説明

磁性粒子含有医薬用原薬

【課題】 均質な機能性を発揮できる診断用、治療用などの磁性粒子含有医薬を再現性良く生成できる磁性粒子含有医薬用原薬を提供する。
【解決手段】 一次粒子の平均粒子径が5〜30nmで、凝集粒子径が30〜200nmであり、飽和磁化が35〜90Am/kg、保磁力が0〜6.0kA/mである磁性酸化鉄微粒子が単分散したコロイド無菌水溶液であることを特徴とする磁性粒子含有医薬用原薬は、微細な磁性酸化鉄粒子を生成した後、反応溶液から反応時に副生した水可溶性副生塩類を常法により水洗除去して超常磁性酸化鉄粒子のコロイド水溶液を精製し、精製したコロイド水溶液の分散媒を超純水で置換することによって得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療技術分野において、薬物の送達法であるドラッグデリバリー システム(以降、DDSと記す)、レントゲンやMRI(磁気共鳴)等で用いられるCT(計算断層像法)診断及び温熱治療法などの治療用の磁性粒子含有医薬に用いる原薬に関するものである。
【0002】
詳述すれば、本発明は、上記磁性粒子含有医薬の病変組織や細胞への送達指向性、CTによる診断時の造影感度及び温熱治療時の発熱性等の性能を向上させることを目的とする磁性粒子含有医薬用原薬である。
【背景技術】
【0003】
近年、磁性体として磁性酸化鉄微粒子を用い、リン脂質、タンパク質及び水溶性ポリマー等の生体適応性物質と複合化した磁性粒子含有医薬が検討されている(特許文献1〜5等)。
【0004】
また、磁性酸化鉄微粒子の単分散水溶液を調整するために、界面活性剤等の表面処理剤で粒子表面を被覆する方法(特許文献6)、Al、Si等の無機物を被覆する方法(特許文献7)、または有機金属ポリマーで被覆する方法(特許文献4)等が知られている。
【0005】
しかし、これらは磁性酸化鉄粒子を利用するものではあるが、磁性粒子に付加する修飾機能を主体とするものであり、磁性酸化鉄微粒子の粒度や磁気特性等の粉体特性と磁性粒子含有医薬特性との特性要因の関係が十分に解明されているとは言い難いものである。
【0006】
特に、微細な磁性酸化鉄粒子を生体適応性物質に均一に分散・担持させることは、酸化鉄粒子の過度の磁気凝集に起因して容易なことではなく、これまでは大きな粒子サイズの磁性酸化鉄粒子が用いられてきた。
【0007】
また、粒子サイズが大きな磁性酸化鉄粒子は、治療後に酸化鉄粒子が体内に残留する可能性が高く、使用上の安全性が十分に確保できるとは言い難いものであった。
【0008】
そこで、均質な機能性、例えば試薬送達性、造影感度、発熱性能等を有するとともに、機能を十分に発揮できる診断用及び治療用の磁性粒子含有医薬を再現性良く生成できる磁性粒子含有医薬用原薬の開発が求められている。
【0009】
【特許文献1】特開平3−128331号公報
【特許文献2】特開平4−52202号公報
【特許文献3】特開平7−122410号公報
【特許文献4】特表平8−500700号公報
【特許文献5】特開平11−106391号公報
【特許文献6】特開平1−4002号公報
【特許文献7】特開平5−310429号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、均質な特性を有した磁性体含有医薬を再現性良く得るためには、磁性粒子含有医薬の製薬時において、生体適応性物質と磁性酸化鉄微粒子とを均一に分散混合させることが不可欠な条件であり、そのためには原薬中の磁性酸化鉄微粒子は微細で粒度が均一な磁性酸化鉄微粒子からなる単分散コロイド水溶液であることが必要である。
【0011】
しかし、界面活性剤などの表面処理剤を使用して磁性酸化鉄微粒子を分散させた場合、使用した表面処理剤が残留し、得られる磁性体含有医薬にもこれらの表面処理剤が混入して生体への安全性に影響を及ぼし、また生体適応性物質との混合を阻害する等の問題がある。さらに、表面処理剤を除去するためには複雑な処理が必要であった。
【0012】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、表面処理剤を使用しないで、均一な粒度から成る磁性酸化鉄微粒子の分散コロイド無菌水溶液を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、磁性粒子として微細な磁性酸化鉄粒子に着目し、超常磁性酸化鉄粒子からなる分散コロイド水溶液の分散安定条件を見出した。
【0014】
即ち、本発明は、一次粒子の平均粒子径が5〜30nm、凝集粒子径が30〜200nmの磁性酸化鉄微粒子が分散したコロイド無菌水溶液であることを特徴とする磁性粒子含有医薬用原薬である(本発明1)。
【0015】
また、本発明は、磁性酸化鉄微粒子の飽和磁化が35〜90Am/kg、保磁力が0〜6.0kA/mであることを特徴とする前記磁性粒子含有医薬用原薬である(本発明2)。
【0016】
また、本発明は、磁性酸化鉄微粒子がスピネル構造の組成物MOFe(Mは2価金属)であることを特徴とする前記磁性粒子含有医薬用原薬である(本発明3)。
【0017】
また、本発明は、組成物MOFe(Mは2価金属)のMが、Fe及び/又はMg(但し、FeとMgの総和がFe1モルに対して1モル以下)であることを特徴とする前記磁性粒子含有医薬用原薬である(本発明4)。
【0018】
また、本発明は、コロイド無菌水溶液中の磁性酸化鉄微粒子の濃度が5〜50mg/mlであることを特徴とする前記いずれかに記載の磁性粒子含有医薬用原薬である(本発明5)。
【0019】
また、本発明は、コロイド水溶液のpHが9.0以上で、かつ、ゼータ電位が−20mV以下、電気伝導度が50μS以上であることを特徴とする前記いずれかに記載の磁性粒子医薬用原薬である(本発明6)。
【0020】
また、本発明は、前記いずれかに記載の磁性酸化鉄微粒子とリン脂質、多糖類、蛋白質あるいはデキストリン類との複合体であることを特徴とする磁性粒子含有医薬用原薬である(本発明7)。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る磁性体含有医薬用原薬は、微細な磁性酸化鉄粒子の分散コロイド無菌水溶液であるから、磁性体粒子を生体適合性物質に均質に分散させた複合物からなる医薬を容易に合成することができる。さらに、液媒が界面活性剤などを含有しない原薬であるので、生体への安全性に与える影響は極めて少ないものである。
また、微細な磁性粒子は製薬造粒工程において、微粒子の集合状態を調整することにより造粒粒子に強磁性体の機能を付与することができる。
また、超微粒子であることで投与後は体内からの排泄を容易にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の構成をより詳しく説明すれば次の通りである。
【0023】
本発明における磁性酸化鉄微粒子の一次粒子の平均粒子径は5nm〜30nmである。一次粒子径が5nm未満では非晶質であり、30nmを超える場合は保磁力が大きくなり過度な磁気的凝集が生じやすくなり、凝集粒径が200nm以上となってしまう。好ましくは5〜20nmであり、より好ましいのは保磁力の小さい10nm以下である。
【0024】
本発明における磁性酸化鉄微粒子の凝集粒子径は30〜200nmである。30nm未満の場合には、癌の温熱療法に用いた場合に交番磁場による発熱性が低くなり、一方、200nmを越えると投与後の体内からの排出において問題を生じる。好ましくは50nm〜150nmである。
【0025】
本発明における磁性酸化鉄微粒子の粒度分布は、標準偏差値を平均粒径で割って得られる変動係数の値が、10%以下であることが好ましく、より好ましくは8%以下である。10%を超える場合には、水への分散性に問題を生じ、経時的に磁性粒子が沈降してくるという問題が生じる。
【0026】
本発明における磁性酸化鉄微粒子は、スピネル型強磁性体MO・Fe(Mは2価金属)であり、MがFeの場合の組成はxFeO・Feであり、この組成式のxは2価鉄の含有量を表し、x=1はFeO・Feでマグネタイト、x=0はγ−Feでマグヘマイト、その中間(x=0〜1)のスピネル型酸化鉄も磁性酸化鉄であり、これらの超常磁性酸化鉄粒子が用いられる。
【0027】
本発明における磁性酸化鉄微粒子の組成MO・Fe(Mは2価金属)のMとして、Fe以外にMgを選択したのは、Mgには生体適応性があるためであるが、他の2価金属でも目的に応じて選択して用いることができる。
【0028】
本発明における磁性酸化鉄微粒子は超常磁性体であることが好ましいが、保磁力は0〜6.0kA/mであることが好ましい。6.0kA/mを超える大きな保磁力の場合は残留磁化を生じて磁気凝集し易くなる。より好ましくは0.05〜4.0kA/mである。飽和磁化は35〜90Am/kgである。35Am/kg未満の飽和磁化では磁性が不足しており、スピネル酸化鉄粒子では90Am/kgを超える磁化値は得難い。より好ましくは50〜85Am/kgである。
【0029】
本発明における無菌水溶液とは、毒性検査及びエンドトキシン検査において共に陰性である原薬水溶液である。具体的には、生菌数が1×10−6/UNIT未満であり、エンドトキシンが5.0EU/kg以下である。
【0030】
本発明に係る磁性粒子含有医薬用原薬の磁性酸化鉄微粒子の濃度は、5〜50mg/mlが好ましい。50mg/mlを越える場合には、粒子間に働くファンデアワールス力の影響が大きくなって凝集が生起し易くなり好ましくない。5mg/ml未満では濃度が希薄すぎて実用的でない。好ましい濃度は10〜40mg/mlである。
【0031】
本発明に係る磁性粒子含有医薬用原薬のpH値は9.0以上が好ましく、より好ましくは9.0〜11.0である。
【0032】
本発明に係る磁性粒子含有医薬用原薬のゼータ電位は−20mV以下が好ましく、より好ましくは−30mV以下である。
【0033】
本発明に係る磁性粒子含有医薬用原薬の電気伝導度は50〜400μSが好ましい。
【0034】
本発明における磁性酸化鉄微粒子とリン脂質、多糖類、蛋白質あるいはデキストリン類との複合体とすることができる。
【0035】
次に、本発明に係る磁性粒子医薬用原薬の製造方法について述べる。
【0036】
磁性酸化鉄微粒子の単分散コロイド水溶液は下記3工程により生成することができる。
【0037】
即ち、(1)磁性酸化鉄微粒子を生成した後、(2)反応母液から反応時に副生した水可溶性副生塩類を常法により水洗除去して磁性酸化鉄微粒子のコロイド水溶液を精製し、(3)精製したコロイド水溶液の分散媒を超純水で置換して得ることができる。
【0038】
本発明における磁性酸化鉄微粒子は、鉄塩水溶液とアルカリを用いる水溶液反応(湿式法という。)、または、酸化鉄粉を水素等の還元性ガス中で加熱還元する方法(乾式法という)等で合成することができる。
【0039】
上記磁性酸化鉄微粒子の合成方法において、一般には共沈法や水酸化第一鉄コロイドの酸化反応などと呼ばれる湿式法で合成する。
【0040】
共沈法とは、第一鉄塩水溶液Fe(II)1モルと第二鉄塩水溶液Fe(III)2モルとの混合水溶液にアルカリ水溶液を攪拌しながら加えると、Fe(II)と2Fe(III)の共沈反応が生起して黒色スピネル型磁性酸化鉄であるマグネタイト粒子が生成する反応である。この反応においてFe以外の2価金属、例えばMgを添加した場合にはMgを含有したスピネル型磁性酸化鉄微粒子が得られる。また、鉄塩濃度や混合温度などの反応条件により生成粒子の大きさが制御できるので、これらの反応条件を組み合わせることにより磁性酸化鉄微粒子を合成することができる。
【0041】
水酸化第一鉄コロイドの酸化反応法とは、第一鉄塩水溶液にアルカリ水溶液を添加すると水酸化第一鉄コロイドが生成し、該水酸化第一鉄コロイドを含有する水溶液を加熱攪拌しながら空気等の酸素含有ガスを通気すると水酸化第一鉄コロイドの酸化反応により黒色磁性酸化鉄であるマグネタイト粒子が生成する反応である。上記の共沈法と同様にFe以外の2価金属を添加した場合には添加金属を含有したスピネル酸化鉄粒子が得られる。また、この反応条件を組み合わせて制御することにより磁性酸化鉄微粒子を合成することができる。
【0042】
磁性酸化鉄微粒子を含有するコロイド水溶液の水洗は、常法に従って行えばよい。例えば、デカンテーションの繰り返しによる方法、メンブランフィルターを加圧により通過させる方法、ヌッチェを用いてろ過・水洗する方法、または、遠心分離機により固液分離した後、超純水を加えて再分散する方法でも実施できる。
【0043】
そして、コロイド水溶液の濃度を超純水で5〜50mg/mlに希釈調整して磁性酸化鉄微粒子が無菌水に分散している磁性粒子含有医薬用原薬を得ることができる。
【0044】
さらに得られた磁性酸化鉄微粒子とリン脂質、多糖類、蛋白質あるいはデキストリン類との複合体の形で、種々の用途に用いることができ、例えば、薬物の送達法であるDDS、レントゲンやMRI(磁気共鳴)等で用いられるCT診断及び温熱治療法などの治療用等である。
【0045】
<作用>
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、磁性粒子として微細な磁性酸化鉄粒子の超常磁性に着目し、超常磁性酸化鉄微粒子からなる分散コロイド水溶液の分散安定条件を見出した。
【0046】
超常磁性を発現するのは保磁力がゼロの強磁性体である。即ち、強磁性体の粒子が単磁区構造であっても大きな粒子の場合は、外部磁界を印加して磁化した後外部磁界から開放すると残留磁化を生じるが、粒子が極微細になると保磁力が減少して遂にはゼロとなり、外部磁界を印加すると磁化するが外部磁界から開放した後には残留磁化を生じない。この現象は熱擾乱作用によるものであり、このような強磁性微粒子を超常磁性であるという。
【0047】
本発明に係る医薬用原薬は、表面磁束10mT(100ガウス)の永久磁石を近付けても凝集せず、長期安定な単分散コロイド水溶液である。これは、磁性酸化鉄微粒子の飽和磁化が50〜90Am/kgの強磁性体であることと矛盾する現象であるように思えるが、飽和磁化値とは磁性酸化鉄微粒子を粉末状で測定した時の単位重量当たりの磁化値を表わしたものであるから、これを粒子1個当たりの磁化値に換算すると、微粒子であるほど単位重量当たりの総粒子個数が多くなり、1個当たりの磁化値は小さな値となる。
【0048】
また、磁性粒子として超常磁性酸化鉄微粒子を用いるのは、酸化鉄には生体適応性があるからであり、微粒子ほど生体内からの排泄が容易となる。
【0049】
ところで、原薬である磁性酸化鉄微粒子を生体適応物質に均一に分散しただけでは磁性粒子含有医薬としての磁気特性は不足であるが、製薬工程において、生体適応性物質中に単分散した磁性酸化鉄微粒子は、薬剤として造粒する際に集合して複合粒子となるので強磁性を発現する。この現象は超常磁性粒子でも粒子同士を数珠繋ぎ状にすると形状磁気異方性が生じて保磁力が大きくなり強磁性体化するという周知の現象で説明できる。即ち、超常磁性酸化鉄粒子をある特定の粒度に二次凝集状態を制御し、さらに生体適応性物質と均一に分散混合すると、造粒粒子中の磁性粒子の数や集合形態により造粒粒子の磁気特性が異なり、磁性粒子含有医薬として必要な磁気特性を調整することができることを見出した。
【0050】
本原薬を、例えば、癌の温熱療法における発熱剤の発熱体として用いる場合には、磁性酸化鉄微粒子から成る凝集体をコアとし、リン脂質とカチオン性脂質から成る二重膜をシェルとするリポソーム状複合粒子を生成させて用いることができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。但し、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0052】
尚、生成物の構造解析にはX線回折装置を用い、一次粒子の平均粒子径はX線回折線(311)の半値幅からシェラーの式を用いて算出した。
【0053】
粒度分布は透過型電子顕微鏡TEMで観測した。さらに、デジタイザー分析により、平均粒子径および標準偏差値を求め、これらの値から、下式により変動係数を求めた。
変動係数(%)=(標準偏差)×100/(平均粒子径)
【0054】
凝集粒子径は動的光散乱法による粒度分布計FPAR−1000(大塚電子製)により測定した。
【0055】
比表面積値はBET法により測定した。
【0056】
また、Fe2+含有量はキレート滴定法により測定した。
【0057】
磁気特性の測定には振動試料型磁力計VSMを用い10k/4πkA/mの磁場で測定した。
【0058】
生成物はメンブランフィルター法による無菌検査及び菌の残骸有無に関するエンドトキシン検査を行った。
【0059】
生成物の電気伝導度は、電気伝導度計を用いて測定した。
【0060】
ゼータ電位はELS−6000(大塚電子製)により測定した。
【0061】
実施例1
撹拌装置及び加熱装置を備えた5000mlの反応容器を用い、原料鉄塩と苛性ソーダは試薬特級を用い、また水はイオン交換水を用いた。
【0062】
(1)超常磁性酸化鉄粒子の合成工程
水溶液濃度1.5モルの塩化第一鉄水溶液75mlと、濃度1.0モルの塩化第二鉄水溶液225mlを反応容器に投入し、撹拌して第一鉄と第二鉄塩の混合水溶液を調整した後、加熱昇温した。この混合鉄塩水溶液が60℃に昇温した時、予め準備した濃度6.0モルの苛性ソーダ水溶液189mlおよび純水11mLの該混合水溶液に撹拌しながら添加した。添加が完了してから温度を60℃に保持して60分間撹拌をつづけた。生成物は磁石に感応する黒色を呈したコロイド水溶液であった。
ここに得たコロイド水溶液の一部を採取し、水洗ろ過したペーストを凍結乾燥して得られた粉末を分析した結果、平均粒子径が11nmのスピネル型結晶構造の粒子粉で、一次粒子の粒度分布の変動係数は7%であった。また、Fe2+含有量が13.8モル%の磁性酸化鉄微粒子であり、磁気特性は飽和磁化σsが64Am/kg、保磁力Hcが2.0kA/mの超常磁性酸化鉄粒子であった。凝集粒子径は85nmであった。
【0063】
(2)コロイド粒子の精製工程
生成した黒色コロイド水溶液中には黒色コロイド粒子の合成反応で副生した可溶性塩が混在しているので、イオン交換水を用いてデカンテーション法により、副生塩を水洗除去することにより黒色コロイド水溶液を精製した。
【0064】
(3)磁性体含有医薬用原薬の精製工程(超純水への置換)
生成物の物性を評価するために採取した残りの黒色コロイド水溶液から100mlを良く攪拌しながら採取し、該コロイド水溶液を遠心分離機を用いて固液分離して分散媒を除去した。その後、同量の超純水を注入して超音波分散機を用いて再分散した。これを1サイクルとして5サイクル繰り返し行いコロイド水溶液の分散媒を超純水に置換した。次に、該コロイド水溶液に超純水を加えてコロイド粒子濃度を22mg/mlに調整して超音波分散機で分散しながら0.1規定の苛性ソーダ水溶液を添加してゼータ電位を−55mVに調整した。60分後に超音波分散機を停止してコロイド水溶液を静置し、360分間放置した。
得られたコロイド水溶液には沈殿が生じていないこと、さらに表面磁束が10mT(100ガウス)の永久磁石を用いて磁気凝集しないことを観測した。このコロイド水溶液は毒性検査及びエンドトキシン検査を行い、何れも陰性であることを確認して、超常磁性酸化鉄粒子の単分散コロイド無菌水溶液150mlを生成した。
得られたコロイド水溶液の磁性酸化鉄微粒子の濃度は20mg/mlであり、コロイド水溶液のpHは9.7、電気伝導度は210μSであった。
【0065】
実施例2
上記の工程(1)の超常磁性酸化鉄粒子の合成工程において、水溶液濃度が0.5モルの塩化第一鉄水溶液150mlと0.5モルの硫酸マグネシウム水溶液200mlおよび水溶液濃度が1.0モルの塩化第二鉄水溶液225mLを用いた以外は、(2)及び(3)の各工程は共に実施例1と同じ条件で磁性酸化鉄微粒子の濃度が20mg/mlの磁性粒子含有医薬用原薬を生成した。
【0066】
ここに得たコロイド水溶液の一部を採取し水洗ろ過したペーストを凍結乾燥して得られた粉末を分析した結果、平均粒子径が12nmのスピネル型結晶構造の粒子粉で、一次粒子の粒度分布の変動係数は7%であった。また、Fe2+含有量が10モル%,Mg2+含有量が3.5モル%の磁性酸化鉄微粒子であり、磁気特性は飽和磁化σsが63Am/kg、保磁力Hcが1.4kA/mの超常磁性酸化鉄粒子であった。凝集粒子径は125nmであった。
【0067】
また、実施例1と同様にして分散媒液は超純水に置換し、コロイド水溶液の濃度を20mg/mlに希釈すると同時に0.1規定の苛性ソーダ水溶液を添加してゼータ電位を−45mVに調整した。さらに表面磁束密度が10mT(100ガウス)の永久磁石を用いて磁気凝集しないことを観測した。このコロイド水溶液のエンドトキシン検査を行い陰性であることを確認して超常磁性酸化鉄粒子の単分散コロイド無菌水溶液150mlを生成した。
得られたコロイド水溶液のpHは9.8、電気伝導度は250μSであった。
【0068】
比較例
実施例1と同様にしてコロイド水溶液を調製し、精製および超純水への置換を行った後、0.1規定の苛性ソーダ水溶液を添加して、ゼータ電位を−15mVに調製した。
得られたコロイド水溶液のpHは8.1、電気伝導度は56μS、凝集粒子径が280nmであった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明に係る磁性体含有医薬用原薬は、磁性酸化鉄微粒子の単分散コロイド無菌水溶液であるから、磁性体微粒子を生体適合性物質に均質に分散させた複合物からなる医薬を容易に合成することができ、しかも、製薬造粒工程においては微粒子の集合状態を調整することにより造粒粒子に強磁性体の機能を付与することができる。
また、液媒が界面活性剤などを含有しない原薬であり、しかも、超微粒子であることで投与後は体内からの排泄を容易にすることができるので、人体に投与後の安全性及び代謝・排泄に関して何ら問題を生じない原薬を提供することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次粒子の平均粒子径が5〜30nm、凝集粒子径が30〜200nmの磁性酸化鉄微粒子が分散したコロイド無菌水溶液であることを特徴とする磁性粒子含有医薬用原薬。
【請求項2】
磁性酸化鉄微粒子の飽和磁化が35〜90Am/kg、保磁力が0〜6.0kA/mであることを特徴とする請求項1記載の磁性粒子含有医薬用原薬。
【請求項3】
磁性酸化鉄微粒子がスピネル構造の組成物MOFe(Mは2価金属)であることを特徴とする請求項1又は2記載の磁性粒子含有医薬用原薬。
【請求項4】
組成物MOFe(Mは2価金属)のMが、Fe及び/又はMg(但し、FeとMgの総和がFe1モルに対して1モル以下)であることを特徴とする請求項3記載の磁性粒子含有医薬用原薬。
【請求項5】
コロイド無菌水溶液中の磁性酸化鉄微粒子の濃度が5〜50mg/mlであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の磁性粒子含有医薬用原薬。
【請求項6】
コロイド水溶液のpHが9.0以上で、かつ、ゼータ電位が−20mV以下、電気伝導度が50μS以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の磁性粒子医薬用原薬。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の磁性酸化鉄微粒子とリン脂質、多糖類、蛋白質あるいはデキストリン類との複合体であることを特徴とする磁性粒子含有医薬用原薬。


【公開番号】特開2007−23027(P2007−23027A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−165168(P2006−165168)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【出願人】(000166443)戸田工業株式会社 (406)
【Fターム(参考)】