において、上記顔料分散ペーストの調製時に顔料と併せてケイ酸化合物(D)を用いて調製することができる。ケイ酸化合物(D)を用いる場合は、カチオン電着塗料組成物中に含まれる樹脂固形分100質量部に対して1〜2質量部となる量で用いるのが好ましい。ケイ酸化合物(D)の量が2質量部を超える場合は、分散ペーストの安定性が劣ることとなるおそれがある。
【0056】
他の成分
上記カチオン電着塗料組成物は、上記成分の他にブロックイソシアネート硬化剤のブロック剤の解離のための触媒を含んでもよい。このような触媒として、ジブチル錫ラウレート、ジブチル錫オキシド、ジオクチル錫オキシドなどの有機錫化合物、N−メチルモルホリンなどのアミン類、ストロンチウム、コバルト、銅などの金属塩などが使用できる。触媒の濃度は、カチオン電着塗料組成物中のカチオン性エポキシ樹脂とブロックイソシアネート硬化剤合計の100固形分質量部に対し0.1〜6質量部であるのが好ましい。カチオン電着塗料組成物は、他にも可塑剤、界面活性剤、塗膜表面平滑剤、酸化防止剤および紫外線吸収剤などの常用の塗料用添加剤を含むことができる。
【0057】
カチオン電着塗料組成物の調製
本発明におけるカチオン電着塗料組成物は、少なくとも上記カチオン性エポキシ樹脂(A)、カチオン性アクリル樹脂(B)、ブロック化イソシアネート硬化剤(C)および顔料を含む。カチオン電着塗料組成物は、上記成分、そして必要に応じたケイ酸化合物(D)および添加剤などのその他の成分とともに、中和剤を含む水性媒体中でエマルション化した後、上記配合比率を満足するようにエマルションをブレンドすることにより調製することができる。なお、上記中和剤の例としては、塩酸、硝酸、リン酸などの無機酸および蟻酸、酢酸、乳酸、スルファミン酸、アセチルグリシン酸などの有機酸を挙げることができる。
【0058】
カチオン電着塗料組成物の調製において、カチオン性エポキシ樹脂(A)とブロック化イソシアネート硬化剤(C)とを用いてエマルションを予め調製し、またカチオン性アクリル樹脂(B)とブロック化イソシアネート硬化剤(C)とを用いてエマルションを予め調製し、そしてこれらのエマルションを、他の成分と共に配合するのが好ましい。また、カチオン性エポキシ樹脂(A)およびカチオン性アクリル樹脂(B)は、そのままエマルションとして水中に乳化分散させてもよい。また、各樹脂中のアミノ基を中和できる量の酢酸、蟻酸、乳酸などの有機酸で中和処理し、カチオン化エマルションとして水中に乳化分散させてもよい。
【0059】
カチオン電着塗料組成物は、塗料組成物において通常含まれる有機溶媒、例えばエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノエチルヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテルなど、を含んでもよい。
【0060】
本発明で使用することのできる電着塗料組成物は、固形分濃度が15〜25質量%の範囲となるように調整することが好ましい。固形分濃度の調節には水性媒体(水単独かまたは水と親水性がある有機溶媒との混合物)を使用して行うことができる。
【0061】
硬化電着塗膜の形成
上記カチオン電着塗料組成物を電着塗装し加熱硬化することにより、硬化電着塗膜を得ることができる。カチオン電着塗装は、被塗物である導電性の基材を陰極として、被塗物に陰極(カソード極)端子を接続し、上述のカチオン電着塗料組成物の浴温15〜35℃、負荷電圧100〜400Vの条件で、一般に、乾燥膜厚13〜20μmとなる量の塗膜を電着塗装する。その後140〜200℃、好ましくは160〜180℃で10〜30分間焼き付けることにより、硬化電着塗膜を得ることができる。
【0062】
硬化電着塗膜を設ける被塗物は、電着塗装可能な導電性の基材であれば、特に制限なく用いることができる。このような基材として、例えば、金属(例えば、鉄、鋼、銅、アルミニウム、マグネシウム、スズ、亜鉛等およびこれらの金属を含む合金など)、鉄板、鋼板、アルミニウム板およびこれらに表面処理(例えば、リン酸塩、ジルコニウム塩などを用いた化成処理)を施したもの、ならびにこれらの成型物などが挙げられる。
【0063】
本発明において、電着塗装により形成される硬化電着塗膜の動的ガラス転移温度は105〜120℃の範囲である。硬化電着塗膜の動的ガラス転移温度が105℃未満である場合は、酸素、水またはイオンなどの遮断性が劣り、耐食性が劣ることとなる。一方、動的ガラス転移温度が120℃を超える場合は、硬化電着塗膜の弾性率が低くなり、多層塗膜の耐衝撃性が劣るおそれがある。硬化電着塗膜の動的ガラス転移温度の上記範囲に調節する手法として、例えば、ガラス転移温度28〜50℃であるカチオン性エポキシ樹脂(A)、ガラス転移温度28〜50℃であるカチオン性アクリル樹脂(B)、および脂環式イソシアネート化合物をブロックして得られたブロック化イソシアネート硬化剤(C)を、本発明における質量比で用いる方法が挙げられる。
【0064】
硬化電着塗膜の動的ガラス転移温度は、測定用サンプルを、通常の動的粘弾性によるTgの測定方法と同様の方法により得ることができる。本発明で使用できる具体的な測定方法として、基材上に形成した硬化電着塗膜を水銀を用いて剥離し、裁断することによって作成した測定用サンプルに対して動的粘弾性測定を行う方法が挙げられる。この方法では、作成した測定用サンプルに、室温から200℃の温度範囲において、1分間に2℃の昇温速度で、周波数11Hzで振動を与えて、その粘弾性を測定する。こうして測定した貯蔵弾性率(E’)に対する損失弾性率(E'')の比(tanδ)を測定し、上記tanδを温度に対してプロットした場合のtanδがピーク値をとる温度として、動的ガラス転移温度を測定する。上記動的粘弾性測定を行うための装置としては、例えば、RHEOVIBRON MODEL RHEO2000、3000(商品名、オリエンテック社製)等を挙げることができる。
【0065】
本発明の硬化電着塗膜は、架橋密度が1.2×10−3〜2.0×10−3mol/ccである。硬化電着塗膜の架橋密度が1.2×10−3mol/cc未満である場合は、酸素、水またはイオンなどの遮断性が劣り、耐食性が劣るほか、架橋不足により耐溶剤性も劣ることとなる。また硬化電着塗膜の架橋密度が2.0×10−3mol/ccを超える場合は、硬化電着塗膜の弾性率が低くなり、多層塗膜の耐衝撃性が劣るおそれがある。硬化電着塗膜の架橋密度を上記範囲に調節する手法として、例えば、カチオン性エポキシ樹脂(A)、カチオン性アクリル樹脂(B)およびブロック化イソシアネート硬化剤(C)を、本発明における質量比で用いる方法が挙げられる。
【0066】
硬化電着塗膜の架橋密度は、電着塗装により形成される硬化電着塗膜の動的粘弾性を、上記動的ガラス転移温度の測定方法と同様に測定し、ゴム領域での貯蔵弾性率(E’)から次式によって求めることができる。
E’=3nRT
[式中、E’=貯蔵弾性率;n=架橋密度;R=気体定数;T=絶対温度、である。]
【0067】
さらに、本発明の硬化電着塗膜は、式:−C−O−で示されるフェノール構造部を、硬化電着塗膜内の樹脂固形分100gに対してモル数として0.12〜0.24mol含有する。このフェノール構造部の量は0.19〜0.24molであるのが好ましい。フェノール構造部の量が0.12mol未満である場合は、酸素、水またはイオンなどの遮断性が劣るほか、鋼板素地との密着性が低下し耐食性が劣ることとなる。一方、フェノール構造部の量が0.24molを超える場合は、光照射により劣化しやすくなり、硬化電着塗膜の耐候性が劣ることとなる。
【0068】
硬化電着塗膜内に含まれるフェノール構造部の量を上記範囲に調節する手法として、例えば、樹脂固形分100gに対してフェノール構造部を0.35〜0.55mol含むカチオン性エポキシ樹脂(A)を、本発明における質量比で用いる方法が挙げられる。
【0069】
多層塗膜の形成
上記方法によって形成された硬化電着塗膜上に、さらに上塗り塗料組成物を塗装して焼き付けることによって、耐候性および外観に優れた多層塗膜を形成することができる。なお、上塗り塗料組成物は、溶剤型、水性、粉体のいずれのタイプであっても構わない。
【0070】
また、本発明では、上塗り塗料組成物として、2種類の上塗り塗料組成物、すなわち、上塗りベース塗料組成物および上塗りクリヤー塗料組成物を使用して、さらに優れた塗膜外観を得ることもできる。この場合、本発明の多層塗膜の形成方法は、下記工程を包含する、いわゆる、2コート1ベーク(2C1B)法である:
硬化電着塗膜の上に、上塗りベース塗料組成物を塗装して、未硬化の上塗りベース塗膜を形成する工程、
未硬化の上塗りベース塗膜の上に、さらに、上塗りクリヤー塗料組成物を塗装して、未硬化の上塗りクリヤー塗膜を形成する工程、および
未硬化の上塗りベース塗膜および未硬化の上塗りクリヤー塗膜を同時に加熱して硬化させる工程。
【0071】
上塗りベース塗料組成物および上塗りクリヤー塗料組成物の塗装は、例えば、通称「リアクトガン」と言われるエアー静電スプレー、通称「マイクロ・マイクロベル(μμベル)」、「マイクロベル(μベル)」、「メタリックベル(メタベル)」などと言われる回転霧化式の静電塗装機などを用い、スプレーして塗布することができる。塗布量は、使用する塗料組成物の種類および用途に応じて適宜変更することができる。
【0072】
上塗りベース塗料組成物および上塗りクリヤー塗料組成物の塗装後に、インターバルと呼ばれる時間的間隔を空ける操作を行ってもよい。このインターバルによって、塗膜に含まれる溶剤を十分に揮発させることができ、多層塗膜の外観が向上する。インターバルは、例えば10秒〜15分間である。
【0073】
また、インターバルの時間内にプレヒートと呼ばれる乾燥操作を行ってもよく、このプレヒートによって、塗膜に含まれる溶剤の揮発を短時間で効率的に行うことができる。この乾燥操作は、塗膜を積極的に硬化させるものではない。従って、上記乾燥条件としては、例えば、室温〜100℃で1〜10分間である。プレヒートは、例えば、温風ヒーターや赤外線ヒーターなどを用いて行うことができる。
【0074】
上塗りベース塗料組成物および上塗りクリヤー塗料組成物の加熱硬化工程は、従来の加熱硬化炉(例えば、ガス炉、電気炉、IR炉、誘導加熱炉など)を用いて行うことができる。加熱硬化温度は使用する塗料組成物に応じて適宜設定することができ、例えば、120〜160℃であり、加熱硬化時間は、例えば、10〜30分間である。
【実施例】
【0075】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0076】
製造例1−1:カチオン性エポキシ樹脂(A−1)の製造
攪拌機、冷却器、窒素注入管および滴下ロートを取り付けたフラスコに、エポキシ当量188のビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名DER−331J、ダウケミカル社製)680.9部、ビスフェノールA 268.9部、2−エチルヘキサン酸50.4部、メチルイソブチルケトン(MIBK)128.9部、およびジラウリル酸ジブチル錫0.10部を加え、均一に溶解した後、130℃から142℃まで昇温し、エポキシ当量1150になるまで継続した。
その後100℃まで冷却し、N−メチルエタノールアミン51.5部およびジエチレントリアミンジケチミン(73%メチルイソブチルケトン溶液)54.0部を加え、110℃で2時間反応させてカチオン性エポキシ樹脂(A−1)を得た。その後メチルイソブチルケトン66.25部を加えて希釈し、不揮発物85%に調節した。
得られたカチオン性エポキシ樹脂(A−1)の数平均分子量は2500、溶解性パラメータ(SP値)は11.5、ガラス転移温度(Tg)は50℃であった。またカチオン性エポキシ樹脂(A−1)の樹脂固形分100gに対する、式:−C−O−で示されるフェノール構造部のモル数は、0.55molであった。
【0077】
製造例1−2:カチオン性エポキシ樹脂(A−2)の製造
攪拌機、冷却器、窒素注入管および滴下ロートを取り付けたフラスコに、エポキシ当量188のビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名DER−331J、ダウケミカル社製)680.9部、ビスフェノールA 200.6部、ダイマー酸(築野食品工業社製「ツノダイム216」)146.0部、2−エチルヘキサン酸43.2部、メチルイソブチルケトン143.9部、およびジラウリル酸ジブチル錫0.10部を加え、均一に溶解した後、130℃から142℃まで昇温し、エポキシ当量1150になるまで継続した。
その後100℃まで冷却し、N−メチルエタノールアミン66.1部およびジエチレントリアミンジケチミン(73%メチルイソブチルケトン溶液)54.0部を加え、110℃で2時間反応させてカチオン性エポキシ樹脂(A−2)を得た。その後メチルイソブチルケトン66.25部を加えて希釈し、不揮発物85%に調節した。
得られたカチオン性エポキシ樹脂(A−2)の数平均分子量は2500、溶解性パラメータ(SP値)は11.5、ガラス転移温度(Tg)は40℃であった。またカチオン性エポキシ樹脂(A−2)の樹脂固形分100gに対する、式:−C−O−で示されるフェノール構造部のモル数は、0.46molであった。
【0078】
製造例1−3:カチオン性エポキシ樹脂(A−3)の製造
攪拌機、冷却器、窒素注入管および滴下ロートを取り付けたフラスコに、エポキシ当量188のビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名DER−331J、ダウケミカル社製)449.4部、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名ST−3000、東都化成社製、エポキシ当量205)252.5部、ビスフェノールA 268.9部、2−エチルヘキサン酸50.4部、メチルイソブチルケトン133.2部、およびジラウリル酸ジブチル錫0.10部を加え、均一に溶解した後、130℃から142℃まで昇温し、エポキシ当量1150になるまで継続した。
その後100℃まで冷却し、N−メチルエタノールアミン55.2部およびジエチレントリアミンジケチミン(73%メチルイソブチルケトン溶液)54.0部を加え、110℃で2時間反応させてカチオン性エポキシ樹脂(A−3)を得た。その後メチルイソブチルケトン66.25部を加えて希釈し、不揮発物85%に調節した。
得られたカチオン性エポキシ樹脂(A−3)の数平均分子量は3000、溶解性パラメータ(SP値)は11.5、ガラス転移温度(Tg)は36℃であった。またカチオン性エポキシ樹脂(A−3)の樹脂固形分100gに対する、式:−C−O−で示されるフェノール構造部のモル数は、0.43molであった。
【0079】
製造例1−4:カチオン性エポキシ樹脂(A−4)の製造
攪拌機、冷却器、窒素注入管および滴下ロートを取り付けたフラスコに、エポキシ当量188のビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名DER−331J、ダウケミカル社製)425.6部、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名ST−3000、東都化成社製、エポキシ当量205)278.4部、ビスフェノールA 268.9部、2−エチルヘキサン酸50.4部、メチルイソブチルケトン133.6部、およびジラウリル酸ジブチル錫0.10部を加え、均一に溶解した後、130℃から142℃まで昇温し、エポキシ当量1150になるまで継続した。
その後100℃まで冷却し、N−メチルエタノールアミン55.2部およびジエチレントリアミンジケチミン(73%メチルイソブチルケトン溶液)54.0部を加え、110℃で2時間反応させてカチオン性エポキシ樹脂(A−4)を得た。その後メチルイソブチルケトン66.25部を加えて希釈し、不揮発物85%に調節した。
得られたカチオン性エポキシ樹脂(A−4)の数平均分子量は2500、溶解性パラメータ(SP値)は11.5、ガラス転移温度(Tg)は35℃であった。またカチオン性エポキシ樹脂(A−4)の樹脂固形分100gに対する、式:−C−O−で示されるフェノール構造部のモル数は、0.41molであった。
【0080】
製造例1−5:カチオン性エポキシ樹脂(A−5)の製造
攪拌機、冷却器、窒素注入管および滴下ロートを取り付けたフラスコに、エポキシ当量188のビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名DER−331J、ダウケミカル社製)340.5部、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名ST−3000、東都化成社製、エポキシ当量205)371.3部、ビスフェノールA 268.9部、2−エチルヘキサン酸50.4部、メチルイソブチルケトン135.0部、およびジラウリル酸ジブチル錫0.10部を加え、均一に溶解した後、130℃から142℃まで昇温し、エポキシ当量1150になるまで継続した。
その後100℃まで冷却し、N−メチルエタノールアミン55.2部およびジエチレントリアミンジケチミン(73%メチルイソブチルケトン溶液)54.0部を加え、110℃で2時間反応させてカチオン性エポキシ樹脂(A−5)を得た。その後メチルイソブチルケトン66.25部を加えて希釈し、不揮発物85%に調節した。
得られたカチオン性エポキシ樹脂(A−5)の数平均分子量は2500、溶解性パラメータ(SP値)は11.5、ガラス転移温度(Tg)は30℃であった。またカチオン性エポキシ樹脂(A−5)の樹脂固形分100gに対する、式:−C−O−で示されるフェノール構造部のモル数は、0.37molであった。
【0081】
上記製造例および得られたカチオン性エポキシ樹脂(A−1)〜(A−5)について下記表1に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
製造例2−1:カチオン性アクリル樹脂(B−1)の製造
環流冷却器、撹拌機、滴下ロートおよび窒素導入管を備えた5つ口フラスコに、MIBK59.6部を仕込み、窒素雰囲気下115℃に加熱保持した。これへ、メタクリル酸グリシジル16.0部、メタクリル酸ヒドロキシエチル39.4部、メタクリル酸メチル14.0部、メタクリル酸イソボルニル16.2部、アクリル酸n−ブチル14.4部、およびt−ブチルパーオキシ 2−エチルヘキサン酸5.0部の混合物を滴下ロートから3時間かけて滴下した。滴下終了後115℃に約1時間保持した後、t−ブチルパーオキシ 2−エチルヘキサン酸1.0部を滴下し、115℃で約30分保持し、固形分64%のアクリル樹脂の溶液を得た。その後、減圧下で不揮発分75%まで濃縮し、冷却後、これへN−メチルエタノールアミン8.5部を加え、窒素雰囲気下120℃で2時間反応させ、固形分約76%のカチオン性アクリル樹脂(B−1)の溶液を得た。
得られたカチオン性アクリル樹脂(B−1)の数平均分子量(Mn)は5500、溶解性パラメータ(SP値)は11.3、ガラス転移温度(Tg)は50℃であった。
【0084】
製造例2−2〜2−5:カチオン性アクリル樹脂(B−2)〜(B−6)の製造
モノマーの種類および量、開始剤の量を下記表2に示すように変更したこと以外は、製造例2−1同様にして、カチオン性アクリル樹脂(B−2)〜(B−6)を調製した。得られたカチオン性アクリル樹脂(B−2)〜(B−6)の数平均分子量、溶解性パラメータ(SP値)およびガラス転移温度(Tg)を下記表2に示す。
【0085】
【表2】

【0086】
製造例3:ブロック化イソシアネート硬化剤(C)の製造
攪拌機、窒素導入管、冷却管および温度計を備え付けた反応容器にイソホロンジイソシアネート222部を入れ、メチルイソブチルケトン56部で希釈した後、ブチル錫ラウレート0.2部を加え、50℃まで昇温の後、メチルエチルケトオキシム17部を内容物温度が70℃を超えないように加えた。そして赤外吸収スペクトルによりイソシアネート残基の吸収が実質上消滅するまで70℃で1時間保温し、その後n−ブタノール43部で希釈することによって、固形分70%のブロック化イソシアネート硬化剤(C)を得た。
得られたブロック化イソシアネート硬化剤(C)の溶解性パラメータ(SP値)は11.8であった。
【0087】
製造例4:顔料分散樹脂の製造
攪拌機、冷却管、窒素導入管、および温度計を備えた反応容器にエポキシ当量198のビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名エポン829、シェル化学社製)710部、ビスフェノールA289.6部を仕込んで、窒素雰囲気下150〜160℃で1時間反応させ、ついで120℃まで冷却後、2−エチルヘキサノール化ハーフブロック化トリレンジイソシアネートのメチルイソブチルケトン溶液(固形分95%)406.4部を加えた。反応混合物を110〜120℃で1時間保持した後、エチレングリコール モノn−ブチルエーテル1584.1部を加えた。そして85〜95℃に冷却して均一化させた。
上記反応物の製造と並行して、別の反応容器に2−エチルヘキサノール化ハーフブロック化トリレンジイソシアネートのメチルイソブチルケトン溶液(固形分95%)384部にジメチルエタノールアミン104.6部を加えたものを80℃で1時間攪拌し、ついで75%乳酸水141.1部を仕込み、さらにエチレングリコール モノn−ブチルエーテル47.0部を混合、30分攪拌して4級化剤(固形分85%)を製造しておいた。そしてこの4級化剤620.5部を先の反応物に加え、酸価1になるまで混合物を85〜95℃に保持し、顔料分散樹脂(樹脂固形分56%、平均分子量2200、溶解性パラメータ(δe)=11.3)を得た。
【0088】
製造例5:顔料分散ペーストの製造
サンドグラインドミルに製造例4で得た顔料分散樹脂を198.5部、カーボンブラック2.0部、カオリン100.0部、二酸化チタン80.0部、リンモリブデン酸アルミニウム18.0部、二酸化ケイ素(多孔質であるシリカ粒子、富士シリシア化学株式会社製サイリシア530)15.0部、ジブチル錫オキサイド32.0部およびイオン交換水217.7部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料分散ペーストを得た(固形分54%)。
なお、シリカ粒子である二酸化ケイ素1質量%をpH12のアルカリ水溶液中に添加し、50℃、3日後の溶出したケイ酸イオンの平衡濃度を測定したところ、85ppmであった。
【0089】
製造例6−1:カチオン性エポキシ樹脂エマルション(a−1)の製造
製造例1−1で得られたカチオン性エポキシ樹脂(A−1)溶液82.5部、製造例3で得られたブロック化イソシアネート硬化剤(C)37.5部を加え30分攪拌した。その後、酢酸2.0部を加え、イオン交換水で不揮発分30%まで希釈した後、減圧下で不揮発分36%まで濃縮し、カチオン性エポキシ樹脂エマルション(a−1)を得た。
【0090】
製造例6−2:カチオン性エポキシ樹脂エマルション(a−2)の製造
製造例1−1で得られたカチオン性エポキシ樹脂(A−1)溶液73.0部、製造例3で得られたブロック化イソシアネート硬化剤(C)47.5部を加え30分攪拌した。その後、酢酸2.0部を加え、イオン交換水で不揮発分30%まで希釈した後、減圧下で不揮発分36%まで濃縮し、カチオン性エポキシ樹脂エマルション(a−2)を得た。
【0091】
製造例6−3:カチオン性エポキシ樹脂エマルション(a−3)の製造
製造例1−1で得られたカチオン性エポキシ樹脂(A−1)溶液70.7部、製造例3で得られたブロック化イソシアネート硬化剤(C)50部を加え30分攪拌した。その後、酢酸2.0部を加え、イオン交換水で不揮発分30%まで希釈した後、減圧下で不揮発分36%まで濃縮し、カチオン性エポキシ樹脂エマルション(a−3)を得た。
【0092】
製造例6−4:カチオン性エポキシ樹脂エマルション(a−4)の製造
製造例1−2で得られたカチオン性エポキシ樹脂(A−2)溶液82.5部、製造例3で得られたブロック化イソシアネート硬化剤(C)37.5部を加え30分攪拌した。その後、酢酸2.0部を加え、イオン交換水で不揮発分30%まで希釈した後、減圧下で不揮発分36%まで濃縮し、カチオン性エポキシ樹脂エマルション(a−4)を得た。
【0093】
製造例6−5:カチオン性エポキシ樹脂エマルション(a−5)の製造
製造例1−2で得られたカチオン性エポキシ樹脂(A−2)溶液109.5部、製造例3で得られたブロック化イソシアネート硬化剤(C)8.75部を加え30分攪拌した。その後、酢酸2.0部を加え、イオン交換水で不揮発分30%まで希釈した後、減圧下で不揮発分36%まで濃縮し、カチオン性エポキシ樹脂エマルション(a−5)を得た。
【0094】
製造例6−6:カチオン性エポキシ樹脂エマルション(a−6)の製造
製造例1−3で得られたカチオン性エポキシ樹脂(A−3)溶液82.5部、製造例3で得られたブロック化イソシアネート硬化剤(C)37.5部を加え30分攪拌した。その後、酢酸2.0部を加え、イオン交換水で不揮発分30%まで希釈した後、減圧下で不揮発分36%まで濃縮し、カチオン性エポキシ樹脂エマルション(a−6)を得た。
【0095】
製造例6−7:カチオン性エポキシ樹脂エマルション(a−7)の製造
製造例1−4で得られたカチオン性エポキシ樹脂(A−4)溶液82.5部、製造例3で得られたブロック化イソシアネート硬化剤(C)37.5部を加え30分攪拌した。その後、酢酸2.0部を加え、イオン交換水で不揮発分30%まで希釈した後、減圧下で不揮発分36%まで濃縮し、カチオン性エポキシ樹脂エマルション(a−7)を得た。
【0096】
製造例6−8:カチオン性エポキシ樹脂エマルション(a−8)の製造
製造例1−5で得られたカチオン性エポキシ樹脂(A−5)溶液82.5部、製造例3で得られたブロック化イソシアネート硬化剤(C)37.5部を加え30分攪拌した。その後、酢酸2.0部を加え、イオン交換水で不揮発分30%まで希釈した後、減圧下で不揮発分36%まで濃縮し、カチオン性エポキシ樹脂エマルション(a−8)を得た。
【0097】
上記製造例6−1〜6−8で得られたカチオン性エポキシ樹脂エマルション(a−1)〜(a−8)について下記表3にまとめる。
【0098】
【表3】

【0099】
製造例7−1:カチオン性アクリル樹脂エマルション(b−1)の製造
製造例2−1で得られたカチオン性アクリル樹脂(B−1)溶液92.1部、製造例3で得られたブロック化イソシアネート硬化剤(C)37.5部を加え30分攪拌した。その後、酢酸2.0部を加え、イオン交換水で不揮発分24%まで希釈した後、減圧下で不揮発分30%まで濃縮し、カチオン性アクリル樹脂エマルション(b−1)を得た。
【0100】
製造例7−2:カチオン性アクリル樹脂エマルション(b−2)の製造
製造例2−2で得られたカチオン性アクリル樹脂(B−2)溶液92.1部、製造例3で得られたブロック化イソシアネート硬化剤(C)37.5部を加え30分攪拌した。その後、酢酸2.0部を加え、イオン交換水で不揮発分24%まで希釈した後、減圧下で不揮発分30%まで濃縮し、カチオン性アクリル樹脂エマルション(b−2)を得た。
【0101】
製造例7−3:カチオン性アクリル樹脂エマルション(b−3)の製造
製造例2−3で得られたカチオン性アクリル樹脂(B−3)溶液92.1部、製造例3で得られたブロック化イソシアネート硬化剤(C)37.5部を加え30分攪拌した。その後、酢酸2.0部を加え、イオン交換水で不揮発分24%まで希釈した後、減圧下で不揮発分30%まで濃縮し、カチオン性アクリル樹脂エマルション(b−3)を得た。
【0102】
製造例7−4:カチオン性アクリル樹脂エマルション(b−4)の製造
製造例2−4で得られたカチオン性アクリル樹脂(B−4)溶液92.1部、製造例3で得られたブロック化イソシアネート硬化剤(C)37.5部を加え30分攪拌した。その後、酢酸2.0部を加え、イオン交換水で不揮発分24%まで希釈した後、減圧下で不揮発分30%まで濃縮し、カチオン性アクリル樹脂エマルション(b−4)を得た。
【0103】
製造例7−5:カチオン性アクリル樹脂エマルション(b−5)の製造
製造例2−5で得られたカチオン性アクリル樹脂(B−5)溶液92.1部、製造例3で得られたブロック化イソシアネート硬化剤(C)37.5部を加え30分攪拌した。その後、酢酸2.0部を加え、イオン交換水で不揮発分24%まで希釈した後、減圧下で不揮発分30%まで濃縮し、カチオン性アクリル樹脂エマルション(b−5)を得た。
【0104】
製造例7−6:カチオン性アクリル樹脂エマルション(b−6)の製造
製造例2−6で得られたカチオン性アクリル樹脂(B−6)溶液92.1部、製造例3で得られたブロック化イソシアネート硬化剤(C)37.5部を加え30分攪拌した。その後、酢酸2.0部を加え、イオン交換水で不揮発分24%まで希釈した後、減圧下で不揮発分30%まで濃縮し、カチオン性アクリル樹脂エマルション(b−6)を得た。
【0105】
上記製造例7−1〜7−6で得られたカチオン性アクリル樹脂エマルション(b−1)〜(b−6)について下記表4にまとめる。
【0106】
【表4】

【0107】
実施例1
カチオン電着塗料組成物の製造
製造例6−1で製造したカチオン性エポキシ樹脂エマルション(a−1) 167部、製造例7−2で製造したカチオン性アクリル樹脂エマルション(b−2) 265部、製造例5で製造した顔料分散ペースト 112部、およびイオン交換水 456部を混合して、カチオン電着塗料組成物を製造した。得られたカチオン電着塗料組成物の固形分は20%であった。
【0108】
硬化電着塗膜の調製
リン酸亜鉛処理鋼板(JIS G3134 SPCC−SDのサーフダインSD−5000(日本ペイント社製)処理鋼板)を用いて、浴温度28℃、印加電圧200V、180秒で電着塗装を行った。塗装後水洗した後、160℃で25分間焼き付け、空冷し、膜厚15μmの硬化電着塗膜を得た。
【0109】
得られた硬化電着塗膜の動的ガラス転移温度は116℃であり、架橋密度は1.2×10−3mol/ccであった。なおこの動的ガラス転移温度および架橋密度は、RHEOVIBRON MODEL RHEO2000(商品名、オリエンテック社製)を用いて測定した。
また硬化電着塗膜内の樹脂固形分100gに対する、式:−C−O−で示されるフェノール構造部のモル数を算出したところ、0.174molであった。
【0110】
実施例2
製造例6−7で製造したカチオン性エポキシ樹脂エマルション(a−7) 167部、製造例7−1で製造したカチオン性アクリル樹脂エマルション(b−1) 265部、製造例5で製造した顔料分散ペースト 112部、およびイオン交換水 456部を混合して、カチオン電着塗料組成物を製造した。得られたカチオン電着塗料組成物の固形分は20%であった。
得られたカチオン電着塗料組成物を用いて、硬化電着塗膜を実施例1と同様にして調製した。
得られた硬化電着塗膜の動的ガラス転移温度は114℃であり、架橋密度は1.2×10−3mol/ccであった。また硬化電着塗膜内の樹脂固形分100gに対する、式:−C−O−で示されるフェノール構造部のモル数を算出したところ、0.139molであった。
【0111】
実施例3
製造例6−8で製造したカチオン性エポキシ樹脂エマルション(a−8) 167部、製造例7−1で製造したカチオン性アクリル樹脂エマルション(b−1) 265部、製造例5で製造した顔料分散ペースト 112部、およびイオン交換水 456部を混合して、カチオン電着塗料組成物を製造した。得られたカチオン電着塗料組成物の固形分は20%であった。
得られたカチオン電着塗料組成物を用いて、硬化電着塗膜を実施例1と同様にして調製した。
得られた硬化電着塗膜の動的ガラス転移温度は108℃であり、架橋密度は1.2×10−3mol/ccであった。また硬化電着塗膜内の樹脂固形分100gに対する、式:−C−O−で示されるフェノール構造部のモル数を算出したところ、0.128molであった。
【0112】
実施例4
製造例6−4で製造したカチオン性エポキシ樹脂エマルション(a−4) 279部、製造例7−1で製造したカチオン性アクリル樹脂エマルション(b−1) 130部、製造例5で製造した顔料分散ペースト 112部、およびイオン交換水 479部を混合して、カチオン電着塗料組成物を製造した。得られたカチオン電着塗料組成物の固形分は20%であった。
得られたカチオン電着塗料組成物を用いて、硬化電着塗膜を実施例1と同様にして調製した。
得られた硬化電着塗膜の動的ガラス転移温度は108℃であり、架橋密度は1.2×10−3mol/ccであった。また硬化電着塗膜内の樹脂固形分100gに対する、式:−C−O−で示されるフェノール構造部のモル数を算出したところ、0.232molであった。
【0113】
実施例5
製造例6−4で製造したカチオン性エポキシ樹脂エマルション(a−4) 221部、製造例7−1で製造したカチオン性アクリル樹脂エマルション(b−1) 200部、製造例5で製造した顔料分散ペースト 112部、およびイオン交換水 467部を混合して、カチオン電着塗料組成物を製造した。得られたカチオン電着塗料組成物の固形分は20%であった。
得られたカチオン電着塗料組成物を用いて、硬化電着塗膜を実施例1と同様にして調製した。
得られた硬化電着塗膜の動的ガラス転移温度は116℃であり、架橋密度は1.2×10−3mol/ccであった。また硬化電着塗膜内の樹脂固形分100gに対する、式:−C−O−で示されるフェノール構造部のモル数を算出したところ、0.190molであった。
【0114】
実施例6
製造例6−7で製造したカチオン性エポキシ樹脂エマルション(a−7) 221部、製造例7−1で製造したカチオン性アクリル樹脂エマルション(b−1) 200部、製造例5で製造した顔料分散ペースト 112部、およびイオン交換水 467部を混合して、カチオン電着塗料組成物を製造した。得られたカチオン電着塗料組成物の固形分は20%であった。
得られたカチオン電着塗料組成物を用いて、硬化電着塗膜を実施例1と同様にして調製した。
得られた硬化電着塗膜の動的ガラス転移温度は108℃であり、架橋密度は1.2×10−3mol/ccであった。また硬化電着塗膜内の樹脂固形分100gに対する、式:−C−O−で示されるフェノール構造部のモル数を算出したところ、0.175molであった。
【0115】
実施例7
製造例6−6で製造したカチオン性エポキシ樹脂エマルション(a−6) 279部、製造例7−1で製造したカチオン性アクリル樹脂エマルション(b−1) 130部、製造例5で製造した顔料分散ペースト 112部、およびイオン交換水 479部を混合して、カチオン電着塗料組成物を製造した。得られたカチオン電着塗料組成物の固形分は20%であった。
得られたカチオン電着塗料組成物を用いて、硬化電着塗膜を実施例1と同様にして調製した。
得られた硬化電着塗膜の動的ガラス転移温度は105℃であり、架橋密度は1.2×10−3mol/ccであった。また硬化電着塗膜内の樹脂固形分100gに対する、式:−C−O−で示されるフェノール構造部のモル数を算出したところ、0.219molであった。
【0116】
実施例8
製造例6−7で製造したカチオン性エポキシ樹脂エマルション(a−7) 248部、製造例7−1で製造したカチオン性アクリル樹脂エマルション(b−1) 168部、製造例5で製造した顔料分散ペースト 112部、およびイオン交換水 472部を混合して、カチオン電着塗料組成物を製造した。得られたカチオン電着塗料組成物の固形分は20%であった。
得られたカチオン電着塗料組成物を用いて、硬化電着塗膜を実施例1と同様にして調製した。
得られた硬化電着塗膜の動的ガラス転移温度は110℃であり、架橋密度は1.2×10−3mol/ccであった。また硬化電着塗膜内の樹脂固形分100gに対する、式:−C−O−で示されるフェノール構造部のモル数を算出したところ、0.192molであった。
【0117】
実施例9
製造例6−3で製造したカチオン性エポキシ樹脂エマルション(a−3) 194部、製造例7−1で製造したカチオン性アクリル樹脂エマルション(b−1) 233部、製造例5で製造した顔料分散ペースト 112部、およびイオン交換水 462部を混合して、カチオン電着塗料組成物を製造した。得られたカチオン電着塗料組成物の固形分は20%であった。
得られたカチオン電着塗料組成物を用いて、硬化電着塗膜を実施例1と同様にして調製した。
得られた硬化電着塗膜の動的ガラス転移温度は120℃であり、架橋密度は1.5×10−3mol/ccであった。また硬化電着塗膜内の樹脂固形分100gに対する、式:−C−O−で示されるフェノール構造部のモル数を算出したところ、0.174molであった。
【0118】
比較例1
製造例6−1で製造したカチオン性エポキシ樹脂エマルション(a−1) 112部、製造例7−2で製造したカチオン性アクリル樹脂エマルション(b−2) 330部、製造例5で製造した顔料分散ペースト 112部、およびイオン交換水 445部を混合して、カチオン電着塗料組成物を製造した。得られたカチオン電着塗料組成物の固形分は20%であった。
得られたカチオン電着塗料組成物を用いて、硬化電着塗膜を実施例1と同様にして調製した。
得られた硬化電着塗膜の動的ガラス転移温度は112℃であり、架橋密度は1.5×10−3mol/ccであった。また硬化電着塗膜内の樹脂固形分100gに対する、式:−C−O−で示されるフェノール構造部のモル数を算出したところ、0.126molであった。
【0119】
比較例2
製造例6−5で製造したカチオン性エポキシ樹脂エマルション(a−5) 167部、製造例7−3で製造したカチオン性アクリル樹脂エマルション(b−3) 265部、製造例5で製造した顔料分散ペースト 112部、およびイオン交換水 456部を混合して、カチオン電着塗料組成物を製造した。得られたカチオン電着塗料組成物の固形分は20%であった。
得られたカチオン電着塗料組成物を用いて、硬化電着塗膜を実施例1と同様にして調製した。
得られた硬化電着塗膜の動的ガラス転移温度は107℃であり、架橋密度は0.6×10−3mol/ccであった。また硬化電着塗膜内の樹脂固形分100gに対する、式:−C−O−で示されるフェノール構造部のモル数を算出したところ、0.190molであった。
【0120】
比較例3
製造例6−1で製造したカチオン性エポキシ樹脂エマルション(a−1) 167部、製造例7−3で製造したカチオン性アクリル樹脂エマルション(b−3) 265部、製造例5で製造した顔料分散ペースト 112部、およびイオン交換水 456部を混合して、カチオン電着塗料組成物を製造した。得られたカチオン電着塗料組成物の固形分は20%であった。
得られたカチオン電着塗料組成物を用いて、硬化電着塗膜を実施例1と同様にして調製した。
得られた硬化電着塗膜の動的ガラス転移温度は100℃であり、架橋密度は1.2×10−3mol/ccであった。また硬化電着塗膜内の樹脂固形分100gに対する、式:−C−O−で示されるフェノール構造部のモル数を算出したところ、0.174molであった。
【0121】
比較例4
製造例6−1で製造したカチオン性エポキシ樹脂エマルション(a−1) 279部、製造例7−3で製造したカチオン性アクリル樹脂エマルション(b−3) 130部、製造例5で製造した顔料分散ペースト 112部、およびイオン交換水 479部を混合して、カチオン電着塗料組成物を製造した。得られたカチオン電着塗料組成物の固形分は20%であった。
得られたカチオン電着塗料組成物を用いて、硬化電着塗膜を実施例1と同様にして調製した。
得られた硬化電着塗膜の動的ガラス転移温度は116℃であり、架橋密度は1.2×10−3mol/ccであった。また硬化電着塗膜内の樹脂固形分100gに対する、式:−C−O−で示されるフェノール構造部のモル数を算出したところ、0.271molであった。
【0122】
比較例5
製造例6−7で製造したカチオン性エポキシ樹脂エマルション(a−7) 333部、製造例7−1で製造したカチオン性アクリル樹脂エマルション(b−1) 65部、製造例5で製造した顔料分散ペースト 112部、およびイオン交換水 490部を混合して、カチオン電着塗料組成物を製造した。得られたカチオン電着塗料組成物の固形分は20%であった。
得られたカチオン電着塗料組成物を用いて、硬化電着塗膜を実施例1と同様にして調製した。
得られた硬化電着塗膜の動的ガラス転移温度は96℃であり、架橋密度は1.2×10−3mol/ccであった。また硬化電着塗膜内の樹脂固形分100gに対する、式:−C−O−で示されるフェノール構造部のモル数を算出したところ、0.250molであった。
【0123】
比較例6
製造例6−1で製造したカチオン性エポキシ樹脂エマルション(a−1) 333部、製造例7−1で製造したカチオン性アクリル樹脂エマルション(b−1) 65部、製造例5で製造した顔料分散ペースト 112部、およびイオン交換水 490部を混合して、カチオン電着塗料組成物を製造した。得られたカチオン電着塗料組成物の固形分は20%であった。
得られたカチオン電着塗料組成物を用いて、硬化電着塗膜を実施例1と同様にして調製した。
得られた硬化電着塗膜の動的ガラス転移温度は132℃であり、架橋密度は1.2×10−3mol/ccであった。また硬化電着塗膜内の樹脂固形分100gに対する、式:−C−O−で示されるフェノール構造部のモル数を算出したところ、0.319molであった。
【0124】
比較例7
製造例6−3で製造したカチオン性エポキシ樹脂エマルション(a−3) 194部、製造例7−3で製造したカチオン性アクリル樹脂エマルション(b−3) 223部、製造例5で製造した顔料分散ペースト 112部、およびイオン交換水 462部を混合して、カチオン電着塗料組成物を製造した。得られたカチオン電着塗料組成物の固形分は20%であった。
得られたカチオン電着塗料組成物を用いて、硬化電着塗膜を実施例1と同様にして調製した。
得られた硬化電着塗膜の動的ガラス転移温度は92℃であり、架橋密度は1.5×10−3mol/ccであった。また硬化電着塗膜内の樹脂固形分100gに対する、式:−C−O−で示されるフェノール構造部のモル数を算出したところ、0.174molであった。
【0125】
比較例8
製造例6−1で製造したカチオン性エポキシ樹脂エマルション(a−1) 167部、製造例7−4で製造したカチオン性アクリル樹脂エマルション(b−4) 265部、製造例5で製造した顔料分散ペースト 112部、およびイオン交換水 456部を混合して、カチオン電着塗料組成物を製造した。得られたカチオン電着塗料組成物の固形分は20%であった。
得られたカチオン電着塗料組成物を用いて、硬化電着塗膜を実施例1と同様にして調製した。
得られた硬化電着塗膜の動的ガラス転移温度は116℃であり、架橋密度は1.2×10−3mol/ccであった。また硬化電着塗膜内の樹脂固形分100gに対する、式:−C−O−で示されるフェノール構造部のモル数を算出したところ、0.174molであった。
【0126】
比較例9
製造例6−8で製造したカチオン性エポキシ樹脂エマルション(a−8) 167部、製造例7−5で製造したカチオン性アクリル樹脂エマルション(b−5) 265部、製造例5で製造した顔料分散ペースト 112部、およびイオン交換水 456部を混合して、カチオン電着塗料組成物を製造した。得られたカチオン電着塗料組成物の固形分は20%であった。
得られたカチオン電着塗料組成物を用いて、硬化電着塗膜を実施例1と同様にして調製した。
得られた硬化電着塗膜の動的ガラス転移温度は112℃であり、架橋密度は1.2×10−3mol/ccであった。また硬化電着塗膜内の樹脂固形分100gに対する、式:−C−O−で示されるフェノール構造部のモル数を算出したところ、0.160molであった。
【0127】
比較例10
製造例6−1で製造したカチオン性エポキシ樹脂エマルション(a−1) 167部、製造例7−6で製造したカチオン性アクリル樹脂エマルション(b−6) 265部、製造例5で製造した顔料分散ペースト 112部、およびイオン交換水 456部を混合して、カチオン電着塗料組成物を製造した。得られたカチオン電着塗料組成物の固形分は20%であった。
得られたカチオン電着塗料組成物を用いて、硬化電着塗膜を実施例1と同様にして調製した。
得られた硬化電着塗膜の動的ガラス転移温度は116℃であり、架橋密度は1.2×10−3mol/ccであった。また硬化電着塗膜内の樹脂固形分100gに対する、式:−C−O−で示されるフェノール構造部のモル数を算出したところ、0.174molであった。
【0128】
上記実施例および比較例により得られた硬化電着塗膜を用いて、下記評価を行った。
【0129】
耐候性評価
実施例および比較例により得られた硬化電着塗膜を、スーパーUV促進試験機(アイスーパーUVテスター(SUV−W151):岩崎電気社製、照射条件:照度100mW、温度63℃、湿度70%)を用いて曝露し、照射光量0.6MJ/mごとに曝露を終了した。
曝露終了品に上塗りソリッド塗料組成物(「OTO 649 クールホワイト A2W」、日本ペイント社製)をエアスプレー塗装にて乾燥膜厚35μmになるように塗装し、140℃で30分間加熱した。こうして得られた多層塗膜を50℃のイオン交換水に24時間浸した後、付着性(2mmの碁盤目・剥離試験)を、下記の評価基準に従って評価した。この時、剥離面積が碁盤目の15%未満であれば合格と判断した。

評価基準:
○:付着試験が合格となる最大の照射光量が15MJ/m以上
×:付着試験が合格となる最大の照射光量が15MJ/m未満
【0130】
耐食性評価(泥コート耐食性試験)
Na、Ca2+、Cl、SO2−イオンを約15%含有する泥を厚さ約0.3〜0.6mmとなるように塗装板上の硬化電着塗膜上に塗布し、乾燥させた。この塗装板を塩水噴霧6時間、乾燥3時間、及び湿潤14時間という条件の繰り返しモードにて試験した。その後、硬化塗膜上の泥を洗浄して落とし、塗膜の表面に発生したブリスターの面積を、下記の評価基準に従って目視で評価した。

評価基準:
◎:ブリスター発生面積が0〜10%未満
○:ブリスター発生面積が10%以上30%未満
×:ブリスター発生面積が30〜100%
【0131】
硬化電着塗膜の外観評価
得られた硬化電着塗膜を、JIS−B0601に準拠し、評価型表面粗さ測定機(Mitsutoyo社製、SURFTEST SJ−201P)を用いて測定した。2.5mm幅カットオフ(区画数5)を入れたサンプルを用いて7回測定し、上下消去平均によりRa値(μm)を得た。尚、Ra値は、表面粗さを表すパラメータである。得られたRa値は、下記の評価基準に従って評価した。

評価基準
○:0.25μm未満
×:0.25μm以上
【0132】
各実施例および比較例で用いたカチオン電着塗料組成物中に含まれる成分(A)〜(C)の樹脂固形分割合比、得られた硬化電着塗膜の物性、および上記評価結果について、下記表に示す。
【0133】
【表5】


【0134】
【表6】

【0135】
上記表に示されるように、実施例により得られた硬化電着塗膜は何れも、優れた耐光性を有し、かつ優れた耐食性を有することが確認できた。上記耐光性評価において基準として用いられた「照射光量15MJ/m」は、非常に厳しい基準である。そして本発明の硬化電着塗膜においては、このような厳しい基準をもクリヤーできる、非常に優れた耐候性を有していることが確認できる。
【0136】
比較例1は、カチオン性エポキシ樹脂(A)の含有量が少ない実験例である。この場合は、耐食性が劣ることとなった。
比較例2は、ブロック化イソシアネート硬化剤(C)の含有量が少ない実験例である。この場合は架橋密度が低くなり、耐食性に劣ることとなった。
比較例3は、硬化電着塗膜の動的ガラス転移温度が105℃未満である実験例である。この場合もまた耐食性が劣ることとなった。
比較例4は、硬化電着塗膜中におけるフェノール構造部のモル数が0.24molを超える実験例である。この場合は耐候性が劣ることとなった。
比較例5は、硬化電着塗膜中におけるフェノール構造部のモル数が0.24molを超えており、かつ動的ガラス転移温度が105℃未満である実験例である。この場合は耐食性および耐候性の両方が劣ることとなった。
比較例6は、硬化電着塗膜中におけるフェノール構造部のモル数が0.24molを超えており、動的ガラス転移温度が120℃を超える実験例である。この場合は耐候性が劣り、かつ塗膜平滑性も劣ることとなった。
比較例7は、動的ガラス転移温度が105℃未満である実験例である。この場合は耐食性が劣ることとなった。
比較例8は、カチオン性アクリル樹脂の数平均分子量が6000を超える実験例である。この場合は、得られる硬化電着塗膜の平滑性が劣ることとなった。
比較例9は、カチオン性アクリル樹脂のガラス転移温度が50℃を超える実験例である。この場合もまた、得られる硬化電着塗膜の平滑性が劣ることとなった。
比較例10は、カチオン性エポキシ樹脂(A)およびカチオン性アクリル樹脂(B)の溶解性パラメータの差が0.5である実験例である。この場合は、焼き付け硬化時にハジキといわれる塗膜不良が生じることとなった。
【0137】
実施例10 多層塗膜の形成
実施例1により得られた硬化電着塗膜上に、水性ベース塗料組成物(「アクアレックス AR−3100ベース」、日本ペイント社製、アクリル樹脂/メラミン樹脂系塗料)をエアスプレー塗装にて乾燥膜厚12μmになるように塗装し、80℃で3分間プレヒートを行った。さらに、その塗板にクリヤー塗料組成物(「ポリウレエクセル O−3100 クリヤー」、日本ペイント社製、ウレタン架橋系を有するアクリル樹脂/イソシアナート化合物系塗料)をエアスプレー塗装にて乾燥膜厚35μmになるように塗装し、この2層塗膜を140℃で30分間加熱して同時に硬化させたところ、良好な仕上がり外観を有する多層塗膜が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明の硬化電着塗膜は、優れた耐食性および優れた耐候性を有する。そのため、本発明の硬化電着塗膜は、硬化電着塗膜の上に上塗り塗膜を形成する、いわゆる中塗り塗装レス系の多層塗膜の形成に好適に用いることができる。これにより、塗装設備などのコストを低減することができ、かつCO排出量の削減も図ることができるという利点がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン電着塗料組成物を電着塗装し、焼付硬化することにより得られた、動的ガラス転移温度が105〜120℃であり、架橋密度が1.2×10−3〜2.0×10−3mol/ccである、硬化電着塗膜であって、
該硬化電着塗膜は、式:−C−O−で示されるフェノール構造部を、該硬化電着塗膜内の樹脂固形分100gに対してモル数として0.12〜0.24mol含有し、
該カチオン電着塗料組成物は、分子内にビスフェノールA構造を有するカチオン性エポキシ樹脂(A);水酸基含有モノマー、グリシジル基含有モノマーおよびその他のモノマーをラジカル共重合して得られる共重合樹脂に、アミノ基含有化合物を付加して得られるカチオン性アクリル樹脂(B);脂環式イソシアネート化合物がオキシム化合物でブロックされたブロック化イソシアネート硬化剤(C);および顔料;を含み、
該カチオン電着塗料組成物中に含まれる樹脂固形分の割合は、カチオン性エポキシ樹脂(A)30〜50質量%、カチオン性アクリル樹脂(B)20〜40質量%、硬化剤(C)30〜35質量%であり、
該カチオン性エポキシ樹脂(A)は、数平均分子量2000〜3000、およびガラス転移温度28〜50℃であり、および該カチオン性アクリル樹脂(B)は、数平均分子量5000〜6000、およびガラス転移温度28〜50℃であり、
該カチオン性エポキシ樹脂(A)の溶解性パラメータδAおよび該カチオン性アクリル樹脂(B)の溶解性パラメータδBが、|δA−δB|<0.3の関係を満たし、および、ブロック化イソシアネート硬化剤(C)の溶解性パラメータδCとの関係が、|δC−δA|<1.0、および|δC−δB|<1.0である、
硬化電着塗膜。
【請求項2】
前記カチオン性エポキシ樹脂(A)は、式:−C−O−で示されるフェノール構造部を、カチオン性エポキシ樹脂(A)の樹脂固形分100gに対してモル数として0.35〜0.55mol含有する、
請求項1記載の硬化電着塗膜。
【請求項3】
前記カチオン電着塗料組成物はさらに、ケイ酸化合物(D)を樹脂固形分100質量部に対して1〜2質量部含有する、
請求項1または2記載の硬化電着塗膜。
【請求項4】
請求項1〜3何れかに記載の硬化電着塗膜の上に、上塗りベース塗料組成物を塗装して、未硬化の上塗りベース塗膜を形成する工程、
未硬化の上塗りベース塗膜の上に、さらに、上塗りクリヤー塗料組成物を塗装して、未硬化の上塗りクリヤー塗膜を形成する工程、および
未硬化の上塗りベース塗膜および未硬化の上塗りクリヤー塗膜を同時に加熱して硬化させる工程、
を包含する、多層塗膜の形成方法。

【公開番号】特開2012−25905(P2012−25905A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−168334(P2010−168334)
【出願日】平成22年7月27日(2010.7.27)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】