説明

磁性細胞およびその使用方法

本発明では、再生医療などでの応用が可能な間葉系細胞や軟骨細胞等の細胞に、磁性粒子を結合した例は未だ知られていないため、磁性粒子を結合した細胞が投与後外部からの時期により局所に滞留するか否か、また細胞が本来の働きをするか否かを検討する。本発明によれば、間葉系細胞や軟骨培養細胞の表面と磁性粒子を結合させた磁性細胞を提供し、それを体内に投与し、外部から磁場を与えることにより、長期間病巣部位に該細胞を存置させることが可能となる。さらに、本発明に係る磁性細胞に薬物を包含させて、ドラックデリバリーシステムを構築することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療、とりわけ再生医療に有用な磁性細胞およびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、薬物は投与後全身に分布するため、抗がん剤を始めとする副作用の強い薬物は、作用部位に高濃度に存在し、その他の部位には分布しないことが好ましい。薬物を局所に集中させるため、さまざまな試みがなされているが、その一つとして磁気粒子を用いて外部からの磁力により薬物を局所に集中させる方法が試みられている。たとえば、磁性体を薬物とともにリポソームに包含させて投与し、磁力により局所へ誘導し、薬物の局所濃度を高めることが可能である(たとえば、非特許文献1参照)。
【0003】
一方、マグネタイト等のフェリ磁性体と高分子からなる磁気ビーズ表面を抗体で修飾し、抗原抗体反応を利用して細胞の分離生成を行う技術が知られており、HLAのタイピング、造血幹細胞の選別などに応用されている(たとえば、非特許文献2参照)。
【非特許文献1】日本口腔外科学会誌1997年2月号 p55−61
【非特許文献2】バイオマテリアル2003年2月号 p113−119
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、再生医療等での応用が可能な間葉系細胞や軟骨細胞等の細胞に磁気粒子を結合した例はない。このため、磁気粒子を結合した細胞が投与後外部からの磁気により局所に滞留するか否か、また細胞が本来の働きをするか否か等、解決すべき未知な課題が多い。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明者らが鋭意研究した結果、細胞表面の機能に着目し、本願発明を完成するに至った。すなわち、本発明の第一の態様では、細胞の表面に磁性粒子を保有する磁性細胞を提供する。かかる細胞の構成により、磁性粒子の磁気を利用して、細胞を所望の位置に移動させることが可能となる。
【0006】
本発明に係る磁性細胞の好ましい態様において、前記表面と前記磁性粒子がリンカーを介して結合している、または前記表面は、前記磁性粒子が有する特定のアミノ酸配列により接着している。前記特定のアミノ酸配列の例としては、アルギニン−グリシン−アスパラギン酸−セリンの四つのアミノ酸から構成されるペプチド(RGDS)や、グリシン−アルギニン−グリシン−アスパラギン酸−セリンの五つのアミノ酸から構成されるペプチド(GRGDS)が挙げられる。
【0007】
本発明に係る磁性細胞の好ましい態様において、前記表面と前記リンカーとは、抗原抗体反応で結合している。
【0008】
本発明に係る磁性細胞の好ましい態様において、前記リンカーと前記磁性粒子は、化学結合により結合している。
【0009】
本発明に係る磁性細胞の好ましい態様において、前記磁性粒子は、少なくとも磁性体を包含する。
【0010】
本発明に係る磁性細胞の好ましい態様において、前記磁性粒子は、さらに薬物を包含する。
【0011】
本発明に係る磁性細胞の好ましい態様において、前記細胞が軟骨培養細胞、間葉系細胞、リンパ球細胞およびインテグリンを発現する細胞からなる群から選択される。
【0012】
また、本発明の第二の態様では、前記磁性細胞を用意する工程と、前記磁性細胞を培養する工程と、を含む、磁性細胞の培養方法を提供する。
【0013】
さらに、本発明の第三の態様では、前記磁性細胞を病巣部位へ移動させ、その場に存置させる工程と、磁場により、前記磁性細胞を前記病巣部位に、長時間滞留させる工程と、
を含む、磁性細胞の滞留方法を提供する。
【0014】
本発明に係る滞留方法の好ましい態様において、前記滞留工程は、前記磁場を体外から病巣部位にあてるか、また体内に磁石を埋め込むことにより行われる。
【0015】
さらにまた、本発明の第四の態様では、前記磁性細胞と、薬物を含む磁性粒子とを同時にまたは別々に病巣部位へ投与する工程と、前記磁性粒子から前記薬物を放出させる工程と、を含む磁性細胞の活動を制御する方法を提供する。
【0016】
本発明に係る制御方法の好ましい態様において、前記薬物は、骨形成剤、癌治療剤または痴呆症治療剤からなる群から選択される。
【0017】
くわえて、本発明の第五の態様では、前記磁性細胞と、薬物を含む磁性粒子とを同時にまたは別々に病巣部位へ投与する工程と、前記磁性粒子から前記薬物を放出させる工程と、を含む治療方法を提供する。
【0018】
本発明に係る治療方法の好ましい態様において、前記薬物は、骨形成剤、癌治療剤または痴呆症治療剤からなる群から選択される。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る磁性細胞によれば、その磁性細胞を生体内に導入し、体外からの磁場の作用により、長期間病巣部に存置させることができるため、該細胞本来の有する機能を効果的に発現することができる。また、本発明に係る磁性細胞を用いることにより、治療の必要性に応じて、軟骨形成等に再生医療への適用や、抗癌剤等のドラックデリバリーシステムへの適用が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな形態で実施することができる。
(第一の実施態様)
本発明に係る磁性細胞は、細胞表面に存在する接着成分の利用に基づくものである。図1は、本発明の第一の実施態様における磁性細胞10の概略図を示す。この磁性細胞10は、核30を有する細胞20の表面に発現している糖蛋白質40を、リンカー50を介して結合させた磁性粒子60を含む。本発明で利用する糖蛋白質40としては、以下のものに限定されるわけではないが、CD44やHLAが好ましい。
【0021】
本発明における磁性粒子60としては、たとえば、磁性体70を含むリポソームが挙げられる。このリポソームには細胞の働きを制御しうる薬物80をさらに含有させることができ、また、磁性体および薬物は他のタイプの内包材を用いて内包することもできる。
【0022】
ここで、リポソームとは、水生の内部を有する球形の脂質二重層である。リポソームを形成するときに、水性溶液中に存在する分子は、水性の内部に取り込まれる。リポソームの内容物は、外部微小環境から保護され、かつ、リポソームが細胞膜と融合するため細胞質内に効率的に輸送される。
【0023】
本発明に用いられるリポソームとしては、一般的にリポソームとして知られているものであればよく、特に経口摂取や注射の用に供して問題がないリポソームが挙げられる。それらのリポソームを適宜用してもよいし、新たに公知の材料を用いてリポソームを設計して、形成させてもよい。具体的には、リポソーム膜の主構成成分としてリン脂質やエーテルグリセロリン脂質、スフィンゴリン脂質、グリセロ糖脂質、スフィンゴ糖脂質を含み、さらに、リポソーム膜を安定化する脂質成分としてステロール類やトコフェロール類などを含むリポソームなどが好ましく用いられる。
【0024】
前記のリン脂質としては、天然リン脂質、合成リン脂質など、一般にリン脂質として知られているものが使用できる。リン脂質としては、例えば、(1)ホスファチジルコリン、(2)ホスファチジルエタノールアミン、(3)ホスファチジルグリセロール、(4)ホスファチジルセリン、(5)ホスファチジン酸、および(6)ホスファチジルイノシトールなどのリン脂質が好ましく用いられる。
【0025】
前記(1)のホスファチジルコリンとしては、例えば、卵黄レシチン、大豆レシチン、水添卵黄レシチン、水添大豆レシチン、大豆由来ホスファチジルコリン、大豆由来水添ホスファチジルコリン等の天然系ホスファチジルコリン;炭素数7〜22の飽和あるいは不飽和カルボン酸を構成成分として含むホスファチジルコリン等の合成系が挙げられる。具体例としては、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリンなどが挙げられる。前記の脂肪酸残基としては、オクタノイル、ノナノイル、デカノイル、ウンデカノイル、ラウロイル、ミリストイル、パルミトイル、オレイル、ステアリル、パリミトレイル、オレイル、リノレイル、リノレニル、アラキドニル等の基が挙げられる。また、グリセリンの1−位、および2−位に結合する脂肪酸残基部分は、同一でも異なっていてもよい。
【0026】
前記(2)のホスファチジルエタノールアミンとしては、例えば、大豆由来ホスファチジルエタノールアミン、大豆由来水添ホスファチジルエタノールアミン等の天然系ホスファチジルエタノールアミン;炭素数7〜22の飽和あるいは不飽和カルボン酸を含むホスファチジルエタノールアミン等の合成系が挙げられる。具体例としては、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミンなどが挙げられる。脂肪酸残基としては、前記の(1)と同様な基が挙げられる。
【0027】
前記(3)のホスファチジルグリセロールとしては、例えば、炭素数7〜22の飽和あるいは不飽和カルボン酸を含むホスファチジルグリセロール等の合成系が挙げられる。具体例としては、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジオレオイルホスファチジルグリセロールなどが挙げられる。構成脂肪酸残基としては、前記(1)と同様な基が挙げられる。
【0028】
前記(4)のホスファチジルセリンとしては、例えば、大豆由来ホスファチジルセリン、大豆由来水添ホスファチジルセリンなどの天然系;炭素数7〜22の飽和あるいは不飽和カルボン酸を含むホスファチジルセリン等の合成系が挙げられる。具体例としては、ジミリストイルホスファチジルセリン、ジパルミトイルホスファチジルセリン、ジオレオイルホスファチジルセリンなどが挙げられる。構成脂肪酸残基としては、前記(1)と同様な基が挙げられる。
【0029】
前記(5)のホスファチジン酸としては、例えば、炭素数7〜22の飽和あるいは不飽和カルボン酸を含むホスファチジン酸等の合成系が挙げられる。具体例としては、ジミリストイルホスファチジン酸、ジパルミトイルホスファチジン酸、ジオレオイルホスファチジン酸などが挙げられる。構成脂肪酸残基としては、前記(1)と同様な基が挙げられる。前記(6)のホスファチジルイノシトールとしては、例えば、大豆由来ホスファチジルイノシトール、大豆由来水添ホスファチジルイノシトール等の天然系ホスファチジルイノシトールが挙げられ、合成系のホスファチジルイノシトールも使用することができる。構成脂肪酸残基としては、前記(1)と同様な基が挙げられる。
また、本発明に用いるリポソームの膜の構成成分として、グリセロリン脂質、スフィンゴリン脂質、グリセロ糖脂質、スフィンゴ糖脂質などを用いることもできる。本発明において、リポソーム膜を安定化する脂質成分として、ステロール類やトコフェロール類を用いることができる。前記のステロール類としては、一般にステロール類として知られるものであればよく、例えば、コレステロール、シトステロール、カンペステロール、スチグマステロール、ブラシカステロールなどが挙げられ、入手性などの点から、特に好ましくは、コレステロールが挙げられる。前記のトコフェロール類としては、一般にトコフェロールとして知られるものであればよく、例えば、入手性などの点から、市販のα−トコフェロールが好ましく挙げられる。
【0030】
本発明に用いる内包材としては、イオン交換樹脂、結晶性セラミック、生体適合性ガラス、ラテックスが挙げられ、種々の界面活性剤とともにマイクロスフェアとして使用してもよい。さらに、前記内包材としては、ナノスフェアおよび他の脂質、ポリマーまたはタンパク質材料を用いることもできる。内包材の直径としては、数十〜数百nmのものが好ましいが、特に限定されない。また、かかる薬物内包材は少なくとも磁性体を包含するが、薬物を包含していてもよいし、包含しなくてもよいが、細胞の制御の観点から包含しているのが好ましい。
【0031】
なお、本発明における薬物内包材は薬物放出制御のための薬物放出制御手段を設けていてもよく、薬物放出速度制御手段としては、高分子、温度感受性分子、超音波および/または磁気感受性物質が挙げられる。具体的には、特開平5−228358記載の曇点を有する高分子化合物(ポリアクリル酸系ポリマー)や特開平11−92360に記載の超音波感受性物質(ポルフィリン誘導体やキサンテン誘導体等)等が挙げられる。
【0032】
本発明に利用される磁性体としては、磁性を有するものであれば限定されず、常磁性であっても、超常磁性であっても、強磁性であってもよく、強磁性にはフェロ磁性の他、フェリ磁性も含まれる。磁性体の具体例としては、マグネタイト(Fe)、マグヘマイトその他鉄、コバルト、ニッケル等の強磁性元素の化合物粒子が挙げられる。かかる強磁性化合物のうち、マグネタイトやマグヘマイトは生体に対して毒性を示さず、かつ安定である点において好ましいものである。特にマグネタイトが好ましい。
【0033】
前記磁性体は、上記強磁性化合物粒子単独である場合のみならず、セルロース、スターチ、デキストラン、アガロース、メタクリレートやスチレンなどで抱埋していてもよく、また磁性細菌が生合成する、マグネタイトがリン脂質で被覆された磁性粒子も含まれる。
【0034】
本発明において、前記細胞の表面が磁性粒子を保有させる方法について説明する。該方法としては、細胞表面の反応性官能基と磁性粒子の反応性官能基とを共有結合により結合する方法やリンカーを介して結合させる方法等が挙げられる。本発明において用いるリンカーとしては、両末端にカルボキシル基やアミノ基等の反応性官能基を有する化合物(以下、「二官能性スペーサー」と略する)若しくは抗体を挙げることができる。細胞磁性細菌とリンカーの結合方法は、たとえば、磁性細菌を粉砕して得られた、リン脂質膜で覆われた磁性粒子と二官能性スペーサーを介して細胞表面の反応性官能基とを結合させる方法や表面がカルボキシル基で修飾された磁性粒子とリンカーとして用いる抗体のアミノ基とをアミド結合させたものに、細胞表面のHLAやCD44等の接着分子とを抗原抗体反応を介して結合する方法等が好ましい例として挙げられる。
【0035】
本発明における磁性細胞は、磁性粒子が細胞内に含有されていても、細胞表面に結合していても、細胞表面からリンカーを介して結合していてもいずれであってもよい。そして、細胞内部に磁性粒子を含有させる方法としては、磁性粒子を、たとえば、特開平6−133784記載のパーティクルガンによる方法により行うことができる。
【0036】
本発明の第一の実施態様において、前記磁性粒子60に含有される薬物80としては、以下のものに限定されるわけではないが、サイトカインの如く、細胞の情報伝達系を司る物質を始めとする生理活性物質などが挙げられる。サイトカインの具体例としては、インターフェロン類(IFN−α、IFN−β、IFN−γ等)やインターロイキン類(IL−1〜18等)、リンホトキシン類、腫瘍壊死因子(TNFα等)、顆粒球マクロファージ・コロニー刺激因子(GM−CSF)、マクロファージ・コロニー刺激因子(M−CSF、CSF−1)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、エリスロポエチン、トロンボポエチン、造血幹細胞因子(SCF)、単球走化活性化因子(MCAF)、トランスフォーミング増殖因子(TGF−α、TGF−β)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、上皮細胞増殖因子(EGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、神経細胞増殖因子(NGF)等が挙げられる。特に、インターフェロン類、インターロイキン類、腫瘍壊死因子、エリスロポエチン、トロンボポエチン、トランスフォーミング増殖因子、線維芽細胞増殖因子、上皮細胞増殖因子、血小板由来増殖因子、神経細胞増殖因子が好ましい。
【0037】
また、前記薬物80としては、病巣部位にて予防および/または治療すべき疾患の薬物等を挙げることもできる。薬物の具体例としては、抗癌剤として、以下のものに限定されるわけではないが、塩酸イリノテカリン三水和物、マイトマイチンC、5−フルオロウラシル、シスプラチン、塩酸ゲムシタビン、ドキソルビシン、タキソール等を挙げることができる。さらに、アルツハイマー病治療剤としては、塩酸ドネペジル等を挙げることができる。かかる薬物80を、磁性細胞を構成するリポソームに取り込ませることにより、本発明に係る磁性細胞をドラックデリバリーシステムとして活用することもできる。
【0038】
前記薬物80は、塩を形成してもよい。かかる塩の好ましい例としては、無機酸との塩、有機酸との塩、無機塩基との塩、有機塩基との塩、酸性または塩基性アミノ酸との塩などが挙げられ、中でも薬理学的に許容される塩が好ましい。無機酸との塩の好ましい例としては、たとえば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等との塩が挙げられ、有機酸との塩の好ましい例としては、たとえば、酢酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、ステアリン酸、安息香酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等との塩が挙げられる。無機塩基との塩の好ましい例としては、たとえば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、アンモニウム塩などが挙げられる。有機塩基との塩の好ましい例としては、たとえば、ジエチルアミン、ジエタノールアミン、メグルミン、N,N’−ジベンジルエチレンジアミンなどとの塩が挙げられる。
【0039】
前記薬物80が関連する疾患の予防剤または治療剤として患者に投与する際の投与経路、投与量、投与回数は、患者の症状、疾患の種類・程度、年齢、心・肝・腎機能などにより異なり限定されない。たとえば、ヒトの癌の治療のために使用するとき、経口投与の場合、成人一日あたり、0.01mg〜1000mg、好ましくは0.1mg〜1000mg、より好ましくは、0.1mg〜100mgを、静脈内投与の場合、成人一日あたり、0.01mg〜500mg、好ましくは0.1mg〜500mg、より好ましくは0.1mg〜100mgを、症状に応じて、一日あたり1ないし5回に分けて投与することができる。
【0040】
前記薬物80を含む医薬組成物として磁性細胞に導入することもでき、前記組成物は、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、安定剤、矯味矯臭剤、希釈剤等の添加剤を用いて周知の方法で製造できる。賦形剤の具体例としては、乳糖、白糖、ぶどう糖、トウモロコシ澱粉、馬鈴薯澱粉、α澱粉、デキストリンのような澱粉誘導体;結晶セルロースのようなセルロース誘導体;アラビアゴム、デキストリン;プルランのような有機系賦形剤:および、軽質無水珪酸、合成珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウムのような珪酸塩誘導体;燐酸水素カルシウムのような燐酸塩;炭酸カルシウムのような炭酸塩;硫酸カルシウムのような硫酸塩等の無機系賦形剤等を挙げることができる。滑沢剤の具体例としては、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムのようなステアリン酸金属塩;タルク;コロイダルシリカ;ビーガム、ゲイ蝋のようなワックス類;硼酸;アジピン酸;硫酸ナトリウムのような硫酸塩;グリコール;フマル酸;安息香酸ナトリウム;DLロイシン;脂肪酸ナトリウム塩;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウムのようなラウリル硫酸塩;無水珪酸、珪酸水和物のような珪酸類;および上記澱粉誘導体を挙げることができる。結合剤の具体例としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロシキプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール、および前記賦形剤と同様の化合物を挙げることができる。崩壊剤の具体例としては、低置換度ヒドロシキプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、内部架橋カルボキシメチルセルロースナトリウムのようなセルロース誘導体;カルボキシメチルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、架橋ポリビニルピロリドンのような化学修飾された澱粉、セルロース類等を挙げることができる。安定剤の具体例としては、メチルパラベン、プロピルパラベンのようなパラオキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコールのようなアルコール類;塩化ベンザルコニウム;フェノール、クレゾールのようなフェノール類;チメロサール;デヒドロ酢酸;およびソルビン酸等を挙げることができる。矯味矯臭剤の具体例としては、通例、製剤に使用される甘味料、酸味料、香料等を挙げることができる。
【0041】
本発明に用いる細胞としては、以下のものに限定されるわけではないが、リンパ球細胞、間葉系幹細胞、軟骨培養細胞等が好ましい。
(第二の実施態様)
図2は、本発明の第二の実施態様における磁性細胞の概略図を示す。本発明の第二の実施態様では、細胞表面に存在するインテグリン110と、そのインテグリンに対して接着活性を有するペプチド120を利用する。前記ペプチドとしては、以下のものに限定されるわけではないが、RGDS(アルギニン−グリシン−アスパラギン酸−セリンの四つのアミノ酸から構成されるペプチド、分子量433.42)を挙げることができる。
【0042】
本発明の第二の実施態様では、磁気ビーズの表面をRGDSのアミノ酸配列により修飾された、活性化磁気ビーズ130を用いることにより、磁性粒子を表面に有する磁性細胞200を提供する。
【0043】
かかる磁性細胞の調製方法は、以下のとおりである。第一に、予め磁気ビーズの表面をカルボキシ基で修飾したビーズを、試薬により活性化する。この活性化は、カルボキシル基を活性化可能な試薬であれば特に限定されないが、カルボジイミド類が好ましい。第二に、磁気ビーズの表面に存在する活性化カルボキシル基と、ペプチドのアミノ基とを反応させてアミド結合を形成させることにより、磁気ビーズの表面にペプチドを導入することができる。
【0044】
本発明では、磁気ビーズへのペプチドのコーティング量は、磁気ビーズ3mg相当に対して、リガンドとなるペプチド、あるいは抗体を10ng〜20μgまで可能であり、好ましくは15ng〜15μg、さらに好ましくは20ng〜10μgである。よって、磁気ビーズの単位重量あたり、つまり磁気ビーズ1mgに対して3ng〜6.6μgをコーティングすることができる。ペプチドの磁気ビーズへのコーティング量が多すぎると、最終的な磁性細胞同士が接着してしまい、もって、ターゲットとする病巣部位への移動を困難にする。一方、コーティング量が少なすぎると、磁性細胞自体の性能を発揮することができないおそれがある。
【0045】
その後、ペプチドを導入した磁気ビーズと所望の細胞表面の接着分子と反応させることにより、本発明に係る磁性細胞を調製することができる。この反応の際、ペプチド導入された割合にも依存するが、前記所望の細胞の数2x10に対して、ペプチド導入された磁気ビーズの量は、0.1μl〜20μlが好ましく、0.2μl〜18μlがより好ましく、0.5μl〜15μlがさらに好ましい。ペプチド導入された磁気ビーズの量が0.1μl以下では、磁性細胞自体の機能を発揮できず、一方、ペプチド導入された磁気ビーズの量が、20μl以上では、磁性細胞同士が接着して、ターゲットの病巣部位への移動を困難にする。
【0046】
さらに、ペプチドを導入した磁気ビーズと細胞の表面に存在する接着分子との反応溶液としては、以下のものに限定されるわけはないが、BSA(牛血清アルブミン)のリン酸緩衝化食塩水(以下、「BSA/PBS」という。)が挙げられ、BSA/PBSにEDTA(エチレンジアミン四酢酸)を添加した溶液、0.5%BSA 4.4μM EDTA in PBS(−)を用いる(EDTAは、4.4μM〜2mMの濃度)がより好ましい。
【0047】
なお、本発明の第二の実施態様では、前記第一の実施態様における磁性体と薬物は同様に利用できることは、当業者には容易に理解できる。
【0048】
次に、本発明に係る磁性細胞の使用方法について説明する。前述のように製造された磁性細胞は、種々の細胞中で培養することにより、後述する治療に利用することが可能となる。なお、培養中の培養液およびその培養温度は、適宜選択可能である。培養液は用いる細胞に依存するが、たとえば、軟骨培養細胞であれば、DMEM(ダルベッコ変法イーグル培地)を基本とする培養液が適する。
【0049】
本発明に係る磁性細胞は、所望の病巣部位に長時間滞留させることにより、その細胞の種類に応じて、治療に利用することが可能である。たとえば、骨髄間葉系幹細胞を使用した場合には、病巣部位にて軟骨様組織を形成されることができる。そのため、所望の病巣部位に長時間滞留させることは重要である。
【0050】
本発明における用語「磁性細胞を病巣部位に長時間滞留させる」とは、磁性細胞の有している機能を発揮するのに十分な時間滞留させることをいい、1〜90日の期間が好ましく、1日〜80日の期間がより好ましく、1日〜50日の期間がより好ましい。本発明に係る磁性細胞を投与する部位としては、体内に病巣を有する部位又は治療を施した部位であればどこでもよく、たとえば、脳、骨、肝臓、心臓、関節などが挙げられる。疾患の具体例としては、脳卒中、悪性腫瘍、脊髄損傷、軟骨欠損、筋肉欠損、靭帯損傷などが挙げられる。
【0051】
本発明に係る磁性細胞の体内へ存置させるための投与方法は、外科的な手術によって投与してもよく、また注射によって投与してもよい。ここで、外科的な投与とは、たとえば骨に穴をあけて投与するようなことを意味し、注射投与とは、注射により患部に直接投与することや静脈注射により全身に投与することを意味する。
【0052】
本発明において用いる用語「磁場」とは、磁性粒子の磁化のために60ガウス(以下「G」と記す)以上が好ましく、より好ましくは体内における拡散を防ぎ局所に滞留させるため70G以上がより好ましい。また、磁場は体外から与えてもよく、体内に磁石を埋め込むことにより与えてもよい。かかる場合、磁石としては磁力、安定性や強度の点からネオジム磁石が好ましい。
【0053】
図3は、本発明に係る磁性細胞が適用される治療の概略模式図を示す。図3に示すように、本発明に係る磁性細胞を関節内注射により生体内に導入する。磁性細胞を移動させ、その場に存置されるべき位置に、永久磁石を配置させるため、本発明に係る磁性細胞は前記永久磁石の磁力の作用により、所望の位置へ移動されることが可能となる。図3では、関節軟骨の欠損部位へ磁性細胞を移動され、その場に存置させることができる。そして、本発明に係る磁性細胞に用いられた細胞が骨髄間葉系幹細胞であれば、その場にて、軟骨様組織が形成され、前記欠陥部位の修復をすることができる。
【0054】
図3では、再生医療として注目されている軟骨の修復を説明したが、治療した箇所が癌細胞であれば、磁性細胞を構成する磁性粒子に抗癌剤を含まれることにより、薬物を局所的に集中させることができる。
【0055】
生体内に投与された、本発明に係る磁性細胞からの薬物放出は、酵素等の作用や温度等により放出される。
【0056】
本発明における「磁性細胞の活動を制御する」とは、サイトカインなどの薬物により分化や増殖など細胞の活動を制御することをいう。
【0057】
磁性細胞と薬物内包材は同時にであってもよく、また別々に投与してもよく、例えばその形態として磁性細胞及び薬物内包材をそれぞれ注射剤にしたものを1つのパッケージにしたような医薬キットなどが挙げられる。
【0058】
本発明を以下の実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。本発明の記載に基づき、種々の変更、修飾が当業者には可能であり、これらの変更、修飾も本発明に包含される。
【実施例】
【0059】
(磁性細胞の調製その1)
1.磁気ビーズの活性化
磁気ビーズであるフェリスフェア100C原液(50mg/ml)(日本ペイント製)から3mg相当(60μl)をとり、0.01NNaOHを加え、ミキサーで10分間、室温で攪拌して洗浄した。この洗浄操作をもう一度繰り返して、脱イオン水を加え、ミキサーで5分間、室温で攪拌して洗浄した。この洗浄操作を3回繰り返した。磁気ビーズを活性化させるため、余分な水分を除去後、予め25mM 2−[N−モルフォリノ]エタンスルホン酸(以下「MES」という)(SIGMA社製)、pH5.0で50mg/mlに調製していた1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(以下、「EDC」という。)(SIGMA社製)とN−ヒドロキシスクシンイミド(以下、「NHS」という。)(SIGMA社製)を50μlずつ、及び磁気ビーズをチューブ内でよく混合し、30分間、室温でゆっくりと転倒攪拌した。反応後のチューブをネオジム磁石の上に2分間置き、上清を除去した。最後に、25mM MES、pH5.0で2回洗浄し、最終的な溶液体積を40μlにした。
2.活性化後の抗体の固定化
60μlの25mM MESでラットのCD44抗体(20μg)(CHEMICON社製)を溶解し、上記活性化ビーズに添加し、3時間、室温でゆっくりと転倒攪拌させ、活性化ビーズへ抗体を固定化した。反応後のチューブをネオジム磁石の上に2分間置き、上清を除去した。ビーズと反応していない抗体を除くため、リン酸緩衝液中の0.05Mエタノールアミンを添加し、1時間室温でゆっくり転倒攪拌した。固定化されたビーズを0.5%BSA(SIGMA社製)のリン酸緩衝液で4℃、5分間洗浄した。この洗浄操作を4回繰り返した。1mlの0.5%BSAのリン酸緩衝液で懸濁して4℃で保存した。
3.固定化ビーズの細胞への結合
培養したラット骨髄間葉系幹細胞をdishからはがしてチューブに移し、4℃に10分間保存しておく。細胞懸濁液(1x10cells)に調製した上記ビーズを60μl添加した後、4℃で1時間ゆっくりと転倒攪拌して、抗原抗体反応させた。反応後のチューブをネオジム磁石の上に2分間置き、上清を除去した。0.5%BSAのリン酸緩衝液で再懸濁させた。この洗浄操作を4回行った。リン酸緩衝液などに懸濁して実験に使用した。
(磁性リポソームを有する磁性細胞の調製)
1.N−[3−(2−ピリジルジチオ)プロピオニル]フォスファチジルエタノールアミン(以下「PDP−PE」という)の合成
無水エタノール3mlに25mgのN−スクシンイミジル3−(2−ピリジルジチオ)プロピオン酸エステルと50μmolのトリエチルアミンを溶解し、さらに50μmolのフォスファチジルエタノールアミンを溶解し攪拌した。5時間後、メタノールを減圧除去し、残留物をクロロホルムにて溶解した。150℃で一晩活性化したシリカゲルカラム(10ml)をクロロホルムで洗浄した。洗浄後反応物をカラムに流し、さらに20mlのクロロホルムで洗浄した。40:1、30:1、25:1、20:1および15:1のクロロホルム:メタノール混合溶液をそれぞれ20ml流して、最後に10:1の混合溶液を60ml流した。15:1および10:1の流出物を合わせて減圧濃縮した。
2.リポソームの調製
卵黄フォスファチジルコリン(Egg phosphatidylcholin)10μmol、コレステロール10μmolおよびPDP−PE 1μmol、を3mlのジエチルエーテルに溶解し、ジエチルエーテルを減圧気化した。磁性体鉄(Fe)5mgおよび封入薬物(TGF−β、bFGF)を含んだ0.9%生理食塩水1mlおよびホウ酸/クエン酸バッファー(pH6.0)を加え、ボアテックスミキサーを用い振とう、フラスコ内に付着した薄層被膜を完全に剥離した。Bath sonicator(同上)にて50分超音波処理した。0.45Tの永久磁石(同上)を用い、作成した磁性体リポソームおよび封入されていない磁性体を溶液から分離した。1000xg(ppm)にて15分間遠心分離し、上澄みである磁性体リポソームと沈殿物の封入されていない磁性体を分離した。
3.リポソームと抗体との結合
60μlの25mM MESでヒトCD44抗体(20μg)を溶解し、作成したリポソームを添加し、3時間室温にてゆっくりと転倒攪拌させ、リポソームへ抗体を固定化した。反応後ネオジム磁石の上に2分間置き、上清を除去した。未反応の抗体を除去するため、0.05Mエタノールアミンのリン酸緩衝液を添加し、1時間、室温でゆっくりと転倒攪拌した。0.5%BSAのリン酸緩衝液で4℃、5分間洗浄した。この洗浄操作を4回繰り返した。1mlの0.5%BSAのリン酸緩衝液で懸濁安定化して4℃保存した。
4.抗体が固定化されたリポソームの細胞への結合
培養したヒト骨髄間葉系幹細胞をdishから剥がしてチューブに移し、4℃で10分間保存した。細胞懸濁液(1x10cells)辺りに調製したリポソームを添加した後、4℃で1時間、ゆっくりと転倒攪拌して、抗原抗体反応させた。反応後のチューブをネオジム磁石の上に2分間置き、上清を除去した。0.5%BSAリン酸緩衝液で再懸濁した。この洗浄操作を4回行った。リン酸緩衝液などに懸濁したままで実験に使用した。
実験例1
(In vitro試験)
前述の方法により調製した磁性粒子と結合した骨髄間葉系幹細胞4x10cellsをシャーレに播いた。本実施例においては、シャーレの下部中央に4300Gの円形(直径5mm)のネオジム磁石を設置した。一方、比較例においては、磁石を設置しなかった。シャーレにTGF−βとデキサメタゾンを加えた。21日間培養後、トルイジンブルー染色により評価した。実施例においては軟骨様組織が磁石に相当する位置を中心に局在的に形成されていた。一方、比較例においては、軟骨様組織は局在的に形成されてはいなかった。
【0060】
図4は、本発明に係る磁性細胞を関節内注射1ヶ月後、約72時間の外部磁場不存在下(A)および外部磁場存在下(B)において、観測された顕微鏡写真(50倍)を示す。図4(A)から明らかなように、黒点で表示される磁性細胞は、細胞中に至る場所で観測されている。一方、図4(B)からは、黒点で表示される磁性細胞は、図4(B)の左上に集中して存在していることが判る。なお、図4(A)および(B)は、実際には、ヘマトキシン−エオシン染色にて染色されており、図4中ではグレーにて表示されている。
【0061】
以上の結果から、本発明に係る磁性細胞は、磁石の作用により、局所的移動が実現される。そして、外部磁場を照射した細胞では、硝子軟骨による修復が観測された。
実験例2
(ラビットの膝間部における骨欠損修復)ラビットの膝関節部にバイオインダストリー2002.Vol.19.No.6 p47−53記載の方法に準じ、幅5mmの骨欠損を2箇所作成した。当該欠損部に実施例で得られた磁性細胞を3.0μg注射投与した。その後、700Gの磁場をもつ磁石を欠損部にあたる表面に9週間留置した。一方、比較例として外部磁場与えずに磁性細胞を投与した。その結果、実施例では軟骨細胞が骨欠損部で局在し、新生骨の架橋形成による骨欠損の修復が見られたが、一方外部磁場を与えなかった比較例では骨欠損の修復が見られなかった。
(磁性細胞の調製その2)
1.EDCとNHSを用いた磁気ビーズの活性化
フェリスフェア100C原液(50mg/ml)[日本ペイント社]から3mg相当(60μl)をとり、0.01NNaOHを加え、ミキサーで10分間、室温で撹拌して洗浄した。この洗浄操作をもう一度繰り返して、脱イオン水を加え、ミキサーで5分間、室温で撹拌して洗浄した。この洗浄操作を3回繰り返した。磁気ビーズを活性化させるため、余分な水分を除去後、予め25mM MES、pH5.0で50mg/mlに調製しておいたEDCとNHSを50μlずつ、磁気ビーズによく混合し、30分間、室温でゆっくりと転倒撹拌した。反応後のチューブをネオジム磁石の上に2分間置き、上清を除去した。最後に、25mM MES、pH5.0で2回洗浄した(最後の溶液体積を40μlにした)。
2.活性化後の抗体の固定化
60μlの25mM MES、pH5.0でrat CD44抗体[CHEMICON社]またはRGDS peptides[ペプチド研究所](20μg)を溶解し、活性化ビーズ(40μlの25mM MES pH5.0で懸濁)に添加し、3時間、室温でゆっくりと転倒撹拌させ、活性化ビーズへ抗体を固定化した。反応後のチューブをネオジム磁石の上に2分間置き、上清を除去した。ビーズと反応していない抗体を除くため、0.05M ethanolamine in PBS(−)pH8.0を添加し、1時間、室温でゆっくり転倒撹拌させた。固定化されたビーズを0.5%BSA in PBS(−)で4℃、5分間洗浄した。この洗浄操作を4回繰り返した。1mlの0.5%BSA in PBS(−)で懸濁して4℃保存した。
3.抗体が固定化されたビーズの細胞への結合
培養したラット骨髄間葉系幹細胞をdishから剥がしてチューブに移した。500μlの細胞懸濁液(2x10cells)辺りに調製したビーズを15μl添加した後、4℃で1時間、ときどき転倒撹拌して、抗原抗体反応させた。この時の反応緩衝液は0.5%BSA in PBS(−)を用いた。反応後のチューブをネオジム磁石の上に2分間置き、上清を除去した。0.5%BSA in PBS(−)で再懸濁した。この洗浄操作を3−4回行った。PBS(−)などに懸濁して実験に使用した。
(磁性細胞の調製その3)
1.EDCとNHSを用いた磁気ビーズの活性化
フェリスフェア100C原液(50mg/ml)[日本ペイント社]から3mg相当(60μl)をとり、0.01NNaOHを加え、ミキサーで10分間、室温で撹拌して洗浄した。この洗浄操作をもう一度繰り返して、脱イオン水を加え、ミキサーで5分間、室温で撹拌して洗浄した。この洗浄操作を3回繰り返した。磁気ビーズを活性化させるため、余分な水分を除去後、予め25mM MES、pH5.0で50mg/mlに調製しておいたEDCとNHSを50μlずつ、磁気ビーズによく混合し、30分間、室温でゆっくりと転倒撹拌した。反応後のチューブをネオジム磁石の上に2分間置き、上清を除去した。最後に、25mM MES、pH5.0で2回洗浄した。(最後の溶液体積を40μlにした)。
2.活性化後の抗体の固定化
60μlの25mM MES、pH5.0でrat CD44抗体[CHEMICON社]またはRGDS peptides[ペプチド研究所](10ng)を溶解し、活性化ビーズ(40μlの25mM MESpH5.0で懸濁)に添加し、3時間、室温でゆっくりと転倒撹拌させ、活性化ビーズへ抗体を固定化した。反応後のチューブをネオジム磁石の上に2分間置き、上清を除去した。ビーズと反応していない抗体を除くため、0.05M ethanolamine in PBS(−)pH8.0を添加し、1時間、室温でゆっくり転倒撹拌した。固定化されたビーズを0.5%BSA in PBS(−)で4℃、5分間洗浄した。この洗浄操作を4回繰り返した。1mlの0.5%BSA in PBS(−)で懸濁して4℃保存した。
3.抗体が固定化されたビーズの細胞への結合
培養したラット骨髄間葉系幹細胞をdishから剥がしてチューブに移す。500μlの細胞懸濁液(2x10cells)辺りに調製したビーズを1μl添加した後、CD44抗体の場合、冷蔵庫(4−10℃)で1時間、ときどき転倒撹拌して、抗原抗体反応させた。RGDS peptidesの場合、37℃で1時間、ときどき転倒撹拌して、細胞と反応させた。この時の反応緩衝液は0.5%BSA 4.4μM EDTA in PBS(−)を用いた。反応後のチューブをネオジム磁石の上に2分間置き、上清を除去した。0.5%BSA in PBS(−)で再懸濁させた。この洗浄操作を3−4回行った。PBS(−)などに懸濁して実験に使用した。
【0062】
図5は、前述の調製その2(A)と、その3(B)にて調製された磁性細胞(インテグリンとRGDSペプチドを介した磁性細胞)を、ラット骨髄間葉幹細胞中において観測された顕微鏡写真(480倍)を示す。図5から明らかなように、磁性体を有するRGDSペプチドの磁気ビーズへの導入量、つまりは前記ペプチドによる磁気ビーズへのコーティング量と、磁性細胞を調製する際の細胞に対する磁気ビーズの量とが、本発明に係る磁性細胞の挙動は影響を受け、前記導入量や磁気ビーズの量が高いと、最終的に、生体内の細胞中で磁性細胞同士が凝集する傾向があることが判明した。
【0063】
図6は、本発明によるCD44またはRGDSペプチドを介して作成した磁性細胞(ラット骨髄間葉系幹細胞)を、軟骨誘導培地を用いたペレット培養をし、21日培養後、RT−PCT法でTypeII Collagen,AggrecanのmRNA(遺伝子)の発現を検討した結果を示す。TGF−βとデキサメサゾンを添加して分化誘導をかけた群(D+群)で、両遺伝子の発現を確認した。一方、TGF−βとデキサメサゾンを添加せずに培養した(D−群)では、両遺伝子の発明は認められなかった。図6に示す結果から、Chondrogenesis of the complex−RT−PCRによってCD44抗原またはRGDSペプチドをリンカーとして解した磁性細胞(骨髄間葉幹細胞)は軟骨細胞に分化誘導できると推測される。
【0064】
図7は、ラット神経幹細胞を用いて、本発明に係る磁性細胞が形成される状態を説明する写真を示す。図7に示す結果から、凝集したラット神経幹細胞をピペッティングによりバラバラにし、その後、全前述のRGDSペプチドで修飾したビーズを作用させたところ、神経幹細胞のインテグリンを介して、ラット神経幹細胞を用いた磁性細胞が形成されることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明に係る磁性細胞によれば、その磁性細胞を生体内に導入し、体外からの磁場の作用により、長期間病巣部に存置させることができるため、該細胞本来の有する機能を効果的に発現することができる。また、本発明に係る磁性細胞を用いることにより、治療の必要性に応じて、軟骨形成等に再生医療への適用や、抗癌剤等のドラックデリバリーシステムへの適用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
[図1]図1は、本発明の第一の実施態様における磁性細胞の概略図を示す。
[図2]図2は、本発明の第二の実施態様における磁性細胞の概略図を示す。
[図3]図3は、再生医療としての軟骨の修復を説明する図である。
[図4]図4は、本発明に係る磁性細胞を関節内注射1ヶ月後、約72時間の外部磁場不存在下(A)および外部磁場存在下(B)において、観測された顕微鏡写真(50倍)を示す。
[図5]図5は、本発明による磁性細胞の調製その2(A)と、その3(B)にて調製された磁性細胞を、ラット骨髄間葉幹細胞中において観測された顕微鏡写真(480倍)を示す。
[図6]図6は、本発明によるCD44またはRGDSペプチドを介して作成した磁性細胞(ラット骨髄間葉系幹細胞)を、軟骨誘導培地を用いたペレット培養をし、21日培養後、RT−PCT法でTypeII Collagen,AggrecanのmRNA(遺伝子)の発現を検討した結果を示す。
[図7]図7は、ラット神経幹細胞を用いて、本発明に係る磁性細胞が形成される状態を説明する写真を示す。(A)は、400倍の写真であり、(B)は1600倍の写真でる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞の表面に磁性粒子を保有する磁性細胞。
【請求項2】
前記表面と前記磁性粒子がリンカーを介して結合している、または前記表面は、前記磁性粒子が有する特定のアミノ酸配列により接着している、請求項1に記載の磁性細胞。
【請求項3】
前記表面と前記リンカーとは、抗原抗体反応で結合している、請求項2に記載の磁性細胞。
【請求項4】
前記リンカーと前記磁性粒子は、化学結合により結合している、請求項2または3に記載の磁性細胞。
【請求項5】
前記磁性粒子は、少なくとも磁性体を包含する、請求項1ないし4のうち何れか一項に記載の磁性細胞。
【請求項6】
前記磁性粒子は、さらに薬物を包含する、請求項5に記載の磁性細胞。
【請求項7】
前記細胞が軟骨培養細胞、間葉系細胞、リンパ球細胞およびインテグリンを発現する細胞からなる群から選択される、請求項1ないし6のうち何れか一項に記載の磁性細胞。
【請求項8】
請求項1ないし7のうち何れか一項に記載の磁性細胞を用意する工程と、
前記磁性細胞を培養する工程と、
を含む、磁性細胞の培養方法。
【請求項9】
請求項1ないし7のうち何れか一項に記載の磁性細胞を病巣部位へ移動させ、その場に存置させる工程と、
磁場により、前記磁性細胞を前記病巣部位に、長時間滞留させる工程と、
を含む、磁性細胞の滞留方法。
【請求項10】
前記滞留工程は、前記磁場を体外から病巣部位にあてるか、また体内に磁石を埋め込むことにより行われる、請求項9に記載の滞留方法。
【請求項11】
請求項1ないし7のうち何れか一項に記載の磁性細胞と、薬物を含む磁性粒子とを同時にまたは別々に病巣部位へ投与する工程と、
前記磁性粒子から前記薬物を放出させる工程と、
を含む磁性細胞の活動を制御する方法。
【請求項12】
前記薬物は、骨形成剤、癌治療剤または痴呆症治療剤からなる群から選択される請求項11に記載の治療方法。
【請求項13】
請求項1ないし7のうち何れうち一項に記載の磁性細胞と、薬物を含む磁性粒子とを同時にまたは別々に病巣部位へ投与する工程と、
前記磁性粒子から前記薬物を放出させる工程と、
を含む治療方法。
【請求項14】
前記薬物は、骨形成剤、癌治療剤または痴呆症治療剤からなる群から選択される請求項13に記載の治療方法。

【国際公開番号】WO2005/001070
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【発行日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511040(P2005−511040)
【国際出願番号】PCT/JP2004/008972
【国際出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(000000217)エーザイ株式会社 (102)
【出願人】(504224061)
【Fターム(参考)】