説明

磁性材料、磁性材料の製造方法およびインダクタ素子

【課題】高周波で高いμ’と低いμ”を備え特性に優れた磁性材料を提供する。
【解決手段】実施の形態の磁性材料は、Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属、Mg,Al,Si,Ca,Zr,Ti,Hf,Zn,Mn,希土類元素、BaおよびSrから選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含有する磁性粒子と、上記磁性粒子の少なくとも一部を被覆する第1の酸化物の第1の被覆層と、上記磁性粒子間に存在し、第1の酸化物と共晶反応系を構成する第2の酸化物の酸化物粒子と、上記磁性粒子間に存在し、第1の酸化物と第2の酸化物の共晶組織を有する酸化物相と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、磁性材料、磁性材料の製造方法およびインダクタ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、磁性材料は、インダクタタ素子、電磁波吸収体、磁性インク、アンテナ装置等の様々なデバイスの部品に適用されており非常に重要な材料である。これらの部品は、磁性材料の有する透磁率実部(比透磁率実部)μ’または透磁率虚部(比透磁率虚部)μ”の特性を、目的に応じて利用する。例えばインダクタンス素子やアンテナ装置は高いμ’(かつ低いμ”)を利用し、電磁波吸収体は高いμ”を利用する。そのため、実際にデバイスとして使用する場合は、機器の利用周波数帯域に合わせてμ’およびμ”を制御しなければならない。
【0003】
近年、機器の利用周波数帯域の高周波数帯化が進んでおり、高周波で高いμ’と低いμ”を備え特性に優れた磁性材料の開発が急務となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−41961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情を考慮してなされたものであり、その目的とするところは、高周波で高いμ’と低いμ”を備え特性に優れた磁性材料、磁性材料の製造方法およびインダクタ素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施の形態の磁性材料は、Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属、Mg,Al,Si,Ca,Zr,Ti,Hf,Zn,Mn,希土類元素、BaおよびSrから選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含有する磁性粒子と、前記磁性粒子の少なくとも一部を被覆する第1の酸化物の第1の被覆層と、前記磁性粒子間に存在し、前記第1の酸化物と共晶反応系を構成する第2の酸化物の酸化物粒子と、前記磁性粒子間に存在し、前記第1の酸化物と前記第2の酸化物の共晶組織を有する酸化物相と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】第1の実施の形態の磁性材料の模式図である。
【図2】第1の実施の形態の第1の変形例の磁性材料の模式図である。
【図3】第1の実施の形態の第2の変形例の磁性材料の模式図である。
【図4】第2の実施の形態の磁性材料の模式図である。
【図5】第5の実施の形態の磁性材料の模式図である。
【図6】第6の実施の形態の磁性材料の模式図である。
【図7】第7の実施の形態の磁性材料の模式図である。
【図8】第7の実施の形態の第1の変形例の磁性材料の模式図である。
【図9】第7の実施の形態の第2の変形例の磁性材料の模式図である。
【図10】第8の実施の形態の磁性材料の模式図である。
【図11】第8の実施の形態の変形例の磁性材料の模式図である。
【図12】第10の実施の形態のデバイスの概念図である。
【図13】第10の実施の形態のインダクタ素子の概念図である。
【図14】第10の実施の形態のインダクタ素子の概念図である。
【図15】実施例3の透磁率(μ’、μ”)の周波数特性を示す図である。
【図16】第1の実施の形態の第1の変形例の磁性材料の別の模式図である。
【図17】第7の実施の形態の別の一例の磁性材料の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
高いμ’と低いμ”を有する磁性材料は、近年、パワー半導体に用いるパワーインダクタンス素子への応用に関して注目されている。近年、省エネルギー、環境保護の重要性が盛んに唱えられており、CO排出量削減や化石燃料への依存度の低減が不可欠となってきた。
【0009】
この結果,ガソリン自動車に代わる電気自動車やハイブリッド自動車の開発が精力的に進められている。また、太陽光発電や風力発電といった自然エネルギーの利用技術が省エネ社会のキー・テクノロジーといわれており、先進各国は自然エネルギーの利用技術の開発を積極的に進めている。さらに、環境にやさしい省電力システムとして、太陽光発電、風力発電等で発電した電力をスマートグリッドで制御し、家庭内やオフィス、工場に高効率で需給するHEMS(Home Energy Management System)、BEMS(Building and Energy Management System)構築の重要性が盛んに提唱されている。
【0010】
このような省エネルギー化の流れの中で、重要な役割を担うのがパワー半導体である。パワー半導体は、高い電力やエネルギーを高効率で制御する半導体であり、IGBT(insulated gate bipolar transistor)、MOSFET、パワー・バイポーラ・トランジスタ、パワー・ダイオードなどのパワー個別半導体に加え、リニア・レギュレータ、スイッチング・レギュレータなどの電源回路、さらにはこれらを制御するためのパワー・マネジメント用ロジックLSIなどが含まれる。
【0011】
パワー半導体は,家電,コンピュータ,自動車,鉄道などあらゆる機器に幅広く使われており、これら応用機器の普及拡大,さらにこれらの機器へのパワー半導体の搭載比率拡大が期待できるため,今後のパワー半導体は大きな市場成長が予想されている。例えば、多くの家電に搭載されているインバータには、ほとんどといって良いほどパワー半導体が使われており、これによって大幅な省エネが可能になる。
【0012】
パワー半導体は、現在、Siが主流であるが、更なる高効率化や機器の小型化のためには、SiC、GaNの利用が有効であると考えられている。SiCやGaNはSiよりも、バンドギャップや絶縁破壊電界が大きく、耐圧を高くできるため素子を薄くできる。そのため、半導体のオン抵抗を下げることができ、低損失化・高効率化に有効である。また、SiCやGaNはキャリア移動度が高いため、スイッチング周波数を高周波化することが可能となり、素子の小型化に有効となる。更には、特にSiCではSiよりも熱伝導率が高いため放熱能力が高く高温動作が可能となり、冷却機構を簡素化ができ小型化に有効となる。
【0013】
以上の観点から、SiC、GaNパワー半導体の開発が精力的に行われている。しかし、その実現のためには、パワー半導体とともに使用されるパワーインダクタ素子の開発、すなわち、高透磁率磁性材料(高いμ’と低いμ”)の開発が不可欠である。この時、磁性材料に求められる特性としては、駆動周波数帯域での高い透磁率、低い磁気損失は勿論のこと、大電流に対応できる高い飽和磁化が必要となる。飽和磁化が高いと、高い磁場を印加しても磁気飽和を起こしにくく、実効的なインダクタンス値の低下が抑制できる。これによって、デバイスの直流重畳特性が向上し、システムの効率が向上する。
【0014】
10kHz〜100kHzの数kW級システム用の磁性材料としては、センダスト(Fe−Si−Al)、ナノクリスタル系ファインメット(Fe−Si−B−Cu−Nb)、Fe基/Co基アモルファス・ガラスのリボン・圧粉体、もしくはMnZn系フェライト材料が挙げられる。しかしながら、いずれも高透磁率、低損失、高飽和磁化、高い熱的安定性、高い耐酸化性を完全に満たしてはおらず不十分である。
【0015】
また、システムの駆動周波数は、今後、SiC、GaN半導体の普及に伴い、更に高周波化することが確実視されており、100kHz以上のMHz帯域で高透磁率、低損失であることが必要となってくるが、その様な磁性材料は存在しない。そのため、高飽和磁化、高い熱的安定性、高い耐酸化性を満たしつつ、100kHz以上のMHz帯域で高透磁率、低損失を満たすような磁性材料の開発が不可欠である。
【0016】
また、高周波で高いμ’と低いμ”を有する磁性材料は、アンテナ装置等の高周波通信機器のデバイスへの応用も期待される。アンテナの小型化、省電力化の方法として、高透磁率(高いμ’、低いμ”)の絶縁基板をアンテナ基板として、アンテナから通信機器内の電子部品や基板へ到達する電波を巻き込んで電子部品や基板へ電波を到達させずに送受信を行う方法がある。これによって、アンテナの小型化と省電力化が可能となるが、同時に、アンテナの共振周波数を広帯域化することも可能となり好ましい。
【0017】
このような応用においても、上記のパワーインダクタ素子用磁性材料が開発された暁には、適用できる可能性があり好ましい。
【0018】
さらには、電磁波吸収体では、高いμ”を利用して、電子機器のから発生するノイズを吸収し、電子機器の誤動作等の不具合を低減させている。電子機器としては、ICチップ等の半導体素子や各種通信機器などが挙げられる。このような電子機器は様々な周波数帯域で使用されており、所定の周波数帯域で高いμ″が求められる。一般に、磁性材料は、強磁性共鳴周波数付近において高いμ”を取る。しかし、もし、強磁性共鳴損失以外の各種磁気損失、例えば、渦電流損失や磁壁共鳴損失などを抑制することができるならば、強磁性共鳴周波数より十分に低い周波数帯域においては、μ”は小さくμ’を大きくすることができる。
【0019】
すなわち、1つの材料でも使用周波数帯域を変えることによって、高透磁率部品としても、電磁波吸収体としても使用することができる。したがって、上記のパワーインダクタ用磁性材料が開発された暁には、μ”を利用する電波吸収体用としても、強磁性共鳴周波数を利用周波数帯に合せることによって適用できる可能性がある。
【0020】
一方で、通常、電磁波吸収体として開発される材料は、強磁性共鳴損失、渦電流損失、磁壁共鳴損失等の各種磁気損失からなるあらゆる損失を足し合わせてμ″をできる限り大きくするように設計される。このため、電磁波吸収体として開発される材料はたとえどの周波数帯域においても。上記インダクタ素子やアンテナ装置用の高透磁率部品(高いμ’かつ低いμ”)としては使うことは困難である。
【0021】
なお、電磁波吸収体は、従来、フェライト粒子、カルボニル鉄粒子、FeAlSiフレーク、FeCrAlフレークなどを樹脂と混合するバインダー成形法によって製造されている。しかしながら、これらの材料は高周波域においてμ’、
μ”が共に極端に低く、必ずしも満足する特性は得られていない。その他、メカニカルアロイング法等で合成される材料では、長時間の熱的安定性に欠け歩留まりが低い問題がある。
【0022】
以上、パワーインダクタ素子、アンテナ、電波吸収体に用いる磁性材料としては、これまで様々な材料が提案されているが、いずれも、要求される材料特性を満足していない。
【0023】
以下、図面を用いて実施の形態を説明する。なお、図面中、同一または類似の箇所には、同一または類似の符号を付している。
【0024】
(第1の実施の形態)
本実施の形態の磁性材料は、Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、希土類元素、BaおよびSrから選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含有する磁性粒子と、この磁性粒子の少なくとも一部を被覆する第1の酸化物の第1の被覆層と、磁性粒子間に存在し、第1の酸化物と共晶反応系を構成する第2の酸化物の酸化物粒子と、磁性粒子間に存在し、第1の酸化物と第2の酸化物の共晶組織を含む酸化物相と、を備える。
【0025】
本実施の形態の磁性材料は、上記構成を備えることにより、100kHz以上のMHz帯域で高透磁率、低損失を実現する。さらに、高飽和磁化、高い熱的安定性、高い耐酸化性をも実現することが可能となる。
【0026】
図1は、本実施の形態の磁性材料の模式図である。本実施の形態の磁性材料は、磁性粒子10、この磁性粒子10を被覆する第1の酸化物の第1の被覆層12、磁性粒子10間に存在する第2の酸化物の酸化物粒子14、第1の酸化物と第2の酸化物の共晶組織からなる酸化物相16で構成される。
【0027】
磁性粒子10は、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)からなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、希土類元素、BaおよびSrから選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含有する。磁性粒子10は、例えば、Fe、CoおよびAl(アルミニウム)を含む合金、または、Fe、Ni、Si(シリコン)を含む合金である。
【0028】
第1の酸化物と第2の酸化物は共晶反応系を構成する。すなわち、第1の酸化物と第2の酸化物とは共晶を生成する。第1の酸化物は、例えば、Si(シリコン)の酸化物であり、第2の酸化物は、例えば、B(ボロン)の酸化物である。
【0029】
磁性粒子10の少なくとも一部を被覆する第1の被覆層12は第1の酸化物で形成される。また、磁性粒子10間に存在する酸化物粒子14は、第2の酸化物で形成される。
【0030】
磁性粒子10間に存在する酸化物相16は、第1の酸化物と第2の酸化物で形成され、第1の酸化物と第2の酸化物との共晶組織を備えている。ここで言う共晶組織とは、共晶反応によって生成する凝固組織であり、2種類の結晶が層状に交互に配列した層状(ラメラ状)共晶組織や、棒状に配列した棒状共晶組織、らせん状に配列したらせん状共晶組織などのことである。この時、例えば層状組織、棒状組織、らせん状組織の個々の層(もしくは棒)の間隔は、共晶組成や、凝固速度等の凝固条件に依存したものとなる。
【0031】
本実施の形態によれば、磁性粒子10が共晶組織の酸化物相16で取り囲まれることにより、磁性粒子10の凝集が抑制され、熱的に安定でかつ耐酸化性も高い磁性材料が実現される。よって、磁気特性の劣化が抑制される。
【0032】
また、共晶組織の酸化物相16は力学的強度も高い。このため、熱サイクル時や負荷がかかった時に亀裂や破損が生じにくく、磁性材料の熱的安定性や耐酸化性を向上することが可能となる。
【0033】
また、第1の酸化物と第2の酸化物との共晶反応で酸化物相16を形成できるため、比較的低温で強度の高い酸化物相16が形成できる。したがって、本実施の形態の磁性材料は比較的低温のプロセスで製造できる。よって、本実施の形態によれば、製造中での、磁性粒子10の酸化や変質等を抑制することが可能である。
【0034】
本実施の形態では、磁性粒子10間に、酸化物相16に加えて、単体では融点の高い第1の酸化物を第1の被覆層12として、単体では融点の高い第2の酸化物を酸化物粒子として残すことにより、さらに、熱的安定性、耐酸化性を向上させることが可能となる。
【0035】
磁性粒子10は、球状の場合は、平均粒径が50nm以上50μm以下であることが好ましい。磁性粒子10の粒径が大きくなると保磁力が下がり好ましいが、一方で、磁性粒子10の抵抗が小さい場合、粒径が大きくなりすぎると渦電流損失が大きくなり好ましくない。逆に、磁性粒子10の粒径が小さくなりすぎると、渦電流損失が小さくなり好ましいが、保磁力が大きくなり好ましくない。
【0036】
なお、磁性材料の磁気損失は主に渦電流損失、ヒステリシス損失、強磁性共鳴損失の3つで構成され、いずれも低い方が好ましい。この中でヒステリシス損失は、磁性材料の保磁力に起因した損失であり、保磁力が大きくなると、磁性材料に印加する磁界を大きくした時にヒステリシス損失が大きくなり好ましくない。上記の平均粒径の議論は、渦電流損失とヒステリシス損失の合計を最小にするために最適な粒径についての議論であるが、最適粒径範囲は、使用する周波数帯域によって変わってくる。100kHz以上のMHz帯域で渦電流損失、ヒステリシス損失の合計を最小にするために最適な平均粒径が、50nm以上50μm以下である。
【0037】
また、磁性粒子10は、球状でもよいが、大きいアスペクト比を持つ扁平状、棒状であるとより好ましい。棒状には回転楕円体も含む。
【0038】
ここで、「アスペクト比」とは、粒子の長さが最も長くなる方向の粒子の寸法(長寸法)と、上記方向に対して垂直な方向で粒子の長さが最も短くなる方向の粒子の寸法(短寸法)の比、すなわち、「長寸法/短寸法」を指す。したがって、常に、アスペクト比は1以上となる。完全な球状の場合は、長寸法も短寸法も球の直径と等しくなるためアスペクト比は1になる。扁平状粒子のアスペクト比は直径(長寸法)/高さ(短寸法)である。棒状のアスペクト比は棒の長さ(長寸法)/棒の底面の直径(短寸法)である。但し、回転楕円体のアスペクト比は長軸(長寸法)/短軸(短寸法)となる。アスペクト比を大きくすると、形状による磁気異方性を付与することができ、磁化容易軸の方向を一方向に揃えることによって、透磁率と透磁率の高周波特性を向上させることが可能となる。なお、多数の粒子についてアスペクト比を平均化した値を「平均アスペクト比」とする。また、多数の粒子について長寸法、短寸法を平均化した値を「平均長寸法」、「平均短寸法」とする。
【0039】
なお、アスペクト比が大きいと、形状による磁気異方性が付与されるため、磁性粒子10を一体化して所望の磁性材料を作製する際に磁場によって容易に配向させることが可能になる。また、アスペクト比を大きくすることによって、磁性粒子10を一体化して所望の磁性材料を作製する際、球状磁性粒子を一体化する場合よりも、磁性粒子10の充填率を大きくすることができるため、磁性材料の体積当たり、重量当たりの飽和磁化を大きくすることができ、結果として透磁率も大きくすることが可能となる。
【0040】
なお、扁平状、棒状の粒子の場合は、平均高さ(棒状の場合は平均直径)が10nm以上1μm以下であることが好ましく、更に好ましくは、平均高さ(棒状の場合は平均直径)が10nm以上100nm以下であることが好ましい。平均アスペクト比は大きければ大きい程好ましく、5以上が好ましい。更に好ましくは10以上である。これらは、100kHz以上のMHz帯域で渦電流損失、ヒステリシス損失の合計を最小にするために適切なサイズである。
【0041】
磁性材料における磁性粒子10の体積率は、磁性材料全体に対して10%以上70%以下の体積率を占めることが望ましい。体積率が70%を超えると、磁性材料の電気的抵抗が小さくなり渦電流損失が増加し高周波磁気特性が劣化するおそれがある。体積率を10%未満にすると、磁性金属の体積分率が低下することで磁性材料の飽和磁化が低下し、またそれにより透磁率が低下するおそれがある
【0042】
磁性粒子10に含有する磁性金属は、Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つを含み、特にFe基合金、Co基合金、FeCo基合金、FeNi基合金が高い飽和磁化を実現できるために好ましい。Fe基合金は、第2成分としてNi、Mn、Cuなどを含有する、例えばFeNi合金、FeMn合金、FeCu合金を挙げることができる。Co基合金は、第2成分としてNi、Mn、Cuなどを含有する、例えばCoNi合金、CoMn合金、CoCu合金を挙げることができる。FeCo基合金は、第2成分としてNi、Mn、Cuなどを含有する合金を挙げることができる。
【0043】
これらの第2成分は、磁性粒子10の高周波磁気特性を向上させるために効果的な成分である。FeNi基合金は、磁気異方性が小さいため、高い透磁率を得るには有利な材料である。特にFeが40原子%以上60原子%以下となるFeNi合金は飽和磁化が高くかつ異方性が小さいため好ましい。
【0044】
磁性金属の中では、特にFeCo基合金を用いることが好ましい。FeCo中のCo量は、熱的安定性および耐酸化性と2テスラ以上の飽和磁化を満足させる点から10原子%以上50原子%以下にすることが好ましい。更に好ましいFeCo中のCo量は、より飽和磁化を高める観点から20原子%以上40原子%以下の範囲である。
【0045】
磁性粒子10は、本実施の形態のように非磁性金属を含有することが好ましい。この時、磁性粒子10に含まれる磁性金属と非磁性金属は互いに固溶していることが好ましい。固溶することによって、機械的強度や熱的安定性、耐酸化性を高めることができる。
【0046】
非磁性金属はMg,Al,Si,Ca,Zr,Ti,Hf,Zn,Mn,希土類元素、BaおよびSrから選ばれる少なくとも1つの金属である。これら非磁性金属は、磁性粒子10の抵抗を向上させ、かつ熱的な安定性および耐酸化性を向上させるこができる。中でも、Al、Siは金属ナノ粒子の主成分であるFe、Co、Niと固溶し易く、磁性粒子の熱的安定性の向上に寄与するために好ましい。
【0047】
非磁性金属の量としては、磁性金属に対して0.001原子%以上20原子%以下の量で含有することが好ましい。非磁性金属の含有量がそれぞれ20原子%を超えると、磁性粒子の飽和磁化を低下させるおそれがある。高い飽和磁化と固溶性の観点からより好ましい量としては、0.001原子%以上5原子%以下、更に好ましくは0.01原子%以上5原子%以下の範囲である。
【0048】
特に、磁性金属としてFeCo基合金、非磁性金属としてAlおよびSiから選ばれる少なくとも1つの元素を含有する磁性粒子10において、AlおよびSiから選ばれる少なくとも1つの元素(共存する場合はそれぞれをあわせたもの)がFeCoに対して0.001原子%以上5原子%以下、より好ましくは0.01原子%以上5原子%以下の範囲で配合されることが望ましい。これによって、特に飽和磁化と熱的安定性および耐酸化性を良好に保つことが可能となる。
【0049】
磁性粒子10の結晶構造としては、体心立方格子構造(bcc)、面心立方格子構造(fcc)、六方最密充填構造(hcp)が考えられ、それぞれ特徴がある。bcc構造はFe基合金の多くの組成でbcc構造を有するため、幅広く合成しやすい利点がある。fcc構造は、bcc構造より磁性金属の拡散係数を小さくすることができるため、熱的安定性や耐酸化性を比較的大きくすることができる利点がある。hcp構造(六方晶構造)は、磁性材料の磁気特性を面内一軸異方性にすることができる利点がある。hcp構造を有する磁性金属は、一般に大きな磁気異方性を有するため、配向させることが容易になり、透磁率を大きくすることができる。特に、Co基合金はhcp構造を有しやすく好ましい。Co基合金の場合、CrやAlを含有することによってhcp構造を安定化させることができるため好ましい。
【0050】
なお、面内一軸異方性を備える磁性材料においては、磁化容易面内の異方性磁界が1Oe以上で500Oe以下が好ましく、さらに好ましくは10Oe以上500Oe以下である。これは、100kHz以上のMHz帯域で低損失と高い透磁率を維持するために望ましい範囲である。異方性が低すぎると強磁性共鳴周波数が低周波で起こり、MHz帯域で損失が大きくなり好ましくない。
【0051】
一方で異方性が大きいと強磁性共鳴周波数が高く低損失を実現できるが、透磁率も小さくなってしまう。高透磁率と低損失を両立できる異方性磁界の範囲が、1Oe以上で500Oe以下、さらに好ましくは10Oe以上500Oe以下である。
【0052】
なお、磁性材料に面内一軸異方性を誘起させるためには、上記hcp構造の磁性粒子を配向させる方法だけでなく、磁性粒子10の結晶性をできるだけ非晶質化させ、磁場や歪みによって面内一方向に磁気異方性を誘起させる方法もある。このためには、磁性粒子をできる限り非晶質化させやすい組成にすることが望まれる。
【0053】
このような観点においては、磁性粒子10に含まれる磁性金属が、非磁性金属と異なるB、Si、C、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、Cr、Cu、Wから選ばれる少なくとも1つの添加金属を、磁性金属と非磁性金属と添加金属の合計量に対して0.001原子%以上25原子%以下含まれ、磁性金属、非磁性金属、または添加金属のうちの少なくとも2つは互いに固溶していることが好ましい。
【0054】
本実施の形態における第1の酸化物と第2の酸化物の組み合わせ(第1の酸化物−第2の酸化物または第2の酸化物−第1の酸化物)は、例えば、B−SiO、B−Cr、B−MoO、B−Nb、B−Li、B−BaO、B−ZnO、B−La、B−P、B−Al、B−GeO、B−WO、B−CsO、B−KO、NaO−SiO、NaO−B、NaO−P、NaO−Nb、NaO−WO、NaO−MoO、NaO−GeO、NaO−TiO、NaO−As、NaO−TiO、LiO−MoO、LiO−SiO、LiO−GeO、LiO−WO、LiO−V、LiO−GeO、KO−SiO、KO−P、KO−TiO2、K2O−As2O5、K2O−WO3、K2O−MoO3、K2O−V2O、KO−Nb、KO−GeO、KO−Ta、CsO−MoO、CsO−V、CsO−Nb、CsO−SiO、CaO−P、CaO−B、CaO−V、ZnO−V、BaO−V、BaO−WO、Cr−V、ZnO−B、PbO−SiO、MoO−WO等が考えられる。
【0055】
中でも、B−SiO、B−Cr、B−MoO、B−Nb、B−Li、B−BaO、B−ZnO、B−La、B−P、B−Al、B−GeO、B−WO、NaO−SiO、NaO−B、NaO−P、NaO−Nb、NaO−WO、NaO−MoO、NaO−GeO、NaO−TiO、NaO−As、NaO−TiO、LiO−MoO、LiO−SiO、LiO−GeO、LiO−WO、LiO−V、LiO−GeO、CaO−P、CaO−B、CaO−V、ZnO−V、BaO−V、BaO−WO、Cr−V、ZnO−B、MoO−WOが好ましい。このような組み合わせの酸化物は、比較的低い共晶点を有し比較的容易に共晶を生成するため好ましい。
【0056】
特に1000℃以下の共晶点を有する組み合わせが好ましい。また酸化物の組み合わせとしては、2つ以上の組み合わせでも良く、例えば、NaO−CaO−SiO、KO−CaO−SiO、NaO−B−SiO、KO−PbO−SiO、BaO−SiO−B、PbO−B−SiO、Y−Al−SiOなどでも良い。
【0057】
また、例えば、La−Si−O−N、Ca−Al−Si−O−N、Y−Al−Si−O−N、Na−Si−O−N、Na−La−Si−O−N、Mg−Al−Si−O−N、Si−O−N、Li−K−Al−Si−O−N等でも良い。
【0058】
以上の様な組み合わせの酸化物からなる共晶組織は、微細な組織となり強度的に強い材料となるため好ましい。
【0059】
図2は、本実施の形態の第1の変形例の模式図である。磁性粒子10は、平均粒径が1nm以上100nm以下、好ましくは1nm以上20nm以下、更に好ましくは1nm以上10nm以下で、Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属を含有する金属ナノ粒子10aを有し、平均短寸法が10nm以上2μm以下、好ましくは10nm以上100nm以下で、平均アスペクト比が5以上、好ましくは10以上の形状の粒子集合体である。さらに、磁性粒子10は、金属ナノ粒子10a間に存在し、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属と酸素(O)、窒素(N)または炭素(C)のいずれかを含む介在相10bを含有する。介在相10bはフッ素(F)を含んでもかまわない。介在相10bは、例えば、金属、半導体、酸化物、窒化物、炭化物またはフッ化物である。また、介在相10bは磁性粒子10よりも高抵抗である。
【0060】
本変形例は、磁性材料がナノグラニュラー構造の粒子集合体である。金属ナノ粒子10a間を介在相10bが充填する構造をなっている。
【0061】
このような粒子集合体においては、金属ナノ粒子10a同士は磁気的に結合しやすく、1つの集合体として磁気的に振舞う。一方で金属ナノ粒子10aの粒子間には電気抵抗の高い介在相10b、例えば酸化物が存在しているので、電気的には磁性粒子10の抵抗を大きくすることができる。そのため、高透磁率を維持したまま、渦電流損失を抑制することができる。
【0062】
金属ナノ粒子10aは、平均粒径1nm以上100nm以下が好ましい。より好ましくは平均粒径1nm以上20nm以下、更に好ましくは1nm以上10nm以下である。平均粒径を1nm未満にすると、超常磁性が生じて磁束量が低下するおそれがある。一方、平均粒径が20nmを超えてくると、磁気的な結合性が弱まってくるので好ましくない。十分な磁束量を保ちつつ粒子同士の磁気的結合を大きくするために好ましい粒径範囲が1nm以上100nm以下、より好ましくは1nm以上20nm以下、さらに好ましくは1nm以上10nm以下である。
【0063】
金属ナノ粒子10aは、多結晶、単結晶のいずれの形態でもよいが、単結晶であることが好ましい。単結晶の金属ナノ粒子の場合、磁化容易軸を揃えることが容易になって磁気異方性を制御することができる。このため、多結晶の磁性金属ナノ粒子の場合に比べて高周波特性を向上させることができる。
【0064】
また、金属ナノ粒子10aは、球状でもよいが、大きいアスペクト比を持つ扁平状、棒状であっても良い。特にアスペクト比の平均が2以上、更に好ましくは5以上であることが望ましい。
【0065】
アスペクト比が大きな金属ナノ粒子10aの場合は、個々の金属ナノ粒子10aの長辺方向(板状の場合は幅方向、扁平楕円体の場合は直径方向、棒状の場合は棒の長さ方向、回転楕円体の場合は長軸方向)を磁性粒子(粒子集合体)10の長辺方向(板状の場合は幅方向、扁平楕円体の場合は直径方向、棒状の場合は棒の長さ方向、回転楕円体の場合は長軸方向)と一致させることがより好ましい。これによって、磁化容易軸の方向を一方向に揃えることが可能となり、透磁率と透磁率の高周波特性を向上させることが可能となる。
【0066】
図16は、本実施の形態の第1の変形例の別の磁性材料の模式図である。図16に示すように、金属ナノ粒子10aは、点もしくは面で接したナノ粒子集合組織30を形成し、このナノ粒子集合組織30が粒子集合体10の中で配向していることが好ましい。更に好ましくは、粒子集合体が扁平形状を有し、金属ナノ粒子が複数接し棒状のナノ粒子集合組織を形成し、ナノ粒子集合組織が、粒子集合体の扁平面内において、配向していることが更に好ましい。図16では、ナノ粒子集合組織30が棒状の場合を示す。
【0067】
なお、ナノ粒子集合組織のアスペクト比は、大きければ大きいほど好ましく、アスペクト比の平均が2以上が好ましく、更に好ましくは5以上である。
【0068】
ここで、ナノ粒子集合組織のアスペクト比を算出するにあたり、ナノ粒子集合組織の形状を次の様に定義する。すなわち、複数の金属ナノ粒子が点もしくは面で接して1つのナノ粒子集合組織を形成する場合、1つのナノ粒子集合組織に含まれる全ての金属ナノ粒子を包み込む様にナノ粒子集合組織の外郭線を作成するが、1つの金属ナノ粒子の外郭線から隣の金属ナノ粒子の外郭線を引く場合は、両金属ナノ粒子の接線として外郭線を引く。例えば、同じ粒径の球状の金属ナノ粒子が複数個、直線状に点で接してナノ粒子集合組織を形成する場合は、直線状の棒状の形状を有するナノ粒子集合組織ということになる。
【0069】
以上の様にナノ粒子集合組織の形状を定義する場合、そのアスペクト比は、ナノ粒子集合組織の長さが最も長くなる方向の組織の寸法(長寸法)と、上記方向に対して垂直な方向でナノ粒子集合組織の長さが最も短くなる方向の粒子の寸法(短寸法)の比、すなわち、「長寸法/短寸法」を指す。したがって、常に、アスペクト比は1以上となる。
【0070】
完全な球状の場合は、長寸法も短寸法も球の直径と等しくなるためアスペクト比は1になる。扁平状のアスペクト比は直径(長寸法)/高さ(短寸法)である。棒状のアスペクト比は棒の長さ(長寸法)/棒の底面の直径(短寸法)である。但し、回転楕円体のアスペクト比は長軸(長寸法)/短軸(短寸法)となる。
【0071】
ナノ粒子集合組織が粒子集合体の中で配向しているかどうかは、TEMによる観察像に関して画像解析を行い判断できる。例えば、次の様な方法が挙げられる。まず、ナノ粒子集合組織の長寸法と短寸法を前述の方法で決め、更に、ある1つの基準線の方向を決めて、個々のナノ粒子集合組織が、基準線に対して何度の角度に配向しているのか(配向角度)を求める。これを多数のナノ粒子集合組織に対して行い、配向角度毎のナノ粒子集合組織の存在割合を求め、ランダム分散か配向しているかどうかを判断する。この様な解析は、フーリエ変換を用いた画像解析によって行うことも出来る。また、多数のナノ粒子集合組織がランダム分散しているか、それとも、配向しているのか、の簡易的な判断手法としては、次の様な手法が挙げられる。まず、粒子集合体を例えば樹脂などのマトリックス中で、強磁場下で配向処理(磁場中配向)して固化させ、固化させた材料の静磁気特性(静磁界中でのM−H特性)を、磁場中配向時に印加した磁場方向と平行な方向、およびそれと垂直な方向、の2種類の方向で測定し、この2種類の静磁気特性において有意な差が見られる場合は、配向していると判断する。一方で、2種類の静磁気特性において有意な差が見られない場合は、ランダム分散であると判断する。より好ましくは、固化させた材料の異方性磁界を測定し、その異方性磁界が1Oe以上で500Oe以下、好ましくは10Oe以上500Oe以下である時に、配向していると判断する。

【0072】
以上の様な構成を取ることによって、磁化容易軸の方向を一方向に揃えることが可能となり、透磁率と透磁率の高周波特性を向上させることが可能となり好ましい。
【0073】
また、以上の様なナノ粒子集合組織を製造する方法としては、特に拘らないが、例えば次の様な方法がある。Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属とMg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属とを含む磁性金属粉末と、上記磁性金属、上記非磁性金属と異なるB、Si、C、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、Cr、Cu、Wから選ばれる少なくとも1つの添加金属で、上記磁性金属と上記非磁性金属と上記添加金属の合計量に対して0.001原子%以上25原子%以下含まれる添加金属粉末とを、溶媒とボールとともに湿式ミルで加工する工程と、湿式ミルで加工した上記磁性金属と上記非磁性金属とを磁場を印加しながら熱処理する工程と、を含む製造方法である。
【0074】
上記添加金属粉末を磁性金属粉末とともに混合し加工することによって、得られる金属ナノ粒子の非晶質性(アモルファス性)が高まり、その後の磁場を印加しながらの熱処理工程によって一つの方向に配向しやすくなり好ましい。
【0075】
金属ナノ粒子10aに含有する磁性金属は、前述の磁性粒子10に含有する磁性金属と同じである。重複するためここではその説明を省略する。金属ナノ粒子10aは、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含むことが好ましい。これら非磁性金属は、金属ナノ粒子10aの抵抗を向上させ、かつ、熱的な安定性および耐酸化性を向上させることができ好ましい。中でも、Al、Siは金属ナノ粒子10aの主成分であるFe、Co、Niと固溶し易く、金属ナノ粒子10aの熱的安定性の向上に寄与するために好ましい。
【0076】
非磁性金属の量としては、磁性金属に対して0.001原子%以上20原子%以下の量で含有することが好ましい。非磁性金属の含有量がそれぞれ20原子%を超えると、磁性金属ナノ粒子の飽和磁化を低下させるおそれがある。高い飽和磁化と固溶性の観点からより好ましい量としては、0.001原子%以上5原子%以下、更に好ましくは0.01原子%以上5原子%以下の範囲であることが望ましい。
【0077】
金属ナノ粒子10aの少なくとも一部の表面は被覆層で覆われていても良い。被覆層は、金属ナノ粒子10aの構成成分である磁性金属の少なくとも1つを含む酸化物、複合酸化物、窒化物、炭化物またはフッ化物であることが好ましい。被覆層が、金属ナノ粒子10aの構成成分である磁性金属の少なくとも1つを含むことによって、金属ナノ粒子10aと被覆層との密着性が向上し、熱的安定性および耐酸化性が向上する。
【0078】
また被覆層は、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含む酸化物、複合酸化物、窒化物、炭化物またはフッ化物であることがより好ましい。金属ナノ粒子10aがMg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素からなる群からから選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含む場合は、被覆層は、金属ナノ粒子10aの構成成分の1つである非磁性金属と同じ非磁性金属を少なくとも1つ含む酸化物、複合酸化物、窒化物、炭化物またはフッ化物で構成されることがより好ましい。これによって、金属ナノ粒子10aと被覆層の密着性を向上でき、ひいては磁性材料の熱的安定性および耐酸化性を向上させることが可能となる。
【0079】
なお、以上の被覆層構成においては、酸化物、複合酸化物、窒化物、炭化物またはフッ化物の中でも、特に、酸化物、複合酸化物であることがより好ましい。これは、被覆層形成の容易性、耐酸化性、熱的安定性の観点から、酸化物、複合酸化物であることが好ましいからである。
【0080】
また、酸化物もしくは複合酸化物被覆層は、金属ナノ粒子10aの構成成分である磁性金属の少なくとも1つを含む酸化物、複合酸化物であり、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素からなる群からから選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含む酸化物、複合酸化物であることがより好ましい。
【0081】
この非磁性金属は、酸化物の標準生成ギブスエネルギーが小さく酸化し易い元素で、安定的な酸化物を形成し易い。このような非磁性金属を少なくとも1つ以上含む酸化物もしくは複合酸化物からなる酸化物被覆層は、金属ナノ粒子10aに対する密着性・接合性を向上でき、金属ナノ粒子10aの熱的な安定性と耐酸化性も向上できる。
【0082】
非磁性金属の中でAl、Siは、磁性金属粒子の主成分であるFe、Co、Niと固溶し易く、金属ナノ粒子10aの熱的安定性の向上に寄与するために好ましい。複数種の非磁性金属を含む複合酸化物は固溶した形態も包含される。金属ナノ粒子10aの少なくとも一部の表面を被覆する被覆層は、内部の金属ナノ粒子10aの耐酸化性を向上させるのみならず、磁性粒子の電気抵抗を向上させることができる。電気抵抗を高くすることによって、高周波における渦電流損失を抑制し、透磁率の高周波特性を向上することが可能になる。このため、被覆層は電気的に高抵抗であることが好ましく、例えば1mΩ・cm以上の抵抗値を有することが好ましい。
【0083】
被覆層は厚いほど磁性粒子10の電気抵抗は大きくなり、金属ナノ粒子10aの熱的安定性と耐酸化性も高くなる。しかしながら、被覆層を厚くしすぎると、金属ナノ粒子10a同士の磁気的結合が切れやすくなり、個々の金属ナノ粒子10aが磁気的に独立に振舞いやすくなってしまい、透磁率および透磁率の高周波特性の観点から好ましくない。また、被覆層が厚くなると磁性粒子10に占める磁性成分の割合が減るため、磁性粒子10の飽和磁化が下がり、透磁率が下がってしまうため好ましくない。ある程度大きな電気抵抗を有しかつ個々の金属ナノ粒子10aが磁気的に結合し、磁性粒子10の飽和磁化を大きくするために、被覆層は、0.1nm以上5nm以下の平均厚さを有することがより好ましい。
【0084】
なお、本変形例においては、金属ナノ粒子10a間に介在相10bが存在する場合を例に説明したが、金属ナノ粒子10aが上記被覆層を備える場合には、被覆層が金属ナノ粒子10a間の電気抵抗、ひいては磁性粒子10の抵抗を大きくすることができる。したがって、介在相10bを省略した構成をとることも可能である。
【0085】
また、金属ナノ粒子10a間に存在するMg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属と酸素(O)、窒素(N)または炭素(C)のいずれかを含む介在相10bは、1mΩ・cm以上の抵抗率を有することが好ましい。
【0086】
これら非磁性金属は、酸化物の標準生成ギブスエネルギーが小さく酸化し易い元素で、安定的な酸化物を形成し易い金属であり好ましい。このような非磁性金属を含んだ金属、半導体、酸化物、窒化物、炭化物またはフッ化物が、金属ナノ粒子10a間に介在相10bとして存在することによって、金属ナノ粒子10a同士の電気的絶縁性をより向上させることができ、また、金属ナノ粒子の熱的な安定性を向上させることができるため好ましい。
【0087】
また、金属、半導体、酸化物、窒化物、炭化物またはフッ化物の介在相10bが、金属ナノ粒子10aが含有する上述の磁性金属の少なくとも1つを含むことが好ましい。金属、半導体、酸化物、窒化物、炭化物またはフッ化物が、金属ナノ粒子10aに含まれる磁性金属と同じ金属を少なくとも1つ含むことによって、熱的安定性および耐酸化性が向上する。また、金属ナノ粒子10a間に強磁性成分が存在することによって、磁性金属ナノ粒子同士の磁気的な結合が強くなり、金属ナノ粒子10aと介在相10bが磁気的に集合体として振舞うことが可能となり、透磁率と透磁率の高周波特性を向上させる観点から好ましい。
【0088】
また、同様に、金属、半導体、酸化物、窒化物、炭化物またはフッ化物の介在相10bが、金属ナノ粒子10aに含まれる非磁性金属と同じ非磁性金属を少なくとも1つ含むことによって、熱的安定性および耐酸化性が向上するため好ましい。
【0089】
金属、半導体、酸化物、窒化物炭化物またはフッ化物の中では、熱的安定性の観点から酸化物であることがより好ましい。
【0090】
なお、介在相が、金属ナノ粒子に含まれる磁性金属と非磁性金属とを少なくとも1つずつ含む場合、介在相中の非磁性金属/磁性金属の原子比が、金属ナノ粒子中に含まれる非磁性金属/磁性金属の原子比よりも大きいことが望ましい。これは、金属ナノ粒子を、耐酸化性、熱的安定性の高い「非磁性金属/磁性金属の多い介在相」でブロックすることができ、金属ナノ粒子の耐酸化性、熱的安定性を効果的に高めることが可能となるためである。また、介在相中に含まれる酸素の含有量が、金属ナノ粒子の酸素の含有量よりも大きいことが望ましい。これは、金属ナノ粒子を、「酸素濃度が多く耐酸化性、熱的安定性の高い介在相」でブロックすることができ、金属ナノ粒子の耐酸化性、熱的安定性を効果的に高めることが可能となるためである。
【0091】
金属、酸化物、窒化物、炭化物またはフッ化物の介在相10bは、金属ナノ粒子10aの粒径より小さい粒子であることが好ましい。この時、粒子は、酸化物粒子でも良いし窒化物粒子でも良いし炭化物粒子でも良いしフッ化物粒子でも良い。しかし、熱的安定性の観点から酸化物粒子であることがより好ましい。以下では全て介在相10bが酸化物粒子である場合を例に説明する。
【0092】
なお、酸化物粒子のより好ましい存在状態は、金属ナノ粒子10a間に均一、かつ、均質に分散した状態である。これによって、より均一な磁気特性及び誘電特性が期待できる。この酸化物粒子は、金属ナノ粒子10aの耐酸化性、凝集抑制力、すなわち金属ナノ粒子10aの熱的安定性を向上させるのみならず、金属ナノ粒子10a同士を電気的に離し、磁性粒子10および磁性材料の電気抵抗を高めることができる。磁性材料の電気抵抗を高くすることによって、高周波における渦電流損失を抑制し、透磁率の高周波特性を向上することが可能になる。このため、酸化物粒子は電気的に高抵抗であることが好ましく、例えば1mΩ・cm以上の抵抗値を有することが好ましい。
【0093】
酸化物粒子は、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素からなる群からから選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含む。これら非磁性金属は、酸化物の標準生成ギブスエネルギーが小さく酸化し易い元素で、安定的な酸化物を形成し易い。
【0094】
そして、金属ナノ粒子10aが被覆層を備える場合、この酸化物粒子中の非磁性金属/磁性金属(原子比)が、金属ナノ粒子10aを覆う被覆層中の非磁性金属/磁性金属(原子比)よりも大きくなっているのが好ましい。このように、非磁性金属の割合が高いことで、酸化物粒子は被覆層よりもさらに熱的に安定になる。
【0095】
このため、このような酸化物粒子が、金属ナノ粒子10a間の少なくとも一部に存在することによって、金属ナノ粒子10a同士の電気的絶縁性をより向上させることができ、また、磁性金属ナノ粒子の熱的な安定性を向上させることができる。
【0096】
なお、酸化物粒子は、磁性金属を含まなくても良いが、より好ましくは、磁性金属を含んでいた方が良い。含まれる磁性金属の好ましい量としては、磁性金属が非磁性金属に対して0.001原子%以上、好ましくは0.01原子%以上である。これは、磁性金属を全く含まないと、金属ナノ粒子10aの表面を被覆する被覆層と酸化物粒子の構成成分が完全に異なり、密着性や強度の点からあまり好ましくなく、更には熱的安定性もかえって悪くなってしまう可能性があるためである。また、金属ナノ粒子間に存在する酸化物粒子に磁性金属を全く含まないと、金属ナノ粒子同時が磁気的に結合しにくくなり、透磁率と透磁率の高周波特性の観点から好ましくない。
【0097】
よって、酸化物粒子は、より好ましくは、金属ナノ粒子10aの構成成分であり、かつ酸化物被覆層の構成成分である磁性金属の少なくとも1つを含有することが望ましく、更に好ましくは、酸化物粒子中の非磁性金属/磁性金属(原子比)が、酸化物被覆層中の非磁性金属/磁性金属(原子比)よりも大きくなっていることが望ましい。
【0098】
なお、酸化物粒子は、金属ナノ粒子10aに含まれる非磁性金属と同種、また、酸化物被覆層に含まれる非磁性金属と同種、の非磁性金属を含む酸化物粒子であることがより好ましい。同種の非磁性金属を含む酸化物粒子であることによって、磁性金属ナノ粒子の熱的安定性および耐酸化性がより向上するからである。
【0099】
なお、以上の、酸化物粒子の熱的安定性向上効果、電気的絶縁性効果、密着性・強度向上効果は、特に金属ナノ粒子の平均粒径10aが小さい時に効果を発揮し、金属ナノ粒子10aの粒径より小さい粒径の場合、特に効果的である。また、金属ナノ粒子10aの体積充填率は、粒子集合体である磁性粒子10全体に対して30vol%以上80vol%以下であることが好ましい。より好ましくは、40vol%以上80vol%以下で、更に好ましくは50vol%以上80vol%以下である。
【0100】
金属ナノ粒子10aの体積充填率があがることにより、磁性粒子10中に含まれる金属ナノ粒子10a間の距離が必然的に近くなる。したがって、金属ナノ粒子10a同士が磁気的に強固に結合し、磁気的には粒子集合体として振る舞い、透磁率を大きくすることができる。また、金属ナノ粒子10a同士は物理的に完全には繋がっていないので、ミクロ的な渦電流損失を低減することができ、透磁率の高周波特性を向上させることができる。
【0101】
この効果を更に効果的に発揮させるためには、磁性粒子10に含まれる金属ナノ粒子10aの平均粒子間距離は、0.1nm以上10nm以下であることが好ましく、更に好ましくは、0.1nm以上5nm以下であることが好ましい。ここで言う粒子間距離とは、1つの金属ナノ粒子10aの中心ともう1つの金属ナノ粒子10aの中心を結んだ線において、2つの金属ナノ粒子10aの間にある隙間の距離のことである。金属ナノ粒子10aの表面が被覆層で覆われている場合は、粒子間距離とは、1つの金属ナノ粒子10aの表面被覆層の外側最表面と、もう1つの金属ナノ粒子10aの表面被覆層の外側最表面と、の間にある隙間の距離のことである。
【0102】
粒子間距離が所望の距離となることによって、金属ナノ粒子10a同士が磁気的に結合し、磁気的には粒子集合体(複合磁性粒子)として振る舞い、透磁率を大きくすることができる。また、金属ナノ粒子10a同士は物理的に完全には繋がっていないので、ミクロ的な渦電流損失を低減することができ、透磁率の高周波特性を向上させることができる。
【0103】
ここでは、このような金属ナノ粒子10aの粒子集合体を1つの磁性粒子10とみなしているが、粒子集合体を形成する過程で、2つ以上の粒子集合体が結合する場合がある。このような場合でも、粒子集合体同士の間に境界線を引いたときに、この境界線で区切られた1つの粒子集合体について、平均粒径が50nm以上50μm以下であれば、球状の集合体の場合、粒子集合体として許容する。また、扁平状、棒状の粒子集合体の場合は、平均高さ(棒状の場合は平均直径)が10nm以上1μm以下、更に好ましくは、平均高さが10nm以上100nm以下で、アスペクト比が5以上、更に好ましくは10以上であれば、粒子集合体として許容する。
【0104】
また、1つの粒子集合体に他の粒子集合体の一部が結合する場合もある。この場合についても、1つの粒子集合体と他の粒子集合体の一部に境界線を設けたときに、上述のような条件を満たすならば、1つの粒子集合体に他の粒子集合体の一部が結合した形状の粒子集合体として許容する。
【0105】
更に、板状、偏平楕円体、棒状、回転楕円体以外のいびつな形状の粒子集合体となる場合もある。長寸法と短寸法の比、すなわちアスペクト比が5以上、更に好ましくは10以上であり、最長の径に垂直な方向についての長さ(高さ)が10nm以上1μm以下、更に好ましくは、短寸法が10nm以上100nm以下であるならば、いびつな形状の粒子集合体として許容する。
【0106】
また、粒子集合体に含まれる金属ナノ粒子10a以外の材料と粒子集合体を囲む材料が同じである場合などは、粒子集合体の外縁が曖昧で認識しにくい。このような場合でも、ある材料の中に金属ナノ粒子10aが凝集偏析して、平均短寸法10nm以上2μm以下で平均アスペクト比が5以上の粒子集合体を形成することをTEMやSEMによる組織観察によって確認できるならば、粒子集合体として許容する。上述したように、粒子集合体に含まれる金属ナノ粒子10a同士の距離は10nm以内であれば本変形例による効果が向上するため、凝集偏在した金属ナノ粒子同士の距離は10nm以内であることが望ましい。
【0107】
さらに、1つの粒子集合体に他の粒子集合体の一部が結合した場合、また、板状、偏平楕円体、棒状、回転楕円体以外のいびつな形状の粒子集合体である場合においても、境界線を設けることによって上述の高さ及びアスペクト比を満たすならば粒子集合体として許容する。境界線の引き方の1つの方法としては、1つの金属ナノ粒子10aと、その周囲に存在する他の金属ナノ粒子10aとの粒子間距離が10nm以上、好ましくは100nm以上離れたところを境界線として引く方法が挙げられる。
【0108】
なお、これはあくまで1つの方法であって、実際はTEM、SEMによる組織観察によって常識的な範囲で、金属ナノ粒子10aが周囲と比べて相対的に多い領域を判断し、1つの粒子集合体として境界線を引くことが好ましい。なお、磁性粒子10は、アスペクト比の大きい形状を有する方が、高い透磁率と良好な高周波磁気特性の観点から好ましい。
【0109】
扁平状、棒状の磁性粒子が好ましく、平均高さ(棒状の場合は平均直径)が20nm以上2μm以下であることが好ましく、10nm以上1μm以下であることがより好ましく、10nm以上100nm以下であることが、更に好ましい。平均アスペクト比は大きければ大きい程好ましく、5以上が好ましい。更に好ましくは10以上である。これらは、100kHz以上のMHz帯域で渦電流損失、ヒステリシス損失の合計を最小にするために適切なサイズである。
【0110】
また、磁性粒子の電気抵抗率は高ければ高い程良いが、たとえ磁性粒子10に含まれる金属、半導体、酸化物、窒化物、炭化物またはフッ化物の介在相10bが、どんなに高い抵抗率を有していても、一般に金属ナノ粒子10aの体積割合が高くなればなるほど磁性粒子10の電気抵抗率は下がってしまう。これは、実際には金属ナノ粒子10aは孤立せず部分的にネットワーク組んだり凝集したりするためである。このような効果は、金属ナノ粒子10aの粒径が小さいほど、またその体積割合が大きいほど、顕著になってくる。
【0111】
一方で、金属ナノ粒子10aの体積率を下げてしまうと、磁性粒子10中に含まれる磁性成分が減ってしまうため、飽和磁化の低下を招いてしまい好ましくない。このように、磁性粒子10の電気抵抗率と飽和磁化はある程度トレードオフの関係を有している。
【0112】
理想的には、磁性粒子中に占める金属ナノ粒子の体積率が30vol%以上80vol%以下、より好ましくは、40vol%以上80vol%以下、更に好ましくは50vol%以上80vol%以下の時、磁性粒子10の電気抵抗率をできるだけ大きくできると好ましい。100μΩ・cm以上100mΩ・cm以下であることが望ましい。
【0113】
すなわち、高い飽和磁化と高い電気抵抗率のバランスが取れる範囲として100μΩ・cm以上100mΩ・cm以下の電気抵抗率であることが好ましい。なお、このような磁性粒子10は、磁場や歪みによって面内一軸異方性を誘起することが可能であり、好ましい。前述の通り、面内一軸異方性する磁性材料においては、磁化容易面内の異方性磁界が1Oe以上で500Oe以下が好ましく、さらに好ましくは10Oe以上500Oe以下である。これは、100kHz以上のMHz帯域で低損失と高い透磁率を維持するために適切な範囲である。
【0114】
磁性粒子10等の組成分析は、TEM−EDXを用いて容易に分析できる。TEM−EDXによれば粒子にEDXを照射し、半定量することにより、粒子の大体の組成を確認できる。この時、ビーム径を絞ることによって、ナノ粒子においても大体の組成を確認できる。また、ICP発光分析、XPS、SIMSなどの方法も活用できる。ICP発光分析によれば、溶かすための酸・アルカリの種類を選定することにより、金属と酸化物の組成を定量的に求めることができる。すなわち弱酸などにより溶解した金属と、アルカリや強酸などにより溶解した酸化物とを分離し定量化することが可能となる。また、XPSによれば粒子を構成する各元素の結合状態を調べることもできる。
【0115】
磁性粒子10の平均粒径は、TEM観察、SEM観察により、粒子が球状の場合、個々の粒子の最も長い対角線と最も短い対角線を平均したものをその粒子径とし、多数、例えば50個、の粒子径の平均から求めることが可能である。なお、磁性粒子の平均粒径が50nm以下と小さく、TEMで判別しにくい場合は、XRD測定から求められる結晶粒径で代用することもできる。すなわち、XRDで磁性粒子に起因するピークのうち最強ピークに関して、回折角度と半値幅からScherrerの式によって求めることができる。Sherrerの式は、D=0.9λ/(βcosθ)で表され、ここでDは結晶粒径、λは測定X線波長、βは半値幅、θは回折ブラッグ角である。アスペクト比の大きい扁平状、棒状などの粒子に関してもそれぞれの長寸法(扁平状の場合は直径、棒状の場合は棒の長さ)や短寸法(扁平状の場合は高さ、棒状の場合は棒の底面の直径)を同様の手法で求めることが可能である。アスペクト比はTEM、SEMによって画像を解析し、多数の磁性粒子を分析しその平均値でもとめる。また磁性粒子の体積率や体積充填率は、TEM観察、SEM観察によって平均粒径と平均アスペクト比、数割合を求め、簡易的に算出することができる。
【0116】
磁性粒子10に含まれる磁性金属と非磁性金属が固溶しているかどうかは、XRDで測定した格子定数から判断できる。例えば、磁性粒子10に含まれる、磁性金属としてのFe、非磁性金属としてのAlが固溶するとFeの格子定数は固溶量に応じて変化する。何も固溶していないbcc−Feの場合、格子定数は理想的には2.86程度であるが、Alが固溶すると格子定数は大きくなり、5at%程度のAlの固溶で格子定数は0.005〜0.01程度大きくなる。10at%程度のAl固溶では、0.01〜0.02程度大きくなる。このように、磁性粒子10のXRD測定を行うことによって、磁性金属の格子定数を求め、その大きさによって固溶しているかどうか、またどの程度固溶しているのかを容易に判断できる。また、固溶しているかどうかはTEMによる粒子の回折パターンや高分解能TEM写真からも確認できる。ちなみに、磁性金属の結晶構造は、磁性粒子10の粒径が小さくなればなる程、特にナノサイズになると、若干変化する。また、磁性粒子10と被覆層とから成るコアシェル型構造を取ることによっても若干変化する。これは、コアの磁性金属のサイズが小さくなったりコアシェル構造を取ったりすることによって、コアとシェルの界面で歪みが発生するためである。格子定数は、このような効果も考慮して総合的に判断する必要がある。
【0117】
図3は、本実施の形態の第2の変形例の模式図である。図1における磁性粒子10と第1の被覆層12との間に、磁性粒子10の少なくとも一部を被覆し、磁性粒子10に含有される磁性金属および非磁性金属の少なくとも一つずつを含む第3の酸化物の第2の被覆層18を備える以外は、図1で説明した磁性材料と同様である。
【0118】
図3に示すように、磁性粒子10は、構成成分である非磁性金属と磁性金属とを少なくとも1つずつ含む第3の酸化物によって磁性粒子10の表面の少なくとも一部を被覆してあることが好ましい。磁性粒子10の表面の一部を、第3の酸化物で被覆することによって、磁性粒子10の凝集を効果的に抑制することができるからである。
【0119】
この際、第3の酸化物が磁性粒子10の構成成分である非磁性金属と磁性金属を少なくとも1つずつ含むことによって、磁性粒子10と第2の被覆層18との密着性を強固なものとすることができ、磁性粒子10の凝集を抑制しつつ、高い強度、高い熱的安定性、高い耐酸化特性を実現することが可能となる。
【0120】
なお、この時、上記第1の酸化物と第3の酸化物、上記第2の酸化物と第3の酸化物、とが各々1000℃以下の共晶点を有さない組み合わせであるのが好ましい。これによって、高温環境下においても磁性粒子の凝集を抑制し、熱的な安定性を高めることが可能となる。また、第3の酸化物に含まれる非磁性金属/磁性金属の割合は、磁性粒子10に含まれる非磁性金属/磁性金属の割合よりも大きい方が好ましい。これによって、磁性粒子10の耐酸化性、熱的安定性を、第3の酸化物で効果的に高めることが可能となる。
【0121】
また、本実施の形態の磁性材料は、介在粒子を含むことが好ましい。この介在粒子は、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、希土類元素、BaおよびSrから選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含む酸化物もしくは窒化物もしくは炭化物もしくはフッ化物の粒子であり、1mΩ・cm以上の抵抗率を有することが好ましい。
【0122】
また、この介在粒子は第2の被覆層18が存在する場合には、第3の酸化物と同じ組成のものであっても良い。介在粒子は、1nm以上100nm以下の平均粒径を有し、磁性粒子10の平均粒径よりも小さいことが好ましい。このような介在粒子は、磁性粒子間に存在することによって、磁性粒子同士の電気的絶縁性を更に向上させることができ、また、磁性粒子の熱的な安定性を向上させることができるため好ましい。
【0123】
第3の酸化物、共晶組織、介在粒子の3つは、3つの合計体積が、磁性材料全体の体積に対して、10vol%以上90vol%以下含まれることが望ましい。このような範囲にあると、磁性材料の電気的な絶縁性を向上させ、渦電流損失を効果的に抑制し、高周波磁気特性を向上させることができる。また、磁性粒子の熱的安定性および耐酸化性も効果的に向上させることができ望ましい。
【0124】
また、本実施の形態の磁性材料は、空隙を含んでも良いが、空隙は磁性粒子10の体積分率を下げ、また、磁性材料の強度や熱的安定性、耐酸化性を劣化させるためあまり好ましくない。よって、空隙はできるだけ少ない方が好ましい。
【0125】
本実施の形態においては、第3の酸化物、共晶組織、介在粒子ともに電気的に高抵抗であることが好ましく、例えば1mΩ・cm以上の抵抗値を有することが好ましい。これによって、磁性材料の電気抵抗を上げることができ、渦電流損失を効果的に抑制することが可能となる。
【0126】
また、第3の酸化物の第2の被覆層18は、厚いほど磁性材料の電気抵抗は大きくなり、磁性粒子の熱的安定性と耐酸化性も高くなる。しかしながら、第2の被覆層18を厚くしすぎると、磁性粒子の体積分率が低下し飽和磁化が低下し好ましくない。また透磁率の低下も招き好ましくない。このため、第2の被覆層18は、0.1nm以上5nm以下の平均厚さを有することがより好ましい。
【0127】
第3の酸化物、第1の酸化物と第2の酸化物から成る共晶組織、介在粒子の組成分析は、前述の磁性粒子の分析と同様に、TEM−EDX、XPS、SIMSなどの方法で容易に分析が可能である。特に、TEM−EDXによれば各構成物にビームを絞ってEDXを照射し、半定量することにより、各構成物の組成を用意に確認できる。また、第1の酸化物、第2の酸化物、共晶組織、介在粒子のサイズや体積割合は、TEM−EDX分析、SEM−EDX分析によって判別することができ、その体積割合は、TEM観察、SEM観察によって、画像解析を行い簡易的に算出することができる。
【0128】
本実施の形態の磁性材料の形態は、例えば、バルク(ペレット状、リング状、矩形状など)、シートを含む膜状、粉末等の形態が挙げられる。
【0129】
以上のような構成を備えることにより、本実施の形態の磁性材料は、100kHz以上のMHz帯域で高い透磁率実部(μ’)と低い透磁率虚部(μ”)を有し、かつ、高い強度、高い飽和磁化、高い熱的安定性、高い耐酸化性を実現することが可能となる。
【0130】
(第2の実施の形態)
本実施の形態の磁性材料は、Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属、Mg,Al,Si,Ca,Zr,Ti,Hf,Zn,Mn,希土類元素、BaおよびSrから選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含有する磁性粒子と、磁性粒子の少なくとも一部を被覆する第1の酸化物の第1の被覆層と、磁性粒子間に存在し、第1の酸化物と共晶反応系を構成する第2の酸化物の酸化物粒子と、を備える。
【0131】
第1の酸化物と第2の酸化物の共晶組織を含む酸化物相が存在しない以外は、第1の実施の形態と同様である。したがって、第1の実施の形態と重複する内容については記載を省略する。
【0132】
図4は、本実施の形態の磁性材料の模式図である。本実施の形態の磁性材料は、磁性粒子10、この磁性粒子10を被覆する第1の酸化物の第1の被覆層12、磁性粒子10間に存在する第2の酸化物の酸化物粒子14で構成される。
【0133】
第1の酸化物と第2の酸化物は共晶反応系を構成する。すなわち、第1の酸化物と第2の酸化物とは共晶を生成する。第1の酸化物は、例えば、Si(シリコン)の酸化物であり、第2の酸化物は、例えば、B(ボロン)の酸化物である。
【0134】
本実施の形態の磁性材料は、第1の実施の形態の磁性材料を製造するための、いわゆる、前駆体である。本実施の形態の磁性材料を用いることにより、第1の実施の形態の磁性材料を容易に製造することが可能となる。
【0135】
また、本実施の形態の磁性材料は、上記構成を備えることにより、100kHz以上のMHz帯域で高透磁率、低損失、高飽和磁化、を実現する。
【0136】
なお、磁性粒子10と、酸化物粒子14との間は、例えば、空洞であっても、樹脂等で充填されていてもかまわない。
【0137】
(第3の実施の形態)
本実施の形態の磁性材料の製造方法は、Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、希土類元素、BaおよびSrから選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含有する磁性粒子を合成する工程と、磁性粒子の少なくとも一部を被覆する第1の酸化物の第1の被覆層を形成する工程と、第1の酸化物と共晶反応系を構成する第2の酸化物の酸化物粒子と、磁性粒子を混合する工程と、を備える。
【0138】
本実施の形態の磁性材料の製造方法は、第2の実施の形態の磁性材料の製造方法である。したがって、第2の実施の形態と重複する内容については、記載を省略する。
【0139】
まず、Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属と、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、希土類元素、BaおよびSrから選ばれる少なくとも1つの非磁性金属とを含有する磁性粒子を合成する工程を備える。この際、磁性粒子を合成する工程は、特に限定されず、例えば、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、熱プラズマ法、CVD法、レーザーアブレーション法、液中分散法などによって合成される。
【0140】
なお、第1の実施の形態の第1の変形例で示したように、磁性粒子として、平均粒径が1nm以上100nm以下、好ましくは1nm以上20nm以下、更に好ましくは1nm以上10nm以下で、Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属を含む金属ナノ粒子と、上記金属ナノ粒子間に存在し、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属と上記磁性金属の少なくとも1つとを含む、金属、半導体、酸化物、窒化物、炭化物またはフッ化物の介在相を含有する粒子集合体を合成する場合は、次の様な手法を選択するのが好ましい。
【0141】
すなわち、まず、高周波誘導熱プラズマ装置のチャンバー内に発生させたプラズマ内に、原料である平均粒径数μmの磁性金属粉末と非磁性金属粉末とをキャリアガスと共に噴射する。これによって、ナノサイズの磁性金属ナノ粒子が合成できる。
【0142】
この時、合成条件を制御することによっては、非磁性金属酸化物で表面を被覆された金属ナノ粒子が合成でき好ましい。つまりナノレベルで金属と酸化物の2相分離構造が実現できるため好ましい。
【0143】
その後、急冷して得られる磁性粒子をハイパワーミル装置によって複合一体化処理を行う。これによって、比較的容易に上述の粒子集合体が得られる。
【0144】
ハイパワーミル装置は、強い重力加速度の印加できる装置であれば種類を選ばないが、例えば数十Gの重力加速度が印加できるハイパワー遊星ミル装置等が好ましい。できれば50G以上、更に好ましくは100G以上の重力加速度を印加するのが好ましい。
【0145】
また、ハイパワーミル装置を使う際は、金属ナノ粒子の酸化を極力抑制させるために、不活性ガス雰囲気中で行うのが好ましい。また、粉末を乾式で複合一体化処理を行うと、複合一体化処理が進行しやすいが、組織が粗大化しやすく回収が困難になってくる。組織の粗大化を抑制するためには液体溶媒を用いた湿式での複合一体化処理が好ましい。更に好ましくは、乾式と湿式と両方行うことによって、複合一体化を促進させつつ、組織の粗大化を抑制させる処理を行うことである。
【0146】
このような手法を用いることによって、磁性粒子として粒子集合体を容易に合成できるが、合成条件によっては、粒子集合体の形状をアスペクト比の大きい扁平状にすることも用意に実現可能であり、好ましい。アスペクト比の大きい複合粒子にすることによって、形状による磁気異方性を付与することができ、磁化容易軸の方向を一方向に揃えることによって、透磁率と透磁率の高周波特性を向上させることが可能となり好ましい。なお、粒子が若干酸化してしまっても、還元雰囲気下で熱処理を施すことによって、還元することが可能である。
【0147】
また、第1の実施の形態の第2の変形例で示したように、磁性粒子を合成する際、第3の酸化物で表面の少なくとも一部が覆われた磁性粒子を合成することが好ましい。この場合、第3の酸化物の被覆層(第2の被覆層)を形成する方法は、特に限定されないが、液相コーティングによるものや、部分酸化法によるものが挙げられる。
【0148】
部分酸化法は、磁性金属と非磁性金属を含有する磁性粒子を合成した後、適当な酸化条件で部分酸化を行うことによって、非磁性金属を含む酸化物を磁性粒子の表面に析出させ被覆層とする方法である。本手法は、拡散によって酸化物の析出を起こすもので、液相コーティング法と比べると、磁性粒子と酸化物被覆層との界面が強固に密着し、磁性粒子の熱的安定性や耐酸化性が高くなり好ましい。部分酸化の条件は特に拘らないが、OやCO等の酸化性雰囲気下で、酸素濃度を調整し、室温〜1000℃の範囲で酸化させるのが好ましい。
【0149】
次に、合成した磁性粒子の表面の少なくとも一部に第1の酸化物の被覆層(第1の被覆層)を成膜する。本工程において、第1の酸化物の第1の被覆層を成膜する手法は特に限定されないが、特にCVD法、液中ゾルゲル法、等が挙げられる。
【0150】
次に、第1の酸化物と共晶反応系を構成する第2の酸化物の酸化物粒子と、磁性粒子を混合する。本工程は、2つの粒子を混合する工程で、均一に混合さえ出来れば特に方法は限定されない。例えば、回転ボールミル、振動ボールミル、攪拌ボールミル、遊星ミル、ジェットミル、乳鉢混合、等が挙げられる。いずれにおいても、第1の酸化物の第1の被覆層を備える磁性粒子と第2の酸化物の酸化物粒子が均一に混合されることが望ましい。
【0151】
なお、各工程の後において、磁性粒子が酸化し飽和磁化が減少しない様に、各工程条件を制御することが望ましい。場合によっては、各工程の後において、酸化し飽和磁化が減少した磁性粒子を還元して、飽和磁化を回復させても良い。還元する条件は、H、CO、CH等の還元雰囲気下において、100℃〜1000℃の範囲で熱処理を施すのが好ましい。この際、磁性粒子の凝集・ネッキングがなるべく起こりにくい条件を選定することが好ましい。
【0152】
磁性材料の形態は、バルク(ペレット状、リング状、矩形状など)、シートを含む膜状、粉末等の形態が挙げられる。バルク化する手法は、特に限定されないが、一軸プレス成形、ホットプレス成形、CIP(等方圧成形)、HIP(熱間等方圧加圧法)、SPS(放電プラズマ焼結法)、等が挙げられる。特に、ホットプレス、HIP、SPS等、加熱しながら成形する場合は、低酸素濃度の雰囲気下で行うのが好ましい。真空雰囲気下やH、CO、CH等の還元雰囲気下が望ましい。これは、加熱成形中に、磁性粒子が酸化して劣化するのを抑制するためである。
【0153】
また、シートを作製する手法は、特に限定されないが、例えば合成した磁性粒子と酸化物粒子の混合粒子と、樹脂と、溶媒とを混合し、スラリーとし、塗布、乾燥することで作製することができる。また、上記混合粒子と樹脂との混合物をプレスしてシート状あるいはペレット状に成型してもよい。
【0154】
更に、混合粒子を溶媒中に分散させ、電気泳動などの方法により堆積してもよい。シート化する際は、上記混合粒子を一方向、すなわち、個々の磁性粒子の容易軸が揃う方向に配向させることが望ましい。これによって、上記磁性粒子が集まった磁性材料シートの透磁率と透磁率の高周波特性が向上するために好ましい。配向させる手段としては、磁場中での塗布、乾燥等が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0155】
磁性シートは、積層構造にしてもよい。積層構造にすることによって容易に厚膜化することが可能になるのみならず、非磁性絶縁性層と交互に積層することによって高周波磁気特性を向上させることが可能となる。すなわち、磁性粒子を含む磁性層を厚さ100μm以下のシート状に形成し、このシート状磁性層を厚さ100μm以下の非磁性絶縁性酸化物層とで交互に積層した積層構造を有することによって、高周波磁気特性が向上する。すなわち、磁性層単層の厚さを100μm以下にすることによって、面内方向に高周波磁場を印加した時に、反磁界の影響を小さくすることができ、透磁率を増大させることが可能になるのみならず透磁率の高周波特性が向上する。積層方法は特に限定されないが、磁性シートを複数枚重ねてプレスなどの方法で圧着したり、加熱、焼結させたりすることによって積層することができる。
【0156】
以上の様な製造方法で製造される磁性材料は、100kHz以上のMHz帯域で高い透磁率実部(μ’)と低い透磁率虚部(μ”)を備え、かつ、高い強度、高い飽和磁化、高い熱的安定性、高い耐酸化性を備える。また、そのような特性を備える磁性材料を製造する前駆体として用いることも可能である。
【0157】
(第4の実施の形態)
本実施の形態の磁性材料の製造方法は、Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、希土類元素、BaおよびSrから選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含有する磁性粒子を合成する工程と、磁性粒子の少なくとも一部を被覆する第1の酸化物の第1の被覆層を形成する工程と、第1の酸化物と共晶反応系を構成する第2の酸化物の酸化物粒子と、磁性粒子を混合する工程と、1000℃以下の熱処理と冷却により、第1の被覆層と酸化物粒子を共晶溶融凝固させる工程と、を備える。
【0158】
本実施の形態の磁性材料の製造方法は、第3の実施の形態の磁性材料の製造方法である。したがって、第3の実施の形態と重複する内容については、記載を省略する。また、1000℃以下の熱処理と冷却により、第1の被覆層と酸化物粒子を共晶溶融凝固させる工程を備える以外は、第4の実施の形態に記載した磁性材料の製造方法と同様である。したがって、第4の実施の形態と重複する内容については、記載を省略する。
【0159】
本実施の形態の磁性材料の製造方法では、第4の実施の形態で製造した第1の酸化物の第1の被覆層を備える磁性粒子と第2の酸化物の酸化物粒子の混合粒子を1000℃以下の温度で熱処理と冷却により、第1の被覆層と酸化物粒子を共晶溶融凝固させる工程を含む。この際、第1の被覆層の一部と、酸化物粒子の一部が未反応のまま残存するよう熱処理条件を選択する。
【0160】
熱処理する雰囲気は、真空雰囲気下やH、CO、CH等の還元雰囲気下が望ましい。これは、加熱成形中に、磁性粒子が酸化して劣化するのを抑制するためである。また、磁性粒子の凝集・ネッキングをできる限り抑制するために、熱処理温度は低い程好ましい。そして、第1の酸化物と第2の酸化物の共焦点近傍で溶融するのが好ましい。そのため、第1の酸化物と第2の酸化物の共晶点が低い組成の組み合わせを選定することが好ましい。
【0161】
以上の様な製造方法で製造される磁性材料は、100kHz以上のMHz帯域で高い透磁率実部(μ’)と低い透磁率虚部(μ”)を備え、かつ、高い強度、高い飽和磁化、高い熱的安定性、高い耐酸化性を備える。
【0162】
(第5の実施の形態)
本実施の形態の磁性材料は、Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含有する磁性粒子であって、平均粒径が1nm以上100nm以下、好ましくは1nm以上20nm以下、更に好ましくは1nm以上10nm以下で、Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属を含有する複数の金属ナノ粒子を有し、平均短寸法が10nm以上2μm以下、好ましくは10nm以上100nm以下で、平均アスペクト比が5以上、好ましくは10以上の形状の粒子集合体である磁性粒子と、磁性粒子間に存在し、共晶反応系を構成する第1の酸化物と第2の酸化物の共晶組織を有する酸化物相と、を備える。
【0163】
本実施の形態は、図2における第1の被覆層12、および、酸化物粒子14が存在しないこと以外は第1の実施の形態の第1の変形例と同様である。したがって、重複する内容については記載を省略する。
【0164】
図5は、本実施の形態の磁性材料の模式図である。磁性粒子10は、金属ナノ粒子10a間に存在し、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属と酸素(O)、窒素(N)または炭素(C)のいずれかを含む介在相10bを含有する。介在相10bはフッ素(F)を含んでもかまわない。介在相10bは、例えば、金属、半導体、酸化物、窒化物、炭化物またはフッ化物である。また、介在相10bは磁性粒子10よりも高抵抗である。
【0165】
そして、磁性粒子10は、平均短寸法が10nm以上2μm以下、好ましくは10nm以上100nm以下で、平均アスペクト比が5以上、好ましくは10以上の形状の、金属ナノ粒子10aと介在相10bの粒子集合体であり、金属ナノ粒子10aの体積充填率が、粒子集合体全体に対して40vol%以上80vol%以下である。このような粒子集合体はナノグラニュラー型磁性粒子とも称される。
【0166】
図5の磁性材料では、金属ナノ粒子10a間を介在相10bが充填する構造をなっている。
【0167】
本実施の形態の磁性材料は、上記構成を備えることにより、100kHz以上のMHz帯域で高透磁率、低損失を実現する。さらに、高飽和磁化、高い熱的安定性、高い耐酸化性をも実現することが可能となる。
【0168】
(第6の実施の形態)
本実施の形態の磁性材料は、Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、希土類元素、BaおよびSrから選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含有する磁性粒子と、磁性粒子の少なくとも一部を被覆し、上記磁性金属および上記非磁性金属の少なくとも一つずつを含む第3の酸化物の第2の被覆層と、磁性粒子間に存在し、共晶反応系を構成する第1の酸化物と第2の酸化物の共晶組織を有する酸化物相と、を備える。
【0169】
本実施の形態は、図3における第1の被覆層12、および、酸化物粒子14が存在しないこと以外は第1の実施の形態の第2の変形例と同様である。したがって、重複する内容については記載を省略する。
【0170】
図6は、本実施の形態の磁性材料の模式図である。Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、希土類元素、BaおよびSrから選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含有する磁性粒子10と、磁性粒子10の少なくとも一部を被覆し、上記磁性金属および上記非磁性金属の少なくとも一つずつを含む第3の酸化物の第2の被覆層18と、磁性粒子10間に存在し、共晶反応系を構成する第1の酸化物と第2の酸化物の共晶組織を有する酸化物相16と、を備える。
【0171】
本実施の形態の磁性材料は、上記構成を備えることにより、100kHz以上のMHz帯域で高透磁率、低損失を実現する。さらに、高飽和磁化、高い熱的安定性、高い耐酸化性をも実現することが可能となる。
【0172】
(第7の実施の形態)
本実施の形態の磁性材料は、平均粒径が1nm以上100nm以下、好ましくは1nm以上20nm以下、更に好ましくは1nm以上10nm以下でFe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属を含有する金属ナノ粒子と、金属ナノ粒子間に存在し、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属と上記磁性金属の少なくとも1つとを含む、金属、半導体、酸化物、窒化物、炭化物またはフッ化物の介在相(第1の介在相)を含有し、平均短寸法が10nm以上2μm以下、好ましくは10nm以上100nm以下で、平均アスペクト比が5以上、好ましくは10以上の形状の粒子集合体であり、金属ナノ粒子の体積充填率が、粒子集合体全体に対して40vol%以上80vol%以下である磁性粒子を備える。
【0173】
本実施の形態の磁性材料において、金属ナノ粒子の平均粒子間距離が、0.1nm以上5nm以下であるとなお好ましい。
【0174】
図7は、本実施の形態の磁性材料の模式図である。本実施の形態の磁性材料は複数の磁性粒子10を含む。磁性粒子10は、平均粒径が1nm以上100nm以下、好ましくは20nm以下、更に好ましくは1nm以上10nm以下でFe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属を含有する金属ナノ粒子10aと、金属ナノ粒子10a間に存在し、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属と酸素(O)、窒素(N)または炭素(C)のいずれかを含む介在相10bを含有する。介在相10bはフッ素(F)を含んでもかまわない。介在相10bは、例えば、金属、半導体、酸化物、窒化物、炭化物またはフッ化物である。また、介在相10bは磁性粒子10よりも高抵抗である。
【0175】
そして、磁性粒子10は、平均短寸法が10nm以上2μm以下、好ましくは10nm以上100nm以下で、平均アスペクト比が5以上、好ましくは10以上の形状の金属ナノ粒子10aと介在相10bの粒子集合体であり、金属ナノ粒子10aの体積充填率が、粒子集合体全体に対して40vol%以上80vol%以下である。このような粒子集合体はナノグラニュラー型磁性粒子とも称される。
【0176】
図7の磁性材料では、金属ナノ粒子10a間を介在相10bが充填する構造をなっている。
【0177】
このような粒子集合体においては、金属ナノ粒子10a同士は磁気的に結合しやすく、1つの集合体として磁気的に振舞う。一方で金属ナノ粒子10aの粒子間には電気抵抗の高い介在相10b、例えば酸化物が存在しているので、電気的には磁性粒子10の抵抗を大きくすることができる。そのため、高透磁率を維持したまま、渦電流損失を抑制することができ好ましい。
【0178】
金属ナノ粒子10aは、平均粒径が1nm以上100nm以下、好ましくは1nm以上20nm以下、更に好ましくは1nm以上10nm以下である。平均粒径を1nm未満にすると、超常磁性が生じて磁束量が低下するおそれがある。一方、平均粒径が10nmを超えてくると、磁気的な結合性が弱まってくるので好ましくない。十分な磁束量を保ちつつ粒子同士の磁気的結合を大きくするために最も好ましい粒径範囲が1nm以上10nm以下である。
【0179】
金属ナノ粒子の平均粒径に関しては、TEMによって多数の粒子を観察しその粒径を平均化することによって求めることができるが、TEMで判別しにくい場合は、XRD測定から求められる結晶粒径で代用することができる。すなわち、XRDで磁性金属に起因するピークのうち最強ピークに関して、回折角度と半値幅からScherrerの式によって求めることができる。Sherrerの式は、D=0.9λ/(βcosθ)で表され、ここでDは結晶粒径、λは測定X線波長、βは半値幅、θは回折ブラッグ角である。ただしXRDでのScherrerの式による結晶粒径解析は、およそ50nm以上の粒径の場合は正確な解析が困難であることに注意が必要である。おおよそ50nm以上の場合は、TEMによる観察で判断することが必要である。
【0180】
金属ナノ粒子10aは、多結晶、単結晶のいずれの形態でもよいが、単結晶であることが好ましい。単結晶の金属ナノ粒子の場合、磁化容易軸を揃えることが容易になって磁気異方性を制御することができる。このため、多結晶の磁性金属ナノ粒子の場合に比べて高周波特性を向上させることができる。
【0181】
また、金属ナノ粒子10aは、球状でもよいが、大きいアスペクト比を持つ扁平状、棒状であっても良い。特にアスペクト比の平均が2以上、更に好ましくは5以上であることが望ましい。
【0182】
アスペクト比が大きな金属ナノ粒子10aの場合は、個々の金属ナノ粒子10aの長辺方向(板状の場合は幅方向、扁平楕円体の場合は直径方向、棒状の場合は棒の長さ方向、回転楕円体の場合は長軸方向)を磁性粒子(粒子集合体)10の長辺方向(板状の場合は幅方向、扁平楕円体の場合は直径方向、棒状の場合は棒の長さ方向、回転楕円体の場合は長軸方向)と一致させることがより好ましい。これによって、磁化容易軸の方向を一方向に揃えることが可能となり、透磁率と透磁率の高周波特性を向上させることが可能となる。
【0183】
図17は、本実施の形態の別の一例の模式図である。図17に示すように、金属ナノ粒子10aは、点もしくは面で接したナノ粒子集合組織30を形成し、このナノ粒子集合組織30が粒子集合体10の中で配向していることが好ましい。更に好ましくは、粒子集合体が扁平形状を有し、金属ナノ粒子が複数接し棒状のナノ粒子集合組織を形成し、ナノ粒子集合組織が、粒子集合体の扁平面内において、配向していることが更に好ましい。図17では、ナノ粒子集合組織30が棒状の場合を示す。
【0184】
なお、ナノ粒子集合組織のアスペクト比は、大きければ大きいほど好ましく、アスペクト比の平均が2以上が好ましく、更に好ましくは5以上である。
【0185】
ここで、ナノ粒子集合組織のアスペクト比を算出するにあたり、ナノ粒子集合組織の形状を次の様に定義する。すなわち、複数の金属ナノ粒子が点もしくは面で接して1つのナノ粒子集合組織を形成する場合、1つのナノ粒子集合組織に含まれる全ての金属ナノ粒子を包み込む様にナノ粒子集合組織の外郭線を作成するが、1つの金属ナノ粒子の外郭線から隣の金属ナノ粒子の外郭線を引く場合は、両金属ナノ粒子の接線として外郭線を引く。例えば、同じ粒径の球状の金属ナノ粒子が複数個、直線状に点で接してナノ粒子集合組織を形成する場合は、直線状の棒状の形状を有するナノ粒子集合組織ということになる。
【0186】
以上の様にナノ粒子集合組織の形状を定義する場合、そのアスペクト比は、ナノ粒子集合組織の長さが最も長くなる方向の組織の寸法(長寸法)と、上記方向に対して垂直な方向でナノ粒子集合組織の長さが最も短くなる方向の粒子の寸法(短寸法)の比、すなわち、「長寸法/短寸法」を指す。したがって、常に、アスペクト比は1以上となる。
【0187】
完全な球状の場合は、長寸法も短寸法も球の直径と等しくなるためアスペクト比は1になる。扁平状のアスペクト比は直径(長寸法)/高さ(短寸法)である。棒状のアスペクト比は棒の長さ(長寸法)/棒の底面の直径(短寸法)である。但し、回転楕円体のアスペクト比は長軸(長寸法)/短軸(短寸法)となる。
【0188】
ナノ粒子集合組織が粒子集合体の中で配向しているかどうかは、TEMによる観察像に関して画像解析を行い判断できる。例えば、次の様な方法が挙げられる。まず、ナノ粒子集合組織の長寸法と短寸法を算出し、更に、ある1つの基準線の方向を決めて、個々のナノ粒子集合組織が、基準線に対して何度の角度に配向しているのか(配向角度)を求める。これを多数のナノ粒子集合組織に対して行い、配向角度毎のナノ粒子集合組織の存在割合を求め、ランダム分散か配向しているかどうかを判断する。この様な解析は、フーリエ変換を用いた画像解析によって行うことも出来る。また、多数のナノ粒子集合組織がランダム分散しているか、それとも、配向しているのか、の簡易的な判断手法としては、次の様な手法が挙げられる。まず、粒子集合体を例えば樹脂などのマトリックス中で、強磁場下で配向処理(磁場中配向)して固化させ、固化させた材料の静磁気特性(静磁界中でのM−H特性)を、磁場中配向時に印加した磁場方向と平行な方向、およびそれと垂直な方向、の2種類の方向で測定し、この2種類の静磁気特性において有意な差が見られる場合は、配向していると判断する。一方で、2種類の静磁気特性において有意な差が見られない場合は、ランダム分散であると判断する。より好ましくは、固化させた材料の異方性磁界を測定し、その異方性磁界が1Oe以上で500Oe以下、好ましくは10Oe以上500Oe以下である時に、配向していると判断する。
【0189】
以上の様な構成を取ることによって、磁化容易軸の方向を一方向に揃えることが可能となり、透磁率と透磁率の高周波特性を向上させることが可能となり好ましい。
【0190】
また、以上の様なナノ粒子集合組織を製造する方法としては、特に拘らないが、例えば次の様な方法がある。Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属とMg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属とを含む磁性金属粉末と、上記磁性金属、上記非磁性金属と異なるB、Si、C、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、Cr、Cu、Wから選ばれる少なくとも1つの添加金属で、上記磁性金属と上記非磁性金属と上記添加金属の合計量に対して0.001原子%以上25原子%以下含まれる添加金属粉末とを、溶媒とボールとともに湿式ミルで加工する工程と、湿式ミルで加工した上記磁性金属と上記非磁性金属とを磁場を印加しながら熱処理する工程と、を含む製造方法である。
【0191】
上記添加金属粉末を磁性金属粉末とともに混合し加工することによって、得られる金属ナノ粒子の非晶質性(アモルファス性)が高まり、その後の磁場を印加しながらの熱処理工程によって一つの方向に配向しやすくなり好ましい。
【0192】
金属ナノ粒子10aは、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)からなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属を含有する。金属ナノ粒子10aは、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含むことが好ましい。これら非磁性金属は、金属ナノ粒子10aの抵抗を向上させ、かつ、熱的な安定性および耐酸化性を向上させることができ好ましい。中でも、Al、Siは金属ナノ粒子10aの主成分であるFe、Co、Niと固溶し易く、金属ナノ粒子10aの熱的安定性の向上に寄与するために好ましい。
【0193】
金属ナノ粒子10aは、例えば、Fe、CoおよびAl(アルミニウム)を含む合金、または、Fe、Ni、Si(シリコン)を含む合金である。
【0194】
金属ナノ粒子10aに含有する磁性金属は、Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つを含み、特にFe基合金、Co基合金、FeCo基合金、FeNi基合金が高い飽和磁化を実現できるために好ましい。Fe基合金は、第2成分としてNi、Mn、Cuなどを含有する、例えばFeNi合金、FeMn合金、FeCu合金を挙げることができる。Co基合金は、第2成分としてNi、Mn、Cuなどを含有する、例えばCoNi合金、CoMn合金、CoCu合金を挙げることができる。FeCo基合金は、第2成分としてNi、Mn、Cuなどを含有する合金を挙げることができる。
【0195】
これらの第2成分は、金属ナノ粒子10aの高周波磁気特性を向上させるために効果的な成分である。FeNi基合金は、磁気異方性が小さいため、高い透磁率を得るには有利な材料である。特にFeが40原子%以上60原子%以下となるFeNi合金は飽和磁化が高くかつ異方性が小さいため好ましい。
【0196】
磁性金属の中では、特にFeCo基合金を用いることが好ましい。FeCo中のCo量は、熱的安定性および耐酸化性と2テスラ以上の飽和磁化を満足させる点から10原子%以上50原子%以下にすることが好ましい。更に好ましいFeCo中のCo量は、より飽和磁化を高める観点から20原子%以上40原子%以下の範囲である。
【0197】
非磁性金属の量としては、磁性金属に対して0.001原子%以上20原子%以下の量で含有することが好ましい。非磁性金属の含有量がそれぞれ20原子%を超えると、磁性金属ナノ粒子の飽和磁化を低下させるおそれがある。高い飽和磁化と固溶性の観点からより好ましい量としては、0.001原子%以上5原子%以下、更に好ましくは0.01原子%以上5原子%以下の範囲で配合されることが望ましい。
【0198】
金属ナノ粒子10aの結晶構造としては、体心立方格子構造(bcc)、面心立方格子構造(fcc)、六方最密充填構造(hcp)が考えられ、それぞれ特徴がある。bcc構造はFe基合金の多くの組成でbcc構造を有するため、幅広く合成しやすい利点がある。fcc構造は、bcc構造より磁性金属の拡散係数を小さくすることができるため、熱的安定性や耐酸化性を比較的大きくすることができる利点がある。
【0199】
また、金属ナノ粒子と介在相を一体化し粒子集合体を合成する場合、fcc構造が、bcc構造等と比較して、一体化や扁平化が進行しやすく好ましい。一体化や扁平化が進行しやすいと、粒子集合体がより洗練された組織を有することになり、低保磁力化(低ヒステリシス損失に繋がる)、高抵抗化(低渦電流損失に繋がる)、高透磁率化、が促進し好ましい。
【0200】
また、hcp構造(六方晶構造)は、磁性材料の磁気特性を面内一軸異方性にすることができる利点がある。hcp構造を有する磁性金属は、一般に大きな磁気異方性を有するため、配向させることが容易になり、透磁率を大きくすることができる。特に、Co基合金はhcp構造を有しやすく好ましい。Co基合金の場合、CrやAlを含有することによってhcp構造を安定化させることができるため好ましい。
【0201】
なお、磁性材料に面内一軸異方性を誘起させるためには、上記hcp構造の磁性粒子を配向させる方法だけでなく、金属ナノ粒子の結晶性をできるだけ非晶質化させ、磁場や歪みによって面内一方向に磁気異方性を誘起させる方法もある。このためには、磁性粒子をできる限り非晶質化させやすい組成にすることが望ましい。このような観点においては、金属ナノ粒子に含まれる磁性金属が、非磁性金属と異なるB、Si、C、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、Cr、Cu、Wから選ばれる少なくとも1つの添加金属を、磁性金属と非磁性金属と添加金属の合計量に対して0.001原子%以上25原子%以下含まれ、磁性金属、非磁性金属、または添加金属のうちの少なくとも2つは互いに固溶していることが好ましい。
【0202】
なお、面内一軸異方性する磁性材料においては、磁化容易面内の異方性磁界が1Oe以上で500Oe以下が好ましく、さらに好ましくは10Oe以上500Oe以下である。これは、100kHz以上のMHz帯域で低損失と高い透磁率を維持するために望ましい範囲である。異方性が低すぎると強磁性共鳴周波数が低周波で起こり、MHz帯域で損失が大きくなり好ましくない。
【0203】
一方で異方性が大きいと強磁性共鳴周波数が高く低損失を実現できるが、透磁率も小さくなってしまい好ましくない。高透磁率と低損失を両立できる異方性磁界の範囲が、1Oe以上で500Oe以下、さらに好ましくは10Oe以上500Oe以下である。
【0204】
なお、磁性材料に面内一軸異方性を誘起させるためには、上記hcp構造の磁性粒子を配向させる方法だけでなく、金属ナノ粒子10aの結晶性をできるだけ非晶質化させ、磁場や歪みによって面内一方向に磁気異方性を誘起させる方法もある。このためには、磁性粒子をできる限り非晶質化させやすい組成にすることが望ましい。
【0205】
このような観点においては、金属ナノ粒子10aに含まれる磁性金属が、非磁性金属と異なるB、Si、C、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、Cr、Cu、Wから選ばれる少なくとも1つの添加金属を、磁性金属と非磁性金属と添加金属の合計量に対して0.001原子%以上25原子%以下含まれ、磁性金属、非磁性金属、または添加金属のうちの少なくとも2つは互いに固溶していることが好ましい。
【0206】
金属ナノ粒子10aの少なくとも一部の表面は被覆層で覆われていても良い。被覆層は、金属ナノ粒子10aの構成成分である磁性金属の少なくとも1つを含む酸化物、複合酸化物、窒化物、炭化物またはフッ化物であることが好ましい。被覆層が、金属ナノ粒子10aの構成成分である磁性金属の少なくとも1つを含むことによって、金属ナノ粒子10aと被覆層との密着性が向上し、熱的安定性および耐酸化性が向上する。
【0207】
また被覆層は、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含む酸化物、複合酸化物、窒化物、炭化物またはフッ化物であることがより好ましい。金属ナノ粒子10aがMg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素からなる群からから選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含む場合は、被覆層は、金属ナノ粒子10aの構成成分の1つである非磁性金属と同じ非磁性金属を少なくとも1つ含む酸化物、複合酸化物、窒化物、炭化物またはフッ化物で構成されることがより好ましい。これによって、金属ナノ粒子10aと被覆層の密着性を向上でき、ひいては磁性材料の熱的安定性および耐酸化性を向上させることが可能となる。
【0208】
なお、以上の被覆層構成においては、酸化物、複合酸化物、窒化物、炭化物またはフッ化物の中でも、特に、酸化物、複合酸化物であることがより好ましい。これは、被覆層形成の容易性、耐酸化性、熱的安定性の観点からである。
【0209】
また、酸化物もしくは複合酸化物被覆層は、金属ナノ粒子10aの構成成分である磁性金属の少なくとも1つを含む酸化物、複合酸化物であり、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素からなる群からから選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含む酸化物、複合酸化物であることがより好ましい。
【0210】
この非磁性金属は、酸化物の標準生成ギブスエネルギーが小さく酸化し易い元素で、安定的な酸化物を形成し易い。このような非磁性金属を少なくとも1つ以上含む酸化物もしくは複合酸化物からなる酸化物被覆層は、金属ナノ粒子10aに対する密着性・接合性を向上でき、金属ナノ粒子10aの熱的な安定性と耐酸化性も向上できる。
【0211】
非磁性金属の中でAl、Siは、磁性金属粒子の主成分であるFe、Co、Niと固溶し易く、金属ナノ粒子10aの熱的安定性の向上に寄与するために好ましい。複数種の非磁性金属を含む複合酸化物は固溶した形態も包含される。金属ナノ粒子10aの少なくとも一部の表面を被覆する被覆層は、内部の磁性金属ナノ粒子の耐酸化性を向上させるのみならず、複合磁性粒子の電気抵抗を向上させることができる。電気抵抗を高くすることによって、高周波における渦電流損失を抑制し、透磁率の高周波特性を向上することが可能になる。このため、被覆層は電気的に高抵抗であることが好ましく、例えば1mΩ・cm以上の抵抗値を有することが好ましい。
【0212】
被覆層は厚いほど磁性粒子10の電気抵抗は大きくなり、金属ナノ粒子10aの熱的安定性と耐酸化性も高くなる。しかしながら、被覆層を厚くしすぎると、金属ナノ粒子10a同士の磁気的結合が切れやすくなり、個々の金属ナノ粒子10aが磁気的に独立に振舞いやすくなってしまい、透磁率および透磁率の高周波特性の観点から好ましくない。また、被覆層が厚くなると磁性粒子10に占める磁性成分の割合が減るため、磁性粒子10の飽和磁化が下がり、透磁率が下がってしまうため好ましくない。ある程度大きな電気抵抗を有しかつ個々の金属ナノ粒子10aが磁気的に結合し、磁性粒子10の飽和磁化を大きくするために、被覆層は、0.1nm以上5nm以下の平均厚さを有することがより好ましい。
【0213】
また、金属ナノ粒子10a間に存在するMg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属と酸素(O)、窒素(N)または炭素(C)のいずれかを含む介在相10bは、1mΩ・cm以上の抵抗率を有することが好ましい。
【0214】
これら非磁性金属は、酸化物の標準生成ギブスエネルギーが小さく酸化し易い元素で、安定的な酸化物を形成し易い金属であり好ましい。このような非磁性金属を含んだ金属、半導体、酸化物、窒化物、炭化物またはフッ化物が、金属ナノ粒子10a間に存在することによって、金属ナノ粒子10a同士の電気的絶縁性をより向上させることができ、また、金属ナノ粒子の熱的な安定性を向上させることができるため好ましい。
【0215】
また、金属、半導体、酸化物、窒化物、炭化物またはフッ化物の介在相10bが、上述の磁性金属の少なくとも1つを含むことが好ましい。金属、半導体、酸化物、窒化物、炭化物またはフッ化物が、金属ナノ粒子10aに含まれる磁性金属と同じ金属を少なくとも1つ含むことによって、熱的安定性および耐酸化性が向上する。また、金属ナノ粒子10a間に強磁性成分が存在することによって、磁性金属ナノ粒子同士の磁気的な結合が強くなる。このため、金属ナノ粒子10aと介在相10bが磁気的に集合体として振舞うことが可能となり、透磁率と透磁率の高周波特性を向上させることが可能となる。
【0216】
また、同様に、金属、半導体、酸化物、窒化物、炭化物またはフッ化物の介在相10bが、金属ナノ粒子10aに含まれる非磁性金属と同じ非磁性金属を少なくとも1つ含むことによって、熱的安定性および耐酸化性が向上するため好ましい。
【0217】
なお、介在相が、金属ナノ粒子に含まれる磁性金属と非磁性金属とを少なくとも1つずつ含む場合、介在相中の非磁性金属/磁性金属の原子比が、金属ナノ粒子中に含まれる非磁性金属/磁性金属の原子比よりも大きいことが望ましい。これは、金属ナノ粒子を、耐酸化性、熱的安定性の高い「非磁性金属/磁性金属の多い介在相」でブロックすることができ、金属ナノ粒子の耐酸化性、熱的安定性を効果的に高めることが可能となるためである。また、介在相中に含まれる酸素の含有量が、金属ナノ粒子の酸素の含有量よりも大きいことが望ましい。これは、金属ナノ粒子を、「酸素濃度が多く耐酸化性、熱的安定性の高い介在相」でブロックすることができ、金属ナノ粒子の耐酸化性、熱的安定性を効果的に高めることが可能となるためである。
【0218】
金属、半導体、酸化物、窒化物、炭化物またはフッ化物の中では、熱的安定性の観点から酸化物であることがより好ましい。
【0219】
図8は、本実施の形態の第1の変形例の磁性材料の模式図である。金属、酸化物、窒化物、炭化物またはフッ化物の介在相10bは、図8に示すように、粒子であってもかまわない。
【0220】
本変形例において、磁性粒子10の周囲の材料は、特に限定されず、例えば、空気であっても酸化物であっても樹脂であってもかまわない。また、本変形例では、金属ナノ粒子10aと粒子の介在相10bとの間は、磁性粒子10の周囲の材料と同一の材料となっている。
【0221】
図9は、本実施の形態の第2の変形例の磁性材料の模式図である。本変形例では、金属ナノ粒子10aと粒子の介在相10bとの間は、介在相10bおよび磁性粒子10の周囲の材料のいずれとも異なる材料の別の介在相10cとなっている。介在相10cの材料と磁性粒子10の周囲の材料との組み合わせは、特に限定されるものではない。
【0222】
粒子の形態をとる介在相10bは、金属ナノ粒子10aの粒径より小さい粒子であることが望ましい。この時、粒子は、酸化物粒子でも良いし窒化物粒子でも良いし炭化物粒子でも良いしフッ化物粒子でも良い。しかし、熱的安定性の観点から酸化物粒子であることがより好ましい。以下では全て介在相10bが酸化物粒子である場合を例に説明する。
【0223】
なお、酸化物粒子のより好ましい存在状態は、金属ナノ粒子10a間に均一、かつ、均質に分散した状態である。これによって、より均一な磁気特性及び誘電特性が期待できる。この酸化物粒子は、金属ナノ粒子10aの耐酸化性、凝集抑制力、すなわち金属ナノ粒子10aの熱的安定性を向上させるのみならず、金属ナノ粒子10a同士を電気的に離し、磁性粒子10および磁性材料の電気抵抗を高めることができる。磁性材料の電気抵抗を高くすることによって、高周波における渦電流損失を抑制し、透磁率の高周波特性を向上することが可能になる。このため、酸化物粒子は電気的に高抵抗であることが好ましく、例えば1mΩ・cm以上の抵抗値を有することが好ましい。
【0224】
酸化物粒子は、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素からなる群からから選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含む。これら非磁性金属は、酸化物の標準生成ギブスエネルギーが小さく酸化し易い元素で、安定的な酸化物を形成し易い。
【0225】
そして、金属ナノ粒子10aが被覆層を備える場合、この酸化物粒子中の非磁性金属/磁性金属(原子比)が、金属ナノ粒子10aを覆う被覆層中の非磁性金属/磁性金属(原子比)よりも大きくなっているのが好ましい。このように、非磁性金属の割合が高いことで、酸化物粒子は被覆層よりもさらに熱的に安定になる。
【0226】
このため、このような酸化物粒子が、金属ナノ粒子10a間の少なくとも一部に存在することによって、金属ナノ粒子10a同士の電気的絶縁性をより向上させることができ、また、磁性金属ナノ粒子の熱的な安定性を向上させることができる。
【0227】
なお、酸化物粒子は、磁性金属を含まなくても良いが、より好ましくは、磁性金属を含んでいた方が良い。含まれる磁性金属の好ましい量としては、磁性金属が非磁性金属に対して0.001原子%以上、好ましくは0.01原子%以上である。これは、磁性金属を全く含まないと、金属ナノ粒子10aの表面を被覆する被覆層と酸化物粒子の構成成分が完全に異なり、密着性や強度の点からあまり好ましくなく、更には熱的安定性もかえって悪くなってしまう可能性があるためである。また、金属ナノ粒子間に存在する酸化物粒子に磁性金属を全く含まないと、金属ナノ粒子同時が磁気的に結合しにくくなり、透磁率と透磁率の高周波特性の観点から好ましくない。
【0228】
よって、酸化物粒子は、より好ましくは、金属ナノ粒子10aの構成成分であり、かつ酸化物被覆層の構成成分である磁性金属の少なくとも1つを含有することが望ましく、更に好ましくは、酸化物粒子中の非磁性金属/磁性金属(原子比)が、酸化物被覆層中の非磁性金属/磁性金属(原子比)よりも大きくなっていることが望ましい。
【0229】
なお、酸化物粒子は、金属ナノ粒子10aに含まれる非磁性金属と同種、また、酸化物被覆層に含まれる非磁性金属と同種、の非磁性金属を含む酸化物粒子であることがより好ましい。同種の非磁性金属を含む酸化物粒子であることによって、磁性金属ナノ粒子の熱的安定性および耐酸化性がより向上するからである。
【0230】
なお、以上の、酸化物粒子の熱的安定性向上効果、電気的絶縁性効果、密着性・強度向上効果は、特に金属ナノ粒子の平均粒径10aが小さい時に効果を発揮し、金属ナノ粒子10aの粒径より小さい粒径の場合、特に効果的である。また、金属ナノ粒子10aの体積充填率は、粒子集合体である磁性粒子10全体に対して30vol%以上80vol%以下であることが好ましい。より好ましくは、40vol%以上80vol%以下で、更に好ましくは50vol%以上80vol%以下である。
【0231】
これによって、磁性粒子10中に含まれる金属ナノ粒子10a間の距離が必然的に近くなり、金属ナノ粒子10a同士が磁気的に強固に結合し、磁気的には粒子集合体として振る舞い、透磁率を大きくすることができる。また、金属ナノ粒子10a同士は物理的に完全には繋がっていないので、ミクロ的な渦電流損失を低減することができ、透磁率の高周波特性を向上させることができる。
【0232】
この効果を更に効果的に発揮させるためには、磁性粒子10に含まれる金属ナノ粒子10aの平均粒子間距離は、0.1nm以上10nm以下であることが好ましく、更に好ましくは、0.1nm以上5nm以下であることが好ましい。ここで言う粒子間距離とは、1つの金属ナノ粒子10aの中心ともう1つの金属ナノ粒子10aの中心を結んだ線において、2つの金属ナノ粒子10aの間にある隙間の距離のことである。金属ナノ粒子10aの表面が被覆層で覆われている場合は、粒子間距離とは、1つの金属ナノ粒子10aの表面被覆層の外側最表面と、もう1つの金属ナノ粒子10aの表面被覆層の外側最表面と、の間にある隙間の距離のことである。
【0233】
これによって、金属ナノ粒子10a同士が磁気的に結合し、磁気的には粒子集合体(複合磁性粒子)として振る舞い、透磁率を大きくすることができる。また、金属ナノ粒子10a同士は物理的に完全には繋がっていないので、ミクロ的な渦電流損失を低減することができ、透磁率の高周波特性を向上させることができる。
【0234】
ここでは、このような金属ナノ粒子10aの粒子集合体を1つの磁性粒子10とみなしているが、粒子集合体を形成する過程で、2つ以上の粒子集合体が結合する場合がある。このような場合でも、粒子集合体同士の間に境界線を引いたときに、この境界線で区切られた1つの粒子集合体について、平均粒径が50nm以上50μm以下であれば、球状の集合体の場合、粒子集合体として許容する。また、扁平状、棒状の粒子集合体の場合は、平均高さ(棒状の場合は平均直径)が10nm以上1μm以下、更に好ましくは、平均高さが10nm以上100nm以下で、平均アスペクト比が5以上、更に好ましくは10以上であれば、粒子集合体として許容する。
【0235】
また、1つの粒子集合体に他の粒子集合体の一部が結合する場合もある。この場合についても、1つの粒子集合体と他の粒子集合体の一部に境界線を設けたときに、上述のような条件を満たすならば、1つの粒子集合体に他の粒子集合体の一部が結合した形状の粒子集合体として許容する。
【0236】
更に、板状、偏平楕円体、棒状、回転楕円体以外のいびつな形状の粒子集合体となる場合もある。長寸法と短寸法の比の平均、すなわち平均アスペクト比が5以上、更に好ましくは10以上であり、短寸法が10nm以上1μm以下、更に好ましくは、短寸法が10nm以上100nm以下であるならば、いびつな形状の粒子集合体として許容する。
【0237】
また、粒子集合体に含まれる金属ナノ粒子10a以外の材料と粒子集合体を囲む材料が同じである場合などは、粒子集合体の外縁が曖昧で認識しにくい。このような場合でも、ある材料の中に金属ナノ粒子10aが凝集偏析して、平均短寸法10nm以上2μm以下で平均アスペクト比が5以上の粒子集合体を形成することをTEMやSEMによる組織観察によって確認できるならば、粒子集合体として許容する。上述したように、粒子集合体に含まれる金属ナノ粒子10a同士の距離は10nm以内であれば本変形例による効果が向上するため、凝集偏在した磁性金属ナノ粒子同士の距離は10nm以内であることが望ましい。
【0238】
さらに、1つの粒子集合体に他の粒子集合体の一部が結合した場合、また、板状、偏平楕円体、棒状、回転楕円体以外のいびつな形状の粒子集合体である場合においても、境界線を設けることによって上述の高さ及びアスペクト比を満たすならば粒子集合体として許容する。境界線の引き方の1つの方法としては、1つの金属ナノ粒子10aと、その周囲に存在する他の金属ナノ粒子10aとの粒子間距離が10nm以上、好ましくは100nm以上離れたところを境界線として引く方法が挙げられる。
【0239】
なお、これはあくまで1つの方法であって、実際はTEM、SEMによる組織観察によって常識的な範囲で、金属ナノ粒子10aが周囲と比べて相対的に多い領域を判断し、1つのナノ粒子集合体として境界線を引くことが好ましい。なお、磁性粒子10は、アスペクト比の大きい形状を有する方が、高い透磁率と良好な高周波磁気特性の観点から好ましい。
【0240】
扁平状、棒状の磁性粒子が好ましく、平均高さ(棒状の場合は平均直径)が10nm以上1μm以下であることが好ましく、更に好ましくは、平均高さ(棒状の場合は平均直径)が10nm以上100nm以下である。平均アスペクト比は大きければ大きい程好ましく、5以上が好ましい。更に好ましくは10以上である。これらは、100kHz以上のMHz帯域で渦電流損失、ヒステリシス損失の合計を最小にするために最適なサイズである。
【0241】
また、磁性粒子の電気抵抗率は高ければ高い程良いが、たとえ磁性粒子10に含まれる介在相10bが、がどんなに高い抵抗率を有していても、一般に金属ナノ粒子10aの体積率が高くなればなるほど磁性粒子10の電気抵抗率は下がってしまう。これは、実際には金属ナノ粒子10aは孤立せず部分的にネットワーク組んだり凝集したりするためである。このような効果は、金属ナノ粒子10aの粒径が小さいほど、またその体積率が大きいほど、顕著になってくる。
【0242】
一方で、金属ナノ粒子10aの体積率を下げてしまうと、磁性粒子10中に含まれる磁性成分が減ってしまうため、飽和磁化の低下を招いてしまい好ましくない。このように、磁性粒子10の電気抵抗と飽和磁化はある程度トレードオフの関係を有している。
【0243】
理想的には、複合磁性粒子中に占める磁性金属ナノ粒子の体積割合が30vol%以上80vol%以下、より好ましくは、40vol%以上80vol%以下、更に好ましくは50vol%以上80vol%以下の時、磁性粒子10の電気抵抗率をできるだけ大きくできると好ましいが、実際上は、100μΩ・cm以上100mΩ・cm以下である。
【0244】
すなわち、実際上、高い飽和磁化と高い電気抵抗率のバランスが取れる範囲として100μΩ・cm以上100mΩ・cm以下の電気抵抗率であることが好ましい。なお、このような磁性粒子10は、磁場や歪みによって面内一軸異方性を誘起することが可能であり、好ましい。前述の通り、面内一軸異方性する磁性材料においては、磁化容易面内の異方性磁界が1Oe以上で500Oe以下が好ましく、さらに好ましくは10Oe以上500Oe以下である。これは、100kHz以上のMHz帯域で低損失と高い透磁率を維持するために必要な範囲である。
【0245】
なお、粒子集合体である磁性粒子10間は、例えば、樹脂で充填されていてもかまわない。
【0246】
(第8の実施の形態)
本実施の形態の磁気材料は、第7の実施の形態の磁性粒子間に、Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属を含む金属相と、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属と酸素(O)、窒素(N)または炭素(C)のいずれかを含む第2の介在相の複合相が存在すること以外は、第7の実施の形態と同様である。したがって、第7の実施の形態と重複する内容については記載を省略する。
【0247】
図10は、本実施の形態の磁気材料の模式図である。粒子集合体である磁性粒子間に、Fe,Co,Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属を含む磁性金属粒子(金属相)20と、磁性金属粒子20の少なくとも一部の表面を被覆する被覆層(第2の介在相)22を含むコアシェル型磁性粒子で構成される複合相が存在する。被覆層(第2の介在相)22は、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属と酸素(O)、窒素(N)または炭素(C)のいずれかを含む第2の介在相である。
【0248】
第2の介在相に要求される特性は、第7の実施の形態における介在相と同様である。
【0249】
磁性金属粒子(金属相)20は、平均粒径5nm以上50nm以下の粒子であることが好ましく、その中でも特に、5nm以上30nm以下の平均粒径を有することが好ましい。磁性材料が、この範囲の平均粒径を有する粒子を備える複合相を含むことによって、電気抵抗を高く維持したまま個々の磁性粒子10間の磁気的な結合を効果的に高めることができ、かつ、電気抵抗を高く維持したまま磁性材料全体に含む磁性金属の割合を効果的に高めることができる。これによって、磁性材料の高周波磁気特性を維持したまま、透磁率及び飽和磁化を効果的に向上することが可能となる。
【0250】
また、磁性金属粒子20が、Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属を含み、被覆層22がMg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含むことが好ましい。これによって、電気抵抗を高く維持したまま個々の磁性粒子10間の磁気的な結合を更に効果的に高めることができ、かつ、電気抵抗を高く維持したまま磁性材料全体に含む磁性金属の割合をより効果的に高めることができ好ましい。
【0251】
コアシェル型磁性粒子において、磁性金属粒子20が、Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属とMg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属とを含み、被覆層22が上記磁性金属の少なくとも1つと上記非磁性金属の少なくとも1つを含むコアシェル型磁性粒子であるとなお好ましい。これによって、コアシェル型磁性粒子において磁性金属粒子20と被覆層22との成分が類似した構成になるため、磁性金属粒子20と被覆層22との界面の密着性が高まり、磁性材料の熱的安定性が高まるからである。
【0252】
磁性材料が以上のような構成をとることによって、100kHz以上のMHz帯域で渦電流損失、ヒステリシス損失の合計を極めて小さくすることができ、かつ、高い透磁率と高い飽和磁化を有することが可能となる。
【0253】
図11は、本実施の形態の磁性材料の変形例の模式図である。図9に示すように、複合相は、複数の磁性金属粒子(金属相)20とこの複数の磁性金属粒子20間を包含する接着層(絶縁相)24で構成されている。
【0254】
本変形例においても、磁性材料が、100kHz以上のMHz帯域で渦電流損失、ヒステリシス損失の合計を極めて小さくすることができ、かつ、高い透磁率と高い飽和磁化を有することが可能となる。
【0255】
(第9の実施の形態)
本実施の形態の磁性材料の製造方法は、平均粒径が1nm以上1μm以下で、好ましくは1nm以上100nm以下で、Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属を含有する複数の前駆体金属ナノ粒子を合成する工程と、前駆体金属ナノ粒子の表面の少なくとも一部にMg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属と酸素(O)、窒素(N)または炭素(C)のいずれかを含む介在相を形成する工程と、前駆体金属ナノ粒子と介在相を一体化することにより、平均短寸法が10nm以上2μm以下、好ましくは10nm以上100nm以下で、平均アスペクト比が5以上、好ましくは10以上の形状を有し、前駆体金属ナノ粒子由来の金属ナノ粒子の体積充填率が40vol%以上80vol%以下である粒子集合体を形成する工程と、を備える。
【0256】
本実施の形態は、第7の実施の形態の磁性材料の製造方法である。したがって、第7の実施の形態と重複する内容については記載を省略する。
【0257】
なお、最終的に粒子集合体内に形成される金属ナノ粒子の原材料となる金属ナノ粒子を「前駆体金属ナノ粒子」と称するものとする。
【0258】
本実施の形態の磁性材料の製造方法は、平均粒径が1nm以上100nm以下、好ましくは1nm以上20nm以下、更に好ましくは1nm以上10nm以下でFe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属を含有する金属ナノ粒子と、金属ナノ粒子間に存在し、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属と酸素(O)、窒素(N)または炭素(C)のいずれかを含む介在相を含有し、平均短寸法が10nm以上2μm以下、好ましくは10nm以上100nm以下で、平均アスペクト比が5以上、好ましくは10以上の形状の粒子集合体であり、金属ナノ粒子の体積充填率が、粒子集合体全体に対して40vol%以上80vol%以下である磁性粒子を有する磁性材料を製造する方法である。
【0259】
そして、金属ナノ粒子の平均粒子間距離が0.1nm以上5nm以下である磁性材料を合成する際に適した製造方法である。
【0260】
すなわち、Fe,Co,Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属と非磁性金属とを含有する前駆体金属ナノ粒子を合成する工程と、上記前駆体金属ナノ粒子の表面の少なくとも一部に酸化物の介在相(被覆層)を形成する工程と、上記酸化物で被覆された磁性粒子を複合一体化処理する工程とにより合成されることを特徴とする。
【0261】
本実施の形態によれば、まず、Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属を含有する前駆体金属ナノ粒子を合成する工程から始まる。この際、前駆体金属ナノ粒子を合成する工程は特に限定されず、例えば、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、熱プラズマ法、CVD法、レーザーアブレーション法、液中分散法、液相合成法(ポリオール法、熱分解法、逆ミセル法、共沈法、メカノケミカル法、メカノフュージョン法等)などによって合成される。
【0262】
また、Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属を含有する前駆体金属ナノ粒子を合成する工程においては、共沈法等によって合成された酸化物微粒子を還元する方法等によって合成されても良い。本方法は、簡便且つ安価な手法で大量に金属ナノ粒子を合成できるため、量産プロセスを考えた場合好ましい。
【0263】
ただし、前駆体金属ナノ粒子を合成する際、前駆体金属ナノ粒子の粒径が小さい方が、その後の工程で、磁性金属と介在相の2相分離が促進しやすく好ましい。合成される前駆体金属ナノ粒子の粒径は、平均粒径が1nm以上1μm以下が好ましく、更に好ましくは1nm以上100nm以下である。このため、容易に大量合成が可能な熱プラズマ法、もしくは共沈法等の各種液相合成法を用いるのが好ましい。介在相は、例えば、酸化物、半導体、窒化物、炭化物、もしくはフッ化物であるが、ここでは以下酸化物を例に記述する。
【0264】
熱プラズマ法を用いる場合は、まず、高周波誘導熱プラズマ装置のチャンバー内に発生させたプラズマ内に、原料である平均粒径数μmの磁性金属粉末と非磁性金属とをキャリアガスと共に噴射する。これによって磁性金属を含有する前駆体金属ナノ粒子を容易に合成できる。
【0265】
液相合成法を用いる場合は、ポリオール法、熱分解法、逆ミセル法、共沈法、メカノケミカル法、メカノフュージョン法等の方法が挙げられる。液相合成法が、均一な粒径を有す前駆体金属ナノ粒子を容易に大量合成できるため好ましい。また、次の工程である、前駆体金属ナノ粒子の表面の少なくとも一部に酸化物の介在相(被覆層)を形成する工程も液相合成法で連続して処理できるため好ましい。
【0266】
前駆体金属ナノ粒子を酸化物粒子からの還元によって得る場合は、以下の工程が好ましい。まず、共沈法等の方法により少なくとも一次粒径が100nm以下の微細な酸化物粒子を合成し、しかる後に、ボールミル等により混合・塊砕を行い、次いで、H等の還元性雰囲気下で還元熱処理を行い、前駆体金属ナノ粒子を得る。この際、介在相となる酸化物粒子を、予め混合し、ボールミル等により混合・塊砕すると、分散性が良好になり好ましい。その後、前駆体金属ナノ粒子と介在相である酸化物粒子からなる混合粒子をビーズミル装置にてAr等の不活性雰囲気下で扁平・複合化処理を行う。
【0267】
合成される前駆体金属ナノ粒子は、Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属を含有する。金属ナノ粒子は、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含むと、より好ましい。これら非磁性金属は、前駆体金属ナノ粒子の抵抗を向上させ、かつ、熱的な安定性および耐酸化性を向上させることができ好ましい。中でも、Al、Siは金属ナノ粒子の主成分であるFe、Co、Niと固溶し易く、金属ナノ粒子の熱的安定性の向上に寄与するために好ましい。
【0268】
前駆体金属ナノ粒子は、例えば、Fe、CoおよびAlを含む合金、または、Fe、Ni、Siを含む合金である。
【0269】
前駆体金属ナノ粒子に含有する磁性金属は、Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つを含み、特にFe基合金、Co基合金、FeCo基合金、FeNi基合金が高い飽和磁化を実現できるために好ましい。Fe基合金は、第2成分としてNi、Mn、Cuなどを含有する、例えばFeNi合金、FeMn合金、FeCu合金を挙げることができる。Co基合金は、第2成分としてNi、Mn、Cuなどを含有する、例えばCoNi合金、CoMn合金、CoCu合金を挙げることができる。FeCo基合金は、第2成分としてNi、Mn、Cuなどを含有する合金を挙げることができる。これらの第2成分は、最終的に得られる磁性材料の高周波磁気特性を向上させるために効果的な成分である。
【0270】
FeNi基合金は、磁気異方性が小さいため、高い透磁率を得るには有利な材料である。特にFeが40原子%以上60原子%以下となるFeNi合金は飽和磁化が高くかつ異方性が小さいため好ましい。Feが10原子%以上40%以下、特に10原子%以上30原子%以下のFeNi合金は飽和磁化はそれほど大きくはないが、磁気異方性がかなり小さくなるため高透磁率に特化する組成としては好ましい。
【0271】
FeCo基合金は、飽和磁化が高いため、高い透磁率を得るには好ましい。FeCo中のCo量は、熱的安定性および耐酸化性と2テスラ以上の飽和磁化を満足させる点から10原子%以上50原子%以下にすることが好ましい。更に好ましいFeCo中のCo量は、より飽和磁化を高める観点から20原子%以上40原子%以下の範囲である。
【0272】
前駆体金属ナノ粒子に含まれる非磁性金属の量としては、磁性金属に対して0.001原子%以上20原子%以下の量で含有することが好ましい。非磁性金属の含有量がそれぞれ20原子%を超えると、磁性金属ナノ粒子の飽和磁化を低下させるおそれがある。高い飽和磁化と固溶性の観点からより好ましい量としては、0.001原子%以上5原子%以下、更に好ましくは0.01原子%以上5原子%以下の範囲で配合されることが望ましい。
【0273】
前駆体金属ナノ粒子の結晶構造としては、前駆体金属ナノ粒子と介在相を一体化する次の工程のことを考えると、fcc構造が、他の構造と比較して、一体化や扁平化が進行しやすくより好ましい。一体化や扁平化が進行しやすいと、粒子集合体がより洗練された組織を有することになり、低保磁力化(低ヒステリシス損失に繋がる)、高抵抗化(低渦電流損失に繋がる)、高透磁率化、が促進しより好ましい。
【0274】
金属ナノ粒子は、熱的安定性、耐酸化性の観点から、酸素が前駆体金属ナノ粒子全体に対して、
0.1重量%以上20重量%以下、更に好ましくは1重量%以上10重量%以下含まれることが好ましい。
【0275】
また、前駆体金属ナノ粒子は、前駆体金属ナノ粒子全体に対して0.001原子%以上20原子%以下、好ましくは0.001原子%以上5原子%以下、更に好ましくは0.01原子%以上5原子%以下の炭素または窒素が単独または共存して含まれることが好ましい。炭素および窒素の少なくとも一方は、磁性金属と固溶することによって、磁性粒子の磁気異方性を大きくし強磁性共鳴周波数を大きくすることができるため、高周波磁気特性を向上させることができ、好ましい。炭素および窒素から選ばれる少なくとも1つの元素の含有量が20原子%を超えると、固溶性が低下し、また磁性粒子の飽和磁化を低下させるおそれがある。高い飽和磁化と固溶性の観点からより好ましい量としては、0.001原子%以上5原子%以下、更に好ましくは0.01原子%以上5原子%以下の範囲で配合されることが望ましい。
【0276】
前駆体金属ナノ粒子の組成として好ましい例としては、次の様なものである。例えば、金属ナノ粒子がFeとNiを含み、AlおよびSiから選ばれる少なくとも1つの元素を含み、FeがFeとNiの合計に対して40原子%以上60原子%以下含まれ、AlおよびSiから選ばれる少なくとも1つの元素がFeとNiの合計に対して0.001重量%以上20重量%以下、更に好ましくは2重量%以上10重量%以下含まれ、酸素が金属ナノ粒子全体に対して、
0.1重量%以上20重量%以下、更に好ましくは1重量%以上10重量%以下含まれることが好ましい。またより好ましくは、金属ナノ粒子が、金属ナノ粒子全体に対して0.001原子%以上20原子%以下、好ましくは0.001原子%以上5原子%以下、更に好ましくは0.01原子%以上5原子%以下、の炭素を含むことが好ましい。
【0277】
次に、前駆体金属ナノ粒子の表面の少なくとも一部に酸化物の介在相(被覆層)を形成する工程に移る。この工程において、酸化物で被覆する方法は特に限定されないが、液相コーティングによるものや、部分酸化法によるものが挙げられる。
【0278】
液相コーティング法は、例えばゾルゲル法、ディップコート法、スピンコート法、共沈法、メッキ法等が挙げられる。これらの方法は簡便に緻密且つ均一な介在相(被覆層)を低温で形成できるため好ましい。その中でも特にゾルゲル法は、簡便に緻密な膜を作れる点から好ましい。尚、介在相(被覆層)を形成する際に適度な熱処理を施すと、緻密且つ均一に被覆が形成されるため好ましい。熱処理は、50℃以上800℃以下、好ましくは300℃以上500℃以下の温度で行うのが好ましく、雰囲気は真空雰囲気下やH、CO、CH等の還元雰囲気下が望ましい。これは、加熱成形中に、磁性粒子が酸化して劣化するのを抑制するためである。
【0279】
部分酸化法は、磁性金属と非磁性金属を含有する前駆体金属ナノ粒子を合成した後、適当な酸化条件で部分酸化を行うことによって、非磁性金属を含む酸化物を前駆体金属ナノ粒子の表面に析出させ被覆層とする方法である。
【0280】
本手法は、拡散によって酸化物の析出を起こすもので、液相コーティング法と比べると、前駆体金属ナノ粒子と酸化物被覆層との界面が強固に密着し、前駆体金属ナノ粒子の熱的安定性や耐酸化性が高くなり好ましい。部分酸化の条件は特に拘らないが、OやCO等の酸化性雰囲気下で、酸素濃度を調整し、室温〜1000℃の範囲で酸化させるのが好ましい。
【0281】
なお、本工程は、前駆体金属ナノ粒子を合成する工程中に行われても良い。すなわち、熱プラズマで前駆体金属ナノ粒子を合成する最中にプロセス条件を制御し、前駆体金属ナノ粒子の表面に非磁性金属を含有する酸化物被覆層を含有するコアシェル型金属ナノ粒子を合成しても良い。
【0282】
以上の工程によって、前駆体金属ナノ粒子である非磁性金属酸化物被覆層で磁性金属粒子の表面を被覆されたコアシェル型磁性金属ナノ粒子が合成できる。つまり、ナノレベルで金属と酸化物の2相分離構造が実現出来ることになる。
【0283】
なお、被覆層は、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含む酸化物、複合酸化物、窒化物、炭化物またはフッ化物であることがより好ましい。金属ナノ粒子がMg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素からなる群からから選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含む場合は、被覆層は、金属ナノ粒子の構成成分の1つである非磁性金属と同じ非磁性金属を少なくとも1つ含む酸化物、複合酸化物、窒化物、炭化物またはフッ化物で構成されることがより好ましい。これによって、前駆体金属ナノ粒子と被覆層の密着性を向上でき、ひいては磁性材料の熱的安定性および耐酸化性を向上させることが可能となる。
【0284】
なお、以上の被覆層構成においては、酸化物、複合酸化物、窒化物、炭化物またはフッ化物の中でも、特に、酸化物、複合酸化物であることがより好ましい。これは、被覆層形成の容易性、耐酸化性、熱的安定性の観点からである。
【0285】
また、酸化物もしくは複合酸化物被覆層は、前駆体金属ナノ粒子の構成成分である磁性金属の少なくとも1つを含む酸化物、複合酸化物であり、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素からなる群からから選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含む酸化物、複合酸化物であることがより好ましい。
【0286】
この非磁性金属は、酸化物の標準生成ギブスエネルギーが小さく酸化し易い元素で、安定的な酸化物を形成し易い。このような非磁性金属を少なくとも1つ以上含む酸化物もしくは複合酸化物からなる酸化物被覆層は、金属ナノ粒子に対する密着性・接合性を向上でき、前駆体金属ナノ粒子の熱的な安定性と耐酸化性も向上できる。
【0287】
非磁性金属の中でAl、Siは、磁性金属粒子の主成分であるFe、Co、Niと固溶し易く、前駆体金属ナノ粒子の熱的安定性の向上に寄与するために好ましい。複数種の非磁性金属を含む複合酸化物は固溶した形態も包含される。前駆体金属ナノ粒子の少なくとも一部の表面を被覆する被覆層は、内部の磁性金属ナノ粒子の耐酸化性を向上させるのみならず、複合粒子集合体の電気抵抗を向上させることができる。電気抵抗を高くすることによって、高周波における渦電流損失を抑制し、透磁率の高周波特性を向上することが可能になる。このため、被覆層は電気的に高抵抗であることが好ましく、例えば1mΩ・cm以上の抵抗値を有することが好ましい。
【0288】
被覆層は厚いほど粒子集合体の電気抵抗は大きくなり、前駆体金属ナノ粒子の熱的安定性と耐酸化性も高くなる。しかしながら、被覆層を厚くしすぎると、飽和磁化が小さくなるため透磁率も小さくなり好ましくない。ある程度大きな電気抵抗を有しかつ飽和磁化を大きくするために、被覆層は、0.1nm以上5nm以下の平均厚さであることがより好ましい。
【0289】
また、前駆体金属ナノ粒子間には、1mΩ・cm以上の抵抗率を有し、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属と酸素(O)、窒素(N)または炭素(C)のいずれかを含む介在相を有することが好ましい。これら非磁性金属は、酸化物の標準生成ギブスエネルギーが小さく酸化し易い元素で、安定的な酸化物を形成し易い金属であり好ましい。このような非磁性金属を含んだ金属、半導体、酸化物、窒化物、炭化物またはフッ化物が、前駆体金属ナノ粒子間に存在することによって、前駆体金属ナノ粒子同士の電気的絶縁性をより向上させることができ、また、前駆体金属ナノ粒子の熱的な安定性を向上させることができるため好ましい。
【0290】
また、金属、半導体、酸化物、窒化物、炭化物またはフッ化物の介在相が、上述の磁性金属の少なくとも1つを含むことが好ましい。金属、半導体、酸化物、窒化物、炭化物またはフッ化物が、前駆体金属ナノ粒子に含まれる磁性金属と同じ金属を少なくとも1つ含むことによって、熱的安定性および耐酸化性が向上する。また、前駆体金属ナノ粒子間に強磁性成分が存在することによって、磁性金属ナノ粒子同士の磁気的な結合が強くなる。このため、前駆体金属ナノ粒子と介在相が磁気的に集合体として振舞うことが可能となり、透磁率と透磁率の高周波特性を向上させることが可能となる。
【0291】
また、同様に、金属、半導体、酸化物、窒化物、炭化物またはフッ化物の介在相が、前駆体金属ナノ粒子に含まれる非磁性金属と同じ非磁性金属を少なくとも1つ含むことによって、熱的安定性および耐酸化性が向上するため好ましい。
【0292】
なお、介在相が、前駆体金属ナノ粒子に含まれる磁性金属と非磁性金属とを少なくとも1つずつ含む場合、介在相中の非磁性金属/磁性金属の原子比が、前駆体金属ナノ粒子中に含まれる非磁性金属/磁性金属の原子比よりも大きいことが望ましい。これは、金属ナノ粒子を、耐酸化性、熱的安定性の高い「非磁性金属/磁性金属の多い介在相」でブロックすることができ、前駆体金属ナノ粒子の耐酸化性、熱的安定性を効果的に高めることが可能となるためである。また、介在相中に含まれる酸素の含有量が、前駆体金属ナノ粒子の酸素の含有量よりも大きいことが望ましい。これは、前駆体金属ナノ粒子を、「酸素濃度が多く耐酸化性、熱的安定性の高い介在相」でブロックすることができ、前駆体金属ナノ粒子の耐酸化性、熱的安定性を効果的に高めることが可能となるためである。
【0293】
金属、半導体、酸化物、窒化物、炭化物またはフッ化物の中では、熱的安定性の観点から酸化物であることがより好ましい。
【0294】
金属、酸化物、窒化物、炭化物またはフッ化物の介在相は、粒子であってもかまわない。粒子の形態をとる介在相は、前駆体金属ナノ粒子の粒径より小さい粒子であることが望ましい。この時、粒子は、酸化物粒子でも良いし窒化物粒子でも良いし炭化物粒子でも良いしフッ化物粒子でも良い。しかし、熱的安定性の観点から酸化物粒子であることがより好ましい。以下では全て介在相が酸化物粒子である場合を例に説明する。
【0295】
なお、酸化物粒子のより好ましい存在状態は、前駆体金属ナノ粒子間に均一、かつ、均質に分散した状態である。これによって、より均一な磁気特性及び誘電特性が期待できる。この酸化物粒子は、前駆体金属ナノ粒子の耐酸化性、凝集抑制力、すなわち金属ナノ粒子の熱的安定性を向上させるのみならず、前駆体金属ナノ粒子同士を電気的に離し、粒子集合体および磁性材料の電気抵抗を高めることができる。磁性材料の電気抵抗を高くすることによって、高周波における渦電流損失を抑制し、透磁率の高周波特性を向上することが可能になる。このため、酸化物粒子は電気的に高抵抗であることが好ましく、例えば1mΩ・cm以上の抵抗値を有することが好ましい。
【0296】
酸化物粒子は、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素からなる群からから選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含む。これら非磁性金属は、酸化物の標準生成ギブスエネルギーが小さく酸化し易い元素で、安定的な酸化物を形成し易い。
【0297】
そして、前駆体金属ナノ粒子が被覆層を備える場合、この酸化物粒子中の非磁性金属/磁性金属(原子比)が、前駆体金属ナノ粒子を覆う被覆層中の非磁性金属/磁性金属(原子比)よりも大きくなっているのが好ましい。このように、非磁性金属の割合が高いことで、酸化物粒子は被覆層よりもさらに熱的に安定になる。
【0298】
このため、このような酸化物粒子が、前駆体金属ナノ粒子間の少なくとも一部に存在することによって、前駆体金属ナノ粒子同士の電気的絶縁性をより向上させることができ、また、磁性金属ナノ粒子の熱的な安定性を向上させることができる。
【0299】
なお、酸化物粒子は、磁性金属を含まなくても良いが、より好ましくは、磁性金属を含んでいた方が良い。含まれる磁性金属の好ましい量としては、磁性金属が非磁性金属に対して0.001原子%以上、好ましくは0.01原子%以上である。これは、磁性金属を全く含まないと、前駆体金属ナノ粒子の表面を被覆する被覆層と酸化物粒子の構成成分が完全に異なり、密着性や強度の点からあまり好ましくなく、更には熱的安定性もかえって悪くなってしまう可能性があるためである。また、前駆体金属ナノ粒子間に存在する酸化物粒子に磁性金属を全く含まないと、前駆体金属ナノ粒子同時が磁気的に結合しにくくなり、透磁率と透磁率の高周波特性の観点から好ましくない。
【0300】
よって、酸化物粒子は、より好ましくは、前駆体金属ナノ粒子の構成成分であり、かつ酸化物被覆層の構成成分である磁性金属の少なくとも1つを含有することが望ましく、更に好ましくは、酸化物粒子中の非磁性金属/磁性金属(原子比)が、酸化物被覆層中の非磁性金属/磁性金属(原子比)よりも大きくなっていることが望ましい。
【0301】
なお、酸化物粒子は、前駆体金属ナノ粒子に含まれる非磁性金属と同種、また、酸化物被覆層に含まれる非磁性金属と同種、の非磁性金属を含む酸化物粒子であることがより好ましい。同種の非磁性金属を含む酸化物粒子であることによって、磁性金属ナノ粒子の熱的安定性および耐酸化性がより向上するからである。
【0302】
なお、以上の、酸化物粒子の熱的安定性向上効果、電気的絶縁性効果、密着性・強度向上効果は、特に前駆体金属ナノ粒子の平均粒径が小さい時に効果を発揮し、前駆体金属ナノ粒子の粒径より小さい粒径の場合、特に効果的である。また、前駆体金属ナノ粒子の体積充填率は、粒子集合体である粒子集合体全体に対して30vol%以上80vol%以下であることが好ましい。より好ましくは、40vol%以上80vol%以下で、更に好ましくは50vol%以上80vol%以下である。
【0303】
次に、前駆体金属ナノ粒子と介在相を一体化する工程、すなわち、酸化物で被覆された前駆体金属ナノ粒子を複合一体化処理する工程に移る。この工程においては、急冷して得られる前駆体金属ナノ粒子をハイパワーミル装置によって複合一体化処理を行う。これによって、比較的容易に粒子集合体が得られる。
【0304】
ハイパワーミル装置は、強い重力加速度の印加できる装置であれば種類を選ばない(遊星ミル、ビーズミル、回転ボールミル、振動ボールミル、撹拌ボールミル(アトライター)、ジェットミルなどが挙げられる)が、例えば数十Gの重力加速度が印加できるハイパワー遊星ミル装置等が好ましい。ハイパワー遊星ミル装置の場合は、自転重力加速度の方向と公転重力加速度の方向が同一直線上の方向ではなく角度を持った方向になる、傾斜型遊星ミル装置がより好ましい。通常の遊星ミル装置では、自転重力加速度の方向と公転重力加速度の方向が同一直線上の方向であるが、傾斜型遊星ミル装置では容器が傾斜した状態で回転運動を行うため、自転重力加速度の方向と公転重力加速度の方向が同一直線上ではなく角度を持った方向になる。これによって、試料にパワーが効率よく伝達し、複合化・扁平化が効率良く進行するため好ましい。また重力加速度は、できれば40G以上、更に好ましくは100G以上の重力加速度を印加するのが好ましい。
【0305】
また、量産性を考慮すると、大量処理が容易なビーズミル装置が好ましい。すなわち、量産性を考慮したプロセスの場合、まず、ポリオール法、熱分解法、逆ミセル法、共沈法、メカノケミカル法、メカノフュージョン法等の液相合成法で前駆体金属ナノ粒子を合成し、次にゾルゲル法、ディップコート法、スピンコート法、共沈法、メッキ法等の液相コーティング法によって、前駆体金属ナノ粒子の表面の少なくとも一部に酸化物の介在相(被覆層)を形成し、その後、ビーズミル装置を用いて前駆体金属ナノ粒子と介在相を一体化させることが望ましい。この組み合わせは、各プロセスが液相プロセスで共通しているため連続処理が容易であり、また1度に大量の処理を施すことが可能であり、製造コストを安価にでき好ましい。また、液相プロセスは洗練された構造を有する均質材料を合成できるため、優れた磁気特性(高透磁率、低損失、高飽和磁化など)を実現することができ好ましい。
【0306】
ハイパワーミル装置による複合一体化処理においては、介在相を含む前駆体金属ナノ粒子を、径0.1mm以上10mm以下のボールと溶媒とともに湿式ミルで加工することが好ましい。溶媒は粒子が分散しやすい溶媒が好ましく、ケトン系溶媒、特にアセトンが好ましい。
【0307】
またボールの径は、0.1mm以上5mm以下が好ましく、より好ましくは0.1mm以上1mm以下である。ボールの径が小さすぎると、粉末の回収が困難になり収率が上がらず好ましくない。一方でボールの径が大きすぎると、粉末が接触する確率が低くなり、複合化・扁平化が進行しにくく好ましくない。効率性を考えると、0.1mm以上5mm以下が好ましく、より好ましくは0.1mm以上1mm以下である。
【0308】
また、ボールの試料粉末に対する重量比は、ボール径にもよるが10以上80以下がより好ましい。また、ハイパワーミル装置による複合一体化処理においては、条件によっては材料に歪みが入りやすい場合もあり、これは保磁力の増加に繋がり(保磁力が増加するとヒステリシス損失が増大し、磁気損失が増大する)、好ましくない。材料に不要な歪みを付与させず効率よく複合一体化処理を行えるような条件を選択することが望ましい。
【0309】
また、ハイパワーミル装置を使う際は、磁性ナノ粒子の酸化を極力抑制させるために、不活性ガス雰囲気中で行うのが好ましい。また、粉末を乾式で複合一体化処理を行うと、複合一体化処理が進行しやすいが、組織が粗大化しやすく回収が困難になる。また得られる粒子の形状も球状のものが多い。
【0310】
一方で、液体溶媒を用いた湿式で複合一体化処理を行うと、組織の粗大化が抑制され、また形状も扁平化になりやすいため好ましい。更に好ましくは、乾式と湿式と両方行うことによって、複合一体化を促進させつつ、組織の粗大化を抑制させる処理を行うことである。
【0311】
この様な手法を用いることによって、粒子集合体を容易に合成できるが、合成条件によっては、粒子集合体の形状をアスペクト比の大きい扁平状にすることも用意に実現可能であり、好ましい。アスペクト比の大きい複合粒子にすることによって、形状による磁気異方性を付与することができ、磁化容易軸の方向を一方向に揃えることによって、透磁率と透磁率の高周波特性を向上させることが可能となり好ましい。
【0312】
なお、粒子が若干酸化してしまっても、還元雰囲気下で熱処理を施すことによって、還元することが可能である。また、前駆体金属ナノ粒子の表面の少なくとも一部に酸化物の被覆層を成膜する工程は、前駆体金属ナノ粒子を複合一体化処理する本工程において行っても良い。
【0313】
つまり、本複合一体化処理工程において、処理条件を制御することによって、具体的には雰囲気の酸素分圧や、湿式混合時の液体溶媒の種類を制御することによって、酸化物を形成しつつ複合一体化処理を進行させることも可能である。この様に、酸化物を形成する工程は、前駆体金属ナノ粒子を合成した後に行う他、前駆体金属ナノ粒子を合成する工程内で行っても良いし、複合一体化処理工程内で行っても良い。
【0314】
なお、以上のような磁性材料を合成する手法は、前述の手法に限るわけではなく、例えば、以下の様な手法でも合成することが可能である。例えば、薄膜プロセス等で、ナノグラニュラー構造、すなわち、複数の磁性金属ナノ粒子がマトリックス中に充填された構造を合成し、その薄膜を剥離し、粉砕して粒子集合体にする手法である。
【0315】
まず、磁性金属と、非磁性金属を含む介在相となる酸化物、半導体、炭化物、窒化物、フッ化物を同時に成膜させる。以下ここでは酸化物について説明する。
【0316】
成膜方法は、ナノレベルで金属と酸化物の2相分離が進行する手法であれば特に限定されないが、スパッタ法や、蒸着法、PVD法などが好ましい。この様な手法によって、平均粒径が1nm以上20nm位下の磁性金属ナノ粒子を含有し、磁性金属ナノ粒子間に存在し、非磁性金属と磁性金属の少なくとも1つずつを含む酸化物を含有する粒子集合体磁性薄膜(ナノグラニュラー薄膜)を合成できる。
【0317】
なお、堆積膜の厚さは、ナノ複合構造を維持できる厚さで、特に限定されないが、一般に膜厚が厚くなると組織が乱れる傾向にあるため、1μm以下の厚さが好ましい。基板表面に堆積させた粒子集合体磁性薄膜は、基板から剥離させ回収し、回収した薄膜破片を粉砕する。粉砕する手法は特に限定されないが、例えば、回転ボールミル、振動ボールミル、攪拌ボールミル、遊星ミル、ジェットミル、乳鉢粉砕、等が挙げられる。
【0318】
このようにして、平均粒径が1nm以上100nm以下、好ましくは1nm以上20nm以下、更に好ましくは1nm以上10nm以下でFe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属を含有する前駆体金属ナノ粒子由来の金属ナノ粒子と、金属ナノ粒子間に存在し、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属と酸素(O)、窒素(N)または炭素(C)のいずれかを含む介在相を含有し、平均短寸法が10nm以上2μm以下、好ましくは10nm以上100nm以下で、平均アスペクト比が5以上、好ましくは10以上の形状の粒子集合体の形態であり、金属ナノ粒子の体積充填率が、粒子集合体全体に対して40vol%以上80vol%以下である磁性粒子を有する磁性材料を製造することが可能となる。
【0319】
なお、粒子集合体磁性薄膜の製膜条件や粉砕条件を適切に制御することにより、粒子集合体の平均短寸法が10nm以上2μm以下、好ましくは10nm以上100nm以下で、平均アスペクト比が5以上、好ましくは10以上の形状を呈するようにする。また、金属ナノ粒子の体積充填率が、粒子集合体全体に対して40vol%以上80vol%以下となるようにする。
【0320】
粒子集合体を形成する工程の後においては、以下の工程を行うことが好ましい。すなわち、粒子集合体とバインダー相とを混合し混合粉末を得る工程と、混合粉末を0.1kgf/cm以上のプレス圧で成形する工程と、成型後に50℃以上800℃以下、好ましくは300℃以上500℃以下の温度で熱処理する工程とを備えることが望ましい。更に望ましくは、粒子集合体とバインダー相とを混合し混合粉末を得る工程の前に、粒子集合体の表面を表面層で被覆する工程を加えることが好ましい。
【0321】
粒子集合体の表面を表面層で被覆する場合、表面層は有機系、無機系いずれでも良いが、耐熱性を考慮すると無機系が好ましい。有機系では、シランカップリング剤、シリコーン樹脂、ポリシラザン、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール系、エポキシ系、ポリブタジエン系、テフロン(登録商標)系、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロース系樹脂、ABS樹脂、ニトリル−ブタジエン系ゴム、スチレン−ブタジエン系ゴム、フェノール樹脂、アミド系樹脂、イミド系樹脂、或いはそれらの共重合体などが挙げられる。
【0322】
無機系では、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含む酸化物が好ましい。特に好ましくは、AlもしくはSiを含む酸化物である。
【0323】
また、酸化物は共晶系の酸化物やガラスも好ましく、B−SiO、B−Cr、B−MoO、B−Nb、B−Li、B−BaO、B−ZnO、B−La、B−P、B−Al、B−GeO、B−WO、B−CsO、B−KO、NaO−SiO、NaO−B、NaO−P、NaO−Nb、NaO−WO、NaO−MoO、NaO−GeO、NaO−TiO、NaO−As、NaO−TiO、LiO−MoO、LiO−SiO、LiO−GeO、LiO−WO、LiO−V、LiO−GeO、KO−SiO、KO−P、KO−TiO2、K2O−As2O5、K2O−WO3、K2O−MoO3、K2O−V2O、KO−Nb、KO−GeO、KO−Ta、CsO−MoO、CsO−V、CsO−Nb、CsO−SiO、CaO−P、CaO−B、CaO−V、ZnO−V、BaO−V、BaO−WO、Cr−V、ZnO−B、PbO−SiO、MoO−WO等が好ましい。中でも、B−SiO、B−Cr、B−MoO、B−Nb、B−Li、B−BaO、B−ZnO、B−La、B−P、B−Al、B−GeO、B−WO、NaO−SiO、NaO−B、NaO−P、NaO−Nb、NaO−WO、NaO−MoO、NaO−GeO、NaO−TiO、NaO−As、NaO−TiO、LiO−MoO、LiO−SiO、LiO−GeO、LiO−WO、LiO−V、LiO−GeO、CaO−P、CaO−B、CaO−V、ZnO−V、BaO−V、BaO−WO、Cr−V、ZnO−B、MoO−WOが好ましい。このような組み合わせの酸化物は、比較的低い共晶点を有し比較的容易に共晶を生成するため好ましい。特に1000℃以下の共晶点を有する組み合わせが好ましい。
【0324】
また酸化物の組み合わせとしては、2つ以上の組み合わせでも良く、例えば、NaO−CaO−SiO、KO−CaO−SiO、NaO−B−SiO、KO−PbO−SiO、BaO−SiO−B、PbO−B−SiO、Y−Al−SiOなどでも良い。また、例えば、La−Si−O−N、Ca−Al−Si−O−N、Y−Al−Si−O−N、Na−Si−O−N、Na−La−Si−O−N、Mg−Al−Si−O−N、Si−O−N、Li−K−Al−Si−O−N等でも良い。粒子集合体の表面を表面層で被覆することによって、粒子集合体の絶縁性が格段に向上するため、好ましい。
【0325】
表面層を形成するための手法は、均一且つ緻密に被覆できる方法であれば特に拘らない。無機系の表面層の場合は、例えばゾルゲル法、ディップコート法、スピンコート法、共沈法、メッキ法等は、簡便に緻密且つ均一な表面層を低温で形成できるため好ましい。尚、表面層を形成する際の熱処理温度は、緻密且つ均一に被覆が行える最低の温度で行うのが好ましく、出来れば400℃以下の熱処理温度で行えることが望ましい。
【0326】
粒子集合体とバインダー相とを混合し混合粉末を得る工程においては、均一に混合できる方法であれば手段は選ばない。好ましくは、混合時に粒子集合体に印加される重力加速度の方向が、ハイパワーミル装置で加工を施し粒子集合体を合成する際に粒子集合体に印加される重力加速度の方向に概ね一致することが好ましい。また、混合時に粒子集合体に印加される重力加速度の大きさは、ハイパワーミル装置で加工を施し粒子集合体を合成する際に粒子集合体に印加される重力加速度の大きさよりも小さくすることが好ましい。これによって試料に不要な歪みが付与されるのを極力抑制することができる。また、試料の不要な破砕を抑制することが出来好ましい。この様な観点から、本工程においては、ボールミル、スターラー撹拌などの混合方法が好ましい。
【0327】
バインダー相としては、表面層の場合と同様に、有機系、無機系いずれでも良いが、耐熱性を考慮すると無機系が好ましい。有機系、無機系ともに、好ましい材料組成は、表面層の場合と同様であるのでここでは省略する。表面層−バインダー相との組み合わせは特に拘らず、無機系−無機系、無機系−有機系、有機系−無機系、有機系−有機系、のいずれでも良いが、耐熱性の観点からは無機系−無機系の組み合わせが特に好ましい。
【0328】
混合粉末を0.1kgf/cm以上のプレス圧で成形する工程では、一軸プレス成型法、ホットプレス成型法、CIP(等方圧成形)法、HIP(熱間等方圧加圧法)法、SPS(放電プラズマ焼結法)法、等の手法が挙げられる。高抵抗を満足しつつ高密度、高飽和磁化を満たすための条件を選定する必要がある。特に好ましいプレス圧は、1kgf/cm以上6kgf/cm以下である。特に、ホットプレス、HIP、SPS等、加熱しながら成形する場合は、低酸素濃度の雰囲気下で行うのが好ましい。真空雰囲気下やH、CO、CH等の還元雰囲気下が望ましい。これは、加熱成形中に、磁性粒子が酸化して劣化するのを抑制するためである。
【0329】
成型後に50℃以上800℃以下、好ましくは300℃以上500℃以下の温度で熱処理する工程は、混合工程時や成型工程時に粒子集合体に印加された歪みを開放するために好ましい工程である。これによって、歪みによって増加した保磁力を低減させることが可能となり、これによってヒステリシス損失を低減させることが可能となる(磁気損失を低減できる)。尚、本工程の熱処理は、低酸素濃度の雰囲気下で行うのが好ましい。真空雰囲気下やH、CO、CH等の還元雰囲気下が望ましい。これは、加熱成形中に、磁性粒子が酸化して劣化するのを抑制するためである。尚、成型後の熱処理の工程は、成型工程時に同時に行っても良い。つまり、成型後の熱処理工程時の熱処理条件と同じ条件で熱処理を行いながら成型処理を行っても良い。
【0330】
本実施の形態によれば、平均粒径が1nm以上1μm以下でFe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属を含有する複数の前駆体金属ナノ粒子で、前駆体金属ナノ粒子の表面の少なくとも一部にMg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属と酸素(O)、窒素(N)または炭素(C)のいずれかを含む介在相が形成された前駆体金属ナノ粒子を、一体化することにより製造され、平均短寸法が10nm以上2μm以下で、平均アスペクト比が5以上の形状を有し、前駆体金属ナノ粒子由来の金属ナノ粒子の体積充填率が40vol%以上80vol%以下である粒子集合体からなる磁性材料を提供できる。
【0331】
また、本実施の形態によれば、前駆体金属ナノ粒子が、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含有する方法によって製造される磁性材料を提供できる。
【0332】
また、本実施の形態によれば、液相合成法によって合成される前駆体金属ナノ粒子を用いることにより製造される磁性材料を提供できる。
【0333】
また、本実施の形態によれば、上記一体化する工程が湿式ミルで行われる方法により製造される磁性材料を提供できる。
【0334】
(第10の実施の形態)
本実施の形態のデバイスは、上記実施の形態で説明した磁性材料を備えるデバイスである。したがって、上記実施の形態と重複する内容については記載を省略する。
【0335】
本実施の形態のデバイスは、例えば、インダクタ、チョークコイル、フィルター、トランス等の高周波磁性部品、アンテナ基板・部品、や電波吸収体である。
【0336】
上述の実施の形態の磁性材料の特徴を最も活かしやすい用途は、パワーインダクタ用のインダクタ素子である。特に、100kHz以上のMHz帯域、例えば10MHz帯域などにおいて、高い電流が印加されるパワーインダクタに、適用されると、効果を発揮しやすい。
【0337】
パワーインダクタ用の磁性材料に要求されるスペックとしては、高透磁率の他に、低磁気損失(主に低渦電流損失と低ヒステリシス損失)、良好な直流重畳特性が要求される。100kHzより低い周波数帯域でのパワーインダクタには、珪素鋼板やセンダスト、アモルファスリボン、ナノクリスタル系リボン、MnZn系フェライトなどの既存材料が使用されているが、100kHz以上の周波数帯域でパワーインダクタ用に要求されるスペックを十分に満たす磁性材料は存在しない。
【0338】
例えば、上述の金属系材料は100kHz以上の周波数では渦電流損失が大きくなるため使用が困難である。またMnZnフェライトや高周波帯域対応のNiZnフェライトは飽和磁化が低いため直流重畳特性が悪く好ましくない。つまり、100kHz以上のMHz帯域、例えば10MHz帯域などにおいては、高透磁率、低磁気損失、良好な直流重畳特性の全てを満たす磁性材料はこれまでのところ例がなく、その開発が強く求められている。
【0339】
その様な観点から、実施の形態の磁性材料は、特に、高透磁率、低磁気損失、良好な直流重畳特性に優れた材料と言える。まず、渦電流損失は高い電気抵抗によって低減できるが、特に上記磁性材料においては、磁性粒子または金属ナノ粒子間に電気抵抗の高い酸化物、半導体、炭化物、窒化物、フッ化物が含まれている。このため、電気抵抗を高くすることができ、好ましい。
【0340】
また、ヒステリシス損失は、磁性材料の保磁力(もしくは磁気異方性)を低くすることによって、低減できるが、上記磁性材料においては、個々の磁性粒子の磁気異方性が低い上に、個々の磁性金属粒子が磁気的に結合することによって、トータルの磁気異方性を更に低減することが可能となる。すなわち、上記磁性材料においては、渦電流損失もヒステリシス損失も十分に低減することが可能となる。
【0341】
また、良好な直流重畳特性を実現するためには、磁気飽和を抑制することが重要であり、そのためには高い飽和磁化を有する材料が好ましい。その点においても、上記実施の形態の磁性材料は、内部に飽和磁化の高い磁性金属粒子を選択することによって、トータルの飽和磁化を大きくすることができるため好ましい。なお、一般に透磁率は飽和磁化が大きいほど、また磁気異方性が小さいほど、大きくなる。このため、上記実施の形態の磁性材料は、透磁率も大きくすることが可能となる。
【0342】
以上の観点から、上記の実施の形態の磁性材料は、特に、100kHz以上のMHz帯域、例えば10MHz帯域などにおいて、高い電流が印加されるパワーインダクタにインダクタ素子として適用した場合、その効果を特に発揮しやすい。
【0343】
なお、上記実施の形態の磁性材料は、使用周波数帯域を変えることによって、インダクタ素子等の高透磁率部品としてだけでなく、電磁波吸収体としても使用することができる。一般に、磁性材料は、強磁性共鳴周波数付近において高いμ”を取るが、上記実施の形態の磁性材料では、強磁性共鳴損失以外の各種磁気損失、例えば、渦電流損失や磁壁共鳴損失などを極力抑制することができるため、強磁性共鳴周波数より十分に低い周波数帯域においては、μ”は小さくμ’を大きくすることができる。すなわち、1つの材料で、使用周波数帯域を変えることによって、高透磁率部品としても、電磁波吸収体としても使用することができるため好ましい。
【0344】
一方で、通常、電磁波吸収体として開発される材料は、強磁性共鳴損失、各種磁気損失(渦電流損失、磁壁共鳴損失等)からなるあらゆる損失を足し合わせてμ″をできる限り大きくする様に設計されるため、電磁波吸収体として開発される材料はたとえどの周波数帯域においてもインダクタ素子やアンテナ装置用の高透磁率部品(高いμ’かつ低いμ”)としては使うことは困難である。
【0345】
以上の様なデバイスに適用するために、磁性材料は、種々の加工を施すことを許容する。例えば焼結体の場合は、研磨や切削等の機械加工が施され、粉末の場合はエポキシ樹脂、ポリブタジエンのような樹脂との混合が施される。必要に応じてさらに表面処理が施される。
【0346】
図12、図13、図14は本実施の形態のデバイスの概念図である。高周波磁性部品がインダクタ、チョークコイル、フィルター、トランスである場合には巻線処理がなされる。
【0347】
最も基本的な構造としては、図12(a)のリング状の磁性材料にコイル巻き線が施されたインダクタ素子、図12(b)の棒状の磁性材料にコイル巻き線が施されたインダクタ素子、等が挙げられる。
【0348】
更には、図13(a)に示すコイルと磁性材料が一体となったチップインダクタ素子や、図13(b)に示す平面型インダクタ素子等にしたりすることもできる。図13(a)の場合、積層型にしても良い。
【0349】
また、図14は、トランス構造のインダクタ素子を示す。
【0350】
図12〜図14は代表的な構造を載せたにすぎず、実際は、用途と要求されるインダクタ素子特性に応じて、構造や寸法を変えると良い。
【0351】
本実施の形態のデバイスによれば、特に100kHz以上のMHz帯域で高い透磁率実部(μ’)と低い透磁率虚部(μ”)を有し、かつ、高い強度、高い飽和磁化、高い熱的安定性、高い耐酸化性を有する磁性材料を用いることにより、特性に優れたデバイスが実現可能となる。
【0352】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。上記、実施の形態はあくまで、例として挙げられているだけであり、本発明を限定するものではない。また、各実施の形態の構成要素を適宜組み合わせてもかまわない。
【0353】
そして、実施の形態の説明においては、磁性材料、磁性材料の製造方法、インダクタ素子等で、本発明の説明に直接必要としない部分等については記載を省略したが、必要とされる磁性材料、磁性材料の製造方法、インダクタ素子に関わる要素を適宜選択して用いることができる。
【0354】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全ての磁性材料、磁性材料の製造方法、インダクタ素子は、本発明の範囲に包含される。本発明の範囲は、特許請求の範囲およびその均等物の範囲によって定義されるものである。
【実施例】
【0355】
以下に、本発明の実施例1〜13を、比較例1〜5と対比しながらより詳細に説明する。以下に示す実施例及び比較例によって得られる磁性材料について、磁性粒子の形状・平均粒径(もしくは平均高さ)・平均アスペクト比・組成、第1の酸化物の組成、第2の酸化物の組成、第3の酸化物の組成、共晶組織の組成を表1に示す。なお、磁性粒子の平均粒径(もしくは平均高さ)の測定はTEM観察・SEM観察に基づいて多数の粒子の平均値で算出する。なお、実施例7の磁性粒子は、金属ナノ粒子が高密度に分散した粒子集合体であり、磁性粒子内部の金属ナノ粒子の平均粒径は、TEM観察、XRDによる結晶粒径(Sherrerの式利用)によって総合的に判断する。また、微構造の組成分析はEDX分析に基づいて行う。
【0356】
(実施例1)
まず、水アトマイズ法によって、球状のFeCoAl磁性粒子を合成する。次に、この磁性粒子にゾルゲル法によってSiO被覆層(第1の酸化物の第1の被覆層)を形成させる。その後、SiO被覆層で形成された磁性粒子とB粒子(第2の酸化物の酸化物粒子)とをボールミルにて十分に混合する。その後、混合粒子をプレス成形し、真空中で600℃の熱処理を行うことによって、評価用の磁性材料を得る。
【0357】
第1の実施の形態の図1で示すと同様の磁性材料が得られる。磁性材料には、磁性粒子の他に、第1の酸化物と第2の酸化物が残存し、第1の酸化物と第2の酸化物とから生成される共晶組織を備える酸化物相が磁性粒子間に存在している。
【0358】
(実施例2)
実施例1の磁性粒子に部分酸化処理を施すことによって、第3の酸化物となるAlFeCo−O酸化物をFeCoAl磁性粒子の表面に被覆層(第2の被覆層)として形成させる。その後の処理は実施例1と同じである。
【0359】
第1の実施の形態の図3で示す変形例と同様の磁性材料が得られる。磁性材料には、第3の酸化物で被覆された磁性粒子の他に、第1の酸化物と第2の酸化物が残存し、第1の酸化物と第2の酸化物とから生成される共晶組織を備える酸化物相が磁性粒子間に存在している。
【0360】
(実施例3)
高周波誘導熱プラズマ装置のチャンバー内にプラズマ発生用ガスとしてアルゴンを40L/分で導入し、プラズマを発生させる。このチャンバー内のプラズマに原料である平均粒径5μmのFe粉末と平均粒径5μmのCo粉末と、平均粒径3μmのAl粉末をアルゴン(キャリアガス)と共に3L/分で噴射する。急冷して得られるFeCoAl磁性粒子をZrOボールとZrO容器を用いた遊星型ミルによってAr雰囲気下において約2000rpmの扁平化処理を行う。その後、得られた扁平粉末をH雰囲気下で十分に加熱処理を施し、均質な扁平磁性粒子を得る。その後、得られた扁平磁性粒子に部分酸化処理を施すことによって、第3の酸化物となるAlFeCo−O酸化物被覆層(第2の被覆層)をFeCoAl磁性粒子の表面に形成させる。その後の処理は実施例1と同じである。
【0361】
磁性材料には、第3の酸化物で被覆された磁性粒子の他に、第1の酸化物と第2の酸化物が残存し、第1の酸化物と第2の酸化物とから生成される共晶組織を備える酸化物相が磁性粒子間に存在している。
【0362】
(実施例4)
実施例3のCo粉末を平均粒径3μmのNi粉末に、Al粉末を平均粒径5μmのSi粉末に変える以外は実施例3と同様である。なお、磁性材料には、第3の酸化物で被覆された磁性粒子の他に、第1の酸化物と第2の酸化物が残存し、第1の酸化物と第2の酸化物とから生成される共晶組織を備える酸化物相が磁性粒子間に存在している。
【0363】
(実施例5)
実施例3の扁平磁性粒子の表面にAlFeCo−O酸化物被覆層を形成させた後、この磁性粒子にゾルゲル法によってSiO被覆層(第1の酸化物)を形成させる。その後、SiO被覆層で形成された磁性粒子とB粒子(第2の酸化物)とをボールミルにて十分に混合する。その後、混合粒子をプレス成形し、真空中で600℃の長時間熱処理を行い、完全に第1の酸化物と第2の酸化物を共晶溶融させ、評価用の磁性材料を得る。なお、磁性材料には、第3の酸化物で被覆された磁性粒子の他に、第1の酸化物と第2の酸化物とから生成される共晶組織を備える酸化物相が磁性粒子間に存在しているが、第1の酸化物と第2の酸化物は残存していない。
【0364】
(実施例6)
実施例3において、扁平磁性粒子の表面にAlFeCo−O酸化物被覆層を形成させた後、この磁性粒子にゾルゲル法によってSiO被覆層(第1の酸化物)を形成させる。その後、SiO被覆層で形成された磁性粒子とB粒子(第2の酸化物)とをボールミルにて十分に混合する。その後の熱処理は行わない。この混合粒子をプレス成形することによって、評価用の磁性材料を得る。なお、磁性材料には、第3の酸化物で被覆された磁性粒子の他に、第1の酸化物と第2の酸化物が存在している。共晶組織を備える酸化物相は存在しない。
【0365】
(実施例7)
高周波誘導熱プラズマ装置のチャンバー内にプラズマ発生用ガスとしてアルゴンを40L/分で導入し、プラズマを発生させる。このチャンバー内のプラズマに原料である平均粒径5μmのFe粉末と平均粒径5μmのCo粉末と、平均粒径3μmのAl粉末をアルゴン(キャリアガス)と共に3L/分で噴射する。急冷して得られるFeCoAl磁性粒子に部分酸化処理を施すことによって、Al−Fe−Co−Oで被覆されたFeCoAl磁性粒子を得る。このAl−Fe−Co−Oで被覆されたFeCoAl磁性粒子に関して、ZrOボールとZrO容器を用いた遊星型ミルによってAr雰囲気下において約2000rpmの扁平化処理を行う。その後、200℃の低温でH熱処理を行い、この磁性粒子にゾルゲル法によってSiO被覆層(第1の酸化物)を形成させる。その後、SiO被覆層で形成された磁性粒子(粒子集合体)とB粒子(第2の酸化物)とをボールミルにて十分に混合する。その後、混合粒子をプレス成形し、真空中で600℃の熱処理を行うことによって、評価用の磁性材料を得る。
【0366】
磁性粒子は、平均粒径8nmのFeNiAl粒子(金属ナノ粒子)がAlFeNiOマトリックス(介在相)中に高密度に分散した粒子集合体となっている。なお、磁性材料には、磁性粒子の他に、第1の酸化物と第2の酸化物が残存し、第1の酸化物と第2の酸化物とから生成される共晶組織を備える酸化物相が磁性粒子間に存在している。
【0367】
(実施例8)
実施例7のCo粉末を平均粒径3μmのNi粉末に、Al粉末を平均粒径5μmのSi粉末に変える以外は実施例7と同じである。磁性粒子は、平均粒径8nmのFeNiSi粒子(金属ナノ粒子)がSiFeNiOマトリックス(介在相)中に高密度に分散した粒子集合体となっている。なお、磁性材料には、磁性粒子の他に、第1の酸化物と第2の酸化物が残存し、第1の酸化物と第2の酸化物とから生成される共晶組織を備える酸化物相が磁性粒子間に存在している。
【0368】
(実施例9)
実施例7のCo粉末を平均粒径3μmのNi粉末に、Al粉末を平均粒径5μmのSi粉末に変えること、得られた混合粒子をプレス成形し真空中で600℃の長時間熱処理を行うこと、以外は実施例7と同じである。磁性粒子は、平均粒径8nmのFeNiSi粒子(金属ナノ粒子)がSiFeNiOマトリックス(介在相)中に高密度に分散した粒子集合体となっている。なお、磁性材料には、磁性粒子の他に、第1の酸化物と第2の酸化物とから生成される共晶組織を備える酸化物相が磁性粒子間に存在しているが、第1の酸化物と第2の酸化物は残存していない。
【0369】
(実施例10)
実施例7のCo粉末を平均粒径3μmのNi粉末に、Al粉末を平均粒径5μmのSi粉末に変えること、ボールミルにて十分に混合した混合粒子を熱処理は行わずプレス成形することによって評価用の磁性材料を得ること、以外は実施例7と同じである。磁性粒子は、平均粒径8nmのFeNiSi粒子(金属ナノ粒子)がSiFeNiOマトリックス(介在相)中に高密度に分散した粒子集合体となっている。なお、磁性材料には、磁性粒子の他に、第1の酸化物と第2の酸化物が存在している。共晶組織を備える酸化物相は存在しない。
【0370】
(実施例11)
まず、水アトマイズ法によって、球状のFeBAl磁性粒子を合成する。その後の処理は、実施例1と同じである。なお、成形時においては、磁場を1T印加した状態で配向させて、プレス成形を行う。磁性粒子はアモルファスとなっており磁場により配向される。なお、磁性材料には、磁性粒子の他に、第1の酸化物と第2の酸化物が残存し、第1の酸化物と第2の酸化物とから生成される共晶組織を備える酸化物相が磁性粒子間に存在している。
【0371】
(実施例12)
まず、水アトマイズ法によって、球状のCoAl磁性粒子を合成する。その後、部分酸化処理を施すことによって、第3の酸化物となるAlCo−O酸化物をCoAl磁性粒子の表面に形成させる。その後の処理は実施例1と同じである。磁性粒子の結晶構造が六方晶構造であり磁場により配向される。なお、成形時においては、磁場を1T印加した状態で配向させて、プレス成形を行う。なお、磁性材料には、第3の酸化物で被覆された磁性粒子の他に、第1の酸化物と第2の酸化物が残存し、第1の酸化物と第2の酸化物とから生成される共晶組織を備える酸化物相が磁性粒子間に存在している。
【0372】
(実施例13)
高周波誘導熱プラズマ装置のチャンバー内にプラズマ発生用ガスとしてアルゴンを40L/分で導入し、プラズマを発生させる。このチャンバー内のプラズマに原料である平均粒径5μmのFe粉末と平均粒径5μmのCo粉末と、平均粒径3μmのAl粉末をアルゴン(キャリアガス)と共に3L/分で噴射する。急冷して得られるFeCoAl磁性粒子に熱処理を加えて粒径を制御した後、部分酸化処理を施すことによって、第3の酸化物となるAlFeCo−O酸化物をFeCoAl磁性粒子の表面に形成させる。その後得られた磁性粒子にゾルゲル法によってSiO被覆層(第1の酸化物)を形成させる。その後、SiO2被覆層で形成された磁性粒子とB粒子(第2の酸化物)とをボールミルにて十分に混合する。その後、混合粒子をプレス成形し、真空中で600℃の熱処理を行うことによって、評価用の磁性材料を得る。なお、磁性材料には、第3の酸化物で被覆された磁性粒子の他に、第1の酸化物と第2の酸化物が残存し、第1の酸化物と第2の酸化物とから生成される共晶組織を備える酸化物相が磁性粒子間に存在している。
【0373】
(比較例1)
実施例1で合成した球状のFeCoAl磁性粒子にゾルゲル法によってSiO被覆層(第1の酸化物)を形成させ、プレス成形後に真空中で600℃の熱処理を行うことによって、評価用の磁性材料を得る。なお、磁性材料には、磁性粒子の他に、第1の酸化物のみが存在している。
【0374】
(比較例2)
実施例1で合成した球状のFeCoAl磁性粒子に、ボールミルによってB粒子(第2の酸化物)を十分に混合し、プレス成形後に真空中で600℃の熱処理を行うことによって、評価用の磁性材料を得る。なお、磁性材料には、磁性粒子の他に、第2の酸化物のみが存在している。
【0375】
(比較例3)
実施例1で合成した球状のFeCoAl磁性粒子にゾルゲル法によってSiO被覆層(第1の酸化物)を形成させ、その後、SiO被覆層で形成された磁性粒子とB粒子(第2の酸化物)とをボールミルにて十分に混合する。この際、B粒子はその後の熱処理でSiOと完全に溶融する様にSiO量に比べて十分に少ない量に配合する。その後、得られた混合粒子をプレス成形し、真空中で600℃の熱処理を行うことによって、評価用の磁性材料を得る。なお、磁性材料には、磁性粒子の他に、第1の酸化物と、第1の酸化物と第2の酸化物とから生成される共晶組織を備える酸化物相が磁性粒子間に存在しており、第2の酸化物は存在しない。
【0376】
(比較例4)
実施例3において、扁平磁性粒子の表面にAlFeCo−O酸化物被覆層(第1の被覆層)を形成させた後、この磁性粒子にゾルゲル法によってSiO被覆層(第1の酸化物)を形成させプレス成形後に真空中で600℃の熱処理を行うことによって、評価用の磁性材料を得る。なお、磁性材料には、第3の酸化物(第1の被覆層)で被覆された磁性粒子の他に、第1の酸化物のみが存在している。
【0377】
実施例1〜13および比較例1〜4の評価用材料に関して、以下の方法で透磁率実部(μ’)、透磁率損失(μ−tanδ=μ”/μ’×100(%))、100時間後の透磁率実部(μ’)の経時変化を評価する。評価結果を表2に示す。
【0378】
1)透磁率実部μ’、透磁率損失(μ−tanδ=μ”/μ’×100(%))
インピーダンスアナライザーを用いて、リング状の試料の透磁率を測定する。100kHzと10MHzの2つの周波数での実部μ’、虚部μ”を測定する。球状の粒子に関しては、100kHzでの値を測定し、扁平状の粒子に関しては、100kHzと10MHzでの値を測定する。また、透磁率損失μ−tanδは、μ”/μ’×100(%)で算出する。
【0379】
2)100時間後の透磁率実部μ’の経時変化
評価用試料を温度200℃、大気中で100時間加熱した後、再度、透磁率実部μ’を測定し、経時変化(100H放置後の透磁率実部μ’/放置前の透磁率実部μ’)を求める。
【0380】
【表1】

【0381】
【表2】

【0382】
表1から明らかなように実施例1〜実施例13に係る磁性材料は、球状の場合は、平均粒径が50nm以上50μm以下で、扁平状の場合は平均高さが10nm以上100nm以下、平均アスペクト比が10以上である。
【0383】
また磁性粒子に含まれる磁性金属は、実施例1、2、3、5、6、13がFeCo、実施例4、7、8、9、10がFeNi、実施例11がFe、実施例12がCoになっている。また磁性粒子に含まれる非磁性金属は、実施例1〜3、5〜7、11〜13がAl、実施例4、8〜10がSiになっている。また第1の酸化物と第2の酸化物の組み合わせはSi−O酸化物とB−O酸化物の組み合わせになっている。実施例1〜4、7〜8、11〜13は第1の酸化物のSi−O、第2の酸化物のB−O、共晶組織のSi−B−O、の3つが磁性粒子間の存在し、実施例2〜4、12〜13では更に第3の酸化物が存在している。実施例5では第3の酸化物AlFeCoO、共晶組織Si−B−Oの2つが磁性粒子間に存在している。実施例6では第3の酸化物AlFeCoO、第1の酸化物Si−O、第2の酸化物B−Oの3つが磁性粒子間に存在している。実施例9では共晶組織Si−B−Oのみが磁性粒子間に存在している。実施例10では、第1の酸化物Si−O、第2の酸化物B−Oの2つが磁性粒子間に存在している。
【0384】
一方で、比較例1では実施例1と磁性粒子は同じものの、第1の酸化物のSi−Oのみしか磁性粒子間に存在していない。比較例2では、実施例1と磁性粒子は同じものの、第2の酸化物のB−Oのみしか磁性粒子間に存在していない。比較例3では、実施例1と磁性粒子は同じものの、第1の酸化物のSi−Oと共晶組織Si−B−Oの2つしか磁性粒子間に存在していない。また比較例4では、実施例3、5、6と磁性粒子はほとんど同じものの、第1の酸化物のSi−O、第3の酸化物のAlFeCoOの2つしか磁性粒子間に存在していない。
【0385】
表2には、透磁率実部(μ’)、透磁率損失(μ−tanδ=μ”/μ’×100(%))、200℃・100時間後の透磁率実部(μ’)の経時変化が示されている。表2から明らかなように実施例1〜実施例13に係る磁性材料は、比較例の材料と比べて優れた磁気特性を有することがわかる。
【0386】
図13は、実施例3の透磁率(μ’、μ”)の周波数特性を示す図である。100MHzまでμ”はほぼゼロであり(すなわちμ”もほぼゼロ)、200MHz付近から急峻にμ″が立ち上がっていることが分かる。つまり、100kHz以上100MHzまでの高周波帯域において、高い透磁率と低い損失を有することが分かる。なお、このようにμ”の立ち上がりが急峻な材料の場合、周波数帯域を更に高い周波数帯域に選べば、例えば1GHz〜10GHzなどを選べば電波吸収体としても利用することが可能である。
【0387】
実施例1、2、11〜13は、比較例1〜3と比べて高透磁率、低損失であり、かつ、100時間後の透磁率実部の経時変化が少ない。また、実施例3〜10は、比較例4〜5と比べて高透磁率、低損失であり、かつ、100時間後の透磁率実部の経時変化が少ない。これらはいずれも、Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属とAlもしくはSiから選ばれる少なくとも1つの非磁性金属とを含有する磁性粒子と、この磁性粒子間に存在する第1の酸化物Si−O被覆層と第2の酸化物B−O粒子、もしくは、第1の酸化物と第2の酸化物とのSi−B−O共晶組織、もしくは、第1の酸化物Si−O被覆層と第2の酸化物B−O粒子とSi−B−O共晶組織が含まれることによって、高い特性を実現できている。
【0388】
つまり、共晶反応系の2つの酸化物、もしくは、その共晶組織、もしくは、共晶反応系の2つの酸化物とその共晶組織、とで取り囲むことによって、熱的に安定でかつ耐酸化性も高い状態を維持できる。これによって、高い透磁率と低い損失を実現でき、この特性を高温熱処理後にも維持することが出来ていると思われる。
【0389】
また、共晶組織になることによって強度的にも強い材料になるため加熱、冷却時の亀裂・破損の発生が極力抑制され、それによって磁性粒子の酸化も効果的に抑制できていると考えられる。
【0390】
以上、実施例1〜13に係る磁性材料は、100kHz以上のMHz帯域で高い透磁率実部(μ’)と低い透磁率虚部(μ”)を備え、かつ、高い飽和磁化、高い熱的安定性、高い耐酸化性を備えることが分かる。

【0391】
次に以下実施例14〜実施例22について、比較例5と対比しながら説明する。以下に示す実施例及び比較例によって得られる磁性材料について、磁性粒子の形状・平均高さ・平均アスペクト比・抵抗率、金属ナノ粒子の形状・組成・粒径・充填率・平均粒子間距離、介在相の組成を表3に示す。なお、磁性粒子の平均高さの測定はTEM観察・SEM観察に基づいて多数の粒子の平均値で算出する。なお、実施例の磁性粒子は、金属ナノ粒子が高密度に分散した粒子集合体であり、磁性粒子内部の金属ナノ粒子の平均粒径は、TEM観察、XRDによる結晶粒径(Sherrerの式利用)によって総合的に判断する。また、微構造の組成分析はEDX分析に基づいて行う。
【0392】
(実施例14)
高周波誘導熱プラズマ装置のチャンバー内にプラズマ発生用ガスとしてアルゴンを40L/分で導入し、プラズマを発生させる。このチャンバー内のプラズマに原料である平均粒径5μmのFe粉末と平均粒径3μmのNi粉末と、平均粒径5μmのSi粉末をアルゴン(キャリアガス)と共に3L/分で噴射する。急冷して得られるFeNiSi磁性粒子に部分酸化処理を施すことによって、Si−Fe−Ni−Oで被覆されたFeNiSi磁性粒子を得る。このSi−Fe−Ni−Oで被覆されたFeNiSi磁性粒子に関して、ZrOボールとZrO容器を用いた遊星型ミルによってAr雰囲気下において約2000rpmの扁平複合化処理を行う。その後、200℃の低温でH2熱処理を行い、得られた粒子を成形することによって、評価用の磁性材料を得る。第7の実施の形態の図7で示すと同様の磁性材料が得られる。得られる磁性材料は、球状の金属ナノ粒子が酸化物マトリックス(介在相)中に高密度に充填された扁平粒子集合体である。
【0393】
(実施例15)
実施例14のSi粉末を、平均粒径3μmのAl粉末に変える以外は実施例14と同じである。
【0394】
(実施例16)
実施例14のNi粉末を平均粒径5μmのCo粉末に、Si粉末を平均粒径3μmのAl粉末に変える以外は実施例14と同じである。
【0395】
(実施例17)
実施例14のNi粉末を平均粒径5μmのCo粉末に変える以外は実施例14と同じである。
【0396】
(実施例18)
実施例17のNi粉末とFe粉末の投入割合を、最終的に得られるFeNi磁性金属ナノ粒子の充填率が78vol%になる様に調整する以外は実施例17と同じである。なお、実施例17の場合の最終的に得られるFeNi磁性金属ナノ粒子の充填率は41vol%である。
【0397】
(実施例19)
実施例17において、ZrOボールとZrO容器を用いた遊星型ミルによる扁平複合化処理条件を制御することによって最終的に得られるFeNi磁性金属ナノ粒子をアスペクト比4の棒状の粒子にすること以外は実施例17と同じである。
【0398】
(実施例20)
実施例17において、FeCoSi粒子を合成する際にBを固溶させること、磁性金属粒子の充填率を50vol%にすること以外は、実施例17と同じである。
【0399】
(実施例21)
実施例14において投入する粉末を、平均粒径5μmのCo粉末、平均粒径3μmのAl粉末、平均粒径10μmのCr粉末とすること、ZrOボールとZrO容器を用いた遊星型ミルによる扁平複合化処理条件を制御することによって最終的に得られるhcp相のCoCrAl磁性金属ナノ粒子をアスペクト比10の棒状の粒子にすること以外は実施例14と同じである。
【0400】
(実施例22)
実施例14の個々の扁平複合粒子間にFeCoAl磁性金属ナノ粒子(金属相)がAl−FeCo−Oマトリックス(第2の介在相)中に分散した複合相が存在すること以外は実施例14と同じである。この複合相は、次の手法で合成する。まず高周波誘導熱プラズマ装置のチャンバー内にプラズマ発生用ガスとしてアルゴンを40L/分で導入し、プラズマを発生させる。このチャンバー内のプラズマに原料である平均粒径5μmのFe粉末と平均粒径5μmのCo粉末と、平均粒径3μmのAl粉末をアルゴン(キャリアガス)と共に3L/分で噴射する。急冷して得られるFeCoAl磁性粒子に部分酸化処理を施すことによって、Al−Fe−Co−Oで被覆されたFeCoAl磁性粒子を得る。このAl−Fe−Co−Oで被覆されたFeCoAl磁性粒子に関して、ZrOボールとZrO容器を用いた遊星型ミルによってAr雰囲気下において約2000rpmの扁平複合化処理を行う。その後、200℃の低温でH熱処理を行い、複合相を得る。この複合相と実施例14で合成した扁平粒子集合体をボールミルで混合し、得られた粒子を成形することによって、評価用の磁性材料を得る。
【0401】
(実施例23)
実施例14の個々の扁平粒子集合体間にFeCoAl磁性金属ナノ粒子(金属相)の表面をAl−FeCo−O酸化物被覆層(第2の介在相)で覆ったコアシェル型磁性粒子(複合相)が存在すること以外は実施例14と同じである。コアシェル型磁性ナノ粒子は、次の手法で合成する。まず高周波誘導熱プラズマ装置のチャンバー内にプラズマ発生用ガスとしてアルゴンを40L/分で導入し、プラズマを発生させる。このチャンバー内のプラズマに原料である平均粒径5μmのFe粉末と平均粒径5μmのCo粉末と、平均粒径3μmのAl粉末をアルゴン(キャリアガス)と共に3L/分で噴射する。また噴射と同時に、チャンバー内に炭素被覆の原料としてアセチレンガスをキャリアガスと共に導入し、金属ナノ粒子が炭素で被覆された粒子を得る。この炭素被覆磁性金属ナノ粒子を500mL/分、濃度99%の水素フロー下、600℃にて熱処理を施し、室温まで冷却した後、酸素含有雰囲気中にて取り出して酸化することにより、コアシェル型磁性粒子を得る。なお、コアシェル型磁性粒子の被覆層は酸素含有雰囲気中にて取り出す際に形成される。このコアシェル型磁性粒子と実施例14で合成した扁平粒子集合体をボールミルで混合し、得られた粒子を成形することによって、評価用の磁性材料を得る。
【0402】
(実施例24)
ポリオール法による液相合成法でFeNi金属ナノ粒子(Fe:Ni=50:50原子%)を合成し、次にゾルゲル法による液相コーティング法でSi酸化物被覆層をFeNi金属ナノ粒子表面に形成する(Si酸化物量はFeNiを100に対して6重量%である)。その後、ビーズミル装置を用いてとFeNi金属ナノ粒子とSi酸化物被覆層(介在相)を一体化させる(扁平複合化処理を行う)。その後、400℃でH2熱処理を行い、得られた粒子を、ゾルゲル法によってSiOコーティングを施し、その後、SiO−B系ガラスバインダー相とともに混合し、得られた混合粉末を3000kgf/cm2、300℃で一軸ホットプレス処理を行う。その後、得られた成型体をH2雰囲気下で400℃の熱処理を行い、評価用の磁性材料を得る。本磁性材料は、第7の実施の形態の図7で示すと同様の磁性材料である。つまり、得られる磁性材料は、球状の金属ナノ粒子が酸化物マトリックス(介在相)中に高密度に充填された扁平粒子集合体である。
【0403】
(実施例25)
実施例24において、FeNi金属ナノ粒子(Fe:Ni=50:50原子%)を合成し、次にゾルゲル法による液相コーティング法でAl酸化物被覆層をFeNi金属ナノ粒子表面に形成する(Al酸化物量はFeNiを100に対して7重量%である)。本磁性材料は、実施例24と同様、第7の実施の形態の図7で示すと同様の磁性材料である。
【0404】
(実施例26)
実施例24において、扁平複合化処理を行い、400℃でH熱処理を行った後、ゾルゲル法によってSiOコーティングを施し、その後、耐熱性樹脂バインダー相とともに混合すること以外は、実施例24と同じである。
【0405】
(実施例27)
実施例14において、FeNiSi磁性粒子の組成をFe:Ni=50:50原子%、SiはFeNiを100に対して4重量%にする。また、扁平複合化処理を行い、400℃のH熱処理を行った後、得られた粒子をゾルゲル法によってSiOコーティングを施し、その後、SiO−B系ガラスバインダー相とともに混合し、得られた混合粉末を3000kgf/cm、300℃で一軸ホットプレス処理を行う。その後、得られた成型体をH雰囲気下で400℃の熱処理を行い、評価用の磁性材料を得る。それ以外は実施例14と同じである。
【0406】
(実施例28)
実施例15において、FeNiAl磁性粒子の組成をFe:Ni=50:50原子%、AlはFeNiを100に対して5重量%にする。また、扁平複合化処理を行い、400℃のH熱処理を行った後、得られた粒子をゾルゲル法によってSiOコーティングを施し、その後、SiO−B系ガラスバインダー相とともに混合し、得られた混合粉末を3000kgf/cm、300℃で一軸ホットプレス処理を行う。その後、得られた成型体をH2雰囲気下で400℃の熱処理を行い、評価用の磁性材料を得る。それ以外は実施例15と同じである。
【0407】
(実施例29)
一次粒径が100nm以下の、酸化鉄と酸化ニッケル、酸化ケイ素を、酸化鉄:酸化ニッケル:酸化ケイ素=49:45:6重量%になる様に秤量して、混合・塊砕を行う。しかる後に、混合粉末を電気炉内に導入して400℃のH熱処理を行い、金属鉄、金属ニッケル、酸化ケイ素からなる混合粉末を得る(Fe:Ni=50:50原子%、Si酸化物はFeNiを100に対して9重量%に相当)。その後、混合粒子をビーズミル装置にてAr雰囲気下で扁平複合化処理を行い、400℃でH2熱処理を行う。得られた粒子を、ゾルゲル法によってSiOコーティングを施し、その後、SiO−B系ガラスバインダー相とともに混合し、得られた混合粉末を3000kgf/cm、300℃で一軸ホットプレス処理を行う。その後、得られた成型体をH雰囲気下で400℃の熱処理を行い、評価用の磁性材料を得る。本磁性材料は、第7の実施の形態の図7で示すと同様の磁性材料である。つまり、得られる磁性材料は、球状の金属ナノ粒子が酸化物マトリックス(介在相)中に高密度に充填された扁平粒子集合体である。
【0408】
(実施例30)
実施例29において、扁平複合化処理を行い、400℃でH熱処理を行った後、ゾルゲル法によってSiOコーティングを施し、その後、耐熱性樹脂バインダー相とともに混合すること以外は、実施例29と同じである。
【0409】
(比較例5)
粒径約5μmのFeCo粒子を、ZrOボールとZrO容器を用いた遊星型ミルによってAr雰囲気下において約2000rpmの粉砕を行い、平均高さ90nm、アスペクト比10のFeCo扁平粒子を合成する。その後、得られた粒子を成形することによって、評価用の磁性材料を得る。
【0410】
実施例14〜22および比較例6の評価用材料に関して、以下の方法で透磁率実部(μ’)、透磁率損失(μ−tanδ=μ”/μ’×100(%))、100時間後の透磁率実部(μ’)の経時変化を評価する。評価結果を表4に示す。
【0411】
1)透磁率実部μ’、透磁率損失(μ−tanδ=μ”/μ’×100(%))
インピーダンスアナライザーを用いて、リング状の試料の透磁率を測定する。10MHzの周波数での実部μ’、虚部μ”を測定する。また、透磁率損失μ−tanδは、μ”/μ’×100(%)で算出する。
【0412】
2)100時間後の透磁率実部μ’の経時変化
評価用試料を温度60℃、大気中で100時間加熱した後、再度、透磁率実部μ’を測定し、経時変化(100H放置後の透磁率実部μ’/放置前の透磁率実部μ’)を求める。
【0413】
【表3】

【0414】
【表4】

【0415】
表3から明らかなように、実施例14〜実施例23に係る磁性材料は、1nm以上10nm以下の平均粒径を有する金属ナノ粒子が、40vol%以上80vol%以下の充填率で充填された、扁平状の粒子集合体を磁性粒子とする。また、この磁性粒子の平均高さは10nm以上100nm以下で、平均アスペクト比が10以上の形状を有している。磁性粒子の抵抗率は、100μΩ・cm以上100mΩ・cm以下である。
【0416】
また、実施例14〜17、20、22、23の磁性材料は金属ナノ粒子の平均粒子間距離が0.1nm以上5nm以下である。実施例19では、扁平状の磁性粒子の内部に棒状の金属ナノ粒子が分散し、この棒状の金属ナノ粒子は扁平状粒子集合体の面内に横たわり配向している。実施例21では、扁平状の磁性粒子の内部に棒状のhcp相(六方晶)Co系磁性金属ナノ粒子が分散し、この棒状の金属ナノ粒子は扁平状粒子集合体の面内に横たわり配向している。金属ナノ粒子の組成は、実施例14、22、23がFeNiSi系、実施例15がFeNiAl系、実施例16がFeCoAl系、実施例17、18、19がFeCoSi系、実施例21がCoCrAl系、実施例20がFeCoSiにBを添加した系になっている。なお、実施例22では、磁性粒子の間にFeCoAl磁性金属ナノ粒子(金属相)がAl−FeCo−Oマトリックス(第2の介在相)に分散した複合相が介在している。実施例23では、磁性粒子の間にFeCoAl磁性金属ナノ粒子(金属相)の表面をAl−FeCo−O酸化物被覆層(第2の介在相)で覆ったコアシェル型磁性粒子が介在している。
【0417】
一方で、比較例5は扁平構造をそなえる材料ではあるが、金属と酸化物の複合相とはなっておらず、FeCoからなる一様な扁平粒子である。

【0418】
表4には、透磁率実部(μ’)、透磁率損失(μ−tanδ=μ”)/μ’×100(%))、60℃・100時間後の透磁率実部(μ’)の経時変化が示されている。表4から明らかなように実施例14〜実施例23に係る磁性材料は、比較例の材料と比べて優れた磁気特性を備えることがわかる。
【0419】
つまり、実施例14〜23は、比較例6と比べて高透磁率、低損失であり、かつ、100時間後の透磁率実部の経時変化が少ない。実施例14〜23の材料は、平均粒径が1nm以上10nm以下でFe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属を含有する金属ナノ粒子を含有し、金属ナノ粒子間に存在し、AlもしくはSiから選ばれる少なくとも1つの非磁性金属と上記磁性金属の少なくとも1つとを含む酸化物(介在相)を含有し、平均短寸法が10nm以上100nm以下で、平均アスペクト比が10以上の扁平形状の粒子集合体であり、上記金属ナノ粒子の体積充填率が、磁性粒子(粒子集合体)全体に対して40vol%以上80vol%以下であることを特徴としている。
【0420】
このような構成をとることによって、高い透磁率と低い損失を実現でき、この特性を高温熱処理後にも維持することが出来ていると思われる。なお、実施例22、23においては、個々の扁平粒子集合体(磁性粒子)の間に、磁性金属ナノ粒子(金属相)が酸化物マトリックス(第2の介在相)中に分散した複合相」、もしくは、磁性金属ナノ粒子(金属相)の表面を酸化物被覆層(第2の介在相)で覆ったコアシェル型磁性粒子が介在することによって、電気抵抗を高く維持したまま個々の磁性粒子間の磁気的な結合を効果的に高めることができ、かつ、電気抵抗を高く維持したまま磁性材料全体に含む磁性金属の割合を効果的に高めることができる。
【0421】
これによって、磁性材料の高周波磁気損失を低いまま維持しつつ、透磁率及び飽和磁化を効果的に向上することが可能となる。また、実施例23では熱的安定性の高いコアシェル型磁性粒子を含有することによって、更に60℃・100hの熱処理後の磁気特性が高いまま保持されている。
【0422】
以上、実施例14〜23に係る磁性材料は、100kHz以上のMHz帯域で高い透磁率実部(μ’)と低い透磁率虚部(μ”)を有し、かつ、高い飽和磁化、高い熱的安定性、高い耐酸化性を有することが分かる。
【符号の説明】
【0423】
10 磁性粒子
10a 金属ナノ粒子
10b 介在相
10c 介在相
12 第1の被覆層
14 酸化物粒子
16 酸化物相
18 第2の被覆層
20 磁性金属粒子
22 被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、希土類元素、BaおよびSrから選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含有する磁性粒子と、
前記磁性粒子の少なくとも一部を被覆する第1の酸化物の第1の被覆層と、
前記磁性粒子間に存在し、前記第1の酸化物と共晶反応系を構成する第2の酸化物の酸化物粒子と、
前記磁性粒子間に存在し、前記第1の酸化物と前記第2の酸化物の共晶組織を有する酸化物相と、
を備えることを特徴とする磁性材料。
【請求項2】
前記磁性粒子が、平均粒径が1nm以上20nm以下でFe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属を含有する金属ナノ粒子を有し、平均短寸法10nm以上2μm以下で平均アスペクト比が5以上の形状の粒子集合体であることを特徴とする請求項1記載の磁性材料。
【請求項3】
前記金属ナノ粒子間に存在し、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属と、酸素(O)、窒素(N)または炭素(C)のいずれかを含む介在相を含有することを特徴とする請求項2記載の磁性材料。
【請求項4】
前記磁性粒子と前記第1の被覆層との間に、前記磁性粒子の少なくとも一部を被覆し、前記非磁性金属の少なくとも1つを含む第3の酸化物の第2の被覆層を備えることを特徴とする請求項1記載の磁性材料。
【請求項5】
前記磁性粒子の平均アスペクト比が5以上であることを特徴とする請求項1または請求項4記載の磁性材料。
【請求項6】
前記磁性粒子が、前記非磁性金属と異なるB、Si、C、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、Cr、Cu、Wから選ばれる少なくとも1つの添加金属を、前記磁性金属と前記非磁性金属と前記添加金属の合計量に対して0.001原子%以上25原子%以下含み、前記磁性金属、前記非磁性金属、または前記添加金属のうちの少なくとも2つは互いに固溶していることを特徴とする請求項1、請求項4または請求項5記載いずれか一項記載の磁性材料。
【請求項7】
前記磁性粒子の結晶構造が六方晶構造であることを特徴とする請求項1、請求項4、請求項5または請求項6いずれか一項記載の磁性材料。
【請求項8】
前記金属ナノ粒子が、前記非磁性金属と異なるB、Si、C、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、Cr、Cu、Wから選ばれる少なくとも1つの添加金属を、前記磁性金属と前記非磁性金属と前記添加金属の合計量に対して0.001原子%以上25原子%以下含み、前記磁性金属、前記非磁性金属、または前記添加金属のうちの少なくとも2つは互いに固溶していることを特徴とする請求項2または請求項3記載の磁性材料。
【請求項9】
前記金属ナノ粒子の結晶構造が六方晶構造であることを特徴とする請求項2、請求項3または請求項8記載の磁性材料。
【請求項10】
前記第1の酸化物と前記第2の酸化物との組み合わせ(第1の酸化物−第2の酸化物または第2の酸化物−第1の酸化物)が、B−SiO、B−Cr、B−MoO、B−Nb、B−Li、B−BaO、B−ZnO、B−La、B−P、B−Al、B−GeO、B−WO、NaO−SiO、NaO−B、NaO−P、NaO−Nb、NaO−WO、NaO−MoO、NaO−GeO、NaO−TiO、NaO−As、NaO−TiO、LiO−MoO、LiO−SiO、LiO−GeO、LiO−WO、LiO−V、LiO−GeO、CaO−P、CaO−B、CaO−V、ZnO−V、BaO−V、BaO−WO、Cr−V、ZnO−B、MoO−WOのいずれかの組み合わせを含むことを特徴とする請求項1ないし請求項9いずれか一項記載の磁性材料。
【請求項11】
前記第1の酸化物と前記第3の酸化物、前記第2の酸化物と前記第3の酸化物、とが各々1000℃以下の共晶点を有さないことを特徴とする請求項4記載の磁性材料。
【請求項12】
Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、希土類元素、BaおよびSrから選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含有する磁性粒子を合成する工程と、
前記磁性粒子の少なくとも一部を被覆する第1の酸化物の第1の被覆層を形成する工程と、
前記第1の酸化物と共晶反応系を構成する第2の酸化物の酸化物粒子と、前記磁性粒子を混合する工程と、
1000℃以下の熱処理と冷却により、前記第1の被覆層と前記酸化物粒子を共晶溶融凝固させる工程と、
を有することを特徴とする磁性材料の製造方法。
【請求項13】
Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、希土類元素、BaおよびSrから選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含有する磁性粒子と、
前記磁性粒子の少なくとも一部を被覆する第1の酸化物の第1の被覆層と、
前記磁性粒子間に存在し、前記第1の酸化物と共晶反応系を構成する第2の酸化物の酸化物粒子と、
を備えることを特徴とする磁性材料。
【請求項14】
Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、希土類元素、BaおよびSrから選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含有する磁性粒子を合成する工程と、
前記磁性粒子の少なくとも一部を被覆する第1の酸化物の第1の被覆層を形成する工程と、
前記第1の酸化物と共晶反応系を構成する第2の酸化物の酸化物粒子と、前記磁性粒子を混合する工程と、
を有することを特徴とする磁性材料の製造方法。
【請求項15】
Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含有する磁性粒子であって、平均粒径が1nm以上20nm以下でFe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属を含有する複数の金属ナノ粒子を有し、平均短寸法10nm以上2μm以下で平均アスペクト比が5以上の形状の粒子集合体である磁性粒子と、
前記磁性粒子間に存在し、共晶反応系を構成する第1の酸化物と第2の酸化物との共晶組織を有する酸化物相と、
を備えることを特徴とする磁性材料。
【請求項16】
前記金属ナノ粒子間に存在し、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属と、酸素(O)、窒素(N)または炭素(C)のいずれかを含む介在相を含有することを特徴とする請求項15記載の磁性材料。
【請求項17】
平均粒径が1nm以上20nm以下でFe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属を含有する金属ナノ粒子と、前記金属ナノ粒子間に存在し、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属と酸素(O)、窒素(N)または炭素(C)のいずれかを含む第1の介在相を含有し、平均短寸法が10nm以上2μm以下で、平均アスペクト比が5以上の形状の粒子集合体であり、前記金属ナノ粒子の体積充填率が、前記粒子集合体全体に対して40vol%以上80vol%以下である磁性粒子を有することを特徴とする磁性材料。
【請求項18】
前記金属ナノ粒子が、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含有することを特徴とする請求項17記載の磁性材料。
【請求項19】
前記金属ナノ粒子が、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属と、前記非磁性金属と異なるB、Si、C、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、Cr、Cu、Wから選ばれる少なくとも1つの添加金属をさらに含有し、前記磁性金属と前記非磁性金属と前記添加金属の合計量に対していずれも0.001原子%以上25原子%以下含まれ、前記磁性金属、前記非磁性金属、または前記添加金属のうちの少なくとも2つは互いに固溶していることを特徴とする請求項17記載の磁性材料。
【請求項20】
前記金属ナノ粒子の結晶構造が六方晶構造であることを特徴とする請求項17または請求項19記載の磁性材料。
【請求項21】
前記金属ナノ粒子が平均2以上のアスペクト比を有する扁平状、もしくは棒状の粒子であることを特徴とする請求項17ないし請求項20いずれか一項記載の磁性材料。
【請求項22】
複数の前記金属ナノ粒子が点または面で接したナノ粒子集合組織を形成し、前記ナノ粒子集合組織が前記粒子集合体の中で配向していることを特徴とする請求項17ないし請求項21いずれか一項記載の磁性材料。
【請求項23】
前記粒子集合体が扁平形状を有し、前記ナノ粒子集合組織が棒状であり、前記ナノ粒子集合組織が、前記粒子集合体の扁平面内において、配向していることを特徴とする請求項22記載の磁性材料。
【請求項24】
前記金属ナノ粒子の平均粒子間距離が、0.1nm以上5nm以下であることを特徴とする請求項17ないし請求項21いずれか一項記載の磁性材料。
【請求項25】
前記磁性粒子の電気抵抗率が100μΩ・cm以上100mΩ・cm以下であることを特徴とする請求項17ないし請求項21いずれか一項記載の磁性材料。
【請求項26】
前記磁性粒子間に、Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属を含む金属相と、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属と酸素(O)、窒素(N)または炭素(C)のいずれかを含む第2の介在相との複合相が存在することを特徴とする請求項17ないし請求項21いずれか一項記載の磁性材料。
【請求項27】
前記複合相が、前記金属相に対応する磁性金属粒子と、前記磁性金属粒子の少なくとも一部の表面を被覆する前記第2の介在相に対応する被覆層を含むコアシェル型磁性粒子で、前記磁性金属粒子が、Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属とMg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属とを含み、前記被覆層が前記非磁性金属の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項26記載の磁性材料。
【請求項28】
平均粒径が1nm以上1μm以下でFe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属を含有する複数の前駆体金属ナノ粒子を合成する工程と、
前記前駆体金属ナノ粒子の表面の少なくとも一部にMg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属と酸素(O)、窒素(N)または炭素(C)のいずれかを含む介在相を形成する工程と、
前記前駆体金属ナノ粒子と前記介在相を一体化することにより、平均短寸法が10nm以上2μm以下で、平均アスペクト比が5以上の形状を有し、前記前駆体金属ナノ粒子由来の金属ナノ粒子の体積充填率が40vol%以上80vol%以下である粒子集合体を形成する工程と、
を備えることを特徴とする磁性材料の製造方法。
【請求項29】
前記前駆体金属ナノ粒子が、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含有することを特徴とする請求項28記載の磁性材料の製造方法。
【請求項30】
前記前駆体金属ナノ粒子を合成する工程が熱プラズマ法により行われることを特徴とする請求項28または請求項29記載の製造方法。
【請求項31】
前記前駆体金属ナノ粒子を合成する工程が液相合成法により行われ、前記介在相を形成する工程が液相合成法により行われることを特徴とする請求項28または請求項29いずれか一項記載の磁性材料の製造方法。
【請求項32】
前記粒子集合体を形成する工程が、前記介在相を含む前記前駆体金属ナノ粒子を、径0.1mm以上10mm以下のボールと溶媒とともに湿式ミルで加工することを特徴とする請求項28ないし請求項30いずれか一項記載の磁性材料の製造方法。
【請求項33】
前記粒子集合体とバインダー相とを混合し混合粉末を得る工程と、混合粉末を0.1kgf/cm以上のプレス圧で成形する工程と、前記混合粉末の成型後に50℃以上800℃以下の温度で熱処理する工程とを、さらに有することを特徴とする請求項28ないし請求項32いずれか一項記載の磁性材料の製造方法。
【請求項34】
前記粒子集合体の表面を表面層で被覆する工程と、前記表面層で被覆した前記粒子集合体と前記バインダー相とを混合し混合粉末を得る工程と、混合粉末を0.1kgf/cm以上のプレス圧で成形する工程と、成型後に50℃以上800℃以下の温度で熱処理する工程とを有することを特徴とする請求項28ないし請求項32いずれか一項磁性材料の製造方法。
【請求項35】
前記前駆体金属ナノ粒子がFeとNiを含み、AlおよびSiから選ばれる少なくとも1つの元素を含み、FeがFeとNiの合計に対して40原子%以上60原子%以下含まれ、AlおよびSiから選ばれる少なくとも1つの元素がFeとNiの合計に対して0.001重量%以上20重量%以下含まれ、酸素が前記金属ナノ粒子全体に対して、0.1重量%以上20重量%以下含まれることを特徴とする請求項28記載の磁性材料の製造方法。
【請求項36】
AlおよびSiから選ばれる少なくとも1つの元素がFeとNiの合計に対して2重量%以上10重量%以下含まれ、酸素が前記金属ナノ粒子全体に対して、1重量%以上10重量%以下含まれることを特徴とする請求項35記載の磁性材料の製造方法。
【請求項37】
前記前駆体金属ナノ粒子が、前記前駆体金属ナノ粒子全体に対して0.001原子%以上5原子%以下の炭素を含むことを特徴とする請求項35または請求項36記載の磁性材料の製造方法。
【請求項38】
Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属とMg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属とを含む磁性金属粉末と、
前記磁性金属、前記非磁性金属と異なるB、Si、C、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、Cr、Cu、Wから選ばれる少なくとも1つの添加金属で、前記磁性金属と前記非磁性金属と前記添加金属の合計量に対して0.001原子%以上25原子%以下含まれる添加金属粉末とを、
溶媒とボールとともに湿式ミルで加工する工程と、
前記湿式ミルで加工された前記磁性金属粉末および前記添加金属粉末を、磁場を印加しながら熱処理する工程と、
を有することを特徴とする磁性材料の製造方法。
【請求項39】
請求項1ないし請求項11、請求項13、請求項15ないし請求項27いずれか一項記載の磁性材料を備えることを特徴とするインダクタ素子。
【請求項40】
平均粒径が1nm以上1μm以下でFe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属を含有する複数の前駆体金属ナノ粒子であって、前記前駆体金属ナノ粒子の表面の少なくとも一部にMg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属と酸素(O)、窒素(N)または炭素(C)のいずれかを含む介在相を備えることを特徴とする磁性材料。
【請求項41】
平均粒径が1nm以上1μm以下でFe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属を含有する複数の前駆体金属ナノ粒子を合成する工程と、
前記前駆体金属ナノ粒子の表面の少なくとも一部にMg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属と酸素(O)、窒素(N)または炭素(C)のいずれかを含む介在相を形成する工程と、
を備えることを特徴とする磁性材料の製造方法。
【請求項42】
平均粒径が1nm以上20nm以下でFe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属を含有する金属ナノ粒子と、前記金属ナノ粒子間に存在し、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属と酸素(O)、窒素(N)または炭素(C)のいずれかを含む第1の介在相を含有し、平均短寸法が10nm以上2μm以下で、平均アスペクト比が5以上の形状の粒子集合体であり、前記金属ナノ粒子の体積充填率が、前記粒子集合体全体に対して40vol%以上80vol%以下である粒子集合体と、バインダー相とを混合し混合粉末を得る工程を、
備えることを特徴とする磁性材料の製造方法。
【請求項43】
前記混合粉末を0.1kgf/cm以上のプレス圧で成形する工程と、前記混合粉末の成型後に50℃以上800℃以下の温度で熱処理する工程とを、さらに有することを特徴とする請求項42記載の磁性材料の製造方法。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図14】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図13】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2013−65844(P2013−65844A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−190873(P2012−190873)
【出願日】平成24年8月31日(2012.8.31)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】