説明

硬質表面改質剤

【課題】 摩擦や高温高湿環境に対して優れた耐久性を有する防汚性を硬質表面に付与することができる硬質表面改質剤を提供すること。
【解決手段】 本発明の硬質表面改質剤は、下記一般式(1)で表されるジオール化合物と、五酸化二リンと、を、ジオール化合物1モルに対して五酸化二リンが0.25〜0.7モルとなる割合で反応させて得られるパーフルオロポリエーテルリン酸エステル(以下、本発明に係るリン酸エステルという場合もある。)、を含有することを特徴とする。



式(1)中、Rは、2価の直鎖パーフルオロポリエーテル基を示し、n及びmはそれぞれ独立に1〜2の整数を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬質表面改質剤に関する。
【背景技術】
【0002】
パーフルオロ基を含有する含フッ素化合物は、撥油性及び撥水性を有し、防汚剤や精密機器の防油剤、保護膜、離型剤等に使用されている(例えば、下記特許文献1及び2を参照)。また、含フッ素化合物は、金属やガラス、プラスチック等の硬質表面に防汚性やスベリ性を付与するための硬質表面改質剤としても用いられている。硬質表面改質剤は、通常、硬質表面に塗布するなどの方法で利用され、このような処理が施された硬質表面には含フッ素化合物が密着する。
【0003】
含フッ素化合物については、硬質表面への密着性を向上させるために種々の変性が検討されている。例えば、下記特許文献3には、有機材料と無機材料を結びつけるシランカップリング剤を用いて、パーフルオロポリエーテル鎖にアルコキシシラン基を導入したフルオロアミノシラン化合物が開示されている。また、下記特許文献4には、アルコキシラン基を有するパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58−180597号公報
【特許文献2】特開平5−301228号公報
【特許文献3】特開昭58−167597号公報
【特許文献4】特開2009−144133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の含フッ素化合物によって改質された硬質表面は、当初優れた防汚性を示すものの、摩擦や高温高湿などの環境負荷を受けるとその性能が著しく低下してしまう。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、摩擦や高温高湿環境に対して優れた耐久性を有する防汚性を硬質表面に付与することができる硬質表面改質剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は、下記一般式(1)で表されるジオール化合物と、五酸化二リン(十酸化四リンともいう)と、を、ジオール化合物1モルに対して五酸化二リンが0.25〜0.7モルとなる割合で反応させて得られるパーフルオロポリエーテルリン酸エステル(以下、本発明に係るリン酸エステルという場合もある。)、を含有することを特徴とする硬質表面改質剤を提供する。
【0008】
【化1】



式(1)中、Rは、2価の直鎖パーフルオロポリエーテル基を示し、n及びmはそれぞれ独立に1〜2の整数を示す。
【0009】
本発明の硬質表面改質剤によれば、上記特定のパーフルオロポリエーテルリン酸エステルを含有することにより、硬質表面への密着性は十分なものとしつつ、摩擦や高温高湿環境に対して優れた耐久性を有する防汚性を硬質表面に付与することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、摩擦や高温高湿環境に対して優れた耐久性を有する防汚性を硬質表面に付与することができる硬質表面改質剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の硬質表面改質剤は、下記一般式(1)で表されるジオール化合物と、五酸化二リンと、を、ジオール化合物1モルに対して五酸化二リンが0.25〜0.7モルとなる割合で反応させて得られるパーフルオロポリエーテルリン酸エステルを含有することを特徴とする。
【0012】
【化2】



式(1)中、Rは、2価の直鎖パーフルオロポリエーテル基を示し、n及びmはそれぞれ独立に1〜2の整数を示す。なお、n及びmはそれぞれ平均付加モル数を示す。n及びmは、摩擦や高温高湿環境に対する耐久性がより優れることから、1であることが好ましい。
【0013】
2価の直鎖パーフルオロポリエーテル基としては、下記一般式(2)で表される基が挙げられる。
【化3】



式(2)中、p及びqは平均付加モル数を示し、pは1〜50、qは1〜50である。直鎖パーフルオロポリエーテル基を構成する(−CFCFO−)及び(−CFO−)の重合形式は、ランダム共重合、ブロック共重合又は交互共重合のいずれであってもよい。防汚性、スベリ性、撥水性及び撥油性がより優れることから、(−CFCFO−)及び(−CFO−)の重合形式はランダム共重合が好ましい。
【0014】
本発明においては、硬質表面に付与する防汚性、スベリ性、撥水性及び撥油性の程度に応じて、上記p及びqの値を適宜変更することができる。防汚性、スベリ性、撥水性及び撥油性がより優れることから、p及びqは、p:q=7:3〜5:5の関係を満たすことが好ましい。
【0015】
硬質表面に付与する防汚性、スベリ性、撥水性及び撥油性がより優れることから、一般式(1)で表されるジオール化合物の分子量は1000〜4000が好ましく、1500〜2500がより好ましい。そのようなジオール化合物として、ソルベイ ソレクシス(株)社製のFLUOROLINK E10H(平均分子量1500)を用いることができる。
【0016】
本発明に係るパーフルオロポリエーテルリン酸エステルは、例えば、上記のモル比で混合した上記一般式(1)で表されるジオール化合物と五酸化二リンとを、窒素下、70〜120℃で、3〜8時間反応させることにより得ることができる。なお、反応温度が上記範囲より低いと、反応に多大な時間を要する傾向にあり、上記範囲より高いと、目的の性能を有する、特には摩擦や高温高湿環境に対する耐久性に優れたパーフルオロポリエーテルリン酸エステルが得られ難くなる傾向がある。摩擦や高温高湿環境に対する耐久性により優れる硬質表面改質剤が実現できる点で、反応温度は80〜100℃が好ましい。
【0017】
上記一般式(1)で表されるジオール化合物と五酸化二リンとの反応モル比は、ジオール化合物:五酸化二リン=1:0.25〜1:0.7モルであるが、摩擦や高温高湿環境に対する耐久性により優れる硬質表面改質剤が実現できる点で、1:0.5〜1:0.6モルが好ましい。
【0018】
なお、この反応が完結したことの判断は、得られた反応生成物(パーフルオロポリエーテルリン酸エステル)のFT−IR分析を行い、原料である上記一般式(1)で表されるジオール化合物の水酸基由来の吸収スペクトルが消失したことを確認することにより行うことができる。
【0019】
なお、本実施形態においては、下記一般式(3−1)、(3−2)又は(3−3)で示されるパーフルオロポリエーテルリン酸エステルを含有する反応生成物を得ることができる。
【0020】
【化4】



【0021】
【化5】



【0022】
【化6】



【0023】
式(3−1)中、X及びXはそれぞれ独立に、水素原子又は−ROHを示し、sは繰り返し単位数であり、1〜10の整数を示す。また、式(3−1)、(3−2)及び(3−3)中、Rは、下記一般式(4)で表される2価の基を示す。
【0024】
【化7】



式(4)中、R、n及びmは上記一般式(1)におけるものと同義である。
【0025】
本発明の硬質表面改質剤は、上記本発明に係るリン酸エステルをそのまま、或いは、フッ素系溶剤に溶解して調製することができる。フッ素系溶剤としては、例えば、パーフルオロヘプタン、パーフルオロヘキサン、m−六フッ化キシレン(m−xylenehexafluoride)、ベンゾトリフルオリド、メチルパーフルオロブチルエーテル、エチルパーフルオロブチルエーテル、パーフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)等のフッ素化炭化水素系溶剤が挙げられる。
【0026】
本発明に係るリン酸エステルをフッ素系溶剤に溶解して硬質表面改質剤とする場合、本発明に係るリン酸エステルの含有量は硬質表面改質剤全量を基準として0.05〜0.5質量%が好ましい。本発明に係るリン酸エステルの含有量が0.05質量%未満であると、本発明の効果が得られにくくなる。
【0027】
本発明の硬質表面改質剤は、金属、ガラス、プラスチック等の硬質表面に塗布することにより、撥水性、撥油性、スベリ性及び防汚性を付与することができる。そして、これらの特性は、摩擦や高温高湿環境に対して優れた耐久性を有し、長期間維持させることができる。
【0028】
次に、本発明の硬質表面改質剤を用いて改質された硬質表面を得る方法について説明する。
【0029】
本実施形態の方法では、硬質表面上に、本発明の硬質表面改質剤を塗布し、自然乾燥、又は加熱処理することにより改質された硬質表面を得ることができる。
【0030】
塗布方法は特に限定されず、一般的な方法をとることができ、例えば、スピンコーティング法、浸漬コーティング法(ディッピング法)等が挙げられる。
【0031】
作業や取り扱いがし易くなる観点から、本発明の硬質表面改質剤はフッ素系溶剤を含むものが好ましい。
【0032】
摩擦や高温高湿環境に対する耐久性により優れる硬質表面が得られる点で、硬質表面改質剤の塗布後に塗膜を加熱処理することが好ましい。加熱温度は90〜170℃が好ましく、140〜160℃がより好ましい。170℃より高いと、本発明に係るリン酸エステルが分解してしまう恐れがあり、90℃より低いと、加熱による性能向上が得られるまでに長時間を要する。加熱時間は、特に限定されないが、例えば、5分〜1時間という時間が挙げられる。摩擦や高温高湿環境に対する耐久性などの性能がより向上する点で、10〜30分間が好ましい。加熱時間が5分間より短いと加熱による性能向上が得られ難くなる傾向がある。
【実施例】
【0033】
(実施例1)
還流冷却管、温度計、窒素導入管及び攪拌装置を取り付けた100mlの3口ナスフラスコに、直鎖パーフルオロポリエーテルの両末端に−CH−(OCHCH)−OHを有する原料パーフルオロポリエーテル(ソルベイ ソレクシス(株)社製、製品名:FLUOROLINK E10H、平均分子量1500)20g(13.3mmol)と五酸化二リン0.95g(6.7mmol(五酸化二リンの式量141.9で計算))とを加え、窒素を流しながら室温で30分間撹拌したのち、反応物総量に対し3000ppmとなるようイオン交換水を加えた。窒素を流しながら10〜15分間攪拌したのち、80〜90℃に昇温しおよそ1時間攪拌すると、五酸化二リンが完全に消費され、濁った溶液から透明な液体に変わった。さらに、90℃で3時間攪拌を続けたのち反応を終了し、透明な粘性液体の生成物20gを得た。
【0034】
(比較例1)
第一段階:
還流冷却管、温度計、窒素導入管及び攪拌装置を取り付けた50mlの3口ナスフラスコに、フッ素系溶剤(ソルベイ ソレクシス(株)社製、製品名:HFE−7100)3mLを入れ、下記式(a)で示される構造を有する原料パーフルオロポリエーテル化合物(平均分子量1500)2.7g(1.8mmol)を加え、窒素を流しながら室温で10〜15分間攪拌した。次に、攪拌しながら、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン0.8g(3.6mmol)をシリンジで滴下し、さらに10〜15分間攪拌した。その後、70℃に昇温し7時間反応させて反応を終了した。得られた化合物とシクロヘキサンを混合して洗浄し、減圧して溶剤を除き、透明な粘性液体の生成物3.3gを得た。
【0035】
【化8】



式(a)中、kは平均付加モル数であり、整数を表す。
【0036】
第二段階:
還流冷却管、温度計、窒素導入管及び攪拌装置を取り付けた50mlの3口ナスフラスコに、フッ素系溶剤(ソルベイ ソレクシス(株)社製、製品名:HFE−7100)3mLを入れ、第一段階で得られた生成物3g(1.7mmol)を加え、10〜15分間窒素を流しながら室温で攪拌した。続いて、10〜15分間攪拌しながら、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.8g(3.4mmol)をシリンジで滴下した。その後、35℃に昇温し、7時間反応させて反応を終了した。得られた化合物とメタノールを混合して洗浄し、減圧して溶剤を除き、透明な粘性液体の生成物3.5gを得た。
【0037】
(比較例2)
還流冷却管、温度計、窒素導入管及び攪拌装置を取り付けた50mlの3口ナスフラスコに、直鎖パーフルオロポリエーテルの両末端に−CH−OHを有する原料パーフルオロポリエーテル(ソルベイ ソレクシス(株)社製、製品名:FLUOROLINK D10H、平均分子量1500)10g(6.7mmol)とオキシ塩化リン2g(13.4mmol)とを加え、窒素を流しながら室温で10〜15分間攪拌した。窒素気流下、室温でピリジンを滴下しながら30分間攪拌し、その後、50℃に昇温し3時間攪拌した後、再び攪拌しながらピリジンを滴下した。ピリジンの滴下総量は0.05gであった。滴下後、さらに3時間攪拌した。その後、水0.5gを加え30分間攪拌させて反応を終了した。フッ素系溶剤(ソルベイ ソレクシス(株)社製、製品名:HFE−7100)に反応生成物を抽出し、減圧して溶剤を除き、透明な粘性液体の生成物10gを得た。
【0038】
(比較例3)
還流冷却管、温度計、窒素導入管及び攪拌装置を取り付けた50mlの3口ナスフラスコに、直鎖パーフルオロポリエーテルの両末端に−CH−(OCHCH)−OHを有する原料パーフルオロポリエーテル(ソルベイ ソレクシス(株)社製、製品名:FLUOROLINK E10H、平均分子量1500)10g(6.7mmol)とオキシ塩化リン1g(13.4mmol)とを加え、窒素を流しながら室温で10〜15分間攪拌した。窒素気流下、室温でピリジンを滴下しながら30分間攪拌し、その後、50℃に昇温し3時間攪拌した後、再び攪拌しながらピリジンを滴下した。ピリジンの滴下総量は0.05gであった。滴下後、さらに3時間攪拌した。その後、水0.5gを加え30分間攪拌させて反応を終了した。フッ素系溶剤(ソルベイ ソレクシス(株)社製、製品名:HFE−7100)に反応生成物を抽出し、減圧して溶剤を除き、透明な粘性液体の生成物10gを得た。
【0039】
(比較例4)
還流冷却管、温度計、窒素導入管及び攪拌装置を取り付けた100mlの3口ナスフラスコに、直鎖パーフルオロポリエーテルの両末端に−CH−OHを有する原料パーフルオロポリエーテル(ソルベイ ソレクシス(株)社製、製品名:FLUOROLINK D10H、平均分子量1500)20g(13.3mmol)と五酸化二リン0.95g(6.7mmol)とを加え、窒素を流しながら室温で30分間撹拌したのち、反応物総量に対し3000ppmとなるようイオン交換水を加え、10〜15分間攪拌した。その後、80〜90℃に昇温し4時間攪拌して反応を終了した。得られた濁った粘性液体をフッ素系溶剤(ソルベイ ソレクシス(株)社製、製品名:HFE−7100)と混合し、ろ過し、透明な粘性液体の生成物を集め、生成物17gを得た。
【0040】
[硬質表面改質剤の性能評価]
2.5mm×7.5mmに切り取ったニッケル板(厚さ:0.1mm、ニラコ社製)を、超音波洗浄機にてアセトンで洗浄し、1N塩酸に5分間浸した。その後、水で洗浄し、超音波洗浄機にてアセトンで洗浄し、自然乾燥させた。こうして、評価用のニッケル板を用意した。
【0041】
実施例1及び比較例1〜4で得られた生成物(パーフルオロポリエーテル化合物)をフッ素系溶剤(ソルベイ ソレクシス(株)社製、製品名:HFE−7600)に0.1質量%の濃度となるよう溶解させ、処理液を得た。この処理液に、上記で得られた評価用ニッケル板を1分間浸漬し、その後取り出した板を立て掛け、150℃で10分間加熱したものを改質済ニッケル板とし、以下の性能評価に供した。
【0042】
<1.防汚性>
フェルトペン(ゼブラ社製、製品名:マッキー)で改質済ニッケル板に線を書き、線のはじきの程度(はじき性)と、その線を綿製のブロード布で拭き取った後の外観(拭き取り性)を、以下の基準に基づき官能評価した。その結果を表1に示す。
【0043】
(はじき性)
◎:線がほとんど描けない
○:若干、描ける
△:ほぼ描ける
×:はっきりと描ける
【0044】
(拭き取り性)
◎:きれいに拭き取ることができる
○:若干、跡が残る
△:かなり跡が残る
×:汚れが残り、はっきりとした跡が残る
【0045】
<2.撥水性及び撥油性>
20℃にて、水、n−ヘキサデカン、及びヨウ化メチレンを5μlずつピペットで改質済ニッケル板に滴下し、CONTACT−ANGLE METER FACE(協和界面科学(株)製、S−150)を用いて、θ/2法により接触角(°)を測定した。その結果を表2に示す。水の接触角が大きいほど撥水性が優れていることを示し、n−へキサデカンの接触角が大きいほど撥油性が優れていることを示す。
【0046】
次に、接触角の値、下記の文献値、Young−Dupreの式(式(A))、及び拡張Fowkesの式(式(B)、(C−1)、(C−2))を用いて、改質済ニッケル板の表面自由エネルギーγ(mN/m)を求めた。その結果を表1に示す。表面自由エネルギーが小さいほど撥水性及び撥油性に優れていることを示す。
【0047】
(表面自由エネルギーを求めるために用いる式)
液体(L)と固体(S)間に働く接着仕事WLSは、以下のような式で表される。
LS=γ(1+cosθ) 式(A)
LS=2((γ×γ1/2+(γ×γ1/2+(γ×γ1/2
式(B)
γ=γ+γ+γ 式(C−1)
γ=γ+γ+γ 式(C−2)
(式中、γは表面自由エネルギー、θは接触角を表し、γは分散力成分の、γは双極子力成分の、γは水素結合力成分の表面自由エネルギーを表わす。)
【0048】
(表面自由エネルギーの計算に用いた文献値)
水 :γ=29.1、γ=1.3、γ=42.4
n−ヘキサデカン:γ=27.6、γ=0、γ=0
ヨウ化メチレン :γ=46.8、γ=4.0、γ=0
【0049】
<3.スベリ性>
表面性測定機(新東科学(株)社製、HEIDON−14S)を用いて、改質済ニッケル板の摩擦係数(gf)を測定した。摩擦係数が小さいほどスベリ性が優れることを意味する。その結果を表1に示す。
【0050】
<4.摩擦耐久性>
平面磨耗試験機(山口科学(株)社製)を用いて、圧力0.5kg/cmで、改質済ニッケル板と乾いた綿ブロードを往復2000回摩擦させた。その後、フェルトペン(ゼブラ社製、製品名:マッキー)で線を描き、線のはじきの程度(はじき性)と、その線を綿製のブロード布で拭き取った後の外観(拭き取り性)を上記の基準で官能評価した。また、上記の方法で接触角(°)と表面自由エネルギー(mN/m)を求めた。それらの結果を表2に示す。
【0051】
<5.高温高湿耐久性>
TEMPERATURE AND HUMIDITY CHAMBER(タバイエスペック(株)社製、PH−1FT)を用いて、温度70℃、湿度90%の条件下に1週間、改質済ニッケル板を晒した。その後、フェルトペン(ゼブラ社製、製品名:マッキー)で線を書き、線のはじきの程度(はじき性)と、その線を綿製のブロード布で拭き取った後の外観(拭き取り性)を、上記の基準に基づき官能評価した。その結果を表1に示す。
なお、この評価によって加水分解に対する耐久性を見積もることが可能である。
【0052】
【表1】



【0053】
【表2】



【0054】
表1に示されるように、本発明に係る構成を有する実施例の硬質表面改質剤によれば、防汚性、撥水性、撥油性、スベリ性、摩擦耐久性及び高温高湿耐久性の全てに優れた結果が得られることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の硬質表面改質剤は、金属、ガラス、プラスチック等の硬い表面に塗布することにより、十分なスベリ性、撥水性、撥油性、防汚性を付与することができ、さらには加水分解が生じやすい高温高湿環境下での耐久性や摩擦に対する耐久性にも優れ、改質効果を長期間維持することが可能である。本発明の硬質表面改質剤は、金属製品やガラス製品、プラスチック製品、鏡等の防汚、保護のためや撥水性を付与するために用いることができる。また、離型剤としての使用も可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるジオール化合物と、五酸化二リンと、を、前記ジオール化合物1モルに対して前記五酸化二リンが0.25〜0.7モルとなる割合で反応させて得られるパーフルオロポリエーテルリン酸エステル、を含有することを特徴とする硬質表面改質剤。
【化1】



[式(1)中、Rは、2価の直鎖パーフルオロポリエーテル基を示し、n及びmはそれぞれ独立に1〜2の整数を示す。]


【公開番号】特開2012−201709(P2012−201709A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64796(P2011−64796)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000226161)日華化学株式会社 (208)
【Fターム(参考)】