説明

磁性金属異物の検出装置

【課題】微小な磁性金属異物の検出装置。
【解決手段】微小な磁性金属異物を検出するための検出装置では、差動型検出コイル61,62,63が被検査物2が走行する一方向Aに配置される。その差動型検出コイルは、渦巻き状の右巻きコイル64と渦巻き状の左巻きコイル66とを直列に接続することによって形成されるとともに、それら右巻きコイルと左巻きコイルとが共通の電気絶縁性基板の表面上に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被検査物に含まれた磁性金属異物を検出するための検出装置に関し、より詳しくはリチウム電池用セパレータの如きシート状の被検査物に含まれた微小な磁性金属異物を検出するのに好適な前記検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被検査物中に含まれた微小な磁性金属異物を検出するための装置は公知である。例えば、特開平10−10091号公報(P1998−10091 A、特許文献1)に記載の磁性体微粉の検出装置は、連続して走行する被検査物を磁化するための磁界発生手段と、磁化された被検査物によって生じる検査区域の磁界の変動をSQUIDで検出する磁気センサとを備えている。
【0003】
特開2005−351804号公報(P2005−351804 A、特許文献2)に記載の磁性異物検出装置もまた、被検査物の流れ方向の上流側に磁場印加手段を有し、流れ方向の下流側にSQUID磁気センサを有する。
【0004】
従来技術の一つには、サーチコイル式金属検出機と呼ばれるものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−10091号公報(P1998−10091 A)
【特許文献2】特開2005−351804号公報(P2005−351804 A)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方向へ走行する被検査物の上流側において被検査物に含まれる磁性金属異物を磁化し、下流側では磁性金属異物の残留磁気を測定することによって磁性金属異物を検出する従来の装置および方法は、それを微小な磁性金属異物の検出に適用することは可能であるが、磁化した磁性金属異物が微小であるほど磁気の消滅が速いという一般的な傾向があるので、微小な磁性金属異物を検出することが実質的な意味においては難しい。
【0007】
残留磁気を測定するためにSQUIDセンサを使用する場合には、SQUIDセンサと、そのセンサの近傍を走行する被検査物とに対する環境ノイズの影響を排除するために、これらSQUIDセンサと被検査物とを高周波シールドと磁気シールドとによって囲わなければならない。しかし、走行中の被検査物とこれらシールドとの間は、環境ノイズの侵入を十分に防止できるほどに閉じることは通常困難である。
【0008】
被検査物の残留磁気を測定するためにサーチコイル式金属検出機を使用することも可能であるが、この検出機では、測定の感度を向上させようとしてコイルの巻き数を多くしても、多くしたときのコイルは微小な金属異物からの微弱な磁力が届く範囲の外にあるという場合があり、検出能力の向上には必ずしも寄与しない。また、この検出機では、被検査物がコイルの中央部を通過しなければならず、コイルと被検査物との離間距離をあまり小さくすることができない。この意味においても、この検出機では、検出能力を向上させることに限界がある。
【0009】
この発明が課題とするところは、従来技術におけるこのような問題を解消することが可能な磁性金属異物の検出装置の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、この発明が対象とするのは、一方向へ走行する被検査物に含まれた磁性金属異物を磁化して前記磁性金属異物からの残留磁気を検出する前記磁性金属異物の検出装置である。
【0011】
かかる検出装置において、この発明が特徴とするところは、以下のとおりである。すなわち、前記残留磁気を検出するための差動型検出コイルが前記一方向に配置される。前記差動型検出コイルは、巻き数が同じである渦巻き状の右巻きコイルと渦巻き状の左巻きコイルとを直列に接続することによって形成されるとともに、前記右巻きコイルと前記左巻きコイルとのそれぞれが共通の電気絶縁性基板の表面上に形成されている。
【0012】
この発明の実施態様の一つにおいて、前記右巻きコイルと前記左巻きコイルとが形成された前記基板が複数枚重ねられて積層体となり、前記積層体では前記基板を介して重なり合う前記右巻きコイルが互いに直列に接続されて右巻きコイル集合体を形成する一方、前記左巻きコイルも互いに直列に接続されて左巻きコイル集合体を形成しており、前記右巻きコイル集合体と前記左巻きコイル集合体とが直列に接続されている。
【0013】
この発明の実施態様の一つにおいて、前記差動型検出コイルが積層プリント基板として形成されている。
【0014】
この発明の実施態様の一つにおいて、前記差動型検出コイルでは、前記被検査物と対向する面の反対側に、前記右巻きコイルと前記左巻きコイルのそれぞれと径がほぼ同じであって前記磁性金属異物を磁化するための柱状の永久磁石が前記右巻きコイルと前記左巻きコイルのそれぞれに重ねられている。
【0015】
この発明の実施態様の一つにおいて、前記差動型検出コイルは、SQUIDセンサに対するインプットコイルにリード線を介して接続され、前記SQUIDセンサが前記差動型検出コイルを囲む第1磁気シールド構造体とは別体であって前記第1磁気シールド構造体からは離間している第2磁気シールド構造体の内側にある。
【0016】
この発明の実施態様の一つにおいて、前記リード線が磁気および高周波に対するシールド用被覆を有する。
【0017】
この発明の実施態様の一つにおいて、前記被検査物が走行する前記一方向と前記一方向に直交する前記方向とのそれぞれに対して直交する前記被検査物の幅方向に2個の前記差動型検出コイルを並べるとともに、前記一方向における前記2個の差動型検出コイルの上流側または下流側においては、前記2個の差動型検出コイルの間に1個の前記差動型検出コイルを位置させる。
【0018】
この発明の実施態様の一つにおいて、前記被検査物が走行する前記一方向と前記一方向に直交する前記方向とのそれぞれに対して直交する前記被検査物の幅方向に、前記差動型検出コイルの複数を並べて前記差動型検出コイルの第1列を形成するとともに、前記一方向における前記第1列の上流側または下流側においては、前記第1列で互いに隣接する前記差動型検出コイルどうしの間に前記差動型検出コイルが位置するように前記差動型検出コイルの複数を並べて前記差動型検出コイルの第2列を形成する。
【0019】
この発明の実施態様の一つにおいて、前記被検査物がシート状のものであり、前記一方向に直交する前記方向が前記シート状のものの厚さ方向である。
【発明の効果】
【0020】
この発明に係る磁性金属異物の検出装置では、差動型検出コイルに渦巻状の右巻きコイルと渦巻き状の左巻きコイルとを使用する。これら両コイルは、電気絶縁性の基板の表面上に形成されているから、コイルの巻き数を多くしても両コイルが被検査物から遠く離れるということがない。また、両コイルは、被検査物に接近させることが容易であって、被検査物からの微弱な磁気を測定して、微小な磁性金属異物を検出することができる。右巻きコイルと左巻きコイルとに対して柱状の永久磁石が重ねられている態様の検出装置では、微小な磁性金属異物を磁化することとほぼ同時に、その異物の残留磁気を測定することができる。その残留磁気の測定は、最大の値を示すときの残留磁気の測定であるから検出することが容易であり、検出装置の検出能力を向上させることができる。また、そのような検出装置では、磁性金属異物の磁気が消滅することによる異物検出能力の低下が生じない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】磁性金属異物の検出装置の概略図。
【図2】磁気検出ヘッドの斜視図。
【図3】磁気検出ヘッドの分解斜視図。
【図4】図2のIV−IV線矢視図。
【図5】図2のV−V線矢視図。
【図6】図4における上方コイル集合板の拡大図。
【図7】上方コイル集合板を分解してその積層状態を示す図。
【図8】磁性金属異物の検出結果を示す図。
【図9】検出コイルペア集合板の並べ方の一態様を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
添付の図面を参照してこの発明に係る磁性金属異物の検出装置の詳細を説明すると、以下のとおりである。
【0023】
図1における磁性金属異物の検出装置1では、リチウム電池用セパレータとして使用する合成樹脂フィルムが被検査物2として採り上げられている。
【0024】
検出装置1は、磁気検出部3と、信号処理部4と、磁気検出部3と信号処理部4とをつなぐリード線6を有し、被検査物2が一方向へ、すなわち磁気検出部3を貫通するように図の左から右に向かう方向へ走行している。図には、その走行する方向が矢印Aで示されている。矢印Aに直交する双頭矢印Bは、磁気検出部3の厚さ方向であり、被検査物2の厚さ方向でもある。
【0025】
磁気検出部3は、被検査物2を介して対向する上方コイル部11と下方コイル部12とを有し、上方コイル部11の上方には上方磁石部13を有し、下方コイル部12の下方には下方磁石部14を有し、これら各部11,12,13,14によって磁気検出ヘッド41が形成されている。磁気検出部3はまた、磁気検出ヘッド41を被覆するとともに、被検査物2が貫通可能に形成されている第1シールド構造体15を有する。第1シールド構造体15は、磁気検出部3にあって外部環境からの磁気を遮蔽するものであるが、必要に応じて高周波を遮蔽することができるようにも形成される。
【0026】
信号処理部4は、第2シールド構造体22と、液体窒素(図示せず)を充満させる容器23とを有し、容器23の内部にはSQUIDセンサ24と、インプットコイル26とがある。
【0027】
第2シールド構造体22は、第1シールド構造体15とは別体のものであり、容器23を磁気検出部3から分離させることができるように、第1シールド構造体15からは所要の距離だけ離間した位置において容器23の全体を覆っている。図示例の第2シールド構造体22は、三層の円筒型パーマロイ製磁気シールド(図示せず)とその内側に形成された一層の円筒型のアルミニウム製高周波シールド(図示せず)とを有し、各層のシールドは厚さ2mmを有している。この第2シールド構造体22のノイズ遮蔽率は、周面において1/50,000、上下面において1/15,000であって、SQUIDセンサ24の安定的な稼働を可能にする。
【0028】
容器部23の内部では、SQUIDセンサ24に対してインプットコイル26が配置されている。液体窒素に浸漬されているインプットコイル26は、超伝導状態にあり、電気抵抗が零または零に近い値になり得るから、巻き数を1000−3000ターンにしても電気抵抗が発生しない。このようなインプットコイル26では、リード線6からの電気信号を磁力線に変換する際に、1000倍以上に増幅強化することが可能である。強化した磁力線はSQUIDセンサ24によって容易に感知され、再び電気信号に変換されて、第2シールド構造体22の外側にあるコントローラ31に送られる。
【0029】
リード線6は、上方コイル部11および/または下方コイル部12で発生した微弱な電流をインプットコイル26に伝送するもので、外部環境のノイズを遮蔽するためのシールド用被覆(図示せず)を有する。
【0030】
SQUIDセンサ24につながるコントローラ31は、SQUIDセンサ24の検出条件を最適化するための条件調整装置であって、クリアーな信号をCPU32に送信できるようにその条件が調整される。
【0031】
CPU32は、SQUIDセンサ24からの信号波形を表示し、設定された閾値をその信号が越える場合に異物が存在すると判定して、その測定した結果を記録に残したり、被検査物2における異物の存在位置を記録に残したり、ディスプレイに表示したりすることができる。
【0032】
検出装置1の対象となる被検査物2には、格別の規定がない。リチウム電池のセパレータの他に、各種2次電池の部材も被検査物になり得る。また、電気、電子、医療、生化学等の分野におけるフィルムや合成樹脂性の容器等も被検査物2になり得る。被検査物2がペーストや液体である場合には、その被検査物2を容器に入れて磁気検出部3を通過させたり、磁気検出部3を貫通する適宜の断面形状のパイプに流したりすることによって、微小な磁性金属異物の検出が可能である。
【0033】
図2は、図1の磁気検出部3において第1シールド構造体15によって覆われていた磁気検出ヘッド41の斜視図である。磁気検出ヘッド41は、上方ブロック42aと下方ブロック42bとを有し、これら両ブロック42a,42bの間には被検査物2を一方向Aへ走行させるための貫通孔44が形成されている。上方ブロック42aには、透明な上方押え板46aがボルト47を使用して取り付けられている。その押え板46aの上方からは、第1−第6上方永久磁石51a−56aを透視することができる。部材48とボルト49とは、上方ブロック42aと下方ブロック42bとを分離させるときに使用する。上方ブロック42aと下方ブロック42bとは、それぞれに組み込まれた永久磁石の作用によって互いに強く引き合っているので、これらを分離させるときにはボルト49を図示の矢印方向へ回転させる。上方ブロック42aや下方ブロック42b、上方押え板46a、下方押え板46b(図3参照)、部材48、ボルト47,49は、電気絶縁性の合成樹脂で形成されている。
【0034】
図3は、図2に示された磁気検出ヘッド41の分解斜視図である。上方ブロック42aには、上方コイルペア集合板50aと、柱状であって好ましくは円柱状の第1−第6上方永久磁石51a−56aと、上方押え板46aとが組み込まれている。上方ブロック42aの下面57aには、上方コイルペア集合板50aを収容するための上方第1凹部58a(図4参照)が形成されている。上方コイルペア集合板50aは、ボルト59によって凹部58aに固定される。上方ブロック42aの上面81aには、第1−第6上方永久磁石51a−56aを収容するための上方第2凹部82が形成されていて、第1−第6上方永久磁石51a−56aのそれぞれを、磁極の向きを一致させた状態で所要の位置に固定することができる。上方押え板46aは、第1−第6上方永久磁石51a−56aが第2凹部82から抜けることを防ぐものであって、図2においては第1−第6上方永久磁石51a−56aの存在を明示することができるように透明な板材料、例えば透明な合成樹脂板によって作られている。その透明な上方押え板46aは,不透明なものに代えることができる。
【0035】
下方ブロック42bは、その主要な部分が上方ブロック42aの主要な部分と対称になるように形成されている。すなわち、下方ブロック42bには、下方コイルペア集合板50bと、第1−第6下方永久磁石51b−56bと、下方押え板46bとが組み込まれていて、下方ブロック42bの上面81bには、下方コイルペア集合板50bを収容するための下方第1凹部58bが形成されている。下方ブロック42bの下面57bには、第1−第6上方永久磁石51a−56aとは反対の磁極を第1−第6上方永久磁石51a−56aに向けた状態で、すなわち上方ブロック42aと下方ブロック42bとの間ではN極とS極とを対向させた状態で第1−第6下方永久磁石51b−56bを収容することができる下方第2凹部が形成されているのであるが、その凹部は図示されていない。
【0036】
図2,3において、一方向Aへ走行する被検査物2が磁気検出ヘッド41の内部にあるときには、上方コイルペア集合板50aと下方コイルペア集合板50bとの間を走行すると同時に、実質的な意味において第1−第6上方永久磁石51a−56aと第1−第6下方永久磁石51b−56bとの間を走行する。上方コイルペア集合板50aと下方コイルペア集合板50bとのそれぞれは、被検査物2からの離間距離が所要の範囲に納まるように、例えば1−3mmの範囲に納まるように磁気検出ヘッド41における厚さ方向Bの位置が調整されている。
【0037】
図4,5に示された上方ブロック42aの下面57aと下方ブロック42bの上面81bとには、凹部58aと凹部58bとのそれぞれに収容された上方と下方のコイルペア集合板50a,50bそれぞれの平面形状があらわれている。ただし、これらの図において上方と下方のコイルペア集合板50a,50bは同一のものであるから、以下では上方コイルペア集合板50aのみについて説明し、その説明は、下方コイルペア集合板50bにも当てはまるものとする。
【0038】
上方コイルペア集合板50aは、プリント基板の分野において慣用のFR4等の板を基材とする積層プリント基板であって、第1,第2,第3からなる三組のコイルペア61,62,63が集合している。第1,第2,第3コイルペア61,62,63におけるそれぞれのペアは、巻き数が同じであって渦巻き状であり、電流の流れが互いに反対方向である右巻きコイル64と、左巻きコイル67とを有する。ペアになっている右巻きコイル64と左巻きコイル66とは直列に接続されて一方向Aに並ぶことにより、差動型検出コイルを形成している。ここで、右巻きコイルと左巻きコイルというときには、渦巻き状のコイルを流れる電流の向きが互いに反対方向であって、一方は時計方向回りに流れ、もう一方は反時計方向回りに流れることを意味している。上方コイルペア集合板50aにおいて、第1,第2コイルペア61,62は上方ブロック42aの幅方向Cにおいて隣接するように並び、第3コイルペア63は、一方向Aの下流側にあって、第1,第2コイルペア61,62の間に位置している。
【0039】
図6は、図4における上方コイルペア集合板50aの拡大図である。第1,第2,第3コイルペア61,62,63のそれぞれにおいて右巻きコイル64と左巻きコイル66とが直列につながっている。また、第1,第2,第3コイルペア61,62,63のそれぞれは、接続線71,72を介してリード線6(図1参照)につながっている。上方コイルペア集合板50aは、例えば8層構造を有する積層プリント基板(図7参照)であって、図6には、その積層プリント基板のうちで表層を形成している第1層L1が示されている。第1層L1には、上方コイルペア集合板50aを形成している基板のうちの第1基板91(図7参照)の表面右巻きコイル64のうちの第1右巻きコイル101と、左巻きコイル66のうちの第1左巻きコイル201とが形成されている他に、接続線71,72が接続される端子部74,76等が形成されている。その端子部74と76とは、右巻きコイル64と左巻きコイル66とのそれぞれに電気的につながっている(図7参照)。第1、第2、第3コイルペア61,62,63のそれぞれにおいて、一方向Aへ延びる平行な2本の仮想線で示された幅fを有する部分は、被検査物2に含まれた微小な磁性金属異物(図示せず)が右巻きコイル64および/または左巻きコイル66の中心部分を通って一方向Aへ進むときに、その磁性金属異物から出る微弱な磁気が届くとみなされる範囲のうちの幅方向Cの範囲である。換言すると、右巻きコイル64と左巻きコイル66とにとって微弱な磁気を検出することのできる有効範囲68である。図示例において、その有効範囲68の幅fは、右巻きコイル64および左巻きコイル67の直径の1/2である。図示例ではまた、その幅fの値が被検査物2の幅W(図2参照)の1/3に等しい。このような第1,第2,第3コイルペア61,62,63は、それぞれの有効範囲68が幅方向Cにおいて接するように並べられることによって、被検査物2の幅方向Cの全体を有効範囲68による検出対象にすることができ、微小な磁性金属異物の検出が確実になる。ただし、この発明に係る検出装置1では、被検査物2の幅が図示例の如く3組のコイルペアを必要としない場合には、第1、第2、第3コイルペア61,62,63のいずれか1組だけで磁性金属異物を検出することもできる。
【0040】
図7では、上方コイルペア集合板50aを形成している8層構造の積層プリント基板においての個々の積層体である第1−第8層L1−L8それぞれが厚さ方向Bに離間して示されている。個々の積層体であるとは、基板とそれに積層されるようにプリントされているコイルとを意味しているが、図7の第1−第8層L1−L8には、図6の第1コイルペア61を含む部分のみが示されている。第1−第8層L1−L8のそれぞれには、第1−第8右巻きコイル101−108と、それらを電気的に接続するための第1−第9ターミナルt1−t9と、第1−第8左巻きコイル201−208と、それらを電気的に接続するための第10−第18ターミナルt10−t18とのそれぞれが示されている。第1−第8層L1−L8の形成に使用されている第1−第8基板91−98は、それぞれの一部分が仮想線で示されている。第1層L1に形成された第1ターミナルt1は、第2−第7層を介して第8層L8の第1ターミナルt1に接続されている。第8層L8に形成された第1ターミナルt1と第2ターミナルt2とは、第8層L8に形成された第8右巻きコイル108の両端部に形成されている。第8層L8の第2ターミナルt2と第7層L7の第2ターミナルt2とは、第7層L7における第7基板97を介して接続されている。図示されたその他のターミナルが電気的に互いに接続される態様は図に矢印で示されているとおりであって、第1−第8右巻きコイル101−108および第1−第8左巻きコイル201−208はすべて直列に接続されている。第1−第8右巻きコイル101−108と第1−第8左巻きコイル201−208とのそれぞれが形成されている第1−第8基板91−98は、積層プリント基板の分野において慣用の技術を用いることによって積層され、分離不能な状態で一体化される。
【0041】
このように形成されている検査装置1では、例えばリチウム電池用のセパレータ等のシート状被検査物2を一定の方向Aへ走行させて磁気検出部3を通過させる。磁気検出部3では、上方コイル部11における右巻きコイル64および左巻きコイル66それぞれの直上にセットされていて、これらコイル64,66と径がほぼ同じである上方永久磁石51a−56aのそれぞれと、下方コイル部12における右巻きコイル64および左巻きコイル66それぞれの直下にセットされていて、これらのコイル64,66と径がほぼ同じである下方永久磁石51b−56bのそれぞれとによって、被検査物2に含まれている磁性金属異物(図示せず)、特に最大径が30μm以上の、より好ましくは最大径が20μm以上、さらに好ましくは最大径が10μm以上の微小な磁性金属異物を磁化する。上方コイル部11および下方コイル部12では、第1、第2、第3コイルペア61,62,63それぞれによって形成される差動型検出コイルを使用して、磁性金属異物の残留磁気を検出する。ここで残留磁気を検出するとはいうものの、磁気検出ヘッド41では、被検査物2の厚さ方向Bにおいて重なり合うように配置されている永久磁石とコイルとを使用するから、差動型検出コイルによる磁気の検出は、磁性金属異物に帯磁効果が消滅する時間を与えることなく行うことになる。すなわち、検出装置1では、残留磁気が最大の状態またはそれに近い状態にあるときに磁性金属異物を検出することになる。検出した結果は、磁気シールドで被覆されているリード線6を介して超高感度のSQUIDセンサ24に伝送し、CPUにおいて表示させる。
【0042】
図示例の如く形成される第1、第2、第3コイルペア61,62,63を含む上方コイルペア集合板50aでは、FR4等の基板に薄手のものを選ぶと同時に、通常はプリント銅線で形成されるコイルの厚さを薄くすることによって、8層構造の場合の厚さを1−3mmにすることができる。その上方コイルペア集合板50aは、シート状の被検査物2に1.5−2mmの至近距離にまで接近させることができる。したがって、被検査物2の表面から2.5−5mmの範囲内にすべての検査コイルをセットするおくことができる。検出装置1では、上方コイルペア集合板50aのみならず下方コイルペア集合板50bの厚さも極力薄くして、これらを被検査物2に接近させることができる。また、第1、第2、第3コイルペア61,62,63それぞれにおいて、コイルの線幅は例えば0.1−0.3mm、より好ましくは0.15−0.2mmにして、コイルの電気抵抗を大きくすることなくコイルの巻き数を多くすることができる。図7の8層構造を有する第1コイルペア61における第1−第8右巻きコイル101−108および第1−第8左巻きコイル201−208の径が一例として40mmであれば、コイルの線幅と線間隔とを0.15mmに設定すると、第1−第8右巻きコイル101−108のそれぞれについて約200ターン(T)の巻き数を得ることが可能で、第1−第8右巻きコイル101−108の全体では厚さが1−3mmの範囲に合計で約1600Tを得ることが可能である。したがって、この発明では、微弱な磁気を検出するためにコイルの巻き数を多くすることが容易である。
【0043】
第1、第2、第3コイルペア61,62,63のそれぞれが、このようにコイルの巻き数を多くすることが容易であって厚さが薄く、しかも被検査物2に至近距離まで接近させることができるものであり、永久磁石が右巻きコイル64と左巻きコイル66とのそれぞれに重なるように配置されていると、微小な磁性金属異物からの微細な磁気を確実に検出して、その磁性金属異物の存在を容易に知ることができる。
【0044】
検出した磁気は、磁気シールドで被覆されたリード線6を使用してSQUIDセンサ24にまで伝送するから、その伝送の間に外部ノイズの影響を受けることがない。
【0045】
超高感度であるSUQIDセンサ24は、磁気検出部3を被覆する第1シールド15とは別体であって、この構造体15からはリード線6を介して離間している第2シールド構造体22で被覆保護されている。その第2シールド構造体22は、磁気検出部3の構造や機能を考慮に入れることなく、SQUIDセンサ24の性能を最大限に発揮することができるように、例えば外部ノイズを十分に遮蔽することができるように設計することができる。
【0046】
SQUIDセンサ24に対して使用されるインプットコイル26は、SQUIDセンサ24とともに容器部23に納められて液体窒素に浸漬されるので、超伝導状態になり、電気抵抗がゼロになる。それゆえ、インプットコイル26は、電気抵抗を発生させることなく巻き数を多くすることができ、例えば巻き数を1000−3000ターンにして、電気信号を磁力線に変換するときに、1000倍以上に増強した磁力線をSUQIDセンサ24に感知させることができる。
【0047】
このように形成される検査装置1は、被検査物2の性状や形状を特定するものではない。その被検査物2が例えばセパレータの如きフィルムであって、検出しようとする微細な磁性金属異物の大きさが20μm程度である場合には、そのフィルムとして厚さが20μm−5mmのものを対象にすることが可能であり、そのフィルムを50−100m/minの高速で走行させることができる。
【0048】
図8は、検査装置1による微小な磁性金属異物の検出結果を例示する図である。検査装置1は、図1,2に例示のもので、磁気検出部3における上方および下方コイルペア集合板50a、50bには、図6に例示のものを2枚重ねて使用した。すなわち、2枚重ねた図6の上方コイルペア集合板52aをユニットとして、このユニットを図3の上方コイルペア集合板52aに代えて使用し、また図3の下方コイルペア集合板50bとしても使用した。被検査物2には、幅60mmのセパレータであって、磁性金属異物が含まれていないことを確認したものを用意した。このセパレータの上に最大径が100μmの酸化鉄粒子を載せて検査装置1を1m/secの速度で通過させ、検出した磁気の波形をCPU32によって画かせることで、図9の結果を得た。図9で明らかなように、磁性金属異物の検出において外部ノイズは極めて少なく、磁性金属異物による信号とノイズとの比であるS/N比は40以上である。
【0049】
図9は、この発明に係る検出装置1の使用態様の一例を示す図である。図9の検出装置1では、図6に例示の上方コイルペア集合板50aにおける第1、第2、第3コイルペア61,62,63の集合である第1ユニット301と、一方向Aにおいて第3コイルペア63が上流側に位置し、第1、第2コイルペア61,62が下流側に位置している第2ユニット302とが幅方向Cに交互に並んでいる。図において、実線で示されている第1、第2、第3コイルペア61,62,63は、第1ユニット301に属するものであり、鎖線で示されている第1、第2、第3コイルペア61,62,63は、第2ユニット302に属するものである。また、第1、第2、第3コイルペア61,62,63において、多数のドットで示されているコイルは、それが右巻きコイル64であることを意味している。また、右巻きコイル64と左巻きコイル66とにおいて、外側の円は渦巻きコイルの最外側を意味し、内側の円は渦巻きコイルの最内側を意味している。この発明では、図示例の如く第1、第2、第3コイルペア61,62,63を適宜の数だけ並べることで、幅の広い被検査物2を検査対象にすることができる。第1、第2、第3コイルペア61,62,63に対しては、図3に例示の如く第1−第6上方永久磁石51a−56aと第1−第6下方永久磁石51b−56bとが使用される。このように、検出装置1では、被検査物2の幅が大きい場合であっても、径の小さい円柱状の永久磁石を多数並べることによってその幅全体に対して磁気を作用させて磁性金属異物を磁化することができるから、この発明によれば、被検査物2の幅に相当する大きさの永久磁石を用意することが不要であって、検出装置1の制作費を低く抑えることが可能である。図9の例は、上方コイルペア集合板50aのみならず下方コイルペア集合板50bとしても使用することができる。
【0050】
この発明に係る検出装置1は、一方向Aへ走行する被検査物2の上方および下方のいずれか一方のみから残留磁気を検出する態様のものあってもよい。上方コイルペア集合板50aと下方コイルペア集合板50bとは、それらを形成する積層プリント基板が図7に例示の如く偶数枚のプリント基板を有することによって、重なり合うコイルどうしを電気的に接続することが容易になる。しかし、コイルどうしの接続に基板の両面を使用できる場合には、1枚または奇数枚のプリント基板を使用してこの発明を実施することもできる。
【符号の説明】
【0051】
1 検出装置
2 被検査物
6 リード線
15 第1磁気シールド構造体
22 第2磁気シールド構造体
24 SQUIDセンサ
26 インプットコイル
51a、52a、53a、54a、55a、56a 永久磁石
51b、52b、53b、54b、55b、56b 永久磁石
61,62,63 差動型検出コイル(第1、第2、第3検出コイルペア)
64 右巻きの渦巻き状コイル(右巻きコイル)
66 左巻きの渦巻き状コイル(左巻きコイル)
91,92,93,94,95,96,97,98 基板
A 一方向
B 厚さ方向
C 幅方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向へ走行する被検査物に含まれた磁性金属異物を磁化して前記磁性金属異物からの残留磁気を検出する前記磁性金属異物の検出装置であって、
前記残留磁気を検出するための差動型検出コイルが前記一方向に配置され、
前記差動型検出コイルは、巻き数が同じである渦巻き状の右巻きコイルと渦巻き状の左巻きコイルとを直列に接続することによって形成されるとともに、前記右巻きコイルと前記左巻きコイルとのそれぞれが共通の電気絶縁性基板の表面上に形成されていることを特徴とする前記検出装置。
【請求項2】
前記右巻きコイルと前記左巻きコイルとが形成された前記基板が複数枚重ねられて積層体となり、前記積層体では前記基板を介して重なり合う前記右巻きコイルが互いに直列に接続されて右巻きコイル集合体を形成する一方、前記左巻きコイルも互いに直列に接続されて左巻きコイル集合体を形成しており、前記右巻きコイル集合体と前記左巻きコイル集合体とが直列に接続されている請求項1記載の検出装置。
【請求項3】
前記差動型検出コイルが積層プリント基板として形成されている請求項1または2記載の検出装置。
【請求項4】
前記差動型検出コイルでは、前記被検査物と対向する面の反対側に、前記右巻きコイルと前記左巻きコイルのそれぞれと径がほぼ同じであって前記磁性金属異物を磁化するための柱状の永久磁石が前記右巻きコイルと前記左巻きコイルのそれぞれに重ねられている請求項1−3のいずれかに記載の検出装置。
【請求項5】
前記差動型検出コイルは、SQUIDセンサに対するインプットコイルにリード線を介して接続され、前記SQUIDセンサが前記差動型検出コイルを囲む第1磁気シールド構造体とは別体であって前記第1磁気シールド構造体からは離間している第2磁気シールド構造体の内側にある請求項1−4のいずれかに記載の検出装置。
【請求項6】
前記リード線が磁気および高周波に対するシールド用被覆を有する請求項5記載の検出装置。
【請求項7】
前記被検査物が走行する前記一方向と前記一方向に直交する方向とのそれぞれに対して直交する前記被検査物の幅方向に2個の前記差動型検出コイルを並べるとともに、前記一方向における前記2個の差動型検出コイルの上流側または下流側においては、前記2個の差動型検出コイルの間に1個の前記差動型検出コイルを位置させる請求項1−6のいずれかに記載の検出装置。
【請求項8】
前記被検査物が走行する前記一方向と前記一方向に直交する前記方向とのそれぞれに対して直交する前記被検査物の幅方向に、前記差動型検出コイルの複数を並べて前記差動型検出コイルの第1列を形成するとともに、前記一方向における前記第1列の上流側または下流側においては、前記第1列で互いに隣接する前記差動型検出コイルどうしの間に前記差動型検出コイルが位置するように前記差動型検出コイルの複数を並べて前記差動型検出コイルの第2列を形成する請求項1−6のいずれかに記載の検出装置。
【請求項9】
前記被検査物がシート状のものであり、前記一方向に直交する前記方向が前記シート状のものの厚さ方向である請求項1−8のいずれかに記載の検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−104761(P2013−104761A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248196(P2011−248196)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【出願人】(598159997)アドバンスフードテック株式会社 (14)
【Fターム(参考)】