説明

磁性粒子、キャリア芯材およびその製造法並びにキャリアおよび現像剤

【課題】電子写真現像剤用キャリア芯材の機械的強度を顕著に向上させる。
【解決手段】ソフトフェライト相とSi濃化相が混在する粒子で構成される粉末であって、当該粉末中のSi含有量がSiO2換算で5〜50質量%であり、ソフトフェライト相と、そのソフトフェライト相の間を埋めるSi濃化相からなる凝固組織を持つ粒子が個数割合で70%以上含まれる粉末からなる電子写真現像剤用キャリア芯材。前記凝固組織はソフトフェライト相とSiO2相が混在する前駆体粒子に対して、火炎雰囲気中を通過させる処理を施すことによって得ることができる。ソフトフェライト相は例えばMO・Fe23、ただしMは、Mn、Mg、Feの1種以上、で表されるスピネル型フェライトである。平均粒子径D50は例えば10〜100μmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真現像剤用キャリアの中核とするのに適したソフトフェライト主体の球状磁性粒子、その粉末(キャリア芯材)およびその製造法に関する。また、前記キャリア芯材を使用したキャリアおよび電子写真現像剤に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真の乾式現像法は、粉体インクであるトナーを感光体上に形成されている静電潜像に付着させ、これを所定の紙等へ転写して現像する方法である。この方法は、トナーのみを含む1成分系現像剤を用いる方法と、トナーおよび磁性キャリアとを含む2成分系現像剤を用いる方法に大別される。近年では、トナーの荷電制御が容易で安定した高画質を得ることができ、かつ高速現像が可能な2成分系現像法が主流になっている。
【0003】
2成分系現像剤を用いた現像方式では、例えば磁性キャリアとトナーが現像機内で撹拌混合されてトナーはプラスに帯電し、トナーが付着した磁性キャリアからなる磁気ブラシがマグネットロール上に形成され、プラスに帯電したトナーは感光体上のマイナスに帯電している静電潜像の部位へ搬送される。マグネットロール上に残ったキャリアは、再び現像機内に戻り、新たなトナーと撹拌混合され、一定期間繰り返して使用される。
【0004】
近年、電子写真現像機は、フルカラー化、高画質化、高速化の傾向にある。特に高速化に伴って現像機内で撹拌負荷が増加し、磁性キャリアの割れ、欠けが発生するという問題が生じている。損傷したキャリア粒子やその破片は画質劣化の原因となる。一方、オフィスのネットワーク化が進むとともにサービス体制が充実し、従来のようにサービスマンが現像剤を交換するようなシステムから、メンテナンスフリー化へのシフトが進展しつつある。
【0005】
このような現状において、現像剤には高耐久性、長寿命化に対する要求が従来にも増して一層高まっている。この要求に応えるにはキャリアの高強度化が必要となる。そのための手法として、特許文献1にはスラリーの粒径を一定範囲以下にし、仮焼成と本焼成とを限定した条件でキャリアを製造することが提案されている。特許文献2には焼結助剤を用いず、脱バインダー工程を行い、キャリア芯材の表面性の粒子間バラツキを改善すること等により高強度のキャリアを得る技術が提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開2007−271663号公報
【特許文献2】特開2007−273505号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら本発明者等の検討によると、特許文献1および2に記載されている磁性キャリアについて後述の破砕試験を行った場合、[破砕試験後の平均粒子径D50]/[初期の平均粒子径D50]×100で表される「粒子径保持率」はそれぞれ74%および85%程度であった。これでは現像機内での撹拌ストレスによる磁性キャリアの割れ・欠けを十分に抑制するうえで強度不足であると判定され、磁性キャリアのさらなる高強度化が望まれる。
【0008】
本発明は、顕著に高強度化されたフェライト磁性粒子を提供すること、並びに機械的強度の高い電子写真現像剤用キャリアおよびそれを用いた現像剤を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは詳細な検討の結果、キャリア芯材となるフェライト磁性粒子の内部組織を特定の微細凝固組織とすることによって、その粒子自体の顕著な高強度化が可能であることを見出した。そのような特異な組織状態のキャリア芯材は、焼成後に短時間の溶融・凝固処理を施すことによって実現できる。本発明はこのような知見に基づいて完成したものである。
【0010】
すなわち本発明では、ソフトフェライト相と、そのソフトフェライト相の間を埋めるSi濃化相からなる凝固組織を持ち、Si含有量がSiO2換算で5〜50質量%であり、粒子径が10〜100μmである磁性粒子が提供される。
【0011】
また本発明では、ソフトフェライト相とSi濃化相が混在する粒子で構成される粉末であって、当該粉末中のSi含有量がSiO2換算で5〜50質量%であり、ソフトフェライト相と、そのソフトフェライト相の間を埋めるSi濃化相からなる凝固組織を持つ粒子が個数割合で70%以上含まれる粉末からなる電子写真現像剤用キャリア芯材が提供される。粉末粒子の平均粒子径D50は例えば10〜100μmである。
【0012】
上記のような凝固組織は、例えばソフトフェライト相とSiO2相が混在する前駆体粒子が火炎雰囲気中を通過することにより形成されたものである。SiO2換算のSi含有量は、粉体中(請求項1)あるいは粉体中(請求項4)に含有されるSiの全部がSiO2の形で存在していると想定して、Siおよびソフトフェライトを構成する各金属元素の含有量に基づいて次式、[SiO2の質量]/[SiO2とソフトフェライトのトータル質量]×100により算出される値である。
【0013】
前記ソフトフェライトは、例えばMO・Fe23、ただしMは、Mn、Mg、Feの1種以上、で表されるスピネル型フェライトが好適な対象となる。Mが全部Feである場合はマグネタイト(Fe34)に相当する。
【0014】
上記キャリア芯材の製造法として、SiO2粉末とソフトフェライトの原料物質を混合したスラリーを噴霧乾燥させて造粒物を得る工程、
造粒物を900〜1400℃で焼成してSiO2相とソフトフェライト相を有する複相構造の焼成物を得る工程、
焼成物に解粒処理を施して前駆体粒子の粉末を得る工程、
前駆体粒子の粉末にソフトフェライト相の融点より高温の火炎雰囲気中を通過させる処理を施す工程、
を有する製造法が提供される。
【0015】
また本発明では、上記のキャリア芯材の粉末粒子に樹脂被覆を施した電子写真現像剤用キャリアが提供される。さらに、トナーおよび上記キャリアを含む電子写真現像剤が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、粒子自体の機械的強度が高い電子写真現像剤用キャリア芯材が実現可能となった。このキャリア芯材を使用して製造したキャリアは、電子写真現像機内での撹拌ストレスに対して極めて高い抵抗力を発揮する。このキャリアを電子写真現像剤に用いると、例えば高性能な電子写真現像機やMFP(マルチ・ファンクション・プリンター)等において、安定して良好な画質特性が得られ、かつ現像剤の交換寿命を大幅に延ばすことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
《磁性粒子》
本発明で対象とする磁性粒子は、磁性相としてソフトフェライト相を有するものである。ソフトフェライトとしては例えば、一般式MO・Fe23で表されるスピネル型フェライトが挙げられる。ここでMは、Mn、Mg、Feなど2価の遷移元素の1種以上で構成される。
【0018】
従来、キャリア用の磁性粒子においては、撹拌時のトナーへのダメージを緩和する等の目的で比重の小さいSiO2等の非磁性相を混在させ、磁性相と非磁性相からなる複相組織構造として軽量化を図ったものが知られている。複相組織構造を呈する粒子であっても、その強度を格段に向上させるような効果は得られていなかった。ところが、発明者らは詳細な研究を重ねた結果、磁性相と非磁性相を有する粒子を一旦溶融状態とした後、凝固させることにより、微細な凝固組織が得られ、この組織によって粒子の機械的強度が顕著に向上することを見出した。
【0019】
図2、図3に、図11〜図16に後述の実施例で得られた磁性粒子断面のSEM写真を例示してある。これらは、スピネル型ソフトフェライトの磁性相とSiO2の非磁性相が混在する焼成粒子(前駆体粒子)を火炎雰囲気中に通すことにより一旦溶融状態とした後、短時間で凝固させたものである。これらのSEM写真において白っぽく見える部分がソフトフェライト相、黒っぽく見える部分がSi濃化相である。ソフトフェライト相と、その間を埋めるSi濃化相からなる凝固組織を呈していることがわかる。Si濃化相はマトリクスがSiの酸化物(SiO2)を主体とするものであると考えられ、そのマトリクス中には不純物が混在していても構わない。ソフトフェライト相中にもSiは分布している。
【0020】
凝固組織は、前駆体粒子に含まれるフェライト相とSiO2相の比率や、火炎の温度、火炎雰囲気中の飛行時間、冷却条件などによって個々の粒子ごとに多少異なった形態となる。図2、図3、図11〜図16で組織形態が異なるのもそのためである。ただし、いずれもソフトフェライト相の間をSi濃化相が埋めている点で共通している。また、ソフトフェライト相は樹枝状あるいは棒状に成長する傾向が見られる。これらの断面写真は必ずしも粒子の中央付近で切断したものばかりであるとは限らない。また、ソフトフェライト相は、切断する方向によって断面に現れる形態が異なってくる。例えば図14の粒子断面の中央付近より下部に粒状に現れているソフトフェライト相は、樹枝状晶(デンドライト)あるいは棒状晶として一定方向に成長したソフトフェライト結晶の「幹」、「枝」、あるいは「棒」の切り口が現れている部分であると推察される。
【0021】
ソフトフェライト相の間に存在するSi濃化相の量が少なすぎると、強度向上作用が十分に発揮されない。種々検討の結果、本発明では安定して優れた強度向上作用を得るためには、粒子中のSi含有量がSiO2換算(前述)で5質量%以上であることが好ましい。ただし、Si含有量が多すぎると磁性相の割合が減少して磁気特性の低下を招くので、粒子中のSi含有量はSiO2換算で50質量%以下であることが好ましい。粒子中のSiO2換算Si含有量は5〜45質量%であることがより好ましく、10〜40質量%であることが一層好ましい。
【0022】
以上のような特異な複合組織形態を有する磁性粒子のうち、特にSi含有量が上記の範囲にあり、かつ粒子径(長径)が10〜100μmであるものは、キャリア芯材として使用するうえで極めて有用である。
【0023】
《キャリア芯材》
本発明のキャリア芯材は、上記のような凝固組織を持つ磁性粒子を構成要素とするものである。ただし、粒子の中には火炎雰囲気との接触が不十分となって未溶融の粒子(前駆体粒子)のまま存在するものもある。そのような粒子は、図2、図3、図11〜図16のような全体に凝固組織を有する粒子と比べ、強度レベルは低いと考えられる。しかし、キャリア芯材を構成する粒子のうち、微細な凝固組織を有する高強度化された粒子が大部分を占めていれば、粒子の破損によるトラブルは顕著に抑止され、極めて耐久性のあるキャリアを実現できることが確認された。すなわち、粉末の中には高強度化されていない粒子が多少混在していても、キャリアとしての耐久性を十分改善することが可能である。発明者らのこれまでの調査によると、前述のような凝固組織を持つ高強度化された粒子の個数割合が70%以上である粉末においては、後述の実施例に示すように、強度・寿命特性が顕著に改善される。
【0024】
凝固組織を持つ粒子の個数割合を求める方法としては、粉末からサンプリングした粒子を樹脂に埋め込み、アルゴンのイオンビームを照射する方法などによりカットした断面観察試料を作製し、断面が現れている粒子を無作為に例えば500個選択して「ソフトフェライト相と、そのソフトフェライト相の間を埋めるSi濃化相からなる凝固組織」を持つ粒子の個数を測定し、その個数を測定粒子の総数(例えば500個)で除する方法が採用できる。
【0025】
粉末中のSi含有量はSiO2換算(前述)で5〜50質量%以上とする。Si含有量が5質量%未満の粉末では溶融・凝固を経ても強度不足となる粒子が生成されやすい。一方Si含有量が50質量%を超える粉末では磁気特性が不十分となりやすい。粉末中のSiO2換算Si含有量は5〜45質量%であることがより好ましく、10〜40質量%であることが一層好ましい。
【0026】
キャリア芯材の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置により求まる50%平均粒子径D50が10〜100μmであることが好ましい。10μm以上であればキャリア粒子ひとつひとつの磁化が確保され、キャリア付着現象が効果的に抑制できる。20μm以上であることがより効果的である。また100μm以下であれば比表面積の低下によるトナーの飛散を防ぐことができ、鮮鋭な画質を得る上で有利となる。
【0027】
キャリア芯材の磁気特性としては、外部磁場1kOe(79577A/m)における磁化σ1kが30emu/g(A・m2/kg)以上であることが望ましい。この磁気特性を満たすキャリア芯材を用いることで、電子写真現像機内で形成される磁気ブラシの保磁力が十分確保され、キャリア付着現象の抑制に効果的である。
【0028】
《キャリア芯材の製造法》
前述の特異な組織構造を持つ磁性粒子を構成要素とする本発明のキャリア芯材は、従来一般的なフェライトを磁性相にもつキャリア芯材の製造プロセスを利用し、最後に溶融・凝固処理工程を加えることによって製造可能である。具体的な手法を例示すると以下のとおりである。
【0029】
〔原料〕
ソフトフェライトとしてMO・Fe23で表されるスピネル型フェライトを採用する場合を例に挙げると、M(2価の遷移元素)の原料としては、MnであればMnCO3、Mn34等が使用できる。MgであればMgCO3、Mg(OH)2等が使用できる。FeであればFe23、Fe34、金属Feなどが使用できる。さらに本発明ではSi濃化相を形成させるためにSiを配合させる。Si源としてはSiO2が好適である。具体的には結晶シリカの粉末の他、非晶質シリカ、コロイダルシリカ等も使用可能である。
【0030】
Si、Mを構成する2価の遷移元素、およびFeのモル比が目的とするSi含有量およびソフトフェライトの組成となるように各原料物質を秤量し、それらを媒体液と混合してスラリーとする。上記各原料を予め仮焼した後、粉砕して仮焼原料とし、これを媒体液と混合してもよい。媒体液としては、水にバインダー、分散剤等を添加したものを用意する。バインダーとしては例えばポリビニルアルコールが好適に使用でき、その媒体液中濃度は0.5〜2質量%程度とすればよい。分散剤としては例えばポリカルボン酸アンモニウム系のものが好適に使用でき、その媒体液中濃度も0.5〜2質量%程度とすればよい。その他、潤滑剤や、焼結促進剤としてリンやホウ酸等を添加することができる。原料物質と媒体液の混合比は、スラリーの固形分濃度が50〜90質量%となるようにすることが望ましい。各物質の混合物に湿式粉砕を施すことによってスラリーを得ることが好ましい。スラリー中にはさらに還元剤を含有させてもよい。還元剤としてはカーボン粉末やポリカルボン酸系有機物、ポリアクリル酸系有機物、マレイン酸、酢酸、ポリビニルアルコール系有機物、およびそれらの混合物が好適に採用できる。
【0031】
〔造粒〕
上記スラリーを噴霧乾燥させて造粒物を得る。噴霧乾燥時の雰囲気温度は100〜300℃程度とすればよい。これにより、概ね、粒子径が10〜200μmの造粒粉を得ることができる。製品最終粒径を考慮し、得られた造粒物に対して振動ふるい等を用いて粗大粒子や微粉を除去する処理を施し、粒度調整することが望ましい。
【0032】
〔焼成〕
造粒物を900〜1400℃で焼成してSiO2相とソフトフェライト相を有する複相構造の焼成物を得る。このとき、焼成炉内の酸素濃度は5%以下とすることが好ましく、1%以下とすることがより好ましい。炉内の酸素濃度を低くすることにより還元剤の作用を有効に引き出すことができ、ソフトフェライト相を効率的に生成させることができる。焼成温度が900℃を下回るとソフトフェライトの生成反応の進行が遅くなり好ましくない。960℃以上の焼成温度を確保することがより好ましい。ただし、1400℃を超える高温に曝すと粒子同士の過剰焼結が起きて、後工程で粒度調整に手間がかかる場合がある。焼成時間は概ね1〜24時間の範囲で調整すればよい。この焼成によって得られる焼成物において、SiはSiO2相として存在する。
【0033】
〔解粒〕
焼成物に解粒処理を施して粒度調整し、溶融・凝固処理に供するための前駆体粒子の粉末を得る。解粒処理は、ハンマーミル等で粗解粒し、振動篩などで分級する手法で行うことができる。この段階で最終製品の目的粒子径としておくことが望ましい。
【0034】
〔高強度化〕
本発明では、キャリア芯材粒子の機械的強度を向上させる「高強度化」の手法として、上記前駆体粒子の粉末に、ソフトフェライト相の融点(例えばMnフェライトの場合約1570℃)より高温の火炎雰囲気中を通過させる処理を施す。また、SiO2の融点(約1700℃)よりも高温の火炎雰囲気であることがより好ましい。この処理で、粒子は短時間に溶融・凝固の過程を経ることによって、前述の凝固組織を持つものとなる。なお、粒子の中には溶融・凝固が未達に終わるものが存在することもあるが、その個数割合が少なければキャリアの耐久性を向上させる上で障害とならない(前述)。火炎雰囲気とは、火炎中の雰囲気あるいは火炎近傍の高温ガスの雰囲気である。短時間で効率的に溶融・凝固を実現させるためには2000℃以上、好ましくは3000℃以上の火炎雰囲気中を通過させることが望まれる。そのような火炎雰囲気はプロピレンやアセチレン等の可燃性ガスの燃焼によって実現できる。可燃性ガスが完全燃焼するのに必要な酸素量の0.2〜1.5倍の酸素が火炎形成箇所に供給されるように、酸素ガスあるいは空気を供給することが好ましい。火炎の生成には一般的なガスバーナー等を使用すればよいが、可燃性ガスの供給量を十分に高く設定できるものを採用する必要がある。具体的には燃焼ガス供給量が1〜30Nm3/hの範囲でコントロールできるものが好ましい。
【0035】
前駆体粒子の粉末(被処理物)を火炎雰囲気中に通過させる手法としては、被処理物を燃焼炎の上方から自然落下させる方式、キャリアガスにより燃焼炎中に分散させる方式などがある。このとき、被処理物の供給量は、生産性を低下させない範囲で可能な限り少なくするほうが好ましい。供給量が多くなりすぎると、個々の粒子が受ける熱量が少なく、かつ不均一になりやすいため、溶融・凝固の条件にバラツキが生じやすい。この条件のバラツキは、未溶融の粒子の割合を増大させ、前述の凝固組織を持つ高強度化粒子の個数割合が不足する要因となる。燃焼ガス供給量が1〜30Nm3/hである火炎雰囲気を利用する場合、被処理物の供給量は100kg/h以下とすることが好ましい。
【0036】
なお、前記の焼成を省略して、焼成前の造粒物を直接2000℃以上の高温火炎雰囲気に曝すことにより、溶融・凝固による高強度化とフェライト化を同時に実現することも可能である。
【0037】
〔分級〕
高強度化を終えた粉末を、必要に応じて篩により分級することにより、所望の粒度分布を持ったキャリア芯材を得ることができる。
【0038】
《キャリア》
高強度化された上記のキャリア芯材粒子をシリコーン系樹脂やアクリル樹脂等で被覆し、帯電性を付与するとともに耐久性を向上させることで、撹拌時に破損しにくい電子写真現像剤用キャリアを得ることができる。樹脂の種類や被覆方法は、公知の手法に従えばよい。
【0039】
《電子写真現像剤》
上記のキャリアを公知のトナーと混合することにより、交換寿命の長い電子写真現像剤を得ることができる。
【実施例】
【0040】
《実施例1》
ソフトフェライト原料としてFe2310kg、Mn343.6kgを秤量した。この秤量値によって得られるソフトフェライトの組成は(Mn0.82Fe0.17)O・Fe23である。これらのソフトフェライト原料と、SiO2(結晶シリカ)1.4kgを、純水5kg中に投入し、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を60g添加して混合物とした。この混合物を湿式ボールミルにより粉砕処理してFe23とMn34とSiO2の混合スラリーとし、これをしばらく撹拌した後、スプレードライヤーにて約130℃の熱風中に噴霧し、粒子径約10〜200μmの乾燥造粒物を得た。
【0041】
この造粒物から網目61μmと25μmの篩網を用いて粗粒、微粒を分離した後の造粒物を電気炉に装入して1200℃、窒素雰囲気下で5時間焼成し、フェライト化させた。このフェライト化した焼成物をハンマーミルで解粒し、風力分級機を用いて微粉を除去し、網目54μmの振動篩で粒度調整し、平均粒子径が36μmとなる前駆体粒子の粉末を得た。この前駆体粒子は、ソフトフェライト相とSiO2相で構成されていることが確認された。
【0042】
次に、上記前駆体粒子の粉末を、火炎雰囲気中に通すことにより高強度化させた。火炎雰囲気はプロパンガス5Nm3/hと酸素ガス25Nm3/hの燃焼炎によって形成させた。窒素ガス5Nm3/hをキャリアガスとして前駆体粒子の粉末を供給量30kg/hで前記火炎雰囲気中に投入し、火炎雰囲気中を飛行した粒子はその後自然落下する過程で急速に冷却され、炉の下部に堆積される。得られた粉末をキャリア芯材として以下の試験に供した。
【0043】
〔Si含有量の分析〕
キャリア芯材について、JIS M8214−1995に記載の二酸化けい素重量法で定量を行い、キャリア芯材の粉末中のSi含有量をSiO2換算(前述)で求めた。
【0044】
〔平均粒子径D50〕
レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装株式会社製;マイクロトラック、Model:9320−X100)を用いてキャリア芯材粉末の粒度分布を測定し、体積率50%までの積算粒径D50を求め、これを平均粒子径とした。
【0045】
〔磁気特性〕
キャリア芯材について、VSM(東英工業株式会社製;VSM−P7)を用いて磁気測定を行い、外部磁場1kOe(79577A/m)における磁化σ1kを求めた。
【0046】
〔強度〕
キャリア芯材の粉体30gをサンプルミル(協立理工株式会社製;SK―M10型)に投入し、回転数14000rpmで60秒間破砕試験を行った。破砕試験後の粉末について上記と同様の方法で平均粒子径D50を求め、[破砕試験後の平均粒子径D50]/[初期の平均粒子径D50]×100で表される「粒子径保持率」を求めた。この方法で求まる粒子径保持率が90%以上であれば、キャリアとして優れた耐久性を発揮すると評価することができ、95%以上であるものは特に優秀である。
【0047】
図1に、本例のキャリア芯材について上記破砕試験を行った後の粒子の外観を示すSEM写真を例示する。図2、図3、図11〜16には本例で得られた粒子の断面SEM写真を示す。図4には断面についてEDS(エネルギー分散型X線分析装置、日本電子(株)製;JED−2300)によりSEM像中に記載した線に沿ってSi濃度をライン分析した結果を示す。黒っぽく見える相がSi濃化相であり、ソフトフェライト相中にもSiが分布していることが別途面分析等により確認されている。断面SEM写真および図4のライン分析からわかるように、所定量のSiを含有するソフトフェライト焼成粒子(前駆体粒子)を溶融・凝固させると、その凝固組織はソフトフェライト相とSi濃化相が入り交じった複合微細構造となる。このような複合微細構造が粒子の機械的強度を顕著に向上させているものと考えられる。
なお、上述の方法で無作為に選んだ500個の粒子の断面を観察したところ、凝固組織を持つ粒子の個数割合は70%以上であることが確認された(以下の実施例において同じ)。
【0048】
次に、上記キャリア芯材の粉末粒子にシリコーン系樹脂(信越化学製;KR251)をコーティングすることによりキャリアを作製した。具体的には、シリコーン系樹脂をトルエンに溶解させて樹脂溶液とし、キャリア芯材と樹脂溶液とを、質量比でキャリア芯材:樹脂溶液=9:1の割合にて撹拌機に装填し、キャリア芯材を樹脂溶液に浸漬しながら150〜250℃にて3時間加熱撹拌した。これによりシリコーン系樹脂がキャリア芯材100質量部に対し1.0質量部の割合でコーティングされた。この樹脂被覆されたキャリア芯材を熱風循環式加熱装置で250℃×5時間加熱することにより被覆樹脂層を硬化させて、キャリアを得た。
【0049】
〔キャリア付着の評価〕
このキャリアとトナーを質量比14:1でV型混合機により混合することによって電子写真現像剤を作製した。この電子写真現像剤試料を用いて画像評価試験を行った。初期、50K枚、100K枚、200K枚時の画像を観察し、破損等により飛散したキャリアの付着が観察されない場合を◎、キャリア付着が1〜10個観察される場合を○、それ以外を×と評価し、100K枚まで◎評価、200K枚で○評価以上となるものを合格と判定した。
これらの結果を表1中に示す(以下の各例において同じ)。
【0050】
《実施例2》
SiO2の仕込量を1.4kgから2.7kgに変更したこと以外は、実施例1と同様の条件で各種試験を行った。
【0051】
《実施例3》
SiO2の仕込量を1.4kgから5.4kgに変更したこと以外は、実施例1と同様の条件で各種試験を行った。
【0052】
《実施例4》
Fe2310kg、Mg(OH)20.9kg、SiO2(結晶シリカ)2.7kgを、純水5kg中に投入し、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を26g、カーボンブラックを100g添加して混合物とした以外は、実施例1と同様の条件で各種試験を行った。この秤量値によって得られるソフトフェライトの組成は(Mg0.32Fe0.68)O・Fe23である。
【0053】
《実施例5》
Fe2310kg、SiO2(結晶シリカ)6kgを、純水5kg中に投入し、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を200g、カーボンブラックを74g添加して混合物とした以外は、実施例1と同様の条件で各種試験を行った。この秤量値によって得られるソフトフェライトの組成はFeO・Fe23(マグネタイト)である。
【0054】
《比較例1》
SiO2を無添加とした以外は、実施例1と同様の条件で各種試験を行った。
図5に、本例のキャリア芯材について上記破砕試験を行った後の粒子の外観を示すSEM写真を例示する。図5中には破損した粒子の破片が図1と比べ多く観察される。図6には本例で得られた粒子の断面SEM写真を示す。図7には断面についてEDSによりSEM像中に記載した線に沿ってSi濃度をライン分析した結果を示す。断面SEM写真からわかるように、Si含有量が非常に少ないソフトフェライト焼成粒子を火炎雰囲気に曝しても、微細な凝固組織は得られない。なお、本例のキャリア芯材に含まれるSiは、製造過程で原料中の不純物Siやその他のSiが混入したものであると考えられる(比較例2において同じ)。
【0055】
《比較例2》
SiO2を無添加とした以外は、実施例5と同様の条件で各種試験を行った。
【0056】
《比較例3》
本例では実施例1の「前駆体粒子」からなる粉末をキャリア芯材として、実施例1と同様の各種試験を行った。図8に、本例のキャリア芯材について上記破砕試験を行った後の粒子の外観を示すSEM写真を例示する。図9には本例の粒子(すなわち実施例1の前駆体粒子)の断面SEM写真を示す。図10には断面についてEDSによりSEM像中に記載した線に沿ってSi濃度をライン分析した結果を示す。断面SEM写真および図10のライン分析からわかるように、本例の粒子は焼成によって生じたソフトフェライト相がSiO2とともに焼結した構造を有しており、ソフトフェライト中にはSiがほとんど含まれていない(検出強度はバックグラウンドレベル)。
【0057】
【表1】

【0058】
各実施例のものはキャリア芯材の顕著な高強度化が達成された。また、キャリア飛散による画像劣化に対しても優れた特性が維持された。これに対し、比較例1および2のキャリア芯材はSi含有量が少ないために、溶融・凝固処理を施しても高強度化が達成できなかった。また、溶融・凝固処理を施していない比較例3のもの(実施例1の前駆体粒子の粉末)も、本発明の各実施例のものと比べ強度に劣った。これら比較例のものではキャリア飛散による問題が防止できない。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】破砕試験後の粒子の外観SEM写真(実施例1)。
【図2】磁性粒子の断面SEM写真(実施例1)。
【図3】磁性粒子の断面SEM写真(実施例1)。
【図4】断面SEM写真およびSi濃度のライン分析結果を示すグラフ(実施例1)。
【図5】破砕試験後の粒子の外観SEM写真(比較例1)。
【図6】磁性粒子の断面SEM写真(比較例1)。
【図7】断面SEM写真およびSi濃度のライン分析結果を示すグラフ(比較例1)。
【図8】破砕試験後の粒子の外観SEM写真(比較例3)。
【図9】磁性粒子の断面SEM写真(比較例3)。
【図10】断面SEM写真およびSi濃度のライン分析結果を示すグラフ(比較例3)。
【図11】磁性粒子の断面SEM写真(実施例1)。
【図12】磁性粒子の断面SEM写真(実施例1)。
【図13】磁性粒子の断面SEM写真(実施例1)。
【図14】磁性粒子の断面SEM写真(実施例1)。
【図15】磁性粒子の断面SEM写真(実施例1)。
【図16】磁性粒子の断面SEM写真(実施例1)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソフトフェライト相と、そのソフトフェライト相の間を埋めるSi濃化相からなる凝固組織を持ち、Si含有量がSiO2換算で5〜50質量%であり、粒子径が10〜100μmである磁性粒子。
【請求項2】
前記凝固組織はソフトフェライト相とSiO2相が混在する前駆体粒子が火炎雰囲気中を通過することにより形成されたものである請求項1に記載の磁性粒子。
【請求項3】
前記ソフトフェライトは、MO・Fe23、ただしMは、Mn、Mg、Feの1種以上、で表されるスピネル型フェライトである請求項1または2に記載の磁性粒子。
【請求項4】
ソフトフェライト相とSi濃化相が混在する粒子で構成される粉末であって、当該粉末中のSi含有量がSiO2換算で5〜50質量%であり、ソフトフェライト相と、そのソフトフェライト相の間を埋めるSi濃化相からなる凝固組織を持つ粒子が個数割合で70%以上含まれる粉末からなる電子写真現像剤用キャリア芯材。
【請求項5】
前記凝固組織はソフトフェライト相とSiO2相が混在する前駆体粒子が火炎雰囲気中を通過することにより形成されたものである請求項4に記載のキャリア芯材。
【請求項6】
前記ソフトフェライトは、MO・Fe23、ただしMは、Mn、Mg、Feの1種以上、で表されるスピネル型フェライトである請求項4または5に記載のキャリア芯材。
【請求項7】
粉末粒子の平均粒子径D50が10〜100μmである請求項4〜6のいずれかに記載のキャリア芯材。
【請求項8】
SiO2粉末とソフトフェライトの原料物質を混合したスラリーを噴霧乾燥させて造粒物を得る工程、
造粒物を900〜1400℃で焼成してSiO2相とソフトフェライト相を有する複相構造の焼成物を得る工程、
焼成物に解粒処理を施して前駆体粒子の粉末を得る工程、
前駆体粒子の粉末にソフトフェライト相の融点より高温の火炎雰囲気中を通過させる処理を施す工程、
を有する請求項4〜7のいずれかに記載のキャリア芯材の製造法。
【請求項9】
請求項4〜7のいずれかに記載のキャリア芯材の粉末粒子に樹脂被覆を施した電子写真現像剤用キャリア。
【請求項10】
トナーおよび請求項9に記載のキャリアを含む電子写真現像剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2010−83739(P2010−83739A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−257896(P2008−257896)
【出願日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【出願人】(000224802)DOWA IPクリエイション株式会社 (96)
【Fターム(参考)】