説明

磁性粒子及びその製造方法

【課題】医用磁性粒子として好適な、サイズ均一性に優れ、且つ安全性の高い磁性粒子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】磁性体と生分解性高分子を含有する磁性粒子であって、前記磁性粒子の平均粒子径が10nm以上1000nm以下である磁性粒子。(1)生分解性高分子、磁性体及び溶剤1から混合液を調製する工程、(2)前記混合液と溶剤2を混合してエマルションを調製する工程、(3)前記エマルションから溶剤1を抽出除去する工程とを有する磁性粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁性粒子及びその製造方法に関し、詳しくは医薬、診断薬の分野、特にMRI造影剤やDDSキャリアとして有用な医用磁性粒子及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁性粒子には、多種多用な用途が期待されており、特に医薬、診断薬等、医療・診断分野における基剤(以下、医用磁性粒子と呼ぶ)としての用途に注目が集められている。
これまで主要に開発されてきた医用磁性粒子は、生体外での用途が中心であり、生体内に供されるものは報告例が少ない。しかしながら、近年の医療・診断分野の情勢を鑑みるに、今後は生体内での用途を念頭においた医用磁性粒子を設計開発する必要性がますます増加してくるものと推測される。
【0003】
その一例として、医用磁性粒子をMRI造影剤や磁気ハイパーサーミア、DDSキャリアなどに適用しようという検討が近年盛んに行われはじめている。
しかしながら、医用磁性粒子を生体内に安全に投与し、MRI造影剤や磁気ハイパーサーミア、DDSキャリアとして有効に効果を発揮させるためには、生体に対する毒性や、安定性、患部への標的指向性付与など、種々の点に配慮した製剤化が必要である。
【0004】
例えば、医用磁性粒子を構成する材料は、生体毒性や生体適合性の観点から厳しく制約されるため、医用磁性粒子の開発を一層困難にしている。
生体毒性の点から考えると、アレルギー性や発ガン性、内分泌かく乱など生体機能を害する可能性が極めて小さい材料であることが必須である。さらに、医用磁性粒子としての機能を発揮し終えた以後は、生体外に代謝される材料であることが好ましい。
【0005】
また、生体適合性の点から考えると、医療磁性粒子は生体にとって異物であるため、例えば、血小板の凝集を引き起こして、生体に悪影響を与えるなどの懸念もある。
非特許文献1では、脂質二重膜より構成されるリポソームに、マグネタイト微粒子を内包したマグネトリポソームのMRI造影効果について報告している。脂質二重膜は生体由来物質であり、マグネタイトは従来公知の生体適合性に優れた常磁性体であることから、マグネトリポソームは生体に対して低毒性という点で、医用磁性粒子の有力な候補である。しかしながら、リポソーム特有の会合力の弱さから、生体内での長期安定性について課題が残されている。
【0006】
一方、特許文献1では、生分解性高分子の一種であるポリ乳酸とマグネタイトを混練することにより得られる粒状物質について報告している。しかしながらこの粒状物質は、平均粒子径が5μmから2mmと比較的大きいため、MRI造影剤やDDSキャリアに適用することは困難である。
【0007】
また、上記した何れの医用磁性粒子においても、患部に対する標的指向性を付与するためには、別途有機化学的な手法によってプローブ等を導入する必要があると推察される。しかしながら、このような有機化学的な手法を講じることは、新たな生体毒性を生じる恐れもあるため好ましくない。
【特許文献1】特公平06−026594号公報
【非特許文献1】Journal of Chemical Engineering of Japan,34 (1),66から72頁(2001年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のような理由から、安定性と患部への標的指向性を備え、且つ生体に対して低毒性である医用磁性粒子の開発が求められていた。
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、サイズ均一性に優れ、且つ安全性の高い磁性粒子及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、磁性体と生分解性高分子から構成されるナノメートルサイズの磁性粒子、及びその製造方法を見出し、本発明に至った。
【0010】
上記の課題を解決する磁性粒子は、磁性体と生分解性高分子を含有する磁性粒子であって、前記磁性粒子の平均粒子径が10nm以上1000nm以下であることを特徴とする。
【0011】
上記の課題を解決する磁性粒子の製造方法は、平均粒子径が10nm以上1000nm以下で、且つ分散度指数が1.5以下である磁性粒子の製造方法であって、(1)生分解性高分子、磁性体及び溶剤1から混合液を調製する工程、(2)前記混合液と溶剤2を混合してエマルションを調製する工程、(3)前記エマルションから溶剤1を抽出除去する工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、サイズ均一性に優れ、且つ安全性の高い磁性粒子及びその製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、MRI造影剤や磁気ハイパーサーミア、DDSキャリアとして利用可能な、生体に対する低毒性、安全性、癌組織への標的指向性を備えた医用磁性粒子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明における磁性粒子は、磁性体と生分解性高分子から構成される磁性粒子であって、前記磁性粒子の平均粒子径が10nmから1000nmであることを特徴とする。
【0014】
本発明では、上記の磁性粒子を、MRI造影剤(磁性粒子は、核磁気共鳴における緩和時間を速めることによりMRI画像を鮮明化する)や磁気ハイパーサーミア(磁性粒子が電磁波によって発熱する性質を利用して患部の局部加熱治療に用いる)、DDSキャリア(薬剤を内包した磁性粒子を磁気的操作によって生体内の任意部位に輸送する)として利用可能な、生体に対する低毒性、安全性、癌組織への標的指向性を備えた医用磁性粒子として適用することを目的としている。
【0015】
本発明における生分解性高分子としては、本発明の目的を達成可能な生分解性高分子であればいかなる物質も適用可能であるが、例えばポリエステル[例えばα−ヒドロキシ酸類(例えば、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシアルカン酸、2−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ吉草酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−ヒドロキシカプロン酸、2−ヒドロキシイソカプロン酸、2−ヒドロキシカプリル酸等)、α−ヒドロキシ酸の環状二量体類(例えば、グリコリド、ラクチド等)、ヒドロキシジカルボン酸類(例えば、リンゴ酸)、ヒドロキシトリカルボン酸(例えば、クエン酸)等の単独重合体(例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシアルカン酸等)またはこれらの2種以上の共重合体(例えば、乳酸/グリコール酸共重合体,2−ヒドロキシ酪酸/グリコール酸共重合体等)、あるいはこれら単独重合体および/または共重合体の混合物(例、乳酸重合体と2−ヒドロキシ酪酸/グリコール酸共重合体との混合物等)]、ポリグリコシド(例えば、ヒアルロン酸、アルギン酸、コンドロイチン硫酸、キチン、キトサン、酸化セルロース等)、ポリアミノ酸(例えば、ポリ−L−グルタミン酸,ポリ−L−アラニン,ポリ−γ−メチル−L−グルタミン酸等)等を用いることができる。
【0016】
これらの中ではポリエステルが好ましく、特に、脂肪族ポリエステルが好ましい。脂肪族ポリエステルの中でα−ヒドロキシモノカルボン酸類(例えば、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシアルカン酸等)、α−ヒドロキシジカルボン酸類(例えば、リンゴ酸)、α−ヒドロキシトリカルボン酸(例えば、クエン酸)等のα−ヒドロキシカルボン酸類の1種以上から合成され、遊離の末端カルボキシル基を有する重合体、共重合体、またはこれらの混合物などを用いることが、低毒性、生分解性、及び生体適合性の点で好適である。共重合体の場合、モノマーの結合様式としては、ランダム、ブロックあるいはグラフト結合のいずれでもよい。また、前記α−ヒドロキシモノカルボン酸類、α−ヒドロキシジカルボン酸類、α−ヒドロキシトリカルボン酸類が分子内に光学活性中心を有する場合、D−、L−、DL−体のいずれも適用することができる。
【0017】
本発明における磁性体としては、本発明の目的を達成できる範囲においていかなる磁性体を適用することも可能であるが、その中でも金属原子を含有する磁性体超微粒子を用いることが好ましい。このような磁性体超微粒子の具体的な例として、酸化ガドリニウム、マグネタイト、マグヘマタイト、MnZnフェライト、NiZnフェライト、Yfeガーネット、GaFeガーネット、Baフェライト、Srフェライト等の各種フェライト、鉄、マンガン、コバルト、ニッケル、クロム、ガドリニウム等の金属、鉄、マンガン、コバルト、ニッケル、ガドリニウム等の合金等を用いることができる。さらに好ましくは、生体適合性に優れるマグネタイトやマグヘマタイトを用いることが好適である。さらにこのような磁性体は、チタンカップリング剤、シランカップリング剤もしくは高級脂肪酸等の公知の疎水化処理剤により処理されたものであったもよい。
【0018】
なお、磁性体超微粒子の超微粒子とは、サブミクロンオーダー以下のサイズを有する微粒子を表す。
本発明における磁性粒子は、生分解性高分子と磁性体から構成されることを特徴とし、磁性粒子中に含有される磁性体の含有量は、本発明の目的を達成できる範囲において制約はないが、好ましくは1質量%以上80質量%以下、より好ましくは51質量%以上70質量%以下、さらには101質量%以上60質量%以下である場合に特に好適に用いることが可能である。磁性粒子中に含有される磁性体の含有量が1質量%より少ない場合には、磁性体としての機能を発揮することができず、80質量%よりも多い場合には、生分解性高分子の機能を発揮することができないため好ましくない。
【0019】
さらに、本発明における磁性粒子に含有される磁性体は、本発明の目的を達成できる範囲においていかなる平均粒子径の磁性粒子を用いることも可能である。磁性体の最適な平均粒子径は、磁性粒子の使用目的により異なるが、以下で説明するようなEPR効果を利用した癌細胞へのパッシブターゲティングを目的とする磁性粒子である場合には、磁性粒子に均一な性質を付与するために、50nm以下であることが好ましい。平均粒子径は、より好ましくは、40nm以下、さらに好ましくは30nm以下、20nm以下である場合に特に好適である。ただし、磁性体の平均粒子径が1nm以下である場合には、外部交流磁場の印加による発熱効率が小さいため、磁気ハイパーサーミアとして適用することは難しい。また、磁性粒子に含有される磁性体は、生分解性高分子をバインダーとして均一に分散しているのが好ましい。
【0020】
本発明における磁性粒子は、本発明の目的を達成できる範囲においていかなる平均粒子径の磁性粒子を用いることも可能であるが、磁性粒子の平均粒子径は1000nm以下であることが好ましい。1000nm大きい微粒子は、例えば血液中に浮遊するどん食細胞にどん食されやすいサイズであるため、細胞デリバリーを目的とするDDSキャリアとして好適に用いることができる。さらに、腸管粘膜から生体内に吸収させるタイプのDDSキャリアとして本発明の磁性粒子を適用する場合には、その平均粒子径が200nm以下であれば良く、好ましくは150nm以下、さらに100nm以下であればより好適である。また、本発明における磁性粒子を癌細胞に特異的に作用するMRI造影剤、磁気ハイパーサーミア、DDSキャリア等の医用磁性粒子として適用する場合には、その平均粒子径が100nm以下、好ましくは80nm以下、さらに50nm程度であればより好適である。一般に生体内に固形癌が発生した場合、固形癌が生体内で維持、成長するためには、癌細胞に栄養や酸素を補給するための腫瘍新生血管が形成されることが知られている。この腫瘍新生血管は脆弱で透過性が亢進しているため、100nm以下の粒子状物質、好ましくは80nm以下、さらに50nm程度の粒状物質が、パッシブに腫瘍間質に集積する。このような現象をEPR効果といい、本発明の磁性粒子は、EPR効果を利用することによって、癌細胞へのパッシブターゲティングが可能となる。
【0021】
また、EPR効果を利用した癌細胞へのパッシブターゲティングを考える場合、磁性粒子の単分散性は極めて重要な物性である。本発明における磁性粒子は、数平均粒子径(Dn)と重量平均粒子径(Dw)から算出される分散度指数(Dw/Dn)が、1.5以下であり、好ましくは1.3以下、さらに1.2以下である場合に好適である。分散度指数が1.5を超えると、医用磁性粒子としての特性にバラツキが生じるため好ましくない。
【0022】
さらに本発明における磁性粒子は真球性が高く、平均アスペクト比(長径/短径)は1以上1.5以下であり、より好ましくは1以上1.2以下である。このような真球状の磁性粒子は、生体内に投与した場合に、例えば血管中で滞留することなく癌細胞にパッシブターゲティングすることができる。
【0023】
本発明における磁性粒子は、その表面に非特異吸着を抑制するブロッキング剤を吸着、あるいは結合させた磁性粒子であっても良い。非特異吸着とは、例えば磁性粒子を生体内に投与した場合に、意図しない生体物質が磁性粒子表面に吸着する現象で、過剰免疫反応や血小板凝集など、好ましくない生体反応を引き起こす原因となる可能性がある。ブロッキング剤とは、このような好ましくない生体反応を防止する目的で使用され、そのような目的を達成可能な範囲において、本発明では、いかなる物質も適用することが可能である。ブロッキング剤の具体的な例として、ポリエチレングリコールまたはポリエチレングリコール誘導体など生体適合性に優れる親水性高分子や、多糖類、脂質、ペプチド結合を有する化合物などがあげられる。中でもペプチド結合を有する化合物、特にタンパク質等のポリペプチド、好ましくは、アルブミン(血清アルブミン、オバルブミン、コナルブミン、ラクトアルブミンなど)や乳蛋白質(カゼイン、カゼイン分解物、脱脂乳など)等は、生体由来物質のため生体に対して低毒性であり、好適に用いることができる。
【0024】
本発明の磁性粒子の製造方法は、磁性粒子の製造方法であって、(1)生分解性高分子、磁性体、及び溶剤1から混合液を調製する工程、(2)前記混合液と溶剤2を混合して第1のエマルションを調製する工程、(3)前記第1のエマルションを破砕して第2のエマルションを調製する工程、(4)前記エマルションから溶剤1を抽出除去する工程、とを有し、前記第2のエマルションの平均粒子径が50nmから5000nm、且つ分散度指数が1.5以下であることを特徴とする。
【0025】
本発明における溶剤1は、本発明に用いる生分解性高分子と相溶性のある溶剤で、且つ、水と実質的に混和しない溶剤であればいかなる溶剤も適用することが可能である。好ましくは、水に対する溶解度が常温(20℃)で3質量%以下の有機溶剤である。このような溶剤の例として、ハロゲン化炭化水素(ジクロロメタン、クロロホルム、クロロエタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、四塩化炭素等)、ケトン類(例、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)、エーテル類(テトラヒドロフラン、エチルエーテル、イソブチルエーテル等)、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、芳香族炭化水素(ベンゼン、トルエン、キシレン等)等が挙げられ、これらを単独で用いても良いし、あるいは2種類以上適宜の割合で混合して用いることもできる。溶剤1として特に、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素が好適である。
【0026】
本発明における溶剤2は、溶剤1と実質的に混和しない溶剤であり、好ましくは溶剤1に対する溶解度が常温(20℃)で3質量%以下である。このような溶剤の例として水、あるいは水溶液が好適である。
【0027】
本発明における磁性粒子の製造工程において、生分解性高分子、磁性体、溶剤1より構成される混合液と、溶剤2から、1ピークの粒子径分布を有し、その平均粒子径が20nm以上5000nm以下、且つ分散度指数が1.5以下であるエマルションを、中間状態として経ることが必須要件である。このようなエマルションは、以下のような工程により製造することができる。ただし、本発明における磁性粒子の製造方法は、以下の工程に限定されるものではなく、本発明を実施可能な範囲において、いかなる方法も実施可能である。
【0028】
本発明における磁性粒子の製造工程において、生分解性高分子、磁性体、溶剤1より構成される混合液と、溶剤2を混合し、次いで乳化操作を行うことで第1のエマルションを調製する。
【0029】
第1のエマルションは、前記混合液を分散質、溶剤2を分散媒とする多分散エマルションで、例えば、断続振とう法、プロペラ型攪拌機、タービン型攪拌機糖のミキサーを利用する攪拌法、コロイドミル法、ホモジナイザー法、超音波照射法等の従来公知の乳化方法によって調製することができる。
【0030】
次に、第1のエマルションに更なる乳化操作を加えることにより、第2のエマルションを調製する。第2のエマルションは1ピークの粒子径分布を有し、その平均粒子径が20nm以上5000nm以下、且つ分散度指数が1.5以下である単分散に優れたエマルションであることが必須である。中間状態として第2のエマルションを経由することによってはじめて、単分散性に優れる磁性粒子を製造することが可能となる。第2のエマルションは、従来公知の乳化方法によって調製することができるが、特にホモジナイザー法、超音波照射法が好適である。
【0031】
本発明において、第1のエマルションを調製する工程と、第2のエマルションを調製する工程を、一度の乳化操作によって行うことも可能であるが、2段階の乳化操作を経る場合に、単分散性に優れる磁性粒子が得られやすい。また、本発明を効果的に実施可能な範囲において、2段階以上の多段階の乳化操作を行うことも可能である。
【0032】
ここで、第2のエマルションを調製するためには、前記混合液の25℃における粘度が、20mPa・s以下であることが好ましい。これより高粘度である場合には、公知の手法では、ミニエマルションを中間状態として形成させることが困難であることを実験により確認している。より好ましくは、15mPa・s以下、さらに10mPa・s以下である場合に、より好適に本発明を実施することが可能である。
【0033】
本発明における溶液、あるいは混合液の粘度は、従来公知の手法によって評価することができるが、例えば、TOKI.SANGYO CO.,LTD.製のVISCOMETER. CONTROLLER RC−100等の既存の粘度計によって測定することができる。
【0034】
第2のエマルションから溶剤1を除去する方法は、公知の方法に従って行うことができる。例えば、プロペラ型攪拌機あるいはマグネチックスターラー等で攪拌しながら常圧、もしくは徐々に減圧して溶剤1を蒸発除去する方法、ロータリーエバポレータ―等を用いて、真空度、温度を調節しながら溶剤1を蒸発除去する方法、溶剤1と溶剤2のいずれにも可溶な溶剤を添加することによって、溶剤1を抽出除去する方法等が挙げられる。
【0035】
本発明において、第1のエマルション、あるいは第2のエマルションを調製する工程において、溶剤1、溶剤2のいずれか、あるいはその両方に分散剤を加えてもよく、その例としては、アニオン界面活性剤(例、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム等)、非イオン性界面活性剤〔ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(Tween 80,Tween 60,アトラスパウダー社製,米国)、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体(HCO−70,HCO−60,HCO−50,日光ケミカルズ社製)等〕、あるいはポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、レシチン、ゼラチン、ヒアルロン酸それらの誘導体等が挙げられ、これらの中の一種類か、いくつかを組み合わせて使用しても良い。分散剤の濃度は、本発明を実施可能な範囲において限定されないが、約0.01質量%以上20質量%以下、好ましくは、約0.05質量%以上10質量%以下の範囲が好適である。
【0036】
本発明における磁性粒子、磁性体、及びエマルションの平均粒子径は、従来公知の手法によって評価することができる。媒体中に分散している磁性粒子、磁性体、及びエマルションの平均粒子径は、動的光散乱法によって測定することが好ましい。動的光散乱法による粒径測定装置の例としては、大塚電子(株)のDLS8000等の装置がある。また、磁性粒子のアスペクト比や、磁性粒子中に含有される磁性体の分散状態を評価する場合には、透過型電子顕微鏡を用いる。なお、本発明における平均粒子径とは、媒体に分散している磁性粒子、磁性体、及びエマルションの平均粒子径を意味する。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
実施例1
磁性粒子1の作製
(a)マグネタイト超微粒子の作製
FeCl3とFeCl2を水に溶解させて溶解液とした。この溶解液に、激しく攪拌しながら、アンモニア水を加えてマネタイトの懸濁液とした。この懸濁液にオレイン酸を加え、攪拌しながら、70℃で1時間、110℃で1時間攪拌することでスラリーとしたスラリーを大量の水で洗浄し、次いで減圧乾燥することで粉末の疎水化マグネタイトとした。得られた疎水化マグネタイトをクロロホルムに分散し、DLS8000(大塚電子(株)製)にて評価したところ、平均粒子径11nm、分散度指数1.3であることを確認した。
(b)磁性粒子の作製
ポリヒドロキシアルカン酸の0.3gと疎水化マグネタイトの0.3gをクロロホルムの6gに秤量してクロロホルム混合液を調整した。一方、水にドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の0.6gを溶解させてSDS水溶液の24gを調製した。クロロホルム混合液とSDS水溶液を混合して混合液とし、この混合液を、攪拌式ホモジナイザーにて1時間せん断することで第1のエマルションとした。
【0038】
次に、第1のエマルションを、超音波式ホモジナイザーで4分間せん断することによって、第2のエマルションを調製した。第2のエマルションを、DLS8000(大塚電子(株)製)にて評価したところ、第2のエマルションの平均粒子径186nm、分散度指数1.3であることを確認した。
【0039】
次に、第2のエマルションをエバポレータ―にて減圧することで、第2のエマルションからクロロホルムを抽出除去し、磁性粒子1を得た。磁性粒子1を、DLS8000(大塚電子(株)製)にて評価したところ、平均粒子径126nm、分散度指数1.2であることを確認した。また、磁性粒子1をTEM(透過型電子顕微鏡)により評価したところ、マグネタイトが分散状態で含有されていることを確認した。図1に磁性粒子1の粒子構造を表す透過型電子顕微鏡写真を示す。
【0040】
実施例2
磁性粒子2の作製
ポリL乳酸の0.2gと、粉末の実施例1の疎水化マグネタイトの0.4gをクロロホルムの6gに秤量してクロロホルム混合液を調整した。一方、水にドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の0.57gを溶解させてSDS水溶液の24gを調製した。クロロホルム混合液とSDS水溶液を混合して混合液とし、この混合液を、攪拌式ホモジナイザーにて1時間せん断することで第1のエマルションとした。
【0041】
次に、第1のエマルションを、超音波式ホモジナイザーで4分間せん断することによって、第2のエマルションを調製した。第2のエマルションを、DLS8000(大塚電子(株)製)にて評価したところ、第2のエマルションの平均粒子径102nm、分散度指数1.2であることを確認した。
【0042】
次に、第2のエマルションに、攪拌しながら室温にてエタノールを少量ずつ滴下し、次いで、30wt%エタノール水溶液、10wt%エタノール水溶液、水の順で透析することによって、第2のエマルションからクロロホルムを抽出除去し、磁性粒子2を得た。磁性粒子2を、DLS8000(大塚電子(株)製)にて評価したところ、平均粒子径52nm、分散度指数1.1であることを確認した。また、磁性粒子2をTEMにより評価したところ、マグネタイトが分散状態で含有されていることを確認した。
【0043】
実施例3
磁性粒子3の作製
乳酸−グリコール酸共重合体の0.4gと、実施例1の疎水化マグネタイトの0.2gをクロロホルムの0.6gに秤量してクロロホルム混合液を調整した。一方、水にドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の0.57gを溶解させてSDS水溶液の24gを調製した。クロロホルム混合液とSDS水溶液を混合して混合液とし、この混合液を、攪拌式ホモジナイザーにて1時間せん断することで第1のエマルションとした。
【0044】
次に、第1のエマルションを、超音波式ホモジナイザーで4分間せん断することによって、第2のエマルションを調製した。第2のエマルションを、DLS8000(大塚電子(株)製)にて評価したところ、第2のエマルションの平均粒子径205nm、分散度指数1.2であることを確認した。
【0045】
次に、第2のエマルションをエバポレータ―にて減圧することで、第2のエマルションからクロロホルムを抽出除去し、磁性粒子3を得た。磁性粒子3を、DLS8000(大塚電子(株)製)にて評価したところ、第2のエマルションの平均粒子径153nm、分散度指数1.2であることを確認した。また、磁性粒子3をTEMにより評価したところ、マグネタイトが分散状態で含有されていることを確認した。
【0046】
実施例4
磁性粒子4の作製
SDS水溶液に分散させた磁性粒子2と、リン酸バッファー(pH7.4)にアルブミンを溶解させたアルブミン溶液を混合し、次いで、リン酸バッファーで透析することによって、磁性粒子1表面にアルブミンを吸着させ、磁性粒子4を作製した。磁性粒子4を遠心分離により沈降させ、上澄み液のアルブミン濃度を測定することによって、磁性粒子4にアルブミンが吸着していることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の磁性粒子は、サイズ均一性に優れ、且つ安全性の高いので、MRI造影剤や磁気ハイパーサーミア、DDSキャリアとして利用可能な、生体に対する低毒性、安全性、癌組織への標的指向性を備えた医用磁性粒子に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施例1における磁性粒子1の粒子構造を表す透過型電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体と生分解性高分子を含有する磁性粒子であって、前記磁性粒子の平均粒子径が10nm以上1000nm以下であることを特徴とする磁性粒子。
【請求項2】
前記磁性粒子の分散度指数が1.5以下であることを特徴とする請求項1記載の磁性粒子。
【請求項3】
前記磁性体が金属原子を含有する磁性体超微粒子であることを特徴とする請求項1または2記載の磁性粒子。
【請求項4】
前記磁性体超微粒子が金属酸化物であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの項に記載の磁性粒子。
【請求項5】
前記金属酸化物がマグネタイトであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかの項に記載の磁性粒子。
【請求項6】
前記マグネタイトの平均粒子径が50nm以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかの項に記載の磁性粒子。
【請求項7】
前記生分解性高分子が脂肪族ポリエステルであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかの項に記載の磁性粒子。
【請求項8】
前記脂肪族ポリエステルが、乳酸、ヒドロキシアルカン酸またはグリコール酸の単独重合体、或いは乳酸、ヒドロキシアルカン酸およびグリコール酸の中の2種類以上から構成される共重合体であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかの項に記載の磁性粒子。
【請求項9】
前記磁性粒子の表面に、非特異吸着を抑制するブロッキング剤を有することを特徴とする請求項1乃至8のいずれかの項に記載の磁性粒子。
【請求項10】
前記ブロッキング剤がペプチド結合を有する化合物であることを特徴とするであることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかの項に記載の磁性粒子。
【請求項11】
前記ペプチド結合を有する化合物がタンパク質であることを特徴とするであることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかの項に記載の磁性粒子。
【請求項12】
平均粒子径が10nm以上1000nm以下で、且つ分散度指数が1.5以下である磁性粒子の製造方法であって、(1)生分解性高分子、磁性体及び溶剤1から混合液を調製する工程、(2)前記混合液と溶剤2を混合してエマルションを調製する工程、(3)前記エマルションから溶剤1を抽出除去する工程とを有することを特徴とする磁性粒子の製造方法。
【請求項13】
前記混合液の粘度が20mPa・s以下であることを特徴とする請求項12記載の磁性粒子の製造方法。
【請求項14】
前記生分解性高分子が、溶剤1に可溶で、且つ溶剤2に難溶であり、溶剤1と溶剤2が実質的に混和しないことを特徴とする請求項12または13記載の磁性粒子の製造方法。
【請求項15】
前記溶剤1および溶剤2の少なくとも一方に分散剤が含有されることを特徴とする請求項12乃至14のいずれかの項に記載の磁性粒子の製造方法。
【請求項16】
前記混合液と溶剤2を2段階の乳化操作により混合してエマルションを調製することを特徴とする請求項12乃至15のいずれかの項に記載の磁性粒子の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−56827(P2008−56827A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−236722(P2006−236722)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】