説明

硬質表面用液体洗浄剤組成物

【課題】垂直及び傾斜面での付着滞留性に優れると共に、処理面全体への均一な広がり性を有し、且つ、カルシウムやケイ酸等の除去しにくい蓄積無機汚れに対して高い洗浄力を持ち、保存安定性にも優れた硬質表面用液体洗浄剤組成物を提供すること。
【解決手段】下記(a)〜(d)成分を含有することを特徴とする硬質表面用液体洗浄剤組成物:
(a) スルファミン酸 3〜10質量%、
(b) アルキルアミンオキシド 0.2〜1.5質量%、
(c) プロピレングリコール 0.5〜20質量%、及び
(d) 多糖類から選ばれる少なくとも一種の増粘剤 0.2〜0.8質量%。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬質表面における液体洗浄剤組成物に関し、更に詳しくは、洗浄剤の垂直及び傾斜面での付着滞留性を向上させることにより効率的な洗浄を可能とし、かつ、これらの場所に付着した汚れに対する洗浄力に優れたトイレの便器等の硬質表面用液体洗浄剤組成物、さらに保存安定性についても良好である硬質表面用液体洗浄剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
住居廻りにおけるトイレや流し台等の硬質表面は垂直あるいは傾斜をもつ面が多く、これら水平でない硬質表面の部位を液体洗浄剤で洗浄する場合には、洗浄剤が表面上に滞留せずに筋状となって短時間に垂れ落ちてしまうため、洗浄剤効果が充分に発揮されないという課題があった。
その対策として、特許文献1,3,4,5には有機酸、無機酸、界面活性剤、増粘性高分子等を組み合わせることで、増粘し、垂直面及び傾斜面での洗浄剤の垂れ落ちを抑制して洗浄効率を高める提案が開示されている。しかしながら、増粘だけでは洗浄剤をかけた後にブラシ等で塗り広げるなどの手間を要し、全面にかけようとすれば過剰の洗浄剤が必要となるなどの課題がある。
一方、特許文献2には洗浄剤の粘度及び洗浄対象面との接触角を設定することで、洗浄剤が対象硬表面をゆっくりと垂れ落ちながら全面に濡れ広がる方法が開示されている。しかしながら、硬質表面に付着する汚れが無機物主体の頑固な汚れ(尿石、水垢等)に有効な強酸性組成物においては、高い洗浄力と、均一に濡れ広がりながらゆっくりと垂れ落ちる付着滞留性と、組成物自体の良好な保存安定性を同時に満足できる組成物を開発することは、該当分野での容易ならざる課題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-183697号公報
【特許文献2】特開2004-210808号公報
【特許文献3】特開2005-97511号公報
【特許文献4】特開2000-192100号公報
【特許文献5】特開平9-143498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明は、垂直及び傾斜面での付着滞留性に優れると共に、処理面全体への均一な広がり性を有し、且つ、カルシウムやケイ酸等の除去しにくい蓄積無機汚れに対して高い洗浄力を持ち、保存安定性にも優れた硬質表面用液体洗浄剤組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らが鋭意検討した結果、特定の酸を特定量含ませることにより、除去しにくい蓄積無機汚れを効果的に除去し、特定の酸、特定の界面活性剤、特定の溶剤及び特定の増粘剤を選択し、これらを組み合わせることにより、単なる増粘だけでは得られない、均一に濡れ広がりながらゆっくりと垂れ落ちる組成物を得ることができた。また、特定の界面活性剤と増粘成分との配合比を規定することにより、保存安定性も兼ね備えた組成物を得ることができた。すなわち、本発明により、下記(a)〜(d)成分を含有することを特徴とする硬質表面用液体洗浄剤組成物を提供する:
(a) スルファミン酸 3〜10質量%、
(b) アルキルアミンオキシド 0.2〜1.5質量%、
(c) プロピレングリコール 0.5〜20質量%、及び
(d) 多糖類から選ばれる少なくとも一種の増粘剤 0.2〜0.8質量%。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、垂直及び傾斜面での付着滞留性に優れると共に、処理面全体への均一な広がり性を有し、且つ、カルシウムやケイ酸等の除去しにくい蓄積無機汚れに対して高い洗浄力を持ち、保存安定性にも優れた硬質表面用液体洗浄剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
(a) スルファミン酸
スルファミン酸は、硬質表面に付着した無機系汚れの溶解力に優れる。加えて、強酸である他の鉱酸と比べて、酸臭気が弱い。更に、低温安定性に優れる。
(a)成分の配合量は、本発明の組成物の全質量を基準として3〜10%、好ましくは5〜8%である。(a)成分を3%以上にすることで、強固な無機系の汚れ(尿に含まれるカルシウムやケイ酸等が硬表面に蓄積することで除去し難くなった汚れ)に対する高い溶解力を確保できる。他方、10%を超えると、高温保存下での(a)成分自体の安定性が低下して、酸臭気による不快感が増す。また、低温で(a)成分自体の溶解性が低下して、組成液中で溶けにくくなり析出しやすくなることから組成物としての均一溶解性外観が悪化する。
(a)成分としては市販品を用いることができる。例えば、扶桑化学工業製、有効成分100%のスルファミン酸が挙げられる。
尚、特に記載しない限り、本明細書において、単位「%」は、組成物の全質量を基準とする質量%を意味する。
【0008】
(b)アルキルアミンオキシド
アルキルアミンオキシドを配合することにより、洗浄剤組成物の硬質表面への付着性を高めるだけでは得られなかった、硬質表面全体への洗浄剤組成物の均一広がり性を充分に発揮させることができる。ここで、均一広がり性とは、垂直及び斜面等に洗浄剤をかけた際、洗浄剤が筋のように垂れ落ちず、万遍なくベール状に広い面を覆いながら濡れ広がることを意味する。アルキルアミンオキシドを配合することにより、さらに良好な泡立ち性を発揮させることが可能となる。すすぎ性もまた向上する。
本発明で使用可能なアルキルアミンオキシドとしては、下記式(I)で表されるものがあげられる。
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、R1は、炭素数8〜18のアルキル又はアルケニル基であり、R2及びR3は各々独立して炭素数1〜4のアルキル基である。)
式(I)で表される化合物の具体例としては、ラウリルジメチルアミンオキシド、ミリスチルジメチルアミンオキシド、ヤシアルキルジメチルアミンオキシド、ラウリル−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミンオキシド、ミリスチル-ビス(2−ヒドロキシエチル)アミンオキシド、ヤシアルキル-ビス(2−ヒドロキシエチル)アミンオキシド等のアミンオキシドが挙げられる。これらは、夫々単独で又は2種以上を混合して用いることができる。好ましくは、ラウリルジメチルアミンオキシド、ヤシアルキルジメチルアミンオキシドである。
(b)成分の配合量は、本発明の組成物の全質量を基準として0.2〜1.5%、好ましくは0.4〜1.0%である。0.2%未満であると、均一広がり性が確保できず、さらに泡立ちも不十分である。1.5%を越えると、均一広がり性の効果が薄れていき、組成物全体の均一溶解性(配合性)も悪化し、すすぎ性も悪くなる問題を生じる場合がある。
【0011】
(c)プロピレングリコール
プロピレングリコールを配合することにより、組成物全体の均一溶解性が良好となり、さらに高温保存時の酸臭気劣化抑制性が良好となる。
(c)成分の配合量は、組成物の全質量を基準にして、0.5〜20%、好ましくは1.0〜5%、より好ましくは1.5〜3%である。0.5%未満であると、均一配合性及び高温での(a)成分自体の安定性が低下し、酸臭気による不快感が増す場合がある。20%を超えるとスルファミン酸の強固な無機系の汚れに対する溶解力を低下させる場合がある。
(c)成分としては市販品を用いることができる。例えば、アデカ社製のプロピレングリコールがあげられる。
【0012】
(d)増粘剤
多糖類から選ばれる少なくとも一種の増粘剤を配合することにより、垂直及び傾斜面での付着滞留性を向上させることができる。
配合量が少なく済むという利点から重量平均分子量が10万〜1000万程度のものが好ましい。
本発明において用いることができる多糖類としては、天然多糖類が好ましい。キサンタンガム、グアーガム、ヒドロキシエチルセルロース等もまた好ましい。天然多糖類であるキサンタンガムがより好ましい。
(d)成分の配合量は、0.2〜0.8%、好ましくは0.3〜0.6%である。0.2%以上配合することにより、垂直及び傾斜面での付着滞留性を向上、洗浄性能を向上させることが可能となる。0.8%を超えると組成物の粘度が高くなり過ぎるため、均一広がり性及び容器からの排出性が悪化するという問題を生じることがある。
(d)成分としては市販品を用いることができる。例えば、キサンタンガム(ケルザンT、ケルコ社製、重量平均分子量;約200万)、グアーガム(ビストップD-20、三栄源エフ・エフ・アイ社製、重量平均分子量;約20万)、ヒドロキシエチルセルロース(HECダイセルSP550、ダイセル化学工業社製、重量平均分子量;約50万)などである。
【0013】
(b)/(d)の配合比は、1〜3、好ましくは1〜2である。1未満でも、3を超えても均一広がり性が低下する。
【0014】
本発明の組成物は、硬質表面用液体洗浄剤組成物に通常含まれている成分をさらに含んでいてもよい。このような成分としては、青色1号、黄色203号等の着色料等があげられる。
本発明の組成物は、希釈せずにそのまま硬質表面に適用することにより使用することができる。
【実施例】
【0015】
実施例及び比較例の組成物を調製するのに用いた化合物は以下の通りである:
(a)成分
・スルファミン酸:扶桑化学工業製、有効成分100質量%
(a)比較成分
・クエン酸:和光純薬工業、特級
・グリコール酸:デュポン社製、有効成分70質量%
【0016】
(b)成分
・ラウリルジメチルアミンオキシド:ライオンアクゾ社製(商品名:アロモックス DM12D-W)
・ヤシアルキルジメチルアミンオキシド:ライオンアクゾ社製(商品名:アロモックス DMC-W)
(b)比較成分
・ポリオキシエチレンラウリルエーテル(15.E.O):ライオン製(商品名:LAO-90N)
・塩化ベンザルコニウム:ライオンアクゾ社製(商品名:アーカードCB-50)
【0017】
(c)成分
・プロピレングリコール:アデカ社製
(c)比較成分
・ジエチレングリコールモノブチルエーテル:協和発酵工業製(商品名:ブチルカルビトール95-P)
【0018】
(d)成分
・キサンタンガム:ケルコ社製(商品名:ケルザンT、重量平均分子量;約200万)
・ヒドロキシエチルセルロース:ダイセル化学工業社製(商品名:HECダイセルSP550、重量平均分子量;約50万)
(d)比較成分
・ポリビニルピロリドン:日本触媒製(商品名:ポリビニルピロリドンK-30、重量平均分子量;約4万)
【0019】
任意成分
・着色料:青色1号:ダイワ化成製(商品名:食用青色1号(ブリリアントブルーFCF)
実施例及び比較例の組成物は、上記成分を精製水に溶解させることに調製した。
【0020】
〔実験方法〕
(1)溶解力試験(リン酸カルシウム溶解量測定)
トイレ便器のフチ裏に付着し蓄積した尿石汚れ(=主成分:リン酸カルシウム)を想定したモデル試験法
100mLビーカーに入れた実施例又は比較例の洗浄剤組成物50gの中に、リン酸カルシウム(関東化学、リン酸三カルシウム、食品添加物)を加えていったとき、溶解した量を測定した。
<評価基準>
溶解した量
◎:1.5g以上
○:1g以上〜1.5g未満
△:0.5g以上〜1g未満
×:0.5g未満
【0021】
(2)洗浄力試験〔洗浄性能の評価〕
洗浄性能の評価は、下記方法により、モデル尿垢を作製し、このモデル尿垢の洗浄力の試験により行った。
(a)モデル汚垢の作製
リン酸カルシウム(関東化学、リン酸三カルシウム、食品添加物)70g、尿素(関東化学、特級)10g、及びカゼイン(関東化学)20gに水150gを添加して混練したペーストを陶器パネル(10×10cm)に1.5g均一に塗布した。これを105℃のオーブンで1時間乾燥させたものをモデル汚垢とした。
(b)洗浄力の評価法
モデル汚垢のついた陶器パネル(10×10cm)を角度45度傾けて立て掛け、陶器パネル上部の一辺の縁に沿って、25℃に調整した実施例又は比較例の洗浄剤組成物1gを直線(長さ約10cm、幅約2〜3mm)になるように塗布し、2分間静置後、水中ですすいだ。このプレートを乾燥させた後、その汚れ落ちを以下の評価基準で目視判定した。
<評価基準>
◎:汚れがほとんど除去される(ほぼ全面で汚れが落ちている)
○:汚れがかなり除去される(広い面積で汚れが落ちている、または一部の箇所で汚れが残っている)
△:汚れがかなり残っている(一部の箇所で汚れが落ちている、または広い面積で汚れが残っている)
×:汚れがほとんど除去されない(評価前とほとんど変化なし)
【0022】
(3)均一広がり性(被覆率)
洗浄剤の被覆率は、陶器パネル(10×10cm)を角度45度傾けて立て掛け、陶器パネル上部の一辺の縁に沿って、25℃で恒温にした実施例又は比較例の洗浄剤組成物1gを直線(長さ約10cm、幅約2〜3mm)になるように塗布し、2分間静置後、洗浄剤がタレ落ちながらパネルを覆った部分の面積を目視によって以下の評価基準で判定した。
<評価基準>
◎:全面が洗浄剤組成物に覆われている
○:下部にわずかに覆われていない面があるが、ほとんどの面が洗浄剤組成物で覆われている
△:洗浄剤組成物が十分に垂れ落ちず最初の塗布部付近に滞留したままであるか、筋状になって垂れ落ちたためにパネル下部の半分以上が洗浄剤で覆われていない
×:洗浄剤組成物がほとんど垂れ流れてしまい、パネル上に残っていない。
尚、本評価は洗浄力向上とブラシでこするときの効率を考慮して、洗剤が2分後にどのくらいの面積を覆って滞留しているかを指標としている。従って、さっとタレ流れてしまうものは×という判定となる。
【0023】
(4)付着滞留性
付着滞留性は、陶器パネル(10×10cm)を角度45度傾けて立て掛け、陶器パネル上部の一辺の縁に沿って、25℃で恒温にした実施例又は比較例の洗浄剤組成物1gを直線(長さ約10cm、幅約2〜3mm)になるように塗布し、2分間静置後、パネル状に残存した洗浄剤組成物重量を測定し、次式により付着滞留率を算出した。
なお、試験は各試料につき3回行い、その平均付着滞留率を基に以下の評価基準に従い評価した。
付着滞留率(%)={残存重量(g)/1(g)}×100
<評価基準>
◎:60%以上
○:40%以上〜60%未満
△:20%以上〜40%未満
×:20%未満
【0024】
(5)高温保存安定性(酸臭の不快度)
50℃において1ヶ月保存した実施例又は比較例の洗浄剤組成物25gを、家庭用の陶器製便器内に塗布した際のニオイを嗅ぎ、酸臭気の不快感を評価した。
<評価基準>
◎:不快感は全くない
○:やや不快感があるが、問題ないレベル
△:不快感がある
×:非常に不快に感じる
【0025】
(6)均一溶解性評価(組成物の低温における外観安定性)
実施例又は比較例の洗浄剤組成物をガラス瓶に充填し、低温条件下(5℃)に24時間静置後、外観を観察して下記の基準に基づき評価した。
<評価基準>
○:均一透明
△:一部で白濁、析出、またはゲル状の固まりがある
×:かなりの白濁、析出がある
結果を表1及び表2に示す。
【0026】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)〜(d)成分を含有することを特徴とする硬質表面用液体洗浄剤組成物:
(a) スルファミン酸 3〜10質量%、
(b) アルキルアミンオキシド 0.2〜1.5質量%、
(c) プロピレングリコール 0.5〜20質量%、及び
(d) 多糖類から選ばれる少なくとも一種の増粘剤 0.2〜0.8質量%。
【請求項2】
(d)成分が、天然多糖類である請求項1記載の硬質表面用液体洗浄剤組成物。
【請求項3】
(d)成分が、キサンタンガム、グアーガム及びヒドロキシエチルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項1記載の硬質表面用液体洗浄剤組成物。
【請求項4】
(b)成分と(d)成分との質量比(b)/(d)が、1〜3であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の硬質表面液体洗浄剤組成物。

【公開番号】特開2011−225763(P2011−225763A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−98543(P2010−98543)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】