説明

磁性体部材

【課題】外部磁界に対する電子スピンの変化量を大きくして、外部磁界の検出感度を高めることができる磁性体部材を提供する。
【解決手段】所定の形状に形成された磁性体5の表面に、その磁性体5に固有の最小磁区よりも小さい多数の領域7に分割する多数の溝6が形成されており、前記磁性体5は、ワイヤ状に形成され、前記領域7は、ハニカム状に形成され、前記溝6には、反磁性体材料が埋められている。磁性体部材5の表面は磁壁が存在しない単磁区構造になり、外部磁界にする検出感度を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体部材に関し、詳しくは、たとえば磁気センサとして用いられる磁性体部材の磁気検出感度の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気センサとして、非特許文献1にも記載されているように、アモルファス材料(ワイヤ)の磁気インピーダンス効果を用いたものが実用化されている。アモルファス材料は、一般の金属材料とは異なり結晶構造を持たないものであり、一様な内部構造で、理想的な軟磁気特性を有している。
【0003】
アモルファスワイヤにパルス電流が印加されると、アモルファスワイヤのインピーダンスは、磁気インピーダンス効果に基づき、微小な外部磁界に対してきわめて大きな変化を示す。これは、アモルファスワイヤの表面には、磁区を構成する電子スピンが円周方向に配列されていることに基づく。
【0004】
図4は、このようなアモルファスワイヤを用いた従来の磁気センサの一例を示す構成説明図である。図4において、アモルファスワイヤ1の両端には、パルス電流印加回路2が接続されている。アモルファスワイヤ1の外周には、長手方向に沿って検出コイル3が巻回されていて、検出コイル3の両端間には電圧検出回路4が接続されている。
【0005】
アモルファスワイヤ1にパルス電流印加回路2からパルス電流が印加されると、パルス電流の作る磁界によって、アモルファスワイヤ1の表面に配列されている電子スピンが円周方向に変化する。そのときの磁界の変化を、電圧検出回路4により、検出コイル3に誘起される誘導電圧の大きさとして検出する。
【0006】
一方、アモルファスワイヤ1に外部磁界が加わると、パルス電流の無い場合の電子スピンの状態が長手方向に向くように変化し、パルス電流印加回路2からパルス電流が印加されたときに検出コイル3に誘起される誘導電圧の大きさも変化する。
【0007】
図5は、図4に示すアモルファスワイヤ1の内部における電子スピンの状態説明図である。
図5において、(A)は「外部磁界無し」、「パルス電流無し」の状態を示している。アモルファスワイヤ1の内部に形成されている多数の磁区の電子スピンは、長手方向に沿って互い違いに180度の向きになるように配列されている。
【0008】
(B)は「外部磁界有り」、「パルス電流無し」の状態を示している。アモルファスワイヤ1の内部に形成されている多数の磁区の電子スピンは、長手方向に沿ってほぼ一定の方向を向くように配列される。
【0009】
(C)は「外部磁界無し」、「パルス電流有り」の状態を示している。アモルファスワイヤ1の内部に形成されている多数の磁区の電子スピンは、パルス電流の作る磁界によって全てが一定の円周方向を向くように変化する。
【0010】
(D)は「外部磁界有り」、「パルス電流有り」の状態を示している。(C)の状態から外部磁界が加わることにより、パルス電流が加わったときに検出コイルに発生する誘導電圧の大きさが変化する。その差に基づき加わった外部磁界の大きさを検出できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】本蔵 義信、外2名、「アモルファス材料のMI効果を利用した方位センサ ワンチップ電子コンパスIC」の概要と使い方」、トランジスタ技術、2003年12月号 p.138−142
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、図4の構成のアモルファスワイヤ1によれば、表面に長手方向に沿って多数の磁区が形成されていることから、各磁区内における電子スピンの変化方向が制限されることになる。
【0013】
この結果、外部磁界が加わっても電子スピンは自由に変化しにくいことから、外部磁界に対する電子スピンの変化量が少なくなり、外部磁界の検出感度が比較的低くなるという問題がある。
【0014】
本発明は、このような課題を解決するものであり、その目的は、外部磁界に対する電子スピンの変化量を大きくして、外部磁界の検出感度を高めることができる磁性体部材を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、
所定の形状に形成された磁性体の表面に、その磁性体に固有の最小磁区よりも小さい多数の領域に分割する多数の溝が形成されたことを特徴とする。
【0016】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載の磁性体部材において、
前記磁性体は、ワイヤ状に形成されていることを特徴とする。
【0017】
請求項3記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の磁性体部材において、
前記領域は、ハニカム状に形成されていることを特徴とする。
【0018】
請求項4記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載されている磁性体部材において、
前記溝には、反磁性体材料が埋められていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
これらにより、磁性体部材の表面は磁壁が存在しない単磁区構造になり、外部磁界にする検出感度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に基づく磁性体部材の一実施例を示す構成説明図である。
【図2】本発明に基づく磁性体部材を用いた磁気センサの具体例を示す構成説明図である。
【図3】本発明に基づく磁性体部材の他の実施例を示す構成説明図である。
【図4】アモルファスワイヤを用いた従来の磁気センサの一例を示す構成説明図である。
【図5】図4に示すアモルファスワイヤ1の内部における電子スピンの状態説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。図1は、本発明に基づく磁性体部材の一実施例を示す構成説明図である。磁性体5は、断面形状が矩形のワイヤ状に形成されている。そして、その表面には、その磁性体5に固有の最小磁区よりも小さい多数の領域7に分割するための多数の溝6が形成されている。
【0022】
なお、図1では、主平面のみに溝6を形成しているが、6面の全表面に同様な形状の溝6を形成することが望ましい。
【0023】
具体的には、多数の溝6は、たとえばEB(Eelectron Beam:電子ビーム)加工やFIB(Focused Ion Beam:集束イオンビーム)加工により微細加工を行うようにする。
【0024】
各領域7の形状は、各領域の利用効率を最大とするために、ハニカム形状を基本としているが、これに限るものではない。なお、各領域7の大きさは、磁性体5として純鉄(Fe)を用いる場合には、300nm以下であれば磁区が発生していないことを確認している。
【0025】
各溝6は、たとえばアルミニウムのような非磁性体材料で埋めることが望ましいが、空気であってもよい。非磁性体材料で埋めることにより、となりの隣接するブロックから磁気的に分離されて、隣接するブロックからの電子スピンの回転に起因する影響を受けにくくなるという固有の効果が期待できる。
【0026】
図1に示すように、各領域7の大きさを磁性体5に固有の最小磁区よりも小さく形成することにより、各領域7はそれぞれに磁壁が存在しない単磁区構造となる。そして、隣接する領域7間を非磁性体材料で区切ることにより、各領域7における電子スピンの動きを阻害する要因が無くなって電子スピンの向きは外部磁界に対して高感度に変化できるようになり、外部磁界の検出感度を高めることができる。
【0027】
図2は本発明に基づく磁性体部材を用いた磁気センサの具体例を示す構成説明図であって、図4と共通する部分には同一の符号を付けている。図2と図4の違いは、図2の構成では、図4のアモルファスワイヤ1に代えて、図1に示した磁性体5を用いていることである。
【0028】
図2において、外部磁界が無くてパルス電流印加回路2からパルス電流を印加していない状態での磁性体5の溝6で分割された各領域7の電子スピンに注目すると、隣接する領域7間には磁壁が存在しない単磁区構造になっていることから、それぞれがランダムに任意の方向を向いている。
【0029】
これに対し、外部磁界が無い状態で電流印加回路2からパルス電流を印加すると、各領域7の全ての電子スピンは一斉に同じ方向を向くようになる。そして、外部磁界が加えられると、全ての電子スピンは、従来のような磁区を形成する磁壁による制限を受けることなく、外部磁界の大きさに応じて、高感度でその向きを変えることになる。
【0030】
したがって、電圧検出回路4は、このような外部磁界の大きさに応じた全ての電子スピンの向きの変化を、従来よりも大きな電圧変化として高感度で効率よく検出できる。
【0031】
図3は、本発明に基づく磁性体部材の他の実施例を示す構成説明図である。(A)は、磁性体5の表面が、互いに直交するように等間隔に設けられた多数の溝6により多数の正方形の領域7に分割された例を示している。(B)は、磁性体5の表面が、互いに斜交するように等間隔に設けられるとともにこれら斜交点と交わるように長手方向に沿って設けられた多数の溝により多数の三角形の領域7に分割された例を示している。図3の各領域7の大きさも、磁性体5としてたとえば純鉄(Fe)を用いる場合には、300nm以下とする。
【0032】
以上説明したように、本発明によれば、外部磁界に対する電子スピンの変化量を大きくできて外部磁界の検出感度を高めることができる磁性体部材を実現でき、方位センサなどの各種の磁気センサとして好適である。
【符号の説明】
【0033】
2 パルス電流印加回路
3 検出コイル
4 電圧検出回路
5 磁性体
6 溝
7 領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の形状に形成された磁性体の表面に、その磁性体に固有の最小磁区よりも小さい多数の領域に分割する多数の溝が形成されたことを特徴とする磁性体部材。
【請求項2】
前記磁性体は、ワイヤ状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の磁性体部材。
【請求項3】
前記領域は、ハニカム状に形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の磁性体部材。
【請求項4】
前記溝には、反磁性体材料が埋められていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の磁性体部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−195353(P2012−195353A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56581(P2011−56581)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】