説明

磁性粒子およびその製造方法、磁気記録用磁性粉、ならびに磁気記録媒体

【課題】高い熱的安定性を有する高密度記録用磁気記録媒体に好適な六方晶フェライト磁性粒子を提供する。
【解決手段】600〜800℃の範囲の温度に制御された真空雰囲気中で六方晶フェライト磁性体に加熱処理を5〜60分間施すことにより熱的安定性を改良する。処理を施す六方晶フェライト磁性体の平均粒子体積は1000〜3000nmの範囲とする。さらに好ましくは、前記加熱処理後の磁性粒子を還元性雰囲気中で加熱処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性粒子およびその製造方法に関するものであり、詳しくは、高い信頼性を有する高密度記録用磁気記録媒体の作製に好適な磁性粒子およびその製造方法に関するものである。
更に本発明は、上記磁性粒子からなる磁気記録用磁性粉、および上記磁性粒子を含む塗布型磁気記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、高密度記録用磁気記録媒体の磁性層には強磁性金属磁性粒子が主に用いられてきた。強磁性金属磁性粒子は主に鉄を主体とする針状粒子であり、高密度記録のために粒子サイズの微細化、高保磁力化が追求され各種用途の磁気記録媒体に用いられてきた。
【0003】
記録情報量の増加により、磁気記録媒体には常に高密度記録が要求されている。しかしながら更に高密度記録を達成するためには強磁性金属磁性粒子の改良には限界が見え始めている。これに対し、六方晶フェライト磁性粒子は、結晶構造に由来する高い結晶磁気異方性を有し熱的安定性に優れるため、微細化しても磁気記録に適した優れた磁気特性を維持することができる。更に、六方晶フェライト磁性粒子を磁性層に用いた磁気記録媒体はその垂直成分により高密度特性に優れる。このように六方晶フェライト磁性粒子は、高密度化に適した強磁性体である。そのため近年、六方晶フェライト磁性粒子を使用した磁気記録媒体について、様々な検討がなされている(例えば特許文献1〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許3251753号明細書
【特許文献2】特開2002−260212号公報
【特許文献3】特開2003−77116号公報
【特許文献4】特開2010−24113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、更なる高密度記録化が進行し、記録密度としては面記録密度として1Gbpsi以上、更には10Gbpsi以上が目標とされている。かかる高密度記録化を実現するためには、ノイズ低減のために六方晶フェライト磁性粒子を微粒子化することが求められる。そのため上記特許文献1〜4には、微粒子状の六方晶フェライト磁性粒子を使用することについて検討がなされている。
しかし磁性粒子の粒子サイズを小さくすると、磁性粒子が磁化方向を保とうとするエネルギー(磁気エネルギー)が熱エネルギーに抗することが困難となり、いわゆる熱揺らぎにより記録の保持性が低下してしまい、強磁性金属磁性粒子と比べて熱的安定性に優れる六方晶フェライト磁性粒子であっても磁気エネルギーが熱エネルギーに負けて記録が消失する現象が無視できなくなってくる。この点について説明すると、磁化の熱的安定性に関する指標として「KuVact/kT」が知られている。Kuは磁性体の結晶磁気異方性定数、Vactは活性化体積、kはボルツマン定数、Tは絶対温度である。磁気エネルギーKuVactを熱エネルギーkTに対して大きくすることで熱揺らぎの影響を抑えることができるが、活性化体積Vactは媒体ノイズを低減するために小さくする必要がある。活性化体積Vactは磁化反転の単位であって凝集あるいは融着の有無を示す指標となるものであり、微粒子磁性体であっても粒子間で凝集あるいは融着が発生すると活性化体積Vactは大きくなり、あたかも粗大粒子が存在しているかの状態となりノイズが増大するからである。したがって、更なる高記録密度化を実現するためには、高い結晶磁気異方性定数を有することで優れた熱的安定性を示す六方晶フェライト磁性粒子を提供することが求められる。
【0006】
そこで本発明の目的は、高い熱的安定性を有する高密度記録用磁気記録媒体に好適な六方晶フェライト磁性粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、600℃以上の温度に制御された真空雰囲気中で六方晶フェライト磁性体に加熱処理を施すことで、熱的安定性を改良できることを新たに見出した。先に説明したように、熱的安定性は活性化体積Vactが大きくなることでも改良されるが、上記加熱処理により加熱処理前の六方晶フェライト磁性体から活性化体積Vactは大きく変化しないことから、結晶磁気異方性定数Kuが向上することにより熱的安定性が改良されたことが確認される。これは特定温度以上における安定相の結晶性が向上したことによるものと考えている。ただし本発明者の検討により、上記加熱処理温度が800℃を超えると、高い熱的安定性を示す磁性粒子を得ることはできるが、この熱的安定性は加熱処理により粒子同士が凝集あるいは融着し活性化体積Vactが大きくなったことによるものであり、高密度記録化には不適となることも判明した。
以上の知見に基づき本発明者は、600〜800℃の範囲の温度に制御された真空雰囲気中で六方晶フェライト磁性体に加熱処理を施すことにより上記目的が達成されることを見出すに至り、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、上記目的は、下記手段により達成された。
[1]600〜800℃の範囲の温度に制御された真空雰囲気中で六方晶フェライト磁性体に加熱処理を施すことを特徴とする磁性粒子の製造方法。
[2]磁気記録用磁性粉として使用される磁性粒子を製造する、[1]に記載の磁性粒子の製造方法。
[3]前記加熱処理を5〜60分間行う、[1]または[2]に記載の磁性粒子の製造方法。
[4]前記加熱処理が施される六方晶フェライト磁性体の平均粒子体積は1000〜3000nm3の範囲である、[1]〜[3]のいずれかに記載の磁性粒子の製造方法。
[5]前記加熱処理後の磁性粒子を、還元性雰囲気中で加熱処理することを更に含む[1]〜[4]のいずれかに記載の磁性粒子の製造方法。
[6]前記還元性雰囲気は水素含有雰囲気である、[5]に記載の磁性粒子の製造方法。
[7][1]〜[6]のいずれかに記載の製造方法により得られた磁性粒子。
[8]反磁界700Oe(≒56kA/m)において1000〜4000nm3の範囲の活性化体積を示す、[7]に記載の磁性粒子。
[9][7]または[8]に記載の磁性粒子からなる磁気記録用磁性粉。
[10]非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含有する磁性層を有する磁気記録媒体であって、
前記強磁性粉末が[7]または[8]に記載の磁性粒子であることを特徴とする磁気記録媒体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、六方晶フェライト磁性体の高密度記録適性を損なうことなく、熱的安定性を改良することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、
600〜800℃の範囲の温度に制御された真空雰囲気中で六方晶フェライト磁性体に加熱処理を施すことを特徴とする磁性粒子の製造方法;および、
上記製造方法により得られた磁性粒子、
に関する。先に説明したように本発明によれば、六方晶フェライト磁性体に上記加熱処理を施すことにより、粒子間の凝集あるいは融着の発生を抑制しつつ、その熱的安定性を高めることができる。
以下、本発明について更に詳細に説明する。
【0011】
六方晶フェライト磁性体
上記加熱処理が施される六方晶フェライト磁性体は、例えば、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、鉛フェライト、カルシウムフェライトの各置換体、Co置換体等であることができる。具体的には、マグネートプランバイト型のバリウムフェライトおよびストロンチウムフェライト、スピネルで粒子表面を被覆したマグネートプランバイト型フェライト、更に一部スピネル相を含有したマグネートプランバイト型のバリウムフェライトおよびストロンチウムフェライト等が挙げられ、その他、所定の原子以外にAl、Si、S、Sc、Ti、V、Cr、Cu、Y、Mo、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、Ba、Ta、W、Re、Au、Hg、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、P、Co、Mn、Zn、Ni、Sr、B、Ge、Nbなどの原子を含んでもかまわない。一般にはCo−Zn、Co−Ti、Co−Ti−Zr、Co−Ti−Zn、Ni−Ti−Zn、Nb−Zn−Co、Sb−Zn−Co、Nb−Zn等の元素を添加したものを使用できる。原料・製法によっては特有の不純物を含有するものもあるが、本発明ではそれらも使用できる。
【0012】
六方晶フェライト磁性体の製造方法としては、ガラス結晶化法、水熱合成法、共沈法等の方法が知られている。本発明で使用する六方晶フェライト磁性体は、いずれの方法により作製されたものであってもよいが、磁気記録媒体に望まれる微粒子適性・単粒子分散適性を有する六方晶フェライト磁性体を製造可能な方法により得られたものであることが好ましい。この点からは、一般にガラス結晶化法が優れているが、例えば特開2008−247618号公報に記載の微粒子六方晶フェライトを提供可能な共沈法を採用することもできる。
【0013】
上記六方晶フェライト磁性体の飽和磁化としては、出力的に有利な磁性粒子を得る観点から3.5×10-2〜1.0A・m2/g(35〜1000emu/g)の範囲であることが好ましく、4.0×10-2〜1.0×10-1A・m2/g(40〜100emu/g)の範囲であることがより好ましい。形状としては球形、多面体状等のいずれの形状でも構わない。また、上記六方晶フェライト磁性体の粒子サイズとしては、高密度記録の観点から、平均粒子体積が1000〜3000nm3の範囲であることが好ましく、1000〜2500nm3の範囲であることがより好ましい。また、板径は好ましくは5〜200nmであり、さらに好ましくは5〜25nmである。本発明における粒子サイズは、透過型電子顕微鏡(TEM)により測定することができる。また本発明において粒子サイズに関する平均値は、透過型電子顕微鏡で撮影した写真において500個の一次粒子を無作為に抽出して測定した粒子サイズの平均値とする。なお一次粒子とは、凝集のない独立した粉体をいう。
【0014】
真空雰囲気中での加熱処理
本発明では上記六方晶フェライト磁性体に対して、600〜800℃の範囲の温度に制御された真空雰囲気中で加熱処理を施す。本発明において真空雰囲気とは、大気圧よりも圧力の低い空間または状態をいい、好ましくは圧力2×10-1torr〜1×10-4torr(≒27Pa〜1.3×10-2Pa)程度の真空度をいう。上記真空雰囲気は、真空ポンプによる真空脱気等の公知の方法によって作製することができる。600℃以上の真空雰囲気中で加熱処理を施すことにより、活性化体積Vactは大きく変化させずに熱的安定性を向上する(結晶磁気異方性定数Kuを高める)ことができる。これに対し上記加熱温度が600℃未満では、加熱処理前と比べて熱的安定性が向上した六方晶フェライト磁性粒子を得ることは困難である。また、800℃を超える温度で加熱処理を施すと、熱的安定性は高いものの、活性化体積が大きく高密度記録に不適な磁性粒子が得られてしまう。以上の点から、本発明において六方晶フェライト磁性体に対する加熱処理は、600〜800℃の範囲に温度制御された真空雰囲気中で行うものとする。上記温度は、より一層優れた熱的安定性を有する高密度記録に適した磁性粒子を得る観点から、630〜770℃の範囲とすることが好ましく、650〜750℃の範囲とすることがより好ましい。加熱処理時間は、一般に長いほど結晶磁気異方性定数向上に有利であるが、生産性も考慮すると5〜60分間程度が好ましく、5〜30分間程度がより好ましく、5〜25分間程度がより一層好ましい。
なお前記した特開2008−247618号公報には、フェライト粉末製造工程においてフェライト化のための熱処理を真空中にて行うことの開示があるが、本発明はフェライト化された粉末(六方晶フェライト磁性体)に対して上記真空雰囲気中での加熱処理を施すものであり、特開2008−247618号公報記載の技術とは別異の技術思想に基づき完成された発明である。
【0015】
上記加熱処理は、好ましくは、上部が開口した反応容器に六方晶フェライト磁性体を入れ、該反応容器を反応炉内に配置した後、同炉内を真空脱気し次いで雰囲気温度を600〜800℃の温度まで昇温することで行うことができる。この場合、反応容器の底部に位置する六方晶フェライト磁性体全体を一定条件下で加熱処理するために容器内の粒子を適宜攪拌することが好ましい。このためにはロータリーキルン等が好ましく用いられる。
【0016】
保磁力調整処理
ところで、磁性粒子の保磁力が低いほど、隣接記録ビットからの影響で記録を保持しづらくなるため、記録の保持性の観点からは磁性粒子の保磁力は高いことが好ましい。他方、保磁力が高い磁性材料はスイッチング磁界が高く記録に大きな外部磁場が必要となるため、最大出力を得るための電流(最適記録電流)は高くなる、即ち記録性は低下する傾向がある。本発明者の検討によれば、上記加熱処理後の磁性粒子は、加熱処理前の六方晶フェライト磁性体と保磁力は大きく変化しない。したがって原料バリウムフェライト磁性体として記録に適した保磁力を有する六方晶フェライト磁性体を選択することで、上記加熱処理により熱的安定性が向上し、しかも優れた記録性を有する磁性粒子を得ることができる。
加えて上記の点に関連し本発明者が更に検討した結果、上記加熱処理後の磁性粒子を還元性雰囲気中で加熱処理することで、磁性粒子の保磁力を低下させることが可能となることが、新たに見出された。したがって、例えば原料磁性体として適切な保磁力を有する六方晶フェライト磁性体を入手することが困難な場合などには、記録性改良(保磁力調整)のために、上記加熱処理後の磁性粒子を、還元性雰囲気中での加熱処理(以下、「還元処理」ともいう)に付すことが好ましい。
【0017】
上記還元処理に使用する還元ガスとしては、水素、一酸化炭素、炭化水素等を用いることができる。水素、一酸化炭素は還元分解時に酸化され、それぞれ水、二酸化炭素の形で気体として粒子から取り除かれる点で好ましい。ただし一酸化炭素は毒性が高いため、安全性および取り扱いの容易性の観点からは、水素を使用することがより好ましい。上記還元性雰囲気は、100%還元ガス雰囲気とすることも可能であるが、還元ガス濃度が1体積%程度であっても、保磁力を低下させることは可能である。上記加熱処理を実施した反応炉内の雰囲気を還元性雰囲気に置換することで、上記還元処理を行うことができる。なお、安全上の配慮から不活性ガスで10体積%以下程度に希釈した水素または一酸化炭素も好ましく用いることができる。このように不活性ガスにより希釈することによって、還元処理による磁気特性の変化を制御することもできる。
【0018】
上記還元処理を行う際の加熱温度は、反応炉内温度として100〜200℃の範囲とすることが好ましい。特に、還元力の強い還元ガス(例えば純水素および一酸化炭素)を使用する場合には、200℃を超える加熱処理温度では、保磁力の急激な低下を招くことがあるからである。また、100℃未満では、保磁力を変化させることが困難な場合があるからである。加熱処理温度は、処理時間の短縮化の観点からは130℃以上であることがより好ましく、160℃以上であることが更に好ましい。還元処理時間は、還元性雰囲気中の還元ガス濃度等に応じて、所望の保磁力の磁性粒子が得られるように設定すればよく特に限定されるものではないが、例えば0.1〜5時間程度が好適である。
【0019】
または、保磁力をわずかに低下させたい場合には、上記還元処理を炭化水素ガスを含有する還元性雰囲気中で行うことが好ましい。炭化水素ガスを含有する還元性雰囲気中で加熱処理すると、磁性粒子の還元に伴い炭化水素が酸化されることにより生成した炭素または炭化物(以下、これらをまとめて「炭素成分」という)が磁性粒子表面に堆積すると考えられる。炭化水素ガスを含有する還元性雰囲気中での加熱処理により保磁力の低下率を低く抑えることができる理由は、これら炭素成分が磁性粒子表面に存在することにより、還元が穏やかに進行するためと推察される。
【0020】
上記炭化水素としては、飽和炭化水素であっても不飽和炭化水素であってもよく特に限定されるものではない。具体例としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン等の飽和炭化水素、エチレン、アセチレン等の不飽和炭化水素を挙げることができる。取り扱いの容易性の観点からは、メタンおよびエタンが好ましい。上記炭化水素ガスによる効果は、前記還元性雰囲気中の炭化水素ガス濃度が、例えば1体積%程度であっても十分得ることができる。また、前記還元性雰囲気は100%炭化水素ガスであってもよい。なお、前記還元性雰囲気中に炭化水素ガス以外にも還元性ガス(例えば水素、一酸化炭素等)が含まれていてもよい。
また、炭化水素ガスを含有する還元性雰囲気中で加熱処理を施した後、炭化水素ガス以外の還元性ガス(例えば水素、一酸化炭素等)を含有する雰囲気中で加熱処理を施すことも好ましい対応である。これは、炭化水素で還元を続けると表面に形成される炭素成分の厚みが厚くなり、物理的体積を大きくしてしまうからである。磁性粒子の物理的体積が増大するほど、実質的に磁性層に含有させることが出来る粒子数が減ることとなるため、SNRを向上させるという観点からは好ましくない。この点から、炭素成分の形成を穏やかに進行させたい場合には前記還元性雰囲気は炭化水素ガスと他のガスとの混合雰囲気であることが好ましい。ここで炭化水素ガスと共存するガスとしては、還元を穏やかに進行させる観点から、不活性ガス(窒素ガス、アルゴンガス等)が好ましい。
【0021】
上記還元処理を炭素ガス含有還元性雰囲気中で行う場合、還元処理時の加熱処理温度は、反応炉内温度として200℃以上とすることが好ましい。炭化水素ガスは、還元性ガスの中では比較的還元力の弱いガスであるが、200℃以上であれば長時間を要することなく磁性粒子表層部の還元を良好に進行させることができる。ただし、過度に加熱処理温度を高くすることは、磁性粒子間の融着を生じることから好ましくない。還元処理時の粒子間の融着を抑制する観点からは、上記還元処理時の加熱処理温度は400℃以下であることが好ましい。なお、還元性雰囲気中に共存ガスとして酸素分圧を低くした空気または窒素が含まれる場合には、還元処理時の加熱処理温度は1000℃未満とすることが好ましい。これは、酸素分圧を低くした空気および窒素は、1000℃以上の高温では還元剤として働くため、還元反応を穏やかに進行させることが難しくなるからである。炭素ガス含有還元性雰囲気中での還元処理時間は、還元性雰囲気中の炭化水素ガス濃度等に応じて、所望の値に保磁力を低下させることができるように設定すればよく特に限定されるものではないが、例えば0.1〜5時間程度が好適である。
【0022】
また、前述の真空雰囲気中での加熱処理を施した磁性粒子を遷移金属塩溶液に浸漬した後、上記磁性粒子を含む遷移金属塩溶液から溶媒を除去することにより、該磁性粒子表面に遷移金属塩を含む被覆層を形成し(以下、「第一工程」という)、次いで、前記被覆層中の遷移金属塩を還元分解すること(以下、「第二工程」という)により、上記処理前と比べて保磁力を低下させることも可能である。これは、上記処理(以下、「還元分解物被着処理」という)により、還元分解物(以下、「シェル」という)を、下層に位置する磁性粒子(以下、「コア」という)と交換結合した状態で被着させることができるためと考えている。上記コア/シェル構造を形成すると、シェルが先に外部磁場の変化に対応し、そのスピンの向きが変わる。これにより、シェルと交換結合したコアのスピンの向きを変えることができるため、磁性粒子において保磁力を下げることができる。ここで「交換結合」とは、交換相互作用によりスピンの向きが揃うように、シェルのスピンとコアのスピンとが連動して動くように、あたかも1つの磁性体としてスピンの向きが変わるように結合していることをいう。シェルが交換結合を生じずにコア表面に存在している場合、即ち単に物理的に付着している場合、シェルの有無によって磁性粒子の保磁力は変化しない。したがって、コアとシェルが交換結合していることは、磁性粒子の保磁力が、シェル形成により減少することによって確認することができる。また、シェルが交換結合を生じずにコア表面に付着している場合、M-Hループ(ヒステリシスループ)はシェルのM-HループとコアのM-Hループを足し合わせたものとなるため、シェルの保磁力に相当するところでM-Hループに段が現れる。したがって、シェルとコアが交換結合していることは、M-Hループの形状から確認することもできる。なお、先に説明した還元処理により磁性粒子の保磁力を下げることができる理由について本発明者は、還元された表層部が粒子内部と交換結合しているためであると推察している。
以下、上記還元分解物被着処理について、更に詳細に説明する。
【0023】
第一工程は、前記真空雰囲気中での加熱処理後の磁性粒子を遷移金属塩溶液(以下、「磁性粒子含有塩溶液」または単に「塩溶液」ともいう)に浸漬した後、上記磁性粒子を含む塩溶液から溶媒を除去することにより、該磁性粒子表面に遷移金属塩を含む被覆層を形成する工程である。第一工程において使用する塩としては、遷移金属の塩であればよいが、保磁力調整の観点からFe、Co、Niの塩であることが好ましく、特にFeまたはCoの塩であることが好ましい。前記塩は、有機物、無機物のいずれでもよく、具体的には、塩化鉄、クエン酸鉄、クエン酸アンモニウム鉄、硫化鉄、酢酸鉄、鉄(III)アセチルアセトナート、蓚酸アンモニウム鉄、塩化コバルト、クエン酸コバルト、硫化コバルト、コバルト(III)アセチルアセトナート、塩化ニッケル、硫化ニッケル等を用いることができる。なお、前記塩には、遷移金属錯体(錯塩)が含まれるものとする。還元分解した際に、副生成物を取り除くという観点からは、前記塩は無機物であることが好ましい。
【0024】
前記溶液の溶媒としては、使用する遷移金属塩を溶解できるものであれば特に限定されるものではなく、公知のものを使用することができる。ただし、溶媒の除去の容易性の観点から、高沸点のものは好ましくない。この点から、水、ケトン類(例えばアセトン)、アルコール類、エーテル類が好ましく用いられる。磁性粒子を浸漬した際に酸化を防ぐ観点から、溶媒中の酸素を窒素等でバブリングして除いたものを用いることが好ましい。この際、予め、溶媒中をくぐらせた窒素ガスを用いると使用する溶媒の揮発を防ぐことができる。油状溶媒を使用することも可能であるが、溶媒の除去の容易性の点からは非油状溶媒を使用することが好ましく、この点からも、水、ケトン類、アルコール類、エーテル類を使用することが好ましい。
【0025】
前記塩溶液中の塩濃度は特に限定されるものではないが、前記塩溶液中の塩濃度が薄すぎると所望量の軟磁性相を硬磁性粒子表面に形成するために、硬磁性粒子を塩溶液に浸漬し、溶媒を取り除き、当該塩を磁性粒子表面上に析出させた後、塩を還元分解するという作業を何度も繰り返す必要がある。また、過度に高濃度であると、磁性粒子を塩溶液に浸漬し、溶媒を取り除き、当該塩を硬磁性粒子表面上に析出させた際、粒子同士がくっついてしまうことから好ましくはない。以上の点を考慮すると、前記塩溶液中の塩濃度は、溶液100gあたり0.1mmol〜20mmol程度が好ましい。
【0026】
前記塩溶液中の硬磁性粒子量は、粒子表面に塩を均一に付着させる観点から、磁性粒子の表面が均一に濡れている程度の量とすることが好ましい。粒子表面に乾いた部分があるままであると塩の付着が不均一になり、塩溶液が多すぎる場合も、溶媒を除去する際に塩溶液に濃度むらができ、塩の付着が不均一となるからである。
【0027】
前記塩溶液の調製方法は特に限定されるものではなく、磁性粒子と遷移金属塩を同時または順次、溶媒に添加混合することによって調製すればよい。
【0028】
磁性粒子を溶液に浸漬する操作から第二工程に至る前の雰囲気は、硬磁性粒子の酸化を防止する観点から、窒素、アルゴン、He雰囲気等の不活性雰囲気であることが好ましい。
【0029】
前記磁性粒子含有塩溶液調製後、調製した溶液から溶媒を除去することにより、磁性粒子表面に遷移金属塩が析出する。これにより、磁性粒子表面に遷移金属塩を含む被覆層を形成することができる。加熱処理、減圧処理、またはこれらの組み合わせにより、前記磁性粒子含有塩溶液から溶媒を容易に除去することができる。加熱処理における加熱温度は、溶媒の沸点に応じて設定すればよい。ただし、前述のように不活性雰囲気中で処理する場合であっても、温度が高すぎると雰囲気中に不純物として含まれる酸素により磁性粒子が酸化されることがある。このような酸化を防止する観点からは、加熱温度は25〜250℃程度が好ましく、25℃〜150℃程度がより好ましい。加熱で溶媒を除去する際に、粒子同士が凝集しやすくなるので、低温で時間をかけ溶媒を除去することが好ましい。また、溶媒除去中、塩溶液を適宜攪拌することにより、磁性粒子表面に遷移金属塩を均一に析出させることができる。さらに、酸化を防止し、粒子同士が凝集することを防止するには、減圧処理により溶媒を除くことが好ましい。減圧処理は、アスピレーター、ロータリーポンプを用いて0.1〜8000Paの減圧下で行うことができる。この際、取り除いた溶媒をコールドトラップで取り除くことが好ましい。減圧処理時に溶媒の揮発に伴う気化熱によりサンプルの温度が下がり、溶媒を除去する効率が下がることから、25〜50℃で加熱することが好ましい対応である。
【0030】
第一工程では、以上の操作によって磁性粒子表面に遷移金属塩を含む被覆層を形成することができる。また、前記被覆層の厚さは、所望量のシェルを磁性粒子(コア)表面に形成することができるように、塩溶液中の塩濃度等によって適宜調整すればよい。なお、本工程において形成される被覆層は、磁性粒子の全表面を被覆することは必須ではなく、一部に磁性粒子表面が露出した部分や他の物質が堆積した部分があってもかまわない。
【0031】
第二工程は、第一工程で形成した被覆層中の遷移金属塩を還元分解する工程である。これにより、前記不活性ガス雰囲気中での加熱処理後の磁性粒子表面に、還元分解物を被着させることができる。先に説明したように、これにより磁性粒子の保磁力を低下させることができる。これは還元分解物(シェル)が磁性粒子(コア)と交換結合したコアシェル構造による効果であると考えられる。
【0032】
前記還元分解は、好ましくは、前記被覆層を有する磁性粒子を還元雰囲気中で加熱することにより行われる。還元ガスとしては水素、一酸化炭素、炭化水素等が用いられる。水素、一酸化炭素は還元分解時に酸化され、それぞれ水、二酸化炭素の形で気体として粒子から取り除かれる点で好ましい。還元分解時の雰囲気ガスは、還元分解の反応効率の点からは、還元ガスを50体積%以上含有するものが好ましく、90体積%以上含有するものがより好ましい。反応容器にガス流入口と排気口を設け、還元分解中に常時還元ガス気流を流入させつつ反応後のガスを排出することが、反応効率の点から特に好ましい。還元ガス気流中での還元分解は、Ca還元の様にCaが不純物として混入することもなく、還元分解での副生成物が気相中に移り除かれる点で有利である。なお、安全上の配慮から不活性ガスで希釈した水素も好ましく用いることができる。ただし、この場合は還元分解に長時間を要することとなる。一方、設備上の観点等から還元分解反応を穏やかに進行させることが好ましい場合もある。この場合には、先に説明したように炭化水素ガスを含有する還元性雰囲気中で、還元分解反応を行うことが好ましい。
【0033】
上記還元分解時の雰囲気温度は、300℃〜550℃の範囲とすることが作業性等の観点から好ましく、コアを構成する磁性粒子が還元されることを防ぐ観点からは、より好ましくは300℃〜400℃である。なお、遷移金属塩を還元分解した際の副生成物を除去するため、排気ガスをスクラバーで処理することもできる。
【0034】
また、ハンドリング性をいっそう向上するために、公知の徐酸化処理より磁性粒子の最表面に酸化物層を形成することも、好ましい対応である。
【0035】
本発明によれば、以上の処理を施すことにより、高い熱的安定性を有する高密度記録に適した磁性粒子を得ることができる。上記の通り、磁性粒子の保磁力が低すぎると、隣接記録ビットからの影響で記録を保持しづらくなり、高すぎると記録しづらくなる。以上の点から本発明の磁性粒子は、80kA/m以上240kA/m未満の保磁力を有することが好ましく、120kA/m以上235kA/m以下の保磁力を有することがより好ましく、160kA/m以上230kA/m以下の保磁力を有することがより一層好ましい。前述の通り、原料六方晶フェライト磁性体の保磁力、および必要に応じて行われる前述の各種処理により制御することができる。
【0036】
なお、後述する実施例に示すように、上記真空雰囲気中での加熱処理や保磁力制御のための処理による、磁性粒子の飽和磁化の大きな低下は見られなかった。したがって本発明において磁性粒子の飽和磁化は、原料六方晶フェライト磁性体の飽和磁化によって調整することができ、3.5×10-2〜1.0A・m2/g(35〜1000emu/g)の範囲であることが好ましく、4.0×10-2〜1.0×10-1A・m2/g(40〜100emu/g)の範囲であることがより好ましい。上記範囲の飽和磁化を有することは、出力的に有利である。
【0037】
前述の処理を経て得られた磁性粒子は、高密度記録化の観点から、反磁界700Oe(≒56kA/m)において1000〜4000nm3の範囲の活性化体積を示すことが好ましく、1000〜3500nm3の範囲の活性化体積を示すことがより好ましい。前述したように活性化体積は磁性粒子の凝集あるいは融着の有無を示す指標であり、一次粒子サイズが小さい磁性粒子であっても活性化体積が大きくなると、高密度記録領域において高いSNRを実現することは困難であるが、上記範囲の活性化体積を有する磁性粒子であれば、高密度記録用磁気記録媒体に使用する磁性体として好ましい。原料六方晶フェライト磁性体として一次粒子サイズの小さいものを使用したうえで、先に説明したように加熱処理を施す真空雰囲気の温度を800℃以下に制御することで、上記好ましい活性化体積を有する磁性粒子を得ることができる。なお原料六方晶フェライト磁性体の好ましい範囲については、前述の通りである。
【0038】
以上説明した本発明の磁性粒子は、優れた熱的安定性と高密度記録適性を兼ね備えたものであるため、磁気記録用磁性粉として好適である。本発明の磁性粒子によれば、磁性粒子を結合剤および溶媒と混合し塗布液として支持体上に塗布することにより磁性層を形成することができる。したがって、本発明の磁性粒子は、塗布型磁気記録媒体への適用に好適である。即ち、本発明は、非磁性支持体上に強磁性粉末と結合剤とを含有する磁性層を有する磁気記録媒体であって、前記強磁性粉末が本発明の磁性粒子であることを特徴とする磁気記録媒体にも関する。本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体上に、非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層と本発明の磁性粒子および結合剤を含む磁性層とをこの順に有する重層構成の磁気記録媒体であることもでき、非磁性支持体の磁性層を有する面とは反対の面にバックコート層を有する磁気記録媒体であることもできる。
【0039】
本発明の磁気記録媒体の厚み構成については、非磁性支持体の厚みは、例えば3〜80μm、好ましくは3〜50μm、より好ましくは3〜10μmである。非磁性層の厚みは、例えば0.1〜3.0μmであり、0.3〜2.0μmであることが好ましく、0.5〜1.5μmであることが更に好ましい。なお、非磁性層は、実質的に非磁性であればその効果を発揮するものであり、例えば不純物として、あるいは意図的に少量の磁性体を含んでいても、本発明の効果を示すものであり、本発明の磁気記録媒体と実質的に同一の構成とみなすことができる。なお、実質的に同一とは、非磁性層の残留磁束密度が10mT以下または抗磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であることを示し、好ましくは残留磁束密度と抗磁力を持たないことを意味する。
【0040】
磁性層の厚みは、好ましくは10〜80nm、より好ましくは30〜80nmであり、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量やヘッドギャップ長、記録信号の帯域により最適化することが好ましい。また、バックコート層の厚みは、0.9μm以下が好ましく、0.1〜0.7μmが更に好ましい。
【0041】
その他の本発明の磁気記録媒体の詳細については、磁気記録媒体に関する公知技術を適用することができる。例えば、磁気記録媒体を構成する材料および成分ならびに磁気記録媒体の作製方法の詳細については、例えば、特開2006−108282号公報段落[0030]〜[0145]および同実施例の記載、ならびに特開2007−294084号公報段落[0024]〜[0039]、[0068]〜[0116]および同公報の実施例の記載を参照できる。特に、上記磁性粒子を高度に分散させ優れた電磁変換特性を有する磁気記録媒体を得るためには、特開2007−294084号公報段落[0024]〜[0029]に記載の技術を適用することが好ましい。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明の具体的実施例および比較例を挙げるが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。以下において「部」、「%」は、特記しない限り、質量部、質量%を示す。
【0043】
[磁性粒子サンプル1〜3、6〜8の作製]
1.ガラス結晶化法によるバリウムフェライト磁性体の作製
BaOを31モル%、B23を31モル%、組成式BaO・Fe12-3(x+y)/2CoxZnyNb(x+y)/218(ここでx=0.1、y=0.3)で表されるBaフェライ成分38モル%からなる非晶質体を得るために、各元素に対応する原料を秤量し十分に混合した。白金ルツボに混合原料を投入し高周波加熱装置を用いて1350℃で加熱溶融した。全ての原料を溶融したのち、均質化するため1時間攪拌し、均質化した熔融物を高速回転させた水冷双ローラー上に注いで圧延急冷し、非晶質体を作製した。得られた非晶質体を常温から550℃まで5時間かけ昇温したのち、550℃から600℃の温度領域を450℃/minの昇温速度で昇温し、結晶化温度660℃まで温度を上昇させ、5時間結晶化を行い、Baフェライト結晶を析出させた。結晶化物を酸処理での効率を上げるため粉砕したのち、10%の酢酸溶液中で、溶液温度を80℃以上に制御しながら、4h攪拌し酸処理を行ないガラス成分BaO−B23成分を溶解させた。繰り返し水洗を行った後、スラリーを乾燥させ、磁性粉末を得た。得られた磁性粉末について、X線回折分析を行い、六方晶フェライト(バリウムフェライト)であることを確認した。得られた磁性粉末の特性値を以下に示す。保磁力および飽和磁化は、後述の方法で測定した。平均板径はHITACHI製の透過型電子顕微鏡(印加電圧200kV)により測定した。比表面積は、BET法により求めた。
保磁力 189kA/m(2370Oe)
飽和磁化 5.5×10-2A・m2/g(55emu/g)
平均板径 26nm
比表面積 62m2/g
【0044】
2.真空雰囲気中での加熱処理
上記1.で得られた磁性粉末0.4gを入れたアルミナボートをゴールドイメージ炉(アルバック理工社製Q810)内に配置した後、粉末が舞わないようにしながら真空脱気を行い炉内を圧力9×10-2Torrの真空雰囲気とした。その後、炉内雰囲気を72.5℃/minで表1記載の雰囲気温度に昇温し、同温度にて表1記載の時間保持した。その後、炉冷で室温まで温度を下げ、炉内に空気を導入し真空状態を解除した後、サンプルを取り出した。
【0045】
[磁性粒子サンプル4の作製]
上記1.で得られた磁性粉末0.4gを入れたアルミナボートをゴールドイメージ炉(アルバック理工社製Q810)内に配置した後、粉末が舞わないようにしながら炉内空気を脱気し炉内を圧力9×10-2Torrの真空雰囲気とした。その後、炉内雰囲気を72.5℃/minで表1記載の雰囲気温度に昇温し、同温度にて10分間保持した。その後、炉冷で室温まで温度を下げ、炉内に空気を導入し真空状態を解除した後、窒素ガスに4体積%水素ガスを含む200℃に温度制御した混合ガスにより炉内雰囲気ガスを置換した。ガス置換後、同混合ガス気流中(即ち200℃に制御した還元性雰囲気中)で15分間磁性粒子を加熱処理(還元処理)した。その後、炉冷で室温まで温度を下げた。ガス導入を停止した後、空気を導入しサンプルを取り出した。
【0046】
上記方法で作製した磁性粒子サンプル1〜4、6〜8と、磁性粒子サンプル5として上記1.で作製した原料バリウムフェライト磁性体を、以下の方法で評価した。
【0047】
評価方法
(1)保磁力Hc、飽和磁化Ms
全サンプルの保磁力および飽和磁化を、玉川製作所製超電導振動式磁力計(VSM)を使用し、印加磁場3184kA/m(40kOe)の条件で評価した。
(2)平均粒子体積(TEM体積)
磁性粒子サンプル1〜6、8の平均粒子体積を、HITACHI製の透過型電子顕微鏡(印加電圧200kV)により測定した。
(3)活性化体積V
全サンプルについて、超電導電磁石式振動試料型磁力計(玉川製作所製TM−VSM1450−SM型)を用いて、反磁界700Oe(≒56kA/m)での活性化体積を求めた。各測定において、サンプルとしては磁性粉末0.1gを測定ホルダーに圧密したものを用いた。
測定方法
200Oe(≒16kA/m)だけ異なる反磁界H1(600Oe)とH2(800Oe)について、反磁界に達したときから25分後の磁化を求めた。具体的には、サンプルに40kOe(≒3200kA/m)の外部磁場をかけ、直流消磁した後、磁石を電流値制御とし目標の反磁界を発生させる電流を供給し、目標の反磁界に外部磁場を漸近させた。磁場が目標値に達した時間を基準(0分)とし、25分後の磁化を求めた。この磁化をそれぞれMBとMEとすると全磁化率Xtot=(MB−ME)/ΔH=(MB−ME)/200となる。
次に可逆磁化率Xrevは、H2から外部磁場を200Oeだけ増加させたときの磁化MFを求め、Xrev=(MF−ME)/ΔH=(MF−ME)/200により求めた。
不可逆磁化率(Xirr)はXirr=Xtot−Xrevにより求めた。
活性化体積(Vact)はVact=kT/(Ms(ΔM/Xirr(lnt1−lnt2))により求めた。ここで、k:ボルツマン定数、T:温度、Ms:サンプルの飽和磁化、である。
以上の工程により、反磁界700Oeにおける活性化体積を求めた。
(4)減磁率(Decay rate)
全サンプルについて、超電導電磁石式振動試料型磁力計(玉川製作所製TM−VSM1450−SM型)を用いて、反磁界600Oe(≒48kA/m)での減磁率を求めた。各測定において、サンプルとしては磁性粉末0.1gを測定ホルダーに圧密したものを用いた。
測定方法
サンプルに40kOe(≒3200kA/m)の外部磁場をかけ、直流消磁した後、磁石を電流値制御とし目標の反磁界(600Oe)を発生させる電流を供給し、目標の反磁界に外部磁場を漸近させた。反磁界が目標値に達した時間を基準(0分)として磁化の時間減衰(%/decade)を求めた。
【0048】
以上の結果を、表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1に示すように、バリウムフェライト磁性体に対して600〜800℃の範囲の温度に制御された真空雰囲気中で加熱処理を施した実施例サンプルは、原料バリウムフェライト磁性体(表1中、サンプル5)と比べて減磁率が低かった。このことから、上記加熱処理により磁性粒子の熱的安定性が改良されたことが確認できる。また、活性化体積は凝集あるいは融着の有無を示す指標であり、仮に凝集あるいは融着を生じているのであれば千の位以上で変化が現れるが、表1に示すように実施例サンプルの活性化体積は、原料バリウムフェライト磁性体と同等であった。したがって、実施例サンプルにおける熱的安定性の改良は、活性化体積の増加によるものではなく、磁性粒子の結晶磁気異方性定数が向上したことによるものであることが確認できる。
これに対し、600℃に満たない真空雰囲気中で加熱処理を施した比較例サンプル6、7の減磁率は、原料バリウムフェライト磁性体とほぼ同じ値であったことから、600℃未満の温度では熱的安定性を改良できないことが示された。
また、800℃を超える真空雰囲気中で加熱処理を施した比較例サンプル(サンプル8)は、原料バリウムフェライト磁性体に比べて減磁率が大幅に低下した。しかし、この比較例サンプルの活性化体積の測定値から、減磁率の低下は磁性粒子の結晶磁気異方性定数の向上によるものではなく、磁性粒子が凝集あるいは融着を生じたことによることが確認できる。このように凝集あるいは融着を生じた磁性粒子は、高密度記録用磁性粉としては不適である。
加えて、真空雰囲気中での加熱処理に引き続き水素ガス含有雰囲気中で加熱処理(還元処理)を施したサンプル4は、同じ条件で真空雰囲気中での加熱処理を行ったサンプルサンプル2と比べて保磁力が低下した。この結果から、還元性雰囲気中での加熱処理により、磁性粒子の記録性を改善できることも確認された。
【0051】
以上の評価結果から、本発明によれば、優れた熱的安定性を有する高密度記録用磁性粉を提供できることが示された。
磁気記録媒体の磁性層に含まれる磁性粒子が熱的安定性に劣るものであると、磁性粒子が磁化方向を保とうとするエネルギー(磁気エネルギー)が熱エネルギーに抗することが困難となり、記録された信号が経時的に減衰(磁化減衰)して再生信号の信頼性が低下してしまう。したがって磁気記録媒体の信頼性を高めるためには、記録された信号を大きく減衰させずに保持し得る高い熱的安定性を有する磁性粒子を使用することが求められる。上記の通り本発明により優れた熱的安定性を有する磁性粒子を提供することができるため、かかる磁性粒子を用いることで、高い信頼性を有する磁気記録媒体を提供することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の磁性粒子は、長期にわたり高い信頼性を維持することが求められるバックアップテープの作製に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
600〜800℃の範囲の温度に制御された真空雰囲気中で六方晶フェライト磁性体に加熱処理を施すことを特徴とする磁性粒子の製造方法。
【請求項2】
磁気記録用磁性粉として使用される磁性粒子を製造する、請求項1に記載の磁性粒子の製造方法。
【請求項3】
前記加熱処理を5〜60分間行う、請求項1または2に記載の磁性粒子の製造方法。
【請求項4】
前記加熱処理が施される六方晶フェライト磁性体の平均粒子体積は1000〜3000nm3の範囲である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁性粒子の製造方法。
【請求項5】
前記加熱処理後の磁性粒子を、還元性雰囲気中で加熱処理することを更に含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁性粒子の製造方法。
【請求項6】
前記還元性雰囲気は水素含有雰囲気である、請求項5に記載の磁性粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法により得られた磁性粒子。
【請求項8】
反磁界700Oe(≒56kA/m)において1000〜4000nm3の範囲の活性化体積を示す、請求項7に記載の磁性粒子。
【請求項9】
請求項7または8に記載の磁性粒子からなる磁気記録用磁性粉。
【請求項10】
非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含有する磁性層を有する磁気記録媒体であって、
前記強磁性粉末が請求項7または8に記載の磁性粒子であることを特徴とする磁気記録媒体。

【公開番号】特開2012−156438(P2012−156438A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16336(P2011−16336)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】