確率共振リング装置、確率共振リングネットワーク装置、学習記憶忘却装置、アトラクター選択装置、及び確率共振ユニット
【課題】ノイズ信号の強度を最適化することなく信号を長期間期間記憶させる。
【解決手段】確率共振リング装置10は、並列接続されたm個の確率共振素子21−1〜21−mと、各確率共振素子21−1〜21−mから出力された信号を加算する加算器22と、加算器22により加算された信号を遅延させる遅延器23とを含む4個の確率共振ユニット20−1〜20−4を備え、各確率共振ユニット20−1〜20−4がリング状に一方向結合されている。
【解決手段】確率共振リング装置10は、並列接続されたm個の確率共振素子21−1〜21−mと、各確率共振素子21−1〜21−mから出力された信号を加算する加算器22と、加算器22により加算された信号を遅延させる遅延器23とを含む4個の確率共振ユニット20−1〜20−4を備え、各確率共振ユニット20−1〜20−4がリング状に一方向結合されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、確率共振を利用した確率共振リング装置、確率共振リングネットワーク装置、学習記憶忘却装置、アトラクター選択装置、及び確率共振ユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、確率共振を利用して、微弱信号を高感度に検出する研究が進められている(例えば非特許文献1)。ここで、確率共振とは、微弱な入力信号に適度な強度のノイズを付加して閾値処理すると、出力信号のS/N比が最大化される現象である。確率共振においては、出力信号のS/N比を最大化するために、ノイズの強度を最適な値に設定する必要があるが、最適値を見つけ出す作業は容易ではない。そこで、非特許文献2では、ノイズ信号の強度を最適化することなくS/N比を高めることを目的として、図15に示すように、複数の確率共振素子1001を並列接続し、各確率共振素子1001からの信号を加算器1002で加算する回路が開示されている。
【0003】
一方、近年、確率共振を利用して、脳内の信号伝達経路をハードウェアにより実現する種々の試みがなされている。例えば、非特許文献3では、図16に示すように、確率共振素子1001に遅延器1003を付加した4個の確率共振ユニット1004を、リング状に一方向結合させた回路が開示されている。この回路によれば、確率共振素子1001が遅延器1003を介してリング状に接続されているため、回路内への信号入力を遮断しても、暫くの間、回路内で信号が流れ続け、短期記憶が可能となる。
【非特許文献1】Review of Modern Physics,70,223-287(1998) (レビューオブモダンフィジックス)
【非特許文献2】Nature,376,236(1995) (ネイチャー)
【非特許文献3】Phys.Rev.E,64,031101(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献2の回路は、信号入力が遮断されると同時に信号が消滅してしまうため、信号を記憶させることは不可能である。また、非特許文献3の回路は、確率共振素子1001におけるノイズ信号の強度を最適化しなければ、確率共振素子1001により信号が伝達される確率が低くなってしまい、信号を長期間記憶させることは困難である。
【0005】
本発明の目的は、ノイズ信号の強度を最適化することなく信号を長期間記憶させることができる確率共振リング装置、確率共振リングネットワーク装置、学習記憶忘却装置、及びアトラクター選択装置、及びこれらの装置に用いられる確率共振ユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の確率共振リング装置は、信号がそれぞれ入力される並列接続された複数の確率共振素子と、各確率共振素子から出力された信号を加算する加算器と、前記加算器により加算された信号を遅延させて出力する遅延器とを含む確率共振ユニットを複数備え、前記複数の確率共振ユニットは、リング状に一方向結合されていることを特徴とする。
【0007】
本発明による確率共振リング装置においては、複数の確率共振素子が並列接続されているため、確率共振素子のノイズ信号の強度を最適化しなくても、いずれかの確率共振素子によって信号が出力され、確率共振ユニットに入力された信号と相関を有する信号が次段に接続された確率共振ユニットに伝達される確率を高めることが可能となる。また、各確率共振ユニットは遅延器を備えているため、信号が一時的に記憶され、入力信号が遮断されても、直ぐに信号が消滅せず、入力信号と相関を有する信号の伝達が長期間持続され、この信号を装置内で長期間記憶することができる。更に、並列接続する確率共振素子の個数及びノイズ信号の強度をカスタマイズすることで確率共振ユニットにおける信号の伝達確率を調節することができる。
【0008】
本発明による確率共振リングネットワーク装置は、請求項1記載の確率共振リング装置を複数備え、前記複数の確率共振リング装置は、双方向結合されていることを特徴とする。
【0009】
本発明による確率共振リングネットワーク装置においては、複数の確率共振ユニットが双方向結合されているため、入力信号が遮断されても入力信号と相関のある信号の伝達をより長期間持続させ、この信号をより長期間記憶することができる。
【0010】
また、本発明による学習記憶忘却装置は、請求項1記載の確率共振リング装置を含み、並列接続されたm(mは正の整数)個の第1の信号伝達部と、請求項2記載の確率共振リングネットワーク装置を含み、前記第1の信号伝達部に対して並列接続されたn(nは正の整数)個の第2の信号伝達部と、前記第1及び第2の信号伝達部の出力側に接続された請求項1記載の確率共振リング装置とを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明による学習記憶忘却装置においては、信号の入力期間が長くなると、全ての確率共振リング装置において信号が伝達される確率が高くなるため、信号の入力を遮断してから長期間、出力側に接続された確率共振リング装置から信号が出力され、信号が記憶される。ここで、第2の信号伝達部を構成する確率共振リングネットワーク装置は、双方向結合された複数の確率共振リング装置によりされているため、第1の信号伝達部を構成する確率共振リング装置よりも信号の記憶期間が長い。したがって、出力側の確率共振リング装置は、入力される信号が時間の推移に伴って低くなるため、出力する信号が時間の経過に伴って緩やかに減衰する。そのため、ある期間継続して信号が入力されると、この信号を学習し、時間の経過に伴って徐々に忘却していくというように、あたかも人間の脳のような挙動を示すハードウェア装置を提供することができる。
【0012】
本発明によるアトラクター選択装置は、確率共振素子と、前記確率共振素子から出力された信号中の直流成分を遮断するフィルタと、請求項1記載の確率共振リング装置とが直列接続された信号伝達部を複数備え、前記複数の信号伝達部は並列接続され、各信号伝達部の確率共振素子は、各々、異なる閾値が設定され、1の確率共振リング装置から出力される信号の強度が、他の確率共振リング装置から出力される信号の強度よりも高い場合、前記他の確率共振リング装置から出力される信号の強度が抑制されるように各確率共振リング装置を結合する抑制結合部を更に備えることを特徴とする。
【0013】
本発明によるアトラクター選択装置においては、各確率共振素子の閾値は各々異なる値に設定され、各確率共振素子から出力された信号はフィルタにより直流成分が除去されて各確率共振ユニットに出力される。そのため、ある確率共振素子から出力される信号のS/N比を高めるような強度の信号がアトラクター選択装置に入力されると、この確率共振素子が属する信号伝達部を構成する確率共振リング装置に高いレベルの信号が入力され、この確率共振リング装置により信号が長期間記憶され、この確率共振リング装置から高いレベルの信号が出力され、この確率共振リング装置が属する信号伝達部が選択されることになる。したがって、各信号伝達部に対して予め種々の状態を割り当てることにより、入力された信号の強度に応じて適した状態、すなわち、環境の変化に応じて安定した状態を選択するというようなアトラクター選択を実現するハードウェア装置を提供することができる。また、抑制結合部を備えているため、本アトラクター選択装置は、winner−takes−all回路のように働き、より確実に1の状態を選択することができる。
【0014】
また、前記信号伝達部を3個としてもよい。この場合、入力信号の強度に応じて3つの状態を選択することができる。
【0015】
本発明による確率共振ユニットは、信号がそれぞれ入力される並列接続された複数の確率共振素子と、各確率共振素子から出力された信号を加算する加算器と、前記加算器により加算された信号を遅延させて出力する遅延器とを備えることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、リング状に接続することで、ノイズ信号の強度を最適化することなく、信号を長期間記憶することができる確率共振ユニットを提供することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ノイズ信号の強度を最適化することなく入力された信号を長期間記憶することができる確率共振リング装置、確率共振リングネットワーク装置、学習記憶忘却装置、及びアトラクター選択装置、及びこれらの装置に用いられる確率共振ユニットを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態による確率共振リング装置について、説明する。図1は、本実施の形態による確率共振リング装置を示した図である。図1に示すように確率共振リング装置10は、リング状に一方向結合された4個の確率共振ユニット20−1〜20−4を備えている。なお、確率共振ユニットを特に区別しない場合は、単に確率共振ユニット20という。また、図1では、確率共振ユニット20の個数を4個としたが、これに限定されず、2個、3個、或いは5個以上としてもよい。
【0019】
ここで、一方向結合とは、信号の流れる方向が一方向であることを意味する。図1の場合、確率共振ユニット20−1の出力端子は、確率共振ユニット20−2の入力端子に接続され、確率共振ユニット20−1の入力端子は、確率共振ユニット20−4の出力端子に接続されるというように、ある確率共振ユニット20の出力端子が、隣接する一方の確率共振ユニット20の入力端子に接続され、ある確率共振ユニット20の入力端子が、隣接する他方の確率共振ユニットの出力端子に接続されることで、各確率共振ユニット20がリング状に接続されている。したがって、確率共振リング装置10内を流れる信号は、確率共振ユニット20−1〜20−4の順次伝播する。
【0020】
図2は、確率共振ユニット20の構成を示す図である。図2に示すように確率共振ユニット20は、並列接続されたm(mは2以上の整数)個の確率共振素子21−1〜21−m、加算器22、及び遅延器23を備えている。なお、確率共振素子を特に区別しない場合は、単に確率共振素子21という。図3は、図2に示す確率共振素子21の構成を示す図である。図3に示すように確率共振素子21は、ノイズ源211、ミキサ212、及び判断部213を備えている。ノイズ源211は、ガウシアンホワイトノイズや熱雑音といった種々のノイズ信号を生成するファンクションジェネレータから構成されている。ここで、ノイズ信号の強度としては、入力信号のおよそのレベルと、閾値との関係から確率共振素子21から出力される信号のS/N比がある程度のレベルを維持することができる値を採用することが好ましい。
【0021】
ミキサ212は、ノイズ源211から出力されたノイズ信号と入力信号とを重畳する。判断部213は、コンパレータ及び増幅器を含む。コンパレータは、ミキサ212から出力された信号を所定の閾値と比較し、この信号が閾値以上の場合は、ハイレベルの信号を出力し、この信号が閾値未満の場合は、ローレベルの信号を出力する。本実施の形態では、コンパレータの閾値は、各確率共振素子21において同一であるとする。増幅器は、コンパレータから出力された信号を所定の増幅率で増幅して加算器22に出力する。本実施の形態では、この増幅器の増幅率のことを「結合定数」と称する。また、本実施の形態では、図3の上段に示す確率共振素子を図3の下段に示す記号で表すものとする。
【0022】
図2に戻って、加算器22は、確率共振素子21−1〜21−mから出力された各信号を加算して、遅延器23に出力する。遅延器23は、加算器から出力された信号を所定時間遅延させる。本実施の形態では、図2の上段に示す確率共振ユニット20を図2の下段に示す記号で表すものとする。
【0023】
このように、図2に示す確率共振ユニット20においては、信号が入力されると、確率共振素子21−1〜21−mにより、ノイズ信号と入力信号とが重畳され、重畳された信号が閾値以上の場合は、ハイレベルの信号が各確率共振素子21−1〜21−mから出力される。そして、各確率共振素子21−1〜21−mから出力された信号は加算器22により加算された後、遅延器23により所定時間遅延され、隣接する確率共振ユニット20へと出力される。
【0024】
ここで、確率共振ユニット20は、複数個の確率共振素子21が並列に接続されており、どの確率共振素子21がハイレベルの信号を出力するかは決定的には定まらず確率的に定まる。また、入力される信号のレベルが高くなるにつれて、ハイレベルの信号を出力する確率共振素子21の個数も増大するため、確率共振ユニット20は、入力された信号と相関を有する信号を出力することが可能となる。また、確率共振素子21の個数を増減させることで、確率共振ユニット20から出力される信号のレベルを確率的に調整することが可能となる。
【0025】
そして、確率共振ユニット20は、複数個の確率共振素子21が並列に接続されているため、信号が入力された場合、いずれかの確率共振素子21からハイレベルの信号を出力させることができ、図16に示す従来の確率共振ユニット1004のように確率共振素子1001のノイズ信号の強度を最適化しなくとも、高い確率で入力信号と相関を有する信号を伝達することができる。
【0026】
次に、図1に示す確率共振リング装置10の動作について説明する。例えば、確率共振ユニット20−1に信号が入力されると、この信号は、確率共振ユニット20−1〜20−4により確率的に伝達され、回路内を伝播する。そして、確率共振ユニット20−1への信号の入力が遮断されると、遮断される直前に遅延器23に入力された信号が遅延器23により遅延されて次段の確率共振ユニット20に伝達されるため、信号は直ちに消滅せず回路内を伝播する。一方、信号の入力が遮断されてから時間が経過するにつれて、ハイレベルの信号を出力する確率共振素子21の個数が減少していくため、回路内を循環する信号はやがて消滅する。つまり、信号の入力が遮断されると、回路内を循環する信号はやがて消滅するが、信号の入力が遮断された時からある期間が経過するまでは、一定レベル以上の信号であって、入力された信号と相関を有する信号が回路内を循環する。そのため、確率共振リング装置10は、入力された信号を長期間記憶することができる。
【0027】
次に、本発明の実施の形態による確率共振リングネットワーク装置について説明する。図4は、確率共振リングネットワーク装置30の構成を示した図である。図4に示すように確率共振リングネットワーク装置30は、双方向結合された2個の確率共振リング装置10−1,10−2を備えている。確率共振リング装置10−1,10−2は、各々、図1に示す確率共振リング装置10と同一構成であり、4個の確率共振ユニット20−1〜20−4を備えている。
【0028】
確率共振リング装置10−1における確率共振ユニット20−2の出力端子は、確率共振リング装置10−2における確率共振ユニット20−1の入力端子に接続され、確率共振リング装置10−2の確率共振ユニット20−4の出力端子は、確率共振リング装置10−1の確率共振ユニット20−3の入力端子に接続される。これにより、確率共振リング装置10−1を流れる信号は確率共振リング装置10−2に確率的に伝達されると共に、確率共振リング装置10−2を流れる信号は確率共振リング装置10−1に確率的に伝達され、確率共振リング装置10−1及び10−2は双方向結合されることになる。
【0029】
なお、図4に示す確率共振リングネットワーク装置30は、2個の確率共振リング装置10から構成されているが、これに限定されず、3個以上の確率共振リング装置10で構成してもよい。また、各確率共振リング装置10を構成する確率共振ユニット20の個数も、各確率共振リング装置10において異なる個数にしてもよい。
【0030】
図5は、3個の確率共振リング装置10−1〜10−3から構成される確率共振リングネットワーク装置を示した図である。図5の場合、確率共振リング装置10−1及び10−2が双方向結合され、確率共振リング装置10−2及び10−3が双方向に縦列結合されている。これにより確率共振リング装置10−1及び10−2間で信号が確率的に伝達され、確率共振リング装置10−2及び10−3間で信号が確率的に伝達されることになる。
【0031】
図6は、図1に示す確率共振リング装置10に一定期間、信号を入力した後、この信号を遮断したときに確率共振リング装置10を流れる信号の波形図を示している。この波形図は、回路シミュレータによる実験結果を示すものであり、(a)は入力信号を示し、(b)〜(g)は確率共振リング装置10を構成する確率共振ユニット20の結合定数εを、0.5、0.39、0.37、0.35、0.30、0.1としたときの回路内を流れる信号の波形図を示している。
【0032】
なお、図6においては、入力信号として、ω/2π=16の正弦波であるsin(ωx)が用いられ、この入力信号が0<t<128の期間に入力されている。また、ノイズ源211から出力されるノイズ信号としては0.2の強度のものが用いられている。また、各確率共振ユニット20における判断部213の閾値は0.2とされ、遅延器23の遅延時間は64とされている。
【0033】
期間TM1において、確率共振リング装置10に入力信号が印加される。ここで、入力信号としては、正弦波が採用されている。図6(b)に示すようにε=0.5の場合、実験期間中、確率共振リング装置10内を循環する信号の減衰は見られなかった。そのため、確率共振リング装置10において、長期間信号が記憶されていることが分かる。一方、図6(c)〜(g)に示すように、ε=0.39、0.37.0.35、0.30、0.1と結合定数が小さくなるにつれて、確率共振リング装置10内を循環する信号が早く減衰していることが観測されたが、入力信号を遮断しても、確率共振リング装置10内において、所要時間信号が伝播していることが観測された。そのため、確率共振リング装置10において、信号が短期間記憶されていることが分かる。これらの実験結果から、確率共振ユニット20の結合定数を大きくすると信号の記憶期間を長くすることができ、結合定数を小さくすると信号の記憶期間を短くすることができることが分かる。
【0034】
図7は、図4に示す確率共振リングネットワーク装置30に図6と同様、期間TM1において信号を入力した後、この信号を遮断したときにおける、確率共振リングネットワーク装置30を流れる信号の波形図を示している。この波形図は、回路シミュレータによる実験結果を示すものであり、(a)は入力信号を示し、(b)〜(g)は確率共振リングネットワーク装置30を構成する確率共振ユニット20の結合定数εを、各々、0.5、0.39、0.37、0.35、0.30、0.1としたときに回路内を流れる信号の波形図を示している。
【0035】
図7(b)〜(g)と図6(b)〜(g)とを比較すると、図7(b)〜(g)の方が信号の減衰が遅いことが分かる。また、図7(b)〜(e)においては、実験期間中、確率共振リング装置10内を循環する信号の減衰は見られず、図6(b)の場合と同様、信号が長期間記憶されていることが分かる。これらのことから、双方向結合される確率共振リング装置10の個数を増大させると、信号の記憶期間を長期化することができることが分かる。
【0036】
図8は、確率共振リングネットワーク装置を構成する確率共振リング装置10の数(N)を変化させたときに、装置内を流れる信号の波形図を示し、1段目は入力信号の波形図を示し、2〜5段目はそれぞれN=1、10、100、1000の場合の波形図を示している。なお、図8の波形図は回路シミュレータによる実験によって得られたものである。また、図8においては、入力信号として、ω/2π=16の正弦波であるsin(ωx)が用いられ、この入力信号が0<t<128の期間に入力されている。また、ノイズ源211から出力されるノイズ信号としては0.1の強度のものが用いられている。また、各確率共振ユニット20の結合定数は0.16とされ、判断部213の閾値は1とされ、遅延器23の遅延時間は64とされている。
【0037】
図8に示すように、N=1〜100までは確率共振ユニット20の数が増大するにつれて、信号の記憶期間は増大しているが、N=100とN=1000の場合とでは、信号の記憶期間に大差はないことが分かる。そのため、確率共振ユニット20の個数を100以上にしても、記憶期間の増大を見込めないことが分かる。
【0038】
図9は、確率共振リングネットワーク装置を構成する確率共振ユニット20の個数(n)を変化させたときに確率共振リングネットワーク装置を流れる信号の波形図を示し、1段目は入力信号の波形図を示し、2〜8段目はそれぞれn=2〜8の場合の波形図を示している。なお、図9において、入力信号やノイズ信号等の各種パラメータは図8と同一である。また、確率共振リングネットワーク装置を構成する確率共振リング装置10の個数は100とした。図9に示すように、確率共振ユニット20の個数を増大させても、記憶期間の長期化が期待できないことが分かる。
【0039】
次に、本発明の実施の形態による学習記憶忘却装置について説明する。図10は、本実施の形態による学習記憶忘却装置の構成を示した図である。この学習記憶忘却装置は、並列接続された2個の信号伝達部40−1と、1個の信号伝達部40−2と、信号伝達部40−1〜40−2の出力側に接続された確率共振リング装置10−5とを備えている。
【0040】
信号伝達部40−1は、確率共振素子21−1と、確率共振素子21−1の出力側に接続された確率共振リング装置10−1とを備えている。確率共振素子21−1は、入力信号を確率的に伝達することで、信号が安易に確率共振リング装置10−1に出力されることを抑制する。ここで、確率共振リング装置10−1は、出力端子が確率共振リング装置10−5を構成するいずれか1つの確率共振ユニット20の入力端子に接続されている。
【0041】
確率共振リング装置10−1は図1に示す確率共振リング装置10と同一であり、確率共振素子21−1から出力された信号を確率共振リング装置10−5に確率的に伝達する。ここで、確率共振リング装置10−1を構成するいずれか1つの確率共振ユニット20の出力端子が、確率共振リング装置10−5を構成するいずれか1つの確率共振ユニット20の入力端子に接続されることで、確率共振リング装置10−1と確率共振リング装置10−5とは接続されている。
【0042】
信号伝達部40−2は、確率共振素子21−2と、確率共振素子21−2の出力側に接続された2個の確率共振リング装置10−3,10−4とを備えている。確率共振素子21−2と確率共振リング装置10−3とは、確率共振素子21−1と確率共振リング装置10−1と同様に接続されている。確率共振リング装置10−3と確率共振リング装置10−4とは、双方向結合され、図4に示す確率共振リングネットワーク装置30を構成している。確率共振リング装置10−4と確率共振リング装置10−5とは、確率共振リング装置10−1と確率共振リング装置10−5と同様に接続されている。
【0043】
このように構成された学習記憶忘却装置は以下のように動作する。信号の入力期間が短い場合、確率共振リング装置10−1〜10−4が信号を伝達する確率が低くなるため、確率共振リング装置10−5による信号の記憶期間が短くなる。
【0044】
一方、信号の入力期間が長くなると、確率共振リング装置10−1〜10−5の全てにおいて信号が伝達される確率が高くなる。そのため、信号の入力を遮断してから長期間、確率共振リング装置10−5から信号が出力され、信号が長期間記憶されることになる。ここで、確率共振リング装置10−3及び10−4は双方向結合されているため、確率共振リング装置10−3及び10−4による信号の記憶期間(発火寿命)は、確率共振リング装置10−1及び10−2による信号の記憶期間より長い。
【0045】
そのため、信号の入力が遮断された後、確率共振リング装置10−1及び10−2が信号を忘却しても、確率共振リング装置10−3及び10−4は信号を記憶しているため、確率共振リング装置10−5から信号が出力される。そのため、確率共振リング装置10−5から出力される信号は緩やかに減少することになる。
【0046】
図11は、図10に示す学習記憶忘却装置における信号の忘却過程を示す波形図である。この波形図は、回路シミュレータによる実験結果を示すものである。図11(a)は、入力信号と各確率共振リング装置10−1〜10−5との波形図を示し、1段目は入力信号の波形図を示し、2〜6段目は、それぞれ、確率共振リング装置10−2〜10−5から出力される信号の波形図を示している。
【0047】
また、図11(b)は図11(a)に示す期間TM1を拡大した波形図であり、1段目は入力信号の波形図を示し、2段目は確率共振リング装置10−5から出力される信号の波形図を示している。なお、図11(b)において下段の波形図は、上段の波形図に対して、縦軸のスケールが2倍に拡大されている。
【0048】
また、図11(c)は、(a)に示す期間TM2を図11(b)と同様に拡大した波形図である。図11(b)の上段に示す期間TM21において、入力信号として、複数個のパルス信号が入力されている。これにより、図11(a)の2〜6段目に示すように、確率共振リング装置10−1〜10−5によって信号が記憶される。なお、図11(a)の2〜6段目の波形図に示すように、確率共振リング装置10−3及び10−4は双方向結合され、確率共振リングネットワーク装置とされているため、確率共振リング装置10−1,10−2,10−5よりも、信号が減衰する時間が長く、記憶期間が長くなっていることが分かる。
【0049】
そして、入力信号が遮断される遮断期間TM22において、図11(b)の下段に示すように、時間が経過するにつれて、確率共振リング装置10−5から出力される信号のレベルが減衰していることが分かる。遮断期間TM22が経過した時刻T1において、入力信号として、1パルスのパルス信号が入力されると、時刻T2において、このパルス信号に応答するように、高いレベルの信号が確率共振リング装置10−5から出力されていることが分かる。これは、期間TM21において複数のパルス信号が入力されることで、確率共振リング装置10−1〜10−5がこのパルス信号を記憶し、このパルス信号を記憶した状態において、別のパルス信号が入力されたためである。
【0050】
一方、図11(c)の上段に示すように期間TM31において、入力信号として、期間TM21と同様に複数個のパルス信号が入力され、遮断期間TM22よりも長い遮断期間TM32が経過した時刻T3において、1パルスのパルス信号が入力される。そうすると、図11(c)の下段に示すように時刻T4において、このパルス信号に応答するように確率共振リング装置10−5から信号が出力されるが、この信号のレベルは図11(b)の場合に比べてかなり低くなっている。これは、遮断期間T32が遮断期間T22に比べて長く、確率共振リング装置10−1〜10−5が信号を忘却した状態で、別のパルス信号が入力されたためである。
【0051】
このように、本学習記憶忘却装置によれば、一定期間継続して複数パルス分のパルス信号が入力されると、このパルス信号を学習し、このパルス信号を時間の経過に伴って徐々に忘却していくというように、あたかも人間の脳のような挙動を示すハードウェア装置を提供することができる。
【0052】
なお、図10に示す学習記憶忘却装置においては、信号伝達部40−1の個数を2個、信号伝達部40−2の個数を1個としたが、これに限定されず、信号伝達部40−1の個数を1個又は3個以上とし、信号伝達部40−2の個数を2個以上としてもよい。
【0053】
また、信号伝達部40−2を双方向結合された2個の確率共振リング装置10からなる確率共振リングネットワーク装置で構成したが、これに限定されず、双方向結合された3個以上の確率共振リング装置10を備える確率共振リングネットワーク装置で構成してもよい。
【0054】
次に、本発明の実施の形態によるアトラクター選択装置について説明する。図12は、本発明の実施の形態によるアトラクター選択装置の構成を示す図である。本アトラクター選択装置は、3個の信号伝達部50−1〜50−3を備えている。なお、信号伝達部50−1〜5−3を特に区別しない場合は、単に信号伝達部50とする。また、信号伝達部50の個数は3個に限定されず、2個又は4個以上にしてもよい。
【0055】
信号伝達部50−1は、確率共振素子21−1、フィルタ60−1、確率共振リング装置10−1、及び出力端子TT1−1を備え、信号伝達部50−2は、確率共振素子21−2、フィルタ60−2、確率共振リング装置10−2、及び出力端子TT1−2を備え、信号伝達部50−3は、確率共振素子21−3、フィルタ60−3、確率共振リング装置10−3、及び出力端子TT1−3を備える。
【0056】
なお、フィルタ60−1〜60−3、出力端子TT1−1〜TT1−3を特に区別しない場合は、単にフィルタ60とし、出力端子TT1とする。確率共振素子21−1は、入力信号を確率的に伝達することで、確率共振リング装置10−1に安易に信号が伝達されることを抑制する。フィルタ60−1は、確率共振素子21−1から出力された信号のDC成分をカットすることで、S/N比の高い成分を通過させ、確率共振リング装置10−1に出力する。なお、フィルタ60−1はフィルタ60−2,60−3と同一であり、確率共振リング装置10−1は確率共振リング装置10−2,10−3と同一である。出力端子TT1−1〜TT1−3は、それぞれ、確率共振リング装置10−1〜10−3と接続され、確率共振リング装置10−1〜10−3を流れる信号を出力する。
【0057】
確率共振素子21−1〜21−3は、この順で閾値が高く設定されている。すなわち、確率共振素子21−1の閾値は最小であり、確率共振素子21−3は最大であり、確率共振素子21−2の閾値は、確率共振素子21−1及び21−3の閾値の中間の値に設定されている。
【0058】
従って、確率共振素子21−1〜21−3から出力される信号のS/N比と強度との関係は、ノイズ信号の強度を一定とすると、図13のようになる。図13は、確率共振素子21−1〜21−3から出力される信号のS/N比と強度との関係を示したグラフである。このグラフにおいて曲線C1〜C3は、それぞれ、確率共振素子21−1〜21−3に対応している。
【0059】
確率共振素子21−1は閾値が最も小さいため、曲線C1に示すように、弱い強度の信号に対してS/N比が高くなっていることが分かる。また、確率共振素子21−3は、閾値が最も大きいため、曲線C3に示すように、強い強度の信号に対してS/N比が高くなっていることが分かる。また、確率共振素子21−2は閾値が中間の値であるため、曲線C2に示すように、中間の強度の信号に対してS/N比が高くなっていることが分かる。
【0060】
従って、入力信号として確率共振素子21−1から出力される信号のS/N比が他の確率共振素子21−2,21−3から出力される信号のS/N比に比べて高くなるような弱い強度の信号が入力されると、確率共振素子21−1からは、ハイレベル、ローレベルを「1」、「0」で符号化すると、「1」、「0」の信号が繰り返し出力され、他の確率共振素子21−2,21−3からは主に「0」の信号が出力される。そのため、確率共振リング装置10−1〜10−3に入力される信号のうち、確率共振リング装置10−1に入力される信号の強度が最も高くなる。
【0061】
また、入力信号として確率共振素子21−2から出力される信号のS/N比が他の確率共振素子21−1,21−3に比べて高くなるような中間の強度の信号が入力されると、確率共振素子21−2からは「1」、「0」の信号が繰り返し出力され、確率共振素子21−1からは主に「1」の信号が出力され、確率共振素子21−3からは主に「0」の信号が出力される。そのため、確率共振素子21−1から出力された信号はフィルタ60−1によりDC成分がカットされ、確率共振リング装置10−1〜10−3に入力される信号のうち、確率共振リング装置10−2に入力される信号の強度が最も高くなる。
【0062】
また、入力信号として確率共振素子21−3から出力される信号のS/N比が他の確率共振素子21−1,21−2に比べて高くなるような強い強度の信号が入力されると、確率共振素子21−3からは「1」、「0」の信号が繰り返し出力され、確率共振素子21−1,21−2からは主に「1」の信号が出力される。そのため、確率共振素子21−1,21−2から出力された信号はフィルタ60−1,60−2によりDC成分がカットされ、確率共振リング装置10−1〜10−3に入力される信号のうち、確率共振リング装置10−3に入力される信号の強度が最も高くなる。
【0063】
図12に戻り確率共振リング装置10−1〜10−3は、それぞれ、抑制結合部101−1〜101−3を備えている。なお、抑制結合部101−1〜101−3を特に区別しない場合は、単に抑制結合部101とする。抑制結合部101−1は、自己が属する信号伝達部50−1とは異なる信号伝達部50−2,50−3の出力端子TT1−2,T1−3と、確率共振リング装置10−1の確率共振ユニット20−3との間に接続されている。なお、抑制結合部101−2,101−3の接続関係は、抑制結合部101−1の接続関係と同様であるため説明を省略する。
【0064】
図14は抑制結合部101−1の構成を示す図である。抑制結合部101−1は、増幅器から構成され、入力側が出力端子TT1−2,TT1−3に接続され、出力側が確率共振ユニット20−3の確率共振素子21−1〜21−mの各判断部213に接続されている。
【0065】
ここで、判断部213は、抑制結合部101−1から出力された信号のレベルが増大するにつれて閾値を増加させるコンパレータを備えている。そのため、抑制結合部101−1は、入力される信号のレベルに応じて、確率共振ユニット20−3を構成する各確率共振素子21−1〜21〜mの閾値を調節することができる。なお、抑制結合部101−2,101−3は、抑制結合部101−1と同一構成であるため、説明を省略する。また、抑制結合部101−1は、確率共振ユニット20−3のみに限定されず、確率共振ユニット20−1〜20−4の少なくともいずれか1つの確率共振ユニット20に接続されていもよい。
【0066】
このように構成されたアトラクター選択装置は以下のように動作する。以下の説明では、入力信号として、確率共振素子21−2のS/N比が最も高くなるような中間の強度の信号が入力されたものとする。中間の強度の信号が入力されると、確率共振素子21−1からは主に「1」の信号が出力され、確率共振素子21−2からは「1」、「0」の信号が繰り返し出力され、確率共振素子21−3からは「0」の信号が出力される。これらの信号は、フィルタ60−1〜60−3によりDC成分がカットされるため、確率共振リング装置10−2に入力される信号の強度が最も高くなる。従って、確率共振リング装置10−2が他の確率共振リング装置10−1,10−3よりも長期間信号を記憶し、出力端子TT1−2から出力される信号のレベルが最も高くなる。
【0067】
更に、抑制結合部101−1〜101−3の働きにより、確率共振リング装置10−2の確率共振ユニット20−3の閾値が他の確率共振リング装置10−1,10−3の確率共振ユニット20−3の閾値よりも低くなり、確率共振リング装置10−2から出力される信号は増大され、確率共振リング装置10−1,10−3から出力される信号は抑制され、出力端子TT1−2のみが選択されることになる。
【0068】
つまり、本アトラクター選択装置は、最大の信号を出力する出力端子TT1−2のみが選択され、他の出力端子TT1−1,TT1−3は選択されないwinner−takes−all回路のように働く。
【0069】
したがって、弱い強度の信号から中間の強度の信号に入力信号が変化する場合と、中間の強度の信号から小の強度の信号に変化する場合とで、出力端子TT1−1,T1−2のいずれが選択されるかを定める閾値が異なるというように、本アトラクター選択装置はヒステリシスを有することになる。
【0070】
なお、入力信号として、確率共振素子21−1又は21−3のS/N比が高くなるような弱い又は強い強度の信号が入力された場合も、上記説明と同様にして、出力端子TT1−1又はTT1−3から出力される信号のレベルが高くなり、出力端子TT1−1又はTT1−3が選択されることになる。
【0071】
これにより、信号伝達部50−1〜50−3に対してある状態A〜Cを割り当てることにより、入力信号の強度に応じて安定した状態を選択、すなわち、環境の変化に応じて安定した状態を選択するアトラクター選択を実現するハードウェア装置を提供することができる。
【0072】
なお、本発明は、変動環境下でロボットを制御する次世代制御システムや情報処理システム分野において柔軟な処理、或いはあいまいな処理を行うコプロセッサを実現するうえで有用となる。
【0073】
また、本発明は、常温での熱ノイズによって駆動させることが可能であるため、適切な材料選択によって閾値判断処理に要するエネルギーを小さくすることが可能となり、従来全く存在し得なかった超低消費電力で動作する脳型情報処理装置を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本実施の形態による確率共振リング装置を示した図である。
【図2】図1に示す確率共振ユニットの構成を示す図である。
【図3】図2に示す確率共振素子の構成を示す図である。
【図4】図1に示す確率共振リング装置が3個双方向結合された確率共振リングネットワーク装置の構成を示した図である。
【図5】3個の確率共振リング装置から構成される確率共振リングネットワーク装置を示した図である。
【図6】図1に示す確率共振リング装置に一定期間信号を入力した後、この信号を遮断したときに確率共振リング装置を流れる信号の波形図を示している。
【図7】図4に示す確率共振リング装置に一定期間信号を入力した後、この信号を遮断したときに確率共振リング装置を流れる信号の波形図を示している。
【図8】双方向結合された確率共振リング装置の数を変化させたときの、確率共振リング装置を流れる信号の波形図を示す。
【図9】確率共振リング装置を構成する確率共振ユニットの個数を変化させたときに確率共振リング装置を流れる信号の波形図を示す。
【図10】本実施の形態による学習記憶忘却装置の構成を示した図である。
【図11】図10に示す学習記憶忘却装置における信号の忘却過程を示す波形図である。
【図12】本発明の実施の形態によるアトラクター選択装置の構成を示す図である。
【図13】各確率共振素子から出力される信号のS/N比と強度との関係を示したグラフである。
【図14】抑制結合部の構成を示す図である。
【図15】従来の回路を示した図である。
【図16】従来の回路を示した図である。
【符号の説明】
【0075】
10 10−1〜10−4 確率共振リング装置
20 20−1〜20−4 確率共振ユニット
21 21−1〜21−m 確率共振素子
22 加算器
23 遅延器
30 確率共振リングネットワーク装置
40 40−1〜40−2 信号伝達部
50 50−1 50−3 信号伝達部
60 60−1〜60−3 フィルタ
101 抑制結合部
211 ノイズ源
212 ミキサ
213 判断部
【技術分野】
【0001】
本発明は、確率共振を利用した確率共振リング装置、確率共振リングネットワーク装置、学習記憶忘却装置、アトラクター選択装置、及び確率共振ユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、確率共振を利用して、微弱信号を高感度に検出する研究が進められている(例えば非特許文献1)。ここで、確率共振とは、微弱な入力信号に適度な強度のノイズを付加して閾値処理すると、出力信号のS/N比が最大化される現象である。確率共振においては、出力信号のS/N比を最大化するために、ノイズの強度を最適な値に設定する必要があるが、最適値を見つけ出す作業は容易ではない。そこで、非特許文献2では、ノイズ信号の強度を最適化することなくS/N比を高めることを目的として、図15に示すように、複数の確率共振素子1001を並列接続し、各確率共振素子1001からの信号を加算器1002で加算する回路が開示されている。
【0003】
一方、近年、確率共振を利用して、脳内の信号伝達経路をハードウェアにより実現する種々の試みがなされている。例えば、非特許文献3では、図16に示すように、確率共振素子1001に遅延器1003を付加した4個の確率共振ユニット1004を、リング状に一方向結合させた回路が開示されている。この回路によれば、確率共振素子1001が遅延器1003を介してリング状に接続されているため、回路内への信号入力を遮断しても、暫くの間、回路内で信号が流れ続け、短期記憶が可能となる。
【非特許文献1】Review of Modern Physics,70,223-287(1998) (レビューオブモダンフィジックス)
【非特許文献2】Nature,376,236(1995) (ネイチャー)
【非特許文献3】Phys.Rev.E,64,031101(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献2の回路は、信号入力が遮断されると同時に信号が消滅してしまうため、信号を記憶させることは不可能である。また、非特許文献3の回路は、確率共振素子1001におけるノイズ信号の強度を最適化しなければ、確率共振素子1001により信号が伝達される確率が低くなってしまい、信号を長期間記憶させることは困難である。
【0005】
本発明の目的は、ノイズ信号の強度を最適化することなく信号を長期間記憶させることができる確率共振リング装置、確率共振リングネットワーク装置、学習記憶忘却装置、及びアトラクター選択装置、及びこれらの装置に用いられる確率共振ユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の確率共振リング装置は、信号がそれぞれ入力される並列接続された複数の確率共振素子と、各確率共振素子から出力された信号を加算する加算器と、前記加算器により加算された信号を遅延させて出力する遅延器とを含む確率共振ユニットを複数備え、前記複数の確率共振ユニットは、リング状に一方向結合されていることを特徴とする。
【0007】
本発明による確率共振リング装置においては、複数の確率共振素子が並列接続されているため、確率共振素子のノイズ信号の強度を最適化しなくても、いずれかの確率共振素子によって信号が出力され、確率共振ユニットに入力された信号と相関を有する信号が次段に接続された確率共振ユニットに伝達される確率を高めることが可能となる。また、各確率共振ユニットは遅延器を備えているため、信号が一時的に記憶され、入力信号が遮断されても、直ぐに信号が消滅せず、入力信号と相関を有する信号の伝達が長期間持続され、この信号を装置内で長期間記憶することができる。更に、並列接続する確率共振素子の個数及びノイズ信号の強度をカスタマイズすることで確率共振ユニットにおける信号の伝達確率を調節することができる。
【0008】
本発明による確率共振リングネットワーク装置は、請求項1記載の確率共振リング装置を複数備え、前記複数の確率共振リング装置は、双方向結合されていることを特徴とする。
【0009】
本発明による確率共振リングネットワーク装置においては、複数の確率共振ユニットが双方向結合されているため、入力信号が遮断されても入力信号と相関のある信号の伝達をより長期間持続させ、この信号をより長期間記憶することができる。
【0010】
また、本発明による学習記憶忘却装置は、請求項1記載の確率共振リング装置を含み、並列接続されたm(mは正の整数)個の第1の信号伝達部と、請求項2記載の確率共振リングネットワーク装置を含み、前記第1の信号伝達部に対して並列接続されたn(nは正の整数)個の第2の信号伝達部と、前記第1及び第2の信号伝達部の出力側に接続された請求項1記載の確率共振リング装置とを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明による学習記憶忘却装置においては、信号の入力期間が長くなると、全ての確率共振リング装置において信号が伝達される確率が高くなるため、信号の入力を遮断してから長期間、出力側に接続された確率共振リング装置から信号が出力され、信号が記憶される。ここで、第2の信号伝達部を構成する確率共振リングネットワーク装置は、双方向結合された複数の確率共振リング装置によりされているため、第1の信号伝達部を構成する確率共振リング装置よりも信号の記憶期間が長い。したがって、出力側の確率共振リング装置は、入力される信号が時間の推移に伴って低くなるため、出力する信号が時間の経過に伴って緩やかに減衰する。そのため、ある期間継続して信号が入力されると、この信号を学習し、時間の経過に伴って徐々に忘却していくというように、あたかも人間の脳のような挙動を示すハードウェア装置を提供することができる。
【0012】
本発明によるアトラクター選択装置は、確率共振素子と、前記確率共振素子から出力された信号中の直流成分を遮断するフィルタと、請求項1記載の確率共振リング装置とが直列接続された信号伝達部を複数備え、前記複数の信号伝達部は並列接続され、各信号伝達部の確率共振素子は、各々、異なる閾値が設定され、1の確率共振リング装置から出力される信号の強度が、他の確率共振リング装置から出力される信号の強度よりも高い場合、前記他の確率共振リング装置から出力される信号の強度が抑制されるように各確率共振リング装置を結合する抑制結合部を更に備えることを特徴とする。
【0013】
本発明によるアトラクター選択装置においては、各確率共振素子の閾値は各々異なる値に設定され、各確率共振素子から出力された信号はフィルタにより直流成分が除去されて各確率共振ユニットに出力される。そのため、ある確率共振素子から出力される信号のS/N比を高めるような強度の信号がアトラクター選択装置に入力されると、この確率共振素子が属する信号伝達部を構成する確率共振リング装置に高いレベルの信号が入力され、この確率共振リング装置により信号が長期間記憶され、この確率共振リング装置から高いレベルの信号が出力され、この確率共振リング装置が属する信号伝達部が選択されることになる。したがって、各信号伝達部に対して予め種々の状態を割り当てることにより、入力された信号の強度に応じて適した状態、すなわち、環境の変化に応じて安定した状態を選択するというようなアトラクター選択を実現するハードウェア装置を提供することができる。また、抑制結合部を備えているため、本アトラクター選択装置は、winner−takes−all回路のように働き、より確実に1の状態を選択することができる。
【0014】
また、前記信号伝達部を3個としてもよい。この場合、入力信号の強度に応じて3つの状態を選択することができる。
【0015】
本発明による確率共振ユニットは、信号がそれぞれ入力される並列接続された複数の確率共振素子と、各確率共振素子から出力された信号を加算する加算器と、前記加算器により加算された信号を遅延させて出力する遅延器とを備えることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、リング状に接続することで、ノイズ信号の強度を最適化することなく、信号を長期間記憶することができる確率共振ユニットを提供することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ノイズ信号の強度を最適化することなく入力された信号を長期間記憶することができる確率共振リング装置、確率共振リングネットワーク装置、学習記憶忘却装置、及びアトラクター選択装置、及びこれらの装置に用いられる確率共振ユニットを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態による確率共振リング装置について、説明する。図1は、本実施の形態による確率共振リング装置を示した図である。図1に示すように確率共振リング装置10は、リング状に一方向結合された4個の確率共振ユニット20−1〜20−4を備えている。なお、確率共振ユニットを特に区別しない場合は、単に確率共振ユニット20という。また、図1では、確率共振ユニット20の個数を4個としたが、これに限定されず、2個、3個、或いは5個以上としてもよい。
【0019】
ここで、一方向結合とは、信号の流れる方向が一方向であることを意味する。図1の場合、確率共振ユニット20−1の出力端子は、確率共振ユニット20−2の入力端子に接続され、確率共振ユニット20−1の入力端子は、確率共振ユニット20−4の出力端子に接続されるというように、ある確率共振ユニット20の出力端子が、隣接する一方の確率共振ユニット20の入力端子に接続され、ある確率共振ユニット20の入力端子が、隣接する他方の確率共振ユニットの出力端子に接続されることで、各確率共振ユニット20がリング状に接続されている。したがって、確率共振リング装置10内を流れる信号は、確率共振ユニット20−1〜20−4の順次伝播する。
【0020】
図2は、確率共振ユニット20の構成を示す図である。図2に示すように確率共振ユニット20は、並列接続されたm(mは2以上の整数)個の確率共振素子21−1〜21−m、加算器22、及び遅延器23を備えている。なお、確率共振素子を特に区別しない場合は、単に確率共振素子21という。図3は、図2に示す確率共振素子21の構成を示す図である。図3に示すように確率共振素子21は、ノイズ源211、ミキサ212、及び判断部213を備えている。ノイズ源211は、ガウシアンホワイトノイズや熱雑音といった種々のノイズ信号を生成するファンクションジェネレータから構成されている。ここで、ノイズ信号の強度としては、入力信号のおよそのレベルと、閾値との関係から確率共振素子21から出力される信号のS/N比がある程度のレベルを維持することができる値を採用することが好ましい。
【0021】
ミキサ212は、ノイズ源211から出力されたノイズ信号と入力信号とを重畳する。判断部213は、コンパレータ及び増幅器を含む。コンパレータは、ミキサ212から出力された信号を所定の閾値と比較し、この信号が閾値以上の場合は、ハイレベルの信号を出力し、この信号が閾値未満の場合は、ローレベルの信号を出力する。本実施の形態では、コンパレータの閾値は、各確率共振素子21において同一であるとする。増幅器は、コンパレータから出力された信号を所定の増幅率で増幅して加算器22に出力する。本実施の形態では、この増幅器の増幅率のことを「結合定数」と称する。また、本実施の形態では、図3の上段に示す確率共振素子を図3の下段に示す記号で表すものとする。
【0022】
図2に戻って、加算器22は、確率共振素子21−1〜21−mから出力された各信号を加算して、遅延器23に出力する。遅延器23は、加算器から出力された信号を所定時間遅延させる。本実施の形態では、図2の上段に示す確率共振ユニット20を図2の下段に示す記号で表すものとする。
【0023】
このように、図2に示す確率共振ユニット20においては、信号が入力されると、確率共振素子21−1〜21−mにより、ノイズ信号と入力信号とが重畳され、重畳された信号が閾値以上の場合は、ハイレベルの信号が各確率共振素子21−1〜21−mから出力される。そして、各確率共振素子21−1〜21−mから出力された信号は加算器22により加算された後、遅延器23により所定時間遅延され、隣接する確率共振ユニット20へと出力される。
【0024】
ここで、確率共振ユニット20は、複数個の確率共振素子21が並列に接続されており、どの確率共振素子21がハイレベルの信号を出力するかは決定的には定まらず確率的に定まる。また、入力される信号のレベルが高くなるにつれて、ハイレベルの信号を出力する確率共振素子21の個数も増大するため、確率共振ユニット20は、入力された信号と相関を有する信号を出力することが可能となる。また、確率共振素子21の個数を増減させることで、確率共振ユニット20から出力される信号のレベルを確率的に調整することが可能となる。
【0025】
そして、確率共振ユニット20は、複数個の確率共振素子21が並列に接続されているため、信号が入力された場合、いずれかの確率共振素子21からハイレベルの信号を出力させることができ、図16に示す従来の確率共振ユニット1004のように確率共振素子1001のノイズ信号の強度を最適化しなくとも、高い確率で入力信号と相関を有する信号を伝達することができる。
【0026】
次に、図1に示す確率共振リング装置10の動作について説明する。例えば、確率共振ユニット20−1に信号が入力されると、この信号は、確率共振ユニット20−1〜20−4により確率的に伝達され、回路内を伝播する。そして、確率共振ユニット20−1への信号の入力が遮断されると、遮断される直前に遅延器23に入力された信号が遅延器23により遅延されて次段の確率共振ユニット20に伝達されるため、信号は直ちに消滅せず回路内を伝播する。一方、信号の入力が遮断されてから時間が経過するにつれて、ハイレベルの信号を出力する確率共振素子21の個数が減少していくため、回路内を循環する信号はやがて消滅する。つまり、信号の入力が遮断されると、回路内を循環する信号はやがて消滅するが、信号の入力が遮断された時からある期間が経過するまでは、一定レベル以上の信号であって、入力された信号と相関を有する信号が回路内を循環する。そのため、確率共振リング装置10は、入力された信号を長期間記憶することができる。
【0027】
次に、本発明の実施の形態による確率共振リングネットワーク装置について説明する。図4は、確率共振リングネットワーク装置30の構成を示した図である。図4に示すように確率共振リングネットワーク装置30は、双方向結合された2個の確率共振リング装置10−1,10−2を備えている。確率共振リング装置10−1,10−2は、各々、図1に示す確率共振リング装置10と同一構成であり、4個の確率共振ユニット20−1〜20−4を備えている。
【0028】
確率共振リング装置10−1における確率共振ユニット20−2の出力端子は、確率共振リング装置10−2における確率共振ユニット20−1の入力端子に接続され、確率共振リング装置10−2の確率共振ユニット20−4の出力端子は、確率共振リング装置10−1の確率共振ユニット20−3の入力端子に接続される。これにより、確率共振リング装置10−1を流れる信号は確率共振リング装置10−2に確率的に伝達されると共に、確率共振リング装置10−2を流れる信号は確率共振リング装置10−1に確率的に伝達され、確率共振リング装置10−1及び10−2は双方向結合されることになる。
【0029】
なお、図4に示す確率共振リングネットワーク装置30は、2個の確率共振リング装置10から構成されているが、これに限定されず、3個以上の確率共振リング装置10で構成してもよい。また、各確率共振リング装置10を構成する確率共振ユニット20の個数も、各確率共振リング装置10において異なる個数にしてもよい。
【0030】
図5は、3個の確率共振リング装置10−1〜10−3から構成される確率共振リングネットワーク装置を示した図である。図5の場合、確率共振リング装置10−1及び10−2が双方向結合され、確率共振リング装置10−2及び10−3が双方向に縦列結合されている。これにより確率共振リング装置10−1及び10−2間で信号が確率的に伝達され、確率共振リング装置10−2及び10−3間で信号が確率的に伝達されることになる。
【0031】
図6は、図1に示す確率共振リング装置10に一定期間、信号を入力した後、この信号を遮断したときに確率共振リング装置10を流れる信号の波形図を示している。この波形図は、回路シミュレータによる実験結果を示すものであり、(a)は入力信号を示し、(b)〜(g)は確率共振リング装置10を構成する確率共振ユニット20の結合定数εを、0.5、0.39、0.37、0.35、0.30、0.1としたときの回路内を流れる信号の波形図を示している。
【0032】
なお、図6においては、入力信号として、ω/2π=16の正弦波であるsin(ωx)が用いられ、この入力信号が0<t<128の期間に入力されている。また、ノイズ源211から出力されるノイズ信号としては0.2の強度のものが用いられている。また、各確率共振ユニット20における判断部213の閾値は0.2とされ、遅延器23の遅延時間は64とされている。
【0033】
期間TM1において、確率共振リング装置10に入力信号が印加される。ここで、入力信号としては、正弦波が採用されている。図6(b)に示すようにε=0.5の場合、実験期間中、確率共振リング装置10内を循環する信号の減衰は見られなかった。そのため、確率共振リング装置10において、長期間信号が記憶されていることが分かる。一方、図6(c)〜(g)に示すように、ε=0.39、0.37.0.35、0.30、0.1と結合定数が小さくなるにつれて、確率共振リング装置10内を循環する信号が早く減衰していることが観測されたが、入力信号を遮断しても、確率共振リング装置10内において、所要時間信号が伝播していることが観測された。そのため、確率共振リング装置10において、信号が短期間記憶されていることが分かる。これらの実験結果から、確率共振ユニット20の結合定数を大きくすると信号の記憶期間を長くすることができ、結合定数を小さくすると信号の記憶期間を短くすることができることが分かる。
【0034】
図7は、図4に示す確率共振リングネットワーク装置30に図6と同様、期間TM1において信号を入力した後、この信号を遮断したときにおける、確率共振リングネットワーク装置30を流れる信号の波形図を示している。この波形図は、回路シミュレータによる実験結果を示すものであり、(a)は入力信号を示し、(b)〜(g)は確率共振リングネットワーク装置30を構成する確率共振ユニット20の結合定数εを、各々、0.5、0.39、0.37、0.35、0.30、0.1としたときに回路内を流れる信号の波形図を示している。
【0035】
図7(b)〜(g)と図6(b)〜(g)とを比較すると、図7(b)〜(g)の方が信号の減衰が遅いことが分かる。また、図7(b)〜(e)においては、実験期間中、確率共振リング装置10内を循環する信号の減衰は見られず、図6(b)の場合と同様、信号が長期間記憶されていることが分かる。これらのことから、双方向結合される確率共振リング装置10の個数を増大させると、信号の記憶期間を長期化することができることが分かる。
【0036】
図8は、確率共振リングネットワーク装置を構成する確率共振リング装置10の数(N)を変化させたときに、装置内を流れる信号の波形図を示し、1段目は入力信号の波形図を示し、2〜5段目はそれぞれN=1、10、100、1000の場合の波形図を示している。なお、図8の波形図は回路シミュレータによる実験によって得られたものである。また、図8においては、入力信号として、ω/2π=16の正弦波であるsin(ωx)が用いられ、この入力信号が0<t<128の期間に入力されている。また、ノイズ源211から出力されるノイズ信号としては0.1の強度のものが用いられている。また、各確率共振ユニット20の結合定数は0.16とされ、判断部213の閾値は1とされ、遅延器23の遅延時間は64とされている。
【0037】
図8に示すように、N=1〜100までは確率共振ユニット20の数が増大するにつれて、信号の記憶期間は増大しているが、N=100とN=1000の場合とでは、信号の記憶期間に大差はないことが分かる。そのため、確率共振ユニット20の個数を100以上にしても、記憶期間の増大を見込めないことが分かる。
【0038】
図9は、確率共振リングネットワーク装置を構成する確率共振ユニット20の個数(n)を変化させたときに確率共振リングネットワーク装置を流れる信号の波形図を示し、1段目は入力信号の波形図を示し、2〜8段目はそれぞれn=2〜8の場合の波形図を示している。なお、図9において、入力信号やノイズ信号等の各種パラメータは図8と同一である。また、確率共振リングネットワーク装置を構成する確率共振リング装置10の個数は100とした。図9に示すように、確率共振ユニット20の個数を増大させても、記憶期間の長期化が期待できないことが分かる。
【0039】
次に、本発明の実施の形態による学習記憶忘却装置について説明する。図10は、本実施の形態による学習記憶忘却装置の構成を示した図である。この学習記憶忘却装置は、並列接続された2個の信号伝達部40−1と、1個の信号伝達部40−2と、信号伝達部40−1〜40−2の出力側に接続された確率共振リング装置10−5とを備えている。
【0040】
信号伝達部40−1は、確率共振素子21−1と、確率共振素子21−1の出力側に接続された確率共振リング装置10−1とを備えている。確率共振素子21−1は、入力信号を確率的に伝達することで、信号が安易に確率共振リング装置10−1に出力されることを抑制する。ここで、確率共振リング装置10−1は、出力端子が確率共振リング装置10−5を構成するいずれか1つの確率共振ユニット20の入力端子に接続されている。
【0041】
確率共振リング装置10−1は図1に示す確率共振リング装置10と同一であり、確率共振素子21−1から出力された信号を確率共振リング装置10−5に確率的に伝達する。ここで、確率共振リング装置10−1を構成するいずれか1つの確率共振ユニット20の出力端子が、確率共振リング装置10−5を構成するいずれか1つの確率共振ユニット20の入力端子に接続されることで、確率共振リング装置10−1と確率共振リング装置10−5とは接続されている。
【0042】
信号伝達部40−2は、確率共振素子21−2と、確率共振素子21−2の出力側に接続された2個の確率共振リング装置10−3,10−4とを備えている。確率共振素子21−2と確率共振リング装置10−3とは、確率共振素子21−1と確率共振リング装置10−1と同様に接続されている。確率共振リング装置10−3と確率共振リング装置10−4とは、双方向結合され、図4に示す確率共振リングネットワーク装置30を構成している。確率共振リング装置10−4と確率共振リング装置10−5とは、確率共振リング装置10−1と確率共振リング装置10−5と同様に接続されている。
【0043】
このように構成された学習記憶忘却装置は以下のように動作する。信号の入力期間が短い場合、確率共振リング装置10−1〜10−4が信号を伝達する確率が低くなるため、確率共振リング装置10−5による信号の記憶期間が短くなる。
【0044】
一方、信号の入力期間が長くなると、確率共振リング装置10−1〜10−5の全てにおいて信号が伝達される確率が高くなる。そのため、信号の入力を遮断してから長期間、確率共振リング装置10−5から信号が出力され、信号が長期間記憶されることになる。ここで、確率共振リング装置10−3及び10−4は双方向結合されているため、確率共振リング装置10−3及び10−4による信号の記憶期間(発火寿命)は、確率共振リング装置10−1及び10−2による信号の記憶期間より長い。
【0045】
そのため、信号の入力が遮断された後、確率共振リング装置10−1及び10−2が信号を忘却しても、確率共振リング装置10−3及び10−4は信号を記憶しているため、確率共振リング装置10−5から信号が出力される。そのため、確率共振リング装置10−5から出力される信号は緩やかに減少することになる。
【0046】
図11は、図10に示す学習記憶忘却装置における信号の忘却過程を示す波形図である。この波形図は、回路シミュレータによる実験結果を示すものである。図11(a)は、入力信号と各確率共振リング装置10−1〜10−5との波形図を示し、1段目は入力信号の波形図を示し、2〜6段目は、それぞれ、確率共振リング装置10−2〜10−5から出力される信号の波形図を示している。
【0047】
また、図11(b)は図11(a)に示す期間TM1を拡大した波形図であり、1段目は入力信号の波形図を示し、2段目は確率共振リング装置10−5から出力される信号の波形図を示している。なお、図11(b)において下段の波形図は、上段の波形図に対して、縦軸のスケールが2倍に拡大されている。
【0048】
また、図11(c)は、(a)に示す期間TM2を図11(b)と同様に拡大した波形図である。図11(b)の上段に示す期間TM21において、入力信号として、複数個のパルス信号が入力されている。これにより、図11(a)の2〜6段目に示すように、確率共振リング装置10−1〜10−5によって信号が記憶される。なお、図11(a)の2〜6段目の波形図に示すように、確率共振リング装置10−3及び10−4は双方向結合され、確率共振リングネットワーク装置とされているため、確率共振リング装置10−1,10−2,10−5よりも、信号が減衰する時間が長く、記憶期間が長くなっていることが分かる。
【0049】
そして、入力信号が遮断される遮断期間TM22において、図11(b)の下段に示すように、時間が経過するにつれて、確率共振リング装置10−5から出力される信号のレベルが減衰していることが分かる。遮断期間TM22が経過した時刻T1において、入力信号として、1パルスのパルス信号が入力されると、時刻T2において、このパルス信号に応答するように、高いレベルの信号が確率共振リング装置10−5から出力されていることが分かる。これは、期間TM21において複数のパルス信号が入力されることで、確率共振リング装置10−1〜10−5がこのパルス信号を記憶し、このパルス信号を記憶した状態において、別のパルス信号が入力されたためである。
【0050】
一方、図11(c)の上段に示すように期間TM31において、入力信号として、期間TM21と同様に複数個のパルス信号が入力され、遮断期間TM22よりも長い遮断期間TM32が経過した時刻T3において、1パルスのパルス信号が入力される。そうすると、図11(c)の下段に示すように時刻T4において、このパルス信号に応答するように確率共振リング装置10−5から信号が出力されるが、この信号のレベルは図11(b)の場合に比べてかなり低くなっている。これは、遮断期間T32が遮断期間T22に比べて長く、確率共振リング装置10−1〜10−5が信号を忘却した状態で、別のパルス信号が入力されたためである。
【0051】
このように、本学習記憶忘却装置によれば、一定期間継続して複数パルス分のパルス信号が入力されると、このパルス信号を学習し、このパルス信号を時間の経過に伴って徐々に忘却していくというように、あたかも人間の脳のような挙動を示すハードウェア装置を提供することができる。
【0052】
なお、図10に示す学習記憶忘却装置においては、信号伝達部40−1の個数を2個、信号伝達部40−2の個数を1個としたが、これに限定されず、信号伝達部40−1の個数を1個又は3個以上とし、信号伝達部40−2の個数を2個以上としてもよい。
【0053】
また、信号伝達部40−2を双方向結合された2個の確率共振リング装置10からなる確率共振リングネットワーク装置で構成したが、これに限定されず、双方向結合された3個以上の確率共振リング装置10を備える確率共振リングネットワーク装置で構成してもよい。
【0054】
次に、本発明の実施の形態によるアトラクター選択装置について説明する。図12は、本発明の実施の形態によるアトラクター選択装置の構成を示す図である。本アトラクター選択装置は、3個の信号伝達部50−1〜50−3を備えている。なお、信号伝達部50−1〜5−3を特に区別しない場合は、単に信号伝達部50とする。また、信号伝達部50の個数は3個に限定されず、2個又は4個以上にしてもよい。
【0055】
信号伝達部50−1は、確率共振素子21−1、フィルタ60−1、確率共振リング装置10−1、及び出力端子TT1−1を備え、信号伝達部50−2は、確率共振素子21−2、フィルタ60−2、確率共振リング装置10−2、及び出力端子TT1−2を備え、信号伝達部50−3は、確率共振素子21−3、フィルタ60−3、確率共振リング装置10−3、及び出力端子TT1−3を備える。
【0056】
なお、フィルタ60−1〜60−3、出力端子TT1−1〜TT1−3を特に区別しない場合は、単にフィルタ60とし、出力端子TT1とする。確率共振素子21−1は、入力信号を確率的に伝達することで、確率共振リング装置10−1に安易に信号が伝達されることを抑制する。フィルタ60−1は、確率共振素子21−1から出力された信号のDC成分をカットすることで、S/N比の高い成分を通過させ、確率共振リング装置10−1に出力する。なお、フィルタ60−1はフィルタ60−2,60−3と同一であり、確率共振リング装置10−1は確率共振リング装置10−2,10−3と同一である。出力端子TT1−1〜TT1−3は、それぞれ、確率共振リング装置10−1〜10−3と接続され、確率共振リング装置10−1〜10−3を流れる信号を出力する。
【0057】
確率共振素子21−1〜21−3は、この順で閾値が高く設定されている。すなわち、確率共振素子21−1の閾値は最小であり、確率共振素子21−3は最大であり、確率共振素子21−2の閾値は、確率共振素子21−1及び21−3の閾値の中間の値に設定されている。
【0058】
従って、確率共振素子21−1〜21−3から出力される信号のS/N比と強度との関係は、ノイズ信号の強度を一定とすると、図13のようになる。図13は、確率共振素子21−1〜21−3から出力される信号のS/N比と強度との関係を示したグラフである。このグラフにおいて曲線C1〜C3は、それぞれ、確率共振素子21−1〜21−3に対応している。
【0059】
確率共振素子21−1は閾値が最も小さいため、曲線C1に示すように、弱い強度の信号に対してS/N比が高くなっていることが分かる。また、確率共振素子21−3は、閾値が最も大きいため、曲線C3に示すように、強い強度の信号に対してS/N比が高くなっていることが分かる。また、確率共振素子21−2は閾値が中間の値であるため、曲線C2に示すように、中間の強度の信号に対してS/N比が高くなっていることが分かる。
【0060】
従って、入力信号として確率共振素子21−1から出力される信号のS/N比が他の確率共振素子21−2,21−3から出力される信号のS/N比に比べて高くなるような弱い強度の信号が入力されると、確率共振素子21−1からは、ハイレベル、ローレベルを「1」、「0」で符号化すると、「1」、「0」の信号が繰り返し出力され、他の確率共振素子21−2,21−3からは主に「0」の信号が出力される。そのため、確率共振リング装置10−1〜10−3に入力される信号のうち、確率共振リング装置10−1に入力される信号の強度が最も高くなる。
【0061】
また、入力信号として確率共振素子21−2から出力される信号のS/N比が他の確率共振素子21−1,21−3に比べて高くなるような中間の強度の信号が入力されると、確率共振素子21−2からは「1」、「0」の信号が繰り返し出力され、確率共振素子21−1からは主に「1」の信号が出力され、確率共振素子21−3からは主に「0」の信号が出力される。そのため、確率共振素子21−1から出力された信号はフィルタ60−1によりDC成分がカットされ、確率共振リング装置10−1〜10−3に入力される信号のうち、確率共振リング装置10−2に入力される信号の強度が最も高くなる。
【0062】
また、入力信号として確率共振素子21−3から出力される信号のS/N比が他の確率共振素子21−1,21−2に比べて高くなるような強い強度の信号が入力されると、確率共振素子21−3からは「1」、「0」の信号が繰り返し出力され、確率共振素子21−1,21−2からは主に「1」の信号が出力される。そのため、確率共振素子21−1,21−2から出力された信号はフィルタ60−1,60−2によりDC成分がカットされ、確率共振リング装置10−1〜10−3に入力される信号のうち、確率共振リング装置10−3に入力される信号の強度が最も高くなる。
【0063】
図12に戻り確率共振リング装置10−1〜10−3は、それぞれ、抑制結合部101−1〜101−3を備えている。なお、抑制結合部101−1〜101−3を特に区別しない場合は、単に抑制結合部101とする。抑制結合部101−1は、自己が属する信号伝達部50−1とは異なる信号伝達部50−2,50−3の出力端子TT1−2,T1−3と、確率共振リング装置10−1の確率共振ユニット20−3との間に接続されている。なお、抑制結合部101−2,101−3の接続関係は、抑制結合部101−1の接続関係と同様であるため説明を省略する。
【0064】
図14は抑制結合部101−1の構成を示す図である。抑制結合部101−1は、増幅器から構成され、入力側が出力端子TT1−2,TT1−3に接続され、出力側が確率共振ユニット20−3の確率共振素子21−1〜21−mの各判断部213に接続されている。
【0065】
ここで、判断部213は、抑制結合部101−1から出力された信号のレベルが増大するにつれて閾値を増加させるコンパレータを備えている。そのため、抑制結合部101−1は、入力される信号のレベルに応じて、確率共振ユニット20−3を構成する各確率共振素子21−1〜21〜mの閾値を調節することができる。なお、抑制結合部101−2,101−3は、抑制結合部101−1と同一構成であるため、説明を省略する。また、抑制結合部101−1は、確率共振ユニット20−3のみに限定されず、確率共振ユニット20−1〜20−4の少なくともいずれか1つの確率共振ユニット20に接続されていもよい。
【0066】
このように構成されたアトラクター選択装置は以下のように動作する。以下の説明では、入力信号として、確率共振素子21−2のS/N比が最も高くなるような中間の強度の信号が入力されたものとする。中間の強度の信号が入力されると、確率共振素子21−1からは主に「1」の信号が出力され、確率共振素子21−2からは「1」、「0」の信号が繰り返し出力され、確率共振素子21−3からは「0」の信号が出力される。これらの信号は、フィルタ60−1〜60−3によりDC成分がカットされるため、確率共振リング装置10−2に入力される信号の強度が最も高くなる。従って、確率共振リング装置10−2が他の確率共振リング装置10−1,10−3よりも長期間信号を記憶し、出力端子TT1−2から出力される信号のレベルが最も高くなる。
【0067】
更に、抑制結合部101−1〜101−3の働きにより、確率共振リング装置10−2の確率共振ユニット20−3の閾値が他の確率共振リング装置10−1,10−3の確率共振ユニット20−3の閾値よりも低くなり、確率共振リング装置10−2から出力される信号は増大され、確率共振リング装置10−1,10−3から出力される信号は抑制され、出力端子TT1−2のみが選択されることになる。
【0068】
つまり、本アトラクター選択装置は、最大の信号を出力する出力端子TT1−2のみが選択され、他の出力端子TT1−1,TT1−3は選択されないwinner−takes−all回路のように働く。
【0069】
したがって、弱い強度の信号から中間の強度の信号に入力信号が変化する場合と、中間の強度の信号から小の強度の信号に変化する場合とで、出力端子TT1−1,T1−2のいずれが選択されるかを定める閾値が異なるというように、本アトラクター選択装置はヒステリシスを有することになる。
【0070】
なお、入力信号として、確率共振素子21−1又は21−3のS/N比が高くなるような弱い又は強い強度の信号が入力された場合も、上記説明と同様にして、出力端子TT1−1又はTT1−3から出力される信号のレベルが高くなり、出力端子TT1−1又はTT1−3が選択されることになる。
【0071】
これにより、信号伝達部50−1〜50−3に対してある状態A〜Cを割り当てることにより、入力信号の強度に応じて安定した状態を選択、すなわち、環境の変化に応じて安定した状態を選択するアトラクター選択を実現するハードウェア装置を提供することができる。
【0072】
なお、本発明は、変動環境下でロボットを制御する次世代制御システムや情報処理システム分野において柔軟な処理、或いはあいまいな処理を行うコプロセッサを実現するうえで有用となる。
【0073】
また、本発明は、常温での熱ノイズによって駆動させることが可能であるため、適切な材料選択によって閾値判断処理に要するエネルギーを小さくすることが可能となり、従来全く存在し得なかった超低消費電力で動作する脳型情報処理装置を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本実施の形態による確率共振リング装置を示した図である。
【図2】図1に示す確率共振ユニットの構成を示す図である。
【図3】図2に示す確率共振素子の構成を示す図である。
【図4】図1に示す確率共振リング装置が3個双方向結合された確率共振リングネットワーク装置の構成を示した図である。
【図5】3個の確率共振リング装置から構成される確率共振リングネットワーク装置を示した図である。
【図6】図1に示す確率共振リング装置に一定期間信号を入力した後、この信号を遮断したときに確率共振リング装置を流れる信号の波形図を示している。
【図7】図4に示す確率共振リング装置に一定期間信号を入力した後、この信号を遮断したときに確率共振リング装置を流れる信号の波形図を示している。
【図8】双方向結合された確率共振リング装置の数を変化させたときの、確率共振リング装置を流れる信号の波形図を示す。
【図9】確率共振リング装置を構成する確率共振ユニットの個数を変化させたときに確率共振リング装置を流れる信号の波形図を示す。
【図10】本実施の形態による学習記憶忘却装置の構成を示した図である。
【図11】図10に示す学習記憶忘却装置における信号の忘却過程を示す波形図である。
【図12】本発明の実施の形態によるアトラクター選択装置の構成を示す図である。
【図13】各確率共振素子から出力される信号のS/N比と強度との関係を示したグラフである。
【図14】抑制結合部の構成を示す図である。
【図15】従来の回路を示した図である。
【図16】従来の回路を示した図である。
【符号の説明】
【0075】
10 10−1〜10−4 確率共振リング装置
20 20−1〜20−4 確率共振ユニット
21 21−1〜21−m 確率共振素子
22 加算器
23 遅延器
30 確率共振リングネットワーク装置
40 40−1〜40−2 信号伝達部
50 50−1 50−3 信号伝達部
60 60−1〜60−3 フィルタ
101 抑制結合部
211 ノイズ源
212 ミキサ
213 判断部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号がそれぞれ入力される並列接続された複数の確率共振素子と、各確率共振素子から出力された信号を加算する加算器と、前記加算器により加算された信号を遅延させて出力する遅延器とを含む確率共振ユニットを複数備え、
前記複数の確率共振ユニットは、リング状に一方向結合されていることを特徴とする確率共振リング装置。
【請求項2】
請求項1記載の確率共振リング装置を複数備え、前記複数の確率共振リング装置は、双方向結合されていることを特徴とする確率共振リングネットワーク装置。
【請求項3】
請求項1記載の確率共振リング装置を含み、並列接続されたm(mは正の整数)個の第1の信号伝達部と、
請求項2記載の確率共振リングネットワーク装置を含み、前記第1の信号伝達部に対して並列接続されたn(nは正の整数)個の第2の信号伝達部と、
前記第1及び第2の信号伝達部の出力側に接続された請求項1記載の確率共振リング装置とを備えることを特徴とする学習記憶忘却装置。
【請求項4】
確率共振素子と、前記確率共振素子から出力された信号中の直流成分を遮断するフィルタと、請求項1記載の確率共振リング装置とが直列接続された信号伝達部を複数備え、
前記複数の信号伝達部は並列接続され、
各信号伝達部の確率共振素子は、各々、異なる閾値が設定され、
1の確率共振リング装置から出力される信号の強度が、他の確率共振リング装置から出力される信号の強度よりも高い場合、前記他の確率共振リング装置から出力される信号の強度が抑制されるように各確率共振リング装置を結合する抑制結合部を更に備えることを特徴とするアトラクター選択装置。
【請求項5】
前記信号伝達部を3個としたことを特徴とする請求項4記載のアトラクター選択装置。
【請求項6】
信号がそれぞれ入力される並列接続された複数の確率共振素子と、
各確率共振素子から出力された信号を加算する加算器と、
前記加算器により加算された信号を遅延させて出力する遅延器とを備えることを特徴とする確率共振ユニット。
【請求項1】
信号がそれぞれ入力される並列接続された複数の確率共振素子と、各確率共振素子から出力された信号を加算する加算器と、前記加算器により加算された信号を遅延させて出力する遅延器とを含む確率共振ユニットを複数備え、
前記複数の確率共振ユニットは、リング状に一方向結合されていることを特徴とする確率共振リング装置。
【請求項2】
請求項1記載の確率共振リング装置を複数備え、前記複数の確率共振リング装置は、双方向結合されていることを特徴とする確率共振リングネットワーク装置。
【請求項3】
請求項1記載の確率共振リング装置を含み、並列接続されたm(mは正の整数)個の第1の信号伝達部と、
請求項2記載の確率共振リングネットワーク装置を含み、前記第1の信号伝達部に対して並列接続されたn(nは正の整数)個の第2の信号伝達部と、
前記第1及び第2の信号伝達部の出力側に接続された請求項1記載の確率共振リング装置とを備えることを特徴とする学習記憶忘却装置。
【請求項4】
確率共振素子と、前記確率共振素子から出力された信号中の直流成分を遮断するフィルタと、請求項1記載の確率共振リング装置とが直列接続された信号伝達部を複数備え、
前記複数の信号伝達部は並列接続され、
各信号伝達部の確率共振素子は、各々、異なる閾値が設定され、
1の確率共振リング装置から出力される信号の強度が、他の確率共振リング装置から出力される信号の強度よりも高い場合、前記他の確率共振リング装置から出力される信号の強度が抑制されるように各確率共振リング装置を結合する抑制結合部を更に備えることを特徴とするアトラクター選択装置。
【請求項5】
前記信号伝達部を3個としたことを特徴とする請求項4記載のアトラクター選択装置。
【請求項6】
信号がそれぞれ入力される並列接続された複数の確率共振素子と、
各確率共振素子から出力された信号を加算する加算器と、
前記加算器により加算された信号を遅延させて出力する遅延器とを備えることを特徴とする確率共振ユニット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図11】
【公開番号】特開2009−48515(P2009−48515A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−215458(P2007−215458)
【出願日】平成19年8月22日(2007.8.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、文部科学省、科学技術総合研究委託費による委託研究「生体ゆらぎに学ぶ知的人工物と情報システム」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月22日(2007.8.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、文部科学省、科学技術総合研究委託費による委託研究「生体ゆらぎに学ぶ知的人工物と情報システム」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
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