説明

磁性体分離装置

【課題】オゾン含有ガス等の流体中から酸素等の磁性体を高い効率で分離することができ、かつオゾン等に対する耐性が高く、長期間の運転が可能な磁性体分離装置を提供する。
【解決手段】実施形態の磁性体分離装置は、磁性体を含む流体を磁場勾配を有する通気性素材からなる流路41に流通させ、前記磁性体を流路41外に分離して該磁性体より小さい磁化率を有する分子を濃縮する磁性体分離装置1であって、流路41の内壁面から断面方向に突出して流路断面積を減少させる複数の突出部45を、流路41にそって所定の間隔で設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁性体分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素を原料に製造されるオゾンは反応活性が非常に高い酸化剤として古くから知られており、その酸化力を活用して洗浄、水質浄化、殺菌、消臭、漂白などへの産業分野への応用が既に広く進んでいる。
【0003】
オゾン水は自己分解性を有しており、従来の洗浄剤とは異なり、被処理体の表面に残留せず、また利用されなかった余剰オゾンは自然分解することから、最終的に、酸素分子として安定化させることができる。このため、環境負荷が極めて低く、環境に優しい活性種として、今後も多方面での活用が期待されている。
【0004】
オゾンの利用分野は、オゾン水等に含まれるオゾン濃度によって異なり、代表的な用途として、例えば0.5〜10mg/lのオゾン濃度では殺菌、漂白、脱臭、5〜20 mg/lのオゾン濃度では有機物除去、金属除去、化学酸化膜形成、60mg/l超のオゾン濃度ではレジスト剥離などが挙げられる。
【0005】
オゾン水のオゾン濃度は、条件設定により広範囲に制御可能であるが、中でもオゾン濃度約20ppmのオゾン水は、微粒子、有機物、金属の除去に効果を示し、機能水のなかで最も普及しているものである。
また、100ppm以上の高濃度オゾン水は、プロセス工程のレジスト剥離に利用でき、従来の溶剤による方法に代わり、環境にやさしい技術として注目されている。
【0006】
工業用オゾンの製造には、放電現象を利用したオゾナイザーを用いる手法が多用されており、一般に、空気や酸素ガスが原料ガスとして用いられている。
このような手法では、窒素、酸素およびオゾンの混合ガス、または酸素およびオゾンの混合ガスが得られるが、平衡の観点から、これら混合ガス中のオゾン濃度には限度がある。
【0007】
上記のような手法を用いた場合、空気を原料ガスとして得られる混合ガスのオゾン濃度は、通常、理論値の2〜3%程度であり、酸素ガスを原料ガスとして得られる混合ガスのオゾン濃度は、理論値の5%程度である。
しかしながら、より高濃度のオゾン含有ガスを用いることで、オゾンの作用をより有効に活用することが期待されている。
【0008】
例えば、シリコン半導体の酸化膜形成処理に、高オゾン濃度の混合ガスを用いることで、従来より500℃近く低温で、高品質な酸化膜を形成できる可能性がある。また、金属表面の不働態化(パッシベーション)処理に適用することで、電解研磨による場合より、腐食性ガスに対しより高い耐性を有するものを得られる可能性もある。さらに、高オゾン濃度の混合ガスを用いることで、装置システム全体の小型化に貢献でき、オゾンを用いた既存の産業分野に対して多大な効果が期待できる。
【0009】
しかしながら、現状では、高濃度のオゾン含有ガスを生成する簡便な手法が得られておらず、オゾン濃度が高々10%程度の酸素/オゾン混合ガスを用いた処理が主流となっている。このため、高オゾン濃度の混合ガスを、簡便に得られる手法が求められている。
【0010】
混合ガス中のオゾン濃度を高める手法として、空気等の混合ガス中の酸素の割合を増加させる技術が開示されている。この方法は、偶数個の磁石を極が径方向に向くように配置して中心から周方向に磁場勾配を形成させた中に混合ガスを通過させて外周部分に酸素を集めようとするものである。
しかしながら、この方法では、磁場勾配により引き寄せられる酸素分子が他の気体分子の一部を引きずって移動するため、混合ガス中の酸素分子を必ずしも効率的に濃縮することができず、期待されるような分離濃縮作用が得られない。
【0011】
また、酸素分離膜を用いて酸素/オゾン混合ガスから酸素を分離しオゾン濃度を高める方法も提案されている。
【0012】
具体的には、酸素分離膜の片側にオゾン含有ガス(オゾン、酸素、窒素)を接触させ、反対側をこれより低圧にするとともに、流路内に磁場勾配を形成することで、オゾン含有ガスからオゾン/窒素よりも酸素を選択的に透過させ、オゾン濃度を高めている。しかしながら、この方法でも、混合ガス中の酸素分子を必ずしも効率的に濃縮することができず、十分な分離作用が得られない。
【0013】
また、酸素分離用膜の素材としては、その溶解度係数と拡散係数が酸素に対してできる限り大きく、かつ窒素に対してはできる限り小さいものが用いられ、たとえばポリジメチルシロキサン−ポリカーボネートブロック共重合体、ポリ(4−メチルペンテン−1)、ポリフェニレンオキサイド(PPO)、ポリ[1−(トリメチルシリル)−1−プロピン](PMSP)などが挙げられる。
【0014】
しかしながら、一般に、分離膜表面の有機物質はオゾン暴露で劣化しやすいため、長期の運転は困難である。
【0015】
また、従来より、空気中の窒素や酸素をゼオライトに吸着させ、酸素や窒素を分離してオゾンを得る、吸着分離法と呼ばれる方式が用いられており、例えば、磁気力を併用しつつ、ゼオライトにより混合ガス中の酸素を除去しかつ窒素を吸着することで、オゾン濃度を相対的に高める方法が提案されている。
具体的には、磁場勾配によって移動する酸素分子をゼオライトにより選択的に捕獲することで、原料ガスに戻る酸素ガスの割合を低減し、残存ガス中のオゾン濃度を高めている。
【0016】
従来より、天然に産出するゼオライト(沸石)が特異な吸着性を有することが知られている。
しかしながら、天然ゼオライトは、均一な品質を有するものを大量に得るのが困難であること、およびゲル状の粘土物質が混在すること等の不具合を有しており、工業的な使用は困難であることから、これら天然ゼオライトの欠点を補い、かつ分子ふるい効果を発揮するようにした合成ゼオライトが用いられている。中でも、1950年代に開発した合成ゼオライトが多用されている。
【0017】
合成ゼオライトは、四面体構造を有しており、4個の酸素アニオンに囲まれたSiやAlカチオンが、酸素アニオンを介して共有結合する結果、均一な細孔によって空洞が連結した蜂の巣状の構造を有している。
分子吸着用のスペースは、これら空洞内に取り込まれた結晶水(HO)が加熱処理時に脱離して形成されており、結晶構造内のHカチオンをカリウム、カルシウム等の他のイオンで置換することで、各空洞を結ぶ細孔の大きさが調整されている。
【0018】
空洞内の吸着分子は、細孔径により分子運動が規制されるとともに、吸着分子の双極子モーメントと結晶構造内の金属カチオンの極性との作用による、空洞内への捕捉力が得られている。
このため、合成ゼオライトに対する分子の吸着性は、その分子径とともに、双極子モーメントの大きさに左右されており、これにより、優れた選択性とともに、強い吸着特性が得られている。
【0019】
このように、合成ゼオライトを用いることで、上記のような優れた分離性能を得られるが、オゾン、酸素および窒素に対する選択性を追求すると、コストが高くなり、また、使用後のゼオライトは最終的に廃棄する必要があるため、環境面で問題がある。
また、ゼオライトは、吸着能力が限度に達すると機能しなくなり、たとえばゼオライトの一種であるモレキュラーシーブスは、25〜250時間程度の運転には使用可能であるものの、耐性が低いため、長期の運転を伴う工業的な使用への適用は困難である。
【0020】
さらに、繊毛を用いて酸素分子を捕獲する方法も記載されているが、このような繊毛は劣化が進行しやすく、例えば、繊毛が有機系物質からなる場合には、オゾン暴露による劣化の進行が顕著であり、長時間の使用に耐えることは困難である。
【0021】
一方、このように、酸素分子を吸着または捕獲して、残余ガス中のオゾン濃度を向上させるようにする手法では、所定期間使用した後、酸素等の吸着分子を放出させて再生し、再度使用可能なものもある。
しかしながらこの場合には、例えば、磁場勾配を消滅させた状態で、余剰の生成ガスを流通させて吸着分子を放出させる等の機構が必要となり、装置全体が大型化かつ複雑化するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特開平5−309224号公報
【特許文献2】特開2003−206107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
このように、これまでの磁性体分離装置は、十分な磁性体分離効率を得られるものではなく、またオゾン等に対する耐性に劣り、必ずしも長期間の運転に耐え得るものではなかった。
【0024】
本発明が解決しようとする課題は、オゾン含有ガス等の流体中から酸素等の磁性体を高い効率で分離することができ、かつオゾン等に対する耐性が高く、長期間の運転が可能な磁性体分離装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
実施形態の磁性体分離装置は、磁性体を含む流体を磁場勾配を有する通気性素材からなる流路に流通させ、前記磁性体を流路外に分離して該磁性体より小さい磁化率を有する分子を濃縮する磁性体分離装置であって、前記流路の内壁面から断面方向に突出して流路断面積を減少させる複数の突出部を、前記流路にそって所定の間隔で設けた。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る磁性体分離装置によれば、オゾン含有ガス等の流体中から酸素等の磁性体を高い効率で分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】第1の実施形態に係る磁性体分離装置の概略構成を示す図である。
【図2】実施形態に係る磁性体分離装置のガス流路管42周辺を拡大して示す縦断面図である。
【図3】(a)から(e)は各々別の実施形態に係る磁性体分離装置のガス流路管42周辺を拡大して示す縦断面図である。
【図4】第2の実施形態に係る磁性体分離装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は、第1の実施形態に係る磁性体分離装置の概略構成を示す図である。
なお、以下に示す実施形態では、酸素/オゾンの混合ガスからなる流体から、磁性体として酸素ガスを分離する構成のものを示したものである。
【0029】
酸素ガスの磁化率xは、標準状態で1.5×10−7cgs単位と他の気体と比べて高い値を有しているのに対し、同一条件下でのオゾンガスの磁化率は、酸素ガスの1000分の1程度である。本実施形態は、これら酸素およびオゾンの混合ガスに所定の磁場勾配を与えたときに各々が受ける磁気力の差によって、酸素ガスを所定方向に吸引して分離することで、混合ガス中の酸素濃度を低減し、高オゾン濃度の混合ガスを得るようにしたものである。なお、本発明の磁性体分離装置の分離対象としての磁性体は、必ずしも酸素に限定されず、流体に含まれる他の気体分子より大きい磁化率を有するものであれば、後述する種々の磁性体を分離対象とすることが可能である。
【0030】
第1の実施形態に係る磁性体分離装置1は、図1に示すように、酸素ガスを貯留、供給する酸素ボンベ2と、酸素ボンベ2から供給された酸素ガスを含む混合ガスに高電圧を印加してオゾンを生成するオゾナイザー3と、オゾナイザー3で生成したオゾンガスと酸素ガスとの混合ガスから、磁場勾配により酸素ガスを濃縮して分離し、酸素濃度の低減された酸素減損ガスを得る分離部4とが、流路にそって順次配置されている。
オゾナイザー3は、平行電極間に起こさせた無声放電中に酸素ガスや空気を通して酸素分子をオゾン化するものであり、酸素ボンベ2およびオゾナイザー3間、ならびにオゾナイザー3および分離部4間は、それぞれ配管5、6で接続されている。分離部4の後段にはガス排出管7が接続されている。
【0031】
分離部4は、内部にガス流路41を有するガス流路管42を有しており、ガス流路管42の上方および下方には、ガス流路管42の長手方向と平行な方向に延在するように、磁石43、44が配設されている。
磁石43、44は、ガス流路管42と平行な水平方向に延びる板状をなし、そのNS極は、ガス流路41方向を向く状態で配置されている。
【0032】
なお、磁石43、44の磁極(N極、S極)の方向は特に限定されず、同極同士が対向するように配設してもよく、多極同士が対向するように配設してもよい。
【0033】
各磁石43、44としては、T(テスラ)オーダーの磁束密度を得られるものであればよく、電磁石、超電導電磁石、永久磁石のいずれも用いることができる。
本実施形態の磁性体分離装置では、吸着材等の再生工程を要しないため、永久磁石を用いることも可能であり、例えば、ネオジム磁石(ネオジム・鉄・ボロン磁石)、サマリウム磁石(サマリウム・コバルト磁石)、アルニコ磁石(アルミニウム・ニッケル・コバルト磁石)、フェライト磁石(酸化鉄磁石)等が好適である。
【0034】
図2は、分離部4のガス流路管42周辺を拡大して示す縦断面図である。
ガス流路管42は、非磁性の通気性多孔質体で形成されており、ガス流路管42の内壁面から断面方向に突出して流路断面積を減少させる隔壁45が、ガス流路41にそって所定の間隔で設けられている。
【0035】
隔壁45は、ガス流路管42の図中上側の内壁面から突出する側板451と、図中下側の内壁面から突出する側板452とで構成されており、互いの側端部が対向するように設けられている。
側板451、452は、内壁面から断面方向に直立する円弧上の障壁として形成されており、図2で示すように、側板451の側端部が、流体の出口側に向けてガス流路管42上側内壁面に近接する傾斜面として形成されるとともに、側板452の側端部が、流体の出口側に向けてガス流路管42の下側内壁面に近接する傾斜面として形成されることが好ましい。
【0036】
隔壁45を構成する側板451、452は、オゾンガスや酸素ガスに対する耐性を有するものであれば、その材質は特に限定することなく用いることができる。
【0037】
ガス流路41は、側板451と側板452とが対向する空間で形成された領域Qと、領域Qと隣接する膨張室としての領域Pとにより形成されている。
【0038】
なお、本明細書において、流路断面積とは、流体の進行方向に対して垂直方向の断面の面積をいう。
【0039】
非磁性の通気性多孔質体としては、非磁性の無機繊維または非磁性の金属繊維を主成分とするものを好適に用いることができる。
【0040】
非磁性の金属繊維を主成分とする多孔質体としては、例えば、ステンレス、チタン等の金属材料を繊維状に加工して金属繊維とし、該金属繊維を圧縮固定して不織布とした金属繊維不織布、該金属繊維不織布を焼結し、必要に応じて圧延してなる金属繊維不織布焼結体、または金属繊維を織布とした金属繊維織布を好適に用いることができる。
【0041】
非磁性の無機繊維を主成分とする多孔質体としては、シリカ、アルミナ等のセラミックス、カーボン、ガラス等の無機材料を繊維状に加工して無機繊維とし、該無機繊維を圧縮固定して不織布とした無機繊維不織布、または該無機繊維を織布とした無機繊維織布等が挙げられる。
【0042】
また、非磁性の多孔質体としては、複数種の金属繊維の混合物または複数種の無機繊維の混合物を主成分としたものであってもよく、金属繊維と無機繊維との混合物を主成分としたものであってもよい。
【0043】
このように、ガス流路管42の一部または全体を、上述した金属繊維または無機繊維からなる多孔質体で構成した場合、細孔径は概ね10〜90nmであり、必ずしも分子選択性は有しないが、モレキュラーシーブ等のゼオライトや有機物質からなる膜状体等でガス流路管42を形成した場合と比較して、オゾン等のガスに対する耐性が高められ、長期間の運転に使用した場合でも、ガス流路管42の劣化の進行が抑制された分離部4とすることができる。
【0044】
なお、図2において、突出部としての隔壁45は、上述したように、ガス流路管42の図中上側内壁面および図中下側内壁面から断面方向に突出させた側板451、452により構成したものであってもよく、ガス流路管42の内壁面に内接させて設けた円環状の板により形成したものであってもよい。
【0045】
隔壁45は、図2で示すように、一定の高さを有する側板451、452により形成してもよいが、例えば、側板451の高さh1もしくは側板452の高さh2のいずれか一方または双方を、流体の進行方向にそって順次低減し、隔壁45で形成される領域Qの流路断面積を順次増大させるか、または側板451の高さh1もしくは側板452の高さh2のいずれか一方または双方を、流体の進行方向にそって順次増大し、側壁45で形成される領域Qの流路断面積を順次低減するようにしてもよい。
【0046】
また、図2では、隔壁45をガス流路41にそって一定間隔で設ける構成としたが、隔壁45は、必ずしも一定間隔で設けなくてもよく、例えば、流体の進行方向にそって、隔壁45間の間隔が順次低減または増大するように設けてもよく、隔壁45間の間隔を不定間隔で設けるようにしてもよい。
【0047】
次に、この磁性体分離装置1の動作を説明する。
まず、図1において、酸素ボンベ2から配管5に供給された酸素ガスは、オゾナイザー3に導入され、平行電極間に発生させた無声放電により酸素分子がオゾン化される。オゾナイザー3で得られた酸素/オゾン混合ガスは、配管6により、分離部4のガス流路41に供給される。
【0048】
オゾナイザー3から排出される酸素/オゾン混合ガス中のオゾン濃度は、特に限定されないが、通常、最大400g/Nm程度である。
【0049】
ガス流路41内では、ガス流路管42上方および下方に設置された磁石43、44により、磁極付近に最も強い磁場が発生し、遠くなるにつれて磁場が弱くなる。
すなわち、ガス流路41の中心点近傍では磁場が最も弱く、ガス流路管42内壁面近傍では最も磁場が強くなっており、ガス流路41中心点からガス流路管42内壁面に向けて磁場が強まるように、磁場勾配が形成されている。
【0050】
このようにして形成した磁場勾配により、ガス流路41に供給された酸素/オゾン混合ガス中の酸素ガスが、ガス流路管42の内壁面側に吸引される。
【0051】
すなわち、単位体積の磁気力xのガスに作用する磁気力Fは、F=xHdH/dxで求められる。
たとえば、6Tの超電導電磁石を使用して6×10gaussの磁場強度Hを発生させ、1×10gauss/cmの磁場勾配dH/dxを与えた場合、体積磁化率1.5×10−7を有する単位体積当たりの酸素ガスは、90dyne、すなわち9μNの磁気力を受けることになる。これに対し、オゾンは酸素の約1000分の1程度の体積磁化率しか持たないため、同じ磁場内に存在するオゾンには9×10−3μNの磁気力しか作用しない。したがって、酸素/オゾン混合ガスのガス流路41に強い磁場勾配を生成させることで、酸素分子が磁場の強い方に吸引される。
【0052】
ガス流路41内に形成される磁場勾配は、特に限定されないが、通常30T/m程度である。
【0053】
ガス流路41に供給された酸素/オゾン混合ガスは、まず、図2で示すように、領域Q1と隣接する領域Pを、隔壁45側に向けて移動する。この過程で、酸素/オゾン混合ガス中の酸素ガスが、ガス流路41内に形成された磁場勾配により、ガス流路管42の内壁面近傍に高い割合で集められ、内壁面近傍に酸素濃縮ガスが形成される。
【0054】
領域Pを通過した混合ガスは、側板451、452により形成された、領域Pよりも流路断面積が小さい領域Qに流入する。領域Qに流入した混合ガスは、その流入口において流速が一旦急激に上昇した後、流路断面積の増大に伴い、徐々に減速しながら、領域Pに向けて移動する。
【0055】
領域Qを通過した混合ガスは、流路断面積の大きい領域Pに高速で流入し、ガス流路管42内壁面との間に生じた負圧により全体的に内壁面側に吸引される。膨張室としての領域Pでは、流路断面積の増大に伴い混合ガスの流速が急激に低下し、領域P内を混合ガスが滞留する。この間に、ガス流路41内に形成された磁場勾配により、混合ガス中の酸素ガスが、ガス流路管42内壁面側にさらに移動し、ガス流路管42内壁面近傍の酸素濃縮ガスの酸素濃度が高められる。
【0056】
ガス流路管42の内壁面近傍に集められた酸素濃縮ガスは、ガス流路管42を構成する多孔質体を介して、ガス流路41外部に排出される。
【0057】
なお、本実施形態では、図2に示す構成のガス流路41を備えた分離部4を用いた場合を例に説明したが、磁性体分離装置1は、必ずしもこのような構成に限定されず、例えば、図3(a)で示すように、ガス流路管42内壁面の図中下側面から突出させた側板542のみで隔壁45を形成した、直通型のガス流路41を備えた構成としてもよい。
さらに、図3(a)で示す形態のガス流路41において、各側板452上方のガス流路管42内壁面に、逃げ溝を設けた構成としてもよい。
【0058】
ガス流路41は、流路断面積をステップ状に変化させた形態とすることで、酸素/オゾン混合ガス中の酸素ガスをより効率的に濃縮できるため好ましい。
このような形態としては、例えば図3(b)および図3(c)で示すように、ガス流路管42図中上側の内壁面から突出する側板451と、下側の内壁面から突出する側板452とを、その側端部が互いに対向しないように交互に設けた、食い違い型のガス流路41としてもよい。
【0059】
図3(b)および図3(c)のガス流路41は、上面側の側板451側端部とガス流路管42内壁面とで形成された領域Q1、および下面側の側板452側端部とガス流路管42内壁面とで形成された領域Q2と、領域Q1または領域Q2と隣接する領域Pとで構成されており、それぞれ異なる流路断面積を有する領域Q1、領域P、領域Q2を順次移動することで、流路断面積がステップ状に変化するように形成されている。
【0060】
また、ガス流路41は、図3(d)で示すように、ガス流路41を階段状に形成し、その段差部において、ガス流路管42の図中下側内壁面から突出する側板452により隔壁45を形成した、階段型のガス流路41としてもよい。
【0061】
図3(d)のガス流路41は、下面側の側板452側端部とガス流路管42内壁面とで形成された領域Qと、領域Qと隣接する領域Pとで構成されている。
図3(d)に示すガス流路41は、領域P内で異なる高さL1、L2を有するように形成されており、この領域Pと領域Qとを順次移動することで、流路断面積がステップ状に変化するように形成されている。
【0062】
このように、ガス流路41の流路断面積をステップ状に変化させた構成とすることで、領域Q通過後の領域Pにおいて、混合ガスの流速低下の度合いをより大きく得ることができ、混合ガスからの酸素濃縮を効率的に行うことができる。
【0063】
またさらに、ガス流路41は、図3(e)で示すように、直線状に形成された上部流路46と、上部流路46の底面に配設したハニカム材47とで形成した、ハニカム型のガス流路41としてもよい。図3(e)のガス流路41は、ハニカム材47の隔壁471で区切られた孔部472および上部流路46とで形成された領域Pと、ハニカム材47の隔壁471側端部とガス流路管42内壁面とが対向する空間で形成された領域Qとで構成されている。
【0064】
上記のように、酸素濃縮ガスが、図2で示すガス流路管42の多孔質体を介してガス流路41外部に分離された混合ガスは、領域P内を滞留しながら隔壁45側に向けて移動する。
領域Pを通過した混合ガスは、領域Qに流入し、さらに上述したのと同様の過程を領域P、P、・・・P、領域Q、Q、・・・Qと繰り返し、ガス流路41に残存した酸素減損ガスは、オゾン濃度が高められた状態で、ガス排出管7により、系外に排出、回収される。
【0065】
このように、分離部4のガス流路41を、流路断面積の低減された領域Qを備えたものとすることで、領域Qと隣接する領域Pにおいて、滞留する混合ガスから、酸素ガスを効率的に濃縮させることができ、優れた分離効率を得ることができる。
【0066】
また、上記のように、ガス流路管42内壁面に集められた酸素濃縮ガスを、領域P〜Pの各領域において逐次ガス流路41外部に放出することにより、酸素濃縮ガスの酸素濃度の上昇に伴う酸素分離速度の低下を抑制することができる。
【0067】
なお、本実施形態では、ガス流路管42全体を多孔質体で構成することとしたが、少なくとも、ガス流路41における膨張室としての領域Pを構成するガス流路管42の一部が多孔質体で構成されていればよく、例えば、ガス流路管42のうち、流体進行方向下流側の領域Pを構成する部分のみを多孔質体で構成したものであってもよい。
【0068】
またさらに、分離部4は、ガス流路管42および隔壁46全体を、多孔質体で形成したものであってもよく、例えば塊状の多孔質体の内部を、図2で示す形状のガス流路41が形成されるようにくり抜き成型して、ガス流路管42および隔壁45を形成したものであってもよい。
【0069】
図4は、第2の実施形態に係る磁性体分離装置の概略構成を示す図である。なお、図1に示す構成要素と同一あるいは類似の構成要素に関しては、同一の参照数字を用いて説明する。
【0070】
第2の実施形態に係る磁性体分離装置10は、第1の実施形態に係る分離部4に対し、ガス流路管41から排出された酸素濃縮ガスを系外に排出する分離機構11が設けられている。分離機構11は、ガス流路管41と磁石44との間の領域に一方の端部が配設された配管12の他端に接続されており、分離機構11の下流側には、分離後の酸素濃縮ガスを回収する回収タンク13が設けられている。
【0071】
分離部4の後段には、ガス排出管7に流出した酸素減損ガスの温度を測定する温度モニター14、および酸素減損ガス中のオゾン濃度を測定するオゾン濃度測定装置15が、ガス排出管7の流路にそって順次接続されており、オゾナイザー3と分離部4との間には、温度モニター14で測定された測定値に基づいて、分離部4に供給する混合ガスの温度を調整する温度調整機構16が設けられている。
【0072】
オゾン濃度測定装置15の後段と、酸素ボンベ2およびオゾナイザー3との間には、ファン17を備えた還流配管18が設けられており、ガス排出管7に流出した混合ガスを、オゾナイザー3前段に還流可能に構成されている。
【0073】
次に、図4で示す磁性体分離装置10の動作について説明する。
なお、図1に示す高濃度オゾン製造装置1を用いた動作と同一あるいは類似の工程については、説明を簡略化する。
【0074】
まず、図4において、酸素ボンベ2から配管5に供給された酸素ガスは、オゾナイザー3に導入されてオゾン化され、得られたオゾンガスと酸素ガスとの混合ガスが、配管6に供給される。配管6に供給された混合ガスは、温度調整機構16による温度調整され、磁化率が調整された後、分離部4のガス流路41に供給される。
【0075】
ガス流路41内に導入された酸素/オゾン混合ガスは、第1の実施形態に係る磁性体分離装置1の分離部4で説明したのと同様の機構により、ガス流路管42の内壁面近傍に集められた酸素濃縮ガスが、ガス流路管42の多孔質体を介して、順次ガス流路41外部に排出される。
【0076】
ガス流路41から排出された酸素濃縮ガスは、分離部4に設けられた分離機構11により分離部4内から分離され、回収タンク13内に回収される。
このようにすることで、ガス流路41から排出された酸素濃縮ガスを効率的に分離部4の外部に分離し、分離部4内の酸素濃度を低い状態に保持することができる。このため、ガス流路41外部への酸素濃縮ガスの移動速度が高められ、オゾン濃度の高められた酸素減損ガスを効率的に得ることができる。
【0077】
一方、ガス流路41からガス排出管7に導入された酸素減損ガスは、温度モニター14による温度測定、およびオゾン濃度測定装置15によるオゾン濃度測定が行われる。そして、オゾン濃度測定装置15の測定結果に基づき、ファン17の動作により酸素減損ガスの一部が還流配管18によりオゾナイザー3の前段に還流される。
【0078】
オゾナイザー3の前段に還流された酸素減損ガスは、配管5によりオゾナイザー3に供給され、再度無声放電によるオゾン化処理が施される。
オゾナイザー3から配管6に供給された酸素/オゾン混合ガスは、温度モニター14で得られた測定結果に基づき、温度調整機構16により温度調整され、磁化率が調整された後、分離部4に供給される。
【0079】
分離部4に供給する混合ガスの温度は、特に限定されないが、適切な磁化率を得る観点から、室温程度に調整することがよい。
【0080】
このようにして分離部4に供給された混合ガスは、上述した実施形態と同様に、ガス流路41内の磁場勾配によりガス流路管42内壁面近傍に集められた酸素濃縮ガスが、ガス流路管42の多孔質体を介して排出されるとともに、ガス流路41内に残存した酸素減損ガスが、ガス排出管7に供給される。
【0081】
このように、オゾン濃度測定装置15の測定結果に基づいて、得られた酸素減損ガスを再度オゾナイザー3前段に還流させることで、原料ガスのオゾン濃度を制御することができ、所望のオゾン濃度を有する酸素減損ガスを得ることができる。
さらに、温度調整機構16により、分離部4に供給する混合ガスの温度を調整し、混合ガス中の酸素の磁化率を適宜調整することで、酸素濃縮ガスの酸素濃度を制御することができる。このため、オゾン濃度測定装置15の測定結果とともに、温度調整機構16の測定結果に基づいて、得られた酸素減損ガスを再度オゾナイザー前段に還流し、分離部4に供給することで、得られる酸素減損ガスのオゾン濃度をより高精度に制御することができる。
【0082】
上述した実施形態に係る磁性体分離装置では、処理対象とする流体を酸素/オゾン混合ガスとし、分離対象としての磁性体を酸素とした場合を例に示したが、本発明の磁性体分離装置は、異なる磁化率を有するもの同士の混合体であれば、適宜適用することが可能である。
【0083】
分離対象としての磁性体は、常磁性体であることが工業的な観点から望ましい。常磁性体としては、酸素、窒素化合物、ナトリウム、アルミニウム、白金が挙げられる。
なお、磁性体としては、上述した常磁性体に限定されず、例えば、方位量子数が充填していない、所謂不対電子を有するものであれば、分離対象とすることが可能である。
【0084】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施形態について説明したが、上記の実施例は、本発明の一例として挙げたものであり、本発明を限定するものではない。
また、上記の各実施形態の説明では、磁性体分離装置において、本発明の説明に直接必要とされない部分等についての記載を省略したが、これらについて必要とされる各要素を適宜選択して用いることができる。
【0085】
その他、本発明の要素を具備し、本発明の趣旨に反しない範囲で当業者が適宜設計変更しうる全ての磁性体分離装置は、本発明の範囲に包含される。本発明の範囲は、特許請求の範囲およびその均等物の範囲によって定義されるものである。
【符号の説明】
【0086】
1,10…磁性体分離装置、2…酸素ボンベ、3…オゾナイザー、4…分離部、41…ガス流路、42…ガス流路管、43,44…磁石、45…隔壁、451,452…側板、5,6,12…配管、7…ガス排出管、11…分離機構、13…回収タンク、14…温度モニター、15…オゾン濃度測定装置、16…温度調整機構、17…ファン、18…還流配管、P,Q…領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体を含む流体を磁場勾配を有する通気性素材からなる流路に流通させ、前記磁性体を流路外に分離して該磁性体より小さい磁化率を有する分子を濃縮する磁性体分離装置であって、
前記流路の内壁面から断面方向に突出して流路断面積を減少させる複数の突出部を、前記流路にそって所定の間隔で設けたことを特徴とする磁性体分離装置。
【請求項2】
前記流路が、無機繊維または金属繊維を圧縮固定した通気性の多孔質体で構成されており、前記流路の内壁面近傍の気体分子を、前記多孔質体を介して前記流路外に排出する請求項1記載の磁性体分離装置。
【請求項3】
前記突出部が断面方向に直立する円弧上の障壁である請求項1または2記載の磁性体分離装置。
【請求項4】
前記流体の流路断面積がステップ状に変化する請求項1乃至3のいずれか1項記載の磁性体分離装置。
【請求項5】
前記磁性体分離装置が、前記磁性体を分離した後の流体の温度を測定する温度測定手段と、該流体に含まれる気体分子の濃度を測定する濃度測定手段とを有しており、
前記温度測定手段および濃度測定手段の測定結果に応じて、前記磁性体を分離後の流体の一部または全部を、前記磁場勾配を有する流路の前段に戻すフィードバック制御機構を有する請求項1乃至4のいずれか1項記載の磁性体分離装置。
【請求項6】
前記流体からの分離対象が、常磁性体である請求項1乃至5のいずれか1項記載の磁性体分離装置。
【請求項7】
前記流体からの分離対象が、不対電子を有する物質である請求項1乃至6のいずれか1項記載の磁性体分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−59749(P2013−59749A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201295(P2011−201295)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】