説明

磁性体塗装装置、磁性体塗装方法及び磁性体塗装物品

【課題】磁石の形状に対応した模様を明瞭にしつつ、つやびけを防止して塗装品表面の質感を向上させることができる磁性体塗装装置、磁性体塗装方法及び磁性体塗装物品を提供する。
【解決手段】薄板状の被塗装品(1)の表面(1A)に磁界(13)を形成する板状の磁石(3)を、該被塗装品(1)の裏面(1A)に配置して、該被塗装品(1)の表面(1A)に微細な磁性体フレーク(17)を含む塗料(15)を塗布し、磁石(3)の輪郭形状に対応した模様を発現させた塗膜を形成する磁性体塗装装置において、被塗装品(1)の裏面(1B)に沿う板状の磁石であって、その表裏にN極およびS極、もしくはS極およびN極を持つ第1磁石(5)と、第1磁石(5)の裏面(5B)に対し、N極およびS極が裏返しになるように、その輪郭を一致させて沿う第2磁石(7)とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、樹脂製の塗装物品の表面に所望の模様を発現させて塗膜を形成する磁性体塗装装置、磁性体塗装方法及び磁性体塗装物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被塗装品の塗装面の裏側にシート状マグネット(板状の磁石)を配置し、塗装面に磁性体フレークを含む塗料を塗布することにより、塗料中の磁性体フレークを配向させて磁石の形状に対応した模様を発現させる塗装方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この種のものでは、被塗装品の裏面に1枚の両面磁極の磁石を配置して、被塗装品の表面に所定の磁界を形成した状態で、当該表面に磁性体フレークを含む塗料を、塗装機によって塗布し、塗料を硬化して、磁石の輪郭に対応する磁石端面対応位置に模様を発現させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−154034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の1枚の両面磁極の磁石を用いた構成では、磁石端面対応位置の磁束密度を高く設定した場合、当該位置の両側に位相が90°(図5及び図6の比較例参照。)の磁界が幅広く形成される。そして、その部位における磁束密度も比較的高いため、塗装時には、広範囲で磁性体フレークが起立して硬化し、例えば、磁性体フレークが塗膜表面から飛び出して塗装品の表面がざらついて見える現象(以下、つやびけという)が広範囲に生じるという問題があった。また、つやびけが生じないように磁石の磁力を弱くした場合、磁石端面対応位置の磁束密度が低くなるため、磁性体フレークを十分に配向できず、模様が不明瞭になるという問題があった。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、磁石の形状に対応した模様を明瞭にしつつ、つやびけを防止して塗装品表面の質感を向上させることができる磁性体塗装装置、磁性体塗装方法及び磁性体塗装物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、薄板状の被塗装品(1)の表面(1A)に磁界(13)を形成する板状の磁石(3)を、該被塗装品(1)の裏面(1B)に配置して、該被塗装品(1A)の表面(1)に微細な磁性体フレーク(17)を含む塗料(15)を塗布し、磁石(3)の輪郭形状に対応した模様を発現させた塗膜を形成する磁性体塗装装置において、前記被塗装品(1)の裏面(1B)に沿う板状の磁石であって、その表裏にN極およびS極、もしくはS極およびN極を持つ第1磁石(5)と、前記第1磁石(5)の裏面(5B)に対し、N極およびS極が裏返しになるように、その輪郭を一致させて沿う第2磁石(7)とを備えた、ことを特徴とする。
本発明では、被塗装品の裏面に沿う板状の磁石であって、その表裏にN極およびS極、もしくはS極およびN極を持つ第1磁石と、前記第1磁石の裏面に対し、N極およびS極が裏返しになるように、その輪郭を一致させて沿う第2磁石とを備えたので、簡単な構成で、塗装品表面における磁石輪郭対応位置の近傍に、磁束密度が高く磁界の向きが被塗装品の表面に略平行な方向となる領域を有し、磁束密度が高く磁界の向きが被塗装品の表面に略垂直な方向となる領域が狭い磁界が形成される。
従って、簡単な構成で、塗装品表面における磁石輪郭対応位置の近傍には、磁性体フレークが被塗装品の表面に略平行に配向された光の反射率の高い領域を確実に形成することができ、磁石の輪郭に対応した模様が明瞭になる。また、磁性体フレークが被塗装品の表面に略垂直に配向される領域を狭くでき、つやびけを目立たなくして塗装品表面の質感を向上させることができる。
【0007】
第1磁石(5)と第2磁石(7)は互いに一定の距離を置いて配置されていてもよい。
この場合、磁石端部に対応する領域の磁束密度を調整することができるので、模様の明確さとつやびけの程度とのバランスを簡単に調整することができる。
前記一定の距離の隙間に磁性体からなる板材(206)を挟んでもよい。
この場合、磁性体により磁界が磁石中心側に湾曲し、被塗装品の表面において磁界の向きが被塗装品の表面に略平行な方向となる位置が、磁石輪郭対応位置より内側にオフセットされ、磁性体フレークが平行に配向される位置が磁石輪郭対応位置より内側にオフセットされるので、簡単に模様の大きさを縮小することができる。
【0008】
また、本発明は、薄板状の被塗装品(1)の表面(1A)に磁界を形成する板状の磁石(3)を、該被塗装品(1)の裏面(1B)に配置して、該被塗装品(1)の表面(1A)に微細な磁性体フレーク(17)を含む塗料(15)を塗布し、磁石(3)の輪郭形状に対応した模様を発現させた塗膜を形成する磁性体塗装方法において、磁束密度が前記磁石(3)の輪郭に対応する磁石端面対応位置(19A、19B)でピークをなして当該磁石端面対応位置(19A、19B)の両側に離れるとともにゼロに近づき、磁界の方向が当該磁石端面対応位置(19A、19B)では被塗装品(1)の表面(1A)に平行に沿い、当該位置(19A、19B)の両側において急激に傾き、幅狭で持って被塗装品(1)の表面(1A)に垂直となり、一対の幅狭の垂直部から更に両側に離れると再び傾く磁界(13)の形成過程と、前記被塗装品(1)の表面(1A)への前記塗料(15)の塗布過程と、塗布した塗料(15)に含まれる磁性体フレーク(17)を前記磁界(13)に沿わせて配向させる配向過程とを備えてもよい。
本発明では、磁石端面対応位置では磁束密度が高く磁界の向きが被塗装品の表面に略平行となるので、磁石端面対応位置の近傍は磁性体フレークが被塗装品の表面に略平行に配向されて光の反射率の高い領域となり、磁石の輪郭に対応した模様が明瞭に形成される。
また、当該位置(19A、19B)の両側において急激に変化し、幅狭で持って被塗装品(1)の表面(1A)に垂直な磁界が形成されるので、磁界の向きが被塗装品の表面に略垂直となる領域が狭くなり、磁性体フレークが略垂直に配向される領域が狭くなり、つやびけを目立たなくして塗装品表面の質感を向上できる。
【0009】
また、本発明は、薄板状の被塗装品(1)の表面(1A)に、該被塗装品(1)の表面(1A)に微細な磁性体フレーク(17)を含む塗料(15)を塗布し、塗料硬化後の磁性体フレーク(17)の姿勢によって光の反射方向を変えることで、凸状に見える立体的模様を発現させた塗膜を形成した磁性体塗装物品において、前記立体的模様のうち、廻りよりも明るく、隆起しているように見える部位であって、磁性体フレーク(17)の姿勢が塗装面に対し略平行に配列される明部(23)と、前記立体的模様のうち、廻りよりも暗く、凹んでいるように見える部位であって、磁性体フレーク(17)の姿勢が塗装面に対し立った状態に配列される暗部(25)と、前記立体的模様のうち、明部(23)と暗部(25)の間の色合いであって、磁性体フレーク(17)の姿勢が塗装面に対しランダムに配列される中間部(29)とを備え、前記明部(23)の両側に前記暗部(25)が配置され、前記暗部(25)の外側に前記中間部(29)が配置されることを特徴とする
本発明では、明部と暗部と中間部とを備えたので、コントラストをつけやすく、模様をより明瞭にすることができる。また、明るく見える明部の両側に暗く見える暗部が配置され、暗部の外側に中間の明るさに見える中間部が配置されるので、明度の差により模様が立体的に見える。
【0010】
前記明部(23)は塗装面に対し上に凸のアーチ状に形成されるアーチ状部(27)の一部であり、前記暗部(25)はアーチ状部(27)の両側に配置されていてもよい。
アーチ状部が、山のように見え、暗部がその山の影のように見えるので、磁石の輪郭形状に対応した立体的模様の立体感を増すことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、磁石の形状に対応した模様を明瞭にしつつ、つやびけを防止して塗装品表面の質感を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態に係る磁性体塗装装置を示す図である。
【図2】(A)は図1におけるI部拡大図、(B)は被塗装品表面の各位置における磁束密度を示す図、(C)は同磁界の向きを示す図である。
【図3】(A)は本発明の第2実施形態に係る磁性体塗装装置を示す図、(B)は被塗装品表面の各位置における磁束密度を示す図、(C)は同磁界の向きを示す図である。
【図4】(A)は本発明の第3実施形態に係る磁性体塗装装置を示す図、(B)は被塗装品表面の各位置における磁束密度を示す図、(C)は同磁界の向きを示す図である。
【図5】比較例としての磁性体塗装装置を示す図である。
【図6】(A)は図5におけるII部拡大図、(B)は被塗装品表面の各位置における磁束密度を示す図、(C)は同磁界の向きを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
<第1実施形態>
図1は、本実施形態に係る磁性体塗装装置を示す図である。
この磁性体塗装装置は、被塗装品1の表面1Aに塗装機(不図示)を用いて塗料15を塗布して塗膜を形成する。
被塗装品1は板状の非磁性体である。被塗装品1は、例えば板厚2〜3mmの樹脂板で構成された車両のカバー部品である。本実施形態では、被塗装品1の表面1Aは、完成品の塗色と異なる材料の色を有するが、表面1Aには完成品の塗色の塗料(不図示)が塗布されていてもよいし、成形材料に配合される顔料により塗色が発現されていてもよい。なお、被塗装品1は、樹脂成形品のほかゴムやFRPで形成されていてもよい。
被塗装品1の裏面1B側には、裏面1Bに沿って板状の磁石3が配置されている。本実施形態では、被塗装品1の裏面1Bに磁石3を粘着テープ(不図示)で貼り付けることにより、被塗装品1の裏面1Bに磁石3が固定される。
磁石3は第1磁石5と第2磁石7とから構成される。第1磁石5の形状および磁力は第2磁石7と略同等である。第1磁石5および第2磁石7は、ともに表裏面が磁極であって面内で磁極が反転しない板状の磁石である。本実施形態では、第1磁石5および第2磁石7はともに幅100mm、板厚1mmのマグネットシートから形成される。このマグネットシートは、ゴム等の成形材料中に多数の微細な磁性体粒子を練りこんでシート状に成形し、磁性体粒子を着磁させて得られる公知のマグネットシートである。
【0014】
第1磁石5は、被塗装品1の裏面1Bに沿って配置されており、第2磁石7は、第1磁石5の裏面5B側に輪郭が略一致するように重ねて配置されている。すなわち、第1磁石5の一端面は第2磁石7の一端面とともに磁石3の一端面3Cを形成し、第1磁石5の他端面は第2磁石7の他端面とともに磁石3の他端面3Dを形成する。
また、第2磁石7は、第1磁石5に対してN極およびS極が裏返しになるように配置されている。本実施形態では、第1磁石5は、その表面5AがN極、裏面5BがS極となるように配置される。第2磁石7は、表面7AがS極、裏面7BがN極となるように配置される。そして、ともにS極である第1磁石5の裏面5Bと、第2磁石7の表面7Aとが接着されている。
上述した第1磁石5および第2磁石7の配置により、第1磁石5の磁界は磁石3の影響を受けて表側に湾曲される。すなわち磁石3の幅方向中央の磁石中央面9に対して左右対称、かつ、第1磁石5の裏面5B(第2磁石7の表面7A)に対して上下対称な磁界13が形成される。被塗装品1の表面1Aにおける磁界13の向きおよび磁束密度は、磁石3の端面3C、3Dの延長面と交わる位置すなわち磁石端面対応位置19A、19Bからの距離に応じて変化する。
【0015】
被塗装品1の表面1Aには塗料15が塗布される。塗料15は、磁性体フレーク17(図2(A)参照)を含む半透明または透明の液状塗料である。塗料15の塗布膜厚は薄く、例えば乾燥膜厚で100μm以下である。磁性体フレーク17は、液体中に混合して磁場を作用させると磁力により配向(向きを変化)するリン片状または薄板状の微細な粉末である。本実施形態では磁性体フレーク17の材質は鉄粉であるが、たとえば、ニッケル、鉄の含有率が高いステンレススチール、コバルト、クロム、酸化鉄の粉末や、これらの金属または金属酸化物を被覆または含有せしめたものであってもよい。
【0016】
被塗装品1の表面1Aに塗料15を塗布した後、塗料15が未硬化の液状であるときには、塗料15中の磁性体フレーク17が磁界13に沿って配向される。とくに、磁石3の輪郭に対応する位置すなわち磁石端面対応位置19A、19Bには、磁束密度のピークが生じており、当該位置の磁界の向きは被塗装品1の表面1Aと平行となるため、磁性体フレーク17が被塗装品1の表面1Aと平行に配向される。
そして、磁性体フレーク17が配向された状態で、塗料15が硬化されることにより、磁石端面対応位置19A、19Bの近傍に光の反射率が高い領域を有する塗膜が形成される。すなわち被塗装品1の表面1Aの上に、磁石3の輪郭形状に対応する模様を有する塗膜が形成される。
【0017】
次に、被塗装品1の表面1Aにおける磁界13と、表面1Aに塗布された塗料15中の磁性体フレーク17の配向について詳細に説明する。
図2(A)は、図1におけるI部を拡大して示す図である。図2(A)は、磁石端面対応位置19Aの両側約50mmの範囲を示す図であり、説明を簡単にするため、塗膜の膜厚を誇張して示している。
図2(B)は、被塗装品1の表面1Aにおける磁石端面対応位置19Aからの距離と磁束密度との関係(図中、符号13Bを付して示す特性曲線)を示す図である。本実施形態では、磁石端面対応位置19Aよりも磁石内側すなわち磁石中央面9に対応する磁石中央面対応位置21側においては、磁石端面対応位置19Aからの距離に負の符号を付し、磁石端面対応位置19Aよりも磁石外側(磁石中央面対応位置21と反対側)においては、磁石端面対応位置19Aからの距離に正の符号を付する。
図2(C)は、磁石端面対応位置19Aからの距離と磁界の向き(位相)との関係(図中、符号13Cを付して示す特性曲線)を示す図である。位相とは磁界の向きを被塗装品1の表面1Aに対する角度で表す指標である。本実施形態では、磁石中央面対応位置21から離れる向きの磁界ベクトルの位相を0度として、被塗装品1の表面1Aから表側に開く角度に正の符号を付し、被塗装品1の表面1Aから裏側に開く角度に負の符号を付する。
【0018】
本発明者らは、図1に示す塗装装置を用いると、被塗装品1の表面1Aに以下に説明する磁界13を形成することを確認した。
図2(C)に示すように、磁石端面対応位置19Aより内側(磁石中央面対応位置21側)では、約−10mm位置までの間で、位相が0度から約130度まで急激に増加し、約−10mm位置から位相の増加が緩やかになり、約−35mm位置でピーク値160度に到達する。位相は約−4mm位置で90度に到達するが、90度を超えても急激な増加を続けるので、位相が90度に近い領域は狭い。そして、約−35mm位置を過ぎると位相は減少に転じて、磁石中央面対応位置21(−50mm位置)では再び位相が90度となる。また、図2(B)に示すように、磁束密度は、磁石端面対応位置19Aでピーク値1.8mTを示し、磁石端面対応位置19Aから内側へ離れるにつれて減少し、約−4mm位置では約0.8mT、約−10mm位置では0.3mTとなる。そして、磁石中央面対応位置21(−50mm位置)では磁束密度はほぼ0となる。
【0019】
一方、磁石端面対応位置19Aより外側(磁石中央面対応位置21と反対側)では、図2(C)に示すように、約10mm位置までの間で、位相は0度から約−130度まで急激に減少し、約10mm位置から位相の減少が緩やかになり、約20mm位置で−150度に到達し、50mm位置まで−150〜−160度で推移する。位相は約4mm位置で−90度に到達するが、−90度を下回っても急激な減少を続けるので、位相が−90度に近い領域は狭い。また、図2(B)に示すように、磁束密度は、磁石端面対応位置19Aでピーク値1.8mTを示し、磁石端面対応位置19Aから外側へ離れるにつれて減少する。磁束密度は、約5mm位置では約0.8mT、約10mm位置では約0.3mTである。そして、50mm位置では磁束密度はほぼ0となる。
【0020】
上述した特性を有する磁界13が形成された被塗装品1の表面1Aに磁性体フレーク17を含む塗料15を塗布したとき、図2(A)に示すように、磁性体フレーク17は磁界13に沿って配向される。具体的には、磁石端面対応位置19Aでは、磁性体フレーク17が被塗装品1の表面1Aに平行に配向される。磁石端面対応位置19Aから両側に離れるにつれ磁性体フレーク17の姿勢は被塗装品1の表面1Aに垂直な方向に順次近づいていき、両側に約4mm離れた位置では被塗装品1の表面1Aに垂直に配向される。そして、両側に約4mm以上離れた位置では、磁界13により磁性体フレーク17に作用する力が、磁石端面対応位置19Aから遠ざかるにつれて(磁石端面対応位置19Aより内側にでは磁石中央面対応位置21に近づくにつれて)小さくなり、液状の塗料15からうける抵抗力により磁性体フレーク17の配向が生じにくくなる。したがって、磁石端面対応位置19Aから両側に遠ざかるにつれて次第に磁性体フレーク17の配向が弱くなる配向減衰領域Raが生じ、この配向減衰領域Raよりもさらに磁石端面対応位置19Aから離れた箇所(例えば磁石中央面対応位置21付近)には、磁性体フレーク17がほぼランダムに配向されるランダム配向領域Rbが生じることとなる。
【0021】
そして、磁界13を保ったまま塗料15を乾燥させて硬化させると、被塗装品1の表面1Aの上に、磁石3の輪郭形状に対応する模様を有する塗膜が形成される。すなわち、磁石端面対応位置19A付近では、磁性体フレーク17が被塗装品1の表面1Aと平行方向に配向されるため被塗装品1の表面1Aに直交する方向の光の反射率が高い。したがって、磁石端面対応位置19A付近は明るく見える明部23となる。
【0022】
磁石端面対応位置19Aの両側に約4mm離れた位置付近では、磁性体フレーク17が被塗装品1の表面1Aと垂直方向に配向されるため被塗装品1の表面1Aに直交する方向の光の反射率が低くなる。すなわち、磁石端面対応位置19Aの両側に約4mm離れた位置付近は、暗く見える暗部25となる。この領域では、磁性体フレーク17が被塗装品1の表面1Aと垂直方向に配向されるため、つやびけが生じやすい。ただし、つやびけ領域の幅が狭いため、つやびけが目立つことが無く、塗装表面の質感が低下しない。
前述した2カ所の暗部25の間の領域では、磁性体フレーク17の姿勢が順次変化し、被塗装品1の表面1Aと垂直方向から平行方向となり再び垂直方向となるアーチ状部27が形成される。アーチ状部27は、光の反射率や反射方向が順次変化するのでアーチ状に盛り上がって見える。また、アーチ状部27は、明部23を含む。
さらに、磁石端面対応位置19Aから約4mm以上離れた領域では、磁石端面対応位置19Aから両側に遠ざかるにつれて磁性体フレーク17の配向が次第に弱くなり、さらに磁石端面対応位置19Aから離れた箇所(例えば磁石中央面対応位置21付近)では、磁性体フレーク17がほぼランダムに配向されるため、光の反射率が、明部23における反射率と暗部25における反射率の中間の値となり、明部23と暗部25の中間の明るさに見える中間部29が形成される。すなわち、磁石端面対応位置19A付近は明部23となり、明部23の両側に暗部25が形成される。2カ所の暗部25に挟まれた領域はアーチ状に盛り上がって見えるアーチ状部27を形成し、暗部25の外側に中間の明るさを有する中間部29が形成される。また、中間部29において、磁石端面対応位置19Aから両側に遠ざかる(磁石端面対応位置19Aより内側では磁石中央面対応位置21に近づく)につれて、配向減衰領域Raおよびランダム配向領域Rbが生じ、磁性体フレーク17の配向方向が徐々に変化するので、磁石3の輪郭形状に対応する模様が、磁石端面対応位置19Aから両側に遠ざかる(磁石端面対応位置19Aより内側では磁石中央面対応位置21に近づく)につれて、明るさ(明度)が変化するグラデーション模様のようになり、立体感を出しやすい。
【0023】
図5は比較例としての塗装装置を示す。
図6(A)は、図5におけるII部を拡大して示す図である。図6(B)は、被塗装品301の表面301Aにおける磁石端面対応位置319Aからの距離と磁束密度との関係(図中、符号313Bを付して示す特性曲線)を示す図である。図6(C)は、磁石端面対応位置319Aからの距離と磁界の向き(位相)との関係(図中、符号313Cを付して示す特性曲線)を示す図である。なお、図5、図6において、第1実施形態で説明した部分には同一符号を付し、その説明を省略する。
この比較例では、被塗装品301の裏面に1枚の両面磁極の磁石303を配置し、被塗装品301の表面301Aに所定の磁界313を形成した状態で、当該表面301Aに磁性体フレーク17(図6)を含む塗料15を、塗装機(不図示)によって塗布し、塗料15を硬化し、磁石303の輪郭に対応する磁石端面対応位置319A、319Bに模様を発現させている。ここで、図6(B)に示すように、磁石端面対応位置319Aの磁束密度を9mTに設定した場合、磁束密度は、磁石端面対応位置319Aを頂点に両側になだらかに減少し、0.8mT以上の磁束密度領域が幅広に存在する。
そして、この0.8mT以上の幅広領域の中に、図6(C)に示すように、位相(表面301Aに対する磁界の向き)が略90度または略−90度となる領域330A、330Bが幅広に形成される。これらの領域330A、330Bでは、図6(A)に示すように、磁性体フレーク17が被塗装品301の表面301Aに直交して配向されるので、例えば、磁性体フレーク17が塗膜表面から飛び出して塗装品の表面がざらついて見える現象(以下、つやびけという)が広範囲に生じる。
一方で、つやびけが生じないように磁石303の磁力を弱くした場合には、図6(B)において符号313Dを付して破線示するように、該位置319A(319B)の磁束密度が低くなるため、磁性体フレーク17を十分に配向できず、模様が不明瞭になる。
【0024】
本実施形態では、被塗装品1の表面1Aに磁界13を形成するための板状の磁石3が、形状および磁力が略同等であって、表裏面に磁極を有する板状の第1磁石5および第2磁石7を備えている。第1磁石5は、被塗装品1の裏面1Bに沿って配置されており、第2磁石7は、第1磁石5の裏面5B側に第1磁石5と輪郭が略一致するように、かつ第1磁石5と磁極の向きが反対となるように重ねて配置されて、第1磁石5と接着されている。
このため、2枚の板状磁石を重ねて配置するだけの簡単な構成で、被塗装品1の表面1Aに、磁界13が形成される。磁界13では、磁石端面対応位置19Aでは磁束密度が1.8mTと高く磁界の向きが被塗装品1の表面1Aに略平行な方向となり、磁石端面対応位置19Aから離れるにつれ磁界の向きが被塗装品1の表面1Aに平行な方向から垂直な方向へと順次変化するとともに磁束密度が減少し、磁石端面対応位置19Aから約4mm離れた位置では磁束密度が0.8mTとなるとともに磁界の向きが被塗装品1の表面1Aに略垂直な方向となり、約4mm以上離れた位置では磁束密度が0.8mT未満と低くなる。
【0025】
本実施形態では、磁石端面対応位置19Aでは、磁束密度が1.8mTと高く、磁界の向きが被塗装品1の表面1Aに略平行な方向となるので、磁石端面対応位置19Aの近傍では、確実に、磁性体フレーク17が被塗装品1の表面1Aに平行に配向される。従って磁石端面対応位置19Aの近傍に、光の反射率の高い明部23を確実に形成することができ、磁石3の輪郭に対応した模様を明瞭に形成することができる。
【0026】
また、本実施形態では、磁石端面対応位置19Aから離れるにつれて位相が急激に変化する。磁石端面対応位置19Aより内側では約−4mm位置で90度に到達するが、90度を超えても急激な増加を続け、磁石端面対応位置19Aより外側では、約4mm位置で−90度に到達するが、−90度を下回っても急激な減少を続けるので、被塗装品1の表面1Aにおいて磁界の位相が90度または−90度に近い領域は狭くなる。
したがって、磁性体フレーク17が被塗装品1の表面1Aに略垂直に配向される領域が狭くなる。よって、図5及び図6の比較例と比較した場合に、光の反射率が低くつやびけを生じやすい暗部25を狭くすることができ、つやびけを目立たなくして塗装品表面の質感を向上させることができる。
【0027】
また、本実施形態では、磁石端面対応位置19Aから両側約4mm以内の範囲では、磁石端面対応位置19Aから離れるにつれて磁界の向きが被塗装品1の表面1Aに平行な方向から垂直な方向へと順次変化する一方で、磁束密度は最低でも約0.8mT以上に保たれる。このため、磁石端面対応位置19Aから両側約4mm以内の範囲に、磁性体フレーク17の姿勢が順次変化して被塗装品1の表面1Aに対して垂直方向から平行方向となり再び垂直方向となるアーチ状部27が形成される。アーチ状部27は光の反射率が順次変化するので盛り上がった山のように見え、暗部25がその山の影のように見える。すなわち、磁石3の輪郭に対応した山のように盛り上がって見える模様を、より立体感のある模様とすることができる。
また、本実施形態では、磁石端面対応位置19Aの近傍は明るく見える明部23となり、明部23の両側に暗部25が形成され、暗部25の外側に中間の明るさを有する中間部29が形成されるので、コントラスト(明度の差)が大きくなり、磁石3の輪郭に対応した模様がより立体的に見える。
【0028】
<第2実施形態>
次いで、本発明の第2実施形態として、第1の磁石と第2の磁石との間に隙間をあけて配置した磁性体塗装装置について説明する。
図3(A)は本実施形態に係る磁性体塗装装置を示す図である。図3(B)は被塗装品101の表面101Aにおける磁石端面対応位置119Aからの距離と磁束密度との関係(図中、符号113Bを付して示す特性曲線)を示す図である。図3(C)は、磁石端面対応位置119Aからの距離と磁界の向き(位相)との関係(図中、符号113Cを付して示す特性曲線)を示す図である。なお、図3(A)〜(C)において、第1実施形態で説明した部分には同一符号を付し、その説明を省略する。
【0029】
図3(A)に示すように、本実施形態では、被塗装品101の裏面101Bに沿わせて配置される磁石103の構成が第1実施形態の磁石3の構成と相違している。すなわち、第1実施形態では、第1磁石5と第2磁石7とを接着し、磁石間に隙間を設けない構成とした。これに対して、本実施形態では、第1磁石5と第2磁石7とを接着することなく、互いに平行に配置し、磁石間の間隔Tを調整できる構成とした。なお、本実施形態では、磁石保持具(不図示)を用いて第1磁石5と第2磁石7とを接着することなく、互いに平行に保持している。
例えば磁石間の間隔Tを1mmとした場合には、図3(C)に実線で示すように、位相は第1実施形態における磁界13とほぼ同等のままで、図3(B)に実線で示すように磁束密度のピーク値が約2倍の3.5mTとなる。
磁石間の間隔Tを広げると第2磁石7の影響が小さくなり、被塗装品101の表面101Aにおける磁界113は、図3(B)に破線で示すような従来の塗装方法における磁界313に近づく。すなわち、磁束密度のピーク値および最小値が高くなり、位相が90度または−90度になる領域が広くなる。
一方、磁石間の間隔Tを狭めると、被塗装品101の表面101Aにおける磁界113は、図3(B)に鎖線で示すように、上述した第1実施形態における磁界13に近づく。すなわち、磁束密度のピーク値が低くなり位相が90度または−90度になる領域が狭くなる。
従って、模様の明確さとつやびけの程度とのバランスを簡単に調整することができる。また、第1磁石5および第2磁石7を変更することなく、簡単に磁束密度のピーク値を調整することができるので、被塗装品101の板厚が厚くても、磁石端面対応位置119において、磁性体フレーク17の配向を生じさせるのに十分な磁束密度を得ることができ、明瞭な模様を形成することができる。
【0030】
<第3実施形態>
次いで、本発明の第3実施形態として、第1磁石5と第2磁石7との間に磁性体からなる板材を挟んだ磁性体塗装装置について説明する。
図4(A)は本実施形態に係る磁性体塗装装置を示す図である。図4(B)は被塗装品201の表面201Aにおける磁石端面対応位置219Aからの距離と磁束密度との関係(図中、符号213Bを付して示す特性曲線)を示す図である。図4(C)は、磁石端面対応位置219Aからの距離と磁界の向き(位相)との関係(図中、符号213Cを付して示す特性曲線)を示す図である。なお、図4(A)〜(C)において、第1実施形態で説明した部分には同一符号を付し、その説明を省略する。
【0031】
図4(A)に示すように、本実施形態では、被塗装品201の裏面201Bに沿わせて配置される磁石203の構成が第1実施形態の磁石3の構成と相違している。すなわち、第1実施形態では、第1磁石5と第2磁石7とを直接接着する構成とした。これに対して、本実施形態では、第1磁石5と第2磁石7との間に各磁石と略同一の輪郭を有する磁性鉄板206を挟み込み、第1磁石5、磁性鉄板206、および第2磁石7の輪郭をそろえて重ねて互いに接着して一体化する構成とした。
磁性鉄板206の影響により、磁界が湾曲されるため、図4(C)に示すように、位相が0となる位置Xが、磁石端面対応位置219Aより磁石中央面対応位置221側へ移動する。例えば、板厚1mmの磁性鉄板206を挟み込んだときには、位相が0となる位置Xは、磁石中央面対応位置221側へ約2mm移動する。これにより、模様を発現させる位置をオフセットさせることができる。例えば、同形状でサイズの違う模様を形成したい場合などに、第1磁石5および第2磁石7のサイズを変更することなく、模様の大きさを調整することができる。
なお、上述した実施形態は、あくまでも本発明の一態様を示すものであり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で任意に変形および応用が可能である。
【0032】
上述した各実施形態では、第1磁石5の厚さと第2磁石7の厚さとが同一である構成を示したが、第2磁石7の厚さを第1磁石5の厚さより厚くしても良いし、第2磁石7の厚さを第1磁石5の厚さより薄くしても良い。
上述した各実施形態では、両面着磁されたマグネットシートである第1磁石5に、同じく両面着磁されたマグネットシートである第2磁石7を互いの輪郭が略一致するように配置した磁石3、103、203を、被塗装品1の裏面1Bに沿って配置した構成を示したが、第1磁石5、および第2磁石7はマグネットシートに限定されず、公知の種々の磁石を適用することが可能である。また、上述した各実施形態では、第1磁石5のS極と第2磁石7のS極とが向かい合うように配置した構成を示したが、第1磁石5のN極と第2磁石7のN極とが向かい合うように配置してもよい。
また、上述した各実施形態では、被塗装品1、101、201の裏面1B、101B、201Bに第1磁石5を粘着テープ(不図示)で貼り付けたが、治具を用いて磁石3、103、203を固定してもよい。さらに、上述した各実施形態では、磁界13、113、213を形成した後に、塗料15を塗布したが、塗料15の塗布後に、塗料15が硬化する前に磁界13、113、213を作用させてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1、101、201、301 被塗装品
1A、101A、201A、301A 表面
1B、101B、201B、301B 裏面
3、103、203、303 磁石
5 第1磁石
5B 裏面
7 第2磁石
13、113、213、313 磁界
15 塗料
17 磁性体フレーク
19A、19B、119A、119B、219A、219B 磁石端面対応位置
23 明部
25 暗部
27 アーチ状部
29 中間部
206 磁性鉄板
T 間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄板状の被塗装品(1)の表面(1A)に磁界(13)を形成する板状の磁石(3)を、該被塗装品(1)の裏面(1B)に配置して、該被塗装品(1)の表面(1A)に微細な磁性体フレーク(17)を含む塗料(15)を塗布し、磁石(3)の輪郭形状に対応した模様を発現させた塗膜を形成する磁性体塗装装置において、
前記被塗装品(1)の裏面(1B)に沿う板状の磁石であって、その表裏にN極およびS極、もしくはS極およびN極を持つ第1磁石(5)と、
前記第1磁石(5)の裏面(5B)に対し、N極およびS極が裏返しになるように、その輪郭を一致させて沿う第2磁石(7)とを備えた、
ことを特徴とする磁性体塗装装置。
【請求項2】
前記第1磁石(5)と前記第2磁石(7)は互いに一定の距離を置いて配置されることを特徴とする請求項1に記載の磁性体塗装装置。
【請求項3】
前記一定の距離の隙間に磁性体からなる板材(206)を挟んだことを特徴とする請求項1または2に記載の磁性体塗装装置。
【請求項4】
薄板状の被塗装品(1)の表面(1A)に磁界を形成する板状の磁石(3)を、該被塗装品(1)の裏面(1B)に配置して、該被塗装品(1)の表面(1A)に微細な磁性体フレーク(17)を含む塗料(15)を塗布し、磁石(3)の輪郭形状に対応した模様を発現させた塗膜を形成する磁性体塗装方法において、
磁束密度が前記磁石(3)の輪郭に対応する磁石端面対応位置(19A、19B)でピークをなして当該磁石端面対応位置(19A、19B)の両側に離れるとともにゼロに近づき、磁界の方向が当該磁石端面対応位置(19A、19B)では被塗装品(1)の表面(1A)に平行に沿い、当該位置(19A、19B)の両側において急激に傾き、幅狭で持って被塗装品(1)の表面(1A)に垂直となり、一対の幅狭の垂直部から更に両側に離れると再び傾く磁界(13)の形成過程と、
前記被塗装品(1)の表面(1A)への前記塗料(15)の塗布過程と、
塗布した塗料(15)に含まれる磁性体フレーク(17)を前記磁界(13)に沿わせて配向させる配向過程とを備えたことを特徴とする磁性体塗装方法。
【請求項5】
薄板状の被塗装品(1)の表面(1A)に、該被塗装品(1)の表面(1A)に微細な磁性体フレーク(17)を含む塗料(15)を塗布し、塗料硬化後の磁性体フレーク(17)の姿勢によって光の反射方向を変えることで、凸状に見える立体的模様を発現させた塗膜を形成した磁性体塗装物品において、
前記立体的模様のうち、廻りよりも明るく、隆起しているように見える部位であって、磁性体フレーク(17)の姿勢が塗装面に対し略平行に配列される明部(23)と、
前記立体的模様のうち、廻りよりも暗く、凹んでいるように見える部位であって、磁性体フレーク(17)の姿勢が塗装面に対し立った状態に配列される暗部(25)と、
前記立体的模様のうち、明部(23)と暗部(25)の間の色合いであって、磁性体フレーク(17)の姿勢が塗装面に対しランダムに配列される中間部(29)とを備え、
前記明部(23)の両側に前記暗部(25)が配置され、前記暗部(25)の外側に前記中間部(29)が配置されることを特徴とする磁性体塗装物品。
【請求項6】
前記明部(23)は塗装面に対し上に凸のアーチ状に形成されるアーチ状部(27)の一部であり、前記暗部(25)は前記アーチ状部(27)の両側に配置されることを特徴とする請求項5または6に記載の磁性体塗装物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−76003(P2012−76003A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221911(P2010−221911)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】