説明

硬度測定用試薬

【課題】検水、特に殺菌処理されていない検水の硬度を、コンパクトな構造の装置を用いて、効率よく測定するための硬度測定用試薬を提供する。
【解決手段】(1)エリオクロムブラックT及び/又はカルマガイトを含む色素成分と、安息香酸若しくはその塩及び/又はp−ヒドロキシ安息香酸エステルを含む制菌剤成分とを含有する、硬度測定用試薬、並びに、(2)エリオクロムブラックT及び/又はカルマガイトを含む色素成分を含有する第一試薬と、安息香酸若しくはその塩及び/又はp−ヒドロキシ安息香酸エステルを含む制菌剤成分を含有する第二試薬との組み合わせからなる、硬度測定用試薬である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は硬度測定用試薬に関し、詳しくは、特に殺菌処理が施されていない検水の硬度を測定するための試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボイラの給水設備や冷却器などの冷熱機器、あるいは純水装置の前処理などにおいては、装置内でのスケール付着を防止する観点から、原水中に含まれる硬度成分を除去するための装置が接続されている。例えばイオン交換樹脂を利用した軟水器を接続して硬度成分をNaイオンに置換して得られた軟水を給水として利用している。
【0003】
このイオン交換樹脂が再生不良やイオン交換樹脂の劣化などで硬度成分がリークすることがある。したがって、硬度成分のリークを監視し、硬度の許容濃度を超えた場合は、該イオン交換樹脂の再生やメンテナンスなどの措置が必要となる。その判断をするためには、被処理水の硬度を監視する必要があり、一般に、色素エリオクロムブラックT(以下、EBTと略記することがある。)を含有する硬度測定用試薬を用いて色相の変化で硬度成分のリークを監視している(例えば、特許文献1、2及び3参照)。
この場合、検水の色相は、硬度成分と硬度測定用試薬に含まれる色素とが反応して生成したキレート化合物と、未反応(フリー)の色素との存在比によって決まる。具体的には、色素としてEBTを用いた場合、検水中の硬度が高くなるにつれて、検水の色相が当初の青色から青紫色へと変色し、さらには赤紫色を経て赤色に至る。
【0004】
前記硬度成分リークの監視は、通常自動測定装置を用いて連続もしくは定期的に行われているが、殺菌処理が施されていない給水などでは、微生物の増殖により硬度測定セルが汚染され、測定に不具合を生じることがある。
微生物による汚染を防止するために、給水自体を殺菌する方法として、次亜塩素酸ナトリウムによる殺菌法が用いられるが、次亜塩素酸ナトリウムに起因する残留塩素濃度が高いとエリオクロムブラックTの発色に影響することが指摘されており、残留塩素の影響を解消するために還元剤やその他の添加剤を用いる方法が開示されている(例えば、特許文献4及び5参照)。
【0005】
検水の硬度測定において、微生物の増殖により、硬度測定セルが汚染されるのを防止するために硬度指示薬として、色素と次亜塩素酸ナトリウムなどの酸化性殺菌剤とを組み合わせた試薬を用いる場合、当該色素が前記酸化性殺菌剤と反応して発色に影響を受けるので、当該色素と酸化性殺菌剤である次亜塩素酸ナトリウムとを含む一液型の硬度指示薬とすることができない。したがって、当該色素を含む試薬と、前記殺菌剤を含む試薬とを組み合わせた二液型にせざるを得ず、硬度測定装置が煩雑となって、硬度測定のコストが高くつくのを免れないという問題が生じる。
一方、微生物の測定機器内への侵入を防止するため、0.1μm程度のMF(精密ろ過)膜や中空糸膜などを用いて除去する方法が知られている。しかしながら、一度でも何らかの原因で微生物が混入した場合、徐々に測定機器内で増殖してしまい同様なトラブルが生じることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−64323号公報
【特許文献2】特開2002−181802号公報
【特許文献3】特開2002−181803号公報
【特許文献4】特開2005−283399号公報
【特許文献5】特開2005−283401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、検水、特に殺菌処理が施されていない検水の硬度測定において、微生物の増殖による障害を抑制するために、検水の殺菌処理やMF膜などの膜の適用などで、ある程度前記障害を緩和することができるが、硬度測定装置が大掛かりとなり、上記の適用は困難である。
また、MF膜などの膜を用いることによって、微生物の混入を抑制し、微生物による障害を抑制することができるが、該膜の破損や、開口部からの微生物の混入などが発生した場合には対応ができない上、該膜の定期的なメンテナンスが必要となる。
【0008】
さらに、硬度指示薬の一成分として、通常の殺菌剤である酸化性の次亜塩素酸ナトリウムなどを用いる場合、この殺菌剤と、もう一つの成分である色素とを含む、一液型にすると、当該色素が上記殺菌剤と反応して発色に影響を受けるために、二液型とせざるを得ず、硬度測定装置が煩雑となって、硬度測定のコストが高くつくという問題が生じる。
本発明は、このような状況下になされたもので、検水、特に殺菌処理されていない検水の硬度を、コンパクトな構造の装置を用いて、効率よく測定するための硬度測定用試薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定の色素を含む色素成分と、特定の化合物を含む制菌剤成分を用いることにより、一液型にすることが可能となり、その目的を達成し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、下記(1)〜(5)を提供するものである。
(1)エリオクロムブラックT及び/又はカルマガイトを含む色素成分と、安息香酸若しくはその塩及び/又はp−ヒドロキシ安息香酸エステルを含む制菌剤成分とを含有する、硬度測定用試薬、
(2)さらに、トリエタノールアミン、アルキルアルコール及びグリコールの中から選ばれる少なくとも1種を含有する、上記(1)に記載の硬度測定用試薬、
(3)エリオクロムブラックT及び又はカルマガイトを含む色素成分を含有する第一試薬と、安息香酸若しくはその塩及び/又はp−ヒドロキシ安息香酸エステルを含む制菌剤成分を含有する第二試薬との組み合わせからなる、硬度測定用試薬、
(4)第一試薬及び/又は第二試薬が、さらにトリエタノールアミン、アルキルアルコール及びグリコールの中から選ばれる少なくとも1種を含有する、上記(3)に記載の硬度測定用試薬、及び
(5)殺菌処理が施されていない検水に適用される、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の硬度測定用試薬。
【発明の効果】
【0010】
本発明の硬度測定用試薬は下記の効果を奏する。
(1)検水、特に殺菌処理されていない検水の硬度を、コンパクトな構造の装置を用いて、効率よく測定することができる。
(2)微生物の増殖を効果的に抑制し得るので、長期間にわたって硬度測定用セルを清澄な状態に保持することができ、清掃・交換などの操作が少なくなる。
(3)検水自体の除菌や殺菌などの処理や設備導入の必要がない。
(4)硬水軟水化装置に用いられるイオン交換樹脂の再生不良や劣化などで生じる軟水処理水への硬度成分のリークを監視し、軟水処理水の硬度成分が許容濃度を超えた場合には、前記イオン交換樹脂の再生や、メンテナンスなどの措置を効果的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】一液型硬度測定用試薬を用いて検水の硬度を測定するための試験用装置の概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の硬度測定用試薬には下記(1)の一液型試薬、及び下記(2)の二液型試薬の2つの態様、すなわち(1)エリオクロムブラックT及び/又はカルマガイトを含む色素成分と、安息香酸若しくはその塩及び/又はp−ヒドロキシ安息香酸エステルを含む制菌剤成分とを含有する、硬度測定用試薬(一液型)[以下、一液型硬度測定用試薬と称する。]、及び(2)エリオブラックT及び/又はカルマガイトを含む色素成分を含有する第一試薬と、安息香酸若しくはその塩及び/又はp−ヒドロキシ安息香酸エステルを含む制菌剤成分を含有する第二試薬との組み合わせからなる、硬度測定用試薬(二液型)[以下、二液型硬度測定用試薬と称する。]がある。
【0013】
[色素成分]
本発明の一液型硬度測定用試薬、及び二液型硬度測定用試薬の第一試薬においては、色素成分として、下記式(1)で表されるエリオクロムブラックT(Eriochrome Black T)及び/又は下記式(2)で表されるカルマガイト(Calmagite)を含むものが用いられる。
【0014】
【化1】

【0015】
(エリオクロムブラックT及びカルマガイト)
本発明において、色素成分として用いられるエリオクロムブラックTは、前記式(1)で示される構造を有する、(1−ヒドロキシ−2−ナフチルアゾ)−6−ニトロ−2−ナフトール−4−スルホン酸ナトリウムであり、カルマガイトは、前記式(2)で示される構造を有する、3−ヒドロキシ−4−[(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)アゾ]−1−ナフタレンスルホン酸である。
このエリオクロムブラックT又はカルマガイトは、アルカリのpH領域で硬度成分とキレート化合物を形成することで青色から赤色へ明瞭に変色する色素であり、それぞれ単独でまたは混合して用いることができる。前記色素の配合割合は特に限定されず、通常は硬度測定用試薬中0.1〜1.0質量%であり、好ましくは0.1〜0.5質量%である。色素の配合割合をかかる範囲に設定することにより、例え検水中に残留塩素が存在していても、その残留塩素濃度の高低にかかわらず検水を実際の硬度に対応した色相とすることができる。
【0016】
[制菌剤成分]
本発明の一液型硬度測定用試薬、及び二液型硬度測定用試薬の第二試薬においては、制菌剤成分として、安息香酸若しくはその塩及び/又はp−ヒドロキシ安息香酸エステルを含むものが用いられる。
前記安息香酸の塩としては、例えばナトリウム塩やカリウム塩などを挙げることができ、p−ヒドロキシ安息香酸エステルとしては、下記一般式(3)で表される化合物を挙げることができる。
【0017】
【化2】

【0018】
(式中、Rは炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数7〜10のアラルキル基を示す。)
【0019】
前記一般式(3)において、Rのうちの炭素数1〜5のアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、シクロペンチル基などが挙げられ、一方炭素数7〜10のアラルキル基としては、ベンジル基、メチルベンジル基、フェネチル基、メチルフェネチル基、フェニルプロピル基などが挙げられる。
前記一般式(3)で表されるp−ヒドロキシ安息香酸エステルとしては、例えばp−ヒドロキシ安息香酸メチル、p−ヒドロキシ安息香酸エチル、p−ヒドロキシ安息香酸イソプロピル、p−ヒドロキシ安息香酸ブチル、p−ヒドロキシ安息香酸イソブチル、p−ヒドロキシ安息香酸ベンジルなどを挙げることができる。
【0020】
本発明の一液型硬度測定用試薬及び二液型硬度測定用試薬の第二試薬においては、制菌剤成分として、前述した安息香酸、安息香酸塩及びp−ヒドロキシ安息香酸エステルの中から、1種を選んで用いてもよいし、2種以上を選んで用いてもよい。
この制菌剤成分は、硬度測定用試薬全量中の含有量が、好ましくは0.5〜10質量%、より好ましくは1〜5質量%になるように用いることが望ましい。このような量を用いることにより、該試薬が検水によって20〜500倍程度希釈された場合であっても、検水中の微生物の増殖を抑制し、硬度測定用セルの汚染を防止する効果を奏する。
【0021】
[その他成分]
本発明の一液型硬度測定用試薬及び二液型硬度測定用試薬には、前述した色素成分及び制菌剤成分以外に、トリエタノールアミン、アルキルアルコール及びグリコールから選ばれる少なくとも1種を含有させることができる。
二液型硬度測定用試薬の場合には、上記その他の成分は、第一試薬及び/又は第二試薬に含有させることができる。
【0022】
(トリエタノールアミン)
トリエタノールアミンは、検水のpHを10付近に維持して、前述した色素の発色を安定化するために用いられる。トリエタノールアミンの配合割合は特に限定はなく、硬度測定用試薬全量中に、好ましくは20〜90質量%、より好ましくは40〜80質量%の割合で含まれる量であることが望ましい。
トリエタノールアミンをこのような量で含むことにより、当該硬度測定用試薬が、検水によって20〜500倍程度希釈された場合であっても検水のpHを10付近に維持して、前述した色素の発色を安定化させる効果を奏する。
【0023】
(アルキルアルコール、グリコール)
アルキルアルコール及びグリコールは、本発明の硬度測定用試薬の溶媒又は不凍液として用いられる成分である。アルキルアルコールとしては、例えばエタノール、n−プロパノール、イソプロパノールなどを挙げることができる。一方、グリコールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどを挙げることができる。
本発明においては、前記アルキルアルコールやグリコールは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記アルキルアルコールやグリコールの配合量については特に制限はないが、溶媒又は不凍液としての作用の観点から、当該硬度測定用試薬全量中に、好ましくは5〜70質量%、より好ましくは15〜50質量%の割合で含まれる量であることが望ましい。
【0024】
[他の任意添加成分]
本発明の一液型硬度測定用試薬及び二液型硬度測定用試薬においては、前述した色素成分、制菌剤成分及びその他成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、他の任意添加成分、例えば残留塩素固定化成分、還元剤、pH緩衝剤、キレート剤、マスキング剤、増感剤、劣化防止剤、消泡剤等どの添加剤を適宜含有させることができる。
【0025】
(残留塩素固定化成分)
検水が次亜塩素酸ナトリウムなどの塩素系殺菌剤で殺菌処理されている場合、当該検水中に残留塩素が存在するおそれがある。この残留塩素濃度が検水中に、約1.5mg/L以上になると、当該色素を用いた硬度測定用試薬の発色が妨害されるおそれがある。
したがって、検水中に上記のような濃度で残留塩素が含まれている場合、前記硬度測定用試薬中に残留塩素固定化成分を含有させるのが有利である。
【0026】
この残留塩素固定化成分は、残留塩素と反応して、例えばクロラミン、クロロイミン、クロロイミド等の結合塩素を生成する化合物である。残留塩素固定化成分としては、例えば一級アミン、二級アミン、これらの塩およびアンモニウム塩等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。一級アミンとしては、例えばアルキルアルコールアミン(例えば、モノエタノールアミン)、直鎖アルキルアミン(例えば、ブチルアミン)、環状アルキルアミン(例えば、シクロヘキシルアミン)、芳香族アミン(例えば、アニリン)、アミノ酸類等が挙げられる。二級アミンとしては、例えばアルキルアルコールアミン(例えば、ジエタノールアミン)、直鎖アルキルアミン(例えば、ジエチルアミン)、環状アルキルアミン(例えば、アザシクロヘキサン〔ピペリジン〕)、芳香族アミン(例えば、ジフェニルアミン)、アミノ酸類等が挙げられる。これらの中では、残留塩素濃度の影響を受けず、検水中の硬度に対応した検水の発色安定性を確保する観点から、アルキルアルコールアミン(例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン)が特に好ましい。
【0027】
残留塩素固定化成分の配合割合は特に限定されず、通常は本発明の硬度測定用試薬中0.3〜3.0質量%であり、好ましくは0.5〜2.0質量%である。残留塩素固定化成分の配合割合をかかる範囲に設定することにより、残留塩素濃度の高低にかかわらず検水を実際の硬度に対応した色相とすることができる。
なお、本発明の二液型硬度測定用試薬においては、当該残留塩素固定化成分は、第一試薬及び/又は第二試薬に含有させることができる。
【0028】
(還元剤)
この還元剤は、前述した残留塩素固定化成分と同様に、検水中に残留塩素が存在している場合に、該残留塩素による、当該色素を用いた硬度測定用試薬の発色に対する妨害を抑制するために用いられる薬剤である。
この還元剤としては、塩酸ヒドロキシルアミン、アスコルビン酸、ヒドロキノン、硫酸コバルト、イソアスコルビン酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ハイドロサルファイト、亜硫酸ナトリウム、塩化スズ、亜硫酸アンモニウム、メチルエチルケトオキシム、ロンガリット、グルコース等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。かかる還元作用を有する還元剤を配合した硬度測定用試薬を用いることにより、残留塩素濃度の高低にかかわらず検水を実際の硬度に対応した色相とすることができる。
【0029】
前記還元剤の配合量については特に制限はないが、本発明の硬度測定用試薬全量中に、好ましくは0.3〜3.0質量%、より好ましくは0.5〜2.0質量%の割合で含まれる量であることが望ましい。
なお、本発明の一液型硬度測定用試薬に当該還元剤を用いる場合には、制菌成分と、好ましくはトリエタノールアミン、アルキルアルコール及びグリコールから選ばれる少なくとも1種の成分と、必要に応じて用いられる各種の添加成分を混合したのち、これに色素成分を加えて、一液型に調製するのが有利である。
一方、本発明の二液型硬度測定用試薬に当該還元剤を用いる場合には、第二試薬に当該還元剤を含有させるのが有利である。
【0030】
(pH緩衝剤)
このpH緩衝剤は、検水中のMアルカリ度の高低にかかわらず、検水のpHを所望の値に保持して、当該色素を含む硬度測定用試薬の発色を安定化させるための薬剤であり、一液型及び二液型のいずれの硬度測定用試薬においても用いることができる。
当該pH緩衝剤としては、一級アミンまたは二級アミンから選択されるアミン類と弱塩基の塩との組み合わせからなるものが好ましい。一級アミンとしては、例えばアルキルアルコールアミン(例えば、モノエタノールアミン)、直鎖アルキルアミン(例えば、ブチルアミン)、環状アルキルアミン(例えば、シクロヘキシルアミン)、芳香族アミン(例えば、アニリン)、アミノ酸類等が挙げられる。二級アミンとしては、例えばアルキルアルコールアミン(例えば、ジエタノールアミン)、直鎖アルキルアミン(例えば、ジエチルアミン)、環状アルキルアミン(例えば、アザシクロヘキサン〔ピペリジン〕)、芳香族アミン(例えば、ジフェニルアミン)、アミノ酸類等が挙げられる。これらの中では、検水の発色安定性の観点から、アルキルアルコールアミン(例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン)が好ましい。
【0031】
弱塩基の塩としては、例えばアンモニウム塩、一級アミン塩、二級アミン塩等が挙げられる。アンモニウム塩としては、例えば塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、臭化アンモニウム、シュウ酸アンモニウム等が挙げられる。一級アミン塩としては、例えばアルキルアルコールアミン(例えば、モノエタノールアミン)、直鎖アルキルアミン(例えば、ブチルアミン)、環状アルキルアミン(例えば、シクロヘキシルアミン)、芳香族アミン(例えば、アニリン)、アミノ酸類等の酸塩(例えば、塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩等)が挙げられる。二級アミン塩としては、例えばアルキルアルコールアミン(例えば、ジエタノールアミン)、直鎖アルキルアミン(例えば、ジエチルアミン)、環状アルキルアミン(例えば、アザシクロヘキサン〔ピペリジン〕)、芳香族アミン(例えば、ジフェニルアミン)、アミノ酸類等の酸塩(例えば、塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩等)が挙げられる。
【0032】
前記アミン類と前記弱塩基の塩との組み合わせは特に限定されないが、検水の発色安定性の観点から、アルキルアルコールアミン−アンモニウム塩が好ましく用いられる。
当該pH緩衝剤の配合量については特に制限はないが、他の成分が有する作用を阻害させない観点から、本発明の硬度測定用試薬全量中に、好ましくは5〜50質量%、より好ましくは10〜40質量%の割合で含まれる量であることが望ましい。
なお、本発明の二液型硬度測定用試薬においては、当該pH緩衝剤は、第一試薬及び/又は第二試薬に含有させることができる。
【0033】
(キレート剤)
このキレート剤は、管理硬度付近において、本発明の硬度測定用試薬により、検水が鋭敏に変色し、これにより硬度成分の漏れを確実に判別するための薬剤であって、一液型及び二液型のいずれの硬度測定用試薬においても用いることができる。
当該キレート剤としては、有機系キレート剤または無機系キレート剤を用いることができる。有機系キレート剤としては、たとえばエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、トランス−1、2−ジアミノシクロヘキサン四酢酸(CyDTA)、o,o'−ビス(2−アミノエチル)エチレングリコール四酢酸(GEDTA)等のアミノカルボン酸、クエン酸、グルコン酸等のアルカリ金属塩が挙げられ、これらは単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。無機系キレート剤としては、たとえばピロリン酸、ポリリン酸、メタリン酸等の公知のリン酸化合物のアルカリ金属塩が挙げられる。これらの中では、色素に比べて硬度成分と優先的に反応するキレート形成能の観点から、有機系キレート剤が好ましく、有機系キレート剤の中ではアミノカルボン酸のアルカリ金属塩が好ましい。アミノカルボン酸のアルカリ金属塩の中では、前記キレート形成能および経済性の観点から、EDTAのアルカリ金属塩がとくに好ましい。
【0034】
キレート剤のアルカリ金属塩を構成するアルカリ金属としては、たとえばNaおよびKが挙げられる。EDTAのアルカリ金属塩としては、たとえばEDTA−Na、EDTA−K、EDTA−2Na、EDTA−2K、EDTA−3Na、EDTA−3K、EDTA−4Na、EDTA−4K等が挙げられ、これらの中では、検水に添加したときの優れた溶解性の観点から、EDTA−2Na、EDTA−3NaおよびEDTA−4Naが特に好ましい。
【0035】
当該キレート剤の配合量については特に制限はないが、管理硬度付近において、検水を鋭敏に変色させる観点から、検水中に[管理硬度−0.1〜2.0ppm]相当添加できるように、本発明の硬度測定用試薬中に含まれるのが好ましい。
なお、本発明の二液型硬度測定用試薬においては、当該キレート剤は、第一試薬及び/又は第二試薬に含有させることができる。
【0036】
本発明の硬度測定用試薬においては、前述した残留塩素固定化成分、還元剤、pH緩衝剤及びキレート剤以外に、さらに必要に応じてマスキング剤、増感剤、劣化防止剤、消泡剤などの添加剤を含有させることができる。
前記マスキング剤は、検水中の妨害イオン(例えば、Fe、Mn、Al等)と錯体を形成することで検水の発色を安定化するものであり、例えばトリエタノールアミン、KCN等が挙げられ、これらの中では排水した際の安全性の観点から、トリエタノールアミンが好ましく用いられる。増感剤は、検水中のCa2+をMg2+へ置換することで検水の発色性を増感させるものであり、例えばEDTA−Mgが好ましく用いられる。劣化防止剤は、硬度測定用試薬が50℃以上の高温におかれた場合でも色素の劣化を防止するものであり、例えばソルビン酸カリウムが好ましく用いられる。消泡剤は、測定容器に収容した検水中の泡を消泡するものであり、例えば非イオン性界面活性剤が好ましく用いられる。
なお、本発明の二液型硬度測定用試薬においては、これらの必要に応じて用いられる添加剤は、第一試薬及び/又は第二試薬に含有させることができる。
【0037】
本発明の硬度測定用試薬の形態としては、通常色素成分と、制菌剤成分と、必要に応じて用いられるその他成分を含有する一液型として用いられるが、色素成分と、必要に応じてその他成分を含んでもよい第一試薬、及び制菌剤成分と、必要に応じてその他成分を含んでもよい第二試薬の組み合わせからなる二液型として用いることができる。二液型の場合、検水の硬度測定時に、該検水に前記第一試薬及び第二試薬を添加する。
本発明の硬度測定用試薬を用いる検水の硬度測定は、検水の色相の変化を観察することにより行われるが、該色相の変化の観察は、目視観察、あるいは分光光度計による色の測定などによって行うことができる。
検水の色相は、硬度成分と本発明の硬度測定用試薬に含まれる色素とが反応して生成したキレート化合物と、未反応(フリー)の色素との存在比によって決まる。具体的には、色素としてEBTを用いた場合、検水中の硬度が高くなるに従い、該検水の色相が青色から青紫色へと変色し、さらには赤紫色を経て赤色に至る。
【0038】
本発明の硬度測定用試薬は、例えば硬水軟水化装置に用いられるイオン交換樹脂の再生不良や劣化などで生じる軟水処理水への硬度成分のリークを監視し、軟水処理水の硬度成分が許容濃度を超えた場合には、前記イオン交換樹脂の再生や、メンテナンスなどの措置をとるために用いられる。
また、硬度の検査対象としては、このような硬水軟水化装置を通過した軟水処理水だけに限らず、硬水軟水化装置を通過する前の原水の硬度や、冷熱機器類へ供給するまでのあらゆる給水、冷温水系内の水、あるいはボイラ水などの硬度を挙げることができる。
本発明の硬度測定用試薬は、殺菌処理されていない検水に適用される場合に、特に有効である。
【実施例】
【0039】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
図1は、実施例及び比較例において、一液型硬度測定用試薬を用いて検水の硬度を測定するための試験用装置の概要図である。当該試験用装置は、検水タンク1中の検水を、定流量電磁弁5及び流量計8を介して硬度測定用セル2に供給するためのライン11が配設されており、また、一液型硬度測定用試薬タンク3中の該試薬をポンプ7を介して硬度測定用セル2に供給するためのライン12が配設されている。
前記硬度測定用セル2には、透明窓9と液面センサー10が付設されており、また底部には、スターラー4によって回転する攪拌子(図示せず)が備えられている。硬度測定用セル2中の硬度測定後の検水は、電磁弁6を介してライン13を通って排出される。
【0040】
実施例1〜4及び比較例1、2
(1)各一液型硬度測定用試薬の調製
第1表に示す配合組成を有する一液型の試薬1〜試薬5を調製した。なお試薬1は比較例用であり、試薬2〜試薬5は実施例用である。
【0041】
【表1】

【0042】
[注]
1)EBT:エリオクロムブラックT
2)プロピルパラベン:p−ヒドロキシ安息香酸プロピル
3)ベンジルパラベン:p−ヒドロキシ安息香酸ベンジル
【0043】
(2)検水の硬度測定
検水として、無滅菌処理の井水を原水として軟化処理したものを用いた。
比較例1及び実施例1〜4においては、下記の操作を行った。
(1)まず、定流量電磁弁5を開いて、検水タンク1中の検水を、流量計8及びライン11を介して容量30mLの硬度測定用セル2に導入し、液面センサー10で液量を検知して液量が20mLに達した時点で定流量電磁弁5を閉止した。
(2)次いで、硬度測定用試薬タンク3中の該試薬を、硬度測定用セル2内の検水に対して、100μLになるようにポンプ7を介して添加したのち、スターラー4により攪拌子を回転させて攪拌混合した。
(3)次に、充分に攪拌混合したのち、検水の色調を、硬度測定用セル2に設けた透明窓9から、白色LEDとRGBフォトセンサーを用いて製作した色調分析装置により測定した。
(4)この後、硬度測定用セル2に対して、検水の排水、給水を10回繰り返し実施して、充分に該セル2内を洗浄した。
(5)上記(1)〜(4)の操作を5分間ごとに繰り返し実施した。
上記操作を継続的に実施して、2週間、4週間及び6週間経過後の硬度測定用セル2の外観を確認した。その結果を第2表に示す。
【0044】
また、比較例2においては、比較例1の試験後、上記(4)の操作を行い、硬度測定用セル2を充分に洗浄したのち、定流量電磁弁5の前段に、0.1μmの中空糸フィルター[キッツマイクロフィルター社製、商品名「ポリフィクス」]を設置して、比較例1と同様の操作を行った。その結果を第2表に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
参考例
p−ヒドロキシ安息香酸エステルの硬度測定用試薬への配合が、硬度測定に与える影響を検討するために、以下の実験を行った。
第1表に示す一液型の試薬1〜試薬5を用い、各試薬を、硬度を調整した試験水に対して0.5質量%の割合で添加し、それぞれの外観の色調を色調分析装置(前出)により測定した。その結果を第3表に示す。
【0047】
【表3】

【0048】
[注]
1)硬度:単位はmgCaCO3/Lである。カルシウム硬度とマグネシウム硬度の比が2:1となるように、塩化カルシウム2水和物および塩化マグネシウム6水和物を、軟水に溶解して調整した。軟水は、栃木県下都賀郡野木町水をNaイオン型のイオン交換樹脂を通水させ、マグネシウムイオンやカルシウムイオンなどをNaイオンに置換し取り除いたものであり、濃度は硬度として、0.1mgCaCO3/L以下であることを確認して使用した。
若干、変色域はシフトするものの硬度濃度の測定には問題なく使用できることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の硬度測定用試薬は、検水、特に殺菌処理が施されていない検水の硬度を、コンパクトな構造の装置を用いて効率よく測定することができ、例えば、硬水軟水化装置に用いられるイオン交換樹脂の再生不良や劣化などで生じる軟水処理水への硬度成分のリークを監視し、軟水処理水の硬度成分が許容濃度を超えた場合には、前記イオン交換樹脂の再生や、メンテナンスなどの措置をとるために用いられる。
【符号の説明】
【0050】
1 検水タンク
2 硬度測定用セル
3 一液型硬度測定用試薬タンク
4 スターラー
5 定流量電磁弁
6 検水排出用電磁弁
7 ポンプ
8 流量計
9 透明窓
10 液面センサー
11 検水供給ライン
12 硬度測定用試薬供給ライン
13 検水排出ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エリオクロムブラックT及び/又はカルマガイトを含む色素成分と、安息香酸若しくはその塩及び/又はp−ヒドロキシ安息香酸エステルを含む制菌剤成分とを含有する、硬度測定用試薬。
【請求項2】
さらに、トリエタノールアミン、アルキルアルコール及びグリコールから選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項1に記載の硬度測定用試薬。
【請求項3】
エリオクロムブラックT及び/又はカルマガイトを含む色素成分を含有する第一試薬と、安息香酸若しくはその塩及び/又はp−ヒドロキシ安息香酸エステルを含む制菌剤成分を含有する第二試薬との組み合わせからなる、硬度測定用試薬。
【請求項4】
第一試薬及び/又は第二試薬が、さらにトリエタノールアミン、アルキルアルコール及びグリコールから選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項3に記載の硬度測定用試薬。
【請求項5】
殺菌処理が施されていない検水に適用される、請求項1〜4のいずれかに記載の硬度測定用試薬。

【図1】
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