説明

磁性塗料の製造方法および磁気記録媒体

【課題】超微粒子磁性粉末が良好に分散され、生産性に優れた磁性塗料の製造方法を提供すること、またこの方法で得られた磁性塗料を用いて高密度記録特性にすぐれた磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【解決手段】平均粒子径が10〜40nmの磁性粉末とバインダ樹脂とを含む磁性塗料の製造方法において、固形分濃度が25wt%以下にて、分散用メディアを使用した塗料分散工程と遠心分離により塗料凝集物を除去する凝集物除去工程とを組み合わせ、該組み合わせ工程を2回以上行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性塗料の製造方法と、この方法により得られた磁性塗料を用いて製造された磁気記録媒体に関するものであり、とくに、微粒子磁性粉末を含む磁性塗料の製造方法と、この方法により得られた磁性塗料を用いて製造された、磁気特性や電磁変換特性に優れる磁気記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体のひとつである磁気テープには、オーディオテープ、ビデオテープ、コンピユータテープなどの種々の用途があるが、とくにデータバックアップ用のコンピュータテープの分野では、バックアップ対象となるハードディスクの大容量化に伴い、1巻あたり数100GB以上の記憶容量のものが商品化されており、今後ハードディスクのさらなる大容量化に対応するため、バックアップテープの高容量化は不可欠である。
【0003】
また、磁気記録媒体の高容量化のためには、記録波長をますます短くすること、およびトラック幅を小さくすることが必要不可欠である。
【0004】
高容量コンピュータテープとしては、一般に、磁性粉末をバインダ樹脂中に分散させた磁性塗料を、可撓性支持体上に塗布して作製される、いわゆる塗布型テープが用いられている。磁気記録媒体の高密度化に対応して、使用される磁性粉末の粒子径は小さくなり、飽和磁化σsで代表される磁気エネルギーの大きな強磁性金属粉未を使用するようになってきている。ところが、磁性粉末は、微粒子化や高磁気エネルギー化するほど、個々の粒子の凝集力が強まることが知られている。
【0005】
また、磁気記録媒体は、表面平滑化によるスペーシングロスの低減、磁性層の薄層化による厚み損失の低減や分解能の向上、表面欠陥によるドロップアウトの低減、磁性粉末の保磁力分布の均一化、長時間かつ多数回の使用に耐えうる高耐久性のいずれをも兼ね備えていることが求められている。これらの要件を満たすには、磁性塗料が十分に分散されていることが必要となってくる。
【0006】
一般に、磁性塗料は、磁性粉末、バインダ樹脂、有機溶剤およびその他の必要成分からなる塗料組成物を、分散槽内に金属、セラミックス、ガラスなどの分散用メディアを充填したボールミルやサンドミルのようなメディア型分散機を使用して分散され、製造される。とくに、最近の高容量磁気テープ用の磁性塗料は、分散槽内に内設した攪拌装置で分散用メディアを強制攪拌するサンドミルを使用して製造されている。
【0007】
しかしながら、前述したように、磁気記録媒体の高容量化に伴う磁性粉末の微粒子化と高磁気エネルギー化により、磁性粉末の凝集力が大きくなり、磁性粉末などを磁性塗料中に均一に分散させることが困難になってきた。
【0008】
このような問題に対して、サンドミルの分散条件を検討して良好な磁性塗料を得る試み(特許文献1参照)や、サンドミルによる分散終了後、塗布工程の直前に超音波分散工程を設ける試み(特許文献2参照)、サンドミルによる分散前にフィルタを用いて磁性塗料を濾過し、粗大な凝集物を予め除去し、高精度な分散塗料を得る試み(特許文献3参照)、塗布工程前に遠心分離機を用いて異物、凝集物を除去する試み(特許文献4)が提案されている。
【0009】
また、遠心分離機構により分散メディアを分離するメディア型分散機が考案されている(例えば特許文献5〜7)。
【0010】
【特許文献1】特開2001−81406号公報
【特許文献2】特開平10−251561号公報
【特許文献3】特開2000−173053号公報
【特許文献4】特開平5−54380号公報
【特許文献5】実開平4−61635号公報
【特許文献6】WO96/39251号公報
【特許文献7】特開2006−212488号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、前記のサンドミルの分散条件、超音波の分散条件などの検討では、平均粒子径が10〜40nmの微粒子磁性粉末の分散には不十分であり、また、塗料の未分散物である凝集体を濾過手段の強化により除去するには、濾過寿命が短く生産性の観点からは好ましくない。さらに、塗布工程前に遠心分離機を用いて異物、凝集物を除去しても平均粒子径が50nm未満の超微粒子磁性粉末を含む磁性塗料の分散品質を向上させるのには不十分であった。
【0012】
本発明は、このような事情に照らして、超微粒子磁性粉末が良好に分散され、生産性に優れた磁性塗料の製造方法を提供すること、またこの方法で得られた磁性塗料を用いて高密度記録特性にすぐれた磁気記録媒体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の課題を達成するために、磁性塗料の分散方法、分散工程について鋭意検討した結果、微粒子磁性粉末を用いた磁性塗料の分散に際し、塗料凝集物を除去しながら分散用メディアを使用した塗料分散を行うと塗料の分散を良好に行えること、またこの方法で得られた磁性塗料を用いて製造された磁気記録媒体によると、磁気特性や電磁変換特性にすぐれて、高密度記録特性に適したものとなることを見い出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0014】
すなわち、平均粒子径が10〜40nmの磁性粉末とバインダ樹脂とを含む磁性塗料の製造方法において、固形分濃度が25wt%以下にて、分散用メディアを使用した塗料分散工程と遠心分離により塗料凝集物を除去する凝集物除去工程とを組み合わせ、該組み合わせ工程を2回以上行うことを特徴とする。
【0015】
前記塗料分散工程と前記凝集物除去工程とが、前記分散用メディアを強制撹拌する撹拌部と前記分散用メディアを遠心分離機構により分離する遠心分離部とからなるメディア型分散機により成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、磁性塗料の分散に際し、固形分濃度が25wt%以下にて塗料の分散を行うので、分散後の固形分濃度の変化が小さくて済むので、塗料の再凝集が生じにくく分散安定性の良好な磁性塗料が得られる。また、分散用メディアを使用した塗料分散工程と遠心分離により塗料凝集物を除去する凝集物除去工程とを組み合わせ、該組み合わせ工程を2回以上行うので、効率の良い分散を行うことができる。さらに、分散用メディアを強制撹拌する撹拌部と前記分散用メディアを遠心分離機構により分離する遠心分離部とからなるメディア型分散機を使用することにより、前記塗料分散を簡便に量産性よく行うことができる。また、この方法で得られた磁性塗料を用いて高密度記録特性にすぐれた磁気記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
高記録密度特性に優れる磁気記録媒体を得るには、前述したように磁性層の薄層化が有効である。薄層塗膜を得るために、塗料分散時は高固形分濃度で高剪断力をかけ、その後磁性塗料を有機溶剤で希釈し塗布しやすい固形分濃度まで低下させたりすることなどが一般的に行われる。しかし、固形分濃度が低い塗料は分散安定性が悪く、また希釈時に固形分濃度を大きく変化させると磁性粉末が再凝集しやすくなる問題がある。なおここで云う固形分濃度の低い塗料とは、固形分濃度が20wt%以下の磁性塗料のことを云う。
【0018】
そこで、低固形分濃度であっても分散安定性が良く、希釈時に固形分濃度を大きく変化させないことが重要である。磁性塗料の固形分濃度を調整する(磁性塗料に有機溶剤を混ぜて固形分濃度を低下させる)方法としては、撹拌型の混合装置であるディスパを用いる方法が一般的であるが、磁性塗料を低固形分濃度に調整するタイミングとしては、(1)塗料分散前、(2)塗料分散後、(3)塗料分散前と分散後の双方、が挙げられる。(1)の場合には、次工程における塗料分散工程において、メディアと被分散物(ここでは磁性粉)の接触頻度が小さくなるため粉砕が効率的に行えず、未分散物が多く残る問題が生じる。また、前記接触頻度を高めるため、微細なメディア(たとえばφ0.3mm以下のビーズ)を使った場合には、メディアと被分散物との分離が難しいという問題が生じる。
【0019】
一方、(2)の場合には、希釈の際に磁性粉に吸着している結合剤樹脂の一部が希釈溶剤により脱着し、再凝集(分散安定性の悪化)が避けられず所望の分散度を得ることができない。また、(3)の場合には、前記問題の抑制は多少できるものの、根本的な解決とはならず所望の分散度を得ることはできない。
【0020】
上記課題を解決する手法について鋭意検討した結果、磁性塗料をメディア型分散機にて処理する前に、予め固形分濃度を25wt%以下に調整しておき、且つ分散用メディアを使用した塗料分散工程と遠心分離により塗料凝集物を除去する凝集物除去工程とを組み合わせ、該組み合わせ工程を2回以上行うことにより、磁性層の薄層化に適した磁性塗料が得られることを見出した。
【0021】
メディア型分散機を使用した塗料分散工程と遠心分離により塗料凝集物を除去する凝集物除去工程とを組み合わせることにより、塗料分散工程前に固形分濃度を25wt%以下に調整しても、所望の分散度を得ることが可能となり、配合工程での磁性塗料の希釈時に固形分濃度が大きく変化することがないので、希釈時に再凝集が起こるのを防ぐことが出来る。また小径の分散用メディアを使用することができるので良好に分散でき、低固形分濃度であっても比較的分散安定性の高い磁性塗料を得ることが出来る。
【0022】
本発明に係る一例の磁性塗料の製造方法のフローチャートを図1に示す。本発明の磁性塗料の製造方法においては、図1に示すように、解砕・混合工程等の磁性粉前処理工程、混練工程および、ミキシング工程を設けるのが好ましい。
【0023】
これらの工程のうち、磁性粉前処理工程では、混練工程の前工程として、磁性粉末の顆粒を高速攪拌混合機にて解砕し、その後、引き続き、高速攪拌混合機にてリン酸系やスルホン酸系の有機酸などやバインダ樹脂、有機溶媒と混合して、磁性粉末の表面処理やバインダ樹脂との混合を行う。
【0024】
上記の高速攪拌混合機としては、ホソカワミクロン社製のアグロマスタのような転動流動効果を利用したガス吹上げ式攪拌機、同社製のサイクロミックスやメカノフュージョンシステム、杉山重工社製のアキシャルミキサのような回転式混合機、三井鉱山社製のヘンシェルミキサなどを用いることができる。
【0025】
つぎに、混練工程では、連続式2軸混練機や加圧混練機により、通常、固形分濃度が80〜85重量%、磁性粉末に対するバインダ樹脂の割合が17〜30wt%となる状態で、高粘度、高せん断力下で、混練を行うものである。
【0026】
上記の連続式2軸混練機には、栗本鐵工所製のKEX−30、KEX−40、KEX−50、KEX−65、KEX−80、日本製鋼所製のTEX30αII、TEX44αII、TEX65αII、TEX77αII、TEX90αII、加圧式混練機には、モリヤマ製の(DS.DX20、55、75,110型)、トーシン製のTD20、TDS35、TDS55、TDS75、TDS110などを用いることができる。
【0027】
ミキシング工程では、上記した混練工程の後工程として、連続式2軸混練機または加圧混練機を用いて、少なくとも1回以上のバインダ樹脂溶液および/または有機溶媒、潤滑剤等を加えて固形分濃度を調整し、らに、高速攪拌ディスパにより固形分濃度が15〜25wt%の状態で攪拌、混合を行うものである。
【0028】
本発明においては、このような前工程を経たのち、分散用メディアを使用した塗料分散工程と遠心分離により塗料凝集物を除去する凝集物除去工程とを組み合わせ、該組み合わせ工程を2回以上行う。本発明の磁性塗料の製造方法で用いる連続式遠心分離機は従来公知のものを用いることができる。連続式遠心分離機は、単独で用いてもよいし、メデイア型分散機に組み込まれていてもよい。例えば、特開平10−43626号公報に開示されている連続式遠心分離機が好ましく用いられる。遠心分離機構が組み込まれたメデイア型分散機の例としては、実開平4−61635号公報、WO96/39251、特開2006−212488号公報などに開示されているものが挙げられる。メディア型分散機に遠心分離機構を組み込む場合には、メデイア撹拌軸の回転数と遠心分離ディスクの回転数を別々に独立して制御できるものがそれぞれの条件が最適化できるのでより好ましい。
【0029】
塗料分散工程、凝集物除去工程の後、硬化剤、有機溶媒などを配合する配合工程、濾過工程を経て、磁性塗料は塗布工程へ供される。また、必要に応じて、塗布工程の前に超音波分散、高圧衝突型分散などの、再分散工程、再濾過工程を加えてもよい。
【0030】
塗料分散工程の固形分濃度は25wt%以下が好ましく、15〜25wt%がより好ましい。この範囲が好ましいのは、25wt%以下にすると凝集物の遠心分離がより効率よく行われ、また、分散後の配合工程でさらに大きく固形分濃度を低下させる必要がなく、塗料の最凝集を最小限に抑えることができるからである。また、塗料粘度としては、通常、0.5〜5.0Pa・s(500〜5,000cP)であるのが好ましい。
【0031】
本願発明では分散用メディアの粒子径は、0.3mm以下が好ましく、0.1〜0.3mmがより好ましい。分散用メディアは、ガラス、セラミック、金属(表面が樹脂で覆われたものも含む)など、従来公知のものを使用できるが、特に微粒子の磁性粉末に対しては、密度の大きい(3g/cm以上)材質のものが好ましい。分散用メディアのミル容器への充填量は、ミル内容量に対して見掛け容量比率で50〜90%が好ましい。この範囲が好ましいのは、50%未満では、分散効率が低下し、90%を超えると、分散用メディアの動きが悪くなるばかりか、発熱量が多くなるためである。
【0032】
また、上記の固形分濃度に調節することにより塗料の粘度が比較的低く抑えられ、分散メディア径を小さくした場合でも分散メディアの運動がスムーズになり塗料分散の上でも好ましい。
【0033】
攪拌軸の回転速度は、(周速)で6〜15m/sが好ましい。この範囲が好ましいのは、6m/s未満では、分散用メディアの分散エネルギーが小さく、15m/sを超えると、分散用メディアが破壊されたりするからである。
【0034】
遠心分離機構により磁性塗料中から凝集物を効率よく分離するためには、磁性塗料の粘度、凝集物の大きさ、送液ポンプの送液量に応じて、ディスクまたは容器の回転数を適宜に設定することが好ましい。磁性塗料の粘度が0.5〜5Pa・sの範囲にあるとき、凝集物を分離するのに必要な重力の加速度の値は2000〜10000Gの範囲が好ましい。その時のディスクまたは容器の回転数の回転数は、装置の大きさにより異なるが、およそ2000〜6000rpmとなる。
【0035】
本発明の第1の実施態様は、メディア型分散機と連続型遠心分離機を直列に連結して磁性塗料の分散を行うものである。図2に一例の、第1の実施態様の塗料分散工程と凝集物除去工程を行う装置を示す。以下、図に基づいて、本発明を説明する。
【0036】
本実施態様の装置は、分散前の磁性塗料を溜める塗料供給タンク1と、磁性塗料を送液する供給ポンプ3と、磁性塗料を分散するメディア型分散機であるサンドミル4と、凝集物を除去する連続型遠心分離機(CSS)5と、分離された凝集物や破砕したメディア片を受ける塗料受けタンク2と、これらを連通する配管とから構成される。
【0037】
塗料供給タンク1に供給されるミキシング工程までを経た分散前の磁性塗料P1は供給ポンプ3により、メディア型分散機であるサンドミル4に供給される。このサンドミル4にて、磁性塗料P1は分散用メディアとともに高速撹拌され分散工程が行われる。分散工程を経た磁性塗料は、ギャップタイプのメディア分離機構(GS)4aにより分散用メディアと分離されて、次に連続型遠心分離機5へ送られ、凝集物除去工程が行われる。凝集物除去工程では遠心分離機構により、所定の大きさ以上の凝集物や一部の破砕したメディア片が連続的に除去され、除去された凝集物やメディア片を含む塗料P1’は塗料受けタンク2に蓄えられる。凝集物や破砕したメディア片を含まない分散後の磁性塗料P2は塗料供給タンク1に戻され、再分散される。塗料は、サンドミル4の中を複数回通過し所定時間分散される。
【0038】
本実施態様で用いるメディア型分散機は、従来公知の物が用いられる。前述したように、分散用メディアの粒子径は0.3mm以下が好ましいが、このような微粒子メディアには十分対応できない(メディアの分離機構が不十分で、一部のメディアが漏れる)メディア型分散機であっても後段に遠心分離により凝集物を除去する連続型遠心分離機を備えているので、微粒子メディアを使用することが可能である。メディアの分離機構は微粒子メディアに対応するためには、スクリーンタイプが一般に用いられるが、メディアの破片や塗料凝集物が詰まりやすく、送液圧が上がりやすいなどの問題が起こる。そのため、本実施態様で用いるメディア型分散機は、ギャップタイプのメディア分離機構(GS)4aを採用することが好ましい。
【0039】
図6に一例のギャップタイプのメディア分離機構を示す。サンドミル4は円筒形状のミル容器41の円筒軸の一端に塗料供給口411が設けられ、円筒軸の他端に複数の撹拌ディスク43が取り付けられた不図示のモータにより駆動される撹拌回転軸42が取り付けられている。撹拌回転軸42のミル容器41に取り付けられている側には分離用ディスク47が取り付けられており、ミル容器41の円筒軸の他端側のディスク面はミル容器41の他端側壁面と僅かなギャップ471を形成している。このギャップによりミル容器41内に充填されている分散用メディアを分離し、塗料のみを塗料吐出口412から取り出せるようになっている。撹拌回転軸42の回転時の芯ブレ等の影響があるので、通常このギャップの隙間は0.1mm程度にまでしか小さくすることができず、使用する分散用メデイアの粒子径は0.3mm程度が限度とされている。
【0040】
本実施態様で用いる遠心分離機は従来公知のものを用いることができるが、例えば特開平10−43626に提案されているような、図4に示した連続式遠心分離機5を用いることができる。この連続式遠心分離機は、不図示のモータにより駆動され回転する円筒部501と錐状部502を備えたボウル50と前記モータとは別の不図示のモータにより駆動され回転するスクリュー軸51に支柱541により取り付けられているスクリュー羽根542からなる回転排出機構54が設けられており、連続式遠心分離機5に導入された磁性塗料P1は、不図示の供給ポンプにより供給管52を通り、先端の供給口53より、スクリュー軸51とボウル50との空間に連続して供給され、ボウル50およびスクリュー軸51の回転による遠心力により磁性塗料P1中で比重の高い凝集物や破砕したメディア片などの異物を含む塗料P1’と、それ以外の分散済み磁性塗料P2とに分離される。ボウル50の回転速度は分離する分散用メディアの材質や粒子径、塗料凝集物の大きさに応じて適宜に設定することが好ましい。
【0041】
前記凝集物を含む塗料P1’は前記ボウル50の内周壁に集められ、ボウル50より少し低い回転数で回転しているスクリュー羽根542にかき取られて、ボウル10の錐状部502の右端に設けられた沈下物排出口56より排出される。凝集物が排除された分散済み磁性塗料P2は同じくボウル50に設けられた液体排出口55より排出され再び塗料供給タンク1に戻され複数回再分散される。図ではサンドミル4は1台で使用しているが、所望する塗料の分散レベルに応じて複数台設けてもよい。
【0042】
本発明の第2の態様は、内部に遠心分離機構を内蔵したメディア型分散機を利用して塗料分散工程と凝集物除去工程を行うものである。図3に一例の、第2の実施態様の塗料分散工程と凝集物除去工程を行う装置を示す。以下、図に基づいて、本発明を説明する。
【0043】
本実施態様の装置は、分散前の磁性塗料を溜める塗料供給タンク1と、磁性塗料を送液する供給ポンプ3と、磁性塗料を分散する内部に遠心分離機構(CSS)4bを内蔵したメディア型分散機であるサンドミル40と、これらを連通する配管とから構成される。
【0044】
塗料供給タンク1に供給されるミキシング工程までを経た分散前の磁性塗料P1は供給ポンプ3により、内部に遠心分離機構(CSS)4bを内蔵したメディア型分散機であるサンドミル40に供給される。図7に一例の内部に遠心分離機構4bを内蔵したメディア型分散機であるサンドミル40の断面図を示す。
【0045】
サンドミル40は、円筒形状のミル容器41と、円筒軸の一端から差し込まれ複数の撹拌ディスク43が取り付けられた不図示のモータにより駆動される撹拌回転軸42と、円筒軸の他端から差し込まれ先端に一対の遠心分離ディスク44と、一対の遠心分離ディスク44の間に取り付けられている羽根板45が取り付けられた不図示の別のモータにより駆動される遠心分離回転軸46から構成される。
【0046】
分散前の磁性塗料P1は、ミル容器41の一端に設けられた供給口411からミル容器41内に取り入れられる。ミル容器41内には、不図示の分散用メディアが充填されている。分散前の磁性塗料P1は、撹拌ディスク43の回転により運動する分散用メディアの剪断力により分散されながら他端の遠心分離ディスク44の方に送られる。遠心分離回転軸46に取り付けられ高速で回転する一対の遠心分離ディスク44の間には放射状に羽根板45が取り付けられて遠心分離機構4bを形成している。高速で回転する一対の遠心分離ディスク44の間の塗料には中心から円周方向に強い重力場が生じている。そのため、塗料より比重の大きい、分散用メディアや塗料凝集物は、円周方向に押し付けられて、中心方向には向かえない。遠心分離回転軸46は中心部が中空になっており、分散用メディアや塗料凝集物を含まない磁性塗料P2が取り出せるようになっている。遠心分離回転軸46の回転速度は分離する分散用メディアの材質や粒子径、塗料凝集物の大きさに応じて適宜に設定することが好ましい。ミル容器41の外側は不図示のジャケットを構成し冷却水を流してミル容器41を冷却することが好ましい。
【0047】
サンドミル40から取り出された磁性塗料P2は、塗料供給タンク1に戻され複数回サンドミル40で分散処理され、所望の分散レベルの到達したところで不図示の塗料受けタンクに取り出され次工程に送られる。
【0048】
以上のような本発明の実施態様に対して、従来の実施態様を説明する。図5に従来の一例の実施態様の塗料分散工程を行う装置を示す。以下、図に基づいて、従来の実施態様を説明する。
【0049】
本実施態様の装置は、分散前の磁性塗料P1を溜める塗料供給タンク1と、磁性塗料P1を送液する供給ポンプ3と、磁性塗料P1を分散するメディア型分散機であるサンドミル4と、これらを連通する配管とから構成される。
【0050】
塗料供給タンク1に溜められているミキシング工程までを経た分散前の磁性塗料P1は供給ポンプ3により、メディア型分散機であるサンドミル4に供給される。サンドミル4には、分散用メディアを分離するギャップタイプのメディア分離機構(GS)4aが内蔵されている。サンドミル4は1連で用いて所望の分散レベルまで複数回繰り返し分散される場合や、複数連のサンドミル4を直列につないで、所望の分散レベルを得る場合がある。
【0051】
このような従来例の問題点としては、ギャップタイプのメディア分離機構(GS)を採用しているために、粒子径が0.3mm以下の微小な分散メディアが使用できず、固形分濃度は25wt%以下の低固形分の磁性塗料に対しては、効率の良い分散が困難となる。また、そのために固形分濃度25〜45wt%の磁性塗料を用いて分散を行っている(特開2000−136328号公報)が、この場合には分散後に希釈により固形分濃度を大きく下げる必要があるため、前述したように塗料の再凝集が避けられない。また、無理に微小な分散メディアを使用するとメディア分離機構(GS)のギャップにメディアが噛み込まれて破砕したり、破砕したメディア片が磁性塗料に混入したりする。
【0052】
以下、本発明の他の構成要素について詳述する。
【0053】
<磁性粉>
本発明において磁性塗料の製造に使用される磁性粉末は強磁性鉄系金属磁性粉、窒化鉄磁性粉、板状の六角晶フェライト磁性粉などが好ましく用いられる。平均粒子径50nm未満のもの、通常は、平均粒子径が10nm以上のものが好ましく、15〜40nmの範囲のものがより好ましい。この範囲が好ましいのは、平均粒子径が50nm以上になると、粒子の大きさに基づく粒子ノイズが大きくなり、また平均粒子径が10nm未満では、保磁力の低下や粒子の表面エネルギーが増大し、塗料中での分散が困難になるためである。
【0054】
<結合剤>
結合剤樹脂としては、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル−ビニルアルコール共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体樹脂、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合体樹脂、ニトロセルロースなどのセルロース系樹脂の中から選ばれる少なくとも1種と、ポリウレタン樹脂とを組み合わせたものなどが挙げられる。
【0055】
これらの樹脂の中でも、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合体樹脂とポリウレタン樹脂を併用するのが好ましい。
【0056】
ポリウレタン樹脂には、ポリエステルポリウレタン樹脂、ポリエーテルポリウレタン樹脂、ポリエーテルポリエステルポリウレタン樹脂、ポリカーボネートポリウレタン樹脂、ポリエステルポリカーボネートポリウレタン樹脂などがある。
【0057】
このような結合剤樹脂は、官能基として、−COOH、−SOM、−OSOM、−P=O(OM)、−O−P=O(OM)〔これらの式中、Mは水素原子、アルカリ金属塩基またはアミン塩を示す〕、−OH、−NR、−N〔これらの式中、R、R、R、R、Rは水素または炭化水素基を示す〕、エポキシ基などを有しているものが、好ましく用いられる。
【0058】
このような結合剤樹脂を使用すると、磁性粉末などの分散性が向上するためである。2種以上の樹脂を併用する場合には、官能基の極性を一致させるのが好ましく、中でも、−SOM基同士の組み合わせが好ましい。
【0059】
これらの結合剤樹脂は、磁性粉末100重量部に対して、通常は、7〜50重量部、好ましくは10〜35重量部の範囲で使用するのがよい。とくに、塩化ビニル系樹脂とポリウレタン樹脂を併用する場合は、塩化ビニル系樹脂5〜30重量部とポリウレタン樹脂2〜20重量部とを併用するのが好ましい。
【0060】
また、これらの結合剤樹脂とともに、結合剤樹脂中に含まれる官能基などと結合させて架橋する熱硬化性の架橋剤を併用するのが好ましい。
【0061】
このような架橋剤としては、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどや、これらのイソシアネート類とトリメチロールプロパンなどの水酸基を複数個有するものとの反応生成物、上記イソシアネート類の縮合生成物などの各種のポリイソシアネートが好ましく用いられる。
【0062】
これらの架橋剤は、結合剤樹脂100重量部に対して、通常1〜50重量部の割合で用いられる。より好ましくは15〜35重量部である。
【0063】
また、上記のような熱硬化性の結合剤樹脂の代わりに、放射線硬化性樹脂を用いてもよい。放射線硬化性樹脂としては、上記熱硬化性樹脂をアクリル変性し放射線感応性二重結合を持たせたものや、アクリルモノマー、アクリルオリゴマーが用いられる。
【0064】
<有機溶剤>
本発明において、磁性塗料の製造に使用される有機溶剤としては、たとえば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル系溶剤、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコール系溶剤、などが挙げられる。これらの有機溶剤は、単独でまたは混合して使用され、またトルエンなどと混合して使用される。
【0065】
本発明において、磁性塗料の製造に使用される添加剤には、研磨材、潤滑剤、分散剤が使用できる。
【0066】
<研磨剤>
研磨剤としては、α−アルミナ、β−アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、コランダム、人造ダイアモンド、窒化珪素、炭化珪素、チタンカーバイト、酸化チタン、二酸化珪素、窒化ホウ素など、主としてモース硬度6以上のものが単独または組み合わせて使用できる。これらの研磨剤の粒子サイズとしては、通常、平均粒子径で10〜200nmであるのが好ましい。
【0067】
また、磁性塗料には、必要により、導電性と表面潤滑性の向上を目的に、従来公知のカーボンブラックを添加してもよい。カーボンブラックには、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラックなどを使用できる。平均粒子径が10〜100nmのものが好ましい。この範囲が好ましいのは、平均粒子径が10nm未満になると、カーボンブラックの分散が難しく、100nmを超えると、多量のカーボンブラックを添加する必要があり、いずれも表面が粗くなり、出力低下の原因になるためである。また、必要により、平均粒子径の異なるカーボンブラックを2種以上用いてもよい。
【0068】
<潤滑剤>
磁性塗料には、塗料中に含まれる全粉体100重量部に対して、0.5〜5重量部の脂肪酸、0.2〜3重量部の脂肪酸のエステル、0.5〜5.0重量部の脂肪酸アミドを含有させることが好ましい。上記範囲の脂肪酸の添加が好ましいのは、0.5重量部未満では、摩擦係数低減効果が小さく、5重量部を超えると、強靭性が失われるおそれがあるからである。上記範囲の脂肪酸のエステル添加が好ましいのは、0.2重量部未満では、摩擦係数低減効果が小さく、3重量部を超えると、磁性層への移入量が多すぎるため、テープとヘッドが貼り付くなどの副作用を生じるおそれがあるためである。上記の範囲の脂肪酸アミド添加が好ましいのは、0.5重量部未満ではヘッド/磁性層界面での直接接触が起こり焼き付き防止効果が小さく、5重量部を超えるとブリードアウトしてドロップアウトなどの欠陥が発生する恐れがあるからである。脂肪酸としては、炭素数10以上の脂肪酸を用いるのが好ましい。炭素数10以上の脂肪酸は、直鎖、分岐、シス・トランスなどの異性体のいずれでもよいが、潤滑性能にすぐれる直鎖型が好ましい。この脂肪酸には、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸などがある。これらの中でも、ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸などが好ましい。
【0069】
脂肪酸エステルとしては、前記脂肪酸のエステルを用いるのが好ましい。脂肪酸アミドとしては、パルミチン酸、ステアリン酸などの炭素数が10以上の脂肪酸アミドが使用可能である。
【0070】
<分散剤>
磁性粉末、研磨材やカーボンブラックなどの添加剤を良好に分散させるために分散剤を使用することができる。このような分散剤としては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、ステアロール酸などの炭素数12〜18個の脂肪酸〔RCOOH(Rは炭素数11〜17個のアルキル基またはアルケニル基)〕、上記脂肪酸のアルカリ金属またはアルカリ土類金属からなる金属石けん、上記脂肪酸エステルのフッ素を含有した化合物、上記脂肪酸のアミド、ポリアルキレンオキサイドアルキルリン酸エステル、レシチン、トリアルキルポリオレフィンオキシ第四級アンモニウム塩(アルキルは炭素数1〜5個、オレフィンはエチレン、プロピレンなど)、硫酸塩、スルホン酸塩、りん酸塩、銅フタロシアニンなどの従来公知の各種の分散剤を、いずれも使用することができる。これらは、単独でも組み合わせて使用してもよい。分散剤は、いずれの層でも、結合剤樹脂100重量部に対し、通常0.5〜20重量部の範囲で添加される。
【0071】
本発明においては、上記した磁性粉末および結合剤樹脂とともに、有機溶剤や上記の添加剤成分などを使用して、前記方法で分散処理して磁性塗料を製造したのち、この磁性塗料を使用して、常法に準じて、非磁性支持体上に塗布し、乾燥して、磁性層を形成し、所要の処理工程を経ることにより、磁気記録媒体を製造する。
【0072】
ここで、磁性層の厚さは、0.01μm以上、0.15μm以下が好ましい。この範囲が好ましいのは、0.01μm未満では得られる出力が小さいのと、均一な磁性層を塗布するのが困難であり、0.15μmを超えると、短波長信号の解像度が悪くなるからである。短波長記録特性をさらに向上させるには、磁性層の厚さは0.01〜0.1μmであるのがより好ましく、0.02〜0.06μmが最も好ましい。
【0073】
本発明において、上記の磁性層は、非磁性支持体上に直接形成することもできるが、通常は、下塗り層を介して形成するのが望ましい。また、この磁性層の上に、必要により、磁性層の保護などのため、トップコート層(最上層非磁性層)を設けてもよい。さらに、上記の磁性層は、磁気記録媒体の容量を大きくするために、非磁性支持体の両面側に形成してもよい。一方、非磁性支持体の片面にのみ磁性層を形成する場合は、通常は、その背面側にバックコート層を形成するのが望ましい。
【0074】
<非磁性支持体>
非磁性支持体の厚さは、用途によって異なるが、通常は、1.5〜11μmのものが使用される。非磁性支持体の厚さは、より好ましくは2〜7μmである。この範囲の厚さの非磁性支持体が使用されるのは、1.5μm未満となると、製膜が難しくなり、またテープ強度が小さくなるためであり、11μmを超えると、テープ全厚が厚くなり、テープ1巻あたりの記録容量が小さくなるためである。
【0075】
非磁性支持体の長手方向のヤング率としては、5.8GPa(590kg/mm)以上が好ましく、7.1GPa(720kg/mm)以上がより好ましい。非磁性支持体の長手方向のヤング率が5.8GPa以上がよいのは、長手方向のヤング率が5.8GPa未満では、テープ走行が不安定になるためである。
【0076】
ヘリキャルスキャンタイプでは、長手方向のヤング率(MD)/幅方向のヤング率(TD)は、0.6〜0.8の範囲が好ましく、0.65〜0.75の範囲がより好ましい。長手方向のヤング率/幅方向のヤング率が、上記範囲がよいのは、0.6未満または0.8を超えると、メカニズムは現在のところ不明であるが、磁気ヘッドのトラックの入り側から出側間の出力のばらつき(フラットネス)が大きくなるためである。このばらつきは、長手方向のヤング率/幅方向のヤング率が0.7付近で最小になる。
【0077】
また、リニアレコーディングタイプでは、長手方向のヤング率/幅方向のヤング率は、理由は明らかではないが、0.7〜1.3が好ましい。
【0078】
非磁性支持体の幅方向の温度膨張係数は、−10〜10×10−6、湿度膨張係数は、0〜10×10−6が好ましい。この範囲が好ましいのは、この範囲をはずれると、温度・湿度の変化によりオフトラックが生じエラーレートが大きくなるからである。
【0079】
以上のような特性を満足する非磁性支持体としては、たとえば、二軸延伸のポリエチレンテレフタレートフイルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、芳香族ポリアミドフィルム、芳香族ポリイミドフィルムなどが挙げられる。
【0080】
<下塗り層>
高記録密度の磁性層を得るためには、磁性層の厚さを薄くすることが望ましく、耐久性のある薄層の磁性層を安定して得るためには、磁性層と非磁性支持体との間に下塗り層(非磁性層)を設けることが好ましい。下塗り層の厚さは、0.2μm以上、1.5μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましく、0.8μm以下がさらに好ましい。この範囲が好ましい理由は、0.2μm未満では、磁性層の厚さむら低減効果や、耐久性の向上効果が小さくなり、また1.5μmを超えると、磁気テープの全厚が厚くなりすぎて、テープ1巻あたりの記録容量が小さくなるためである。この下塗り層に使用するバインダ樹脂(ないし架橋剤)や下塗り層形成のための塗料溶剤には、磁性塗料の場合と同様のものが用いられる。
【0081】
下塗り層に使用する非磁性粉末には、酸化チタン、酸化鉄、酸化アルミニウムなどがあるが、酸化鉄単独または酸化鉄と酸化アルミニウムの混合系が好ましい。非磁性粉末の粒子形状は、球状、板状、針状、紡錘状のいずれでもよいが、針状、紡錘状の場合は、通常、長軸長が20〜200nm、短軸長が5〜200nmのものが好ましい。非磁性粉末を主成分とし、これに必要により粒子径が0.01〜0.1μmのカーボンブラック、粒子径が0.05〜0.5μmの酸化アルミニウムを補助的に含有させることが多い。下塗り層を平滑にかつ厚みムラを少なく塗布するには、上記の非磁性粒子およびカーボンブラックは、とくに粒度分布がシャープなものを用いるのが好ましい。下塗り層には、平均粒子径が10〜100nmの非磁性板状粉末を添加することもできる。非磁性板状粉末の成分としては、セリウムなどの希土類元素、ジルコニウム、珪素、チタン、マンガン、鉄などの元素の酸化物または複合酸化物が用いられる。
【0082】
導電性改良の目的で、平均粒子径が10〜100nmのグラファイトのような板状炭素性粉末や平均粒子径が10〜100nmの板状ITO(インジウム・スズ複合酸化物)粉末などを添加してもよい。
【0083】
<バックコート層>
本発明において、磁気テープを構成する非磁性支持体の他方の面(磁性層が形成されている面とは反対側の面)には、走行性の向上などを目的として、バックコート層を設けることができる。このバックコート層に磁性があると、磁気記録層の磁気信号が乱れる場合があるため、通常、バックコート層は非磁性である。
【0084】
バックコート層の厚さは、0.2〜0.8μmが好ましい。この範囲が良いのは、0.2μm未満では、走行性向上効果が不十分で、0.8μmを超えると、テープ全厚が厚くなり、1巻あたりの記録容量が小さくなるためである。バックコート層の中心線平均表面粗さRaは、3〜8nmが好ましく、4〜7nmがより好ましい。
【0085】
バックコート層には、通常、カーボンブラックを含ませる。カーボンブラックには、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラックなどを使用できる。通常は、小粒子径カーボンブラックと大粒子径カーボンブラックを使用する。小粒子径カーボンブラックと大粒子径カーボンブラック合計の添加量は、無機粉体重量を基準にして、60〜100重量%が好ましく、70〜100重量%がより好ましい。
【0086】
小粒子径カーボンブラックには、平均粒子径5〜200nmのものが使用されるが、平均粒子径10〜100nmのものがより好ましい。この範囲がより好ましいのは、平均粒子径が10nm未満では、カーボンブラックの分散が難しくなり、平均粒子径が100nmを超えると、多量のカーボンブラックを添加する必要があり、いずれも表面が粗くなり磁性層への裏移り(エンボス)の原因になるためである。大粒子径カーボンブラックとして、小粒子径カーボンブラックの5〜15重量%、平均粒子径200〜400nmの大粒子径カーボンブラックを使用すると、表面も粗くならず、走行性向上効果も大きくなる。
【0087】
バックコート層には、強度、温度・湿度寸法安定性などの向上を目的に、平均粒子径が10〜100nmの非磁性板状粉末を添加することができる。非磁性板状粉末の成分は、酸化アルミニウムのほか、セリウムなどの希土類元素、ジルコニウム、珪素、チタン、マンガン、鉄などの元素の酸化物または複合酸化物が用いられる。
【0088】
導電性改良の目的で、平均粒子径が10〜100nmの板状炭素性粉末や平均粒子径が10〜100nmの板状ITO粉末などを添加してもよい。また、必要に応じて、平均粒子径が0.1〜0.6μmの粒状酸化鉄粉末を添加してもよい。添加量としては、バックコート層中の全無機粉体の重量を100重量部として、2〜40重量部が好ましく、5〜30重量部がより好ましい。また、平均粒子径が0.1〜0.6μmのアルミナを添加すると、耐久性がさらに向上するので、好ましい。
【0089】
バックコート層には、バインダ樹脂として、磁性塗料の場合と同様のものを使用できる。これらの中でも、摩擦係数を低減し走行性を向上させるため、セルロース系樹脂とポリウレタン系樹脂とを複合して併用するのが好ましい。
【0090】
バインダ樹脂の含有量は、通常、カーボンブラックと無機非磁性粉末との合計量100重量部に対して、40〜150重量部、好ましくは50〜120重量部、より好ましくは60〜110重量部、さらに好ましくは70〜110重量部である。上記範囲が好ましいのは、40重量部未満では、バックコート層の強度が不十分であり、150重量部を超えると、摩擦係数が高くなりやすいためである。セルロース系樹脂を30〜70重量部、ポリウレタン系樹脂を20〜50重量部使用するのが好ましい。
【0091】
バックコート層には、バインダ樹脂を硬化するために、ポリイソシアネート化合物などの架橋剤を用いるのが好ましい。架橋剤には、磁性層の場合と同様のものを使用できる。架橋剤の量は、バインダ樹脂100重量部に対して、通常10〜50重量部、好ましくは10〜35重量部、より好ましくは10〜30重量部である。上記範囲が好ましいのは、10重量部未満では、バックコート層の塗膜強度が弱くなりやすく、50重量部を超えると、SUSに対する動摩擦係数が大きくなるためである。
【実施例】
【0092】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例中の部は、重量部である。また、実施例および比較例中の平均粒子径は、数平均粒子径である。
【0093】
[実施例1]
<下塗り塗料成分>
(1)成分
針状酸化鉄 68部
カーボンブラック 20部
粒状アルミナ粉末 12部
メチルアシッドフォスフェート 1部
塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合体 9部
(含有−SONa基:0.7×10−4当量/g)
ポリエステルポリウレタン樹脂 5部
(ガラス転移温度:40℃、含有−SONa基:1×10−4当量/g)
テトラヒドロフラン 13部
シクロヘキサノン 63部
メチルエチルケトン 137部
(2)成分
ステアリン酸ブチル 2部
シクロヘキサノン 50部
トルエン 50部
(3)成分
ポリイソシアネート 6部
シクロヘキサノン 9部
トルエン 9部
【0094】
<磁性塗料成分>
(1)成分
粒状窒化鉄磁性粉 100部
(Al−Y−Fe−N)〔σs:85Am/kg(85emu/g)
Hc:214.9kA/m(2700Oe)平均粒子径17nm〕
塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合体 19.2部
アルミナ粉末 10部
カーボンブラック 2部
メチルアシッドフォスフェート 4部
メチルエチルケトン 6部
テトラヒドロフラン 12部
(2)成分
ポリエステルポリウレタン樹脂 6部
メチルエチルケトン 59部
トルエン 50部
(3)成分
パルミチン酸アミド 1部
ステアリン酸ブチル 1部
シクロヘキサノン 171部
トルエン 132部
(4)成分
ポリイソシアネート 3.4部
シクロヘキサノン 285部
【0095】
上記の下塗り成分において(1)を回分式ニーダで混練し、(2)を加えて撹拌の後、サンドミルで滞留時間を60分として分散処理を行い、これに(3)を加え撹拌・ろ過した後、下塗り塗料(下塗り層用塗料)とした。
【0096】
これとは別に、上記の磁性塗料成分のうち上記(1)成分を磁性粉前処理工程として、高速攪拌混合機にて予め高速混合した。続いて混練工程としてその混合粉末に(2)成分を加えて加圧式ニーダで混練し、その後分散しやすい粘度まで希釈した。次に、ミキシング工程として、(3)成分を加えて撹拌しながら固形分濃度の調整を行った(固形分濃度25wt%)。
【0097】
次に図2に示した装置を用いて塗料分散工程と凝集物除去工程を行った。メディア型分散機としてはナノミル(浅田鉄工社製)を用い、粒子径0.2mmφのジルコニアビーズを使用して滞留時間60分になるように塗料を2回循環させて分散処理を行った。図4で示した連続式遠心分離機(CSS)にて、重力加速度10000G、ボウル50と回転排出機構54との回転数の差を30rpmの条件にて、塗料凝集物の除去を実施した。これにより粒子径が15μm以上の凝集物を含む塗料が除去された。
【0098】
次に配合工程としては、分散後に得られた塗料に(4)成分を入れ、高速ディスパを用いて混合・分散し、濾過工程として孔径0.8μmのフィルタにて濾過し、磁性塗料を調整した(最終固形分濃度17.1wt%)。
【0099】
上記下塗り塗料を、厚さ8μmのポリエチレンナフタレートフィルムからなる非磁性支持体上に、乾燥、カレンダ後の厚さが0.8μmになるように塗布し、下塗り層上に、上記の磁性塗料をエクストルージョン型コータにてウエット・オン・ウエットで、乾燥、カレンダ後の厚さが0.08μmになるように塗布し、磁場配向(N−N対向磁石(398kA/m)+ソレノイドコイル(398kA/m))処理後、ドライヤおよび遠赤外線を用いて乾燥し、磁気シートを作製した。
【0100】
<バックコート層用塗料成分>
カーボンブラック(平均粒子径25nm) 80部
カーボンブラック(平均粒子径350nm) 10部
粒状酸化鉄(平均粒子径50nm) 10部
ニトロセルロース 45部
ポリウレタン樹脂 30部
シクロヘキサノン 260部
トルエン 260部
メチルエチルケトン 525部
【0101】
上記のバックコート層用塗料成分をサンドミルで分散した後、ポリイソシアネート15部を加えてバック層用塗料を調整し、濾過後、上記で作製した磁気シートの磁性層の反対面に塗布し乾燥させた。
【0102】
このようにして得られた磁気シートを金属ロールからなる7段カレンダで、温度100℃、線圧196kN/mの条件で鏡面化処理(カレンダ処理)し、磁気シートをコアに巻いた状態で60℃48時間エージングして評価用の磁気シートを作製した。得られた評価用の磁気シートの磁性層厚みは0.08μmであった。
【0103】
[実施例2]
図3に示した装置を用いて塗料分散工程と凝集物除去工程を行い、滞留時間が60分になるように、塗料を2回循環させて塗料分散を行った以外は実施例1と同様にして評価用の磁気シートを作製した。
【0104】
[実施例3]
滞留時間が60分になるように、塗料を3回循環させて塗料分散を行った以外は実施例2と同様にして評価用の磁気シートを作製した。
【0105】
[実施例4]
磁性塗料成分の(3)成分中のシクロヘキサノンを254部、トルエンを192部に変更し、ミキシング工程後の固形分濃度を20wt%とし、磁性塗料成分の(4)成分中のシクロヘキサノンを142部に変更した以外は実施例2と同様にして評価用の磁気シートを作製した。(最終固形分濃度17.1wt%)。
【0106】
[比較例1]
滞留時間が60分になるように、塗料を循環させず塗料分散を行った以外は実施例2と同様にして評価用の磁気シートを作製した。
【0107】
[比較例2]
図5に示した連続式遠心分離機構を持たない装置で塗料分散工程を行い、メディア型分散機としてはナノミル(浅田鉄工社製)を用い、粒子径0.5mmφのジルコニアビーズを使用して塗料分散を行った以外は、実施例2と同様にして評価用の磁気シートを作製した。なお、粒子径0.2mmφのジルコニアビーズを使用したところビーズの破砕片が塗料に混入したので粒子径0.5mmφのジルコニアビーズを用いた。
【0108】
[比較例3]
磁性塗料成分の(3)成分中のシクロヘキサノンを121部、トルエンを86部に変更し、ミキシング工程後の固形分濃度を30wt%とし、磁性塗料成分の(4)成分中のシクロヘキサノンを381部に変更した以外は実施例2と同様にして評価用の磁気シートを作製した。(最終固形分濃度17.1wt%)。
【0109】
得られた評価用の磁気シートを下記の方法で評価し、その結果を表1および表2に示した。
【0110】
〈磁性層の表面粗さRa〉
評価用の磁気シートの磁性層をZYGO社製汎用三次元表面構造解析装置NewView5000による走査型白色光干渉法にてScanLengthを5μmで測定した。測定視野は、350μm×260μmである。磁性層の中心線平均表面粗さをRaとして求めた。
【0111】
〈C/N測定〉
評価用の磁気シートの電磁変換特性測定には、ドラムテスターを用いた。ドラムテスターには電磁誘導型ヘッド(トラック幅25μm、ギャップ0.1μm)とMRヘッド(トラック幅8μm)を装着し、誘導型ヘッドで記録、MRヘッドで再生を行った。両ヘッドは回転ドラムに対して異なる場所に設置されており、両ヘッドを上下方向に操作することで、トラッキングを合わせることができる。磁気シートから長手方向に60cmを切り出し、更に4mm幅に加工して回転ドラムの外周に巻き付けた。
【0112】
出力及びノイズは、ファンクションジェネレータにより波長0.2μmの矩形波を書き込み、MRヘッドの出力をスペクトラムアナライザーに読み込んだ。0.2μmのキャリア値を媒体出力Cとした。また0.2μmの矩形波を書き込んだときに、出力及びシステムノイズを差し引いた値の積分値をノイズ値Nとして用いた。更に両者の比をとってC/Nとし、C、C/Nともにリファレンスとして用いている比較例1の磁気シートの値との相対値を求めた。
【0113】
なお、表中の分散装置の記号はAが図2の、Bが図3の、Cが図5の各装置を使ったことを示す。






【0114】
【表1】

【0115】
【表2】

【0116】
表1、表2から明らかなように、固形分濃度が25wt%以下にて、分散用メディアを使用した塗料分散工程と遠心分離により塗料凝集物を除去する凝集物除去工程とを組み合わせ、該組み合わせ工程を2回以上行うことで、高記録密度磁気記録媒体を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】本発明に係る一例の磁性塗料の製造方法のフローチャートである。
【図2】本発明に係る一例の第1の実施態様の塗料分散工程と凝集物除去工程を行う装置の概略図である。
【図3】本発明に係る一例の第2の実施態様の塗料分散工程と凝集物除去工程を行う装置の概略図である。
【図4】一例の連続式遠心分離機の断面図である。
【図5】従来例の塗料分散工程を行う装置の概略図である。
【図6】一例のメディア型分散機のギャップ式分散用メディアセパレータの断面図である。
【図7】一例の遠心分離機構が内蔵されたメディア型分散機の断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が10〜40nmの磁性粉末とバインダ樹脂とを含む磁性塗料の製造方法において、固形分濃度が25wt%以下にて、分散用メディアを使用した塗料分散工程と遠心分離により塗料凝集物を除去する凝集物除去工程とを組み合わせ、該組み合わせ工程を2回以上行うことを特徴とする磁性塗料の製造方法。
【請求項2】
前記塗料分散工程と前記凝集物除去工程とが、前記分散用メディアを強制撹拌する撹拌部と前記分散用メディアを遠心分離機構により分離する遠心分離部とからなるメディア型分散機により成されることを特徴とする請求項1に記載の磁性塗料の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法で得られた磁性塗料を用いて製造された磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−140592(P2009−140592A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−317943(P2007−317943)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】