説明

磁性体塗装品

【課題】磁性体フレークを含む塗料を用いて、より立体的に模様を発現させることができる磁性体塗装品を提供する。
【解決手段】磁性体フレーク17によって凸条に見える略平行の凸条模様部R1,R1と、2つの凸条模様部R1,R1に挟まれた隙間領域Gにて凸条模様部R1,R1の各々に隣接し、磁性体フレーク17によって傾斜模様に見える傾斜模様部R3,R3と、2つの傾斜模様部R3,R3の境界に位置し、傾斜模様部R3,R3の磁性体フレーク17の傾斜角度の変化率よりも大きい変化率で磁性体フレーク17の姿勢が変化することにより、凹条に見える凹条模様部R4とを有するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄板状の被塗装品の表面に、指向する方向によって光の反射率や反射方向を変える微細な磁性体フレークを含む塗料を塗布し、磁性体フレークによって立体的に見える立体的模様を発現させた磁性体塗装品に関する。
【背景技術】
【0002】
薄板状の被塗装品の表面に、指向する方向によって光の反射率や反射方向を変える微細な磁性体フレークを含む塗料を塗布し、磁性体フレークによって立体的に見える立体的模様を発現させた磁性体塗装品が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−323947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、磁性体フレークを含む塗料を用いて、より立体的に模様を発現することができれば、塗装の適用範囲が拡がり、塗装技術の向上に寄与する。
本発明は、上述した事情を鑑みてなされたものであり、磁性体フレークを含む塗料を用いて、より立体的に模様を発現させることができる磁性体塗装品を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するため、本発明は、薄板状の被塗装品(1)の表面に、指向する方向によって光の反射率や反射方向を変える微細な磁性体フレーク(17)を含む塗料を塗布し、磁性体フレーク(17)によって立体的に見える立体的模様を発現させた磁性体塗装品において、前記立体的模様は、凸条に見える模様であり、略平行に2つ配置される凸条模様部(21,22)と、前記2つの凸条模様部(R1,R1)に挟まれた隙間領域(G)にて、前記凸条模様部(R1,R1)の各々に隣接する2つの模様であり、前記磁性体フレーク(17)が前記隙間領域(G)の中央に向けて下方に傾斜する姿勢をとることにより、前記凸条模様部(R1,R1)よりも暗く見える傾斜模様部(R3,R3)と、前記2本の傾斜模様部(R3,R3)の境界に位置する模様であり、前記2本の傾斜模様部(R3,R3)から前記隙間領域(G)の中央に向けて下方に傾斜する磁性体フレーク(17)の姿勢をつなぐと共に、前記傾斜模様部(R3,R3)の磁性体フレーク(17)の傾斜角度の変化率よりも大きい変化率で前記磁性体フレーク(17)の姿勢が変化することにより、凹条に見える凹条模様部(R4)とを有することを特徴とする。
この構成によれば、磁性体フレークによって立体的に見える立体的模様が、凸条に見えて略平行に2つ配置される凸条模様部と、凸条模様部に挟まれた隙間領域にて、凸条模様部の各々に隣接して凸条模様部よりも暗く見える傾斜模様部と、2本の傾斜模様部の境界に位置して凹条に見える凹条模様部とを有するので、2つの凸条模様部の間に、V字状の谷部のように見える立体模様を形成することができる。従って、磁性体フレークを含む塗料を用いて、より立体的に模様を発現させることができる。
【0006】
上記構成において、前記磁性体フレーク(17)の傾斜角度は、横軸を、前記2つの凸条模様部(R1,R1)の中央位置(LC)からの距離とし、縦軸を前記傾斜角度とした場合、前記傾斜模様部(R3,R3)の位置で極大値又は極小値をとるようにしてもよい。この構成によれば、極大値と極小値の前後で、磁性体フレークの傾斜角度の変化率が正から負、或いは、負から正へと大きく変化し、凹条模様部を鮮明に発現することができると共に、極大値と極小値付近で磁性体フレークの角度変化率が非常に低い領域が形成され、傾斜模様部を平板状に見せることができる。これらにより、より鮮明なV字状の谷部を発現することができる。
また、上記構成において、前記磁性体フレーク(17)の傾斜角度は、前記隙間領域(G)で極大値と極小値を1カ所ずつ有するようにしてもよい。この構成によれば、一対の傾斜模様部、及び、これら傾斜模様部をつなぐ単一の凹条模様部を発現することができ、より鮮明なV字状の谷部を発現することができる。
【0007】
また、上記構成において、前記極大値又は極小値の絶対値は、塗装面に対し、50度〜70度であるようにしてもよい。この構成によれば、傾斜模様部のコントラストを確保し易く、より鮮明なV字状の谷部を発現することができる。
また、上記構成において、前記凹条模様部(R4)における前記磁性体フレーク(17)の傾斜角度は0度を含み、この0度を含む幅5[mm]の領域で、前記磁性体フレーク(17)の角度の変化率は、平均10[度/mm]以上であるようにしてもよい。この構成によれば、凹条模様部が鮮明となり、より鮮明なV字状の谷部を発現することができる。
【0008】
また、上記構成において、前記2つの凸条模様部(R1,R1)は、20[mm]〜40[mm]の隙間をあけて配置されるようにしてもよい。この構成によれば、2つの凸条模様部の間のV字状の谷部を視認し易くできる。
また、上記構成において、前記立体的模様は、前記被塗装品(1)の裏側に磁石(3)を配置し、前記被塗装品(1)の表面に磁界を発生させることにより、前記磁性体フレーク(17)の姿勢を調整して発現される模様であり、前記2つの凸条模様部(R1,R1)は、N極を被塗装品(1)側に向けて配置された第1磁石(5)と、この第1磁石(5)と間隔を空けてS極を被塗装品(1)側に向けて配置された第2磁石(7)との輪郭に沿って各々形成される模様であり、前記隙間領域(G)は、前記第1磁石(5)と前記第2磁石(7)との隙間に対応するようにしてもよい。この構成によれば、2つの磁石を被塗装品に対して異極に配置する、という簡易な構成で、2つの凸条模様部の間にV字状の谷部が見える立体模様を形成することができ、より立体的に模様を発現させることができる。
【0009】
この場合、前記第1磁石(5)および前記第2磁石(7)によって形成される磁力線は、横軸を位置とし、縦軸を傾斜角度とした場合、前記傾斜模様部(R3,R3)の位置で極大値又は極小値をとると共に、この極大値又は極小値をとる領域で、前記被塗装品(1)の表面における磁束密度は、1[mT]以上であるようにしてもよい。この構成によれば、2つの傾斜模様部のコントラストがとりやすく、より鮮明なV字状の谷部を発現することができる。
また、上記構成において、前記第1磁石(5)および前記第2磁石(7)の一方を他方よりも細く、又は、薄く形成することによって、前記凹条模様部(R4)を一方側にオフセットさせるようにしてもよい。この構成によれば、凹条模様部を簡易にオフセットさせることができる。
また、上記構成において、前記第1磁石(5)および前記第2磁石(7)の一方を他方よりも磁力を弱くすることによって、前記凹条模様部(R4)を一方側にオフセットさせるようにしてもよい。この構成によっても、凹条模様部を簡易にオフセットさせることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、磁性体フレークによって立体的に見える立体的模様が、凸条に見えて略平行に2つ配置される凸条模様部と、凸条模様部に挟まれた隙間領域にて、凸条模様部の各々に隣接して凸条模様部よりも暗く見える傾斜模様部と、2本の傾斜模様部の境界に位置して凹条に見える凹条模様部とを有するので、2つの凸条模様部の間に、V字状の谷部のように見える立体模様を形成することができ、磁性体フレークを含む塗料を用いて、より立体的に模様を発現させることができる。
また、磁性体フレークの傾斜角度は、横軸を、2つの凸条模様部の中央位置からの距離とし、縦軸を前記傾斜角度とした場合、傾斜模様部の位置で極大値又は極小値をとるようにすれば、極大値と極小値の前後で、磁性体フレークの傾斜角度の変化率が大きく変化し、凹条模様部を鮮明に発現することができると共に、極大値と極小値付近で磁性体フレークの角度変化率が非常に低い領域が形成され、傾斜模様部を平板状に見せることができる。従って、より鮮明なV字状の谷部を発現することができる。
【0011】
また、磁性体フレークの傾斜角度は、凸条模様部に挟まれた隙間領域で極大値と極小値を1カ所ずつ有するようにしてもよい。この構成によれば、一対の傾斜模様部、及び、これら傾斜模様部をつなぐ単一の凹条模様部を発現することができ、より鮮明なV字状の谷部を発現することができる。
この場合、極大値又は極小値の絶対値は、塗装面に対し、50度〜70度であるようにすれば、傾斜模様部のコントラストを確保し易く、より鮮明なV字状の谷部を発現することができる。
また、凹条模様部における磁性体フレークの傾斜角度は0度を含み、この0度を含む幅5[mm]の領域で、前記磁性体フレークの角度の変化率は、平均10[度/mm]以上であるようにすれば、凹条模様部が鮮明となり、より鮮明なV字状の谷部を発現することができる。
また、2つの凸条模様部は、20[mm]〜40[mm]の隙間をあけて配置されるようにすれば、2つの凸条模様部の間のV字状の谷部を視認し易くできる。
【0012】
また、上記立体的模様は、被塗装品の裏側に磁石を配置し、被塗装品の表面に磁界を発生させることにより、磁性体フレークの姿勢を調整して発現される模様であり、2つの凸条模様部は、N極を被塗装品側に向けて配置された第1磁石と、この第1磁石と間隔を空けてS極を被塗装品側に向けて配置された第2磁石との輪郭に沿って各々形成される模様であり、隙間領域は、第1磁石と第2磁石との隙間に対応するようにすれば、2つの磁石を被塗装品に対して異極に配置する、という簡易な構成で、2つの凸条模様部の間にV字状の谷部が見える立体模様を形成することができ、より立体的に模様を発現させることができる。
この場合、第1磁石および第2磁石によって形成される磁力線は、横軸を位置とし、縦軸を傾斜角度とした場合、傾斜模様部の位置で極大値又は極小値をとると共に、この極大値又は極小値をとる領域で、被塗装品の表面における磁束密度は、1[mT]以上であるようにすれば、2つの傾斜模様部のコントラストがとりやすく、より鮮明なV字状の谷部を発現することができる。
【0013】
また、第1磁石および第2磁石の一方を他方よりも細く、又は、薄く形成することによって、凹条模様部を一方側にオフセットさせるようにすれば、凹条模様部を簡易にオフセットさせることができる。
また、第1磁石および第2磁石の一方を他方よりも磁力を弱くすることによって、凹条模様部を一方側にオフセットさせるようにしても、凹条模様部を簡易にオフセットさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る磁性体塗装品を表面から見た図である。
【図2】図1のII−II断面図である。
【図3】第1磁石と第2磁石とを、同極を被塗装品側に向けて配置した比較例を示す図である。
【図4】(A)は、第1磁石と第2磁石の離間距離が20[mm]の場合の磁界を示す図であり、(B)は、各磁石の隙間領域の中心からの距離と、被塗装品の表面の磁性体フレークの向きとの関係を示す図であり、(C)は、被塗装品の塗膜を示す図である。
【図5】(A)は、第1磁石と第2磁石の離間距離が30[mm]の場合の磁界を示す図であり、(B)は、各磁石の隙間領域の中心からの距離と、被塗装品の表面の磁性体フレークの向きとの関係を示す図である。
【図6】(A)は、第1磁石と第2磁石の離間距離が40[mm]の場合の磁界を示す図であり、(B)は、各磁石の隙間領域の中心からの距離と、被塗装品の表面の磁性体フレークの向きとの関係を示す図である。
【図7】第1磁石と第2磁石の離間距離が80[mm]の場合に、各磁石の隙間領域の中心からの距離と、被塗装品の表面の磁界の向きとの関係を示す図である。
【図8】第1磁石と第2磁石の離間距離が5[mm]の場合に、各磁石の隙間領域の中心からの距離と、被塗装品の表面の磁界の向きとの関係を示す図である。
【図9】磁性体フレークの角度を確認する方法を説明する図である。
【図10】(A)は一方の磁石を他方の磁石よりも細くした場合の一例を示す図であり、(B)は一方の磁石を他方の磁石よりも薄く形成した場合の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る磁性体塗装品を表面から見た図であり、図2は図1のII−II断面図である。
この磁性体塗装品10は、被塗装品1の表面1A(図2参照)に塗装機(不図示)を用いて塗料を塗布して塗膜15を形成することによって形成される。
被塗装品1は、薄板状の非磁性体であり、例えば、例えば板厚2〜3mmの樹脂板で構成された自動二輪車の外装部品である。本実施形態では、被塗装品1の表面1Aは、完成品の塗色と異なる材料の色を有するが、表面1Aには完成品の塗色の塗料(不図示)が塗布されていてもよいし、成形材料に配合される顔料により塗色が発現されていてもよい。なお、被塗装品1は、樹脂成形品のほかゴムやFRPで形成されていてもよい。
【0016】
被塗装品1の裏面1B側には、裏面1Bに沿って板状の磁石3が配置されている。この磁石3は、板状の第1磁石5と板状の第2磁石7とで構成される。
第1磁石5と第2磁石7とは、互いに間隔を空けて略平行に被塗装品1の裏面1Bに沿って配置され、より具体的には、鋭角でV字状に配置されている。第1磁石5の形状および磁力は第2磁石7と略同等であり、不図示の粘着テープ或いは固定治具を用いて、被塗装品1の裏面1Bに固定される。
本実施形態では、第1磁石5および第2磁石7はともに薄板状のマグネットシートで形成される。このマグネットシートは、ゴム等の成形材料中に多数の微細な磁性体粒子を練りこんでシート状に成形し、磁性体粒子を着磁させて得られるマグネットシートである。
【0017】
図2に示すように、第1磁石5は、N極を被塗装品1側に向け、S極を被塗装品1の反対側に向けて配置される。また、第2磁石7は、第1磁石5とは反対に、S極を被塗装品1側に向け、N極を被塗装品1の反対側に向けて配置される。すなわち、第1磁石5と第2磁石7とは、互いに異なる磁極を被塗装品1側に向けて配置されている。以下、この配置を異極配置と言う。
異極配置した場合、一方の磁石5,7の磁界が他方の磁石7,5の影響を受け易くなる。
この場合、各磁石5,7のN極,S極に近い領域では、N極から出た磁力線は同じ磁石のS極に入る磁界(後述する磁界J1,J2)を形成する。一方、遠い領域では、一方の磁石のN極から出た磁力線は、他方の磁石のS極に入る磁界(後述する磁界J3)を形成する。
つまり、図2に示すように、被塗装品1の領域には、第1磁石5のN極からS極に向かう磁界J1および第2磁石7のN極からS極に向かう磁界J2に加えて、磁石5,7間かつ被塗装品1の表面1A近傍にて、第1磁石5のN極から第2磁石7のS極まで延びる磁界J3が形成される。なお、磁界の向きは、磁力線の向きで示される。
また、第1磁石5のN極から第2磁石7のS極まで延びる磁界J3のうち、磁界J1,J2に近い領域では、磁界J1,J2の影響を受け、2つの磁石5,7間の領域において、磁界J1,J2の双方に沿うように磁力線が略M字状に湾曲される領域(磁界J3’)が形成される。
ここで、図3は、第1磁石5と第2磁石7とを、同極を被塗装品1側に向けて配置(同極配置)した比較例を示している。この図に示すように、同極配置した場合には、磁石5,7間にて第1磁石5から第2磁石7まで延びる磁界J3は形成されない。
【0018】
図2に示す被塗装品1の表面1Aに形成される磁界の向きおよび磁束密度は、第1磁石5および第2磁石7の磁力と、第1磁石5および第2磁石7の離間距離H1に応じて変化する。
本実施形態において、第1磁石5および第2磁石7に用いるマグネットシートは、幅が15[mm]、厚さが1[mm]、磁気特性として、吸着力が約90[g/平方cm]、表面ガウスが約60[mT]、残留磁束密度(Br)が約230[mT]、保持力(bHc)が約160[kA/m]、保持力(iHc)が約240[kA/m]、最大エネルギー積((BH)max)が約10[kJ/立方m]である。
【0019】
図4(A)は、第1磁石5と第2磁石7の離間距離H1=20[mm]の場合の磁界を示す図であり、図4(B)は、磁石5,7の隙間領域Gの中心となる中心軸線LCからの距離Xと、被塗装品1の表面1Aの磁性体フレーク17の向き(角度)との関係(図中、符号f1を付して示す特性曲線)を示す図である。
なお、図4(B)中、0度(0deg)のときは、磁性体フレーク17の向きが被塗装品1の表面1Aと平行の向きに対応している。また、第1磁石5から第2磁石7に向けて被塗装品1の表面1Aから表側に開く角度に正の符号を付し、被塗装品1の表面1Aから裏側に開く角度に負の符号を付している。
また、図4(C)は、被塗装品1の塗膜15を模式的に示している。図4(C)では、説明を判りやすくするため、塗膜15の厚さを誇張している。
【0020】
塗膜15を形成する塗料は、磁性体フレーク17(図4(C)参照)を含む半透明または透明の液状塗料である。塗膜15は薄く、例えば乾燥膜厚で100[μm]以下である。磁性体フレーク17は、液体中に混合されて磁力が作用すると磁力の向きに沿って指向するように姿勢を変える微細な線状又は薄板状の微細な粉末である。この磁性体フレーク17の姿勢により、光の反射率や反射方向が変わる。本実施形態では、磁性体フレーク17の材質はステンレス鋼である。但し、ステンレス鋼に限らず、鉄、ニッケル、コバルト、クロム、酸化鉄や、これらの金属または金属酸化物を被覆または含有せしめたものであってもよい。
【0021】
被塗装品1の表面1Aに塗料を塗布した後、塗膜15が未硬化の液状であるときに磁性体フレーク17が磁界に沿って配向され、乾燥して硬化することによって、磁性体フレーク17が磁界に沿った配向に固定され、塗料が硬化した後に第1磁石5および第2磁石7は取り外される。
この場合、図4(A)〜(C)に示すように、各磁石5、7の互いに近い輪郭(磁石輪郭位置5B,7A)に対応する領域R1、及び、遠い輪郭(磁石輪郭位置5A,7B)に対応する領域R5には、磁界J1,J2により被塗装品1の表面1Aと略平行の向きで磁界が形成され、磁性体フレーク17が被塗装品1の表面1Aと略平行に指向する姿勢に保持される領域ができる。
【0022】
磁性体フレーク17は、被塗装品1の表面1Aと平行に配向されたときが被塗装品1の表面1Aに直交する方向の光の反射率が最も高く、被塗装品1の表面1Aと直交に配向されたときが光の反射率が最も低くなるので、磁石輪郭位置5A,5B、7A,7Bを含む領域R1,R5の光の反射率が周囲に比して高くなる。
このため、各磁石5,7の輪郭に対応する部分が周囲に比して明るくなる。これによって、被塗装品1の表面1Aの上に、第1磁石5の輪郭形状が浮き出て見える凸条模様部R1,R5として発現することになる。
【0023】
磁石輪郭位置5A,5B間では、図4(B)に示すように、磁性体フレーク17の角度曲線f1(図中、符号f1Aを付して示す)が上方に凸の特性となり、磁性体フレーク17の角度が0度〜+90度の範囲で変化している。この場合、+90度の時に被塗装品1の表面1Aに直交する方向の光の反射率が最も低くなるので、+90度を中心とする近傍範囲では殆ど光を反射しなくなる。
このように、磁石輪郭位置5A,5B間には、殆ど光を反射しない領域を含む暗い領域R2が形成され、この暗い領域R2の周囲が、磁石輪郭位置5A,5Bに対応する明るい領域R1,R5で囲まれるので、上記第1磁石5の輪郭に沿う凸条模様部R1,R5として際立たせ、浮き出させることができる。
【0024】
また、磁石輪郭位置7A,7B間では、図4(B)に示すように、磁性体フレーク17の角度曲線f1(図中、符号f1Bを付して示す)が下方に凸の特性となり、この特性f1Bは、磁石輪郭位置5A,5B間の特性f1Aと上下対称となる。
この場合、磁石輪郭位置7A,7B間では、磁性体フレーク17の傾斜角度が0度〜−90度の範囲となり、−90度の時に被塗装品1の表面1Aに直交する方向の光の反射率が最も低くなるので、磁石輪郭位置7A,7B間においても、殆ど光を反射しない領域を含む領域R2が形成される。このため、この暗い領域R2の周囲が、磁石輪郭位置7A,7Bに対応する明るい領域R1,R5で囲まれ、上記第2磁石7の輪郭に沿う凸条模様部R1,R5として際立たせ、浮き出させることができる。
【0025】
次に、被塗装品1の表面1Aにおける第1磁石5と第2磁石7の隙間領域G、つまり、磁石輪郭位置5B、7A間について説明する。
本構成では、第1磁石5と第2磁石7とを異極配置することによって、被塗装品1の表面1A近傍に、第1磁石5のN極から第2磁石7のS極まで延びる磁界J3(図2参照)が形成される。この磁界J3は、図2に示すように、第2磁石7のS極に向かう途中で、第1磁石5のS極の影響を受けるので、中心軸線LC近傍にて裏面方向に凹む磁界J3’を有する。
【0026】
また、本構成では、第1磁石5と第2磁石7が同じ磁石であるため、中心軸線LC上で磁界の角度が0度となり、この中心軸線LC上の角度0度の位置を基準にして、磁性体フレーク17の角度の絶対値が左右で同じとなる。
磁性体フレーク17の角度の絶対値が左右で同じであれば、被塗装品1の表面1Aに直交する方向の光に対する光の反射率は同じである。従って、塗膜15の反射特性は、中心軸線LCを基準に左右で同じ特性となる。以下、第1磁石5の磁石輪郭位置5Bと中心軸線LCとの間について詳細に説明し、中心軸線LCと第2磁石7の磁石輪郭位置7Bとの間については重複する説明を省略する。
【0027】
図4(B)に示すように、磁石輪郭位置5Bと中心軸線LCとの間では、磁性体フレーク17の角度曲線f1(図中、符号f1Cを付して示す)が下方に凸の特性となり、磁性体フレーク17の角度は、磁石輪郭位置5Bから0度〜約−50度(極小値の位置)に変化した後に、再び0度に向けて変化し、中心軸線LC上で0度となっている。
磁性体フレーク17は、磁界J3’の角度に沿って指向するので、磁石輪郭位置5Bから中心軸線LCに近づくにつれ0度〜約−50度に指向した向きとなり、途中で極小値を経た後、約−50度〜0度に指向した向きとなり、中心軸線LC上で0度となる。このため、磁性体フレーク17は、図4(C)に示すように、中心軸線LCに向かって下方に傾斜する姿勢で配置される。
約−50度の場合、被塗装品1の表面1Aに直交する方向の光の反射率は中間値(最も高い状態(角度0度のとき)と最も低い状態(角度90度のとき)との間の値)となる。
このため、磁石輪郭位置5B(角度0度の位置)から−50度の範囲では、明るい状態から中間の明るさになるまで徐々に暗くなり、凸条模様部R1の明るい輪郭から離れるに従って暗くなる領域を形成する。これによって、凸条模様部R1から離れるに従って下方に沈む傾斜部に見える視覚効果を生じさせる傾斜模様部R3が発現することになる。
【0028】
また、−50度の範囲から中心軸線LCの範囲では、傾斜模様部R3から離れて中心軸線LCに近づくに従って光の反射率が徐々に高くなり、中心軸線LCで最も光の反射率が高くなる。
この場合、徐々に暗くなる傾斜模様部R3に連なって徐々に明るくなる領域が形成されるので、傾斜模様部R3によって下方に沈んで見える傾斜の角度が徐々に緩くなったように見える視覚効果を生じさせる。
本実施形態では、中心軸線LCを挟んで左右に間隔を空けて傾斜模様部R3が形成され、各傾斜模様部R3の間に、各傾斜模様部R3から徐々に明るくなる領域が形成されるので、これらによって、傾斜模様部R3間をつなぐ谷部(凹条)に見える視覚効果を生じさせる凹条模様部R4が発現することになる。
この凹条模様部R4は、中心軸線LCを中心とする約10[mm]の幅内に形成される。この凹条模様部R4では、磁性体フレーク17の傾斜角度が、5mm幅で約50度変化しているため、磁性体フレーク17の角度変化率は、約10[度/mm]となっている。
また、図4(B)に示すように、磁石輪郭位置5B、7A間には、磁性体フレーク17の角度の極大値と極小値が一つずつ得られ、これら極値をとる位置(図4中、符号K1,K2で示す位置)は、図4(C)に示すように、磁性体フレーク17の変曲点となっている。
【0029】
このように、2つの凸条模様部R1,R1に挟まれた隙間領域Gに、各凸条模様部R1,R1の各々に隣接して凸条模様部R1,R1よりも暗く見えて傾斜部に見える傾斜模様部R3、R3と、傾斜模様部R3、R3間で凹条に見える凹条模様部R4とを有するので、2つの凸条模様部R1,R1の間に下方にV字状に沈んだ奥行き感を付与することができ、凸条模様部R1,R1を設けるだけに比してより立体感を出すことができる。
上記傾斜模様部R3と凹条模様部R4とは、隙間領域Gにおいて、磁性体フレーク17の傾斜角度を0度〜約−50度に変化させた後、再び0度に向けて変化させることによって形成される。つまり、磁性体フレーク17の傾斜角度の変化率を負(或いは正)に変化させた後に、正(或いは負)に急激に変化させることによって形成される。
本構成では、2つの磁石5,7を異極配置することによって、隙間領域Gにおいて、磁界の角度の極大値(図4(B)では約+50度)と極小値(図4(B)では約−50度)を一つずつ形成し、各極大値と極小値とによって磁性体フレーク17の傾斜角度の変化率を、正から負、および、負から正へと変え、これによって傾斜模様部R3と凹条模様部R4とを形成している。これによって、簡易な方法で、立体感の得られる塗装が可能になっている。
【0030】
この立体感は、磁石5,7の離間距離H1=20[mm]の箇所に限らず、離間距離H1が異なる箇所でも得られる。
図5(A)は、第1磁石5と第2磁石7の離間距離H1=30[mm]の場合の磁界を示す図であり、図5(B)は、磁石5,7の隙間領域Gの中心となる中心軸線LCからの距離Xと、被塗装品1の表面1Aの磁性体フレーク17の向き(角度)との関係(図中、符号f2を付して示す特性曲線)を示す図である。
図5(A)(B)に示すように、離間距離H1=30[mm]の場合にも、第1磁石5と第2磁石7との異極配置によって、第1磁石5のN極から第2磁石7のS極に延びる磁界J3、及び、中心軸線LC近傍にて裏面方向の凹む磁界J3’が形成され、この磁界J3’によって、隙間領域Gに磁界の極大値と極小値とが一つずつ得られる。
【0031】
このため、磁石輪郭位置5Bと極小値との間の磁界、および、磁石輪郭位置7Aと極大値との間の磁界により、2つの凸条模様部R1,R1に隣接して磁性体フレーク17が隙間領域Gの中央に向けて下方に傾斜する傾斜模様部R3,R3が形成され、傾斜模様部R3,R3間の磁界(極大値と極小値の間の磁界)により、磁性体フレーク17の傾斜角度の変化率を正から負、および、負から正へと各々変えて凹条に見える凹条模様部R4が形成される。
離間距離H1=30[mm]の場合、図5(B)に示すように、磁性体フレーク17の角度の極大値が約+60度であり、極小値が約−60度であり、凹条模様部R4が中心軸線LCを中心とする約10[mm]の幅内に形成され、凹条模様部R4における磁性体フレーク17の角度変化率は、57度/5[mm]で、約11.4[度/mm]となっている。
つまり、離間距離H1=30[mm]の場合、離間距離H1=20[mm]と比較して磁性体フレーク17の角度の極値(極大値および極小値)が10度ずつ大きくなり、凹条模様部R4の幅はほぼ同じであり、磁性体フレーク17の角度変化率は、ほぼ同じで、約10[度/mm]となっている。
【0032】
図6(A)は、磁石5,7の離間距離H1=40[mm]の場合に被塗装品1の表面1Aに形成される磁界を示す図であり、図6(B)は、上記中心軸線LCからの距離Xと、被塗装品1の表面1Aの磁性体フレーク17の向き(角度)との関係(図中、符号f3を付して示す特性曲線)を示す図である。
図6(A)(B)に示すように、離間距離H1=40[mm]の場合にも、第1磁石5と第2磁石7との異極配置によって、第1磁石5のN極から第2磁石7のS極に延びる磁界J3、及び、中心軸線LC近傍にて裏面方向に凹む磁界J3’が形成され、この磁界J3’によって、隙間領域Gに磁界の極大値と極小値とが一つずつ得られる。
このため、磁石輪郭位置5Bと極小値との間の磁界、および、磁石輪郭位置7Aと極大値との間の磁界により、2つの凸条模様部R1,R1に隣接して磁性体フレーク17が隙間領域Gの中央に向けて下方に傾斜する傾斜模様部R3,R3が形成され、傾斜模様部R3,R3間の磁界(極大値と極小値の間の磁界)により、磁性体フレーク17の傾斜角度の変化率を正から負、および、負から正へと各々変えて凹条に見える凹条模様部R4が形成される。
【0033】
離間距離H1=40[mm]の場合、図6(B)に示すように、磁性体フレーク17の角度の極大値が約+70度であり、極小値が約−70度であり、凹条模様部R4が中心軸線LCを中心とする約10[mm]の幅内に形成され、凹条模様部R4における磁性体フレーク17の角度変化率は、57度/5[mm]で、約11.4[度/mm]となっている。
つまり、離間距離H1=40[mm]の場合、離間距離H1=30[mm]と比較して磁性体フレーク17の角度の極値(極大値および極小値)が10度ずつ大きくなり、凹条模様部R4の幅はほぼ同じであり、磁性体フレーク17の角度変化率は、ほぼ同じで、約10[度/mm]以上となっている。
【0034】
図7は、第1磁石5と第2磁石7の離間距離H1=80[mm]の場合に、上記中心軸線LCからの距離Xと、被塗装品1の表面1Aの磁界の向き(角度)との関係(図中、符号f4を付して示す特性曲線)を示す図である。
この図に示すように、離間距離H1=80[mm]の場合には、第1磁石5と第2磁石7とを異極配置しても、第1磁石5と第2磁石7とが離れているため、磁界J1,J2による影響が少ない。これにより、凹条模様部R4が形成されにくく、凹条模様部R4による立体感の増大効果は得られない。
【0035】
図8は、磁石5,7の離間距離H1=5[mm]の場合に、上記中心軸線LCからの距離Xと、被塗装品1の表面1Aの磁界の向き(角度)との関係(図中、符号f5を付して示す特性曲線)を示す図である。
離間距離H1=5[mm]の場合には、磁石5,7の隙間領域Gに、磁界の極値(極大値および極小値)が形成されるものの、極値の絶対値が20度以下であるため、傾斜模様部R3および凹条模様部R4の明るさ変化を視認し難く、視覚で十分に認識することは困難であった。
【0036】
発明者等が検討したところ、磁石5,7の隙間領域Gに、極大値と極小値を1カ所ずつ形成し、かつ、極大値と極小値の絶対値が50度〜70度の範囲内で、凹条模様部R4の磁性体フレーク17の角度変化率が10[度/mm]以上の条件を満足することが、傾斜模様部R3および凹条模様部R4を十分に視認でき、立体感が向上する条件であることが判った。また、この条件を満たす離間距離H1としては、20[mm]〜40[mm]の範囲が最適であった。
また、極大値と極小値をとる領域は、磁石5,7の輪郭(磁石輪郭位置5B、7A)近傍となるため、この領域に対応する被塗装品1の表面1Aにおける磁束密度は比較的高く、本実施形態では、少なくとも1[mT]以上を確保している。磁束密度が高いほど磁性体フレーク17がその磁界(磁力線)に沿うので、極大値と極小値の磁界に沿わせて磁性体フレーク17を配置でき、2つの傾斜模様部R3,R3のコントラストが明確になる。
【0037】
以上説明したように、本実施の磁性体塗装品10では、磁性体フレーク17によって立体的に見える立体的模様が、磁性体フレーク17によって凸条に見える略平行の凸条模様部R1,R1と、2つの凸条模様部R1,R1に挟まれた隙間領域Gにて凸条模様部R1,R1の各々に隣接し、磁性体フレーク17によって傾斜模様に見える傾斜模様部R3,R3と、2つの傾斜模様部R3,R3の境界に位置し、傾斜模様部R3,R3の磁性体フレーク17の傾斜角度の変化率よりも大きい変化率で磁性体フレーク17の姿勢が変化することにより、凹条に見える凹条模様部R4とを有するようにしたので、2つの凸条模様部R1,R1の間に、V字状の谷部のように見える立体模様を形成することができ、磁性体フレーク17を含む塗料を用いて、より立体的に模様を発現させることができる。
【0038】
また、磁性体フレーク17の傾斜角度は、横軸を、2つの凸条模様部R1,R1の中央位置(中心軸線LC)からの距離とし、縦軸を傾斜角度とした場合、傾斜模様部R3,R3の位置で極大値と極小値をとるようにしたので、極大値と極小値の前後で、磁性体フレーク17の傾斜角度の変化率が、正から負、或いは、負から正へと大きく変化し、凹条模様部R4を鮮明に発現することができる。しかも、極大値と極小値付近では磁性体フレーク17の角度変化率が非常に低い領域が形成されるので、傾斜模様部R3,R3が平板状に見え、その結果として、より鮮明なV字状の谷部を発現することができる。
【0039】
また、磁性体フレーク17の傾斜角度は、凸条模様部R1,R1間の隙間領域Gで極大値と極小値を1カ所ずつ有するので、一対の傾斜模様部R3,R3、および、傾斜模様部R3,R3をつなぐ単一の凹条模様部R4を発現することができ、より鮮明なV字状の谷部を発現することができる。
また、上記極大値又は極小値の絶対値は、塗装面である表面1Aに対し、50度〜70度であるので、2つの傾斜模様部R3,R3のコントラストを確保し易く、より鮮明なV字状の谷部を発現することができる。
また、凹条模様部R4における磁性体フレーク17の傾斜角度は0度を含み、この0度を含む幅5[mm]の領域で、磁性体フレーク17の角度の変化率は、平均10[度/mm]以上あるので、凹条模様部R4が鮮明となり、より鮮明なV字状の谷部を発現することができる。
【0040】
また、2つの凸条模様部R1,R1は、20[mm]〜40[mm]の隙間をあけて配置されるので、2つの凸条模様部R1,R1の間のV字状の谷部を視認し易くできる。
しかも、本構成の立体的模様は、被塗装品1の裏側に磁石5,7を配置し、被塗装品1の表面1Aに磁界を発生させることにより、磁性体フレーク17の姿勢を調整して発現される模様であり、2つの凸条模様部R1,R1は、N極を被塗装品1側に向けて配置された第1磁石5と、この第1磁石5と間隔を空けてS極を被塗装品1側に向けて配置された第2磁石7との輪郭に沿って各々形成される模様であり、隙間領域Gは、第1磁石5と第2磁石7との隙間に対応するので、2つの磁石5,7を被塗装品1に対して異極に配置する、という簡易な構成で、2つの凸条模様部R1,R1の間に、V字状の谷部が見える立体模様を形成することができ、より立体的に模様を発現させることができる。
【0041】
また、第1磁石5および第2磁石7によって形成される磁力線は、横軸を位置とし、縦軸を傾斜角度とした場合、傾斜模様部R3,R3の位置で極大値又は極小値をとると共に、この極大値又は極小値をとる領域で、被塗装品1の表面1Aにおける磁束密度は、1[mT]以上が確保されるようにしたので、磁性体フレーク17を磁力線の向きに沿わせやすく、結果として2つの傾斜模様部R3,R3のコントラストがとりやすく、より鮮明なV字状の谷部を発現することができる。
なお、本実施形態において、塗膜15の磁性体フレーク17は、全てが磁界に沿った一定の方向を向いているわけではなく、一部は違う方向を向いている。従って、本発明における「磁性体フレーク17の角度」とは、その位置における多数の磁性体フレーク17の平均の角度である。
この「磁性体フレーク17の角度」を確認する方法としては、図9に示すように、ある位置Pにおいて、光LTを、入射角θ1を変えながら照射した際に、最も入射角θ1方向への反射率が高くなる入射角(明るく見える角度)θ1を計測することによって、その位置における磁性体フレーク17の平均の角度、つまり、「磁性体フレーク17の角度」を特定することができる。なお、図9では、光LTの入射角θ1を、塗膜15の表面に垂直な線Sに対して角度θ1’と角度θ1’’とに変えて測定した場合を示しており、光LTの反射光を破線の矢印で示している。
【0042】
上述した実施形態は、あくまでも本発明の一態様を示すものであり、本発明の主旨を逸脱しない範囲で任意に変形および応用が可能である。例えば、上記実施形態では、第1磁石5および第2磁石7を同形状かつ同磁力に形成する場合を説明したが、これに限らず、左右で異なる磁石を用いてもよい。
左右で異なる磁石を用いた場合には、一方の磁石(第1磁石5)のN極から他方の磁石(第2磁石7)のS極まで延びる磁界J3(J3’を含む)の向きに変化が生じ、特に角度0度の位置、つまり、被塗装品1の表面1Aと平行の向きになる位置)が、いずれかの磁石側にシフトした特性を描くと考えられる。これによれば、凹条模様部R4を中心位置(中心軸線LC)から簡易にオフセットさせることができると考えられる。
【0043】
図10(A)は、同磁力の材料を用いて第1磁石5を第2磁石7よりも細くした場合の一例を示し、図10(B)は第1磁石5を第2磁石7よりも薄く形成した場合の一例を示している。
発明者等が検討したところ、第1磁石5を第2磁石7よりも細くした場合には、図10(A)に示すように、凹条模様部R4が、細い側の第1磁石5側にオフセットすることを確認した。なお、図中、符号Yは、凹条模様部R4のオフセット量を示している。また、第1磁石5を第2磁石7よりも薄く形成した場合には、図10(B)に示すように、凹条模様部R4が、薄い側の第1磁石5側にオフセットすることを確認した。発明者等が更に検討したところ、磁石の厚さを異ならせる方法の方が、幅を異ならせる方法に比して、凹条模様部R4を効果的にオフセットさせることができることを確認した。
つまり、左右で異なる磁石を用いる、という簡易な方法で、凹条模様部R4をオフセットさせることが可能である。また、第1磁石5および第2磁石7の一方を他方よりも磁力を弱くする方法によっても、凹条模様部R4を中心位置(中心軸線LC)からオフセットさせることが可能であった。
【0044】
また、上述の各実施形態では、第1磁石5および第2磁石7を被塗装品1の裏面1Bに密着して配置する場合を図示したが、これに限らず、被塗装品1の裏面1Bとの間に隙間を空けて配置してもよい。
また、上述の各実施形態では、より立体的に模様を発現させるために2つの磁石5,7を用いて磁性体フレーク17の姿勢を調整する説明したが、2つの磁石5,7を用いる方法に限らず、要は、磁性体フレーク17によって凸条に見える凸条模様部R1,R1と、磁性体フレーク17が凸条模様部R1,R1の隙間領域Gの中央に向けて下方に傾斜する姿勢をとることにより、凸条模様部R1,R1よりも暗く見える傾斜模様部R3,R3と、傾斜模様部R3,R3の境界に位置し、傾斜模様部R3,R3の磁性体フレーク17の傾斜角度の変化率よりも大きい変化率で磁性体フレーク17の姿勢が変化することにより、凹条に見える凹条模様部R4とを備えるようにすれば、より立体的に模様を発現させることができる。従って、本発明は、2つの磁石5、7を用いる方法に限定されず、上記の姿勢を実現できる範囲で、種々の方法を適用可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 被塗装品
1A 表面
3 磁石
5 第1磁石
7 第2磁石
10 磁性体塗装品
17 磁性体フレーク
R1,R1 凸条模様部
G 隙間領域
LC 中心軸線
R3 傾斜模様部
R4 凹条模様部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄板状の被塗装品(1)の表面に、指向する方向によって光の反射率や反射方向を変える微細な磁性体フレーク(17)を含む塗料を塗布し、磁性体フレーク(17)によって立体的に見える立体的模様を発現させた磁性体塗装品において、
前記立体的模様は、
凸条に見える模様であり、略平行に2つ配置される凸条模様部(R1,R1)と、
前記2つの凸条模様部(R1,R1)に挟まれた隙間領域(G)にて、前記凸条模様部(R1,R1)の各々に隣接する2つの模様であり、前記磁性体フレーク(17)が前記隙間領域(G)の中央に向けて下方に傾斜する姿勢をとることにより、前記凸条模様部(R1,R1)よりも暗く見える傾斜模様部(R3,R3)と、
前記2本の傾斜模様部(R3,R3)の境界に位置する模様であり、前記2本の傾斜模様部(R3,R3)から前記隙間領域(G)の中央に向けて下方に傾斜する磁性体フレーク(17)の姿勢をつなぐと共に、前記傾斜模様部(R3,R3)の磁性体フレーク(17)の傾斜角度の変化率よりも大きい変化率で前記磁性体フレーク(17)の姿勢が変化することにより、凹条に見える凹条模様部(R4)とを有することを特徴とする磁性体塗装品。
【請求項2】
前記磁性体フレーク(17)の傾斜角度は、横軸を、前記2つの凸条模様部(R1,R1)の中央位置(LC)からの距離とし、縦軸を前記傾斜角度とした場合、前記傾斜模様部(R3,R3)の位置で極大値又は極小値をとることを特徴とする請求項1に記載の磁性体塗装品。
【請求項3】
前記磁性体フレーク(17)の傾斜角度は、前記隙間領域(G)で極大値と極小値を1カ所ずつ有することを特徴とする請求項2に記載の磁性体塗装品。
【請求項4】
前記極大値又は極小値の絶対値は、塗装面に対し、50度〜70度であることを特徴とする請求項2又は3に記載の磁性体塗装品。
【請求項5】
前記凹条模様部(R4)における前記磁性体フレーク(17)の傾斜角度は0度を含み、この0度を含む幅5[mm]の領域で、前記磁性体フレーク(17)の角度の変化率は、平均10[度/mm]以上であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の磁性体塗装品。
【請求項6】
前記2つの凸条模様部(R1,R1)は、20[mm]〜40[mm]の隙間をあけて配置されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の磁性体塗装品。
【請求項7】
前記立体的模様は、前記被塗装品(1)の裏側に磁石(3)を配置し、前記被塗装品(1)の表面に磁界を発生させることにより、前記磁性体フレーク(17)の姿勢を調整して発現される模様であり、
前記2つの凸条模様部(R1,R1)は、N極を被塗装品(1)側に向けて配置された第1磁石(5)と、この第1磁石(5)と間隔を空けてS極を被塗装品(1)側に向けて配置された第2磁石(7)との輪郭に沿って各々形成される模様であり、前記隙間領域(G)は、前記第1磁石(5)と前記第2磁石(7)との隙間に対応することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の磁性体塗装品。
【請求項8】
前記第1磁石(5)および前記第2磁石(7)によって形成される磁力線は、横軸を位置とし、縦軸を傾斜角度とした場合、前記傾斜模様部(R3,R3)の位置で極大値又は極小値をとると共に、この極大値又は極小値をとる領域で、前記被塗装品(1)の表面における磁束密度は、1[mT]以上であることを特徴とする請求項7に記載の磁性体塗装品。
【請求項9】
前記第1磁石(5)および前記第2磁石(7)の一方を他方よりも細く、又は、薄く形成することによって、前記凹条模様部(R4)を一方側にオフセットさせたことを特徴とする請求項7に記載の磁性体塗装品。
【請求項10】
前記第1磁石(5)および前記第2磁石(7)の一方を他方よりも磁力を弱くすることによって、前記凹条模様部(R4)を一方側にオフセットさせたことを特徴とする請求項7に記載の磁性体塗装品。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図1】
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