説明

磁性酸化鉄微粒子粉末、磁性粒子含有水分散体およびその製造方法

【課題】 均質な機能性を発揮できる診断用、治療用などの磁性粒子含有医薬を再現性良く生成できる磁性粒子含有水分散体を提供する。
【解決手段】 一次粒子の平均粒子径が5〜15nmで、二次粒子の平均粒子径が10〜60nmであり、pH6〜8の範囲におけるゼータ電位が−20mV以下である磁性粒子含有水分散体であり、当該磁性粉の表面がカルボキシル基を有するポリマーで被覆されている磁性粒子含有水分散体であることを特徴とし、窒素雰囲気下においてカルボキシル基を有するポリマーを溶解した水溶液を90〜100℃に昇温し、2価および3価の鉄塩溶液とアルカリ溶液を添加し同温度で反応を行い、エタノール添加による沈殿後、上澄み液の除去および水への溶解、透析によりカルボキシル基を含有するポリマーで被覆された磁性粒子の水分散体を生成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療技術分野において、薬物の送達法であるドラッグデリバリー システム(以降、DDSと記す)、レントゲンやMRI(磁気共鳴)等で用いられるCT(計算断層像法)診断及び温熱治療法などの治療用の磁性粒子含有医薬に用いる原薬に関するものである。
【0002】
詳述すれば、本発明は、上記磁性粒子含有医薬の病変組織や細胞への送達指向性、CTによる診断時の造影感度及び温熱治療時の発熱性等の性能を向上させることを目的とする磁性粒子含有医薬用原薬に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、磁性体として磁性酸化鉄微粒子を用い、リン脂質、タンパク質及び水溶性ポリマー等の生体適応性物質と複合化した磁性粒子含有医薬が検討されている(特許文献1〜5等)。
【0004】
また、磁性酸化鉄微粒子の単分散水溶液を調製するために、界面活性剤等の表面処理剤で粒子表面を被覆する方法(特許文献6)、Al、Si等の無機物を被覆する方法(特許文献7)、または有機金属ポリマーで被覆する方法(特許文献4)、あるいは分散剤等を一切使用しないで単分散水溶液を調製する方法(特許文献8)等が知られている。
【0005】
さらに、生体分子との結合を容易にするために、アミノ基やカルボキシル基、スルホン基等の官能基を有する表面修飾分子を磁性酸化鉄粒子の表面に被覆したものが報告されている。(特許文献9〜11)
【0006】
これらはいずれも一旦酸化鉄の水性ゾルを調製した後に、それぞれ高分子や多糖類と混合して調製している。よって、磁性粒子の粒子径が凝集により大きくなってしまうことや、磁性粒子とこれら表面修飾分子との結合が弱く、血液中で解離しやすく、加熱滅菌時の安定性や経時安定性も良くない。
【0007】
特に、微細な磁性酸化鉄粒子を生体適応性物質に均一に分散・担持させることは、酸化鉄粒子の過度の磁気凝集に起因して容易なことではなく、これまでは大きな粒子サイズの磁性酸化鉄粒子が用いられてきた。
【0008】
また、粒子サイズが大きな磁性酸化鉄粒子は、治療後に酸化鉄粒子が体内に残留する可能性が高く、また、アレルギー反応などの副作用の原因となることがある。使用上の安全性が十分に確保できるとは言い難いものである。
【0009】
よって、血中安定性、血中滞留性に優れ、さらに腫瘍集積性を考慮して、特定のターゲット分子に対して特異的な親和性結合を形成するような診断用及び治療用の磁性粒子含有医薬を再現性良く生成できる磁性粒子含有医薬用原薬の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平3−128331号公報
【特許文献2】特開平4−52202号公報
【特許文献3】特開平7−122410号公報
【特許文献4】特表平8−500700号公報
【特許文献5】特開平11−106391号公報
【特許文献6】特開平1−4002号公報
【特許文献7】特開平5−310429号公報
【特許文献8】特開2006−28032号公報
【特許文献9】特開2003−112925号公報
【特許文献10】国際公開第95/31220号パンフレット
【特許文献11】特許4079996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、均質な特性を有した磁性体含有医薬を再現性良く得るためには、磁性粒子含有医薬の製薬時において、生体適応性物質と磁性酸化鉄微粒子とを均一に分散混合させることが不可欠な条件であり、そのためには原薬中の磁性酸化鉄微粒子は微細で粒度が均一な磁性酸化鉄微粒子からなる単分散コロイド水溶液であることが必要である。
【0012】
さらに、血液中での安定性を保つために、中性pH領域での分散安定性が必要である。
【0013】
さらに、抗体等の生体分子と強い結合をつくるように、磁性粒子表面に官能基を持たせることが必要である。
【0014】
また、耐酸化性に富み、必要なときに必要な濃度に再分散することのできる磁性酸化鉄微粒子粉末(乾燥粉末)であることが求められている。
【0015】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、カルボキシル基を有するポリマーで粒子表面が修飾されており、均一な粒度から成る磁性酸化鉄微粒子の分散コロイド水溶液及び該分散コロイド水溶液を容易に調製することのできる磁性酸化鉄微粒子粉末を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
即ち、本発明は、一次粒子径が5〜15nm、二次粒子の平均粒子径が10〜60nmの磁性酸化鉄微粒子であり、当該粒子表面がカルボキシル基を有するポリマーで被覆されていることを特徴とする磁性酸化鉄微粒子粉末である(本発明1)。
【0017】
また、本発明は、磁性酸化鉄微粒子を水に分散させた磁性粒子含有水分散体であって、磁性酸化鉄微粒子の一次粒子の平均粒子径が5〜15nm、二次粒子の平均粒子径が10〜60nmの磁性酸化鉄微粒子であり、当該粒子表面がカルボキシル基を有するポリマーで被覆されていることを特徴とする磁性粒子含有水分散体である(本発明2)。
【0018】
また、本発明は、pH6〜8の範囲におけるゼータ電位が−20mV以下であることを特徴とすることを特徴とする前記磁性粒子含有水分散体である(本発明3)。
【0019】
また、本発明は、カルボキシル基を有するポリマーが分子量1500〜10000のポリアクリル酸であることを特徴とする前記磁性粒子含有水分散体である(本発明4)。
【0020】
また、本発明は、窒素雰囲気下においてカルボキシル基を有するポリマーを溶解した水溶液を90〜100℃に昇温し、2価および3価の鉄塩溶液とアルカリ溶液とを添加し同温度で反応を行い、室温まで冷却した後、エタノール添加による沈殿後、上澄み液の除去および水への分散、透析により、カルボキシル基を含有するポリマーで被覆された磁性酸化鉄微粒子の水分散体を得ることを特徴とする前記いずれかに記載の磁性粒子含有水分散体の製造方法である(本発明5)。
【0021】
また、本発明は、窒素雰囲気下においてカルボキシル基を有するポリマーを溶解した水溶液を90〜100℃に昇温し、2価および3価の鉄塩溶液とアルカリ溶液を添加し同温度で反応を行い、室温まで冷却した後、エタノール沈殿後、上澄み液の除去および水への分散、透析によりカルボキシル基を含有するポリマーで被覆された磁性酸化鉄微粒子の水分散体を得ることを特徴とする前記いずれかに記載の磁性粒子含有水分散体の製造方法である(本発明6)。
【0022】
また、本発明は、反応時における全鉄Feに対するカルボキシル基COOHのモル比率(COOH/Fe)が、0.3〜3であることを特徴とする前記磁性粒子含有水分散体の製造方法である(本発明7)。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る磁性酸化鉄微粒子粉末は、容易に水に分散して磁性酸化鉄微粒子の分散コロイドを得ることができる。
【0024】
本発明に係る磁性粒子含有水分散体は、微細な磁性酸化鉄微粒子の分散コロイド水溶液であり、さらに、粒子表面がカルボキシル基を有するポリマーで被覆されていることから、磁性酸化鉄微粒子を生体適合性物質に均質に分散させた複合物からなる医薬を容易に合成することができる。さらに、液媒が界面活性剤などを含有しない原薬であるので、生体への安全性に与える影響は極めて少ないものである。
また、微細な磁性粒子は製薬造粒工程において、微粒子の集合状態を調製することにより造粒粒子に強磁性体の機能を付与することができる。
また、超微粒子であることで投与後は体内からの排泄を容易にすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の構成をより詳しく説明すれば次の通りである。
【0026】
本発明に係る磁性酸化鉄微粒子の一次粒子の平均粒子径は5nm〜15nmである。一次粒子の平均粒子径が5nm未満では非晶質であり、15nmを超える場合は保磁力が大きくなり過度な磁気的凝集が生じやすくなり、二次粒子径が200nm以上となってしまう。一次粒子の平均粒子径は5〜12nmが好ましく、より好ましくは保磁力の小さい10nm以下である。
【0027】
本発明に係る磁性酸化鉄微粒子の二次粒子の平均粒子径は10〜60nmである。二次粒子の平均粒子径が10nm未満の場合には、癌の温熱療法に用いた場合に交番磁場による発熱性が低くなり、一方、二次粒子の平均粒子径が60nmを越えると投与後の体内からの排出において問題を生じる。好ましい二次粒子の平均粒子径は10nm〜30nmである。
【0028】
本発明に係る磁性酸化鉄微粒子は、スピネル型強磁性体MO・Fe(Mは2価金属)であり、MがFeの場合の組成はxFeO・Feであり、この組成式のxは2価鉄の含有量を表し、x=1はFeO・Feでマグネタイト、x=0はγ−Feでマグヘマイト、その中間(x=0〜1)のスピネル型酸化鉄も磁性酸化鉄であり、これらの超常磁性酸化鉄粒子が用いられる。
【0029】
本発明に係る磁性酸化鉄微粒子の組成MO・Fe(Mは2価金属)のMとして、Fe以外にMgを選択してもよい。Mgには生体適応性があるためであるが、他の2価金属でも目的に応じて選択して用いることができる。
【0030】
本発明に係る磁性酸化鉄微粒子は超常磁性体であることが好ましいが、保磁力は0〜6.0kA/mであることが好ましい。6.0kA/mを超える大きな保磁力の場合は残留磁化を生じて磁気凝集し易くなる。より好ましい保磁力は0.05〜4.0kA/mである。磁性酸化鉄微粒子の飽和磁化値σsは5〜90Am/kgである。5Am/kg未満の飽和磁化値では磁性が不足しており、スピネル酸化鉄粒子では90Am/kgを超える磁化値は得難い。より好ましい飽和磁化値σsは10〜85Am/kgである。
【0031】
本発明に用いるカルボキシル基を有するポリマーとしては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアミノ酸等多くの種類が存在する。中でもポリアクリル酸を用いた場合には、磁性酸化鉄微粒子の粒度および粒度分布の面で好ましい。
【0032】
さらに、カルボキシル基を有するポリマーの分子量は、1500〜10000のものが好ましい。カルボキシル基を有するポリマーの分子量が1500未満では、磁性粒子の一次粒子径が大きくなってしまい、一方、分子量が10000を越えるものについては、磁性粒子同士の凝集が多く、二次粒子径が大きくなってしまう。
【0033】
本発明に係る磁性粒子含有水分散体のpH6〜8の範囲におけるゼータ電位は−20mV以下である。生体適合性を考慮すると、pH6〜8の範囲におけるゼータ電位が−20mVより大きな値であると、経時的な安定性において問題となる。
【0034】
本発明に係る磁性粒子含有水分散体の等電点は2.0〜3.0が好ましい。
【0035】
本発明に係る磁性粒子含有水分散体の磁性酸化鉄微粒子の濃度は、5〜50mg/mlが好ましい。50mg/mlを越える場合には、粒子間に働くファンデアワールス力の影響が大きくなって凝集が生起し易くなり好ましくない。5mg/ml未満では濃度が希薄すぎて実用的でない。好ましい濃度は10〜40mg/mlである。
【0036】
本発明に係る磁性酸化鉄微粒子とリン脂質、多糖類、蛋白質あるいはデキストリン類との複合体とすることができる。
【0037】
次に、本発明に係る磁性粒子含有水分散体の製造方法について述べる。
【0038】
本発明に係る磁性酸化鉄微粒子は、鉄塩水溶液とアルカリ水溶液とを用いる水溶液反応(湿式法という。)で合成することができる。
【0039】
一般的に、水溶液反応には、共沈法と酸化反応法がよく用いられる。
【0040】
共沈法とは、第一鉄塩水溶液Fe(II)1モルと第二鉄塩水溶液Fe(III)2モルとの混合水溶液にアルカリ水溶液を攪拌しながら加えると、Fe(II)と2Fe(III)の共沈反応が生起して黒色スピネル型磁性酸化鉄であるマグネタイト粒子が生成する反応である。この反応においてFe以外の2価金属、例えば、Mgを添加した場合にはMgを含有したスピネル型磁性酸化鉄微粒子が得られる。また、鉄塩濃度や混合温度などの反応条件により生成粒子の大きさが制御できるので、これらの反応条件を組み合わせることにより磁性酸化鉄微粒子を合成することができる。
【0041】
この反応の途中でポリアクリル酸水溶液を添加して反応を行なっても、本発明の目的とする粒度分布を有する磁性粒子含有水分散体を調製することはできない。
【0042】
一方、酸化反応法とは、第一鉄塩水溶液にアルカリ水溶液を添加すると水酸化第一鉄コロイドが生成し、該水酸化第一鉄コロイドを含有する水溶液を加熱攪拌しながら空気等の酸素含有ガスを通気すると水酸化第一鉄コロイドの酸化反応により黒色磁性酸化鉄であるマグネタイト粒子が生成する反応である。上記の共沈法と同様にFe以外の2価金属を添加した場合には添加金属を含有したスピネル酸化鉄粒子が得られる。また、この反応条件を組み合わせて制御することにより磁性酸化鉄微粒子を合成することができる。
【0043】
しかしながら、ポリアクリル酸の共存下で、上記第一鉄塩の酸化反応法を行なうと、前記反応の途中でポリアクリル酸水溶液を添加して反応を行なっても、本発明の目的とする粒度分布を有する磁性粒子含有水分散体を調製することはできない。さらに、精製途中に酸化反応が進みすぎてしまい、大半がマグネタイトの黒色ではなく、黄色〜褐色に変化してしまう。
【0044】
そこで、本発明者らは鋭意検討を行い、下記のような反応条件を見つけるに至った。
【0045】
即ち、ポリアクリル酸などのカルボキシル基を有するポリマーを溶解した水溶液を所定の温度に加熱し、そこに第一鉄塩及び第二鉄塩の混合水溶液およびアンモニア水溶液などのアルカリ水溶液を素早く添加し、反応させる。前記反応によって磁性酸化鉄微粒子を作製することで、反応により生成するマグネタイト粒子の粒子表面に直ぐにポリアクリル酸が被覆され、粒子同士の凝集を抑制できると考えられる。
【0046】
本発明における第一鉄塩水溶液としては、硫酸第一鉄水溶液又は塩化第一鉄水溶液等を使用することができる。本発明における第二鉄塩としては、硫酸第二鉄水溶液又は塩化第二鉄水溶液等を使用することができる。
【0047】
本発明におけるアルカリ水溶液としては、アンモニア水、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物の水溶液、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物の水溶液を使用することができる。より好ましくはアンモニア水である。
【0048】
本発明においては、第一鉄及び第二鉄に対して当量となる量のアルカリ水溶液を添加すればよい。
【0049】
本発明においては、磁性酸化鉄微粒子の反応にあたり、反応溶液にあらかじめポリアクリル酸などのカルボキシル基を有するポリマーを溶解しておくことが肝要である。反応溶液に事前にカルボキシル基を有するポリマーを存在させておくことによって、反応により生成するマグネタイト粒子の粒子表面が直ぐにポリアクリル酸によって被覆され、粒子同士の凝集を抑制できる。
【0050】
反応溶液中のカルボキシル基を有するポリマーの濃度は、反応溶液中の全ての鉄(Fe)に対するモル比で0.3〜3.0となる量を存在させておく。ポリマーの濃度が0.3未満の場合、濃度が希薄なため磁性酸化鉄微粒子の凝集を抑制できる程度にポリマーを被覆することができない。ポリマーの濃度が3.0を超える場合、効果が飽和するため、必要以上に存在させる意味がない。より好ましいポリマーの濃度は0.8〜2.5である。反応溶液中のカルボキシル基を有するポリマーの濃度を前記範囲とすることによって、ゼータ電位を−20mV以下とすることができる。
【0051】
本発明における反応温度は90〜100℃が好ましい。90℃未満である場合には、ゲータイトが混在してくる。100℃を越える場合もマグネタイト粒子は生成するが、オートクレーブ等の装置を必要とするため工業的に容易ではない。
【0052】
本発明においては、磁性粒子含有水分散体の水洗は、次のように行なう。すなわち、室温まで冷却した反応後の溶液をビーカーなどに移し、スターラー攪拌しながら沈殿が生じるまでほぼ等量のエタノールを添加する。上澄みを捨て、イオン交換水を添加し分散させる。再度、エタノールを添加し、遠心分離で上澄みを除去する。この操作を再度繰り返し、最終的に得られた沈殿物をイオン交換水に分散させる。必要に応じて、エバポレーターで濃縮する。
【0053】
次に、水に可溶した塩類を除去するために透析膜を用いて透析を行なう。エバポレーターで濃縮した後、遠心分離機で上澄みを回収し、残った凝集粒子を除去する。
【0054】
次に、上澄みの磁性粒子含有水分散体を−20℃以下の冷凍庫内に5時間以上放置することで凍結させ、減圧下での凍結乾燥を行うことで、本発明に係る磁性酸化鉄微粒子を得ることができる。
【0055】
一方、磁性粒子含有水分散体の濃度を5〜50mg/mlに希釈調整して磁性酸化鉄微粒子がイオン交換水に分散している磁性粒子含有水分散体を得ることができる。
【0056】
さらに得られた磁性酸化鉄微粒子とリン脂質、多糖類、蛋白質あるいはデキストリン類との複合体の形で、種々の用途に用いることができ、例えば、薬物の送達法であるDDS、レントゲンやMRI(磁気共鳴)等で用いられるCT診断及び温熱治療法などの治療用等である。
【0057】
<作用>
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、磁性粒子の表面がカルボキシル基を有するポリマーで被覆された超常磁性酸化鉄微粒子からなる磁性粒子含有水分散体の分散安定条件を見出した。
【0058】
超常磁性を発現するのは保磁力がゼロの強磁性体である。即ち、強磁性体の粒子が単磁区構造であっても大きな粒子の場合は、外部磁界を印加して磁化した後外部磁界から開放すると残留磁化を生じるが、粒子が極微細になると保磁力が減少して遂にはゼロとなり、外部磁界を印加すると磁化するが外部磁界から開放した後には残留磁化を生じない。この現象は熱擾乱作用によるものであり、このような強磁性微粒子を超常磁性であるという。
【0059】
本発明に係る磁性粒子含有水分散体は、表面磁束10mT(100ガウス)の永久磁石を近付けても凝集せず、長期安定な単分散コロイド水溶液である。これは、磁性酸化鉄微粒子の飽和磁化値が50〜90Am/kgの強磁性体であることと矛盾する現象であるように思えるが、飽和磁化値とは磁性酸化鉄微粒子を粉末状で測定した時の単位重量当たりの磁化値を表わしたものであるから、これを粒子1個当たりの磁化値に換算すると、微粒子であるほど単位重量当たりの総粒子個数が多くなり、1個当たりの磁化値は小さな値となる。
【0060】
また、磁性粒子として磁性酸化鉄微粒子を用いるのは、酸化鉄には生体適応性があるからであり、微粒子ほど生体内からの排泄が容易となる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。但し、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0062】
尚、生成物の構造解析にはX線回折装置を用いた。
【0063】
粒度分布は透過型電子顕微鏡TEMで観測した。さらに、デジタイザー分析により、一次粒子の平均粒子径を求めた。
【0064】
二次粒子の平均粒子径は動的光散乱法による粒度分布計FPAR−1000(大塚電子製)により測定した。
【0065】
比表面積値はBET法により測定した。
【0066】
磁気特性の測定には振動試料型磁力計VSMを用い796kA/m(10kOe)の磁場で測定した。
【0067】
ゼータ電位および等電点はELS−6000(大塚電子製)により測定した。
【0068】
実施例1
撹拌装置及び加熱装置を備えた1000mlの反応容器を用い、原料鉄塩と苛性ソーダは試薬特級を用い、また水はイオン交換水を用いた。
【0069】
(1)磁性酸化鉄微粒子の合成工程
分子量5000のポリアクリル酸7.83gとイオン交換水713.2mlを反応容器に入れ、窒素ガスを吹き込み、そのまま95℃まで昇温させる。次に、1.6mmol/lの硫酸第一鉄水溶液10mlと、3.2mmol/lの塩化第二鉄水溶液10mlを反応容器に投入し(COOH/Fe比率=2.27)、さらに14.8mmol/lのアンモニア水59.4mlを添加し、2時間撹拌して反応させる。水溶液を65℃まで冷却させる。反応液をエバポレーターにて、約100mlまで濃縮する。室温まで冷却した後、濃縮液をビーカーに移し、スターラー攪拌しながら沈殿が生じるまでほぼ等量のエタノールを添加する。上澄みを捨て、全量が100g程度になるようにイオン交換水を添加し、攪拌しながら分散させる。再度、エタノールを等量添加し、1000rpm、10分間遠心分離機で処理を行なう。上澄み液を除去し、再度、この操作を繰り返し、最終的に得られた沈殿物をイオン交換水で分散させる。さらにエバポレーターで40g程度に濃縮する。
ここに得たコロイド水溶液の一部を採取し、水洗ろ過したペーストを凍結乾燥して得られた粉末を分析した結果、BET比表面積が230m/g、TEMによる一次粒子の平均粒子径が5nm、動的光散乱法による二次粒子の平均粒子径が17.3nmであった。また、磁気特性は飽和磁化値σsが13Am/kg、保磁力Hcが0.35kA/mの磁性酸化鉄微粒子であった。
【0070】
(2)分散粒子の精製工程
透析膜を使用して精製を行なった。得られた透析液をエバポレーターで200mlに濃縮し、12000G、30分間遠心分離を行い、上澄み液を回収する。この操作で凝集粒子は除去される。このようにして、黒色のコロイド水溶液を精製した。
【0071】
得られた磁性粒子含有水分散体の濃度は10mg/mlであり、磁性粒子含有水分散体のpHは6.5であった。また、pH7.0でのゼータ電位は−34mVであった。等電点は2.5であった。
【0072】
実施例2
分子量が1800のポリアクリル酸を用いた以外は、実施例1と同様に反応を行い、コロイド溶液を得た。同様に粉末を分析した結果、BET比表面積が165m/g、TEMによる一次粒子の平均粒子径が7nm、動的光散乱法による二次粒子の平均粒子径が56nmであった。また、磁気特性は飽和磁化値σsが32Am/kg、保磁力Hcが0.65kA/mの磁性酸化鉄微粒子であった。
【0073】
次いで、実施例1と同様にして、分散粒子の精製工程を行い、磁性粒子含有水分散体を得た。
【0074】
得られた磁性粒子含有水分散体の濃度は10mg/mlであり、磁性粒子含有水分散体のpHは6.5であった。また、pH7.0でのゼータ電位は−31mVであった。等電点は2.6であった。
【0075】
比較例1
1000mlフラスコに、13.9mol/lのNaOH水溶液60gとイオン交換水530gを混合し予め80℃に加温した水溶液に、0.8mmol/lの塩化第一鉄水溶液108.4gと2.5mmol/lの塩化第二鉄水溶液80gを混合して添加した。次に、分子量5000のポリアクリル酸12.1gを溶解した水溶液60gを添加し、1時間同温度で反応させた後、イオン交換水を添加してデカンテーションで上澄み液を除去した。この操作を繰り返し、水に可溶している塩類を除去した。
このようにして得られた磁性粒子含有分散体の一部を採取し、水洗ろ過したペーストを凍結乾燥して得られた粉末を分析した結果、BET比表面積が176m/g、TEMによる一次粒子の平均粒子径が8nm、動的光散乱法による二次粒子の平均粒子径が120nmであり、明らかに凝集したものであった。また、磁気特性は、飽和磁化値σsが26.3Am/kg、保磁力が0.92kA/mであった。
【0076】
次いで、実施例1と同様にして、分散粒子の精製工程を行い、磁性粒子含有水分散体を得た。
【0077】
得られた磁性粒子含有水分散体の濃度は10mg/mlであり、磁性粒子含有水分散体のpHは7.3であった。また、pH7.0でのゼータ電位は−12mVであった。等電点は5.2であった。
【0078】
比較例2
300mlフラスコに、0.1mol/lの塩化第一鉄水溶液50mlを調製し、そこに分子量1800のポリアクリル酸0.09gを添加した。次に、0.7mol/lのKOH水溶液11mlを添加して、水酸化鉄の沈殿物を生じさせた。次に、過酸化水素0.035mlを含む水溶液50mlを、33ml/hの速度で添加した。2時間反応させた後、イオン交換水を添加してデカンテーションを繰り返し、水に可溶している塩類を除去した。
このようにして得られた磁性粒子含有分散体の一部を採取し、水洗ろ過したペーストを凍結乾燥して得られた粉末を分析した結果、BET比表面積が176m/gであり、一方、TEMによって一次粒子の平均粒子径が10〜50nmの球状粒子と多数の針状粒子の混合物が観察され、動的光散乱法による二次粒子の平均粒子径が120nmであり、明らかに凝集したものであった。また、磁気特性は、飽和磁化値σsが26.3Am/kg、保磁力が0.92kA/mであった。
【0079】
次いで、実施例1と同様にして、分散粒子の精製工程を行い、磁性粒含有水分散体を得た。
【0080】
得られた磁性粒子含有水分散体の濃度は10mg/mlであり、磁性粒子含有水分散体のpHは6.1であった。また、pH7.0でのゼータ電位は3mVであった。等電点は6.2であった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明に係る磁性体含有水分散体は、カルボキシル基を含有するポリマーで表面が修飾されていることから、磁性体微粒子を生体適合性物質に均質に分散させた複合物からなる医薬を容易に合成することができ、しかも、pHが6〜8の中性領域におけるゼータ電位が−20mV以下であることから、生体においても粒子間凝集が起き難く、経時的にも安定である。さらに、一次粒子径および二次粒子径が非常に小さいために、粒子表面を抗体等で修飾しても最終的な粒度が大きくならず、人体に投与後も体内からの排泄を容易にすることができるので、人体に投与後の安全性及び代謝・排泄に関して何ら問題を生じない原薬を提供することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次粒子径が5〜15nm、二次粒子の平均粒子径が10〜60nmの磁性酸化鉄微粒子であり、当該粒子表面がカルボキシル基を有するポリマーで被覆されていることを特徴とする磁性酸化鉄微粒子粉末。
【請求項2】
磁性酸化鉄微粒子を水に分散させた磁性粒子含有水分散体であって、磁性酸化鉄微粒子の一次粒子の平均粒子径が5〜15nm、二次粒子の平均粒子径が10〜60nmであり、当該粒子表面がカルボキシル基を有するポリマーで被覆されていることを特徴とする磁性粒子含有水分散体。
【請求項3】
pH6〜8の範囲におけるゼータ電位が−20mV以下であることを特徴とする請求項2記載の磁性粒子含有水分散体。
【請求項4】
カルボキシル基を有するポリマーが分子量1500〜10000のポリアクリル酸であることを特徴とする請求項2又は3に記載の磁性粒子含有水分散体。
【請求項5】
窒素雰囲気下においてカルボキシル基を有するポリマーを溶解した水溶液を90〜100℃に昇温し、2価および3価の鉄塩溶液とアルカリ溶液とを添加し同温度で反応を行い、室温まで冷却した後、エタノール添加による沈殿後、上澄み液の除去および水への分散、透析によりカルボキシル基を含有するポリマーで被覆された磁性酸化鉄微粒子の水分散体を得た後、凍結乾燥により磁性酸化鉄微粒子粉末を得ることを特徴とする請求項1記載の磁性酸化鉄微粒子粉末の製造方法。
【請求項6】
窒素雰囲気下においてカルボキシル基を有するポリマーを溶解した水溶液を90〜100℃に昇温し、2価および3価の鉄塩溶液とアルカリ溶液とを添加し同温度で反応を行い、室温まで冷却した後、エタノール添加による沈殿後、上澄み液の除去および水への分散、透析により、カルボキシル基を含有するポリマーで被覆された磁性酸化鉄微粒子の水分散体を得ることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の磁性粒子含有水分散体の製造方法。
【請求項7】
反応時における全鉄Feに対するカルボキシル基COOHのモル比率(COOH/Fe)が、0.3〜3であることを特徴とする請求項6記載の磁性粒子含有水分散体の製造方法。