説明

硬組織再生促進剤

【課題】費用面でも労力面でも低コストで準備可能な、欠陥あるいは欠損した硬骨の再生に有用な硬骨再生促進剤、硬骨欠陥又は欠損の治療のための医薬等を提供すること。
【解決手段】珪藻土を欠陥又は欠損した硬骨の近傍の骨膜下に投与したり、珪藻土を経口投与したりすることにより、欠陥あるいは欠損した部分に硬骨の再生を促進することができることから、珪藻土は、硬骨再生促進剤、硬骨欠陥又は欠損の治療のための医薬等に有用であり、費用面でも労力面でも低コストで準備可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願へのクロスリファレンス
本出願は、2006年9月21日付で出願した日本国特許出願第2006−256374号に基づく優先権を主張するものであり、当該基礎出願を引用することにより本明細書に含めるものとする。
技術分野
本発明は、硬組織の再生に有用な薬剤、医薬組成物、食品組成物、食品、動物用飼料等に関する。
【背景技術】
【0002】
硬組織の欠陥部あるいは欠損部を修復するために、従来、人造ハイドロキシアパタイト、牛骨乾燥粉末、珪酸ガラス粉末、ポルトランドセメントを含む充填材を硬組織の欠陥部あるいは欠損部に充填する方法(特許文献1)、SiO2(45重量%)、CaO(24.5重量%)、Na2O(24.5重量%)、及びP2O5(6重量%)を混合した混合物を融解した後粉砕することにより得られた300〜360μmの粒状材料を欠陥部あるいは欠損部内に挿入して骨組織を形成させる方法(特許文献2)、骨再生を促進する薬剤(特許文献3)などが開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第5769638号明細書
【特許文献2】特開平3−136664号公報
【特許文献3】特開2003−55237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、費用面でも労力面でも低コストで準備可能な、欠陥あるいは欠損した硬組織の再生に有用な物質を含有する硬組織再生促進剤、医薬組成物、食品組成物、食品、動物用飼料等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、実施例に示すように、硬組織が欠損した部分の近傍の骨膜下に珪藻土を投与したり、珪藻土を経口投与したりすることにより、欠損した硬組織の再生が促進することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明に係る硬組織再生促進剤は、珪藻土を有効成分として含有する。前記硬組織は、例えば、硬骨、修復象牙質などである。前記硬骨は、例えば、歯槽骨などである。本発明に係る硬組織再生促進剤は、例えば、骨膜下に投与(充填)するものであってもよいし、抜歯等で欠損した骨髄腔内、又は骨折した部位の近傍の骨髄腔内に投与するものであってもよいし、あるいは、経口投与するものであってもよい。
【0007】
また、本発明に係る医薬組成物は、珪藻土を有効成分として含有する。本発明に係る医薬組成物は、骨膜下に投与する製剤であってもよいし、抜歯等で欠損した骨髄腔内、又は骨折した部位の近傍の骨髄腔内に投与する製剤であってもよいし、あるいは、経口投与する製剤であってもよい。
【0008】
さらに、本発明に係る食品組成物は、珪藻土を含む。
本発明に係る食品は、珪藻土を含む。
また、本発明に係る動物用飼料は、珪藻土を含む。
【0009】
なお、本明細書において「珪藻土」とは、珪藻の遺骸からなる堆積物を意味し、海洋性珪藻類が堆積した海洋性珪藻土(珪藻軟泥を含む。)、淡水性珪藻類が堆積した淡水性珪藻土等を含む。本発明に係る薬剤、医薬組成物、食品組成物、食品、動物用飼料等に含ませる珪藻土は、高温で焼成した焼成物であってもよいし、自然乾燥した乾燥物であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態として説明する歯の構造を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態として説明する骨の構造を示す図である。
【図3】本発明の一実施例において、珪藻土の骨膜下投与後に、抜歯した部分付近及び珪藻土投与部分付近をマイクロフォーカスX線拡大観察装置により観察した結果を示す図である。
【図4】本発明の一実施例において、珪藻土の骨膜下投与後に、抜歯した部分付近及び下歯槽部をマイクロフォーカスX線拡大観察装置により観察した結果を示す図である。
【図5】本発明の一実施例において、珪藻土の経口投与により抜歯後やインプラント床骨穿孔後の骨再生・治癒が促進されることを、EPMAによるカルシウムと珪藻土由来の珪素の元素マッピング法で検証した結果を示す図である。
【図6】本発明の一実施例において、人為的に穿孔した下肢骨に対して、珪藻土の経口投与により骨再生が促進されることをマイクロフォーカスX線顕微観察システムによって観察した結果を示す写真である。
【図7−1】本発明の一実施例において、人為的に穿孔した下肢骨に対して、珪藻土の経口投与により骨再生が促進されることをマイクロCTシステムによってX線顕微立体観察した結果を示す写真である。なお、これら画像の中で骨近辺、骨髄腔内に認める直線的なハイコントラスト陰影(白い矢印で示されている)はいずれも血管造影によるものであり、骨再生の所見に関係しない。
【図7−2】図7−1の続きを示す図である。
【図8−1】本発明の一実施例において、図7に示したX線顕微画像情報から骨塩量を定量分析した結果を示す写真である。
【図8−2】図8−1の続きを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、上記知見に基づき完成した本発明の実施の形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。なお、市販の測定装置を用いる場合には、特に説明が無い限り、その装置に添付のプロトコールを用いる。
【0012】
また、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0013】
==珪藻土の薬理作用==
図1に示すように、歯100は、エナメル質10、象牙質20、セメント質80、歯髄30等からなり、歯肉(歯ぐき)40、歯根膜60、並びに、皮質骨(緻密骨)71、海綿骨72等から構成されており、硬組織である歯槽骨などの歯周組織により支持されている。
【0014】
実施例1に示すように、イヌで、抜歯した後、歯槽骨に付着している歯肉40を骨膜50とともにはがし、歯槽骨の表面を覆う骨膜50下に珪藻土を埋め込んだところ、珪藻土の投与部付近の皮質骨71上、歯100の欠損部(歯槽骨)付近の骨髄腔73の底部、及び骨髄腔73の上部において欠損した海綿骨72に新生骨の再生が促進されることが明らかになった。また、実施例2に示すように、抜歯した後、歯槽骨の内部をドリルで滑らかに削ったイヌに、珪藻土を経口投与することにより、皮質骨71上や歯100の欠損部(歯槽部海綿骨72)に新生骨の再生が同様に促進されることが明らかになった。従って、珪藻土は、抜歯、インプラントの埋入と固定、歯内・歯周疾患の原因菌の毒素、感染、手術による便宜的骨削除等による骨破壊、吸収、骨折などにより欠陥あるいは欠損した部分に硬組織の再生を促進させるのに有用であることがわかった。
【0015】
また、硬組織である硬骨、例えば、図2に示すような上腕骨や大腿骨などの長い骨200の幹部は、骨膜110、皮質骨120、骨髄130などから構成されており、骨200の端部は、骨膜140、皮質骨150、海綿質160、骨髄などから構成されているが、このような硬骨も骨折、インプラントの埋入、細菌の毒素、化膿などにより一部が欠陥あるいは欠損した場合には、珪藻土をその近傍の骨膜110,140下に投与したり、骨髄腔内に投与したり、経口投与したりすることによって、欠陥あるいは欠損した部分に硬組織を再生させることができる(実施例3に、経口投与による下肢骨再生の例を示す)。従って、珪藻土は、骨折、インプラントの埋入、細菌の毒素、化膿などにより欠陥あるいは欠損した部分に硬組織の再生を促進させるのに有用である。
【0016】
ここで、珪藻土によって再生を促進させることができる硬組織としては、例えば、硬骨(歯槽骨、顎骨、大腿骨、上腕骨、頚骨、橈骨、尺骨、椎骨など)、歯100の修復象牙質などを挙げることができる。また、使用する珪藻土としては、例えば、海洋性珪藻土、淡水性珪藻土などの珪藻が化石化したもの、あるいは、珪藻土の焼成物や乾燥物などであれば、特に限定されない。
【0017】
==本発明に係る薬剤、医薬組成物、食品組成物、及び食品等について==
上述のように、珪藻土は、欠陥又は欠損した硬組織の再生を促進することから、珪藻土は、欠陥又は欠損した硬組織の再生が必要な患者に対する医薬又は食品の組成物、さらには、欠陥又は欠損した硬組織の再生が必要な患畜に対する飼料の組成物として有用であり、珪藻土を有効成分として含有する薬剤は、欠陥又は欠損した硬組織の再生を促進する薬剤として有用であり、また、珪藻土を含有する食品は、機能性食品、特定保険用食品等として、欠陥又は欠損した硬組織の再生が必要な患者に有用であり、珪藻土を含有する動物用飼料は、欠陥又は欠損した硬組織の再生が必要な患畜に有用である。また、珪藻土は自然材料なので安価で多量に入手できることから、費用面でも労力面でも低コストで本発明に係る薬剤、医薬組成物、食品組成物、及び食品等を提供することができる。
【0018】
本発明に係る薬剤としては、珪藻土を有効成分として含有するものであれば特に制限されるものではなく、使用する部位又は目的、投与形態などに応じて、薬理学的に許容された製剤添加物(例えば、賦形剤、pH調整剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、矯味剤、溶剤、安定剤、糖衣剤、保存剤、緩衝剤、懸濁化剤、乳化剤、芳香剤、溶解補助剤、着色剤、粘稠剤など)をさらに含んでいてもよい。また、歯周組織の修復や再生を促進したり、細菌の感染を予防したり、炎症を抑制したりするための薬剤、例えば、ポリリン酸ナトリウム等のポリリン酸塩、創傷被覆剤としてのアルギン酸などをさらに含んでいてもよい。
【0019】
なお、本発明に係る薬剤は、ヒトまたはヒト以外の脊椎動物に対し、例えば、経口投与することとしてもよいし、骨髄腔や骨膜50,110,140下等に投与することとしてもよい。本発明に係る薬剤を経口投与する場合には、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、丸剤などの製剤にしてもよく、骨膜50,110,140下に投与する場合には、注射剤などの製剤にしてもよい。なお、これらの製剤は、上述の製剤添加物を用いて、常法により製造することができる。
【0020】
また、本発明に係る食品は、珪藻土を含むものであればどのようなものでもよく、その他、ビタミンA、C、E、Kやポリフェノール等の抗酸化物質、アスパルテームやキシリトール等の甘味料、ソルビン酸カリウムや安息香酸ナトリウム等の保存料、亜硫酸ナトリウムやL−アスコルビン酸ナトリウム等の酸化防止剤、ウコン色素やパプリカ色素等の着色料、アミノ酸や蓄肉エキス等の調味料、クエン酸やリンゴ酸等の酸味料などの既存の食品添加物をさらに含んでいてもよい。
【0021】
本発明に係る食品としては、例えば、カプセル、錠剤、顆粒等の形状をしたサプリメント、麺類(例えば、うどん等)、ヨーグルト、アメ(キャンディ、ドロップなど)、ふりかけなどの形態として使用することができるが、これらに制限されるものではない。なお、本発明に係る食品は、最終的に、固形物、粉末、液状、液体状、クリーム状、ゲル状など、どんな形状であってもよい。また、本発明に係る食品は、基本的には健常人に投与することを目的とするが、欠陥または欠損した硬組織の再生が必要な患者が摂取してもよい。
【0022】
本発明に係る動物用飼料としては、珪藻土を含むものであればどのようなものでもよく、その他、抗酸化剤、防かび剤、粘結剤、乳化剤、調整剤、アミノ酸、ビタミン、ミネラル、色素、合成抗菌剤、抗生物質、着香料、呈味剤、酵素、生菌剤などの既存の飼料添加物をさらに含んでいてもよい。
【0023】
==本発明に係る薬剤、医薬組成物、及び食品等の使用方法==
珪藻土を有効成分として含有する硬組織再生促進剤は、非経口的に、欠陥又は欠損した硬組織を有する患者のどこに投与してもよいが、硬組織の欠陥又は欠損した部分に直接投与したり、硬組織の再生が必要な部分の近辺に投与したりすることが好ましい。例えば、再生が必要な硬骨に最も近い骨膜50,110,140下、または歯100の歯髄腔穿孔部AA、根尖31、若しくは根管32に投与すれば、硬骨の再生が促進される。また、歯100が欠陥又は欠損した場合には、欠陥又は欠損した歯100の象牙質20等に充填すれば、修復象牙質の再生が促進される。特に、歯髄30に至るまで歯100が欠陥又は欠損した場合には、歯髄30が露出しないように、欠陥又は欠損した歯100の象牙質20等に充填すればよい。なお、投与方法は、注入、塗布、充填など、特に限定されない。あるいは、欠陥又は欠損した硬組織を有する患者に対し、経口的に硬組織再生促進剤を投与してもよい。
【0024】
また、硬組織再生促進作用を迅速に発揮できるように、硬組織が欠陥又は欠損する以前から、珪藻土を有効成分として含有する医薬組成物または食品として、珪藻土を摂取してもよい。
【実施例】
【0025】
以下に本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、これらの実施例は本発明を説明するためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0026】
[実施例1]
歯槽骨を欠損させたイヌに対し、欠損部位における新生骨の再生を促進させるため、珪藻土を骨膜下投与した。
抜歯した際、同時にイヌの歯肉と骨膜をともに骨膜剥離子を用いてはがし、骨膜下に蒸留水に溶かしてペースト状にした珪藻土(乾燥品;中央化成株式会社、中央シリカ株式会社)0.2 gを埋め込んだ。1ヶ月後に珪藻土を注入した近傍をポニー工業(株)製マイクロフォーカスX線検査装置P70−II(焦点サイズ 10μm×10μm)を用い、コダック社製フィル、富士フィルムメディカル(株)製イメージングプレートHRを内蔵したカセットを幾何学的拡大率3倍となるよう配置し、撮影条件(30KV 90μA フィルムは15min、イメージングプレートは30sec)にてフィルム(図3)またはイメージングプレート(図4)に拡大X線撮影した。なお、イメージングプレートはFCR 50000MA(FCR(Fuji Computed Radiography:デジタルX線画像診断システム);富士写真フィルム株式会社製)を用いて画像情報の読み取り・観察を行った(観察部分:図1参照)。また、コントロールとして、珪藻土を投与しないイヌのマイクロフォーカスX線拡大観察装置による観察も行った。その結果を図3及び図4に示す。なお、図3中の鏃は珪藻土投与部を示す。
【0027】
珪藻土を投与しないイヌでは、抜歯窩下部の骨髄腔内壁(図4)、及び骨膜下皮質(緻密)骨上にわずかな新生骨の形成しか見られないのに対し、図3及び図4に示すように、骨膜下に珪藻土を投与したイヌでは、抜歯窩の骨髄腔底部(図3中の四角枠囲い部分及び図4中の丸枠囲い部分)、骨髄腔側壁(図3中の丸枠囲い部分、参照)、珪藻土投与部付近の骨膜下皮質骨上(図3中の矢印)、及び下歯槽部(図4中の矢印)に幼弱な新生骨の形成や、抜歯窩の骨髄腔に海綿骨(図3中のV字)の形成が見られ、これらの部分を経時的に観察した結果、骨膜下皮質骨上→骨髄腔底部、側壁→骨髄腔内の海綿骨の順で新生骨が形成された。このように、珪藻土は、骨膜下投与により骨新生を促進する。また、珪藻土を骨膜下に投与しても骨髄腔内に新生骨が形成されることから、直接骨髄腔内に投与しても骨新生が促進されることがわかった。
【0028】
[実施例2]
次に、歯槽骨を欠損させたイヌに対し、欠損部位における新生骨の再生を促進させるため、珪藻土を経口投与した。
抜歯した後、歯槽骨の内部をドリルで滑らかに削ったイヌに、珪藻土を飼料一日量の2〜5%にあたる8〜20gを餌とともに毎日経口投与した。1ヶ月後に切片を作製し、欠損させた歯槽骨の近傍の骨新生組織をEPMA(Electron Probe Micro Analyzer;Shimadzu EPMA8705、加速電圧20kV, 試料吸収電流15nA, MAP 512×512 point)を用いてカルシウムと珪素との元素マッピングを行った(観察部分:図1参照)。その結果を図5に示す。
【0029】
図5に示すように、珪藻土由来の珪素(図5中の白い粉状のシグナル)が骨の内部に分布しており、その周囲に(歯槽骨内の海綿骨の欠損部)に新生骨(図5中において、欠損させた骨の灰色部分)が形成していた。また、皮質骨71上においても新生骨の形成が見られた(図5中の枠囲い部分)。このことから、珪藻土を経口投与しても、骨欠損部位まで珪素が到達し、新生骨が形成することが明らかになった。従って、珪藻土は、骨膜下投与、骨髄腔投与だけでなく、経口投与でも有効であると結論された。
【0030】
[実施例3]
さらに、ラット下肢骨を人為的に穿孔し、孔部における新生骨の再生を促進させるため、珪藻土を経口投与した。
【0031】
〈検体の処理〉
実験用ラットとして、BrlHan:WIST@Jcl(GALAS)(日本クレア社:9週齢♀)を用い、馴化後、処置予定日2日前より群分けした。
処置当日、骨膜を可及的に損傷しないようにラットの下肢骨(脛骨)を露出し、歯科インプラント用ドリル(ラウンドバー)を用いて、生理食塩水注水下で直径約2mm、深さ約3mm強の孔を開けた。深さについてはラウンドバー頭部が皮質骨を骨髄側へ完全穿孔・交通することを確認した。その後、標準試料CE-2に対し重量比で2%、5%、10%の珪藻土を添加混合して電子線滅菌したものを経口投与し飼育した。
穿孔手術後2週間、4週間、5週間で、各個体より左右側下肢を切除し、各側に分別してホルマリン固定後、処理するまで冷却保存した。なお、比較のため、コントロールとして、同様に穿孔手術後、標準飼料CE-2のみの珪藻土を添加しない飼料を電子線滅菌したものを経口投与し個体の飼育・処理・観察を行った。
【0032】
〈試料の作製及び観察方法〉
(1)マイクロフォーカスX線顕微観察システムによるX線顕微的観察
まず、穿孔創傷部を非破壊的に観察する目的で、骨より軟組織を一切の除去をしないまま、一塊で、ポニー工業(株)製マイクロフォーカスX線検査装置P70−II(焦点サイズ 10μm×10μm)を用い、富士フィルムメディカル(株)製イメージングプレートHRを内蔵したカセットを幾何学的拡大率3倍となるよう配置し、撮影条件(30KV 90μA 10秒)でX線拡大投影した。その後、富士フィルムメディカル(株)製デジタルX線診断装置:FCR7000MAにてイメージングプレートの画像情報の読み取りを行い、各試料のX線顕微像を得た。図6を参照しながら、以下に観察結果を詳細に記述する。
【0033】
(2)マイクロCTシステムによるX線顕微立体観察
穿孔手術後2週目と4週目の穿孔創傷治癒部位に対し、日立メディコ社(株)製MCT-CB100MFにて同部位の三次元的構造精査を行った。試料は、ポリプロピレン製遠心沈降管を長軸方向割断した半円柱状チューブにセロハンテープにて固定し、装置試料台に固定した。撮影条件は(60kV 100μA 2分)とした。図7を参照しながら、以下に観察結果を詳細に記述する。
【0034】
(3)マイクロCTシステムによるX線顕微画像情報からの骨塩量定量分析
(2)のマイクロCT画像情報をラトックシステムエンジニアリング(株)製ソフトウエア TRI/3D-BON-BMDにて骨塩量の経時相対変化比較を行った。骨塩量の校正は、骨塩量ファントムの代用として、試料台ポリプロピレン製遠心沈降管の断面と、穿孔創傷部より遠位の皮質骨部を参照した。図8を参照しながら、以下に分析結果を詳細に記述する。なお、図8において、カラーバー左側の赤色相当部がもっとも骨塩量が高い部位をマッピングしており、カラーバー右側の緑色相当部にゆくに従い、骨塩量が相対的に低いところをマッピングしている。
【0035】
〈結果〉
(1)マイクロフォーカスX線顕微観察システムによるX線顕微的観察
穿孔手術後2週目(図6A〜D):コントロールの個体(図6A)においては、穿孔したドリル直径に近い半円形陥没が明瞭に認められたが、珪藻土投与群(図6B:2%、C:5%、D:10%)はいずれも、半円形陥没部に仮骨様不透過部が認められ、その面積は、投与した珪藻土の濃度が増加するにつれ、その濃度に相関して増加した。さらに、珪藻土投与群においては、半円形陥没部の下底部の骨髄側に、皮質骨の顕著な修復性肥厚を認めた。
穿孔手術後4週目(図6E〜H):コントロールの個体(図6E)においては半円形陥没部が浅くなり、皿状の陥没にまで回復した。一方、珪藻土投与群((図6F:2%、G:5%、H:10%)においては、このような皿状陥没はすでにほとんど認められず、治癒した皮質骨の厚みは、投与した珪藻土の濃度が増加するにつれ、その濃度に相関して回復した。なお、珪藻土投与群においては、手術後2週目にみられた半円形陥没相当部位を満たす骨再生による不透過性は周囲と同等に回復し、さらに陥没部位下底相当部位付近の骨髄側に、皮質骨のわずかな修復性肥厚を認めた。
穿孔手術後5週目(図6I〜L):コントロール(図6I)も珪藻土投与群(図6J:2%、K:5%、L:10%)もすべての個体で半円形陥没部は消失し、ほぼ正常な皮質骨形態に回復した。なお、投与群では、手術後4週目に見られた皮質骨の骨髄側における修復性肥厚がまだ痕跡的に残存していた。
このように、下肢骨を穿孔したラットに対して珪藻土を経口投与することにより、穿孔部における骨再生の促進が認められた。
【0036】
(2)マイクロCTシステムによるX線顕微立体観察
穿孔手術後2週目:
ボリュームレンダリング像(図7A):コントロールの個体においては、穿孔したドリル直径に近い半球形穿孔がまだ明瞭に認められた。一方、珪藻土10%投与群は明らかな半球形穿孔部の直径縮小が認められ、穿孔創傷の閉鎖治癒が進行していた。その一方で、珪藻土10%投与群では、周辺の皮質骨のX線透過性が亢進していた。
サジタル断面像(図7B):コントロールの個体においては、穿孔したドリル直径に近い半円形陥没が明瞭に認められた。また、その陥没下底部では骨髄腔といまだ大きく交通し、穿孔創傷の閉鎖治癒、皮質骨の再生はほとんど観察されなかった。一方、珪藻土10%投与群では、明らかな半円形陥没部の深さ縮小が認められ、陥没下底部では骨髄腔との交通が狭小化し、穿孔創傷の閉鎖治癒、皮質骨の再生の兆候が観察された。一方、近傍の皮質骨内部には層板骨間に空隙を認め、これがレンダリング像において観察された透過性亢進所見と一致した。この原因として、珪藻土投与群では、この時期には早々に創部の珪藻土による鉱物化とこれに続く石灰化置換が旺盛なため、近傍での骨石灰成分の吸収・溶出と創部への添加が協調的に活発であることによると考えられる。
穿孔手術後4週目:
ボリュームレンダリング像(図7C):コントロール、投与群とも半球形陥没は浅くなり、皿状にまで回復したが、コントロールの個体では中央に明らかに大きな穿孔部残存が認められた。投与群では、中央にきわめて小さな穿孔部残存を認めたに過ぎなかった。
サジタル断面像(図7D):コントロールの個体では半円形陥没は浅くなっているが、皮質骨の骨膜側の肥厚は不十分で、全層の厚みも薄い。一方、投与群は半円形陥没下底部と一層の境界を呈する半月状の骨再生部が認められ、皮質骨全層の厚みも周辺とほぼ同等まで回復した。
【0037】
(3)マイクロCTシステムによるX線顕微画像情報からの骨塩量定量分析
穿孔手術後2週目:
ボリュームレンダリング像(図8A):コントロール、投与群とも半円形陥没を塞ぐように周辺よりずっとX線透過性の高い、すなわち相当に低密度の塞栓物質が認められた。
サジタル断面像(図8B):コントロールの個体では、陥没部の半分は低密度の塞栓物質で満たされているが、下底部は密度が粗で骨髄腔との穿孔部が閉鎖しておらず、密な再生骨による下底部の修復は認められなかった。一方、珪藻土投与群では、下底部にしっかりとした密な再生骨による修復が認められた。陥没部の塞栓物質の容積はコントロールより少なかったが、これはすでに、皮質骨の再生がコントロールより早く進行し、塞栓物質による初期の鉱物化から石灰化へ置換がコントロールより先行したためと考えられる。珪藻土投与群では穿孔部近傍の皮質骨の層板骨間で密度低下部の存在が認められ、これは、上述したように、この時期において、珪藻土投与によって、早期の創部の鉱物化とこれに続く石灰化置換が促進されるため、近傍からの骨石灰成分の吸収・溶出と創部への添加が協調的に活発であることによると考えられる。
穿孔手術後4週目(図8C):
ボリュームレンダリング像:大きな差異は認めなかったが、珪藻土投与群の方が、全体的にみて骨密度が高かった。
サジタル断面像(図8D):コントロールの個体では半円形陥没は浅くなっているが、皮質骨全層の厚みはまだ薄い。下底部の再生骨の骨密度は周辺部とほぼ同等であった。一方、珪藻土投与群では、半円形陥没下底部と一層の境界を呈する半月状の骨再生部が認められ、皮質骨厚みも周辺とほぼ同等まで回復し、骨密度も周辺と同等であった。従って、珪藻土投与群の骨の治癒は、構造強度的にも負荷に耐えうるまでに回復したと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によれば、費用面でも労力面でも低コストで準備可能な、欠陥あるいは欠損した硬組織の再生に有用な物質を含有する硬組織再生促進剤、医薬組成物、食品組成物、食品、動物用飼料等を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪藻土を有効成分として含有する硬骨再生促進剤。
【請求項2】
前記硬骨が歯槽骨であることを特徴とする請求項に記載の硬骨再生促進剤。
【請求項3】
骨膜下に投与することを特徴とする請求項1又は2に記載の硬骨再生促進剤。
【請求項4】
骨髄腔に投与することを特徴とする請求項1又は2に記載の硬骨再生促進剤。
【請求項5】
経口投与することを特徴とする請求項1又は2に記載の硬骨再生促進剤。
【請求項6】
珪藻土を有効成分として含有する硬骨欠陥又は欠損の治療のための医薬
【請求項7】
骨膜下投与製剤であることを特徴とする請求項に記載の医薬
【請求項8】
骨髄腔投与製剤であることを特徴とする請求項に記載の医薬
【請求項9】
経口投与製剤であることを特徴とする請求項に記載の医薬
【請求項10】
前記硬骨が歯槽骨である請求項6〜9のいずれかに記載の医薬。
【請求項11】
前記硬骨欠陥又は欠損が、抜歯、インプラントの埋入と固定、歯内・歯周疾患の原因菌の毒素、感染、化膿、骨破壊、吸収、又は骨折によることを特徴とする請求項6〜10のいずれかに記載の医薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【公開番号】特開2012−116844(P2012−116844A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−5534(P2012−5534)
【出願日】平成24年1月13日(2012.1.13)
【分割の表示】特願2008−535422(P2008−535422)の分割
【原出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(506319352)
【Fターム(参考)】