説明

磁性トナー

【課題】 高温高湿環境下や常温低湿環境下でもスリーブ汚染を抑制でき、更に1週間放置後の大粒径カブリを抑制し、安定した画像を得られる磁性トナーを提供する。
【解決手段】 結着樹脂及び磁性酸化鉄粒子を含有する磁性トナーであって、
該結着樹脂がポリエステルユニットを含有し、
該トナーは、
i)40℃、100kHzにおける誘電損率が0.50pF/m以上0.90pF/m以下であり、
ii)真比重が1.50g/cm以上1.85g/cm以下である、
ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真における静電荷像を顕像化するための画像形成方法に使用される磁性トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複写機やプリンター等の画像形成装置に対してオンデマンド印刷の要求が強まり、より高速化、高画質化、高信頼性を備えたトナーが求められている。更に、使用される環境は多様化しており、様々な環境下で使用された場合でも、安定した画像を提供できるトナーが求められている。
【0003】
画像形成システムの内、現像方式はシンプルな構造の現像器でトラブルが少なく、寿命も長く、メンテナンスも容易なことから、一成分現像方式が好ましく用いられる。
【0004】
一成分現像方式にはいくつか手法が知られている。その中の一つに磁性トナーを用いたジャンピング現像法がある。ジャンピング現像法は、摩擦帯電によって帯電した磁性トナーを交流の現像バイアスを用いて感光体上に飛翔させて、感光体上の静電荷像をトナー画像として顕像化する方法である。
【0005】
ジャンピング現像法を用いて、高画質な画像を得る為には、磁性トナーの帯電特性が重要となる。しかしながら、一般に磁性トナーの帯電特性は使用環境によって大きく異なる。例えば、常温低湿環境下においては、磁性トナーの帯電量は高くなる傾向がある。高い帯電量を有する磁性トナーは鏡像力によってスリーブ上に付着する、いわゆるスリーブ汚染が発生し易い。スリーブ上に付着した磁性トナーは、他の磁性トナーとスリーブとの摩擦帯電を妨害する。結果として、濃度が低下して、高画質な画像を得ることができない場合がある。
【0006】
また、高温高湿環境下においては、磁性トナーの帯電量は低くなる傾向がある。加えてオフィスの長期休暇等を考えると、1週間程度稼動せず、放置される状況もしばしば見受けられる。1週間放置された場合、磁性トナーの帯電は緩和される為、静電反発力が弱まり、凝集塊が発生し易くなる。その結果、凝集塊が非画像部へ飛翔する、いわゆる大粒径カブリという画像弊害を発生する場合がある。
【0007】
また、常温低湿環境下でも放置後に帯電が緩和した状態ならば、大粒径カブリは発生し易いし、高温高湿環境下では、少しのスリーブ汚染でも濃度が低下する場合があった。
【0008】
こうした課題に対して、磁性トナーの帯電特性を制御する為に種々の検討がなされてきた。特に、ジャンピング現像法の如く交流の現像バイアスに追従して現像される磁性トナーでは、誘電率や誘電損率及び誘電正接の値が重要であり、それらの特性を制御することで安定した画像を得る手法がいくつか提案されている。
【0009】
例えば、特許文献1では、誘電正接と平均円形度を所望の範囲に納めることで、高温高湿環境下においても優れた現像性を有する磁性トナーが開示されている。しかしながら、特許文献1に提案されている誘電正接の値から考えると、常温低湿環境下では、帯電量が高くなり易く、スリーブ汚染を発生する場合がある。
【0010】
また、特許文献2では、磁性トナーの粒径や真比重などと共に、磁性トナーと外添剤の誘電率を規定することで、ドット再現性に優れ、カブリの少ない磁性トナーが開示されている。しかしながら、特許文献2に提案されている磁性トナーは通常使用下においては、良好な現像性を示すものの、高温高湿環境下で1週間放置すると、大粒径カブリが発生する場合があり、更なる改善の余地がある。
【0011】
また、特許文献3では、グリシジル基を有する樹脂を用いた磁性トナーにおいて、誘電率や誘電正接を規定することで、両面出力においても安定した画像が得られる磁性トナーが開示されている。しかしながら、特許文献3に提案されている磁性トナーも高温高湿環境下で1週間放置すると、大粒径カブリが発生する場合がある。
【0012】
以上のように、常温低湿環境下や高温高湿環境下等の磁性トナーの帯電特性が異なる環境下において、安定した画像を得る為には、技術的課題は非常に多い。加えて1週間放置は日常の中でしばしば見られる状況であるが、磁性トナーの帯電緩和が進む為、特に厳しい条件となる。これらの環境下で安定した画像を得る為には、更なる改良の余地を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2006−30881号公報
【特許文献2】特許第4136899号公報
【特許文献3】特許第4307297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は上記問題点を解消した磁性トナーを提供することにある。即ち、磁性トナーの帯電特性の異なる環境下でもスリーブ汚染や大粒径カブリを抑制し、安定した画像を得られる磁性トナーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、結着樹脂及び磁性酸化鉄粒子を含有する磁性トナーであって、
該結着樹脂がポリエステルユニットを含有し、
該トナーは、
i)40℃、100kHzにおける誘電損率が0.50pF/m以上0.90pF/m以下であり、
ii)真比重が1.50g/cm以上1.85g/cm以下である、
ことを特徴とする磁性トナーに関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、磁性トナーの誘電損率と真比重を一定の範囲に制御することで、高温高湿環境下や常温低湿環境下でもスリーブ汚染を抑制することができる。更に、1週間放置後の大粒径カブリを抑制し、安定した画像を得られる磁性トナーを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明者らは、様々な環境下において、大粒径カブリやスリーブ汚染を抑制し、安定した画像を得る為に種々の検討を行った。安定した画像を得る為には、現像バイアス電圧印加中における磁性トナーの挙動を制御する必要がある。その手法の一つとして、従来、磁性トナーの帯電量を制御する方法が考案されてきた。しかしながら、磁性トナーの帯電性能を変化させると、使用環境によっては帯電量が大きく変化する場合がある。帯電量が変化すると、現像性等へ与える影響は大きく、安定した画像を得ることは困難であった。
【0018】
そこで、本発明者らは上記課題を解決する為に、現像バイアス中での磁性トナーの挙動を制御する因子について帯電量以外の検討を行った。その結果、磁性トナーの帯電量ではなく、分極能を制御することで、様々な環境下において、スリーブ汚染や大粒径カブリを抑制できることを見出した。
【0019】
すなわち、本発明の磁性トナーは、結着樹脂及び磁性酸化鉄粒子を含有する磁性トナーであって、
該結着樹脂がポリエステルユニットを含有し、
該トナーは、
i)40℃、100kHzにおける誘電損率が0.50pF/m以上0.90pF/m以下であり、
ii)真比重が1.50g/cm以上1.85g/cm以下である、
ことを特徴とする磁性トナーである。
【0020】
要するに、結着樹脂にポリエステルユニットを含有した磁性トナーの誘電損率と真比重を上記範囲内に制御することが本発明の特徴である。誘電損率とは、後にも述べるが磁性トナーの分極能の指標として考えることができる。磁性トナーの分極能に加えて、真比重を制御することで、現像バイアス中の磁性トナーの挙動を制御でき、スリーブ汚染や大粒径カブリが良好となることを見出した。
【0021】
誘電損率とは、一般的に電界に対する分極の応答性を示す値である。誘電損率が高いとは電界に対する分極の応答性が鈍くなり、その抵抗が熱として損失することを示す。
【0022】
磁性トナーの誘電損率は結着樹脂と磁性酸化鉄粒子の物性に依存する。加えて、磁性トナー中の磁性酸化鉄粒子の分散性にも依存する値である。磁性酸化鉄粒子の分散性に着目した場合、磁性酸化鉄粒子の分散状態での径(凝集状態にある場合には、凝集体径が測定される。)が大きいと誘電損率が高くなる傾向がある。磁性酸化鉄粒子は導電体なので帯電のリークサイトとして考えられる為、その分散性を示す誘電損率は帯電の保持性能の指標として用いられてきた。
【0023】
本発明における誘電損率の測定周波数を100kHzとした理由は、樹脂と磁性酸化鉄粒子の誘電損率を測定する上で粒子レベルでの分極能を示すために必要な周波数だからである。誘電損率の測定温度を40℃とした理由は、連続通紙している際のスリーブ近傍の温度を想定して設定した。
【0024】
本発明における誘電損率は、従来よりも高い値で制御している。その結果、電界に対する分極の応答性が鈍くなっていると考えられる。分極の応答性を鈍くするということは、電界から受ける力に対して分極し難くなる、ということである。
【0025】
ところで、1週間放置して磁性トナーの帯電が緩和した時に発生する凝集力は、磁性トナーの分極によって起こる静電引力が支配的であると考えられる。すなわち、誘電損率を従来より高い値で制御することで、帯電が緩和した状態で電界中に置かれても、静電的な凝集塊の発生を抑制することができると考えられる。
【0026】
更に、誘電損率は磁性トナーの帯電保持性能にも関係があり、誘電損率が高いと過剰な帯電を防止すると考えられる。その結果、スリーブ上で発生する鏡像力を抑制でき、スリーブ汚染も良好になったと考えられる。
【0027】
本発明における誘電損率は0.50pF/m以上0.90pF/m以下、好ましくは0.60pF/m以上0.80pF/m以下である。0.90pF/mより高いと、分極の応答性が鈍くなりすぎる。更に、所望の帯電量を有さない場合がある。その結果、現像バイアスに追従しなくなり、濃度が薄くなる場合がある。また、0.50pF/mより小さいと、分極の応答性が高くなり、大粒径カブリが発生し易くなる。
【0028】
本発明における誘電損率は以下の方法で測定される。
4284AプレシジョンLCRメーター(ヒューレット・パッカード社製)を用いて、1kHz及び1MHzの周波数で校正後、周波数3kHz及び100kHzにおける複素誘電率の測定値から誘電損率を算出する。
【0029】
磁性トナーを1.0g秤量し、19600kPa(200kg/cm)の荷重を2分間かけて、直径25mm,厚さ1mm以下(好ましくは0.5乃至0.9mm)の円盤状の測定試料に成型する。この測定試料を直径25mmの誘電率測定治具(電極)を装着したARES(レオメトリック・サイエンティフィック・エフ・イー社製)に装着し、温度70℃まで加熱して溶融固定する。その後、温度40℃まで冷却し、0.49乃至1.96N(50乃至200g)の荷重をかけた状態で周波数3kHz及び100kHzとして測定することにより、誘電損率は得られる。
【0030】
本発明の効果は、誘電損率だけを上記範囲に制御しても十分には得られない。誘電損率と合わせて真比重を制御することが本発明の効果を得る上で必要である。
【0031】
磁性トナーの真比重は、結着樹脂と磁性酸化鉄粒子の特性に加えて、それらの混合比に依存する値である。真比重は磁性トナーの重さを示す指標として用いることができる。磁性トナーが重いと電界から力を受けても感度は鈍い。逆に軽いと、小さな力に対しても敏感な感度を示すと考えられる。
【0032】
真比重は1.50g/cm以上1.85g/cm以下、好ましくは1.60g/cm以上1.80g/cm以下である。真比重が1.85g/cmより高くなると、磁性トナーが重すぎて、電界から受ける力に対する応答が鈍くなる。その結果、スリーブに蓄積し易くなり濃度が薄くなる。また、1.50g/cmより小さくなると、磁性トナーが軽くなる為、磁性トナー間の静電的な引力にも敏感に反応し凝集塊を生成し易くなる。その結果、大粒径カブリが発生する場合がある。
【0033】
本発明における真比重は以下の方法で測定される。
ヘリウムによるガス置換式のアキュピック1330(島津製作所社製)を用いる。測定法は、ステンレス製の内径18.5mm、長さ39.5mm、容量10cmのセルに、測定サンプルを4g入れる。次いで、試料セル中の磁性トナーの容積をヘリウムの圧力変化によって測定し、求められた容積とサンプルの重さから磁性トナーの密度を求める。
【0034】
誘電損率と真比重を制御する為に、結着樹脂はポリエステルユニットを含有することが必須である。その理由としては、ポリエステル系の樹脂は誘電損率が比較的高いからである。更に、ポリエステル系の樹脂は、磁性酸化鉄粒子との親和性が高く、溶融混練過程での磁性酸化鉄粒子の分散性に優れている。このように、ポリエステルユニットを含有することは、制御を行う上で好ましい為である。
【0035】
以上をまとめると、本発明の最大の特徴は、現像バイアス中の磁性トナーの挙動を制御する為に、磁性トナーの帯電量ではなく、分極能と真比重の値の制御に着目したことである。その結果、様々な環境下において、大粒径カブリやスリーブ汚染を抑制し、安定した画像を得られることを見出した。
【0036】
また、本発明の磁性トナーは40℃、3kHzにおける誘電損率が0.20pF/m以上0.50pF/m以下であることがより好ましい。この範囲に制御することで、スリーブ汚染や大粒径カブリをより効果的に抑制することができる。
【0037】
測定条件の3kHzとは、現像バイアスの周波数近傍の値である。誘電損率は、現像バイアスにおける分極の応答性の指標として考えることができる。0.50pF/mより高い場合は現像バイアスに対する分極の応答性が鈍すぎて、スリーブ汚染が悪化する場合があり、0.20pF/mより小さい場合は分極の応答性が良すぎて大粒径カブリが悪化する場合がある。
【0038】
また、本発明における磁性トナーは、79.58kA/m(1kエルステッド)印加での飽和磁化が10Am/kg以上30Am/kg以下であることが好ましく、14Am/kg以上28Am/kg以下がより好ましい。1kエルステッドとは、スリーブの表面における磁力を想定した値であり、この磁場における飽和磁化は、磁性トナーがスリーブに磁気的に拘束される力の指標として考えられる。磁性トナーの飽和磁化を上記範囲内に制御することで、スリーブ汚染や大粒径カブリをより効果的に抑制でき、安定した画像濃度を得ることができる。磁性トナーの飽和磁化は、使用する磁性酸化鉄粒子の飽和磁化と、磁性トナー中の磁性酸化鉄粒子の含有量によって制御することができる。
【0039】
本発明における磁性トナーの磁気特性は、25℃、外部磁場79.6kA/mの条件下において振動型磁力計、例えばVSM P−1−10(東英工業社製)を用いて測定することができる。
【0040】
また、該ポリエステルユニットのアルコール成分が、脂肪族アルコールを80mol%以上含有することがより好ましい。その理由は、本発明における誘電損率と真比重のバランスの制御がより容易になる為に、大粒径カブリやスリーブ汚染をより効果的に抑制することができる。尚、“ポリエステルユニットのアルコール成分”とは、ポリエステルユニットを構成する成分のうちアルコールに由来する部分のことである。
【0041】
さらに、本発明に使用される結着樹脂としては、分子の一部分を配向させて結晶性を持たせたポリエステル樹脂が好ましく、その中でも特に線状ポリエステルが良い。分子の一部分を配向させて結晶性をもたせることで、配向という強い相互作用によって、周りの分子を動き難くすることができる。これにより、磁性トナーの分極の応答性を鈍く設計することができる。
【0042】
本発明において特に好ましく用いられる線状ポリエステル樹脂の成分は以下の通りである。
2価の酸成分としては、以下のジカルボン酸又はその誘導体が挙げられる。フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、無水フタル酸の如きベンゼンジカルボン酸類又はその無水物又はその低級アルキルエステル;コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸の如きアルキルジカルボン酸類又はその無水物又はその低級アルキルエステル;n−ドデセニルコハク酸、n−ドデシルコハク酸の如きアルケニルコハク酸類もしくはアルキルコハク酸類、又はその無水物又はその低級アルキルエステル;フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸の如き不飽和ジカルボン酸類又はその無水物又はその低級アルキルエステル。
【0043】
本発明は上述したとおり、結着樹脂の分子鎖の一部を配向させることが好ましい。そのため、堅固な平面構造をとり、π電子系により非局在化した電子が豊富に存在することで、π−π相互作用により分子配向しやすい芳香族ジカルボン酸が好ましい。
【0044】
特に好ましくは直鎖構造をとりやすいテレフタル酸、イソフタル酸が良い。この芳香族ジカルボン酸の含有量はポリエステル樹脂を構成する酸成分100mol%中50mol%以上であることがより分子配向し易くなる為、好ましい。
【0045】
2価のアルコール成分としては、以下のものが挙げられる。エチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)、水素化ビスフェノールA、式(1)で表されるビスフェノール及びその誘導体:
【0046】
【化1】

【0047】
(式中、Rはエチレンまたはプロピレン基であり、x、yはそれぞれ0以上の整数であり、かつ、x+yの平均値は0乃至10である。)
および式(2)で示されるジオール類。
【0048】
【化2】

【0049】
これら中でも、分子の一部を配向させるという観点から、炭素数6以下の脂肪族アルコールを用いることが好ましい。
【0050】
但し、脂肪族アルコールの実を用いるのでは配向が強くなり過ぎてしまう。従って、上記酸とアルコールの組み合わせで得られたポリエステル樹脂の配向を弱める必要がある。そのためには、直鎖構造をとりつつ配向を崩すことが可能な側鎖に置換基を有するネオペンチルグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール等の使用が特に好ましい。
【0051】
線状で且つ分子間相互作用によって部分的に強い配向を示す樹脂としては、示差走査熱量測定により得られるDSC曲線において、吸熱ピークを有することを特徴とする樹脂が好ましい。本発明における結着樹脂としては、温度55℃以上75℃以下に吸熱ピークPを有することがより好ましい。
【0052】
吸熱ピークPはエンタルピー緩和に由来するピークであり、線状の樹脂で特に発現し易い。
本発明で使用される、ポリエステルユニットの成分は、上述の2価のカルボン酸化合物および2価のアルコール化合物以外に、1価のカルボン酸化合物、1価のアルコール化合物、3価以上のカルボン酸化合物、3価以上のアルコール化合物を構成成分として含有してもよい。
【0053】
1価のカルボン酸化合物としては、安息香酸、p−メチル安息香酸等の炭素数30以下の芳香族カルボン酸や、ステアリン酸、ベヘン酸等の炭素数30以下の脂肪族カルボン酸等が挙げられる。
【0054】
また、1価のアルコール化合物としては、ベンジルアルコール等の炭素数30以下の芳香族アルコールや、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベへニルアルコール等の炭素数30以下の脂肪族アルコール等が挙げられる。
【0055】
3価以上のカルボン酸化合物としては、特に制限されないが、トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸等が挙げられる。
【0056】
また、3価以上のアルコール化合物としては、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、グリセリン等が挙げられる。
【0057】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法については、特に制限されるもではなく、公知の方法を用いることができる。例えば、前述のカルボン酸化合物およびアルコール化合物を一緒に仕込み、エステル化反応またはエステル交換反応、および縮合反応を経て重合し、ポリエステル樹脂を製造する。ポリエステル樹脂の重合に際しては、例えば、チタンテトラブトキシド、ジブチルスズオキシド、酢酸スズ、酢酸亜鉛、二硫化スズ、三酸化アンチモン、二酸化ゲルマニウム等の重合触媒を用いることができる。また、重合温度は、特に制限されないが、180℃以上290℃以下の範囲が好ましい。
【0058】
また、結着樹脂は、ポリエステルユニットとビニル系共重合ユニットを化学的に結合したハイブリッド樹脂であってもよい。
【0059】
ポリエステルユニットとビニル系共重合ユニットの混合比は50:50から100:0までの質量比であることが好ましい。ポリエステルユニットが50質量%より少ない場合にはエステル基等の官能基が少なくなり、誘電損率と真比重のバランスの制御が難しくなる。
【0060】
本発明の結着樹脂に用いられるビニル系共重合ユニットを生成するためのビニル系モノマーとしては次のようなスチレン系モノマー及びアクリル酸系モノマーが挙げられる。
【0061】
ビニル系共重合ユニットのモノマーとしては、スチレン系モノマーとしては、スチレン、o−メチルスチレン等が挙げられ、アクリル酸系モノマーとしては、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸−n−ブチル等が挙げられる。
【0062】
前記ビニル系共重合ユニットは、重合開始剤を用いて製造された樹脂であっても良い。上記重合開始剤としては、公知の以下の開始剤が用いられる。例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等が挙げられる。
【0063】
これらの開始剤は、効率の点からモノマー100質量部に対し0.05質量部以上10質量部以下で用いるのが好ましい。
【0064】
このハイブリット樹脂は、ポリエステルユニット及びビニル系共重合ユニットが直接又は間接的に化学的に結合している樹脂である。
【0065】
そのため、ポリエステルユニットとビニル系共重合ユニットの両方のモノマーのいずれとも反応しうる化合物(以下「両反応性化合物」という)を用いて重合を行う。このような両反応性化合物としては、前記の縮重合系樹脂のモノマー及び付加重合系樹脂のモノマー中の、フマル酸、アクリル酸、メタクリル酸、シトラコン酸、マレイン酸、及びフマル酸ジメチル等の化合物が挙げられる。これらのうち、フマル酸、アクリル酸、及びメタクリル酸が好ましく用いられる。
【0066】
両反応性化合物の使用量は、全原料モノマー中0.1質量%以上20質量%以下、好ましくは0.2質量%以上10質量%以下である。
【0067】
本発明においては、磁性トナーに離型性を与えるために必要に応じて離型剤(ワックス)を用いることができる。該ワックスとしては、磁性トナー粒子中での分散のしやすさ、離型性の高さから、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックスの如き炭化水素系ワックスが好ましく用いられる。必要に応じて一種または二種以上のワックスを、少量併用してもかまわない。例としては次のものが挙げられる。
【0068】
酸化ポリエチレンワックスの如き脂肪族炭化水素系ワックスの酸化物、または、それらのブロック共重合物;カルナバワックス、サゾールワックス、モンタン酸エステルワックスの如き脂肪酸エステルを主成分とするワックス類;脱酸カルナバワックスの如き脂肪酸エステル類を一部または全部を脱酸化したもの。さらに、以下のものが挙げられる。パルミチン酸、ステアリン酸、モンタン酸の如き飽和直鎖脂肪酸類;ブラシジン酸、エレオステアリン酸、パリナリン酸の如き不飽和脂肪酸類;ステアリルアルコール、アラルキルアルコール、ベヘニルアルコール、カルナウビルアルコール、セリルアルコール、メリシルアルコールの如き飽和アルコール類;長鎖アルキルアルコール類;ソルビトールの如き多価アルコール類;リノール酸アミド、オレイン酸アミド、ラウリン酸アミドの如き脂肪酸アミド類;メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミドの如き飽和脂肪酸ビスアミド類;エチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N’−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N−ジオレイルセバシン酸アミドの如き不飽和脂肪酸アミド類;m−キシレンビスステアリン酸アミド、N,N−ジステアリルイソフタル酸アミドの如き芳香族系ビスアミド類;ステアリン酸カルシウム、ラウリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウムの如き脂肪酸金属塩(一般に金属石けんといわれているもの);脂肪族炭化水素系ワックスにスチレンやアクリル酸の如きビニル系モノマーを用いてグラフト化させたワックス類;ベヘン酸モノグリセリドの如き脂肪酸と多価アルコールの部分エステル化物;植物性油脂の水素添加によって得られるヒドロキシル基を有するメチルエステル化合物。
【0069】
使用できる具体的な例としては、以下のものが挙げられる。ビスコール(登録商標)330−P、550−P、660−P、TS−200(三洋化成工業株式会社);ハイワックス400P、200P、100P、410P、420P、320P、220P、210P、110P(三井化学株式会社);サゾール H1、H2、C80、C105、C77(サゾールワックス社);HNP−1、HNP−3、HNP−9、HNP−10、HNP−11、HNP−12(日本精蝋株式会社)、ユニリン(登録商標)350、425、550、700、ユニシッド(登録商標)350、425、550、700(東洋ペトロライト社);木ろう、蜜ろう、ライスワックス、キャンデリラワックス、カルナバワックス(株式会社セラリカNODA)。
【0070】
該ワックスを添加するタイミングは、磁性トナーの製造中の溶融混練時において添加しても良いが結着樹脂の製造時であっても良く、既存の方法の添加のタイミングから適宜選ばれる。
【0071】
該ワックスは結着樹脂100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下添加することが好ましい。
【0072】
本発明で用いられる磁性酸化鉄粒子としては、マグネタイト、マグヘマイト、フェライトなどの磁性酸化鉄粒子、及び他の金属酸化物を含む磁性酸化鉄粒子等が挙げられる。従来、四三酸化鉄(Fe)、三二酸化鉄(γ−Fe)、酸化鉄亜鉛(ZnFe)、酸化鉄イットリウム(YFe12)、酸化鉄カドミウム(CdFe)、酸化鉄ガドリニウム(GdFe12)、酸化鉄銅(CuFe)、酸化鉄鉛(PbFe1219)、酸化鉄ニッケル(NiFe)、酸化鉄ネオジム(NdFe)、酸化鉄バリウム(BaFe1219)、酸化鉄マグネシウム(MgFe)、酸化鉄マンガン(MnFe)、酸化鉄ランタン(LaFeO)、鉄粉(Fe)等が知られている。特に好適な磁性酸化鉄粒子は四三酸化鉄又はγ三二酸化鉄の微粉末である。また上述した磁性酸化鉄粒子を単独で或いは2種以上の組合せで選択使用することもできる。磁性酸化鉄微粒子は、結着樹脂100質量部に対して、30質量部以上90質量部以下添加することが好ましく、より好ましくは30質量部以上75質量部以下である。
【0073】
本発明の磁性トナーに使用される磁性酸化鉄粒子の形状は、磁性トナー中の分散性がより良好な八面体がより好ましい。八面体の磁性酸化鉄粒子を用いることで誘電損率と真比重のバランスがより制御し易くなる傾向がある。
【0074】
本発明の磁性トナーには、その帯電特性を安定化させるために電荷制御剤を用いることができる。電荷制御剤は、その種類や他のトナー粒子構成材料の物性によっても異なるが、一般に、トナー粒子中に結着樹脂100質量部当たり0.1質量部以上10質量部以下含まれることが好ましく、0.1質量部以上5質量部以下含まれることがより好ましい。このような電荷制御剤としては、磁性トナーの種類や用途に応じて種々のものを一種又は二種以上用いることができる。
【0075】
磁性トナーを負帯電性に制御するものとしては、以下のものが挙げられる。有機金属錯体(モノアゾ金属錯体;アセチルアセトン金属錯体);芳香族ヒドロキシカルボン酸又は芳香族ジカルボン酸の金属錯体又は金属塩。その他にも、磁性トナーを負帯電性に制御するものとしては、芳香族モノ及びポリカルボン酸及びその金属塩や無水物;エステル類やビスフェノール等のフェノール誘導体が挙げられる。この中でも特に、安定な帯電特性が得られるモノアゾの金属錯体又は金属塩が好ましく用いられる。また、電荷制御樹脂も用いることができ、上述の電荷制御剤と併用することもできる。
【0076】
また本発明の磁性トナーにおいては、無機微粉末として磁性トナー粒子表面に付着して、トナーの流動性を高める効果が大きい、一次粒子の個数平均粒径のより小さいBET比表面積が50m/g以上300m/g以下の流動性向上剤を使用することが好ましい。該流動性向上剤としては、磁性トナー粒子に外添することにより、流動性が添加前後を比較すると増加し得るものならば使用可能である。例えば、以下のものが挙げられる。フッ化ビニリデン微粉末、ポリテトラフルオロエチレン微粉末の如きフッ素系樹脂粉末;湿式製法シリカ、乾式製法シリカの如き微粉末シリカ、それらシリカをシランカップリング剤、チタンカップリング剤、又はシリコーンオイル等により表面処理を施した処理シリカ。
【0077】
無機微粉末は、磁性トナー粒子100質量部に対して0.01質量部以上8質量部以下、好ましくは0.1質量部以上4質量部以下使用するのが良い。
【0078】
本発明の磁性トナーには、必要に応じて他の外部添加剤を添加しても良い。例えば、帯電補助剤、導電性付与剤、流動性付与剤、ケーキング防止剤、熱ローラー定着時の離型剤、滑剤、研磨剤の働きをする樹脂微粒子や無機微粒子である。
【0079】
滑剤としては、ポリ弗化エチレン粉末、ステアリン酸亜鉛粉末、ポリフッ化ビニリデン粉末が挙げられる。中でもポリフッ化ビニリデン粉末が好ましい。研磨剤としては、酸化セリウム粉末、炭化ケイ素粉末、チタン酸ストロンチウム粉末が挙げられる。これらの外添剤はヘンシェルミキサー等の混合機を用いて十分混合し本発明の磁性トナーを得ることができる。
【0080】
本発明の磁性トナーを作製するには、結着樹脂、着色剤、その他の添加剤を、ヘンシェルミキサー又は、ボールミルの如き混合機により十分混合してから加熱ロール、ニーダー、エクストルーダーの如き熱混練機を用いて溶融混練し、冷却固化後粉砕及び分級を行い磁性トナー粒子を得、更に磁性トナー粒子にシリカ微粒子をヘンシェルミキサーの如き混合機により十分混合し、本発明の磁性トナーを得ることが出来る。
【0081】
混合機としては、以下のものが挙げられる。ヘンシェルミキサー(三井鉱山社製);スーパーミキサー(カワタ社製);リボコーン(大川原製作所社製);ナウターミキサー、タービュライザー、サイクロミックス(ホソカワミクロン社製);スパイラルピンミキサー(太平洋機工社製);レーディゲミキサー(マツボー社製)。混練機としては、以下のものが挙げられる。KRCニーダー(栗本鉄工所社製);ブス・コ・ニーダー(Buss社製);TEM型押し出し機(東芝機械社製);TEX二軸混練機(日本製鋼所社製);PCM混練機(池貝鉄工所社製);三本ロールミル、ミキシングロールミル、ニーダー(井上製作所社製);ニーデックス(三井鉱山社製);MS式加圧ニーダー、ニダールーダー(森山製作所社製);バンバリーミキサー(神戸製鋼所社製)。粉砕機としては、以下のものが挙げられる。カウンタージェットミル、ミクロンジェット、イノマイザ(ホソカワミクロン社製);IDS型ミル、PJMジェット粉砕機(日本ニューマチック工業社製);クロスジェットミル(栗本鉄工所社製);ウルマックス(日曹エンジニアリング社製);SKジェット・オー・ミル(セイシン企業社製);クリプトロン(川崎重工業社製);ターボミル(ターボエ業社製);スーパーローター(日清エンジニアリング社製)。分級機としては、以下のものが挙げられる。クラッシール、マイクロンクラッシファイアー、スペディッククラシファイアー(セイシン企業社製);ターボクラッシファイアー(日清エンジニアリング社製);ミクロンセパレータ、ターボプレックス(ATP)、TSPセパレータ(ホソカワミクロン社製);エルボージェット(日鉄鉱業社製)、ディスパージョンセパレータ(日本ニューマチックエ業社製);YMマイクロカット(安川商事社製)。粗粒子をふるい分けるために用いられる篩い装置としては、以下のものが挙げられる。ウルトラソニック(晃栄産業社製);レゾナシーブ、ジャイロシフター(徳寿工作所社);バイブラソニックシステム(ダルトン社製);ソニクリーン(新東工業社製);ターボスクリーナー(ターボエ業社製);ミクロシフター(槙野産業社製);円形振動篩い。
【0082】
本発明の磁性トナーは、スリーブ表面における磁力が、55.00kA/m以上96.00kA/m以下である画像形成装置において特に良好な効果が得られる。
【0083】
次に、本発明に係る各物性の測定方法に関して記載する。
【0084】
(1)結着樹脂のDSC分析
本発明における結着樹脂のDSC曲線の吸熱ピークは以下の方法で測定される。結着樹脂の吸熱ピークのピーク温度は、示差走査熱量分析装置「Q1000」(TA Instruments社製)を用いてASTM D3418−82に準じて測定する。
【0085】
装置検出部の温度補正はインジウムと亜鉛の融点を用い、熱量の補正についてはインジウムの融解熱を用いる。
【0086】
具体的には、結着樹脂約5mgを精秤し、これをアルミニウム製のパンの中に入れ、リファレンスとして空のアルミニウム製のパンを用い、測定温度範囲30乃至200℃の間で、昇温速度10℃/minで測定を行う。尚、測定においては、一度200℃まで昇温させ、続いて30℃まで降温し、その後に再度昇温を行う。この昇温過程において比熱変化が得られる。このときの比熱変化が出る前と出た後のベースラインの中間点の線と示差熱曲線との交点を、結着樹脂のガラス転移温度Tgとする。
【0087】
この2度目の昇温過程で温度30℃以上200℃以下の範囲において、得られた吸熱ピークを結着樹脂の吸熱ピークとする。
【0088】
(2)結着樹脂の軟化点測定
本発明で用いた軟化点は、以下の方法により求めたものである。
結着樹脂の軟化点の測定は、定荷重押し出し方式の細管式レオメータ「流動特性評価装置 フローテスターCFT−500D」(島津製作所社製)を用い、装置付属のマニュアルに従って行う。本装置では、測定試料の上部からピストンによって一定荷重を加えつつ、シリンダに充填した測定試料を昇温させて溶融し、シリンダ底部のダイから溶融された測定試料を押し出し、この際のピストン降下量と温度との関係を示す流動曲線を得ることができる。
【0089】
本発明においては、「流動特性評価装置 フローテスターCFT−500D」に付属のマニュアルに記載の「1/2法における溶融温度」を軟化点とする。尚、1/2法における溶融温度とは、次のようにして算出されたものである。まず、流出が終了した時点におけるピストンの降下量Smaxと、流出が開始した時点におけるピストンの降下量Sminとの差の1/2を求める(これをXとする。X=(Smax−Smin)/2)。そして、流動曲線においてピストンの降下量がXとSminの和となるときの流動曲線の温度が、1/2法における溶融温度である。
【0090】
測定試料は、約1.0gの結着樹脂を、25℃の環境下で、錠剤成型圧縮機(例えば、NT−100H、エヌピーエーシステム社製)を用いて約10MPaで、約60秒間圧縮成型し、直径約8mmの円柱状としたものを用いる。
CFT−500Dの測定条件は、以下の通りである。
試験モード:昇温法
開始温度:30℃
到達温度:200℃
測定間隔:1.0℃
昇温速度:4.0℃/min
ピストン断面積:1.000cm
試験荷重(ピストン荷重):10.0kgf(0.9807MPa)
予熱時間:300秒
ダイの穴の直径:1.0mm
ダイの長さ:1.0mm
【0091】
(3)磁性トナーの重量平均粒径(D4)測定
磁性トナーの重量平均粒径(D4)は、100μmのアパーチャーチューブを備えた細孔電気抵抗法による精密粒度分布測定装置「コールター・カウンター Multisizer 3」(登録商標、ベックマン・コールター社製)と、測定条件設定及び測定データ解析をするための付属の専用ソフト「ベックマン・コールター Multisizer 3 Version3.51」(ベックマン・コールター社製)を用いて、実効測定チャンネル数2万5千チャンネルで測定し、測定データの解析を行い、算出する。
【0092】
測定に使用する電解水溶液は、特級塩化ナトリウムをイオン交換水に溶解して濃度が約1質量%となるようにしたもの、例えば、「ISOTON II」(ベックマン・コールター社製)が使用できる。
【0093】
尚、測定、解析を行う前に、以下のように専用ソフトの設定を行う。
専用ソフトの「標準測定方法(SOM)を変更画面」において、コントロールモードの総カウント数を50000粒子に設定し、測定回数を1回、Kd値は「標準粒子10.0μm」(ベックマン・コールター社製)を用いて得られた値を設定する。閾値/ノイズレベルの測定ボタンを押すことで、閾値とノイズレベルを自動設定する。また、カレントを1600μAに、ゲインを2に、電解液をISOTON IIに設定し、測定後のアパーチャーチューブのフラッシュにチェックを入れる。
【0094】
専用ソフトの「パルスから粒径への変換設定画面」において、ビン間隔を対数粒径に、粒径ビンを256粒径ビンに、粒径範囲を2μmから60μmまでに設定する。
【0095】
具体的な測定法は以下の通りである。
(1)Multisizer 3専用のガラス製250ml丸底ビーカーに前記電解水溶液約200mlを入れ、サンプルスタンドにセットし、スターラーロッドを反時計回りで24回転/秒にて回転させ、撹拌を行う。そして、解析ソフトの「アパーチャーのフラッシュ」機能により、アパーチャーチューブ内の汚れと気泡を除去しておく。
【0096】
(2)ガラス製の100ml平底ビーカーに前記電解水溶液約30mlを入れ、この中に分散剤として「コンタミノンN」(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤の10質量%水溶液、和光純薬工業社製)をイオン交換水で3質量倍に希釈した希釈液を約0.3ml加える。
【0097】
(3)発振周波数50kHzの発振器2個を位相を180度ずらした状態で内蔵し、電気的出力120Wの超音波分散器「Ultrasonic Dispension System Tetora150」(日科機バイオス社製)の水槽内に所定量のイオン交換水を入れ、この水槽中に前記コンタミノンNを約2ml添加する。
【0098】
(4)前記(2)のビーカーを前記超音波分散器のビーカー固定穴にセットし、超音波分散器を作動させる。そして、ビーカー内の電解水溶液の液面の共振状態が最大となるようにビーカーの高さ位置を調整する。
【0099】
(5)前記(4)のビーカー内の電解水溶液に超音波を照射した状態で、磁性トナー約10mgを少量ずつ前記電解水溶液に添加し、分散させる。そして、さらに60秒間超音波分散処理を継続する。尚、超音波分散にあたっては、水槽の水温が10℃以上40℃以下となる様に適宜調節する。
【0100】
(6)サンプルスタンド内に設置した前記(1)の丸底ビーカーに、ピペットを用いて磁性トナーを分散した前記(5)電解質水溶液を滴下し、測定濃度が約5%となるように調整する。そして、測定粒子数が50000個になるまで測定を行う。
【0101】
(7)測定データを装置付属の前記専用ソフトにて解析を行ない、重量平均粒径(D4)を算出する。尚、専用ソフトでグラフ/体積%と設定したときの、分析/体積統計値(算術平均)画面の「平均径」が重量平均粒径(D4)である。
【実施例】
【0102】
以上本発明の基本的な構成と特色について述べたが、以下実施例にもとづいて具体的に本発明について説明する。しかしながら、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0103】
<結着樹脂A−1の製造例>
・テレフタル酸 70mol部
・フマル酸 30mol部
・1,6−ヘキサンジオール 80mol部
・ネオペンチルグリコール 20mol部
上記モノマーとジブチル錫オキシドを全酸成分に対して0.03質量部添加し窒素気流下、220℃にて攪拌しつつ所望の軟化点になるように反応させて、結着樹脂A−1を得た。樹脂の諸物性を表2に示す。
【0104】
<結着樹脂A−2乃至A−7の製造例>
表1に示したモノマー構成に変えた以外は結着樹脂A−1と同様の方法で結着樹脂A−2乃至A−7を得た。樹脂の諸物性を表2に示す。
【0105】
【表1】

【0106】
尚、表1の略号は以下の化合物を示す。
・TPA:テレフタル酸
・FA:フマル酸
・TMA:無水トリメリット酸
・EG:エチレングリコール
・BPA−EO:ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物
(平均付加mol数:2.2mol)
・BPA−PO:ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物
(平均付加mol数:2.2mol)
・NPG:ネオペンチルグリコール
【0107】
<結着樹脂A−8の製造例>
・テレフタル酸 24mol部
・ドデセニルコハク酸 16mol部
・トリメリット酸 7mol部
・ビスフェノールA−PO付加物 31mol部
(プロピレンオキサイド2.5mol付加物)
・ビスフェノールA−EO付加物 22mol部
(エチレンオキサイド2.5mol付加物)
【0108】
ポリエステルユニットを生成するためのモノマーとして、上記の酸成分及びアルコール成分及び触媒として2−エチルヘキサン酸錫を4口フラスコに仕込み、減圧装置、水分離装置、窒素ガス導入装置、温度測定装置及び攪拌装置を装着し、窒素雰囲気下にて130℃で攪拌しつつ、上記のポリエステルユニットを生成するためのモノマー成分100質量部に対し、下記に示すスチレン−アクリル系樹脂ユニットを生成するためのモノマー25質量部を重合開始剤(ベンゾイルパーオキサイド)とともに混合したものを滴下ロートから4時間かけて滴下した。
・スチレン 82質量%
・2−エチルヘキシルアクリレート 16質量%
・アクリル酸 2質量%
これらの物質を温度130℃に保持したまま3時間熟成し、230℃に昇温して反応を行った。反応終了後、生成物を容器から取り出して粉砕し、ポリエステル樹脂成分、ビニル系重合体成分、及び、ポリエステルユニットとスチレン−アクリル系樹脂ユニットとが化学的に結合したハイブリッド樹脂成分を含有した結着樹脂A−8を得た。樹脂の諸物性を表2に示す。
【0109】
【表2】

【0110】
<磁性酸化鉄粒子B−1の製造例>
Fe2+を2.0mol/L含有する水溶液50Lに水溶性ケイ酸塩としてSi4+を0.23mol/L含有する水溶液を10L添加し、NaOHを5.0mol/L含有する水溶液42Lと撹拌混合し、水酸化第一鉄スラリーを得る。この水酸化第一鉄スラリーのpHを12に調整し、温度90℃にて30L/minの空気を吹き込みコア粒子が所望の大きさの50%生成するまで酸化反応を行い、次いで、コア粒子が75%生成するまで20L/minの空気を吹き込む、次いでコア粒子が90%生成するまで10L/minの空気を吹き込む、次いで空気を5L/min吹き込み酸化反応を完結させ、コア粒子スラリーを得た。
【0111】
得られたコア粒子の磁性酸化鉄粒子スラリーに、ケイ酸ソーダの水溶液(Si濃度13.4%)を120gと、硫酸アルミニウム水溶液(Al濃度4.2%)を380g同時に投入し、pHを5以上9以下に調整し、表面にケイ素及びアルミニウムを含む被覆層が形成された磁性酸化鉄粒子スラリーを得た。得られた磁性酸化鉄粒子を含むスラリーを常法の濾過、乾燥、粉砕を行い、八面体の磁性酸化鉄粒子B−1を得た。なお、磁性酸化鉄粒子B−1は、79.58kA/m(1kエルステッド)の磁界を印加した際の飽和磁化が67Am/kgであった。
【0112】
<磁性酸化鉄粒子B−2の製造例>
Fe2+1.55mol/Lを含む硫酸第一鉄水溶液65Lと、2.37mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液88Lを混合し、撹拌した。
【0113】
混合水溶液中の残留水酸化ナトリウムが2.1g/Lとなるように調整後、温度80℃、pHを6乃至8に維持しながら、30L/minの空気を吹き込み、第1の酸化反応を一旦終了させた。
【0114】
次いで、Fe2+1.27mol/Lを含む硫酸第一鉄水溶液中に、Zn2+0.5mol/Lとなるように硫酸亜鉛を添加した水溶液2.25Lを別に用意し、前述の反応スラリーに加え、pHを6乃至8に維持しながら、再び15L/minの空気を吹き込み、第2の酸化反応を終了させた。
【0115】
次いで、Fe2+1.01mol/Lを含む硫酸第一水溶液中に、Si4+0.44mol/Lとなるようにケイ酸ナトリウム(3号)を添加した水溶液2.3Lを別に用意し、前述の反応スラリーに加え、pHを6乃至8に維持しながら、再び15L/minの空気を吹き込み、第3の酸化反応を終了させた。得られた生成粒子は通常の洗浄、濾過、乾燥、粉砕工程により処理し、球形の磁性酸化鉄粒子B−2を得た。なお、磁性酸化鉄粒子B−2は、79.58kA/m(1kエルステッド)の磁界を印加した際の飽和磁化が63Am/kgであった。
【0116】
[実施例1]
・結着樹脂A−1 100質量部
・磁性酸化鉄粒子B−1 90質量部
・ポリエチレンワックス(PW2000、融点120℃) 4質量部
・電荷制御剤(T−77:保土谷化学工業社製) 2質量部
上記材料をヘンシェルミキサーで前混合した後、二軸混練押し出し機によって、溶融混練した。
【0117】
得られた混練物を冷却し、ハンマーミルで粗粉砕した後、ジェットミルで粉砕し、得られた微粉砕粉末をコアンダ効果を利用した多分割分級機を用いて分級し、重量平均粒径(D4)6.8μmの負摩擦帯電性の磁性トナー粒子を得た。磁性トナー粒子100質量部に対し、シリカ微粉子(原体BET比表面積300m/g、ヘキサメチルジシラザン処理)を0.8質量部、及びチタン酸ストロンチウム(個数平均粒径1.2μm)3.0質量部を外添混合し目開き150μmのメッシュで篩い、負摩擦帯電性の磁性トナーC−1を得た。磁性トナーC−1の諸物性を表4に示す。
【0118】
評価には、市販の複写機(IR−5075N キヤノン製)を用い、評価紙は68g/mのCS−680(キヤノン製)を用いた。本装置におけるスリーブ表面での磁力は、75.78kA/mである。磁性トナーC−1を用いて、高温高湿環境下(30℃、80%RH)及び常温低湿環境下(23℃、5%RH)でそれぞれ印字比率5%のテストチャートを用いて2万枚耐久後、以下に示す方法で画像濃度とスリーブ汚染及びカブリの評価を行った。結果を表5に示す。
【0119】
(画像濃度の評価)
画像濃度については、マクベス濃度計(マクベス社製)でSPIフィルターを使用して5mm丸の画像の反射濃度を測定した。この画像濃度の評価を、各試験環境において、初期(100枚目)と2万枚耐久後の反射濃度の差を下記基準で評価した。
A(非常に良い):0.05未満
B(良い) :0.05以上0.10未満
C(普通) :0.10以上0.15未満
D(やや悪い) :0.15以上0.20未満
E(悪い) :0.20以上
【0120】
(スリーブ汚染の評価)
2万枚耐久後のスリーブ上の磁性トナーを清掃し目視にてスリーブ汚染を下記基準で評価した。A(非常に良い):スリーブ上、画像上ともに問題なし
B(良い) :スリーブ上の一部に若干の汚染があるが、画像上問題なし
C(普通) :スリーブ上の一部に汚染があり、画像の一部で濃度薄が発生する
D(やや悪い) :スリーブ全体に汚染があり、画像の一部で濃度薄が発生する
E(悪い) :スリーブ全体に汚染があり、画像全体に濃度薄が発生する
【0121】
(カブリの評価)
カブリは、反射率計(リフレクトメーター モデル TC−6DS 東京電色社製)を用いて測定を行い、画像形成後の白地部反射濃度最悪値をDs、画像形成前の転写材の反射平均濃度をDrとし、Dr−Dsをカブリ量としてカブリの評価を行った。したがって、数値が小さいほどカブリ抑制が良いことを示す。この評価を、各試験環境において2万枚耐久後、一週間放置し、2枚目のべた白画像を以下の基準で評価した。
A(非常に良い) :カブリが1.0未満
B(良い) :カブリが1.0以上2.0未満
C(普通) :カブリが2.0以上3.0未満
D(やや悪い) :カブリが3.0以上4.0未満
E(悪い) :カブリが4.0以上5.0未満
【0122】
[実施例2乃至12]
表3に示すように結着樹脂と磁性酸化鉄粒子を変えた以外は、磁性トナーC−1の製造例と同様にして、磁性トナーC−2乃至磁性トナーC−12を得た。得られた磁性トナーの諸物性を表4に示す。更に、実施例1と同様の試験を行った結果を表5に示す。
【0123】
[比較例1乃至9]
表3に示すように結着樹脂と磁性酸化鉄粒子を変えた以外は、磁性トナーC−1の製造例と同様にして、磁性トナーC−13乃至磁性トナーC−21を得た。得られた磁性トナーの諸物性を表4に示す。更に、実施例1と同様の試験を行った結果を表5に示す。
【0124】
【表3】

【0125】
【表4】

【0126】
【表5】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
結着樹脂及び磁性酸化鉄粒子を含有する磁性トナーであって、
該結着樹脂がポリエステルユニットを含有し、
該トナーは、
i)40℃、100kHzにおける誘電損率が0.50pF/m以上0.90pF/m以下であり、
ii)真比重が1.50g/cm以上1.85g/cm以下である、
ことを特徴とする磁性トナー。
【請求項2】
該トナーは、40℃、3kHzにおける誘電損率が0.20pF/m以上0.50pF/m以下であることを特徴とする請求項1に記載の磁性トナー。
【請求項3】
該ポリエステルユニットのアルコール成分が、脂肪族アルコールを80mol%以上含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の磁性トナー。

【公開番号】特開2012−168527(P2012−168527A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−15608(P2012−15608)
【出願日】平成24年1月27日(2012.1.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】