説明

磁場計測装置

【課題】複数のセルを並べて磁場を計測する磁場計測装置において、ポンプ光の光源の数を低減してセルの磁場感度のばらつきを低減する。
【解決手段】磁場計測装置は、ポンプ光により励起される複数の原子を含むセルが配列されたセルアレイに対し、一方向に配列された複数のセルをポンプ光が透過するように一端部のセルにポンプ光を照射するポンプ光照射部、セル毎にプローブ光を照射するプローブ光照射ユニット、各セルに照射したプローブ光を検出する検出ユニット、制御値に従って各セルの温度を制御する温度制御ユニットを有し、セルアレイに一定の磁場を印加したときの検出ユニットで検出される各セルの検出結果が基準値となるように各セルの温度を調整し、基準値となる各セルの温度を示す制御値をセル毎に記憶部に記憶する第1の処理と、第1の処理に代えて記憶部内の制御値を温度制御部に入力して検出部の検出結果を出力する第2の処理とを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁場計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体の脳や心臓等から発せられる磁場を検出する生体磁気計測装置等において、光ポンピングを利用した磁気センサーが利用されている。このような磁気センサーとしては、ガスが封入されたセル毎に、円偏光成分を有するポンプ光と直線偏光成分を有するプローブ光とが直交するように照射され、生体から発せられる磁場をプローブ光によって検出するものがある。下記特許文献1には、そのような光ポンピング原子磁力計が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−236599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、生体から発する磁場を広範囲に測定するために複数のセルを配列する場合があるが、セル毎にポンプ光の光源を設けると、セルの数だけポンプ光の光源が必要となるため装置構成が複雑化すると共にコスト高となる。また、複数のセルを配列して磁場を測定する場合、各セルにおける原子やガスが均一でなければ各セルの磁場感度にばらつきが生じる。
本発明は、複数のセルを並べて磁場を計測する磁場計測装置において、ポンプ光の光源の数を低減して各セルの磁場感度のばらつきを低減する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る磁場計測装置は、ポンプ光により励起される複数の原子からなる原子群が内部に含まれ、少なくとも対向する2面と当該2面に隣接する一の面とが光を透過させる面で構成された複数のセルを、前記2面のいずれか一方の面が少なくとも一方向において他のセルと隣接するように配列したセルアレイと、前記セルアレイにおける各セルの前記2面を透過するように、配列された一端部のセルに対してポンプ光を照射する第1照射手段と、前記セルアレイの各セルに対応して設けられ、各セルの前記2面に隣接する一の面に対してプローブ光を照射する第2照射手段と、前記第2照射手段から前記各セルに照射されたプローブ光を検出して前記各セルにおける磁場を測定する測定手段と、前記セルアレイの各セルに対応して設けられ、入力される制御値に従って、各セルの磁場感度を制御する第1制御手段と、前記各セルに対応する前記制御値をセル毎に記憶する記憶手段と、前記セルアレイに対して一定の磁場を印加し、前記第1制御手段に入力する前記制御値を変化させて前記測定手段で測定される前記各セルの磁場の測定結果が予め定められた基準値となるときの前記制御値を前記セル毎に特定し、特定した前記セル毎の前記制御値を前記記憶手段に記憶させる第1の処理と、前記第1の処理に代えて、前記記憶手段に記憶された前記制御値を前記第1制御手段に入力し、前記測定手段で測定された測定結果を出力する第2の処理とを行う第2制御手段とを備えることを特徴とする。
この構成によれば、セル毎にポンプ光を照射する場合と比べて、ポンプ光の光源の数が低減されると共に各セルの磁場感度のばらつきを低減することができる。
【0006】
また、本発明に係る磁場計測装置は、上記磁場計測装置において、前記制御値は、前記各セルの温度を示す値であり、前記第1制御手段は、前記制御値に従って、前記各セルの温度を各々制御することにより、前記各セルの磁場感度を制御することとしてもよい。この構成によれば、各セルの磁場感度のばらつきが低減するように各セルの温度を制御することでセル内の原子の励起状態が制御されるため、磁場の検出精度を向上させることができる。
【0007】
また、本発明に係る磁場計測装置は、上記磁場計測装置において、前記セルアレイは、前記原子が混入されている膜が内壁に形成されており、前記制御値は、前記各セルの前記膜から前記原子を光誘起脱離させる光の光量を示す値であり、前記第1制御手段は、前記制御値に従って、前記各セルに前記光を照射することにより、前記各セルの磁場感度を制御することとしてもよい。この構成によれば、各セルの磁場感度のばらつきが低減するように各セルにおける原子密度を制御することでセル内の原子の励起状態が制御され、磁場の検出精度を向上させることができる。
【0008】
また、本発明に係る磁場計測装置は、上記磁場計測装置において、前記制御値は、前記プローブ光の光量を示す値であり、前記第1制御手段は、前記制御値に従って、前記第2照射手段から照射する前記プローブ光の光量を制御することにより、前記各セルの磁場感度を制御することとしてもよい。この構成によれば、各セルの磁場感度のばらつきが低減するように各セルに照射するプローブ光の光量を制御されるので磁場の検出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施形態1に係る磁場計測装置の構成例を示す図である。
【図2】実施形態1に係るセルアレイとセルアレイに対して照射されるポンプ光とプローブ光を表わす図である。
【図3】(a)は、実施形態1に係るポンプ光照射部と温度制御部とセルを示す図である。(b)は、実施形態1に係るプローブ光照射部と検出部とセルを示す図である。
【図4】実施形態1に係る各セルの磁場の検出結果と制御値との関係を示す図である。
【図5】実施形態1に係る温度情報の例を示す図である。
【図6】実施形態2に係る磁場計測装置の構成例を示す図である。
【図7】変形例1に係る磁場計測装置の構成例を示す図である。
【図8】変形例3に係るセルアレイとポンプ光照射部とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<実施形態1>
(構成)
図1は、本発明に係る実施形態1の磁場計測装置の構成を表すブロック図である。磁場計測装置1は、セルアレイ10、セルアレイ10の温度を制御する温度制御ユニット20、セルアレイ10における磁場を検出する磁場検出ユニット30、制御部40、操作部50及び記憶部60を備えている。
【0011】
セルアレイ10は、図2に示すように複数のセル10a,10b,10c,10dを一列に並べて構成されている。各セルは、光を透過するガラス等の素材で構成され、内部に所定の原子を含む立方体形状の各々独立した物体である。各セル内の所定の原子は、円偏光によって励起状態となり、スピン偏極する原子であり、例えば、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)及びフランシウム(Fr)等のアルカリ金属である。本実施形態では、各セルは、セルを構成する各面が光を透過させる面で構成されている例であるが、少なくとも対向する2面と当該2面に隣接する一の面が光を透過させる面で構成されていればよい。また、セルアレイ10は、各セルの2面のいずれか一方が少なくとも他のセルと隣接するように複数のセルが一方向に配列されていればよい。なお、セルアレイ10のセルの数は複数であれば4つには限らない。各セル内には、これらのアルカリ金属原子の他に、ヘリウム(He)、窒素(N)などのバッファーガスが含まれていてもよい。尚、アルカリ金属の原子は磁気を検出する際に気体の状態であればよく、常時気体の状態でなくてもよい。
【0012】
温度制御ユニット20は、本発明に係る第1制御手段の一例である。温度制御ユニット20は、各セルに対応する温度制御部20a,20b,20c,20d(図3参照)を有する。各温度制御部は、各セルと対応するように当該セルの外側に設けられており、セルを加熱・冷却する加熱冷却装置を各々有し、制御部40によって入力された制御値(電力値)に応じて加熱冷却装置を制御することで、各セルの温度を調整する。
【0013】
磁場検出ユニット30は、各セルにおける磁場を検出するためのポンプ光照射部310、プローブ光照射ユニット320、測定手段の一例である検出ユニット330を有する。ポンプ光照射部310は、第1照射手段の一例であり、各セル内のアルカリ金属原子を光ポンピング(励起)させるポンプ光を照射する。また、プローブ光照射ユニット320は、各セルに対応して設けられ、当該セルにおける磁場を検出するためのプローブ光を照射する第2照射手段としてのプローブ光照射部を有する。本実施形態では、図2に示すように、実線矢印で示すプローブ光は、セル毎にy軸正方向からy軸負方向に向けて、各セル内でポンプ光と直交するように照射される。また、セル10d〜セル10aまでポンプ光が貫通するように、x軸正方向からx軸負方向に向けてセル10dにポンプ光が照射される。つまり、プローブ光は、各セルにおいてポンプ光が透過する2面に隣接する一の面に照射され、セル10dに照射されたポンプ光は、セル10dを透過してセル10cに入射し、セル10cに入射したポンプ光は、セル10cを透過してセル10bに入射し、セル10bを透過したポンプ光はセル10aに入射するように構成されている。
【0014】
本実施形態では、上記したように、ポンプ光照射部310は、セル10dからセル10aまで貫通するようにポンプ光をセル10dに対して照射するため、セルに入射するポンプ光の光量はセルを透過する毎に減衰する。つまり、ポンプ光照射部310からポンプ光が直接的に照射されるセル10dから離れるほどセルに入射するポンプ光の光量は少なくなる。各セル内のアルカリ金属原子は、照射されたポンプ光の光量に応じて光ポンピング(励起)する。各セルにおいてアルカリ金属原子の数やバッファーガス等が均一に含まれている場合には、各セルにおいて励起されるアルカリ金属原子の数は、ポンプ光が照射されるセルの順序に応じて小さくなるが(10d>10c>10b>10a)、各セル内のアルカリ金属原子の数やバッファーガス等が均一でない場合には、各セルに入射されるポンプ光の光量と各セルの状態によって各セル内のアルカリ金属原子の励起状態にばらつきが生じる。セル内のアルカリ金属原子は温度によって光ポンピング(励起)するアルカリ金属原子の数が変化する。そのため、本実施形態では、各セルの温度を制御することにより、各セルにおけるアルカリ金属原子の励起状態を制御して、各セルの磁場感度のばらつきを低減する。
【0015】
次に、ポンプ光照射部310、各プローブ光照射部、及び各検出部について説明する。図3(a)は、ポンプ光照射部及び各温度制御部と図2に示した各セルとを示す図である。図3(a)に示すように、各セルの底面側には各々温度制御部が設けられ、セル10dの側面側にポンプ光照射部310が設けられており、セル10dに向けてポンプ光が照射される。ポンプ光照射部310は、無偏光のレーザービームを出力する光源を有し、光源から出力されたレーザービームを、コリメートレンズ、偏光板、四分の一波長板等の光学部材(図示略)により円偏光成分を有するポンプ光に変換して出力する。
【0016】
図3(b)は、図2に示した各セルとプローブ光照射部(320a,320b,320c,320d)及び検出ユニット330の各検出部(330a,330b,330c,330d)を示す図である。図3(b)に示すように、各プローブ光照射部と各検出部は、セル毎に設けられている。各プローブ光照射部は、無偏光のレーザービームを出力する光源を有し、光源から出力されたレーザービームをコリメートレンズ、偏光板、半波長板等の光学部材(図示略)により直線偏光成分を有するプローブ光に変換して出力する。各セルに照射されたプローブ光は各々のセルに入射し、入射した光は、各セルにおいて光ポンピングしている原子の歳差運動による回転力に応じて偏光面が回転されて各セルを透過する。
【0017】
各検出部は、各セルを透過したプローブ光を偏光ビームスプリッター等によってP偏光成分とS偏光分成分とに分離し、分離した光をフォトディテクタで受光する。各検出部は、フォトディテクタから出力されたP偏光成分とS偏光成分の光量に応じた電気信号を解析してプローブ光の偏光面の回転角度を求め、回転角度に応じた磁場の強度を検出する。この例においては、図2に示すz軸方向の磁場が検出される。
【0018】
図1に戻り、構成の説明を続ける。制御部40は、第2制御手段の一例である。制御部40は、CPU(Central Processing Unit)とROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)のメモリを有する。CPUは、ROMに予め記憶されている制御プログラムを実行することにより、第1の処理としてキャリブレーション処理と、第2の処理として生体から発する磁場を検出する磁場検出処理とをユーザー操作に応じて行う。
【0019】
制御部40は、キャリブレーション処理として、各セルに対して設けられた図示しないコイルを用い、セルアレイ10に対して図2のz軸方向に一定の磁場を印加すると共に、ポンプ光照射部310と各プローブ光照射部と各検出部とを制御して各セルにおける磁場を検出する。そして、各セルにおける磁場の検出結果が予め定められた基準値となるように、各セルの温度を調整する制御値を変化させて温度制御ユニット20に入力し、基準値の検出結果が得られたときの制御値をセル毎に特定し、特定したセル毎の制御値を温度情報として記憶部60に記憶させる処理を行う。本実施形態では、基準値の一例として、印加した磁場の値に相当する値を用いる。また、制御部40は、磁場検出処理として、記憶部60に記憶させた各セルの温度情報に基づく制御値を温度制御ユニット20に入力し、ポンプ光照射部310と各プローブ光照射部と各検出部とを制御して生体から発する磁場を検出し、検出結果を出力する処理を行う。
【0020】
操作部50は、キャリブレーションの指示操作を受付ける操作スイッチと、生体の磁場の測定指示を受付ける操作スイッチ等の操作手段を有し、操作された内容を示す操作信号を制御部40に送出する。記憶部60は、記憶手段の一例である。記憶部60は、不揮発性の記憶媒体で構成され、制御部40の制御の下、キャリブレーション処理によって特定されたセル毎の各温度制御部の制御値を温度情報として記憶する。
【0021】
(動作例)
次に、この磁場計測装置1の動作例について説明する。磁場計測装置1の制御部40は、キャリブレーション処理を指示する操作が操作部50を介してなされると、ポンプ光照射部310から円偏光成分を有するポンプ光をセル10dに対して照射すると共に、各セル内でポンプ光と直交するように各プローブ光照射部から直線偏光成分を有するプローブ光を照射する。そして、制御部40は、ポンプ光とプローブ光とに直交する方向の一定の磁場を図示しないコイルを用いて印加する。
【0022】
各セル内のアルカリ金属原子は、当該セルに入射したポンプ光の光量に応じて光ポンピングし、印加された磁場に応じて磁気モーメントの方向を変化させて歳差運動を行う。プローブ光は、各セルに入射し、各セル内の原子が受けている磁場の大きさに応じて偏光面を回転させ各セルを透過する。各セルを透過したプローブ光は、当該セルに対応する検出部で受光される。各検出部は、プローブ光の光量に応じた電気信号を解析してプローブ光の偏光面の回転角を求め、対応するセルにおける磁場を検出して制御部40に検出結果を出力する。
【0023】
制御部40は、セル毎に、印加した磁場値に相当する基準値の検出結果が得られるまで、当該セルに対応する温度制御部に入力する制御値を変化させ、基準値の検出結果が得られたときの制御値を特定する。そして、制御部40は、各セルについて特定した制御値を温度情報として当該セルを識別するセル番号と関連付けて記憶部60に記憶する。例えば、セル毎の温度制御部の制御値に対する磁場の検出結果が図4に示す波形で表わされる場合、検出結果が基準値となる各セル(10a,10b,10c,10d)の制御値として、P2,P4,P1,P3が特定される。この場合、記憶部60には、図5に示すように、各セルを識別するセル番号と当該セルに対応する温度情報とを関連づけた温度制御情報150が記憶される。
【0024】
次に、磁場計測処理の動作例について説明する。磁場計測装置1において、生体からの磁場を計測する磁場計測処理の指示操作が操作部50を介してなされると、制御部40は、記憶部60の温度制御情報150からセル毎の温度情報を読み出す。制御部40は、温度制御情報150の各セル番号に対応する温度制御部(20a,20b,20c,20d)に対し、読み出した温度情報に基づく制御値を入力する。各温度制御部は、制御部40から入力された制御値に従って加熱冷却装置を制御する。制御部40は、ポンプ光照射部310から円偏光成分を有するポンプ光をセル10dに照射すると共に、各プローブ光照射部から直線偏光成分を有するプローブ光を照射する。
【0025】
各セル内のアルカリ金属原子は、当該セルに入射したポンプ光の光量と当該セルの温度に応じて光ポンピングし、生体からの磁場に応じて歳差運動を行う。プローブ光は、各セルに入射し、セル内の原子が受ける磁場の大きさに応じて偏光面が回転されて各セルを透過する。各セルを透過したプローブ光は、各セルに対応する検出部で各々受光される。各検出部は、プローブ光の光量に応じた電気信号を解析してプローブ光の偏光面の回転角を求め、回転角から磁場値を算出して制御部40に出力する。制御部40は、検出部毎に出力された各磁場の値を示す情報を図示しない表示装置等に出力する。
【0026】
本実施形態の例では、配列された複数のセルのうち、端部のセルに対してポンプ光を照射することで複数のセルの全てにポンプ光を照射するため、ポンプ光の光源をセル毎に設ける必要がなく装置を小型化することができる。また、各セルの磁場感度が均一となるように、各セルの温度を調整して各セルのアルカリ金属原子の励起状態を制御するため、ポンプ光の光量がセル毎に異なる場合でも磁場の測定精度を向上させることができる。
【0027】
<実施形態2>
上述した実施形態1では、各セルの温度を制御して各セルにおけるアルカリ金属原子の励起状態を制御して各セルの磁場感度を均一化する例を説明したが、アルカリ金属原子の励起状態を制御する他の例について説明する。図6は、本実施形態に係る磁場計測装置の構成例を示す図である。本実施形態に係る磁場計測装置1Aは、セルアレイ10、第1制御手段の一例である誘起光照射ユニット20A、磁場検出ユニット30、制御部40、操作部50、及び記憶部60を有する。この図において、実施形態1と共通の構成については同じ符号を付している。以下、実施形態1と異なる部分について説明する。
【0028】
本実施形態における各セルは、アルカリ金属原子の光ポンピングの緩和時間を長くするためのパラフィン等の化合物がコーティングされた膜が内壁に形成されている。各セルに形成された膜には、製造過程等において同じアルカリ金属原子が混入されている。本実施形態では、膜中に含まれるアルカリ金属原子を膜から光誘起脱離させる光(以下、誘起光と言う)を誘起光照射ユニット20Aから各セルに照射することにより、各セルのアルカリ金属原子の励起状態を制御する。誘起光照射ユニット20Aは、各セルに対応して設けられた誘起光照射部(図示略)を有する。各誘起光照射部は、入力された制御値に従った光量の誘起光を対応するセルに対して照射する。
【0029】
各誘起光照射部からの誘起光は、例えば、図2に示すz軸の負方向から正方向に向けて各セルに照射してもよいし、プローブ光と同じ方向から各セルに照射してもよい。なお、この誘起光は、光誘起脱離現象を生じさせる光であれば、紫外光のレーザーであってもよいし、LED(Light Emitting Diode)から出力される光でもよい。また、誘起光は、ポンプ光及びプローブ光の波長と異なる波長が好ましく、セルの膜の変質や剥離等を生じさせる波長や強度でないことが好ましい。
【0030】
制御部40は、キャリブレーション処理として、実施形態1と同様にセルアレイ10に対して一定の磁場を印加すると共に、ポンプ光とプローブ光を照射して各セルにおける磁場を検出する。また、制御部40は、各セルにおける磁場の検出結果が印加した磁場に相当する値となるように、各セルに対して照射する予め定められた誘起光の光量を示す制御値の制御信号を誘起光照射ユニット20Aに一定時間入力する。各セルに誘起光を照射することにより、各セルの膜中からアルカリ金属原子が光誘起脱離し、当該セルに照射されているポンプ光により、当該セル内のアルカリ金属原子が光ポンピングし、印加されている磁場に応じて歳差運動を行う。この光誘起脱離現象によって、当該セル内のアルカリ金属原子の原子密度は誘起光を照射する前と比べて高くなる。
【0031】
そして、制御部40は、一定時間の経過時に検出された各セルの磁場の検出値に基づいて、全てのセルに共通する磁場の検出基準値(基準値)を特定し、各セルの磁場の検出値が検出基準値となるように各セルに対する誘起光の光量を調整する。検出基準値は、例えば、最大光量の誘起光を照射した場合における全てのセルの検出値の中で最も検出値が低いセル、即ち、磁場の検出感度が最も低いセルの検出値を検出基準値として特定してもよいし、最も検出値が低いセルの検出値より小さい値を検出基準値として特定してもよい。
【0032】
制御部40は、各セルの磁場の検出値が特定した検出基準値となるように誘起光の光量を変化させた制御値の制御信号を各誘起光照射部に入力して誘起光の光量を変化させ、各誘起光照射部により制御信号に応じた強度の誘起光を対応するセルに照射させる。制御部40は、セル毎に誘起光の光量を変化させたときの各検出部で検出される検出値が検出基準値となったときの誘起光の光量をセル毎に特定し、特定した各光量を示す制御値を誘起光制御情報として記憶部60にセル毎に記憶する。
【0033】
制御部40は、磁場検出処理として、記憶部60に記憶させた各セルの誘起光制御情報を読み出し、各誘起光制御情報の制御値を各誘起光照射部に入力する。各誘起光照射部は、入力された各制御値に応じた光量で予め定められた一定時間誘起光を照射し、生体からの磁場を検出する磁場検出処理を開始する。磁場検出処理は、検出対象となる磁場が生体からの磁場である点を除き、上記キャリブレーション処理における磁場の検出処理と同様である。
【0034】
本実施形態では、各セルに誘起光を照射して各セル内のアルカリ金属原子の原子密度を調整し、各セルにおけるアルカリ金属原子の励起状態を制御する。そのため、ポンプ光の光量がセル毎に異なる場合であっても各セルの磁場感度のばらつきを低減することができ、磁場の測定感度を向上させることができる。
【0035】
<変形例>
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、以下のように変形させて実施してもよい。また、以下の変形例を組み合わせてもよい。
【0036】
(1)上述した実施形態2では、各セルに誘起光を照射してアルカリ金属原子の励起状態を制御し、各セルの磁場感度を均一化する例を説明したが、プローブ光の光量を制御して各セルの磁場感度を均一化するようにしてもよい。本変形例に係る磁場計測装置の構成例を図7に示す。なお、図7において、実施形態2に係る磁場計測装置1Aと同様の構成には実施形態2と同様の符号を付している。磁場計測装置1Bは、実施形態2に係る誘起光照射ユニット20Aに代えて、プローブ光制御ユニット20Bを備える。
【0037】
プローブ光制御ユニット20Bは、本発明に係る第1制御手段の一例である。プローブ光制御ユニット20Bは、各プローブ光照射部に対応して設けられ、各プローブ光照射部から照射されるプローブ光の光量を制御するプローブ光制御部を有する。各プローブ光制御部は、制御部40から入力されるプローブ光の光量を示す制御値の制御信号に従って各プローブ光照射部が照射するプローブ光の光量を調整する。
【0038】
制御部40は、キャリブレーション処理として、実施形態と同様にセルアレイ10に対して一定の磁場を印加すると共に、ポンプ光とプローブ光を照射して各セルにおける磁場を検出する。また、制御部40は、各セルにおける磁場の検出結果が印加した磁場に相当する値となるように、各セルに対して照射する予め定められたプローブ光の光量を示す制御値の制御信号を各プローブ光制御部に入力し、各々の制御値に従った光量で各プローブ光照射部からプローブ光を照射する。
【0039】
制御部40は、各セルの磁場の検出値に基づいて、全てのセルに共通する磁場の検出基準値を特定し、各セルの磁場の検出値が検出基準値となるように各セルに対するプローブ光の光量を調整する。検出基準値は、例えば、最大光量のプローブ光を照射した場合における全てのセルの検出値の中で最も検出値が低いセル、即ち、磁場の検出感度が最も低いセルの検出値を検出基準値として特定してもよいし、最も検出値が低いセルの検出値より小さい値を検出基準値として特定してもよい。
【0040】
制御部40は、各セルの磁場の検出値が特定した検出基準値となるようにプローブ光の光量を変化させた制御値の制御信号を各プローブ光制御部に入力してプローブ光の光量を変化させ、各誘起光照射部により制御信号に応じた強度の誘起光を対応するセルに照射させる。制御部40は、セル毎にプローブ光の光量を変化させたときの各検出部で検出される検出値が検出基準値となったときのプローブ光の光量をセル毎に特定し、特定した各光量を示す制御値をプローブ光制御情報として記憶部60にセル毎に記憶する。
制御部40は、生体からの磁場を検出する磁場検出処理を行う際、ポンプ光照射部310からポンプ光を照射すると共に、記憶部60に記憶させたプローブ光制御情報を読み出し、セル毎のプローブ光の光量を示す制御値の制御信号を各プローブ光制御部に入力して各磁場検出部の各プローブ光照射部から各セルの制御値に応じた光量でプローブ光を照射する。そして、制御部40は、各セルを透過したプローブ光を各検出部において検出して各セルにおける磁場を測定する。
【0041】
(2)上述した実施形態1において、各セルの温度を制御すると共に、実施形態2に係る誘起光照射ユニット20Aを備え、各セルに誘起光を照射して各セルにおけるアルカリ金属原子の励起状態を制御するようにしてもよいし、変形例1に係るプローブ光制御ユニット20Bを備え、各セルに照射するプローブ光の光量を制御して各セルの磁場感度を均一にするようにしてもよい。また、実施形態1において、誘起光照射ユニット20A及びプローブ光制御ユニット20Bを備え、各セルの温度を制御すると共に、各セルに誘起光を照射して各セルにおけるアルカリ金属原子の励起状態を制御し、各セルに照射するプローブ光の光量を制御して各セルの磁場感度のばらつきを低減するようにしてもよい。
また、上述した実施形態2において、各セルに誘起光を照射して各セルにおけるアルカリ金属原子の励起状態を制御すると共に、変形例1に係るプローブ光制御ユニット20Bを備え、各セルに照射するプローブ光の光量を制御して各セルの磁場感度を均一にするようにしてもよい。
【0042】
(3)上述した実施形態では、複数のセルが一列に配列されているセルアレイ10の例を説明したが、セルアレイ10は複数のセルが複数列に配列されていてもよい。この場合には、例えば、図8に示すように、ポンプ光照射部310から出力したポンプ光をビームスプリッター等の光学部材311を用いて各列の端部のセルからポンプ光を照射するように構成してもよい。
【0043】
(4)上述した実施形態及び変形例では、セル毎に、プローブ光の光源を設ける例を説明したが、分岐カプラー等を用いて、1つの光源からプローブ光を各セルに分配して照射するようにしてもよい。
【0044】
(5)また、上述した実施形態1では、印加した磁場に相当する値を基準値として用いる例を説明したが、キャリブレーション処理において検出された各セルにおける磁場の検出結果から基準値を求めるようにしてもよい。例えば、各セルにおける磁場の検出値のうち、印加した磁場に相当する値に最も近い検出値を各セルについて特定し、特定した各検出値を平均した値や、特定した各検出値の最小値や最頻値等を基準値として用いるようにしてもよい。また、キャリブレーション処理において検出された各セルの検出値が基準値と一致していない場合でも、検出値と基準値との差分が予め定めた値の範囲内であれば、当該検出値を検出したときの温度制御部の制御値を当該セルに対応する制御値として記憶するようにしてもよい。
【0045】
(6)また、上述した実施形態では、ユーザーによる操作部50の操作に応じてキャリブレーション処理と磁場検出処理とが選択的に行われる例について説明したが、キャリブレーション処理と磁場検出処理とが排他的に行われればよく、例えば、キャリブレーション処理の後、自動的に磁場検出処理が開始されてもよい。
【0046】
(7)上述した実施形態では、各セルは独立した物体である例を説明したが、例えば、隣接するセルとの影響を受けないように直方体を仕切って形成されたものでもよいし、隣接するセルとの影響を受けない程度にセルとセルとの仕切りの一部に設けられた孔によって各セルが連通されていてもよい。要は、セルアレイ10は、区分けされた複数の各空間が形成され、一方向に配列された複数のセルのうち一端部のセルから他端部のセルまでポンプ光が貫通するようにセルとセルとの間の面が光を透過させるように構成されていればよい。また、セルの形状は、立方体形状の例を説明したが、セルの形状は多面体形状であればこの形状には限らない。
【0047】
(8)上述した実施形態では、各セルを透過したプローブ光を検出することで磁場を測定する例について説明したが、各セル内において、当該セル内を入射したプローブ光を折り返し反射させるミラーを設け、反射されたプローブ光を検出するようにしてもよい。この場合には、プローブ光が照射される面と対向する面は光を透過させない面で構成し、各プローブ光照射部が設けられている面側に各検出部を設ける。そして、各セル内において、当該セル内を入射したプローブ光を折り返し反射させるミラーをプローブ光が照射される面と対向する面の内壁に設けるようにする。各セル内部で反射されたプローブ光は、入射時とは逆方向にアルカリ金属原子を通過するためファラデー効果の非相反性により1回目の偏向面の回転方向と同じ方向に偏向面が回転されてセルを出射し、各検出部に入射する。このような構成にすることで、プローブ光の偏向面の回転角度が強調され、各セルにおける磁場を高感度に検出することができる。
【符号の説明】
【0048】
1,1A,1B・・・磁場計測装置、10・・・セルアレイ、10a,10b,10c,10d・・・セル、20・・・温度制御ユニット、20a,20b,20c,20d・・・温度制御部、20A・・・誘起光照射ユニット、20B・・・プローブ光制御ユニット、30・・・磁場検出ユニット、40・・・制御部、50・・・操作部、60・・・記憶部、310・・・ポンプ光照射部、320a,320b,320c,320d・・・プローブ光照射部、330a,330b,330c,330d・・・検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ光により励起される複数の原子からなる原子群が内部に含まれ、少なくとも対向する2面と当該2面に隣接する一の面とが光を透過させる面で構成された複数のセルを、前記2面のいずれか一方の面が少なくとも一方向において他のセルと隣接するように配列したセルアレイと、
前記セルアレイにおける各セルの前記2面を透過するように、配列された一端部のセルに対してポンプ光を照射する第1照射手段と、
前記セルアレイの各セルに対応して設けられ、各セルの前記2面に隣接する一の面に対してプローブ光を照射する第2照射手段と、
前記第2照射手段から前記各セルに照射されたプローブ光を検出して前記各セルにおける磁場を測定する測定手段と、
前記セルアレイの各セルに対応して設けられ、入力される制御値に従って、各セルの磁場感度を制御する第1制御手段と、
前記各セルに対応する前記制御値をセル毎に記憶する記憶手段と、
前記セルアレイに対して一定の磁場を印加し、前記第1制御手段に入力する前記制御値を変化させて前記測定手段で測定される前記各セルの磁場の測定結果が予め定められた基準値となるときの前記制御値を前記セル毎に特定し、特定した前記セル毎の前記制御値を前記記憶手段に記憶させる第1の処理と、前記第1の処理に代えて、前記記憶手段に記憶された前記制御値を前記第1制御手段に入力し、前記測定手段で測定された測定結果を出力する第2の処理とを行う第2制御手段と
を備えることを特徴とする磁場計測装置。
【請求項2】
前記制御値は、前記各セルの温度を示す値であり、
前記第1制御手段は、前記制御値に従って、前記各セルの温度を各々制御することにより、前記各セルの磁場感度を制御することを特徴とする請求項1に記載の磁場計測装置。
【請求項3】
前記セルアレイは、前記原子が混入されている膜が内壁に形成されており、
前記制御値は、前記各セルの前記膜から前記原子を光誘起脱離させる光の光量を示す値であり、
前記第1制御手段は、前記制御値に従って、前記各セルに前記光を照射することにより、前記各セルの磁場感度を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の磁場計測装置。
【請求項4】
前記制御値は、前記プローブ光の光量を示す値であり、
前記第1制御手段は、前記制御値に従って、前記第2照射手段から照射する前記プローブ光の光量を制御することにより、前記各セルの磁場感度を制御することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の磁場計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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