説明

磁化評価装置

【課題】流体の磁化を評価することである。
【解決手段】磁化評価装置10は、磁気センサ部12と評価部30とを含んで構成される。磁気センサ部12は、測定対象物8が流れる流路となる貫通穴16を有する樹脂製のボビン14と、ボビン14の外周に巻回された励磁コイル20と検出コイル18とを有する。評価部30は、磁気センサ部12に増幅器とともに直列に接続され、励磁コイルへの入力波形と検出コイルからの出力波形に位相差が生じるときは、周波数を変化させてその位相差をゼロに補償する位相シフト回路を含み、位相差をゼロに補償したときの周波数変化量と測定対象物8の磁化量との関係を予め求めておき、磁気センサ部12を通る流路に測定対象物8を流したときに生じる位相差をゼロに補償する周波数変化量から測定対象物8の磁化量を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁化評価装置に係り、特に流体の磁化を評価する磁化評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気が人体の健康等に影響を与える可能性は様々な局面で述べられている。例えば、磁石を用いた腕輪や、筋肉のしこり等のある箇所に貼る磁気ペレット等である。そして、水を磁化することも行われる。
【0003】
例えば、特許文献1には、管路を流れる水に磁気を作用させ磁化させるための装置として、永久磁石とヨークを有する磁化器が配置される磁化室の構成が開示されている。
【0004】
なお、本願発明者は、特許文献2において開示されているように、所定の位置関係に配置された励磁コイルと検出コイルの空心部に測定対象物を挿入し、その挿入深さである変位量について位相シフト法を用いることで精度よく測定できる方法を開発している。この技術は、測定対象物が空心部に挿入されることで、励磁コイルと検出コイルのインダクタンスが変化することを利用している。すなわち、検出コイルからの出力信号と、励磁コイルへの入力信号との間に、インダクタンスの変化に応じて生じる位相差が生じるときは、位相シフト回路によって周波数を変化させることで位相差をゼロに補償し、その位相差をゼロに補償する周波数変化量からインダクタンスの変化量を求めるものである。測定対象物の変位量とインダクタンスの対応関係、あるいは測定対象物と周波数変化量との関係を予め求めておくことで、測定対象物の変位を精度よく求めることができる。
【0005】
【特許文献1】特開2005−40694号公報
【特許文献2】特開2003−139562号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1以外にも磁化水を製造する装置等の発明が多く開示されている。しかし、磁化水製造装置において、水に磁気が供給されても、水が磁化されたか否かを評価する手段が少ない。現在使用されている磁気センサとしては、MIセンサ、SQUID、高感度の磁気抵抗素子であるが、感度、分解能、小型化等で、課題が残されている。特許文献2の方法は、インダクタンスの変化を精度よく測定できるが、変位検出用であり、磁化検出用ではない。
【0007】
本発明の目的は、流体の磁化を評価することができる磁化評価装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る磁化評価装置は、測定対象物を流す流路の周りに配置され、励磁コイルと検出コイルとを有する磁気センサ部と、磁気センサ部に増幅器とともに直列に接続され、励磁コイルへの入力波形と検出コイルからの出力波形に位相差が生じるときは、周波数を変化させてその位相差をゼロに補償する位相シフト回路と、位相差をゼロに補償したときの周波数変化量と測定対象物の磁化量との関係を予め求めておき、磁気センサ部を通る流路に測定対象物を流したときに生じる位相差をゼロに補償する周波数変化量から測定対象物の磁化量を評価する磁化量評価部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る磁化評価装置において、励磁コイルと検出コイルとは、互いに極性が逆向きに巻かれて直列に接続されることが好ましい。
【0010】
また、磁化量測定部は、磁化の有無を評価する閾値周波数変化量を予め設定し、閾値周波数変化量未満の周波数変化量のときは、測定対象物が磁化されていないと評価することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る磁化評価装置によれば、位相シフト法において位相差をゼロに補償したときの周波数変化量と測定対象物の磁化量との関係を予め求めておき、磁気センサ部を通る流路に測定対象物を流したときに生じる位相差をゼロに補償する周波数変化量から測定対象物の磁化量を評価する。したがって、流体の磁化を評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明に係る実施の形態につき、図面を用いて詳細に説明する。以下では、測定対象物として、水を説明するが、水以外でも、水を主成分とする流体、例えば、添加物を含んだ水、排水、酒類、生体液、血液等を測定対象物としてもよい。また、以下に述べる寸法、構造等は、説明のための一例であり、用途に応じ、適宜変更が可能である。
【0013】
図1は、磁化評価装置10の構成を示す図である。なお、図1には、磁化評価装置10の構成要素ではないが、測定対象物8である水が示されている。磁化評価装置10は、測定対象物として、流体である水の磁化を評価する装置である。特に、水に磁気を与えて磁化水としたものの磁化を評価するための装置である。
【0014】
磁化評価装置10は、空心コイルの形態を有する磁気センサ部12と、磁気センサ部12と接続されて測定対象物8の磁化量を評価する評価部30とを含んで構成される。磁気センサ部12は、測定対象物8が流れる流路となる貫通穴16を有する樹脂製のボビン14と、ボビン14の外周に巻回された励磁コイル20と検出コイル18とを有する。
【0015】
励磁コイル20と検出コイル18は、それぞれ絶縁被覆された導体線をボビン14に所定巻数を巻きつけたものを用いることができる。励磁コイル20と検出コイル18とは、好ましくは、インダクタンス等の電気特性が同じになるようにする。例えば、同じ太さの同じ材料の導体線を用い、同じ巻き直径のボビン14の外周に、同じ巻数だけ巻きつける。そして、巻方向は、互いに極性を逆向きとし、直列に接続することがよい。極性が逆向きとは、図1で示すように、ボビン14の中心軸回りに巻きつける方向が、一方が時計周りであれば、他方が反時計回りであることをいう。接続点は、接地してもよく、接続したままで特別な電位に設定しなくてもよい。
【0016】
磁気センサ部12の寸法等の一例を述べると、ボビン14は、鍔の外径が約40mm、軸方向の長さ約40mm、内径が約25mm、コイル巻部の肉厚が約1mmの樹脂製である。巻線の直径、巻数等は、上記条件を満たすように適当に選択した。
【0017】
このように、電気特性が同じコイルを巻き極性を逆にして、直列に接続して用いることで、ボビン14の中心軸周りの磁気的バランスを正確に取ることができる。これによってボビン14の貫通穴16を流れる測定対象物8の磁気特性の変化を、励磁コイル20と検出コイル18を一体とした複合コイルによって、精度よく検出することができる。
【0018】
図2は評価部30の内部構成を示す図である。評価部30は、検出コイル18からの出力信号を受け取る端子32と、励磁コイル20への入力信号を出す端子34と、磁気評価の結果を出力する端子36とを有する。評価部30の内部は、次のように構成される。
【0019】
検出コイル18に接続される端子32は、適当なDCカットコンデンサを介して増幅器40に接続される。増幅器40は、検出コイル18によって検出された信号を適当に増幅する電子回路で、周知の増幅回路を用いることができる。
【0020】
増幅器40の出力は、位相シフト回路42に入力され、位相シフト回路42の出力は、端子34を介して励磁コイル20に接続される。したがって、励磁コイル20と検出コイル18の空心部を測定対象物8が流れるときは、励磁コイル20−(測定対象物8)−検出コイル18−増幅器40−位相シフト回路42−励磁コイル20の閉ループが構成される。この閉ループの中を、測定対象物8の物性に依存して微弱に振動する電気信号が流れる。したがって、位相シフト回路42の内容を適当に設定することで、この閉ループにおける微弱な振動の電気信号について自励発振を生じさせることができる。
【0021】
位相シフト回路42の機能は、この閉ループにおいて、位相シフト回路42に入力される入力信号と、出力される出力信号との間に位相差が生じるときは、閉ループの共振周波数を変更して、位相差をゼロに補償する機能を有する。そして、位相差をゼロに補償したときの周波数を周波数変化量算出部44に出力する。
【0022】
周波数変化量算出部44は、閉ループにおいて測定対象物8が含まれないときに位相シフト回路42の作用により自励発振が生じるときの閉ループの発振周波数f1と、閉ループにおいて測定対象物8が含まれるときに位相シフト回路42の作用により自励発振が生じるときの閉ループの発振周波数f2とを受け取って、これらの間の周波数変化量であるΔf=f2−f1を算出する機能を有する。すなわち、周波数変化量算出部44の機能は、測定対象物8が閉ループに含まれないとき、すなわち、測定対象物8が流されていないときの発振周波数f1を閉ループから検出してこれを一旦記憶し、次に測定対象物8が閉ループに含まれるとき、すなわち、測定対象物8が流されるときの発振周波数f2を閉ループから検出してこれも一旦記憶し、記憶された2つの周波数f1とf2とを読み出して、その差である周波数変化量を演算するという一連の処理を行うものである。
【0023】
図1、図2の例では、測定対象物8である試料水が流されない場合の閉ループにおける自励発振の周波数f1と、測定対象物8である試料水が流される場合の閉ループにおける自励発振の周波数f2の間の周波数変化量であるΔf=f2−f1が周波数変化量算出部44で求められ、磁化量評価部46に出力される。なお、かかる位相シフト回路42の具体的構成と詳細な作用については、上記の特許文献2に開示されている。
【0024】
位相シフト回路42は、閉ループの自励発振を維持するために、検出コイル18からの出力信号と励磁コイル20への入力信号との間に位相差が生じるときは、閉ループの周波数を変更して位相差をゼロに補償するものである。したがって、閉ループの自励発振の周波数は、位相差をゼロに補償する際の周波数変化量が大きい方が測定対象物8の物性の相違の検出が容易になる。そこで、位相シフト回路42の回路内容である回路定数は、対象となる閉ループについて、位相差をゼロに補償する際の周波数変化量が安定して大きく取れる発振周波数となるように設定される。一般的に述べれば、磁気センサ部12の周波数−位相特性において、多くの共振周波数があるが、その中で、発振が安定していること、位相差を変更すると適当な大きさの周波数変化を生じること、の条件を満たす共振周波数が選択され、その選択された共振周波数に対して、位相シフト回路42の回路定数が設定される。
【0025】
磁化量評価部46は、周波数変化量算出部44から出力される周波数変化量に基づいて、測定対象物8の磁化量を評価する機能を有する。周波数変化量から測定対象物8の磁化量を評価するには、周波数変化量と測定対象物8の磁化量との関係を予め求めておき、その関係に周波数変化量算出部44によって算出された周波数変化量を当てはめて実行される。磁化量評価は、測定対象物8の相対的磁化量を算出してこれを磁化量として出力してもよい。また、磁化の有無を評価する閾値周波数変化量f0を予め設定し、閾値周波数変化量f0未満の周波数変化量のときは、測定対象物8が磁化されていないと評価する閾値判定を行うものとしてもよい。
【0026】
図3は、磁気センサ部12に測定対象物8である試料水を流したときに生じる位相差をゼロに補償する周波数変化量と、測定対象物8である試料水の磁化量との関係を求める実験システム50の様子を説明する図である。実験システム50は、測定対象物8である試料水を製造するための原水6を収容する上タンク52と、三方弁54と、原水6から測定対象物8である試料水を製造する磁化装置56と、図1、図2で説明した磁化評価装置10と、磁化評価装置10を流れた水を収容する下タンク60を含んで構成される。
【0027】
磁化装置56は、原水6が流される容器と、その容器の中に、対向して配置される1対の永久磁石対と、永久磁石対が形成する磁界の方向に直交する方向に電界をかけるために対向して配置される1対の電極対とを備え、磁界の方向に対し直交し、電界の方向に対し直交する方向に原水6を流すように構成される。この構成により、原水6の流水方向、磁界の方向、電界の方向から規定されるローレンツ力が働き、これにより原水6が磁化されて、測定対象物8の試料水となる。永久磁石対による磁界の強さ、電界の強さ等は、実験により適当に定めた。
【0028】
三方弁54は、上タンク52から磁化装置56を経由して磁化評価装置10に原水6を流す評価水評価方向と、磁化装置56を通らずに、上タンク52から直接に磁化評価装置10に原水を流す原水評価方向とを切り換える流体切換弁である。
【0029】
図4は、原水6として、一般の水道水と、純水の2種類を用い、磁化装置56によって
これら2種類の原水6をそれぞれ磁化して測定対象物8の試料水とし、原水6と測定対象物8である試料水について、図1、図2で説明した磁化評価装置10によって、周波数変化量Δfを求めた結果である。
【0030】
図4から分かるように、純水は、周波数変化量Δfが小さく、磁化されにくい。これに対し、水道水は、原水と、磁化装置56を経由した試料水との間で、周波数変化量Δfの差がかなりある。この差は、周波数変化量Δfの測定誤差を十分超えており、したがって、適当な閾値周波数変化量Δf0を設定することで、磁化水か原水かの判定を行うことができる。また、磁化装置56における磁化の強さと周波数変化量Δfの間の相関関係を求めることで、試料水の磁化の程度を定量的に測定することもできる。
【0031】
なお、図4において、25φと6φとして示されているのは、図1で説明したボビン14の貫通穴16の直径である。貫通穴16の直径を大きくするほど、周波数変化量Δf葉大きくなることが分かる。
【0032】
したがって、図4のような対応関係を予めメモリ等に記憶しておくことで、図1に示される磁化評価装置10によって、測定対象物8の磁化の評価を行うことができる。閾値周波数変化量Δf0の値、あるいは「Δf−磁化量」の対応関係は、Δfを入力することで磁化の有無が出力される型式、あるいは磁化量が出力される型式で記憶される。具体的には、ルックアップテーブルのような換算テーブルの型式で記憶されてもよく、比較式あるいは計算式の形式で記憶されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る実施の形態における磁化評価装置の構成を示す図である。
【図2】本発明に係る実施の形態において、評価部の内部構成を示す図である。
【図3】本発明に係る実施の形態において、周波数変化量と磁化との関係を予め求めるための実験システムの構成を示す図である。
【図4】本発明に係る実施の形態において、周波数変化量と磁化との関係の例を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
6 原水、8 測定対象物、10 磁化評価装置、12 磁気センサ部、14 ボビン、16 貫通穴、18 検出コイル、20 励磁コイル、30 評価部、32,34,36 端子、40 増幅器、42 位相シフト回路、44 周波数変化量算出部、46 磁化量評価部、50 実験システム、52 上タンク、54 三方弁、56 磁化装置、60 下タンク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物を流す流路の周りに配置され、励磁コイルと検出コイルとを有する磁気センサ部と、
磁気センサ部に増幅器とともに直列に接続され、励磁コイルへの入力波形と検出コイルからの出力波形に位相差が生じるときは、周波数を変化させてその位相差をゼロに補償する位相シフト回路と、
位相差をゼロに補償したときの周波数変化量と測定対象物の磁化量との関係を予め求めておき、磁気センサ部を通る流路に測定対象物を流したときに生じる位相差をゼロに補償する周波数変化量から測定対象物の磁化量を評価する磁化量評価部と、
を備えることを特徴とする磁化評価装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁化評価装置において、
励磁コイルと検出コイルとは、互いに極性が逆向きに巻かれて直列に接続されることを特徴とする磁化評価装置。
【請求項3】
請求項1に記載の磁化評価装置において、
磁化量測定部は、磁化の有無を評価する閾値周波数変化量を予め設定し、閾値周波数変化量未満の周波数変化量のときは、測定対象物が磁化されていないと評価することを特徴とする磁化評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−145232(P2008−145232A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−331936(P2006−331936)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】