説明

磁性を持つ吸着材、及びその資材を用いた廃水処理技術

【課題】従来の排水処理法に関連する諸問題を解決し、再生処理が簡便であり、排水処理槽から容易に流出せず、磁力による効率的な撹拌と回収とを可能にする排水処理剤を提供する。
【解決手段】吸着性粉末A及び磁性粉末BをゲルCで内包して成る吸着性帯磁ゲルビーズ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性と吸着性を併有する吸着性帯磁ゲルビーズ、該吸着性帯磁ゲルビーズの製造方法、該吸着性帯磁ゲルビーズを使用する排水処理方法、該排水処理方法に供した該吸着性帯磁ゲルビーズの再生方法及び該吸着性帯磁ゲルビーズが充填された排水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の排水を処理する簡便法としては、活性炭、グラファイトカーボン及びイオン交換樹脂等の吸着剤を利用する方法が古くから知られている。しかしながら、この方法においては、使用済みの吸着剤を再生するために高温熱分解処理及び酸やアルカリによる洗浄処理等が不可欠であるために、経済的観点からだけでなく、環境汚染の観点からも問題があった。
【0003】
また、このような排水の処理法においては、一般に粉状であるこの種の吸着剤が排水の処理槽から流出しやすいという欠点がある。このような欠点を改良するために、この種の吸着剤をビーズ化する方法及びアルギン酸ゲル等によって内包化する方法が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、このような方法によって調製される吸着性ビーズや吸着性ゲルを用いる排水処理方法においては、吸着性のビーズやゲルの表面に浮遊性物質やガス等が付着すると、該ビーズやゲルが浮遊して処理槽から流出すると共に、排水の処理効率が低下するだけでなく、被処理排水の機械的撹拌によって該ビーズやゲルが損傷を受けるという欠点がある。
【0004】
さらに、アルギン酸ゲルを用いて微生物を内部に固定化したゲルビーズを用いて排水を微生物で処理する方法も提案されている(特許文献2及び3参照)。しかしながら、この種のゲルビーズを用いる排水の処理方法は、微生物の活性を低下させる酸性若しくはアルカリ性の排水や高温若しくは低温の排水の処理に対しては不適当なため、該処理方法は微生物の生育環境に適した条件下での排水の処理に限定されるだけでなく、微生物の増殖によってゲルビーズが破壊されるという欠点を有する。
【0005】
また、上記のゲルビーズを用いる排水の処理方法における欠点を解消するために、磁力を利用して吸着性処理剤の処理槽からの流出を防止すると共に被処理排水の撹拌も可能にすることを目的として、この種の吸着性処理剤に磁性を付与する方法が提案されている。
【0006】
例えば、担体としてのマグネタイトやフェライト等の酸化鉄の表面を活性炭やシリカ等の吸着剤でコーティングする方法が提案されている(非特許文献1参照)。しかしながら、この方法の場合には、磁性担体の表面にしか吸着剤が存在しないために吸着容量が著しく低くなるという難点がある。
【0007】
さらに、シリカゲルや活性炭等の多孔質吸着剤に酸化鉄を化合させる方法が提案されている(特許文献4及び5参照)。しかしながら、この方法の場合には、磁力による磁性ビーズの被処理排水中での撹拌及び使用後の排水からの回収を効率よくおこなうためには吸着剤に多量の酸化鉄を化合させなければならず、その結果として、吸着容量が著しく低下するだけでなく、製造コストが高くなるという問題がある。
【特許文献1】特開平7−232177号公報
【特許文献2】特開平10−180281号公報
【特許文献3】特開平11−18765号公報
【特許文献4】特開2005−137973号公報
【特許文献5】特許第2949145号明細書
【非特許文献1】C.グルットナー及びJ.テラー、ジャーナル・オブ・マグネチズム・アンド・マグネチックマテリアルズ(Journal of Magnetism and Magnetic Materials)、第194巻、第8頁〜第15頁(1999年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来の排水の処理法に関連する上記の諸問題を解決し、処理剤の再生処理に際して特段の経済上及び環境汚染上の問題をもたらさないだけでなく、排水の処理槽から容易に流出することのない処理剤であって、吸着容量の著しい低下をもたらすことなく、被処理排水中での撹拌と使用後の排水からの回収を磁力によって効率よくおこなうことを可能にする排水処理剤を提供するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち本発明は、吸着性粉末及び磁性粉末をゲルで内包して成る吸着性帯磁ゲルビーズに関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明による吸着性帯磁ゲルビーズを、排水の処理に使用する場合には、使用後の該ゲルビーズの再生処理に際して特段の経済上及び環境汚染上の問題がもたらされることはなく、又、該ゲルビーズは、排水の処理槽から容易に流出しないだけでなく、吸着剤が有する本来の高い吸着容量を保有する形態で被処理排水中において磁力によって効率よく撹拌できと共に使用後の排水から磁力によって効率よく回収でき、しかも回収後は簡便な再生処理に付すことによって再使用に供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1に、本発明による吸着性帯磁ゲルビーズの模式的断面図を示す。図中、A、B及びCはそれぞれ吸着性粉末、磁性粉末及びゲルを示す。図1に示すように、本発明による吸着性帯磁ゲルビーズは、吸着性粉末Aと磁性粉末BをゲルCで内包して構成される。
【0012】
本発明による吸着性帯磁ゲルビーズに内包される吸着性粉末Aとしては、従来から当該分野において使用されている各種の吸着剤等を適宜使用すればよいが、好ましい吸着性粉末は、活性炭、グラファイトカーボン、イオン交換樹脂、ゼオライト、シリカゲル、アルミナ、並びに水酸基、アミノ基、カルボキシル基、フェニル基、スルフォ基、ニトロ基及びオクタデシル基等の中から選択される少なくとも1種の活性基を有する多孔質担体等であり、この種の吸着剤は所望により2種以上併用してもよい。
【0013】
上記の吸着性粉末Aの粒径は、特に限定的ではないが、通常は1μm〜3.0mm、好ましくは、1μm〜0.1mmである。
【0014】
又、上記の吸着性粉末Aのゲルビーズ内への内包量は、ゲルCの重量に対して、通常は、0.5〜20重量%であり、好ましくは、1.0〜10重量%である。吸着性粉末Aの内包量が20重量%よりも多くなると、ゲルビーズの強度が低下し、又、吸着性粉末Aの内包量が0.5重量%よりも少なくなると、十分な吸着性を有するゲルビーズが得られなくなる。
【0015】
本発明による吸着性帯磁ゲルビーズに内包される磁性粉末Bとしては、当該分野において既知のいずれの磁性体を使用してもよいが、コストと帯磁率等の観点からは、マグネタイト、フェライト、鉄粉及び磁性ステンレス粉等が好ましい。又、これらの磁性体は、所望により2種以上適宜併用してもよい。
【0016】
上記の磁性粉末Bの粒径は、特に限定的ではないが、通常は0.1μm〜1.0mm、好ましくは0.1μm〜0.1mmである。
【0017】
又、上記の磁性粉末Bのゲルビーズ内への内包量は、ゲルCの重量に対して、通常は、0.5〜20重量%であり、好ましくは、1.0〜10重量%である。磁性粉末Bの内包量が10重量%よりも多くなると、得られるゲルビーズのゲル強度が低下し、又、磁性粉末Bの内包量が0.5重量%よりも少なくなると、十分な帯磁性を有するゲルビーズが得られなくなるため、磁力によるゲルビーズの撹拌や回収処理ができなくなる。
【0018】
上記の吸着性粉末Aと磁性粉末Bを内包するゲルCの基材としては、当該分野において既知のいずれのゲル基材を使用してもよいが、好ましいゲル基材としては、アルギン酸、ゼラチン、ポリビニルアルコール、カラギーナン及びポリアクリルアミド等が例示される。なお、この種のゲル基材は、所望により2種以上適宜併用してもよい。
【0019】
上記の吸着性粉末Aと磁性粉末BをゲルCで内包して成る本発明による吸着性帯磁ゲルビーズの粒径は特に限定的ではないが、通常は1.0〜20mmであり、好ましくは、2.0〜10mmである。
【0020】
上述の本発明による吸着性帯磁ゲルビーズの製造方法は特に限定的ではないが、好適な一般的製造方法は、下記の工程(i)〜(iv)を含む方法である:
(i)ゲル基材水性溶液中へ吸着性粉末及び磁性粉末を撹拌下で別々に又は同時に添加し、
(ii)得られる混合物をゲル化剤水性溶液中へ細孔を通して滴下させ、
(iii)該ゲル化剤水性溶液中でゲル化反応をおこない、次いで
(iv)生成する吸着性帯磁ゲルビーズを該ゲル化剤水性溶液から分別する。
【0021】
ゲル基材の水性溶液中での濃度は、ゲル基材の種類及び該水性溶液中へ添加する吸着性粉末や磁性粉末の量等によって左右され、特に限定的ではないが、通常は、1.0〜10.0%である。
【0022】
ゲル化剤としては、アルギン酸においては塩化カルシウム、ポリビニルアルコールにおいては硼酸等が例示される。
なお、ゼラチンやポリアクリルアミドにおいては加熱溶融したものを冷却する。
【0023】
ゲル化剤の濃度は、ゲル基材の種類や濃度等によって左右され、特に限定的ではないが、通常は、1.0〜20.0%である。
【0024】
吸着性粉末と磁性粉末をゲル基材水性溶液中へ添加して得られる混合物は、細孔を通してゲル化剤水性溶液中へ滴下される。この場合、該細孔の口径は、吸着性帯磁ゲルビーズの所望の粒径に応じて適宜選定すればよく、特に限定的ではないが、通常は、1.0〜10.0mmである。この滴下操作は、通常は、所定の口径を有する細長チューブ(例えば、シリコーン性細長チューブ等)を用いておこなうのが簡便である。
【0025】
なお、該混合物のゲル化剤水溶液中への滴下温度及び滴下速度は、ゲル基材及びゲル化剤の種類や濃度等によって左右され、特に限定的ではない。例えば、滴下速度は、通常は、0.1〜10.0ml/分である。
【0026】
又、ゲル化反応の反応温度及び反応時間も、ゲル基材及びゲル化剤の種類や濃度等によって左右され、特に限定的ではない。
【0027】
上記のゲル化反応によって生成する吸着性帯磁ゲルビーズはゲル化剤水性溶液から適宜分別すればよい。
【0028】
本発明は、上述の本発明による吸着性帯磁ゲルビーズを排水と接触させることを特徴とする排水処理方法にも関する。
【0029】
本発明による排水処理方法の対象となる排水は特に限定的ではなく、染色加工工業、食品工業、機械工業及び化学工業等の種々の分野において発生する排水を該処理方法の対象にすることができるが、一般的には、汚濁成分、色素、外因性内分泌攪乱化学物質及び/又な農薬等の各種の化学物質を含有する排水等が例示される。
【0030】
以下、本発明による排水の処理方法を図2に基づいてさらに詳細に説明する。
図2は、本発明による排水の処理方法を実施するのに好適な排水処理装置の一態様
を示す模式図である。該処理装置は、排水処理槽1及び溶剤供給/回収槽2を具備する。
【0031】
排水処理槽1の底部には本発明による吸着性帯磁ゲルビーズ1aが収容され、該底部の下方には、汚濁物質取り出し口を有する洗浄溶剤貯留部が配設され、該洗浄溶剤貯留部には加温装置1bが装着される。なお、排水処理槽1の下部及び上部には、排水L1を該排水処理槽1へ導入するための排水導入管及び処理排水を該排水処理槽1から排出させるための処理廃水排出管がそれぞれ連結される。
【0032】
又、溶剤供給/回収槽2は、該溶剤供給/回収槽2から排水処理槽1へ溶剤を供給するための溶剤注入管La1及び排水処理槽1から使用済み溶剤を回収するための溶剤回収管La2並びに減圧ポンプ4を具有する。なお、溶剤供給/回収槽2の内部には、排水処理槽1から回収される溶剤を冷却するための冷却管が配設され、該冷却管には冷却水3が送給される。
【0033】
本発明による吸着性帯磁ゲルビーズ1aを充填した排水処理槽1の底部へ排水供給管L1を経由して被処理排水を流入させ、該排水を該ゲルビーズと接触させることによって該排水中の汚濁物質等を該ゲルビーズに吸着させた後、処理した排水は排水処理槽1の上部に配設された処理排水排出管L2を経由して系外へ排出させる。
【0034】
この場合の処理温度及び処理時間は、排水の種類や汚染度、吸着性粉末の種類や内包量、ゲルビーズの充填量等によって左右され、特に限定的ではない。
【0035】
上記の排水処理を繰り返すことによって、ゲルビーズ1aに内包された吸着性粉末の吸着作用の低下に起因して該ゲルビーズの排水処理能は経時的に低下する。この場合の排水処理の反復回数は、排水の処理条件等によって左右され、特に限定的ではないが、好ましくは、2〜3回である。
【0036】
このようなゲルビーズの排水処理能低下が発生する場合には、次のようなゲルビーズの再生処理をおこなう。即ち、処理排水を系外へ排出させた後に排水処理槽1の内部に残留する排水を該処理槽の下部から系外へ排出させ、次いで、溶剤供給/回収槽2内に貯留された溶剤、例えば、低沸点溶剤を、溶剤注入管La1を経由して、該処理槽の内部へ注入することによって、該ゲルビーズを該溶剤による浸漬洗浄処理に付す。この浸漬洗浄処理によって、ゲルビーズに吸着された汚濁物質等は溶剤中へ溶脱し、該汚濁物質含有溶剤は洗浄溶剤貯留部内に貯留される。
【0037】
ゲルビーズの溶剤による浸漬洗浄処理における処理温度及び処理時間は、汚濁物質の種類や吸着量及び洗浄溶剤の種類等によって左右され、特に限定的ではないが、通常は、周囲温度で5〜10分間)である。
【0038】
洗浄溶剤としては、特に限定的ではないが、低沸点溶剤、例えば、メタノールやエタノール等の低級アルコール類、ジメチルケトン(アセトン)やメチルエチルケトン等のケトン類、酢酸メチルや酢酸エチル等のエステル類、エーテル類、及びジクロロメタン等のハロゲン化溶剤等が好ましい。
【0039】
次いで、排水処理槽1のゲルビーズを充填した層(図2の排水処理槽の点線部参照)を閉め、減圧ポンプ4を作動させることによって、排水処理槽1のうち溶剤を貯留している層及び溶剤供給/回収槽2を減圧にすると共に、排排水処理槽1のうち溶剤を貯留している層加温装置1bによって加温することによって、洗浄溶剤貯留部内の洗浄溶剤を気化させて溶剤供給/回収槽2に移動させ、該気化溶剤は冷却装置によって凝縮された後、該溶剤供給/回収槽内に貯留され、前述のゲルビーズの再生処理に再使用される。
【0040】
一方、洗浄溶剤貯留部に残存する汚濁物質は、該貯留部に配設された汚濁物質取り出し口から系外へ適宜排出させ、脱水処理等に付して取り扱いに適した固形物にした後、廃棄処分することができる。
【0041】
以上のように、使用済みゲルビーズの洗浄に用いた溶剤と該溶剤中に溶脱した汚濁物質は実質上完全に分離されるので、上記のような洗浄溶剤の使用−回収−再使用のサイクルは適宜繰り返すことができる。
【0042】
又、上記の本発明による使用済みゲルビーズの再生方法においては、従来法において使用される酸、アルカリ又は高濃度塩水等を必要としないので、中和や希釈等の洗浄廃液の処理問題は発生しない。
【0043】
なお、本発明によるゲルビーズを上記の溶剤洗浄処理に付すことによって、アルギン酸ゲル等のゲルを分解する微生物の繁殖が阻止されるために、該ゲルビーズのゲル強度が維持されるという効果が得られる。
【0044】
本発明による吸着性帯磁ゲルビーズを排水処理に使用する場合には、使用後の該ゲルビーズの再生処理に際して特段の経済上及び環境汚染上の問題がもたらされることはなく、又、該ゲルビーズは、排水の処理槽から容易に流出しないだけでなく、吸着剤が有する本来の高い吸着容量を保有する形態で被処理排水中において磁力によって効率よく撹拌できと共に使用後の排水から磁力によって効率よく回収でき、しかも回収後は簡便な再生処理に付すことによって再使用に供することができる。
【0045】
さらに、本発明による吸着性帯磁ゲルビーズを充填した上記の排水処理装置は、活性汚泥法等の通常の排水処理では除去することが困難なCOD成分、褐色成分及びフミン等の汚濁物質の長期間にわたる吸着除去を可能にするので環境保全に貢献するだけでなく、該排水処理装置の使用に際しては、新たな廃液や廃棄物の発生を伴うことなく使用済みゲルビーズを容易に再生させることができるので、該排水処理装置は資源環境の観点からも好ましい排水処理システムである。
【0046】
本発明を以下の実施例によってさらに説明する。
実施例1
アルギン酸ナトリウム2%水溶液200ml中にマグネタイト5gを添加して混合した後、さらに活性炭粉末1g〜10gを添加して混合することにより得られた混合物を、ペリスタリックポンプ等を用いてシリコンチューブ(直径:2mm)から塩化カルシウム10%水溶液中へ滴下することによって、本発明によるゲルビーズを調製した(滴下速度:1.0〜2.0ml/分)。
得られたゲルビーズの粒径と重量を以下の表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
目視観察によれば、得られたゲルビーズは磁力が作用しない場合には排水の水面上に浮遊するが、このような浮遊ゲルビーズは磁力によって容易に沈下させることができた。ゲルビーズが排水の水面上へ浮遊すると該ゲルビーズと排水との接触面積が小さくなり、その排水処理効率は著しく低下するが、本発明によるゲルビーズは磁性が付与されているために、磁力によって容易に沈下させることができ、これによって排水処理効率の低下を防止することができ、又、該ゲルビーズは磁力によって排水から容易に回収することができる。
【0049】
実施例2
畜産排水20mlを入れた三角フラスコ(100ml)内へ実施例1で調製したゲルビーズ20粒を導入し、フラスコ内の内容物を磁力又は攪拌子を用いることにより撹拌することによって、該ゲルビーズの構造維持性を評価した。ゲルビーズの構造維持性は、該ゲルビーズに内包された活性炭の該ゲルビーズ内からの流出量によって評価した。即ち、撹拌によるゲルビーズの崩壊に起因して活性炭が畜産排水中へ流出すると該排水が黒濁するので、該排水の濁度を、分光光度計を用いる吸光度測定により数値化し、該数値によってゲルビーズの構造維持性を評価した(測定波長:660nm)。
得られた結果を以下の表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
表2に示す結果及び目視観察によれば、攪拌子を用いて機械的に撹拌した場合には、ゲルビーズが摩砕することによって内包されていた活性炭粉末が畜産排水中に流出して該排水が黒濁し、該排水の吸光度は経時的に増大したのに対し、磁力で撹拌する場合には、ゲルビーズの崩壊はみられず、10日間経過した後でも、ゲルビーズからの活性炭粉末の流出に起因する吸光度の上昇は見られなかった。
【0052】
実施例3
この実施例においては、本発明によるゲルビーズを用いる畜産排水の処理例を示す。
畜産排水20mlをいれた三角フラスコ(100ml)内へ実施例1に記載の手順に準拠して調製したゲルビーズ20粒を導入し、該三角フラスコをマグネッチクスタラー上に載置し、スタラーによって該三角フラスコ内の内容物を撹拌した(撹拌速度:約60rpm)。ゲルビーズとしては、吸着性粉末としてグラファイトカーボンを5%含有するゲルビーズ、グラファイトカーボンを0.5%含有するゲルビーズ、及びグラファイトカーボンを含有しないゲルビーズを用いた。
処理後、30分、1時間、2時間、3時間及び6時間毎に排水2mlを採取し、排水の400nm及び250nmにおける吸光度を分光光度計で測定した。この場合、400nmにおける吸光度は排水中の色度の指標とし、又、250nmにおける吸光度は排水中の有機態炭素分の濃度の指標とした。
【0053】
測定結果を図3及び図4に示す。
図3及び図4に示す結果から明らかなように、グラファイトカーボンを内包しないゲルビーズを使用した場合には、400nmと250nmにおける吸光度はいずれも低下しなかったが、グラファイトカーボンを5%内包するゲルビーズ及びグラファイトカーボンを0.5%内包するゲルビーズを使用した場合には、試験開始直後より400nmと250nmにおける吸光度は試験開始直後から低下し、該吸光度の低下速度は、グラファイトカーボンの内包量がより多いゲルビーズの方が大きかった。
以上の実験結果は、磁性グラファイトカーボンを内包する本発明によるゲルビーズを使用することによって、排水の退色化と排水中の有機態炭素分の除去が可能となることを示す。
【0054】
実施例4
この実施例においては、本発明によるゲルビーズを用いる農薬含有排水の処理例を示す。
蒸留水にダイアジノン、アラクロール、フェニトロチオン及びクロルフェナピルをそれぞれ1ppmの濃度で溶解させることによって調製した溶液を農薬含有排水とした。100ml容の三角フラスコに農薬含有排水20mlを入れ、実施例1に記載の方法に準拠して調製したゲルビーズ20粒を該排水中へ入れて該排水の処理を行った。この三角フラスコをマグネッチクスタラー上に載置し、スタラーを用いて該排水を約60rpmの速度で撹拌した。ゲルビーズとしては、吸着性粉末としてグラファイトカーボンを5%内包するゲルビーズ、グラファイトカーボンを0.5%内包するゲルビーズ及びグラファイトカーボンを含有しないゲルビーズ用いた。実験の開始後、30分、1時間、2時間、3時間及び6時間毎に試料2mlを採取し、試料中の農薬の濃度を、ガスクロマトグラフィー分析装置を用いて測定した。
【0055】
実験結果を図5に示す。図5から明らかなように、グラファイトカーボンを内包しないゲルビーズを使用した場合には、排水中の農薬の濃度に変化は見られなかったが、グラファイトカーボンを5%内包するゲルビーズ及びグラファイトカーボンを0.5%内包するゲルビーズを使用した場合には、排水中の農薬の濃度は低下した。
以上の実験結果は、磁性粉末と共にグラファイトカーボンを内包する本発明によるゲルビーズを使用するにより、農薬含有排水中の農薬の除去が可能となることを示す。
【0056】
実施例5
この実施例においては、外因性内分泌攪乱化学物質(以下、環境ホルモンという)含有排水の処理例を示す。
蒸留水にノニルフェノールを1μg/mlの濃度で溶解させた溶液を環境ホルモン含有排水とした。100ml容の三角フラスコに農薬含有排水20mlを入れ、実施例1に記載の方法によって調製したゲルビーズ20粒を該排水中へ入れて該排水の処理を行った。この三角フラスコをマグネッチクスタラー上に載置させ、スタラーを用いて該排水を約60rpmの速度で撹拌した。ゲルビーズとしては、吸着性粉末として活性炭を5%内包するゲルビーズ、活性炭を0.5%内包するゲルビーズ及び活性炭を内包しないゲルビーズを用いた。実験の開始後、30分、1時間、2時間、3時間及び6時間毎に試料2mlを採取し、試料中のノニルフェノールの濃度を、ガスクロマトグラフィー質量分析装置を用いて測定した。
【0057】
上記の実験結果を図6に示す。図6から明らかなように、活性炭を内包しないゲルビーズを使用した場合には、試料中のノニルフェノールの濃度に変化は見られなかったが、活性炭を5%内包するゲルビ0ズ及び活性炭を0.5%内包するゲルビーズを使用した場合には、試料中のノニルフェノールの濃度は低下した。
以上の実験結果は、磁性粉末と共に活性炭を内包するゲルビーズを使用することによって、環境ホルモン含有排水中の該環境ホルモンの除去が可能となることを示す。
【0058】
実施例6
ゲルビーズの再生過程において発生した使用済み溶媒を減圧下で40℃まで加温し、揮発した溶媒を10℃の冷却管で冷却することによって凝縮させて回収したところ、ゲルビーズの洗浄に使用した全アセトン200mlのうち、163mlが回収され(回収率:81.5%)、又、回収されたアセトンは汚濁物質を実質上含有せず、使用済みゲルビーズの再生処理に再使用可能であった。
なお、上記のアセトン中に溶脱していた汚濁物質は、アセトンを揮発させた後、固体状残渣(水分:20%以下)として回収された。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明による吸着性帯磁ゲルビーズは主として、例えば、前述の種々の分野における排水を効果的に処理する手段として開発されたものであるが、その他の用途にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明による吸着性帯磁ゲルビーズの模式的断面図である。
【図2】本発明の吸着性帯磁ゲルビーズを用いて排水処理をおこなう場合に好適な排水処理装置の模式図である。
【図3】実施例3における測定結果を示すグラフであって、排水の色度(波長400nmにおける吸光度)と処理時間との関係を示す。
【図4】実施例3における測定結果を示すグラフであって、排水の有機態炭素(波長250nmにおける吸光度)と処理時間との関係を示す。
【図5】実施例4における測定結果を示すグラフであって、(a)は、ゲルビーズとしてマグネタイトと共にグラファイトカーボンを5%内包するゲルビーズを使用したときの処理排水中の農薬の残存率と処理時間との関係を示し、(b)は、ゲルビーズとしてマグネタイトと共にグラファイトカーボンを0.5%内包するゲルビーズを使用したときの処理排水中の農薬の残存率と処理時間との関係を示し、又、(c)は、ゲルビーズとしてマグネタイトのみを内包するゲルビーズを使用したときの処理排水中の農薬の残存率と処理時間との関係を示す。
【図6】実施例5における測定結果を示すグラフであって、排水中のノニルフェノールの残存率と処理時間との関係を示す。
【符号の説明】
【0061】
A 吸着性粉末
B 磁性粉末
C ゲル
1 排水処理槽
2 溶剤供給/回収槽
3 冷却水
4 減圧ポンプ
L1 排水
L2 処理排水
1a ゲルビーズ
1b 加温装置
La1 溶剤供給管
La2 溶剤回収管



【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着性粉末A及び磁性粉末BをゲルCで内包して成る吸着性帯磁ゲルビーズ。
【請求項2】
吸着性粉末Aが、活性炭、グラファイトカーボン、イオン交換樹脂、ゼオライト、シリカゲル、アルミナ、並びに水酸基、アミノ基、カルボキシル基、フェニル基、スルフォ基、ニトロ基及びオクタデシル基の中から選択される少なくとも1種の活性基を有する多孔質担体から成る群から選択される1種若しくは2種以上の吸着性粉末であり、
磁性粉末Bが、マグネタイト、フェライト、鉄粉及び磁性ステンレス粉から成る群から選択される1種若しくは2種以上の磁性粉末であり、
ゲルCが、アルギン酸ゲル、ゼラチンゲル、ポリビニルアルコールゲル、カラギーナンゲル及びポリアクリルアミドゲルから成る群から選択される1種若しくは2種以上のゲルである請求項1記載の吸着性帯磁ゲルビーズ。
【請求項3】
吸着性粉末A及び磁性粉末Bを、ゲルの重量に対して、それぞれ5〜10重量%及び0.5〜10重量%内包する請求項1又は2記載の吸着性帯磁ゲルビーズ。
【請求項4】
下記の工程(i)〜(iv)を含む請求項1から3いずれかに記載の吸着性帯磁ゲルビーズの製造方法:
(i)ゲル基材水性溶液中へ吸着性粉末及び磁性粉末を撹拌下で別々に又は同時に添加し、
(ii)得られる混合物をゲル化剤水性溶液中へ細孔を通して滴下させ、
(iii)該ゲル化剤水性溶液中でゲル化反応をおこない、次いで
(iv)生成する吸着性帯磁ゲルビーズを該ゲル化剤水性溶液から分別する。
【請求項5】
ゲル基材が、アルギン酸、ゼラチン、ポリビニルアルコール、カラギーナン及びポリアクリルアミドから成る群から選択される1種若しくは2種以上のゲル基材であり、
吸着性粉末が、活性炭、グラファイトカーボン、イオン交換樹脂、ゼオライト、シリカゲル、アルミナ、並びに水酸基、アミノ基、カルボキシル基、フェニル基、スルフォ基、ニトロ基及びオクタデシル基の中から選択される少なくとも1種の活性基を有する多孔質担体から成る群から選択される1種若しくは2種以上の吸着性粉末であり、
磁性粉末が、マグネタイト、フェライト、鉄粉及び磁性ステンレス粉から成る群から選択される1種若しくは2種以上の磁性粉末である請求項4記載の方法。
【請求項6】
請求項1から3いずれかに記載の吸着性帯磁ゲルビーズを被処理排水と接触させることを特徴とする排水処理方法。
【請求項7】
請求項6記載の排水処理方法に供した吸着性帯磁ゲルビーズを、該ゲルビーズを実質上溶解させない低沸点有機溶剤を用いて処理することを特徴とする該ゲルビーズの再生方法。
【請求項8】
請求項1から3いずれかに記載の吸着性帯磁ゲルビーズが充填された排水処理槽1及び溶剤供給/回収槽2を具備する排水処理装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−237097(P2007−237097A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−64192(P2006−64192)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)
【Fターム(参考)】