説明

碍子表面の付着物の付着密度測定方法及び測定装置

【課題】碍子表面の付着物の付着密度を簡便にかつ精度良く測定すること。
【解決手段】碍子Mの表面を複数の円環状エリアに区分し、その各円環状エリアで、付着物に起因するプラズマ発光の発光強度を検出する。この発光強度及び第一レーザー1を照射した円環状エリアの位置情報をデータベースと照合する。このデータベースには、位置情報、碍子全体に対する前記円環状エリアの面積比、発光強度、及び、付着密度の関係が記録されており、前記照合によって、その円環状エリアにおける付着密度を推定することができる。この測定を全ての円環状エリアにおいて行うことで、碍子表面全体の平均的な付着密度が推定できる。各円環状エリアでエリア代表点を決めておけば、そのエリア代表点のみで測定を行えばよいので、測定作業が簡便となり、しかも、高い測定精度を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、送電線の鉄塔等に設けられた碍子に付着した、塩分等の付着物の付着密度を測定するための測定方法及び測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
送電線の鉄塔等には、鉄塔等と電線とを絶縁する碍子が設けられている。このように絶縁することによって、電気が鉄塔本体に流れるのを防止して、安定的な送電状態を確保している。ところが、この碍子の表面に塩分等の付着物が付着すると、雨天や湿度の高い日等に前記付着物が電気伝導体となって碍子による絶縁性が低下することがあるため、停電を引き起こす恐れがある。そこで、特に臨海部に設けられた鉄塔等においては、必要に応じて洗浄作業が行われる。この洗浄作業の必要性の判断に当たり、碍子表面の付着物の付着密度が実測され、その実測値が所定の基準値を超えた場合に、その作業を行うようにするのが一般的である。
【0003】
この付着密度を実測する方法の一つとして、碍子の表面を純水を含ませた筆でなぞって付着物を拭き取り、前記純水に溶け込んだ付着物を電気伝導度等の測定によって付着密度を推定する、いわゆる筆洗法がある。この筆洗法は簡便な方法として一般的に用いられる一方で、測定者の技量によって測定結果にばらつきが生じやすいという欠点がある。
【0004】
この付着密度をより簡便に測定する方法として、例えば特許文献1には、検査対象であるコンクリートの表面に第1のレーザーを照射して、このコンクリートに含有される物質を飛散(アブレーション)させ、この飛散した物質に第2のレーザーを照射してプラズマ化し、このプラズマ化した物質からの発光を分光手段によって分光し、その発光スペクトルから含有物質の付着量を測定するコンクリート含有物質計測方法と計測装置が示されている。この計測方法は、検査対象の表面にレーザーを照射するだけで含有物質の付着密度測定ができるため、筆洗法と比較して、その測定結果が測定者の技量に左右されにくいというメリットがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−68969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、同心円状の複数のひだ状の凹凸部が形成された懸垂碍子の場合、その凹凸部の位置(山部、谷部、斜面)によって、風雨の当たり具合等が異なり、塩分等の付着物の付着密度が異なる。このため、碍子全体の平均的な付着密度を正確に見積もるためには、各凹凸部の山部、谷部、斜面それぞれのできるだけ多くの測定点において、測定を行う必要がある。
【0007】
特許文献1に記載の測定方法を碍子に適用する場合、凹凸部の各部(山部、谷部、斜面)の面法線に対して所定角度(通常は垂直)でこの第1のレーザーが入射されるように、前記各部ごとに光学系を調節し直す必要がある。この入射角度が測定点ごとに異なると、第1のレーザーによる碍子表面へのエネルギー照射密度がばらついてしまい、十分な測定精度が得られないためである。碍子の測定に際し、数多くの測定点において光学系をいちいち調節し直す作業は非常に面倒であって、測定効率の低さが問題となる可能性が高い。
【0008】
そこで、本願発明は、凹凸部を有する碍子表面の付着物の付着密度を、簡便にかつ精度良く測定することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、この発明は、付着物が付着した基準碍子の表面の任意の測定点に第一レーザーを照射して前記付着物を前記表面から飛散させ、前記第一レーザーを照射してから所定時間経過した後に、前記表面から所定距離離れた位置において、飛散した前記付着物に第二レーザーを照射し、この付着物をプラズマ化して発光させ、その発光強度を測定した後に、前記測定点を含む所定の表面領域において付着物を拭き取ってその表面領域内における付着密度を導出し、複数の前記測定点について、前記表面領域の位置情報、前記基準碍子全体に対する前記表面領域の面積比、前記発光強度、及び、前記付着密度との関係を含むデータベースとして予め記録しておき、測定対象の碍子の表面に前記第一レーザーを照射し、前記第一レーザーを照射してから前記所定時間経過した後に、前記測定対象の碍子の表面から前記所定距離離れた位置に前記第二レーザーを照射し、この照射に伴うプラズマの発光強度を測定し、この測定対象の碍子の表面の位置情報及び前記発光強度と、前記データベースに記録した位置情報及び発光強度とを照合して、前記第一レーザーを照射した表面領域内における付着物の付着密度を推定するように碍子表面の付着物の付着密度測定方法を構成した。
【0010】
例えば、同心円状の複数の凹凸部が形成された懸垂碍子の場合、外周側から内周側に向かって、第一山部、第一内斜面、第一谷部、第二外斜面、第二山部、・・・のように複数の円環状エリアに区分してそれを「位置情報」としてデータベースに記録する。この懸垂碍子においては、山部は雨等の水滴が残りやすく付着物が残留しやすい一方で、谷部は水滴が入り込みにくく付着物の残留が少ない、というように前記円環状エリアごとに付着物の残留状況が異なる。各円環状エリア内では、付着物の付着状況は均一であると仮定すると、この円環状エリア内の任意の一点において計測を行えば、この円環状エリア内の付着密度を推定することができる。このように、少ない測定点で測定を行うようにすることで、光学系の調節回数を減らすことができ、測定作業が簡便なものとなる。
【0011】
前記データベースには、前記位置情報に付随して、碍子の全表面積(前記円環状エリアの総面積)に対するその円環状エリアの面積比が記録される。この面積比は、その円環状エリアにおいて測定した付着密度から、碍子の全表面における付着密度を推定する際に、加重平均の係数(重み付け)として用いられる。
【0012】
各円環状エリアはさらに細分化することもできる。この円環状エリア内で付着物の付着状況にばらつきがある場合であっても、このように細分化してその細分化エリアごとにデータベースを構築することによって、さらに精度の高い測定が可能となるためである。
【0013】
各円環状エリア又は各細分化エリアにおいて、発光強度と付着密度をセットでそのデータベースに記録する。この発光強度と付着密度の関連付けにおいては、測定対象となる碍子と同形状の碍子を基準碍子として用いて行い、その関連付けは円環状エリア又は細分化エリアごとに行う。この関連付けにおいて、発光強度を測定した測定点を含む所定表面において付着物を拭き取るが、この拭き取りは、各円環状エリア又は各細分化エリアの全体に亘って行うのが好ましい。この付着物の付着密度は微量であり、できるだけ広い面積において拭き取ることにより、発光強度と付着密度の換算データの信頼性が向上するためである。
【0014】
前記拭き取り作業による付着密度の推定は、背景技術において説明した筆洗法を採用することができる。この筆洗法は、測定者によって測定結果にばらつきが生じやすいが、この発明に係る方法では、特定の作業者によって測定対象の形状の碍子について、データベースを作成する際の最初の1回のみ作業を行えばよく、他の測定者がこの作業に関与しないようにすることができる。このようにすれば、測定者が途中で変わることに起因する測定結果のばらつきの問題は生じない。
【0015】
このデータベースを作成するための基準碍子の測定に際しては、円環状エリア(又は細分化エリア)ごとに、その円環状エリアの複数の位置において発光強度の測定を行い、その平均値からこの円環状エリア内の付着密度を導出する。このとき、前記発光強度の平均値に最も近い発光強度を示した測定点をエリア代表点として採用することもできる。このエリア代表点は、この円環状エリアの付着特性を最も良く表している点であり、少なくとも、測定対象の碍子の前記エリア代表点に相当する測定点で発光強度を測定すれば、この円環状エリアにおける付着密度を大きな誤差なく推定できる。
【0016】
実際の測定においては、測定対象の碍子の特定の円環状エリア(例えば、前記第一山部)に第一レーザー及び第二レーザーを照射し、プラズマ発光の発光強度を測定し、前記特定位置の位置情報と、測定した発光強度を前記データベースと照合する。すると、その円環状エリア内の付着密度が導出できる。各円環状エリアで少なくとも1か所(例えば、前記エリア代表点)で測定すれば付着密度を導出することができるが、同一円環状エリアの複数点において発光強度の測定を行っても良い。このようにすれば、複数点における発光強度の平均値を前記データベースと照合して付着密度を導出することができ、測定精度の一層の向上が期待できるためである。
【0017】
上記においては、位置情報として円環状エリアに区分したものを採用し得る旨説明したが、この区分は碍子の形状に合わせて適宜変更することができ、例えば矩形状のエリアに区分しても良い。また、データベースとして、風向き具合や過去の付着物の付着履歴を併せて記録するのがより好ましい。風向き具合によっては、円環状エリア内における付着密度の面内分布がその風向き特有の分布を示したり、過去の付着履歴を参照することで、付着密度の導出精度をさらに高めることができたりする可能性があるからである。
【0018】
前記構成においては、前記第一レーザーとして、波長が0.15〜0.35μm、又は、4.0〜11.0μmのいずれかの波長範囲に含まれるレーザーを採用するのが好ましい。
【0019】
前記碍子の表面には、一般的に、この碍子を保護し、耐水性を高めるための釉薬層(ガラス質層)が形成されている。測定対象の付着物は、この釉薬層の表面に付着した状態となっており、第一レーザーの照射エネルギーがこの付着物に効果的に作用して、釉薬層の表面からこの付着物を飛散させることによって精度の高い測定を行うことができる。
【0020】
このレーザーは照射対象物によって透過スペクトルが異なり、この釉薬層においては、0.35〜4.0μmの波長領域(以下、透過波長領域という。)のレーザーの透過率が高いことが分かっている。すなわち、この透過波長領域のレーザーを表面に釉薬層を形成した碍子に照射すると、このレーザーが釉薬層を透過して、セラミックス等から構成される碍子本体に到達し、この碍子本体の表面でレーザーによる発熱作用が生じる。この発熱作用により釉薬層の一部が溶融して蒸発することがある。このとき、釉薬層上の付着物は、第二レーザーで加熱されることなく失われてしまい、釉薬層表面に付着していた付着物の付着密度の正確な測定ができなくなるとともに、釉薬層のダメージ部に、新たに付着物が付着しやすくなって絶縁性が一層低下する、等の問題が生じ得る。
【0021】
そこで、この第一レーザーの波長を上記の波長範囲内とすると、このレーザーが釉薬層を透過することなく、その釉薬層上の付着物にのみ作用するため、付着密度の正確な測定が可能となる。なお、波長が0.15μmよりも短い場合は、付着物の飛散作用があまり高くなく、11.0μmよりも長波長の適用可能なレーザーはないため、実用的な波長は上記の範囲内となる。
【0022】
また前記構成においては、前記第一レーザーがパルスレーザーであって、そのエネルギー密度を0.2〜3.0J/cmの範囲とするのが好ましい。
【0023】
第一レーザーのエネルギー密度をこの範囲に設定することにより、釉薬層にダメージを与えることなく付着物のみを飛散させることができ、精度の高い測定を行うことができる。
【0024】
また、碍子の表面に付着した付着物を飛散させる第一レーザーと、前記表面から所定距離離れた位置において飛散した前記付着物をプラズマ化する第二レーザーと、前記プラズマ化に伴う発光の発光強度を測定する検出装置と、表面に付着物が付着した基準碍子を用いて作成した前記第一レーザーの照射位置の位置情報、前記発光強度、及び、付着密度との関係を記録したデータベースとを備え、測定対象の碍子の表面に前記第一レーザーを照射し、前記表面における第一レーザーの照射位置と、前記測定対象の碍子の表面から前記所定距離離れた位置に前記第二レーザーを照射した際に生じるプラズマの発光強度とを、前記データベースに記録した位置情報及び発光強度と照合して、前記測定対象の碍子表面における付着物の付着密度を推定するように碍子表面の付着物の付着密度測定装置を構成した。
【0025】
この測定装置を用いることにより、上述したように、碍子表面に付着している付着物の付着密度を簡便にかつ精度良く測定することができる。
【発明の効果】
【0026】
この発明は、碍子の表面に付着した塩分等の付着物の測定において、第一レーザーの照射によってこの付着物を飛散させ、飛散した付着物に第二レーザーを照射してこの付着物をプラズマ化して、検出装置でこのプラズマの発光強度を測定するとともに、前記第一レーザーの照射位置の位置情報、前記基準碍子全体に対する前記表面領域の面積比、発光強度、及び、付着物の付着密度の関係等を記録したデータベースと、測定した発光強度とその測定の位置情報を照合して、碍子表面における付着物の付着密度を推定するようにした。
【0027】
このようにデータベースと照合するようにすることにより、少ない測定点でもってその測定点を含む表面領域における付着物の付着密度を、簡便にかつ精度良く測定することができるようになった。このため、碍子の洗浄タイミング等について明確な指針を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本願発明に係る碍子表面の付着物の付着密度測定装置を示す構成図
【図2】塩分付着密度と発光強度の関係を示す図
【図3】碍子表面における塩分付着密度測定結果を示す図
【図4】円環状エリアごとの塩分付着密度測定結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0029】
この発明に係る碍子表面の付着物の付着密度測定装置を図1に示す。この測定装置は、碍子Mの表面に付着した付着物を飛散させる第一レーザー1と、前記表面から所定距離dだけ離れた位置において飛散した前記付着物をプラズマ化する第二レーザー2と、前記プラズマ化に伴う発光Lの発光強度を測定する検出装置3とを備えている。この検出装置3で測定された発光強度及び第一レーザー1の照射位置についての位置情報が、データベースに送られ、このデータベースに記録された、位置情報、基準碍子全体に対する前記位置情報に対応する表面領域の面積比、発光強度、及び、付着物の付着密度のデータと照合されて、その位置における付着密度が推定される。このデータベースの作成のための予備実験については後述する。
【0030】
本構成においては、第一レーザー1としてパルス発振のKrFエキシマレーザー(波長248nm、6.3mJ/パルス)を、第二レーザー2として同じくパルス発振のNd:YAGレーザー(波長1064nm、85mJ/パルス)をそれぞれ用いた。
【0031】
碍子Mは、同心円状の複数の凹凸部が形成された懸垂碍子であって、その凹凸部は、外径側から第一山部、第一内斜面、第一谷部、第二外斜面、第二山部、・・・、第四山部まで、複数の円環状エリアに区分されている。この各円環状エリアの表面に対して、第一レーザー1が常に垂直に照射されるように、この第一レーザー1の光学系(図示せず)を調節する。すなわち、山部及び谷部においては、その面法線が碍子Mの中心軸と平行となっているため、第一レーザー1をこの中心軸に平行に照射すれば良い。この一方で、斜面においては、その面法線が前記中心軸と非平行となっているため、この第一レーザー1が前記面法線に対して垂直に入射されるようにその光学系を調節する。
【0032】
この第一レーザー1のエネルギー密度は0.2〜3.0J/cmの範囲とするのが好ましい。この範囲とすれば、釉薬層Mの表面にダメージを与える恐れは低く、付着密度を精度良く測定することができる。前記光学系の調節によって、上記の第一レーザー1を0.7mm×1.2mmのスポットに集光すると、エネルギー密度は約0.75J/cmとなって、前記表面にダメージを与えることなく前記付着物を飛散させることができる。
【0033】
第二レーザー2は、第一レーザー1とほぼ直交する(碍子Mの表面に対してほぼ平行となる)ように、その光学系が構成されている。そして、前記表面から所定距離d(d=1.3mm)だけ離れ、かつ、第一レーザー1の光路と交差する位置においてその焦点を結んでいる。この第二レーザー2は、第一レーザー1の照射後、100μsの時間遅れをもって照射される。これは、第一レーザー1の照射によって、碍子Mの表面から飛散した付着物が、その表面から前記所定距離dだけ離れた位置に到達するまで100μs程度を要し、この付着物が前記位置に到達した後に第二レーザー2を照射することにより、付着物を効率良くプラズマ化することができるためである。この時間遅れをどの程度にするかについては、使用するレーザーの種類やエネルギーに対応して適宜変更することができる。
【0034】
プラズマ化に伴う発光は、レンズ4によって集光されるとともに、フィルター5でその光量を適宜減衰され、ファイバー6を通って検出装置3まで送られる。
【0035】
前記データベースに記録される位置情報とは、第一レーザー1を碍子M表面のどの円環状エリアに照射したか、についての情報である。この位置情報と、基準碍子全体に対する前記位置情報に対応する表面領域の面積比についての情報から、後述する発光強度から換算した付着密度の値に基づいて、その円環状エリア全体における付着密度を推定することができる。さらに、各円環状エリアにおける付着密度も同様に推定し、各円環状エリアの面積比に基づいて付着密度の加重平均をとることにより、碍子表面全体における平均的な付着密度を推定することができる。この平均的な付着密度が、予め定めた洗浄基準密度を超えた際に洗浄作業を行うようにすることで、付着物に起因する絶縁不良の防止を図ることができる。
【0036】
碍子Mに付着する付着物として種々のものが考えられるが、特に問題となりやすい付着物は塩分である。この塩分が碍子Mの絶縁不良をもたらし、停電の原因となりかねないからである。そこで、この塩分の付着密度を定量評価するために、データベースには、図2に示すような、ナトリウムのD線の発光強度と付着密度との関係が記録されている。
【0037】
この発光強度と付着密度の関係は、基準碍子を用いた予備実験によって求められる。この予備実験の手順を以下に示す。
【0038】
まず、図1に示した測定装置を用いて、基準碍子の各円環状エリア内に第一レーザー1を照射し、この第一レーザー1の照射によって飛散した付着物に第二レーザー2を照射し、この照射に伴うプラズマ発光の発光強度を検出装置3で実測する。この実測は、各円環状エリア内の複数の位置で行うのが好ましい。複数位置で行うことにより、各円環状エリアにおける付着特性(付着密度の分布傾向)を知ることができ、後述するエリア代表点を決めやすくなるためである。
【0039】
次に、第一レーザー1を照射した円環状エリアの表面を、純水を含ませた筆で拭き取って、この純水に付着物を含ませ、その電気伝導度を測定する等の方法によって、この円環状エリアにおける付着物の付着密度を推定する(筆洗法)。そして、第一レーザー1の照射位置の位置情報と前記発光強度を前記付着密度とセットにして、データベースに記録する。この円環状エリアの面積が広いほど、筆洗法で拭き取る付着物の量が多くなるため、付着密度の推定精度は向上する。
【0040】
上記の第一レーザー1の照射、及び、筆洗法による付着密度の推定は、前記円環状エリアをさらに細分化(例えば、前記円環状エリアを中心角90度ごとに区画する等)して、細分化エリアごとに、付着密度を算出するようにしても良い。このように細分化エリアに区画することによって、碍子表面における付着密度の分布を詳細に評価することができるためである。
【0041】
この基準碍子を用いた予備実験は、同形状の碍子Mの測定をする前に一度だけ行えば良く、一人の測定者によって一連の予備試験を行うことができる。この予備実験において使用される筆洗法等の測定方法は、測定者ごとのばらつきが生じやすい方法であるが、このように一人の測定者で行うことにより、測定者起因のばらつきを防止することができる。
【0042】
この予備実験の過程で求められた、碍子表面の塩分付着密度を図3及び4に示す。この碍子Mは、4つの山部(点線で示した同心円状の4つの円)を有し、ここでは、外周側から内周側に向かって、第1山部、・・・、第4山部と称する。また、各山部の間の谷部を第1谷部、・・・、第3谷部と称する。各山部と各谷部の間に斜面が存在する。図3において、○印は斜面、△印は山部、×印は谷部に位置する測定点を示している。各測定点の位置を特定する記号(「ea」等)の右側に記載の数字は、その位置における塩分の付着密度(単位は、mg/cm)を示す。
【0043】
この図3に示した分布を、円環状エリア(第一斜面、第一谷部等)ごとに整理した図4の結果を見ると、碍子の外周側から内周側に向かって、塩分の付着密度がやや高くなる傾向があり、さらに、隣り合う山部と谷部を比較すると、山部の付着密度が若干高めとなる傾向があることが分かる。この付着密度の分布は、碍子Mが設けられている場所の風向き等の影響も受けると考えられる。
【0044】
また、円環状エリアごとに付着密度の平均値(同図中に示した横線)と各測定点における付着密度を比較すると、下線を付した測定点(ed、eg、ek等)において、平均値に近い付着密度となっていることが分かる。このことは、下線を付した測定点をエリア代表点とし、実際の測定対象の碍子Mを測定するに当たり、このエリア代表点に相当する位置において測定を行えば、その円環状エリア全体の平均的な付着密度を精度良く推定できることを意味する。このように、各円環状エリアにおいて、1〜2点程度のエリア代表点を選択することにより、少ない測定点で信頼性の高い測定を行うことができるとともに、測定の度にレーザーの光学系を調節する煩雑さを大幅に軽減することができる。
【0045】
この円環状エリアごとに測定を行って、各円環状エリアの面積比に対応して付着密度の加重平均をとることによって、碍子表面全体における付着密度を推定することができ、この推定結果をもって、碍子Mの洗浄が必要かどうかの明確な指針を得ることができる。
【0046】
このデータベースは、ナトリウムのD線の発光強度に基づいて付着密度との関係を記録したものであるが、ナトリウムのD線と異なる波長に発光強度を有する付着物であれば、この塩分の付着密度と同時に、それ以外の付着物の付着密度の測定を行うこともできる。
【0047】
この実施形態においては、第一レーザー1としてKrFレーザーを用いたが、この代わりに、炭酸ガスレーザーを用いることもできる。この炭酸ガスレーザーの波長は、約9〜11μmの範囲である。このため、KrFレーザーと同様に、碍子表面に形成された釉薬層Mの透過率が低く、第一レーザー1がこの釉薬層Mを透過して、第一レーザー1のエネルギーが碍子本体Mと釉薬層Mの間に集中し、この釉薬層Mがダメージを受けることに起因して釉薬層M上の付着物が失われる問題を回避することができる。
【0048】
上記の構成においては、凹凸が同心円状に形成された懸垂碍子を用いたので、円環状エリアに区切ってデータベースを作成したが、このエリアの区画形状は、碍子Mの形状に対応して適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 第一レーザー
2 第二レーザー
3 検出装置
4 レンズ
5 フィルター
6 ファイバー
M 碍子
釉薬層
碍子本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
付着物が付着した基準碍子の表面の任意の測定点に第一レーザー(1)を照射して前記付着物を前記表面から飛散させ、前記第一レーザー(1)を照射してから所定時間経過した後に、前記表面から所定距離(d)離れた位置において、飛散した前記付着物に第二レーザーを照射し、この付着物をプラズマ化して発光(L)させ、その発光強度を測定した後に、前記測定点を含む所定の表面領域において付着物を拭き取ってその表面領域内における付着密度を導出し、複数の前記測定点について、前記表面領域の位置情報、前記基準碍子全体に対する前記表面領域の面積比、前記発光強度、及び、前記付着密度との関係を含むデータベースとして予め記録しておき、
測定対象の碍子(M)の表面に前記第一レーザー(1)を照射し、前記第一レーザー(1)を照射してから前記所定時間経過した後に、前記測定対象の碍子(M)の表面から前記所定距離(d)離れた位置に前記第二レーザー(2)を照射し、この照射に伴うプラズマの発光強度を測定し、この測定対象の碍子(M)の表面の位置情報及び前記発光強度と、前記データベースに記録した位置情報及び発光強度とを照合して、前記第一レーザー(1)を照射した表面領域内における付着物の付着密度を推定するようにした碍子表面の付着物の付着密度測定方法。
【請求項2】
前記第一レーザー(1)として、波長が0.15〜0.35μm、又は、4.0〜11.0μmのいずれかの波長範囲に含まれるレーザーを採用した請求項1に記載の碍子表面の付着物の付着密度測定方法。
【請求項3】
前記第一レーザー(1)がパルスレーザーであって、そのエネルギー密度を0.2〜3.0J/cmの範囲とした請求項2に記載の碍子表面の付着物の付着密度測定方法。
【請求項4】
碍子(M)の表面に付着した付着物を飛散させる第一レーザー(1)と、前記表面から所定距離(d)離れた位置において飛散した前記付着物をプラズマ化する第二レーザー(2)と、前記プラズマ化に伴う発光(L)の発光強度を測定する検出装置(3)と、表面に付着物が付着した基準碍子を用いて作成した前記第一レーザー(1)の照射位置を含む表面領域の位置情報、前記基準碍子全体に対する前記表面領域の面積比、前記発光強度、及び、前記付着物の付着密度との関係を記録したデータベースとを備え、
測定対象の碍子(M)の表面に前記第一レーザー(1)を照射し、前記表面における第一レーザー(1)の照射位置と、前記測定対象の碍子(M)の表面から前記所定距離(d)離れた位置に前記第二レーザー(2)を照射した際に生じるプラズマの発光強度とを、前記データベースに記録した位置情報及び発光強度と照合して、前記測定対象の碍子表面における付着物の付着密度を推定するようにした碍子表面の付着物の付着密度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−15404(P2013−15404A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148271(P2011−148271)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(591114803)公益財団法人レーザー技術総合研究所 (36)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】