説明

磁性サンプルの精製

本発明は、磁性粒子(M)をサンプル(S)から抽出する方法に関する。サンプル(S)は、液体キャリア(C)に近接して配置され、その液体キャリアは、そのサンプルと不混和性で、重力の影響の下では構成安定であり、前記磁性粒子(M)は、磁場(B)によってサンプル(S)からキャリア(C)へ移動される。好ましくは、前記磁性粒子(M)は、前記キャリア(C)について非湿潤であり、従ってキャリア(C)内で凝集を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体サンプルを処理する方法、装置、及びキットに関し、特に磁性粒子を前記サンプルから抽出するものに関する。
【背景技術】
【0002】
US20070243634A1号は、乳剤の単一液滴を操作することのできる、液滴マイクロアクチュエータ(microactuator)を開示する。ある特定の実施形態では、液滴に含まれる磁性ビーズ(beads)が、磁場によって、装置の表面で固定化される。それから、他の液滴が、その場所へ移動することができ、従って、磁性ビーズを一方の液滴から他方へ移動することが可能になる。しかしながら、説明された装置は、かなり複雑であり、それ故様々なアプリケーションには向いていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
こうした状況に基づき、本発明の目的は、サンプル液体のコンポーネント(component)を簡易に分離する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この目的は、請求項1による方法、請求項5による装置、及び請求項11によるキットにより達成される。好ましい実施形態は、それらの従属請求項で開示される。
【0005】
第1の側面によれば、本発明は、磁性粒子を液体サンプルから抽出する方法に関する。この文脈では、「磁性粒子」の用語は、永久磁石である粒子を含み、磁化可能な粒子、特に微小粒子やナノ粒子(例えば、少なくとも1方向の長さが3nmと5000nmとの間の範囲、好ましくは50nmと1000nmとの間の範囲にある)も含む。液体サンプルは、特に生物学的由来であってもよく、例えば血液や唾液でもよい。本方法は次のステップを含み、これらのステップは、少なくとも1回表示順序で実行することができる。
【0006】
a)液体サンプルから磁性粒子(もし存在するなら)を抽出し、液体キャリアに隣接して、液体サンプルを配置するステップであり、このキャリアは前記サンプルとは不混和性である。そのキャリアは、例えば、そのサンプルが親水性であるときには油溶性である(逆もまた同様)。さらに、そのキャリアは、そのサンプルとは異なる質量密度を有し、重力の影響下で安定するように、サンプルとキャリアは配置される。この文脈では、「重力の影響」は、物体の質量に関する如何なる力をも含み、例えば、より狭い意味での重力や、遠心力のような慣性力をも含む。質量密度の違い及びサンプルとキャリアの不混和性のため、この液体は、混ざることなく安定した態様で互いに隣接して配置することが可能である。好ましくは、サンプルとキャリアは、二つの連続相として存在する(即ち、一方が他方に拡散する形態ではない)。
【0007】
b)磁場を生成するステップであって、前記サンプル内に含まれる磁性粒子をキャリアの中に移動する。そのために、その磁場は、一般的には非ゼロの勾配を有し、それにより一定の力が前記磁性粒子の双極子に及ぼされる。
【0008】
磁性粒子をサンプルからキャリアへ移動させることにより、前記磁性粒子のみを前記サンプルから抽出することが可能となり、他のすべての物質(不純物)が取り残される。従って、磁性粒子をサンプルの残留物から精製することが可能になる。あるいは、もし、実際に、磁性粒子を含まないサンプルに興味があるのなら(例えば、その磁性粒子は有毒物質であるとの理由で)、磁性粒子をサンプルから分離してもよい。いずれの場合でも、本方法は、例えば、単一のサンプル液滴の移動を必要としないので、単純である。更には、磁性粒子は、キャリアとサンプルとの間の境界を介して、直接キャリアに移転され、そのキャリアとそのサンプルは、重力の影響下で、安定した配置で保持される。従って、サンプルの粒子や液滴、又はキャリアを或る表面に中間的に付着させる必要がない。このことは、処理手順を早くし、例えば磁性粒子が表面に接触することによって発生し得る問題を回避する。最後に、本方法は、サンプルとキャリアとの間の充分に大きな境界、その境界は2つの大きな(非拡散)相で存在してもよいが、を提供することにより、たいへん早く実行することが可能である。
【0009】
キャリア相の大きさは、一般的には、その装置の設計によって、0.01と1mlとの間の範囲であってよく、その装置の他の設計基準やユーザの利便性により決定される。サンプルの大きさは、一般的には、その分析課題により、0.01と100mlとの間の範囲とすることができる。生物学的分析の高感度用には、サンプル量は、高く選択されなければならない。本方法が特に有利なのは、キャリア媒体中の粒子をクラスタリングする結果、磁性粒子を、大量から少量へ集中することができることである。キャリア媒体の量は、大部分はサンプル量と関係なく、選択することができる。キャリア相によって転送される必要のある、磁性粒子のクラスターの効果的な量は、その粒子の数とサイズのみに依存し、サンプルの量やキャリアの量には依存しない。従って、非常に高い濃縮係数と精製係数とを本方法により達成することが可能である。一般的な場合には、(a)最初のサンプル量(磁性粒子を有する)と(b)最初のサンプルから抽出された磁性粒子(クラスター)の量の比率が約5:1と約1000:1との間の範囲でよく、好ましくは約50:1と約500:1との間の範囲にある。
【0010】
磁性粒子は、多くの場合は、サンプルの目的コンポーネント(例えば生体分子)に結びつく。本方法は、目的コンポーネントをサンプルから抽出するために使用され、磁性粒子を介して達成される。この重要なアプリケーションは、磁性粒子の移動だけが述べられるとしても、常に以下の説明を含む。
【0011】
多くのアプリケーションでは、キャリア内の磁性粒子の濃縮は、その磁性粒子を不純物及び/又はサンプルから分離するための中間的なステップである。本発明の特定の実施形態によれば磁性粒子は更にキャリアから他方の物質の中へ移動することが望ましく、例えば、試薬の溶液である。磁性粒子の他の物質の中への移動は、様々な方法で達成することが可能であり、例えば、沈殿、及び/又は、適切な磁場により強制的に行うことができる。
【0012】
他の実施形態では、磁性粒子は、キャリアから或る移動デバイス、例えば注射器やピペットに(キャリアが集積された後)吸引される。磁性粒子は、例えば移動デバイスから他の溶液の中へ分配されることもある。
【0013】
サンプルと磁性粒子との間の分離を永続的にするため、サンプルは、磁性粒子がキャリアの中に移動した後、任意的に除去されてもよい。この場合、磁性粒子を更に処理することが、前の分離ステップと同じ容器の中で行うことができる。
【0014】
第2の側面によれば、本発明は、磁性粒子を液体サンプルから抽出する装置に関する。本装置は、以下の要素を有する:。
【0015】
-液体サンプルを供給することができる「サンプルチャンバー(sample chamber)」。そのサンプルチャンバーは、一般的には、中身のない空洞であり、それは開いた空洞でも、閉じた空洞でも、又は、他の空洞に流体接続チャネルによって接続された空洞であってもよい;。
【0016】
-サンプルと混和せず、そのサンプルと異なる質量密度を有する液体キャリアが供給される「キャリアチャンバー(carrier chamber)」であって、そのキャリアチャンバーは、境界でそのサンプルチャンバーに開かれている。その境界は以下では「入口境界」と言われる。更に、そのチャンバーの設計と入口境界は、重力の影響下で、サンプルとキャリアは安定した配置をとることができるようになっており、それらは、この配置の入口境界で互いに接触している。通常の又は標準的な操作の位置調整、例えば実験室の机上では、その入口境界は一般的には水平に向けられるだろう;及び、
【0017】
-磁場生成器、例えば、永久磁石や電磁石で、磁性粒子をサンプルチャンバーからキャリアチャンバーの中へ移動することができる磁場を生成する。好ましくは、少なくとも、この移動の成分は、重力の方向と平行である。その磁場生成器の磁場は、一般的には、サンプルチャンバーからキャリアチャンバーへ向かう磁場の勾配を備えている;。
【0018】
本明細書で説明する装置は、上記で説明された方法を実施することを可能にする。従って、本装置の詳細、効果、及び変更に関するより多くの情報のため、本方法の上記の説明を参照する。
【0019】
本装置の好ましい実施形態によれば、キャリアチャンバーには、液体キャリアが予め充填されている。このことは、本装置のアプリケーションを容易にする。ひとつの操作ステップがユーザから、装置が高い精度と再生産性で実施可能な製造現場へと移転されるからである。従って、ユーザは、サンプルチャンバーに手元のサンプルを充填しさえすればよい。
【0020】
本装置の他の実施形態では、サンプルチャンバーとキャリアチャンバーは、入口境界を有する平面によって分離されている。本装置が、その入口境界が水平になるように配置されるとき、サンプルチャンバーは、前記平面の完全に上方にあり、キャリアチャンバーは前記平面の完全に下方にある、又は逆も同様である。サンプルチャンバーとキャリアチャンバー内の不混和の液体は、重力の影響に従って、一方を他方の上に安定して配置することができる。入口境界と想定される平面の幾何学的に厳密な平面性が(わずかに)逸脱することには、表面張力の影響が考慮されてもよいことに留意すべきだろう(周辺部で境界の反りを生ずることがある)。
【0021】
本装置の他の実施形態によれば、キャリアチャンバーは、境界で第3チャンバーに開いており、その境界は、以下では「出口境界」という。この設計では、入口境界を通してキャリアによって取り上げられた磁性粒子を、第3チャンバーの中へ出口境界を通じてリリースすることができ、そうして、磁性粒子(のみ)がサンプルチャンバーからキャリアチャンバーを介して第3チャンバーへ移動する精製プロセスを実現する。
【0022】
入口境界と出口境界は、好ましくは、互いに平行であってよく(表面張力効果によるわずかな逸脱は別にして)、更に好ましくは共通の平面内に配置されてもよい。
【0023】
液体が「誤った」チャンバーへ進入するのを避けるため(例えば、サンプルがキャリアチャンバーへ進入する)、サンプルチャンバーの(内部)表面は少なくとも部分的にキャリアに反発し、及び/又はキャリアチャンバーの(内部)表面は少なくとも部分的にサンプルに反発する。キャリアチャンバーは、水のサンプルをはじくように、例えば疎水性コーティングを有してもよい。
【0024】
本方法と本装置の両方に関連する発明の好ましい実施形態では、磁性粒子がサンプル(又はサンプルチャンバー)からキャリア(又はキャリアチャンバー)へ移動することには、重量の方向と平行な、少なくとも1つの(ベクトル)成分を含む。そのためには、生成される磁場は、一般的には非ゼロの勾配を有し、それによって磁性粒子の液滴に力が加えられ、その力は、重力の方向の成分を有する。好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上、もっとも好ましくは約100%の力が、重力の方向と平行である。平行であることは、磁力が、重力と同方向又は反対方向に磁性粒子を引っ張ることの可能性があることに留意すべきである。磁性粒子を重力方向と平行に移動させることは、サンプルとキャリアの配置が、重量によって安定化されているので、この移動によって影響を受けない(もしくはほとんど受けない)という効果をもたらす。従って、サンプル及び/又はキャリアを、表面での固定化のような追加的手段によって、固定する必要がない。
【0025】
本方法又は本装置の他の任意的実施形態においては、磁性粒子は、磁場によってキャリアを介して目的ゾーンに移動することができる。目的ゾーンは、例えば、キャリアチャンバーと第3チャンバーの間にある上述した出口境界であってもよい。磁場は、任意的には、磁性粒子をサンプルからキャリアの中に移動した同じ磁場生成器により生成されてもよいし、異なるものでもよい。
【0026】
第3の側面によれば、本発明は、化学物質を備えた液体サンプルを処理するキットに関し、そのキットは、以下の要素を含む:
-磁性粒子;及び
-サンプルと不混和で、サンプルと異なる質量密度を有する液体キャリア。
【0027】
本キットは、上記で説明された方法を実行するための物質を供給すること可能である。従って、本キットの詳細、効果、及び変更に関するより多くの情報のため、本法の上記の説明が、参照される。

【0028】
以下では、本発明のさらなる展開が説明され、それは本発明に基づく方法、装置、及びキットに適用される。
【0029】
サンプルとキャリアとの間の質量密度の相違が大きくなるほど、それらの分離は、重力の影響下でより安定する。従って、質量密度の比率は、好ましくは、1:1.05より大きく、更に好ましくは1:1.15より大きく、もっとも好ましくは1:1.3より大きいだろう。
【0030】
キャリアは、特に、サンプルよりも高い質量密度を有してもよく、所定の安定した構成では、そのサンプルはキャリア上に浮かんでいるほどの高い質量密度だろう。一般的には、キャリアの質量密度は、水のそれよりも高い。
【0031】
液体キャリアは、各種の物質を含んでもよく、その特定の選択は一般的には目的のアプリケーションの条件に依存する。好ましい実施形態では、キャリアは、以下の物質の少なくとも1つを有するか、又は含む:ハロゲン化油、特にフッ化水素又はペルフルオロカーボン(例えば、3M Fluorienert(R) 液体);シリコン油;フルオロシリコン油;脂肪族及び芳香族の炭化水素を含む、炭化水素;及びアルカン。生物学的なアプリケーションでは、フッ化水素は、多くの生物学的物質に相溶性があり、疎水性であり、かつ水溶液よりも高い質量密度を有するので、特に有利である。
【0032】
他の好ましい実施形態では、本方法、本装置、又は本キットに使用される磁性粒子は、対応するキャリアに関して非湿潤である。このことは、例えば、磁性粒子の(表面)物質を適切に選択することにより実現することができ、例えば、もしそのキャリアが疎水性なら、親水性表面物質を選択することによって実現することができる。その逆も同様である。従って、磁場の有効な影響の下で、キャリアに移動した磁性粒子は、共にくっつき、キャリアの中で凝集物を形成する。これにより、磁性粒子は、より大きな量のキャリア内で操作することができるという効果を有し、例えば、集合的にかつ完全にピペットでキャリアから除去することができる。
【0033】
磁性粒子は、好ましくは、サンプル内の目的コンポーネント、例えば、生体分子、化合物、細胞断片又は細胞、ウイルス又はウイルス断片、組織抽出物等々の生物学的物質を特に結合するために適用されてもよい。磁性粒子は、実際に関心のある、そうした目的コンポーネントのためのラベルとして使用することが可能である。このようにして、本発明は、例えば、事実上如何なるコンポーネントもサンプルから選択的に抽出することについて適用可能である。
【0034】
本発明は、更に、上述の本装置及び本キットの使用に関し、分子診断、生物学的サンプル分析、化学的サンプル分析、食品分析、及び/又は法医学的分析のための使用である。分子診断は、例えば、直接的又は間接的に目的の分子に取り付けられた磁性粒子を用いて実現されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
本発明のこれらのそして他の側面は、以下に説明される実施形態から明確であり、その実施形態を参照して解明される。これらの実施形態は、添付の以下の図面を使用して、具体的に説明されるだろう:
【図1】図1は、本発明の第1実施形態の連続ステップを示す;。
【図2】図2は、本発明の第2実施形態の連続ステップを示す;。
【図3】図3は、本発明の例示的装置において実施されるとき、本発明の方法の好ましい実施形態を図示する。
【0036】
図中の同様の参照符号は、同一又は類似の要素を示す。

【発明を実施するための形態】
【0037】
以下では、本発明は、生物学的物質の操作に関して説明されるだろう、しかし本発明はそうしたアプリケーションに限定されるものではない。
多くの分子診断分析において、DNAは、それを検出できる前に、サンプルから集められ、増幅される必要がある。増幅は、PCR反応法RCAやNASBAとして知られている方法により通常生じる。これらの処理においては、その目的DNAが存在するマトリックス(matrix)は、意図した反応を抑制してはならないし、または他の方法で変質させてはならない。
【0038】
しかしながら、患者の物質から得られたサンプルは、複雑な組成を有し、そのDNAは細胞の中に密閉されており、その細胞は、DNAにアクセスしやすいように溶解される必要がある。サンプルのタイプや分析課題によって、粗溶解混合物は、多くの場合では、例えばPCR条件とは両立しない。それゆえ、周知のブーム法(Boom method)のように、洗浄ステップは、しばしば濃縮ステップと組み合わされて導入されてきた。そこでは、Gu-SCNのようなカオトロピック塩が高濃度で加えられ、その混合物は、そのDNAをその表面に結合するシリカ膜を通じて、供給される。すべての塩、プロテイン及び他の不純物は、DNAが再び溶出緩衝液による膜からリリースされる前に洗い流され、PCR反応法へ導入され得る。また、カトロピック塩は、PCRを抑制するので、洗浄は慎重に行われなければならない。洗浄の間の、結合DNAの早期のリリースを防ぐため、エタノール又はアセトンといった非水性溶媒が使用される。これらの溶媒はPCRと干渉するので、蒸発又は遠心分離によりDNA溶出前に除去される。
【0039】
一般には、干渉物質をマトリックスから除去する手順は、改良生物化学反応用のマトリックス(例えば、溶媒)を交換する手順と同じく、「洗浄」と言われる。説明されるPCRの例は、洗浄が重要であることを例示しているが、洗浄ステップは、時間を要し、除去された及び/又は残された、コントロールできない量のため、間違いを誘発する。従って、洗浄や分散ステップの数そして溶媒や溶液の数を減少させる、如何なる測定も、低コストでロバストな検定と装置にはとても望ましい。
【0040】
これらの課題に対処するため、洗浄を実行するための新規な原理が以下に提案される。この原理は、操作された磁性粒子(以下ではビーズ(beads)という)と、サンプル液体と不混和の液体キャリアとを含む。磁性ビーズは、溶解前の細胞又は溶解後のDNAを選択的に捕獲するために特に使用されてもよい。
【0041】
より詳細に前述の原理を説明するため、好ましい具体例が考慮されるだろう、その具体例では、フルオロカーボン液体(FC)が、キャリアとして使用される。そのFCは、水性の生物学的サンプルよりもずっと高い密度を有し、サンプルに関して完全に不混和性である。磁性ビーズとFCは、サンプルに加えられ混ぜられてもよい。アクティブな混合が停止された後、そのFC沈殿物は、連続層を底部に形成する。磁性ビーズは、一般的には選択の目的コンポーネントに少なくとも部分的に結合されており、水性相、即ちサンプルに残存する。磁石を導入することにより、そのビーズは、FC層の中に引っ張られる。ビーズ表面がFCマトリックスと不混和性のとき、そのビーズは、その磁石が取り除かれたとしても、とてもコンパクトな形態でFC層の中に存在する。結果的に、そのビーズと、それに結合した目的物(ターゲット)は、クリーンな環境の中にある。如何なる種類の不純物も、そのサンプルからそのFC相へは混入せず、如何なる追加的洗浄ステップも必要でない。
【0042】
上述の方法(例えば、約1850kg/m3の質量密度で3M製のFC40 Fluorinert(R))に適したフルオロカーボンは、水性溶液との組み合せにおいて有利な反応をしめす。フルオロカーボンは、不混和性であり、混合されると直ちに分離し、FC相は容器の底部で直ちに凝集する。
【0043】
更には、一般的には生物学的アプリケーションに使用される磁性ビーズは、FC内では拡散しないが、水の中で拡散する。その磁性ビーズは、例えば、超常時性ビーズでもよく、それは強磁性体粒子(例えば、酸化鉄Fe2O3)を含み、高分子マトリックス(例えば、ポリスチレン)の中に埋め込まれ、その粒子の大きさは、その超常時性体の直径未満、例えば、約5nmから15nmである。そうした磁性ビーズを磁石で活性化すると、そのビーズは、その磁石のほうへ移動し、例えば、容器の壁でまとまる。このクラスターや凝集は、容器の壁から、壁に沿って、水からFC相へ移動することができる。一旦FC相の中に入ると、かりに磁石が取り除かれても、そのビーズは凝集された状態のままである。この凝集は、そのFCと一緒に、ピペットによりいかなる損失もなく吸引することができる。水性の溶液と振動を加えると、そのビーズは、FC相内の如何なる損失もなく、直ちに水相内で拡散する。このことは、作業台の上ではとても便利な手順を採ることができることを意味し、洗浄ステップとビーズの損失がなくてすむ。ビーズの凝集は、完全にそして簡易にその容器から除去されるので、新しい容器に、損失なく移動することが可能である。こうして、容器の壁に張り付きがちな不純物も効率的に除去される。
【0044】
図1は、前述の手順についての以下の連続ステップを例示する:。
【0045】
a)サンプルS、キャリアC(例えば、フルオロカーボン)及び磁性粒子Mを同じチャンバー内で混ぜ合わせるステップであって、そのチャンバーはここでは試験管10で表される。そのサンプルSは、関心のある目的コンポーネントT(例えばDNA鎖)を含み、その目的コンポーネントTが特にその磁性粒子Mに結合する。更に、そのサンプルは、記号Xで要約される各種の物質(不純物)を含む。
【0046】
b)サンプルSとキャリアCは、不混和性であり、キャリアCはサンプルよりも高い濃度を有するので、キャリアCは、最終的には、重力の影響下で分離し、サンプルチャンバー10の底部でまとまるだろう。このプロセスは、加速化するため及び/又は質量密度のより小さな相違を利用するため、遠心分離機の中で行ってもよい。
【0047】
c)磁性粒子Mは、キャリアに隣接した磁石1によって生成される磁場B(非ゼロの勾配を有する)に助けられ、サンプルSからキャリアCへ移動される。その結果生じる、磁性粒子Mの移動の間、サンプルとキャリアの相は、その配置は重力の影響で安定的に決まるので、その場所にとどまる。磁性粒子は、キャリアに関しては非湿潤なので、キャリア相内でクラスター又は凝集を形成する。この凝集の安定性のため、磁性粒子がキャリア内にあるとすぐに、磁石は、取り除かれてもよく、スイッチオフされてもよい。
【0048】
d)サンプルは、ピペット12で吸引され、キャリアCは、磁性粒子Mの凝集と共に残される。
【0049】
e)最後に、試験管10は、次の水性の試薬Lで満たされ、磁性粒子M及び/又はそれに結合した目的コンポーネントTにより、意図する手順が続けられる。
【0050】
ステップd)の別のステップとして、キャリアC内のビードクラスター(bead cluster)Mはピペット12で、キャリア層から、サンプルSからの異物なく除去され、別のクリーンな容器(不図示の)へ導入され、分析が続行される。これは、図2で示され、ステップa)、b)及びc)は図1と同一である。しかしながら、ステップd´)及びe´)は、磁性粒子の凝集をキャリアCからピペット12で除去するステップを含む。一般的には、少なくとも幾つかのキャリアは、このステップではピペット12により吸引されるだろう。磁性粒子Mの肉眼で見える量を取り出すことは、この方法の独自の特徴である。磁性ビーズMとキャリアCとの非両立性のため、ビーズは、コンパクトなクラスターで残存し、管やピペットの壁に付着せず、その結果何も失われることはない。
【0051】
一体化した装置では、磁性ビーズは、同様の方法で集められてもよく、ビーズは基質を通じて磁場へさらされることにより、同様の方法で集められてもよい。はじめに、FC相と水相とが分離される必要がある。これは、一体化したサンプル容器内で実現することができ、その容器の底部は、ミクロな流体環境に接続されるチャネルを有することができる。
【0052】
そうした一体化した装置100の特定の一実施形態が、図3の断面図で示される。本装置100は、以下の要素を有する:。
【0053】
サンプルチャンバー120。この図では示されないが、サンプルチャンバー120は、一般的には、対応するチャネルによって、装置の他の要素、例えば、入口と接続されるだろう。
【0054】
サンプルチャンバー120の(図示された一般的な装置100の配置では、重力に対して)下に配置されたキャリアチャンバー110。このことは、(水平な)平面Eが、そのサンプルチャンバー120が完全にその平面(定義からすればそれは無限に伸びる)の上に、そのキャリアチャンバー110が完全にこの平面の下にあるように存在することを意味する。従って、サンプルチャンバー120とキャリアチャンバー110の間の「入口境界」121は、平面E内にある。キャリアチャンバー110は、そのサンプルチャンバー120の下に横たわる第1コンパートメント(compartment)111を有する。その第1のコンパートメントは、入口境界に隣接する。さらに、キャリアチャンバー110は、チャネル部分112を有し、そのチャネル部分は、第1コンパートメント111を、次に説明する第3チャンバー130の下にある第2コンパートメント113に接続する。
【0055】
前述のキャリアチャンバー110のチャネル部分112の他端部に配置される第3チャンバー130であって、その第3チャンバーはサンプルチャンバー120と同様の構造を有する。図示の実施形態では、第3チャンバー130全体は、平面Eの上に位置し、「出口境界」131が平面Eの中に横たわり、その境界はキャリアチャンバー110の第2コンパートメント113に向かう境界を含む。
【0056】
詳述する装置100については、以下のステップの順序は、図3a)からd)に図示されるように実行することが可能である:。
【0057】
a)サンプルチャンバー120内でサンプルSに磁性粒子Mを供給するステップ。さらに、キャリアチャンバー110はキャリアC、例えばフルオロカーボンで満たされ、一方で第3チャンバー130は或る他の物質Lで満たされる。サンプルSと物質LはキャリアCとは不混和なので、異なる相は分離し、入口境界121と出口境界131でそれぞれ互いに接触する。
【0058】
b)磁性粒子Mは、磁石101によって、サンプルSからキャリアチャンバー110の第1コンパートメント111の中へ引っ張られ、そこでクラスターを形成する。
【0059】
c)磁石101をチャネル112に沿って、第3チャンバー130の下にある第2コンパートメント113へ移動させることにより、磁性粒子Mのクラスターはそれに応じて移動する。磁石101を実際に移動させる代わりに、定常場生成器(例えば、電磁石)によって生成された磁場を変化させるだけでも勿論可能であるし、及び/又は、チャネル112にそって静磁場(勾配)を確立することも可能である。ミクロ流体の設定における壁の近接性のため、キャリアチャンバーでは、水相によってチャネルが湿るのを回避するように配慮されなければならない。これは、例えば、湿潤を防ぐ幾何的移行によって、又は疎水性のチャネル壁によって達成することが可能である。
【0060】
d)磁場をスイッチオフにすることにより(又は磁石101を取り除くことにより)、磁性粒子Mは、リリースされ、すぐに試薬Lの中へ拡散する。その試薬は、例えば、緩衝溶液であってもよい。さらに処理ステップを、その分析を続行するように付加することができる。
【0061】
磁性ビーズMとキャリアCとは、様々な形態のサンプルSにより、例えば、振動により無作為に混合された別々の存在として供給することが可能であり、又は、段階的に、まずキャリアを、続いて磁性ビーズを、例えば緩衝の水溶液に導入することにより、又は、最初に磁性ビーズを導入しその後にこの混合物を容器のキャリア層に加える等々により供給することができる。サンプルは、すでに外部で混合された磁性ビーズMとキャリアCと共に導入されるなら、そのキャリア相は、容器の底部に自然にあつまり、その容器の底部には、キャリアチャンバー110の第1コンパートメント111が位置し、その容器の最も低い部分をカバーする。あるいは、本流体システムは、キャリアCで予め充填されることも可能である。フルオロカーボンのようなキャリアは、不揮発性であり、その壁を介して拡散しない、これにより長期の保存期間が可能になる。所定の方法は、ある特定のミクロ流体の配置により、拡散してよくコントロールされた液滴の形態でFC物質を供給するものである。
【0062】
また、磁性ビーズMは、任意的に本装置100に保存されてもよい。磁性ビーズがキャリア相の中に引っ張られる前に、磁気操作の構成例は、培養用に磁性ビーズをサンプル溶液と混合するために使用することができる。
【0063】
磁石101を備えたアクティブな移送に代わって、例えば、あるバルブ(不図示の)を開放することにより、磁性粒子クラスターを含むキャリア相を、従来どおり、移送することができる。
【0064】
以下において、特定の具体例は、図3の例に類似のカートリッジによって実施されたものであるが、傾斜した底の代わりに、キャリアチャンバーの段階的な移行で実施されるだろう。カルボキシル化されたビーズは、脱塩水(demi water)内で拡散された。フルオロカーボンFC40(3Mから入手可能)は、接続チャネルと容器の底部をちょうど満たすような量で、カートリッジに挿入された。ビーズ溶液がそれに加えられた。FC40は非常に高濃度を有するので、底部の層を形成した。永久磁石が溶液の下を移動するとすぐに、水相は、わずかに引き下げられ、傾いた境界が形成された。磁性ビーズは、それが所定の濃度に達するまで水相に集まった。その濃度に基づいて、ビーズのクラスターがFC相へ引っ張られた。
【0065】
磁石をチャネルの方向へ移動させるとすぐに、磁性ビーズが後に続き、完全に親水性なクラスターを疎水性FCマトリックスの中に形成した。このクラスターは、とても低い抵抗で、低い粘度のFC流体を通じて、水を引きずることなく、チャネルの出口へ移動されるだろう。出口では、ビーズは、水相へ引っ張り戻されるだろう。
【0066】
第2の実験では、入口での移行は、水のテール(tail)がビーズのクラスターにそって境界で引きずられるよう別の方法で行われた。そのテールは、ビーズに付着したままであったが、オリジン(origin)の容器への結合は失われた。この側面は、潜在的な不純物の量を最小化するのに重要であって、その不純物は、生物学的分析における精製ステップのためビードクラスターに付着するかもしれない。
【0067】
要約すると、液体フルオロカーボン(FC)のようなキャリアを、サンプル調整用に操作される磁性ビーズと組み合わせて、洗浄ステップに替わって使用することが提案される。磁性ビーズは、生物学的サンプルから得られた細胞又は生体分子を選択的に捕捉するために使用されてもよい。キャリア液体と磁性ビーズは、サンプルと混合される。そのキャリアは、一般的には水性のサンプル量の下で、連続層を形成する。そのビーズは、そのキャリアの中へ引っ張られ、すべての不純物をそのサンプル内に残す。そのキャリアは、一般的には、非常に高い密度を有し、サンプルと不混和であり、そして、不純物は、キャリアとは完全に不混和である。その後、ビーズとキャリア(その部分)は、分析を続行するための次のセクションにアクティブに移動できる。本システムは簡易であり、重力に基づく。処理に依存する表面張力、及び/又は、保存期間の問題は発生しない。サンプルとキャリア相との間の境界は、効率的な移動のために大きく作ることができる。FCのようなキャリアは、サンプルの中へ混入され、自動的に相分離し、底部層を形成するだろう。
【0068】
本発明の装置及び方法は、例えばバイオセンサー(biosensor)として応用され、分子診断(伝染病や腫瘍等の)用のサンプル調整、免疫検知、ラボオンチップ(lab-on-a-chip)、又はポイントオブケア(point-of-care)テストで使用することができる。
【0069】
最後に、本出願では、「含む」の語は、他の要素やステップを除外せず、「一つの」の語は、複数を除外せず、単一のプロセッサ又は他のユニットは、幾つかの手段の機能を実現してもよい。本発明は、新規な特徴の一つ一つ及びその特徴の全ての組み合わせに存在する。さらに、特許請求の範囲の中の参照符号は、特許請求の範囲の適用範囲を限定するものとして解釈されるべきでない。
【図1a)】

【図1b)】

【図1c)】

【図1d)】

【図1e)】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体サンプルから磁性粒子を抽出する方法であって:
a)前記液体サンプルを液体キャリアに近接して配置するステップであり、前記液体キャリアは、前記液体サンプルと不混和であり、前記液体サンプルとは異なる質量密度を有し、当該配置は重力の影響下で安定しているような、ステップ;及び
b)前記磁性粒子を前記液体サンプルから前記液体キャリアへ移動させる磁場を生成するステップ;
と有する、方法。
【請求項2】
前記磁性粒子は前記液体キャリアから他の物質へさらに移動される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記液体キャリア内の前記磁性粒子は、移動デバイスによって吸引される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記液体サンプルはステップb)の後に除去される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
液体サンプルから磁性粒子を抽出する装置であって:
前記液体サンプルが供給されるサンプルチャンバー;及び
前記液体サンプルと不混和であり、前記液体サンプルとは異なる質量密度を有する液体キャリアが供給されるキャリアチャンバー;
を有し、
前記キャリアチャンバーは、前記サンプルチャンバーに入口境界で、前記液体サンプルと前記液体キャリアが、重力の影響下で、安定した配置となるように開いており、その配置では前記液体サンプルと前記液体キャリアが前記入口境界で接触しており;及び
磁性粒子を前記サンプルチャンバーから前記キャリアチャンバーへ移動させることのできる、磁場を発生する磁場発生器;
を有する、装置。
【請求項6】
前記キャリアチャンバーには前記液体キャリアが予め満たされている、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記キャリアチャンバーは、出力境界で第3チャンバーに開いている、請求項5に記載の装置。
【請求項8】
前記サンプルチャンバーの表面は、少なくとも部分的に前記液体キャリアに反発し、及び/又は、前記キャリアチャンバーの表面は、少なくとも部分的に前記液体サンプルに反発する、請求項5に記載の装置。
【請求項9】
前記磁性粒子の前記液体サンプルから前記液体キャリアへの移動の少なくとも1つの成分は、重力の方向と平行である、請求項1の方法又は請求項5の装置。
【請求項10】
前記磁性粒子は前記磁場により前記液体キャリアを介して目的ゾーンに移動可能である、請求項1の方法又は請求項5の装置。
【請求項11】
液体サンプルを処理するための物質を備えたキットであって:
磁性粒子;及び
前記液体サンプルと不混和であり、前記液体サンプルとは異なる質量密度を有する液体キャリア、
を有する、キット。
【請求項12】
前記液体キャリアは前記液体サンプルよりも高い質量密度を有する、請求項1の方法、請求項5の装置又は請求項11のキット。
【請求項13】
前記液体キャリアは、ハロゲン化油、特にフルオロカーボン又はペルフルオロカーボン、シリコン油、フルオロシリコン油、炭化水素、特に脂肪族又は芳香族の炭化水素、及びアルカンからなるグループから選択された少なくとも1つのコンポーネントを有する、請求項1の方法、請求項5の装置又は請求項11のキット。
【請求項14】
前記磁性粒子は前記液体キャリアに対して非湿潤である、請求項1の方法、請求項5の装置又は請求項11のキット。
【請求項15】
前記磁性粒子は特に前記液体サンプルのコンポーネントを結合する、請求項1の方法、請求項5の装置又は請求項11のキット。

【図2】
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【図3a)】
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【図3b)】
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【図3c)】
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【図3d)】
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【公表番号】特表2013−506552(P2013−506552A)
【公表日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−532688(P2012−532688)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【国際出願番号】PCT/IB2010/054330
【国際公開番号】WO2011/042828
【国際公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】