説明

磁性合金粉の製造方法

【課題】FeとNiとの合金であって磁性を有するテトラテーナイト粉の製造方法であって、より低温での合成によりテトラテーナイト粉を得られる製造方法を提供する。
【解決手段】FeとNiを含む合金の水酸化物である複合水酸化物を用意し、この複合水酸化物に水素化カルシウムを混合して混合物10とし、この混合物10を容器20に入れて320℃未満の還元温度で磁石30によって100〜10000Oe程度の磁場を印加しながら還元し、テトラテーナイト粉を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1の金属と第2の金属よりなる合金よりなり、磁性を有する磁性合金粉の製造方法に関し、このような磁性合金粉は、たとえば高密度磁気記録材料などに適用される。
【背景技術】
【0002】
この種の第1の金属と第2の金属を含む合金よりなり、磁性を有する磁性合金粉としては、たとえばNi:Fe=1:1の規則合金(NiFe)であるテトラテーナイトが知られており、このテトラテーナイトは、保磁力が高いことが知られている。
【0003】
テトラテーナイトは鉄隕石(たとえば小惑星の核の残骸)の粒界層に含まれ、−10−6℃/年という極めて遅い冷却速度で生成する。このようなテトラテーナイトは面心正方格子(fct)の結晶構造を持つが、320℃で相転移を起こし、原子配列が乱れた不規則合金のテーナイトとなる。
【0004】
近年、酸化物微粒子の低温水素還元により、テトラテーナイトが合成された例(非特許文献1参照)が報告されているが、その合成温度は320℃と、テトラテーナイトの相転移温度に等しく、含有率や結晶性は良くない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Enio Lima Jr.等、 Solid State Communications 128、(2003)、345−350頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記事情により、近年では、磁性合金粉としてのテトラテーナイトを、より低温で合成することが要望されている。また、上記テトラテーナイト以外の磁性合金粉においても、たとえば粒径の小さいものを合成する場合には、より低温で合成することが望ましいことが多い。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、第1の金属と第2の金属よりなる合金よりなり、磁性を有する磁性合金粉の製造方法であって、より低温での合成により磁性合金粉を得られる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、第1の金属と第2の金属を含む合金よりなり、磁性を有する磁性合金粉の製造方法であって、第1の金属と第2の金属を含む合金の水酸化物である複合水酸化物を用意し、この複合水酸化物に水素化カルシウムを混合して混合物とし、この混合物を320℃未満の還元温度で磁場を印加しながら還元し、磁性合金粉を得ることを特徴とする。
【0009】
本発明は、磁場の印加で還元が速くなるという本発明者の実験検討の結果、得られた知見に基づいて創出されたものであり、このように磁場を印加しながら還元することにより、320℃未満という従来よりも低温で還元反応を効率良く進行させることができる。よって、本発明によれば、より低温で合成可能な磁性合金粉の製造方法を提供することができる。
【0010】
ここで、請求項2に記載の発明のように、請求項1に記載の磁性合金粉の製造方法においては、第1の金属はFeであり、第2の金属はNiであり、磁性合金はテトラテーナイトであるものにできる。
【0011】
さらに、請求項3に記載の発明のように、請求項2に記載の磁性合金粉の製造方法においては、還元温度は300℃以下であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る磁性合金粉の製造方法を概略的に示す図である。
【図2】実施形態の具体例のテトラテーナイトと比較例のテトラテーナイトとについての磁気ヒステリシス特性を示す図である。
【図3】還元時磁場強度とテトラテーナイトの保磁力との関係を模式的に示す図である。
【図4】実施形態の具体例における磁場と還元速度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。図1は、本発明の実施形態に係る磁性合金粉の製造方法を概略的に示す図である。
【0014】
本実施形態の製造方法は、大きくは、第1の金属と第2の金属を含む合金の水酸化物である複合水酸化物を用意し、この複合水酸化物に還元剤としての水素化カルシウムを混合して混合物とし、この混合物を320℃未満の還元温度で磁場を印加しながら還元し、磁性合金粉を得るものである。
【0015】
このとき、還元反応においては、図1に示されるように、複合水酸化物と水素化カルシウムとの混合物10を、アルミナなどの容器20に入れ、この容器20の外側にアルニコ磁石などの永久磁石よりなる磁石30を設置した状態とし、これら容器20および磁石30を、図示しない炉に入れる。そして、当該炉により還元温度に加熱することで、容器20内の混合物10は、磁石30からの磁場が印加されながら還元されるのである。
【0016】
このように磁場を印加しながら還元することにより、320℃未満という従来よりも低温で還元反応を効率良く進行させることができる。このように、本実施形態によれば、より低温で合成可能な磁性合金粉の製造方法を提供することができる。
【0017】
次に、第1の金属をFeとし、第2の金属をNiとした磁性合金であるテトラテーナイトを具体例として、本実施形態の製造方法について、より具体的に説明する。
【0018】
塩化鉄(II)と塩化ニッケルの1:1混合水溶液と水酸化ナトリウム水溶液を攪拌しながら混合してpH=14として、12時間静置した。その後、このものをろ過し、pH=7になるまで水洗して残った水酸化ナトリウムを除去し、次に、120℃で乾燥することで複合水酸化物を得た。この複合水酸化物は、Fe、Ni、O、OHが結合した化合物(以下、FeNiOx(OH)yと記す)を主成分とするものである。
【0019】
次に、この複合水酸化物に水素化カルシウムを重量比で1:1になるように乳鉢で混合し、上記図1の混合物10に相当する混合物を作製した。
【0020】
次に、この混合物を、上記図1の容器20に相当するアルミナ製のるつぼに入れ、この外側に上記磁石30としてのアルニコ磁石を配置したものを、アルゴン雰囲気炉中にセットして、300℃で8時間還元を行った。このアルニコ磁石は、耐熱温度が450℃の永久磁石であり、試料位置で約1000Oeの磁場であると推定される。
【0021】
これにより、上記混合物が還元されて、当該るつぼ中にて磁性合金粉としてのテトラテーナイトができあがる。その後、上記炉から磁性合金粉をとり出して、塩酸で洗浄後、水洗、乾燥することで、テトラテーナイトよりなる磁性合金粉を得た。
【0022】
このテトラテーナイトの具体例によれば、磁場を印加しながら還元することにより、300℃という従来よりも低温で還元反応を効率良く進行させることができる。実際に、本具体例と、比較例として、アルニコ磁石を用いずに磁場を印加しないで還元反応を行うこと以外は当該具体例と同様の合成を行った例とを比較した。
【0023】
本実施形態の上記具体例および比較例について、最終的に得られた磁性合金粉としてのテトラテーナイトを、メスバウアー分光スペクトル分析に供した。その結果、両例ともに、規則合金と不規則合金との混合物として磁性合金粉が得られるが、比較例では規則合金の割合が14%であったのに対し、本具体例では25%であり、比較例の2倍近くの収率を実現することができた。
【0024】
また、本具体例により得られたテトラテーナイトと、比較例により得られたテトラテーナイトとのそれぞれについて、振動試料型磁力計(VSM)により、磁気ヒステリシス特性を調べた。その結果を、図2に示す。図2中、本具体例のヒステリシス曲線は太い実線、比較例は破線にて示してある。
【0025】
図2に示されるように、本実施形態の具体例の方が比較例に比べて、磁気ヒステリシスが大きく、保磁力が大きいことが確認されている。これは、本具体例の磁性合金粉の方が、規則合金としてのテトラテーナイトの含有量が、比較例よりも大幅に多いことに起因すると考えられる。
【0026】
また、図3は、還元時に上記混合物に印加される磁場強度(還元時磁場強度、単位:Oe)と、還元後のできあがった磁性合金粉すなわちテトラテーナイトの保磁力との関係を模式的に示す図である。
【0027】
この図3に示されるように、還元時磁場強度は、100〜10000Oeの範囲が好ましい。この範囲であれば、テトラテーナイトの保磁力が極大値を取りやすい。また、この範囲の強度は、市販されているアルニコ磁石などの永久磁石により発生される強度であり、電磁石などを用いなくても容易に実現できる大きさの強度である。
【0028】
次に、本発明者が実験検討を行った結果に基づき、還元時に印加される磁場と還元速度の関係について述べる。
【0029】
図4は、上記具体例における磁場と還元速度との関係を示す図であり、FeNiOx(OH)yを主成分とする複合水酸化物と水素化カルシウムとの混合物を、銅箔に包んで振動試料型磁力計(VSM)にセットし、真空中で磁化を測定した結果を示すものである。
【0030】
図4の場合、複合水酸化物に対して、一定磁場を印加しながら温度を上げていったときの磁化の大きさを示している。複合水酸化物は初期は磁化の大きさは小さいものであるが、磁場印加および昇温に伴い、還元されていき、磁化が大きいものとなる。
【0031】
ここでは、昇温速度は5℃/分である。また、一定磁場としては、0.01T、0.1T、3Tの3水準について示してあるが、各水準については同じ大きさの磁場を印加した場合に換算して磁化の大きさを示してある。すなわち、図4に示される縦軸の磁化は、飽和磁化を示している。
【0032】
図4に示されるように、高い磁場を印加する方が、飽和磁化が大きいものとなることがわかる。そして、磁化と還元速度とは正の相関があるため、還元時の磁場印加により、還元反応が促進されることがわかる。
【0033】
このように、磁場印加による還元反応の促進の正確なメカニズムについては、不明であるが、実際に、磁場印加による還元反応の促進は起こるのであり、このことは、テトラテーナイト以外の磁性合金粉に適用しても同様に発生し得ると考えられる。
【符号の説明】
【0034】
10 混合物
20 容器
30 磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の金属と第2の金属を含む合金よりなり、磁性を有する磁性合金粉の製造方法であって、
前記第1の金属と前記第2の金属を含む合金の水酸化物である複合水酸化物を用意し、
この複合水酸化物に水素化カルシウムを混合して混合物とし、
この混合物を320℃未満の還元温度で磁場を印加しながら還元し、前記磁性合金粉を得ることを特徴とする磁性合金粉の製造方法。
【請求項2】
前記第1の金属はFeであり、前記第2の金属はNiであり、前記磁性合金はテトラテーナイトであることを特徴とする請求項1に記載の磁性合金粉の製造方法。
【請求項3】
前記還元温度は300℃以下であることを特徴とする請求項2に記載の磁性合金粉の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−14805(P2013−14805A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148137(P2011−148137)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】