説明

磁性体化合物のスクリーニング方法

【課題】磁性体化合物の高速なスクリーニングを実現することができる。
【解決手段】高速液体クロマトグラフィーを用いた磁性体化合物のスクリーニング方法であって、吸着剤を充填したカラムに、磁性体化合物を装填する工程と、前記磁性体化合物を前記カラムの移動相に溶離させて検出する工程と、を含む、磁性体化合物のスクリーニング方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体化合物の高速なスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分析的な高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は、化合物の同定、定量および分析に関する情報を含む試料化合物についての情報を得るための強力な手法である。HPLCは、特に、より大きな化合物の分析および液体クロマトグラフィーが不適当である無機イオンの分析のために特に用いられてきた。分析ツールとしてのHPLCは、特定の対象化合物が固定相と移動相(溶媒は連続的にカラムへ適用される)に対する親和性の相違を活用するものである。固定相よりも移動層との相互作用が強い化合物は、カラムからの溶出がより早く、したがって保持時間がより短くなる。対象化合物と固定相の相互作用を操作する目的で、移動相は変更され得る。
【0003】
順相HPLCでは、固定相はシリカなどのように極性があり、移動相はヘキサンまたはイソプロピルエーテルなどのような無極性の溶媒である。
逆相HPLCでは、固定相は無極性で、しばしば炭化水素であり、移動相は比較的に極性の溶媒である。逆相充填材が市販されるようになった1974年以来、逆相HPLCの適用数が成長し、逆相HPLCは今や最も広く使用されているHPLCである。逆相HPLCは、広範な種類の有機化合物を分離することができ、特に、反応混合物の同族化合物を分離するのに有用であり、反応によって生成した種々の化合物を決定するための有用な分析ツールである。
【0004】
HPLCは立体異性体、ジアステレオマー、光学異性体、鏡像立体異性体、および不純物を分離するために用いられる。
立体異性体は、その原子が間隙を介して配向している点のみでお互いに相違する分子である。特別な立体異性体を特徴付ける原子の特定配置は、その光学的立体配置として知られ、既知の順序付け規則、例えば、+または−のいずれか(DまたはL)および/またはRまたはSにより知られている。立体異性体は一般に光学異性体またはジアステレオマーの2タイプに分類される。
光学異性体は、お互いに鏡像関係の立体異性体である。光学異性体は、さらに、相互に重ね合わせることのできない鏡像立体異性体と、相互の重ね合わせることのできる鏡像立体異性体に分類し得る。相互に重ね合わせることのできる鏡像立体異性体はメソ化合物として知られる。
ジアステレオマーは、お互いに鏡像関係にない立体異性体である。ジアステレオマーは、異なる物理特性、例えば融点、沸点、所定溶媒への溶解性、密度、屈折率などを有する。ジアステレオマーは、通常、従来法、例えば分溜、分別晶出、またはHPLCを含むクロマトグラフィーによって難なく分離が可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって金属錯体を含む試料の分析を行う場合、試料中に種々の錯体種(金属原子)が存在するため、クロマトグラムは非常にブロードで未分離となる傾向がある。この現象により、標準的なHPLC技術による鉄錯体の同定と定量が極めて困難となっている。したがって、効果的かつ実効的に金属錯体を分析できる高速液化クロマトグラフィー分析方法に対する大きな必要性が存在する。
【0006】
また、金属錯体は、pHが低下するにしたがってプロトン化し不安定となる、酸安定性の問題を有している。逆相HPLCに使用される移動相は、有機媒体及び水の混合物をトリフルオロ酢酸と様々に組み合わせて含有する場合があるため、金属錯体の検出と定量の手段として用いることには問題がある。すなわち、トリフルオロ酢酸は通常約0.1〜約0.5mass%の範囲で存在し、トリフルオロ酢酸が存在すると、錯体が解離する原因となる。この解離は、HPLCの測定そのものを成立させなくなる。
【0007】
さらに、トリフルオロ酢酸アニオンは、一部のトリフルオロアセテート錯体の形成を引き起こし、この錯体はクロロ錯体から保持時間が異なり得るため、クロマトグラフ分析が混乱してしまうという問題がある。このように、配位子置換の現象は金属錯体の酸不安定性と相まって、HPLCを用いて金属錯体を検出、定量する取り組みに大きな難題を与えている。
【0008】
また、金属錯体をHPLCで分離すると分析中に配位子原子(錯体に含まれる中心原子)が脱落する可能性があるため、金属錯体の分析は非常に困難である。そのため金属錯体をHPLCで分析するためには、通常「配位子原子有」と「配位子原子無」の両方を用意して比較しながら分析するのが普通であり非常に手間がかかるのが現状である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、(1)高速液体クロマトグラフィーを用いた磁性体化合物のスクリーニング方法であって、吸着剤を充填したカラムに、磁性体化合物を装填する工程と、前記磁性体化合物を前記カラムの移動相に溶離させて検出する工程と、を含む、磁性体化合物のスクリーニング方法;
(2)前記検出工程において、磁場誘導により磁性体化合物の溶離速度を向上させることを含む、前記(1)に記載のスクリーニング方法;
(3)前記磁性体化合物は、金属錯体又は有機磁性体である、前記(1)又は(2)に記載のスクリーニング方法;
(4)前記磁性体化合物は、下記式(I)で示される鉄サレン錯体である、前記(1)又は(2)に記載のスクリーニング方法;を提供する。
【化1】


(式(I)中、Rは水酸基を有する化合物から水素が脱離した置換基である)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、磁性体化合物の高速なスクリーニングを実現することができる。
また、磁性体化合物を磁場誘導することにより、HPLC分析が高速かつ効率よく行われ、高速に磁性体化合物を分離しスクリーニングすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明の実施の形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな形態で実施することができる。
【0012】
本発明の磁性体化合物のスクリーニング方法は、高速液体クロマトグラフィーを用いた磁性体化合物のスクリーニング方法であって、吸着剤を充填したカラムに、磁性体化合物を装填する工程と、前記磁性体化合物を前記カラムの移動相に溶離させて検出する工程と、を含む。
前記磁性体化合物は、金属錯体又は有機磁性体であることが好ましい。
前記磁性体化合物は、下記式(I)で示される鉄サレン錯体であることが好ましい。
【化1】


(式(I)中、Rは水酸基を有する化合物から水素が脱離した置換基である)
【0013】
本方法は、微小領域を用いるため表面積が大きく、高効率、高制御性を有する分析が可能になる。
また、一枚のセルに多工程(異なる吸着剤、異なる表面磁束密度をもつ磁石の配置)を連続的に搭載することが可能である。
また、装置の構成が非常にコンパクトである。
【0014】
図1に磁気分離HPLCのカラムの模式図を示す。
図1に示すように、基板1の上には、フォトリソグラフイ(シリコンの場合)または加熱した型(ガラスの場合)を押し付けることにより、幅数mm程度の流路11と、磁気分離用の空間12と、が形成されている。流路11に、シリカ又は合成ポリマーベースの吸着剤を充填した後、板を被せる。
【0015】
上記のようにして構成したカラムに、磁性体化合物を装填した後、磁性体化合物を移動相で溶離させて検出する。
また、磁石13により試料を磁場誘導することにより、磁性体化合物の溶離速度を向上させ、高速分析・分離を行うことができる。
【0016】
無極性の固定相を創造するために、前記シリカ又は合成ポリマーベースの吸着剤を、炭化水素で変性することが好ましい。結合相の例としては、C1、C4、C8およびC18が挙げられる。
例えば、トリチルクロロシラン(C1)及びブチルジメチルクロロラシン(C4)で変性されたシリカベースの吸着剤は、HPLCにおいて主にタンパク質分離または精製に関しある程度の適用がある。これらの吸着剤は大きな極性相互作用を示す。
例えば、オクチル(C8)及びオクシタデシル(C18)で変性された吸着剤は、最も広く用いられているシリカベース吸着剤である。
【0017】
移動相の組成は、試料中の検体の保持特性に大きく影響するため、移動相の組成を変更することにより、混合物中の対象化合物の保持時間を調節することができる。
逆相クロマトグラフィーにおける移動相は極性である必要があり、また、検体分子にとっての吸着部位に合理的な競争を与える必要もある。
逆相HPLC中で使用される溶媒としては、アセトニトリル、ジオキサン、エタノール、メタノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、水が好適である。
高分子量の生物学的化合物の逆相HPLCでは、溶媒アセトニトリル、イソプロパノールまたはプロパノールが用いられる。
分解能改良のための普及した移動相への添加剤としては、リン酸とアミンと全フッ素置換カルボン酸、特にトリフルオロ酢酸(TFA)の混合物が好ましい。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0019】
(実施例1)
鉄サレン錯体の合成を、次のように行った。
【化1】


【0020】
4-nitrophenol (25g, 0.18mol)、hexamethylene tetramine (25g, 0.18mol)、 polyphosphoric acid (200ml)の混合物を1時間100℃で攪拌した。その後、その混合物を500mlの酢酸エチルと1Lの水の中に入れ、完全に溶解するまで攪拌した。さらにその溶液に400mlの酢酸エチルを追加で加えたところその溶液は2つの相に分離し、水の相を取り除き、残りの化合物を塩性溶剤で2回洗浄し、無水MgSO4で乾燥させた結果、compound 2が17g(収率57%)合成できた。
【0021】
【化2】



【0022】
compound 2 (17g, 0.10mol), acetic anhydride (200ml), H2SO4 (少々)を室温で1時間攪拌させた。得られた溶液は、氷水(2L)の中に0.5時間混ぜ、加水分解を行った。得られた溶液をフィルターにかけ、大気中で乾燥させたところ白い粉末状のものが得られた。酢酸エチルを含む溶液を使ってその粉末を再結晶化させたところ、24gのCompound 3(収率76%)の白い結晶を得ることができた。
【0023】
【化3】



【0024】
compound 3 (24g, 77mmol)とメタノール(500ml)に10%のパラジウムを担持したカーボン(2.4g)の混合物を一晩 1.5気圧の水素還元雰囲気で還元した。終了後、フィルターでろ過したところ茶色油状のcompound 4 (21g)が合成できた。
【0025】
【化4】

【0026】
無水ジクロメタン(DCM) (200ml)にcompound 4 (21g, 75mmol), di(tert-butyl) dicarbonate (18g, 82mmol)を窒素雰囲気で一晩攪拌した。得られた溶液を真空中で蒸発させた後、メタノール(100ml)で溶解させた。その後、水酸化ナトリウム(15g, 374mmol)と水(50ml)を加え、5時間還流させた。その後冷却し、フィルターでろ過し、水で洗浄後、真空中て乾燥させたところ茶色化合物がえられた。
得られた化合物は、シリカジェルを使ったフラッシュクロマトグラフィーを2回行うことで、10gのcompound 6(収率58%)が得られた。
【0027】
【化5】

【0028】
無水エタノール400mlの中にcompound 6 (10g, 42mmol)を入れ、加熱しながら還流させ、無水エタノール20mlにエチレンジアミン(1.3g, 21mmol)を0.5時間攪拌しながら数滴加えた。そして、その混合溶液を氷の容器に入れて冷却し15分間かき混ぜた。その後、200mlのエタノールで洗浄しフィルターをかけ、真空で乾燥させたところcompound 7が8.5g (収率82%)で合成できた。
【0029】
【化6】

【0030】
無水メタノール(50ml)の中にcompound 7 (8.2g, 16mmol)、triethylamine (22ml, 160mmol)をいれ、10mlメタノールの中にFeCl3(2.7g, 16mmol)を加えた溶液を窒素雰囲気下で混合した。室温窒素雰囲気で1時間混合したところ茶色の化合物が得られた。その後、真空中で乾燥させた。得られた化合物はジクロロメタン400mlで希釈し、塩性溶液で2回洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、真空中で乾燥させたところcomplex Aが得られた。
得られた化合物はジエチルエーテルとパラフィンの溶液中で再結晶させ高速液化クロマトグラフィーで測定したところ純度95%以上のcomplex A(鉄サレン錯体)5.7g(収率62%)を得た。
その後、薬剤をアシル化、Et3N等の反応ステップを経ることにより、両端に薬剤を結合させた。
得られた鉄サレン錯体を、図1に示す磁気分離HPLCを用いて溶離し、鉄サレン錯体の純度向上と磁性スクリーニングを行った。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】磁気分離HPLCのカラムの模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高速液体クロマトグラフィーを用いた磁性体化合物のスクリーニング方法であって、
吸着剤を充填したカラムに、磁性体化合物を装填する工程と、
前記磁性体化合物を前記カラムの移動相に溶離させて検出する工程と、
を含む、磁性体化合物のスクリーニング方法。
【請求項2】
前記検出工程において、磁場誘導により磁性体化合物の溶離速度を向上させることを含む、請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記磁性体化合物は、金属錯体又は有機磁性体である、請求項1又は2に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
前記磁性体化合物は、下記式(I)で示される鉄サレン錯体である、請求項1又は2に記載のスクリーニング方法。
【化1】

(式(I)中、Rは水酸基を有する化合物から水素が脱離した置換基である)

【図1】
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