説明

硬質で板状の鉱物を含む積層体

本発明は、コランダム結晶格子を有する酸化アルミニウムからなる板状の単結晶粒子をオーバーレイ中に含む積層体に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
同一又は異なる材料の少なくとも二つの層を押圧して貼り合わせることによって形成される多層の熱硬化性合成樹脂は積層体と呼ばれている。組み合わせにより、個々の材料の特性を補うことができる。
【背景技術】
【0002】
慣用的な層材料は、約0.5〜1.2mm厚のものであり、そして、たいてい、二次加工において、特殊な接着剤により支持材料(例えば、HDFボード又はチップボード)上に貼り付けられる。そのような積層体コーティングについて最も頻繁に使用される形態は、積層床材(Laminatboden)及びキッチンの調理台である。しかしながら、2〜20cmの厚さを有する積層体を問題なく製造することもできる。コンパクト積層体と呼ばれるそのような製品は、厚さをますます増大させることで自己支持型であり、そして、例えば、内装仕上げ材においてだけでなく、ファサードの化粧張り又はバルコニーの化粧張りとして、屋外用途における使用も見出されている。積層体は、多くの好ましい特性を有する。すなわち、表面が密で、耐衝撃性かつ耐摩耗性であるという特性を有する。それらの特性は、様々な構造で付与することができ、そして高温に対してさえも、損傷することなく短時間持ちこたえる。その表面は手入れ及び清浄するのが簡単で、耐熱性かつ耐光性、並びに無臭で、そしてアルコールあるいは有機溶剤並びに水蒸気の影響に対して痛みにくい。
【0003】
積層板を得るためには、いくつかの樹脂含浸紙を、圧力及び温度下に相互に押圧する。樹脂としては、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、尿素−ホルムアルデヒド樹脂及びそれら材料の組み合わせが使用される。例えば積層床材に使用されるような価値の高い装飾用層材料では、、次の層が使用される。すなわち、コア層は複数のフェノール樹脂含浸紙からなり、その上にメラミン樹脂を含浸させた装飾層がある。最上部分ではいわゆるオーバーレイが押圧され、これは、二つの透明なメラミン樹脂含浸紙からなり、それらの間には粗大コランダム(>20μm)からなるコランダム層を挿入することができる。コランダムを充填したオーバーレイの使用も可能である。下面上には反作用層(Gegenzug)が使用され、これは、完成した加工材の撓みを低減する。粗大コランダムは、摩耗から装飾を保護し、そして必要な安定性をもたらすという役割を有する。しかしながら、それによって耐引っかき性が高められることはほとんどない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2008/101621号パンフレット
【特許文献2】アイルランド特許出願公開第IE903320号明細書
【特許文献3】国際公開第2004/060804A1号パンフレット
【特許文献4】ドイツ国特許出願公開第102007008468A号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多層構造物ではたいてい封止層(Abbschlussschicht)も使用されており 、これには加圧板を保護しそして使用面が粗くなるのを防ぐために、コランダムは装備されない。更に、粗大コランダムは、積層体の押圧時に沈降することがあり得るかもしれない。それ故に、その封止オーバーレイは、保護されない形で日常的な引っかき作用にさらされる。
【0006】
国際公開第2008/101621号パンフレット(特許文献1)では、金属酸化物ナノ粒子を加えることによって、オーバーレイの引っかき敏感性を低下させている。それにもかかわらず、積層板(Laminatplatten)のオーバーレイにおける引っかき抵抗性を著しく増大させるという要望が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
驚くべきことに、その課題は、積層板のオーバーレイ中に小板状で単結晶性のコランダムを加えることによって解決することができた。
【0008】
それ故、本発明の対象は、オーバーレイ中に、コランダム結晶格子を有する、酸化アルミニウムからなる板状で、単結晶性の粒子を含む積層体である。本発明に従って使用される好ましい粒子は、50〜500nmの厚さの時に1〜50マイクロメータ、好ましくは2〜20マイクロメータの平均径を有する。そのアスペクト比(径:厚の比)は、1:10〜1:100、好ましくは1:20〜1:100、特に1:30〜1:100、就中好ましくは1:50〜1:100である。
【0009】
各小板片はコランダム単結晶であり、可視光に対して完全に透明である。
【0010】
本発明のコランダム小板片を、細かさがnm範囲内、好ましくは<200nmである酸化アルミニウムからなるナノ粒子と混合することも有利であることができる。ナノ粒子により、小板片間の隙間を満たすことができる。その際、ナノコランダム/小板片コランダムの混合比は任意のものであることができる。
【0011】
更に、耐摩耗性を向上させるのに常法で使用される球状の粗大コランダム(10〜100μmの粒度)を、本発明のコランダム小板片と組み合わせるという可能性も存在する。その組み合わせの場合、向上された耐引っかき性及び向上された耐摩耗性を有する積層体が得られる。
【0012】
粗大コランダム、小板状のコランダム又はそれの組み合わせは、1〜20g/mの量で使用することができる。それ故、所望の耐摩耗性及び耐引っかき性に依存して、任意の混合比が使用可能である。
【0013】
板状の酸化アルミニウムの製造はそれ自体公知であり、例えば、アイルランド特許出願公開第IE903320号明細書(特許文献2)で詳細に説明されている。ここでは、水酸化アルミニウムが、無機フッ化物、例えば、LiF、NaF、KF又はCaFの存在下で、900〜1,100℃の温度でか焼される。
【0014】
製造は、国際公開第2004/060804A1号パンフレット(特許文献3)に従って遂行することもでき、その際、水酸化アルミニウムが、塩マトリックス、例えば、NaCl又はNaSO中でか焼され、これは異方性成長を促進させる。
【0015】
本発明に従って使用される小板状の酸化アルミニウムは、純粋なコランダム又はドープされたコランダムであることができる。ドープには、コランダム相の六方晶格子の小板形状の形成を妨げない全ての金属、例えば、化学元素の周期律表の第II主族の元素、ケイ素元素、鉄元素、コバルト元素、ニッケル元素、銅元素、亜鉛元素、ジルコニウム元素、チタン元素、クロム元素、マンガン元素及びランタンニド元素が考慮される。その際のドープ材料の含有量は、10重量%未満、好ましくは0.0001〜5重量%である。
【0016】
以下の実施形態において、”小板状の酸化アルミニウム”とは、小板形状にある純粋なコランダムともドープされたコランダムとも理解される。
【0017】
本発明の対象は、本発明の積層体の製造方法でもあり、コランダム結晶格子を有する小板状の酸化アルミニウムを含浸樹脂溶液と混合し、その混合物を紙又は織布(textiles Gewebe)、好ましくは化粧紙に、トップコートオーバーレイ(Top−coat−overlay)で含浸させ、そしてその含浸された紙又は織布をホットプレスで支持板上に施用することを特徴とする。
【0018】
小板状の酸化アルミニウムの割合は、固形の含浸樹脂に基づいて、有利には1〜10重量%である。慣用的な10〜50μmの層厚のオーバーレイ層の場合、これは1〜20g/mの鉱物含有量に相当する。
【0019】
含浸樹脂としては、好ましくはホルムアルデヒド−メラミン樹脂、ホルムアルデヒド−尿素樹脂、ホルムアルデヒド−フェノール樹脂及びそれら樹脂の混合物が使用される。樹脂は、通常は水に溶解され、そして、更なる慣用的な添加剤、例えば硬化剤及び平滑化剤(Verlausmittel)を含むことができる。
【0020】
有利には、本発明のトップコートオーバーレイ含浸を行う前に、紙又は織布を、一回又は中間で乾燥して複数回、含浸樹脂溶液を含む浴に通す(ベース−コート−オーバーレイ)。耐摩耗性を向上させるために、この含浸樹脂溶液に球状の粗大コランダムを、有利には、固形の含浸樹脂に基づいて1〜10重量%の量で添加することができる。トップコート含浸は、本発明の小板状の酸化アルミニウム粒子を含む別の浴中に浸すことによって、あるいは、然るべき液状混合物を噴霧することによって行うことができる。紙又は織布を、本発明の小板状の酸化アルミニウム粒子を含む液剤(Flotte)にだけ、一回又は複数回含浸させることも可能である。
【0021】
ホットプレスは、一般に、100〜180℃の温度及び80〜200バールの圧力で作用させる。
【0022】
含浸樹脂溶液は、たいてい、30〜70重量%、好ましくは40〜60重量%の樹脂濃度を有する。
【0023】
代替的な操作方法において、すでに樹脂が含浸されておりそして本発明の小板状の酸化アルミニウム粒子、場合によっては及び球状の粗大コランダムを原紙材中に含む、いわゆるオーバーレイ紙が使用される。このオーバーレイ紙はそれから化粧紙上に置かれ、そして同様にホットプレスで支持板上に施用される。
【0024】
オーバーレイとして、小板状のコランダムを含有するUV塗料を使用することも考えられる。
【0025】
本発明の積層体は、それに加えて、塗工技術において慣用的な、例えば、反応性希釈剤、溶媒及び共溶媒、ワックス、つや消し剤、滑剤、消泡剤、排気剤、平滑化剤(Verlaufmittel)、チキソトロープ剤、増粘剤、無機及び有機顔料、フィラー、粘着促進剤、UV安定剤、HALS化合物、ラジカル捕捉剤、帯電防止剤、湿潤剤及び分散剤及び/又は硬化の種類に応じて必要な、触媒、共触媒、開始剤、ラジカル発生剤(Radikalbildnern)、光開始剤、光増感剤のような、更に別の添加剤を含むことができる。これ以外の添加剤としては、ポリエチレングリコール及びその他の保水剤、PEワックス、PTFEワックス、PPワックス、アミドワックス、FTパラフィン、モンタンワックス、グラフト化ワックス、天然ワックス、マクロ結晶パラフィン及び微結晶パラフィン、極性ポリオレフィンワックス、ソルビタンエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、PTFE、湿潤剤又はケイ酸塩が挙げられる。
【0026】
以下の実施例では、パーセントは重量%を意味する。
【実施例】
【0027】
例1
1〜30マイクロメータの径及び50〜200nmの厚さ、アスペクト比約1:90の小板状のコランダム粒子を、国際公開第2004/060804A1号パンフレット(特許文献3)の例5と同様に製造する。
【0028】
このコランダム小板片を、水性の含浸樹脂(固形のKauramin(登録商標) 773(BASF)、約50%濃度の樹脂溶液、に基づいて8%コランダム小板片)に、硬化剤及び平滑剤と一緒に混ぜ合わせ、そしてその混合物を印刷された黒色の化粧紙をコーティングするのに使用した。これを、前記液剤(Flotte)で二重に 含浸し、そしてその都度、乾燥棚で120℃で予濃縮 (vorkondensiert)した。含浸物の乾燥後、160℃及び200バールの圧力のホットプレスで、化粧紙の支持板(40×40cm、5mm厚のHD支持板)上への積層化を行った。プレス時間は4分であった。
【0029】
比較例1(鉱物の使用なし)
含浸樹脂中にコランダム小板片がない以外は例1における方法と同様に行った。
【0030】
比較例2(ナノコランダム)
小板状のコランダムの代わりに、ドイツ国特許出願公開第102007008468A号明細書(特許文献4)に従って製造された、120nmのd90を有するナノコランダムを、例1で挙げた含浸樹脂中に8%濃度で加えた。化粧紙の製造及び積層化は、例1と同様に行った。
【0031】
比較例3(粗大コランダム)
小板状のコランダムの代わりに、80μmのd90を有する球状の粗大コランダムを、例1で挙げた含浸樹脂中に8%濃度で加えた。その粗大コランダムを有する液剤は第1の含浸時にしか使用しなかった。第2の含浸は、コランダムのないKauraminで行った。化粧紙の製造及び積層化は、例1と同様に行った。
【0032】
完成した積層体切片をそれぞれ、その耐引っかき性に関して引っかき試験機で試験した。スコッチ・ブライトパッド(Scotch−brite pad)No.96を5N(0.5kg重)の荷重力で使用した。パッドの移動を直線状に200行程行った。各50行程後に、光沢測定装置MICRO−TRI−GLOSSμ(BYK Gardner)で、発生する引っかき傷によって生じる光沢の低下を測定した。
【0033】
コランダム粒子自体は、その高い透明性によって光学特性を損なわない。
【0034】
表は、200行程後(引っかき)に対応する残留光沢を示している。
【0035】
【表1】

【0036】
耐引っかき性は、本発明のコランダム小板片によって著しく向上させることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コランダム結晶格子を有する酸化アルミニウムからなる板状の、単結晶粒子をオーバーレイ中に含む積層体。
【請求項2】
前記粒子が、50〜500nmの厚さの時に1〜50マイクロメータの範囲内の平均径を有することを特徴とする、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記粒子が、1:10〜1:100のアスペクト比を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記粒子のアスペクト比が、1:50〜1:100であることを特徴とする、請求項3に記載の積層体。
【請求項5】
前記粒子が金属でドープされたコランダムであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つに記載の積層体。
【請求項6】
前記粒子が、1〜20g/mの量で前記オーバーレイ中に含まれることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一つに記載の積層体。
【請求項7】
前記板状の粒子が、10〜100μmの粒度の球状の粗大コランダムと組み合わされることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一つに記載の積層体。
【請求項8】
コランダム結晶格子を有する板状の酸化アルミニウムを含浸樹脂溶液と混合し、その混合物を、紙又は織布、好ましくは化粧紙に、トップコートオーバーレイで含浸させ、そしてその含浸させた紙又は織布をホットプレスで支持板上に施用することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一つに記載の積層体の製造方法。
【請求項9】
前記紙又は織布を、一回又は中間で乾燥して複数回、含浸樹脂溶液を含む浴に通し、そして引き続いてトップコートオーバーレイ含浸が行われることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記トップコートオーバーレイ含浸が、前記板状の酸化アルミニウム粒子を含む浴中に浸すことによって、あるいは板状の酸化アルミニウム粒子及び含浸樹脂溶液からなる液状混合物を噴霧することによって遂行されることを特徴とする、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記トップコートオーバーレイ含浸が、すでに樹脂で含浸されておりそして前記板状の酸化アルミニウム粒子、場合によっては及び球状の粗大コランダムを原紙材中に含有するオーバーレイ紙を用い、そのオーバーレイ紙を、紙又は織布、好ましくは化粧紙上に置き、そしてホットプレスで前記支持板上に施用することによって遂行されることを特徴とする、請求項8に記載の方法。

【公表番号】特表2012−521312(P2012−521312A)
【公表日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−501171(P2012−501171)
【出願日】平成22年3月20日(2010.3.20)
【国際出願番号】PCT/EP2010/001754
【国際公開番号】WO2010/108633
【国際公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(398056207)クラリアント・ファイナンス・(ビーブイアイ)・リミテッド (182)
【Fターム(参考)】