硬質発芽穀類加工食品およびその製造方法
【課題】小麦粉食品生地を用いて製造する食品(特にパン、麺状食品、饅頭の皮、菓子など)において、‘通常の小麦粉以外の穀類(特に玄米)への代替率を向上させる’とともに、‘製造した食品の食味、物性、栄養を顕著に向上できる’技術を提供する。
【解決手段】澱粉全量の1〜20%がレジスタントスターチであり、且つ、3.5〜30乾燥重量%の食物繊維、及び、0.005乾燥重量%以上のγ−アミノ酪酸、を含有することを特徴とする発芽穀類糊化澱粉組成物、;前記発芽穀類糊化澱粉組成物と小麦粉とを、乾燥重量に換算して20:80〜70:30の割合で均一に含有する、小麦粉食品生地、;および前記小麦粉食品生地の製造方法。また、前記生地を用いて製造された小麦粉食品(パン、麺状食品、饅頭の皮、菓子など)。
【解決手段】澱粉全量の1〜20%がレジスタントスターチであり、且つ、3.5〜30乾燥重量%の食物繊維、及び、0.005乾燥重量%以上のγ−アミノ酪酸、を含有することを特徴とする発芽穀類糊化澱粉組成物、;前記発芽穀類糊化澱粉組成物と小麦粉とを、乾燥重量に換算して20:80〜70:30の割合で均一に含有する、小麦粉食品生地、;および前記小麦粉食品生地の製造方法。また、前記生地を用いて製造された小麦粉食品(パン、麺状食品、饅頭の皮、菓子など)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の組成を有する発芽穀類糊化澱粉組成物、;前記発芽穀類糊化澱粉組成物と小麦粉とを特定の割合で含有する小麦粉食品生地、;前記小麦粉食品生地の製造方法、;前記小麦粉食品生地を用いた食品(特にパン、麺状食品、饅頭の皮、菓子など)、;に関する。
詳しくは、本発明は、‘通常の小麦粉以外の穀類(特に玄米)への代替率を向上する’ことを可能とするとともに、‘製造した食品の食味、物性、栄養が顕著に向上された’小麦粉食品生地の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
わが国は高齢社会となり、医療費が増加している。高血圧、糖尿病、肥満などの生活習慣病が増加し、医療技術や有効な薬品の開発が必要とされているほか、適正な食事や運動によって、生活習慣病の発症を予防することが必要である。
生活習慣病の発症を予防するためには、適正な運動をすることに加えて、デンプン、タンパク質、脂質のカロリーバランスを、「日本型食生活」と呼称される、昭和50年代の比率(炭水化物:57〜68%、タンパク質:12〜13%、脂質:20〜30%)に戻すことが勧められており、食物繊維、アミノ酸、ポリフェノールなどの摂取も有効とされている。
現在、わが国では、白米の米飯や小麦粉によるパンや麺が食生活におけるカロリー摂取源の中心であり、上記健康を指向した食品として、玄米食、発芽玄米食、雑穀食、アマランサスを用いる食品などがあるが、さらに、調理が簡単でおいしく、かつ保存性に優れた新しい健康指向食品の開発が求められている。
【0003】
健康を指向した食品の例として、玄米食があるが、玄米は白米に比べて硬く、白度が低く、調理前の吸水時間を長くしたり、圧力釜で炊飯したりするなどの手間がかかるという問題がある。
また、健康を指向した食品の例として、全粒粉パンがあるが、パンに胚芽が認識され、白度や食感が通常のパンより劣るとされている。
また、小麦粉に米粉を添加するパンがあるが、従来の研究報告では、小麦粉に米粉を添加してパンを製造する場合には、米が小麦と異なり、グルテン形成能を持たないため、品質を損なわない添加限度が約20%であり、麺を製造する場合には、官能検査の点から添加限度が5%と報告されている(非特許文献1)。
【0004】
小麦粉食品における小麦粉を他の穀類に代替する技術としては、多くの技術開発が行われてきた。例えば、米粉の4〜8質量部を加熱糊化させて残りの未糊化米粉と混合してパン生地を調製する特許文献1や、穀類から単離された全デンプンの30%以下をα化させて残りの未糊化デンプンと混合混練りして麺生地を調製する特許文献2、が挙げられる。
また、本発明者らも、これまでに、発芽玄米(特許文献3)や膨化玄米(特許文献4)に関する技術開発を行い、超硬質米の特性(非特許文献2、特許文献5)の解明を行ってきた。
しかしながら、小麦粉生地を用いて製造する食品(特にパン、麺状食品、饅頭の皮、菓子など)において、通常の小麦粉以外の穀類への代替率を向上させるとともに、製造した食品の食味、物性、栄養を顕著に向上できる、さらなる改良技術の開発が求められてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004‐267144号公報
【特許文献2】特開2004‐350559号公報
【特許文献3】特許第4166011号公報
【特許文献4】特許第4126335号公報
【特許文献5】特開2006‐217813号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】農林水産技術会議事務局、研究成果No 161「米の新加工食品の開発」、p.107-178、1984年
【非特許文献2】高橋 仁ら、日本食品科学工学会誌、48巻8号、p.617-621、2001年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決し、小麦粉食品生地を用いて製造する食品(特にパン、麺状食品、饅頭の皮、菓子など)において、‘通常の小麦粉以外の穀類(特に玄米)への代替率を向上させる’とともに、‘製造した食品の食味、物性、栄養を顕著に向上できる’技術を開発することを目的とする。
すなわち、本発明では、パン、麺状食品、饅頭の皮、菓子などの食品のおいしさを保ちながら、健康の維持増進に有効なレジスタントスターチ、食物繊維、アミノ酸などの機能性成分を増強し、しかも従来の食品に比べて、品質の保存性の高い食品およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成すべく本発明者らが鋭意研究した結果、発芽穀類(特に硬質形質を有する品種の発芽穀類)を糊化させた発芽穀類澱粉糊化組成物を、小麦粉に混合して均一な生地を調製することによって、従来のパン、麺状食品、饅頭の皮、菓子などの小麦粉食品の品質特性(食味、物性、栄養)を、飛躍的に高めることが可能となることを見いだし、本発明に到達した。
【0009】
即ち、請求項1に係る本発明は、澱粉全量の1〜20%がレジスタントスターチであり、且つ、3.5〜30乾燥重量%の食物繊維、及び、0.005乾燥重量%以上のγ−アミノ酪酸、を含有することを特徴とする発芽穀類糊化澱粉組成物に関する。
請求項2に係る本発明は、請求項1に記載の発芽穀類糊化澱粉組成物と小麦粉とを、乾燥重量に換算して20:80〜70:30の割合で均一に含有する、小麦粉食品生地に関する。
請求項3に係る本発明は、澱粉全量の1〜20%がレジスタントスターチであり、且つ、3.5〜30乾燥重量%の食物繊維、及び、0.005乾燥重量%以上のγ−アミノ酪酸、を含有する、澱粉糊化度が90%以上の発芽穀類糊化澱粉組成物を調製し、;
当該発芽穀類糊化澱粉組成物と小麦粉とを、乾燥重量に換算して20:80〜70:30の割合で均一に含有させることを特徴とする、小麦粉食品生地の製造方法に関する。
請求項4に係る本発明は、前記発芽穀類糊化澱粉組成物が、前記発芽穀類糊化澱粉組成物の乾燥重量100重量部あたり、80〜2000重量部の水分を含むように調製されたものである、請求項3に記載の小麦粉食品生地の製造方法に関する。
請求項5に係る本発明は、前記発芽穀類糊化澱粉組成物の調製が、食物繊維含有素材を均一に混合する工程を含むものである、請求項3又は4に記載の小麦粉食品生地の製造方法に関する。
請求項6に係る本発明は、前記発芽穀類糊化澱粉組成物の調製が、蒸煮する工程を含むものである、請求項3〜5のいずれかに記載の小麦粉食品生地の製造方法に関する。
請求項7に係る本発明は、前記発芽穀類が、穀類を水あるいは温湯に浸漬し、昇温速度0.2〜4℃/分で30〜60℃に加温し、20分〜6時間浸漬することによって、迅速に発芽させたものである、請求項3〜6のいずれかに記載の小麦粉食品生地の製造方法に関する。
請求項8に係る本発明は、請求項7において前記穀類を迅速に発芽させた後、得られた発芽穀類を炊飯する工程を含むものである、小麦粉食品生地の製造方法に関する。
請求項9に係る本発明は、前記発芽穀類が、グルコース重合度6〜12のアミロペクチン短鎖の割合が全アミロペクチン鎖の20%以下である硬質米の玄米、硬質大麦あるいは硬質小麦を発芽させたものを、10重量%以上含有するものである、請求項3〜8のいずれかに記載の小麦粉食品生地の製造方法に関する。
請求項10に係る本発明は、前記発芽穀類が、グルコース重合度6〜12のアミロペクチン短鎖の割合が全アミロペクチン鎖の20%以下である硬質米の玄米を発芽させたものを、10重量%以上含有するものである、請求項3〜9のいずれかに記載の小麦粉食品生地の製造方法に関する。
請求項11に係る本発明は、前記食物繊維を含有する素材が、穀類を除く植物体の可食部、海藻の藻体、担子菌類子実体、および、甲殻類の殻から選ばれる1以上のものである、請求項3〜10のいずれかに記載の小麦粉食品生地の製造方法に関する。
請求項12に係る本発明は、前記発芽穀類糊化澱粉組成物中のレジスタントスターチの含量が、澱粉全量の2〜20%である、請求項3〜11のいずれかに記載の小麦粉食品生地の製造方法に関する。
請求項13に係る本発明は、請求項3〜12のいずれかに記載の方法から得られた小麦粉食品生地に関する。
請求項14に係る本発明は、請求項2または13に記載の小麦粉食品生地を用いて製造された食品に関する。
請求項15に係る本発明は、請求項2または13に記載の小麦粉食品生地を用いて製造されたパンに関する。
請求項16に係る本発明は、請求項2または13に記載の小麦粉食品生地を用いて製造された麺状食品に関する。
請求項17に係る本発明は、請求項2または13に記載の小麦粉食品生地を用いて製造された菓子に関する。
請求項18に係る本発明は、請求項2または13に記載の小麦粉食品生地を用いて製造された中華饅頭の皮に関する。
請求項19に係る本発明は、水分含量が10%以下である請求項14〜18のいずれかに記載の食品に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、‘通常の小麦粉以外の穀類(特に玄米)への代替率を向上する’ことを可能とするとともに、‘製造した食品の食味、物性、栄養が顕著に向上された’小麦粉食品(特にパン、麺状食品、饅頭の皮、菓子など)の製造方法、を提供することを可能とする。
具体的には、小麦粉の使用量の20〜70重量%が代替された小麦粉食品を提供することが可能となる。
【0011】
また、本発明により、水分含量が10%以下の乾燥食品である小麦粉食品を製造し、食味と栄養機能性に優れ、微生物の繁殖や糊化デンプンの老化が抑制された保存性の高い新規加工食品として、保存食、非常食、旅行用携帯食、アウトドアレジャー用食品などに向けて活用することが可能となる。
また、本発明により、改めて加水することなく、小麦粉などと混合してパン、麺状食品、饅頭の皮、菓子などの生地を調製することが可能となる。
また、本発明により、食物繊維含量の高いパン、麺状食品、饅頭の皮、菓子などの製造が可能となり、整腸やコレステロール低下などの健康維持効果が期待できる。
また、本発明により、GABA含量の高いパン、麺状食品、饅頭の皮、菓子などの調製が可能となり、高血圧予防や脂肪肝抑制など、健康機能維持効果の期待できる食品の製造が可能となる。
また、本発明により、食感の優れたパン、麺状食品、饅頭の皮、菓子などの製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1における各種米粉含有食パンの外観を示す写真像図である。
【図2】実施例1における各種米粉含有食パンの物理特性を示すグラフである。
【図3】実施例2における各種米粉含有食パンの外観を示す写真像図である。
【図4】実施例2において、糊化澱粉組成物含有食パンから製造したラスクの外観を示す写真像図である。
【図5】実施例3における各種米粉含有食パンの外観を示す写真像図である。
【図6】実施例3において、糊化澱粉組成物含有食パンから製造したラスクの外観を示す写真像図である。
【図7】実施例4において製造した各種ラスクの外観を示す写真像図である。
【図8】実施例5において製造した糊化澱粉組成物含有麺の外観を示す写真像図である。
【図9】実施例6において製造した各種糊化澱粉組成物含有麺の外観を示す写真像図である。
【図10】実施例7において製造した各種糊化澱粉組成物含有麺の物理特性を示すグラフである。
【図11】実施例9において製造した発芽玄米糊化澱粉組成物含有乾麺の外観を示す写真像図である。
【図12】実施例10において迅速発芽させた各種穀類の発芽状態を示す写真像図である。
【図13】実施例11において製造した各種糊化澱粉組成物含有麺の外観を示す写真像図である。
【図14】実施例12において製造した各種糊化澱粉組成物含有スナック菓子の外観を示す写真像図である。
【図15】実施例13において製造した各種糊化澱粉組成物含有油揚げスナック菓子の外観を示す写真像図である。
【図16】実施例14において製造した各種糊化澱粉組成物含有クッキーの外観を示す写真像図である。
【図17】実施例15において製造した各種糊化澱粉組成物含有中華饅頭の外観を示す写真像図である。
【図18】実施例17において製造した各種糊化澱粉組成物(発芽玄米)の物理特性を示すグラフである。
【図19】実施例18において製造した各種糊化澱粉組成物含有油揚げスナック菓子の外観を示す写真像図である。
【図20】実施例19において製造した各種糊化澱粉組成物含有食パンの物理特性を示すグラフである。
【図21】実施例20において製造した各種糊化澱粉組成物含有麺のレジスタントスターチ含量を示すグラフである。
【図22】実施例21において製造した各種糊化澱粉組成物(発芽玄米)の炊飯前後におけるレジスタントスターチ含量の変化を示すグラフである。
【図23】実施例21において製造した各種糊化澱粉組成物(発芽玄米)の炊飯米のグルコース含量とグルタミン酸含量を示すグラフである。
【図24】実施例22において製造した各種糊化澱粉組成物(発芽玄米)中のレジスタントスターチ含量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、特定の組成を有する発芽穀類糊化澱粉組成物、;前記発芽穀類糊化澱粉組成物と小麦粉とを特定の割合で含有する小麦粉食品生地、;前記小麦粉食品生地の製造方法、;前記小麦粉食品生地を用いた食品(特にパン、麺状食品、饅頭の皮、菓子など)、;に関する。
詳しくは、本発明は、‘通常の小麦粉以外の穀類(特に玄米)への代替率を向上する’ことを可能とするとともに、‘製造した食品の食味、物性、栄養が顕著に向上された’小麦粉食品生地の製造方法に関する。
【0014】
<発芽穀類糊化澱粉組成物>
本発明において、「発芽穀類糊化澱粉組成物」とは、レジスタントスターチが澱粉全量の1〜20%であり、且つ、食物繊維が3.5〜30乾燥重量%、及び、γ−アミノ酪酸(GABA)が0.005乾燥重量%以上、を含有するものである。
【0015】
本発明の発芽穀類糊化澱粉組成物においては、レジスタントスターチを澱粉全量の1〜20%、好ましくは2〜20%、さらに好ましくは2〜15%、含むものである。
本発明におけるレジスタントスターチとは、デンプン分解酵素によって消化されにくいデンプンを指し、AACC公定法やメガザイム社の測定キットなどによって測定することができる。
レジスタントスターチ含量が当該所定の範囲より少ない場合、製造された食品にコレステロール低下などの機能性が得られないので不適当である。
また、当該所定の範囲より高い場合、澱粉が糊化しにくい上に、酵素による消化を受けにくいために、パン、麺などの食品を製造した場合に、食感と消化性が劣るので不適当である。
【0016】
本発明の発芽穀類糊化澱粉組成物においては、食物繊維を3.5〜30乾燥重量%、好ましくは4〜20乾燥重量%、含むものである。
本発明における食物繊維とは、摂取後に、体内で消化吸収されずに大腸に到達する成分であり、AACC公定法、メガザイム社キットなどで測定することができる。
食物繊維が当該所定の範囲より少ない場合、製造された食品にコレステロール低下などの生理機能性が十分に発揮されないために不十分である。
また、当該所定の範囲より高い場合、当該組成物の物理性が損なわれるとともに、パン、麺などの食品としての食感が悪くなるので不適当である。
【0017】
本発明の発芽穀類糊化澱粉組成物においては、γ-アミノ酪酸を0.005乾燥重量%以上、好ましくは0.02乾燥重量%以上、含むものである。
本発明におけるγ-アミノ酪酸とは、GABAと略称されるアミノ酸の一種であり、アミノ酸分析計や高速液体クロマトグラフによって測定することが可能である。
GABAが当該所定の範囲より少ない場合、パン、麺などの食品を調製した場合に、通常の小麦粉パンや麺などに比べてGABAの含有量が少なくなるため、多量にパンや麺を摂取する必要を生じるので不適当である。
【0018】
本発明における「発芽穀類糊化澱粉組成物」は、後述する特定の種類の穀類を発芽させて、糊化させることで調製することができる。
【0019】
本発明における発芽穀類とは、穀類種子を水や温湯に浸漬して発芽させたものである〔発芽工程〕。本発明においては、発芽種子(玄米)を用いることで、通常の玄米を用いる場合よりも、さらにGABAが増加するので発明の効果が高めることができる。
【0020】
特には、穀類種子を、水あるいは温湯に浸漬し、昇温速度0.2〜4℃/分で30〜60℃(好ましくは40〜50℃)に加温し、20分〜6時間(好ましくは1〜4時間)浸漬することによって、迅速に発芽させたものであることが望ましい。
当該条件で発芽させることによって、従来は20時間〜96時間かけて調製されていた発芽玄米を迅速に調製することが可能となる。
また、当該条件で発芽させることによって、発芽種子の糊化が進み、高タンパク質素材や高繊維素材を混合する際に、均一な混合が促進されるとともに、発芽穀類(具体的には発芽玄米)の特有の異臭やえぐ味が炊飯によって低減されるので、高品質の食品製造が可能になる。
なお、当該発芽処理に用いる水あるいは温湯に、赤タマネギ粉末、紅茶粉末、番茶粉末を加えることによって、炊飯(糊化)後の発芽玄米が軟らかくなり、物理特性に優れた発芽玄米の調製することができる。特に、赤タマネギ粉末を加えた場合、軟らかさに加えて、粘りが増加し、粘りと硬さの比であるバランス度を顕著に増加させることができる。
【0021】
本発明において、原料である発芽穀類とは、硬質形質を有する特定の穀類を発芽させたものを用いることができる。具体的には、グルコース重合度6〜12のアミロペクチン短鎖の割合が全アミロペクチン鎖の20%以下である、硬質米(特に超硬質米)、硬質小麦、硬質大麦などの発芽種子を指す。
硬質米としては、アミロペクチン短鎖の少ない「EM10」、「EM72」、「EM129」、「EM192」などの超硬質米(ae米)、;アミロース含量の高い「ホシユタカ」、「夢十色」、「ホシニシキ」、「越のかおり」などの高アミロース米、;を指す。
硬質小麦とは、「ダーク・ノーザン・スプリング(米国)」や「レッド・ウエスタン・スプリング(カナダ)」などに代表される、タンパク質含量および硝子率の高い小麦を指す。
硬質大麦とは、関東地域で栽培される「シュンライ」、「カシマムギ」、四国地域で栽培される「サンシュウ」、「イチバンボシ」、に見られるような、タンパク質含量が高く、硝子率の高い大麦を指す。
特に、超硬質米(ae米)の発芽玄米は、レジスタントスターチ含量の点で利点がある。また、生地が強くなり、パンの場合には比容積が増加し、麺の場合には麺線の強度が向上するので有効である。
なお、上記各硬質穀類は、単一種類のみで用いることもできるが、2以上のものを混合して用いることもできる。
【0022】
なお、上記硬質穀類に、硬質形質を有しない種類の発芽穀類(発芽玄米、発芽豆、発芽小麦、発芽大麦など)を混合させることで、製造する食品に様々な機能を付与することもできる。なお、この場合、各穀類を発芽させた後に混合させてもよく、各穀類の混合後に一緒に発芽させてもよい。
具体的には、紫黒米、低アミロース米、低グルテリン米、モチ米、巨大胚芽米、青大豆、モチ大麦、モチ小麦などを混合させることができる。
例えば、紫黒米を混合させることで、パン、麺、菓子などの食品がワインレッドの美しい色調になる上に、アントシアニンの抗酸化能によって体内の活性酸素が消去され、生活習慣病の発症を予防する効果があるので本発明の効果が高まる。なお、紫黒米とは、種子の果種皮にアントシアニン等の紫色の色素を蓄積する米を指し、品種としては、「朝紫」、「おくのむらさき」、「紫宝」などが挙げられる。
【0023】
本発明における発芽穀類糊化澱粉組成物は、上記‘特定の種類の発芽穀類を糊化させて液状にすること’で調製することができる〔糊化工程〕。
具体的に、発芽穀類を糊化させる場合、蒸煮することで行うことができる。蒸煮の方法としては、一般的に穀類(米飯)を炊飯する方法で行うことができるが、具体的には、加水炊飯を行い、蒸煮後にかゆ状になっていることが望ましい。
また、当該蒸煮を行う際に、穀類を浸漬する液として、ヨーグルトを含む液(具体的には5〜15重量%のヨーグルトを含む液)を用いることによって、製造する食品(具体的にはパン)の物性を柔らかくすることができる。
【0024】
このようにして糊化させた発芽穀類は、ホモゲナイズ等を行い、微粒を均一に分散させた状態にすることが望ましい。
【0025】
発芽穀類糊化澱粉組成物の調製は、当該組成物の乾燥重量100重量部あたり、80〜2000重量部、好ましくは200〜1000重量部の水分(具体的には乾燥法により測定した水分含量)を含むように、調製するものである。
水分含量が当該下限値より低い場合は、生地を調製する際に加水を行う必要があるので不適当であるほか、生地が硬くなりすぎて他の原料との均一な混合が不可能であるために不適当である。
また、水分含量が当該下限値より高い場合は、当該組成物中の固形物が少なすぎるために、生地を調製する際に生地強度が弱くなり、パンの比容積が小さくなったり、麺の強度が不足したりするので不適当である。
【0026】
発芽穀類糊化澱粉組成物の調製は、澱粉糊化度が90%以上、好ましくは95%以上になるように調製するものである。
本発明において、澱粉糊化度とは、グルコースが重合して形成されたデンプン分子が結晶化の状態(未糊化の状態)から、加熱や加圧によって分子間の水素結合が切断され、水との親和性が高まり、水溶液あるいは水懸濁液の状態での粘度が高まるとともに、アミラーゼなどのデンプン分解酵素の作用を受けやすくなる程度を指す。
なお、澱粉の糊化度は、B型粘度計やラピッドビスコアナライザー等の粘度測定装置によって粘度の増加として測定できるほか、ジアスターゼ、グルコアミラーゼ、ベータアミラーゼおよびプルラナーゼなどのデンプン分解酵素に対する被消化性の増加度として測定することができる。
澱粉糊化度が、当該所定の値以下の場合には、生地を調製する際に再度加水および再度加熱する必要を生じることに加え、生地の物理特性が十分でなく不適当である。また、パンや麺を製造する場合、パンの比容積が小さくなったり、麺の強度が不足することに加えて、パン、麺などが経時的に硬化するため、不適当である。
【0027】
<食品素材混合>
本発明においては、上記工程を経て発芽穀類糊化澱粉組成物を調製した後、もしくは、後述する生地を調製工程と同時に、‘食品素材’を均一に混合する工程を含むものであることが望ましい〔各種食品素材混合工程〕。
本工程で混合させる食品素材とは、‘食物繊維含有素材’、‘高タンパク質含有素材’、‘米粉’、などを指すものであり、特には、食物繊維含有素材を混合することが望ましい。
これらの食品素材を混合する方法としては、上記工程で発芽穀類を糊化した後に、均一に混合(例えば、ホモゲナイズ、ニーディング、手ごね)することで行うことができ、微粒を均一に分散させた状態することが望ましい。
これら各種食品素材は、当該組成物(100重量部)に対して2〜100重量部、より好ましくは10〜50重量部混合させることができる。
【0028】
食物繊維含有素材としては、例えば、穀類を除く植物体の可食部、海藻の藻体、担子菌類子実体、甲殻類の殻を用いることができる。
穀類を除く植物体の可食部としては、リンゴ、ミカン、オレンジ、ブドウ、ナシ、グレープフルーツ、パイナップル、イチゴなどの果実、;ダイコン、ハクサイ、キャベツ、ブロッコリー、タマネギ、赤タマネギ、ネギ、ショウガ、ゴーヤ、ニンジン、ホウレンソウ、コマツナなどの野菜、ダイズ、リョクトウ、インゲン、エンドウ、ササゲなどの豆類(もやしやきなこのように、発芽や加熱処理を施した後のものも含む)、を挙げることができる。
海藻の藻体としては、昆布、わかめ、テングサ、アラメ、ヒジキなどを挙げることができる。
担子菌類子実体としては、シイタケ、マツタケ、エノキタケ、シメジ、ナメコ、ハツタケ、マイタケ、キクラゲ、エリンギなどを挙げることができる。
甲殻類の殻としては、エビ、カニなどの殻を挙げることができる。
【0029】
高タンパク質含有素材としては、例えば、豆類、肉、卵、乳類を用いることができる。
豆類としては、ダイズ、リョクトウ、インゲン、エンドウ、ササゲなどの豆類(もやしやきなこのように、発芽や加熱処理を施した後のものも含む)、を挙げることができる。なお、豆類は、上記食物繊維含有素材としても用いることができる。
肉としては、豚ロース肉、ベーコン、牛バラ肉、鶏手羽肉、鶏モモ肉などを挙げることができる。
卵としては、鶏卵、アヒルの卵、ウズラの卵、ダチョウの卵などを挙げることができる。
乳類としては、牛乳、山羊の乳、馬の乳などを挙げることができる。
【0030】
米粉としては、コシヒカリ、あきたこまち、ヒノヒカリなどの品種の、通常の玄米粉、精米粉などを挙げることができる。そのほかに、ミルキークイーンなどのアミロース含量が低い低アミロース米や、こがねもちなどのもち米品種の精米粉を混合させることができる。
【0031】
<小麦粉食品生地および食品>
本発明においては、前記工程を経て得られた発芽穀類糊化澱粉組成物と、小麦粉とを、乾燥重量に換算して20:80〜70:30、好ましくは25:75〜50:50、の割合で均一に含有させて、小麦粉食品生地(パン、麺状食品、饅頭の皮、菓子など)を調製するものである〔生地調製工程〕。
当該組成物の含有割合が、所定範囲未満の場合、添加割合が低すぎるために添加効果が十分現れないので不適当である。
所定範囲を超えた場合、硬質種子が多すぎるために、糊液の粘度が高くなり過ぎ、生地材料との混合が十分に行われないので不適当である。
本発明においては、生地の調製に発芽穀類糊化澱粉組成物を用いることによって、通常の小麦粉以外の穀類への代替率を向上させた量を添加することができるものである。
なお、生地の調製方法としては、当該所定の割合で小麦粉を発芽穀類糊化澱粉組成物(乾燥重量)に置き換えることを除いては、通常の方法に従うことで、目的とする小麦粉食品の形態(パン、麺状食品、饅頭の皮、菓子など)に適した生地を調製することができる。
【0032】
上記得られた小麦粉食品生地を用いることで、目的とする各種小麦粉食品の形態、例えば、パン、麺状食品、饅頭の皮、菓子などを挙げることができる。また、せんべいなどの米菓、ライスペーパーなどのシート状食品、膨化させたスナック食品、圧扁させたフレーク食品、スープなどの液状食品などを挙げることもできる。
具体的に、パンとしては、食パン、菓子パン、ベーグル、ドーナッツ、フランスパン、乾パン、ラスクを挙げることができる。
麺状食品としては、うどん、パスタ、即席麺、乾麺、冷麺を挙げることができる。
饅頭の皮を用いた食品としては、中華饅頭、餃子、春巻、小籠包、桃饅頭などの各種点心、和菓子のまんじゅう、大福餅、団子、ういろうなどを挙げることができる。
菓子としては、スナック揚げ菓子、クッキー、スポンジケーキ、シュークリームなどを挙げることができる。
【0033】
本発明の上記糊化澱粉組成物含有食品は、従来の食品に比べて、外観、比容積、食感などの点で劣らない上に、食物繊維、レジスタントスターチ、タンパク質およびGABAの含有量の高い機能性食品(食味、物性、栄養が顕著に優れた食品)を調製できるので、きわめて有用である。
【0034】
なお、本発明においては、上記食品の水分が10%以下の場合、もしくは、乾燥処理(凍結乾燥、熱風乾燥、マイクロ波加熱乾燥など)を行って水分が10%以下の形態の食品にした場合には、微生物の繁殖と糊化澱粉の老化とが抑制され、きわめて保存性の高い食品となるので好適である。保存食、非常食、アウトドア用、旅行携帯食などとして活用することができる。
例えば、上記食品のなかでは、スナック揚げ菓子、膨化スナック菓子を挙げることができる。また、上記食品を乾燥させたものとしては、パンを乾燥させてラスク、乾パン、麺を乾燥させた乾麺、あられ、せんべい、クラッカーなどを挙げることができる。
【実施例】
【0035】
次に実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0036】
<実施例1> (発芽玄米糊化澱粉組成物含有パン)
(1)糊化澱粉組成物含有食パンの製造
・発芽
九州大学試験圃場で生産された超硬質米である「EM10」の玄米100gに、水400gを加え、35℃で90分間浸漬した後、35℃から加熱を開始して15分で55℃に到達させ、弱火にして55℃で30分間保温することで、発芽処理を行った。
【0037】
・糊化
その後、加熱を強くし、15分で沸騰に到達させ、15分間沸騰を継続させた後、加熱を停止し、15分間蒸らしを行うことで、澱粉を糊化させた発芽玄米がゆ(‘糊化澱粉組成物’)を得た。なお、このように(迅速発芽させて)出来上がったかゆ中の玄米は、胚芽がふくらみ、大部分が発芽したものであった。
この発芽玄米がゆについて、‘水分含量’を乾燥法により、‘タンパク質含量’をケルダール法により、‘食物繊維含量’をAACC法により、‘GABA含量’を高速液体クロマトグラフにより、‘レジスタントスターチ含量’をメガザイム社製レジスタントスターチ測定キットにより、そして、‘澱粉糊化度’をBAP法により測定した。
その結果、この発芽玄米がゆの水分含量は86重量%(乾燥重量100重量部あたり614.3重量部)、タンパク質含量は7.5乾燥重量%、食物繊維含量は7.6乾燥重量%、乾燥重量100gあたりのGABA含量は12.3mg(0.0123乾燥重量%)であり、澱粉あたりのレジスタントスターチ含量は11.6%、澱粉糊化度は97%であった。
【0038】
・各種食品素材混合
この発芽玄米がゆ300gに、豚ロース肉30g、加熱したなめこ30gを加え、TESCOM製スティックブレンダーTHM500によって、豚肉及びなめこが発芽玄米がゆと均一になるようホモゲナイズし、ホモゲナイズ物を調製した。
このホモゲナイズ産物について、各種成分を測定した。なお、各種成分の測定は、前記段落に記載の測定方法と同様に行った。
その結果、このホモゲナイズ物の水分含量は85.3重量%(乾燥重量100重量部あたり579重量部)、食物繊維含量は7.9乾燥重量%、乾燥重量100gあたりのGABA含量は9.8mg(0.0098乾燥重量%)であり、澱粉あたりのレジスタントスターチ含量は11.6%、澱粉糊化度は95%であった。
【0039】
・食パンの製造
このホモゲナイズ物に、市販の小麦粉(日清製粉製カメリヤ)300g、食塩1.5g、脱脂ミルク8.5g、無塩バター15g、砂糖17g、パン酵母3gを加え、パナソニック製家庭用製パン器(SD−BH101)を用いて、均一に混合して‘パン生地’を作成した。生地における糊化澱粉組成物(乾燥重量)と小麦粉との重量の割合は、30:70であった。
そして、引き続き当該家庭用パン器を用いて焼き上げることで、‘糊化澱粉組成物含有食パン’(試料1−D)を製造した。
【0040】
(2)糊化澱粉組成物の糊化度の影響
上記ホモゲナイズ物を室温で6時間放置した場合、澱粉糊化度は80%に低下した。
このホモゲナイズ物は粘度が過度に高くなっており、上記の小麦粉との混合および生地調製にきわめて困難を生じ、不適当であった。
【0041】
(3)食パンの評価
・物理特性および官能評価
上記製造した糊化澱粉組成物含有食パン(試料1−D)について、植物種子置換法によって測定したパンの比容積は4.2、テンシプレッサーを用いる多重バイト法で測定したHardnessは1.8gw/cm2であった。
また、このパンを6名で試食した結果、硬さや弾力性などの物理性においては市販の食パンと同等であり、外観と味については、市販の食パンを上まわる評価であった。
【0042】
(4)米粉を直接含有させたパンとの比較
・パンの外観の比較
上記製造した糊化澱粉組成物含有食パン(試料1−D)と、米粉を直接含有させた食パンとの外観を比較した。
米粉含有食パンの製造は、米粉粉末と小麦粉との重量の割合が30:70となるように直接混合して使用したことを除いて、上記段落(1)に記載の方法の食パンの製造方法と同様にして行った。
なお、EM10の米粉粉末としては、精米、玄米、発芽玄米(上記段落(1)に記載の発芽方法によって調製)の各粉末を用いた。
得られた各米粉含有食パン〔精米(試料1−A:比較)、玄米(試料1−B:比較)、発芽玄米(試料1−C:比較)〕と、上記段落(1)で製造した糊化澱粉組成物含有食パン(試料1−D)との外観を比較した結果を、図1に示す。
図1に示すように、糊化澱粉組成物含有食パン(試料1−D)は、米粉を直接含有させた食パンに比べて、膨張性が顕著に優れたものであった。
【0043】
・食味の比較
上記製造した糊化澱粉組成物含有食パン(試料1−D)と、各米粉含有食パン〔精米(試料1−A:比較)、玄米(試料1−B:比較)、発芽玄米(試料1−C:比較)〕の食味を比較した。
6名で試食した官能試験の結果、糊化澱粉組成物含有食パン(試料1−D)の食味が最も優れたものであった。
【0044】
・パンの物理特性の比較
上記製造した糊化澱粉組成物含有食パン(試料1−D)と上記米粉含有食パン〔玄米(試料1−B:比較)、発芽玄米(試料1−C:比較)〕の物理特性(TendernessおよびToughness)を測定した。測定は、これらのパンの製造直後のものを、タケトモ電機製テンシプレッサーを用いて多重バイト測定を行った。
なお、比較対照として、小麦粉のみ(日清製粉製カメリヤ100%)を用いたことを除いては上記段落(1)に記載の方法と同様にして食パンを製造し、物理特性を測定した。結果を図2に示す。
その結果、図2が示すように、糊化澱粉組成物含有食パン(試料1−D)の物性は、小麦粉100%の食パン(比較対照)と同等であった。それに対して、玄米(試料1−B:比較)や発芽玄米(試料1−C:比較)の粉末を用いた食パンは膨張が少なく、物性が劣っていた。
【0045】
・パンの老化の比較
上記のようにパン製造直後の物理特性を測定した後、4日経過した後に、糊化澱粉組成物含有食パン(試料1−D)のTendernessを測定した。
その結果、糊化澱粉組成物含有食パン(試料1−D)は、作成後4日経過した後のTendernessが5.26であり、発芽玄米米粉含有食パン(試料1−C:比較)の製造直後のTenderness(6.10)よりも、軟らかいことが判明した。
【0046】
・考察
以上のことから、硬質米発芽玄米の糊化澱粉組成物含有食パンを含有させたパンは、硬質米の米粉(精米、玄米、発芽玄米)を直接含有させただけのパンに比べて、パンの外観、膨張性、食味、物理特性および老化性の点において、飛躍的に優れていることが示された。
【0047】
<実施例2> (超硬質米と紫黒米の発芽玄米糊化澱粉組成物含有パン)
(1)糊化澱粉組成物含有食パンの製造
・発芽
九州大学試験圃場で生産された超硬質米である「EM10」の玄米70gに、新潟県産の紫黒米である「紫宝」の玄米30gを加え(即ち、超硬質米「EM10」と紫黒米である「紫宝」との重量の割合が、7:3になるように混合して)、水400gを加え、35℃から加熱を開始して15分で60℃に到達させ、60℃で30分間保温することで、発芽処理を行った。
【0048】
・糊化
その後、加熱を再開し、15分で沸騰に到達させ、15分間沸騰を継続させた後、加熱を停止し、15分間蒸らしを行うことで、澱粉を糊化させた発芽玄米がゆ(‘糊化澱粉組成物’)を得た。なお、2時間以内で(迅速発芽させて)出来上がったかゆ中の玄米は、胚芽がふくらみ、大部分が発芽したものであった。
この発芽玄米がゆ260gを、東芝製電気炊飯器(1.8L炊き)によって再度炊飯した。
【0049】
・各種食品素材混合
この発芽玄米がゆ200gに、加熱した豚ロース肉15g、加熱したなめこ15gを加え、TESCOM製スティックブレンダーTHM500によって、豚肉およびなめこが発芽玄米がゆと均一になるようホモゲナイズし、ホモゲナイズ物を調製した。
このホモゲナイズ物について、各種成分を測定した。なお、各種成分の測定は、実施例1に記載の測定方法と同様に行った。
その結果、このホモゲナイズ物の水分含量は87.6重量%(乾燥重量100重量部あたり706.5重量部)、食物繊維含量は6.8乾燥重量%、乾燥重量100gあたりのGABA含量は8mg(0.008乾燥重量%)であり、澱粉あたりのレジスタントスターチ含量は8.2%、澱粉糊化度は95%であった。
【0050】
・食パンの製造
このホモゲナイズ物に、市販の小麦粉(日清製粉製カメリヤ)180g、食塩1.0g、脱脂ミルク6g、無塩バター10g、砂糖12g、パン酵母2.1gを加え、パナソニック製家庭用製パン器(SD−BH101)を用いて、均一に混合して‘パン生地’を作成した。生地における糊化澱粉組成物(乾燥重量)と小麦粉との重量の割合は、30:70であった。
そして、引き続き当該家庭用パン器を用いて焼き上げることで、‘糊化澱粉組成物含有食パン’(試料2−2)を製造した。
【0051】
(2)食パンの評価
・物理特性および官能評価
上記製造した糊化澱粉組成物含有食パン(試料2−2)について、植物種子置換法によって測定したパンの比容積は4.2、テンシプレッサーを用いる多重バイト法で測定したHardnessは1.6gw/cm2であった。
また、このパンを6名で試食した結果、硬さや弾力性などの物理性においては市販の食パンと同等であり、外観と味については、市販の食パンを上まわる評価であった。
【0052】
(3)米粉を直接含有させたパンとの比較
・パンの外観の比較
上記製造した糊化澱粉組成物含有食パン(試料2−2)と、米粉を直接含有させた食パンとの外観を比較した。
米粉含有食パンの製造は、米粉粉末と小麦粉との重量の割合が30:70となるように直接混合して使用したことを除いて、上記段落(1)に記載の方法の食パンの製造方法と同様にして行った。
得られた米粉含有食パン(試料2−1:比較)と、上記で製造した糊化澱粉組成物含有食パン(試料2−2)との外観を比較した結果を、図3に示す。
図3が示すように、糊化澱粉組成物含有食パン(試料2−2)は、米粉を直接含有させた食パンに比べて、膨張性が優れていた。
なお、糊化澱粉組成物含有食パン(試料2−2)は、用いた発芽玄米あたり30重量%が紫黒米であるため、色が鮮やかな紫色であった。
【0053】
・食味の比較
上記製造した糊化澱粉組成物含有食パン(試料2−2)と、米粉含有食パン(試料2−1:比較)の食味を比較した。
6名で試食した官能試験の結果、糊化澱粉組成物含有食パン(試料2−2)の食味が最も優れたものであった。
【0054】
(4)ラスクの製造および評価
上記製造した糊化澱粉組成物含有食パン(試料2−2)を、80℃で3時間、熱風乾燥することで、ラスクを製造した。製造したラスクの外観を図4に示す。
このラスクは、水分含量が3.2%であり、サクサクした食感と豚肉の風味を有していた。このラスクは、室温で1カ月間放置した後も、微生物は繁殖せず、サクサクした食感が保持され、保存性に優れたものであった。
【0055】
<実施例3> (発芽玄米糊化澱粉組成物含有パン)
(1)糊化澱粉組成物含有食パンの製造
・発芽
九州大学試験圃場で生産された超硬質米である「EM10」の玄米100gに、水400gを加え、35℃で90分間浸漬した後、35℃から加熱を開始して15分で55℃に到達させ、弱火にして55℃で30分間保温することで、発芽処理を行った。
【0056】
・糊化
その後、加熱を強くし、15分で沸騰に到達させ、15分間沸騰を継続させた後、加熱を停止し、15分間蒸らしを行うことで、澱粉を糊化させた発芽玄米がゆ(‘糊化澱粉組成物’)を得た。なお、出来上がったかゆ中の玄米は、胚芽がふくらみ、大部分が発芽したものであった。
【0057】
・各種食品素材混合
この発芽玄米がゆ460gに、沸騰水中で20分間加熱したエビ殻30g、加熱したなめこ30g、加熱したおくら20gを加え、TESCOM製スティックブレンダーTHM500によって、エビ殻、なめこ及びおくらが、発芽玄米がゆと均一になるようホモゲナイズし、ホモゲナイズ物を調製した。
このホモゲナイズ物について、各種成分を測定した。なお、各種成分の測定は、実施例1に記載の測定方法と同様に行った。
その結果、このホモゲナイズ物の水分含量は76重量%(乾燥重量100重量部あたり317重量部)、タンパク質含量は14.4乾燥重量%、食物繊維含量は7.6乾燥重量%、乾燥重量100gあたりのGABA含量は8.3mg(0.0083乾燥重量%)であり、澱粉あたりのレジスタントスターチ含量は11.6%、澱粉糊化度は92%であった。
【0058】
・食パンの製造
このホモゲナイズ物に、市販の小麦粉(日清製粉製カメリヤ)300g、食塩1.8g、脱脂ミルク10.2g、無塩バター18g、砂糖20.4g、パン酵母3.6gを加え、パナソニック製家庭用製パン器(SD−BH101)を用いて、均一に混合して‘パン生地’を調製した。生地における糊化澱粉組成物(乾燥重量)と小麦粉との重量の割合は、30:70であった。
そして、引き続き当該家庭用製パン器を用いて焼き上げることで、‘糊化澱粉組成物含有食パン’(試料3−2)を製造した。
【0059】
(2)糊化澱粉組成物の糊化度の影響
上記ホモゲナイズ物を室温で6時間放置した場合、糊化度は82%に低下した。
このホモゲナイズ物は粘度が過度に高くなっており、上記の小麦粉との混合および生地調製にきわめて困難を生じ、不適当であった。
【0060】
(3)食パンの評価
・物理特性および官能評価
上記製造した糊化澱粉組成物含有食パン(試料3−2)について、植物種子置換法によって測定したパンの比容積は4.2、テンシプレッサーを用いる多重バイト法で測定したHardnessは1.6gw/cm2であった。
また、このパンを6名で試食した結果、硬さや弾力性などの物理性においては市販の食パンと同等であり、外観と味については、市販の食パンを上まわる評価であった。
【0061】
・各種成分
この糊化澱粉組成物含有食パン(試料3−2)について、各種成分を測定した。
また、比較対照として、小麦粉のみ(日清製粉製カメリヤ100%)を用いたことを除いては上記段落(1)に記載の方法と同様にして、食パンを製造し各種成分値も測定した。
なお、これらの各種成分は、実施例1に記載の測定方法と同様に行った。結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
このことから、小麦粉100%のパンと比べて、硬質米発芽玄米の糊化澱粉組成物を含有させたパンは、レジスタントスターチ、GABAの含量がきわめて高く、栄養機能性に優れていることが明らかとなった。
【0064】
(4)米粉を直接含有させたパンとの比較
・パンの外観の比較
上記製造した糊化澱粉組成物含有食パン(試料3−2)と、米粉を直接含有させた食パンとの外観を比較した。
なお、米粉含有食パンの製造は、EM10の精米粉末と小麦粉との重量の割合が30:70となるように直接混合して使用したことを除いて、上記段落(1)に記載の方法の食パンの製造方法と同様にして行った。
得られた米粉含有食パン(試料3−1:比較)と、上記で製造した糊化澱粉組成物含有食パン(試料3−2)との外観を比較した結果を、図5に示す。
図5が示すように、糊化澱粉組成物含有食パン(試料3−2)は、米粉を直接含有させた食パンに比べて、膨張性が優れていた。
【0065】
(5)ラスクの製造および評価
上記製造した糊化澱粉組成物含有食パン(試料3−2)を、80℃で3時間、熱風乾燥することで、ラスクを製造した。製造したラスクの外観を図6に示す。
このラスクは、水分含量が3.6%であり、サクサクした食感とエビの風味を有していた。このラスクは、室温で1カ月間放置した後も、微生物は繁殖せず、サクサクした食感が保持され、保存性に優れたものであった。
【0066】
<実施例4> (発芽玄米糊化澱粉組成物含有低温乾燥ラスク)
(1)糊化澱粉組成物含有低温乾燥ラスクの製造
・ラスク(試料4−4)の製造
‘各種食品素材’として、加熱したなめこ及び加熱したおくらを用いてホモゲナイズ物を調製したことを除いて、実施例3に記載の方法と同様にして、食パンを製造した。
そして、このパンを−80℃のディープフリーザー中で凍結した後、アイラ製凍結乾燥機(FD50)を用いて乾燥し、‘糊化澱粉組成物含有低温乾燥ラスク’(試料4−4:〔原料がEM10、生地の糊化澱粉組成物:小麦粉=30:70〕)を製造した。製造したラスクの外観を図7に示す。
【0067】
・ラスク(試料4−2)の製造
‘生地’における糊化澱粉組成物(乾燥重量)と小麦粉との重量の割合が、20:80になるように混合して生地を調製したことを除いて、上記試料4−4と同様に、‘糊化澱粉組成物含有低温乾燥ラスク’(試料4−2:〔原料がEM10、生地の糊化澱粉組成物:小麦粉=20:80〕)を製造した。製造したラスクの外観を図7に示す。
【0068】
・乾燥ラスク(試料4−1)の製造
‘原料’として、超超硬質米「EM10」ともち米である「こがねもち」との重量の割合が、3:1になるように混合して用いたことを除いて、上記試料4−4を同様に、‘糊化澱粉組成物含有低温乾燥ラスク’(試料4−1:〔原料がEM10:こがねもち=3:1、生地の糊化澱粉組成物:小麦粉=30:70〕)を製造した。製造したラスクの外観を図7に示す。
【0069】
・乾燥ラスク(試料4−3)の製造
‘原料’として、超硬質米「EM10」と高アミロース米である「ホシユタカ」との重量の割合が、3:1になるように混合して用いたことを除いて、上記試料4−4を同様に、‘糊化澱粉組成物含有低温乾燥ラスク’(試料4−3:〔原料がEM10:ホシユタカ=3:1、生地の糊化澱粉組成物:小麦粉=30:70〕)を製造した。製造したラスクの外観を図7に示す。
【0070】
(2)ラスクの評価
これらのラスクは水分含量が3%以下であり、常温で1ヶ月放置した後も、微生物は繁殖せず、サクサクした食感が保持され、保存性に優れたものであった。
【0071】
<実施例5> (発芽玄米糊化澱粉組成物含有麺)
(1)糊化澱粉組成物含有麺の製造
実施例1に記載の方法と同様にして、ホモゲナイズ物を調製した。
このホモゲナイズ物に市販の中力小麦粉230gと食塩2gとを加え、パナソニック製ホームベーカリー(SD−BM151)の「うどんパスタモード」で30分間混ねつした後、プラスチック袋に入れ、家庭用冷蔵庫に入れて8℃で一晩静置することで、‘生地’を調製した。生地における糊化澱粉組成物(乾燥重量)と小麦粉との重量の割合は、20:80であった。
翌日、インペリア製パスタ製造器で、厚さ3mmで5回繰り返し圧延し、シートを作製した後、切り刃を用いて5mm幅に切り出すことで、‘糊化澱粉組成物含有麺’(試料5:〔原料がEM10、各種食品素材が豚ロース肉及びなめこ〕)を製造した。製造した麺の外観を図8に示す。
【0072】
(2)麺の評価
・各種成分
上記製造した糊化デンプン組成物含有麺(試料5)について、各種成分を測定した。なお、各種成分の測定は、実施例1に記載の測定方法と同様に行った。
その結果、この麺の水分含量は34重量%、タンパク質含量は12乾燥重量%、食物繊維含量は3.7乾燥重量%、乾燥重量100gあたりのGABA含量は5mg(0.005乾燥重量%)であり、デンプンあたりのレジスタントスターチ含量は4.6%、BAP法で測定したデンプン糊化度は90%であった。
【0073】
・官能評価
次いで、この糊化デンプン組成物含有麺(試料5)を、2gの食塩を含む5Lの湯中で2分間ゆがき、官能検査に供した。
なお、比較対照として、中力小麦粉のみを用いたことを除いては上記段落(1)に記載の方法と同様にして麺生地を作り、麺を製造した。
6名の試食者による官能検査の結果、上記糊化デンプン組成物含有麺(試料5)は、中力小麦粉100%の麺(比較対照)に比べて、食感では同等であったが、麺のツヤや色等の外観が優れており、うま味のきわめて強い麺であった。
【0074】
<実施例6> (発芽玄米糊化澱粉組成物含有麺)
(1)糊化澱粉組成物含有麺の製造
・麺(試料6−E)の製造
‘原料’として超硬質米である「EM10」と一般良食味米である「コシヒカリ」との重量の割合が、1:1になるように混合した玄米を用いたことを除いて、実施例5に記載の方法と同様にして、‘糊化澱粉組成物含有食麺’(試料6−E:〔原料がEM10:コシヒカリ=1:1、各種食品素材が豚ロース肉及びなめこ〕)を製造した。製造した麺の外観を図9に示す。を製造した。
【0075】
・麺(試料6−F)の製造
‘各種食品素材’として加熱したエビ殻と加熱したなめこを用いたこと、を除いては、上記試料6−Eと同様に、‘糊化澱粉組成物含有麺’(試料6−F:〔原料がEM10:コシヒカリ=1:1、各種食品素材がエビ殻及びなめこ〕)を製造した。製造した麺の外観を図9に示す。
【0076】
・麺(試料6−G)の製造
‘各種食品素材’として加熱したベーコンと加熱したなめこを用いたこと、を除いては、上記試料6−Eと同様に、‘糊化澱粉組成物含有麺’(試料6−G:〔原料がEM10:コシヒカリ=1:1、各種食品素材がベーコン及びなめこ〕)を製造した。製造した麺の外観を図9に示す。
【0077】
・麺(試料6−H)の製造
‘原料’として、超硬質米である「EM10」と紫黒米である「紫宝」との重量の割合が、1:1になるように混合して用いたこと、及び、‘各種食品素材’として、加熱したなめこ、加熱したおくら、ブルーベリーを用いたこと、を除いて、上記試料6−Eと同様に、‘糊化澱粉組成物含有食麺’(試料6−H:〔原料がEM10:紫宝=1:1、各種食品素材がなめこ及びおくら及びブルーベリー〕)を製造した。製造した麺の外観を図9に示す。
【0078】
<実施例7> (混合米糊化澱粉組成物を含有する麺の物理特性)
(1)各種麺の製造
・発芽および糊化
表2に示す‘原料’の各種玄米100gに対し、米重量の2.6倍量加水し、37℃、90分間浸漬した後、35℃から加熱を開始して15分で55℃に到達させ、弱火にして55℃で30分間保温することで、発芽処理を行った。
その後、実施例1と同様にして、澱粉を糊化させた発芽玄米がゆ(‘糊化澱粉組成物’)を調製した。
【0079】
・麺の製造
次いで、これら発芽玄米がゆを、ミキサーでホモゲナイズしてホモゲナイズ物を調製した。なお、ホモゲナイズの際には、試料7−B〜7−Fには各種食品素材を加えずそのままホモゲナイズした。また、試料7−Gには加熱した豚ロース肉15gを、試料7−Hには加熱した豚ロース肉15gおよび加熱したなめこ50gを、各種食品素材として加えてホモゲナイズした。
そして、これらのホモゲナイズ物に、市販強力小麦粉〔(株)渡森製デューラムセモリナ粉〕233g、食塩13gを加え、パナソニック製家庭用製パン器(SDBH101)を用いて45分間捏ねて麺用の‘生地’を作製し、冷蔵庫で一晩ねかせた。生地における糊化澱粉組成物(乾燥重量)と、小麦粉との重量の割合は、表2に示すとおりであった。また、これらの生地の水分含量は約42重量%であった。
翌朝、生地中に十分空気を巻き込むように、10分間手でこねた。この生地をパスタマシンに通し、麺帯形成及び麺の切り出すことで、‘糊化澱粉組成物含有麺’(試料7−B〜試料7−H)を製造した。
【0080】
【表2】
【0081】
(2)麺の評価
・物理特性の評価
これらの麺を、0.5%となるよう食塩を加えた20Lの湯中で、沸騰状態で2分間加熱し、次いで、20℃の水道水で1分間冷却し、表面水をキムワイプで除去したものを準備した。そして、タケトモ電機製テンシプレッサーを用いて多重バイト測定を行った。
なお、比較対照として、小麦粉のみ(デューラムセモリナ100%)を用いたことを除いては上記段落(1)に記載の方法と同様にして麺(試料7−A)を製造し、物理特性を測定した。結果を図10に示す。
【0082】
図10に示されるように、試料7−D、7−Eは、比較対照の試料7−A(デューラムセモリナ100%)と同等の優れた麺物性を示した。
また、試料7−B、7−C、7−Fは、麺物性がやや弱く、コシのない麺となった。すなわち、麺の場合は、EM10単独よりも、‘もち米’や‘低アミロース米’を配合することで、麺の物理特性が向上することが示された。
また、肉やなめこを加えた試料7−G、7−Hは、比較対照の試料7−A(デューラムセモリナ100%)Aよりやや硬めの特徴的な物性を示し、きわめて旨味の強い麺となった。すなわち、EM10単独使用の場合でも、‘各種食品素材’である肉やなめこを配合することによって麺の物理的な特性が向上し、物性および味の両方が優れた麺となることが示された。
【0083】
<実施例8> (発芽玄米糊化澱粉組成物含有パン)
(1)糊化澱粉組成物含有食パンの製造
実施例1と同様にして、ホモゲナイズ物を調製した。
ついで、このホモゲナイズ物に市販強力粉210gを加え、さらに、砂糖15g、食塩2g、スキムミルク8.5g、無塩バター15gを加えて混合した。これに、予備発酵させたイースト(約35℃のぬるま湯100mlに1gの砂糖を加え、ドライイースト8gを加え、予備発酵させたもの)を加え、混合した。
この生地を板に乗せ、手でこね、こしがでてきた時点でひとまとめにし、丸めてボールに入れ、ラップで覆い、30℃で3倍容に発酵させた。そして、フィンガーテストにより、十分に発酵したことを確認した後、丸めてボールに入れ、プラスチック袋で覆って30分間ねかせた。そして、この生地を球状に丸め、乾燥した布巾をかけ、15分間、室温でねかせて、‘パン生地’を作成した。生地における糊化澱粉組成物(乾燥重量)と小麦粉との重量の割合は、24:76であった。
このパン生地を延ばし、ショートニングを塗った食パン型枠に入れ、35℃で1時間、発酵させた。次いで、200℃のオーブンで30分間焼成することで、‘糊化澱粉組成物含有食パン’(試料8)を製造した。このパンを実施例1と同様に測定し、小麦粉100%のパン(比較対照)と比較した結果を表3に示す。
【0084】
【表3】
【0085】
この結果、米粉を直接含有させたパンと比べて、硬質米発芽玄米の糊化澱粉組成物を含有させたパンは、GABA含有量および糊化度が極めて高く、食感および栄養機能性に優れていることが明らかになった。
【0086】
<実施例9> (発芽玄米糊化澱粉組成物含有麺)
(1)糊化澱粉組成物含有麺の製造
‘原料’として高アミロース米である「ホシユタカ」を用いたことを除いて、実施例3に記載の方法と同様にして、ホモゲナイズ物を調製した。
このホモゲナイズ物に、市販の中力小麦粉175gを加え、蒸練機で15分間蒸練し、練りだし機によって蒸練生地を3回練りだしした。生地における糊化澱粉組成物(乾燥重量)と小麦粉との重量の割合は、45:55であった。
この‘生地’を、圧延機によって厚さ2mmに圧延してシート状にし、切断して低温で一晩置いて硬化させた後、硬化生地を製麺機の切り歯で約2.5mmに切断することで、‘糊化澱粉組成物含有麺’(試料9)を製造した。
【0087】
(2)麺の評価
上記糊化澱粉組成物含有麺(試料9)について、各種成分を測定した。なお、各種成分の測定は、実施例1に記載の測定方法と同様に行った。
その結果、この麺の水分含量は34重量%、タンパク質含量は12乾燥重量%、食物繊維含量は4.1乾燥重量%、乾燥重量100gあたりのGABA含量は5mg(0.005乾燥重量%)であり、澱粉あたりのレジスタントスターチ含量は2.1%、BAP法で測定した澱粉糊化度は92%であった。
【0088】
次いで、この糊化澱粉組成物含有麺(試料9)を、2gの食塩を含む5Lの湯中で2分間ゆがき、官能検査に供した。
なお、比較対照として、中力粉のみを用いたことを除いては上記段落(1)に記載の方法と同様にして麺生地を作り、麺を製造した
6名の試食者による官能検査の結果、上記糊化澱粉組成物含有麺(試料9)は、中力小麦粉100%の麺(比較対照)に比べて、食感ではやや軟らかいという評価であったが、麺のツヤや色等の外観が優れており、甘味の強い麺であった。
【0089】
(3)乾麺の製造
上記糊化澱粉組成物含有麺(試料9)を、80℃で3時間、熱風乾燥することで、乾麺を製造した。製造した乾麺の外観を図11に示す。
上記乾麺は、水分含量が6.6%であり、熱湯中で10分間加熱することで、独特の食感とエビの特徴的な風味を示した。この乾麺は、室温で1ヶ月放置した後も、微生物は繁殖せず、良好な衛生性が保持され、保存性に優れたものであった。
【0090】
<実施例10> (硬質米、硬質小麦、硬質大麦の迅速発芽試験)
・発芽および糊化
九州大学試験圃場で生産された超硬質米である「EM10」の玄米100g、北海道産パン用小麦「ハルユタカ」100g、香川県産モチ大麦ダイシモチ100gにそれぞれ水400gを加え、20℃から加熱を開始して15分で55℃に到達させ、弱火にして55℃で30分間保温することで、発芽処理を行った。
その後、加熱を強くし、15分で沸騰に到達させ、15分間沸騰を継続させた後、加熱を停止し、15分間蒸らしを行ことで、澱粉を糊化させた発芽玄米がゆ(‘糊化澱粉組成物’)を得た。発芽状態を図12に示す。
2時間以内で(迅速発芽させて)出来上がったかゆ中の穀類は、胚芽がふくらみ、大部分が発芽したものであった。
【0091】
<実施例11> (大豆、小麦、大麦を添加した糊化澱粉組成物含有麺)
・糊化澱粉組成物含有麺の製造
‘原料’として、超硬質米「EM10」と硬質形質を有さない各種穀類(大豆、小麦あるいは大麦)との重量の割合が、7:3になるように混合して用いたことを除いて、実施例10に記載の方法と同様にして、発芽および澱粉を糊化させて、発芽玄米がゆ(‘糊化澱粉組成物’)を得た。
その後、実施例3に記載の方法と同様にして、ホモゲナイズ物を調製した。
このホモゲナイズ物を用いて、実施例9に記載の麺の製造方法と同様にして、‘生地’を調製し、‘糊化澱粉組成物含有麺’を製造した。生地における糊化澱粉組成物(乾燥重量)と小麦粉との重量の割合は、43:57であった。製造した各種麺の外観を図13に示す。
【0092】
<実施例12> (糊化澱粉組成物含有スナック菓子)
(1)スナック菓子の製造
‘発芽玄米粉’(九州大学試験圃場産EM10)80gに、各種食品素材(スイートコーン、ヤーコン、いんげん、乾燥トマト、エビ殻あるいは枝豆)をそれぞれ10g加え、純水100gとともに20分間加熱することで、澱粉を糊化させて、‘糊化澱粉組成物’を得た。次いで、TESCOM製スティックブレンダーTHM500によって、均一になるようホモゲナイズしホモゲナイズ物を得た。
このホモゲナイズ物を、市販強力小麦粉(カメリヤ)70gに混合し、純水30gを加えた後、手でこねて生地玉とし、家庭用製餅器(東芝もちっこ生地職人)を使用し、外釜に240mlの純水をいれ、蒸気があがったら上記の生地を入れ、延ばし棒で均一な厚み(約2mm)になるよう延伸し、‘棒状のスナック菓子生地’を作成した。生地における糊化澱粉組成物(乾燥重量)と小麦粉との重量の割合は、21:79であった。
これらの生地を、4℃の低温室で一晩静置し、硬化させた。硬化後、幅2mmに切断し、アドバンテック社製オーブン(FC−610)を使用し、160℃、20分間焼き上げることで、‘糊化澱粉組成物含有棒状スナック菓子’を製造した。製造した各種棒状スナック菓子の外観を図14に示す。
【0093】
(2)スナック菓子の評価
これらの棒状スナック菓子は、焼き上げ後も良好な形状を維持していた。また、試食試験を行った結果、香りと味が良好で、高い評価が得られた。
【0094】
<実施例13> (糊化澱粉組成物含有油揚げスナック菓子)
(1)油揚げスナック菓子の製造
‘各種食品素材’として、豚ロース肉、ブロッコリー、エリンギ、赤タマネギ、ショウガあるいはゴーヤを用いた以外は、実施例12と同様にして‘棒状のスナック菓子生地’を調製した。生地における糊化澱粉組成物(乾燥重量)と小麦粉との重量の割合は、21:79であった。
これらの生地を、180℃のコーンサラダオイル中で1分間油揚げすることで、‘糊化デンプン組成物含有棒状油揚げスナック菓子’を製造した。製造した各種棒状油揚げスナック菓子の外観を図15に示す。
【0095】
(2)油揚げスナック菓子の評価
これらの棒状の油揚げスナック菓子はサクサクした良好な食感を呈したものであった。
【0096】
<実施例14> (発芽大麦糊化澱粉組成物含有クッキー)
(1)クッキーの製造
‘原料’として硬質大麦であるハダカムギの「イチバンボシ」を用いたこと、及び、‘各種食品素材’として、赤タマネギもしくは昆布を用いたこと、を除いては、実施例1と同様にして、ホモゲナイズ物を調製した。そして、得られたホモゲナイズ物を凍結乾燥し、凍結乾燥後にイワタニ製ミルサーによって粉砕し、粉末を得た。
この粉末を原料としてクッキーを試作した。すなわち、ホモゲナイズ物の凍結乾燥粉末50g、バター20g、塩0.5g、砂糖20g、卵2.5gをよく混ぜ合わせ、‘生地’を調製した。なお、この生地調製に際しては、小麦粉(市販強力粉カメリヤ)を糊化澱粉組成物に対し等量用いた。糊化澱粉組成物(乾燥重量)と小麦粉との重量の割合=50:50)。
この生地をラップに包み、2時間冷凍庫でねかした後、オーブンを170℃に保温し、170℃、15分で焼き上げることで、小麦粉の半量を糊化澱粉組成物(乾燥重量換算)に代替した‘糊化澱粉組成物含有クッキー’を製造した(試料14−A:各種食品素材が赤玉ねぎ、試料14−B:各種食品素材が昆布)。製造したクッキーの外観を図16に示す。
【0097】
(2)クッキーの評価
上記製造した糊化澱粉組成物含有クッキー(試料14−A、14−B)について、官能検査に供した。
なお、比較対照として、市販薄力小麦粉のみを用いたことを除いては上記段落(1)に記載の方法と同様にして生地を作り、クッキーを製造した。
クッキーの試食試験を8名で行った結果、「食感」、「味・香り」の項目において、上記糊化澱粉組成物含有クッキー(試料14−A、14−B)が、市販薄力小麦粉のクッキー(比較対照)より有意に優れていた。
【0098】
<実施例15> (糊化澱粉組成物含有中華饅頭)
(1)糊化澱粉組成物含有中華饅頭の製造
・発芽
超硬質米である「EM10」(九州大学産)玄米250g、あるいは、紫黒米である「朝紫」250gを、0.1%次亜塩素酸ナトリウム水溶液に30分間浸漬して種子表面を殺菌した。
次いで、水で十分洗浄した後、1Lの温湯(30℃)に72時間浸漬することで、発芽処理を行った。なお、水は24時間ごとに新しい水と交換した。
【0099】
・糊化
その後、発芽処理した玄米を乾燥し、水分含量を15%に調整した。この発芽玄米に2倍量の水を加え、家庭用電気炊飯器、シャープ製電気炊飯器(KS−HA5−W)を用いて炊飯することで、澱粉を糊化させた発芽玄米がゆを調製した。
【0100】
・中華饅頭の製造
この発芽玄米がゆ200gに、各種食品素材(加熱処理した豚ロース肉30g、加熱したオクラ20g)を加え、ホモゲナイズして糊化澱粉組成物を調製した。次いで、市販強力小麦粉45gおよび市販薄力小麦粉25gを加え、食塩2g、および市販ベーキングパウダー7gを加えた。そして、パナソニック製ホームベーカリー(SD−BM151)の「うどんパスタモード」で15分間混ねつし、発芽玄米、小麦粉、豚肉およびオクラが均一になるよう練り合わることで、‘生地’を調製した。
次いで、冷蔵庫に2時間寝かせた後、打ち粉を振って、約15gずつ手で生地玉を成形し、具材を入れ、中火で15分間蒸し上げることで、中華饅頭(試料15−1:EM10の糊化澱粉組成物含有中華饅頭の皮、試料15−2:紫黒米の糊化澱粉組成物含有中華饅頭の皮)を製造した。製造した中華饅頭の外観を図17に示す。
【0101】
(2)中華饅頭(皮)の評価
上記糊化澱粉組成物含有中華饅頭(試料15−1)の皮について、各種成分を測定した。なお、各種成分の測定は、実施例1に記載の測定方法と同様に行った。
その結果、この中華饅頭の皮(試料15−1)の水分含量は、56.2重量%、タンパク質含量は14.7乾燥重量%、食物繊維含量は4.2乾燥重量%、乾燥重量100gあたりのGABA含量は41.2mg(0.0412乾燥重量%)であり、澱粉あたりのレジスタントスターチ含量は3.8%、であった。
【0102】
<実施例16> (糊化澱粉組成物含有餃子の皮)
(1)糊化澱粉組成物含有餃子の皮の製造
・発芽および糊化
‘原料’として超硬質米である「EM10」(九州大学産)を用いたことを除いては、実施例15と同様に、発芽処理を行った。
その後、発芽処理した玄米200gに、300gの水を加えて約40分間加熱することで、発芽玄米がゆを得た
【0103】
・餃子の皮の製造
この発芽玄米がゆ(400g)に、乾燥鮭粉末30g、オクラ乾燥粉末20gおよび加熱したなめこ粉末40gを加え、よく混合して糊化澱粉組成物を調製し、パナソニック製ホームベーカリー(SD−BM151)の「うどんパスタモード」で15分間混ねつし、発芽玄米、鮭、オクラ、なめこが均一になるよう練り合わせることで、混ねつ物を調製した。
この混ねつ物に、市販の中力小麦粉175gを混合し、15分間蒸練し、練りだし機によって蒸練生地を3回練りだした。生地における糊化澱粉組成物(乾燥重量)と小麦粉との重量の割合は、36:64であった。
この‘生地’を圧延機によって厚さ1mmに圧延してシート状にすることで、‘糊化澱粉組成物含有餃子の皮’(試料16)を製造した。
【0104】
(2)餃子の皮の評価
上記糊化澱粉組成物含有餃子の皮について、各種成分を測定した。なお、各種成分の測定は、実施例1に記載の測定方法と同様に行った。
その結果、この餃子の皮の水分含量は、32重量%、タンパク質含量は13.3乾燥重量%、食物繊維含量は7.6乾燥重量%、乾燥重量100gあたりのGABA含量は63mg(0.063乾燥重量%)であり、澱粉あたりのレジスタントスターチ含量は6.8%、であった。
【0105】
<実施例17> (発芽玄米における赤タマネギの効果)
(1)発芽および糊化
九州大学試験圃場で生産された超硬質米である「EM10」の玄米100gに、‘水400g(試料17−A)’、‘紅茶粉末を20gを添加した水400g(試料17−B)’、‘番茶粉末20gを添加した水400g(試料17−C)’、もしくは、‘赤タマネギ粉末20gを添加した水400g(試料17−D)’をそれぞれ加え、20℃から加熱を開始して15分で55℃に到達させ、弱火にして55℃で30分間保温することで、発芽処理を行った。
その後、加熱を強くし、15分で沸騰に到達させ、15分間沸騰を継続させた後、加熱を停止し、15分間蒸らしを行うことで、澱粉を糊化させた発芽玄米がゆ(‘糊化澱粉組成物’)を得た。なお、2時間以内で(迅速発芽させて)出来上がったかゆ中の玄米は、胚芽がふくらみ、大部分が発芽したものであった。
【0106】
(2)糊化した発芽玄米の特性
これらの糊化した発芽玄米の物理特性を、タケトモ電機製テンシプレッサーによって測定した結果を図18に示す。
図18に示されるように、紅茶(試料17−B)、番茶(試料17−C)を添加することで、発芽玄米が水のみ(試料17−A)の場合に比べて、炊飯(糊化)後の発芽玄米が軟らかくなることが分った。
また、赤タマネギ(試料17−D)を加えた場合は、炊飯(糊化)後の発芽玄米が軟らかくなり、粘りが増加し、粘りと硬さの比であるバランス度が顕著に増加し、物理特性に優れた発芽玄米の調製にきわめて有益であることが明らかになった。
【0107】
<実施例18> (糊化澱粉組成物含有油揚げスナック菓子)
(1)油揚げスナック菓子の製造
‘原料’として、硬質米「EM10」と一般良食味米である「コシヒカリ」との重量の割合が、7:3になるように混合した玄米を用いたことを除いて、実施例17に記載の方法と同様にして、発芽、糊化させて、発芽玄米がゆ(‘糊化澱粉組成物’)を得た。そして、乾燥させて発芽玄米粉を調製した。
そして、この‘発芽玄米粉’を用いたことを用いたこと以外は、実施例13と同様にして‘生地’を調製し、‘糊化澱粉組成物含有棒状油揚げスナック菓子’を製造した。生地における糊化澱粉組成物(乾燥重量)と小麦粉との重量の割合は、24:76であった。
製造した各種棒状油揚げスナック菓子の外観を図19に示す。
【0108】
(2)油揚げスナック菓子の評価
これらの棒状の油揚げスナック菓子は、サクサクとした食感と特徴的な風味とを有しており、試食者の評価がきわめて高かった。
【0109】
<実施例19> (パンの老化試験)
(1)糊化澱粉組成物含有食パンの製造
表4に示す‘原料’の穀類を用いたこと、および、発芽穀類を得た後に表4に示す炊飯方法で炊飯したことを除いて、実施例1と同様の方法で発芽穀類がゆ(‘糊化澱粉組成物’)を調製した。
なお、表4の炊飯方法において、‘通常炊飯’とは、上記穀類に対し10倍量加水して炊飯したかゆを指す。また、‘ヨーグルト炊飯A’とは、上記穀類に対し10%ヨーグルト液(明治乳業製ヨーグルトLG21を10重量%含む液)を10倍量加水して炊飯したかゆを指す。また‘ヨーグルト炊飯B’とは、上記穀類に対し、上記ヨーグルト10%液を1.5倍量加えて炊飯したかゆを指す。また、‘ヨーグルト炊飯AB’とは上記ヨーグルト炊飯Aを行った後にヨーグルト炊飯Bを行ったかゆを指す。
そして、このかゆを用いて、実施例1と同様の方法にして、ホモゲナイズ物を調製した。
次いで、このホモゲナイズ物を用いて、実施例1と同様の方法で、‘生地’を調製し、‘糊化澱粉組成物含有食パン’(試料19−B〜試料19−K)を製造した。生地における糊化澱粉組成物(乾燥重量)と小麦粉との重量の割合は、30:70であった。
【0110】
【表4】
【0111】
(2)老化の比較
上記製造した糊化澱粉組成物含有食パンの老化性を比較した。
なお、比較対照として、強力小麦粉のみ(日清製粉製カメリヤ100%)を用いたことを除いては上記段落(1)に記載の方法と同様にして、食パン(試料19−A:比較対照)を製造し老化性を比較した。パンの製造後3日目のテンシプレッサー多重バイト試験による物性値(硬さ:toughness)を図20に示す。
【0112】
図から明らかなように、発芽玄米、発芽大麦の糊化澱粉組成物と小麦粉とブレンドして試作したパンは、カメリヤ100%の強力小麦粉で試作したパン(試料19−A:比較対照)に比べて、3日後でも軟らかいことが判明し、米粉パンは小麦粉パンに比べて、老化しやすいという従来の定説を覆すほど老化しにくいことが示された。
また、発芽穀類の糊化処理(炊飯)時に、ヨーグルト溶液を用いることで、より柔らかいパンが製造できることが分った。
【0113】
<実施例20> (混合玄米の糊化澱粉組成物を含有する麺のレジスタントスターチ)
(1)糊化澱粉組成物含有麺の製造
超硬質米である「EM10」、もしくは、硬質形質を有しない各種穀類(青大豆、小麦、大麦)について、実施例10に記載の方法と同様にして、発芽および澱粉を糊化させた各種発芽穀類がゆ(‘糊化澱粉組成物’)を得た。
次いで、これら各種発芽穀類がゆ、さらに別途準備したもち米である「こがねもち」を精米した米粉を、表5に示す割合でそれぞれミキサーでホモゲナイズして各種ホモゲナイズ物を調製した。
その後、糊化澱粉組成物と小麦粉との割合を、表5に記載の割合で用いて生地を調製したことを除いて、実施例7に記載の方法と同様にして、‘生地’を調製し、‘糊化澱粉組成物含有麺’(試料20−B〜20−G)を製造した。
【0114】
【表5】
【0115】
(2)レジスタントスターチの測定と結果
これらの麺を、実施例7と同様にして湯がいた後、冷却し、−80℃のフリーザーで冷凍した後に凍結乾燥し、Udyサイクロンミルを用いて粉末試料とした。
これらの粉末試料に含まれるレジスタントスターチ量を、メガザイムキットによって測定した。
なお、比較対照として、小麦粉のみ(市販小麦粉100%)を用いたことを除いては上記段落(1)に記載の方法と同様にして麺(試料20−A)を製造し、レジスタントスターチ量を測定した。結果を図21に示す。
【0116】
図に示すように、比較対照である市販小麦粉100%で調製した麺(試料20−A)のレジスタントスターチ含量が1.3%であるのに対し、糊化澱粉組成物を含有する各麺(試料20−B〜20−G)のレジスタントスターチ含量は、2.4〜4.2%であり、きわめて高かった。
【0117】
<実施例21> (迅速発芽と通常発芽におけるレジスタントスターチの相違)
・レジスタントスターチの測定および結果
超硬質米である「EM10」を試料とし、実施例1と同様の方法で迅速発芽させた発芽玄米(試料21−A)およびこの玄米を炊飯した発芽玄がゆ(試料21−B:‘糊化澱粉組成物’)を調製した。
また、対照として、37℃で18時間発芽させた発芽玄米(試料21−C)およびこの玄米を炊飯した発芽玄がゆ(試料21−D:‘糊化澱粉組成物’)を調製した。
これらについて、メガザイムキットによってレジスタントスターチを測定した。結果を図22に示す。
【0118】
その結果、図22に示されるように、通常の発芽の場合、炊飯(糊化)によってレジスタントスターチが激減するのに対し、迅速発芽の場合、炊飯による減少がきわめて少なく、炊飯後は迅速発芽の場合の方がレジスタントスターチ含量が高いことがわかった。
また、呈味成分であるグルコース及びグルタミン酸を測定した結果、図23に示すように、迅速発芽玄米がゆ(試料21−B)の方が通常発芽玄米がゆ(試料21−D)より大幅に高い値を示した。
【0119】
<実施例22> (品種によるレジスタントスターチ含有量の相違)
・レジスタントスターチの測定および結果
超硬質米である「EM10」、高アミロース米である「ホシユタカ」、低いアミロース米である「ミルキークイーン」、高アミロース米である「夢十色」、低グリテン米である「春陽」、一般良食米である「コシヒカリ」の各品種について、37℃で18時間発芽を行った試料米中のレジスタントスターチ含量をメガザイムキットで測定した。結果を図24に示す。
その結果、超硬質米である「EM10」のレジスタントスターチ含量が圧倒的に多いことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明により、‘通常の小麦粉以外の穀類(特に玄米)への代替率を向上する’ことを可能とするとともに、‘製造した食品の食味、物性、栄養が顕著に向上された’小麦粉食品(特に、パン、麺状食品、饅頭の皮、菓子など)の容易な製造方法を食品製造企業に提供することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の組成を有する発芽穀類糊化澱粉組成物、;前記発芽穀類糊化澱粉組成物と小麦粉とを特定の割合で含有する小麦粉食品生地、;前記小麦粉食品生地の製造方法、;前記小麦粉食品生地を用いた食品(特にパン、麺状食品、饅頭の皮、菓子など)、;に関する。
詳しくは、本発明は、‘通常の小麦粉以外の穀類(特に玄米)への代替率を向上する’ことを可能とするとともに、‘製造した食品の食味、物性、栄養が顕著に向上された’小麦粉食品生地の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
わが国は高齢社会となり、医療費が増加している。高血圧、糖尿病、肥満などの生活習慣病が増加し、医療技術や有効な薬品の開発が必要とされているほか、適正な食事や運動によって、生活習慣病の発症を予防することが必要である。
生活習慣病の発症を予防するためには、適正な運動をすることに加えて、デンプン、タンパク質、脂質のカロリーバランスを、「日本型食生活」と呼称される、昭和50年代の比率(炭水化物:57〜68%、タンパク質:12〜13%、脂質:20〜30%)に戻すことが勧められており、食物繊維、アミノ酸、ポリフェノールなどの摂取も有効とされている。
現在、わが国では、白米の米飯や小麦粉によるパンや麺が食生活におけるカロリー摂取源の中心であり、上記健康を指向した食品として、玄米食、発芽玄米食、雑穀食、アマランサスを用いる食品などがあるが、さらに、調理が簡単でおいしく、かつ保存性に優れた新しい健康指向食品の開発が求められている。
【0003】
健康を指向した食品の例として、玄米食があるが、玄米は白米に比べて硬く、白度が低く、調理前の吸水時間を長くしたり、圧力釜で炊飯したりするなどの手間がかかるという問題がある。
また、健康を指向した食品の例として、全粒粉パンがあるが、パンに胚芽が認識され、白度や食感が通常のパンより劣るとされている。
また、小麦粉に米粉を添加するパンがあるが、従来の研究報告では、小麦粉に米粉を添加してパンを製造する場合には、米が小麦と異なり、グルテン形成能を持たないため、品質を損なわない添加限度が約20%であり、麺を製造する場合には、官能検査の点から添加限度が5%と報告されている(非特許文献1)。
【0004】
小麦粉食品における小麦粉を他の穀類に代替する技術としては、多くの技術開発が行われてきた。例えば、米粉の4〜8質量部を加熱糊化させて残りの未糊化米粉と混合してパン生地を調製する特許文献1や、穀類から単離された全デンプンの30%以下をα化させて残りの未糊化デンプンと混合混練りして麺生地を調製する特許文献2、が挙げられる。
また、本発明者らも、これまでに、発芽玄米(特許文献3)や膨化玄米(特許文献4)に関する技術開発を行い、超硬質米の特性(非特許文献2、特許文献5)の解明を行ってきた。
しかしながら、小麦粉生地を用いて製造する食品(特にパン、麺状食品、饅頭の皮、菓子など)において、通常の小麦粉以外の穀類への代替率を向上させるとともに、製造した食品の食味、物性、栄養を顕著に向上できる、さらなる改良技術の開発が求められてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004‐267144号公報
【特許文献2】特開2004‐350559号公報
【特許文献3】特許第4166011号公報
【特許文献4】特許第4126335号公報
【特許文献5】特開2006‐217813号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】農林水産技術会議事務局、研究成果No 161「米の新加工食品の開発」、p.107-178、1984年
【非特許文献2】高橋 仁ら、日本食品科学工学会誌、48巻8号、p.617-621、2001年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決し、小麦粉食品生地を用いて製造する食品(特にパン、麺状食品、饅頭の皮、菓子など)において、‘通常の小麦粉以外の穀類(特に玄米)への代替率を向上させる’とともに、‘製造した食品の食味、物性、栄養を顕著に向上できる’技術を開発することを目的とする。
すなわち、本発明では、パン、麺状食品、饅頭の皮、菓子などの食品のおいしさを保ちながら、健康の維持増進に有効なレジスタントスターチ、食物繊維、アミノ酸などの機能性成分を増強し、しかも従来の食品に比べて、品質の保存性の高い食品およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成すべく本発明者らが鋭意研究した結果、発芽穀類(特に硬質形質を有する品種の発芽穀類)を糊化させた発芽穀類澱粉糊化組成物を、小麦粉に混合して均一な生地を調製することによって、従来のパン、麺状食品、饅頭の皮、菓子などの小麦粉食品の品質特性(食味、物性、栄養)を、飛躍的に高めることが可能となることを見いだし、本発明に到達した。
【0009】
即ち、請求項1に係る本発明は、澱粉全量の1〜20%がレジスタントスターチであり、且つ、3.5〜30乾燥重量%の食物繊維、及び、0.005乾燥重量%以上のγ−アミノ酪酸、を含有することを特徴とする発芽穀類糊化澱粉組成物に関する。
請求項2に係る本発明は、請求項1に記載の発芽穀類糊化澱粉組成物と小麦粉とを、乾燥重量に換算して20:80〜70:30の割合で均一に含有する、小麦粉食品生地に関する。
請求項3に係る本発明は、澱粉全量の1〜20%がレジスタントスターチであり、且つ、3.5〜30乾燥重量%の食物繊維、及び、0.005乾燥重量%以上のγ−アミノ酪酸、を含有する、澱粉糊化度が90%以上の発芽穀類糊化澱粉組成物を調製し、;
当該発芽穀類糊化澱粉組成物と小麦粉とを、乾燥重量に換算して20:80〜70:30の割合で均一に含有させることを特徴とする、小麦粉食品生地の製造方法に関する。
請求項4に係る本発明は、前記発芽穀類糊化澱粉組成物が、前記発芽穀類糊化澱粉組成物の乾燥重量100重量部あたり、80〜2000重量部の水分を含むように調製されたものである、請求項3に記載の小麦粉食品生地の製造方法に関する。
請求項5に係る本発明は、前記発芽穀類糊化澱粉組成物の調製が、食物繊維含有素材を均一に混合する工程を含むものである、請求項3又は4に記載の小麦粉食品生地の製造方法に関する。
請求項6に係る本発明は、前記発芽穀類糊化澱粉組成物の調製が、蒸煮する工程を含むものである、請求項3〜5のいずれかに記載の小麦粉食品生地の製造方法に関する。
請求項7に係る本発明は、前記発芽穀類が、穀類を水あるいは温湯に浸漬し、昇温速度0.2〜4℃/分で30〜60℃に加温し、20分〜6時間浸漬することによって、迅速に発芽させたものである、請求項3〜6のいずれかに記載の小麦粉食品生地の製造方法に関する。
請求項8に係る本発明は、請求項7において前記穀類を迅速に発芽させた後、得られた発芽穀類を炊飯する工程を含むものである、小麦粉食品生地の製造方法に関する。
請求項9に係る本発明は、前記発芽穀類が、グルコース重合度6〜12のアミロペクチン短鎖の割合が全アミロペクチン鎖の20%以下である硬質米の玄米、硬質大麦あるいは硬質小麦を発芽させたものを、10重量%以上含有するものである、請求項3〜8のいずれかに記載の小麦粉食品生地の製造方法に関する。
請求項10に係る本発明は、前記発芽穀類が、グルコース重合度6〜12のアミロペクチン短鎖の割合が全アミロペクチン鎖の20%以下である硬質米の玄米を発芽させたものを、10重量%以上含有するものである、請求項3〜9のいずれかに記載の小麦粉食品生地の製造方法に関する。
請求項11に係る本発明は、前記食物繊維を含有する素材が、穀類を除く植物体の可食部、海藻の藻体、担子菌類子実体、および、甲殻類の殻から選ばれる1以上のものである、請求項3〜10のいずれかに記載の小麦粉食品生地の製造方法に関する。
請求項12に係る本発明は、前記発芽穀類糊化澱粉組成物中のレジスタントスターチの含量が、澱粉全量の2〜20%である、請求項3〜11のいずれかに記載の小麦粉食品生地の製造方法に関する。
請求項13に係る本発明は、請求項3〜12のいずれかに記載の方法から得られた小麦粉食品生地に関する。
請求項14に係る本発明は、請求項2または13に記載の小麦粉食品生地を用いて製造された食品に関する。
請求項15に係る本発明は、請求項2または13に記載の小麦粉食品生地を用いて製造されたパンに関する。
請求項16に係る本発明は、請求項2または13に記載の小麦粉食品生地を用いて製造された麺状食品に関する。
請求項17に係る本発明は、請求項2または13に記載の小麦粉食品生地を用いて製造された菓子に関する。
請求項18に係る本発明は、請求項2または13に記載の小麦粉食品生地を用いて製造された中華饅頭の皮に関する。
請求項19に係る本発明は、水分含量が10%以下である請求項14〜18のいずれかに記載の食品に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、‘通常の小麦粉以外の穀類(特に玄米)への代替率を向上する’ことを可能とするとともに、‘製造した食品の食味、物性、栄養が顕著に向上された’小麦粉食品(特にパン、麺状食品、饅頭の皮、菓子など)の製造方法、を提供することを可能とする。
具体的には、小麦粉の使用量の20〜70重量%が代替された小麦粉食品を提供することが可能となる。
【0011】
また、本発明により、水分含量が10%以下の乾燥食品である小麦粉食品を製造し、食味と栄養機能性に優れ、微生物の繁殖や糊化デンプンの老化が抑制された保存性の高い新規加工食品として、保存食、非常食、旅行用携帯食、アウトドアレジャー用食品などに向けて活用することが可能となる。
また、本発明により、改めて加水することなく、小麦粉などと混合してパン、麺状食品、饅頭の皮、菓子などの生地を調製することが可能となる。
また、本発明により、食物繊維含量の高いパン、麺状食品、饅頭の皮、菓子などの製造が可能となり、整腸やコレステロール低下などの健康維持効果が期待できる。
また、本発明により、GABA含量の高いパン、麺状食品、饅頭の皮、菓子などの調製が可能となり、高血圧予防や脂肪肝抑制など、健康機能維持効果の期待できる食品の製造が可能となる。
また、本発明により、食感の優れたパン、麺状食品、饅頭の皮、菓子などの製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1における各種米粉含有食パンの外観を示す写真像図である。
【図2】実施例1における各種米粉含有食パンの物理特性を示すグラフである。
【図3】実施例2における各種米粉含有食パンの外観を示す写真像図である。
【図4】実施例2において、糊化澱粉組成物含有食パンから製造したラスクの外観を示す写真像図である。
【図5】実施例3における各種米粉含有食パンの外観を示す写真像図である。
【図6】実施例3において、糊化澱粉組成物含有食パンから製造したラスクの外観を示す写真像図である。
【図7】実施例4において製造した各種ラスクの外観を示す写真像図である。
【図8】実施例5において製造した糊化澱粉組成物含有麺の外観を示す写真像図である。
【図9】実施例6において製造した各種糊化澱粉組成物含有麺の外観を示す写真像図である。
【図10】実施例7において製造した各種糊化澱粉組成物含有麺の物理特性を示すグラフである。
【図11】実施例9において製造した発芽玄米糊化澱粉組成物含有乾麺の外観を示す写真像図である。
【図12】実施例10において迅速発芽させた各種穀類の発芽状態を示す写真像図である。
【図13】実施例11において製造した各種糊化澱粉組成物含有麺の外観を示す写真像図である。
【図14】実施例12において製造した各種糊化澱粉組成物含有スナック菓子の外観を示す写真像図である。
【図15】実施例13において製造した各種糊化澱粉組成物含有油揚げスナック菓子の外観を示す写真像図である。
【図16】実施例14において製造した各種糊化澱粉組成物含有クッキーの外観を示す写真像図である。
【図17】実施例15において製造した各種糊化澱粉組成物含有中華饅頭の外観を示す写真像図である。
【図18】実施例17において製造した各種糊化澱粉組成物(発芽玄米)の物理特性を示すグラフである。
【図19】実施例18において製造した各種糊化澱粉組成物含有油揚げスナック菓子の外観を示す写真像図である。
【図20】実施例19において製造した各種糊化澱粉組成物含有食パンの物理特性を示すグラフである。
【図21】実施例20において製造した各種糊化澱粉組成物含有麺のレジスタントスターチ含量を示すグラフである。
【図22】実施例21において製造した各種糊化澱粉組成物(発芽玄米)の炊飯前後におけるレジスタントスターチ含量の変化を示すグラフである。
【図23】実施例21において製造した各種糊化澱粉組成物(発芽玄米)の炊飯米のグルコース含量とグルタミン酸含量を示すグラフである。
【図24】実施例22において製造した各種糊化澱粉組成物(発芽玄米)中のレジスタントスターチ含量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、特定の組成を有する発芽穀類糊化澱粉組成物、;前記発芽穀類糊化澱粉組成物と小麦粉とを特定の割合で含有する小麦粉食品生地、;前記小麦粉食品生地の製造方法、;前記小麦粉食品生地を用いた食品(特にパン、麺状食品、饅頭の皮、菓子など)、;に関する。
詳しくは、本発明は、‘通常の小麦粉以外の穀類(特に玄米)への代替率を向上する’ことを可能とするとともに、‘製造した食品の食味、物性、栄養が顕著に向上された’小麦粉食品生地の製造方法に関する。
【0014】
<発芽穀類糊化澱粉組成物>
本発明において、「発芽穀類糊化澱粉組成物」とは、レジスタントスターチが澱粉全量の1〜20%であり、且つ、食物繊維が3.5〜30乾燥重量%、及び、γ−アミノ酪酸(GABA)が0.005乾燥重量%以上、を含有するものである。
【0015】
本発明の発芽穀類糊化澱粉組成物においては、レジスタントスターチを澱粉全量の1〜20%、好ましくは2〜20%、さらに好ましくは2〜15%、含むものである。
本発明におけるレジスタントスターチとは、デンプン分解酵素によって消化されにくいデンプンを指し、AACC公定法やメガザイム社の測定キットなどによって測定することができる。
レジスタントスターチ含量が当該所定の範囲より少ない場合、製造された食品にコレステロール低下などの機能性が得られないので不適当である。
また、当該所定の範囲より高い場合、澱粉が糊化しにくい上に、酵素による消化を受けにくいために、パン、麺などの食品を製造した場合に、食感と消化性が劣るので不適当である。
【0016】
本発明の発芽穀類糊化澱粉組成物においては、食物繊維を3.5〜30乾燥重量%、好ましくは4〜20乾燥重量%、含むものである。
本発明における食物繊維とは、摂取後に、体内で消化吸収されずに大腸に到達する成分であり、AACC公定法、メガザイム社キットなどで測定することができる。
食物繊維が当該所定の範囲より少ない場合、製造された食品にコレステロール低下などの生理機能性が十分に発揮されないために不十分である。
また、当該所定の範囲より高い場合、当該組成物の物理性が損なわれるとともに、パン、麺などの食品としての食感が悪くなるので不適当である。
【0017】
本発明の発芽穀類糊化澱粉組成物においては、γ-アミノ酪酸を0.005乾燥重量%以上、好ましくは0.02乾燥重量%以上、含むものである。
本発明におけるγ-アミノ酪酸とは、GABAと略称されるアミノ酸の一種であり、アミノ酸分析計や高速液体クロマトグラフによって測定することが可能である。
GABAが当該所定の範囲より少ない場合、パン、麺などの食品を調製した場合に、通常の小麦粉パンや麺などに比べてGABAの含有量が少なくなるため、多量にパンや麺を摂取する必要を生じるので不適当である。
【0018】
本発明における「発芽穀類糊化澱粉組成物」は、後述する特定の種類の穀類を発芽させて、糊化させることで調製することができる。
【0019】
本発明における発芽穀類とは、穀類種子を水や温湯に浸漬して発芽させたものである〔発芽工程〕。本発明においては、発芽種子(玄米)を用いることで、通常の玄米を用いる場合よりも、さらにGABAが増加するので発明の効果が高めることができる。
【0020】
特には、穀類種子を、水あるいは温湯に浸漬し、昇温速度0.2〜4℃/分で30〜60℃(好ましくは40〜50℃)に加温し、20分〜6時間(好ましくは1〜4時間)浸漬することによって、迅速に発芽させたものであることが望ましい。
当該条件で発芽させることによって、従来は20時間〜96時間かけて調製されていた発芽玄米を迅速に調製することが可能となる。
また、当該条件で発芽させることによって、発芽種子の糊化が進み、高タンパク質素材や高繊維素材を混合する際に、均一な混合が促進されるとともに、発芽穀類(具体的には発芽玄米)の特有の異臭やえぐ味が炊飯によって低減されるので、高品質の食品製造が可能になる。
なお、当該発芽処理に用いる水あるいは温湯に、赤タマネギ粉末、紅茶粉末、番茶粉末を加えることによって、炊飯(糊化)後の発芽玄米が軟らかくなり、物理特性に優れた発芽玄米の調製することができる。特に、赤タマネギ粉末を加えた場合、軟らかさに加えて、粘りが増加し、粘りと硬さの比であるバランス度を顕著に増加させることができる。
【0021】
本発明において、原料である発芽穀類とは、硬質形質を有する特定の穀類を発芽させたものを用いることができる。具体的には、グルコース重合度6〜12のアミロペクチン短鎖の割合が全アミロペクチン鎖の20%以下である、硬質米(特に超硬質米)、硬質小麦、硬質大麦などの発芽種子を指す。
硬質米としては、アミロペクチン短鎖の少ない「EM10」、「EM72」、「EM129」、「EM192」などの超硬質米(ae米)、;アミロース含量の高い「ホシユタカ」、「夢十色」、「ホシニシキ」、「越のかおり」などの高アミロース米、;を指す。
硬質小麦とは、「ダーク・ノーザン・スプリング(米国)」や「レッド・ウエスタン・スプリング(カナダ)」などに代表される、タンパク質含量および硝子率の高い小麦を指す。
硬質大麦とは、関東地域で栽培される「シュンライ」、「カシマムギ」、四国地域で栽培される「サンシュウ」、「イチバンボシ」、に見られるような、タンパク質含量が高く、硝子率の高い大麦を指す。
特に、超硬質米(ae米)の発芽玄米は、レジスタントスターチ含量の点で利点がある。また、生地が強くなり、パンの場合には比容積が増加し、麺の場合には麺線の強度が向上するので有効である。
なお、上記各硬質穀類は、単一種類のみで用いることもできるが、2以上のものを混合して用いることもできる。
【0022】
なお、上記硬質穀類に、硬質形質を有しない種類の発芽穀類(発芽玄米、発芽豆、発芽小麦、発芽大麦など)を混合させることで、製造する食品に様々な機能を付与することもできる。なお、この場合、各穀類を発芽させた後に混合させてもよく、各穀類の混合後に一緒に発芽させてもよい。
具体的には、紫黒米、低アミロース米、低グルテリン米、モチ米、巨大胚芽米、青大豆、モチ大麦、モチ小麦などを混合させることができる。
例えば、紫黒米を混合させることで、パン、麺、菓子などの食品がワインレッドの美しい色調になる上に、アントシアニンの抗酸化能によって体内の活性酸素が消去され、生活習慣病の発症を予防する効果があるので本発明の効果が高まる。なお、紫黒米とは、種子の果種皮にアントシアニン等の紫色の色素を蓄積する米を指し、品種としては、「朝紫」、「おくのむらさき」、「紫宝」などが挙げられる。
【0023】
本発明における発芽穀類糊化澱粉組成物は、上記‘特定の種類の発芽穀類を糊化させて液状にすること’で調製することができる〔糊化工程〕。
具体的に、発芽穀類を糊化させる場合、蒸煮することで行うことができる。蒸煮の方法としては、一般的に穀類(米飯)を炊飯する方法で行うことができるが、具体的には、加水炊飯を行い、蒸煮後にかゆ状になっていることが望ましい。
また、当該蒸煮を行う際に、穀類を浸漬する液として、ヨーグルトを含む液(具体的には5〜15重量%のヨーグルトを含む液)を用いることによって、製造する食品(具体的にはパン)の物性を柔らかくすることができる。
【0024】
このようにして糊化させた発芽穀類は、ホモゲナイズ等を行い、微粒を均一に分散させた状態にすることが望ましい。
【0025】
発芽穀類糊化澱粉組成物の調製は、当該組成物の乾燥重量100重量部あたり、80〜2000重量部、好ましくは200〜1000重量部の水分(具体的には乾燥法により測定した水分含量)を含むように、調製するものである。
水分含量が当該下限値より低い場合は、生地を調製する際に加水を行う必要があるので不適当であるほか、生地が硬くなりすぎて他の原料との均一な混合が不可能であるために不適当である。
また、水分含量が当該下限値より高い場合は、当該組成物中の固形物が少なすぎるために、生地を調製する際に生地強度が弱くなり、パンの比容積が小さくなったり、麺の強度が不足したりするので不適当である。
【0026】
発芽穀類糊化澱粉組成物の調製は、澱粉糊化度が90%以上、好ましくは95%以上になるように調製するものである。
本発明において、澱粉糊化度とは、グルコースが重合して形成されたデンプン分子が結晶化の状態(未糊化の状態)から、加熱や加圧によって分子間の水素結合が切断され、水との親和性が高まり、水溶液あるいは水懸濁液の状態での粘度が高まるとともに、アミラーゼなどのデンプン分解酵素の作用を受けやすくなる程度を指す。
なお、澱粉の糊化度は、B型粘度計やラピッドビスコアナライザー等の粘度測定装置によって粘度の増加として測定できるほか、ジアスターゼ、グルコアミラーゼ、ベータアミラーゼおよびプルラナーゼなどのデンプン分解酵素に対する被消化性の増加度として測定することができる。
澱粉糊化度が、当該所定の値以下の場合には、生地を調製する際に再度加水および再度加熱する必要を生じることに加え、生地の物理特性が十分でなく不適当である。また、パンや麺を製造する場合、パンの比容積が小さくなったり、麺の強度が不足することに加えて、パン、麺などが経時的に硬化するため、不適当である。
【0027】
<食品素材混合>
本発明においては、上記工程を経て発芽穀類糊化澱粉組成物を調製した後、もしくは、後述する生地を調製工程と同時に、‘食品素材’を均一に混合する工程を含むものであることが望ましい〔各種食品素材混合工程〕。
本工程で混合させる食品素材とは、‘食物繊維含有素材’、‘高タンパク質含有素材’、‘米粉’、などを指すものであり、特には、食物繊維含有素材を混合することが望ましい。
これらの食品素材を混合する方法としては、上記工程で発芽穀類を糊化した後に、均一に混合(例えば、ホモゲナイズ、ニーディング、手ごね)することで行うことができ、微粒を均一に分散させた状態することが望ましい。
これら各種食品素材は、当該組成物(100重量部)に対して2〜100重量部、より好ましくは10〜50重量部混合させることができる。
【0028】
食物繊維含有素材としては、例えば、穀類を除く植物体の可食部、海藻の藻体、担子菌類子実体、甲殻類の殻を用いることができる。
穀類を除く植物体の可食部としては、リンゴ、ミカン、オレンジ、ブドウ、ナシ、グレープフルーツ、パイナップル、イチゴなどの果実、;ダイコン、ハクサイ、キャベツ、ブロッコリー、タマネギ、赤タマネギ、ネギ、ショウガ、ゴーヤ、ニンジン、ホウレンソウ、コマツナなどの野菜、ダイズ、リョクトウ、インゲン、エンドウ、ササゲなどの豆類(もやしやきなこのように、発芽や加熱処理を施した後のものも含む)、を挙げることができる。
海藻の藻体としては、昆布、わかめ、テングサ、アラメ、ヒジキなどを挙げることができる。
担子菌類子実体としては、シイタケ、マツタケ、エノキタケ、シメジ、ナメコ、ハツタケ、マイタケ、キクラゲ、エリンギなどを挙げることができる。
甲殻類の殻としては、エビ、カニなどの殻を挙げることができる。
【0029】
高タンパク質含有素材としては、例えば、豆類、肉、卵、乳類を用いることができる。
豆類としては、ダイズ、リョクトウ、インゲン、エンドウ、ササゲなどの豆類(もやしやきなこのように、発芽や加熱処理を施した後のものも含む)、を挙げることができる。なお、豆類は、上記食物繊維含有素材としても用いることができる。
肉としては、豚ロース肉、ベーコン、牛バラ肉、鶏手羽肉、鶏モモ肉などを挙げることができる。
卵としては、鶏卵、アヒルの卵、ウズラの卵、ダチョウの卵などを挙げることができる。
乳類としては、牛乳、山羊の乳、馬の乳などを挙げることができる。
【0030】
米粉としては、コシヒカリ、あきたこまち、ヒノヒカリなどの品種の、通常の玄米粉、精米粉などを挙げることができる。そのほかに、ミルキークイーンなどのアミロース含量が低い低アミロース米や、こがねもちなどのもち米品種の精米粉を混合させることができる。
【0031】
<小麦粉食品生地および食品>
本発明においては、前記工程を経て得られた発芽穀類糊化澱粉組成物と、小麦粉とを、乾燥重量に換算して20:80〜70:30、好ましくは25:75〜50:50、の割合で均一に含有させて、小麦粉食品生地(パン、麺状食品、饅頭の皮、菓子など)を調製するものである〔生地調製工程〕。
当該組成物の含有割合が、所定範囲未満の場合、添加割合が低すぎるために添加効果が十分現れないので不適当である。
所定範囲を超えた場合、硬質種子が多すぎるために、糊液の粘度が高くなり過ぎ、生地材料との混合が十分に行われないので不適当である。
本発明においては、生地の調製に発芽穀類糊化澱粉組成物を用いることによって、通常の小麦粉以外の穀類への代替率を向上させた量を添加することができるものである。
なお、生地の調製方法としては、当該所定の割合で小麦粉を発芽穀類糊化澱粉組成物(乾燥重量)に置き換えることを除いては、通常の方法に従うことで、目的とする小麦粉食品の形態(パン、麺状食品、饅頭の皮、菓子など)に適した生地を調製することができる。
【0032】
上記得られた小麦粉食品生地を用いることで、目的とする各種小麦粉食品の形態、例えば、パン、麺状食品、饅頭の皮、菓子などを挙げることができる。また、せんべいなどの米菓、ライスペーパーなどのシート状食品、膨化させたスナック食品、圧扁させたフレーク食品、スープなどの液状食品などを挙げることもできる。
具体的に、パンとしては、食パン、菓子パン、ベーグル、ドーナッツ、フランスパン、乾パン、ラスクを挙げることができる。
麺状食品としては、うどん、パスタ、即席麺、乾麺、冷麺を挙げることができる。
饅頭の皮を用いた食品としては、中華饅頭、餃子、春巻、小籠包、桃饅頭などの各種点心、和菓子のまんじゅう、大福餅、団子、ういろうなどを挙げることができる。
菓子としては、スナック揚げ菓子、クッキー、スポンジケーキ、シュークリームなどを挙げることができる。
【0033】
本発明の上記糊化澱粉組成物含有食品は、従来の食品に比べて、外観、比容積、食感などの点で劣らない上に、食物繊維、レジスタントスターチ、タンパク質およびGABAの含有量の高い機能性食品(食味、物性、栄養が顕著に優れた食品)を調製できるので、きわめて有用である。
【0034】
なお、本発明においては、上記食品の水分が10%以下の場合、もしくは、乾燥処理(凍結乾燥、熱風乾燥、マイクロ波加熱乾燥など)を行って水分が10%以下の形態の食品にした場合には、微生物の繁殖と糊化澱粉の老化とが抑制され、きわめて保存性の高い食品となるので好適である。保存食、非常食、アウトドア用、旅行携帯食などとして活用することができる。
例えば、上記食品のなかでは、スナック揚げ菓子、膨化スナック菓子を挙げることができる。また、上記食品を乾燥させたものとしては、パンを乾燥させてラスク、乾パン、麺を乾燥させた乾麺、あられ、せんべい、クラッカーなどを挙げることができる。
【実施例】
【0035】
次に実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0036】
<実施例1> (発芽玄米糊化澱粉組成物含有パン)
(1)糊化澱粉組成物含有食パンの製造
・発芽
九州大学試験圃場で生産された超硬質米である「EM10」の玄米100gに、水400gを加え、35℃で90分間浸漬した後、35℃から加熱を開始して15分で55℃に到達させ、弱火にして55℃で30分間保温することで、発芽処理を行った。
【0037】
・糊化
その後、加熱を強くし、15分で沸騰に到達させ、15分間沸騰を継続させた後、加熱を停止し、15分間蒸らしを行うことで、澱粉を糊化させた発芽玄米がゆ(‘糊化澱粉組成物’)を得た。なお、このように(迅速発芽させて)出来上がったかゆ中の玄米は、胚芽がふくらみ、大部分が発芽したものであった。
この発芽玄米がゆについて、‘水分含量’を乾燥法により、‘タンパク質含量’をケルダール法により、‘食物繊維含量’をAACC法により、‘GABA含量’を高速液体クロマトグラフにより、‘レジスタントスターチ含量’をメガザイム社製レジスタントスターチ測定キットにより、そして、‘澱粉糊化度’をBAP法により測定した。
その結果、この発芽玄米がゆの水分含量は86重量%(乾燥重量100重量部あたり614.3重量部)、タンパク質含量は7.5乾燥重量%、食物繊維含量は7.6乾燥重量%、乾燥重量100gあたりのGABA含量は12.3mg(0.0123乾燥重量%)であり、澱粉あたりのレジスタントスターチ含量は11.6%、澱粉糊化度は97%であった。
【0038】
・各種食品素材混合
この発芽玄米がゆ300gに、豚ロース肉30g、加熱したなめこ30gを加え、TESCOM製スティックブレンダーTHM500によって、豚肉及びなめこが発芽玄米がゆと均一になるようホモゲナイズし、ホモゲナイズ物を調製した。
このホモゲナイズ産物について、各種成分を測定した。なお、各種成分の測定は、前記段落に記載の測定方法と同様に行った。
その結果、このホモゲナイズ物の水分含量は85.3重量%(乾燥重量100重量部あたり579重量部)、食物繊維含量は7.9乾燥重量%、乾燥重量100gあたりのGABA含量は9.8mg(0.0098乾燥重量%)であり、澱粉あたりのレジスタントスターチ含量は11.6%、澱粉糊化度は95%であった。
【0039】
・食パンの製造
このホモゲナイズ物に、市販の小麦粉(日清製粉製カメリヤ)300g、食塩1.5g、脱脂ミルク8.5g、無塩バター15g、砂糖17g、パン酵母3gを加え、パナソニック製家庭用製パン器(SD−BH101)を用いて、均一に混合して‘パン生地’を作成した。生地における糊化澱粉組成物(乾燥重量)と小麦粉との重量の割合は、30:70であった。
そして、引き続き当該家庭用パン器を用いて焼き上げることで、‘糊化澱粉組成物含有食パン’(試料1−D)を製造した。
【0040】
(2)糊化澱粉組成物の糊化度の影響
上記ホモゲナイズ物を室温で6時間放置した場合、澱粉糊化度は80%に低下した。
このホモゲナイズ物は粘度が過度に高くなっており、上記の小麦粉との混合および生地調製にきわめて困難を生じ、不適当であった。
【0041】
(3)食パンの評価
・物理特性および官能評価
上記製造した糊化澱粉組成物含有食パン(試料1−D)について、植物種子置換法によって測定したパンの比容積は4.2、テンシプレッサーを用いる多重バイト法で測定したHardnessは1.8gw/cm2であった。
また、このパンを6名で試食した結果、硬さや弾力性などの物理性においては市販の食パンと同等であり、外観と味については、市販の食パンを上まわる評価であった。
【0042】
(4)米粉を直接含有させたパンとの比較
・パンの外観の比較
上記製造した糊化澱粉組成物含有食パン(試料1−D)と、米粉を直接含有させた食パンとの外観を比較した。
米粉含有食パンの製造は、米粉粉末と小麦粉との重量の割合が30:70となるように直接混合して使用したことを除いて、上記段落(1)に記載の方法の食パンの製造方法と同様にして行った。
なお、EM10の米粉粉末としては、精米、玄米、発芽玄米(上記段落(1)に記載の発芽方法によって調製)の各粉末を用いた。
得られた各米粉含有食パン〔精米(試料1−A:比較)、玄米(試料1−B:比較)、発芽玄米(試料1−C:比較)〕と、上記段落(1)で製造した糊化澱粉組成物含有食パン(試料1−D)との外観を比較した結果を、図1に示す。
図1に示すように、糊化澱粉組成物含有食パン(試料1−D)は、米粉を直接含有させた食パンに比べて、膨張性が顕著に優れたものであった。
【0043】
・食味の比較
上記製造した糊化澱粉組成物含有食パン(試料1−D)と、各米粉含有食パン〔精米(試料1−A:比較)、玄米(試料1−B:比較)、発芽玄米(試料1−C:比較)〕の食味を比較した。
6名で試食した官能試験の結果、糊化澱粉組成物含有食パン(試料1−D)の食味が最も優れたものであった。
【0044】
・パンの物理特性の比較
上記製造した糊化澱粉組成物含有食パン(試料1−D)と上記米粉含有食パン〔玄米(試料1−B:比較)、発芽玄米(試料1−C:比較)〕の物理特性(TendernessおよびToughness)を測定した。測定は、これらのパンの製造直後のものを、タケトモ電機製テンシプレッサーを用いて多重バイト測定を行った。
なお、比較対照として、小麦粉のみ(日清製粉製カメリヤ100%)を用いたことを除いては上記段落(1)に記載の方法と同様にして食パンを製造し、物理特性を測定した。結果を図2に示す。
その結果、図2が示すように、糊化澱粉組成物含有食パン(試料1−D)の物性は、小麦粉100%の食パン(比較対照)と同等であった。それに対して、玄米(試料1−B:比較)や発芽玄米(試料1−C:比較)の粉末を用いた食パンは膨張が少なく、物性が劣っていた。
【0045】
・パンの老化の比較
上記のようにパン製造直後の物理特性を測定した後、4日経過した後に、糊化澱粉組成物含有食パン(試料1−D)のTendernessを測定した。
その結果、糊化澱粉組成物含有食パン(試料1−D)は、作成後4日経過した後のTendernessが5.26であり、発芽玄米米粉含有食パン(試料1−C:比較)の製造直後のTenderness(6.10)よりも、軟らかいことが判明した。
【0046】
・考察
以上のことから、硬質米発芽玄米の糊化澱粉組成物含有食パンを含有させたパンは、硬質米の米粉(精米、玄米、発芽玄米)を直接含有させただけのパンに比べて、パンの外観、膨張性、食味、物理特性および老化性の点において、飛躍的に優れていることが示された。
【0047】
<実施例2> (超硬質米と紫黒米の発芽玄米糊化澱粉組成物含有パン)
(1)糊化澱粉組成物含有食パンの製造
・発芽
九州大学試験圃場で生産された超硬質米である「EM10」の玄米70gに、新潟県産の紫黒米である「紫宝」の玄米30gを加え(即ち、超硬質米「EM10」と紫黒米である「紫宝」との重量の割合が、7:3になるように混合して)、水400gを加え、35℃から加熱を開始して15分で60℃に到達させ、60℃で30分間保温することで、発芽処理を行った。
【0048】
・糊化
その後、加熱を再開し、15分で沸騰に到達させ、15分間沸騰を継続させた後、加熱を停止し、15分間蒸らしを行うことで、澱粉を糊化させた発芽玄米がゆ(‘糊化澱粉組成物’)を得た。なお、2時間以内で(迅速発芽させて)出来上がったかゆ中の玄米は、胚芽がふくらみ、大部分が発芽したものであった。
この発芽玄米がゆ260gを、東芝製電気炊飯器(1.8L炊き)によって再度炊飯した。
【0049】
・各種食品素材混合
この発芽玄米がゆ200gに、加熱した豚ロース肉15g、加熱したなめこ15gを加え、TESCOM製スティックブレンダーTHM500によって、豚肉およびなめこが発芽玄米がゆと均一になるようホモゲナイズし、ホモゲナイズ物を調製した。
このホモゲナイズ物について、各種成分を測定した。なお、各種成分の測定は、実施例1に記載の測定方法と同様に行った。
その結果、このホモゲナイズ物の水分含量は87.6重量%(乾燥重量100重量部あたり706.5重量部)、食物繊維含量は6.8乾燥重量%、乾燥重量100gあたりのGABA含量は8mg(0.008乾燥重量%)であり、澱粉あたりのレジスタントスターチ含量は8.2%、澱粉糊化度は95%であった。
【0050】
・食パンの製造
このホモゲナイズ物に、市販の小麦粉(日清製粉製カメリヤ)180g、食塩1.0g、脱脂ミルク6g、無塩バター10g、砂糖12g、パン酵母2.1gを加え、パナソニック製家庭用製パン器(SD−BH101)を用いて、均一に混合して‘パン生地’を作成した。生地における糊化澱粉組成物(乾燥重量)と小麦粉との重量の割合は、30:70であった。
そして、引き続き当該家庭用パン器を用いて焼き上げることで、‘糊化澱粉組成物含有食パン’(試料2−2)を製造した。
【0051】
(2)食パンの評価
・物理特性および官能評価
上記製造した糊化澱粉組成物含有食パン(試料2−2)について、植物種子置換法によって測定したパンの比容積は4.2、テンシプレッサーを用いる多重バイト法で測定したHardnessは1.6gw/cm2であった。
また、このパンを6名で試食した結果、硬さや弾力性などの物理性においては市販の食パンと同等であり、外観と味については、市販の食パンを上まわる評価であった。
【0052】
(3)米粉を直接含有させたパンとの比較
・パンの外観の比較
上記製造した糊化澱粉組成物含有食パン(試料2−2)と、米粉を直接含有させた食パンとの外観を比較した。
米粉含有食パンの製造は、米粉粉末と小麦粉との重量の割合が30:70となるように直接混合して使用したことを除いて、上記段落(1)に記載の方法の食パンの製造方法と同様にして行った。
得られた米粉含有食パン(試料2−1:比較)と、上記で製造した糊化澱粉組成物含有食パン(試料2−2)との外観を比較した結果を、図3に示す。
図3が示すように、糊化澱粉組成物含有食パン(試料2−2)は、米粉を直接含有させた食パンに比べて、膨張性が優れていた。
なお、糊化澱粉組成物含有食パン(試料2−2)は、用いた発芽玄米あたり30重量%が紫黒米であるため、色が鮮やかな紫色であった。
【0053】
・食味の比較
上記製造した糊化澱粉組成物含有食パン(試料2−2)と、米粉含有食パン(試料2−1:比較)の食味を比較した。
6名で試食した官能試験の結果、糊化澱粉組成物含有食パン(試料2−2)の食味が最も優れたものであった。
【0054】
(4)ラスクの製造および評価
上記製造した糊化澱粉組成物含有食パン(試料2−2)を、80℃で3時間、熱風乾燥することで、ラスクを製造した。製造したラスクの外観を図4に示す。
このラスクは、水分含量が3.2%であり、サクサクした食感と豚肉の風味を有していた。このラスクは、室温で1カ月間放置した後も、微生物は繁殖せず、サクサクした食感が保持され、保存性に優れたものであった。
【0055】
<実施例3> (発芽玄米糊化澱粉組成物含有パン)
(1)糊化澱粉組成物含有食パンの製造
・発芽
九州大学試験圃場で生産された超硬質米である「EM10」の玄米100gに、水400gを加え、35℃で90分間浸漬した後、35℃から加熱を開始して15分で55℃に到達させ、弱火にして55℃で30分間保温することで、発芽処理を行った。
【0056】
・糊化
その後、加熱を強くし、15分で沸騰に到達させ、15分間沸騰を継続させた後、加熱を停止し、15分間蒸らしを行うことで、澱粉を糊化させた発芽玄米がゆ(‘糊化澱粉組成物’)を得た。なお、出来上がったかゆ中の玄米は、胚芽がふくらみ、大部分が発芽したものであった。
【0057】
・各種食品素材混合
この発芽玄米がゆ460gに、沸騰水中で20分間加熱したエビ殻30g、加熱したなめこ30g、加熱したおくら20gを加え、TESCOM製スティックブレンダーTHM500によって、エビ殻、なめこ及びおくらが、発芽玄米がゆと均一になるようホモゲナイズし、ホモゲナイズ物を調製した。
このホモゲナイズ物について、各種成分を測定した。なお、各種成分の測定は、実施例1に記載の測定方法と同様に行った。
その結果、このホモゲナイズ物の水分含量は76重量%(乾燥重量100重量部あたり317重量部)、タンパク質含量は14.4乾燥重量%、食物繊維含量は7.6乾燥重量%、乾燥重量100gあたりのGABA含量は8.3mg(0.0083乾燥重量%)であり、澱粉あたりのレジスタントスターチ含量は11.6%、澱粉糊化度は92%であった。
【0058】
・食パンの製造
このホモゲナイズ物に、市販の小麦粉(日清製粉製カメリヤ)300g、食塩1.8g、脱脂ミルク10.2g、無塩バター18g、砂糖20.4g、パン酵母3.6gを加え、パナソニック製家庭用製パン器(SD−BH101)を用いて、均一に混合して‘パン生地’を調製した。生地における糊化澱粉組成物(乾燥重量)と小麦粉との重量の割合は、30:70であった。
そして、引き続き当該家庭用製パン器を用いて焼き上げることで、‘糊化澱粉組成物含有食パン’(試料3−2)を製造した。
【0059】
(2)糊化澱粉組成物の糊化度の影響
上記ホモゲナイズ物を室温で6時間放置した場合、糊化度は82%に低下した。
このホモゲナイズ物は粘度が過度に高くなっており、上記の小麦粉との混合および生地調製にきわめて困難を生じ、不適当であった。
【0060】
(3)食パンの評価
・物理特性および官能評価
上記製造した糊化澱粉組成物含有食パン(試料3−2)について、植物種子置換法によって測定したパンの比容積は4.2、テンシプレッサーを用いる多重バイト法で測定したHardnessは1.6gw/cm2であった。
また、このパンを6名で試食した結果、硬さや弾力性などの物理性においては市販の食パンと同等であり、外観と味については、市販の食パンを上まわる評価であった。
【0061】
・各種成分
この糊化澱粉組成物含有食パン(試料3−2)について、各種成分を測定した。
また、比較対照として、小麦粉のみ(日清製粉製カメリヤ100%)を用いたことを除いては上記段落(1)に記載の方法と同様にして、食パンを製造し各種成分値も測定した。
なお、これらの各種成分は、実施例1に記載の測定方法と同様に行った。結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
このことから、小麦粉100%のパンと比べて、硬質米発芽玄米の糊化澱粉組成物を含有させたパンは、レジスタントスターチ、GABAの含量がきわめて高く、栄養機能性に優れていることが明らかとなった。
【0064】
(4)米粉を直接含有させたパンとの比較
・パンの外観の比較
上記製造した糊化澱粉組成物含有食パン(試料3−2)と、米粉を直接含有させた食パンとの外観を比較した。
なお、米粉含有食パンの製造は、EM10の精米粉末と小麦粉との重量の割合が30:70となるように直接混合して使用したことを除いて、上記段落(1)に記載の方法の食パンの製造方法と同様にして行った。
得られた米粉含有食パン(試料3−1:比較)と、上記で製造した糊化澱粉組成物含有食パン(試料3−2)との外観を比較した結果を、図5に示す。
図5が示すように、糊化澱粉組成物含有食パン(試料3−2)は、米粉を直接含有させた食パンに比べて、膨張性が優れていた。
【0065】
(5)ラスクの製造および評価
上記製造した糊化澱粉組成物含有食パン(試料3−2)を、80℃で3時間、熱風乾燥することで、ラスクを製造した。製造したラスクの外観を図6に示す。
このラスクは、水分含量が3.6%であり、サクサクした食感とエビの風味を有していた。このラスクは、室温で1カ月間放置した後も、微生物は繁殖せず、サクサクした食感が保持され、保存性に優れたものであった。
【0066】
<実施例4> (発芽玄米糊化澱粉組成物含有低温乾燥ラスク)
(1)糊化澱粉組成物含有低温乾燥ラスクの製造
・ラスク(試料4−4)の製造
‘各種食品素材’として、加熱したなめこ及び加熱したおくらを用いてホモゲナイズ物を調製したことを除いて、実施例3に記載の方法と同様にして、食パンを製造した。
そして、このパンを−80℃のディープフリーザー中で凍結した後、アイラ製凍結乾燥機(FD50)を用いて乾燥し、‘糊化澱粉組成物含有低温乾燥ラスク’(試料4−4:〔原料がEM10、生地の糊化澱粉組成物:小麦粉=30:70〕)を製造した。製造したラスクの外観を図7に示す。
【0067】
・ラスク(試料4−2)の製造
‘生地’における糊化澱粉組成物(乾燥重量)と小麦粉との重量の割合が、20:80になるように混合して生地を調製したことを除いて、上記試料4−4と同様に、‘糊化澱粉組成物含有低温乾燥ラスク’(試料4−2:〔原料がEM10、生地の糊化澱粉組成物:小麦粉=20:80〕)を製造した。製造したラスクの外観を図7に示す。
【0068】
・乾燥ラスク(試料4−1)の製造
‘原料’として、超超硬質米「EM10」ともち米である「こがねもち」との重量の割合が、3:1になるように混合して用いたことを除いて、上記試料4−4を同様に、‘糊化澱粉組成物含有低温乾燥ラスク’(試料4−1:〔原料がEM10:こがねもち=3:1、生地の糊化澱粉組成物:小麦粉=30:70〕)を製造した。製造したラスクの外観を図7に示す。
【0069】
・乾燥ラスク(試料4−3)の製造
‘原料’として、超硬質米「EM10」と高アミロース米である「ホシユタカ」との重量の割合が、3:1になるように混合して用いたことを除いて、上記試料4−4を同様に、‘糊化澱粉組成物含有低温乾燥ラスク’(試料4−3:〔原料がEM10:ホシユタカ=3:1、生地の糊化澱粉組成物:小麦粉=30:70〕)を製造した。製造したラスクの外観を図7に示す。
【0070】
(2)ラスクの評価
これらのラスクは水分含量が3%以下であり、常温で1ヶ月放置した後も、微生物は繁殖せず、サクサクした食感が保持され、保存性に優れたものであった。
【0071】
<実施例5> (発芽玄米糊化澱粉組成物含有麺)
(1)糊化澱粉組成物含有麺の製造
実施例1に記載の方法と同様にして、ホモゲナイズ物を調製した。
このホモゲナイズ物に市販の中力小麦粉230gと食塩2gとを加え、パナソニック製ホームベーカリー(SD−BM151)の「うどんパスタモード」で30分間混ねつした後、プラスチック袋に入れ、家庭用冷蔵庫に入れて8℃で一晩静置することで、‘生地’を調製した。生地における糊化澱粉組成物(乾燥重量)と小麦粉との重量の割合は、20:80であった。
翌日、インペリア製パスタ製造器で、厚さ3mmで5回繰り返し圧延し、シートを作製した後、切り刃を用いて5mm幅に切り出すことで、‘糊化澱粉組成物含有麺’(試料5:〔原料がEM10、各種食品素材が豚ロース肉及びなめこ〕)を製造した。製造した麺の外観を図8に示す。
【0072】
(2)麺の評価
・各種成分
上記製造した糊化デンプン組成物含有麺(試料5)について、各種成分を測定した。なお、各種成分の測定は、実施例1に記載の測定方法と同様に行った。
その結果、この麺の水分含量は34重量%、タンパク質含量は12乾燥重量%、食物繊維含量は3.7乾燥重量%、乾燥重量100gあたりのGABA含量は5mg(0.005乾燥重量%)であり、デンプンあたりのレジスタントスターチ含量は4.6%、BAP法で測定したデンプン糊化度は90%であった。
【0073】
・官能評価
次いで、この糊化デンプン組成物含有麺(試料5)を、2gの食塩を含む5Lの湯中で2分間ゆがき、官能検査に供した。
なお、比較対照として、中力小麦粉のみを用いたことを除いては上記段落(1)に記載の方法と同様にして麺生地を作り、麺を製造した。
6名の試食者による官能検査の結果、上記糊化デンプン組成物含有麺(試料5)は、中力小麦粉100%の麺(比較対照)に比べて、食感では同等であったが、麺のツヤや色等の外観が優れており、うま味のきわめて強い麺であった。
【0074】
<実施例6> (発芽玄米糊化澱粉組成物含有麺)
(1)糊化澱粉組成物含有麺の製造
・麺(試料6−E)の製造
‘原料’として超硬質米である「EM10」と一般良食味米である「コシヒカリ」との重量の割合が、1:1になるように混合した玄米を用いたことを除いて、実施例5に記載の方法と同様にして、‘糊化澱粉組成物含有食麺’(試料6−E:〔原料がEM10:コシヒカリ=1:1、各種食品素材が豚ロース肉及びなめこ〕)を製造した。製造した麺の外観を図9に示す。を製造した。
【0075】
・麺(試料6−F)の製造
‘各種食品素材’として加熱したエビ殻と加熱したなめこを用いたこと、を除いては、上記試料6−Eと同様に、‘糊化澱粉組成物含有麺’(試料6−F:〔原料がEM10:コシヒカリ=1:1、各種食品素材がエビ殻及びなめこ〕)を製造した。製造した麺の外観を図9に示す。
【0076】
・麺(試料6−G)の製造
‘各種食品素材’として加熱したベーコンと加熱したなめこを用いたこと、を除いては、上記試料6−Eと同様に、‘糊化澱粉組成物含有麺’(試料6−G:〔原料がEM10:コシヒカリ=1:1、各種食品素材がベーコン及びなめこ〕)を製造した。製造した麺の外観を図9に示す。
【0077】
・麺(試料6−H)の製造
‘原料’として、超硬質米である「EM10」と紫黒米である「紫宝」との重量の割合が、1:1になるように混合して用いたこと、及び、‘各種食品素材’として、加熱したなめこ、加熱したおくら、ブルーベリーを用いたこと、を除いて、上記試料6−Eと同様に、‘糊化澱粉組成物含有食麺’(試料6−H:〔原料がEM10:紫宝=1:1、各種食品素材がなめこ及びおくら及びブルーベリー〕)を製造した。製造した麺の外観を図9に示す。
【0078】
<実施例7> (混合米糊化澱粉組成物を含有する麺の物理特性)
(1)各種麺の製造
・発芽および糊化
表2に示す‘原料’の各種玄米100gに対し、米重量の2.6倍量加水し、37℃、90分間浸漬した後、35℃から加熱を開始して15分で55℃に到達させ、弱火にして55℃で30分間保温することで、発芽処理を行った。
その後、実施例1と同様にして、澱粉を糊化させた発芽玄米がゆ(‘糊化澱粉組成物’)を調製した。
【0079】
・麺の製造
次いで、これら発芽玄米がゆを、ミキサーでホモゲナイズしてホモゲナイズ物を調製した。なお、ホモゲナイズの際には、試料7−B〜7−Fには各種食品素材を加えずそのままホモゲナイズした。また、試料7−Gには加熱した豚ロース肉15gを、試料7−Hには加熱した豚ロース肉15gおよび加熱したなめこ50gを、各種食品素材として加えてホモゲナイズした。
そして、これらのホモゲナイズ物に、市販強力小麦粉〔(株)渡森製デューラムセモリナ粉〕233g、食塩13gを加え、パナソニック製家庭用製パン器(SDBH101)を用いて45分間捏ねて麺用の‘生地’を作製し、冷蔵庫で一晩ねかせた。生地における糊化澱粉組成物(乾燥重量)と、小麦粉との重量の割合は、表2に示すとおりであった。また、これらの生地の水分含量は約42重量%であった。
翌朝、生地中に十分空気を巻き込むように、10分間手でこねた。この生地をパスタマシンに通し、麺帯形成及び麺の切り出すことで、‘糊化澱粉組成物含有麺’(試料7−B〜試料7−H)を製造した。
【0080】
【表2】
【0081】
(2)麺の評価
・物理特性の評価
これらの麺を、0.5%となるよう食塩を加えた20Lの湯中で、沸騰状態で2分間加熱し、次いで、20℃の水道水で1分間冷却し、表面水をキムワイプで除去したものを準備した。そして、タケトモ電機製テンシプレッサーを用いて多重バイト測定を行った。
なお、比較対照として、小麦粉のみ(デューラムセモリナ100%)を用いたことを除いては上記段落(1)に記載の方法と同様にして麺(試料7−A)を製造し、物理特性を測定した。結果を図10に示す。
【0082】
図10に示されるように、試料7−D、7−Eは、比較対照の試料7−A(デューラムセモリナ100%)と同等の優れた麺物性を示した。
また、試料7−B、7−C、7−Fは、麺物性がやや弱く、コシのない麺となった。すなわち、麺の場合は、EM10単独よりも、‘もち米’や‘低アミロース米’を配合することで、麺の物理特性が向上することが示された。
また、肉やなめこを加えた試料7−G、7−Hは、比較対照の試料7−A(デューラムセモリナ100%)Aよりやや硬めの特徴的な物性を示し、きわめて旨味の強い麺となった。すなわち、EM10単独使用の場合でも、‘各種食品素材’である肉やなめこを配合することによって麺の物理的な特性が向上し、物性および味の両方が優れた麺となることが示された。
【0083】
<実施例8> (発芽玄米糊化澱粉組成物含有パン)
(1)糊化澱粉組成物含有食パンの製造
実施例1と同様にして、ホモゲナイズ物を調製した。
ついで、このホモゲナイズ物に市販強力粉210gを加え、さらに、砂糖15g、食塩2g、スキムミルク8.5g、無塩バター15gを加えて混合した。これに、予備発酵させたイースト(約35℃のぬるま湯100mlに1gの砂糖を加え、ドライイースト8gを加え、予備発酵させたもの)を加え、混合した。
この生地を板に乗せ、手でこね、こしがでてきた時点でひとまとめにし、丸めてボールに入れ、ラップで覆い、30℃で3倍容に発酵させた。そして、フィンガーテストにより、十分に発酵したことを確認した後、丸めてボールに入れ、プラスチック袋で覆って30分間ねかせた。そして、この生地を球状に丸め、乾燥した布巾をかけ、15分間、室温でねかせて、‘パン生地’を作成した。生地における糊化澱粉組成物(乾燥重量)と小麦粉との重量の割合は、24:76であった。
このパン生地を延ばし、ショートニングを塗った食パン型枠に入れ、35℃で1時間、発酵させた。次いで、200℃のオーブンで30分間焼成することで、‘糊化澱粉組成物含有食パン’(試料8)を製造した。このパンを実施例1と同様に測定し、小麦粉100%のパン(比較対照)と比較した結果を表3に示す。
【0084】
【表3】
【0085】
この結果、米粉を直接含有させたパンと比べて、硬質米発芽玄米の糊化澱粉組成物を含有させたパンは、GABA含有量および糊化度が極めて高く、食感および栄養機能性に優れていることが明らかになった。
【0086】
<実施例9> (発芽玄米糊化澱粉組成物含有麺)
(1)糊化澱粉組成物含有麺の製造
‘原料’として高アミロース米である「ホシユタカ」を用いたことを除いて、実施例3に記載の方法と同様にして、ホモゲナイズ物を調製した。
このホモゲナイズ物に、市販の中力小麦粉175gを加え、蒸練機で15分間蒸練し、練りだし機によって蒸練生地を3回練りだしした。生地における糊化澱粉組成物(乾燥重量)と小麦粉との重量の割合は、45:55であった。
この‘生地’を、圧延機によって厚さ2mmに圧延してシート状にし、切断して低温で一晩置いて硬化させた後、硬化生地を製麺機の切り歯で約2.5mmに切断することで、‘糊化澱粉組成物含有麺’(試料9)を製造した。
【0087】
(2)麺の評価
上記糊化澱粉組成物含有麺(試料9)について、各種成分を測定した。なお、各種成分の測定は、実施例1に記載の測定方法と同様に行った。
その結果、この麺の水分含量は34重量%、タンパク質含量は12乾燥重量%、食物繊維含量は4.1乾燥重量%、乾燥重量100gあたりのGABA含量は5mg(0.005乾燥重量%)であり、澱粉あたりのレジスタントスターチ含量は2.1%、BAP法で測定した澱粉糊化度は92%であった。
【0088】
次いで、この糊化澱粉組成物含有麺(試料9)を、2gの食塩を含む5Lの湯中で2分間ゆがき、官能検査に供した。
なお、比較対照として、中力粉のみを用いたことを除いては上記段落(1)に記載の方法と同様にして麺生地を作り、麺を製造した
6名の試食者による官能検査の結果、上記糊化澱粉組成物含有麺(試料9)は、中力小麦粉100%の麺(比較対照)に比べて、食感ではやや軟らかいという評価であったが、麺のツヤや色等の外観が優れており、甘味の強い麺であった。
【0089】
(3)乾麺の製造
上記糊化澱粉組成物含有麺(試料9)を、80℃で3時間、熱風乾燥することで、乾麺を製造した。製造した乾麺の外観を図11に示す。
上記乾麺は、水分含量が6.6%であり、熱湯中で10分間加熱することで、独特の食感とエビの特徴的な風味を示した。この乾麺は、室温で1ヶ月放置した後も、微生物は繁殖せず、良好な衛生性が保持され、保存性に優れたものであった。
【0090】
<実施例10> (硬質米、硬質小麦、硬質大麦の迅速発芽試験)
・発芽および糊化
九州大学試験圃場で生産された超硬質米である「EM10」の玄米100g、北海道産パン用小麦「ハルユタカ」100g、香川県産モチ大麦ダイシモチ100gにそれぞれ水400gを加え、20℃から加熱を開始して15分で55℃に到達させ、弱火にして55℃で30分間保温することで、発芽処理を行った。
その後、加熱を強くし、15分で沸騰に到達させ、15分間沸騰を継続させた後、加熱を停止し、15分間蒸らしを行ことで、澱粉を糊化させた発芽玄米がゆ(‘糊化澱粉組成物’)を得た。発芽状態を図12に示す。
2時間以内で(迅速発芽させて)出来上がったかゆ中の穀類は、胚芽がふくらみ、大部分が発芽したものであった。
【0091】
<実施例11> (大豆、小麦、大麦を添加した糊化澱粉組成物含有麺)
・糊化澱粉組成物含有麺の製造
‘原料’として、超硬質米「EM10」と硬質形質を有さない各種穀類(大豆、小麦あるいは大麦)との重量の割合が、7:3になるように混合して用いたことを除いて、実施例10に記載の方法と同様にして、発芽および澱粉を糊化させて、発芽玄米がゆ(‘糊化澱粉組成物’)を得た。
その後、実施例3に記載の方法と同様にして、ホモゲナイズ物を調製した。
このホモゲナイズ物を用いて、実施例9に記載の麺の製造方法と同様にして、‘生地’を調製し、‘糊化澱粉組成物含有麺’を製造した。生地における糊化澱粉組成物(乾燥重量)と小麦粉との重量の割合は、43:57であった。製造した各種麺の外観を図13に示す。
【0092】
<実施例12> (糊化澱粉組成物含有スナック菓子)
(1)スナック菓子の製造
‘発芽玄米粉’(九州大学試験圃場産EM10)80gに、各種食品素材(スイートコーン、ヤーコン、いんげん、乾燥トマト、エビ殻あるいは枝豆)をそれぞれ10g加え、純水100gとともに20分間加熱することで、澱粉を糊化させて、‘糊化澱粉組成物’を得た。次いで、TESCOM製スティックブレンダーTHM500によって、均一になるようホモゲナイズしホモゲナイズ物を得た。
このホモゲナイズ物を、市販強力小麦粉(カメリヤ)70gに混合し、純水30gを加えた後、手でこねて生地玉とし、家庭用製餅器(東芝もちっこ生地職人)を使用し、外釜に240mlの純水をいれ、蒸気があがったら上記の生地を入れ、延ばし棒で均一な厚み(約2mm)になるよう延伸し、‘棒状のスナック菓子生地’を作成した。生地における糊化澱粉組成物(乾燥重量)と小麦粉との重量の割合は、21:79であった。
これらの生地を、4℃の低温室で一晩静置し、硬化させた。硬化後、幅2mmに切断し、アドバンテック社製オーブン(FC−610)を使用し、160℃、20分間焼き上げることで、‘糊化澱粉組成物含有棒状スナック菓子’を製造した。製造した各種棒状スナック菓子の外観を図14に示す。
【0093】
(2)スナック菓子の評価
これらの棒状スナック菓子は、焼き上げ後も良好な形状を維持していた。また、試食試験を行った結果、香りと味が良好で、高い評価が得られた。
【0094】
<実施例13> (糊化澱粉組成物含有油揚げスナック菓子)
(1)油揚げスナック菓子の製造
‘各種食品素材’として、豚ロース肉、ブロッコリー、エリンギ、赤タマネギ、ショウガあるいはゴーヤを用いた以外は、実施例12と同様にして‘棒状のスナック菓子生地’を調製した。生地における糊化澱粉組成物(乾燥重量)と小麦粉との重量の割合は、21:79であった。
これらの生地を、180℃のコーンサラダオイル中で1分間油揚げすることで、‘糊化デンプン組成物含有棒状油揚げスナック菓子’を製造した。製造した各種棒状油揚げスナック菓子の外観を図15に示す。
【0095】
(2)油揚げスナック菓子の評価
これらの棒状の油揚げスナック菓子はサクサクした良好な食感を呈したものであった。
【0096】
<実施例14> (発芽大麦糊化澱粉組成物含有クッキー)
(1)クッキーの製造
‘原料’として硬質大麦であるハダカムギの「イチバンボシ」を用いたこと、及び、‘各種食品素材’として、赤タマネギもしくは昆布を用いたこと、を除いては、実施例1と同様にして、ホモゲナイズ物を調製した。そして、得られたホモゲナイズ物を凍結乾燥し、凍結乾燥後にイワタニ製ミルサーによって粉砕し、粉末を得た。
この粉末を原料としてクッキーを試作した。すなわち、ホモゲナイズ物の凍結乾燥粉末50g、バター20g、塩0.5g、砂糖20g、卵2.5gをよく混ぜ合わせ、‘生地’を調製した。なお、この生地調製に際しては、小麦粉(市販強力粉カメリヤ)を糊化澱粉組成物に対し等量用いた。糊化澱粉組成物(乾燥重量)と小麦粉との重量の割合=50:50)。
この生地をラップに包み、2時間冷凍庫でねかした後、オーブンを170℃に保温し、170℃、15分で焼き上げることで、小麦粉の半量を糊化澱粉組成物(乾燥重量換算)に代替した‘糊化澱粉組成物含有クッキー’を製造した(試料14−A:各種食品素材が赤玉ねぎ、試料14−B:各種食品素材が昆布)。製造したクッキーの外観を図16に示す。
【0097】
(2)クッキーの評価
上記製造した糊化澱粉組成物含有クッキー(試料14−A、14−B)について、官能検査に供した。
なお、比較対照として、市販薄力小麦粉のみを用いたことを除いては上記段落(1)に記載の方法と同様にして生地を作り、クッキーを製造した。
クッキーの試食試験を8名で行った結果、「食感」、「味・香り」の項目において、上記糊化澱粉組成物含有クッキー(試料14−A、14−B)が、市販薄力小麦粉のクッキー(比較対照)より有意に優れていた。
【0098】
<実施例15> (糊化澱粉組成物含有中華饅頭)
(1)糊化澱粉組成物含有中華饅頭の製造
・発芽
超硬質米である「EM10」(九州大学産)玄米250g、あるいは、紫黒米である「朝紫」250gを、0.1%次亜塩素酸ナトリウム水溶液に30分間浸漬して種子表面を殺菌した。
次いで、水で十分洗浄した後、1Lの温湯(30℃)に72時間浸漬することで、発芽処理を行った。なお、水は24時間ごとに新しい水と交換した。
【0099】
・糊化
その後、発芽処理した玄米を乾燥し、水分含量を15%に調整した。この発芽玄米に2倍量の水を加え、家庭用電気炊飯器、シャープ製電気炊飯器(KS−HA5−W)を用いて炊飯することで、澱粉を糊化させた発芽玄米がゆを調製した。
【0100】
・中華饅頭の製造
この発芽玄米がゆ200gに、各種食品素材(加熱処理した豚ロース肉30g、加熱したオクラ20g)を加え、ホモゲナイズして糊化澱粉組成物を調製した。次いで、市販強力小麦粉45gおよび市販薄力小麦粉25gを加え、食塩2g、および市販ベーキングパウダー7gを加えた。そして、パナソニック製ホームベーカリー(SD−BM151)の「うどんパスタモード」で15分間混ねつし、発芽玄米、小麦粉、豚肉およびオクラが均一になるよう練り合わることで、‘生地’を調製した。
次いで、冷蔵庫に2時間寝かせた後、打ち粉を振って、約15gずつ手で生地玉を成形し、具材を入れ、中火で15分間蒸し上げることで、中華饅頭(試料15−1:EM10の糊化澱粉組成物含有中華饅頭の皮、試料15−2:紫黒米の糊化澱粉組成物含有中華饅頭の皮)を製造した。製造した中華饅頭の外観を図17に示す。
【0101】
(2)中華饅頭(皮)の評価
上記糊化澱粉組成物含有中華饅頭(試料15−1)の皮について、各種成分を測定した。なお、各種成分の測定は、実施例1に記載の測定方法と同様に行った。
その結果、この中華饅頭の皮(試料15−1)の水分含量は、56.2重量%、タンパク質含量は14.7乾燥重量%、食物繊維含量は4.2乾燥重量%、乾燥重量100gあたりのGABA含量は41.2mg(0.0412乾燥重量%)であり、澱粉あたりのレジスタントスターチ含量は3.8%、であった。
【0102】
<実施例16> (糊化澱粉組成物含有餃子の皮)
(1)糊化澱粉組成物含有餃子の皮の製造
・発芽および糊化
‘原料’として超硬質米である「EM10」(九州大学産)を用いたことを除いては、実施例15と同様に、発芽処理を行った。
その後、発芽処理した玄米200gに、300gの水を加えて約40分間加熱することで、発芽玄米がゆを得た
【0103】
・餃子の皮の製造
この発芽玄米がゆ(400g)に、乾燥鮭粉末30g、オクラ乾燥粉末20gおよび加熱したなめこ粉末40gを加え、よく混合して糊化澱粉組成物を調製し、パナソニック製ホームベーカリー(SD−BM151)の「うどんパスタモード」で15分間混ねつし、発芽玄米、鮭、オクラ、なめこが均一になるよう練り合わせることで、混ねつ物を調製した。
この混ねつ物に、市販の中力小麦粉175gを混合し、15分間蒸練し、練りだし機によって蒸練生地を3回練りだした。生地における糊化澱粉組成物(乾燥重量)と小麦粉との重量の割合は、36:64であった。
この‘生地’を圧延機によって厚さ1mmに圧延してシート状にすることで、‘糊化澱粉組成物含有餃子の皮’(試料16)を製造した。
【0104】
(2)餃子の皮の評価
上記糊化澱粉組成物含有餃子の皮について、各種成分を測定した。なお、各種成分の測定は、実施例1に記載の測定方法と同様に行った。
その結果、この餃子の皮の水分含量は、32重量%、タンパク質含量は13.3乾燥重量%、食物繊維含量は7.6乾燥重量%、乾燥重量100gあたりのGABA含量は63mg(0.063乾燥重量%)であり、澱粉あたりのレジスタントスターチ含量は6.8%、であった。
【0105】
<実施例17> (発芽玄米における赤タマネギの効果)
(1)発芽および糊化
九州大学試験圃場で生産された超硬質米である「EM10」の玄米100gに、‘水400g(試料17−A)’、‘紅茶粉末を20gを添加した水400g(試料17−B)’、‘番茶粉末20gを添加した水400g(試料17−C)’、もしくは、‘赤タマネギ粉末20gを添加した水400g(試料17−D)’をそれぞれ加え、20℃から加熱を開始して15分で55℃に到達させ、弱火にして55℃で30分間保温することで、発芽処理を行った。
その後、加熱を強くし、15分で沸騰に到達させ、15分間沸騰を継続させた後、加熱を停止し、15分間蒸らしを行うことで、澱粉を糊化させた発芽玄米がゆ(‘糊化澱粉組成物’)を得た。なお、2時間以内で(迅速発芽させて)出来上がったかゆ中の玄米は、胚芽がふくらみ、大部分が発芽したものであった。
【0106】
(2)糊化した発芽玄米の特性
これらの糊化した発芽玄米の物理特性を、タケトモ電機製テンシプレッサーによって測定した結果を図18に示す。
図18に示されるように、紅茶(試料17−B)、番茶(試料17−C)を添加することで、発芽玄米が水のみ(試料17−A)の場合に比べて、炊飯(糊化)後の発芽玄米が軟らかくなることが分った。
また、赤タマネギ(試料17−D)を加えた場合は、炊飯(糊化)後の発芽玄米が軟らかくなり、粘りが増加し、粘りと硬さの比であるバランス度が顕著に増加し、物理特性に優れた発芽玄米の調製にきわめて有益であることが明らかになった。
【0107】
<実施例18> (糊化澱粉組成物含有油揚げスナック菓子)
(1)油揚げスナック菓子の製造
‘原料’として、硬質米「EM10」と一般良食味米である「コシヒカリ」との重量の割合が、7:3になるように混合した玄米を用いたことを除いて、実施例17に記載の方法と同様にして、発芽、糊化させて、発芽玄米がゆ(‘糊化澱粉組成物’)を得た。そして、乾燥させて発芽玄米粉を調製した。
そして、この‘発芽玄米粉’を用いたことを用いたこと以外は、実施例13と同様にして‘生地’を調製し、‘糊化澱粉組成物含有棒状油揚げスナック菓子’を製造した。生地における糊化澱粉組成物(乾燥重量)と小麦粉との重量の割合は、24:76であった。
製造した各種棒状油揚げスナック菓子の外観を図19に示す。
【0108】
(2)油揚げスナック菓子の評価
これらの棒状の油揚げスナック菓子は、サクサクとした食感と特徴的な風味とを有しており、試食者の評価がきわめて高かった。
【0109】
<実施例19> (パンの老化試験)
(1)糊化澱粉組成物含有食パンの製造
表4に示す‘原料’の穀類を用いたこと、および、発芽穀類を得た後に表4に示す炊飯方法で炊飯したことを除いて、実施例1と同様の方法で発芽穀類がゆ(‘糊化澱粉組成物’)を調製した。
なお、表4の炊飯方法において、‘通常炊飯’とは、上記穀類に対し10倍量加水して炊飯したかゆを指す。また、‘ヨーグルト炊飯A’とは、上記穀類に対し10%ヨーグルト液(明治乳業製ヨーグルトLG21を10重量%含む液)を10倍量加水して炊飯したかゆを指す。また‘ヨーグルト炊飯B’とは、上記穀類に対し、上記ヨーグルト10%液を1.5倍量加えて炊飯したかゆを指す。また、‘ヨーグルト炊飯AB’とは上記ヨーグルト炊飯Aを行った後にヨーグルト炊飯Bを行ったかゆを指す。
そして、このかゆを用いて、実施例1と同様の方法にして、ホモゲナイズ物を調製した。
次いで、このホモゲナイズ物を用いて、実施例1と同様の方法で、‘生地’を調製し、‘糊化澱粉組成物含有食パン’(試料19−B〜試料19−K)を製造した。生地における糊化澱粉組成物(乾燥重量)と小麦粉との重量の割合は、30:70であった。
【0110】
【表4】
【0111】
(2)老化の比較
上記製造した糊化澱粉組成物含有食パンの老化性を比較した。
なお、比較対照として、強力小麦粉のみ(日清製粉製カメリヤ100%)を用いたことを除いては上記段落(1)に記載の方法と同様にして、食パン(試料19−A:比較対照)を製造し老化性を比較した。パンの製造後3日目のテンシプレッサー多重バイト試験による物性値(硬さ:toughness)を図20に示す。
【0112】
図から明らかなように、発芽玄米、発芽大麦の糊化澱粉組成物と小麦粉とブレンドして試作したパンは、カメリヤ100%の強力小麦粉で試作したパン(試料19−A:比較対照)に比べて、3日後でも軟らかいことが判明し、米粉パンは小麦粉パンに比べて、老化しやすいという従来の定説を覆すほど老化しにくいことが示された。
また、発芽穀類の糊化処理(炊飯)時に、ヨーグルト溶液を用いることで、より柔らかいパンが製造できることが分った。
【0113】
<実施例20> (混合玄米の糊化澱粉組成物を含有する麺のレジスタントスターチ)
(1)糊化澱粉組成物含有麺の製造
超硬質米である「EM10」、もしくは、硬質形質を有しない各種穀類(青大豆、小麦、大麦)について、実施例10に記載の方法と同様にして、発芽および澱粉を糊化させた各種発芽穀類がゆ(‘糊化澱粉組成物’)を得た。
次いで、これら各種発芽穀類がゆ、さらに別途準備したもち米である「こがねもち」を精米した米粉を、表5に示す割合でそれぞれミキサーでホモゲナイズして各種ホモゲナイズ物を調製した。
その後、糊化澱粉組成物と小麦粉との割合を、表5に記載の割合で用いて生地を調製したことを除いて、実施例7に記載の方法と同様にして、‘生地’を調製し、‘糊化澱粉組成物含有麺’(試料20−B〜20−G)を製造した。
【0114】
【表5】
【0115】
(2)レジスタントスターチの測定と結果
これらの麺を、実施例7と同様にして湯がいた後、冷却し、−80℃のフリーザーで冷凍した後に凍結乾燥し、Udyサイクロンミルを用いて粉末試料とした。
これらの粉末試料に含まれるレジスタントスターチ量を、メガザイムキットによって測定した。
なお、比較対照として、小麦粉のみ(市販小麦粉100%)を用いたことを除いては上記段落(1)に記載の方法と同様にして麺(試料20−A)を製造し、レジスタントスターチ量を測定した。結果を図21に示す。
【0116】
図に示すように、比較対照である市販小麦粉100%で調製した麺(試料20−A)のレジスタントスターチ含量が1.3%であるのに対し、糊化澱粉組成物を含有する各麺(試料20−B〜20−G)のレジスタントスターチ含量は、2.4〜4.2%であり、きわめて高かった。
【0117】
<実施例21> (迅速発芽と通常発芽におけるレジスタントスターチの相違)
・レジスタントスターチの測定および結果
超硬質米である「EM10」を試料とし、実施例1と同様の方法で迅速発芽させた発芽玄米(試料21−A)およびこの玄米を炊飯した発芽玄がゆ(試料21−B:‘糊化澱粉組成物’)を調製した。
また、対照として、37℃で18時間発芽させた発芽玄米(試料21−C)およびこの玄米を炊飯した発芽玄がゆ(試料21−D:‘糊化澱粉組成物’)を調製した。
これらについて、メガザイムキットによってレジスタントスターチを測定した。結果を図22に示す。
【0118】
その結果、図22に示されるように、通常の発芽の場合、炊飯(糊化)によってレジスタントスターチが激減するのに対し、迅速発芽の場合、炊飯による減少がきわめて少なく、炊飯後は迅速発芽の場合の方がレジスタントスターチ含量が高いことがわかった。
また、呈味成分であるグルコース及びグルタミン酸を測定した結果、図23に示すように、迅速発芽玄米がゆ(試料21−B)の方が通常発芽玄米がゆ(試料21−D)より大幅に高い値を示した。
【0119】
<実施例22> (品種によるレジスタントスターチ含有量の相違)
・レジスタントスターチの測定および結果
超硬質米である「EM10」、高アミロース米である「ホシユタカ」、低いアミロース米である「ミルキークイーン」、高アミロース米である「夢十色」、低グリテン米である「春陽」、一般良食米である「コシヒカリ」の各品種について、37℃で18時間発芽を行った試料米中のレジスタントスターチ含量をメガザイムキットで測定した。結果を図24に示す。
その結果、超硬質米である「EM10」のレジスタントスターチ含量が圧倒的に多いことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明により、‘通常の小麦粉以外の穀類(特に玄米)への代替率を向上する’ことを可能とするとともに、‘製造した食品の食味、物性、栄養が顕著に向上された’小麦粉食品(特に、パン、麺状食品、饅頭の皮、菓子など)の容易な製造方法を食品製造企業に提供することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉全量の1〜20%がレジスタントスターチであり、且つ、3.5〜30乾燥重量%の食物繊維、及び、0.005乾燥重量%以上のγ−アミノ酪酸、を含有することを特徴とする発芽穀類糊化澱粉組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の発芽穀類糊化澱粉組成物と小麦粉とを、乾燥重量に換算して20:80〜70:30の割合で均一に含有する、小麦粉食品生地。
【請求項3】
澱粉全量の1〜20%がレジスタントスターチであり、且つ、3.5〜30乾燥重量%の食物繊維、及び、0.005乾燥重量%以上のγ−アミノ酪酸、を含有する、澱粉糊化度が90%以上の発芽穀類糊化澱粉組成物を調製し、;当該発芽穀類糊化澱粉組成物と小麦粉とを、乾燥重量に換算して20:80〜70:30の割合で均一に含有させることを特徴とする、小麦粉食品生地の製造方法。
【請求項4】
前記発芽穀類糊化澱粉組成物が、前記発芽穀類糊化澱粉組成物の乾燥重量100重量部あたり、80〜2000重量部の水分を含むように調製されたものである、請求項3に記載の小麦粉食品生地の製造方法。
【請求項5】
食物繊維含有素材を均一に混合する工程を含むものである、請求項3又は4に記載の小麦粉食品生地の製造方法。
【請求項6】
前記発芽穀類糊化澱粉組成物の調製が、蒸煮する工程を含むものである、請求項3〜5のいずれかに記載の小麦粉食品生地の製造方法。
【請求項7】
前記発芽穀類が、穀類を水あるいは温湯に浸漬し、昇温速度0.2〜4℃/分で30〜60℃に加温し、20分〜6時間浸漬することによって、迅速に発芽させたものである、請求項3〜6のいずれかに記載の小麦粉食品生地の製造方法。
【請求項8】
請求項7において前記穀類を迅速に発芽させた後、得られた発芽穀類を炊飯する工程を含むものである、小麦粉食品生地の製造方法。
【請求項9】
前記発芽穀類が、グルコース重合度6〜12のアミロペクチン短鎖の割合が全アミロペクチン鎖の20%以下である硬質米の玄米、硬質大麦あるいは硬質小麦を発芽させたものを、10重量%以上含有するものである、請求項3〜8のいずれかに記載の小麦粉食品生地の製造方法。
【請求項10】
前記発芽穀類が、グルコース重合度6〜12のアミロペクチン短鎖の割合が全アミロペクチン鎖の20%以下である硬質米の玄米を発芽させたものを、10重量%以上含有するものである、請求項3〜9のいずれかに記載の小麦粉食品生地の製造方法。
【請求項11】
前記食物繊維含有素材が、穀類を除く植物体の可食部、海藻の藻体、担子菌類子実体、および、甲殻類の殻から選ばれる1以上のものである、請求項3〜10のいずれかに記載の小麦粉食品生地の製造方法。
【請求項12】
前記発芽穀類糊化澱粉組成物中のレジスタントスターチの含量が、澱粉全量の2〜20%である、請求項3〜11のいずれかに記載の小麦粉食品生地の製造方法。
【請求項13】
請求項3〜12のいずれかに記載の方法から得られた小麦粉食品生地。
【請求項14】
請求項2または13に記載の小麦粉食品生地を用いて製造された食品。
【請求項15】
請求項2または13に記載の小麦粉食品生地を用いて製造されたパン。
【請求項16】
請求項2または13に記載の小麦粉食品生地を用いて製造された麺状食品。
【請求項17】
請求項2または13に記載の小麦粉食品生地を用いて製造された菓子。
【請求項18】
請求項2または13に記載の小麦粉食品生地を用いて製造された中華饅頭の皮。
【請求項19】
水分含量が10%以下である請求項14〜18のいずれかに記載の食品。
【請求項1】
澱粉全量の1〜20%がレジスタントスターチであり、且つ、3.5〜30乾燥重量%の食物繊維、及び、0.005乾燥重量%以上のγ−アミノ酪酸、を含有することを特徴とする発芽穀類糊化澱粉組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の発芽穀類糊化澱粉組成物と小麦粉とを、乾燥重量に換算して20:80〜70:30の割合で均一に含有する、小麦粉食品生地。
【請求項3】
澱粉全量の1〜20%がレジスタントスターチであり、且つ、3.5〜30乾燥重量%の食物繊維、及び、0.005乾燥重量%以上のγ−アミノ酪酸、を含有する、澱粉糊化度が90%以上の発芽穀類糊化澱粉組成物を調製し、;当該発芽穀類糊化澱粉組成物と小麦粉とを、乾燥重量に換算して20:80〜70:30の割合で均一に含有させることを特徴とする、小麦粉食品生地の製造方法。
【請求項4】
前記発芽穀類糊化澱粉組成物が、前記発芽穀類糊化澱粉組成物の乾燥重量100重量部あたり、80〜2000重量部の水分を含むように調製されたものである、請求項3に記載の小麦粉食品生地の製造方法。
【請求項5】
食物繊維含有素材を均一に混合する工程を含むものである、請求項3又は4に記載の小麦粉食品生地の製造方法。
【請求項6】
前記発芽穀類糊化澱粉組成物の調製が、蒸煮する工程を含むものである、請求項3〜5のいずれかに記載の小麦粉食品生地の製造方法。
【請求項7】
前記発芽穀類が、穀類を水あるいは温湯に浸漬し、昇温速度0.2〜4℃/分で30〜60℃に加温し、20分〜6時間浸漬することによって、迅速に発芽させたものである、請求項3〜6のいずれかに記載の小麦粉食品生地の製造方法。
【請求項8】
請求項7において前記穀類を迅速に発芽させた後、得られた発芽穀類を炊飯する工程を含むものである、小麦粉食品生地の製造方法。
【請求項9】
前記発芽穀類が、グルコース重合度6〜12のアミロペクチン短鎖の割合が全アミロペクチン鎖の20%以下である硬質米の玄米、硬質大麦あるいは硬質小麦を発芽させたものを、10重量%以上含有するものである、請求項3〜8のいずれかに記載の小麦粉食品生地の製造方法。
【請求項10】
前記発芽穀類が、グルコース重合度6〜12のアミロペクチン短鎖の割合が全アミロペクチン鎖の20%以下である硬質米の玄米を発芽させたものを、10重量%以上含有するものである、請求項3〜9のいずれかに記載の小麦粉食品生地の製造方法。
【請求項11】
前記食物繊維含有素材が、穀類を除く植物体の可食部、海藻の藻体、担子菌類子実体、および、甲殻類の殻から選ばれる1以上のものである、請求項3〜10のいずれかに記載の小麦粉食品生地の製造方法。
【請求項12】
前記発芽穀類糊化澱粉組成物中のレジスタントスターチの含量が、澱粉全量の2〜20%である、請求項3〜11のいずれかに記載の小麦粉食品生地の製造方法。
【請求項13】
請求項3〜12のいずれかに記載の方法から得られた小麦粉食品生地。
【請求項14】
請求項2または13に記載の小麦粉食品生地を用いて製造された食品。
【請求項15】
請求項2または13に記載の小麦粉食品生地を用いて製造されたパン。
【請求項16】
請求項2または13に記載の小麦粉食品生地を用いて製造された麺状食品。
【請求項17】
請求項2または13に記載の小麦粉食品生地を用いて製造された菓子。
【請求項18】
請求項2または13に記載の小麦粉食品生地を用いて製造された中華饅頭の皮。
【請求項19】
水分含量が10%以下である請求項14〜18のいずれかに記載の食品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
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【図19】
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【図23】
【図24】
【公開番号】特開2010−263793(P2010−263793A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115164(P2009−115164)
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
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