説明

磁場変化抑制機能付き電子機器システム、磁場変化抑制装置および磁場変化抑制方法

【課題】保護対象に作用する磁場の変化を簡単な構成で確実に抑えることが可能な磁場変化抑制機能付き電子機器システムを提供する。
【解決手段】試料分析システム100は、磁場を形成する超電導マグネット2に対してその磁場の影響を受ける位置に設置される保護対象としての分析装置1と、この分析装置1に作用する磁場の変化を抑える磁場変化抑制装置3とを備えている。磁場変化抑制装置3は、分析装置1を通過する超電導マグネット2からの漏れ磁場21の磁束を囲むように分析装置1の近傍に配置されて、漏れ磁場21が変化することに起因してその変化を打消す向きの補正磁場41a,41bを分析装置1に作用させるような誘導電流を発生させる補正コイル4a,4bを含んでいる。そして、補正コイル4a,4bは、漏れ磁場21の磁束を囲むように巻回された超電導線材を有する超電導コイルである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁場変化抑制機能付き電子機器システム、磁場変化抑制装置および磁場変化抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、磁場の影響を受けやすい、つまり外部磁場の変化に敏感な電子機器が知られている。このような電子機器では、当該機器に作用する磁場の時間的な変化をできるだけ小さく抑えたいという要望がある。
【0003】
例えば、上記電子機器が試料の分析を行うX線装置等の分析装置である場合、当該分析装置に作用する磁場が変化すると、その磁場変化に起因してX線等のビームの照射経路がずれて分析精度等の装置性能が低下するため、上記要望が生じる。
【0004】
そこで、従来から、電子機器等の保護対象に作用する磁場の変化を抑えるための磁場変化抑制装置が提案されている。
【0005】
このような磁場変化抑制装置の一例として磁気シールドと呼ばれるものがあり、例えば特許文献1には、保護対象を囲むように設けたコイルに制御電流を流して当該コイルが形成する磁場で外部磁場を打消すことによって保護対象に作用する磁場の変化を抑える、いわゆるアクティブキャンセラーの構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−218575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のアクティブキャンセラーには、次のような課題がある。
【0008】
(1)コイルに流す電流を制御するための電流制御機構が必要になるので、上記要望に応えるための装置構成が複雑になる。
【0009】
(2)保護対象に作用する磁場の発生源が超電導マグネットである場合、磁場変化の的確な抑制が困難である。すなわち、永久電流モードで運転される超電導マグネットの磁場は時間的に緩やかに減衰(変化)する。このように磁場が緩やかに変化すると、その僅かな磁場変化を打消すためにコイルに流す電流が小さくなければならない。このような微小電流は、コイルの電気抵抗の影響を受けやすく、容易に減衰・消滅するので、継続的にコイルに電流を流して磁場を形成する制御が困難になる。
【0010】
例えば、上述のX線装置等の分析装置は、超電導マグネットの磁場中で結晶を成長させる、いわゆる磁場活用装置によって生成された結晶(試料)の分析に用いられることがある。この場合、分析装置を磁場活用装置と同じ部屋に設置し、さらにその部屋の面積の制約から超電導マグネットの近くに配置せざるを得ないことがある。このような配置では、分析装置に超電導マグネットからの漏れ磁場が外部磁場として作用することにより、その装置の性能に著しい影響を与える虞があり、その抑止が要望される。しかし、上記課題(2)で説明したように、特許文献1のアクティブキャンセラーでは、分析装置に作用する超電導マグネットの磁場の変化を的確に抑制するのが困難であるので、上述した分析装置の性能の低下を抑えるのが困難である。
【0011】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、保護対象に作用する磁場の変化を簡単な構成で確実に抑えることが可能な磁場変化抑制機能付き電子機器システム、磁場変化抑制装置および磁場変化抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に記載の磁場変化抑制機能付き電子機器システムは、磁場を形成する超電導マグネットに対してその磁場の影響を受ける位置に設置される保護対象としての電子機器と、この電子機器に作用する磁場の変化を抑える磁場変化抑制装置とを備えた磁場変化抑制機能付き電子機器システムであって、前記磁場変化抑制装置は、前記電子機器を通過する前記超電導マグネットからの漏れ磁場の磁束を囲むように前記電子機器の近傍に配置されて、前記漏れ磁場が変化することに起因してその変化を打消す向きの補正磁場を前記電子機器に作用させるような誘導電流を発生させる補正コイルを含み、前記補正コイルは、前記漏れ磁場の磁束を囲むように巻回された超電導線材を有する超電導コイルであることを特徴とする。
【0013】
請求項1に記載の磁場変化抑制機能付き電子機器システムでは、上記のように、電子機器を通過する超電導マグネットの漏れ磁場の磁束を囲むように電子機器の近傍に補正コイルを配置したので、漏れ磁場の変化に起因して補正コイルに誘導電流が発生し、その誘導電流によって前記漏れ磁場の変化を打消す向きの補正磁場が補正コイルの周辺に形成される。これにより、従来のようにコイルに流す電流を制御するための電流制御機構を備えることなく、補正コイルを設けるという簡単な構成によって、電子機器に作用する磁場の変化を抑えることができる。
【0014】
また、補正コイルを超電導コイルで構成することによって、極めて微小な電流であっても当該電流が減衰することなくコイルを確実に流れるので、その微小電流による補正磁場が確実に形成される。従って、超電導マグネットの漏れ磁場が緩やかに変化しても、その変化に起因して補正コイルに発生した微小な誘導電流により補正磁場が確実に形成され、電子機器に作用する磁場の変化が確実に抑えられる。
【0015】
なお、永久電流モードで運転される超電導マグネットの漏れ磁場は時間的に緩やかに減衰(変化)することが知られている。
【0016】
請求項2に記載の磁場変化抑制機能付き電子機器システムは、上記請求項1に記載の磁場変化抑制機能付き電子機器システムにおいて、前記補正コイルは、その軸心が前記超電導マグネットの軸心に平行でかつ前記電子機器を通る姿勢で前記電子機器の近傍に設けられていることを特徴とする。
【0017】
このように構成すれば、電子機器を通過する超電導マグネットからの漏れ磁場の磁束が補正コイルの軸心とほぼ平行な向きで当該補正コイルを通過するようになるので、前記漏れ磁場の磁束が補正コイルを斜めに通過する場合に比べて、より強い補正磁場が補正コイルの周辺に形成される。これにより、磁場の変化をより効率良く抑えることができる。
【0018】
請求項3に記載の磁場変化抑制機能付き電子機器システムは、上記請求項1または2に記載の磁場変化抑制機能付き電子機器システムにおいて、前記補正コイルは、当該補正コイルに囲まれる領域が前記電子機器に対して補正コイルの軸方向にずれるように配置されていることを特徴とする。
【0019】
このように配置した場合、電子機器が補正コイルの内側空間に位置するのが防がれるので、作業者が電子機器にアクセスしやすくなる。これにより、作業性が向上する。
【0020】
請求項4に記載の磁場変化抑制機能付き電子機器システムは、上記請求項3に記載の磁場変化抑制機能付き電子機器システムにおいて、前記電子機器は、試料の分析を行う分析装置であるとともに、前記試料を保持する試料保持部を有し、前記超電導マグネットは、その軸方向が上下方向と一致するように設置されており、前記補正コイルが、前記試料保持部を挟んで上下の対称位置にそれぞれ配置される互いに同一構成の少なくとも一組の補正コイル対であることを特徴とする。
【0021】
このように、同一構成の補正コイル対を、試料保持部を挟んで超電導マグネットの軸方向と一致する上下方向の対称位置にそれぞれ配置することで、両補正コイルによる補正磁場が試料保持部に対して上下対称に作用するので、分析装置に作用する磁場の対称性の乱れに起因する分析精度等の装置性能の低下を防ぐことができる。
【0022】
特に、補正コイル対を、ヘルムホルツコイルを構成するように配置すれば、補正磁場がより均一に形成され、分析装置に作用する磁場の均一性がさらに向上するので好ましい。
【0023】
請求項5に記載の磁場変化抑制機能付き電子機器システムは、上記請求項1〜4のいずれか一項に記載の磁場変化抑制機能付き電子機器システムにおいて、前記磁場変化抑制装置は、前記補正コイルに電気的に接続されて当該補正コイルに流れる電流を増幅する電流増幅器を含むことを特徴とする。
【0024】
補正コイルを、電子機器から超電導マグネットの軸方向にずらして配置した場合、電子機器に作用する補正磁場の強度が前記補正コイルのずれ量に対応する分だけ漏れ磁場の変化分よりも小さくなる。そこで、上記のように、電流増幅器で補正コイルの電流を適宜増幅することによって、電子機器に作用する補正磁場が強くなり、補正コイルを電子機器からずらして配置した場合でも当該電子機器に作用する磁場の変化が十分に抑えられる。
【0025】
請求項6に記載の磁場変化抑制機能付き電子機器システムは、上記請求項5に記載の磁場変化抑制機能付き電子機器システムにおいて、前記電流増幅器が、前記超電導マグネットからの漏れ磁場の磁束を囲むように配置されて、前記補正コイルに電気的に直列に接続される増幅コイルであることを特徴とする。
【0026】
このように構成すれば、増幅コイルには、超電導マグネットの漏れ磁場の変化に起因してその変化を打消す向きの磁場を当該増幅コイルの周辺に形成するための誘導電流が自発的に発生し、その電流が補正コイルに供給される。これにより、補正コイルを流れる電流が受動的に増幅されるので、例えば増幅装置によって制御電流を補正コイルに供給して当該補正コイルを流れる電流を積極的に(つまり能動的に)増幅する場合に比べて、装置構成が簡略になる。
【0027】
請求項7に記載の磁場変化抑制機能付き電子機器システムは、上記請求項6に記載の磁場変化抑制機能付き電子機器システムにおいて、前記増幅コイルが、前記超電導マグネットの近傍に配されていることを特徴とする。
【0028】
超電導マグネットの近傍は遠方に比べて漏れ磁場が強く、従ってその変化量が大きいため、上記のように増幅コイルを超電導マグネットの近傍に配することによって、磁場変化に起因して増幅コイルに流れる誘導電流が大きくなる。これにより、補正コイルに供給する電流を確保しやすくなる。
【0029】
請求項8に記載の磁場変化抑制機能付き電子機器システムは、上記請求項6または7に記載の磁場変化抑制機能付き電子機器システムにおいて、前記増幅コイルは、前記漏れ磁場の磁束を囲むように巻回された超電導線材を有する超電導コイルであり、前記補正コイルとほぼ同じ高さ位置に配置されて前記補正コイルと共通の冷却容器内に収容されていることを特徴とする。
【0030】
請求項8に記載の磁場変化抑制機能付き電子機器システムによれば、補正コイルと増幅コイルとが同じ冷却容器に纏めて収容されるので、装置構成がより簡略になる。
【0031】
請求項9に記載の磁場変化抑制機能付き電子機器システムは、上記請求項8に記載の磁場変化抑制機能付き電子機器システムにおいて、前記補正コイルおよび前記増幅コイルの少なくとも一方が、酸化物超電導線材からなる超電導コイルであることを特徴とする。
【0032】
請求項9に記載の磁場変化抑制機能付き電子機器システムによれば、酸化物超電導線材は金属系超電導線材に比べてより高温で超電導状態となるので、その超電導状態の維持が容易である。
【0033】
また、本発明の請求項10に記載の磁場変化抑制装置は、保護対象に作用する磁場の変化を抑える磁場変化抑制装置であって、前記保護対象を通過する外部磁場の磁束を囲むように前記保護対象の近傍に配置され、前記外部磁場が変化することに起因してその変化を打消す向きの補正磁場を前記保護対象に作用させるような誘導電流を発生させる補正コイルを備え、前記補正コイルは、前記外部磁場の磁束を囲むように巻回された超電導線材を有する超電導コイルであることを特徴とする。
【0034】
請求項11に記載の磁場変化抑制装置は、上記請求項10に記載の磁場変化抑制装置において、前記外部磁場を形成する磁場発生源から延びる磁束を囲むように当該磁場発生源の近傍に設けられ、前記補正コイルに電気的に接続されて当該補正コイルに流れる電流を増幅する増幅コイルをさらに備えることを特徴とする。
【0035】
請求項12に記載の磁場変化抑制装置は、上記請求項11に記載の磁場変化抑制装置において、前記増幅コイルは、前記磁場発生源からの磁束を囲むように巻回された超電導線材を有する超電導コイルであるとともに、前記補正コイルとほぼ同じ高さ位置に配置され、前記補正コイルと前記増幅コイルとを纏めて収容する冷却容器をさらに備えることを特徴とする。
【0036】
また、本発明の請求項13に記載の磁場変化抑制方法は、保護対象に作用する磁場の変化を抑える磁場変化抑制方法であって、超電導線材を巻回することにより形成される補正コイルを、前記超電導線材が前記保護対象を通過する外部磁場の磁束を囲むように前記保護対象の近傍に配置し、前記外部磁場の変化に起因して前記補正コイルに発生する誘導電流が当該補正コイルを流れることにより前記補正コイルの周辺に前記外部磁場の変化を打消す向きの補正磁場を形成することを特徴とする。
【0037】
請求項14に記載の磁場変化抑制方法は、上記請求項13に記載の磁場変化抑制方法において、前記保護対象が、磁場の影響を受ける電子機器であるとともに、その電子機器には超電導マグネットからの漏れ磁場が前記外部磁場として作用しており、前記超電導マグネットの近傍に当該超電導マグネットからの漏れ磁場の磁束を囲むように増幅コイルを配置するとともに、当該増幅コイルを前記補正コイルに電気的に接続し、前記超電導マグネットからの漏れ磁場の変化に起因して前記補正コイルに発生する誘導電流と前記増幅コイルに発生する誘導電流とが当該補正コイルを流れることにより前記補正コイルの周辺に前記漏れ磁場の変化を打消す向きの補正磁場を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0038】
本発明の磁場変化抑制機能付き電子機器システムによれば、補正コイルを保護対象としての電子機器の近傍に設けるという簡単な構成によって、当該電子機器に作用する磁場の変化が抑えられる。
【0039】
また、補正コイルを超電導コイルで構成したので、超電導マグネットの漏れ磁場が緩やかに変化しても、その変化に起因して補正コイルに発生した微小な誘導電流により補正磁場が確実に形成され、電子機器に作用する磁場の変化が確実に抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態による磁場変化抑制装置を備えた試料分析システムの構成を示した正面図である。
【図2】超電導マグネットの漏れ磁場の減衰に起因して形成される補正磁場を示した正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0042】
図1は、本発明の一実施形態による磁場変化抑制装置を備えた試料分析システムの構成を示した正面図である。また、図2は、超電導マグネットの漏れ磁場の減衰に起因して形成される補正磁場を示した正面図である。まず、図1を参照して、本発明の一実施形態による試料分析システム100の全体構成について説明する。
【0043】
本実施形態の試料分析システム100は、図1に示すように、試料の分析を行う分析装置1と、この分析装置1に作用する磁場の時間的な変化を抑える磁場変化抑制装置3とを備えている。なお、試料分析システム100は、本発明の「磁場変化抑制機能付き電子機器システム」の一例であり、分析装置1は、本発明の「電子機器」および「保護対象」の一例である。
【0044】
分析装置1は、X線装置、電子顕微鏡、イオンビーム装置、質量分析装置、電子ビーム描画装置等の磁場の影響を受けやすい、つまり磁場の変化に敏感な装置である。
【0045】
この分析装置1は、試料を保持する試料保持部1aと、試料保持部1aに保持された試料に対して分析用のビームを照射する照射部1bと、試料を通過したビームを受光する受光部1cとを有している。
【0046】
ところで、上記のような分析装置1は、超電導マグネットの磁場中で結晶を成長させる、いわゆる磁場活用装置によって生成された結晶(試料)の分析に用いられることがある。この場合、分析装置1は、磁場活用装置と同じ部屋に設置され、さらにその部屋の面積の制約から超電導マグネットの近くの当該マグネットの磁場の影響を受ける位置に配置されざるを得ないことがある。
【0047】
本実施形態では、図1に示すように、磁場活用装置の超電導マグネット2の側方に分析装置1が位置している。超電導マグネット2は、その軸方向が上下方向と一致する姿勢で設置されており、超電導マグネット2の磁束は当該マグネット2を上方へ貫くように発生する。また、超電導マグネット2の磁場中心2aと分析装置1の試料保持部1aとはほぼ同じ高さ位置に設けられている。なお、超電導マグネット2は、本発明の「磁場発生源」の一例である。
【0048】
そして、分析装置1には、超電導マグネット2からの漏れ磁場21が外部磁場として作用し、超電導マグネット2の磁束が分析装置1の試料保持部1aを下方へ貫く。ここで、超電導マグネット2は、永久電流スイッチを用いた永久電流モードで運転されるように構成されており、これによって高い磁場安定性を有するが、実際には、その発生磁場が時間的に緩やかに減衰(変化)する。このため、分析装置1に作用する外部磁場も緩やかに変化する。
【0049】
このように分析装置1に作用する磁場が変化すると、その磁場変化に起因してビームの照射経路にずれが生じ、これによって分析精度等の装置性能が低下するという不都合が発生する。
【0050】
そこで、上記不都合を解消すべく、本願発明者は、「コイルを通過する磁束の密度(磁場)が変化した場合、コイルには、その磁場変化に起因して当該変化を打消す向きの磁場をコイル周辺に形成するような誘導電流が流れる。」というコイルの特性(いわゆる電磁誘導の法則)と、低温下で電気抵抗値がほぼ0になる超電導コイルとの複合利用に想到した。すなわち、分析装置1の近傍に当該分析装置1に作用する漏れ磁場21の磁束を囲むようにコイルを設ければ、漏れ磁場21の変化に起因してコイルに自発的に流れる誘導電流によって、当該コイル周辺に補正磁場が形成され、分析装置1に作用する磁場の総量の時間的な変化が抑えられる。しかし、漏れ磁場21の変化が緩やかな場合、コイルに発生する誘導電流は微小で、コイルの電気抵抗によって直ちに減衰する。そこで、超電導コイルを前記コイルとして用いれば、コイルに発生する誘導電流が微小であっても、当該微小電流がコイルの電気抵抗によって減衰することなく確実にコイルを流れ、これによって前記補正磁場が確実に形成されると考えた。
【0051】
このような考えに基づき、本実施形態の試料分析システム100は、分析装置1の特に試料保持部1aに作用する超電導マグネット2の磁場の変化を磁場変化抑制装置3によって抑え、これにより装置性能の低下を防ぐように構成されている。
【0052】
以下、前記磁場変化抑制装置3の構成について詳細に説明する。
【0053】
この磁場変化抑制装置3は、分析装置1の上下の近傍位置に設けられて超電導マグネット2の漏れ磁場21の変化に起因してその磁場変化を打消す補正磁場41a,41b(図2参照)をそれぞれ形成する一対の補正コイル4a,4bと、超電導マグネット2の上下の近傍位置に設けられて補正コイル4a,4bを流れる電流をそれぞれ増幅する一対の増幅コイル5a,5bとを含んでいる。なお、増幅コイル5a,5bは、本発明の「電流増幅器」の一例である。
【0054】
補正コイル4a,4bは、それぞれ、分析装置1を通過する超電導マグネット2からの漏れ磁場21の磁束を囲むように巻回された超電導線材を有する超電導コイルにより構成されている。
【0055】
また、各補正コイル4a,4bの軸心は、それぞれ、超電導マグネット2の軸方向と平行な上下方向に延びており、分析装置1の試料保持部1aを通っている。
【0056】
また、補正コイル4a,4bは、互いに同一構成(寸法等)のコイルであり、当該補正コイル4a,4bに囲まれる領域が分析装置1に対して上下にずれるように、試料保持部1aを挟んで分析装置1の上下の対称位置にそれぞれ配置されている。このように補正コイル4a,4bを分析装置1に対して上下にずらして配置することにより、分析装置1が補正コイル4a,4bの内側空間に位置するのが防がれるので、作業者が分析装置1にアクセスしやすくなる。これにより、作業性が向上する。
【0057】
また、増幅コイル5a,5bは、それぞれ、補正コイル4a,4bを通過する超電導マグネット2からの漏れ磁場21の磁束を囲むように巻回された超電導線材を有する超電導コイルにより構成されている。
【0058】
各増幅コイル5a,5bの軸心は、それぞれ、超電導マグネット2の軸方向と平行な上下方向に延びており、超電導マグネット2の磁場中心2a付近を通っている。
【0059】
また、増幅コイル5a,5bは、互いに同一構成(寸法等)のコイルであり、超電導マグネット2の磁場中心2aを挟んで超電導マグネット2の上下の対称位置にそれぞれ配置されている。
【0060】
また、補正コイル4aおよび増幅コイル5aは、ほぼ同じ高さ位置に配置されており、冷媒(図示せず)とともに共通の冷却容器6a内に纏めて収容されている。そして、補正コイル4aおよび増幅コイル5aは、導線7によって互いに電気的に直列に接続されることにより上側回路を形成している。
【0061】
また、補正コイル4bおよび増幅コイル5bも、ほぼ同じ高さ位置に配置されており、冷媒とともに共通の冷却容器6b内に纏めて収容されている。そして、補正コイル4bおよび増幅コイル5bは、導線7によって互いに電気的に直列に接続されることにより下側回路を形成している。
【0062】
なお、補正コイル4aおよび増幅コイル5aを含む上側回路の電気抵抗と、補正コイル4bおよび増幅コイル5bを含む下側回路の電気抵抗とが互いに等しくなるように各回路を構成するのが好ましい。このようにすれば、各回路を流れる電流が等しくなり、各補正コイル4a,4bによって形成される後述の補正磁場41a,41b(図2参照)の分布がより均一になる。
【0063】
また、各コイル4a,4b,5a,5bを構成する超電導線材は、酸化物系超電導材料またはホウ素系超電導材料からなる線材であるのが好ましい。このような酸化物系超電導材料やホウ素系超電導材料からなる線材は金属系超電導線材に比べてより高温で超電導状態となるので、コイルの超電導状態の維持が容易となる。例えば、上記冷媒として沸点の比較的高い液体窒素を使用することができる。なお、冷媒として液体ヘリウムを使用することも勿論可能である。
【0064】
また、対を成す補正コイル4a,4bは、ヘルムホルツコイルを構成するように配置されるのがより好ましい。このように補正コイル4a,4bを配置すれば、補正磁場41a,41b(図2参照)がより均一に形成され、分析装置1に作用する磁場の均一性がさらに向上する。
【0065】
上記構成の試料分析システム100では、超電導マグネット2の漏れ磁場21が緩やかに減衰(変化)すると、その磁場変化に起因して各補正コイル4a,4bおよび各増幅コイル5a,5bに微小な誘導電流が発生する。
【0066】
ここで、これらのコイル4a,4b,5a,5bは電気抵抗の極めて小さい超電導線材からなる超電導コイルで構成されているので、各コイルで発生した誘導電流はコイル内で減衰することなく確実に流れる。
【0067】
そして、補正コイル4a,4bの周辺には、それぞれ、磁場変化を打消すような当該コイル4a,4bを下方へ貫く磁場が形成され、また、増幅コイル5a,5bの周辺には、それぞれ、磁場変化を打消すような当該コイル5a,5bを上方へ貫く磁場が形成される。
【0068】
ところで、本実施形態では、上述のように分析装置1へのアクセスを容易とする目的で、補正コイル4a,4bを分析装置1に対して上下方向にずらして配置している。このため、例えば、補正コイル4a,4bで発生する誘導電流のみによって各コイル周辺に形成される補正磁場を考えた場合、それらの磁場の試料保持部1aの位置での強度の合計は前記補正コイルのずれ量に対応する分だけ漏れ磁場21の減衰分よりも小さくなる。
【0069】
しかし、本実施形態では、前記増幅コイル5a,5bを設け、補正コイル4a,4bと増幅コイル5a,5bとを電気的に直列に接続して各回路を構成したので、当該各回路には、補正コイル4a,4bで発生した誘導電流と増幅コイル5a,5bで発生した誘導電流とが流れるようになる。これにより、各補正コイル4a,4bには当該コイル4a,4bで発生した誘導電流以上の電流、すなわち増幅された電流が流れる。その結果、各補正コイル4a,4bの周辺には強い補正磁場41a,41bが形成され、それらの補正磁場41a,41bが分析装置1の試料保持部1aに作用する。
【0070】
ここで、増幅コイル5a,5bの寸法や巻数等が、試料保持部1aの位置に作用する補正磁場41a,41bの強度の合計が漏れ磁場21の減衰分にほぼ等しくなるように補正コイル4a,4bを流れる電流を増幅するような値に設定されている場合、漏れ磁場21の変化分が2つの補正磁場41a,41bによりほぼ打消されて、試料保持部1aに作用する磁場の総量が時間的に変化するのがほぼ抑えられる。なお、補正コイル4a,4bの巻数や寸法を変化させることによっても、当該コイル周辺に形成される磁場の強度をある程度調整することが可能である。
【0071】
また、増幅コイル5a,5b周辺にも比較的強い磁場51a,51bが形成されるが、これらの磁場51a,51bは、当該増幅コイル5a,5bが試料保持部1aから十分に離れた位置に設けられていることから、試料保持部1aに与える影響は極めて小さく、無視してよい。
【0072】
本実施形態では、上記のように、分析装置1を通過する超電導マグネット2の漏れ磁場21の磁束を囲むように分析装置1の近傍に補正コイル4a,4bを配置したので、漏れ磁場21の変化に起因して補正コイル4a,4bに誘導電流が発生し、その誘導電流によって前記漏れ磁場21の変化を打消す向きの補正磁場41a,41bが補正コイル4a,4bの周辺に形成される。これにより、従来のようにコイルに流す電流を制御するための電流制御機構を備えることなく、補正コイル4a,4bを設けるという簡単な構成によって、分析装置1に作用する磁場の変化を抑えることができる。
【0073】
また、補正コイル4a,4bを超電導コイルで構成することによって、極めて微小な電流であっても当該電流が減衰することなくコイル4a,4bを確実に流れるので、その微小電流による補正磁場41a,41bが確実に形成される。従って、超電導マグネット2の漏れ磁場21が緩やかに変化しても、その変化に起因して補正コイル4a,4bに発生した微小な誘導電流により補正磁場41a,41bが確実に形成され、分析装置1に作用する磁場の変化が確実に抑えられる。
【0074】
そして、試料分析システム100が上記のような磁場変化抑制機能をもつことによって、分析装置1に対する磁場の影響を考慮する必要がなくなり、当該分析装置1と磁場活用装置の電導マグネットとを近い位置に設置することも可能となるので、各装置の設置自由度が十分に向上する。
【0075】
また、本実施形態では、上記のように、補正コイル4a,4bを、その軸心が分析装置1の試料保持部1aを通りかつ超電導マグネット2の軸方向に平行となる姿勢で前記分析装置1の近傍に設けることによって、分析装置1を通過する超電導マグネット2からの漏れ磁場21の磁束が補正コイル4a,4bの軸心とほぼ平行な向きで当該補正コイル4a,4bを通過するようになるので、前記漏れ磁場21の磁束が補正コイル4a,4bを斜めに通過する場合に比べて、より強い補正磁場41a,41bが補正コイル4a,4bの周辺に形成される。これにより、磁場の変化をより効率良く抑えることができる。
【0076】
また、本実施形態では、上記のように、同一構成の補正コイル4a,4bを、試料保持部1aを挟んで超電導マグネット2の軸方向と一致する上下方向の対称位置にそれぞれ配置することで、両補正コイル4a,4bによる補正磁場41a,41bが試料保持部1aに対して上下対称に作用するので、分析装置1に作用する磁場の対称性の乱れに起因する分析精度等の装置性能の低下を防ぐことができる。
【0077】
また、本実施形態では、上記のように、補正コイル4a,4bに電気的に接続されて当該補正コイル4a,4bに流れる電流を増幅する増幅コイル5a,5bを設けたので、増幅コイル5a,5bで補正コイル4a,4bの電流を適宜増幅することによって、分析装置1に作用する補正磁場が強くなり、補正コイル4a,4bを分析装置1からずらして配置した場合でも当該分析装置1に作用する磁場の変化が十分に抑えられる。
【0078】
また、本実施形態では、上記のように、増幅コイル5a,5bを超電導マグネット2からの漏れ磁場21の磁束を囲むように配置したので、増幅コイル5a,5bには、超電導マグネット2の漏れ磁場21の変化に起因してその変化を打消す向きの磁場を当該増幅コイル5a,5bの周辺に形成するための誘導電流が自発的に発生し、その電流が補正コイル4a,4bに供給される。これにより、補正コイル4a,4bを流れる電流が受動的に増幅されるので、例えば増幅装置によって制御電流を補正コイル4a,4bに供給して当該補正コイル4a,4bを流れる電流を積極的に(つまり能動的に)増幅する場合に比べて、装置構成が簡略になる。
【0079】
また、本実施形態では、上記のように、補正コイル4a(4b)と増幅コイル5a(5b)とが同じ冷却容器6a(6b)に纏めて収容されるので、装置構成がより簡略になる。
【実施例】
【0080】
次に、上記試料分析システム100の分析装置1および超電導マグネット2の構成例を示し、当該分析装置1に対する磁場変化抑制効果を得るための磁場変化抑制装置3の構成、すなわち補正コイル4a,4bおよび増幅コイル5a,5bの構成の条件を求める。
【0081】
まず、分析装置1と超電導マグネット2との距離、より詳細には分析装置1の試料保持部1aと超電導マグネット2の磁場中心2aとの間隔を2.87mとした。これは、分析装置1と超電導マグネット2を備えた磁場活用装置とが一般的な広さの部屋に設置されることを想定したものである。
【0082】
また、超電導マグネット2は、同心円状に並ぶ4つのコイルにより構成されているものとする。最内層のコイルは、その内半径が80.00mm、外半径が132.10mm、巻幅が180.00mm、巻数が4004である。また、内側から2番目のコイルは、その内半径が132.10mm、外半径が197.85mm、巻幅が180.00mm、巻数が6084である。また、内側から3番目のコイルは、その内半径が207.85mm、外半径が224.73mm、巻幅が250.00mm、巻数が2580である。また、最外層のコイルは、その内半径が224.73mm、外半径が322.70mm、巻幅が250.00mm、巻数が16864である。
【0083】
この超電導マグネット2に132.62A(アンペア)の電流が流れると、当該マグネット2の磁場中心2aには約16T(テスラ)の磁場が発生する。また、このとき、分析装置1の試料保持部1aの位置には、約7ガウスの漏れ磁場21が作用する。
【0084】
また、超電導マグネット2の磁場の減衰率を48ppm/h、つまり超電導マグネット2の磁場が2ヶ月で約6.91%減衰(変化)するとする。この場合、超電導マグネット2の自己インダクタンスは、86.59H(ヘンリー)となる。
【0085】
以上の構成において、分析装置1の試料保持部1aに作用する磁場の時間的な変化を完全に抑えるためには、補正コイル4a,4bおよび増幅コイル5a,5bの全体のインダクタンスが0.3303Hであり、かつ、これら4つのコイル4a,4b,5a,5bと超電導マグネット2との相互インダクタンスが0.013487Hであればよい。
【0086】
この条件を満たす補正コイル4a,4bおよび増幅コイル5a,5bの具体的な構成の一例を以下に示す。
【0087】
補正コイル4a,4bは、その内半径が988.82mm、外半径が1011.44mm、巻幅が8.6mm、巻数が156となるように形成され、かつ、当該コイル4a,4bの各中心が試料保持部1aの中心(図示せず)から上下に500mm隔てた位置に存するように設けられている。
【0088】
そして、増幅コイル5a,5bは、その内半径が500.00mm、外半径が501.16mm、巻幅が8.6mm、巻数が16となるように形成され、かつ、当該コイル5a,5bの各中心が超電導マグネット2の磁場中心2aから上下に500mm隔てた位置に存するように設けられている。
【0089】
以上のことは、換言すれば、上記構成の補正コイル4a,4bおよび増幅コイル5a,5bを設けることによって、分析装置1に作用する超電導マグネット2の磁場の時間的な変化を完全に抑えることが可能になることを示している。
【0090】
なお、本発明の磁場変化抑制装置の構成は、上記形態のものに限らず、以下のようなものであってもよい。
【0091】
図1に示す試料分析システム100おいて、増幅コイル5a,5bを省略して、補正コイル4a,4bのみを備える構成としても磁場変化抑制効果を得ることができる。例えば、上記実施例において、補正コイル4a,4bのみを設けた場合、分析装置1に作用する磁場の変化を30%程度抑制することが可能である。
【0092】
また、上記実施形態では、対を成す補正コイル4a,4bを分析装置1の上下に一組だけ設ける例について示したが、これに限らず、補正コイル対を分析装置1の上下に複数組となるように設けてもよい。この補正コイル対の設置数によって、補正磁場の強度を調整することが可能である。
【0093】
また、分析装置1の試料保持部1aを側方から囲むように単一の補正コイルを設ける構成であってもよい。この場合、増幅コイルを設けることなく補正コイルのみで試料保持部1aに作用する磁場の変化を完全に抑えることができる。なお、この構成は、分析装置1が比較的小型の場合に好適に用いられる。
【0094】
また、増幅コイル5a,5bに代えて、補正コイル4a,4bに電気的に接続されて当該補正コイル4a,4bに流れる電流を増幅することが可能な増幅装置を設けてもよい。
【0095】
また、増幅コイル5a,5bの設置位置は、超電導マグネット2の近傍位置に限らない。また、増幅コイル5a,5bを、補正コイル4a,4bを通過する超電導マグネット2からの漏れ磁場21を囲むように配置したが、必ずしも補正コイル4a,4bを通過する漏れ磁場21でなくともよい。
【0096】
また、上記実施形態では、補正コイル4aと増幅コイル5aとを電気的に接続して共通の冷却容器6aに収容するとともに、補正コイル4bと増幅コイル5bとを電気的に接続して共通の冷却容器6bに収容したが、これに限らず、4つのコイル4a,4b,5a,5bを電気的に直列に接続するとともに共通の冷却容器に纏めて収容する構成であってもよい。この場合、上側回路と下側回路との電気抵抗値を等しくするための調整機構が不要となる。また、4つのコイル4a,4b,5a,5bを別々の冷却容器に収容するようにしてもよい。
【0097】
また、上記実施形態では、分析装置1に併設された磁場活用装置の超電導マグネット2の漏れ磁場21が時間的に変化する場合に、当該分析装置1に作用する磁場の総量の変化を抑えるために本発明の磁場変化抑制装置3を適用したが、これに限らず、分析装置1に作用する磁場がNMR装置等の超電導マグネットを備えた磁場発生装置の磁場である場合にも、当該分析装置1に作用する磁場の変化を抑えるために本発明を適用可能である。また、電車、自動車、エレベータ等の磁性体の通過や外部電源が原因で分析装置1に作用する磁場の総量が変化する場合に当該分析装置1に作用する磁場の変化を抑えるためにも、本発明の磁場変化抑制装置3を適用可能である。
【0098】
また、上記実施形態では、保護対象としてX線装置、電子顕微鏡、イオンビーム装置、質量分析装置、電子ビーム描画装置等の分析装置1を挙げたが、これ以外に、磁場変化に敏感な電子機器や物品、構造物等も保護対象となり得る。
【0099】
また、本発明の磁場変化抑制装置3を、既に設置されている分析装置等の保護対象に対して後付けし、これによって保護対象に作用する磁場の変化を抑えることも可能である。
【符号の説明】
【0100】
1 分析装置(電子機器、保護対象)
1a 試料保持部
2 超電導マグネット(磁場発生源)
3 磁場変化抑制装置
4a,4b 補正コイル
5a,5b 増幅コイル(電流増幅器)
6a,6b 冷却容器
21 漏れ磁場(外部磁場)
41a,41b 補正磁場
100 試料分析システム(磁場変化抑制機能付き電子機器システム)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁場を形成する超電導マグネットに対してその磁場の影響を受ける位置に設置される保護対象としての電子機器と、この電子機器に作用する磁場の変化を抑える磁場変化抑制装置とを備えた磁場変化抑制機能付き電子機器システムであって、
前記磁場変化抑制装置は、前記電子機器を通過する前記超電導マグネットからの漏れ磁場の磁束を囲むように前記電子機器の近傍に配置されて、前記漏れ磁場が変化することに起因してその変化を打消す向きの補正磁場を前記電子機器に作用させるような誘導電流を発生させる補正コイルを含み、
前記補正コイルは、前記漏れ磁場の磁束を囲むように巻回された超電導線材を有する超電導コイルであることを特徴とする磁場変化抑制機能付き電子機器システム。
【請求項2】
前記補正コイルは、その軸心が前記超電導マグネットの軸方向に平行でかつ前記電子機器を通る姿勢で前記電子機器の近傍に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の磁場変化抑制機能付き電子機器システム。
【請求項3】
前記補正コイルは、当該補正コイルに囲まれる領域が前記電子機器に対して補正コイルの軸方向にずれるように配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の磁場変化抑制機能付き電子機器システム。
【請求項4】
前記電子機器は、試料の分析を行う分析装置であるとともに、前記試料を保持する試料保持部を有し、
前記超電導マグネットは、その軸方向が上下方向と一致するように設置されており、
前記補正コイルが、前記試料保持部を挟んで上下の対称位置にそれぞれ配置される互いに同一構成の少なくとも一組の補正コイル対であることを特徴とする請求項3に記載の磁場変化抑制機能付き電子機器システム。
【請求項5】
前記磁場変化抑制装置は、前記補正コイルに電気的に接続されて当該補正コイルに流れる電流を増幅する電流増幅器を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の磁場変化抑制機能付き電子機器システム。
【請求項6】
前記電流増幅器が、前記超電導マグネットからの漏れ磁場の磁束を囲むように配置されて、前記補正コイルに電気的に直列に接続される増幅コイルであることを特徴とする請求項5に記載の磁場変化抑制機能付き電子機器システム。
【請求項7】
前記増幅コイルが、前記超電導マグネットの近傍に配されていることを特徴とする請求項6に記載の磁場変化抑制機能付き電子機器システム。
【請求項8】
前記増幅コイルは、前記漏れ磁場の磁束を囲むように巻回された超電導線材を有する超電導コイルであり、前記補正コイルとほぼ同じ高さ位置に配置されて前記補正コイルと共通の冷却容器内に収容されていることを特徴とする請求項6または7に記載の磁場変化抑制機能付き電子機器システム。
【請求項9】
前記補正コイルおよび前記増幅コイルの少なくとも一方が、酸化物超電導線材からなる超電導コイルであることを特徴とする請求項8に記載の磁場変化抑制機能付き電子機器システム。
【請求項10】
保護対象に作用する磁場の変化を抑える磁場変化抑制装置であって、
前記保護対象を通過する外部磁場の磁束を囲むように前記保護対象の近傍に配置され、前記外部磁場が変化することに起因してその変化を打消す向きの補正磁場を前記保護対象に作用させるような誘導電流を発生させる補正コイルを備え、
前記補正コイルは、前記外部磁場の磁束を囲むように巻回された超電導線材を有する超電導コイルであることを特徴とする磁場変化抑制装置。
【請求項11】
前記外部磁場を形成する磁場発生源から延びる磁束を囲むように当該磁場発生源の近傍に設けられ、前記補正コイルに電気的に接続されて当該補正コイルに流れる電流を増幅する増幅コイルをさらに備えることを特徴とする請求項10に記載の磁場変化抑制装置。
【請求項12】
前記増幅コイルは、前記磁場発生源からの磁束を囲むように巻回された超電導線材を有する超電導コイルであるとともに、前記補正コイルとほぼ同じ高さ位置に配置され、
前記補正コイルと前記増幅コイルとを纏めて収容する冷却容器をさらに備えることを特徴とする請求項11に記載の磁場変化抑制装置。
【請求項13】
保護対象に作用する磁場の変化を抑える磁場変化抑制方法であって、
超電導線材を巻回することにより形成される補正コイルを、前記超電導線材が前記保護対象を通過する外部磁場の磁束を囲むように前記保護対象の近傍に配置し、
前記外部磁場の変化に起因して前記補正コイルに発生する誘導電流が当該補正コイルを流れることにより前記補正コイルの周辺に前記外部磁場の変化を打消す向きの補正磁場を形成することを特徴とする磁場変化抑制方法。
【請求項14】
前記保護対象が、磁場の影響を受ける電子機器であるとともに、その電子機器には超電導マグネットからの漏れ磁場が前記外部磁場として作用しており、
前記超電導マグネットの近傍に当該超電導マグネットからの漏れ磁場の磁束を囲むように増幅コイルを配置するとともに、当該増幅コイルを前記補正コイルに電気的に接続し、
前記超電導マグネットからの漏れ磁場の変化に起因して前記補正コイルに発生する誘導電流と前記増幅コイルに発生する誘導電流とが当該補正コイルを流れることにより前記補正コイルの周辺に前記漏れ磁場の変化を打消す向きの補正磁場を形成することを特徴とする請求項13に記載の磁場変化抑制方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−177234(P2010−177234A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−15041(P2009−15041)
【出願日】平成21年1月27日(2009.1.27)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】